説明

ラックアンドピニオン式ステアリング装置

【課題】ラックガイドにローラを用いたステアリング装置において、悪路などの凹凸路面を走行中に操舵しても操舵フィーリングが低下しないラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供する。
【解決手段】ラック軸5に設けられたラック21と、このラック21に噛合するピニオン22と、前記ラック軸5の背面に設けられたローラ60と、このローラ60の回転軸62を前記ラックの両側で支承するホルダー41と、前記ホルダー41をピニオン22側に付勢する付勢手段とを備えたラックアンドピニオン式ステアリング装置において、前記ホルダー41に前記ローラ60の回転軸と直交するように設けられた変位規制部材65を、前記ローラ60に摺接可能に係合させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアンドピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式ステアリング装置は、ステアリングホイールの操作で回転されるピニオン軸に形成したピニオン歯と転舵輪に連結したラック軸に形成したラック歯が、ギヤハウジング内で噛合している。このギヤハウジング内には、ラック軸の背面(ラック歯を設けた側とは反対側)に、ラック軸の摺動をガイドするラックガイドが設けられ、ギヤハウジングに設けたスプリング押さえとラックガイドの間に設けたスプリングの押圧力により、ピニオン歯とラック歯が所定の噛合力で噛合う構造になっている。
ステアリングホイールの操作によって、ピニオン軸が回転すると、そのピニオン軸の回転はラック軸に伝えられ、直線運動に変換されラック軸が軸方向に摺動する。その際に生じる前記ラックガイドとラック軸の間の相対運動は、両者の間に介挿した樹脂製シートのすべりでガイドされる。
また、このラックガイドとラック軸の間のすべりによる抵抗を小さくするために、ラック軸をローラで支承する方式のものがあり、このローラはすべり軸受を介して、このローラの両側に延伸するホルダーにより回転支持されている。これにより、ラック軸の軸方向の移動に応じローラが回転してラック軸を支承する。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−49756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラック軸をローラにより回転支持する構造のため、ローラとホルダーおよびすべり軸受との隙間が必要となる。このため、悪路などの凹凸路面を走行した際には、ラック軸に連結された転舵輪からの逆入力により、ラック軸にスラスト力が作用する場合がある。すると、このスラスト力により、ローラとホルダーおよびすべり軸受の隙間分だけローラがラック軸の幅方向(ローラの回転軸の方向)に移動し、ローラとラック軸が傾き揺動する。この状態で操舵すると、ローラとすべり軸受の隙間がなくなり、その結果、各間の摩擦が増大し、ローラが回転しにくくなり、操舵フィーリングが低下する場合がある。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ラックガイドにローラを用いたステアリング装置において、悪路などの凹凸路面を走行中に操舵しても操舵フィーリングが低下しないラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ラック軸に設けられたラックと、このラックに噛合するピニオンと、前記ラック軸の背面に設けられたローラと、このローラの回転軸を前記ラックの両側で支承するホルダーと、前記ホルダーをピニオン側に付勢する付勢手段とを備えたラックアンドピニオン式ステアリング装置において、前記ホルダーに前記ローラの回転軸と直交するように設けられた前記ローラの回転軸の方向の変位を規制する変位規制部材を、前記ローラに摺接可能に係合させたことを要旨としている。
【0006】
即ち、請求項1に記載のラックアンドピニオン式ステアリング装置によれば、ラック軸上を転動するローラの回転軸の方向の変位を規制しているため、ローラとホルダーおよびすべり軸受の各間の隙間が変わらないので、ローラとホルダーおよびすべり軸受の各間の摩擦トルクが増大せず、操舵フィーリングが低下することがないラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供できる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記ローラの外周面に設けられた断面が円弧状の円周溝と摺接するピンで構成されている変位規制部材であることを要旨としている。即ち、固定ピンにより、ローラの円弧状の円周溝に小さい接触面積で摺接するため、摩擦を小さくしながら確実にローラの回転軸の方向の変位を制限でき、ローラがラック軸の幅方向に移動するのを確実に防止することができ、ローラとホルダーおよびすべり軸受の各間の摩擦トルクが増大しないので操舵フィーリングが低下することがないラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供できる。
【発明の効果】
【0008】
ラックガイドにローラを用いたステアリング装置において、悪路などの凹凸路面を走行中に操舵しても操舵フィーリングが低下しないラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ラックアンドピニオン式テアリング装置の概略構成図。
【図2】第1実施形態のラックアンドピニオン機構及び周辺構成を示す断面図。
【図3】第1実施形態のラックガイド機構を示す拡大断面図。
【図4】第1実施形態のラックガイド機構を示す図3の直角方向断面拡大図。
【図5】第2実施形態のラックガイド機構を示す拡大断面図。
【図6】第3実施形態のラックガイド機構を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、ラックアンドピニオン式ステアリング装置1において、ステアリングホイール2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリングホイール2の操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラム軸8、中間軸9、及びピニオン軸10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0011】
なお、ラックアンドピニオン式ステアリング装置1は、モータ13を駆動源として、そのコラム軸8を回転駆動する所謂コラムアシスト型のEPSとして構成されている。具体的には、モータ13は、ウォーム&ホイール等からなる減速機構14を介してコラム軸8と駆動連結されている。そして、モータ13の回転を減速機構14により減速してコラム軸8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成になっている。
【0012】
次に、ラックアンドピニオン機構及びその周辺構成について説明する。
ラックアンドピニオン機構4は、ラック軸5に形成されたラック歯21とピニオン軸10に形成されたピニオン歯22とを噛合させることにより構成されている。本実施形態のラック歯21は、その歯すじがラック軸5の軸線に対して傾斜した斜歯(ヘリカルギア)に形成されるとともに、ピニオン歯22は、その歯すじがピニオン軸10の軸線に対して傾斜した斜歯に形成されている。そして、ラック軸5は、略円筒状のラックハウジング23内においてピニオン軸10と所定の交叉角をもって配置されている。また、ラックアンドピニオン式ステアリング装置1には、ラック軸5をピニオン軸10に押し付けつつ、同ラック軸5の軸方向に往復動可能に支持するローラ60を有するラックガイド機構24が設けられている。
【0013】
詳述すると、図2に示すように、ラックハウジング23には、ピニオン軸10が収容されるピニオン収容部31と、ピニオン収容部31との間にラック軸5を挟んでラックガイド機構24が収容されるラックガイド収容部32が形成されている。ピニオン収容部31は、ピニオン軸10の軸方向に延び、一端(図2における上端)が開口した円筒状に形成されている。一方、ラックガイド収容部32は、ラック軸5及びピニオン軸10と略直交する方向に延び、一端(図2における右端)がラックハウジング23の内部に開口するとともに他端(図2における左端)がラックハウジング23の外部に開口した円筒形状に形成されている。
【0014】
ピニオン軸10は、前記中間軸9(図1参照)に連結される上端10aがピニオン収容部31から突出する態様で同ピニオン収容部31内に収容されている。そして、ピニオン軸10は、ピニオン収容部31内に設けられた軸受33,34により回転可能に支持されている。なお、ピニオン歯22は、ピニオン軸10における前記軸受33により支持された部分と軸受34により支持された部分との間に形成されている。
【0015】
図2及び図3に示すように、ラックガイド機構24は、ラック軸5を軸方向に往復動可能に支持するローラ60と、ローラ60を支持するホルダー41をラック軸5に押し付ける押圧部材としての付勢バネ42とを備えている。ホルダー41は、略円柱状に形成されるとともに、ラックガイド収容部32内において、ラック軸5及びピニオン軸10の軸方向と略直交する方向、すなわちラック軸5に対して接離する接離方向に移動可能に収容されている。
【0016】
ローラ60には、ピニオン軸10の軸線と平行にローラ60の回転軸としてのピン62が固定され、そのピン62を中心にして、凹状の半径Rの曲率円筒面60aを有する円筒状の鋼製のローラ60が回転可能に支持され、この凹状の円筒面60aがラック軸5に摺接している。また、ローラ60はピン62との間に、2個の低摩擦材からなるすべり軸受61が介挿されている。それぞれのすべり軸受61はローラ60をピン62まわりに回転可能に支持する円筒状の円筒部61a、61bとその円筒部の一方の端部に設けられてローラ60の端部とホルダー41の間に介挿するつば部61c、61dからなり、このつば部でピニオン歯22とラック歯21の生じる歯のねじれや、ラック軸5の両端の転舵輪からの作用により生ずるローラ60の軸方向のスラスト力を受ける。なお、本実施形態では、図4に示すようにローラ60の中央部には断面が半径rの曲率の円弧状の円周溝部60bが形成されており、この円周溝部60bにラック軸5の軸方向にホルダー41に圧入固定されたピン65の円周面65aが摺接している。このピン65により、ローラ60はピン62の軸方向の移動が制限される。
【0017】
ラックガイド収容部32におけるラックハウジング23の外部に開口した外部開口端46は、略円板状のキャップ47が螺着されることにより閉塞されている。そして、付勢バネ42は、ホルダー41とキャップ47との間に圧縮された状態で配置されており、ホルダー41をラック軸5に押し付けている。具体的には、付勢バネ42は、その一端がホルダー41に設けられた凹部の底面41aに着座し、他端がキャップ47の内面47aに着座している。これにより、ホルダー41は、支持しているローラ60により、ラック軸5をピニオン軸10側に押し付けつつ、往復動可能に支持する構成となっている。
【0018】
上記構成によれば、ローラ60の外周面60aに形成された円周溝60bにピン65の円周面が摺接しているので、悪路などの凹凸路面を走行中に操舵し、転舵輪12からタイロッド11を介して力がラック軸5に伝わりラック軸5が傾いたとしても、ローラ60のピン65が軸方向の移動を規制することができる。これにより、ローラ60の両側とホルダー41との間の隙間を規制することができる。これにより、ローラ60の両側とホルダー41との間の隙間が路面の状態により変動しないので、操舵フィーリングが低下することがない。
【0019】
(第2実施形態)
次に、ラック軸の支持荷重が大きく複数のローラ(本実施形態は2個)を使用して本発明を具体化した第2実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0020】
図5に示すように、本実施形態のラックガイド機構において、ローラ70が2個ラック軸5の軸方向に設置されている。各ローラ70には、第1実施形態と同様にピニオン軸10の軸線と平行にローラ70の回転軸としてのピン72が固定され、そのピン72を中心にして、凹状の半径Rの曲率円筒面70aを有する円筒状の鋼製のローラ70が回転可能に支持され、この凹状の円筒面70aがラック軸5に摺接している。また、ローラ70はピン72との間に、2個の低摩擦材からなるすべり軸受71が介挿されている。ラック軸5は2個のローラ70に回転可能に支持されている。また、ローラ70の外周面70aに形成された円周溝70bが形成されており、ラックホルダー51に圧入固定されたピン75の円周面75aが摺接している。
【0021】
本実施形態によれば、ラック軸5にかかる荷重が増えてローラ70が2個に増える場合でも、ローラ70とすべり軸受71との摩擦抵抗が小さくなり、スムーズに回転し、ローラ70の回転が安定することになり、ローラ70の両側とホルダー51との間の隙間が路面の状態により変動せず安定するため、操舵フィーリングが低下することがない。これにより、ラック軸5の幅方向の移動をラック軸5の軸方向に一直線に確実に抑制できる。
【0022】
(第3実施形態)
また、さらにラック軸の支持荷重が大きくなる場合に、複数のピンを使用して本発明を具体化した第3実施形態を図面に従って説明する。なお、説明の便宜上、同一の構成については上記第1、2の実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0023】
図6に示すように、本実施形態のラックガイド機構において、ラック軸5を軸方向に往復動可能に支持するローラ80を備えている。ローラ80は第1実施形態と同様にピニオン軸10の軸線と平行にローラ80の回転軸としてのピン82が固定され、そのピン82を中心にして、凹状の半径Rの曲率円筒面80aを有する円筒状の鋼製のローラ80が回転可能に支持され、この凹状の円筒面80aがラック軸5に摺接している。また、ローラ80はピン82との間に、2個の低摩擦材からなるすべり軸受91が介挿されている。一方、ラック軸5を回転可能に支持しているローラ80の外周面80aと側面部80bとの左右端部に曲率半径rの断面が円弧状の円周溝部80cが形成されており、ラックホルダー81にそれぞれラック軸5の軸方向と平行に圧入固定された2個のピン85の円周面85aが摺接している。これらのピン85により、ローラ80は軸方向の移動が制限される。
【0024】
本実施形態によれば、ローラ80を支持するピン85がローラ80の左右に2個に配設されることにより、ローラ80の傾きを伴う軸方向の移動の場合にも、2個のピン85がロ−ラ80の左右で傾きと軸方向の移動を同時に規制することができるため、これにより、ローラ80は軸方向の移動をより確実に規制することができる。これにより、ローラ80の両側とホルダー81との間の隙間の変動を規制することができ、ローラ80とすべり軸受91との摩擦抵抗が小さくなり、ローラ80の回転が安定することになり、ローラ80の両側とホルダー91との間の隙間が路面の状態により変動せず安定するため、操舵フィーリングが低下することがない。
【符号の説明】
【0025】
1…ラックアンドピニオン式ステアリング装置、4…ラックアンドピニオン機構、5…ラック軸、10…ピニオン軸、21…ラック歯、22…ピニオン歯、23…ラックハウジング、24…ラックガイド機構、31…ピニオン収容部、32…ラックガイド収容部、32a,55a…内周面、41…ホルダー、42…付勢バネ、46…外部開口端、47…キャップ、56…噛合部、60…ローラ、62…ピン、65…固定ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラック軸に設けられたラックと、このラックに噛合するピニオンと、前記ラック軸の背面に設けられたローラと、このローラの回転軸を前記ラックの両側で支承するホルダーと、前記ホルダーをピニオン側に付勢する付勢手段とを備えたラックアンドピニオン式ステアリング装置において、前記ホルダーに前記ローラの回転軸と直交するように設けられた前記ローラの回転軸の方向へ変位を規制する変位規制部材を、前記ローラに摺接可能に係合させたことを特徴とするラックアンドピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
前記ローラの外周面に設けられた断面が円弧状の円周溝と摺接するピンで構成されている変位規制部材を特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン式ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35377(P2013−35377A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172447(P2011−172447)
【出願日】平成23年8月6日(2011.8.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】