ラミニン6B(ラミニン3B11)蛋白質
【課題】 細胞の接着、移動、生存などを支え、組織の構築に重要な働きをするラミニン分子の新種を提供すること。
【解決手段】 ラミニンα3B鎖、β1鎖、およびγ1鎖の各サブユニットから構成されるラミニン6B蛋白質。この蛋白質は、細胞増殖活性、細胞接着活性、細胞運動活性を有する。
【解決手段】 ラミニンα3B鎖、β1鎖、およびγ1鎖の各サブユニットから構成されるラミニン6B蛋白質。この蛋白質は、細胞増殖活性、細胞接着活性、細胞運動活性を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミニン6B(ラミニン3B11)蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物がその生命を維持するためには、細胞が細胞外マトリックス(Extracellular Matrix; ECM)に接着することが必須である。接着性の細胞はECMとの接着が失われると、増殖が停止し、アポトーシスを起こす。つまりECMは、細胞と相互作用することで細胞の生存にかかわる重要な機能を調節している(非特許文献1)。ECMには、細胞から分泌される蛋白質や複合多糖など、一般に巨大で複雑な蛋白質が含まれている。ECM分子は主に基底膜に存在する基底膜型と、結合組織に存在する間質型の2つに大別される。また、ECM分子の特徴として、自己会合能を持つことが挙げられる。これにより、単独分子種で強度の強い繊維やシート状構造を作ることができる。さらに、分子内に多くの機能ドメイン構造を持つとともに、他の分子と結合するドメインを有するため、ECM分子間で強固なネットワーク構造を形成できる。
【0003】
上皮組織と結合組織との間に存在する基底膜には、IV型コラーゲン、パールカンなどのヘパラン硫酸プロテオグリカンおよびラミニンやナイドジェンなどの糖蛋白質が存在する。これらの基底膜分子は互いに複雑に結合し、網目状の広大なネットワークを形成している。
【0004】
ラミニンは、α鎖、β鎖、γ鎖の3つのサブユニットからなる一群の蛋白質ファミリーである。すべてのラミニンは、各構成鎖のC末端で結合してコイルドコイル構造を作り、ジスルフィド結合によって安定化したヘテロ三量体を形成している(非特許文献2及び3)。現在までに、5種類のα鎖、3種類のβ鎖、3種類のγ鎖が確認され、ラミニンとしては15種類のアイソフォームが確認されている(非特許文献4)。
【0005】
ラミニンのα鎖は、C末端領域に球状ドメイン(Globularドメイン、Gドメイン)が5つ(G1-5)存在し、細胞膜表面受容体であるインテグリンやシンデカン、α-ジストログリカンなどへの主要な結合部位となっている(非特許文献5)。一方、β鎖やγ鎖にはコラーゲンやヘパラン硫酸またはナイドジェンなど、他のECM分子との結合ドメインが存在することが明らかとなっている。
【0006】
ラミニンα3A鎖は、β3、γ2鎖と結合してラミニン5A(またはラミニン3A32)、またβ1、γ1鎖と結合してラミニン6A(またはラミニン3A11)を形成する(図1)(非特許文献4)。ラミニン5Aやラミニン6Aは組織中や培養系では様々な上皮細胞から分泌され、生体内では主に皮膚の基底膜に存在する(非特許文献3及び6)。ラミニン5Aのα3A鎖は、細胞外に分泌後、190 kDaから160 kDaもしくは145 kDaへとプロテアーゼによる切断(プロセシング)を受ける(非特許文献7)。その結果、ラミニン5Aの細胞に対する運動活性や接着活性が変化することが報告されている。また、その切断部位はG3ドメインとG4ドメインの間に存在することが報告されている。一方で、ラミニン6Aが持つα3鎖は、190 kDa型が主であることが明らかとなっている(非特許文献8)。
【0007】
生体内に存在するラミニン5A はラミニン6Aと複合体を形成して存在していることが知られている(非特許文献9)。さらに、このラミニン5A -6A複合体はラミニン6Aのβ1鎖およびγ1鎖のVIドメインを介して他のラミニンと相互作用することができる。また、γ1鎖とナイドジェンとの結合を介して、IV型コラーゲンのネットワークに組み込まれると考えられている(非特許文献10)。また、ラミニン5A -6A複合体におけるラミニン5Aのα3A鎖のGドメインはインテグリンα3β1もしくはα6β4と結合するが、ラミニン6Aのα3A鎖は結合しないと考えられている(非特許文献11)。このことからラミニン6Aは、上皮系組織の基底膜において、他のECM分子と結合し、ECM分子間のネットワーク形成を架橋する働きを持つと考えられる。したがって、ラミニン6Aをラミニン5Aや他のECM蛋白質と組み合わせることにより、表皮や他の上皮細胞を生体内に近い条件で細胞培養できる可能性が考えられる。
【0008】
ラミニンα3A鎖には、mRNAのスプライシングの違いによって、N末端領域が長いラミニンα3B鎖が存在することが知られていた。このラミニンα3B鎖はそのC末端領域にラミニンα3A鎖と共通のコイルドコイルドメイン(ドメインI/II)をもつため、β3、γ2鎖と結合してラミニン5B(またはラミニン3B32)、またβ1、γ1鎖と結合してラミニン6B(またはラミニン3B11)を形成すると予想されるが、これらの蛋白質の生体内での発現は知られていない(図1)。最近、ヒトのラミニンα3B鎖の全長cDNAがクローニングされ、ヒト胎児腎由来細胞株HEK293において組み換え型ラミニン5Bが作製された(非特許文献12)。ラミニン5Bはラミニン5Aよりも高い細胞接着活性や細胞運動活性を示す。
【0009】
【非特許文献1】Hood JD, Cheresh DA. (2002): Role of integrins in cell invasion and migration.Nat Rev Cancer.;2(2):91-100.
【非特許文献2】Colognato H, Yurchenco PD. (2000): Form and function: the laminin family of heterotrimers. Dev Dyn.; 218(2):213-34. Review.
【非特許文献3】Aumailley M, Rousselle P. (1999): Laminins of the dermo-epidermal junction. Matrix Biol.; 18(1):19-28. Review.
【非特許文献4】Aumailley, M., Bruckner-Tuderman, L., Carter, W. G., Deutzmann, R., Edgar, D., Ekblom, P., Engel, J., Engvall, E., Hohenester, E., Jones, J. C., Kleinman, H. K., Marinkovich, M. P., Martin, G. R., Mayer, U., Meneguzzi, G., Miner, J. H., Miyazaki, K., Patarroyo, M., Paulsson, M., Quaranta, V., Sanes, J. R., Sasaki, T., Sekiguchi, K., Sorokin, L. M., Talts, J. F., Tryggvason, K., Uitto, J., Virtanen, I., von der Mark, K., Wewer, U. M., Yamada, Y. and Yurchenco, P. D. (2005): A simplified laminin nomenclature. Matrix Biol. 24:326-332. Review.
【非特許文献5】Hirosaki T, Mizushima H, Tsubota Y, Moriyama K, Miyazaki K. (2000): Structural requirement of carboxyl-terminal globular domains of laminin alpha 3 chain for promotion of rapid cell adhesion and migration by laminin-5.J Biol Chem.; 275(29):22495-502.
【非特許文献6】Marinkovich MP, Lunstrum GP, Keene DR, Burgeson RE. (1992) The dermal- epidermal junction of human skin contains a novel laminin variant.J Cell Biol.; 119(3):695-703.
【非特許文献7】Miyazaki K. (2006) Laminin-5 (laminin-332): unique biological activity and role in tumor growth and invasion. Cancer Sci; 97(2): 91-98.
【非特許文献8】Hirosaki T, Tsubota Y, Kariya Y, Moriyama K, Mizushima H, Miyazaki K. (2002) Laminin-6 is activated by proteolytic processing and regulates cellular adhesion and migration differently from laminin-5.J Biol Chem.; 277(51):49287-95.
【非特許文献9】Champliaud MF, Lunstrum GP, Rousselle P, Nishiyama T, Keene DR, Burgeson RE. (1996): Human amnion contains a novel laminin variant, laminin 7, which like laminin 6, covalently associates with laminin 5 to promote stable epithelial-stromal attachment.J Cell Biol.; 132(6):1189-98.
【非特許文献10】Mayer U, Poschl E, Gerecke DR, Wagman DW, Burgeson RE, Timpl R. (1995) : Low nidogen affinity of laminin-5 can be attributed to two serine residues in EGF-like motif gamma 2III4.FEBS Lett.;365(2-3):129-32.
【非特許文献11】Rousselle P, Keene DR, Ruggiero F, Champliaud MF, Rest M, Burgeson RE. (1997) Laminin 5 binds the NC-1 domain of type VII collagen.J Cell Biol.; 138(3):719-28.
【非特許文献12】Kariya Y, Yasuda C, Nakashima Y, Ishida K, Tsubota Y, Miyazaki K. (2004) Characterization of laminin-5B (α3Bβ3γ2) and NH2-terminal proteolytic fragment of its α3B chain: Promotion of cellular adhesion, migration and proliferation. J Biol Chem, 279(23): 24774-24784.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、細胞の接着、移動、生存などを支え、組織の構築に重要な働きをするラミニン分子の新種を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明らは、HEK293細胞に、ラミニンα3B、β1、γ1鎖のcDNAを導入することによって、初めてラミニン6Bを安定的に強制発現させる細胞系LN6B-HEKを確立した。この細胞が産生するラミニン6B蛋白質を精製し、このラミニンが細胞接着活性や細胞運動活性を示すことを明らかにした。また、ラミニン6Bが血管基底膜に局在し、血管内皮細胞の増殖を促進することを明らかにした。本発明ではまた、ラミニンα3B鎖の代わりにα3A鎖のcDNAをHEK293細胞に導入することにより従来の方法よりも約10倍量のラミニン6Aを発現させることに成功した。
【0012】
動物細胞が生存し、増殖するためには基質(足場)となる蛋白質が必要であり、この基質蛋白質は細胞の種類によって異なる。近年、再生医療の分野で様々な細胞を生体外で培養し、人体に移植利用することが考えられている。しかし、特に正常上皮細胞をシャーレの上で安定に培養することは困難であり、その要因の一つとして、適切な基質蛋白質が入手できないことが上げられる。
【0013】
これまで、細胞接着基質蛋白質としては、容易に調製できるフィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン1などが使用されてきたが、ラミニン6Bはその存在が知られてなく、当然使用されたことがない。ラミニン6Bはラミニン1(α1、β1、γ1鎖から構成される。)よりも高い細胞接着活性をしめす。構造、活性、組織分布の違いから、細胞培養においてラミニン6Bが既知の細胞接着分子と異なる特性をしめすことが期待される。
後述の実施例に示すように、ラミニン6Bは血管基底膜に局在し、血管内皮細胞の増殖を促進する。したがって、ラミニン6Bは血管内皮細胞や表皮細胞を安定的に培養するための接着基質として利用できる可能性がある。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)以下の(a)又は(b)の蛋白質。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するα3B鎖、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するβ1鎖、および配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するγ1鎖の各サブユニットから構成されるラミニン6B蛋白質。
(b) (a)の蛋白質において、配列番号2で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列、および配列番号6で示されるアミノ酸配列のすくなくとも1つのアミノ酸配列中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、かつラミニン6B蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質。
ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まなくてもよい。
【0015】
(2)以下の(i)、(ii)および(iii)のDNAで形質転換した宿主細胞。
(i)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するα3B鎖をコードするDNA
(ii)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するβ1鎖をコードするDNA
(iii)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するγ1鎖をコードするDNA
ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まなくてもよい。
【0016】
(3)宿主細胞がHEK細胞である(2)記載の細胞。
(4)(2)または(3)記載の細胞を培養することを含む、(1)記載の蛋白質の製造方法。
(5)(1)記載の蛋白質を含む組成物。
(6)細胞の培養基質、細胞増殖促進剤、血管新生剤、創傷治癒剤、神経再生剤又は移植基材として用いられる(5)記載の組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、新規なラミニン6B蛋白質が提供された。ラミニン6Bは細胞の接着や移動を促進することから、将来的に再生医療や細胞工学の分野で利用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
図1に、ラミニン5A、本発明のラミニン6B、ラミニン6Aの構造を示す。ラミニン6B蛋白質は、α3B鎖、β1鎖およびγ1鎖からなる。ラミニン5Aは、α3A鎖、β3鎖およびγ2鎖からなり、ラミニン6Aは、α3A鎖、β1鎖およびγ1鎖からなる。α3B鎖はα3A鎖の約2倍の大きさをもち、α3B鎖のC末端側約半分の構造はα3A鎖と共通である。α3B鎖とα3A鎖のC末端部分には球状(G)ドメインが存在し、それは5つのサブドメイン(またはモジュール)(G1〜G5)に分かれている。
【0019】
α3B鎖はαA鎖のN末端側に3つの球状ドメイン(N末端側からドメインLN、L4a、L4b)と2つのEGF様ドメイン(N末端側からドメインLEa、LEb)が付加された構造をもつ。これらのドメインはインテグリンへの結合や、自己あるいは他のラミニンとの会合に寄与すると考えられている。α3B鎖の全体的な構造は他の長鎖型α鎖である、α1、α2、α5鎖に類似する。
【0020】
本発明のラミニン6B蛋白質は組換えDNA技術を用いて各サブユニットを発現させることにより製造することができる。本発明のラミニン6Bの各サブユニットをコードするcDNAは、配列番号1、3または5の塩基配列に基づいてプライマーを設計し、適当なcDNAライブラリーをテンプレートとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により目的とする配列を増幅することにより製造することができる。このようなPCR手法は当該技術分野においてよく知られており、例えば、”PCR Protocols,A Guide to Methods and Applications”,Academic Press,Michael,et al.,eds.,1990に記載されている。
【0021】
ラミニン6Bの各鎖遺伝子をコードするDNAを適当な発現ベクターに中に組み込み、これを宿主細胞(例えば、真核生物又は原核生物細胞など)に導入して、それぞれの鎖を発現させることにより所望の蛋白質を得ることができる。本発明の蛋白質を発現させるために用いることができる宿主細胞の例としては、限定されないが、大腸菌、枯草菌等の原核生物宿主、および酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核生物宿主が挙げられる。宿主として有用な哺乳動物細胞には、胃がん細胞株、例えばSTKM−1やMKN−45、繊維肉腫細胞株、例えばHT1080、胎児腎由来細胞株、例えばHEK293や浮遊型HEK293F細胞、HeLa細胞、線維芽細胞由来の細胞、例えばVEROまたはCHO−K1、またはリンパ球由来の細胞、およびこれらの誘導体が含まれる。好ましい哺乳動物宿主細胞には、ヒト腎由来細胞株、例えばHEK293や浮遊型HEK293F細胞、線維芽細胞由来の細胞、例えばVEROまたはCHO−K1が含まれる。さらに、植物細胞および昆虫細胞、例えばショウジョウバエの細胞もまた宿主として利用可能である。
【0022】
ベクターとは、細胞にトランスフェクトすることができ、細胞ゲノム中でまたはそれとは独立に複製しうる一本鎖または二本鎖の核酸分子を表す。発現ベクターは、DNAの発現を駆動するプロモーター領域を含み、さらに転写および翻訳の制御配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列、3’非コード領域、エンハンサー等を含んでいてもよい。プロモーターの例としては、原核生物宿主中で用いる場合には、blaプロモーター、catプロモーター、lacZプロモーター、真核生物宿主中で用いる場合には、マウスメタロチオネインI遺伝子配列のプロモーター、ヘルペスウイルスのTKプロモーター、SV40初期プロモーター、酵母解糖系酵素遺伝子配列プロモーター等が挙げられる。ベクターの例には、限定されないが、pBR322、pUC118、pUC119、λgtl0、λgt11、pMAM−neo、pKRC、BPV、ワクチニア、SV40、2−ミクロン等が含まれる。
【0023】
発現ベクターは、これを含有する宿主細胞を選択することができるように、1またはそれ以上のマーカーを有することが好ましい。マーカーとしては、栄養要求性宿主に対する栄養、抗生物質耐性(例えばアンピシリン、テトラサイクリン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、ゼオシン等)、または重金属耐性(例えば銅)を与えるものを用いることができる。
さらに、シグナル配列を用いて本発明の蛋白質を分泌発現させるように、あるいは、本発明の蛋白質を別の蛋白質との融合蛋白質の形で発現させるように、ベクターを構築することができる。融合蛋白質を用いることにより、蛋白質の安定性を改良し、または精製を容易にすることができる。そのような発現ベクターの構築は当該技術分野においてよく知られている。
【0024】
ラミニン6Bの各鎖をコードするDNAは、一つの発現ベクター内に組み込んで発現させてもよく、または別個の発現ベクターに組み込んで、これらのベクターを同じ細胞にトランスフェクトして発現させてもよい。α3B鎖、β1鎖およびγ1鎖の各サブユニットはいずれも非常に大きなポリペプチドであるため、好ましくは後者の方法を用いる。
【0025】
本発明のラミニン6Bを発現するよう構築したベクターは、トランスフォーメーション、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈澱、直接マイクロインジェクション等により、適当な宿主細胞中に導入することができる。ベクターを含む細胞を適当な培地中で成長させて本発明の蛋白質を産生させ、細胞または培地から所望の組換え蛋白質を回収し、精製することにより、本発明ラミニン6B蛋白質を得ることができる。精製は、イオン交換クロマトグラフィー、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー、および免疫アフィニティークロマトグラフィー等を用いて行うことができる。
【0026】
本発明のラミニン6Bの各鎖は、対応する配列番号で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(1又は2個以上、好ましくは、2個以上30個以下、より好ましくは2個以上10個以下)のアミノ酸が欠失、付加または置換されているアミノ酸配列を有するものであってもよい。ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まない蛋白質も本蛋白質に含まれる。このような天然の蛋白質と相同の蛋白質も本願発明の範囲内である。
アミノ酸の保存的変更を行って、元の機能を保持している蛋白質またはポリペプチドを得ることができることは、当該技術分野においてよく知られている。そのような置換には、アミノ酸を類似の物理化学的特性を有する残基で置き換えること、例えば、1つの脂肪族残基(Ile、Val、LeuまたはAla)を別のもので、または塩基性残基LysとArg、酸性残基GluとAsp、アミド残基GlnとAsn、ヒドロキシル残基SerとTyr、または芳香族残基PheとTyrとの間で置き換えることが含まれる。
【0027】
また、配列番号2、4または6に記載されるアミノ酸配列と、少なくとも50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有し、かつラミニン6B蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質も本願発明の範囲内である。同一性は、同一である残基の数を、既知の配列または既知の配列のドメイン中の残基の総数で割り、100を乗ずることにより計算する。標準的なパラメータを用いて配列の同一性を決定するためのいくつかのコンピュータプログラム、例えば、Gapped BLASTまたはPSI−BLAST(Altschul,et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389−3402)、BLAST(Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−410)、およびスミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)(Smith,et al.(1981)J.Mol.Biol.147:195−197)が利用可能である。好ましくは、これらのプログラムのデフォルト設定を用いるが、所望によりこれらの設定を変更してもよい。
【0028】
ラミニン6B蛋白質の生物学的活性としては、細胞接着活性、細胞運動活性、細胞増殖活性などが挙げられる。特に血管内皮細胞の増殖に適した培養基質となる。
また、本発明のラミニン6Bを構成する各鎖の一部が欠失している蛋白質も本願発明の範囲内である。例えば、本発明のラミニン6Bのα3B鎖は、プロテアーゼによってG4およびG5が切断除去されるが、ラミニン6Bとしての活性を有する限り、切断型または非切断型を問わず本発明の範囲内にある。
【0029】
さらに、ヒト以外の種の生物に由来する、ヒトラミニン6Bと同様の活性を有する蛋白質も本発明の範囲内である。このような蛋白質をコードする遺伝子は、配列番号1、3または5に示される配列を有するポリヌクレオチドまたはそのフラグメントをプローブまたはプライマーとして用いて、ハイブリダイゼーションまたはPCR等の手法を用いて容易に単離することができる。このようにして得られる相同遺伝子は、配列番号1、3または5に記載の塩基配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する。あるいは、相同遺伝子は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1、3または5に記載の塩基配列を有する遺伝子とハイブリダイズすることができる。
【0030】
ハイブリダイズとの用語は、DNAまたはこれに対応するRNAが、溶液中でまたは固体支持体上で、別のDNAまたはRNA分子と水素結合相互作用により結合することを意味する。このような相互作用の強さは、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーを変化させることにより評価することができる。所望の特異性および選択性によって、種々のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を用いることができ、ストリンジェンシーは、塩濃度または変性剤の濃度を変化させることにより調節することができる。そのようなストリンジェンシーの調節方法は当該技術分野においてよく知られており、例えば、"Molecular Cloning:A Laboratory Manual",第2版.Cold Spring Harbor Laboratory,Sambrook,Fritsch,&Maniatis,eds.,1989)に記載されている。
【0031】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、50%ホルムアミドの存在下で、700mMのNaCl中42℃、またはこれと同等の条件をいう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の一例は、50%ホルムアミド、5XSSC、50mMNaH2PO4、pH6.8、0.5%SDS、0.1mg/mL超音波処理サケ精子DNA、および5Xデンハルト溶液中で42℃で一夜のハイブリダイゼーション;2XSSC、0.1%SDSで45℃での洗浄;および0.2XSSC、0.1%SDSで45℃での洗浄である。
【0032】
本発明のラミニン6B蛋白質は、細胞接着活性、細胞運動活性、細胞増殖活性などを有する。ラミニン6Bの細胞接着活性は、プレートに本発明のラミニン6Bをコーティングし、このプレートに適当な細胞を播種し、所定時間インキュベートした後に接着した細胞の数を測定することによりアッセイすることができる。細胞運動促進活性は、プレートに本発明のラミニン6Bをコーティングし、このプレート上に適当な細胞を播種し、所定時間経過後に細胞の分散の程度を測定することによりアッセイすることができる。また、細胞の運動の様子をビデオにて撮影し、画像解析により細胞運動の速度を求めてもよい。細胞増殖活性は、ラミニン6Bをコーティングしたプレートに適当な細胞、例えば血管内皮細胞、を播種して数日間培養し、増殖した細胞を計数することにより測定することができる。
【0033】
本発明のラミニン6B蛋白質を細胞の培養基質又は細胞増殖促進剤として用いる場合には、ラミニン6Bを細胞の培養液中に添加するか、または培養プレートもしくは培養シート上に塗布または固定化することにより使用することができる。あるいは、培養プレートもしくは培養シート上で増殖させたフィーダー細胞上に塗布してもよい。殆どの動物細胞は生存条件として培養器表面に接着することが必須であり、さらに増殖因子の刺激を受けて分裂する。ラミニン6Bは細胞接着活性をもつことから、多様な細胞の増殖促進剤として有効である。例えば、皮膚、肝臓、膵臓、軟骨、神経、血管などにおける正常細胞やがん細胞、各組織の幹細胞、胚性幹(ES)細胞などの培養に使用できる。一方、本発明のラミニン6Bを薬学的に許容される担体とともに外用製剤として処方して、皮膚、粘膜等の表面に塗布してもよい。本発明のラミニン6B蛋白質は、軟膏、皮膚パッチ、移植用培養細胞シート、人工マトリクスなどの形態で、創傷治療用製剤として用いることができる。また、ラミニン6Bの高い細胞接着効果を利用して、生体組織に埋め込む種々の医療インプラントの塗布剤として用いることができる。さらに、血管新生剤、神経再生剤などとしても用いることができる。
【0034】
限定されるわけではないが、本発明の組成物は、in vitroまたはex vivoで使用する場合、好ましくは0.01μg/mlないし20μg/mlの濃度で用いることができる。本発明の組成物を医薬用組成物として用いる場合には、薬学的に受容可能な担体との混合物中に、治療上有効な量のラミニン6Bを含む。本発明の組成物は、全身的にまたは局所的に、好ましくは静脈内、皮下内、筋肉内に非経口的に投与し得る。非経口的に投与可能なラミニン溶液の調剤は、pH、等張性、安全性等を考慮し、当業者の技術的範囲内において行い得る。
本発明の組成物の用量用法は、薬剤の作用、例えば、患者の症状の性質及び/若しくは重度、体重、性別、食餌、投与の時間、並びに他の臨床的作用を左右する種々の因子を考慮し、診察する医師により決定され得る。当業者は、これらの要素に基づき、本発明の組成物の用量を決定することができる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【0036】
〔実施例1〕ラミニン6Bの発現系の作製と精製ラミニン6Bの性質
細胞培養
ヒト胎児腎由来細胞株HEK293は、American Type Culture Collection (ATCC, CRL-1573)(Rockville, MD)より購入した。培養はDalbecco’s modified essential medium(DMEM)/Ham’s F12(1:1)(Invitrogen, Carlsbad, CA)に 10%仔牛胎児血清(FCS; JRH Biosciences, Lenexa, KS)、100 U/mlペニシリンG(明治製菓, 東京)、0.1 mg/mlストレプトマイシン(明治製菓)を添加した培地(10% FCS入り DMEM/F12)を用いて37 ℃、5% CO2存在下でおこなった。
【0037】
抗体とその他の材料
ラミニンα3B鎖に対するマウスモノクローナル抗体(F7)、α3A鎖に対するマウスモノクローナル抗体(BG5)(α3B鎖にも弱く反応する)は当研究室で作製した。ラミニンγ2鎖に対するマウスモノクローナル抗体(D4B5)(Mizushima, H. et al., Horm. Res. 50 Suppl. 2: 7-14, 1998)とラミニンβ3鎖に対するマウスモノクローナル抗体(LE8A、LE12C)(Nakashima, Y. et al., J. Biochem. 138:539-552, 2005)は当研究室で作製したものを使用した。LE8Aはウェスタンブロッティング用、また LE12Cは免疫染色用に使用した。ラミニンβ1鎖に対するラットモノクローナル抗体(LT3)とラミニンγ1鎖に対するマウスモノクローナル抗体(2E8)はChemicon International社(Temecula, CA、USA)より購入した。
【0038】
cDNA発現ベクターの作製
ヒトラミニンα3B鎖発現ベクター(LNα3BpcDNA3.1 Hygro(+))はWO2004/108927の実施例1に記載のように作製された(非特許文献12)。このα3B鎖発現ベクターは8,832bpのcDNA(配列番号1の塩基配列の1番目〜8832番目)を含み、N末端側から2,944個のアミノ酸配列をコードする。ただし、この配列にはLG4−5ドメイン(図1)(配列番号2のアミノ酸配列の2945番目〜3333番目)は含まれない。β1鎖(全長5,361 bp)およびγ1鎖(全長4,830 bp)cDNAは以下のように作製した。β1鎖、γ1鎖を、それぞれ4つの断片(β1-1〜4およびγ1-1〜4)に分けるようにプライマーを設計し、ヒト肺cDNAライブラリーよりPolymerase Chain Reaction(PCR)法を用いて各断片を増幅した。使用したプライマーと作製したプラスミドの組み合わせは表1に示す。その際、発現ベクターに組み込むため、β1-1の5’末端にKpn Iサイト、β1-4の3’末端にEcoR Vサイトを、γ1-1の5’末端にBamH Iサイト、γ1-4の3’末端にXba Iサイトをそれぞれ付加した。増幅断片はpGEM(登録商標)T-Easy ベクター(Promega, Madison, WI)に組み込み、DNAシークエンサーを用いて塩基配列を決定した。決定した配列を既知のβ1鎖(GenBankTM accession no. M61916)およびγ1鎖(GenBankTM accession no. J03202)の塩基配列と比較し、変異の有無を確認した。アミノ酸置換を伴う変異が認められた塩基については、点変異導入法や制限酵素によるつなぎ換えによって正しい塩基配列への修正をおこなった。
【0039】
点変異導入法による塩基配列の修正にはPCRを用いた方法でおこなった(今井 嘉紀 (1999): ワンデイミュータジェネシス)。その際、修正した塩基を含むプライマー(表1,2,3)を互いに背中合わせに接するように設計した。
【表1】
表1のプライマー1〜13の塩基配列をそれぞれ配列番号7〜19に示す。
【表2】
表2のプライマー1〜13の塩基配列をそれぞれ配列番号20〜32に示す。
【表3】
表3のプライマー1〜9の塩基配列をそれぞれ配列番号33〜41に示す。
【0040】
塩基配列が正しいことが確認された各断片を、図2及び3に示したように制限酵素サイトを利用して結合し、ヒトラミニンβ1鎖cDNA全長(β1full/pBS)およびヒトラミニンγ1鎖cDNA全長(γ1full/T-Easy)を作製した。β1full/pBSよりKpn IとEcoR Vで、γ1full/T-EasyよりBamH IとXba Iで切り出されたβ1、γ1鎖cDNAを、それぞれpcDNA3.1/Zeo(+)(Invitrogen社)あるいはpcDNA3 (Invitrogen社)発現ベクターの相当する酵素サイトに組み込みこんだ。
また、細胞に導入するcDNA発現ベクターはQIAGEN(登録商標)Plasmid Midi Kit (QIAGEN, Valencia, CA)で精製した。
【0041】
接着型HEK293細胞を用いたヒト組換え型LN6B安定発現細胞株の構築(図4)
ヒト胎児腎由来細胞株HEK293にリポフェクション法を用いてγ1鎖cDNA発現ベクターを導入した。導入後、耐性薬剤であるG418で選択を行い、さらに細胞をクローン化した。これらのクローンから回収した培養液上清内のγ1鎖の分泌量をウェスタンブロッティング法により分析し、発現量が最も高いクローンを選択し、このクローンをγ1-HEKとした。次に、このγ1-HEK細胞にβ1鎖cDNA発現ベクターを導入し、耐性薬剤であるzeocinで選択を行い、さらに細胞をクローン化した。これらのクローンから回収した培養液上清内のβ1鎖の分泌量を分析し、発現量が最も高いクローンををβ1・γ1-HEKとした。さらに、β1・γ1-HEKにα3B鎖cDNA発現ベクター(WO2004/108927の実施例1に記載のLNα3BpcDNA3.1 Hygro(+))(非特許文献12)を導入し、hygromycinで選択をおこない、さらに細胞をクローン化した。これらのクローンから回収した培養液上清内のLN6Bの発現量を各構成鎖の抗体を用いたウェスタンブロッティングにより解析した結果、安定してLN6Bを発現するクローンを得ることができた(図5)。このクローンを細胞株LN6B-HEKとし、以下の実験に用いた。
【0042】
なお本発明において、α3B鎖cDNAの代わりにα3A鎖cDNAを発現ベクターに組み込み、上記と同様の操作を行うことにより、ラミニン6Aの発現系も樹立することができた。HEK293細胞でラミニン6Aを発現させた場合、以前に樹立したHT1080系でのラミニン6Aの発現系(非特許文献8)と比較して、発現量が10倍以上になった。
【0043】
ヒト組換え型LN6Bの精製
LN6B-HEKからラミニン6Bを精製するため、細胞を無血清培養液中で培養し、回収した培養液上清1.5 lをQ Sepharose CL-4B陰イオン交換カラム (10 ml)(Amersham社、Piscataway, NJ, USA)に供した。カラムに吸着した蛋白質を0.5M NaClで溶出した。その後、このラミニン6Bを含む 画分を抗α3B抗体(F7)結合Sepharoseカラム(2 ml)に供し、吸着したラミニン6Bを0.05%三フッ化酢酸(TFA)で溶出した。溶出後直ちに、溶出液1ml当たり20 mM Tris-HCl (pH 8.0)の20μlを混合し、中和した。各フラクションを還元条件のSDS電気泳動で分離し、CBB色素染色およびウェスタングロッティングを行って各構成鎖の発現を分析した。その結果、ラミニン6Bの構成鎖であるα3B、β1、γ1鎖に相当する分子量のバンドを検出した(図6)。蛋白質定量の結果、培養液上清1.5 lあたり約350μgのラミニン6Bを精製することができた。
【0044】
ヒト組換え型ラミニン6Bの細胞接着活性の測定
精製したラミニン6B (LN6B)を用いて、既報の方法により細胞の接着活性を調べた(非特許文献13)。活性の測定にはラミニンに対して応答性が高い、ラット肝由来の上皮系細胞であるBRL細胞(California 大学San Diego校 Gordon H. Sato教授(現在は退職)の供与による)を用いた。比較対象として同じα3B鎖を持ち、β、γ鎖が異なるヒトラミニン5B( LN5B)(非特許文献12の方法により作製)、β1、γ1鎖を持ちα鎖が異なるラミニン1(LN1)(マウスEHSラミニン;Chemicon International社)を用いた。 ELISA用96穴プレート(Coster社, Cambridge, MA、USA)に各ラミニンを指定の濃度でコートし、さらに1%牛血清アルブミンでブロッキング処理した。このプレートに無血清DME/F12培地に分散させたBRL細胞(2 × 104 細胞/ウェル)を播種し、37℃で1時間インキュベートした。非接着細胞を除いた後、接着細胞を蛍光色素(Hoechst 33342)で染色し、蛍光強度を測定した(図7)。その結果、ラミニン5Bが最も高い細胞接着活性を示し、ラミニン6B はラミニン5B とラミニン1のほぼ中間の活性を示した。この結果から、精製したラミニン6Bはラミニン1に比べて約2倍、ラミニン5Bと比べて約2分の1の接着活性を持っていることが明らかになった。
【0045】
ヒト組換え型ラミニン6Bの細胞分散活性の測定
精製したヒトラミニン6B (LN6B)の細胞運動活性を細胞分散活性として測定した。細胞分散活性はBRL細胞を用いて既報の方法により行った(非特許文献12)。図7の実施例と同様な方法で、ラミニン6B、ヒトラミニン5B( LN5B)、マウスラミニン1(LN1)を細胞培養用24穴プレートに指定の濃度でコートした。このプレートに1% FCS含有DME/F12培地に分散させたBRL細胞(7,000細胞/ウェル)を播種し、37℃で40時間インキュベートした。顕微鏡下の異なる3つの視野で、互いに接着せず、分散して存在する細胞の割合を求めた。その結果、ラミニン5Bのみが高い細胞分散活性を示した。ラミニン6Bはラミニン1よりもやや高い細胞分散活性を示した(図8)。
【0046】
〔実施例2〕ラミニン6Bの血管での発現と機能
ヒトラミニン6Bの組織分布
ラミニンα3B鎖に対するmRNAは皮膚、肺など、広い組織で発現することが知られているが、蛋白質の同定は行われていない。そこで、ヒトラミニンα3B鎖に対する特異的マウスモノクローナル抗体(F7)を作製し、ヒト皮膚での免疫組織染色を行った。フォルマリン固定パラフィン切片はBioChain社(和光純薬、大阪)から購入したものを使用し、免疫組織染色は既報の方法に準じて行った(Kagesato, Y. et al., Jpn. J. Cancer Res. 92:184-192, 2001)。その結果、ラミニンα3B蛋白質のシグナルは、表皮基底膜に加え、結合組織の微小血管の基底膜(矢印)に強く検出された(図9)。
【0047】
上記のラミニンα3B鎖の分布がラミニン6Bかラミニン5Bによるものか明らかにするために、抗α3A鎖抗体BG5(α3B鎖にも弱く反応)、α3B鎖特異的抗体F7、β3鎖特異的抗体LE12C、γ2鎖特異的抗体D4B5を用いてヒト皮膚組織切片の免疫組織染色を行った(図10)。その結果、抗α3A鎖抗体BG5は表皮基底膜(矢印)を特異的に染色したが、α3B鎖特異的抗体は表皮基底膜(矢印)に加え、結合組織の微小血管の基底膜(矢印)を強く染色した。一方、β3鎖特異的抗体LE12Cとγ2鎖特異的抗体D4B5は表皮基底膜(矢印)を強く染色したが、血管基底膜(星印の位置)を染色しなかった。以上の結果から、表皮基底膜にはラミニンα3A鎖、α3B鎖、β3鎖、γ2鎖が存在するが、血管基底膜にはα3B鎖のみが存在することが分かった。同様な分布は、食道、乳腺、肺などでも見られた。血管の基底膜には、β1鎖、γ1鎖をもつラミニン8(α4β1γ1;ラミニン411)やラミニン10(α5β1γ1;ラミニン511)が主要な成分として存在することが知られている(Iivanainen, A. et al., J. Biol. Biochem. 272: 27862-27878, 1997)。従って、血管基底膜に存在するラミニンα3B鎖は、ラミニン5B(α3Bβ3γ2)ではなく、ラミニン6B(α3Bβ1γ1)として存在するものと考えられる。一方、表皮基底膜においては、β3鎖、γ2鎖が存在することから主にラミニン5Bとして存在するものと考えられる。また、ラミニンα3B鎖の広い組織分布はラミニン6Bの血管による発現によるものと考えられる。
【0048】
ヒト組換え型ラミニン6Bの微小血管内皮細胞に対する増殖促進活性の測定
皮膚の微小血管の基底膜にラミニン6Bが存在することが明らかになったことから、微小血管内皮細胞の増殖に対するラミニン6Bの影響を調べた。ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)と増殖培地(HuMedia-MvG)はクラボウ社(大阪)から購入した。精製ラミニン6B(LN6B)、ヒトラミニン5B(LN5B)、マウスラミニン1(LN1)を細胞培養用24穴プレートに2 μg/mlの濃度でコートした。牛血清アルブミンによるブロッキングは行わなかった。このプレートに5% FCS含有HuMedia-MvG培地に分散させたHMVEC細胞(5,000細胞/ウェル)を播種し、37℃で4日間培養した後、細胞数を計測した。図11に示すように、ラミニン5Bとラミニン1では、非処理プレート(None)と比べて増殖促進効果が見られなかったが、ラミニン6Bコートプレートは高い増殖促進効果を示した。この結果から、ラミニン6Bが微小血管内皮細胞に対して高い増殖促進活性を示すことが明らかになった。
【0049】
考察
本実施例1において、HEK293細胞にラミニン6Bの各サブユニットのcDNAを導入し、薬剤による選択を行うことにより、ヒト組換え型ラミニン6Bを安定して高度に発現する細胞株LN6B-HEKを樹立することができた。さらに、この細胞を大量に培養し、その培養液上清から安定してラミニン6Bを精製する系を確立することができた。これまでに、ラミニン6Bのin vivoおよびin vitroでの発現の報告はない。
【0050】
今後、今回確立した発現細胞と精製操作を用いて、簡便にヒト組換え型ラミニン6Bを得ることができる。また、今回精製を行ったラミニン6Bはラット肝由来BRL細胞に対して、ラミニン1の約2倍、ラミニン5Bの約2分の1の接着活性をもち、またラミニン5Bに比べて非常に低い細胞分散活性を示すことが明らかになった。このことから、同じラミニンα3B鎖をもっているが、ラミニン6Bとラミニン5Bは互いに異なる性質をもつと考えられる。細胞の増殖や分化に及ぼす影響は、細胞接着活性や細胞運動活性と直接相関するわけではなく、細胞の種類によって異なる。従って、ラミニン6Bとラミニン5Bは多様な細胞の培養基質として補完的に使用できるものと考えられる。
【0051】
実施例2で示すように、ラミニン5Bは皮膚、食道、肺、乳腺などの上皮基底膜に存在し、一方、ラミニン6Bは血管基底膜に広く存在することが明らかになった。実際、ラミニン6Bは微小血管内皮細胞に対して、ラミニン1やラミニン5Bに比べても高い細胞増殖促進活性をもつことが明らかになった。このような性質は、ラミニン6Bが血管内皮細胞を効率よく培養するための培養基質として役立つことを意味する。またこれらの結果から、ラミニン6Bが心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、創傷治癒などにおける血管新生促進剤として役立つ可能性が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
ラミニン6Bは細胞の接着や移動を促進することから、将来的に再生医療や細胞工学の分野で利用できる可能性がある。実施例2に示すように、ラミニン6Bが血管の基底膜に存在し、血管内皮細の増殖を促進することが明らかになった。したがって、ラミニン6Bは血管内皮細胞や他の細胞を安定的に培養するための接着基質として利用でき、また循環器不全などにおける血管新生促進剤として利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のラミニン6Bの構造をラミニン5A及び6Aの構造とともに示す。
【図2】β1鎖発現ベクターの作製。
【図3】β1鎖発現ベクターの作製。
【図4】遺伝子組換えラミニン6Bの大量発現系の構築。ラミニン6Bの構成鎖であるα3B鎖、β1鎖、γ1鎖全てを外来性遺伝子としてHEK293細胞に導入し、発現させる。
【図5】ウェスタンブロット法による組換え型LN6Bの発現解析。LN6B-HEKの培養液上清を3〜7.5%ゲル、非還元条件下でのSDS-PAGEによって分離し、α3、β1、γ1抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。
【図6】ヒト組換え型LN6Bの精製。精製したLN6Bを5%ゲル、還元条件下でのSDS-PAGEによって分離し、CBB染色およびLNα3B,β1,γ1抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った。CBB;Coomasie brilliant blue
【図7】ヒト組換え型LN6Bの細胞接着活性。
【図8】ヒト組換え型LN6Bの細胞分散活性。
【図9】ヒト皮膚組織の抗ラミニンα3B鎖抗体F7による免疫染色。α3B抗体による免疫染色。血管(矢印)と表皮(矢頭)の基底膜が染色されている。
【図10】ヒト皮膚組織の抗ラミニンα3A鎖BG5、抗ラミニンα3B鎖F7、抗ラミニンβ3鎖LE12C、抗ラミニンγ2鎖抗体D4B5による免疫染色。α3A鎖抗体は表皮基底膜(矢印)を特異的に染色したが、α3B鎖抗体は表皮基底膜(矢印)に加え、結合組織の微小血管の基底膜(矢印)を強く染色した。一方、β3鎖抗体とγ2鎖抗体は表皮基底膜(矢印)を強く染色したが、血管基底膜(星印の位置)を染色しなかった。
【図11】ラミニン6Bのヒト皮膚微小血管内皮細胞HMVECに対する増殖促進活性。ラミニン6B(LN6B)は、ヒトラミニン5B(LN5B)やマウスラミニン1(LN1)に比べてHMVEC細胞の増殖を強く促進した。None、非処理プレートでの増殖。
【配列表フリーテキスト】
【0054】
<配列番号1>
配列番号1は、ヒトラミニンα3B鎖の全長塩基配列を示す。配列番号1の塩基配列中、ファーストメチオニンコドンは1番目〜3番目であり、終止コドンは10000番目〜10002番目である。
<配列番号2>
配列番号2は、ヒトラミニンα3B鎖の全長アミノ酸配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、ヒトラミニンβ1鎖の全長塩基配列を示す。配列番号3の塩基配列中、ファーストメチオニンコドンは336番目〜338番目であり、終止コドンは5694番目〜5696番目である。
<配列番号4>
配列番号4は、ヒトラミニンβ1鎖の全長アミノ酸配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、ヒトラミニンγ1鎖の全長塩基配列を示す。配列番号5の塩基配列中、ファーストメチオニンコドンは300番目〜302番目であり、終止コドンは5127番目〜5129番目である。
<配列番号6>
配列番号6は、ヒトラミニンγ1鎖の全長アミノ酸配列を示す。
<配列番号7〜19>
配列番号7〜19は、ヒトラミニンβ1鎖cDNA発現ベクター作製に用いたプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号20〜32>
配列番号20〜32は、ヒトラミニンγ1鎖cDNA発現ベクター作製に用いたプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号33〜41>
配列番号33〜41は、ヒトラミニンγ1鎖Oligo作製に用いたプライマーの塩基配列を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミニン6B(ラミニン3B11)蛋白質に関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物がその生命を維持するためには、細胞が細胞外マトリックス(Extracellular Matrix; ECM)に接着することが必須である。接着性の細胞はECMとの接着が失われると、増殖が停止し、アポトーシスを起こす。つまりECMは、細胞と相互作用することで細胞の生存にかかわる重要な機能を調節している(非特許文献1)。ECMには、細胞から分泌される蛋白質や複合多糖など、一般に巨大で複雑な蛋白質が含まれている。ECM分子は主に基底膜に存在する基底膜型と、結合組織に存在する間質型の2つに大別される。また、ECM分子の特徴として、自己会合能を持つことが挙げられる。これにより、単独分子種で強度の強い繊維やシート状構造を作ることができる。さらに、分子内に多くの機能ドメイン構造を持つとともに、他の分子と結合するドメインを有するため、ECM分子間で強固なネットワーク構造を形成できる。
【0003】
上皮組織と結合組織との間に存在する基底膜には、IV型コラーゲン、パールカンなどのヘパラン硫酸プロテオグリカンおよびラミニンやナイドジェンなどの糖蛋白質が存在する。これらの基底膜分子は互いに複雑に結合し、網目状の広大なネットワークを形成している。
【0004】
ラミニンは、α鎖、β鎖、γ鎖の3つのサブユニットからなる一群の蛋白質ファミリーである。すべてのラミニンは、各構成鎖のC末端で結合してコイルドコイル構造を作り、ジスルフィド結合によって安定化したヘテロ三量体を形成している(非特許文献2及び3)。現在までに、5種類のα鎖、3種類のβ鎖、3種類のγ鎖が確認され、ラミニンとしては15種類のアイソフォームが確認されている(非特許文献4)。
【0005】
ラミニンのα鎖は、C末端領域に球状ドメイン(Globularドメイン、Gドメイン)が5つ(G1-5)存在し、細胞膜表面受容体であるインテグリンやシンデカン、α-ジストログリカンなどへの主要な結合部位となっている(非特許文献5)。一方、β鎖やγ鎖にはコラーゲンやヘパラン硫酸またはナイドジェンなど、他のECM分子との結合ドメインが存在することが明らかとなっている。
【0006】
ラミニンα3A鎖は、β3、γ2鎖と結合してラミニン5A(またはラミニン3A32)、またβ1、γ1鎖と結合してラミニン6A(またはラミニン3A11)を形成する(図1)(非特許文献4)。ラミニン5Aやラミニン6Aは組織中や培養系では様々な上皮細胞から分泌され、生体内では主に皮膚の基底膜に存在する(非特許文献3及び6)。ラミニン5Aのα3A鎖は、細胞外に分泌後、190 kDaから160 kDaもしくは145 kDaへとプロテアーゼによる切断(プロセシング)を受ける(非特許文献7)。その結果、ラミニン5Aの細胞に対する運動活性や接着活性が変化することが報告されている。また、その切断部位はG3ドメインとG4ドメインの間に存在することが報告されている。一方で、ラミニン6Aが持つα3鎖は、190 kDa型が主であることが明らかとなっている(非特許文献8)。
【0007】
生体内に存在するラミニン5A はラミニン6Aと複合体を形成して存在していることが知られている(非特許文献9)。さらに、このラミニン5A -6A複合体はラミニン6Aのβ1鎖およびγ1鎖のVIドメインを介して他のラミニンと相互作用することができる。また、γ1鎖とナイドジェンとの結合を介して、IV型コラーゲンのネットワークに組み込まれると考えられている(非特許文献10)。また、ラミニン5A -6A複合体におけるラミニン5Aのα3A鎖のGドメインはインテグリンα3β1もしくはα6β4と結合するが、ラミニン6Aのα3A鎖は結合しないと考えられている(非特許文献11)。このことからラミニン6Aは、上皮系組織の基底膜において、他のECM分子と結合し、ECM分子間のネットワーク形成を架橋する働きを持つと考えられる。したがって、ラミニン6Aをラミニン5Aや他のECM蛋白質と組み合わせることにより、表皮や他の上皮細胞を生体内に近い条件で細胞培養できる可能性が考えられる。
【0008】
ラミニンα3A鎖には、mRNAのスプライシングの違いによって、N末端領域が長いラミニンα3B鎖が存在することが知られていた。このラミニンα3B鎖はそのC末端領域にラミニンα3A鎖と共通のコイルドコイルドメイン(ドメインI/II)をもつため、β3、γ2鎖と結合してラミニン5B(またはラミニン3B32)、またβ1、γ1鎖と結合してラミニン6B(またはラミニン3B11)を形成すると予想されるが、これらの蛋白質の生体内での発現は知られていない(図1)。最近、ヒトのラミニンα3B鎖の全長cDNAがクローニングされ、ヒト胎児腎由来細胞株HEK293において組み換え型ラミニン5Bが作製された(非特許文献12)。ラミニン5Bはラミニン5Aよりも高い細胞接着活性や細胞運動活性を示す。
【0009】
【非特許文献1】Hood JD, Cheresh DA. (2002): Role of integrins in cell invasion and migration.Nat Rev Cancer.;2(2):91-100.
【非特許文献2】Colognato H, Yurchenco PD. (2000): Form and function: the laminin family of heterotrimers. Dev Dyn.; 218(2):213-34. Review.
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【非特許文献4】Aumailley, M., Bruckner-Tuderman, L., Carter, W. G., Deutzmann, R., Edgar, D., Ekblom, P., Engel, J., Engvall, E., Hohenester, E., Jones, J. C., Kleinman, H. K., Marinkovich, M. P., Martin, G. R., Mayer, U., Meneguzzi, G., Miner, J. H., Miyazaki, K., Patarroyo, M., Paulsson, M., Quaranta, V., Sanes, J. R., Sasaki, T., Sekiguchi, K., Sorokin, L. M., Talts, J. F., Tryggvason, K., Uitto, J., Virtanen, I., von der Mark, K., Wewer, U. M., Yamada, Y. and Yurchenco, P. D. (2005): A simplified laminin nomenclature. Matrix Biol. 24:326-332. Review.
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、細胞の接着、移動、生存などを支え、組織の構築に重要な働きをするラミニン分子の新種を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明らは、HEK293細胞に、ラミニンα3B、β1、γ1鎖のcDNAを導入することによって、初めてラミニン6Bを安定的に強制発現させる細胞系LN6B-HEKを確立した。この細胞が産生するラミニン6B蛋白質を精製し、このラミニンが細胞接着活性や細胞運動活性を示すことを明らかにした。また、ラミニン6Bが血管基底膜に局在し、血管内皮細胞の増殖を促進することを明らかにした。本発明ではまた、ラミニンα3B鎖の代わりにα3A鎖のcDNAをHEK293細胞に導入することにより従来の方法よりも約10倍量のラミニン6Aを発現させることに成功した。
【0012】
動物細胞が生存し、増殖するためには基質(足場)となる蛋白質が必要であり、この基質蛋白質は細胞の種類によって異なる。近年、再生医療の分野で様々な細胞を生体外で培養し、人体に移植利用することが考えられている。しかし、特に正常上皮細胞をシャーレの上で安定に培養することは困難であり、その要因の一つとして、適切な基質蛋白質が入手できないことが上げられる。
【0013】
これまで、細胞接着基質蛋白質としては、容易に調製できるフィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン1などが使用されてきたが、ラミニン6Bはその存在が知られてなく、当然使用されたことがない。ラミニン6Bはラミニン1(α1、β1、γ1鎖から構成される。)よりも高い細胞接着活性をしめす。構造、活性、組織分布の違いから、細胞培養においてラミニン6Bが既知の細胞接着分子と異なる特性をしめすことが期待される。
後述の実施例に示すように、ラミニン6Bは血管基底膜に局在し、血管内皮細胞の増殖を促進する。したがって、ラミニン6Bは血管内皮細胞や表皮細胞を安定的に培養するための接着基質として利用できる可能性がある。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)以下の(a)又は(b)の蛋白質。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するα3B鎖、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するβ1鎖、および配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するγ1鎖の各サブユニットから構成されるラミニン6B蛋白質。
(b) (a)の蛋白質において、配列番号2で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列、および配列番号6で示されるアミノ酸配列のすくなくとも1つのアミノ酸配列中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、かつラミニン6B蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質。
ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まなくてもよい。
【0015】
(2)以下の(i)、(ii)および(iii)のDNAで形質転換した宿主細胞。
(i)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するα3B鎖をコードするDNA
(ii)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するβ1鎖をコードするDNA
(iii)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するγ1鎖をコードするDNA
ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まなくてもよい。
【0016】
(3)宿主細胞がHEK細胞である(2)記載の細胞。
(4)(2)または(3)記載の細胞を培養することを含む、(1)記載の蛋白質の製造方法。
(5)(1)記載の蛋白質を含む組成物。
(6)細胞の培養基質、細胞増殖促進剤、血管新生剤、創傷治癒剤、神経再生剤又は移植基材として用いられる(5)記載の組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、新規なラミニン6B蛋白質が提供された。ラミニン6Bは細胞の接着や移動を促進することから、将来的に再生医療や細胞工学の分野で利用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
図1に、ラミニン5A、本発明のラミニン6B、ラミニン6Aの構造を示す。ラミニン6B蛋白質は、α3B鎖、β1鎖およびγ1鎖からなる。ラミニン5Aは、α3A鎖、β3鎖およびγ2鎖からなり、ラミニン6Aは、α3A鎖、β1鎖およびγ1鎖からなる。α3B鎖はα3A鎖の約2倍の大きさをもち、α3B鎖のC末端側約半分の構造はα3A鎖と共通である。α3B鎖とα3A鎖のC末端部分には球状(G)ドメインが存在し、それは5つのサブドメイン(またはモジュール)(G1〜G5)に分かれている。
【0019】
α3B鎖はαA鎖のN末端側に3つの球状ドメイン(N末端側からドメインLN、L4a、L4b)と2つのEGF様ドメイン(N末端側からドメインLEa、LEb)が付加された構造をもつ。これらのドメインはインテグリンへの結合や、自己あるいは他のラミニンとの会合に寄与すると考えられている。α3B鎖の全体的な構造は他の長鎖型α鎖である、α1、α2、α5鎖に類似する。
【0020】
本発明のラミニン6B蛋白質は組換えDNA技術を用いて各サブユニットを発現させることにより製造することができる。本発明のラミニン6Bの各サブユニットをコードするcDNAは、配列番号1、3または5の塩基配列に基づいてプライマーを設計し、適当なcDNAライブラリーをテンプレートとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により目的とする配列を増幅することにより製造することができる。このようなPCR手法は当該技術分野においてよく知られており、例えば、”PCR Protocols,A Guide to Methods and Applications”,Academic Press,Michael,et al.,eds.,1990に記載されている。
【0021】
ラミニン6Bの各鎖遺伝子をコードするDNAを適当な発現ベクターに中に組み込み、これを宿主細胞(例えば、真核生物又は原核生物細胞など)に導入して、それぞれの鎖を発現させることにより所望の蛋白質を得ることができる。本発明の蛋白質を発現させるために用いることができる宿主細胞の例としては、限定されないが、大腸菌、枯草菌等の原核生物宿主、および酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核生物宿主が挙げられる。宿主として有用な哺乳動物細胞には、胃がん細胞株、例えばSTKM−1やMKN−45、繊維肉腫細胞株、例えばHT1080、胎児腎由来細胞株、例えばHEK293や浮遊型HEK293F細胞、HeLa細胞、線維芽細胞由来の細胞、例えばVEROまたはCHO−K1、またはリンパ球由来の細胞、およびこれらの誘導体が含まれる。好ましい哺乳動物宿主細胞には、ヒト腎由来細胞株、例えばHEK293や浮遊型HEK293F細胞、線維芽細胞由来の細胞、例えばVEROまたはCHO−K1が含まれる。さらに、植物細胞および昆虫細胞、例えばショウジョウバエの細胞もまた宿主として利用可能である。
【0022】
ベクターとは、細胞にトランスフェクトすることができ、細胞ゲノム中でまたはそれとは独立に複製しうる一本鎖または二本鎖の核酸分子を表す。発現ベクターは、DNAの発現を駆動するプロモーター領域を含み、さらに転写および翻訳の制御配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列、3’非コード領域、エンハンサー等を含んでいてもよい。プロモーターの例としては、原核生物宿主中で用いる場合には、blaプロモーター、catプロモーター、lacZプロモーター、真核生物宿主中で用いる場合には、マウスメタロチオネインI遺伝子配列のプロモーター、ヘルペスウイルスのTKプロモーター、SV40初期プロモーター、酵母解糖系酵素遺伝子配列プロモーター等が挙げられる。ベクターの例には、限定されないが、pBR322、pUC118、pUC119、λgtl0、λgt11、pMAM−neo、pKRC、BPV、ワクチニア、SV40、2−ミクロン等が含まれる。
【0023】
発現ベクターは、これを含有する宿主細胞を選択することができるように、1またはそれ以上のマーカーを有することが好ましい。マーカーとしては、栄養要求性宿主に対する栄養、抗生物質耐性(例えばアンピシリン、テトラサイクリン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、ゼオシン等)、または重金属耐性(例えば銅)を与えるものを用いることができる。
さらに、シグナル配列を用いて本発明の蛋白質を分泌発現させるように、あるいは、本発明の蛋白質を別の蛋白質との融合蛋白質の形で発現させるように、ベクターを構築することができる。融合蛋白質を用いることにより、蛋白質の安定性を改良し、または精製を容易にすることができる。そのような発現ベクターの構築は当該技術分野においてよく知られている。
【0024】
ラミニン6Bの各鎖をコードするDNAは、一つの発現ベクター内に組み込んで発現させてもよく、または別個の発現ベクターに組み込んで、これらのベクターを同じ細胞にトランスフェクトして発現させてもよい。α3B鎖、β1鎖およびγ1鎖の各サブユニットはいずれも非常に大きなポリペプチドであるため、好ましくは後者の方法を用いる。
【0025】
本発明のラミニン6Bを発現するよう構築したベクターは、トランスフォーメーション、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈澱、直接マイクロインジェクション等により、適当な宿主細胞中に導入することができる。ベクターを含む細胞を適当な培地中で成長させて本発明の蛋白質を産生させ、細胞または培地から所望の組換え蛋白質を回収し、精製することにより、本発明ラミニン6B蛋白質を得ることができる。精製は、イオン交換クロマトグラフィー、ヘパリンアフィニティークロマトグラフィー、および免疫アフィニティークロマトグラフィー等を用いて行うことができる。
【0026】
本発明のラミニン6Bの各鎖は、対応する配列番号で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(1又は2個以上、好ましくは、2個以上30個以下、より好ましくは2個以上10個以下)のアミノ酸が欠失、付加または置換されているアミノ酸配列を有するものであってもよい。ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まない蛋白質も本蛋白質に含まれる。このような天然の蛋白質と相同の蛋白質も本願発明の範囲内である。
アミノ酸の保存的変更を行って、元の機能を保持している蛋白質またはポリペプチドを得ることができることは、当該技術分野においてよく知られている。そのような置換には、アミノ酸を類似の物理化学的特性を有する残基で置き換えること、例えば、1つの脂肪族残基(Ile、Val、LeuまたはAla)を別のもので、または塩基性残基LysとArg、酸性残基GluとAsp、アミド残基GlnとAsn、ヒドロキシル残基SerとTyr、または芳香族残基PheとTyrとの間で置き換えることが含まれる。
【0027】
また、配列番号2、4または6に記載されるアミノ酸配列と、少なくとも50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有し、かつラミニン6B蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質も本願発明の範囲内である。同一性は、同一である残基の数を、既知の配列または既知の配列のドメイン中の残基の総数で割り、100を乗ずることにより計算する。標準的なパラメータを用いて配列の同一性を決定するためのいくつかのコンピュータプログラム、例えば、Gapped BLASTまたはPSI−BLAST(Altschul,et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389−3402)、BLAST(Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−410)、およびスミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)(Smith,et al.(1981)J.Mol.Biol.147:195−197)が利用可能である。好ましくは、これらのプログラムのデフォルト設定を用いるが、所望によりこれらの設定を変更してもよい。
【0028】
ラミニン6B蛋白質の生物学的活性としては、細胞接着活性、細胞運動活性、細胞増殖活性などが挙げられる。特に血管内皮細胞の増殖に適した培養基質となる。
また、本発明のラミニン6Bを構成する各鎖の一部が欠失している蛋白質も本願発明の範囲内である。例えば、本発明のラミニン6Bのα3B鎖は、プロテアーゼによってG4およびG5が切断除去されるが、ラミニン6Bとしての活性を有する限り、切断型または非切断型を問わず本発明の範囲内にある。
【0029】
さらに、ヒト以外の種の生物に由来する、ヒトラミニン6Bと同様の活性を有する蛋白質も本発明の範囲内である。このような蛋白質をコードする遺伝子は、配列番号1、3または5に示される配列を有するポリヌクレオチドまたはそのフラグメントをプローブまたはプライマーとして用いて、ハイブリダイゼーションまたはPCR等の手法を用いて容易に単離することができる。このようにして得られる相同遺伝子は、配列番号1、3または5に記載の塩基配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する。あるいは、相同遺伝子は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1、3または5に記載の塩基配列を有する遺伝子とハイブリダイズすることができる。
【0030】
ハイブリダイズとの用語は、DNAまたはこれに対応するRNAが、溶液中でまたは固体支持体上で、別のDNAまたはRNA分子と水素結合相互作用により結合することを意味する。このような相互作用の強さは、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーを変化させることにより評価することができる。所望の特異性および選択性によって、種々のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を用いることができ、ストリンジェンシーは、塩濃度または変性剤の濃度を変化させることにより調節することができる。そのようなストリンジェンシーの調節方法は当該技術分野においてよく知られており、例えば、"Molecular Cloning:A Laboratory Manual",第2版.Cold Spring Harbor Laboratory,Sambrook,Fritsch,&Maniatis,eds.,1989)に記載されている。
【0031】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、50%ホルムアミドの存在下で、700mMのNaCl中42℃、またはこれと同等の条件をいう。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の一例は、50%ホルムアミド、5XSSC、50mMNaH2PO4、pH6.8、0.5%SDS、0.1mg/mL超音波処理サケ精子DNA、および5Xデンハルト溶液中で42℃で一夜のハイブリダイゼーション;2XSSC、0.1%SDSで45℃での洗浄;および0.2XSSC、0.1%SDSで45℃での洗浄である。
【0032】
本発明のラミニン6B蛋白質は、細胞接着活性、細胞運動活性、細胞増殖活性などを有する。ラミニン6Bの細胞接着活性は、プレートに本発明のラミニン6Bをコーティングし、このプレートに適当な細胞を播種し、所定時間インキュベートした後に接着した細胞の数を測定することによりアッセイすることができる。細胞運動促進活性は、プレートに本発明のラミニン6Bをコーティングし、このプレート上に適当な細胞を播種し、所定時間経過後に細胞の分散の程度を測定することによりアッセイすることができる。また、細胞の運動の様子をビデオにて撮影し、画像解析により細胞運動の速度を求めてもよい。細胞増殖活性は、ラミニン6Bをコーティングしたプレートに適当な細胞、例えば血管内皮細胞、を播種して数日間培養し、増殖した細胞を計数することにより測定することができる。
【0033】
本発明のラミニン6B蛋白質を細胞の培養基質又は細胞増殖促進剤として用いる場合には、ラミニン6Bを細胞の培養液中に添加するか、または培養プレートもしくは培養シート上に塗布または固定化することにより使用することができる。あるいは、培養プレートもしくは培養シート上で増殖させたフィーダー細胞上に塗布してもよい。殆どの動物細胞は生存条件として培養器表面に接着することが必須であり、さらに増殖因子の刺激を受けて分裂する。ラミニン6Bは細胞接着活性をもつことから、多様な細胞の増殖促進剤として有効である。例えば、皮膚、肝臓、膵臓、軟骨、神経、血管などにおける正常細胞やがん細胞、各組織の幹細胞、胚性幹(ES)細胞などの培養に使用できる。一方、本発明のラミニン6Bを薬学的に許容される担体とともに外用製剤として処方して、皮膚、粘膜等の表面に塗布してもよい。本発明のラミニン6B蛋白質は、軟膏、皮膚パッチ、移植用培養細胞シート、人工マトリクスなどの形態で、創傷治療用製剤として用いることができる。また、ラミニン6Bの高い細胞接着効果を利用して、生体組織に埋め込む種々の医療インプラントの塗布剤として用いることができる。さらに、血管新生剤、神経再生剤などとしても用いることができる。
【0034】
限定されるわけではないが、本発明の組成物は、in vitroまたはex vivoで使用する場合、好ましくは0.01μg/mlないし20μg/mlの濃度で用いることができる。本発明の組成物を医薬用組成物として用いる場合には、薬学的に受容可能な担体との混合物中に、治療上有効な量のラミニン6Bを含む。本発明の組成物は、全身的にまたは局所的に、好ましくは静脈内、皮下内、筋肉内に非経口的に投与し得る。非経口的に投与可能なラミニン溶液の調剤は、pH、等張性、安全性等を考慮し、当業者の技術的範囲内において行い得る。
本発明の組成物の用量用法は、薬剤の作用、例えば、患者の症状の性質及び/若しくは重度、体重、性別、食餌、投与の時間、並びに他の臨床的作用を左右する種々の因子を考慮し、診察する医師により決定され得る。当業者は、これらの要素に基づき、本発明の組成物の用量を決定することができる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【0036】
〔実施例1〕ラミニン6Bの発現系の作製と精製ラミニン6Bの性質
細胞培養
ヒト胎児腎由来細胞株HEK293は、American Type Culture Collection (ATCC, CRL-1573)(Rockville, MD)より購入した。培養はDalbecco’s modified essential medium(DMEM)/Ham’s F12(1:1)(Invitrogen, Carlsbad, CA)に 10%仔牛胎児血清(FCS; JRH Biosciences, Lenexa, KS)、100 U/mlペニシリンG(明治製菓, 東京)、0.1 mg/mlストレプトマイシン(明治製菓)を添加した培地(10% FCS入り DMEM/F12)を用いて37 ℃、5% CO2存在下でおこなった。
【0037】
抗体とその他の材料
ラミニンα3B鎖に対するマウスモノクローナル抗体(F7)、α3A鎖に対するマウスモノクローナル抗体(BG5)(α3B鎖にも弱く反応する)は当研究室で作製した。ラミニンγ2鎖に対するマウスモノクローナル抗体(D4B5)(Mizushima, H. et al., Horm. Res. 50 Suppl. 2: 7-14, 1998)とラミニンβ3鎖に対するマウスモノクローナル抗体(LE8A、LE12C)(Nakashima, Y. et al., J. Biochem. 138:539-552, 2005)は当研究室で作製したものを使用した。LE8Aはウェスタンブロッティング用、また LE12Cは免疫染色用に使用した。ラミニンβ1鎖に対するラットモノクローナル抗体(LT3)とラミニンγ1鎖に対するマウスモノクローナル抗体(2E8)はChemicon International社(Temecula, CA、USA)より購入した。
【0038】
cDNA発現ベクターの作製
ヒトラミニンα3B鎖発現ベクター(LNα3BpcDNA3.1 Hygro(+))はWO2004/108927の実施例1に記載のように作製された(非特許文献12)。このα3B鎖発現ベクターは8,832bpのcDNA(配列番号1の塩基配列の1番目〜8832番目)を含み、N末端側から2,944個のアミノ酸配列をコードする。ただし、この配列にはLG4−5ドメイン(図1)(配列番号2のアミノ酸配列の2945番目〜3333番目)は含まれない。β1鎖(全長5,361 bp)およびγ1鎖(全長4,830 bp)cDNAは以下のように作製した。β1鎖、γ1鎖を、それぞれ4つの断片(β1-1〜4およびγ1-1〜4)に分けるようにプライマーを設計し、ヒト肺cDNAライブラリーよりPolymerase Chain Reaction(PCR)法を用いて各断片を増幅した。使用したプライマーと作製したプラスミドの組み合わせは表1に示す。その際、発現ベクターに組み込むため、β1-1の5’末端にKpn Iサイト、β1-4の3’末端にEcoR Vサイトを、γ1-1の5’末端にBamH Iサイト、γ1-4の3’末端にXba Iサイトをそれぞれ付加した。増幅断片はpGEM(登録商標)T-Easy ベクター(Promega, Madison, WI)に組み込み、DNAシークエンサーを用いて塩基配列を決定した。決定した配列を既知のβ1鎖(GenBankTM accession no. M61916)およびγ1鎖(GenBankTM accession no. J03202)の塩基配列と比較し、変異の有無を確認した。アミノ酸置換を伴う変異が認められた塩基については、点変異導入法や制限酵素によるつなぎ換えによって正しい塩基配列への修正をおこなった。
【0039】
点変異導入法による塩基配列の修正にはPCRを用いた方法でおこなった(今井 嘉紀 (1999): ワンデイミュータジェネシス)。その際、修正した塩基を含むプライマー(表1,2,3)を互いに背中合わせに接するように設計した。
【表1】
表1のプライマー1〜13の塩基配列をそれぞれ配列番号7〜19に示す。
【表2】
表2のプライマー1〜13の塩基配列をそれぞれ配列番号20〜32に示す。
【表3】
表3のプライマー1〜9の塩基配列をそれぞれ配列番号33〜41に示す。
【0040】
塩基配列が正しいことが確認された各断片を、図2及び3に示したように制限酵素サイトを利用して結合し、ヒトラミニンβ1鎖cDNA全長(β1full/pBS)およびヒトラミニンγ1鎖cDNA全長(γ1full/T-Easy)を作製した。β1full/pBSよりKpn IとEcoR Vで、γ1full/T-EasyよりBamH IとXba Iで切り出されたβ1、γ1鎖cDNAを、それぞれpcDNA3.1/Zeo(+)(Invitrogen社)あるいはpcDNA3 (Invitrogen社)発現ベクターの相当する酵素サイトに組み込みこんだ。
また、細胞に導入するcDNA発現ベクターはQIAGEN(登録商標)Plasmid Midi Kit (QIAGEN, Valencia, CA)で精製した。
【0041】
接着型HEK293細胞を用いたヒト組換え型LN6B安定発現細胞株の構築(図4)
ヒト胎児腎由来細胞株HEK293にリポフェクション法を用いてγ1鎖cDNA発現ベクターを導入した。導入後、耐性薬剤であるG418で選択を行い、さらに細胞をクローン化した。これらのクローンから回収した培養液上清内のγ1鎖の分泌量をウェスタンブロッティング法により分析し、発現量が最も高いクローンを選択し、このクローンをγ1-HEKとした。次に、このγ1-HEK細胞にβ1鎖cDNA発現ベクターを導入し、耐性薬剤であるzeocinで選択を行い、さらに細胞をクローン化した。これらのクローンから回収した培養液上清内のβ1鎖の分泌量を分析し、発現量が最も高いクローンををβ1・γ1-HEKとした。さらに、β1・γ1-HEKにα3B鎖cDNA発現ベクター(WO2004/108927の実施例1に記載のLNα3BpcDNA3.1 Hygro(+))(非特許文献12)を導入し、hygromycinで選択をおこない、さらに細胞をクローン化した。これらのクローンから回収した培養液上清内のLN6Bの発現量を各構成鎖の抗体を用いたウェスタンブロッティングにより解析した結果、安定してLN6Bを発現するクローンを得ることができた(図5)。このクローンを細胞株LN6B-HEKとし、以下の実験に用いた。
【0042】
なお本発明において、α3B鎖cDNAの代わりにα3A鎖cDNAを発現ベクターに組み込み、上記と同様の操作を行うことにより、ラミニン6Aの発現系も樹立することができた。HEK293細胞でラミニン6Aを発現させた場合、以前に樹立したHT1080系でのラミニン6Aの発現系(非特許文献8)と比較して、発現量が10倍以上になった。
【0043】
ヒト組換え型LN6Bの精製
LN6B-HEKからラミニン6Bを精製するため、細胞を無血清培養液中で培養し、回収した培養液上清1.5 lをQ Sepharose CL-4B陰イオン交換カラム (10 ml)(Amersham社、Piscataway, NJ, USA)に供した。カラムに吸着した蛋白質を0.5M NaClで溶出した。その後、このラミニン6Bを含む 画分を抗α3B抗体(F7)結合Sepharoseカラム(2 ml)に供し、吸着したラミニン6Bを0.05%三フッ化酢酸(TFA)で溶出した。溶出後直ちに、溶出液1ml当たり20 mM Tris-HCl (pH 8.0)の20μlを混合し、中和した。各フラクションを還元条件のSDS電気泳動で分離し、CBB色素染色およびウェスタングロッティングを行って各構成鎖の発現を分析した。その結果、ラミニン6Bの構成鎖であるα3B、β1、γ1鎖に相当する分子量のバンドを検出した(図6)。蛋白質定量の結果、培養液上清1.5 lあたり約350μgのラミニン6Bを精製することができた。
【0044】
ヒト組換え型ラミニン6Bの細胞接着活性の測定
精製したラミニン6B (LN6B)を用いて、既報の方法により細胞の接着活性を調べた(非特許文献13)。活性の測定にはラミニンに対して応答性が高い、ラット肝由来の上皮系細胞であるBRL細胞(California 大学San Diego校 Gordon H. Sato教授(現在は退職)の供与による)を用いた。比較対象として同じα3B鎖を持ち、β、γ鎖が異なるヒトラミニン5B( LN5B)(非特許文献12の方法により作製)、β1、γ1鎖を持ちα鎖が異なるラミニン1(LN1)(マウスEHSラミニン;Chemicon International社)を用いた。 ELISA用96穴プレート(Coster社, Cambridge, MA、USA)に各ラミニンを指定の濃度でコートし、さらに1%牛血清アルブミンでブロッキング処理した。このプレートに無血清DME/F12培地に分散させたBRL細胞(2 × 104 細胞/ウェル)を播種し、37℃で1時間インキュベートした。非接着細胞を除いた後、接着細胞を蛍光色素(Hoechst 33342)で染色し、蛍光強度を測定した(図7)。その結果、ラミニン5Bが最も高い細胞接着活性を示し、ラミニン6B はラミニン5B とラミニン1のほぼ中間の活性を示した。この結果から、精製したラミニン6Bはラミニン1に比べて約2倍、ラミニン5Bと比べて約2分の1の接着活性を持っていることが明らかになった。
【0045】
ヒト組換え型ラミニン6Bの細胞分散活性の測定
精製したヒトラミニン6B (LN6B)の細胞運動活性を細胞分散活性として測定した。細胞分散活性はBRL細胞を用いて既報の方法により行った(非特許文献12)。図7の実施例と同様な方法で、ラミニン6B、ヒトラミニン5B( LN5B)、マウスラミニン1(LN1)を細胞培養用24穴プレートに指定の濃度でコートした。このプレートに1% FCS含有DME/F12培地に分散させたBRL細胞(7,000細胞/ウェル)を播種し、37℃で40時間インキュベートした。顕微鏡下の異なる3つの視野で、互いに接着せず、分散して存在する細胞の割合を求めた。その結果、ラミニン5Bのみが高い細胞分散活性を示した。ラミニン6Bはラミニン1よりもやや高い細胞分散活性を示した(図8)。
【0046】
〔実施例2〕ラミニン6Bの血管での発現と機能
ヒトラミニン6Bの組織分布
ラミニンα3B鎖に対するmRNAは皮膚、肺など、広い組織で発現することが知られているが、蛋白質の同定は行われていない。そこで、ヒトラミニンα3B鎖に対する特異的マウスモノクローナル抗体(F7)を作製し、ヒト皮膚での免疫組織染色を行った。フォルマリン固定パラフィン切片はBioChain社(和光純薬、大阪)から購入したものを使用し、免疫組織染色は既報の方法に準じて行った(Kagesato, Y. et al., Jpn. J. Cancer Res. 92:184-192, 2001)。その結果、ラミニンα3B蛋白質のシグナルは、表皮基底膜に加え、結合組織の微小血管の基底膜(矢印)に強く検出された(図9)。
【0047】
上記のラミニンα3B鎖の分布がラミニン6Bかラミニン5Bによるものか明らかにするために、抗α3A鎖抗体BG5(α3B鎖にも弱く反応)、α3B鎖特異的抗体F7、β3鎖特異的抗体LE12C、γ2鎖特異的抗体D4B5を用いてヒト皮膚組織切片の免疫組織染色を行った(図10)。その結果、抗α3A鎖抗体BG5は表皮基底膜(矢印)を特異的に染色したが、α3B鎖特異的抗体は表皮基底膜(矢印)に加え、結合組織の微小血管の基底膜(矢印)を強く染色した。一方、β3鎖特異的抗体LE12Cとγ2鎖特異的抗体D4B5は表皮基底膜(矢印)を強く染色したが、血管基底膜(星印の位置)を染色しなかった。以上の結果から、表皮基底膜にはラミニンα3A鎖、α3B鎖、β3鎖、γ2鎖が存在するが、血管基底膜にはα3B鎖のみが存在することが分かった。同様な分布は、食道、乳腺、肺などでも見られた。血管の基底膜には、β1鎖、γ1鎖をもつラミニン8(α4β1γ1;ラミニン411)やラミニン10(α5β1γ1;ラミニン511)が主要な成分として存在することが知られている(Iivanainen, A. et al., J. Biol. Biochem. 272: 27862-27878, 1997)。従って、血管基底膜に存在するラミニンα3B鎖は、ラミニン5B(α3Bβ3γ2)ではなく、ラミニン6B(α3Bβ1γ1)として存在するものと考えられる。一方、表皮基底膜においては、β3鎖、γ2鎖が存在することから主にラミニン5Bとして存在するものと考えられる。また、ラミニンα3B鎖の広い組織分布はラミニン6Bの血管による発現によるものと考えられる。
【0048】
ヒト組換え型ラミニン6Bの微小血管内皮細胞に対する増殖促進活性の測定
皮膚の微小血管の基底膜にラミニン6Bが存在することが明らかになったことから、微小血管内皮細胞の増殖に対するラミニン6Bの影響を調べた。ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)と増殖培地(HuMedia-MvG)はクラボウ社(大阪)から購入した。精製ラミニン6B(LN6B)、ヒトラミニン5B(LN5B)、マウスラミニン1(LN1)を細胞培養用24穴プレートに2 μg/mlの濃度でコートした。牛血清アルブミンによるブロッキングは行わなかった。このプレートに5% FCS含有HuMedia-MvG培地に分散させたHMVEC細胞(5,000細胞/ウェル)を播種し、37℃で4日間培養した後、細胞数を計測した。図11に示すように、ラミニン5Bとラミニン1では、非処理プレート(None)と比べて増殖促進効果が見られなかったが、ラミニン6Bコートプレートは高い増殖促進効果を示した。この結果から、ラミニン6Bが微小血管内皮細胞に対して高い増殖促進活性を示すことが明らかになった。
【0049】
考察
本実施例1において、HEK293細胞にラミニン6Bの各サブユニットのcDNAを導入し、薬剤による選択を行うことにより、ヒト組換え型ラミニン6Bを安定して高度に発現する細胞株LN6B-HEKを樹立することができた。さらに、この細胞を大量に培養し、その培養液上清から安定してラミニン6Bを精製する系を確立することができた。これまでに、ラミニン6Bのin vivoおよびin vitroでの発現の報告はない。
【0050】
今後、今回確立した発現細胞と精製操作を用いて、簡便にヒト組換え型ラミニン6Bを得ることができる。また、今回精製を行ったラミニン6Bはラット肝由来BRL細胞に対して、ラミニン1の約2倍、ラミニン5Bの約2分の1の接着活性をもち、またラミニン5Bに比べて非常に低い細胞分散活性を示すことが明らかになった。このことから、同じラミニンα3B鎖をもっているが、ラミニン6Bとラミニン5Bは互いに異なる性質をもつと考えられる。細胞の増殖や分化に及ぼす影響は、細胞接着活性や細胞運動活性と直接相関するわけではなく、細胞の種類によって異なる。従って、ラミニン6Bとラミニン5Bは多様な細胞の培養基質として補完的に使用できるものと考えられる。
【0051】
実施例2で示すように、ラミニン5Bは皮膚、食道、肺、乳腺などの上皮基底膜に存在し、一方、ラミニン6Bは血管基底膜に広く存在することが明らかになった。実際、ラミニン6Bは微小血管内皮細胞に対して、ラミニン1やラミニン5Bに比べても高い細胞増殖促進活性をもつことが明らかになった。このような性質は、ラミニン6Bが血管内皮細胞を効率よく培養するための培養基質として役立つことを意味する。またこれらの結果から、ラミニン6Bが心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、創傷治癒などにおける血管新生促進剤として役立つ可能性が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
ラミニン6Bは細胞の接着や移動を促進することから、将来的に再生医療や細胞工学の分野で利用できる可能性がある。実施例2に示すように、ラミニン6Bが血管の基底膜に存在し、血管内皮細の増殖を促進することが明らかになった。したがって、ラミニン6Bは血管内皮細胞や他の細胞を安定的に培養するための接着基質として利用でき、また循環器不全などにおける血管新生促進剤として利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のラミニン6Bの構造をラミニン5A及び6Aの構造とともに示す。
【図2】β1鎖発現ベクターの作製。
【図3】β1鎖発現ベクターの作製。
【図4】遺伝子組換えラミニン6Bの大量発現系の構築。ラミニン6Bの構成鎖であるα3B鎖、β1鎖、γ1鎖全てを外来性遺伝子としてHEK293細胞に導入し、発現させる。
【図5】ウェスタンブロット法による組換え型LN6Bの発現解析。LN6B-HEKの培養液上清を3〜7.5%ゲル、非還元条件下でのSDS-PAGEによって分離し、α3、β1、γ1抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。
【図6】ヒト組換え型LN6Bの精製。精製したLN6Bを5%ゲル、還元条件下でのSDS-PAGEによって分離し、CBB染色およびLNα3B,β1,γ1抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った。CBB;Coomasie brilliant blue
【図7】ヒト組換え型LN6Bの細胞接着活性。
【図8】ヒト組換え型LN6Bの細胞分散活性。
【図9】ヒト皮膚組織の抗ラミニンα3B鎖抗体F7による免疫染色。α3B抗体による免疫染色。血管(矢印)と表皮(矢頭)の基底膜が染色されている。
【図10】ヒト皮膚組織の抗ラミニンα3A鎖BG5、抗ラミニンα3B鎖F7、抗ラミニンβ3鎖LE12C、抗ラミニンγ2鎖抗体D4B5による免疫染色。α3A鎖抗体は表皮基底膜(矢印)を特異的に染色したが、α3B鎖抗体は表皮基底膜(矢印)に加え、結合組織の微小血管の基底膜(矢印)を強く染色した。一方、β3鎖抗体とγ2鎖抗体は表皮基底膜(矢印)を強く染色したが、血管基底膜(星印の位置)を染色しなかった。
【図11】ラミニン6Bのヒト皮膚微小血管内皮細胞HMVECに対する増殖促進活性。ラミニン6B(LN6B)は、ヒトラミニン5B(LN5B)やマウスラミニン1(LN1)に比べてHMVEC細胞の増殖を強く促進した。None、非処理プレートでの増殖。
【配列表フリーテキスト】
【0054】
<配列番号1>
配列番号1は、ヒトラミニンα3B鎖の全長塩基配列を示す。配列番号1の塩基配列中、ファーストメチオニンコドンは1番目〜3番目であり、終止コドンは10000番目〜10002番目である。
<配列番号2>
配列番号2は、ヒトラミニンα3B鎖の全長アミノ酸配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、ヒトラミニンβ1鎖の全長塩基配列を示す。配列番号3の塩基配列中、ファーストメチオニンコドンは336番目〜338番目であり、終止コドンは5694番目〜5696番目である。
<配列番号4>
配列番号4は、ヒトラミニンβ1鎖の全長アミノ酸配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、ヒトラミニンγ1鎖の全長塩基配列を示す。配列番号5の塩基配列中、ファーストメチオニンコドンは300番目〜302番目であり、終止コドンは5127番目〜5129番目である。
<配列番号6>
配列番号6は、ヒトラミニンγ1鎖の全長アミノ酸配列を示す。
<配列番号7〜19>
配列番号7〜19は、ヒトラミニンβ1鎖cDNA発現ベクター作製に用いたプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号20〜32>
配列番号20〜32は、ヒトラミニンγ1鎖cDNA発現ベクター作製に用いたプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号33〜41>
配列番号33〜41は、ヒトラミニンγ1鎖Oligo作製に用いたプライマーの塩基配列を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)の蛋白質。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するα3B鎖、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するβ1鎖、および配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するγ1鎖の各サブユニットから構成されるラミニン6B蛋白質
(b) (a)の蛋白質において、配列番号2で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列、および配列番号6で示されるアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸配列中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、かつラミニン6B蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質
ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まなくてもよい。
【請求項2】
以下の(i)、(ii)および(iii)のDNAで形質転換した宿主細胞。
(i)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するα3B鎖をコードするDNA
(ii)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するβ1鎖をコードするDNA
(iii)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するγ1鎖をコードするDNA
ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まなくてもよい。
【請求項3】
宿主細胞がHEK細胞である請求項2記載の細胞。
【請求項4】
請求項2または3記載の細胞を培養することを含む、請求項1記載の蛋白質の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の蛋白質を含む組成物。
【請求項6】
細胞の培養基質、細胞増殖促進剤、血管新生剤、創傷治癒剤、神経再生剤又は移植基材として用いられる請求項5記載の組成物。
【請求項1】
以下の(a)又は(b)の蛋白質。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するα3B鎖、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するβ1鎖、および配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するγ1鎖の各サブユニットから構成されるラミニン6B蛋白質
(b) (a)の蛋白質において、配列番号2で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列、および配列番号6で示されるアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸配列中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、かつラミニン6B蛋白質の生物学的活性を有する蛋白質
ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まなくてもよい。
【請求項2】
以下の(i)、(ii)および(iii)のDNAで形質転換した宿主細胞。
(i)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するα3B鎖をコードするDNA
(ii)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するβ1鎖をコードするDNA
(iii)1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するγ1鎖をコードするDNA
ただし、α3B鎖に関しては、C末端側に存在するLG4−5ドメイン(配列番号2の8833番目から10002番目のアミノ酸配列)を含まなくてもよい。
【請求項3】
宿主細胞がHEK細胞である請求項2記載の細胞。
【請求項4】
請求項2または3記載の細胞を培養することを含む、請求項1記載の蛋白質の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の蛋白質を含む組成物。
【請求項6】
細胞の培養基質、細胞増殖促進剤、血管新生剤、創傷治癒剤、神経再生剤又は移植基材として用いられる請求項5記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−189640(P2008−189640A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28897(P2007−28897)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「平成18年度 横浜市立大学大学院 総合理学研究科 国際総合科学研究科理学専攻 修士論文発表会 要旨集」に発表
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「平成18年度 横浜市立大学大学院 総合理学研究科 国際総合科学研究科理学専攻 修士論文発表会 要旨集」に発表
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】
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