説明

ラミネート加工用水性インクジェット記録用インク及び積層体の製造方法

【課題】 吐出性が良好で食品用の包装材料用インクとしての画像を形成でき、巻き取りの過程でブロッキング現象が生じにくく、且つラミネート適性に優れたラミネート加工用水性インクジェット記録用インクを提供する。
【解決手段】 (a)顔料、(b)水性樹脂を含有するラミネート加工用水性インクジェット記録用インクであって、前記(b)水性樹脂は、ヒドラジン誘導体からなる鎖伸長剤を反応させる工程を経て製造された水性ポリウレタン樹脂(b−1)と、カルボニル基またはアミド基含有アクリル系共重合体(b−2)とを含む水性樹脂であるラミネート加工用水性インクジェット記録用インク、及び前記ラミネート加工用水性インクジェット記録用インクを用いた積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性インクジェット記録用インクに関し、具体的には食品等の包装材料用のラミネート加工用インキとして使用可能なラミネート加工用水性インクジェット記録用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンター記録装置による印刷は、ノズルよりインクを噴射し被記録材に付着せしめる方式であり、従来の印刷と異なり版を使用しない印刷方式であることから、近年需要が高まっている少量多品種に対応できるオンデマンド印刷方式として、需要が拡大している。
【0003】
このような少量多品種の需要の高い用途の1つに、食品や飲料等の包装に使用される包装材料がある。通常包装材料は、非吸収基材であるプラスチックフィルムを使用しており、該プラスチックフィルムの表面に直接印刷してある包装材料と、商品保護や各種機能を有する外層となるプラスチックフィルムの裏面に印刷した後、該印刷層の上に接着剤を塗布し、ヒートシールできるシーラントフィルムを貼り合わせたラミネート加工された包装材料とがある。後者の包装材料は、プラスチックフィルムの光沢性を活かし且つインクの耐傷性を防止できるといった美観に優れる他、流通、冷蔵等の保存や加熱殺菌などの処理等から内容物を保護するための強度や割れにくさ、耐レトルト性、耐熱性といった機能等を、複数のフィルムを組み併せることで付与できることから、現在の主流となっている。
【0004】
このなかで、ラミネート加工は通常ロールツウロール方式で行われている。この場合、印字後のフィルムは、乾燥後一端巻き取られた後、再度接着剤塗工工程で巻き出しを行う。この時、フィルムの印字面と裏面とが接触した状態で圧力がかかるため、印字面が裏面と貼りつく、いわゆるブロッキング現象が生じることがある。
またラミネート加工された包装材料は、特にラミネート適性が重視される。ラミネート強度が不十分であると、食品を充填した後にパッケージの積層剥離やヒートシール部分から破袋するおそれがある。
【0005】
従来、食品用の包装材料の印刷インキとしてはグラビアインキが使用されていた。グラビアインキの場合、前記ブロッキング性に対しては、粒子径が数μm程度のポリエチレン系ワックスや無機系微粒子を添加させて、インク皮膜の表面に浮いた粒子の効果によりブロッキング現象を防止する処方がとられる。しかしながらインクジェット方式においては、インクを吐出するノズルの口径が小さく十分な効果を得ることができない。
またラミネート適性に対しては、例えば、ヒドラジン残基を分子内に有し、ヒドラジン残基と反応する官能基を有しないポリウレタン樹脂をバインダーとして使用したラミネート用水性グラビア印刷インキ等が知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながらグラビアインキは印刷版を必要とし、近年の少量多品種に対応させるにはコストや手間がかかりすぎるといった問題があった。
一方、グラビアインキをインクジェットインキに適用させるには、インク吐出性等の問題があり一概には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−206972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、吐出性が良好で食品用の包装材料用インクとしての画像を形成でき、巻き取りの過程でブロッキング現象が生じにくく、且つラミネート適性に優れたラミネート加工用水性インクジェット記録用インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ヒドラジン誘導体からなる鎖伸長剤を反応させる工程を経て製造された水性ポリウレタン樹脂(b−1)と、カルボニル基またはアミド基含有アクリル系共重合体(b−2)とを含む水性樹脂を使用することで、インク吐出性に優れ食品用の包装材料用インクとしての画像を形成でき、且つ十分なラミネート強度を与えることのできるラミネート加工用水性インクジェット記録用インクが得られることを見出した。
【0009】
即ち本発明は、(a)顔料、(b)水性樹脂を含有するラミネート加工用水性インクジェット記録用インクであって、
前記(b)水性樹脂は、ヒドラジン誘導体からなる鎖伸長剤を反応させる工程を経て製造された水性ポリウレタン樹脂(b−1)と、カルボニル基またはアミド基含有アクリル系共重合体(b−2)とを含む水性樹脂であるラミネート加工用水性インクジェット記録用インクを提供する。
【0010】
また本発明は、前記記載のラミネート加工用水性インクジェット記録用インクを用いて、非吸収性基材上にインクジェット記録法で印刷層を形成する工程と、前記印刷層上に接着層を形成する工程と、前記接着層面に、シーラントフィルム層をラミネート加工する工程とを有する積層体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吐出性が良好で食品用の包装材料用インクとしての画像を形成でき、巻き取りの過程でブロッキング現象が生じにくく、且つラミネート適性に優れた、食品包装材料として適用可能な積層体を与えることのできるラミネート加工用水性インクジェット記録用インクを得ることができる。
【0012】
また本発明の積層体は、ラミネート適性に優れ、食品包装材料として適しているものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
((a)顔料)
本発明で使用する顔料は特に限定はなく、通常水性インクジェット記録用インク用の顔料として使用されているものが使用できる。具体的には、水や水溶性有機溶剤に分散可能であり、公知の無機顔料や有機顔料が使用できる。無機顔料としては例えば、酸化チタン、酸化鉄、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等がある。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0014】
顔料の具体例としては、カーボンブラックとして、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
イエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
マゼンタインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、等が挙げられる。
シアンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
本発明においては、顔料表面に水分散性付与基を有し、分散剤が無くとも安定に分散状態が維持できる、いわゆる自己分散型顔料(表面処理顔料)でも良いし、顔料表面の全体をポリマーで被覆し、これにより分散剤が無くとも安定に分散状態が維持できる、いわゆるカプセル顔料(水分散性ポリマー包含顔料)でも良いし、分散剤により分散された顔料を使用してもよい。
【0015】
前記顔料は、各種顔料分散剤や界面活性剤によって分散された顔料分散液として、後述の(b)水性樹脂や水溶性溶剤に分散させてもよく好ましい。
前記顔料分散剤としては水性樹脂がよく、好ましい例としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、及び該水性樹脂の塩が挙げられる。
前記共重合体の塩を形成するための化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化アルカリ金属類、およびジエチルアミン、アンモニア、エチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンなどが挙げられる。これらの塩を形成するための化合物の使用量は、前記共重合体の中和当量以上であることが好ましい。
また市販品を使用することも勿論可能である。市販品としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BYK−シリーズ、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製のEFKAシリーズ等を使用できる。
【0016】
((b)水性樹脂)
本発明で使用する(b)水性樹脂は、ヒドラジン誘導体からなる鎖伸長剤を反応させる工程を経て製造された水性ポリウレタン樹脂(b−1)と、カルボニル基またはアミド基含有アクリル系共重合体(b−2)とを含む水性樹脂である。
前記(b)水性樹脂は、ヒドラジン誘導体からなる鎖伸長剤を反応させることで生じる水性ポリウレタン樹脂(b−1)の分子末端にある−NHNH基と、アクリル系共重合体(b−2)が有するカルボニル基またはアミド基とが反応するので、少なくとも印字乾燥後には架橋点を有する樹脂となる。これが、ブロッキング現象が生じにくい原因となっていると推定している。
【0017】
前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)と、前記アクリル系共重合体(b−2)は、水性媒体中で混合された系であってもよく、この場合は、印字乾燥後に架橋点を有する樹脂となる。また、前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)の存在下で前記アクリル系共重合体(b−2)の原料となる各種アクリル系単量体を共重合させることで、前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)と前記アクリル系共重合体(b−2)とが架橋してなる樹脂粒子の水分散体を得ることもできる。本発明においては、どちらの系を使用してもよいが、後者の方法で得た樹脂粒子の水分散体であると、反応部位が既に反応しているために保存安定性に優れより好ましい。
【0018】
前記ヒドラジン誘導体からなる鎖伸長剤を反応させる工程を経て製造された水性ポリウレタン樹脂(b−1)は次のようにして製造される。まず、ジイソシアネートとグリコールおよびカルボン酸基を有するグリコールをウレタン化反応させ、ウレタンプレポリマーを得る。
この時使用されるジイソシアネート類としては、脂肪族、脂環族または芳香族ジイソシアネートがあり、これらの例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0019】
ウレタンプレポリマーを調整する際のグリコール類としては、低分子量グリコール類、高分子量グリコール類、ポリエステルジオール類、ポリカーボネートジオール類等をそれぞれ単独に用いてもよく、またウレタン技術でよく知られているように、ポリエステルジオール類や高分子量グリコール類に低分子量グリコール類を併用してもよい。
【0020】
前記低分子量グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、メキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、オクタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタール等があり、これらは2種類以上混合してもよい。
高分子量グリコール類は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0021】
前記ポリエステルポリオール類としては、前記グリコール類と、ジカルボン酸類、例えば炭素原子数4〜12の直鎖状脂肪族ジカルボン酸が好ましく、その具体例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸及びその無水物等の芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸を反応させたものであればよく、公知の方法で製造される。また、エステル化反応に限らず、エステル交換反応であっても良い。ポリエステルポリオールはグリコールとジカルボン酸の低級アルキルエステルを使用してエステル交換反応によっても製造できる。
【0022】
前記ポリカーボネートポリオール類としては、前記グリコール類と、カーボネート類、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物を反応させることで得られる化合物を反応させたものであればよく、公知の方法で製造される。
【0023】
前記カルボン酸基を有するグリコール類としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等が挙げられる。
【0024】
前記ウレタン化反応は、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等の、イソシアネート基に対して不活性で水との親和性の大きい有機溶剤中で行うことが望ましい。
【0025】
次いで、前記プレポリマーを中和および鎖伸長し、蒸留水を添加し、水性ポリウレタン樹脂を得る。
中和に使用する中和剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0026】
鎖伸長に使用するヒドラジンまたはその誘導体としては具体的には、ヒドラジン、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ヒドラジン、及びそれらの水和物等が挙げられる。
ウレタンプレポリマーの鎖伸長剤として汎用されるエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリオール類;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン等の脂肪族、脂環式および芳香族ジアミンは、本発明の効果であるラミネート適性に劣る傾向がある。
【0027】
前記ポリウレタン樹脂は、酸価が樹脂固形分あたり10〜200mgKOH/gであることが好ましい。酸価が10mgKOH/g未満では、有機溶剤中で反応させたウレタンプレポリマーを中和剤、鎖伸長剤、蒸留水を用いて水性化させる場合に凝集物が生じやすかったり、得られた水性ポリウレタン樹脂の貯蔵安定性に劣る恐れがある。一方、酸価が200mgKOH/gを超えると、好ましい耐久性、耐水性等の物性が得られないことがある。
【0028】
また、前記ポリウレタン樹脂のガラス転移点温度(以下Tgと略す)は、所望する用途に応じて適宜設定することが好ましい。例えば本発明のラミネート加工用水性インクジェット記録用インクを、食品用の包装材料用途等の可とう性を有するプラスチックフィルムに印字する場合は、ラミネートする際のフィルムの密着性やパッケージにした時のフレキシビリティー(柔軟性)が要求されることから、ポリウレタン樹脂のガラス転移点温度(以下Tgと略す)はあまり高くないほうが好ましい。適当なフィルムへの密着性とフレキシビリティーとを両立させるために、使用するポリウレタン樹脂のTgは−80℃〜30℃の範囲であることが好ましく、−50℃〜20℃の範囲がより好ましい
【0029】
前記カルボニル基またはアミド基含有アクリル系共重合体(b−2)の原料であるアクリル系単量体は、カルボニル基含有単量体またはアミド基含有単量体を必須成分とする。その配合量は、全重合性単量体100重量部に対し、少なくとも0.5重量部含有することが好ましい。また、乳化重合を行う際に用いる界面活性剤や保護コロイド、重合開始剤については、従来から知られているものを用いることができる。
【0030】
カルボニル基含有単量体は、アルド基またはケト基を含有する単量体のことであり、エステル結合やカルボキシル基のみを有する化合物は含まれない。
本発明で使用するカルボニル基含有単量体の例としては、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン、ジアセトンアクリレート、アセトニトリルアクリレート等が挙げられる。
また、アミド基含有単量体としては、モノオレフィン性不飽和カルボン酸アミド、モノオレフィン性不飽和カルボン酸アミドのN−アルキル誘導体、およびモノオレフィン性不飽和カルボン酸アミドのN−アルキロール誘導体が挙げられる。該当する単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸またはマレイン酸のアミド体;N−メチルアクリルアミド、N−イソブチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−n−ブトキシメチルアクリルアミド、N−イソプロポキシメタクリルアミド等が挙げられる。
【0031】
これらのカルボニル基含有単量体またはアミド基含有単量体は、単独で用いても、あるいは併用しても良いが、全重合性単量体100重量部に対し、少なくとも0.5重量部を使用することが好ましく、特に好ましい領域は1.0〜10.0重量部である。
【0032】
また、本発明で乳化重合に用いられる上記以外のアクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル類等や、前記アクリル系単量体と共重合することのできる他の重合性不飽和単量体、例えばマレイン酸、フマール酸、イタコン酸の各エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、第3級カルボン酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエン等の如き芳香族ビニルエステル類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン化合物;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;ブタジエン等のジエン類が挙げられる。
【0033】
また反応性極性基を有する重合性不飽和単量体としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル系化合物:ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン系化合物;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸またはその半エステル、フマル酸またはその半エステル、イタコン酸またはその半エステル、クロトン酸等のカルボキシル系化合物;β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート等のヒドロキシル系化合物;アルキルアミノアクリレート、アルキルアミノメタクリレート等のアミン系化合物が挙げられる。
【0034】
本発明において、前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)と、前記アクリル系共重合体(b−2)が水性媒体中で混合された系を使用する場合は、前記アクリル系共重合体(b−2)を得た後、各々を所望の割合で配合すればよい。
前記アクリル系共重合体(b−2)を得る方法としては、公知の乳化重合法が挙げられる。具体的には、水と乳化剤(界面活性剤)との混合物に、必要に応じて加温攪拌しながら、ラジカル重合開始剤、前記単量体等を順次滴下等の方法で添加し、重合させることで得ることができる。
本発明において、乳化重合を行う際に用いられる界面活性剤(乳化剤)としては、従来から公知のものを利用できる。例えばドデシルベンゼン硫酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、アルキルアリールポリエーテル硫酸塩等のような陰イオン性乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のような非イオン性乳化剤;セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルピリジニウムクロリド等のような陽イオン性乳化剤を適宜選択して使用できる。また、上記の如き乳化剤の代りに、あるいは乳化剤を併用して水溶性オリゴマーを分散剤として使用することも可能である。さらにポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース等のような水溶性高分子物質を上記乳化剤と併用したり、あるいは重合後、乳化液に添加したりすることも有効である。
【0035】
乳化剤、水溶性オリゴマー、水溶性高分子物質の合計使用量は、アクリル系単量体100重量部に対して0.5〜10重量部の範囲で使用するのが好ましい。これより多くなると、印字物の耐水性が劣るおそれがあり、また、これより少ない使用量では、乳化重合時の安定性、生成乳化重合体の安定性が低下する場合がある。
【0036】
前記アクリル系共重合体(b−2)の乳化重合において用いられるラジカル重合開始剤としては、通常の乳化重合に用いられているものが使用されるが、これらの例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリルおよびその塩酸塩等が挙げられ、またクメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物も必要に応じて使用することができる。さらに、これらの過硫酸塩または過酸化物と、鉄イオンなどの金属イオン、およびナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、ピロ亜硫酸ソーダ、L−アスコルビン酸などの還元剤を組合わせて用いる公知のレドックス系開始剤も用いることができる。
【0037】
乳化重合時の濃度は、実用的な観点より、最終組成物が25〜65重量%の固形分濃度となるようにするのがよく、また反応系へのエチレン性不飽和単量体およびラジカル重合開始剤は一括仕込み、連続滴下、分割添加など公知のいずれの方法でも行うことができる。
【0038】
乳化重合時の温度も、公知の乳化重合で行われている範囲でよく、また乳化重合は常圧下、またはガス状のエチレン性不飽和単量体を使用するときは加圧下で行われる。
【0039】
前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)と前記アクリル系共重合体(b−2)の配合割合では、前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)の比率を高くすることで前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)の特性が強調されてラミネート強度が向上する傾向にあり、一方前記アクリル系共重合体(b−2)の比率を高くすることで前記アクリル系共重合体(b−2)の特性が強調されてブロッキング性が向上する傾向にある。このことから、所望する物性に応じて適宜配合比率を決定することが好ましい。具体的には、前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)/前記アクリル系共重合体(b−2)=95/5〜5/95となるように配合することが好ましい。より好ましくは80/20〜40/60が特に好ましい。
【0040】
一方、前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)の存在下で前記アクリル系共重合体(b−2)の原料となる各種アクリル系単量体を共重合させることで、前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)と前記アクリル系共重合体(b−2)とが架橋してなる樹脂粒子の水分散体を得ることもできる。この場合は、前記水と乳化剤(界面活性剤)と水性ポリウレタン樹脂(b−1)との混合物に、ラジカル重合開始剤、前記単量体等を順次滴下等の方法で添加し、重合させることで得ることができる。
【0041】
本発明で使用する(b)水性樹脂は、前記水性ポリウレタン樹脂(b−1)と前記アクリル系共重合体(b−2)それぞれの樹脂特性を強調しラミネート強度とブロッキング性に効果が得られるものであるが、インク中の含有量が少ないと十分なラミネート強度を得ることができず、反対に多すぎると粘度上昇や吐出に悪い影響を及ぼす。このことから、インク全量中に対する樹脂固形分の含有量は1.0〜10.0重量%が好ましく、3.0〜5.0%が特に好ましい。
【0042】
本発明で使用する(b)水性樹脂が水分散体の場合、その平均粒子径が大きすぎるとヘッド詰まりの原因となり吐出不良を引き起す。そのため、ポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径はできるだけ小さいことが吐出不良への影響が少ないことから好ましい。具体的には10nm〜500nmの範囲であることが好ましく、10〜100nmの範囲であることが特に好ましい。
ここで粒子径の測定は、公知慣用の遠心沈降方式、レーザー回折方式(光散乱方式)、ESA方式、キャピラリー方式、電子顕微鏡方式などで行うことができる。好ましいのは、動的光散乱法を利用したマイクロトラックUPAによる測定である。
【0043】
(ラミネート加工用水性インクジェット記録用インク)
前記(a)顔料と、前記(b)水性樹脂とを配合して、本発明のラミネート加工用水性インクジェット記録用インクが得られる。
前記(b)水性樹脂の樹脂固形分(%)は、インク全量に対し1.0〜10.0重量%であることが好ましい。該範囲とすることで、ラミネート適性と耐ブロッキングのバランスに優れるインクが得られる。
【0044】
前記インクの配合方法としては特に限定なく従来一般的に用いられる方法により行うことができる。まず、(a)顔料(必要に応じて(a)顔料を顔料分散剤で分散させた顔料分散液としてもよい)、(b)水性樹脂(前記方法で調整された後の、各種溶剤等を含んでいていても良い)、水や水溶性有機溶剤等の水性溶媒、必要に応じて、界面活性剤、顔料分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、等を混合した後、各種分散機や攪拌機、例えば、ビースミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、パールミル等を利用して分散・混合する方法が挙げられる。必要に応じてこの後に更に各種添加剤を添加してもよい。
【0045】
本発明で使用する水溶性有機溶剤としては特に限定はないが、水との混和性がありインクジェットプリンターのヘッドの目詰まり防止効果が得られるものが好ましい。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、等が挙げられる。中でも、プロピレングリコール、1,3−ブチルグリコールを含むことが安全性を有し、かつインク乾燥性、吐出性能に優れた効果が見られる。
【0046】
また、本発明で使用する前記界面活性剤としては、アセチレン系界面活性剤等が挙げられる。例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールの他、市販品としては、サーフィノール104、82、440、465、485、またはTG(以上Air Products and Chemicals.Incより入手可)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(以上日信化学社製商品名)等が挙げられる。
【0047】
(積層体)
本発明のラミネート加工用水性インクジェット記録用インクは、食品用の包装材料等に使用されるラミネートフィルム等の積層体用の印刷インクとして使用する。
【0048】
本発明で用いる非吸収基材であるプラスチックフィルムとしては、食品用の包装材料に使用されているものであれば特に限定されず、公知のプラスチックフィルムが使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ナイロン等のポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等の生分解性フィルム等が挙げられる。特にポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリアミド系フィルムが好ましく、さらにポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンが好ましい。またバリア性を付与するためのポリ塩化ビニリデン等のコーティングをした上記フィルムでもよいし、必要に応じてアルミニウム等の金属、あるいはシリカやアルミナ等の金属酸化物の蒸着層を積層したフィルムを併用してもよい。
【0049】
前記プラスチックフィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、1軸もしくは2軸方向に延伸されたものが好ましい。さらにフィルムの表面は、未処理であってもよいが、コロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、フレーム処理、グロー放電処理等、接着性を向上させるための各種処理を施したものが好ましい。
前記プラスチックフィルムの膜厚は用途に応じて適宜変更されるが、例えば軟包装用途である場合は、柔軟性と耐久性、耐カール性を有しているものとして、膜厚が10μm〜100μmであることが好ましい。より好ましくは10μm〜30μmである。
【0050】
前記プラスチックフィルムに、本発明のラミネート加工用水性インクジェット記録用インクで印刷層を形成する。
インクジェット記録方式としては、従来公知の方式がいずれも使用できる。例えば圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)や熱エネルギーを利用する方法が挙げられる。
【0051】
次に、前記印刷層上に、ラミネート用の接着剤層を形成する。接着剤層に使用する接着剤はラミネート加工用として一般的に使用されているものであれば特に限定されず、公知の接着剤が使用できる。具体例としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、天然ゴム、SBR、NBR、シリコーンゴム等の合成ゴム等の接着剤が挙げられるが、ドライラミネート用の接着剤として好ましくは一液もしくは二液硬化型のポリエーテルポリウレタン系接着剤、ポリエステルポリウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤が良い。押し出しラミネート用の接着剤として好ましくは、ポリエチレンイミン、アルキルチタネート、ポリウレタン系樹脂、ウレタン系接着剤等が良い。
【0052】
次に、ラミネート加工によりシーラントフィルム層を形成する。
ラミネート加工方法としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、押出しラミネーション等公知のラミネーションを用いることが可能である。
ドライラミネーション方法は、具体的には、基材フィルムの一方に前記接着剤をグラビアロール方式で塗工後、もう一方の基材フィルムを重ねてドライラミネーション(乾式積層法)により貼り合わせる。またノンソルベントラミネーションは基材フィルムに予め室温〜120℃程度に加熱しておいた前記接着剤を室温〜120℃程度に加熱したロールコーターなどのロールにより塗布後、直ちにその表面に新たなフィルム材料を貼り合わせることによりラミネートフィルムを得ることができる。
押出しラミネート法の場合には、基材フィルムに接着補助剤(アンカーコート剤)として前記接着剤の有機溶剤溶液をグラビアロールなどのロールにより塗布し、室温〜140℃で溶剤の乾燥、硬化反応を行なった後に、押出し機により溶融させたポリマー材料をラミネートすることによりラミネートフィルムを得ることができる。溶融させるポリマー材料としては低密度ポリエチレン樹脂や直線状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂などのポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0053】
このようにして得られた積層体を食品用の包装材料として使用する場合は、厚さが300μm以下となるように、使用するプラスチックフィルム、インキ層の厚さ、接着層の厚さをコントロールすることが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の記載において部および%は重量部を示す。
【0055】
(製造例1 水性ポリウレタン樹脂(b−1−1)の製造例)
日本ポリウレタン工業(株)社製のポリカーボネートポリオール「ニッポランN981」(平均分子量=1000)1000部を減圧下100℃で脱水した。その後80℃まで冷却し、酢酸エチル1000部を加え十分に攪拌し溶解させた。
次に、2,2’−ジメチロールプロピオン酸100部を加え、次いでトリレンジイソシアネート400部を加えて75℃で5時間反応させ、ポリウレタンプレポリマー(b−1)を得た。
イソシアネート値が1.80〜1.90%になったのを確認した後、40℃まで冷却し、トリエチルアミン75部加えて中和した後、水7000部を加えて溶解させた。次いで、鎖伸長剤として80%水加ヒドラジン36部を加え、鎖伸長反応を行った。
得られた半透明な反応生成物を減圧下、30〜60℃にて酢酸エチルを除去した後、水を加えて濃度調節を行い、不揮発分20%、Tg−15℃の、安定な半透明の水分散液である水性ポリウレタン樹脂(b−1−1)を得た。
【0056】
(製造例2 水性ポリウレタン樹脂(b−1−2)の製造例)
製造例1におけるポリカーボネートポリオールの代わりに、三菱化学(株)社製のポリテトラメチレンエーテルグリコール「PTMG−1000」( 平均分子量=1000を使用する以外は製造例1と同様の操作を行い、不揮発分20%、Tg−50℃の安定な半透明の水分散液である水性ポリウレタン樹脂(b−1−2)を得た。
【0057】
(製造例3 比較例用アクリルエマルジョン樹脂の製造例)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、イオン交換水400部と、日本乳化剤(株)製の界面活性剤「ニューコール707SF」7.5部を仕込んで攪拌を開始し、窒素気流下中で80℃に昇温した。滴下ロートにイオン交換水75部、ニューコール707SF 41.7部、80%メタクリル酸12.5部、メタクリル酸メチル300部、メタクリル酸n−ブチル190部からなるプレエマルションを調整し、そのうちプレエマルションの5%分にあたる31.0部を添加した。次いで1.5%の過硫酸カリウム水溶液10.2部を添加して同温度で15分間保持した後、プレエマルションの残り95%分と0.5%の過硫酸カリウム水溶液65.4部とを、それぞれ別の滴下口から3時間かけて滴下した。この際の反応温度は80±3℃に保持した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、攪拌下に反応を継続させ、次いで冷却して14%アンンモニア水にてpH8.0〜9.0に調整し、不揮発分が45.0%、粘度116mPa・s、pH8.8、平均粒子径60nmのアクリルエマルジョン樹脂を得た。
【0058】
(製造例4 水性樹脂(b−X1)の製造例
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入管を備えたフラスコにイオン交換水67.5部と、ニューコール707SF 45部、製造例1で得た水性ポリウレタン樹脂(b−1−1)1028.6部、メタクリル酸メチル22.5部を仕込んで攪拌を開始し、窒素気流下中で80℃に昇温した。イオン交換水22.5部、ニューコール707SF 31.5部、スチレンスルホン酸ナトリウム6.3部、ダイアセトンアクリルアミド1.6部、メタクリル酸メチル44部、メタクリル酸n−ブチル22部からなるプレエマルションと5%過硫酸アンモニウム水溶液47.3部とを、それぞれ別の滴下口から1時間かけて滴下した。この際の反応温度は80±3℃に保持した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、攪拌下に反応を継続させ、次いで冷却して14%アンモニア水にてpH8.0〜9.0に調整し、不揮発分が35.4%、粘度17mPa・s、pH8.7、平均粒子径60nmの水性樹脂(b−X1)を得た。
【0059】
(製造例5 水性樹脂(b−X2)の製造例
使用する水性ポリウレタン樹脂として、製造例2の水性ポリウレタン樹脂(b−1−2)に変更した以外は、製造例4と同様にして、不揮発分が35.6%、粘度21mPa・s、pH8.9、平均粒子径50nmの水性樹脂(b−X2)を得た。
【0060】
(製造例6 水性樹脂(b−X3)の製造例
使用する水性ポリウレタン樹脂として、製造例2の水性ポリウレタン樹脂(b−1−2)771.4部を用い、フラスコに仕込むイオン交換水の仕込み量を225部に変更し、プレエマルションのモノマー組成としてダイアセトンアクリルアミド3.2部、メタクリル酸メチル110.4部、メタクリル酸n−ブチル43.9部に変更した以外は、製造例4と同様にして、不揮発分が35.5%、粘度30mPa・s、pH8.5、平均粒子径50nmの水性樹脂(b−X3)を得た。
【0061】
(製造例7 水性樹脂(b−X4)の製造例
使用する水性ポリウレタン樹脂として、製造例1の水性ポリウレタン樹脂(b−1−1)257.1部を用い、フラスコに仕込むイオン交換水の仕込み量を225部に変更し、プレエマルションのモノマー組成として、イオン交換水67.5部、ダイアセトンアクリルアミド7.2部、スチレン85.5部、メタクリル酸メチル122.4部、アクリル酸2−エチルヘキシル118.8部、80%メタクリル酸4.5部に変更した以外は、製造例4と同様にして、不揮発分が45.8%、粘度810mPa・s、pH8.5、平均粒子径55nmの水性樹脂(b−X4)を得た。
【0062】
(調整例1 顔料分散液(a−1) シアン顔料分散液)
DIC(株)製のシアン顔料「FANTOGEN BLUE FSJ−SD」20部、顔料分散剤としてビックケミー・ジャパン(株)社製の「Disperbyk−190」30部、イソプロピルアルコール5部、純水45部を攪拌混合した。次にビーズミルを用いて練肉分散した後、遠心分離機にかけて粗大粒子を取り除き、純水を加えて、顔料濃度15%に調整したシアン顔料分散液(a−1)を得た。
【0063】
(調整例2 顔料分散液(a−2) マゼンタ顔料分散液)
DIC(株)製のマゼンタ顔料「Fastogen Super Magenta RTS」20部、顔料分散剤としてビックケミー・ジャパン(株)社製の「Disperbyk−190」30部、イソプロピルアルコール5部、純水45部を攪拌混合した。次にビーズミルを用いて練肉分散した後、遠心分離機にかけて粗大粒子を取り除き、純水を加えて、顔料濃度15%に調整したマゼンタ顔料分散液(a−2)を得た。
【0064】
(調整例3 顔料分散液(a−3) イエロー顔料分散液)
山陽色素(株)製のイエロー顔料「Fast Yellow 7413」20部、顔料分散剤としてビックケミー・ジャパン(株)社製の「Disperbyk−190」30部、イソプロピルアルコール5部、純水45部を攪拌混合した。次にビーズミルを用いて練肉分散した後、遠心分離機にかけて粗大粒子を取り除き、純水を加えて、顔料濃度15%に調整したイエロー顔料分散液(a−3)を得た。
【0065】
(調整例4 顔料分散液(a−4) ブラック顔料分散液)
三菱化学(株)製のブラック顔料「カーボンブラック#960」20部、顔料分散剤としてビックケミー・ジャパン(株)社製の「Disperbyk−190」30部、イソプロピルアルコール5部、純水45部を攪拌混合した。次にビーズミルを用いて練肉分散した後、遠心分離機にかけて粗大粒子を取り除き、純水を加えて、顔料濃度15%に調整したブラック顔料分散液(a−4)を得た。
【0066】
(調整例5 顔料分散液(a−5) ホワイト顔料分散液)
テイカ(株)製のホワイト顔料「JR−804」40部、顔料分散剤としてビックケミー・ジャパン(株)社製の「Disperbyk−190」10部、イソプロピルアルコール5部、純水45部を攪拌混合し、ビーズミルを用いて練肉分散した後に純水を加えて顔料濃度38%に調整したホワイト顔料分散液(a−5)を得た。
【0067】
(固形分測定方法)
蒸発皿の重量(A)、顔料分散液を蒸発皿に滴下した総重量(B)、顔料分散液を滴下させた蒸発皿を100℃に加温した乾燥機に2時間放置して水分を蒸発させて固体化した顔料分散物と蒸発皿の総量(C)を測定し、下記式にて固形分を求めた。
【0068】
【数1】

【0069】
(実施例1〜実施例12 インク調整)
表1〜2に示す配合に従い、攪拌混合した混合液を調整した。該混合液を0.5μmのフィルターで濾過して、ラミネート加工用水性インクジェット記録用インク(1)〜(12)を得た。
【0070】
(比較例1〜比較例5 インク調整)
表3に示す配合に従い、攪拌混合した混合液を調整した。該混合液を0.5μmのフィルターで濾過して、ラミネート加工用水性インクジェット記録用インク(H1)〜(H5)を得た。
【0071】
水性グラビアインキ(DICグラフィックス株式会社製 マリーンプラスG R507原色藍(C1))100部、エタノール 21部、純水 9部を混合攪拌しラミネート加工用水性インクジェット記録用インク(H7)を得た。
【0072】
[物性評価]
(保存安定性試験)
実施例1〜12、比較例1〜5のインクを、E型粘度計(TV−20形 東機産業社製)で粘度を測定、粒度分布計(マイクロトラックUPA−150 日機装(株)製)で50%粒径を測定した後、ガラス製サンプル瓶に入れて蓋を閉めて密封させた状態で60℃の恒温槽に放置した。30日後に恒温槽からサンプル瓶を取り出し、インクの粘度および50%粒径を測定した。評価は以下のように判断した。
○:粘度・50%粒径の変化率が10%未満
△:粘度・50%粒径の変化率が10%以上20%未満
×:粘度・50%粒径の変化率が20%以上、またはインクの分離が発生
【0073】
(吐出試験)
最大駆動周波数7.6KHz、解像度360DPI(25.4mm当たり360ドット)のピエゾヘッドを有するインクエジェットプリンターで、PETフィルム(東洋紡績社製 エステルE−5100)、に吐出して吐出性を評価した。
評価は以下のように判断した。
A4ベタ10枚相当印字後、チェックパターンを印字し、不吐出ノズルを評価
○:不吐出ノズル1%未満
△:不吐出ノズル1%以上5%以下
×:不吐出ノズル5%以上
【0074】
(ラミネート試験)
(1)接着剤の調整
DICグラフィックス社製の接着剤「ディックドライ LX−401」10部、硬化剤としてDICグラフィックス社製の硬化剤「SP−60」10部、酢酸エチル60部、を混合攪拌し、接着剤を調整した。
【0075】
(2)積層体の製造方法
食品用の包装材料用として使用されるPETフィルム(東洋紡績社製 エステルE−5100)、OPPフィルム(フタムラ化学社製 FOR30)に、バーコーターNo.4で実施例1〜12、比較例1〜5のインクを塗布し、100℃に加温した乾燥機に3分間放置してインクを乾燥させた。
インクが乾燥した後、インク皮膜の上にバーコーターNo.10を用い、前記(1)で調整した接着剤を塗布し、ドライヤーの温風で全体を10秒間当てて接着剤を乾燥させ、CPPフィルム(東洋紡績社製 パイレンP−1128)を被せて、ロール温度を40℃に設定したラミネーターで貼り合わせた。ラミネート加工物は40℃の恒温槽に48時間放置して接着剤を硬化させた。
【0076】
(3)ラミネート強度試験
前記接着剤を十分に硬化させた(2)の積層体を、長さ200mm、幅15mm幅に切り、貼り合わせた部分を30mm程度剥離した。少し剥離した部分を引っ張り試験機((株)オリエンテック社製 TENSILON RTM−25)でさらに剥離してラミネート層の接着強度を測定した。
評価は以下のように判断した。
○:ラミネートした物を剥離した時の強度が1N/15mm以上
△:ラミネートした物を剥離した時の強度が0.5N/mm〜1N/15mm未満
×:ラミネートした物を剥離した時の強度が0.5N/15mm未満
【0077】
(4)耐ブロッキング性の試験
食品パッケージ用として使用されるPETフィルム(東洋紡績社製 エステルE−5100)、OPPフィルム(フタムラ化学社製 FOR30)にバーコーターNo.4でインクを塗布し、100℃に加温した乾燥機に1分間放置してインクを乾燥させた。インクが乾燥した後、印刷面とフィルム裏面を重ね合わせて、それに9.8×10Pa(1kgf/cm)の圧力をかけた。24時間放置後剥離し、耐ブロッキング性を評価した。
評価は以下のように判断した。
○:重ねたフィルムを剥離した時にフィルムの背面に裏移りがない
△:重ねたフィルムを剥離した時にフィルムの背面に10%程度の裏移りが発生
×:重ねたフィルムを剥離した時にフィルムの背面に10%程度以上の裏移りが発生
【0078】
以下、表1〜表3にインクの配合を、表4〜表6に物性評価結果を示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】


【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
この結果より、実施例のラミネート加工用水性インクジェット記録用インクは、優れた保存安定性、吐出性、ラミネート強度が得られた。
また比較例1〜4は、(b)水性樹脂を使用しない例であるが、ラミネート強度と耐ブロッキング性とを両立させることができなかった。
比較例5は、グラビアインキをインクジェットインクに適用した例であるが、吐出ができなかった。
【0086】
[多色印刷物の積層体の製造方法]
(実施例13)
実施例3のインクを最大駆動周波数7.6KHz、解像度360DPI(25.4mm当たり360ドット)のピエゾヘッドを有するインクエジェットプリンターで、食品用の包装材料用として使用されるPETフィルム(東洋紡績社製 エステルE−5100)、OPPフィルム(フタムラ化学社製 FOR30)に吐出し、100℃に加温した乾燥機に1分間放置してインクを乾燥させた。実施例1のインクを乾燥させた後に実施例1と同様の方法で実施例7のインクを吐出し乾燥させて、さらに実施例8、9、10のインクについても同様の操作を行い各色インクの多色印刷物を作製した。前記ラミネート試験法に従い、インク皮膜の上にバーコーターNo.10を用いて接着剤を塗布、硬化させた後、ラミネート強度を測定した。その結果、評価は○であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)顔料、(b)水性樹脂を含有するラミネート加工用水性インクジェット記録用インクであって、
前記(b)水性樹脂は、ヒドラジン誘導体からなる鎖伸長剤を反応させる工程を経て製造された水性ポリウレタン樹脂(b−1)と、カルボニル基またはアミド基含有アクリル系共重合体(b−2)とを含む水性樹脂であることを特徴とするラミネート加工用水性インクジェット記録用インク。
【請求項2】
前記(b)水性樹脂が、ジイソシアネート類と、カルボン酸基含有グリコール類を含むグリコール類とを反応させて得られたウレタンプレポリマーを中和し、かつヒドラジン誘導体にて鎖伸長して得られた水性ポリウレタン樹脂(b−1)の存在下に、カルボニル基含有モノマーまたはアミド基含有モノマーを含有するラジカル重合性アクリル系モノマーを重合させて得た水性樹脂である請求項1に記載のラミネート加工用水性インクジェット記録用インク。
【請求項3】
前記(b)水性樹脂が、平均粒子径10〜100nmの樹脂粒子である請求項1または2に記載のラミネート加工用水性インクジェット記録用インク。
【請求項4】
前記(b)水性樹脂の樹脂固形分(%)が、インク全量に対し1.0〜10.0重量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のラミネート加工用水性インクジェット記録用インク。
【請求項5】
前記(b)水性樹脂のウレタン樹脂とアクリル樹脂との固形分重量比が(A)/(B)=95/5 〜 5/95である請求項1〜4のいずれか1項に記載のラミネート加工用水性インクジェット記録用インク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のラミネート加工用水性インクジェット記録用インクを用いて、非吸収性基材上にインクジェット記録法で印刷層を形成する工程と、前記印刷層上に接着層を形成する工程と、前記接着層面に、シーラントフィルム層をラミネート加工する工程とを有することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項7】
前記積層体の厚さが300μm以下である請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記非吸収基材がプラスチックフィルムである請求項6または7に記載の積層体の製造方法。

【公開番号】特開2013−1775(P2013−1775A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133169(P2011−133169)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(310000244)DICグラフィックス株式会社 (27)
【Fターム(参考)】