説明

ラモセトロンまたはその塩の新規製造法

【課題】医薬、特に抗悪性腫瘍剤投与に伴う消化器症状、下痢型過敏性腸症候群、過敏性腸症候群の下痢症状等の治療剤及び/または予防剤として有用なラモセトロンまたはその塩の新規製造法を提供する。
【解決手段】低級アルキルアルミニウムジハライド、ジ低級アルキルアルミニウムハライド、トリ低級アルキルアルミニウム及び低級アルキルアルミニウムセスキハライドからなる群より選択されるルイス酸の存在下、式(I)
【化】


[式中の記号は以下の意味を示す。
X:ハロゲン。]
またはその塩で示される化合物と1-メチル-1H-インドールを、反応させることによりラモセトロンまたはその塩を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、特に5-HT3受容体アンタゴニスト、より具体的には例えば、抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)、下痢型過敏性腸症候群、過敏性腸症候群の下痢症状等の治療剤及び/または予防剤として有用なラモセトロンまたはその塩の新規製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラモセトロンの化学名は(-)-(R)-5-[(1-メチル-1H-インドール-3-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾールであり、式(II)で示される構造を有する。
【化1】

ラモセトロンまたはその塩は、強力な5-HT3受容体拮抗作用を有することが知られており(特許文献1、非特許文献1及び2)、抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の予防・治療剤として販売されている。また、ラモセトロンまたはその塩は、下痢型過敏性腸症候群治療剤または過敏性腸症候群の下痢症状改善剤として有用である可能性が報告されており(特許文献1)、現在下痢型過敏性腸症候群治療剤または過敏性腸症候群の下痢症状改善剤として臨床試験が進められている。
【0003】
ラモセトロンまたはその塩の製造法として、以下の製造法が知られている。
特許文献1には、下記製造法Aで示される製造法、即ち、ヘテロ環化合物(III)と式(IV)で示されるカルボン酸またはその反応性誘導体とを反応させるテトラヒドロベンズイミダゾール誘導体(V)の製造法が記載されている。
【0004】
(製造法A)
【化2】

(式中X2は単一結合であり、Hetで示されるヘテロ環上の炭素原子と結合する。)
【0005】
特許文献1にはラモセトロンの製造法として具体的には、化合物(III)として1-メチル-1H-インドールを、化合物(IV)の反応性誘導体として酸アミドであるN,N-ジエチル-4,5,6,7-テトラヒドロベンズイミダゾール-5-カルボキサミドまたはN-[(4,5,6,7-テトラヒドロベンズイミダゾール-5-イル)カルボニル]ピロリジンを用い、オキシ塩化リンで処理すること(ビルスマイヤー(Vilsmeyer)反応)によりラセミ体のラモセトロンを得た後、(+)-ジベンゾイル酒石酸を用いて分別結晶により光学分割する製造法(製造法A−1)が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献1には、製造法Aにおいて化合物(IV)の反応性誘導体の一つとして酸ハライドが挙げられており、ルイス酸を触媒として用いてヘテロ環化合物(III)と化合物(IV)の酸ハライドをフリーデルクラフツ(Friedel-Crafts)アシル化反応により縮合する化合物(V)の製造方法(製造法A−2)も記載されている。しかしながら、フリーデルクラフツアシル化反応によるラモセトロンの具体的な製造例は記載されていない。
【0007】
また、非特許文献1及び2には、ラモセトロンの製造方法として、製造法A−1と同様の方法が記載されている。
【0008】
また、非特許文献3には製造法Bで示される11Cでラベルしたラモセトロンの製造法が記載されている。しかしながら、メチル化の工程が開示されているのみであり、原料であるnor-YM060の製造法は開示されていない。
【0009】
(製造法B)
【化3】

(式中、nor-YM060は(R)-5-[(1H-インドール-3-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾールを意味し、本出願人により提供されている。DMFはジメチルホルムアミドを意味する。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平6-25153
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chemical & Pharmaceutical Bulletin)」、1996年、第44巻、第9号、p.1707-1716
【非特許文献2】「ドラッグズ・オブ・ザ・フューチャー(Drugs of the Future)」、1992年、第17巻、第1号、p.28-29
【非特許文献3】「アプライド・ラジエーション・アンド・アイソトープス(Applied Radiation and Isotopes)」、1995年、第46巻、第9号、p.907-910
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
既存のラモセトロンの製造法は、工業的に生産効率の点で満足のいくものではない。そこで、効率的なラモセトロンまたはその塩の製造法、特にラセミ化せず光学純度が保持されるラモセトロンの製造法の開発が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、工業的により効率的なラモセトロンまたはその塩の製造法の開発を目的として鋭意研究を進めた。その結果、以下の製造法によれば光学純度がほとんど低下することなく立体を保持して反応が進行し、ラモセトロンまたはその塩を効率よく製造できることを見出し本発明を完成した。
即ち、本発明によれば、以下に示すラモセトロンまたはその塩の新規製造法が提供される。
【0014】
(1)(製造法1)
低級アルキルアルミニウムジハライド、ジ低級アルキルアルミニウムハライド、トリ低級アルキルアルミニウム及び低級アルキルアルミニウムセスキハライドからなる群より選択されるルイス酸の存在下、式(I)
【化4】

[式中のXはハロゲンを示す。]
またはその塩で示される化合物と1-メチル-1H-インドールを反応させることを特徴とするラモセトロンまたはその塩の製造方法。

(2)(製造法2)
(R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボン酸またはその塩をハロゲン化剤と反応させて(1)記載の式(I)で示される化合物とし、低級アルキルアルミニウムジハライド、ジ低級アルキルアルミニウムハライド、トリ低級アルキルアルミニウム及び低級アルキルアルミニウムセスキハライドからなる群より選択されるルイス酸の存在下、1-メチル-1H-インドールと反応させることを特徴とするラモセトロンまたはその塩の製造方法。

(3)ルイス酸が、ジエチルアルミニウムクロライドまたはジエチルアルミニウムセスキクロライドである(1)または(2)いずれか1に記載の製造方法。

(4)反応の溶媒が芳香族炭化水素である(3)記載の製造方法。

(5)芳香族炭化水素がトルエンである(4)記載の製造方法。

(6)(1)記載の製造方法により製造されたラモセトロンまたはその塩。

(7)(2)記載の製造方法により製造されたラモセトロンまたはその塩。

また、本発明によれば、以下に示すラモセトロンまたはその塩を含有する組成物も提供される。
(8)5-[(1-メチル-1H-インドール-5-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール若しくはその塩及び/または5-[(1-メチル-1H-インドール-6-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール若しくはその塩を、ラモセトロンまたはその塩に対して合計1%未満で含有することを特徴とする、ラモセトロンまたはその塩を含有する組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造法は、立体を保持して反応が進行するため、後述のように公知で製造容易な(R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボン酸またはその塩から高収率で光学純度の高いラモセトロンまたはその塩を製造できる。
【0016】
一方、特許文献1に記載されている製造法A−1では酸アミド化合物と1-メチル-1H-インドールをビルスマイヤー反応により縮合したのち、(+)-ジベンゾイル酒石酸を用い分別結晶法により光学分割してラモセトロンを製造している。しかしながら、光学分割が生産工程の後ろの工程にあると、半分を占める不必要な光学異性体の製造のために原料を余分に使用することになる。しかしながら、製造法A−1では、光学活性な酸アミド化合物を原料として用いても、ビルスマイヤー反応の工程で完全にラセミ化するので、光学純度の高いラモセトロンを得るためには反応後に光学純度を高めるための処理を必要となる。一方、本発明の製造法では、反応が立体を保持したまま高収率で進行することから、光学活性な化合物(I)から高い光学純度のラモセトロンが工業的に効率よく製造することができる。また、製造法A−1ではビルスマイヤー反応の工程で1,2-ジクロロエタンを溶媒として用いているが、現在では医薬品製造に使用すべきではないとされている。一方、本発明の製造法では、トルエンが好適に用いられる。また、製造法A−1により実際に出願人により製造されている塩酸ラモセトロンの製造では、光学純度の高い塩酸ラモセトロン得るために、をラセミ体のラモセトロン、ラモセトロンの(+)-ジベンゾイル酒石酸塩、塩酸ラモセトロンの取出しと精製の工程で、計6回ラモセトロンを含有する結晶を濾過している。一方、本発明の製造法では後述のように1回、精製を含めても2回の濾過で光学純度の高い塩酸ラモセトロンを製造できるので操作が簡便である。
【0017】
また、製造法A−2は、ルイス酸を触媒として用いてヘテロ環化合物(III)と化合物(IV)の酸ハライドとをフリーデルクラフツ(Friedel-Crafts)アシル化反応させることによりテトラヒドロベンズイミダゾール誘導体(V)を製造する方法である。しかしながら、前述のように本製法によるラモセトロンの具体的な製造例は記載されていない。また、特許文献1には類似化合物の製造例として、5-[(ベンゾチオフェン-3-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロベンズイミダゾール及び5-[(2-メチルベンゾフラン-3-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロベンズイミダゾールを、ルイス酸としてそれぞれ塩化アルミニウム、四塩化スズを用いてフリーデルクラフツアシル化反応により製造する方法が記載されているが、いずれも好ましい収率とはいえない。また、ラモセトロンの製造において同様の反応条件を適用すると収率も低く、タール状の高粘性物質が副生し精製が困難であった。このように、ラモセトロンの製造では通常よく用いられるルイス酸は、工業的に用いることができなかった。そこで、本発明者らは鋭意ルイス酸を検討したところ、低級アルキルアルミニウムジハライド、ジ低級アルキルアルミニウムハライド、トリ低級アルキルアルミニウム及び低級アルキルアルミニウムセスキハライドをルイス酸として用いた場合、意外にも副生物が少なく高収率でラモセトロンを製造することができることを見出した。さらに、本発明で用いられるルイス酸を用いてラモセトロンを製造した場合、光学活性な化合物(I)を用いて反応を行うと、意外にも光学純度がほとんど低下することなく立体を保持して反応が進行することが判明した。このことから、本発明の製造法によれば、光学活性な化合物(I)から高い光学純度のラモセトロンが工業的に効率よく製造できる。
【0018】
また、製造法Bでは光学活性な化合物(V)をラベル化したヨウ化メチルでメチル化してラベル化したラモセトロンを製造している。しかしながら、製造法Bはインドールの1位をラベル化するためにnor-YM060を経由している製造法であり、nor-YM060を経由しないラモセトロンの製造法に比べて、1工程長くなる。一方、本発明に寄ればnor-YM060を経由せずに製造するために工程数が短くなる。
【0019】
従って、本発明の製造法は公知の製造法と比較して、(1)高収率である、(2)医薬品製造に使用すべきでない溶媒の使用を回避している、(2)環境への負荷が少ない、(3)総工程数が短縮されている、(4)操作の簡便性が向上している点で優れた製造法である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明をさらに説明すると以下の通りである。
本明細書中、「アルキル」とは直鎖状または分枝状の飽和脂肪族炭化水素鎖を意味する。
「低級アルキル」とは、C1-6のアルキルを意味する。具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、イソプロピル、tert-ブチル等を挙げることができる。好ましくは、メチル、エチルである。
「ハロゲン」とは、F、Cl、Br及びIを意味する。好ましくは、Clである。
【0021】
「トリ低級アルキルアルミニウム」とは、Al(低級アルキル)3で示される化合物を意味する。具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムが挙げられる。好ましくは、トリメチルアルミニウムである。
「低級アルキルアルミニウムジハライド」とは、Al(低級アルキル)(ハロゲン)2で示されろ化合物を意味する。具体的にはメチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライドが挙げられる。好ましくはエチルアルミニウムジクロライドである。
「ジ低級アルキルアルミニウムハライド」とは、Al(低級アルキル)2(ハロゲン)で示される化合物を意味する。具体的には、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライドが挙げられる。好ましくは、ジエチルアルミニウムクロライドである。
「低級アルキルアルミニウムセスキハライド」とは、Al2(低級アルキル)3(ハロゲン)3で示される化合物を意味する。具体的にはメチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライドが挙げられる。好ましくは、エチルアルミニウムセスキクロライドである。
【0022】
フリーデルクラフツアシル化反応の溶媒としての「芳香族炭化水素」とは、フリーデルクラフツアシル化反応の溶媒として用いることのできるものであればいずれでもよい。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼンが挙げられる。好ましくは、トルエンである。
【0023】
「ラモセトロンまたはその塩」における「その塩」とは、ラモセトロンと製薬学的に許容される酸との塩であればいずれでもよく、具体的には、ラモセトロンと、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、酸マロン酸、コハク等の有機酸との酸付加塩を挙げることができる。「ラモセトロンまたはその塩」として好ましくは、ラモセトロン、または塩酸ラモセトロンである。造塩は通常用いられる造塩方法を用いることができる。
また、本発明は、ラモセトロン及び/又その製造原料を構成する原子の一部又は全部を放射性同位元素で置き換えた化合物、いわゆるラベル体の製造法をも包含する。
【0024】
本発明の製造法1は、ルイス酸の存在下、式(I)で示される化合物と1-メチル-1H-インドールを、立体を保持してフリーデルクラフツアシル化反応させるラモセトロンの製造方法である。
反応は、ルイス酸の存在下、当該製造原料を等モル乃至一方を過剰量用い、冷却下乃至加熱下で行うことができ、冷却下で行うことが望ましい。
反応に使用される溶媒は、無溶媒またはベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ニトロメタン、二硫化炭素等の反応に不活性な溶媒若しくはそれらの混合溶媒が用いられる。好ましくは芳香族炭化水素類であり、より好ましくはトルエンである。
ルイス酸は、等量乃至過剰量用いることができ、好ましくはジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライドである。
また、式(I)中のXとしては、Clが好ましい。
【0025】
製造法2は、(R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボン酸またはその塩をハロゲン化剤と反応させて式(I)で示される化合物を得た後、ルイス酸の存在下、1-メチル-1H-インドールと立体を保持してフリーデルクラフツアシル化反応させるラモセトロンの製造方法である。
前半のハロゲン化反応は、当該製造原料を等モル乃至一方を過剰量用い、冷却下乃至加熱還流下で行うことができ、加熱下で行うことが望ましい。
反応は、無溶媒またはベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の反応に不活性な溶媒中若しくはそれらの混合溶媒中行うことができる。好ましくはテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンである。
ハロゲン化剤としては、塩化チオニル、オキザリルクロリド、五塩化リン、臭化チオニル、三臭化リン等通常酸ハロゲン化物の製造に用いられるハロゲン化剤を用いることができる。好ましくは塩化チオニルである。
また、式(I)中のXとしては、Clが好ましい。
【0026】
後半のフリーデルクラフツアシル化反応は、製造法1と同様の方法で反応を行うことができる。
前半の工程で製造した酸ハロゲン化物は、単離してあるいは単離せずに後半の工程で用いることができる。
【0027】
上記の製造法1または製造法2によれば、5-[(1-メチル-1H-インドール-5-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール(以下「化合物A」)またはその塩及び5-[(1-メチル-1H-インドール-6-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール「化合物B」またはその塩を、ラモセトロンまたはその塩に対して合計1%未満で含有する、ラモセトロンまたはその塩を含有する組成物を得ることができる。ラモセトロンまたはその塩に対する、化合物Aまたはその塩及び化合物Bまたはその塩の含有率は、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.2%未満、さらにより好ましくは0.1%未満である。このようにして得られたラモセトロンまたはその塩を含有する組成物は抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)、下痢型過敏性腸症候群、過敏性腸症候群の下痢症状等の治療剤及び/または予防剤として使用することができる。
【0028】
化合物A及び化合物Bの構造を以下に示す。
【化5】

【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0030】
実施例1
(R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボン酸一塩酸塩(99.4%e.e.)4.05g、ジメトキシエタン120mL、塩化チオニル5.47gの混合物を70℃で2時間加熱することで、塩化(R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボニルを合成し、溶媒を減圧蒸留した。残渣にトルエン80mLを加え再び減圧蒸留し、残渣にトルエン120mL、1-メチル-1H-インドール5.24gを加え、窒素雰囲気下で-40℃に冷却した。この液に1.0mol/Lのエチルアルミニウムセスキクロライドのトルエン溶液30mLをゆっくりと加え-40℃で3時間攪拌し、攪拌後テトラヒドロフラン10mLを加えた。この液を0℃に冷却した水160mL中にゆっくりと分散し、有機層を除去後、水層をトルエン40mLで洗浄し、これに2-ブタノン80mLと20%水酸化ナトリウム水溶液50mLを加えて抽出した。水層を2-ブタノン40mLで洗浄し、有機層を合わせて、10%食塩水20mLで2回、続いて水4mLで洗浄した。得られた有機層にエタノール40mLを加え減圧蒸留、再度残渣にエタノール40mLを加え減圧蒸留した。エタノールと酢酸エチル(1:3)の混合溶媒120mLを残渣に加え、70℃で4mol/L塩化水素酢酸エチル溶液を5mL加え1時間加熱し、ゆっくりと冷却0℃まで冷却した。析出した結晶を濾過し、エタノール-酢酸エチル混合溶媒で結晶を洗浄後、50℃で真空乾燥することにより、(-)-(R)-5-[(1-メチル-1H-インドール-3-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール一塩酸塩4.98g(収率78.8%, 99.5%e.e.)を得た。
FAB−MS(m/z):280 [M+H+]
1H NMR(DMSO-d6, 30℃):δppm(TMS内部標準):1.82-1.95 (1H, m), 2.12-2.22 (1H, m), 2.66-2.94 (4H, m), 3.63-3.72 (1H, m), 3.88 (3H, s), 7.24 (1H, t, J = 8.0Hz), 7.30 (1H, t, J = 8.0Hz), 7.56 (1H, d, J = 8.0Hz),8.22 (1H, d, J = 8.0Hz), 8.53 (1H, s), 8.90 (1H, s), 14.42 (1H, br)
【0031】
実施例2
(R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボン酸一塩酸塩(99.4%e.e.)4.05g、ジメトキシエタン120mL、塩化チオニル5.47gの混合物を70℃で2時間加熱することで、塩化(R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボニルを合成し、溶媒を減圧蒸留した。残渣にトルエン80mLを加え再び減圧蒸留し、残渣にトルエン120mL、1-メチル-1H-インドール5.24gを加え、窒素雰囲気下で-25℃に冷却した。この液に1.8mol/Lのジエチルアルミニウムクロライドのトルエン溶液33mLをゆっくりと加え-25℃で2時間攪拌し、攪拌後テトラヒドロフラン8mLを加えた。この液を0℃に冷却した水100mL中にゆっくりと分散した後、45℃に加温した。有機層を除去後、水層をトルエン40mLで洗浄し、これに2-ブタノン80mLと20%水酸化ナトリウム水溶液50mLを加えて抽出した。水層を2-ブタノン40mLで洗浄し、有機層を合わせて、10%食塩水20mLで2回、続いて水4mLで洗浄した。得られた有機層を減圧蒸留し、残渣にエタノール40mLを加え減圧蒸留、再度残渣にエタノール40mLを加え減圧蒸留した。エタノールと酢酸エチル(1:3)の混合溶媒120mLを残渣に加え、70℃で4mol/L塩化水素酢酸エチル溶液を5mL加え12時間加熱し、ゆっくりと冷却0℃まで冷却した。析出した結晶を濾過し、エタノール-酢酸エチル混合溶媒で結晶を洗浄後、50℃で真空乾燥することにより(-)-(R)-5-[(1-メチル-1H-インドール-3-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール一塩酸塩5.45g(収率86.3%, 99.2%e.e.)を得た。
FAB−MS(m/z):280 [M+H+]
1H NMR(DMSO-d6, 30℃):δppm(TMS内部標準):1.82-1.95 (1H, m), 2.12-2.22 (1H, m), 2.66-2.94 (4H, m), 3.63-3.72 (1H, m), 3.88 (3H, s), 7.24 (1H, t, J = 8.0Hz), 7.30 (1H, t, J = 8.0Hz), 7.56 (1H, d, J = 8.0Hz),8.21 (1H, d, J = 8.0Hz), 8.53 (1H, s), 8.91 (1H, s), 14.45 (1H, br)
【0032】
実施例1または実施例2で得られたラモセトロンを含有する組成物におけるラモセトロンを100%としたときの化合物A及び化合物Bの含有率を表1に示す。
なお、化合物A及び化合物Bの定量は、次の条件で液体クロマトグラフ法により行い、ピーク面積を自動積分法により測定した。
各化合物の含有率(%)=A/B
[式中、Aは試料中の各化合物のピーク面積、Bはラモセトロンのピーク面積を示す。]
【0033】
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長254nm)
カラム:野村化学 Develosil C8-5 4.6mmIDX150mm
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動層:0.05M KH2PO4水溶液(pH 4.0 H3PO4で調整):MeOH:THF=8:1:1
流速:0.82ml/分
【0034】
上記条件で測定したところ、ラモセトロン、化合物A、化合物Bの保持時間は実施例1ではそれぞれ約7.41分、約9.45分、約11.91分であり、実施例2では約7.01分、約9.00分、約12.46分であった。
【表1】

【0035】
化合物A、化合物Bの物性値を以下に示す。

化合物A:
LC-ESI:280 [M+H+]
1H-NMR(DMSO-d6, 30℃):δppm(TMS内部標準) 1.70-1.83 (1H, m)、2.05-2.14(1H, m)、2.49-2.76(4H, m)、3.84(3H, s)、3.86-3.93 (1H, m)、6.61(1H, d, J = 3.1Hz)、7.43(1H, s)、7.44(1H, d, J = 3.1Hz)、7.54(1H, d J = 8.9Hz)、7.83(1H, d J = 8.9Hz)、8.36(1H,s)

化合物B:
LC-ESI:280 [M+H+]
1H-NMR(DMSO-d6, 30℃):δppm(TMS内部標準) 1.72-1.83 (1H, m)、2.05-2.12(1H, m)、2.52-2.78(4H, m)、3.89(3H, s)、3.93-4.03 (1H, m)、6.52(1H, d, J = 3.1Hz)、7.43(1H, s)、7.57(1H, d, J = 3.1Hz)、7.64(1H, d J = 8.2Hz)、7.70(1H, dd, J = 8.2Hz, J = 1.2Hz)、8.20(1H,s)
【産業上の利用可能性】
【0036】
上述のように本発明の製造法によれば、立体を保持して反応が進行するため、製造容易な(R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボン酸またはその塩から高収率で光学純度の高いラモセトロンまたはその塩を製造できる。また、上記製造法により得られたラモセトロンまたはその塩を含有する組成物は抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)、下痢型過敏性腸症候群、過敏性腸症候群の下痢症状等の治療剤及び/または予防剤として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-[(1-メチル-1H-インドール-5-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール若しくはその塩及び/または5-[(1-メチル-1H-インドール-6-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール若しくはその塩を、ラモセトロンまたはその塩に対して合計1%未満で含有することを特徴とする、ラモセトロンまたはその塩を含有する組成物。

【公開番号】特開2010−215668(P2010−215668A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154513(P2010−154513)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【分割の表示】特願2007−512992(P2007−512992)の分割
【原出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】