説明

ランキンサイクルシステム

【課題】熱交換器において冷媒の温度を効率よく高くするランキンサイクルシステムを提供する。
【解決手段】車両に搭載され、冷媒を循環させる冷媒ポンプ32と、エンジンを冷却する冷却水と冷媒との間で熱交換を行う熱交換器36と、冷媒を膨張させることによって冷媒に回収された廃熱を動力に変換する膨張機37と、膨張機37によって膨張した冷媒を凝縮させる凝縮器38とを備えるランキンサイクルシステム30において、熱交換器36は、エンジンの排気通路3に隣接して設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はランキンサイクルシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のランキンサイクルにおいて、蒸発器によって水を蒸発させて、高温高圧蒸気を膨張機に供給し、膨張機で出力を発生させるものが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−182504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記発明では、内燃機関の冷却水とランキンサイクルの冷媒との間で熱交換を行う熱交換器を有するランキンサイクルについては考慮されていない。
【0005】
冷却水と冷媒との間で熱交換を行う熱交換器を用いたランキンサイクルでは、内燃機関の熱が冷却水を介して冷媒に伝えられるために、運転条件によっては熱交換効率が悪くなる、といった問題点がある。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、内燃機関の冷却水とランキンサイクルの冷媒との間で熱交換を行う熱交換器において熱交換効率を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係るランキンサイクルシステムは、車両に搭載され、冷媒を循環させる冷媒ポンプと、エンジンを冷却する冷却水と冷媒との間で熱交換を行う熱交換器と、冷媒を膨張させることによって冷媒に回収された廃熱を動力に変換する膨張機と、膨張機によって膨張した冷媒を凝縮させる凝縮器とを備えるランキンサイクルシステムである。熱交換器は、エンジンの排気通路に隣接して設けられる。
【発明の効果】
【0008】
この態様によると、温度が高くなる排気通路に隣接して熱交換器が設けられるので、排気通路からの熱によって熱交換器を暖め、熱交換効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態の統合サイクルの概略構成図である。
【図2A】ポンプ及び膨張機を一体化した膨張機ポンプの概略断面図である。
【図2B】冷媒ポンプの概略断面図である。
【図2C】膨張機の概略断面図である。
【図3】冷媒系バルブの機能を示す概略図である。
【図4】ハイブリッド車両の概略構成図である。
【図5】エンジンの概略斜視図である。
【図6】ハイブリッド車両を下方から見た概略図である。
【図7A】ランキンサイクル運転域の特性図である。
【図7B】ランキンサイクル運転域の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は本発明の前提となるランキンサイクル31のシステム全体を表した概略構成図を示している。図1のランキンサイクル31は、冷凍サイクル51と冷媒および凝縮器38を共有する構成になっており、ランキンサイクル31と冷凍サイクル51を統合したランキンサイクルシステムのことを、これ以降統合サイクル30と表現する。図4は統合サイクル30が搭載されるハイブリッド車両1の概略構成図である。尚、統合サイクル30は、ランキンサイクル31と冷凍サイクル51の冷媒が循環する回路(通路)及びその途中に設けられたポンプ、膨張機、凝縮器等の構成要素に加え、冷却水や排気の回路(通路)等を含めたシステム全体を指すものとする。
【0012】
ハイブリッド車両1では、エンジン2、モータジェネレータ81、自動変速機82が直列に連結され、自動変速機82の出力はプロペラシャフト83、ディファレンシャルギヤ84を介して駆動輪85に伝達される。エンジン2とモータジェネレータ81の間には第1駆動軸クラッチ86を設けている。また、自動変速機82の摩擦締結要素の一つが第2駆動軸クラッチ87として構成されている。第1駆動軸クラッチ86と第2駆動軸クラッチ87は、エンジンコントローラ71に接続されており、ハイブリッド車両の運転条件に応じてその断接(接続状態)が制御される。ハイブリッド車両1では、図7Bに示すように、車速がエンジン2の効率が悪いEV走行領域にあるときには、エンジン2を停止し第1駆動軸クラッチ86を遮断し第2駆動軸クラッチ87を接続してモータジェネレータ81による駆動力のみでハイブリッド車両1の走行を行わせる。一方、車速がEV走行領域を外れてランキンサイクル運転域に移行したときには、エンジン2を運転してランキンサイクル31(後述する)を運転する。エンジン2は排気通路3を備え、排気通路3は、排気マニホールド4と、排気マニホールド4の集合部に接続される排気管5とから構成される。排気管5は途中でバイパス排気管6と分岐しており、バイパス排気管6にバイパスされる区間の排気管5には、排気と冷却水との間で熱交換を行なうための廃熱回収器22を備える。廃熱回収器22とバイパス排気管6は、図6に示すように、これらを一体化した廃熱回収ユニット23として、床下触媒88とその下流のサブマフラー89との間に配置される。
【0013】
図1に基づき、まず、エンジン冷却水回路について説明する。エンジン2を出た80〜90℃程度の冷却水は、ラジエータ11を通る冷却水通路13と、ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14とに別れて流れる。その後、2つの流れは、両通路13、14を流れる冷却水流量の配分を決めるサーモスタットバルブ15で再び合流し、さらに冷却水ポンプ16を経てエンジン2に戻る。冷却水ポンプ16はエンジン2によって駆動され、その回転速度はエンジン回転速度と同調している。サーモスタットバルブ15は、冷却水温度が高い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を大きくしてラジエータ11を通過する冷却水の流量を相対的に増やし、冷却水温度が低い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を小さくしてラジエータ11を通過する冷却水の流量を相対的に減らす。エンジン2の暖機前など特に冷却水温度が低い場合には、完全にラジエータ11をバイパスさせて冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる。一方、バイパス冷却水通路14側のバルブ開度は全閉になることはなく、ラジエータ11を流れる冷却水流量が多くなったときに、バイパス冷却水通路14を流れる冷却水の流量は、冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる場合と比べて低下するが、流れが完全に停止することがないようにサーモスタットバルブ15が構成されている。ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14は、冷却水通路13から分岐して後述の熱交換器36に直接接続する第1バイパス冷却水通路24と、冷却水通路13から分岐して廃熱回収器22を経た後に熱交換器36に接続する第2バイパス冷却水通路25とからなる。
【0014】
バイパス冷却水通路14には、ランキンサイクル31の冷媒と熱交換を行なう熱交換器36を備える。この熱交換器36は蒸発器と過熱器とを統合したものである。すなわち、熱交換器36には2つの冷却水通路36a、36bがほぼ一列に、また、冷媒と冷却水が熱交換可能なようにランキンサイクル31の冷媒が流れる冷媒通路36cは冷却水通路36a、36bと隣接して設けられている。さらに熱交換器36の全体を俯瞰して見たときにランキンサイクル31の冷媒と冷却水が互いに流れ方向が逆向きとなるように各通路36a、36b、36cが構成されている。
【0015】
詳細には、ランキンサイクル31の冷媒にとって上流(図1の左)側に位置する一方の冷却水通路36aは、第1バイパス冷却水通路24に介装されている。この冷却水通路36a及びこの冷却水通路36aに隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器左側部分は、エンジン2から出た冷却水を冷却水通路36aに直接導入することで、冷媒通路36cを流れるランキンサイクル31の冷媒を加熱するための蒸発器である。
【0016】
ランキンサイクル31の冷媒にとって下流(図1の右)側に位置する他方の冷却水通路36bには、第2バイパス冷却水通路25を介して廃熱回収器22を経た冷却水が導入される。冷却水通路36b及びこの冷却水通路36bに隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器右側部分(ランキンサイクル31の冷媒にとって下流側)は、エンジン2の出口の冷却水を排気によってさらに加熱した冷却水を冷却水通路36bに導入することで、冷媒通路36cを流れる冷媒を過熱する過熱器である。
【0017】
廃熱回収器22の冷却水通路22aは排気管5に隣接して設けている。廃熱回収器22の冷却水通路22aにエンジン2の出口の冷却水を導入することで、冷却水を高温の排気によって例えば110〜115℃程度まで加熱することができる。廃熱回収器22の全体を俯瞰して見たときに、排気と冷却水とが互いに流れる向きが逆向きとなるように冷却水通路22aが構成されている。
【0018】
廃熱回収器22を設けた第2バイパス冷却水通路25には制御弁26が介装されている。エンジン2の内部にある冷却水の温度を指すエンジン水温が、例えばエンジン2の効率悪化やノックを発生させないための許容温度(例えば100℃)を超えないように、エンジン2の出口の冷却水温度センサ74の検出温度が所定値以上になると、この制御弁26の開度を減少させるようにしている。エンジン水温が許容温度に近づくと、廃熱回収器22を通過する冷却水量を減少させるので、エンジン水温が許容温度を超えてしまうことを確実に防ぐことができる。
【0019】
一方、第2バイパス冷却水通路25の流量が減少したことによって、廃熱回収器22により上昇する冷却水温度が上がりすぎて冷却水が蒸発(沸騰)してしまったのでは、冷却水通路内の冷却水の流れが悪くなって部品温度が過剰に上昇してしまう恐れがある。これを避けるため、廃熱回収器22をバイパスするバイパス排気管6と、廃熱回収器22の排気通過量とバイパス排気管6の排気通過量とをコントロールするサーモスタットバルブ7をバイパス排気管6の分岐部に設けている。すなわち、サーモスタットバルブ7は、そのバルブ開度が廃熱回収器22を出た冷却水温度が所定の温度(例えば沸騰温度120℃)を超えないように、廃熱回収器22を出た冷却水温度に基づいて調節される。
【0020】
熱交換器36とサーモスタットバルブ7と廃熱回収器22とは、廃熱回収ユニット23として一体化されていて、車幅方向略中央の床下において排気管途中に配設されている。サーモスタットバルブ7は、バイメタル等を用いた比較的簡易な感温弁でも良いし、温度センサ出力が入力されるコントローラによって制御される制御弁であっても良い。サーモスタットバルブ7による排気から冷却水への熱交換量の調節は比較的大きな遅れを伴うため、サーモスタットバルブ7を単独で調節したのではエンジン水温が許容温度を超えないようにするのが難しい。しかしながら、第2バイパス冷却水通路25の制御弁26をエンジン水温(出口温度)に基づき制御するようにしてあるので、熱回収量を速やかに低減し、エンジン水温が許容温度を超えるのを確実に防ぐことができる。また、エンジン水温が許容温度までに余裕がある状態であれば、廃熱回収器22を出る冷却水温度がエンジン水温の許容温度を越えるほどの高温(例えば110〜115℃)になるまで熱交換を行って、廃熱回収量を増加させることができる。冷却水通路36bを出た冷却水は、第2バイパス冷却水通路25を介して第1バイパス冷却水通路24に合流されている。
【0021】
バイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、例えば熱交換器36でランキンサイクル31の冷媒と熱交換することによって十分低下していれば、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が小さくされて、ラジエータ11を通過する冷却水の流量は相対的に減らされる。逆にバイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、ランキンサイクル31が運転されていないことなどによって高くなると、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が大きくされて、ラジエータ11を通過する冷却水の流量は相対的に増やされる。このようにサーモスタットバルブ15の動作によって、エンジン水温(エンジン2内の冷却水温度)を適当に保ちつつ、ランキンサイクル31への熱の供給も適当に行なわれるように構成されている。
【0022】
次に、ランキンサイクル31について述べる。ここでは、ランキンサイクル31は、単純なランキンサイクルでなく、冷凍サイクル51と統合した統合サイクル30の一部として構成されている。以下では、基本となるランキンサイクル31を先に説明し、その後に冷凍サイクル51に言及する。
【0023】
ランキンサイクル31は、エンジン2の冷却水を介してエンジン2の廃熱を冷媒に回収し、回収した廃熱を動力として回生するシステムである。ランキンサイクル31は、冷媒ポンプ32、過熱器としての熱交換器36、膨張機37及び凝縮器(コンデンサ)38を備え、各構成要素は冷媒(R134a等)が循環する冷媒通路41〜44により接続されている。
【0024】
冷媒ポンプ32の軸は同一の軸上で膨張機37の出力軸と連結配置され、膨張機37の発生する出力(動力)によって冷媒ポンプ32を駆動すると共に、発生動力をエンジン2の出力軸(クランク軸)に供給する構成である(図2A参照)。すなわち、冷媒ポンプ32の軸及び膨張機37の出力軸は、エンジン2の出力軸と平行に配置され、冷媒ポンプ32の軸の先端に設けたポンププーリ33と、クランクプーリ2aとの間にベルト34を掛け回している(図1参照)。なお、本実施形態の冷媒ポンプ32としてはギヤ式のポンプを、膨張機37としてはスクロール式の膨張機を採用している(図2B、図2C参照)。
【0025】
また、ポンププーリ33と冷媒ポンプ32との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「膨張機クラッチ」という。)35(第1クラッチ)を設けて、冷媒ポンプ32及び膨張機37とを、エンジン2と断接可能にしている(図2A参照)。このため、膨張機37の発生する出力が冷媒ポンプ32の駆動力及び回転体が有するフリクションを上回る場合(予測膨張機トルクが正の場合)に膨張機クラッチ35を接続することで、膨張機37の発生する出力によってエンジン出力軸の回転をアシスト(補助)することができる。このように廃熱回収によって得たエネルギを用いてエンジン出力軸の回転をアシストすることで、燃費を向上できる。また、冷媒を循環させる冷媒ポンプ32を駆動するためのエネルギも、回収した廃熱で賄うことができる。なお、膨張機クラッチ35は、エンジン2から冷媒ポンプ32及び膨張機37に至る動力伝達経路の途中であればどこに設けられていてもよい。
【0026】
冷媒ポンプ32からの冷媒は冷媒通路41を介して熱交換器36に供給される。熱交換器36は、エンジン2の冷却水と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を気化し過熱する熱交換器である。
【0027】
熱交換器36からの冷媒は冷媒通路42を介して膨張機37に供給される。膨張機37は、気化し過熱された冷媒を膨張させることにより熱を回転エネルギに変換する蒸気タービンである。膨張機37は、図5に示すようにエンジン2に搭載されている。熱交換器36と膨張機37とを接続する冷媒通路42は、排気マニホールド4の近傍に配置される。膨張機37で回収された動力は冷媒ポンプ32を駆動し、ベルト伝動機構を介してエンジン2に伝達され、エンジン2の回転をアシストする。
【0028】
膨張機37からの冷媒は冷媒通路43を介して凝縮器38に供給される。凝縮器38は、外気と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を冷却し液化する熱交換器である。このため、凝縮器38をラジエータ11と並列に配置し、ラジエータファン12によって冷却するようにしている。
【0029】
凝縮器38により液化された冷媒は、冷媒通路44を介して冷媒ポンプ32に戻される。冷媒ポンプ32に戻された冷媒は、冷媒ポンプ32により再び熱交換器36に送られ、ランキンサイクル31の各構成要素を循環する。
【0030】
次に、冷凍サイクル51について述べる。冷凍サイクル51は、ランキンサイクル31を循環する冷媒を共用するため、ランキンサイクル31と統合され、冷凍サイクル51の構成そのものは簡素になっている。すなわち、冷凍サイクル51は、コンプレッサ(圧縮機)52、凝縮器38、エバポレータ(蒸発器)55を備える。
【0031】
コンプレッサ52は冷凍サイクル51の冷媒を高温高圧に圧縮する流体機械で、エンジン2によって駆動される。すなわち、図4にも示したようにコンプレッサ52の駆動軸にはコンプレッサプーリ53が固定され、このコンプレッサプーリ53とクランクプーリ2aとにベルト34を掛け回している。エンジン2の駆動力がこのベルト34を介してコンプレッサプーリ53に伝達され、コンプレッサ52が駆動される。また、コンプレッサプーリ53とコンプレッサ52との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「コンプレッサクラッチ」という。)54(第2クラッチ)を設けて、コンプレッサ52とコンプレッサプーリ53とを断接可能にしている。
【0032】
図1に戻り、コンプレッサ52からの冷媒は冷媒通路56を介して冷媒通路43に合流した後、凝縮器38に供給される。凝縮器38は外気との熱交換によって冷媒を凝縮し液化する熱交換器である。凝縮器38からの液状の冷媒は、冷媒通路44から分岐する冷媒通路57を介してエバポレータ(蒸発器)55に供給される。エバポレータ55は、図示しないヒータコアと同様にエアコンユニットのケース内に配設されている。エバポレータ55は、凝縮器38からの液状冷媒を蒸発させ、そのときの蒸発潜熱によってブロアファンからの空調空気を冷却する熱交換器である。
【0033】
エバポレータ55によって蒸発した冷媒は冷媒通路58を介してコンプレッサ52に戻される。なお、エバポレータ55によって冷却された空調空気とヒータコアによって加熱された空調空気は、エアミックスドアの開度に応じて混合比率が変更され、乗員の設定する温度に調節される。
【0034】
ランキンサイクル31と冷凍サイクル51とからなる統合サイクル30には、サイクル内を流れる冷媒を制御するため、回路途中に各種の弁が適宜設けられている。例えばランキンサイクル31を循環する冷媒を制御するため、冷凍サイクル分岐点45と冷媒ポンプ32とを連絡する冷媒通路44にポンプ上流弁61、熱交換器36と膨張機37とを連絡する冷媒通路42に膨張機上流弁62を備える。また、冷媒ポンプ32と熱交換器36とを連絡する冷媒通路41には、熱交換器36から冷媒ポンプ32への冷媒の逆流を防止するため逆止弁63を備えている。膨張機37と冷凍サイクル合流点46とを連絡する冷媒通路43にも、冷凍サイクル合流点46から膨張機37への冷媒の逆流を防止するため逆止弁64を備えている。また、膨張機上流弁62上流から膨張機37をバイパスして逆止弁64上流に合流する膨張機バイパス通路65を設け、この膨張機バイパス通路65にバイパス弁66を設けている。さらに、バイパス弁66をバイパスする通路67に圧力調整弁68を設けている。冷凍サイクル51側についても、冷凍サイクル分岐点45とエバポレータ55とを接続する冷媒通路57にエアコン回路弁69を設けている。
【0035】
上記4つの弁61、62、66、69はいずれも電磁式の開閉弁である。圧力センサ72により検出される膨張機上流圧力の信号、圧力センサ73により検出される凝縮器38の出口の冷媒圧力Pdの信号、膨張機37の回転速度信号等がエンジンコントローラ71に入力されている。エンジンコントローラ71では、所定の運転条件に応じ、これらの各入力信号に基づいて、冷凍サイクル51のコンプレッサ52や、ラジエータファン12の制御を行なうとともに、上記4つの電磁式開閉弁61、62、66、69の開閉を制御する。
【0036】
例えば、圧力センサ72により検出される膨張機上流側圧力及び膨張機回転速度に基づいて膨張機トルク(回生動力)を予測し、この予測膨張機トルクが正のとき(エンジン出力軸の回転をアシストすることができるとき)に膨張機クラッチ35を締結し、予測膨張機トルクがゼロないし負のときに膨張機クラッチ35を解放する。センサ検出圧力と膨張機回転速度とに基づくことで、排気温度から膨張機トルク(回生動力)を予測する場合とくらべ、高い精度で膨張機トルクを予測することができ、膨張機トルクの発生状況に応じて膨張機クラッチ35の締結・解放を適切に行うことができる(詳細は特開2010−190185号公報参照)。
【0037】
上記4つの開閉弁61、62、66、69及び2つの逆止弁63、64は、冷媒系バルブである。これらの冷媒系バルブの機能を改めて図3に示す。
【0038】
図3において、ポンプ上流弁61は、冷媒ポンプ32の入口に設けられるポンプ上流弁61は、ランキンサイクル31の停止中等、冷凍サイクル51の回路に比べてランキンサイクル31の回路に冷媒が偏り易くなる所定の条件で閉じることで、ランキンサイクル31への冷媒(潤滑成分含む)の偏りを防止するためのもので、後述するように、膨張機37下流の逆止弁64と協働してランキンサイクル31の回路を閉塞させる。膨張機上流弁62は、熱交換器36からの冷媒圧力が相対的に低い場合に冷媒通路42を遮断し熱交換器36からの冷媒が高圧になるまで保持することができるようにするものである。これによって、膨張機トルクが十分得られない場合でも冷媒の加熱を促し、例えばランキンサイクル31が再起動する(回生が実際に行なえるようになる)までの時間を短縮させることができる。バイパス弁66は、ランキンサイクル31の始動時等にランキンサイクル31側に存在する冷媒量が十分でないときなどに、膨張機37をバイパスさせた上で冷媒ポンプ32の作動が行えるように開弁し、ランキンサイクル31の起動時間を短縮するためのものである。膨張機37をバイパスさせた上で冷媒ポンプ32を作動させることで、凝縮器38の出口あるいは冷媒ポンプ32の入口の冷媒温度が、その部位の圧力を考慮した沸点から所定温度差(サブクール度SC)以上に低下した状態が実現されれば、ランキンサイクル31には十分な液体冷媒が供給できる状態が整ったことになる。
【0039】
熱交換器36上流の逆止弁63は、バイパス弁66、圧力調整弁68、膨張機上流弁62と協働して膨張機37に供給される冷媒を高圧に保持するためのものである。ランキンサイクルの回生効率が低い条件ではランキンサイクルの運転を停止し、熱交換器の前後区間に亘って回路を閉塞することで、停止中の冷媒圧力を上昇させておき、高圧冷媒を利用してランキンサイクルが速やかに再起動できるようにする。圧力調整弁68は膨張機37に供給される冷媒の圧力が高くなり過ぎた場合に開いて、高くなり過ぎた冷媒を逃すリリーフ弁の役割を有している。
【0040】
膨張機37下流の逆止弁64は、上述のポンプ上流弁61と協働してランキンサイクル31への冷媒の偏りを防止するためのものである。ハイブリッド車両1の運転開始直後、エンジン2が暖まっていないとランキンサイクル31が冷凍サイクル51より低温となり、冷媒がランキンサイクル31側に偏ることがある。ランキンサイクル31側に偏る確率はそれほど高くないものの、例えば夏場の車両運転開始直後には、車内を早く冷やしたい状況にあって冷房能力が最も要求されることから、冷媒の僅かな偏在も解消して冷凍サイクル51の冷媒を確保したいという要求がある。そこで、ランキンサイクル31側への冷媒の偏在を防止するため逆止弁64を設けたものである。
【0041】
コンプレッサ52は、駆動停止時に冷媒が自由通過できる構造ではなく、エアコン回路弁69と協働して冷凍サイクル51への冷媒の偏りを防止することができる。これについて説明する。冷凍サイクル51の運転が停止したとき、定常運転中の比較的高い温度のランキンサイクル31側から冷凍サイクル51側へと冷媒が移動して、ランキンサイクル31を循環する冷媒が不足することがある。冷凍サイクル51の中で、冷房停止直後はエバポレータ55の温度が低くなっていて、比較的容積が大きく温度が低くなっているエバポレータ55に冷媒が溜まり易い。この場合に、コンプレッサ52の駆動停止によって凝縮器38からエバポレータ55への冷媒の動きを遮断するとともに、エアコン回路弁69を閉じることで、冷凍サイクル51への冷媒の偏りを防止するのである。
【0042】
次に、図5はエンジン2全体のパッケージを示すエンジン2の概略斜視図である。図5において特徴的なのは、熱交換器36がエンジン2の排気通路3に隣接して配置されていることである。具体的には、熱交換器36は排気マニホールド4の鉛直上方に排気マニホールド4に隣接して配置されている。排気マニホールド4の鉛直上方のスペースに熱交換器36を排気マニホールド4と隣接して配置することによって、ランキンサイクル31のエンジン2への搭載性を向上させている。また、排気マニホールド4の鉛直上方のスペースに熱交換器36を隣接して配置することによって、排気マニホールド4を流れる排気ガスの熱により、熱交換器36を暖めることができる。また、エンジン2にはテンションプーリ8が設けられる。
【0043】
排気マニホールド4を流れる排気ガスの温度は、エンジン2が高負荷、または高回転速度となると高くなる。そのため、エンジン2が高負荷、または高回転速度となるにつれて排気マニホールド4から熱交換器36へ伝わる熱量が多くなる。
【0044】
次に、ランキンサイクル31の基本的な運転方法を図7A及び図7Bを参照して説明する。
【0045】
まず、図7A及び図7Bはランキンサイクル31の運転領域図である。図7Aには横軸を外気温、縦軸をエンジン水温(冷却水温度)としたときのランキンサイクル31の運転域を、図7Bには横軸をエンジン回転速度、縦軸をエンジントルク(エンジン負荷)としたときのランキンサイクル31の運転域を示している。
【0046】
図7A及び図7Bのいずれにおいても所定の条件を満たしたときにランキンサイクル31を運転するもので、これら両方の条件が満たされた場合にランキンサイクル31を運転する。図7Aにおいては、エンジン2の暖機を優先する低水温側の領域と、コンプレッサ52の負荷が増大する高外気温側の領域でランキンサイクル31の運転を停止している。エンジン2の排気ガスの温度が低く回収効率が悪い暖機時は、むしろランキンサイクル31を運転しないことで冷却水温度を速やかに上昇させる。高い冷房能力が要求される高外気温時はランキンサイクル31を止めて、冷凍サイクル51に十分な冷媒と凝縮器38の冷却能力を提供する。図7Bにおいては、ハイブリッド車両であるので、EV走行領域と、膨張機37のフリクションが増大する高回転速度側の領域でランキンサイクル31の運転を停止している。膨張機37は全ての回転速度でフリクションが少ない高効率な構造とすることが難しいことから、図7Bの場合では、運転頻度の高いエンジン回転速度域でフリクションが小さく高効率となるように、膨張機37が構成(膨張機37各部のディメンジョン等が設定)されている。
【0047】
次に本実施形態の効果について説明する。
【0048】
熱交換器4を排気通路3に隣接して設けることで、排気通路3内の排気ガスの熱によって熱交換器36を暖め、熱交換器36によって冷媒を効率よく暖めることができる。特に温度が高い排気ガスが流れる排気マニホールド4に隣接して熱交換器36を設けることで、熱交換器36によって冷媒を効率よく暖めることができる。またエンジン2付近の空き空間を有効に利用することができ、レイアウト効率を良くすることができる。
【0049】
エンジン2が高負荷、または高回転速度となると冷却水の温度が高くなるので、サーモスタットバルブ15によってラジエータ11に冷却水を循環させる冷却水通路13への冷却水の流量は相対的に多くなり、エンジン2内の冷却水温度は適温に保たれる。この場合、熱交換器36に流れる冷却水の流量が相対的に少なくなり、冷却水から熱交換器36に伝わる熱量が少なくなる。冷却水の温度が高く、熱交換器36を流れる冷却水の流量が相対的に少なくなった場合でも、本実施形態では排気通路3、特に排気マニホールド4に隣接して熱交換器36を設けることで、熱交換器36の温度が低下することを抑制することができる。エンジン2が高負荷、または高回転速度となっている場合には、排気ガスの温度も高くなっているので、排気ガスの熱によって熱交換器36の温度が低下することを抑制することができる。
【0050】
また、エンジン2の負荷および回転速度が比較的小さく、冷却水の温度が低くなると、熱交換器36を流れる冷却水の流量が相対的に多くなる。そのため熱交換器36において冷却水から冷媒に伝わる熱量が多くなるが、排気ガスの温度が比較的低いので排気通路3(排気マニホールド4)から熱交換器36に伝わる熱量は少なくなり、熱交換器36の温度が過剰に上昇することを防止することができる。
【0051】
このように、本実施形態では、エンジン2の冷却水の温度を適温に保ちつつ、熱交換器36の温度も適温に保つことができる。
【0052】
エンジン、ランキンサイクルを停止した後に熱交換器が急速に温度低下すると、熱交換器に冷媒が滞留する。冷媒を冷凍サイクル51と共用している場合に、熱交換器36に冷媒が滞留すると、次回の始動時に冷凍サイクル51で冷媒不足が生じ、冷凍サイクル51を素早く運転させることができなくなるおそれがある。本実施形態では、熱交換器36を排気通路3(排気マニホールド4)に隣接して設けているので、エンジン2、ランキンサイクル31の運転を停止した後であっても、しばらく間は排気通路3(排気マニホールド4)の熱によって熱交換器36の温度低下を抑制することができる。そのため、エンジン2、ランキンサイクル31を停止した後に熱交換器36に冷媒が滞留することを抑制することができる。そのため、次回の始動時に、冷凍サイクル51における冷媒不足を抑制することができ、冷凍サイクル51を素早く運転させることができる。
【0053】
熱交換器36と膨張機37とを接続する冷媒通路42を排気マニホールド4に隣接して配置することで、冷媒通路42の長さを短くすることができ、コストを削減することができる。また、冷媒通路42における圧力損失を低減することができ、ランキンサイクル31の効率を向上することができる。
【0054】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【0055】
本実施形態では、熱交換器における冷却水の循環をサーモスタットバルブ15によって制御したが、エンジンコントローラ71によってバルブなどを制御することで行っても良い。この場合には、冷却水の水温に基づいてバルブなどが制御される。
【符号の説明】
【0056】
2 エンジン
3 排気通路
4 排気マニホールド
11 ラジエータ
13 冷却水通路
14 バイパス冷却水通路(バイパス通路)
15 サーモスタットバルブ(流量制御手段)
30 統合サイクル(ランキンサイクルシステム)
31 ランキンサイクル
32 冷媒ポンプ
36 熱交換器
37 膨張機
38 凝縮器
42 冷媒通路
51 冷凍サイクル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、冷媒を循環させる冷媒ポンプと、
エンジンを冷却する冷却水と前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器と、
前記冷媒を膨張させることによって前記冷媒に回収された廃熱を動力に変換する膨張機と、
前記膨張機によって膨張した前記冷媒を凝縮させる凝縮器とを備えるランキンサイクルシステムにおいて、
前記熱交換器は、前記エンジンの排気通路に隣接して設けられることを特徴とするランキンサイクルシステム。
【請求項2】
前記冷却水の温度を下げるラジエータと、
前記ラジエータに前記冷却水を循環させる冷却水通路と、
前記ラジエータをバイパスして前記熱交換器に前記冷却水を循環させるバイパス通路と、
前記冷却水通路を流れる前記冷却水の流量と前記バイパス通路を流れる前記冷却水の流量とを制御する流量制御手段とを備え、
前記流量制御手段は、前記冷却水の温度が高くなるにつれて前記バイパス通路を流れる前記冷却水の流量を多くすることを特徴とする請求項1に記載のランキンサイクルシステム。
【請求項3】
前記熱交換器は、前記エンジンの排気マニホールドに隣接して設けられることを特徴とする請求項1または2に記載のランキンサイクルシステム。
【請求項4】
前記熱交換器と前記膨張機とを接続し、前記排気マニホールド近傍に配置された冷媒通路を備えることを特徴とする請求項3に記載のランキンサイクルシステム。
【請求項5】
前記冷媒は、エアコンの冷凍サイクルと共用されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のランキンサイクルシステム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2013−76371(P2013−76371A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216767(P2011−216767)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】