説明

ランタニドに基づく基質およびクロストリジウム毒素活性の判定方法

本発明は、(a)ランタニドドナー錯体; (b)ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター;および(c)ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に介在する切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含むクロストリジウム毒素基質を提供し、ここで、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動がランタニドドナー錯体とアクセプターとの間で示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にプロテアーゼアッセイに関し、より具体的には、ランタニドを含む基質を用いる、クロストリジウム毒素、例えば、ボツリヌス毒素および破傷風毒素の存在または活性を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
破傷風の神経麻痺症候群および稀であるが致死的であり得る疾患であるボツリヌス中毒症は、クロストリジウム属の細菌によって産生される神経毒により起こる。かかるクロストリジウム神経毒は非常に強力であり、神経細胞に特異的な毒であり、ボツリヌス毒素のヒトでの致死量はナノグラムのオーダーである。したがって、食糧中のほんのわずかなレベルのボツリヌス毒素の存在により、綿密な検査により回避しなければならない公衆衛生上の危険が起こる。
【0003】
しかし、有害効果を生じる可能性があるにもかかわらず、管理された低用量のボツリヌス神経毒の治療および特定の美容用途における使用が成功している。具体的には、ボツリヌス毒素は、様々な限局性および体節性ジストニア、斜視、ならびにコリン作動性神経終末活性の可逆性の抑制が望まれるその他の症状の治療管理に用いられている。ヒトにおいて確立されているボツリヌス神経毒の治療用途としては、これらに限定されないが、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、喉頭発声障害、限局性多汗症、流涎過多、顎口腔ジストニア、頸部ジストニア、斜頸、斜視、四肢ジストニア、職業性痙攣および筋波動症の治療が挙げられる(Rossetto et al.、Toxicon 39:27 41 (2001))。一例として、痙性組織の少量のボツリヌス神経毒Aによる筋肉内注射は、脳障害、脊髄損傷、脳卒中、多発性硬化症および脳性麻痺による痙縮の治療に有効に用いられている。さらなる可能性のあるクロストリジウム神経毒の臨床用途が現在調べられている。
【0004】
食糧中の少量のボツリヌス毒素に伴う可能性のある危険および正確な製剤処方を調製する必要性から、ボツリヌス神経毒のアッセイが食品および医薬産業において現在行われている。食品産業は、新規な食品包装方法の確証および食品安全性の保証のために、ボツリヌス神経毒のアッセイを必要としている。ボツリヌス毒素の臨床用途が増大しているため、製品の製造ならびに品質管理のためのボツリヌス神経毒活性の正確なアッセイが必要である。両産業において、マウス死亡率試験が現在、ボツリヌス神経毒作用強度の認容可能な唯一のアッセイである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不運なことに、マウス死亡率アッセイには以下のような欠点がある:多数の実験動物が必要であることによるコスト;特異性がないこと;多数の動物群を使用しなければ不正確となりうること; および動物を殺傷してしまうことである。したがって、マウス死亡率アッセイを補完し、その必要性を低減しうる便利な合成基質に基づく新規方法が必要とされている。本発明はクロストリジウム毒素の存在または活性を判定する新規アッセイを提供することによりこの要求を満たし、さらに関連する利益も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(a)ランタニドドナー錯体; (b)ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター;および(c)ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に介在する切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含むクロストリジウム毒素基質を提供し、ここで、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動がランタニドドナー錯体とアクセプターとの間で示される。
【0007】
本発明はさらに、以下によるクロストリジウム毒素の存在または活性を判定する方法を提供する:(a)サンプルで、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件下で、 (i)ランタニドドナー錯体; (ii) ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター;および (iii)ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に介在する切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含むクロストリジウム毒素基質を処理する工程、ここで、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動がランタニドドナー錯体とアクセプターとの間で示される; (b)ランタニドドナー錯体のアンテナを励起する工程; および(c)対照基質と比較しての処理された基質の共鳴エネルギー移動を測定する工程、ここで対照基質と比較しての処理された基質の共鳴エネルギー移動の差は、クロストリジウム毒素の存在または活性を示す。
【0008】
本発明はまた、以下を含むクロストリジウム毒素基質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子も提供する:(a)ランタニドイオンと共に、ランタニドドナー錯体; (b)ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター;および(c) 切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列、ここで切断部位はランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に介在し、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動がランタニドドナー錯体とアクセプターとの間で示される。
【0009】
図面の簡単な説明
図 1は、中枢および末梢神経細胞における破傷風およびボツリヌス毒素活性に必要な4工程の模式図を示す。
【0010】
図 2は、SNAP-25、VAMPおよびシンタキシンの細胞内局在および切断部位を示す。VAMPはシナプス小胞膜に結合しており、SNAP-25およびシンタキシンは標的細胞膜に結合している。BoNT/Aおよび/Eは、カルボキシ末端付近でSNAP-25を切断し、9または26残基をそれぞれ遊離させる。BoNT/B、/D、/F、/GおよびTeNT はVAMPの保存された中心部分(点を付して示す)に作用し、VAMPのアミノ末端部分を細胞質ゾルに遊離させる。BoNT/C1 はSNAP-25をカルボキシ末端近くで切断し、細胞膜表面近くの単一部位でシンタキシンを切断する。BoNT/B、/C1、/D、/F、/GおよびTeNTの作用により、VAMPまたはシンタキシンの細胞質ドメインの大部分が遊離するが、SNAP-25の小部分のみがBoNT/A、/C1または/Eの選択的タンパク質分解により遊離する。
【0011】
図 3は、様々な SNAP-25 タンパク質のアラインメントを示す。ヒト SNAP-25 (配列番号1; GenBank 受入番号 g4507099;関連ヒト SNAP-25 配列 g2135800も参照のこと); マウス SNAP-25 (配列番号2; GenBank 受入番号 G6755588); ショウジョウバエ SNAP-25 (配列番号3; GenBank 受入番号 g548941); キンギョ SNAP-25 (配列番号4; GenBank 受入番号 g2133923); ウニ SNAP-25 (配列番号5; GenBank 受入番号 g2707818)およびニワトリ SNAP-25 (配列番号6; GenBank 受入番号 g481202) が示される。
【0012】
図 4は、様々な VAMP タンパク質のアラインメントを示す。ヒト VAMP-1 (配列番号7; GenBank 受入番号 g135093); ヒト VAMP-2 (配列番号8; GenBank 受入番号 g135094); マウス VAMP-2 (配列番号9; GenBank 受入番号 g2501081); ウシ VAMP (配列番号10; GenBank 受入番号 g89782); カエル VAMP (配列番号11; GenBank 受入番号 g6094391); およびウニ VAMP (配列番号12; GenBank 受入番号 g5031415) が示される。
【0013】
図 5は、様々なシンタキシンタンパク質のアラインメントを示す。ヒトシンタキシン 1A (配列番号13; GenBank 受入番号 g15079184)、ヒトシンタキシン 1B2 (配列番号14; GenBank 受入番号 g15072437)、マウスシンタキシン 1A (配列番号15; GenBank 受入番号 g15011853)、ショウジョウバエシンタキシン 1A (配列番号16; GenBank 受入番号 g2501095); 線虫シンタキシン A (配列番号17; GenBank 受入番号 g7511662) およびウニシンタキシン (配列番号18; GenBank 受入番号 g13310402) が示される。
【0014】
図 6は、α-ヘリックス (E、残基1-11)、ランタニド-結合ループ、および第二のα-ヘリックス(F、残基19-29)を含む標準的な(canonical)EF-ハンドを示す。nで示すα-炭素(残基2、5、6、9、17、22、25、26、および(29))は通常、疎水性側鎖を有する。それらは内側に向いており、局所的二重軸(two-fold axis)により第一のドメインと関連している第二のEF-ハンドドメインの相同的残基と相互作用して、疎水性コアを形成する。残基 17におけるIIe、Leu、またはValがループを疎水性コアに結合させる。星印はしばしば親水性である可変性残基を示す。位置 15におけるGlyはランタニド-結合ループ中の急カーブを可能にする。具体的に示した残基は強い保存を反映するが、不変であるわけではない。ランタニドイオンは残基10 (X)、12 (Y)、14 (Z)、および18 (-X)の側鎖の酸素原子または架橋水分子によって配位される。頂点 −Yの配位子(ligand)は残基 16のカルボニル酸素である。典型的には、残基 21 (-Z)は Gluであり、ランタニドイオンを配位する第六の残基である。Nakayama and Kretsinger、Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 23:473-507 (1994)を参照されたい。
【0015】
図 7は、(A)にてプラスミド pQBI GFP-SNAP25(134-206)-6XHIS-Cの模式図を示し、(B)にてpQBI GFP-SNAP25(134-206)-6XHIS-Cの核酸およびアミノ酸配列(配列番号19 および 20)を示す。
【0016】
図 8は、GFP-SNAP25(134-206)-His6Cの、(A)にて吸収スペクトルを示し、(B)にて励起 (点線)および発光 (太字) スペクトルを示す。
【0017】
図 9は、GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbの300 nmでのパルスゲート(pulse gated)励起を用いた(A) UV-VIS 吸収スペクトルおよび(B)発光スペクトルを示す。
【0018】
図 10は、ランタニドに基づく基質 GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbを用いたクロストリジウム毒素活性の発光共鳴エネルギー移動 (LRET) アッセイを示す。(A) 131 ng/ml キュベット濃度で37℃での希薄還元型バルク BoNT/Aの添加の際のLRETにより示されるクエンチ緩和。586 nmでのテルビウム発光が毒素の添加により上昇した。(B)ターンオーバーの前および後の330 nmでのパルスゲートキセノン励起を用いたGFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbの発光スペクトル。点線はターンオーバーの前のゲートテルビウム発光を示し、実線はターンオーバーの後のゲートテルビウム発光を示す。
【0019】
詳細な説明
本発明は、すべての血清型のボツリヌス毒素および破傷風毒素を含むクロストリジウム毒素の存在または活性を判定するための新規な基質および方法を提供する。ランタニドイオン、例えば、テルビウムを含むクロストリジウム毒素基質に依存する本発明の新規な方法は、動物毒性研究の必要性を低減し、粗およびバルクサンプルならびに高度に精製された二本鎖または一本鎖毒素または製剤された毒素製品の分析に利用することが出来る。本発明の新規なランタニドに基づく方法は均一な溶液相アッセイとして実行することが出来、自動化ハイスループット形式に適用できる。さらに、本発明の方法は時間分解アッセイとして実行することが出来、これは非特異的バックグラウンド蛍光を含むサンプルの分析に特に有用である。
【0020】
本明細書において実施例Iにて開示するように、SNAP-25の一部に融合した緑色蛍光タンパク質を含み、さらにカルボキシ末端にシステインを含むように操作した組換え融合タンパク質を調製した。マレイミド化学を用いて、GFP-SNAP-25(134-206)-His6-Cのカルボキシ末端システインをルミフォア(lumiphore) CS124-DTPA-EMCH-Tbで誘導体化した。CS124-DTPA-EMCH-Tb標識GFP-SNAP-25(134-206)-His6-Cの吸収および発光スペクトルをそれぞれ図9Aおよび9Bに示す。図9Bにて理解されるように、増感基 (sensitizing group)カルボスチリル 124 (CS124)の330 nmでの励起によりテルビウムに特徴的な長い寿命の発光がみられ、一連の4つの顕著なシャープなバンドが490 nm、546 nm、586 nmおよび622 nmに生じた。
【0021】
本明細書において実施例IIにてさらに開示するように、このクロストリジウム毒素基質は、バルク BoNT/A 毒素の活性を高感度にアッセイするのに有用であった。具体的には、ランタニドドナー錯体とGFPとの間のエネルギー移動が、テルビウム発光を586 nmでモニターすることにより観察された。図10Aに示すように、還元型バルク BoNT-A 毒素の添加の後に586 nmでの発光強度が著しく上昇し、ランタニドドナー錯体とGFPとの間のクエンチングの緩和が示された。さらに、発光工程についてのシグナル対ノイズ比は、図 10Bに示すように発光のモニターにゲート工程(gated process)を用いることにより強く向上した。図 10Bにおいて、実線は基質のターンオーバーの前のゲートテルビウム発光を示し、点線はターンオーバーの後のゲートテルビウム発光を示す。
【0022】
要約すると、これらの結果は、GFP-SNAP-25(134-206)-His6-Cは市販のランタニドドナー錯体、例えば、 CS124-DTPA-EMCH-Tbにより誘導体化してランタニドドナー錯体とGFPとの間のクエンチングを示すクロストリジウム毒素基質を産生することが出来ることを示す。クロストリジウム毒素の添加による発光強度の上昇により示されるクエンチングの緩和は、クロストリジウム毒素の存在または活性を示す。これらの結果はさらに、ゲート発光の使用は、本発明のランタニドに基づく基質によりクロストリジウム毒素活性をアッセイする場合にバックグラウンドを低減させるのに有用であり得ることを示す。
【0023】
これらの知見に基づき、本発明は、(a)ランタニドドナー錯体; (b)ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター; および(c)ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に介在する切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含むクロストリジウム毒素基質を提供し、ここで、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動がランタニドドナー錯体とアクセプターとの間で示される。一つの態様において、本発明は、少なくとも 500μsの蛍光寿命を有するランタニドドナー錯体を含むクロストリジウム毒素基質を提供する。別の態様において、本発明は、少なくとも 0.05の蛍光量子収率を有するランタニドドナー錯体を含むクロストリジウム毒素基質を提供する。さらに別の態様において、本発明は、少なくとも 0.5の蛍光量子収率を有するランタニドドナー錯体を含むクロストリジウム毒素基質を提供する。
【0024】
ランタニドドナー錯体において有用なランタニドイオンは、これらに限定されないが、テルビウムイオン、ユーロピウムイオン、サマリウムイオンおよびジスプロシウムイオンを含む。ランタニドドナー錯体において有用なランタニド-結合部位は例えば、少なくとも 5 μMのランタニドイオンに対する親和性を有し得、これらに限定されないが、ペプチドおよびペプチド模倣体を含み、例えば、これらに限定されないが、EF ハンドモチーフの配位部位を含むものまたはEF ハンドモチーフを含むものが挙げられる。ランタニドドナー錯体に有用なランタニド-結合部位にはさらに、これらに限定されないが、チオール-反応性配位子(chelator); ジエチレントリアミンペンタ酢酸 (diethylenetriaminepentacetic acid)(DTPA); β-ジケトンキレート; ポリアミノポリカルボン酸キレート; カリックスアレーンキレート; ポリフェノール; DOTA; ピリジンおよびポリピリジンが含まれる。本発明に有用なさらなるランタニド-結合部位としては、これらに限定されないが、トリスビピリジン (TBP) クリプテート; トリスビピリジンテトラカルボキシラート (TBP4COOH) クリプテート; トリスビピリジンペンタカルボキシラート (TBP5COOH) クリプテート; およびピリジンビピリジンテトラカルボキシラート(PBP4COOH)が挙げられる。
【0025】
ランタニドドナー錯体は、ドナー錯体のランタニド-結合部位とは別個のものであってもよく、または、それに組み込まれていてもよいアンテナを含む。本発明に有用なアンテナは、これらに限定されないが、カルボスチリル 124 (CS124)、トリプトファン、または 2-ヒドロキシイソフタルアミドであり得る。一つの態様において、本発明は、カルボスチリル 124 (CS124)をアンテナとして含むランタニドドナー錯体を組み込んだクロストリジウム毒素基質を提供する。別の態様において、本発明は、ランタニドドナー錯体がCS124-DTPA-EMCH-Tbである、クロストリジウム毒素基質を提供する。
【0026】
様々なアクセプターが本発明のクロストリジウム毒素基質において有用であり、これらに限定されないが、アクセプターフルオロフォア、例えば、 Alexa Fluor 色素及びその他の非タンパク質アクセプターが挙げられる。本発明に有用なアクセプターフルオロフォアとしてはさらに、例えば、緑色蛍光タンパク質 (GFP)、青色蛍光タンパク質 (BFP)、黄色蛍光タンパク質 (YFP)、シアン蛍光タンパク質 (CFP)および赤色蛍光タンパク質 (RFP)が挙げられる。一つの態様において、本発明は、緑色蛍光タンパク質をアクセプターとして含むクロストリジウム毒素基質を提供する。非蛍光性アクセプターも本発明のクロストリジウム毒素基質に有用であり、これらに限定されないが、ヘムタンパク質が挙げられる。
【0027】
様々な認識配列が本発明のクロストリジウム毒素基質に含まれうる。一つの態様において、認識配列はBoNT/A 認識配列、例えば、これらに限定されないが、SNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含むBoNT/A 認識配列であり、ここで6つの連続残基は、Gln-Arg、またはそのペプチド模倣体を含む。かかるBoNT/A 認識配列としては、例えば、配列番号2の残基134〜206が挙げられる。本発明のクロストリジウム毒素基質に含まれる認識配列はまた、これらに限定されないが、BoNT/B 認識配列であってもよい。かかるBoNT/B 認識配列は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はGln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む。さらなる態様において、クロストリジウム毒素基質に含まれる認識配列はBoNT/C1 認識配列である。かかるBoNT/C1 認識配列は、これらに限定されないが、シンタキシンの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基は、Lys-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。本発明において有用なBoNT/C1 認識配列はSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はArg-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。
【0028】
さらなる態様において、クロストリジウム毒素基質に含まれる認識配列はBoNT/D 認識配列である。かかるBoNT/D 認識配列は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はLys-Leu、またはそのペプチド模倣体を含む。本発明において有用な認識配列はまた、例えば、BoNT/E 認識配列であり得る。かかるBoNT/E 認識配列は、これらに限定されないが、SNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はArg-Ile、またはそのペプチド模倣体を含む。さらに別の態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質に含まれる認識配列はBoNT/F 認識配列である。本発明において有用なBoNT/F 認識配列は、これらに限定されないが、VAMPの少なくとも6つの連続残基を有するものを含み、ここで6つの連続残基は Gln-Lys、またはそのペプチド模倣体を含む。クロストリジウム毒素基質に含まれる認識配列はまた、BoNT/G 認識配列であり得る。かかる BoNT/G 認識配列は、これらに限定されないが、VAMPの少なくとも6つの連続残基を有するものを含み、ここで6つの連続残基はAla-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。さらなる態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質に含まれる認識配列は破傷風毒素 (TeNT) 認識配列である。かかるTeNT 認識配列は、これらに限定されないが、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含む配列であり得、ここで6つの連続残基は、Gln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む。
【0029】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、これらに限定されないが様々な長さであってよいペプチドまたはペプチド模倣体であり得る。特別の態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は多くとも 300 残基または多くとも150残基を有するペプチドまたはペプチド模倣体である。本発明のクロストリジウム毒素基質はある範囲の活性によって切断されうる。一つの態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は少なくとも 1 ナノモル/分/mg 毒素の活性により切断されうる。別の態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は少なくとも 20 ナノモル/分/mg 毒素の活性により切断されうる。さらなる態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は少なくとも 100 ナノモル/分/mg 毒素の活性により切断されうる。
【0030】
本発明はさらに、以下を含むクロストリジウム毒素基質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する:(a)ランタニドイオンとともに、ランタニドドナー錯体; (b)ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター; および(c) 切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列、ここで切断部位はランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に介在し、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動がランタニドドナー錯体とアクセプターとの間で示される。本発明の核酸分子は様々な長さのいずれでもよいクロストリジウム毒素基質をコードしうる; 特別の態様において、本発明の核酸分子は、多くとも 300 残基の長さ、または多くとも 150 残基の長さを有するクロストリジウム毒素基質をコードしうる。
【0031】
ランタニドドナー錯体は一部として、ランタニド-結合部位を含む。様々なランタニド-結合部位のいずれも本発明において有用であり、これらに限定されないが、EF ハンドモチーフの配位部位を含むもの、およびEF ハンドモチーフを含むものが挙げられる。ある態様において、ランタニドドナー錯体は、アンテナとして作用するトリプトファン残基を含む。別の態様において、本発明の核酸分子はアクセプターがアクセプターフルオロフォアであるクロストリジウム毒素基質をコードする。さらなる態様において、本発明の核酸分子は、アクセプターフルオロフォアが、緑色蛍光タンパク質 (GFP)、青色蛍光タンパク質 (BFP)、黄色蛍光タンパク質 (YFP)、シアン蛍光タンパク質 (CFP) または赤色蛍光タンパク質 (RFP)であるクロストリジウム毒素基質をコードする。さらに別の態様において、本発明の核酸分子は、アクセプターが非蛍光性アクセプター、例えば、これらに限定されないが、ヘムタンパク質であるクロストリジウム毒素基質をコードする。
【0032】
本発明の核酸分子によってコードされるクロストリジウム毒素基質は様々な認識配列のいずれを含んでいてもよい。本発明の核酸分子において、コードされる認識配列は、例えば、BoNT/A 認識配列、例えば、これらに限定されないが、SNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含むBoNT/A 認識配列であり得、ここで6つの連続残基はGln-Arg、またはそのペプチド模倣体を含む。かかるBoNT/A 認識配列は、例えば、配列番号2の残基134〜206を含みうる。本発明の核酸分子に有用なコードされる認識配列はまた、これらに限定されないが、BoNT/B 認識配列であり得る。かかるBoNT/B 認識配列は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基は Gln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む。さらなる態様において、本発明の核酸分子はBoNT/C1 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質をコードする。かかるBoNT/C1 認識配列は、これらに限定されないが、シンタキシンの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はLys-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。本発明において有用なBoNT/C1 認識配列は、SNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はArg-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。
【0033】
さらなる態様において、本発明の核酸分子はBoNT/D 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質をコードする。かかるBoNT/D 認識配列は、例えばVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はLys-Leu、またはそのペプチド模倣体を含む。別の態様において、本発明の核酸分子はBoNT/E 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質をコードする。かかるBoNT/E 認識配列は、これらに限定されないが、SNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はArg-Ile、またはそのペプチド模倣体を含む。さらに別の態様において、本発明の核酸分子はBoNT/F 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質をコードする。本発明において有用な BoNT/F 認識配列は、これらに限定されないが、VAMPの少なくとも6つの連続残基を有するものを含み、ここで6つの連続残基は Gln-Lys、またはそのペプチド模倣体を含む。本発明の核酸分子はまた、BoNT/G 認識配列を有するクロストリジウム毒素基質をコードするものでもよい。かかるBoNT/G 認識配列は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続残基を有するものであり得、ここで6つの連続残基は Ala-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。別の態様において、本発明の核酸分子は、TeNT 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質をコードする。かかるTeNT 認識配列は、これらに限定されないが、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含む配列であり得、ここで6つの連続残基はGln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む。
【0034】
本発明の基質または方法を用いてアッセイ出来る破傷風およびボツリヌス神経毒は、クロストリジウムによって産生される。かかる毒素は、破傷風の神経麻痺症候群およびボツリヌス中毒症をおこし、破傷風毒素は主に中枢神経系に作用し、ボツリヌス毒素は末梢神経系に作用する。クロストリジウム神経毒は、神経伝達物質の放出が遮断されるという細胞中毒の同様の機構を有する。ジスルフィド結合した2つのポリペプチド鎖から構成されるこれらの毒素において、大きい方のサブユニットが神経特異的結合および小さい方のサブユニットの細胞質への転位置の役割を果たす。神経細胞に転位置して還元されると、小さい方の鎖は、神経エキソサイトーシスに関与するタンパク質成分に特異的なペプチダーゼ活性を示す。クロストリジウム毒素の「SNARE」タンパク質標的は、様々な非神経細胞タイプでのエキソサイトーシスに共通している; これら細胞においては、神経細胞におけるように、軽鎖ペプチダーゼ活性がエキソサイトーシスを阻害する。
【0035】
破傷風神経毒およびボツリヌス神経毒B、D、F、およびGは、シナプス小胞膜の膜(integral)タンパク質であるVAMP (シナプトブレビンとしても知られる)を特異的に認識する。VAMPは神経毒に応じて異なる結合にて切断される。ボツリヌスAおよびE神経毒は、シナプス前膜タンパク質であるSNAP-25を、該タンパク質のカルボキシ末端部分の2つの異なる部位を特異的に認識して切断する。ボツリヌス神経毒 Cは、神経原形質膜タンパク質であるシンタキシンもSNAP-25に加えて切断する。クロストリジウム神経毒の3つのタンパク質標的は酵母からヒトまで保存されているが、切断部位および毒素感受性は必ずしも保存されていない(以下を参照;また、Humeau et al.、Biochimie 82:427-446 (2000); Niemann et al.、Trends in Cell Biol. 4:179-185 (1994);および、Pellizzari et al.、Phil. Trans. R. Soc. London 354:259 268 (1999)も参照)。
【0036】
天然の破傷風およびボツリヌス神経毒は150 kDのポリペプチド鎖としてリーダー配列を伴わずに産生される。これらの毒素は、露出しているプロテアーゼ-感受性ループにて細菌または組織プロテイナーゼによって切断され得、二本鎖毒素が生じる。選択的タンパク質切断が、ジスルフィド結合した2本の鎖を作成することにより毒素を活性化する:2本の鎖は 50 kDa のL 鎖および100 kDa のH 鎖であり、後者はHNおよびHCと称される2つのドメインから構成される。この二本鎖毒素は、ニックの入っていない毒素よりも活性がかなり高い。天然のクロストリジウム毒素は重鎖および軽鎖を架橋するひとつの鎖間ジスルフィド結合を含む; かかる架橋は細胞外から添加された毒素の神経毒性に重要である(Montecucco and Schiavo、Quarterly Rev. Biophysics 28:423 472 (1995))。
【0037】
クロストリジウム毒素は約 50 kDaの3つの異なるドメインにフォールディングされるようであり、これらはループによって連結されており、それぞれのドメインは異なる機能的役割を有する。図 1に示すように、クロストリジウム毒素の細胞中毒機構は4つの異なる工程からなる:(1) 結合; (2) インターナリゼーション; (3) 膜転位置;および (4) 酵素的標的修飾。重鎖のカルボキシ末端ドメイン(HC)は神経特異的結合において機能し、H 鎖のアミノ末端ドメイン (HN)は エンドソームから細胞の細胞質への膜転位置において機能する。細胞の内側のジスルフィド結合の還元の後に、L 鎖の亜鉛-エンドペプチダーゼ活性が遊離する (Montecucco and Schiavo、前掲、1995)。
【0038】
8つのヒトクロストリジウム神経毒血清型のアミノ酸配列が対応する遺伝子から得られている (Niemann、"Molecular Biology of Crostridial Neurotoxins"、 Sourcebook of Bacterial Protein Toxins Alouf and Freer (Eds.) pp. 303 348 London: Academic Press 1991)。L 鎖およびH 鎖は、およそ439および843 残基からそれぞれ構成される。相同的セグメントが、類似性が少ないまたは全くない領域によって分離されている。もっともよく保存されたL 鎖の領域は、アミノ末端部分 (100 残基)および中央領域 (TeNT の残基 216〜244に対応)、ならびに鎖間ジスルフィド結合を形成する2つのシステインである。216〜244 領域はHis-Glu-X-X-His 結合 モチーフを含み、これは亜鉛エンドペプチダーゼに特徴的である。
【0039】
クロストリジウム毒素重鎖は軽鎖ほどよく保存されておらず、TeNT の残基1140〜1315 に対応するHCのカルボキシ末端部分はもっとも可変性である。これは神経末端への結合にHC ドメインが関与すること、および、異なる神経毒は異なる受容体に結合するようであるという事実に一致する。
【0040】
クロストリジウム毒素のヌクレオチドおよびアミノ酸配列の比較により、それらは共通の祖先遺伝子に由来することが示される。これら遺伝子の伝播(spreading)はクロストリジウム神経毒遺伝子が可動性の遺伝因子上に位置するという事実によって促進されたのであろう。以下に論じるように、7つのボツリヌス毒素の配列変異体が当該技術分野において知られている。例えば、Humeau et al.、前掲、2000を参照。
【0041】
上記のように、クロストリジウム神経毒の天然の標的としては、VAMP、SNAP-25、およびシンタキシンが挙げられる。VAMPはシナプス小胞膜と会合しており、SNAP-25およびシンタキシンは標的膜と会合する(図2参照)。BoNT/A およびBoNT/EはSNAP-25をカルボキシ末端領域にて切断し、9または26アミノ酸残基をそれぞれ遊離させ、BoNT/C1もSNAP-25 をカルボキシ末端付近で切断する。ボツリヌス血清型、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/FおよびBoNT/G、ならびに破傷風毒素は、VAMPの保存された中心部分に作用し、 VAMPのアミノ末端部分を細胞質ゾルへと遊離させる。BoNT/C1はシンタキシンを細胞膜表面付近の単一部位で切断する。したがって、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT タンパク質分解の結果、VAMPまたはシンタキシンの細胞質ドメインの大部分が遊離し、SNAP-25の小部分のみがBoNT/A、BoNT/C1またはBoNT/E 切断 によって遊離される(Montecucco and Schiavo、前掲、1995)。
【0042】
膜貫通セグメントを有さない約 206 残基のタンパク質である天然のSNAP-25は、神経原形質膜の細胞質ゾル側表面と会合している(図 2;以下も参照、Hodel et al.、Int. J. Biochemistry and Cell Biology 30:1069 1073 (1998))。 ショウジョウバエから哺乳類へと高度に保存されているホモログに加えて、SNAP-25-関連タンパク質は酵母からもクローニングされている。SNAP-25は発達中の軸索伸長に必要であり、また、成熟神経系における神経末端可塑性に必要であり得る。ヒトにおいて、2つのアイソフォームが発達中に示差的に発現している; アイソフォームaは胎児発生中に構成的に発現しており、アイソフォーム bは誕生とともに現れ、成体において優勢である。SNAP-25 アナログ、例えば、 SNAP-23も神経系の外側、例えば、膵臓細胞において発現している。
【0043】
天然の VAMPは約 120 残基のタンパク質であり、種およびアイソタイプに応じて正確な長さは異なる。図 2に示すように、VAMPは小胞内腔の内側に短いカルボキシ末端セグメントを含み、分子のほとんどは細胞質ゾルに露出している。プロリンに富むアミノ末端30残基は種とアイソフォームとによって多様であり、荷電および親水性残基に富み、既知の切断部位を含むVAMPの中央部分 (残基30〜96)は、高度に保存されている。VAMPは、シナプス小胞膜上にシナプトフィジンと共に局在している。
【0044】
VAMPの様々な種のホモログが当該技術分野において知られており、例えば、ヒト、ラット、ウシ、シビレエイ、ショウジョウバエ、酵母、イカおよびアメフラシのホモログが挙げられる。さらに、複数のVAMPのアイソフォームが同定されており、例えば、VAMP-1、VAMP-2 およびセルブレビン(cellubrevin)が挙げられ、毒素切断に非感受性の形態が非神経細胞において同定されている。VAMPはすべての脊椎動物組織に存在しているようであるが、VAMP-1およびVAMP-2の分布は細胞のタイプに応じて異なるようである。ニワトリおよびラットVAMP-1はTeNTまたはBoNT/Bによって切断されない。これらVAMP-1 ホモログは、ヒトおよびマウス VAMP-1のTeNTまたはBoNT/B 切断部位において存在するグルタミンの代わりにバリンを有する。置換はBoNT/D、/Fまたは/Gに影響を与えず、これらは同様の速度でVAMP-1とVAMP-2との両方を切断する。
【0045】
シンタキシンは神経原形質膜の細胞質ゾル側表面に位置しており、膜にカルボキシ末端セグメントを介してアンカーされており、タンパク質の大部分は細胞質ゾルに露出している。シンタキシンはシナプス前膜の活性帯においてカルシウムチャンネルと共に局在し、そこで神経伝達物質の放出が起こる。さらに、シンタキシンは、SSV 膜のタンパク質であって、原形質膜と小胞との機能的な架橋を形成するシナプトタグミンと相互作用する。様々なシンタキシンアイソフォームが同定されている。僅かに異なる長さの2つのアイソフォーム(285および288 残基)が神経細胞において同定されており(アイソフォーム1Aおよび1B)、アイソフォーム 2、3、4および5はその他の組織で発現している。異なるアイソフォームはBoNT/C1に対する感受性が異なっており、1A、1B、2 および3 シンタキシンアイソフォームはこの毒素により切断される。
【0046】
ランタニド、または「希土類」元素は、その三価のカチオンがよく規定された波長の減衰時間が長い光を放射する元素の一群である。ランタニドとしては、これらに限定されないが、原子番号57〜71の元素: ランタニド (La); セリウム (Ce); プラセオジム (Pr); ネオジム (Nd); プロメチウム (Pm); サマリウム (Sm); ユーロピウム (Eu); ガドリニウム (Gd); テルビウム (Tb); ジスプロシウム (Dy); ホルミウム (Ho); エルビウム (Er); ツリウム (Tm); イッテルビウム (Yb); およびルテチウム (Lu) が挙げられる。ランタニドとしてはさらに、これらに限定されないが、イットリウム (Y; 原子番号 39)およびスカンジウム (Sc; 原子番号 21)が挙げられる。
【0047】
ランタニドイオンは、光学活性電子を部分的に遮断するその特別の電子配置に基づく特有の光物理的特性およびスペクトル特性を有する。ランタニドイオンの発光寿命は通常長い; しかし、その光収集効率は非常に低い。これらの特性により、ランタニドイオンは、例えば、強い吸収性の芳香族発色団、例えば、ピリジル、フェニルまたはインドール基であり得る集光デバイス (「アンテナ」)と組み合わせると特に有用である。アンテナにより収集されるエネルギーは、分子内非発光性プロセスによりその部分の一重項から三重項状態に、次いで三重項からランタニドイオンの放射レベルに移動し、次いでその特徴的な長寿命の発光を放射する。したがって、アンテナとの組合せにおけるランタニドイオンは、例えば、高感度の時間分解アッセイにおいて発光プローブとして有用であり、ここでそれは、多くの生物学的サンプルに存在する短寿命のバックグラウンド蛍光から容易に識別できる長寿命の蛍光シグナルを生じる。
【0048】
ランタニドは一般に三価のカチオンとして存在し、その場合、その電子配置は(Xe)4fnであり、ここでnは1 (Ce3+)〜14 (Lu3+)である。以下に拘束される意図はないが、f-電子の遷移はランタニドイオンの特別の光物理的特性、例えば、長寿命の発光およびシャープな吸収および輝線の原因であり得る。具体的には、f-電子は5sおよび5p 軌道が満たされることにより外部摂動から遮蔽され得、その結果特徴的な線状スペクトルが得られる。f-f 電子遷移は禁じられ、その結果、マイクロ秒からミリ秒の範囲の長い励起状態寿命が生じる。
【0049】
上記のように、多くの場合 エネルギーは、「アンテナ」または「増感体」として知られる近隣の有機発色団からランタニドイオンに移動しうる。したがって、本発明において有用なランタニドドナー錯体は、ランタニドイオン、ランタニド-結合部位およびアンテナを含み、一般に、水またはその他の溶媒のクエンチング効果からランタニドイオンを遮蔽するように構築される。ランタニド-結合部位は、ランタニドイオンを保持するように機能し、所望によりアンテナとランタニドドナー錯体とクロストリジウム毒素基質の残りの部分とのカップリングに好適な反応性基との結合のための足場として作用しうる。一つの態様において、アンテナはランタニド-結合部位内に組み込まれる。別の態様において、アンテナはランタニド-結合部位から離れており、ランタニドドナー錯体に含まれる。
【0050】
本発明において有用なランタニドイオンとしては、これらに限定されないが、テルビウム (Tb)、ユーロピウム (Eu)、ジスプロシウム (Dy)およびサマリウム (Sm)イオンが挙げられ、これらは可視スペクトルにて放射するランタニドである。一つの態様において、ランタニドイオンはTbまたはEuイオンであり、これらは高い発光量子収率を有し、DyまたはSmイオンよりも強い強度で放射する。TbまたはEuのためのアンテナの励起は紫外範囲であり、例えば、337 nmの窒素レーザーまたはストロボを用いることにより達成できる。テルビウム発光は緑色スペクトル内であり、ユーロピウム発光は赤色スペクトル内であり、共に励起光に対してコントラストを提供する。
【0051】
本明細書において用いる場合、「アンテナ」という用語は「増感体」と同義であり、励起光を吸収し、光エネルギーをランタニドイオンに移動させる分子、例えば、有機発色団を意味する。アンテナはランタニドイオン自体の固有の弱い吸光度のために必要である。一つの態様において、アンテナはカルボスチリル 124 (CS124)であり、これは337 nmの励起にて光を吸収する。別の態様において、アンテナはトリプトファン残基である。さらなる態様において、アンテナは2-ヒドロキシイソフタルアミドであり、これはランタニド-結合部位としても作用する(以下を参照)。アンテナは、ランタニド結合部位とは異なっていてもよいし、ランタニド結合部位の一部を構成するものでもよいということが理解される。非限定的な例として、ランタニドイオンに結合するアンテナは、2-ヒドロキシイソフタルアミド、ピリジンまたはその他のクリプテート; LANCE 錯体 (Wallac; Perkin-Elmer);またはターピリジン(terpyridine)錯体であり得る。
【0052】
本明細書において用いる場合、「ランタニド-結合部位」という用語は、ランタニドイオンを束縛する部分を意味する。様々なランタニド-結合部位が本発明のクロストリジウム毒素基質において有用である。例示的なクラスのランタニド-結合部位としては、これらに限定されないが、ポリアミノポリカルボン酸キレート、例えば、 DTPA キレート、BPTA キレート、β-ジケトンキレート、ピリジン、ポリピリジンおよびカリックスアレーンキレートが挙げられる。これらおよびその他のランタニドキレートは当該技術分野において知られており、Li and Selvin、Bioconj. Chem. 8:127-132 (1997); Chen and Selvin、Bioconj. Chem. 10: 311-315 (1999); Selvin、Nature Struc. Biol. 7:730-734 (2000); Selvin、Methods Enzym. 246:300-334 (1995); Selvin et al.、J. Am. Chem. Soc. 116:6029-6030 (1994); および Yuan et al.、Anal. Chem. 73:1869-1876 (2001)に記載されている。一つの態様において、本発明において有用なランタニド-結合部位は、ポリアミノカルボキシラート、例えば、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(diethylenetriaminepentacetic acid) (DTPA)またはトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸 (TTHA)である。ポリアミノカルボキシラートランタニド-結合部位、例えば、 DTPAまたはTTHAとの組合せにおいて有用なアンテナは、これに限定されないが、カルボスチリル 124 (CS124)であり得る。
【0053】
ランタニドドナー錯体に有用なランタニド-結合部位にはペプチドおよびペプチド模倣体であるものが含まれる。一つの態様において、本発明において有用なランタニド-結合部位はEF ハンドモチーフの配位部位を含み、これは、2つのヘリックスがCa2+、Tb3+およびその他の類似のイオン半径を有するイオンに対して高い親和性の結合ループを封入する高度に保存されたドメインである。実際、カルモジュリン、トロポニン C、パルブアルブミンおよびカルビンジンを含む200を超えるタンパク質が、1または数コピーのEF ハンドを含む。
【0054】
実際、EF ハンドモチーフの2つのα-ヘリックスはモチーフの金属配位部位を含む約 12 残基のループによって連結している。配位子として機能する残基は、ループを構成する(spanning) 12 残基の近接配列と第二のヘリックスの最初において高度に保存されている。具体的には、このループ領域の位置1、3、5、7、9、および12の残基と、おそらく配位している水分子は、ランタニドイオンの7つの配位酸素を提供している。酸性アミノ酸は配位している位置のほとんどまたはすべてに高頻度に存在するが、ただし、位置 7のTrpは例外であり、ここでは配位酸素は主鎖により提供される(Vasquez-Ibar et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:3487-3492 (2002))。位置1、3、5 および12におけるループ残基は、側鎖酸素を介して単座 (位置1、3 および5)または二座 (位置 12) 配位子に寄与している; 残基 7 (トリプトファン)は配位子にその骨格カルボニル酸素を介して寄与している。不変のグリシン残基は位置 6に存在し、残基 5の酸素および残基 7の カルボニルを介してランタニドを結合するのに必要な急カーブを可能にしている。さらに、残基9は、その側鎖の酸素を介して直接に、または水分子を介して間接に配位子を提供する。残基 12は不変のグルタミン酸 (Glu)であり、残基 1は典型的にはアスパラギン酸 (Asp)である。Lewit-Bentley、Curr. Opin. Struct. Biol. 10:637-643 (2000); および Myers (Ed.)、Molecular Biology and Biotechnology VCH publishers New York、NY (1995)を参照されたい。
【0055】
本明細書において用いる場合、「EF ハンドモチーフの配位部位」という用語は、位置 6がグリシン; 位置 12 がグルタミン酸、そして配列の位置1、3、5、7、9、および12の配位子基または配位水分子が金属結合部位を提供する、約 12 残基の配列を意味する。トリプトファン残基が位置 7に存在していてもよい。EF ハンドモチーフの配位部位を含むランタニド-結合部位は、12 残基の配位部位の外側の EF ハンドモチーフのα-ヘリックスに対して相同性を有していても有していなくてもよいということが理解される。
【0056】
EF ハンドモチーフの配位部位を含む配列は、例えば、MacManus et al.、Biosci. Rep. 3:1071-1075 (1983)、およびStrynadka and James、Annu. Rev. Biochem. 58: 951-998 (1989)に記載のように、14-mer ペプチド GDKNADGWIEFEEL (配列番号97)でありうる。14-mer 配列番号97はトリプトファン残基を含んでいるために、ランタニド-結合部位とアンテナとの両方として機能する。EF ハンドモチーフの配位部位はさらに、これらに限定されないが、以下を含む:ペプチド GDKNADGFICFEEL (配列番号98)、ここで示すシステイン残基はヨードアセトアミドサリチル酸または別のアンテナで共有結合により標識されていてもよい(Clark et al.、FEBS 333: 96-98 (1993))、そして、ペプチド DKNADGCIEFEE (配列番号99)、ここで示すシステイン残基はアンテナの便宜な共有結合を可能とする(Clark et al.、Anal. Biochem. 210:1-6 (1993))。非限定的な例として、7-ジエチルアミノ-3-((4'-ヨードアセチルアミノ)フェニル)-4-メチルクマリンを例えば、Eu3+についてのアンテナとして配列番号99のシステインに共有結合させてもよく、4-ヨードアセトアミドサリチル酸を例えば、Tb3+についてのアンテナとして配列番号99のシステインに共有結合させてもよい。
【0057】
EF ハンドモチーフの配位部位を含むランタニド-結合部位はまた、ランタニド-結合タグ (LBT) 、例えば、 Nitz et al.、Angew. Chem. Int. Ed. 43:3682-3685 (2004))に記載のものであってもよい。かかるランタニド-結合部位としては、これらに限定されないが、17-mer YID1TN3ND5GW7YE9GDE12LLA (配列番号100)が挙げられ、これはアンテナトリプトファンを含む。かかるランタニド-結合部位は、例えば、テルビウムまたはその他のランタニドイオンを8つの配位子、具体的にはAsp1、Asn3およびAsp5の単座酸素配位子、Glu9 およびGlu12からの二座配位子およびTrp 7の骨格カルボニルを介して配位することができる。さらに、ランタニド-結合部位、例えば、Nitz et al.、前掲、2004に記載のものは、テルビウムまたはその他のランタニドイオンにナノモルの親和性にて結合することが出来る。非限定的な例として、ランタニド-結合部位、配列番号100 は、見かけの 解離定数 Kdが62 +/- 4 nMにてEu3+に結合し;見かけの解離定数 Kdが84 +/- 6 nMにてGd3+に結合し;見かけの解離定数 Kd が 57 +/- 3 nMにてTb3+に結合し;見かけの 解離定数 Kdが71 +/- 5 nMにてDy3+と結合し;見かけの 解離定数 Kd が78 +/- 6 nMにてEr3+と結合する。
【0058】
ランタニドドナー錯体に有用なランタニド-結合部位はさらに、ペプチドに基づく配位子を介してもっぱらランタニドイオンに結合し、ランタニドイオン配位球面から水分子を排除するものを含む。かかるランタニド-結合部位としては、例えば、17-mer 配列 YIDTNN DGWYEGDELLA (配列番号100; Nitz et al.、前掲、2004)が挙げられる。
【0059】
ランタニドドナー錯体に有用なランタニド-結合部位はまた、EF ハンドモチーフであり得る。本明細書において用いる場合、「EF ハンドモチーフ」という用語は、EF ハンドモチーフの配位部位に隣接する2つのα-ヘリックスを意味する。本発明において有用なEF ハンドモチーフは、これらに限定されないが、以下のサブファミリーのいずれかからのEF ハンドであり得る: カルモジュリン (CAM); トロポニン C (TNC); ミオシンの必須または調節軽鎖; トロポニン、非脊椎動物 (TPNV); Cal1、線虫 (CAL); スクイジュリン(squidulin)、Loligo (SQUD); CDC31 および カルトラクチン (CDC); カルシウム依存性タンパク質キナーゼ (CDPK); LAV1、モジホコリ (LAV); EHF5; カルシニュリン B (CLNB); p24 甲状腺タンパク質、イヌ (TPP); カルビンジン 28 kDa (CLBN); パルブアルブミン (PARV); 腸カルシウム結合タンパク質およびS100; ジアシルグリセロールキナーゼ (DGK); α-アクチニン (ACTN); タンパク質ホスファターゼ、ショウジョウバエ (PTTS); ウニ(Strongylocentrotus) カルシウム結合タンパク質 (SPEC); ウニ(Lytechinus purpuratus) SPEC 類似(resembling)タンパク質 (LPS); エクオリンおよびルシフェリン結合タンパク質 (AEQ); カルシウムベクタータンパク質、ナメクジウオ(Branchiostoma) (CVP); 1F8およびTB17 (1F8); カルパインおよびソルシン (CALP); 表面タンパク質、マラリア原虫 (PFS); 筋形質カルシウム結合タンパク質 (SARC); ビジニンおよびリカバリン (VIS); カルシウム結合タンパク質、サッカロポリスポラ (CMSE); テトラヒメナカルシウム結合タンパク質 (TCBP); CAM 関連遺伝子産物、ヒト属(Homo) (CRGP);またはタンパク質キナーゼ、マラリア原虫 (PFPK)。本発明において有用なEF ハンドモチーフはまた、図 6 に示すような標準的な EF ハンドモチーフであってもよく、天然 EF ハンドと有意なアミノ酸相同性を有するペプチドであってもよく、例えば、天然 EF ハンドと少なくとも 60%、70%、80%、90%または95%のアミノ酸同一性を有するものであってもよく、例えば、上記サブファミリーのいずれかのメンバーであってよい。様々な天然 EF ハンドが当該技術分野において知られており、例えば、Kawasaki and Kretsinger、Protein Profile 1:343-517 (1994)、およびNakayama and Kretsinger、Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 23:473-507 (1994)に記載されている。 さらに、EF ハンドモチーフまたはEF ハンドモチーフの配位部位を遺伝子操作する方法も当該技術分野において周知である。例えば、Vazquez-Ibar et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:3487-3492 (2002)を参照されたい。
【0060】
ランタニドドナー錯体において有用なランタニド-結合部位としてはさらにキメラヘリックス-ターン-ヘリックス/EF ハンドペプチドも含まれ、それはランタニド結合部位を含むよう改変されたヘリックス-ターン-ヘリックス DNA結合モチーフである。かかるランタニド-結合部位としては、これらに限定されないが、Welch et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:3725-3730 (2003)に記載のペプチド「P3W」 (TERRQQLDKDGDGTIDEREIKIWFQNKRAKIK; 配列番号101)が挙げられる。
【0061】
さらなるペプチドランタニド-結合部位は当該技術分野において知られており、これらに限定されないが、ランタニド-結合部位が、外来と考えられるか、または固有のカルシウム-結合部位であるものが挙げられる。非限定的な例として、ランタニドイオンは枯草菌 PyrR (Tomchick et al.、Structure 6:337-350 (1998))およびカドヘリン NCD1 (Moore et al.、J. Am. Chem. Soc. 120:7105-7106 (1998))に強く結合する。Pidcock and Moore、J. Biol. Inorg. Chem. 6:479-489 (2001)も参照されたい。ペプチドランタニド-結合部位には、例えば、テルビウム発光に基づくスクリーニングプロトコールを用いて同定されたもの (Franz et al.、Chem. BioChem. 4:265 (2003);およびNitz et al.、Chem. BioChem. 4:272 (2003))および類似のスクリーニングアッセイを用いて同定されたものも含まれる。
【0062】
ランタニドドナー錯体において有用なランタニド-結合部位はまたクリプテートであってもよく、これはケージとして作用し、ランタニドイオンを捕捉し、それを溶媒から保護する巨大多環式(macropolycyclic)化合物である。クリプテートケージはそれ自体、捕捉したランタニドイオンのためのアンテナとして作用し、具体的には励起光を吸収し、エネルギーをイオンに移動させ、イオンを水によるクエンチングから保護することによって作用する。様々なランタニドクリプテートが本発明において有用であり、これらに限定されないが、トリスビピリジン (TBP) ランタニドクリプテートおよびその誘導体が含まれる。そのイオンに堅固に結合しているかかるクリプテートは生物学的媒体中で高度に安定である。本発明において有用なランタニドクリプテートとしては、これらに限定されないが、以下が挙げられる:トリスビピリジンユーロピウムクリプテート; トリスビピリジンテトラカルボキシラート (TBP4COOH) ユーロピウムクリプテート; トリスビピリジンペンタカルボキシラートユーロピウムクリプテートおよびピリジンビピリジンテトラカルボキシラート (PBP4COOH) ユーロピウムクリプテート。当業者であれば、複数のカルボキシル基を含むクリプテート誘導体、例えば、 TBP4COOH または PBP4COOHは、それらの親クリプテートよりも発光性であり得ることを理解している。これらおよびその他のランタニドクリプテートは当該技術分野において周知であり、例えば、Selvin et al.、Ann. Rev. Biomol. Struct. 31:275-302 (2002); Mathis、Clin. Chem. 41:1391-1397 (1995);および Mathis、J. Clin. Ligand Assay 20:141-147 (1997)に記載されている。
【0063】
ランタニドドナー錯体において有用なランタニド-結合部位はさらに2-ヒドロキシイソフタルアミドを含み、これはランタニド、例えば、 Sm3+、Eu3+、Tb3+および Dy3+と発光性であって高度に安定な錯体を形成する分子である (Petoud et al.、J.. Am. Chem. Soc. 125:13324-13325 (2003)) 。2-ヒドロキシイソフタルアミド基はランタニドイオンについての非常に良好な配位子であり、例えば、特に効率のよい配位子からランタニドへのエネルギー移動プロセスを介してTb3+ の良好な感作を提供する。2-ヒドロキシイソフタルアミドランタニドキレートの量子収率は非常に高収率であり得(Φ> 0.5)、2-ヒドロキシイソフタルアミドと形成された錯体は一般に高度に可溶性であり水中で生理的pHで安定である(Petoud et al.、前掲、2003)。
【0064】
ランタニドドナー錯体において有用なランタニド-結合部位はまたβ-ジケトナートであってもよく、例えば、これらに限定されないが、Eu3+-β-ジケトナート (2-ナフトイルトリフルオロアセトナート)-トリオクチルホスフィンオキシド三元蛍光錯体が挙げられる。かかるランタニド-結合部位は当該技術分野において周知であり、例えば、Diamandis、Clin. Biochem. 21:139-150 (1988)に記載されており、また例えば、DELFIA(登録商標) system (Perkin-Elmer)の一部として市販されている。
【0065】
当業者であれば、これらおよびその他のランタニド-結合部位が本発明のクロストリジウム毒素基質および方法におけるランタニドドナー錯体の一部として有用であり得ることを理解している。かかるランタニド-結合部位には、これらに限定されないが、以下が含まれる: 4,7-ビス(クロロスルフォジフェニル)-1,10,フェナントロリン-2,9-ジカルボン酸を含むもの(”FIAgen” system; Diamandis et al.、Anal. Chem. 62:1149A-1157A (1990))および5-フルオロサリチレート-Tb3+-EDTA を含むもの(「酵素増幅時間分解フルオロイムノアッセイ」システム; Chrisopoulos and Diamandis、Anal. Chem. 64:342-346 (1992))。Cooper and Sammes、J. Chem. Soc. Perkin Trans. 28:1675-1700; Jones et al.、J. Fluoresc. 11:13-21 (2001); および Kolb et al. in Devlin (Ed.)、High Throughput Screening: The Discovery of Bioactive Substances pages 345-360 New York: Marcel Dekker (1997))も参照されたい。当業者であれば、これらおよびその他のペプチド、ペプチド模倣体および低分子ランタニド-結合部位を本発明の基質におけるランタニドドナー錯体に組み込むことが出来ることを理解している。
【0066】
ランタニドドナー錯体において有用なランタニド-結合部位としては、これらに限定されないが、ナノモルからピコモルの範囲のランタニドイオンに対する親和性を有するものも含まれる。特別の態様において、本発明において有用なランタニド-結合部位はランタニドイオンに対するKdが10 μM未満、5 μM未満、1 μM未満、500 nM未満、250 nM未満、100 nM未満、50 nM未満、10 nM未満、1 nM未満または0.1 nM未満である。さらなる態様において、本発明において有用なランタニド-結合部位のランタニドイオンに対するKdは、100 nM未満、90 nM未満、80 nM未満、70 nM未満、60 nM未満、50 nM未満、40 nM未満、30 nM未満、20 nM未満、または10 nM未満である。さらなる態様において、本発明において有用なランタニド-結合部位のランタニドイオンに対するKdは1 x 10-9 M未満、1 x 10-10 M未満、1 x 10-11 M未満、1 x 10-12 M未満、1 x 10-13 M未満、1 x 10-14 M未満、1 x 10-15 M未満、1 x 10-16 M未満、1 x 10-17 M未満、1 x 10-18 M未満、1 x 10-19 M未満または1 x 10-20 M未満である。
【0067】
本明細書において用いる場合、「アクセプター」という用語は、ランタニドドナー錯体の励起の際に、ランタニドドナー錯体からエネルギーを吸収できる分子を意味する。クロストリジウム毒素基質において有用なアクセプターは、基質に含まれるランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有する。本発明において有用なアクセプターは一般にランタニドドナー錯体に組み込まれているアンテナの励起に好適な波長において比較的低い吸収を示す。
【0068】
上記のように、アクセプターは、ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有する。アクセプターの吸光度スペクトルとランタニドドナー錯体の発光スペクトルとに関して本明細書において用いる場合、「オーバーラップする」という用語は、部分的にまたは完全に共有されている吸光度スペクトルと発光スペクトルとを意味する。したがって、かかるオーバーラップするスペクトルにおいて、ランタニドドナー錯体の発光スペクトルの範囲の高い端は、アクセプターの吸光度スペクトルの範囲の低い端よりも高い。
【0069】
本発明において有用なクロストリジウム毒素基質は、ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に「介在する」切断部位を含む。したがって、切断部位は、切断部位でのタンパク分解の結果、ランタニドドナー錯体を含む第一の切断産物とアクセプターを含む第二の切断産物が生じるように、ランタニドドナー錯体とアクセプターの間に位置する。クロストリジウム毒素認識配列の全部または一部のみがランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に介在しうるということが理解される。
【0070】
本発明において有用なクロストリジウム毒素基質はまた、切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列も含む。定義によると、クロストリジウム毒素基質はクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件下で少なくとも1つのクロストリジウム毒素による切断に感受性である。
【0071】
本明細書において用いる場合、「クロストリジウム毒素認識配列」という用語は、隣接または非隣接認識要素、またはその両方と共に、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件下でクロストリジウム毒素により、その開裂性の結合にて検出可能なタンパク質分解が起こるのに十分に開裂性の結合を意味する。様々なクロストリジウム毒素認識配列を本明細書において以下に記載する。
【0072】
特別の態様において、本発明において有用なクロストリジウム毒素基質は所定の長さを有するペプチドまたはペプチド模倣体である。クロストリジウム毒素基質は、例えば、少なくとも 100、少なくとも 150、少なくとも 200、少なくとも 250、少なくとも 300、少なくとも 350または少なくとも 500 残基を有するペプチドまたはペプチド模倣体でありうる。別の態様において、クロストリジウム毒素基質は、多くとも 20 残基、多くとも 30 残基、多くとも 40 残基、多くとも 50 残基、多くとも 100 残基、多くとも 150 残基、多くとも 200 残基、多くとも 250 残基、多くとも 300 残基、多くとも 350 残基または多くとも 400 残基を有する。
【0073】
本発明において有用なクロストリジウム毒素基質は1以上のさらなる成分を含んでいてもよいということが理解される。非限定的な例として、可動性スペーサー配列、例えば、 GGGGS (配列番号21)を本発明において有用なクロストリジウム毒素基質に含めてもよい。有用なクロストリジウム毒素基質はさらに、これらに限定されないが、以下の1以上を含んでいてもよい:親和性タグ、例えば、 HIS6; ビオチンまたはビオチン化配列;エピトープ、例えば、 FLAG、ヘマグルチニン (HA)、c-myc、またはAU1; 免疫グロブリンヒンジ領域; N-ヒドロキシスクシンイミドリンカー;ペプチドまたはペプチド模倣体ヘアピンターン; または親水性配列または例えば、クロストリジウム毒素基質の精製を促進するか、溶解度または安定性を向上させるその他の成分または配列。
【0074】
本発明のクロストリジウム毒素基質はランタニドドナー錯体およびアクセプターを含み、ここでクロストリジウム毒素切断部位がランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に位置する。一つの態様において、アクセプターは切断部位のカルボキシ末端に位置し、ランタニドドナー錯体が切断部位のアミノ末端に位置する。別の態様において、アクセプターが切断部位のアミノ末端に位置し、ランタニドドナー錯体が切断部位のカルボキシ末端に位置する。
【0075】
本発明に有用な基質は、組換え方法により、または化学合成方法を使用して、あるいはそれらの組合せにより調製することが出来る。本明細書において実施例Iに記載するように、BoNT/A クロストリジウム毒素認識配列に融合したGFPおよびカルボキシ末端システインを含む融合タンパク質を組換え方法により調製した。カルボキシ末端システインは、完全なクロストリジウム毒素基質の産生のためにランタニドドナー錯体を結合させるために用いた。融合タンパク質であるクロストリジウム毒素基質の調製のための組換え方法は当該技術分野において周知であり、例えば、Ausubel、Current Protocols in Molecular Biology John Wiley & Sons、Inc.、New York 2000に記載されている。
【0076】
タンパク質、ペプチドまたはペプチド模倣体にランタニドドナー錯体またはアクセプターまたはその両方を含めるように改変するのに好適な常套の化学方法は当該技術分野において周知である (Fairclough and Cantor、Methods Enzymol. 48:347 379 (1978); Glaser et al.、Chemical Modification of Proteins Elsevier Biochemical Press、Amsterdam (1975); Haugland、Excited States of Biopolymers (Steiner Ed.) pp. 29 58、Plenum Press、New York (1983); Means and Feeney、Bioconjugate Chem. 1:2 12 (1990); Matthews et al.、Methods Enzymol. 208:468 496 (1991); Lundblad、Chemical Reagents for Protein Modification 2nd Ed.、CRC Press、Boca Ratan、Florida (1991); Haugland、前掲、1996)。非限定的な例として、ランタニドドナー錯体には、アミン-反応性基、例えば、イソチオシアナート (Li and Selvin、Bioconj. Chem. 8:127-132 (1997) 、またはチオール-反応性基 、例えば、マレイミド、ブロモアセトアミドまたはピリジルジチオ(Chen and Selvin、Bioconjug. Chem. 10:311-315 (1999))を含めることが出来る。チオール-反応性ランタニドドナー錯体は、例えば、基質におけるシステイン残基に便宜に結合させることが出来る。クロストリジウム毒素基質の一部が組換え技術を用いて調製される場合、システイン残基を、ランタニドドナー錯体の結合のために基質の適当な位置に操作して導入できるということが理解される(実施例I参照)。ハロアセチル標識試薬もまた、ランタニドドナー錯体またはアクセプターを本発明において有用なクロストリジウム毒素基質の調製において結合させるのに利用することができる。例えば、Wu and Brand、前掲、1994を参照。
【0077】
クロスリンカー部分も、本発明のクロストリジウム毒素基質の調製において有用であり得る。クロスリンカーは当該技術分野において周知であり、ホモおよびヘテロ-二機能性クロスリンカー、例えば、 BMHおよびSPDPが挙げられる。ランタニド-結合部位またはアクセプターがタンパク質である場合、タンパク質のアミノまたはカルボキシ末端に特異的に分子を結合させる周知の化学方法を利用できる。例えば、”Chemical Approaches to Protein Engineering”、Protein Engineering: A Practical Approach Rees et al. (Eds) Oxford University Press、1992を参照されたい。
【0078】
ランタニド原子およびDTPAおよびTTHA キレートは様々な市販源、例えば、InvitrogenおよびSigmaから入手できる。さらに、DTPA-CS124およびTTHA-CS124の合成および精製は、例えば、Li and Selvin、J. Am. Chem. Soc. 117:8132 (1995)に記載のようにして常套的に行うことが出来る。トリスビピリジン (TBP)およびテトラカルボキシラート (TBP4COOH) ユーロピウムクリプテートは例えばCIS Bio International (Bedford、MA)から市販されており、また、常套方法によって調製することも出来る。当業者であれば、これらおよびその他の常套の組換えおよび合成化学方法を、本発明において有用なクロストリジウム毒素基質の調製に用いることが出来ることを理解している。
【0079】
本発明はさらに、以下によるクロストリジウム毒素の存在または活性を判定する方法を提供する:(a)サンプルで、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件下で、以下を含むクロストリジウム毒素基質を処理する工程(i)ランタニドドナー錯体; (ii)ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター; および(iii)ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に介在する切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列、ここで、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動がランタニドドナー錯体とアクセプターとの間で示される; (b)該ランタニドドナー錯体のアンテナを励起する工程;および、(c)対照基質と比較しての処理された基質の共鳴エネルギー移動を測定する工程、ここで、対照基質と比較しての処理された基質の共鳴エネルギー移動の差は、クロストリジウム毒素の存在または活性を示す。一つの態様において、本発明の方法は、蛍光寿命が少なくとも 500 μsであるランタニドドナー錯体を含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。別の態様において、本発明の方法は、蛍光量子収率が少なくとも 0.05であるランタニドドナー錯体を含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。さらに別の態様において、本発明の方法は蛍光量子収率が少なくとも 0.5であるランタニドドナー錯体を含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。
【0080】
ランタニドドナー錯体はランタニドイオンを含み、例えば、これらに限定されないが、テルビウムイオン、ユーロピウムイオン、サマリウムイオンまたはジスプロシウムイオンが含まれる。ランタニドドナー錯体に有用なランタニド-結合部位は、これらに限定されないが、ランタニドイオンに対する親和性が少なくとも 5 μMであるもの、例えば、これらに限定されないが、ペプチドおよびペプチド模倣体、例えば、EF ハンドモチーフの配位部位を含むものまたはEF ハンドモチーフを含むものを含む。ランタニドドナー錯体において有用なランタニド-結合部位は、これらに限定されないが、以下であり得る:チオール-反応性配位子(chlator); ジエチレントリアミンペンタ酢酸 (diethylenetriaminepentacetic acid)(DTPA); β-ジケトンキレート; ポリアミノポリカルボン酸キレート; カリックスアレーンキレート; ポリフェノール; DOTA; ピリジン; ポリピリジン; トリスビピリジン (TBP) クリプテート; トリスビピリジンテトラカルボキシラート (TBP4COOH) クリプテート; トリスビピリジンペンタカルボキシラート (TBP5COOH) クリプテート;またはピリジンビピリジンテトラカルボキシラート (PBP4COOH)。
【0081】
本発明の方法において、ランタニドドナー錯体はアンテナを含み、アンテナはランタニド-結合部位と分離していてもよいし、ランタニド-結合部位に組み込まれていてもよい。したがって、本発明の方法は、例えばカルボスチリル 124 (CS124)、トリプトファン、または2-ヒドロキシイソフタルアミドであるアンテナを用いて実施することが出来る。一つの態様において、本発明の方法は、ランタニドドナー錯体がカルボスチリル 124をアンテナとして含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。別の態様において、本発明の方法は、ランタニドドナー錯体がCS124-DTPA-EMCH-Tbであるクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。
【0082】
本発明の方法は、様々なアクセプター、例えば、これらに限定されないが、アクセプターフルオロフォア、例えば、緑色蛍光タンパク質 (GFP)、青色蛍光タンパク質 (BFP)、黄色蛍光タンパク質 (YFP)、シアン蛍光タンパク質 (CFP)および赤色蛍光タンパク質 (RFP)のいずれかを組み込んでいるクロストリジウム毒素基質を用いて実施することが出来る。一つの態様において、本発明の方法は、緑色蛍光タンパク質をアクセプターとして含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。非蛍光性アクセプター、例えば、ヘムタンパク質もまた、本発明の方法において有用である。
【0083】
本発明の方法は、様々な認識配列のいずれかを含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施することが出来るということが理解される。 一つの態様において、認識配列は、BoNT/A 認識配列 、例えば、これらに限定されないが、SNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含むBoNT/A 認識配列であり、ここで6つの連続残基はGln-Arg、またはそのペプチド模倣体を含む。かかるBoNT/A 認識配列は、例えば、配列番号2の残基134〜206を含みうる。本発明の方法において有用な認識配列はまた、これらに限定されないが、BoNT/B 認識配列であり得る。かかるBoNT/B 認識配列は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はGln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む。さらなる態様において、本発明の方法はBoNT/C1 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。かかるBoNT/C1 認識配列は、これらに限定されないが、シンタキシンの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基は、 Lys-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。本発明において有用なBoNT/C1 認識配列はまた、SNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はArg-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。
【0084】
さらなる態様において、本発明の方法は、BoNT/D 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。かかるBoNT/D 認識配列は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はLys-Leu、またはそのペプチド模倣体を含む。本発明において有用な認識配列はまた、例えば、BoNT/E 認識配列であり得る。かかるBoNT/E 認識配列は、これらに限定されないが、SNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み得、ここで6つの連続残基はArg-Ile、またはそのペプチド模倣体を含む。さらに別の態様において、本発明の方法は、BoNT/F 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。本発明において有用なBoNT/F 認識配列は、これらに限定されないが、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含むものを含み、ここで6つの連続残基はGln-Lys、またはそのペプチド模倣体を含む。本発明の方法はさらにBoNT/G 認識配列を含むクロストリジウム毒素基質を用いて実施されうる。かかるBoNT/G 認識配列には、これらに限定されないが、VAMPの少なくとも6つの連続残基を有するものが含まれ、ここで6つの連続残基はAla-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む。さらなる態様において、本発明において有用な認識配列はTeNT 認識配列である。かかるTeNT 認識配列は、これらに限定されないが、VAMPの少なくとも6つの連続残基を含む配列であり得、ここで6つの連続残基はGln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む。
【0085】
特別の態様において、本発明の方法は、クロストリジウム毒素基質、例えば、ランタニドイオンが テルビウムイオンであるランタニドドナー錯体を含むもの、またはランタニド-結合部位がEF ハンドモチーフの配位部位を含むものであって、多くとも 300 残基を有するペプチドまたはペプチド模倣体であるものを用いて実施される。さらなる態様において、本発明の方法は、多くとも 150 残基を有するペプチドまたはペプチド模倣体であるクロストリジウム毒素基質を用いて実施される。本発明の方法において、本発明のクロストリジウム毒素基質はある範囲の活性により切断され得る。一つの態様において、本発明の方法は、クロストリジウム毒素基質が少なくとも 1 ナノモル/分/mg 毒素の活性により切断されるような条件下で実施される。別の態様において、本発明の方法は、クロストリジウム毒素基質が少なくとも 20 ナノモル/分/mg 毒素の活性により切断されるような条件下で実施される。さらなる態様において、本発明の方法は、クロストリジウム毒素基質が少なくとも 100 ナノモル/分/mg 毒素の活性により切断されるような条件下で実施される。本発明の方法は様々なサンプルのいずれにおけるクロストリジウム毒素の存在または活性の判定にも有用であり得、サンプルとしては、これらに限定されないが、粗細胞可溶化液; 単離クロストリジウム毒素、例えば、単離クロストリジウム毒素軽鎖;および製剤されたクロストリジウム毒素製品、例えば、これらに限定されないが、製剤された BoNT/A、BoNT/B およびBoNT/E 毒素製品が挙げられる。
【0086】
以下にさらに詳細に説明するように、本発明の方法は、粗サンプルならびに高度に精製された二本鎖および一本鎖毒素に適用されるといういことが理解される。非限定的な例として、本発明の方法は以下のために有用でありうる:食物または飲料サンプルにおけるクロストリジウム毒素の存在または活性の判定;例えば、クロストリジウム毒素に曝露されたか、あるいはクロストリジウム毒素の1以上の症状を有する、ヒトまたは動物からのサンプルのアッセイ;クロストリジウム毒素の産生および精製の際の活性の追跡;または、製剤されたクロストリジウム毒素製品、例えば、医薬品または化粧品のアッセイ。
【0087】
様々なサンプルが本発明の方法に有用である。本明細書において用いる場合、「サンプル」という用語は、活性のクロストリジウム毒素を含む、または含む可能性のあるあらゆる生物学的物質を意味する。したがって、サンプルという用語は、これらに限定されないが、以下を含む:精製または部分的に精製されたクロストリジウム毒素;天然または非天然の配列を有する組換え一本鎖または二本鎖毒素;プロテアーゼ特異性が改変された組換えクロストリジウム毒素;細胞特異性が改変された組換えクロストリジウム毒素;複数のクロストリジウム毒素の種またはサブタイプからの構造要素を含むキメラ毒素; バルク毒素; 製剤化毒素製品; 例えば、クロストリジウム毒素をコードする組換え核酸を含むように操作された、細胞または粗、分画または部分的に精製された細胞可溶化液; 細菌、バキュロウイルスおよび酵母可溶化液; 生の、調理された、部分的に調理されたまたは加工された食品; 飲料; 動物用飼料; 土壌サンプル; 水系サンプル; 地底質; ローション; 化粧品; および医療用製剤。サンプルという用語は組織サンプル、例えばこれらに限定されないが、哺乳類組織サンプル、家畜組織サンプル、例えば、ヒツジ、ウシおよびブタ組織サンプル; 霊長類組織サンプル;およびヒト組織サンプルを含むということがさらに理解される。かかるサンプルには、これらに限定されないが、腸サンプル、例えば、幼児腸サンプル、および創傷から得られた組織サンプルが含まれる。
【0088】
以下にさらに記載するように、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な様々な条件が本発明の方法において有用である。例えば、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は、基質の少なくとも 10%が切断されるように提供するとよい。同様に、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は、クロストリジウム毒素基質の少なくとも 20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90% または95%が切断されるように、またはクロストリジウム毒素基質の100%が切断されるように提供するとよい。一つの態様において、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件はアッセイが線形となるよう提供される。別の態様において、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は、クロストリジウム毒素基質の少なくとも 90%が切断されるように提供される。さらなる態様において、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は、クロストリジウム毒素基質の多くとも 25%が切断されるように提供される。さらなる態様において、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は、クロストリジウム毒素基質の多くとも 5%、10%、15%または20%が切断されるように提供される。
【0089】
本発明の方法において、クロストリジウム毒素基質はサンプルにより液相中で処理されうる。本明細書においてクロストリジウム毒素基質に関して用いる場合、「液相」という用語は、基質が可溶性であり、タンパク分解の際、固体支持体、例えば、ビーズ、カラムまたはディッシュに束縛または固定化されていないことを意味する。
【0090】
本発明の方法において、サンプルはクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件下でクロストリジウム毒素基質によって処理される。クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な例示的な条件は当該技術分野において周知であり、さらに、常套方法によって決定することが出来る。例えば、Hallis et al.、J. Clin. Microbiol. 34:1934 1938 (1996); Ekong et al.、Microbiol. 143:3337 3347 (1997); Shone et al.、WO 95/33850; Schmidt and Bostian、前掲、1995; Schmidt and Bostian、前掲、1997; Schmidt et al.、前掲、1998;およびSchmidt and Bostian、米国特許第5,965,699号を参照されたい。クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は、部分的には、アッセイされる特定のクロストリジウム毒素のタイプまたはサブタイプおよび毒素調製物の純度に依存しうるということが理解される。クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は一般に、典型的には、pH 5.5〜9.5の範囲、例えばpH 6.0〜9.0、pH 6.5 〜8.5またはpH 7.0 〜8.0の範囲のバッファー、例えば、 HEPES、Tris またはリン酸ナトリウムを含む。クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件はまた、所望の場合、例えば、二本鎖毒素がアッセイされる場合は、ジチオトレイトール、β-メルカプトエタノールまたは、その他の還元剤を含みうる(Ekong et al.、前掲、1997)。一つの態様において、条件は、 0.01 mM〜50 mMの範囲のDTTを含む; 別の態様において、条件は、 0.1 mM〜20 mM、1〜20 mM、または5〜10 mMの範囲のDTTを含む。所望の場合は、単離クロストリジウム毒素またはサンプルを還元剤、例えば、10 mM ジチオトレイトール (DTT)とともに約 30 分間、クロストリジウム毒素基質の添加の前にプレインキュベートしてもよい。
【0091】
クロストリジウム毒素は亜鉛メタロプロテアーゼであり、亜鉛源、例えば、塩化亜鉛または酢酸亜鉛を、典型的には1〜500 μM、例えば、5 〜10 μMの範囲で所望によりクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件の一部として含めてもよい。当業者であれば、亜鉛キレート化剤、例えば、EDTAは 一般にクロストリジウム毒素の存在または活性を判定するためのバッファーから排除されることを理解している。
【0092】
クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は界面活性剤、例えば、 TWEEN-20を含んでいてもよく、これは、例えば、ウシ血清アルブミンの代わりに利用できる。 TWEEN-20は、例えば、0.001% 〜10% (v/v) の範囲または 0.01% 〜 1.0% (v/v) の範囲で提供すればよい。非限定的な例として、TWEEN-20は0.1 % (v/v)の濃度で含めるとよい。
【0093】
クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件はまた、所望の場合は、ウシ血清アルブミン (BSA) または、タンパク質安定化剤、可溶化剤または表面欠損の保護剤として作用するその他の試薬を含んでいてもよい。一例として、BSAを含める場合、典型的には 0.1 mg/ml〜10 mg/mlの範囲で提供する。一つの態様において、BSAは1 mg/mlの濃度で含める。例えば、Schmidt and Bostian、前掲、1997を参照されたい。別の態様において、BSA は0.1% (w/v) の濃度で含める。
【0094】
クロストリジウム毒素基質の量は本発明の方法において変動しうる。クロストリジウム毒素基質は、例えば、1 μM〜 500 μM、1 μM〜 50 μM、1 μM〜 30 μM、5 μM〜 20 μM、50 μM〜 3.0 mM、0.5 mM〜 3.0 mM、0.5 mM〜 2.0 mM、または0.5 mM〜 1.0 mMの濃度で供給するとよい。当業者であれば、所望の場合は、クロストリジウム毒素基質の濃度またはサンプルの量は、アッセイが線形であるように制限しうることを理解している。一つの態様において、本発明の方法はクロストリジウム毒素基質濃度が100 μM未満であることに依存する。さらなる態様において、本発明の方法は、クロストリジウム毒素基質濃度が50 μM未満または25 μM未満であることに依存する。さらなる態様において、本発明の方法は、クロストリジウム毒素基質濃度がl0 μM〜 20 μMであることに依存する。所望の場合は、線形アッセイはクロストリジウム毒素基質を対応する機能的なランタニドドナー錯体を含まない「非標識」 基質と混合することによって実施することも出来る。適当な希釈度は、例えば、対応する非標識基質中にクロストリジウム毒素基質の段階希釈を調製することによって決定することが出来る。
【0095】
本発明の方法においてアッセイされる精製または部分的に精製されたクロストリジウム毒素の濃度は、一般に約 0.0001 ng/ml 〜 500 μg/ml 毒素の範囲、例えば、約 0.0001 ng/ml 〜 50 μg/ml 毒素、0.001 ng/ml 〜 500 μg/ml 毒素、0.001 ng/ml 〜 50 μg/ml 毒素、0.0001〜5000 ng/ml 毒素、0.001 ng/ml 〜 5000 ng/ml、0.01 ng/ml 〜 5000 ng/ml、0.1 ng/ml 〜 5000 ng/ml、1 ng/ml 〜 5000 ng/ml、10 ng/ml 〜 5000 ng/ml、50 ng/ml 〜 5000 ng/ml、50 ng/ml 〜 500 ng/mlまたは100 ng/ml 〜 5000 ng/ml 毒素であり、これは、例えば、精製組換え二本鎖または一本鎖毒素であってもよいし、ヒト血清アルブミンおよび賦形剤を含む製剤されたクロストリジウム毒素製品であってもよい。一般に、本発明の方法においてアッセイされる精製毒素の量は、0.1 pg〜 100 μg、例えば、0.1 pg〜 50 μgまたは0.1 pg〜 10 μgの範囲である。
【0096】
本発明の方法においてアッセイされる精製または部分的に精製されたクロストリジウム毒素濃度は、例えば、約 0.1 pM〜 100 μM、0.1 pM〜 10 μM、0.1 pM〜 1 μM、0.1 pM〜 500 nM、0.1 pM〜 100 nM、例えば、1 pM〜 2000 pM、1 pM〜 200 pM、1 pM〜 50 pM、1 nM 〜 1 μM、1 nM 〜500 nM、1 nM〜200 nM、1 nM 〜 100 nM または3 nM〜 100 nM 毒素の範囲であってよく、これは、例えば、精製されたネイティブまたは組換え軽鎖または二本鎖毒素またはヒト血清アルブミンおよび賦形剤を含む製剤されたクロストリジウム毒素製品であり得る。特別の態様において、精製または部分的に精製された組換え BoNT/A、BoNT/B またはBoNT/E 軽鎖または二本鎖または製剤化毒素製品の濃度は1 pM〜 2000 pM、10 pM〜 2000 pM、20 pM〜 2000 pM、40 pM〜 2000 pM、または1 pM〜 200 pMの範囲である。さらなる態様において、精製または部分的に精製された組換え BoNT/C 軽鎖または二本鎖または製剤化毒素製品の濃度は1〜 200 nM、4〜100 nM、10〜100 nMまたは4〜60 nMの範囲である。当業者であれば、精製または部分的に精製されたクロストリジウム毒素の濃度は、アッセイされる毒素の血清型、ならびに毒素の純度または組換え配列、阻害成分の存在、およびアッセイ条件に依存することを理解している。精製された、部分的に精製されたまたは粗サンプルは、標準曲線に対してクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性をアッセイするのに便利な範囲内に希釈すればよいということがさらに理解される。同様に、サンプルは、所望の場合は、アッセイが線形となるように希釈すればよいということが理解される。
【0097】
クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件はまた、一般に、例えば、約 20℃〜約 45℃の範囲、例えば、25℃〜 40℃の範囲、または35℃〜 39℃の範囲の温度を含む。アッセイ体積は通常、約 5 〜約 200 μlの範囲、例えば、約 10 μl〜100 μlの範囲または約 0.5 μl〜100 μlの範囲であるが、ナノリットル反応体積も本発明の方法に使用できる。アッセイ体積はまた、例えば、100 μl〜2.0 mlの範囲または0.5 ml 〜 1.0 mlの範囲でありうる。
【0098】
アッセイ時間は当業者により適宜変動させることが出来、一般に、部分的には、クロストリジウム毒素の濃度、純度および活性に依存する。アッセイ時間は一般に、これらに限定されないが、約 15 分〜約 5 時間の範囲で変動する。非限定的な例として、例示的なアッセイ時間は、例えば、37℃で30 分、45 分、60 分、75 分または90 分のインキュベーションを含む。特別の態様において、クロストリジウム毒素基質の少なくとも 10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%が切断される。さらなる態様において、プロテアーゼ反応は、クロストリジウム毒素基質が5%、10%、15%、20%、25%または50%を超えて切断される前に停止させる。プロテアーゼ反応は、一般にランタニドドナー錯体および基質のその他の成分に依存する適当な試薬によって終結させることが出来るということが理解される。非限定的な例として、GFPを蛍光アクセプターとして含む基質に基づくプロテアーゼ反応は、例えば、終濃度 1〜2 Mまでの塩化グアニジウムの添加により終結させることが出来る。プロテアーゼ反応はまた、H2SO4の添加;約 0.5 〜 1.0 ホウ酸ナトリウム、pH 9.0〜9.5の添加; または亜鉛キレート化剤の添加によっても終結させることが出来る。当業者であれば、プロテアーゼ反応は所望の場合は、アンテナを励起する前に終結させてもよいことを理解している。
【0099】
非限定的な例として、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性、例えば、 BoNT/A プロテアーゼ活性に好適な条件は、37℃、90 分間の50 mM HEPES (pH 7.2)、10 μM ZnCl2、10 mM DTT、および0.1% (v/v) TWEEN-20を含むバッファー中での10-16 μM 基質とのインキュベーションであり得る。所望の場合は、BoNT/A、特に二本鎖 BoNT/Aを含むサンプルを、ジチオトレイトールとともに例えば基質の添加の前に20または30 分間プレインキュベートしてもよい。さらなる非限定的な例として、BoNT/A プロテアーゼ活性に好適な条件は、還元剤、例えば、 5 mM ジチオトレイトール; および亜鉛源、例えば、 25 μM 塩化亜鉛 (およそ 7 nM; Schmidt and Bostian、前掲、1997)を含むバッファー、例えば、 30 mM HEPES (pH 7.3)中での37℃のインキュベーションであり得る。0.1 mg/ml 〜 10 mg/mlの範囲のBSA、例えば、1 mg/ml BSAを、サンプルをクロストリジウム毒素基質で処理する場合に含めてもよい (Schmidt and Bostian、前掲、1997)。別の非限定的な例として、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性、例えば BoNT/B 活性に好適な条件は、10 μM 塩化亜鉛、1% 胎児ウシ血清および10 mM ジチオトレイトールを含む50 mM HEPES、pH 7.4中でのインキュベーションであり得、インキュベーションは、37℃で90 分間であり得る (Shone and Roberts、Eur. J. Biochem. 225:263 270 (1994); Hallis et al.、前掲、1996); あるいは、例えば、10 mM ジチオトレイトールを含む40 mM リン酸ナトリウム、pH 7.4中でのインキュベーションであり得、所望により 0.2% (v/v) Triton X-100を含んでいてもよく、インキュベーションは37℃で2 時間であり得る(Shone et al.、前掲、1993)。破傷風毒素プロテアーゼ活性またはその他のクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件は、例えば、20 mM HEPES、pH 7.2、および100 mM NaCl中での2 時間、37℃での25 μM ペプチド基質とのインキュベーションであり得る (Cornille et al.、前掲、1994)。
【0100】
本発明は部分的には、発光共鳴エネルギー移動(LRET)に依存し、ここで、ランタニドイオン、例えば、 Tb3+または Eu3+はエネルギーを、分子内長距離双曲子間共役(coupling)を介して非放射的にフルオロフォアであってもよい有機アクセプターに移動させる。FRETはランタニドドナー錯体とアクセプターとの間の分子内分離の-6乗(inverse sixth power)に依存し、有効な移動のためには、ランタニドドナー錯体とアクセプターは近接して分離しており、例えば、約 10 オングストローム 〜約 100 オングストローム分離している。有効なエネルギー移動はランタニドドナー錯体とアクセプターのスペクトル特性ならびにそれらの相対配向に依存する(Clegg、Current Opinion in Biotech. 6:103 110 (1995); およびSelvin、Nature Structural Biol. 7:730-734 (2000)を参照されたい)。
【0101】
本発明のクロストリジウム毒素基質において、ランタニドイオンおよびアクセプターは、ランタニドドナー錯体のアンテナが励起された場合に、ランタニドドナー錯体とアクセプターとが、共鳴エネルギー移動を示すように選択される。当該技術分野において周知であるように、共鳴エネルギー移動の効率は、フェルスター方程式に記載のようにランタニドイオンまたはランタニドドナー錯体のその他の成分とアクセプターとの分離距離に依存し、そしてランタニドイオンの蛍光量子収率およびアクセプターとのエネルギー的オーバーラップにも依存する。一つの態様において、本発明は、最適条件下で、ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間のLRET効率が少なくとも 10%であるクロストリジウム毒素基質を提供する。別の態様において、本発明は、最適条件下で、ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間のLRET効率が少なくとも 20%であるクロストリジウム毒素基質を提供する。さらなる態様において、本発明は、最適条件下で、ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間のLRET効率が少なくとも 30%、40%、50%、60%、70%または80%であるクロストリジウム毒素基質を提供する。
【0102】
本発明のクロストリジウム毒素基質はランタニドの顕著な発光特性を利用するものであり、それらはその寿命が、ミリ秒からミリ秒未満の長い寿命であり、狭く複数の発光バンドを可視スペクトル内に示し、非偏光発光であるという特性である。本発明のクロストリジウム毒素基質における使用に有用なランタニドドナー錯体/アクセプター対としては、これらに限定されないが、CS124-DTPA-EMCH-Tb またはその他のテルビウムイオン錯体と、アクセプターとしての緑色蛍光タンパク質または青色蛍光タンパク質との組合せが挙げられる(実施例IおよびII参照)。有用なランタニドドナー錯体/アクセプター対はまた、ランタニドドナー錯体である、 Eu トリスビピリジンクリプテート (TBP Eu3+、λEx 337 nm) と105 kDa フィコビリンタンパク質アクセプターフルオロフォアである、アロフィコシアニンとの組合せであってもよい(Sittampalam et al.、Curr. Opin. Chem. Biol. 1:384-391 (1997))。Eu-トリスビピリジンクリプテートは2つのビピリジル基を有し、これは、光を集光し、ケージされたEu3+にそれをチャンネルする ;Eu3+はアクセプターと近接した場合に非放射的にエネルギーをアロフィコシアニンに移動させ、ランタニドイオン-アクセプター距離9.5 nmにて、50%を超える移動効率を示す。さらに、TBP Eu3+とアロフィコシアニンおよびそれらの分光学的特性は共に生物学的媒体中で非常に安定であり、ランタニドイオンの長寿命にてアロフィコシアニンが放射し(λEm= 665 nm)、それによって時間分解検出が可能となる(Kolb et al.、J. Biomol. Screening 1:203-210 (1996))。かかるドナーフルオロフォア-アクセプター対を含む基質の調製方法は当該技術分野において周知であり、例えば、Kolb et al.、前掲、1996、および Sittampalam et al.、前掲、1997に記載されている。
【0103】
本発明のクロストリジウム毒素基質はランタニドドナー錯体とアクセプターとの間に位置するクロストリジウム毒素切断部位を含む。一つの態様において、ランタニドドナー錯体は切断部位のカルボキシ末端に位置し、アクセプターは切断部位のアミノ末端に位置する。別の態様において、ランタニドドナー錯体は切断部位のアミノ末端に位置し、アクセプターは切断部位のカルボキシ末端に位置する。
【0104】
当業者であれば、本発明のクロストリジウム毒素基質においてランタニドドナー錯体およびアクセプターを選択し、位置づけるためにいくつかの考慮因子があるということを理解している。ランタニドドナー錯体およびアクセプターは一般に、クロストリジウム毒素への基質の結合またはクロストリジウム毒素によるタンパク分解に対する干渉を最小にするように位置づけられる。したがって、ランタニドドナー錯体およびアクセプターは、例えば、結合に重要な結合性および非結合性相互作用の破壊を最小にし、立体障害を最小にするように選択され、位置付けられ得る。さらに、アクセプターとランタニドドナー錯体との間の空間的距離は一般に、ランタニドドナー錯体からアクセプターへの効率的なエネルギー移動が達成されるように制限される。
【0105】
上記のように、ランタニドドナー錯体からアクセプターへのエネルギー移動の効率は部分的には、ランタニドドナー錯体とアクセプターとの空間的分離に依存するであろう。ランタニドドナー錯体とアクセプターとの間の距離が増加するとアクセプターへのエネルギー移動が少なくなり、それゆえランタニドドナー錯体シグナルが切断の前であっても上昇する。基質の切断の際のランタニドドナー錯体の蛍光収率の全体的な上昇は多くの因子に依存し、かかる因子としては以下が挙げられる:ランタニドドナー錯体とアクセプターとの基質中での分離距離、ランタニドドナー錯体とアクセプターとのスペクトルオーバーラップ、およびアッセイに用いる基質濃度。当業者であれば、基質濃度が上昇すれば、ドナーの分子間クエンチングがタンパク分解的切断の後でさえ、因子となりうるということを理解している。この現象は「インナーフィルター(inner filter)効果」と称される。
【0106】
50% エネルギー移動のためのドナーフルオロフォアとアクセプターとの間の分離であるフェルスター距離は、良好な感度を提供するドナーフルオロフォアおよびアクセプターの間の空間的分離を表す。ペプチド基質については、隣接残基はもっとも伸長した立体構造においておよそ 3.6オングストロームの距離離れている。しかし、溶液中のペプチドおよびペプチド模倣体は完全に伸長した立体構造をとることは珍しいので、ランタニドドナー錯体とアクセプターは残基当たり3.6 オングストロームを利用して行われる計算に基づいて予測されるより広い間の距離をとっていてもよく、フェルスター距離内に維持される。一つの態様において、本発明は、ランタニドイオンまたはランタニドドナー錯体のその他の成分がアクセプターから空間的距離にして多くとも 100オングストローム離れているクロストリジウム毒素基質を提供する。別の態様において、本発明は、ランタニドイオンまたはランタニドドナー錯体のその他の成分がアクセプターから空間的距離にして多くとも 90オングストローム、80オングストローム、70オングストローム、60オングストローム、50オングストローム、40オングストローム、30オングストロームまたは20オングストロームの距離離れているクロストリジウム毒素基質を提供する。さらなる態様において、本発明は、ランタニドイオンまたはランタニドドナー錯体のその他の成分がアクセプターから空間的距離にして10オングストローム〜100オングストローム、10オングストローム〜 80オングストローム、10オングストローム〜60オングストローム、10オングストローム〜40オングストローム、10オングストローム〜20オングストローム、20オングストローム〜100オングストローム、20オングストローム〜80オングストローム、20オングストローム 〜60オングストローム、20オングストローム 〜40オングストローム、40オングストローム〜100オングストローム、40オングストローム〜80オングストロームまたは40オングストローム〜60オングストロームの距離離れているクロストリジウム毒素基質を提供する。
【0107】
当業者であれば、本発明のクロストリジウム毒素基質は、部分的には、共鳴エネルギー移動の効率を最適化するように設計することが出来るということを理解している。当業者であれば、本発明において有用なランタニドイオンは、一般に、高い量子収率を有し、そしてアクセプターは、所望の場合は、フェルスター 距離を最大にするために高い吸光係数を有するように選択することが出来るということを理解している。当業者であればさらに、アクセプターの直接の励起から生じる蛍光は、共鳴エネルギー移動に起因する蛍光と区別することが困難であり得るということを理解している。したがって、ランタニドドナー錯体およびアクセプターは、ランタニドドナー錯体のアンテナが、アクセプターの直接の励起を引き起こさない波長にて励起されうるように、ランタニドドナー錯体およびアクセプターの励起スペクトルのオーバーラップが比較的小さくなるように選択されうるということが認識される。さらに本発明のクロストリジウム毒素基質は、2つの発光が容易に識別できるように、ランタニドドナー錯体およびアクセプターの発光スペクトルのオーバーラップが比較的小さくなるように設計されうるということが認識される。所望の場合、高い蛍光量子収率を有するアクセプターを選択されうる。
【0108】
クロストリジウム毒素基質のタンパク分解、そしてしたがってクロストリジウム毒素の存在または活性は、様々な手段によって、例えば、ランタニドドナー錯体の少なくとも1つの発光ピークからの発光の上昇を検出することにより;アクセプター蛍光強度の低下を検出することにより;またはアクセプター発光極大近くの蛍光振幅とランタニドドナー錯体発光極大近くの蛍光振幅との比の低下を検出することにより、検出することが出来る。関連する発光強度は適当に選択された波長または波長範囲で検出されるということが理解される。クロストリジウム毒素基質のタンパク分解、そしてしたがってクロストリジウム毒素の存在または活性はまた、例えば、アクセプター発光極大の近くからランタニドイオンの発光極大の近くへの発光極大のシフト、またはランタニドイオンの励起状態寿命の上昇によっても検出することが出来る。
【0109】
一つの態様において、ランタニドドナー錯体の少なくとも1つの発光ピークの発光強度が検出され、発光強度の上昇はクロストリジウム毒素の存在または活性を示す。かかる強度の上昇は、例えば、サンプルと接触していない同じクロストリジウム毒素基質の同じ波長での発光強度と比較して少なくとも 2倍、3倍、5倍、10倍、20倍またはそれ以上であり得る。かかる強度の上昇は、サンプルと接触していない同じクロストリジウム毒素基質の同じ波長での発光強度と比較して、例えば、少なくとも 0.1-倍、0.2-倍、0.3-倍、0.4-倍、0.5-倍、0.6-倍、0.7-倍、0.8-倍、0.9-倍、1.0-倍、または1.5-倍の上昇であり得る。
【0110】
ランタニドドナー錯体の発光強度の検出のために、励起はアンテナ吸収の波長に設定し、ランタニドドナー錯体の少なくとも1つのピークの発光をモニターする。ランタニドドナー錯体の発光波長は一般に、アクセプター蛍光からの寄与がほとんどまたはまったく観察されないように選択する。アクセプターの存在は、本明細書において実施例IIにおいて開示するようにランタニドドナー錯体からの発光をクエンチする。本発明のクロストリジウム毒素の存在または活性を判定する方法は、サンプルで処理したクロストリジウム毒素基質の、対照基質と比較しての共鳴エネルギー移動を測定することを含み、「固定時間」アッセイまたは連続時間アッセイとして実施されうる。
【0111】
本発明の方法において、クロストリジウム毒素で処理された基質の発光共鳴エネルギー移動が対照基質と比較して測定される。かかる対照基質としては、これらに限定されないが、サンプルで処理されていない同一のクロストリジウム毒素基質、または1以上のクロストリジウム毒素を含むことが知られている所定のサンプルで処理された同一のクロストリジウム毒素基質、または活性のクロストリジウム毒素を含まないことが知られている所定のサンプルで処理された同一のクロストリジウム毒素基質が挙げられる。様々な対照基質が本発明の方法において有用であり、対照基質は陽性対照基質であっても陰性対照基質であってもよいということが上記から明らかである。対照基質は、例えば、陰性対照基質であり得、例えば、活性のクロストリジウム毒素を含まない同様のサンプルと接触された同様または同一の基質、またはサンプルと接触されていない同様または同一の基質、またはクロストリジウム毒素切断に非感受性の同様または同一の基質が挙げられる。対照基質はまた、例えば、陽性対照基質であってもよく、例えば、クロストリジウム毒素基質のクロストリジウム毒素タンパク分解から得られる切断産物であってもよい。かかる対照基質はランタニドドナー錯体-含有切断産物、アクセプター含有切断産物、またはそれらの組合せであり得る。
【0112】
本発明の方法は自動化することができ、これらに限定されないが、96-ウェル、384-ウェルまたは1536-ウェルプレートを用いるハイスループットまたは超ハイスループット形式にて形成することができるといういことが理解される。一例として、蛍光発光は、96 ウェルプレート アッセイ用に設計された、Molecular Devices FLIPR(登録商標) 計測システム (Molecular Devices; Sunnyvale、CA) (Schroeder et al.、J. Biomol. Screening 1:75 80 (1996))を用いて検出することが出来る。FLIPRは 水冷 488 nm アルゴンイオンレーザー (5 ワット)またはキセノンアーク燈およびプレート全体を照射して画像を取得する電荷結合素子 (CCD)カメラを備えた半共焦点(semiconfocal)光学システムを利用する。FPM-2 96-ウェルプレートリーダー(Folley Consulting and Research; Round Lake、Illinois)も本発明の方法における共鳴エネルギー移動の測定において有用であり得る。当業者であれば、適当な分光学的適合性を備えたこれらおよびその他の自動化システム、例えば、ECLIPSE キュベットリーダー(Varian-Cary; Walnut Creek、CA)、SPECTRAmax GEMINI XS (Molecular Devices)及びその他の、例えば、Perkin Elmerからのシステムが本発明の方法において有用であり得ることを理解している。
【0113】
生物学的サンプルに存在する多くの化合物およびタンパク質が天然に蛍光である;したがって、常套のフルオロフォアの利用は感度において重大な制限を導きうる。しかし、非特異的バックグラウンド蛍光は短寿命であり、典型的には減衰時間が約 10 ナノ秒のみであり、それゆえサンプル蛍光と比較してかなりはやく消滅する。したがってほとんどのバックグラウンドシグナルは時間分解蛍光 (TRF)を用いて容易に識別でき、これは希土類ランタニドの長寿命の蛍光に基づく迅速且つ便利なアッセイである。時間分解蛍光において、検出器は短時間についてゲートされ、バックグラウンド蛍光の殆どを含む初期の蛍光バーストは測定されない。ゲート期間の後、より長く持続するサンプル中の蛍光が測定され、大幅に感度が上昇する。非限定的な例として、ランタニドドナー錯体のアンテナを励起するためのパルス励起源は窒素レーザーを用いて生じさせることが出来る(337 nm)。典型的には、約 5ナノ秒のパルス幅が 20〜50-Hz 繰り返し数とともに用いられる。寿命測定については、好適なカラーフィルターおよび計数電子機器を備えた光電子増倍管を用いることが出来る。時間-遅延スペクトルについては、一般に、回折格子、および、電子的にまたは機械的チョッパーによりゲートされた時間-ゲート光電子増倍管またはCCDを利用する分光計が用いられる。かかる装置は市販されており、当該技術分野において周知であり、例えば、Xiao and Selvin、Rev. Sci. Inst. 70:3877-3881 (1999)、Xiao and Selvin、J. Am. Chem. Soc. 123:7067-7073 (2001)、および Selvin、前掲、2002に記載されている。
【0114】
異なるクロストリジウム毒素に対する特異的かつ異なる切断部位が当該技術分野において周知である。BoNT/A はGln-Arg 結合を切断する; BoNT/B およびTeNTはGln-Phe 結合を切断する; BoNT/C1 はLys-AlaまたはArg-Ala 結合を切断する; BoNT/D はLys-Leu 結合を切断する; BoNT/E はArg-Ile 結合を切断する; BoNT/F はGln-Lys 結合を切断する; そしてBoNT/G はAla-Ala 結合を切断する (表A参照)。標準的命名法において、クロストリジウム毒素切断部位の周囲にある配列はP5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'と称され、P1-P1'は開裂性結合を表す。P1またはP1' 部位、あるいはその両方は、天然の残基の代わりに別のアミノ酸またはアミノ酸模倣体によって置換されうるといういことが理解される。一例として、P1 位置 (Gln)が、アラニン、2-アミノ酪酸またはアスパラギン残基に改変されたBoNT/A 基質が調製された; これら基質はP1-Arg 結合においてBoNT/Aにより加水分解された (Schmidt and Bostian、J. Protein Chem. 16:19 26 (1997))。開裂性結合、例えば、BoNT/A 開裂性結合のP1 位置に置換を導入することができるということが認識されるが、さらにP1' 残基の保存が有益であり得る (Vaidyanathan et al.、J. Neurochem. 72:327 337 (1999)) ということが認識される。したがって、特定の態様において、本発明は、P1' 残基がクロストリジウム毒素により切断される標的タンパク質の天然の残基と比較して改変または置換されていないクロストリジウム毒素認識配列を有するクロストリジウム毒素基質に依存する方法を提供する。別の態様において、本発明は、P1 残基がクロストリジウム毒素により切断される標的タンパク質の天然の残基と比較して改変または置換されている認識配列を有するクロストリジウム毒素基質に依存する方法を提供する; かかるクロストリジウム毒素基質は、P1およびP1' 残基の間のペプチド結合切断に対する感受性を保持する。
【表1】

* 開裂性結合を太字で示す。
【0115】
SNAP-25、VAMPおよびシンタキシンは、α-ヘリックス立体構造をとると予測される領域内に位置する短いモチーフを共有する。このモチーフは、神経毒に感受性の動物において発現されるSNAP-25、VAMPおよびシンタキシンアイソフォームにおいて存在する。一方、これら神経毒に耐性のショウジョウバエおよび酵母ホモログおよびエキソサイトーシスに関与しないシンタキシンアイソフォームはこれらVAMPおよびシンタキシンタンパク質のα-ヘリックスモチーフ領域において配列の変異を含む。
【0116】
複数の繰り返しのα-ヘリックスモチーフがクロストリジウム毒素による切断に感受性のタンパク質において存在する:4つのコピーがSNAP-25に天然に存在する; 2つのコピーがVAMPにおいて天然に存在する;そして2つのコピーがシンタキシンにおいて天然に存在する。さらに、α-ヘリックスモチーフの特定の配列に対応するペプチドは神経毒活性をインビトロおよびインビボで阻害することが出来、かかるペプチドは異なる神経毒を交差阻害することが出来る。さらに、かかるペプチドに対する抗体は3つの標的タンパク質に対して交差反応することができ、このα-ヘリックスモチーフがタンパク質表面に露出され、3つの標的タンパク質のそれぞれにおいて類似の立体構造をとっていることが示される。かかる知見と一致して、SNAP-25-特異的、VAMP-特異的およびシンタキシン-特異的神経毒は、同じ結合部位を競合することにより互いに交差阻害するが、それらは標的を非特異的に切断しない。これらの結果は、クロストリジウム毒素認識配列は、所望の場合は、少なくとも1つのα-ヘリックスモチーフを含んでいてもよいことを示す。当該技術分野において知られているBoNT/Aに対する16 merおよび17 mer 基質によって示されるように、α-ヘリックスモチーフはクロストリジウム毒素による切断に必要ではないということが認識される。
【0117】
複数のα-ヘリックスモチーフが天然の SNAP-25、VAMPおよびシンタキシン標的タンパク質にみられるが、クロストリジウム毒素基質において有用なクロストリジウム毒素認識配列は単一のα-ヘリックスモチーフを有するものであってよい。特定の態様において、本発明の方法は2以上のα-ヘリックスモチーフを含むクロストリジウム毒素認識配列に依存する。BoNT/AまたはBoNT/E 認識配列は、例えば、単独でまたは1以上のさらなるα-ヘリックスモチーフと組み合わせてS4 α-ヘリックスモチーフを含んでいてもよい; BoNT/B、BoNT/GまたはTeNT 認識配列は、例えば、単独でまたは1以上のさらなるα-ヘリックスモチーフと組み合わせてV2 α-ヘリックスモチーフを含んでいてもよい; BoNT/C1 認識配列は、例えば、単独でまたは1以上のさらなるα-ヘリックスモチーフと組み合わせてS4 α-ヘリックスモチーフを含んでいてもよいし、単独でまたは1以上のさらなるα-ヘリックスモチーフと組み合わせてX2 α-ヘリックスモチーフを含んでいてもよい;そして、BoNT/D またはBoNT/F 認識配列は、例えば、単独でまたは1以上のさらなるα-ヘリックスモチーフと組み合わせてV1 α-ヘリックスモチーフを含んでいてもよい。
【0118】
BoNT/A認識配列
【0119】
本明細書において用いる場合、「ボツリヌス毒素血清型A 認識配列」という用語は「BoNT/A 認識配列」と同義であり、隣接または非隣接認識要素のいずれかまたは両方とともに、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件下でBoNT/Aにより開裂性結合において検出可能にタンパク質分解されるのに十分な開裂性結合を意味する。 BoNT/Aにより切断される開裂性結合は、例えば、Gln-Argであり得る。
【0120】
様々なBoNT/A 認識配列が当該技術分野において周知であり、本発明に有用である。BoNT/A 認識配列は、例えば、ヒト SNAP-25の残基 134 〜 206 または残基 137 〜 206 (Ekong et al.、前掲、1997; 米国特許第5,962,637号)を有していてもよい。 BoNT/A 認識配列はまた、これらに限定されないが、以下を含んでいてもよい:配列 Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met (配列番号30) またはそのペプチド模倣体、これはヒト SNAP-25の残基 190 〜 202に対応する; Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys (配列番号31) またはそのペプチド模倣体、これはヒト SNAP-25の残基 187 〜 201に対応する; Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met (配列番号32) またはそのペプチド模倣体、これはヒト SNAP-25の残基 187 〜 202に対応する; Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu (配列番号33) またはそのペプチド模倣体、これはヒト SNAP-25の残基 187 〜 203に対応する; Asp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met (配列番号34) またはそのペプチド模倣体、これはヒト SNAP-25の残基 186 〜 202に対応する; またはAsp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu (配列番号35) またはそのペプチド模倣体、これはヒト SNAP-25の残基 186 〜 203に対応する。例えば、Schmidt and Bostian、J. Protein Chem. 14:703-708 (1995); Schmidt and Bostian、前掲、1997; Schmidt et al.、FEBS Letters 435:61 64 (1998); およびSchmidt and Bostian、米国特許第5,965,699号を参照されたい。所望の場合は、類似のBoNT/A 認識配列が別のBoNT/A-感受性 SNAP-25 アイソフォームまたはホモログの対応する(相同的) セグメントから調製でき、例えば、マウス、ラット、キンギョまたはゼブラフィッシュ SNAP-25から調製でき、あるいは、本明細書において記載されるペプチドまたは当該技術分野において公知の、例えば、米国特許第5,965,699号に記載のものであってもよい。
【0121】
本発明に有用なBoNT/A 認識配列は、ボツリヌス毒素血清型Aによる切断に感受性のタンパク質のセグメントに対応し得、あるいはBoNT/A-感受性タンパク質のセグメントと実質的に類似のものであり得る。表 Bにおいて示すように、BoNT/Aによる切断に感受性の様々な天然のタンパク質が当該技術分野において知られており、例えば、ヒト、マウスおよびラットSNAP-25;ならびにキンギョ SNAP-25AおよびSNAP-25Bが挙げられる。したがって、本発明に有用な BoNT/A 認識配列は、例えば、ヒト SNAP-25、マウス SNAP-25、ラットSNAP-25、キンギョ SNAP-25Aまたは25B、またはBoNT/Aによる切断に感受性のその他の天然のタンパク質のセグメントに対応しうる。さらに、BoNT/Aにより切断されるネイティブな SNAP-25 アミノ酸配列の比較により、かかる配列は完全に保存されているわけではないことが明らかとなり(表 B および図 3参照)、天然の BoNT/A-感受性 SNAP-25 配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明に有用なBoNT/A 認識配列において許容されうることが示される。
【表2】

a= SNAP-25のインビトロ切断には、BoNT/Aまたは/Eと比較して1000倍高いBoNT/C 濃度が必要である。
b= p182r、またはk185ddの置換(四角)はBoNT/Eに対する感受性を誘導する。
c=おそらくd189 またはe189のv189による置換によるBoNT/Aに対する抵抗性、四角参照。
d=シビレエイはBoNT/Aに感受性であることを注意されたい。
e=推定切断部位の周囲のいくつかの非保存的突然変異の存在に注意されたい。
【0122】
クロストリジウム毒素基質、例えば、BoNT/A 認識配列を含む基質は、対応するクロストリジウム毒素に切断される天然の配列と比較して1以上の修飾を有しうる。一例として、ヒトSNAP-25の残基 187 〜 203に対応する17-merと比較して、BoNT/A 基質におけるAsp193の Asnによる置換の結果、タンパク質分解の相対速度は0.23となる; Glu194のGlnによる置換の結果、相対速度は2.08となる; Ala195の2-アミノ酪酸による置換の結果、相対速度 は0.38となる;そしてGln197のAsn、2-アミノ酪酸またはAlaによる置換の結果、相対速度 はそれぞれ0.66、0.25、または0.19となる(表 C参照)。さらに、Ala199 の 2-アミノ酪酸による置換の結果、相対速度は0.79となる; Thr200のSerまたは2-アミノ酪酸による置換の結果、相対速度はそれぞれ0.26または1.20となる; Lys201のAlaによる置換の結果、相対速度は0.12となる;そして、 Met202 の Alaまたはノルロイシンによる置換の結果、相対速度はそれぞれ0.38または1.20となる。Schmidt and Bostian、前掲、1997を参照されたい。これらの結果は、天然の毒素感受性配列と比較してクロストリジウム毒素基質において様々な残基を置換することが出来ることを示す。BoNT/Aの場合、これらの結果は、これらに限定されないが、Glu194、Ala195、Gln197、Ala199、Thr200 およびMet202、Leu203、Gly204、Ser205、およびGly206、ならびにGln-Arg 開裂性結合からより遠位の残基を含む残基は、本発明に有用なBoNT/A 基質において、フルオロフォア、嵩高い基、ドナーフルオロフォアまたはアクセプターに置換または結合させることができることを示す。 かかるBoNT/A 基質はクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件下でBoNT/Aにより開裂性結合において検出可能にタンパク分解される。したがって、BoNT/A 基質は、所望の場合は、天然のSNAP-25 配列と比較して1または数個のアミノ酸置換、付加または欠失を含みうる。
【表3】

a 非標準的アミノ酸略記:B、2-アミノ酪酸; X、2-アミノヘキサン酸 (ノルロイシン)
b ペプチド [1-17]に対する加水分解初速度。ペプチド濃度は 1.0 mMとした。
【0123】
BoNT/B 認識配列
【0124】
本明細書において用いる場合、「ボツリヌス毒素血清型 B 認識配列」という用語は「BoNT/B 認識配列」と同義であり、隣接または非隣接認識要素のいずれかまたは両方とともに、適当な条件下でBoNT/Bにより開裂性結合において検出可能にタンパク質分解されるのに十分な開裂性結合を意味する。 BoNT/Bにより切断される開裂性結合は、例えば、Gln-Pheであり得る。
【0125】
様々な BoNT/B 認識配列が当該技術分野において周知であり常套方法によって規定できる。かかるBoNT/B 認識配列は、例えば、VAMP タンパク質、例えば、 ヒト VAMP-1またはヒト VAMP-2の親水性コアの一部または全部に対応する配列を含みうる。 BoNT/B 認識配列は、これらに限定されないが、ヒト VAMP-2(配列番号8)の残基 33 〜 94、残基 45 〜 94、残基 55 〜 94、残基 60 〜 94、残基 65 〜 94、残基 60 〜 88 または残基 65 〜 88、またはヒト VAMP-1(配列番号7)の残基 60 〜 94を含みうる。例えば、Shone et al.、Eur. J. Biochem. 217: 965 971 (1993)および米国特許第5,962,637号を参照されたい。所望の場合は、類似のBoNT/B 認識配列が別のBoNT/B-感受性 VAMP アイソフォームまたはホモログ、例えば、 ヒト VAMP-1またはラットまたはニワトリ VAMP-2の対応する(相同的) セグメントから調製できる。
【0126】
したがって、BoNT/B 認識配列は、ボツリヌス毒素血清型 Bによる切断に感受性のタンパク質のセグメントに対応し得、あるいはBoNT/B-感受性タンパク質のかかるセグメントと実質的に類似であり得るということが理解される。表 Dに示すように、BoNT/Bによる切断に感受性の様々な天然のタンパク質が当該技術分野において知られており、例えば、以下が挙げられる:ヒト、マウスおよびウシ VAMP-1およびVAMP-2; ラット VAMP-2; ラット セルブレビン(cellubrevin); ニワトリ VAMP-2; シビレエイ VAMP-1; ウニ VAMP; アメフラシ VAMP; イカ VAMP; 線虫 VAMP; ショウジョウバエ n-syb; およびヒル VAMP。したがって、BoNT/B 基質に含まれるBoNT/B 認識配列は、例えば、以下に対応しうる:ヒト VAMP-1 またはVAMP-2、マウス VAMP-1またはVAMP-2、ウシ VAMP-1またはVAMP-2、ラット VAMP-2、ラット セルブレビン(cellubrevin)、ニワトリ VAMP-2、シビレエイ VAMP-1、ウニ VAMP、アメフラシ VAMP、イカ VAMP、線虫 VAMP、ショウジョウバエ n-syb、ヒル VAMP、またはその他のBoNT/Bによる切断に感受性の天然のタンパク質のセグメント。さらに、表 Dに示すように、BoNT/Bにより切断されるネイティブなVAMP アミノ酸配列の比較により、かかる配列は完全に保存されているわけではないことが明らかとなり(図 4も参照)、天然の VAMP 配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明のBoNT/B 基質において許容されうることが示される。
【0127】
BoNT/C1 認識配列
【0128】
本明細書において用いる場合、「ボツリヌス毒素血清型 C1 認識配列」という用語は「BoNT/C1 認識配列」と同義であり、隣接または非隣接認識要素のいずれかまたは両方とともに、適当な条件下でBoNT/C1により開裂性結合において検出可能にタンパク質分解されるのに十分な開裂性結合を意味する。BoNT/C1により切断される開裂性結合は、例えば、Lys-AlaまたはArg-Alaであり得る。
【0129】
BoNT/C1 認識配列は、ボツリヌス毒素血清型 C1による切断に感受性のタンパク質のセグメントに対応し得、あるいはBoNT/C1-感受性タンパク質のセグメントと実質的に類似のものであり得るといういことが理解される。表 Eに示すように、BoNT/C1による切断に感受性の様々な天然のタンパク質が当該技術分野において知られており、例えば、ヒト、ラット、マウスおよびウシ シンタキシン 1Aおよび1B; ラット シンタキシン2および3; ウニシンタキシン; アメフラシ シンタキシン 1; イカ シンタキシン; ショウジョウバエ Dsynt1; およびヒルシンタキシン 1が挙げられる。したがって、BoNT/C1 基質において有用な BoNT/C1 認識配列は、例えば、ヒト、ラット、マウスまたはウシ シンタキシン 1A または 1B、ラット シンタキシン 2、ラット シンタキシン 3、ウニシンタキシン、アメフラシ シンタキシン 1、イカ シンタキシン、ショウジョウバエ Dsynt1、ヒル シンタキシン 1、またはその他のBoNT/C1による切断に感受性の天然のタンパク質のセグメントに対応しうる。さらに、BoNT/C1により切断されるネイティブなシンタキシンアミノ酸配列の比較により、かかる配列は完全に保存されているわけではないことが明らかとなり(表 Eおよび図 5参照)、天然のBoNT/C1-感受性 シンタキシン配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明に有用なBoNT/C1 基質において許容されうることが示される。
【0130】
【表4−1】

【0131】
【表4−2】

a=位置 93において妥当な配列(f>s)。
b=位置 68において妥当な配列(t>s)。
【0132】
【表5】

【0133】
様々な天然のSNAP-25 タンパク質もまたBoNT/C1による切断に感受性であり、例えば、ヒト、マウスおよびラット SNAP-25; キンギョ SNAP-25A および25B; およびショウジョウバエおよびヒル SNAP-25が挙げられる。したがって、BoNT/C1 基質において有用なBoNT/C1 認識配列は、例えば、ヒト、マウスまたは ラット SNAP-25、キンギョ SNAP-25Aまたは25B、シビレエイ SNAP-25、ゼブラフィッシュ SNAP-25、ショウジョウバエ SNAP-25、ヒル SNAP-25、またはその他のBoNT/C1による切断に感受性の天然のタンパク質のセグメントに対応しうる。 上記のように天然のシンタキシン配列の変異体に関して、BoNT/C1により切断されるネイティブな SNAP-25アミノ酸配列の比較により、かなりの配列変動性が明らかとなり(図 3および上記表 B参照)、天然のBoNT/C1-感受性SNAP-25 配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明に有用なBoNT/C1 基質において許容されうることが示される。
【0134】
BoNT/D 認識配列
【0135】
「ボツリヌス毒素血清型 D 認識配列」という用語は「BoNT/D 認識配列」と同義であり、隣接または非隣接認識要素のいずれかまたは両方とともに、適当な条件下でBoNT/Dにより開裂性結合において検出可能にタンパク質分解されるのに十分な開裂性結合を意味する。 BoNT/Dにより切断される開裂性結合は、例えば、Lys-Leuであり得る。
【0136】
様々な BoNT/D 認識配列が当該技術分野において周知であり、または常套方法により規定され得る。BoNT/D 認識配列としては、例えば、ラット VAMP-2の残基 27 〜 116; 残基 37 〜 116; 残基 1 〜 86; 残基 1 〜 76; または残基 1 〜 69 (配列番号90; Yamasaki et al.、J. Biol. Chem. 269:12764-12772 (1994)) が挙げられる。したがって、BoNT/D 認識配列は、例えば、ラット VAMP-2(配列番号90)の残基 27 〜 69 または残基 37 〜 69を含みうる。 所望の場合は、類似のBoNT/D 認識配列は、別のBoNT/D-感受性 VAMP アイソフォームまたはホモログ、例えば、 ヒト VAMP-1またはヒトVAMP-2の対応する(相同的) セグメントから調製することが出来る。
【0137】
BoNT/D 認識配列は、ボツリヌス毒素血清型 Dによる切断に感受性のタンパク質のセグメントに対応し得、あるいはBoNT/D 感受性タンパク質のセグメントと実質的に類似でありうる。表 Dに示すように、BoNT/Dによる切断に感受性の様々な天然のタンパク質が当該技術分野において知られており、例えば、ヒト、マウスおよびウシ VAMP-1およびVAMP-2; ラット VAMP-1およびVAMP-2; ラット セルブレビン(cellubrevin); ニワトリ VAMP-1およびVAMP-2; シビレエイ VAMP-1; アメフラシ VAMP; イカ VAMP; ショウジョウバエ sybおよびn-syb; およびヒル VAMPが挙げられる。したがって、BoNT/D 認識配列は、例えば、ヒト VAMP-1またはVAMP-2、マウス VAMP-1またはVAMP-2、ウシ VAMP-1またはVAMP-2、ラット VAMP-1またはVAMP-2、ラット セルブレビン(cellubrevin)、ニワトリ VAMP-1またはVAMP-2、シビレエイ VAMP-1、アメフラシ VAMP、イカ VAMP、ショウジョウバエ sybまたはn-syb、ヒル VAMP、またはその他のBoNT/Dによる切断に感受性の天然のタンパク質のセグメントに対応しうる。さらに、上記表 Dに示すように、BoNT/Dにより切断されるネイティブなVAMPアミノ酸配列の比較により、かなりの配列変動性が明らかとなり(図 4も参照)、天然のBoNT/D -感受性VAMP 配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明に有用なBoNT/D 基質において許容されうることが示される。
【0138】
BoNT/E 認識配列
【0139】
本明細書において用いる場合、「ボツリヌス毒素血清型 E 認識配列」という用語は「BoNT/E 認識配列」と同義であり、隣接または非隣接認識要素のいずれかまたは両方とともに、適当な条件下でBoNT/Eにより開裂性結合において検出可能にタンパク質分解されるのに十分な開裂性結合を意味する。 BoNT/Eにより切断される開裂性結合は、例えば、Arg-Ileであり得る。
【0140】
当業者であれば、BoNT/E 認識配列はボツリヌス毒素血清型 Eによる切断に感受性のタンパク質のセグメントに対応し得、あるいはBoNT/E 感受性 タンパク質のセグメントと実質的に類似であり得るということを理解している。一つの態様において、BoNT/E 認識配列は配列番号2の残基134〜206を含む。 BoNT/Eによる切断に感受性の様々な天然のタンパク質が当該技術分野において知られており、例えば、ヒト、マウスおよびラット SNAP-25; マウス SNAP-23; ニワトリ SNAP-25; キンギョ SNAP-25A およびSNAP-25B; ゼブラフィッシュ SNAP-25; 線虫 SNAP-25; および ヒル SNAP-25 (表 B参照)が挙げられる。したがって、BoNT/E 認識配列は、例えば、ヒト SNAP-25、マウス SNAP-25、ラット SNAP-25、マウス SNAP-23、ニワトリ SNAP-25、キンギョ SNAP-25Aまたは25B、線虫 SNAP-25、ヒル SNAP-25、またはその他のBoNT/E による切断に感受性の天然のタンパク質のセグメントに対応しうる。さらに、上記表 Bおよび図 3に示すように、BoNT/Eにより切断されるネイティブなSNAP-23およびSNAP-25 アミノ酸配列の比較により、かかる配列は完全に保存されているわけではないことが明らかとなり、天然のBoNT/E-感受性 SNAP-23またはSNAP-25 配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明に有用なBoNT/E基質において許容されうることが示される。
【0141】
BoNT/F 認識配列
【0142】
本明細書において用いる場合、「ボツリヌス毒素血清型 F 認識配列」という用語は「BoNT/F 認識配列」と同義であり、隣接または非隣接認識要素のいずれかまたは両方とともに、適当な条件下でBoNT/Fにより開裂性結合において検出可能にタンパク質分解されるのに十分な開裂性結合を意味する。 BoNT/Fにより切断される開裂性結合は、例えば、Gln-Lysであり得る。
【0143】
様々な BoNT/F 認識配列が当該技術分野において周知であり、あるいは常套方法により規定できる。BoNT/F 認識配列は、例えば、ラット VAMP-2の残基 27 〜 116; 残基 37 〜 116; 残基 1 〜 86; 残基 1 〜 76; または残基 1 〜 69 (配列番号90; Yamasaki et al.、前掲、1994)を含みうる。BoNT/F 認識配列はまた、例えば、ラット VAMP-2(配列番号90)の残基 27 〜 69 または残基 37 〜 69も含みうる。類似のBoNT/F 認識配列が、所望の場合は、別のBoNT/F 感受性 VAMP アイソフォームまたはホモログ、例えば、 ヒト VAMP-1またはヒト VAMP-2の対応する(相同的) セグメントから調製できるといういことが理解される。
【0144】
BoNT/F 認識配列はボツリヌス毒素血清型 Fによる切断に感受性のタンパク質のセグメントに対応し得、または、BoNT/F-感受性タンパク質のセグメントと実質的に類似のものであり得る。BoNT/Fによる切断に感受性の様々な天然のタンパク質が当該技術分野において知られており、例えば、ヒト、マウスおよびウシ VAMP-1およびVAMP-2; ラット VAMP-1およびVAMP-2; ラット セルブレビン(cellubrevin); ニワトリ VAMP-1およびVAMP-2; シビレエイ VAMP-1; アメフラシ VAMP; ショウジョウバエ syb;およびヒル VAMP (表 D参照)が挙げられる。したがって、BoNT/F 認識配列は、例えば、ヒト VAMP-1またはVAMP-2、マウス VAMP-1またはVAMP-2、ウシ VAMP-1またはVAMP-2、ラット VAMP-1またはVAMP-2、ラット セルブレビン(cellubrevin)、ニワトリ VAMP-1またはVAMP-2、シビレエイ VAMP-1、アメフラシ VAMP、ショウジョウバエ syb、ヒル VAMP、またはその他のBoNT/Fによる切断に感受性の天然のタンパク質のセグメントに対応しうる。さらに、上記表 Dに示すように、BoNT/Fにより切断されるネイティブなVAMP アミノ酸配列の比較により、かかる配列は完全に保存されているわけではないことが明らかとなり(図 4も参照)、天然のBoNT/F-感受性 VAMP配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明に有用なBoNT/F基質において許容されうることが示される。
【0145】
BoNT/G 認識配列
【0146】
本明細書において用いる場合、「ボツリヌス毒素血清型 G 認識配列」という用語は「 BoNT/G 認識配列」と同義であり、隣接または非隣接認識要素のいずれかまたは両方とともに、適当な条件下でBoNT/Gにより開裂性結合において検出可能にタンパク質分解されるのに十分な開裂性結合を意味する。 BoNT/Gにより切断される開裂性結合は、例えば、Ala-Alaであり得る。
【0147】
BoNT/G 認識配列は、ボツリヌス毒素血清型 Gによる切断に感受性のタンパク質のセグメントに対応し得、あるいは、かかるBoNT/G-感受性セグメントと実質的に類似であり得る。上記表 Dにおいて示すように、BoNT/Gによる切断に感受性の様々な天然のタンパク質が当該技術分野において知られており、例えば、ヒト、マウスおよびウシ VAMP-1およびVAMP-2; ラット VAMP-1およびVAMP-2; ラット セルブレビン(cellubrevin); ニワトリ VAMP-1およびVAMP-2; およびシビレエイ VAMP-1が挙げられる。したがって、BoNT/G 認識配列は、例えば、 ヒト VAMP-1またはVAMP-2、マウス VAMP-1またはVAMP-2、ウシ VAMP-1またはVAMP-2、ラット VAMP-1またはVAMP-2、ラット セルブレビン(cellubrevin)、ニワトリ VAMP-1またはVAMP-2、シビレエイ VAMP-1、またはその他のBoNT/Gによる切断に感受性の天然のタンパク質のセグメントに対応しうる。 さらに、上記表 Dに示すように 、BoNT/Gにより切断されるネイティブなVAMP アミノ酸配列の比較により、かかる配列は完全に保存されているわけではないことが明らかとなり(図 4も参照)、天然のBoNT/G-感受性 VAMP 配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明に有用なBoNT/G 基質において許容されうることが示される。
【0148】
TeNT 認識配列
【0149】
本明細書において用いる場合、「破傷風毒素認識配列」という用語は、隣接または非隣接認識要素のいずれかまたは両方とともに、適当な条件下で破傷風毒素により開裂性結合において検出可能にタンパク質分解されるのに十分な開裂性結合を意味する。TeNTにより切断される開裂性結合は、例えば、Gln-Pheであり得る。
【0150】
様々な TeNT 認識配列が当該技術分野において周知であり、あるいは常套方法により規定でき、VAMP タンパク質、例えば、 ヒト VAMP-1またはヒト VAMP-2の親水性コアの一部または全部に対応する配列を含む。TeNT 認識配列は、例えば、以下を含みうる:ヒト VAMP-2の残基 25 〜 93 または残基 33 〜 94 (配列番号8; Cornille et al.、 Eur. J. Biochem. 222:173 181 (1994); Foran et al.、Biochem. 33: 15365 15374 (1994)); ラット VAMP-2の残基 51 〜 93 または残基 1 〜 86 (配列番号90; Yamasaki et al.、前掲、1994); またはヒト VAMP-1の残基 33 〜 94 (配列番号7)。TeNT 認識配列はまた、例えば、ヒト VAMP-2の残基 25 〜 86、残基 33 〜 86 または残基 51 〜 86 (配列番号8) またはラット VAMP-2 (配列番号90)も含み得る。類似のTeNT 認識配列が、所望の場合は、別のTeNT-感受性 VAMPアイソフォームまたは種ホモログ、例えば、ヒト VAMP-1またはウニまたはアメフラシ VAMPの対応する(相同的) セグメントから調製できるといういことが理解される。
【0151】
したがって、TeNT 認識配列は破傷風毒素による切断に感受性のタンパク質のセグメントに対応し得、あるいはTeNT-感受性タンパク質のセグメントと実質的に類似のものであり得る。上記表 Dに示すように、TeNTによる切断に感受性の様々な天然のタンパク質が当該技術分野において知られており、例えば、ヒト、マウスおよびウシ VAMP-1およびVAMP-2; ラット VAMP-2; ラット セルブレビン(cellubrevin); ニワトリ VAMP-2; シビレエイ VAMP-1; ウニ VAMP; アメフラシ VAMP; イカ VAMP; 線虫 VAMP; ショウジョウバエ n-syb;およびヒル VAMPが挙げられる。したがって、TeNT 認識配列は、例えば、ヒト VAMP-1またはVAMP-2、マウス VAMP-1またはVAMP-2、ウシ VAMP-1またはVAMP-2、ラット VAMP-2、ラット セルブレビン(cellubrevin)、ニワトリ VAMP-2、シビレエイ VAMP-1、ウニ VAMP、アメフラシ VAMP、イカ VAMP、線虫 VAMP、ショウジョウバエ n-syb、ヒル VAMP、またはその他のTeNTによる切断に感受性の天然のタンパク質のセグメントに対応しうる。さらに、TeNTにより切断されるネイティブなVAMP アミノ酸配列の比較により、かかる配列は完全に保存されているわけではないことが明らかとなる(表 Dおよび図 4)。この知見により、天然のTeNT-感受性 VAMP配列に対する様々なアミノ酸置換および修飾が、本発明に有用なTeNT 基質において許容されうることが示される。
【0152】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、ペプチドおよびペプチド模倣体ならびにその誘導体化形態を含む。本明細書において用いる場合、「ペプチド模倣体」という用語は、それが構造的に基づくペプチド基質と同じクロストリジウム毒素によって切断されるペプチド様分子を広く意味するのに用いられる。かかるペプチド模倣体は、化学修飾されたペプチド、非天然アミノ酸を含むペプチド様分子、およびN-置換グリシンのオリゴマーアセンブリーに起因するペプチド-様分子であるペプトイドを含み、そのペプチド模倣体が由来するペプチド基質と同じクロストリジウム毒素によって切断される(例えば、Goodman and Ro、Peptidomimetics for Drug Design、"Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery" Vol. 1 (ed. M.E. Wolff; John Wiley & Sons 1995)、pages 803-861を参照)。
【0153】
様々なペプチド模倣体が当該技術分野において知られており、例えば、束縛されたアミノ酸、ペプチド二次構造を模倣する非ペプチド成分またはアミド結合アイソスターを含むペプチド様分子が挙げられる。束縛された、非天然アミノ酸を含むペプチド模倣体としては、例えば、以下を含みうる:α-メチル化アミノ酸; α,α-ジアルキル-グリシンまたはα-アミノシクロアルカンカルボン酸; Nα-Cα 環化(cylized)アミノ酸; Nα-メチル化アミノ酸;β-またはγ-アミノシクロアルカンカルボン酸;α,β-不飽和アミノ酸;β,β-ジメチルまたはβ-メチルアミノ酸; β-置換-2,3-メタノアミノ酸; NCδまたはCα Cδ 環化アミノ酸;または置換プロリンまたはその他のアミノ酸模倣体。さらに、ペプチド二次構造を模倣するペプチド模倣体には、例えば、以下が含まれうる: 非ペプチド性 β ターン模倣体; γ-ターン模倣体;β-シート構造の模倣体;またはヘリックス構造の模倣体、これらはいずれも当該技術分野において周知である。ペプチド模倣体は、例えば、以下のようなアミド結合アイソスターを含むペプチド様分子であってもよい:例えば、 レトロ逆(retro-inverso)修飾; 還元型アミド結合; メチレンチオエーテルまたはメチレンスルホキシド結合; メチレンエーテル結合; エチレン結合; チオアミド結合; トランス-オレフィンまたはフルオロオレフィン結合; 1,5-ジ置換テトラゾール環; ケトメチレンまたはフルオロケトメチレン結合またはその他のアミドアイソスター。当業者であれば、これらおよびその他のペプチド模倣体が、本明細書において用いる「ペプチド模倣体」という用語の意味に含まれるということを理解している。
【0154】
本発明の方法のいずれにおいても、クロストリジウム毒素基質は、同じまたは異なるクロストリジウム毒素のための1以上のクロストリジウム毒素切断部位を含みうる。特別の態様において、本発明は、単一のクロストリジウム毒素切断部位を含むクロストリジウム毒素基質に依存する方法を提供する。別の態様において、本発明は、同じクロストリジウム毒素に対する複数の切断部位を含むクロストリジウム毒素基質に依存する方法を提供する。これら切断部位は、同じまたは異なるクロストリジウム毒素認識配列内に組み込むことが出来る。非限定的な例として、クロストリジウム毒素基質は、同じランタニドドナー錯体およびアクセプターの間に介在する同じクロストリジウム毒素のための複数の切断部位を有しうる。本発明において有用なクロストリジウム毒素基質は、例えば、同じクロストリジウム毒素に対する2以上の、3以上の、5以上の、または10以上の同一または非同一の認識配列を含みうる。本発明に有用なクロストリジウム毒素基質は、例えば、同じクロストリジウム毒素に対する2、3、4、5、6、7、8、9または10の認識配列を有しうる;複数の認識配列は、同じまたは異なるランタニドドナー錯体-アクセプター対の間に介在しうる。
【0155】
本発明に有用なクロストリジウム毒素基質はまた、異なるクロストリジウム毒素に対する切断部位を含みうる。特別の態様において、本発明は、同じランタニドドナー錯体およびアクセプターの間にすべて介在する異なるクロストリジウム毒素に対する複数の切断部位を含むクロストリジウム毒素基質に依存する方法を提供する。クロストリジウム毒素基質は、例えば、同じランタニドドナー錯体およびアクセプターの間にすべて介在する、2以上の、3以上の、または5以上の異なるクロストリジウム毒素に対する切断部位を含みうる。クロストリジウム毒素基質はまた、例えば、少なくとも2つのランタニドドナー錯体-アクセプター 対の間に介在する2以上の、3以上の、または5以上の異なる クロストリジウム毒素に対する切断部位を組み込んでいてもよい。特別の態様において、本発明は、2、3、4、5、6、7または8の異なるクロストリジウム毒素に対する切断部位を有するクロストリジウム毒素基質を提供し、ここで、切断部位は、同じまたは異なるランタニドドナー錯体-アクセプター対の間に介在する。さらなる態様において、本発明 は、以下のクロストリジウム毒素のあらゆる組合せに対する2、3、4、5、6、7または8の切断部位のあらゆる組合せを有するクロストリジウム毒素基質を提供する: BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GおよびTeNT。
【0156】
本発明の方法は複数の基質を用いて実施してもよい。かかる方法において、第一のクロストリジウム毒素基質はサンプルで処理され、第一の基質は、第一のランタニドドナー錯体、第一のランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有する第一のアクセプター、および切断部位を含む第一のクロストリジウム毒素認識配列を含み、ここで切断部位は第一のランタニドドナー錯体および第一のアクセプターの間に介在し、ここで、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動が第一のランタニドドナー錯体と第一のアクセプターとの間で示される。所望の場合は、第二のクロストリジウム毒素基質を同じアッセイに含めてもよい;この第二の基質は、以下を含む:第二のランタニドドナー錯体、および第二のランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有する第二のアクセプター、および、第一のクロストリジウム毒素認識配列を切断する毒素とは異なるクロストリジウム毒素によって切断される第二のクロストリジウム毒素認識配列。第二の基質におけるランタニドドナー錯体アクセプター対は第一の基質におけるランタニドドナー錯体-アクセプター対と同じであっても異なっていてもよい。このようにして、一つのサンプルを、2以上のクロストリジウム毒素の存在について同時にアッセイすることができる。
【0157】
本発明の方法は、クロストリジウム毒素のあらゆるの組合せ、例えば、2、3、4、5、6、7、8またはそれ以上のクロストリジウム毒素についてアッセイのために使用することができるといういことが理解される。例えば、2、3、4、5、6、7または8のBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GおよびTeNTのあらゆる組合せについてアッセイすることができる。一例として、アッセイは7つの基質を用いて行うことが出来、そのそれぞれが、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F またはBoNT/G 認識配列および切断部位を挟むGFPおよびCS124-DTPA-EMCH-Tbをそれぞれ含む。これら基質はボツリヌス毒素活性に好適な条件でサンプルで処理され、その後、カルボスチリル124を330 nmで励起し、586 nmでテルビウム 発光をモニターすればよい。586 nmでの発光強度の上昇(クエンチングの緩和)は、少なくとも1つのクロストリジウム毒素の存在または活性を示す。かかるアッセイは、例えば、食品サンプルまたは組織サンプルを、ボツリヌスまたはその他のクロストリジウム毒素の存在についてアッセイするのに有用であり得、所望の場合は、個々のクロストリジウム毒素または特定のクロストリジウム毒素の組合せについてさらに1以上のアッセイを組み合わせることが出来る。
【0158】
さらに単一のサンプルを2以上の異なるクロストリジウム毒素について2以上の異なるクロストリジウム毒素基質を用いてアッセイすることが出来るということが理解され、ここで各基質は異なるランタニドドナー錯体-アクセプター対を含む。複数の基質の使用はアッセイのダイナミックレンジを広げるのに有用であり得、例えば、米国特許第6,180,340号に記載されている。 当業者であれば、第一のランタニドドナー錯体における第一のアンテナを第二のランタニドドナー錯体における第二の アンテナの励起の前または後に励起してよく、第一の基質の共鳴エネルギー移動における変化を第二の基質の共鳴エネルギー移動の測定の前、同時または後に測定すればよいということを理解している。
【実施例】
【0159】
以下の実施例は本発明を例示するものであり限定する意図はない。
実施例 I:ランタニドに基づく基質の調製
【0160】
この実施例は、クロストリジウム毒素の存在または活性のアッセイに好適なテルビウムまたはその他のランタニドイオンを含む基質の構築について記載する。
【0161】
A. GFP-SNAP25(134-206)-His6-Cの構築
基質を、緑色蛍光タンパク質 (GFP)、マウス SNAP-25 残基 134-206、ポリヒスチジンアフィニティータグ (6xHis)、およびカルボキシ末端システインを含み、複数の成分がペプチドリンカーによって分離している融合タンパク質として調製した。以下に詳細に説明するように、基質は、GFPと末端システインとがSNAP25(134-206)の逆の端に存在するように設計した。
【0162】
SNAP-25 配列はpT25FLから得、これは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ (GST) 遺伝子の3'末端とインフレームに挿入された全長マウス SNAP-25 遺伝子(GST-SNAP25(1-206))を含んでいるプラスミドであり、Professor Dolly (O'Sullivan et al.、J. Biol. Chem. 274:36897-36904 (1999))から譲り受けた。pT25FLからのSNAP-25 配列を第二の発現ベクターに組込み、これは、SNAP-25の残基 134 〜 206のアミノ末端に融合したビオチン化のためのBirAsp シグナル配列およびポリヒスチジンアフィニティータグを有するように設計されたものである(BirAsp-polyHis-SNAP25(134-206)、「BA-SNAP」と称する)。SNAP25(134-206)をコードするDNA 配列をPCR プライマー:
【化1】

(配列番号91; アンチセンス) および
【化2】

(配列番号92; センス)
を用いてpT25FL プラスミドの適当な領域のPCR増幅により作成し、Bgl II 制限部位を含むSNAP25(134-206) PCR産物(PCR産物 A)を得た。
【0163】
ビオチン化のための天然の基質であるBirAsp 配列およびポリヒスチジンアフィニティータグは、20 bp 相補的領域を含む合成オリゴヌクレオチド配列番号93 および94を用いてSNAP25(134-206) 配列の上流かつインフレーに融合するように操作した。これらオリゴヌクレオチド、
【化3】

(配列番号93; センス; Sac II 部位に下線)および
【化4】

(配列番号94; アンチセンス)をアニーリングさせ、一本鎖オーバーハングをPCR 増幅により埋めてPCR産物 Bを得た。
【0164】
PCR産物 Aと称するSNAP25(134-206)のコード配列を含む二本鎖PCR産物と、PCR産物 Bと称するBirAspおよびポリヒスチジンを含む二本鎖PCR産物の2つを変性させ、アニーリングさせた。2つの遺伝子断片における20 bp 相補的配列をPCR プライマー 配列番号92および配列番号94において斜体で示す。オーバーハングをPCRにより埋めた後、産物をプライマー配列番号93および配列番号91を用いて増幅した。BirAsp-polyHis-SNAP25(134-206) (「BA-SNAP」と称する)をコードするその結果得られたPCR産物を、SacIIおよびBglIIで消化し、単離した遺伝子インサートをSacIIおよびBamHI で消化したpQBI25fA2 ベクターとライゲーションし、プラスミド pNTP12を得た(BA-SNAPを含むpQBI25fA2)。
【0165】
大腸菌からの発現および精製のために、BA-SNAP 遺伝子をpTrc99A プラスミド (Amersham Pharmacia Biotech)に移した。BA-SNAP 遺伝子をpNTP12からNcoIおよびXhoIによる消化、次いでゲル精製によって単離した。別々に、pTrc99A プラスミドをNcoIおよびSalIで消化し、単離したベクターをBA-SNAP 遺伝子とライゲーションし、プラスミド pNTP14を得た(BA-SNAPを含むpTrc99A)。
【0166】
BA-SNAP 遺伝子をプラスミド pQE-50にクローニングするために、BA-SNAP 断片をpNTP14 からプライマー 配列番号91およびプライマー 配列番号95 ;
【化5】

(センス; Bgl II 部位に下線)を用いてPCR増幅した。BglIIおよびXhoIで消化した後、増幅PCR産物をBamH IおよびSal Iで消化しておいたベクター pQE-50 にライゲーションした。BA-SNAPを含むpQE50を表す、その結果得られた プラスミドをpNTP26と命名した。
【0167】
緑色蛍光タンパク質 (GFP) 融合タンパク質基質をコードするプラスミドをベクター pQBI T7-GFP (Quantum Biotechnologies; Carlsbad、CA) を以下に記載するように三段階で修飾することによって調製した。第一に、ベクター pQBI T7-GFPをPCR-修飾してGFP-コード配列の3'末端の終止コドンを除き、GFPをSNAP-25 断片から分離するペプチドリンカーの一部のコード配列を挿入した。第二に、SNAP25(134-206) をコードするDNA 断片をSNAP25(134-206) 遺伝子の5' に融合したペプチドリンカーの残りのコード配列と、遺伝子の3'に融合した6xHis アフィニティータグを含むように設計されたPCR プライマーを用いてpNTP26からPCR増幅した。 その結果得られたPCR産物を上記の修飾したpQBI ベクターにクローニングしてpQBI GFP-SNAP25(134-206)を得た。
【0168】
プラスミド pQBI GFP-SNAP25(134-206) を次いで部位特異的突然変異誘発により修飾し、 カルボキシ末端にシステインコドンをプライマー 配列番号96;
【化6】

(アンチセンスプライマー、付加したヌクレオチドを下線で示す)およびその逆の相補鎖 (センスプライマー)を用いて付加した。その結果得られたpQBI GFP-SNAP25 (Cys-Stop)と称するプラスミドを図 7Aに示し、 GFP-SNAP25(134-206)-6xHis-Cysの発現に用いた。GFP-SNAP25(134-206) -6XHis-システインコンストラクトの核酸および推定アミノ酸配列を図 7Bに示す。
【0169】
B. GFP-SNAP25(134-206)-His6-Cの発現および特徴決定
pQBI GFP-SNAP25 (Cys-Stop) 発現ベクターを、大腸菌 BL21(DE3) 細胞(Novagen; Madison、WI;またはInvitrogen; Carlsbad、CA)またはT7 RNA ポリメラーゼ遺伝子を含む大腸菌 BL21-CodonPlus(登録商標)(DE3)-RIL 細胞(Stratagene)に形質転換した。形質転換細胞をLB-アンピシリンプレート上で一晩37℃で選抜した。シングルコロニーを用いて1-3 mL 出発培養液に接種し、次にこれを用いて 0.5〜1.0 L培養液に接種した。ラージカルチャーを37℃でA595が0.5-0.6に到達するまで振盪しながら培養し、その時点でインキュベーターから取り出し、少し冷やした。1 mM IPTGによるタンパク質発現の誘導の後、GFP-SNAP25(134-206)-His6-C 基質をpQBI GFP-SNAP25 (Cys-Stop) プラスミドから一晩撹拌させながら16℃で発現させ、GFP フルオロフォアの形成を促進した。発現培養液の250 mL アリコットからの細胞を遠心分離 (30 分間、6,000 x g、4℃)により回収し、-80℃まで必要時まで保存した。
【0170】
基質を4℃でIMAC 精製を伴う2段階方法により精製し、次いで脱塩工程に供してNaCl およびイミダゾールを除き、典型的には150 mg/Lを超える精製基質が以下のようにして得られた。250 mL 培養液からの細胞ペレットをそれぞれ 7-12 mL カラム結合バッファー (25 mM HEPES、pH 8.0; 500 mM NaCl; 1 mM β-メルカプトエタノール; 10 mM イミダゾール)に再懸濁し、超音波処理 (38% 振幅にて10-秒間のパルスによって1分40 秒間)により溶解し、遠心分離 (16000 rpm、4℃、1 時間)により清澄にした。アフィニティー樹脂 (3-5 mL Talon SuperFlow Co2+/細胞ペレット)をガラスまたは使い捨てカラム支持体 (Bio-Rad)中で4 カラム体積の滅菌 ddH2Oおよび4 カラム体積のカラム結合バッファーですすぐことにより平衡化した。清澄にした可溶化液を2通りの方法のいずれかでカラムにかけた : (1) 可溶化液を樹脂に添加し、1 時間穏やかに振動させながら水平インキュベーションによりバッチ結合させたか、または、(2) 可溶化液を垂直カラムにかけ重力流によりゆっくりとカラムに入れた。バッチ結合の後のみ、カラムを直立させ、溶液を流し出し、回収し、樹脂に再び通した。両方の場合において、可溶化液をアプライした後、カラムを4-5 カラム体積のカラム結合バッファーで洗浄した。場合によっては、カラムをさらに1-2 カラム体積のカラム洗浄バッファー(25 mM HEPES、pH 8.0; 500 mM NaCl; 1 mM β-メルカプトエタノール; 20 mM イミダゾール)で洗浄した。タンパク質を1.5〜2.0 カラム体積のカラム溶出バッファー (25 mM HEPES、pH 8.0; 500 mM NaCl; 1 mM β-メルカプトエタノール; 250 mM イミダゾール)で溶出させ、〜1.4 mLのフラクションに回収した。緑色のフラクションを合わせ、遠心濾過器で濃縮し(10,000または30,000 分子量カットオフ)、HiPrep 26/10 サイズ排除カラム (Pharmacia)を用いて冷却融合タンパク質脱塩バッファー (50 mM HEPES、pH 7.4、4℃)の均一濃度移動相、流速10 mL/分でのFPLC (BioRad Biologic DuoLogic、QuadTec UV-Vis detector) で脱塩した。脱塩タンパク質を1つのフラクションに回収し、濃度をBioRad タンパク質アッセイを用いて測定した。GFP-SNAP25(134-206)-His6-C 基質を還元SDS-PAGEで分析した。タンパク質溶液を次いで500 μLのアリコットに分け、液体窒素で急速冷凍し-80℃で保存した。解凍したら、使用するアリコットは光から保護して4℃で保存した。
【0171】
C.ルミフォア CS124-DTPA-EMCH-Tbによる標識
GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C コンストラクトは、化学修飾には用いることが出来ない3つの埋もれたシステイン残基がGFPに存在するが、溶媒に露出した1つのシステイン残基を含む(Selvin、前掲、2000; Heyduk、Curr. Opin. Biotech. 13:292-296 (2002))。カルボキシ末端システイン残基をそれゆえフルオロフォア-マレイミドを用いて中性pHで選択的に標識することが出来る。図8Aおよび8Bにそれぞれ、精製 GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C タンパク質の吸収および発光/励起スペクトルを示す。タンパク質溶液の濃度はコンストラクトの一次配列から算出した理論モル吸光係数20250 M-1cm-1に基づいて2.74mg/mlであると測定された。精製 GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C タンパク質の分子量はマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-TOF)を用いて約 37,000であることが確認された。
【0172】
ルミフォア CS124-DTPA-EMCH-TbはInvitrogen Lifetechnologies (Carlsbad、CA)から入手し、GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbは、HEPES バッファー中pH 6.9 でマレイミド化学を用いてGFP-SNAP-25(134-206)-His6-C のカルボキシ末端システインを誘導体化させることにより調製した。未反応プローブは25 kDa膜を用いた20 mM HEPES バッファー pH 6.9中での徹底的な透析により除いた。その結果得られたCS124-DTPA-EMCH-Tb標識GFP-SNAP-25(134-206)-His6-Cの吸収および発光 スペクトルをそれぞれ図9Aおよび9Bに示す。
【0173】
実施例 II: ランタニドに基づく基質を用いたクロストリジウム毒素活性アッセイ
この実施例では、Bont/A 活性のアッセイのためのランタニドに基づく基質の使用について記載する。
【0174】
増感基カルボスチリル 124 (CS124)の 330 nmでの励起により、テルビウムは一連の4つの顕著なシャープなバンドの長寿命発光を生じる:490 nm、546 nm、586 nm および622 nm (図 9B参照)。GFPは474 nmにて最大に吸収し、発光極大は507 nmである。Tb 発光を586 nmでモニターすることによりエネルギー移動が観察された。図 10Aに示すように、還元型バルク BoNT-A 毒素の添加の際に著しい発光強度の上昇がみられ、これはランタニドドナー錯体とGFPとの間のクエンチングの緩和を示す。さらに、発光工程についてのシグナル対ノイズ比は、ゲート工程(gated process)を発光をモニターするために使用することにより向上した。放射光についての発光ゲートを200μs後に開けることにより、ランタニドプローブの101-102 μs 寿命よりもかなり短い寿命を有する偽蛍光の混入に起因するすべての発光を排除した。点線が基質のターンオーバー前のゲートテルビウム発光を表し、実線がターンオーバー後のゲートテルビウム発光を示す図 10Bに示すように、結果として得られたゲートシグナルは非常にきれいであり、良好な感度のレベルに貢献していた。
【0175】
これらの結果は、GFP-SNAP-25(134-206)-His6-Cを市販のランタニドドナー錯体、例えば、 CS124-DTPA-EMCH-Tbにより誘導体化することにより、ランタニドドナー錯体とアクセプター、例えば、GFPとの間の発光共鳴エネルギー移動を示すクロストリジウム毒素基質を産生することが出来ることを示す。BoNT/A還元型毒素の添加によるクエンチングの緩和はBoNT/Aの活性を示した。
【0176】
括弧書きまたはその他の方法で上記したすべての論文、参考文献および特許の引用は、明記したか否かにかかわらず、本明細書にその全体を引用により含める。
【0177】
本発明を上記の実施例に言及して記載したが、様々な改変が本発明の精神を逸脱することなく行うことが出来ることを理解されたい。したがって、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】図 1は、中枢および末梢神経細胞における破傷風およびボツリヌス毒素活性に必要な4工程の模式図を示す。
【図2】図 2は、SNAP-25、VAMPおよびシンタキシンの細胞内局在および切断部位を示す。
【図3】図 3は、様々な SNAP-25 タンパク質のアラインメントを示す
【図4】図 4は、様々な VAMP タンパク質のアラインメントを示す。
【図5】図 5は、様々なシンタキシンタンパク質のアラインメントを示す。
【図6】図 6は、α-ヘリックス (E、残基1-11)、ランタニド-結合ループ、および第二のα-ヘリックス(F、残基19-29)を含む標準的な(canonical)EF-ハンドを示す。
【図7−A】図 7(A)は、プラスミド pQBI GFP-SNAP25(134-206)-6XHIS-Cの模式図を示す。
【図7−B】図 7 (B)は、pQBI GFP-SNAP25(134-206)-6XHIS-Cの核酸およびアミノ酸配列(配列番号19 および 20)を示す。
【図8−A】図 8(A)は、GFP-SNAP25(134-206)-His6Cの吸収スペクトルを示す。
【図8−B】図 8(B)は、GFP-SNAP25(134-206)-His6Cの励起 (点線)および発光 (太字) スペクトルを示す。
【図9−A】図 9(A)は、GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbの300 nmでのパルスゲート 励起を用いたUV-VIS 吸収スペクトルを示す。
【図9−B】図9(B)は、GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbの300 nmでのパルスゲート 励起を用いた発光スペクトルを示す。
【図10−A】図 10は、ランタニドに基づく基質 GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbを用いたクロストリジウム毒素活性の発光共鳴エネルギー移動 (LRET) アッセイを示す。(A) 131 ng/ml キュベット濃度で37℃での希薄還元型バルク BoNT/Aの添加の際のLRETにより示されるクエンチ緩和。586 nmでのテルビウム発光が毒素の添加により上昇した。
【図10−B】図 10は、ランタニドに基づく基質 GFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbを用いたクロストリジウム毒素活性の発光共鳴エネルギー移動 (LRET) アッセイを示す。(B)ターンオーバーの前および後の330 nmでのパルスゲートキセノン励起を用いたGFP-SNAP-25(134-206)-His6-C-CS124-DTPA-EMCH-Tbの発光スペクトル。点線はターンオーバーの前のゲートテルビウム発光を示し、実線はターンオーバーの後のゲートテルビウム発光を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むクロストリジウム毒素基質:
(a)ランタニドドナー錯体;
(b)該ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター;および、
(c)切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列、
ここで該切断部位は該ランタニドドナー錯体と該アクセプターとの間に介在し、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動が該ランタニドドナー錯体と該アクセプターとの間で示される。
【請求項2】
該ランタニドドナー錯体の蛍光寿命が少なくとも 500 μsである、請求項 1の基質。
【請求項3】
該ランタニドドナー錯体の蛍光量子収率が少なくとも 0.05である、請求項 1の基質。
【請求項4】
該ランタニドドナー錯体の蛍光量子収率が少なくとも 0.5である、請求項 1の基質。
【請求項5】
該ランタニドドナー錯体が、テルビウムイオン、ユーロピウムイオン、サマリウムイオンおよびジスプロシウムイオンからなる群から選択されるランタニドイオンを含む、請求項 1の基質。
【請求項6】
該ランタニドイオンがテルビウムイオンである、請求項 5の基質。
【請求項7】
該ランタニドドナー錯体がペプチドまたはペプチド模倣体であるランタニド結合部位を含む、請求項 1の基質。
【請求項8】
該ランタニド-結合部位が、EF ハンドモチーフの配位部位を含む、請求項 7の基質。
【請求項9】
該ランタニド-結合部位が EF ハンドモチーフを含む、請求項 8の基質。
【請求項10】
該ランタニド-結合部位がチオール-反応性配位子を含む、請求項 7の基質。
【請求項11】
該ランタニドドナー錯体がジエチレントリアミンペンタ酢酸 (DTPA)を含むランタニド結合部位を含む、請求項 1の基質。
【請求項12】
該ランタニドドナー錯体が、β-ジケトンキレート、ポリアミノポリカルボン酸キレート、カリックスアレーンキレート、ポリフェノール、DOTA、ピリジンおよびポリピリジンからなる群から選択されるランタニド結合部位を含む、請求項 1の基質。
【請求項13】
該ランタニドドナー錯体が、トリスビピリジン (TBP) クリプテート、トリスビピリジンテトラカルボキシラート (TBP4COOH) クリプテート、トリスビピリジンペンタカルボキシラート (TBP5COOH) クリプテート、およびピリジンビピリジンテトラカルボキシラート (PBP4COOH)からなる群から選択されるランタニド結合部位を含む、請求項 1の基質。
【請求項14】
該ランタニドドナー錯体が、ランタニドイオンに対する親和性が少なくとも 5 μMであるランタニド-結合部位を含む、請求項 1の基質。
【請求項15】
該ランタニドドナー錯体がトリプトファン残基であるアンテナを含む、請求項 1、6または8の基質。
【請求項16】
該ランタニドドナー錯体が、カルボスチリル 124 (CS124)、トリプトファンおよび2-ヒドロキシイソフタルアミドからなる群から選択されるアンテナを含む、請求項 1の基質。
【請求項17】
該アンテナがカルボスチリル 124 (CS124)である、請求項 16の基質。
【請求項18】
該ランタニドドナー錯体がCS124-DTPA-EMCH-Tbである、請求項 11の基質。
【請求項19】
該アクセプターがアクセプターフルオロフォアである、請求項 1の基質。
【請求項20】
該アクセプターが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、および赤色蛍光タンパク質(RFP)からなる群から選択される請求項 1または請求項 18の基質。
【請求項21】
該アクセプターがGFPである、請求項 20の基質。
【請求項22】
該アクセプターが非蛍光アクセプターである、請求項 1の基質。
【請求項23】
該非蛍光アクセプターがヘムタンパク質である、請求項 22の基質。
【請求項24】
ボツリヌス毒素認識配列を含む、請求項 1の基質。
【請求項25】
該認識配列が BoNT/A 認識配列である、請求項 24の基質。
【請求項26】
該 BoNT/A 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Arg、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 25の基質。
【請求項27】
該認識配列が BoNT/B 認識配列である、請求項 24の基質。
【請求項28】
該 BoNT/B 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 27の基質。
【請求項29】
該認識配列が BoNT/C1 認識配列である、請求項 24の基質。
【請求項30】
該 BoNT/C1 認識配列がシンタキシンの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がLys-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 29の基質。
【請求項31】
該 BoNT/C1 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がArg-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 29の基質。
【請求項32】
該認識配列が BoNT/D 認識配列である、請求項 24の基質。
【請求項33】
該 BoNT/D 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がLys-Leu、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 32の基質。
【請求項34】
該認識配列が BoNT/E 認識配列である、請求項 24の基質。
【請求項35】
該 BoNT/E 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がArg-lle、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 34の基質。
【請求項36】
該認識配列が BoNT/F 認識配列である、請求項 24の基質。
【請求項37】
該 BoNT/F 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Lys、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 36の基質。
【請求項38】
該認識配列が BoNT/G 認識配列である、請求項 24の基質。
【請求項39】
該 BoNT/G 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がAla-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 38の基質。
【請求項40】
該認識配列が TeNT 認識配列である、請求項1の基質。
【請求項41】
該 TeNT 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 40の基質。
【請求項42】
多くとも 300 残基を有するペプチドまたはペプチド模倣体である、請求項 1 、6または7の基質。
【請求項43】
多くとも 150 残基を有するペプチドまたはペプチド模倣体である、請求項 1 、6または7の基質。
【請求項44】
該基質が少なくとも 1 ナノモル/分/mg毒素の活性にて切断されうる、請求項 1の基質。
【請求項45】
該基質が少なくとも 20 ナノモル/分/mg毒素の活性にて切断されうる、請求項 1の基質。
【請求項46】
該基質が少なくとも 100 ナノモル/分/mg毒素の活性にて切断されうる、請求項 1の基質。
【請求項47】
以下の工程を含む、クロストリジウム毒素の存在または活性を判定する方法:
(a)サンプルで、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に好適な条件下で、以下を含むクロストリジウム毒素基質を処理する工程:
(i)ランタニドドナー錯体;
(ii) 該ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター;および、
(iii) 切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列、ここで該切断部位は該ランタニドドナー錯体と該アクセプターとの間に介在し、適当な条件下で、共鳴エネルギー移動が該ランタニドドナー錯体と該アクセプターとの間で示される;
(b)該ランタニドドナー錯体のアンテナを励起する工程;および、
(c)対照基質と比較しての該処理された基質の共鳴エネルギー移動を測定する工程、ここで該対照基質と比較しての該処理された基質の共鳴エネルギー移動における差は、該クロストリジウム毒素の存在または活性を示す。
【請求項48】
該ランタニドドナー錯体の蛍光寿命が少なくとも 500μsである、請求項 47の方法。
【請求項49】
該ランタニドドナー錯体の蛍光量子収率が少なくとも 0.05である、請求項 47の方法。
【請求項50】
該ランタニドドナー錯体の蛍光量子収率が少なくとも 0.5である、請求項 47の方法。
【請求項51】
該ランタニドドナー錯体が、テルビウムイオン、ユーロピウムイオン、サマリウムイオンおよびジスプロシウムイオンからなる群から選択されるランタニドイオンを含む、請求項 47の方法。
【請求項52】
該ランタニドイオンがテルビウムイオンである、請求項 51の方法。
【請求項53】
該ランタニドドナー錯体が、ペプチドまたはペプチド模倣体であるランタニド-結合部位を含む、請求項 47の方法。
【請求項54】
該ランタニドドナー錯体が、EF ハンドモチーフの配位部位を含むランタニド-結合部位を含む、請求項 47の方法。
【請求項55】
該ランタニドドナー錯体が、EF ハンドモチーフを含むランタニド-結合部位を含む、請求項 54の方法。
【請求項56】
該ランタニドドナー錯体が、チオール反応性配位子を含むランタニド-結合部位を含む、請求項 47の方法。
【請求項57】
該ランタニドドナー錯体がジエチレントリアミンペンタ酢酸 (DTPA)を含むランタニド-結合部位を含む、請求項 47の方法。
【請求項58】
該ランタニドドナー錯体が、β-ジケトンキレート、ポリアミノポリカルボン酸キレート、カリックスアレーンキレート、ポリフェノール、DOTA、ピリジンおよびポリピリジンの群から選択されるランタニド-結合部位を含む、請求項 47の方法。
【請求項59】
該ランタニドドナー錯体が、トリスビピリジン(TBP) クリプテート; トリスビピリジンテトラカルボキシラート (TBP4COOH) クリプテート; トリスビピリジンペンタカルボキシラート(TBP5COOH) クリプテート; およびピリジンビピリジンテトラカルボキシラート (PBP4COOH)の群から選択されるランタニド-結合部位を含む、請求項 47の方法。
【請求項60】
該ランタニドドナー錯体が、該ランタニドイオンに対する親和性が少なくとも 5 μMであるランタニド-結合部位を含む、請求項 47の方法。
【請求項61】
該ランタニドドナー錯体が、トリプトファン残基であるアンテナを含む、請求項 47、52または54の方法。
【請求項62】
該ランタニドドナー錯体が、カルボスチリル-124、トリプトファン、および2-ヒドロキシイソフタルアミドの群から選択されるアンテナを含む、請求項 47の方法。
【請求項63】
該アンテナがカルボスチリル124 (CS124)である、請求項 62の方法。
【請求項64】
該ランタニドドナー錯体がCS124-DTPA-EMCH-Tbである、請求項 57の方法。
【請求項65】
該アクセプターが、アクセプターフルオロフォアである、請求項 47の方法。
【請求項66】
該アクセプターフルオロフォアが蛍光タンパク質である、請求項 65の方法。
【請求項67】
該アクセプターが、緑色蛍光タンパク質 (GFP)、青色蛍光タンパク質 (BFP)、黄色蛍光タンパク質 (YFP)、シアン蛍光タンパク質 (CFP) および赤色蛍光タンパク質 (RFP) からなる群から選択される、請求項 47または請求項 64の方法。
【請求項68】
該アクセプターがGFPである、請求項 67の方法。
【請求項69】
該アクセプターが非蛍光アクセプターである、請求項 47の方法。
【請求項70】
該非蛍光アクセプターがヘムタンパク質である、請求項 69の方法。
【請求項71】
該クロストリジウム毒素基質がボツリヌス毒素認識配列を含む、請求項 47の方法。
【請求項72】
該認識配列が BoNT/A 認識配列である、請求項 71の方法。
【請求項73】
該 BoNT/A 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Arg、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 72の方法。
【請求項74】
該認識配列が BoNT/B 認識配列である、請求項 71方法。
【請求項75】
該 BoNT/B 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 74の方法。
【請求項76】
該認識配列が BoNT/C1 認識配列である、請求項 71の方法。
【請求項77】
該 BoNT/C1 認識配列がシンタキシンの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がLys-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 76の方法。
【請求項78】
該 BoNT/C1 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がArg-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 76の方法。
【請求項79】
該認識配列が BoNT/D 認識配列である、請求項 71の方法。
【請求項80】
該 BoNT/D 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がLys-Leu、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 79の方法。
【請求項81】
該認識配列が BoNT/E 認識配列である、請求項 71の方法。
【請求項82】
該 BoNT/E 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がArg-lle、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 81の方法。
【請求項83】
該認識配列が BoNT/F 認識配列である、請求項 71 の方法。
【請求項84】
該 BoNT/F 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Lys、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 83の方法。
【請求項85】
該認識配列が BoNT/G 認識配列である、請求項 71の方法。
【請求項86】
該 BoNT/G 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がAla-Ala、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 85の方法。
【請求項87】
クロストリジウム毒素基質がTeNT 認識配列を含む、請求項 47の方法。
【請求項88】
該 TeNT 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Phe、またはそのペプチド模倣体を含む、請求項 87の方法。
【請求項89】
該基質が多くとも 300 残基を有するペプチドまたはペプチド模倣体である、請求項 47、52または53の方法。
【請求項90】
該基質が多くとも150残基を有するペプチドまたはペプチド模倣体である、請求項 47、52または53の方法。
【請求項91】
該基質が少なくとも 1 ナノモル/分/mg毒素の活性にて切断されうる、請求項 47の方法。
【請求項92】
該基質が少なくとも 20 ナノモル/分/mg毒素の活性にて切断されうる、請求項 47の方法。
【請求項93】
該基質が少なくとも 100 ナノモル/分/mg毒素の活性にて切断されうる、請求項 47の方法。
【請求項94】
該サンプルが粗細胞可溶化液である、請求項 47の方法。
【請求項95】
該サンプルが単離クロストリジウム毒素である、請求項 47の方法。
【請求項96】
該単離クロストリジウム毒素が単離クロストリジウム毒素軽鎖である、請求項 95の方法。
【請求項97】
該サンプルが製剤されたクロストリジウム毒素製品である、請求項 47の方法。
【請求項98】
該製剤されたクロストリジウム毒素製品がBoNT/A、BoNT/BまたはBoNT/E毒素製品である、請求項97の方法。
【請求項99】
該製剤された製品が製剤された BoNT/A毒素製品である、請求項98の方法。
【請求項100】
以下を含むクロストリジウム毒素基質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子:
(a)ランタニドイオンと共に、ランタニドドナー錯体;
(b)該ランタニドドナー錯体の発光スペクトルとオーバーラップする吸光度スペクトルを有するアクセプター;および、
(c) 切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列、ここで該切断部位は該ランタニドドナー錯体と該アクセプターとの間に介在し、適当な条件下で、該ランタニドドナー錯体と該アクセプターとの間で共鳴エネルギー移動が示される。
【請求項101】
ランタニドドナー錯体がEF ハンドモチーフの配位部位を含むランタニド- 結合部位を含む、請求項 100の核酸分子。
【請求項102】
該ランタニド結合部位がEF ハンドモチーフを含む、請求項 101の核酸分子。
【請求項103】
該ランタニドドナー錯体がトリプトファン残基であるアンテナを含む、請求項 100または請求項 101の核酸分子。
【請求項104】
該アクセプターがアクセプターフルオロフォアである、請求項 100または請求項 101の核酸分子。
【請求項105】
該アクセプターフルオロフォアが蛍光タンパク質である、請求項 104の核酸分子。
【請求項106】
該アクセプターフルオロフォアが、緑色蛍光タンパク質 (GFP)、青色蛍光タンパク質 (BFP)、黄色蛍光タンパク質 (YFP)、シアン蛍光タンパク質 (CFP)および赤色蛍光タンパク質 (RFP)からなる群から選択される、請求項 104の核酸分子。
【請求項107】
該アクセプターフルオロフォアがGFPである、請求項 106の核酸分子。
【請求項108】
該アクセプターが非蛍光アクセプターである、請求項 100の核酸分子。
【請求項109】
該非蛍光アクセプターがヘムタンパク質である、請求項 108の核酸分子。
【請求項110】
該認識配列がボツリヌス毒素認識配列である、請求項 100の核酸分子。
【請求項111】
該ボツリヌス毒素認識配列がBoNT/A 認識配列である、請求項 110の核酸分子。
【請求項112】
該BoNT/A 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Argを含む、請求項 111の核酸分子。
【請求項113】
該 BoNT/A 認識配列が配列番号2の残基 134〜206を含む、請求項 112の核酸分子。
【請求項114】
該認識配列が BoNT/B 認識配列である、請求項 110の核酸分子。
【請求項115】
該 BoNT/B 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Pheを含む、請求項 114の核酸分子。
【請求項116】
BoNT/C1 認識配列を含むBoNT/C1 基質を含む、請求項 110の核酸分子。
【請求項117】
該 BoNT/C1 認識配列がシンタキシンの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がLys-Alaを含む、請求項 116の核酸分子。
【請求項118】
該 BoNT/C1 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がArg-Alaを含む、請求項 116の核酸分子。
【請求項119】
該認識配列が BoNT/D 認識配列である、請求項 110の核酸分子。
【請求項120】
該 BoNT/D 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がLys-Leuを含む、請求項 119の核酸分子。
【請求項121】
該認識配列が BoNT/E 認識配列である、請求項 110の核酸分子。
【請求項122】
該 BoNT/E 認識配列がSNAP-25の少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がArg-lleを含む、請求項 121の核酸分子。
【請求項123】
BoNT/F 認識配列を含むBoNT/F 基質を含む、請求項 110の核酸分子。
【請求項124】
該 BoNT/F 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGln-Lysを含む、請求項 123の核酸分子。
【請求項125】
BoNT/G 認識配列を含むBoNT/G 基質を含む、請求項 110の核酸分子。
【請求項126】
該 BoNT/G 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がAla-Alaを含む、請求項 125の核酸分子。
【請求項127】
該認識配列が TeNT 認識配列である、請求項 100の核酸分子。
【請求項128】
該 TeNT 認識配列がVAMPの少なくとも6つの連続残基を含み、該6つの連続残基がGIn-Pheを含む、請求項 127の核酸分子。
【請求項129】
該ヌクレオチド配列が多くとも 300 残基を有するクロストリジウム毒素基質をコードする、請求項 100の核酸分子。
【請求項130】
該ヌクレオチド配列が多くとも150残基を有するクロストリジウム毒素基質をコードする、請求項 100の核酸分子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−A】
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【図7−B】
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【図8−A】
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【図8−B】
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【図9−A】
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【図9−B】
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【図10−A】
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【図10−B】
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【公表番号】特表2008−513037(P2008−513037A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533514(P2007−533514)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/032010
【国際公開番号】WO2006/033843
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】