説明

ラーメン骨組の柱梁接合部

【課題】曲げ引張応力による梁端溶接部の早期破断を未然に防止することができ、かつ施工が容易でコスト的に有利な鉄骨造,鉄骨鉄筋コンクリート造またはコンクリート充填鋼管造の柱とH形鋼の梁からなるラーメン骨組の柱梁接合部を提供する。
【解決手段】角形鋼管からなる柱1の梁接合部の側面部に、H形鋼からなる梁2の上下フランジ2a,2aを溶接接合することにより構成する。梁2のフランジ端溶接部9から梁中央寄りのフランジ2aの側面部に孔9を梁2の軸直角方向に所定深さに設ける。孔9は梁2のフランジ端溶接部9から50〜90mm程度梁中央寄りの位置に設ける。孔9は上下フランジの両側面部に1個または複数設ける。孔9はハンドドリル等によって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造またはコンクリート充填鋼管造の柱にH形鋼の梁を溶接接合することにより構成されるラーメン骨組の柱梁接合部に関し、曲げ引張応力による梁のフランジ端溶接部の早期破断を防止することができると共に、施工が容易でコスト的に有利なラーメン骨組の柱梁接合部を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
ラーメン骨組構造の建物は、地震時の水平荷重によって図8(a),(b)に図示するように変形し、これに伴い梁と柱が図8(c)に図示するように変形する。そして、梁端部には大きな曲げ引張応力と曲げ圧縮応力が発生する。
【0003】
このため、この種の建物の柱梁接合部として広く適用される、H形鋼の梁を柱に溶接接合することにより構成される柱梁接合部においては、例えば、図9(a),(b)に図示するように、梁20のフランジ端溶接部21の終始端の開先肩部21aに最も応力が集中し、特に曲げ引張応力のもとでは、溶接により脆化した梁20のフランジ端溶接部21が脆性破断により早期破壊に至るおそれのあることが指摘されている。
【0004】
そこで、H形鋼の梁を柱となる鉄骨に溶接接合する場合は、溶接される梁のフランジ端部を拡幅して、梁端仕口部と拡幅部をほぼ同時に降伏させて塑性化の領域を拡大させることで、仕口部近傍での脆性的な破壊の回避する構造を適用したり、あるいは、梁のフランジ端溶接部から梁中央寄りの位置に梁端部より先に降伏する塑性化領域を設ける、いわゆるドッグボーン形式等の梁構造を適用することにより、梁のフランジ端溶接部の早期破断を防いでいる。
【0005】
例えば、特許文献1,2には、図10(a),(b)に図示するようにH形鋼からなる梁20の上下フランジ20aの側面部にリブプレート22を取り付けて梁20のフランジ端部を拡幅する構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、図11(a)に図示するようないわゆるドッグボーン形式の梁が開示されている。すなわち、H形鋼からなる梁20のフランジ端溶接部21から梁中央寄りの位置にフランジ幅を曲線形に削減することにより塑性化領域23を設ける方法が記載されている。
【0007】
また、非特許文献1には、図11(b)に図示するようなH形鋼からなる梁20のフランジ端溶接部21から梁中央寄りの上下フランジ20aのフランジ面に複数の貫通孔20bをあけて塑性化領域23を設ける方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−44100号公報
【特許文献2】特開2000−96706号公報
【特許文献3】特開2004−27840号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】孔あきフランジ方式を用いた現場溶接型柱梁溶接接合部の変形能力に関する実験的研究(日本建築学会構造系論文集、第585号、p.155−p.161、2004年11月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、梁のフランジ側面にリブプレートを溶接する方法は、リブプレートと梁のフランジが完全一体となるように溶接する必要があるため、工場製作に手間がかかるほか、リブプレートの先端に溶接欠陥が生じると、この部分を起点に早期破断が生じるおそれがあった。
【0011】
また、いわゆるドッグボーン形式の梁やフランジ面に貫通孔をあけた形式の梁は、梁のフランジ端溶接部から梁中央寄りの位置を断面欠損により積極的に塑性化させる方式であるため、梁耐力の低減が避けられないという課題がある。
【0012】
さらに、梁のフランジを拡幅形状に切り出して溶接組立H形鋼を製作する方法も実施化されているが、一体の拡幅形状に梁のフランジを切り出すため、製作時の鋼材のロスが多くなるほか、拡幅部先端に切断ノッチが生じると、この部分を起点に早期破断が生じるおそれがある。
【0013】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、曲げ引張応力による梁のフランジ端溶接部の早期破断を未然に防止することができると共に、施工が容易でコスト的に有利なラーメン骨組の柱梁接合部を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のラーメン骨組の柱梁接合部は、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造またはコンクリート充填鋼管造の柱に、H形鋼からなる梁の上下フランジを溶接接合することにより構成されるラーメン骨組の柱梁接合部において、前記フランジの梁端溶接部から梁長手方向中央寄りの側面部に孔が所定深さに設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の柱梁接合部は、特に地震等の水平荷重に伴う曲げ引張応力によって梁のフランジ端溶接部に集中して作用する応力を緩和して、梁のフランジ端溶接部の早期破断を未然に防止できるようにしたものである。
【0016】
本発明の柱梁接合部によれば、梁のフランジ端溶接部から梁中央寄りのフランジ側面部に設けた孔部を曲げ引張応力下で積極的に塑性化させることにより、梁のフランジ端溶接部に作用する応力を緩和して梁のフランジ端溶接部の早期破断を未然に防止することができる。
【0017】
孔はフランジ幅方向に形成し、そのサイズは直径および深さ共に数ミリ〜数十ミリ程度あればよく、また、孔の位置は梁のサイズにもよるが、梁のフランジ端溶接部から概ね50mm〜90mm程度の範囲であれば、フランジ端溶接部に作用する応力を緩和させる効果があり望ましい。
【0018】
さらに、孔は、梁の上または下フランジの一方の両側面に設けるだけでも、フランジ端溶接部の応力集中を緩和できるが、地震時の梁の変形を想定すると上下フランジの両側面に設けるのがよく、また複数個形成してもよい。なお、孔は、工場からの出荷時や施工現場でハンドドリル等を用いて容易に開けることができる。
【0019】
本発明は、別の面からは、長手方向端部付近のフランジ側面部に孔が設けられていることを特徴とするH形鋼である。孔のサイズ、位置等については前述同様である。
【0020】
このようなH形鋼をラーメン骨組の梁として用いることで、柱梁接合部において、特に地震等の水平荷重に伴う曲げ引張応力によって梁のフランジ端溶接部に集中して作用する応力を緩和して、梁のフランジ端溶接部の早期破断を未然に防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、柱となるH形鋼や角形鋼管などの鉄骨の側面部にH形鋼からなる梁の上下フランジを溶接接合することにより構成される柱梁接合部において、梁のフランジ端溶接部から梁の中央寄りのフランジ側面部に孔を設けることにより、地震等の水平荷重に伴う曲げ引張応力によって梁のフランジ端溶接部に集中して作用する応力を緩和して、梁のフランジ端溶接部の早期破断を未然に防止することができる。
【0022】
また、孔は、工場からの出荷時や現地搬入後にハンドドリル等によって容易に形成することが可能なため、施工が容易でコスト的にもきわめて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態を示す柱梁接合部を示し、(a)はその斜視図、(b)は図(a)における要部拡大図、(c)は梁のフランジ端溶接部を示す側面図である。
【図2】(a)はFEM解析による効果の検討を行うための説明図、(b)は各部材の材料特性を示すグラフ、(c),(d)はそれぞれ、梁のフランジ端溶接部の側面図、一部平面図である。
【図3】フランジ端溶接部における歪に与える孔位置の影響を示すグラフである。
【図4】フランジ端溶接部における歪に与える孔深さの影響を示すグラフである。
【図5】フランジ端溶接部における歪に与える孔径の影響を示すグラフである。
【図6】フランジ端溶接部における歪に与える孔数の影響を示すグラフである。
【図7】(a)、(b)、(c)は、フランジ端溶接部におけるフランジ幅方向の歪分布を示すグラフである。
【図8】ラーメン構造の建物を示し、(a)はその側面図、(b)は水平荷重による変形状態とモーメント分布を示す側面図、(c)は水平荷重による梁の変形状態を示す柱梁接合部の側面図である。
【図9】鉄骨ラーメン骨組構造の柱梁接合部を示し、(a)は平面図、(b)は梁のフランジ端溶接部の側面図である。
【図10】(a),(b)は、フランジ端部を拡幅した梁を使用した柱梁接合部の斜視図である。
【図11】(a)は、いわゆるドッグボーン形式の梁、(b)はフランジ面に孔をあけた形式の梁を使用した柱梁接合部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の一実施形態を示し、図において、角形鋼管からなる柱1の梁接合部にH形鋼からなる梁2の上下フランジ2a,2aがそれぞれ上下水平ダイアフラム3,3を介して溶接接合され、また、梁2のウェブ2bがブラケット(図省略)を介し、接合プレート4と複数の接合ボルト5によって接合されている。
【0025】
上下水平ダイアフラム3,3は、柱1の外径より一回り大きい矩形板状に形成され、梁2の上下フランジ2a,2aと対応する位置を水平に貫通し、かつ柱1に一体的に溶接されている。そして、上下水平ダイアフラム3,3の縁端部に梁2の上下フランジ2a,2aの端部がそれぞれ溶接によって接合されている。
【0026】
ブラケットは、柱1の上下水平ダイアフラム3,3間の側面部に鉛直に設置され、かつ柱1の側面部に一体的に溶接されている。そして、ブラケットに梁2のウェブ2bの端部が接合プレート4と接合プレート4およびブラケットを貫通する複数の接合ボルト5によって高力ボルト接合されている。
【0027】
なお、梁2の上下フランジ2a,2aと上下水平ダイアフラム3,3間の溶接には突合せ溶接が用いられ、梁2の上下フランジ2a,2aの端部と上下水平ダイアフラム3a,3aがそれぞれ同じ水平面内で突き合わせられ、双方の突合せ部に開先6と裏当て金7が設けられている。そして、開先6内に溶接金属が充填されている。
【0028】
また、梁2の上下フランジ2a,2aの両側面部にそれぞれ一個ないし複数個の孔8が形成されている。孔8は、梁2のフランジ端溶接部9から梁2の中央側寄りの位置に、梁2の軸直角方向に水平に形成されている。
【0029】
なお、孔8は、上下フランジ2a,2aの一方、また上下フランジ2aの一側面部にのみ設けられていてもよい。
【0030】
符号10は梁2のウェブ2bを補強する水平スチフナーであり、必要に応じて梁2のフランジ端溶接部9に近いウェブ2bの側面部に溶接によって取り付けられている。
【0031】
このような構成において、図8(a),(b)に図示するように、地震時に建物が水平荷重によって変形し、これに伴い柱と梁が図8(c)に図示するように変形すると、梁の端部に大きな曲げ引張応力と曲げ圧縮応力が発生し、梁の上下フランジ端溶接部に応力が集中する。
【0032】
しかし、梁のフランジ端溶接部から梁中央寄りのフランジ両側面部に一個ないし複数の孔が設けられていることで、この部分が先行して塑性化して応力を低減することにより、特に曲げ引張応力下でのフランジ端溶接部の破断破壊を未然に防止することができる。
【0033】
次に、梁のフランジ端溶接部より梁中央寄りのフランジ側面部に孔を設けることの意義と効果について、FEMでの解析例を用いて検討する(図2〜図7、表1〜表4参照)。
【0034】
図2(a)〜(d)に図示する条件のもと、梁のフランジ側面部に設けられた孔の位置、孔の深さ、孔の径および孔の数が、曲げ引張応力による梁のフランジ端溶接部のZ方向の歪に与える影響について検討した。
【0035】
なお、図2(a)において、符号イ、ロ、ハは、それぞれ、図1および図2(c)に図示する柱梁接合部における梁2のフランジ2a、ダイアフラム3、フランジ端溶接部9に対応する。
【0036】
また、図2(b)は、ダイアフラム、溶接金属および梁フランジの材料特性を示し、さらに、図2(c),(d)は、それぞれ、梁のフランジ端溶接部の側面図と一部平面図である。
【0037】
同図に示すように、孔の位置は、梁2のフランジ端溶接部9(より詳しくは開先肩部)からの距離d(mm)で表わし、孔の深さはx(mm)、孔の径はΦ(mm)で表わす。
【0038】
図3と表1は、孔の位置(d)がフランジ端溶接部のZ方向の歪に与える影響を示したものであり、孔の位置(d)が50mm<d<90mmの範囲内で、フランジの側面部に孔が設けられていない構造(以下、「従来型」とよぶ。)と比較して、フランジ端溶接部のZ方向の歪を半減する効果が期待できることが確認された。
【0039】
【表1】

【0040】
図4と表2は、孔の深さ(x)がフランジ端溶接部のZ方向の歪に与える影響を示したものであり、孔径Φ=10mmの場合、孔の深さ(x)=20〜30mmで最も効果の大きいことが確認された。
【0041】
【表2】

【0042】
図5と表3は、孔の径(Φ)がフランジ端溶接部のZ方向の歪に与える影響を示したものであり、孔径(Φ)を大きくすることでフランジ端溶接部の歪集中を緩和できる。しかし、孔径(Φ)を大きくしすぎると(例えばΦ≧15mm)、孔部の塑性変形が大きくなり比較的早期の剛性低下が確認された。本解析結果ではΦ≦10mmくらいが適当であると考えられる。
【0043】
【表3】

【0044】
そして、図6と表4は、孔の数がフランジ端溶接部のZ方向の歪に与える影響を示したものであり、孔の数を増やすことで効果が期待できることが確認された。
【0045】
【表4】

【0046】
本解析結果により、梁のフランジに破断防止の孔を有する柱梁接合部は、孔の位置、孔の深さ、孔の径、孔の数を適切に設計することで効果が期待でき、従来型の柱梁接合部において発生する梁のフランジ端溶接部の最大歪値と比較し、歪値を半分以下に緩和することができることを確認した。
【0047】
図7(a),(b),(c)は、特に梁の断面(フランジ幅(B(mm))、フランジ板厚(tf(mm))、 ダイアフラム板厚(td(mm))を変更して解析し、孔がフランジ端溶接部のZ方向の歪に与える影響を示したものである。
【0048】
各図から明らかなように、梁の断面形状によらず、フランジの側面部に孔を設けることでフランジ端溶接部の歪値を低減できることが確認された。
【0049】
以上の解析結果より、孔の位置がtf≦d≦13tf/5、孔の深さがB/20≦x≦2B/15、孔の径がtf/5≦Φ≦3tf/5の範囲内であれば、梁の断面形状によらず、梁のフランジ端溶接部への歪みの集中を緩和することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、曲げ引張応力による梁のフランジ端溶接部の早期破断を防止することができると共に、施工が容易でコスト的に有利な鉄骨造ラーメン骨組の柱梁接合部を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 柱
2 梁
2a 梁のフランジ
2b 梁のウェブ
3a ダイアフラム
4 接合プレート
5 接合ボルト
6 開先
7 裏当て金
8 孔
9 梁のフランジ端溶接部
10 水平スチフナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造またはコンクリート充填鋼管造の柱に、H形鋼の梁を溶接接合することにより構成されるラーメン骨組の柱梁接合部において、前記梁のフランジ端溶接部から梁中央寄りのフランジ側面部に、孔が設けられていることを特徴とするラーメン骨組の柱梁接合部。
【請求項2】
請求項1記載のラーメン骨組の柱梁接合部において、前記孔は、上下フランジの両側面部にそれぞれ1または複数設けられていることを特徴とするラーメン骨組の柱梁接合部。
【請求項3】
請求項1または2記載のラーメン骨組の柱梁接合部において、孔は、梁のフランジ端溶接部から50〜90mm梁中央寄りのフランジ側面部に設けられていることを特徴とするラーメン骨組の柱梁接合部。
【請求項4】
長手方向端部付近のフランジ側面部に孔が設けられていることを特徴とするH形鋼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−79508(P2013−79508A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219201(P2011−219201)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】