説明

リアクトル及びこれを用いた電源装置

【課題】飽和しにくく低損失で安価なリアクトルを提供する。
【解決手段】リアクトル10は、トロイダルコア11と、トロイダルコア11に所定ターン数で巻回された第1の巻線12と、トロイダルコア11に第1の巻線12と同じターン数で巻回された第2の巻線13とを備えている。第1及び第2の巻線12、13の向きは、第1及び第2の巻線12、13に電流を流したときトロイダルコア11内に生じる磁束が相殺されるように設定されている。このとき、巻線の端子12b、13b間にはトロイダルコア11を通らない漏れ磁束成分によるインダクタンスが発生するので、非常に飽和しにくい小型のリアクトルを実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトル及びこれを用いた電源装置に関し、詳細には、大電流用途に好適なリアクトルの巻線構造、及びこのリアクトルを用いた電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HEV(Hybrid Electric Vehicle)、EV(Electric Vehicle)、太陽光発電、小型風力発電、燃料電池発電等のシステムでは、直流電圧の昇降圧回路、DC/AC変換回路(インバータ)、フィルタ回路等の受動部品としてリアクトルが使用されている。このリアクトルには大電流を流しても飽和せず、損失の少ないことが求められている。
【0003】
特許文献1には、コア材料としてケイ素鋼板を用いたリアクトルが開示されている。ケイ素鋼板の飽和磁束密度は2T程度と高く、低騒音のリアクトルを実現できるが、高周波での損失が大きいという問題もある。しかし、特許文献1に記載のリアクトルは、ケイ素鋼板の帯材を積層し、その断面形状が円形となるように帯材を円形リング状に巻いて形成されたコア部材を用いることにより、低損失を実現するものである。
【0004】
リアクトルのコア材料としては、ケイ素鋼板の他にも、アモルファスコア、フェライトコア等が知られている。このうち、アモルファスコアは、飽和磁束密度が比較的高く、高周波での損失も少ないが、加工し難く、また高周波の印加により振動が発生し、騒音が大きいという問題がある。また、フェライトコアは、低損失、低騒音、低価格、加工容易といった種々の利点を有するが、飽和磁束密度が低いため、大電流用途には適してない。
【特許文献1】特開2002−203729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のリアクトルのコア材料としては、飽和磁束密度が高く、大電流用途に適したケイ素鋼板が好ましく用いられている。しかしながら、たとえ薄層化されたケイ素鋼板であっても高周波での損失は大きいという問題がある。また、ケイ素鋼板は材料コストが高く、加工し難いといった種々の短所を有する。そのため、低損失・低騒音であり、コスト面や加工面にも優れた新たなリアクトルが求められている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、飽和しにくく低損失で安価なリアクトルを提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、そのようなリアクトルを用いて構成された高性能な電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、磁性体からなるコア部材と、コア部材に巻回された第1の巻線と、コア部材に巻回され且つ第1の巻線に接続された第2の巻線とを備え、第1及び第2の巻線に電流を流したとき、第1及び第2の巻線によってコア部材内に生じる磁束が互いに打ち消し合うように第1及び第2の巻線の向きが設定されていることを特徴とするリアクトルによって達成される。
【0009】
第1及び第2の巻線に電流を流すとき、第1及び第2の巻線によってコア部材内に生じる磁束は互いに打ち消し合うが、コア部材を通らない漏れ磁束成分が発生し、2つの端子間でインダクタンスが発生する。このインダクタンスは、大きなエアギャップを介して作られるコイルと等価であり、しかもギャップが全体的に分散しているものと見なせるため、非常に飽和しにくい小型のコイルを実現することができる。また、このインダクタンスは、コアの透磁率変動の影響を受けにくいため、温度特性に優れたリアクトルを実現することができる。
【0010】
本発明においては、コア部材がフェライトコアであることが好ましい。フェライトは飽和磁束密度が低いため、大電流用途のコア材料としては好ましくないが、第1及び第2の巻線12、13を用いて上述の巻線構造を採用することにより、飽和磁束密度の問題を解消することができ、大電流用途においても低損失、低騒音、低コスト、加工容易性といったフェライトの長所を活かすことが可能となる。
【0011】
本発明においては、第1及び第2の巻線が一本の導線からなることが好ましい。これによれば、第1及び第2の巻線の一端同士を結線する作業が不要となる。
【0012】
本発明においては、コア部材が実質的な閉磁路を構成していることが好ましい。また、第1の巻線がコア部材の所定の位置に集中して巻回され、第2の巻線が第1の巻線の位置とは異なるコア部材の所定の位置に集中して巻回されていることが好ましい。これによれば、コア部材への巻線の形成が容易となり、一方のコイルの漏れ磁束が他方のコイルに対して与える影響を抑制することができる。なお、実質的な閉磁路とは、完全な閉磁路のみならずギャップを有する閉磁路も許容する趣旨である。
【0013】
本発明の上記目的はまた、直流電源と、直流電源より供給される直流電流をスイッチングするスイッチング回路と、直流電源回路とスイッチング回路との間に挿入された上記リアクトルとを備えることを特徴とする電源装置によっても達成される。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、飽和しにくく低損失で安価なリアクトルを提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば、上記の特徴を有するリアクトルを用いて構成された高性能な電源装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係るリアクトルの外観構造を示す略斜視図である。また、図2は、図1に示したリアクトルの略平面図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、このリアクトル10は、トロイダルコア11と、トロイダルコア11に所定ターン数で巻回された第1の巻線12と、トロイダルコア11に第1の巻線12と同じターン数で巻回された第2の巻線13と、第1の巻線12と第2の巻線13とを仕切る絶縁板14とを備えている。
【0019】
トロイダルコア11の磁性材料にはフェライトが用いられている。上述の通り、フェライトは飽和磁束密度が低いため、大電流用途のコア材料としては好ましくない。しかし、第1及び第2の巻線12、13を用いて以下に示す巻線構造を採用することにより、飽和磁束密度の問題を解消することができ、大電流用途においても低損失、低騒音、低コスト、加工容易性といったフェライトの長所を活かすことが可能となる。
【0020】
第1の巻線12は、第1のチョークコイルLを構成しており、第2の巻線13は、第2のチョークコイルLを構成している。第1の巻線12はトロイダルコア11の左側、第2の巻線13は右側にそれぞれ集中して巻回されており、それらの間には絶縁板14が設けられている。この絶縁板14は2つのコイルL、L間の絶縁を確実にするために設けられている。第1及び第2の巻線12、13には平角導線を用いることが好ましい。平角導線は断面積が大きく、巻線を効率よく巻回することができるからである。
【0021】
第1及び第2の巻線12、13の向きは同じであり、第1の巻線12に電流が流れたときにトロイダルコア11内に生ずる磁束Φと、第2の巻線13に電流が流れたときに生ずる磁束Φとが互いに打ち消し合うように構成されている。このような構成は、一般にコモンモードフィルタ又はラインフィルタと呼ばれている。
【0022】
本実施形態においては、第1の巻線12の一端12aと第2の巻線13の一端13aとが結線され、コイルLとコイルLとが直列接続された構成となっている。これはつまり、コモンモードフィルタの2つの出力端子間を短絡した構成と同じである。そして、第1及び第2の巻線の他端12b、13bがリアクトル10の入出力端子として使用される。なお、第1及び第2の巻線12、13は一本の導線で構成されてもよい。これによれば、第1及び第2の巻線の端部同士を結線する作業を不要にすることができ、シンプルで信頼性の高い巻線構造とすることができるからである。
【0023】
チョークコイルL、Lの直列回路に電流を流すとき、チョークコイルL、Lで作られる磁束のすべてがトロイダルコア11中を流れれば、コイルL、Lで作られる磁束は互いに逆向き且つ等しい値になるため、互いに打ち消し合う。したがって、このような状態で2つの端子間のインダクタンスを測定するとゼロになるはずである。
【0024】
しかし、第1及び第2の巻線12、13を図示のように左右に分割して巻回すると、実際にはトロイダルコアを通らない磁束成分(図2の破線参照)が発生し、2つの端子間でインダクタンスが発生する。従来、この種のインダクタンスは「リーケージインダクタンス」、或いは「寄生インダクタンス」と呼ばれ、意図しないインダクタンス成分である。しかし、リーケージインダクタンスは、大きなエアギャップを介して作られるコイルと等価であるものと見なすことができるので、ギャップ入りのコアと同じ特徴を有している。ただし、実際には、通常のギャップ入りコアのような局所的なギャップを設けることなくそれを実現しているため、非常に優れた特性を持っている。つまり、ギャップが全体的に分散しているものと見なせるため、非常に飽和しにくい小型のリアクトルを実現することができる。また、エアギャップの効果によりコアの透磁率変動の影響を受けにくく、インダクタンスのコア特性への依存が少ない。そのため、温度特性に優れたリアクトルを実現することができる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態のリアクトル10によれば、トロイダルコア11に巻回された第1及び第2の巻線12、13に電流を流したときトロイダルコア11内に生じる磁束が相殺されるように、第1及び第2の巻線12、13の向きが設定されているので、トロイダルコア11を通らない漏れ磁束成分によるインダクタンスを発生させることができ、非常に飽和しにくい小型のリアクトルを実現することができる。
【0026】
本発明のリアクトルに用いるコアの形状はトロイダルコアに限定されず、種々の形状を採用することができる。
【0027】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るリアクトルの外観構造を示す略斜視図である。また、図4は、図3に示したリアクトルの略平面図である。
【0028】
図3及び図4に示すように、このリアクトル20は、第1の巻線12が巻回された第1のコの字型コア21と、第2の巻線が巻回された第2のコの字型コア22との組み合わせによって構成されている。コの字型コア21、22の先端同士は接続されており、これによりエアギャップのない閉磁路が構成されている。第1の巻線12と第2の巻線13は直線状の同一のコア部分に巻回され、横並びの配置となっている。第1及び第2の巻線12、13の向きは同じであり、第1の巻線12の一端12aと第2の巻線13の一端13aは結線されている。また、第1及び第2の巻線の他端12b、13bはリアクトル20の入出力端を構成している。第1及び第2の巻線12、13に電流を流したとき、第1及び第2の巻線12、13によってコア部材内に生じる磁束Φ、Φが互いに打ち消し合うように前記第1及び第2の巻線の向きが設定されている。
【0029】
図5は、本発明の第3の実施形態に係るリアクトルの構成を示す略平面図であって、図3及び図4に示したリアクトル20の変形例を示すものである。
【0030】
図5に示すように、このリアクトル30は、第1の巻線12と第2の巻線13の向きが互いに逆向きとなっている点が上述のリアクトル20と異なっている。一方、第1の巻線12と第2の巻線13との間の接続関係も異なっており、第1の巻線12の一端12aと第2の巻線13の他端13bが結線されており、第1の巻線の他端12b及び第2の巻線の一端13aがリアクトル30の入出力端を構成している。そのため、全体としては、第1及び第2の巻線12、13に電流を流したときコア部材内に生じる磁束Φ、Φが相殺されるように、第1及び第2の巻線12、13の向きが設定されている。
【0031】
このように、第2及び第3の実施形態に係るリアクトル20、30によれば、コア部材に巻回された第1及び第2の巻線12、13に電流を流したときコア部材内に生じる磁束が相殺されるように、第1及び第2の巻線12、13の向きが設定されているので、コア部材を通らない漏れ磁束成分によるインダクタンスを発生させることができ、非常に飽和しにくい小型のリアクトルを実現することができる。
【0032】
図6は、本発明の第4の実施形態に係るリアクトル40の構成を示す略平面図である。
【0033】
図6に示すように、このリアクトル30も、2つのコの字型コア41、42の組み合わせによって構成されており、第1の巻線12と第2の巻線13は互いに対向する直線状のコア部分にそれぞれ巻回され、向かい合わせの配置となっている点に特徴を有している。また、第1の巻線12の位置には、2つのコの字型コア41、42の一方の接続点があり、第2の巻線13の位置には他方の接続点がある。第1の巻線12の一端12aと第2の巻線13の一端13aは結線されており、第1及び第2の巻線の他端12b、13bはリアクトル20の入出力端を構成している。そして、第1及び第2の巻線12、13に電流を流したとき、第1及び第2の巻線12、13によってコア部材内に生じる磁束が互いに打ち消し合うように第1及び第2の巻線の向きが設定されている。
【0034】
このように、第4の実施形態に係るリアクトル40も、コア部材に巻回された第1及び第2の巻線12、13に電流を流したときコア部材内に生じる磁束が相殺されるように、第1及び第2の巻線12、13の向きが設定されているので、コア部材を通らない漏れ磁束成分によるインダクタンスを発生させることができ、非常に飽和しにくい小型のリアクトルを実現することができる。
【0035】
図7は、本発明に係るリアクトルを用いた電源装置の一例を示す回路図である。
【0036】
図7に示すように、この電源装置50は、直流電源51、昇圧チョッパー回路52、スイッチング回路としてのPWMインバータ53、及び平滑フィルタ54が順に接続された回路構成を有している。そして、昇圧チョッパー回路52内のリアクトルLcや平滑フィルタ54内のリアクトルLS1、LS2として、上述の各実施形態で示したリアクトル10乃至40が用いられる。このように、本実施形態の電源装置50においては、直流電源とスイッチング回路との間に、大電流を流しても飽和せず、損失の少ないリアクトルが挿入されているので、高性能な電源装置を実現することができる。
【0037】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、これらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0038】
例えば、上記実施形態においては、ギャップのないコアを用いてリアクトルを構成しているが、ギャップを有するコアを用いて構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態に係るリアクトル10の外観構造を示す略斜視図である。また、
【図2】図2は、図1に示したリアクトル10の略平面図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係るリアクトル20の外観構造を示す略斜視図である。
【図4】図4は、図3に示したリアクトル10の略平面図である。
【図5】図5は、本発明の第3の実施形態に係るリアクトル30の構成を示す略平面図であって、図3及び図4に示したリアクトル20の変形例を示すものである。
【図6】図6は、本発明の第4の実施形態に係るリアクトル40の構成を示す略平面図である。
【図7】図7は、本発明に係るリアクトルを用いた電源装置の一例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0040】
10 リアクトル
11 トロイダルコア
12 第1の巻線
12a 第1の巻線の一端
12b 第1の巻線の他端
13 第2の巻線
13a 第2の巻線の一端
13b 第2の巻線の他端
14 絶縁板
20 リアクトル
21 コの字型コア
22 コの字型コア
30 リアクトル
40 リアクトル
41 コの字型コア
42 コの字型コア
50 電源装置
51 直流電源
52 昇圧チョッパー回路
53 PWMインバータ
54 平滑フィルタ
第1のチョークコイル
第2のチョークコイル
Φ 第1のチョークコイルによる磁束
Φ 第2のチョークコイルによる磁束
Lc 昇圧チョッパー回路52内のリアクトル
S1 平滑フィルタ54内のリアクトル
S2 平滑フィルタ54内のリアクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなるコア部材と、
前記コア部材に巻回された第1の巻線と、
前記コア部材に巻回され且つ前記第1の巻線に接続された第2の巻線とを備え、
前記第1及び第2の巻線に電流を流したとき、前記第1及び第2の巻線によって前記コア部材内に生じる磁束が互いに打ち消し合うように前記第1及び第2の巻線の向きが設定されていることを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記コア部材がフェライトコアであることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記第1及び第2の巻線が一本の導線からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記コア部材が実質的な閉磁路を構成していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記第1の巻線が前記コア部材の所定の位置に集中して巻回され、前記第2の巻線が前記第1の巻線の位置とは異なる前記コア部材の所定の位置に集中して巻回されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のリアクトル。
【請求項6】
直流電源と、前記直流電源より供給される直流電流をスイッチングするスイッチング回路と、前記直流電源回路と前記スイッチング回路との間に挿入された請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリアクトルとを備えることを特徴とする電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−159817(P2008−159817A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346798(P2006−346798)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】