説明

リアクトル及びその製造方法

【課題】絶縁被覆材とコアとの接着界面が剥離したり、コアにクラックが発生したりしにくいリアクトルを提供する。
【解決手段】通電により磁束が発生するコイル2を備える。また、絶縁樹脂からなり、コイル2の表面を被覆する絶縁被覆材3を備える。さらに、絶縁樹脂の中に磁性粉末5が分散した磁性粉末混合樹脂からなるコア4を備える。コイル2は、その表面を絶縁被覆材3で被覆された状態でコア4に埋設されている。絶縁被覆材3とコア4との接触界面6において、絶縁被覆材3を構成する被覆材側絶縁樹脂30と、コア4を構成するコア側絶縁樹脂40とが化学反応することにより、被覆材側絶縁樹脂30とコア側絶縁樹脂40とが化学結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラック等が発生しにくいリアクトル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から図7に示すごとく、絶縁樹脂の中に磁性粉末94が分散した磁性粉末混合樹脂からなるコア91と、該コア91内に埋設されたコイル92とを有するリアクトル90が知られている。コイル92と磁性粉末94とを絶縁するために、コイル92の表面に絶縁被覆材93が形成されている。コア91は、例えば熱硬化性樹脂が採用される。
【0003】
このリアクトル90を製造する際には、まずコイル92の表面を絶縁被覆材93で覆っておき、その状態でコイル92を未硬化のコア91の中に埋設する。そして、加熱処理等をすることにより、コア91を硬化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−4957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リアクトル90は、通電によって発熱し、高温状態になる。一方、使用しない場合、寒冷地等では低温状態になる。このような使用環境に耐えられるか確認するため、製品出荷の際に、高温状態と低温状態とを交互に繰り返す冷熱サイクル試験を行う。従来のリアクトル90は図8に示すごとく、この冷熱サイクル試験を行った際に、絶縁被覆材93とコア91の表面96が剥離したり、角部97からコア91にクラック95が発生したりしやすいという問題がある。この剥離やクラック95は、絶縁被覆材93とコア91の熱膨張率の違いに起因して発生する。剥離およびクラック95のため、リアクトル90の性能が低下するという問題が生じる。そのため、剥離やクラック95が発生しにくいリアクトル90が望まれている。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、絶縁被覆材とコアとの界面が剥離したり、コアにクラックが発生したりしにくいリアクトルと、その製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、通電により磁束が発生するコイルと、
絶縁樹脂からなり、該コイルの表面を被覆する絶縁被覆材と、
絶縁樹脂の中に磁性粉末が分散した磁性粉末混合樹脂からなるコアとを備え、
上記コイルは、その表面を上記絶縁被覆材で被覆された状態で上記コアに埋設されており、
上記絶縁被覆材と上記コアとの接触界面において、上記絶縁被覆材を構成する被覆材側絶縁樹脂と、上記コアを構成するコア側絶縁樹脂とが化学反応することにより、上記被覆材側絶縁樹脂と上記コア側絶縁樹脂とが化学結合していることを特徴とするリアクトルにある(請求項1)。
【0008】
また、第2の発明は、上記リアクトルの製造方法であって、
上記コイルを未硬化の上記絶縁被覆材で被覆し、上記被覆材側絶縁樹脂に含まれる主剤と硬化剤とを反応率が95%以下となるように反応させる被覆材硬化工程と、
上記絶縁被覆材で被覆された上記コイルを未硬化の上記コアに埋設し、該コアに含まれる主剤と硬化剤とを反応させるとともに、上記接触界面において、被覆材側絶縁樹脂に含まれる未反応の主剤または硬化剤と、上記コアに含まれる未反応の主剤または硬化剤とを化学反応させるコア硬化工程と、
を行うことを特徴とするリアクトルの製造方法にある(請求項6)。
【0009】
また、第3の発明は、上記リアクトルの製造方法であって、
上記被覆材側絶縁樹脂は、硬化剤と主剤との当量比が1:0.5〜1:0.9または1:1.1〜1:2.0の範囲内に収まるように組成を調節したものであり、
上記コイルを未硬化の上記絶縁被覆材で被覆し、上記被覆材側絶縁樹脂に含まれる主剤と硬化剤とを反応させる被覆材硬化工程と、
上記絶縁被覆材で被覆された上記コイルを未硬化の上記コアに埋設し、該コアに含まれる主剤と硬化剤とを反応させるとともに、上記接触界面において、被覆材側絶縁樹脂に含まれる未反応の上記主剤または硬化剤と、上記コアに含まれる未反応の主剤または硬化剤とを化学反応させるコア硬化工程と、
を行うことを特徴とするリアクトルの製造方法にある(請求項8)。
【発明の効果】
【0010】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
第1の発明では、絶縁被覆材とコアとの接触界面において、上記被覆材側絶縁樹脂と上記コア側絶縁樹脂とを化学反応させることにより、この被覆材側絶縁樹脂とコア側絶縁樹脂とを強固に接着させている。これにより、冷熱サイクル試験を行っても絶縁被覆材とコアとの間の剥離やコアのクラックが発生しにくくなる。
従来のリアクトルでは、絶縁被覆材とコアとの熱膨張率が異なるため、剥離やクラックが生じていた。すなわち、冷熱サイクル試験を行うと熱膨張率の違いによって絶縁被覆材とコアとの接触界面に応力が加わり、また、絶縁被覆材の角部に応力が集中する。この応力によって上記剥離やクラックが発生しやすくなる。そのため、上述のように被覆材側絶縁樹脂とコア側絶縁樹脂とを化学反応させ、化学結合を形成することにより、絶縁被覆材とコアとを強く接着でき、両者の間に熱応力等が作用しても絶縁被覆材とコアとの間の剥離やコアのクラックが発生しにくくなる。
【0011】
また、第2の発明によると、コイルを絶縁被覆材で被覆し、この絶縁被覆材を完全に硬化(重合)させないでおく。そして、コアを硬化させる際に、絶縁被覆材に含まれる未反応の主剤がコアの硬化剤と反応するか、又は絶縁被覆材に含まれる未反応の硬化剤がコアの主剤と反応するようにする。これにより、絶縁被覆材とコアとが接触界面にて化学結合したリアクトルを容易に製造することが可能となる。なお、反応率は絶縁被覆材のDSC分析による反応熱で定義している。
【0012】
また、第3の発明によると、絶縁被覆材に含まれる主剤と硬化剤の当量比が上記のように1から外れるように予め調整しておく。これにより、被覆材硬化工程において絶縁被覆材の被覆材側絶縁樹脂は完全に硬化することなく、主剤又は硬化剤が未反応のまま必ず残ることになる。そのため、コア硬化工程において必ず、絶縁被覆材に含まれる未反応の主剤がコアの硬化剤と反応するか、又は絶縁被覆材に含まれる未反応の硬化剤がコアの主剤と反応する。これにより、絶縁被覆材とコアとが接触界面にて化学結合したリアクトルを容易に製造することが可能となる。
【0013】
以上のごとく、本発明によれば、絶縁被覆材とコアとの界面が剥離したり、コアにクラックが発生したりしにくいリアクトル及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における、リアクトルの斜視図。
【図2】実施例1における、リアクトルの断面図。
【図3】図2の要部拡大断面図。
【図4】実施例1、2における、リアクトルの製造方法説明図。
【図5】図4に続く図。
【図6】実施例3における、絶縁被覆材を多層化した実施例。
【図7】従来例における、リアクトルの断面図。
【図8】従来例における、クラックが発生した部分の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述した本発明における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記被覆材側絶縁樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂から選択されるものであることが好ましい(請求項2)。
エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂は絶縁性が高いので、絶縁被覆材の厚さが薄くても、コイルと磁性粉末との絶縁性を確保しやすい。
エポキシ樹脂は接着性、耐熱性に優れる為、長期的材料強度、及び接着強度の確保がしやすい。ポリエステルはエポキシ樹脂に比べ多少接着力、耐熱性が劣るものの、比較的柔軟であり耐クラック性に期待される。ウレタン樹脂は特に柔軟性に優れ、クラック発生防止に効果がある。
【0016】
また、上記コア側絶縁樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂から選択されるものであることが好ましい(請求項3)。
コア側絶縁樹脂として上記樹脂を用いる場合には、被覆材側絶縁樹脂と化学反応しやすくなり、コアと絶縁被覆材の接着強度を強めることができる。これにより、剥離やクラックがより生じにくくなる。
これらの樹脂のうち、エポキシ樹脂は接着性、耐熱性に優れる為、長期的材料強度、及び接着強度の確保がしやすく、コア側絶縁樹脂として好適に用いることができる。また、ポリエステルは耐クラック性に優れる。ウレタン樹脂は特に柔軟性に優れ、クラック発生防止に効果がある。
【0017】
また、上記コアは、上記磁性粉末の含有量が40体積%以上であることが好ましい(請求項4)。
磁性粉末(例えば鉄粉)の含有量が40体積%以上になるとコアが硬くなるため、コア側絶縁樹脂と被覆材側絶縁樹脂とが化学結合していない従来のリアクトルでは、冷熱サイクル試験時に発生した熱応力をコア自体が吸収することが困難であった。そのため、コアと絶縁被覆材との接触界面に応力が加わり、剥離が発生したりクラックが生じたりする場合があった。しかし、本発明ではコア側絶縁樹脂と被覆材側絶縁樹脂とが化学結合によって強固に接着しているため、硬いコアを用いても絶縁被覆材とコアとの間の剥離やコアのクラックが生じにくい。このように、剥離やクラックの問題が特に生じやすい上記コアを有するリアクトルに本発明を適用すると、効果が大きい。
【0018】
また、上記コアは、上記磁性粉末の含有量が50〜70体積%であることが好ましい(請求項5)。
この場合には、磁性粉末の割合を最適な状態にすることができる。磁性粉末が50体積%未満の場合は、リアクトルの性能が低下する場合がある。また、70体積%を超えると磁性粉末の割合が多すぎ、コアは硬くなりすぎてクラックが生じやすくなる。
【0019】
また、第2の発明において、上記被覆材硬化工程にて、上記被覆材側絶縁樹脂に含まれる上記主剤と上記硬化剤とを反応率が80%以下となるように反応させたことが好ましい(請求項7)。
このようにすると、被覆材側絶縁樹脂に未反応の主剤または硬化剤が多く残るため、上記コア硬化工程にてコアとの化学反応が進みやすくなる。そのため、コアと絶縁被覆材とが化学結合によって強固に接着され、剥離やクラックがより生じにくくなる。
【0020】
また、第2の発明および第3の発明において、上記被覆材側絶縁樹脂からなる複数の層を積層することにより、上記絶縁被覆材を形成することが好ましい(請求項9)。
この場合には、絶縁被覆材を厚く形成することができる。そのため、コイルと磁性粉末との絶縁性を十分に確保することができる。また、層ごとに主剤と硬化剤の当量比を変えることも可能となる。
【0021】
また、上記被覆材側絶縁樹脂からなる複数の層のうち、最外層に含まれる主剤と硬化剤の反応率は30〜95%であることが好ましい(請求項10)。
このようにすると、最外層に未反応の主剤と硬化剤が十分に残っているので、コア側絶縁樹脂と化学反応しやすくなる。そのため、絶縁被覆材とコアとを強固に接着できる。
【0022】
また、上記絶縁被覆材を構成する上記複数の層は、各層に含まれる上記硬化剤と上記主剤との当量比が1:0.5〜1:0.9または1:1.1〜1:2.0であり、硬化剤の量が相対的に多い硬化剤リッチ層と、主剤の量が相対的に多い主剤リッチ層とを交互に形成することが好ましい(請求項11)。
この場合には、硬化剤リッチ層と主剤リッチ層とが化学反応を起こして接着するので、層と層の間の接着強度を強めることが可能となる。そのため、熱応力が加わっても絶縁被覆材を構成する複数の層の間における剥離が生じにくくなる。また、コアと絶縁被覆材との接着力を高めることもできる。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるリアクトルにつき、図1〜図6を用いて説明する。
本例のリアクトル1は、図1〜図3に示すごとく、通電により磁束が発生するコイル2を備える。また、絶縁樹脂からなり、コイル2の表面を被覆する絶縁被覆材3を備える。さらに、絶縁樹脂の中に磁性粉末5が分散した磁性粉末混合樹脂からなるコア4を備える。コイル2は、その表面を絶縁被覆材3で被覆された状態でコア4に埋設されている。絶縁被覆材3とコア4との接触界面6において、絶縁被覆材3を構成する被覆材側絶縁樹脂30と、コア4を構成するコア側絶縁樹脂40とが化学反応することにより、被覆材側絶縁樹脂30とコア側絶縁樹脂40とが化学結合している。
以下、詳説する。
【0024】
本例のリアクトル1では、被覆材側絶縁樹脂30は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂のいずれかを用いる。また、コア側絶縁樹脂40は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂のいずれかを用いる。また、コイル2は、銅線を巻き回して形成してある。
【0025】
図2、図3に示すごとく、被覆材側絶縁樹脂30は主剤31と硬化剤32とを化学反応させて形成したものである。また、コア側絶縁樹脂40は、主剤41と硬化剤42とを化学反応させて形成したものである。
また、図4に示すごとく、本例のリアクトル1は、コイル2を未硬化の絶縁被覆材3で被覆し、被覆材側絶縁樹脂30に含まれる主剤31と硬化剤32とを反応率が95%以下となるように反応させる被覆材硬化工程を行う。
その後、図5に示すごとく、絶縁被覆材3で被覆されたコイル2を未硬化のコア4に埋設し、コア4に含まれる主剤41と硬化剤42とを反応させるとともに、接触界面6において、被覆材側絶縁樹脂30に含まれる未反応の主剤31または硬化剤32と、コア4に含まれる未反応の主剤41または硬化剤42とを化学反応させるコア硬化工程と、を行うことにより製造する。
【0026】
より詳しくは、被覆材硬化工程では、図4に示すごとく、コイル2を未硬化の被覆材側絶縁樹脂30に浸漬し、その表面を被覆材側絶縁樹脂30で被覆する。その後、所定温度で熱処理を行い、被覆材側絶縁樹脂30を硬化させる。この際、主剤31と硬化剤32とが100%反応せず、反応率が95%以下となるようにする。主剤31と硬化剤32との反応率は、30%以上とすることが好ましい。
【0027】
また、コア硬化工程では図5に示すごとく、コイル2をケース7内に入れ、未硬化のコア材43を入れる。このコア材43は、磁性粉末5と未硬化のコア側絶縁樹脂40との混合物である。その後、所定の温度で熱処理を行い、コア材43を硬化させる。これにより、被覆材側絶縁樹脂30に含まれる未反応の主剤31とコア側絶縁樹脂40に含まれる未反応の硬化剤42とが反応するか、または被覆材側絶縁樹脂30に含まれる未反応の硬化剤32とコア側絶縁樹脂40に含まれる未反応の主剤41とが反応する。これにより、絶縁被覆材3とコア4とが化学結合し、強固に接着される。
【0028】
また本例では、被覆材硬化工程にて、被覆材側絶縁樹脂30に含まれる主剤31と硬化剤32とを反応率が80%以下となるように反応させている。コア4は、磁性粉末5の含有量が40体積%以上であり、より詳しくは、50〜70体積%である。
【0029】
次に、実施例1の作用効果につき説明する。
本例では、絶縁被覆材3とコア4との接触界面6において、被覆材側絶縁樹脂30とコア側絶縁樹脂40とを化学反応させることにより、この被覆材側絶縁樹脂30とコア側絶縁樹脂40とを強固に接着させている。これにより、冷熱サイクル試験を行っても絶縁被覆材3とコア4との間の剥離やコア4のクラックが発生しにくくなる。
従来のリアクトルでは、絶縁被覆材3とコア4との熱膨張率の相違に起因して、剥離やクラックが生じていた。すなわち、冷熱サイクル試験を行うと熱膨張率の違いによって絶縁被覆材3とコア4との接触界面6に応力が加わり、また、絶縁被覆材3の角部(図8参照)に応力が集中する。この応力によって剥離やクラックが発生しやすくなる。そのため、上述のように被覆材側絶縁樹脂30とコア側絶縁樹脂40とを化学反応させ、化学結合を形成することにより、絶縁被覆材3とコア4とを強く接着でき、両者の間に熱応力等が作用しても絶縁被覆材3とコア4との間の剥離やコア4のクラックが発生しにくくなる。
【0030】
また、本例では、図4に示すごとく、コイル2を未硬化の被覆材側絶縁樹脂30で被覆して、反応率が95%以下となるように主剤31と硬化剤32とを反応させる被覆材硬化工程を行う。その後、図5に示すごとく、コイル2を未硬化のコア材43内に埋設する。そして熱処理を行うことにより、コア側絶縁樹脂40を硬化させるとともに、被覆材側絶縁樹脂30に残存する未反応の主剤31がコア側絶縁樹脂40の未反応の硬化剤42と化学反応するか、被覆材側絶縁樹脂30に残存する未反応の硬化剤32がコア側絶縁樹脂40の未反応の主剤41と化学反応するようにする。
このようにすると、絶縁被覆材3とコア4とが接触界面6にて化学結合したリアクトル1を容易に製造することが可能となる。
【0031】
また本例では、被覆材硬化工程にて、被覆材側絶縁樹脂30に含まれる主剤と硬化剤とを反応率が80%以下となるように反応させている。
このようにすると、被覆材側絶縁樹脂30に未反応の主剤31または硬化剤32が多く残るため、コア硬化工程にてコア4との化学反応が進みやすくなる。そのため、コア4と絶縁被覆材3とが化学結合によって強固に接着され、剥離やクラックがより生じにくくなる。
【0032】
また、被覆材側絶縁樹脂30は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂から選択されるものである。
エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂は絶縁性が高いので、絶縁被覆材3の厚さが薄くても、コイル2と磁性粉末5との絶縁性を確保しやすい。
エポキシ樹脂は接着性、耐熱性に優れる為、長期的材料強度、及び接着強度の確保がしやすい。ポリエステルはエポキシ樹脂に比べ多少接着力、耐熱性が劣るものの、比較的柔軟であり耐クラック性に期待される。ウレタン樹脂は特に柔軟性に優れ、クラック発生防止に効果がある。
【0033】
また、コア側絶縁樹脂40は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂から選択されるものである。
コア側絶縁樹脂40として上記樹脂を用いる場合には、被覆材側絶縁樹脂30と化学反応しやすくなり、コア4と絶縁被覆材3の接着強度を強めることができる。これにより、剥離やクラックがより生じにくくなる。
これらの樹脂のうち、エポキシ樹脂は接着性、耐熱性に優れる為、長期的材料強度、及び接着強度の確保がしやすく、コア側絶縁樹脂として好適に用いることができる。また、ポリエステルは耐クラック性に優れる。ウレタン樹脂は特に柔軟性に優れ、クラック発生防止に効果がある。
【0034】
上記絶縁被覆材或いはコアに用いられる樹脂のうち、エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社のエピコート828、1001、826等に代表される、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール骨格のエポキシ樹脂、アデカ社のEP−4000、EPU−17T−6に代表されるポリエーテル、ウレタン等を骨格にもつ柔軟性エポキシ、ジャパンエポキシレジン社のエピコート630に代表されるグリシジルアミンを骨格に有する多官能エポキシ、ダイセル化学工業社の2021Pに代表される脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0035】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、アミン系、カルボン酸系、酸無水物系等が知られている。アミン系としては、ポリエチレンポリアミンに代表される直鎖脂肪族アミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の環状ポリアミン、ジャパンエポキシレジン社のエピキュアWに代表される液状芳香族ジアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルスルフォン(DDS)に代表される固形芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0036】
ポリエステルとしては、主剤として上記ポリオール、ポリアミンが挙げられる。硬化剤としては、新日本理化社のMH−700に代表される液状酸無水物の他、フタル酸無水物等の固形状の酸無水物が挙げられるが、ポリカルボン酸を用いることも出来る。
【0037】
ウレタン樹脂として用いられる主剤としては、PPG、PPO、PTMEG、PTXG、ひまし油骨格のポリオールの他、上記エポキシ樹脂硬化剤として用いられるアミン系化合物も用いることが出来る。
【0038】
ウレタン樹脂の硬化剤としては、MDI(メタフェニレンジイソシアネート)、TDI(トリレンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、XDI(キシリレンジイソシアネート)、TMXDI(テトラメチルキシリレンジイソシアネート)等のジイソシアネート化合物の他、これらのジイソシアネート化合物と上記ポリオール化合物を反応することで得られる両末端イソシアネートのウレタンプレポリマーが挙げられる。
【0039】
また、本例では、コア4は、磁性粉末5の含有量が40体積%以上である。
磁性粉末5(例えば鉄粉)の含有量が40体積%以上になるとコア4が硬くなるため、コア側絶縁樹脂40と被覆材側絶縁樹脂30とが化学結合していない従来のリアクトル1では、冷熱サイクル試験時に発生した熱応力をコア4自体が吸収することが困難であった。そのため、コア4と絶縁被覆材3との接触界面6に応力が加わり、剥離が発生したりクラックが生じたりする場合があった。しかし、本例ではコア側絶縁樹脂40と被覆材側絶縁樹脂30とが化学結合によって強固に接着しているため、硬いコア4を用いても絶縁被覆材3とコア4との間の剥離やコア4のクラックが生じにくい。このように、剥離やクラックの問題が特に生じやすい上記コア4を有するリアクトル1に本発明を適用すると、効果が大きい。
【0040】
また、本例では、コア4は、磁性粉末5の含有量が50〜70体積%である。
この場合には、磁性粉末5の割合を最適な状態にすることができる。磁性粉末5が50体積%未満の場合は、リアクトル1の性能が低下する場合がある。また、70体積%を超えると磁性粉末5の割合が多すぎ、コア4が硬くなりすぎてクラックが生じやすくなる。
【0041】
以上のごとく、本例によれば、絶縁被覆材3とコア4との界面が剥離したり、コア4にクラックが発生したりしにくいリアクトル1を提供することができる。
【0042】
(実験例1)
本例の効果を確認するために以下の実験を行った。下記表1に示すごとく、絶縁被覆材3として粉体エポキシ樹脂(ソマール製F−6975)を用い、コア4として磁性粉末を50体積%混合させたエポキシ樹脂(主剤にジャパンエポキシレジン製エピコート828、硬化剤に新日本理化製MH−700を用いた樹脂)を用いた。粉体エポキシ樹脂は硬化前の状態では粉体のエポキシ樹脂であり、この中に加熱されたコイル2をいれ、コイル表面を粉体エポキシ樹脂で被覆した後、熱処理を行って硬化させた。そして、絶縁被覆材3の主剤31と硬化剤32との反応率を100%にした、本発明に属さない比較例1のサンプルを作成した。また、反応率を0%、30%、70%、85%にした、本発明に属する試料1〜4のサンプルを作成した。また、絶縁被覆材3を2層にし、反応率を85%にした試料5のサンプルを作成した。
そして、これらのサンプルを用いて接着強度を測定するとともに、破壊される部分を確認した。コア4と絶縁被覆材3が接着界面で破壊される場合は「界面破壊」と記載し、それ以外の場所、例えばコア4や絶縁被覆材3の内部で破壊される場合を「凝集破壊」と記載した。絶縁被覆材3とコア4との接着強度が十分でない場合は界面破壊が生じ、接着強度が十分な場合は凝集破壊が生じる。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から分かるように、本発明に属する試料1〜5のサンプルは接着強度が大きく、接着界面で破壊されない。また、比較例1のサンプルは接着強度が小さいため、界面破壊していることが分かる。
【0045】
(実施例2)
本例は、リアクトル1の製造方法を変更した例である。本例では、被覆材側絶縁樹脂30は主剤31と硬化剤32とを化学反応させて形成したものであり、また、コア側絶縁樹脂40は、主剤41および硬化剤42を化学反応させて形成している。
被覆材側絶縁樹脂30は、硬化剤32と主剤31との当量比が1:0.5〜1:0.9または1:1.1〜1:2.0の範囲内に収まるように組成を調節されている。
そして、コイル2を未硬化の絶縁被覆材3で被覆し、被覆材側絶縁樹脂30に含まれる主剤と硬化剤とを反応させる被覆材硬化工程(図4参照)を行う。
次いで、絶縁被覆材3で被覆されたコイル2を未硬化のコア4に埋設し、コア4に含まれる主剤と硬化剤とを反応させるとともに、接触界面6において、被覆材側絶縁樹脂30に含まれる未反応の主剤または硬化剤と、コア4に含まれる未反応の主剤または硬化剤とを化学反応させるコア硬化工程を行う(図5参照)。
その他、実施例1と同様の構成を有する。
【0046】
実施例2の作用効果につき説明する。
本例では、絶縁被覆材3とコア4とが接触界面6にて化学結合したリアクトル1を容易に製造することが可能となる。すなわち、実施例1の場合では、被覆材硬化工程において、高い温度で反応させたり、長時間反応させたりした場合、絶縁被覆材3の反応率が95%を超えてしまう場合がある。しかし、実施例2では、絶縁被覆材3の主剤31と硬化剤32との当量比が予め1から外れるように調節されているので、反応温度や時間を間違えて処理しても、未反応の主剤31や硬化剤32が必ず残ることになる。そのため、この未反応の主剤31や硬化剤32を使って、コア4と化学結合を確実に形成することが可能となる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0047】
(実験例2)
次に、本例の効果を確認するため、以下の実験を行った。下記表2に示すごとく、本発明に属さない比較例2〜4と、本発明に属する試料6〜21のサンプルを作成した。絶縁被覆材3はエポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂のいずれかであり、球状シリカを20体積%となるよう作成した。コア4は絶縁被覆材以外の樹脂となるようにし、磁性粉末を50体積%となるよう作成した。また、比較例2〜4のサンプルでは、絶縁被覆材3の主剤31と硬化剤32との当量比を1:1とした。試料6〜21では、主剤31と硬化剤32との当量比をそれぞれ2:1、1.5:1、0.8:1、0.5:1とした。そして、絶縁被覆材3とコア4との接着強度を測定し、破壊される部分を確認した。
なお、表2には、絶縁被覆材3の材料とその当量比を記載した。絶縁被覆材3がウレタンの場合は、主剤としてポリオール(伊藤製油製URIC−H30)を使用し、硬化剤としてイソシアネート(三井武田ケミカル製TDI)を用いた。そして、ポリオール:イソシアネートの当量比を表2に記載した。また、絶縁被覆材3がエポキシ樹脂の場合は、主剤としてエポキシ(ジャパンエポキシレジン製エピコート828)を用い、硬化剤としてアミン(ジャパンエポキシレジン製エピキュアST−12)を用いた。そして、エポキシ:アミンの当量比を表2に記載した。また、絶縁被覆材3がポリエステル樹脂の場合は、主剤としてポリオール(伊藤製油製URIC−H30)を用い、硬化剤として酸無水物(新日本理化製MH−700)を用いた。そして、ポリオール:酸無水物の当量比を表2に記載した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から、絶縁被覆材3の主剤31と硬化剤32との当量比を1:1にした比較例2〜4は接着強度が弱く、かつコア4と絶縁被覆材3との接着界面で破壊したことが分かる。それに対し、本発明に属する試料6〜21のサンプルは接着強度が高く、また、接着界面で破壊しないことが分かる。
【0050】
(実施例3)
本例は図6に示すごとく、絶縁被覆材3を多層化した例である。このような絶縁被覆材3は、図4に示すように、コイル2を未硬化の被覆材側絶縁樹脂30に浸漬し、引き上げて硬化させ、再び浸漬する工程を何度か行うことにより形成できる。
絶縁被覆材3を多層化すると、絶縁被覆材3を厚く形成することができる。そのため、コイル2と磁性粉末5との絶縁性を十分に確保することができる。
この場合、最外層3cに含まれる主剤31と硬化剤32の反応率を30〜95%にすると、最外層3cとコア4とが化学反応するので、強固に接着することができる。
【0051】
また、絶縁被覆材3を構成する複数の層3a〜3cは、各層に含まれる硬化剤32と主剤31との当量比が1:0.5〜1:0.9または1:1.1〜1:2.0であり、硬化剤32の量が相対的に多い硬化剤リッチ層と、主剤31の量が相対的に多い主剤リッチ層とを交互に形成してもよい。
この場合には、硬化剤リッチ層と主剤リッチ層とが化学反応を起こして接着するので、層と層の間の接着強度を強めることが可能となる。そのため、熱応力が加わっても層と層との間が剥離しにくくなる。
【符号の説明】
【0052】
1 リアクトル
2 コイル
3 絶縁被覆材
30 被覆材側絶縁樹脂
4 コア
40 コア側絶縁樹脂
5 磁性粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により磁束が発生するコイルと、
絶縁樹脂からなり、該コイルの表面を被覆する絶縁被覆材と、
絶縁樹脂の中に磁性粉末が分散した磁性粉末混合樹脂からなるコアとを備え、
上記コイルは、その表面を上記絶縁被覆材で被覆された状態で上記コアに埋設されており、
上記絶縁被覆材と上記コアとの接触界面において、上記絶縁被覆材を構成する被覆材側絶縁樹脂と、上記コアを構成するコア側絶縁樹脂とが化学反応することにより、上記被覆材側絶縁樹脂と上記コア側絶縁樹脂とが化学結合していることを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
請求項1において、上記被覆材側絶縁樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂から選択されるものであることを特徴とするリアクトル。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、上記コア側絶縁樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂から選択されるものであることを特徴とするリアクトル。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項において、上記コアは、上記磁性粉末の含有量が40体積%以上であることを特徴とするリアクトル。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項において、上記コアは、上記磁性粉末の含有量が50〜70体積%であることを特徴とするリアクトル。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法であって、
上記コイルを未硬化の上記絶縁被覆材で被覆し、上記被覆材側絶縁樹脂に含まれる主剤と硬化剤とを反応率が95%以下となるように反応させる被覆材硬化工程と、
上記絶縁被覆材で被覆された上記コイルを未硬化の上記コアに埋設し、該コアに含まれる主剤と硬化剤とを反応させるとともに、上記接触界面において、被覆材側絶縁樹脂に含まれる未反応の主剤または硬化剤と、上記コアに含まれる未反応の主剤または硬化剤とを化学反応させるコア硬化工程と、
を行うことを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、上記被覆材硬化工程にて、上記被覆材側絶縁樹脂に含まれる上記主剤と上記硬化剤とを反応率が80%以下となるように反応させたことを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法であって、
上記被覆材側絶縁樹脂は、硬化剤と主剤との当量比が1:0.5〜1:0.9または1:1.1〜1:2.0の範囲内に収まるように組成を調節したものであり、
上記コイルを未硬化の上記絶縁被覆材で被覆し、上記被覆材側絶縁樹脂に含まれる主剤と硬化剤とを反応させる被覆材硬化工程と、
上記絶縁被覆材で被覆された上記コイルを未硬化の上記コアに埋設し、該コアに含まれる主剤と硬化剤とを反応させるとともに、上記接触界面において、被覆材側絶縁樹脂に含まれる未反応の上記主剤または硬化剤と、上記コアに含まれる未反応の主剤または硬化剤とを化学反応させるコア硬化工程と、
を行うことを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか1項において、上記被覆材側絶縁樹脂からなる複数の層を積層することにより、上記絶縁被覆材を形成することを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項10】
請求項9において、上記被覆材側絶縁樹脂からなる複数の層のうち、最外層に含まれる上記主剤と上記硬化剤の反応率は30〜95%であることを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項11】
請求項9において、上記絶縁被覆材を構成する上記複数の層は、各層に含まれる上記硬化剤と上記主剤との当量比が1:0.5〜1:0.9または1:1.1〜1:2.0であり、硬化剤の量が相対的に多い硬化剤リッチ層と、主剤の量が相対的に多い主剤リッチ層とを交互に形成することを特徴とするリアクトルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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