説明

リグニンと石炭の混合燃焼発電システム及びその方法

【課題】ボイラー排ガスを利用して、稀釈リグニン水溶液を濃縮・乾燥しボイラーで燃焼させるとともに、リグニン水溶液からの蒸気でも蒸気タービンを駆動し、高効率のリグニンと石炭の混合燃焼発電システムを提供する。
【解決手段】希釈リグニン水溶液15を加熱する加熱器3と、前記加熱器から供給された希釈リグニン水溶液15を濃縮する蒸発器4と、前記蒸発器で濃縮された濃縮リグニン水溶液16を乾燥する乾燥機12と、前記乾燥機12から供給された濃縮リグニン水溶液16と石炭との混合物が供給されるボイラー1と、前記蒸発器4から供給された蒸気を過熱する過熱器5と、前記過熱器5及び前記ボイラー1からの蒸気によって駆動されるタービン群9と、を備えたリグニンと石炭の混合燃焼発電システムであって、前記加熱器3、蒸発器4、乾燥機12及び過熱器5の熱源として前記ボイラーの排ガスを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオマス燃料を用いた発電システム及びその方法に関し、特に、バイオマスからエタノールを製造する際に排出されるリグニンを用いたリグニンと石炭の混合燃焼発電システム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質系や草木系のバイオマスは、セルロース、ヘミセルロースとリグニンとが混在して結合されている。この三つの成分の内、セルロースは工業的に広く利用されており、その代表的なものがパルプ製造である。パルプ製造工程では、ヘミセルロースとリグニンを苛性ソーダや硫化ソーダを加えた水溶液に溶出させる。この水溶液は機械的に濃縮してボイラー内で燃焼するか、薬液処理等を行い処分している。ただし燃焼させる場合は大量のSoxが排出されるので、脱硫装置が必要になる。
【0003】
近年、このバイオマス中のセルロースとヘミセルロースは、ガソリンの代替燃料として期待されているエタノールに変えることができるため、各種のバイオマスからのエタノール製造プロセスが検討されている。このとき水溶性のリグニンは水に溶かして排出されてくる。
【0004】
バイオマスからエタノールを製造する方法には、大きく分けて二つあり、一つは希硫酸法・亜硫酸法等の薬液により三つの成分を分解する方法で、製紙工場では古くから使われている。
【0005】
もう一つはバイオマスを高温高圧で加水分解させ、リグニンだけを水に溶解させる方法である。このときのリグニン水溶液を燃焼させてもSox が出てこないので安全である。
【0006】
このリグニン自体は乾燥させると5500〜6500kcal/kgの発熱量を有するので、石炭のクラスで言えば瀝青炭に匹敵する。しかしながら、排出されてくるリグニン水溶液は70〜90%程度が水分なので、これを燃焼させても水溶液中の水分を蒸発させるだけである。したがって、ボイラー等で燃焼させるには水溶液中のリグニン濃度を60%以上に高める必要がある。
【0007】
このため、このリグニン水溶液を事前に濃縮して、その濃縮液をボイラーに噴出して燃焼させる技術が開発され、実用化されており、その濃縮法として、加熱と減圧フラッシュと凝縮を複数段(複数圧力)繰り返す多段蒸発システムが用いられている(特許文献1及び2)。
【特許文献1】特許第3040785号公報
【特許文献2】特公平7−23594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、バイオマスからエタノールを製造するプロセスで排出されるリグニン水溶液を濃縮し、濃縮したリグニンをボイラー等で燃焼させるシステムが提案されているが、このような従来のシステムでは、リグニン水分中の水分を蒸発させるエネルギー量に比して、濃縮したリグニンをボイラーで燃焼させることにより発生するエネルギーは少なく、全体として熱効率が悪いものとなっていた。
【0009】
また、従来のシステムでは、リグニン水溶液の濃縮過程で発生した蒸気は、他の蒸発器や加熱器の熱源として使用されるだけで、リグニンが有する発熱量を有効に活用するものではなかった。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、リグニン水溶液から蒸発させる蒸気をなるべく高圧・高温にするとともに、その流量を増やすことで、蒸気タービンを駆動し、電気エネルギー等に変換するとともに、ボイラーに投入するリグニン内の水分を減らして、ボイラーで利用できるエネルギーを増大させる高効率のリグニンと石炭の混合燃焼発電システム及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るリグニンと石炭の混合燃焼発電システムは、上記課題を解決するために、希釈リグニン水溶液を加熱する加熱器と、前記加熱器から供給された希釈リグニン水溶液を濃縮する蒸発器と、前記蒸発器で濃縮された濃縮リグニン水溶液を乾燥する乾燥機と、前記乾燥機から供給された濃縮リグニン水溶液と石炭との混合物が供給されるボイラーと、前記蒸発器から供給された蒸気を過熱する過熱器と、前記過熱器及び前記ボイラーからの蒸気によって駆動されるタービン群と、を備えたリグニンと石炭の混合燃焼発電システムであって、前記加熱器、蒸発器、乾燥機及び過熱器の熱源として前記ボイラーの排ガスを用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るリグニンと石炭の混合燃焼発電方法は、希釈リグニン水溶液を加熱するステップと、加熱された前記希釈リグニン水溶液を蒸発器により濃縮するステップと、前記蒸発器で濃縮された濃縮リグニン水溶液を乾燥するステップと、前記蒸発器から排出された蒸気を過熱器で過熱するステップと、前記各ステップの熱源としてボイラーの排ガスを用いるステップと、前記乾燥された濃縮リグニン水溶液と石炭との混合物をボイラーで燃焼するステップと、前記過熱器及び前記ボイラーからの蒸気によってタービン群を駆動するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリグニンと石炭の混合燃焼発電システム及びその方法によれば、排ガス及びリグニンが有しているエネルギーを効率良く電気出力として回収することができるので、全体として高効率のリグニンと石炭の混合燃焼発電システム及びその方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るリグニンと石炭の混合燃焼発電装置及びその方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1を用いて、本発明の第1の実施形態に係るリグニンと石炭の混合燃焼発電装置を説明する。
【0016】
本第1の実施形態に係るリグニンと石炭の混合燃焼発電装置は、10〜30%濃度のリグニン水溶液15(以下、「希釈リグニン水溶液」という。)を貯留するタンク2、希釈リグニン水溶液15を加熱する加熱器3、加熱された希釈リグニン水溶液15を濃縮する蒸発器4、蒸発器4で生成した蒸気を過熱する過熱器5、蒸発器4で濃縮されたリグニン水溶液又は別途供給された石炭を燃焼させるボイラー1、前記過熱器5から供給される過熱蒸気により駆動されるタービン9a、ボイラー1から供給される蒸気により駆動されるタービン9b、タービン9a及び9bからなるタービン群9、蒸発器4で濃縮されたリグニン水溶液の少なくとも一部を乾燥させる乾燥機12、ボイラー1の排ガス11から灰分を集塵する電気集塵器13、加熱器3からの排ガス11中の水分を凝縮させる補助凝縮器14、ボイラー1の排ガス11を熱源として過熱器5等に供給する配管20、から構成される。
【0017】
なお、本第1の実施形態では蒸発器4として流化液膜式蒸発器が用いられているが、他の方式の蒸発器を用いることができることはもちろんである。
【0018】
ところで、上述したように、バイオマスからのエタノールを製造するプロセスにおいて、リグニンをセルロース、ヘミセルロースから分離する際に硫化ソーダ等の薬品を使用しなければ、リグニン水溶液をボイラー1で燃焼させてもなんら環境面の問題はない。しかしながら、約10〜30%濃度の希釈リグニン水溶液15はボイラーで燃焼させることはできず、また、50%程度に濃縮させても発熱量は小さい一方、濃縮に要するエネルギー量は多い。したがって、リグニン水溶液の濃度を約60%以上にする必要がある。
【0019】
そこで、本第1の実施形態では、図1に示すように、ボイラー1下流部の排ガス11を用いて、稀釈リグニン水溶液15を濃縮させる。すなわち、排ガス11を、配管20をとおして、まず、蒸発器4で濃縮させるときに生成される蒸気を過熱する過熱器5に供給し、次に温度降下した排ガス11で稀釈リグニン水溶液を蒸発器4で濃縮させ、蒸気を発生させる。
【0020】
この時の蒸発温度は、リグニンの熱分解開始温度である280〜330℃未満の飽和温度になる圧力、約60〜80ataで蒸発させる。そのため稀釈リグニン水溶液15をポンプ6で80ata以上に昇圧する。
【0021】
蒸発器4を出た排ガス11は、加熱器3に供給され、稀釈リグニン水溶液15を蒸発器4の蒸発温度未満まで加熱する一方、排ガス11自体は減温される。そして、リグニン水溶液加熱器3を出た排ガス11は、補助凝縮器14で排ガス11中の水分が凝縮させた後に、通風機17により、配管21をとおしてボイラーの排ガス11から灰分を集塵する電気集塵器13の前段に戻される。
【0022】
これにより灰分が少なく、乾燥した排ガス11を電気集塵器13に戻すことができるので、水分増大による集塵効率の低下と総排ガス11中の灰分減少により集塵負荷を低減することができる。
【0023】
一方、稀釈リグニン水溶液15は、加熱器3で、蒸発器4での蒸発温度、すなわち、リグニンの熱分解開始温度である280〜330℃未満の飽和温度近くまで加熱され、蒸発器での負荷を減らすとともに、流下液膜式蒸発器4の熱伝達性能を高めに設定できる。
【0024】
蒸発器4で生成した蒸気は過熱器5で過熱蒸気となり、専用の蒸気タービン9a又は石炭ボイラーの蒸気で駆動するタービン9bのいずれかの適した圧力条件の位置に抽入され、電気出力させる。これによりリグニン水溶液の濃縮に使用したエネルギーの一部は電力として回収できる。
【0025】
希釈リグニン水溶液15は蒸発器4で濃縮されて濃縮リグニン水溶液16となり、この濃縮リグニン水溶液16は、さらに水分を減少させるために、減圧弁18で圧力を大気圧付近まで減圧し、水分の一部を蒸発させ、蒸気放出弁(図示せず)から抽気させた後に、キルン型等の乾燥機12に投入し乾燥させ、石炭供給ライン8に混合する。
【0026】
乾燥機12には、加熱・乾燥キャリアガスとして、ボイラー1の排ガス11の一部を分岐して使用する。そして、乾燥機12の負荷に応じて、過熱器5の前段排ガス11と蒸発器4の前段排ガス11を利用する。
【0027】
乾燥機12を出た排ガス11は、配管23をとおしてリグニン水溶液加熱器3に供給される排ガス11に混合される。これにより乾燥機12にて乾燥に利用したエネルギーの残りは、リグニン水溶液加熱器3の熱源として回収され、最終的には蒸気タービン9又は9aでの出力増大に繋がり、電力として回収したことになる。
【0028】
また、乾燥機12を用いずに、あるいは乾燥機12と併用して、濃縮リグニン水溶液16を、蒸発器4とボイラー1の間に設けられた配管22をとおして、減圧弁18で減圧したのち直接ボイラー1に投入燃焼させることも可能である。これは特にボイラー下段の排ガス11のエネルギー量が少ない場合に有効である。
【0029】
以上のように、本第1の実施形態に係るリグニンと石炭の混合燃焼発電システムによれば、加熱源としてボイラー下流部の排ガスを利用して、稀釈リグニン水溶液を濃縮・乾燥しボイラーで燃焼させるとともに、リグニン水溶液からの蒸気を高圧・高温・高流量にして蒸気タービンを駆動し、電気エネルギー等に変換することにより、排ガス及びリグニンが有しているエネルギーを効率良く電気出力として回収することができるので、全体として高効率の発電システムを提供することが可能となる。
【0030】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る発明は、蒸発器4として用いられる流下液膜式蒸発器4Aに関する。
【0031】
図2は、本第2の実施形態に係る流下液膜式蒸発器4Aの概要図であり、比容積の大きい排ガス11は、排ガス入口4aをとおして蒸発器4Aに入り、蒸発器流路抵抗を少なくするために蒸発器4Aに複数配設され、管板4nで仕切られた空間に配置された伝熱管4mの管外を流れ、管内を流れる希釈リグニン水溶液15を加熱した後、排ガス出口4bから排出される。
【0032】
リグニン水溶液加熱器3から供給された稀釈リグニン水溶液15は、稀釈リグニン水溶液入口4eから蒸発器4に入り、稀釈リグニン水溶液分配部4hに一時貯留され、伝熱管4mに設置された稀釈リグニン水溶液供給孔4lから伝熱管4mの管内に供給され、その一部が蒸発する。一部蒸発した濃縮リグニン水溶液16は下部のヘッダーに貯留され、その後、濃縮リグニン水溶液出口4dから排出される。
【0033】
排ガス11で加熱される伝熱管4m内で固形リグニンが付着する可能性があるので、伝熱管内を洗浄するためのボール状のスポンジ4jを、間欠的に洗浄ボール循環ポンプ7で循環させる。そのために、稀釈リグニン水溶液分配部4hに、洗浄ボール分配金網4iを伝熱管4mの上端部に配置し、また、洗浄ボール捕獲金網4kを下部ヘッダーに斜めに設置する。
【0034】
このような構成の流下液膜式蒸発器4Aを用いることにより、リグニン水溶液が伝熱管内で詰ることなく高効率に蒸発することができ、濃縮率が高く蒸気発生量の多い蒸発器を提供できる。
【0035】
この第2の実施形態に係る発明によれば、洗浄ボールが伝熱管内を循環洗浄することにより、リグニン水溶液が伝熱管内で詰ることなく高効率に蒸発することができるので、リグニン水溶液の濃縮・乾燥をさらに効率良く行うことができるとともに、排ガス及びリグニンが有しているエネルギーを効率良く電気出力として回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るリグニンと石炭の混合燃焼発電システムの全体構成図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る流下液膜式蒸発器の構成図。
【符号の説明】
【0037】
1…ボイラー、2…リグニン水溶液タンク、3…加熱器、4…蒸発器、4A…流下液膜式蒸発器、4a…排ガス入口、4b…排ガス出口、4c…蒸気出口、4d…濃縮リグニン水溶液出口、4e…稀釈リグニン水溶液入口、4f…洗浄ボール出口、4g…洗浄ボール入口、4h…稀釈リグニン水溶液分配部、4i…洗浄ボール分配金網、4j…洗浄ボール、4k…洗浄ボール捕獲金網、4l…稀釈リグニン水溶液供給孔、4m…伝熱管、4n…管板、5…過熱器、6…ポンプ、7…洗浄ボール循環ポンプ、8…石炭供給管、9…蒸気タービン群、9a…蒸気タービン、9b…蒸気タービン、10…復水器、11…排ガス、12…乾燥機、13…電気集塵装置、14…補助凝縮器、15…稀釈リグニン水溶液、16…濃縮リグニン水溶液、17…通風機、18…減圧弁、20,21,22,23…排ガス配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈リグニン水溶液を加熱する加熱器と、前記加熱器から供給された希釈リグニン水溶液を濃縮する蒸発器と、前記蒸発器で濃縮された濃縮リグニン水溶液および別途供給される石炭を燃焼させるボイラーと、前記蒸発器から供給された蒸気を過熱する過熱器と、前記過熱器及び前記ボイラーからの蒸気によって駆動されるタービン群と、を備えたリグニンと石炭の混合燃焼発電システムであって、前記加熱器、蒸発器、乾燥器及び過熱器の熱源として前記ボイラーの排ガスを用いることを特徴とするリグニンと石炭の混合燃焼発電システム。
【請求項2】
前記蒸発器の蒸発温度をリグニンの熱分解開始温度以下とすることを特徴とする請求項1記載のリグニンと石炭の混合燃焼発電システム。
【請求項3】
前記ボイラーの排ガスを熱源とする乾燥機を更に備え、前記蒸発器で濃縮された濃縮リグニン水溶液の少なくとも一部を前記乾燥機で乾燥した後、前記石炭と混合して前記ボイラーに供給し燃焼させることを特徴とする請求項1又は2に記載のリグニンと石炭の混合燃焼発電システム。
【請求項4】
前記過熱器、蒸発器及び加熱器に供給された排ガスを、補助凝縮器をとおして前記ボイラーの下流に設けられた電気集塵装置の前段に戻すことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載のリグニンと石炭の混合燃焼発電システム。
【請求項5】
前記蒸発器は流下液膜式蒸発器であることを特徴とする請求項1乃5いずれか1項に記載のリグニンと石炭の混合燃焼発電システム。
【請求項6】
前記流下液膜蒸発器の伝熱管内に洗浄ボールを循環させることを特徴とする請求項6記載のリグニンと石炭の混合燃焼発電システム。
【請求項7】
希釈リグニン水溶液を加熱するステップと、加熱された前記希釈リグニン水溶液を蒸発器により濃縮するステップと、前記蒸発器から排出された蒸気を過熱器で過熱するステップと、前記各ステップの熱源としてボイラーの排ガスを用いるステップと、前記濃縮された濃縮リグニン水溶液と石炭との混合物をボイラーで燃焼するステップと、前記過熱器及び前記ボイラーからの蒸気によってタービン群を駆動するステップと、を有することを特徴とするリグニンと石炭の混合燃焼発電方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−210190(P2009−210190A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53617(P2008−53617)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】