説明

リグニンを原料とする高比表面積活性炭、及びそれを含む低級アルコール用吸着剤

【課題】本発明は低濃度溶液中の低級アルコールを吸着して回収する用途に適した吸着剤として有用な、比表面積が高い活性炭を提供することを目的とする。
【解決手段】リグニン類にアルカリ金属炭酸塩を含浸させ、次いで、不活性ガス中で700℃以上の温度において加熱して得られた活性炭は、高い比表面積を有し、かつ、低級アルコールに対して高い吸着能を有することができる。この方法は、高比表面積の活性炭を高い収率で得ることができるという点でも有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリグニンを原料とする高比表面積活性炭、その製造方法、および当該活性炭の、低級アルコールの吸着剤としての応用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工業的に用いられている活性炭の代表的な原料には植物系の木材、ヤシ殻、鉱物系の石炭、石油コークスなどがある。最近では、農業廃棄物、工業廃棄物、食品廃棄物などの有効利用法としてこれらを原料とする活性炭の製造が検討されている。
【0003】
一般に最も優れた吸着性能を有する活性炭と言われているヤシ殻活性炭は、森林伐採によるヤシの減少の伴い使用が困難になるおそれがある。このため豊富な資源量と優れた吸着能を有する活性炭の開発が必要とされている。
【0004】
リグニンは、植物系に多く存在し、木材の20〜30%を占める。木材を原料とするパルプ・製紙工程から大量のリグニンが排出され、その有効利用法の開発が求められている。
【0005】
特許文献1及び2には、リグニンまたはその誘導体にアルカリを添加し、次いで加熱処理して活性炭を得る方法が記載されている。しかしながらこれらの文献に記載の方法は、リグニン原料から得られる活性炭の収率が低い(最大でも20%)という点と、活性炭のBET法による比表面積が十分に大きくない(最大でも1600 m2/g)という点において満足できるものではなかった。
【0006】
一方、バイオエタノールはカーボンフリーな再生可能エネルギーとして注目されている。燃料として利用しても、その際に排出されるCO2は、バイオマス原料の成長段階で吸収したCO2であり、全体を通して見るとCO2量は変化しない。そのため、自動車などの燃料用としてのバイオエタノールが世界中で増産されつつある。最近ではバイオエタノールの原料としてセルロースが注目されている。
【0007】
ガソリンに混入するエタノールは低水分量であることが必須条件のため、バイオマスを発酵させて燃料用エタノールを製造する方法において脱水が重要なプロセスとなる。バイオエタノール製造の一連のプロセスは、まずバイオマス原料を発酵させ(エタノール濃度4〜6 wt%)、発酵液を精製、蒸留し(同90〜97 wt%)、かつ最終脱水を行い、低含水エタノールを精製する(同99.3 wt%以上)。しかし、水・エタノール系には共沸点があるため単純な蒸留方法では低含水エタノールを精製できない。しかも蒸留によるエタノールの濃縮には多量の熱エネルギーが必要であり、コストも高くなる。エタノールの燃料としての使用を考える場合、省エネルギー的なエタノール分離技術の開発によりそのコストの低減が必要である。更に、ブタノール等の他の低級アルコールをバイオマスから製造することも検討されている。これらの低級アルコールの濃縮においても同様の技術的課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1-308818号公報
【特許文献2】特開平6-183715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来から行われている蒸留法に代わる方法として、吸着剤により低級アルコールを濃縮する技術を提供することを目的とする。
本発明は、低級アルコールを濃縮するための吸着剤として有用な、比表面積が高い活性炭を提供することを目的とする。
本発明はまた、比表面積が高い活性炭を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、リグニン類にアルカリ金属炭酸塩を含浸させ、次いで、不活性ガス中で700℃以上の温度において加熱して得られた活性炭が、高い比表面積を有し、かつ、エタノールおよび1-ブタノールに対して高い吸着能を有することを見出した。本発明者らはまた、この方法によれば高比表面積の活性炭を高い収率で得ることができることも見出した。
【0011】
本発明は以下の発明を包含する。
(1) リグニン類に、アルカリ金属炭酸塩を含浸させる含浸工程と、
アルカリ金属炭酸塩が含浸されたリグニン類を、不活性ガス中で700℃〜1200℃の温度において加熱することにより炭化する炭化処理工程と
を含む、活性炭の製造方法。
(2) アルカリ金属炭酸塩が炭酸カリウムである、(1)の方法。
(3) 含浸工程が、リグニン類1重量部(乾燥重量基準)に対して0.5〜5重量部のアルカリ金属炭酸塩を含浸させる工程である、(1)または(2)の方法。
(4) 炭化処理工程における加熱温度が850℃〜950℃である、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5) BET法による比表面積が1700 m2/g以上である、リグニン類の炭化物を主成分とする活性炭。
(6) (1)〜(4)のいずれかの方法により製造された活性炭。
(7) 低級アルコールが溶解した水性組成物から、低級アルコールを回収する方法であって、
低級アルコールが溶解した水性組成物に、(5)または(6)の活性炭を接触させ、低級アルコールを該活性炭に吸着させる吸着工程;
吸着工程により得られた、低級アルコールが吸着された活性炭を、低級アルコールの沸点よりも低い沸点を有する低沸点有機溶媒に接触させ、低沸点有機溶媒中に低級アルコールを溶出させる溶出工程;並びに
溶出工程により得られた、低沸点有機溶媒中に低級アルコールが溶解した溶液から、低沸点有機溶媒を分離除去し、低級アルコールを回収する回収工程
を含む方法。
(8) 低級アルコールがエタノール、1-ブタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノールおよび2-メチル-2-プロパノールから選択される少なくとも1種である、(7)の方法。
(9) (5)または(6)の活性炭を含む、低級アルコール用吸着剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リグニン類に由来する、高比表面積の活性炭を高い収率で得ることができる。
【0013】
本発明の活性炭は、エタノールおよび1-ブタノールに対して高い吸着能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実験2で調製された、炭化賦活温度が異なるリグニン原料活性炭の303Kでのエタノールの吸着等温線を示す。
【図2】図2は、図1の吸着等温線のLangmuirプロットを示す。
【図3】図3は、実験2で調製された、炭酸カリウム含浸率が異なるリグニン原料活性炭の303Kでのエタノールの吸着等温線を示す。
【図4】図4は、図3の吸着等温線のLangmuirプロットを示す。
【図5】図5は、実験2で調製されたリグニン原料活性炭のBET比表面積とエタノール飽和吸着量との関係を示す。
【図6】図6は、実験2で調製されたリグニン原料活性炭の細孔容積とエタノール飽和吸着量との関係を示す。横軸が(a)ではマイクロ細孔容積Vmicを指し、(b)ではメソ細孔容積Vmesを指し、(c)では全細孔容積Vtotalを指す。
【図7】図7は、実験3で調製されたリグニン原料活性炭の303Kでの1-ブタノールの吸着等温線を示す。
【図8】図8は、図7の吸着等温線のLangmuirプロットを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
リグニンは植物の維管束細胞壁成分として存在する無定形高分子物質であって、フェニルプロパン系の構成単位が複雑に縮合したものである。本発明に用いられるリグニン類はリグニンおよびその変性体を包含する。植物体から単離されたリグニン類を使用することができる。植物体からリグニン以外の成分を溶解し、不溶解残渣として得られた不溶性リグニンや、リグニンを植物体から溶解して分離取得された可溶性リグニンや、それらの処理物がリグニン類として本発明に使用できる。具体的なリグニン類としては、脱アルカリリグニン、アルカリリグニン、ミルドウッドリグニン、ブラウンズリグニン、過ヨウ素酸リグニン、銅アンモニアリグニン、ジオキサンリグニン、チオグリコール酸リグニン、シリンギルリグニン、クラフトリグニン、加水分解リグニンなどが例示できる。
【0016】
本発明の方法はリグニン類を原料とする活性炭の製造方法であるが、原料としてリグニン類以外の成分を組み合わせることも許容される。例えば、リグニン類1重量に対して、2.5重量部以下、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1.2重量部以下、より好ましく1重量部以下、特に好ましくは0.5重量部以下の他のバイオマス原料(乾燥重量基準)を組み合わせて含浸工程に供することができる。本発明者らは、驚くべきことに、リグニン類に他のバイオマス原料を組み合わせた原料から製造された活性炭が、リグニン類のみを原料として製造された活性炭と同等の細孔構造を有することを見出した。他のバイオマス原料としては、焼酎カス、竹、茶滓、コーヒー豆粕、廃木材、蟹や海老殻、もみ殻、おから、ビール粕などが使用できる。
【0017】
本発明の活性炭の製造方法は、薬品賦活法の一種である。薬品賦活法では原料に対して脱水、侵食作用のある薬品を用いることで炭化と賦活が同時に行われる。薬品賦活法による活性炭の製造には、強い侵食作用を有する水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が用いられることがある。しかしながらアルカリ金属水酸化物は強塩基性物質であり、反応器が傷みやすいという問題がある。また、リグニン類の炭化および賦活のためにアルカリ金属水酸化物を用いる場合、原因は明らかではないが、収率が低くなる傾向がある(特許文献1および2)。本発明では、アルカリ金属炭酸塩を賦活剤として用いることにより、これらの問題を解消することができる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸ルビジウム、および炭酸セシウムからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられ、特に、炭酸カリウム、および炭酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、炭酸カリウムが最も好ましい。
【0018】
含浸工程は、リグニン類にアルカリ金属炭酸塩を含浸させる工程である。含浸工程では、リグニン類に、アルカリ金属炭酸塩と蒸留水とを加えて練り、得られた混練物を乾燥させる。混練物の乾燥条件は特に限定されないが、例えば60〜100℃で1〜3時間程度乾燥させる条件が挙げられる。原料となるリグニン類やその他のバイオマス原料は、予め乾燥させることができ、条件としては例えば60〜100℃で1〜3時間程度乾燥させる条件が挙げられる。ただし、原料を予め乾燥させる工程は必須ではない。
【0019】
含浸工程における、アルカリ金属炭酸塩の重量は、他の反応条件等を考慮して適宜選択することが可能であり、典型的には、リグニン類1重量部(乾燥重量基準)に対して、0.5〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部、より好ましくは1〜3重量部のアルカリ金属炭酸塩を用いる。原料としてリグニン類と他のバイオマス原料とを組み合わせて用いる場合は、リグニン類1重量部(乾燥重量基準)に対するアルカリ金属炭酸塩の量は上記のいずれかの範囲であることが好ましく、リグニン類と他のバイオマス原料との乾燥重量の合計1重量部に対して0.5〜3重量部のアルカリ金属炭酸塩を用いることがより好ましい。本発明において「含浸率 (IR, impregnation ratio)」は(含浸したアルカリ金属炭酸塩の重量)/(リグニン類の乾燥重量)または(含浸したアルカリ金属炭酸塩の重量)/(リグニン類と他のバイオマス原料の乾燥重量の合計)により定義される。
【0020】
炭化処理工程では、アルカリ金属炭酸塩が含浸されたリグニン類を、不活性ガス中で700℃〜1200℃の温度において加熱することにより炭化する。加熱温度が700℃未満である場合に製造される活性炭は、エタノール等の低級アルコールの吸着量が低いという問題がある。加熱温度が700℃以上とすることにより、得られる活性炭の低級アルコールの吸着量が顕著に高まる。炭化処理工程での加熱温度は850℃〜950℃の範囲がより好ましい。炭化処理工程の処理時間は特に限定されず、リグニン類が十分に炭化される時間であればよいが、上記の範囲の温度を45分間以上、より好ましくは60分間以上保持することが好ましい。処理時間の上限は特に限定されないが、典型的には、上記の範囲の温度が120分間以下の時間保持される時間である。炭化処理工程の開始時から上記の処理温度(加熱温度)に至るまでの昇温速度は特に限定されないが、典型的には150〜250℃/時間の範囲である。炭化処理工程は、酸素濃度が実質的にゼロ%である不活性ガス雰囲気中で行われる。不活性ガスとしては窒素ガスが一般的に用いられる。
【0021】
炭化処理工程により得られた炭化物は、アルカリ水溶液、酸水溶液、水を順に用いてpHが7付近になるまで洗浄することが好ましい。洗浄後は高温(例えば60〜100℃)において乾燥し、本発明の炭化物を得る。
【0022】
本発明により得られた活性炭は、従来のリグニン原料活性炭と比較して、顕著に高い比表面積が得られる。本発明により得られた活性炭は、BET法による比表面積が1700 m2/g以上であることが好ましく、1800 m2/g以上であることがより好ましく、2000 m2/g以上であることが特に好ましい。BET法による比表面積の上限は特に限定されないが、通常は2500 m2/g以下、典型的には2300 m2/g以下である。BET法による比表面積は以下の方法により測定することができる。まず、窒素吸脱着等温線を高精度比表面積・細孔分布測定装置(例えば、BELSORP-max、日本ベル株式会社製が使用できる)を用いて測定する。次に、BET法を適用することにより窒素吸脱着等温線からBET-plotを作成し、比表面積を得る。
【0023】
本発明により得られた活性炭は、全細孔容積 (Vtotal)が非常に大きいという点でも有利である。本発明により得られた活性炭は、全細孔容積 (Vtotal)が0.4 cm3/g以上であることが好ましく、0.6 cm3/g以上であることがより好ましく、0.8 cm3/g以上であることが特に好ましい。全細孔容積 (Vtotal)の上限は特に限定されないが、通常は1.2 cm3/g以下である。全細孔容積 (Vtotal)は以下の方法により測定することができる。まず、窒素吸脱着等温線を高精度比表面積・細孔分布測定装置(例えば、BELSORP-max、日本ベル株式会社製が使用できる)を用いて測定する。次に、BET法を適用することにより窒素吸脱着等温線からBET-plotを作成し、全細孔容積を得る。
【0024】
本発明の活性炭は、低級アルコールの吸着剤として有用である。低級アルコールとは、典型的には、炭素数1〜5のアルコールであり、エタノール、1-ブタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノールを包含する。
【0025】
本発明の活性炭を低級アルコールが溶解した水性組成物と接触させることにより低級アルコールを該活性炭に吸着させ、活性炭に吸着された低級アルコールを、低級アルコールの沸点よりも低い沸点を有する有機溶媒(以下「低沸点有機溶媒」という)中に溶出させ、得られた溶液から低沸点有機溶媒を分離除去することにより、低級アルコールを濃縮物又は高純度物の形態で回収することができる。低級アルコールが溶解した水性組成物とは、典型的には、バイオエタノール製造の際に生じるエタノール濃度4〜6 wt%程度の発酵液などの、10%以下の低濃度で低級アルコールを含む水溶液である。本発明の活性炭は、このような低濃度の溶液中の低級アルコールを効率的に吸着することが可能である。前記水性組成物と本発明の活性炭とを接触させる条件は特に限定されないが、温度条件としては20〜30℃が好ましく、接触時間は15〜60分間が好ましい。接触方法としては、容器中に本発明の活性炭と低級アルコールが溶解した水性組成物とを加え、容器内容物を適宜温度調節しながら撹拌又は振とうさせる方法が挙げられる。接触処理後の活性炭を、アセトン等の低沸点有機溶媒と混合し、低級アルコールを該低沸点有機溶媒中に溶出させる。溶出の条件は特に限定されないが、温度条件としては20〜30℃が好ましく、処理時間は5〜60分間が好ましい。溶出は適宜温度調節された通常の容器内で必要に応じて撹拌又は振とうさせながら行うことができる。低沸点有機溶媒中に低級アルコールが溶出した溶液から、蒸留等の常法により低沸点有機溶媒を分離除去し、残留物として高純度の低級アルコールを得ることができる。低沸点有機溶媒の沸点は、目的とする低級アルコールの沸点よりも低ければ低いほど高純度のアルコールを製造できるが、少なくとも10〜30℃以上低いことが好ましい。この溶離法は沸点の差が大きければ大きいほど好ましいので、10℃以上低いことが好ましい。
【実施例】
【0026】
実験1
実験操作
リグニン(脱アルカリ)と炭酸カリウムを重量比が1:1になるように量り取り(含浸率IR=1)、蒸留水を加えて練り、セラミックボードに入れ、24時間、100 ℃で乾燥させた。こうして、原料(リグニン)に賦活剤(炭酸カリウム)を含浸させた。次に、賦活剤を含浸させた原料を管状炭化炉のセラミック製反応管内部に置き、窒素雰囲気下(150 cm3 min-1)、昇温速度200 ℃ h-1で600℃、700℃、800℃または900 ℃まで昇温し、1時間温度を保持して炭化・賦活処理を行った。その後、室温まで冷却し炭化物を取り出した。この炭化物を1N NaOH、5 N HCl、蒸留水の順でpH 7付近になるまで洗浄し、24時間、100 ℃で乾燥させた。こうして得られた活性炭をBELSORP-maxで測定した。
【0027】
得られた活性炭のエタノール吸着能を確認した。30 cm3サンプル管に調製した活性炭を0.1 g量り取り、そこに5 vol%エタノール水溶液10 cm3を加えた。それを30 ℃の恒温槽で0.5、5、15または60分間、120 rpmで振とうした後、ろ過をしてアルコメイト(理研計器AL-2型)を用いて吸着後のエタノール濃度を測定した。吸着前のエタノール濃度との差よりエタノール吸着量q [mg g-1]を算出した。
【0028】
炭化・賦活温度を900℃とする場合については、含浸率を2または3とし、その他は上記と同様の条件及び手順にて調製した活性炭も用意し、同様に評価した。
【0029】
比較のために、水蒸気賦活により製造された市販活性炭のノーリット(Norit SX Plus、和光純薬工業株式会社製)にBELSORP-maxによる測定と、エタノール吸着量の測定を行った。
【0030】
結果と考察
各活性炭試料のBELSORP-maxによる分析結果を表1に、エタノール吸着量の測定結果を表2にそれぞれ示す。
【0031】
表1に示すとおり、炭酸カリウムを賦活剤とし、含浸率1、炭化温度700℃、800℃または900℃の条件で脱アルカリリグニンから製造された活性炭は、市販活性炭と比較して、全細孔容積および比表面積が顕著に大きいことが確認された。
【0032】
また、表2に示す結果から、炭酸カリウムを賦活剤とし、含浸率1、炭化温度800℃または900℃の条件で脱アルカリリグニンから製造された活性炭は、市販活性炭と比較して、吸着剤1gあたりのエタノールの吸着量が顕著に高いことが確認された。
【0033】
【表1】

【0034】
表1中の各項目について説明する。他の表においても同一の用語は同一の意味で用いる。
収率: 得られた活性炭の重量を原料の重量で除した値の重量%
BET/as: BET法により求めた活性炭の比表面積
BET/Vtotal: BET法により求めた活性炭の細孔容積の和
t/as: t法により求めた活性炭の比表面積
t/Vmic: t法により求めた活性炭のマイクロ孔(細孔径が2nm以下)の容積
t/Vmes: t法により求めた活性炭のマイクロ孔(細孔径が2nm以上50nm以下)の容積
HK/dp: HK法により求めた活性炭の最も多く存在するマイクロ孔の細孔径
MP/dp: MP法により求めた活性炭の最も多く存在するマイクロ孔の細孔径
BJH/rp: BJH法により求めた活性炭の最も多く存在するメソ孔の細孔径
細孔分布:マイクロ孔容積及びメソ孔容積を全細孔容積で除した割合
【0035】
【表2】

【0036】
実験1参考例
実験操作
比較のために、従来から市販されている製品のなかでエタノール吸着剤として最も優れているとされる疎水性モレキュラーシーブ(ゼオライト)の物性及びエタノール吸着量を測定した。
ゼオライトは、HISIV-3000(ユニオン昭和株式会社製)を用いた。
【0037】
30 cm3サンプル管にゼオライトを0.1 g量り取り、そこに5 vol%エタノール水溶液10 cm3を加えた。それを30 ℃の恒温槽で0.5、1、5または15分間、120 rpmで振とうした後、ろ過をしてアルコメイト(理研計器AL-2型)を用いて吸着後のエタノール濃度を測定した。吸着前のエタノール濃度との差よりエタノール吸着量q [mg g-1]を算出した。
【0038】
結果と考察
ゼオライトの物性の分析結果を表3に、エタノール吸着量の測定結果を表4にそれぞれ示す。
【0039】
表4に示すとおり、HISIV-3000ではエタノール吸着量が約95 mg/g程度であった。実験1で得られた、炭酸カリウムを賦活剤とし、含浸率1、炭化温度800℃または900℃の条件で脱アルカリリグニンから製造された本発明の活性炭の吸着量が顕著に高いことが確認された。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
実験2
実験操作
実験1と同様の条件及び手順にて、炭酸カリウムを賦活剤としリグニン(脱アルカリ)を原料とする活性炭を調製した。
【0043】
調製された各種リグニン活性炭を0.1 g量り取り、0.5〜5vol%の範囲の濃度のエタノール水溶液10 cm3を加えた。それを30 ℃の恒温槽で2時間、120 rpmで振とうし、ろ過後、ガスクロマトグラフ(GC)でろ液のエタノール濃度を測定した。
エタノールの吸着量は以下の式より算出した。
【0044】
【数1】

q:吸着量 [mg g-1]
w:吸着剤量 [g]
Cini:エタノール初期濃度 [vol%]
Ceq:エタノール平衡濃度 [vol%]
ρ:エタノール密度 [g cm-3]
【0045】
また、Langmuirの式を以下に示す。
【0046】
【数2】

qmax:エタノール飽和吸着量 [mmol g-1]
K: エタノール吸着平衡定数 [dm3 mmol-1]
【0047】
更に、上記の手順により調製された各種リグニン活性炭のBET比表面積 (SBET [m2 g-1])、全細孔容積(Vtotal [cm3 g-1])、マイクロ細孔容積(Vmic [cm3 g-1])、メソ細孔容積(Vtotal [cm3 g-1])を測定した。窒素吸脱着等温線を高精度比表面積・細孔分布測定装置(BELSORP-max、日本ベル株式会社製)を用いて測定した。次に、BET法を適用することにより窒素吸脱着等温線からBET-plotを作成し、BET表面積 (SBET [m2 g-1])、全細孔容積(Vtotal [cm3g-1])を得た。また、t法を適用することにより窒素吸脱着等温線からt-plotを作成し、マイクロ細孔容積(Vmic[cm3 g-1])を得た。最後に、全細孔容積とマイクロ孔容積の差よりメソ細孔容積 [cm3g-1])を得た。
【0048】
結果と考察
リグニン活性炭の炭化賦活温度を変えたエタノール吸着実験の結果を図1に示す。賦活温度が上がるにつれて吸着量が増加した。
【0049】
炭化賦活温度が900℃の条件で、含浸率(IR)を1〜3の範囲で変動させたエタノール吸着実験の結果を図3に示す。含浸率が2のときに一番吸着量が高くなった。
【0050】
図1の吸着等温線のLangmuirプロットを図2に、図3の吸着等温線のLangmuirプロットを図4に示す。Langmuirプロットにおける最小二乗法による回帰直線の切片および傾きから、エタノール飽和吸着量qmaxおよびエタノール吸着平衡定数Kは以下のように算出された。
【0051】
【表5】

【0052】
活性炭の細孔構造とエタノール吸着量の関係を調べるため、図5および6に比表面積、細孔容積とエタノール吸着量の関係を示す。比表面積または細孔容積の値が大きくなるにつれてエタノール吸着量が大きくなる傾向が認められた。
【0053】
実験3
実験操作
実験2において、炭化賦活温度900℃、含浸率1の条件にて調製されたリグニン活性炭を0.1 g量り取り、0.5〜5vol%の範囲の濃度の1-ブタノール水溶液10 cm3を加えた。それを30 ℃の恒温槽で2時間、120 rpmで振とうし、ろ過後、ガスクロマトグラフ(GC)で1-ブタノール濃度を測定した。
【0054】
実験2と同様の手順により1-ブタノール飽和吸着量qmaxおよび1-ブタノール吸着平衡定数Kを算出した。
【0055】
比較のために、水蒸気賦活により製造された市販活性炭のノーリット(Norit SX Plus、和光純薬工業株式会社製)についても同様に1-ブタノール飽和吸着量qmaxおよび1-ブタノール吸着平衡定数Kの測定を行った。
【0056】
結果と考察
1-ブタノールの吸着等温線を図7に、そのLangmuirプロットを図8に示す。Langmuirプロットにおける最小二乗法による回帰直線の切片および傾きから、1-ブタノール飽和吸着量qmaxおよび1-ブタノール吸着平衡定数Kは以下のように算出された。
【0057】
【表6】

【0058】
図7に示されるとおり、本発明のリグニン原料活性炭の1-ブタノールの吸着量は、エタノールの吸着量と比較して非常に大きい。1-ブタノールはエタノールよりもアルキル鎖が長く疎水性が高いことから、活性炭に吸着され易いものと考えられる。
【0059】
実験4
実験操作
リグニン・焼酎カス混合活性炭の調製
原料の脱アルカリリグニン(試薬)と焼酎カス(乾燥・粉砕済み)を重量比がそれぞれ1:1、1:2となるように量り取り混合した。得られた原料混合物1 重量部に対して、賦活剤として炭酸カリウムを1重量部になるように量り取り添加し(原料混合物基準IR=1)、蒸留水を加えて練り、セラミックボードに入れ、24時間、100 ℃で乾燥させ、原料に賦活剤を含浸させた。次に、含浸させた試料を管状炭化炉のセラミック製反応管内部に置き、窒素雰囲気下(150 cm3 min-1)、昇温速度200 ℃ h-1で900 ℃まで昇温し、1時間、温度を保持して炭化・賦活処理を行った。その後、室温まで冷却し炭化物を取り出した。この炭化物を1N NaOH、5 N HCl、蒸留水の順でpH 7付近になるまで洗浄し、24時間、100 ℃で乾燥させた。得られた活性炭をBELSORP-maxで測定した。
【0060】
比較のために、焼酎カス単独1重量部に対して、賦形剤としての炭酸カリウムを1重量部(IR=1)添加した以外は同様の手順で活性炭を調製した。
【0061】
リグニン・カニ殻混合活性炭の調製
原料の脱アルカリリグニン(試薬)とカニ殻(乾燥・粉砕済み)を重量比が1:1となるように量り取り混合した。得られた原料混合物2重量部に対して、賦活剤として炭酸カリウムを1重量部になるように量り取り添加し(原料混合物基準IR=0.5)、蒸留水を加えて練り込んだ。それをセラミックボードに入れ、24時間、100 ℃で乾燥させ、原料に賦活剤を含浸させた。次に、含浸させた試料を管状炭化炉のセラミック製反応管内部に置き、窒素雰囲気下(150 cm3 min-1)、昇温速度200 ℃ h-1で900 ℃まで昇温し、1時間、温度を保持して炭化・賦活処理を行った。その後、室温まで冷却し炭化物を取り出した。この炭化物を1N NaOH、5 N HCl、蒸留水の順でpH 7付近になるまで洗浄し、24時間、100 ℃で乾燥させた。得られた活性炭をBELSORP-maxで測定した。
【0062】
比較のために、カニ殻単独2重量部に対して、賦形剤としての炭酸カリウムを1重量部(IR=0.5)添加した以外は同様の手順で活性炭を調製した。
【0063】
結果と考察
リグニン・焼酎カスまたはカニ殻混合活性炭の細孔構造の分析結果を表7に示す。リグニン・焼酎カスまたはカニ殻混合活性炭は、いずれのプロットでもリグニンのみの活性炭と構造が似ていることが分かった。焼酎カスまたはカニ殻原料の特徴はほぼ表れなかった。
【0064】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン類に、アルカリ金属炭酸塩を含浸させる含浸工程と、
アルカリ金属炭酸塩が含浸されたリグニン類を、不活性ガス中で700℃〜1200℃の温度において加熱することにより炭化する炭化処理工程と
を含む、活性炭の製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属炭酸塩が炭酸カリウムである、請求項1の方法。
【請求項3】
含浸工程が、リグニン類1重量部(乾燥重量基準)に対して0.5〜5重量部のアルカリ金属炭酸塩を含浸させる工程である、請求項1または2の方法。
【請求項4】
炭化処理工程における加熱温度が850℃〜950℃である、請求項1〜3のいずれかの方法。
【請求項5】
BET法による比表面積が1700 m2/g以上である、リグニン類の炭化物を主成分とする活性炭。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの方法により製造された活性炭。
【請求項7】
低級アルコールが溶解した水性組成物から、低級アルコールを回収する方法であって、
低級アルコールが溶解した水性組成物に、請求項5または6の活性炭を接触させ、低級アルコールを該活性炭に吸着させる吸着工程;
吸着工程により得られた、低級アルコールが吸着された活性炭を、低級アルコールの沸点よりも低い沸点を有する低沸点有機溶媒に接触させ、低沸点有機溶媒中に低級アルコールを溶出させる溶出工程;並びに
溶出工程により得られた、低沸点有機溶媒中に低級アルコールが溶解した溶液から、低沸点有機溶媒を分離除去し、低級アルコールを回収する回収工程
を含む方法。
【請求項8】
低級アルコールがエタノール、1-ブタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノールおよび2-メチル-2-プロパノールから選択される少なくとも1種である、請求項7の方法。
【請求項9】
請求項5または6の活性炭を含む、低級アルコール用吸着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−162369(P2011−162369A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24534(P2010−24534)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】