説明

リグノセルロース系材料成形体及びその成形方法

【課題】環境や人体への負担を抑制しつつ、耐吸水性、耐湿性を向上させることのできるリグノセルロース成形体及びその成形方法を提供すること。
【解決手段】水蒸気処理を施したリグノセルロース系材料にフラン樹脂を混合し、当該混合物を加熱加圧してリグノセルロース系材料成形体を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系材料成形体及びその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用樹脂成形部品等には石油を原料とする熱可塑性樹脂材料、熱硬化性樹脂材料を使用していた。例えば、自動車用灰皿は木材チップや繊維材料等にフェノール樹脂等を混合して成形していた。
しかし、フェノール樹脂等の石油由来の素材を用いた成形体は焼却されると地球の二酸化炭素を増加させる上、フェノール樹脂等は遊離フェノールやホルムアルデヒドが含まれるため人体に悪影響をおよぼす物質を発生させるおそれがあった。
【0003】
そこで、植物由来のリグノセルロース系材料を水蒸気処理し、乾燥させ、その後粉砕し、加熱加圧することで熱硬化性樹脂様の成形体を得る技術が開発されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−165844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術のようにリグノセルロース系材料のみの成形体では耐吸水性及び耐湿性が低く、自動車用樹脂成形部品として使用した場合等には膨張等の変形が生じ、使用に適さないという問題がある。
また、リグノセルロース系材料は粉末状態で熱を加えても、流動成分は、わずかであり、複雑な形に成形できないという問題がある。
【0005】
また、上記特許文献1では、リグノセルロース系材料に、他の通常の熱可塑性樹脂材料、熱硬化性樹脂材料、生分解性樹脂材料を混合した成形体も記載されているが、通常の熱可塑性材料、熱硬化性樹脂材料は石油を原料としており、また、熱可塑性樹脂と生分解性樹脂はリグノセルロース系材料と反応せず材料物性や耐久性に劣るものとなるという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、環境や人体への負担を抑制しつつ、耐吸水性、耐湿性を向上させ、複雑な形状に成形できるリグノセルロース成形体及びその成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1のリグノセルロース系材料成形体では、水蒸気処理したリグノセルロース系材料とフラン樹脂とを混合して成形されたことを特徴としている。
請求項2のリグノセルロース系材料成形体では、前記リグノセルロース系材料とフラン樹脂との混合重量比は、リグノセルロース系材料/フラン樹脂=100/3〜100/45であることを特徴としている。
【0008】
請求項3のリグノセルロース系材料成形体の成形方法では、水蒸気処理したリグノセルロース系材料とフラン樹脂とを混合して成形されるリグノセルロース系材料成形体の成形方法であって、リグノセルロース系材料とフラン樹脂とを、せん断力を利用して混合する混合機により混合する工程を有することを特徴としている。
請求項4のリグノセルロース系材料成形体の成形方法では、水蒸気処理したリグノセルロース系材料とフラン樹脂とを混合して成形されるリグノセルロース系材料成形体の成形方法であって、リグノセルロース系材料とフラン樹脂との混合物を射出成形機により射出成形する工程を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記手段を用いる本発明の請求項1、2のリグノセルロース系材料成形体によれば、リグノセルロース系材料を水蒸気処理することでヘミセルロースやリグニンが分解され熱可塑性成分が生成され、それに加えて液状の天然の熱硬化性樹脂であるフラン樹脂を混合することで、成形流動性と架橋密度を増加させることができる。
その上、フラン樹脂はとうもろこしの芯を乾留して得られる植物由来の素材であることから、焼却等による二酸化炭素量の増加を防止し、人体への負担も軽減させることができる。
【0010】
これにより、リグノセルロース系材料成形体において、環境や人体への負担を抑制しつつ、耐吸水性、耐湿性を向上させることができる。
請求項3のリグノセルロース系材料成形体の成形方法によれば、二軸押出機やニーダーのようなせん断力を利用して混合する混合機により、リグノセルロース系材料とフラン樹脂とを混合することで、架橋密度をさらに増加させることができ、リグノセルロース系材料成形体の耐吸水性、耐湿性をより向上させることができる。
【0011】
請求項4のリグノセルロース系材料成形体の成形方法によれば、リグノセルロース系材料とフラン樹脂との混合物を射出成形機により射出成形することで、リグノセルロース系材料成形体を容易に三次元成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1を参照すると、本発明に係るリグノセルロース系材料成形体の一例の斜視図が示されている。
当該図1に示すリグノセルロース系材料成形体1は自動車用樹脂成形部品(灰皿)であり、リグノセルロース系材料にフラン樹脂が混合され、当該混合物が加熱加圧されて成形されたものである。
【0013】
詳しくは、リグノセルロース系材料は例えば木材、竹、ケナフ等の木質系や草木系の植物由来の素材のものを耐圧容器中で高温、高圧の水蒸気によって蒸煮する。または、蒸煮後急激に大気圧に放出し爆砕する等、所謂水蒸気処理が施される。このように水蒸気処理が施されるとリグノセルロース系材料の構成成分であるリグニンやヘミセルロースが一部分解され熱可塑性成分を生じ、また、木質系や草木系の繊維がほぐしやすくなる。なお、水蒸気処理したリグノセルロース系材料は、酢酸やアルデヒド等の酸性物質も発生させるため、中和剤として酸化カルシウム等のアルカリ系物質を混合してもよい。
【0014】
さらに、当該水蒸気処理は高温・高圧で施されるため、リグノセルロース系材料に含有される虫やカビ・細菌などを殺虫・殺菌し防腐性、耐久性が向上する。
そして、水蒸気処理されたリグノセルロース系材料は乾燥した後に粉砕され、細かな粉末状態となったものが使用される。
一方、フラン樹脂は、とうもろこしの芯等を乾留して得られる天然の熱硬化性樹脂である。当該フラン樹脂の成分はフラン及びフルフリルアルコールからなり、常温で液体状のものが使用される。
【0015】
当該フラン樹脂は、上記リグノセルロース系材料との硬化時間を合わせる必要がある場合には硬化剤が添加される。当該硬化剤としては例えばパラトルエンスルホン酸、酢酸、蟻酸等の酸が使用される。
リグノセルロース系材料とフラン樹脂との混合には、乳鉢による手動での混合や、二軸押出機やニーダー等のせん断力を利用した混合機が使用される。なおここで、リグノセルロース系材料成形体1に難燃性を付与させるときには、臭素系、リン系、ハロゲン系、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の難燃剤が混合される。
【0016】
そして、リグノセルロース系材料とフラン樹脂との混合物は成形体の金型に入れられ熱プレス機により加熱加圧されることでリグノセルロース系材料成形体1に成形される。
なお、当該成形は熱プレス機の他に射出成形機による射出成形も可能であり、射出成形機により射出成形することでリグノセルロース系材料成形体を容易に三次元成形することができる。
【0017】
ここで本発明に係るリグノセルロース系材料成形体の具体的な成形方法の一例を挙げる。
図2を参照すると、本発明に係るリグノセルロース系材料成形体の成形方法の一例を表す工程図が示されている。
まず、工程S1において、木材、竹、ケナフ、麻、草木類等のリグノセルロース系材料に水蒸気処理を施す。
【0018】
続く工程S2において、水蒸気処理を施したリグノセルロース系材料を乾燥させ、その後粉砕する。
一方、工程S3において、フラン樹脂に硬化剤を添加する。
そして、工程S4において、粉砕されたリグノセルロース系材料とフラン樹脂とを、例えば二軸押出機により混合する。
【0019】
次の工程S5では、リグノセルロース系材料とフラン樹脂との混合物を乾燥温度70〜120℃に設定した乾燥機にかけて含水率2%となるまで乾燥させる。
さらに工程S6において、当該混合物は、160℃〜220℃に加熱された成形体の金型に入れられ、熱プレス機により80〜600kgf/cm2(7.8〜58.8MPa)の圧力で30〜300秒間加圧される。当該金型の温度、加圧力、加圧保持時間等はリグノセルロース系材料の木材種やフラン樹脂の混合量等に応じて調整する。
【0020】
そして、工程S7において、金型が120℃以下に冷却され成形体が取り出される。
以上のように、リグノセルロース系材料を水蒸気処理することでヘミセルロースやリグニンが分解され熱可塑性成分が生成され、それに加えて天然の熱硬化性樹脂であるフラン樹脂を混合することで、架橋密度を増加させることができる。
その上、フラン樹脂は天然由来の素材であることから、焼却等による二酸化炭素量の増加を防止し、人体への負担も軽減することができる。
【0021】
これにより、リグノセルロース系材料成形体において、環境や人体への負担を抑制しつつ、耐吸水性、耐湿性を向上させることができる。
なお、上記工程では工程S3において、予めフラン樹脂に硬化剤を添加しているが、工程S4においてリグノセルロース系材料及びフラン樹脂とともに硬化剤を混合するようにしても構わない。または硬化剤を添加せずに成形しても構わない。
【0022】
また、上記工程S6、7における成形は射出成形であってもよい。
【実施例】
【0023】
実施例1〜3
水蒸気処理を施したメイプル木粉にフラン樹脂(日立化成製「ヒタフラン」)を、実施例1では9wt%(重量%)、実施例2では18wt%、実施例3では27wt%混合した。なお、フラン樹脂には硬化剤として水で10倍希釈したパラトルエンスルホン酸(例えば、日立化成製「ヒタフラン硬化剤A3」)をそれぞれフラン樹脂に対して10wt%程度、即ち硬化剤を成形体重量全体に対して実施例1では0.1%、実施例2では0.2wt%、実施例3では0.3wt%添加した。
【0024】
当該メイプル木粉と硬化剤が添加されたフラン樹脂とを乳鉢により手動で混合して、この混合物を200℃に加熱した金型に入れ、熱プレス機により加圧力122kgf/cm2(12.0MPa)、圧力保持時間2分の加熱加圧成形をした。
比較例1
水蒸気処理したメイプル木粉のみを200℃の金型に入れ、熱プレス機により加圧力122kgf/cm2(12.0MPa)、圧力保持時間2分の加熱加圧成形をした。
【0025】
比較例2、3
水蒸気処理を施したメイプル木粉にフラン樹脂(日立化成製「ヒタフラン」)を、比較例2では3wt%(重量%)、比較例3では45wt%混合した。なお、フラン樹脂には硬化剤として水で10倍希釈したパラトルエンスルホン酸(日立化成製「ヒタフラン硬化剤A3」)をそれぞれフラン樹脂に対して10wt%程度、即ち硬化剤を成形体重量全体に対して比較例2では0.04%、比較例3では0.5wt%添加した。
【0026】
当該メイプル木粉と硬化剤が添加されたフラン樹脂とを乳鉢により手動で混合して、この混合物を200℃に加熱した金型に入れ、熱プレス機により加圧力122kgf/cm2(12.0MPa)、圧力保持時間2分の加熱加圧成形をした。
そして、実施例1〜3、比較例1、2の成形体(比較例3は成形不可:後述)をそれぞれ水に浸し、24時間後、48時間後、72時間後の吸水率を測定し、結果を表1に示した。なお、当該吸水率は水に浸す前の成形体重量に対する各時間後の成形体重量の増加率である。
【0027】
【表1】

【0028】
当該表1に示すように、フラン樹脂を混合した実施例1〜3の吸水率はいずれの条件においても比較例1、2に比べて大幅に低く、フラン樹脂を混合することで耐吸水性、耐湿性が向上していることがわかる。特にフラン樹脂が18wt%、27wt%混合されている実施例2、3は、フラン樹脂無添加の比較例1、2に比べ倍以上吸水率が低下しており、フラン樹脂の混合量として18wt%〜27wt%が優れていることがわかる。
【0029】
なお、比較例2に示すように、フラン樹脂の混合量が3wt%未満であると顕著な効果は示さず、また、比較例3に示すように、フラン樹脂の混合量が45wt%以上であるとフラン樹脂が多すぎて流動性が過度となり、金型のすき間から流出してしまい成形不可となり、フラン樹脂の混合比は3wt%〜45wt%であることが好ましいことがわかる。
実施例4
水蒸気処理したメイプル木粉に、硬化剤を添加していないフラン樹脂(日立化成製「ヒタフラン」)11wt%を二軸押出機により混合し、この混合物を200℃の金型に入れ、熱プレス機により加圧力295kgf/cm2(28.9MPa)、圧力保持時間2分の加熱加圧成形をした。
【0030】
比較例4
水蒸気処理したメイプル木粉に、硬化剤を添加していないフラン樹脂(日立化成製「ヒタフラン」)20wt%を乳鉢に入れ手動で混合し、この混合物を金型温度200℃の金型に入れ、熱プレス機により加圧力295kgf/cm2(28.9MPa)、圧力保持時間2分の加熱加圧成形をした。
そして、実施例4、比較例4の成形体をそれぞれ2時間煮沸した後の吸水率を測定し、結果を表3に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
当該表2に示すように、実施例4のように二軸押出機により混合した方がフラン樹脂の混合割合が少ないにも関わらず、比較例4よりも吸水率が低くなっていることから、二軸押出機のようなせん断力を利用し混合する混合機を用いてリグノセルロース系材料とフラン樹脂とを十分に混合することで耐吸水性、耐湿性がより向上することがわかる。
実施例5〜7
水蒸気処理したメイプル木粉にフラン樹脂(日立化成製「ヒタフラン」)19.4wt%混合した。なお、フラン樹脂には水により10倍希釈した硬化剤(パラトルエンスルホン酸)をそれぞれフラン樹脂に対して3wt%、即ち硬化剤を成形体重量全体に対して0.06%添加した。
【0033】
当該メイプル木粉と硬化剤が添加されたフラン樹脂とを乳鉢により手動で混合して、この混合物を実施例5では185℃、実施例6では195℃、実施例7では200℃に加熱した金型に入れ、熱プレス機により加圧力122kgf/cm2(12.0MPa)、圧力保持時間2分の加熱加圧成形をした。
そして、実施例5〜7の成形体をそれぞれ水に浸し、24時間後、48時間後、72時間後の吸水率を測定し、結果を表3に示した。
【0034】
【表3】

【0035】
当該表3に示すように、金型温度が高いほど吸水率は低くなっていることから、高温で成形するほど耐吸水性、耐湿性が向上することがわかる。特に200℃以上で成形することで十分な耐吸水性、耐湿性のリグノセルロース系成形体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るリグノセルロース系材料成形体の一例の斜視図である。
【図2】本発明に係るリグノセルロース系材料成形体の成形方法の一例を表す工程図である。
【符号の説明】
【0037】
1 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気処理したリグノセルロース系材料とフラン樹脂とを混合して成形されたことを特徴とするリグノセルロース系材料成形体。
【請求項2】
前記リグノセルロース系材料とフラン樹脂との混合重量比は、
リグノセルロース系材料/フラン樹脂=100/3〜100/45
であることを特徴とする請求項1記載のリグノセルロース系材料成形体。
【請求項3】
水蒸気処理したリグノセルロース系材料とフラン樹脂とを混合して成形されるリグノセルロース系材料成形体の成形方法であって、
リグノセルロース系材料とフラン樹脂とを、せん断力を利用して混合する混合機により混合する工程を有することを特徴とするリグノセルロース系材料成形体の成形方法。
【請求項4】
水蒸気処理したリグノセルロース系材料とフラン樹脂とを混合して成形されるリグノセルロース系材料成形体の成形方法であって、
リグノセルロース系材料とフラン樹脂との混合物を射出成形機により射出成形する工程を有することを特徴とするリグノセルロース系材料成形体の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−247963(P2008−247963A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87619(P2007−87619)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人科学技術振興機構「プラスチック代替木質成形体」新技術開発委託、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(596046347)中日精工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】