リサイクルスラグの製造方法
【課題】製銑処理に優れた溶銑スラグと溶鋼処理に優れた取鍋精錬スラグとの2つのスラグを混合することによって、特に路盤材用に使用されるフッ素の溶出が少ないリサイクルスラグを製造することができるようにする。
【解決手段】リサイクルスラグの製造を行うに際し、塩基度が低い溶銑スラグS1を排滓容器1に投入して当該溶銑スラグS1によって排滓容器1をコーティングし、取鍋精錬にて生成した取鍋精錬スラグS2を、溶銑スラグS1によってコーティングされた排滓容器1に溶融状態で混合し、混合した混合スラグの化学成分が、CaO:34〜52質量%、Al2O3:16〜25質量%、SiO2:18〜26質量%、MgO:6〜10質量%であって残部が不可避不純物となるようにし、さらに、混合スラグを冷却後に水和処理を行う。
【解決手段】リサイクルスラグの製造を行うに際し、塩基度が低い溶銑スラグS1を排滓容器1に投入して当該溶銑スラグS1によって排滓容器1をコーティングし、取鍋精錬にて生成した取鍋精錬スラグS2を、溶銑スラグS1によってコーティングされた排滓容器1に溶融状態で混合し、混合した混合スラグの化学成分が、CaO:34〜52質量%、Al2O3:16〜25質量%、SiO2:18〜26質量%、MgO:6〜10質量%であって残部が不可避不純物となるようにし、さらに、混合スラグを冷却後に水和処理を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルスラグの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高炉にて溶銑を溶製したり、転炉にて一次精錬を行ったりすると、高炉スラグや転炉スラグなどの製鋼スラグが生成される。このような製鋼スラグは、転炉スラグとして再利用されたり、路盤材などに再利用されるのが一般的である。しかしながら、再利用されるスラグ、即ち、リサイクルスラグをそのまま路盤材の材料として使用したとき、環境に問題とされるフッ素の溶出が発生することがある。
【0003】
そのため、処理後のスラグを、路盤材の材料として使用する場合には、処理後のスラグの改質を行うことによってフッ素の溶出を抑制することが必要である。フッ素の溶出を抑制する技術として、例えば、特許文献1〜7に示すものがある。
特許文献1では、転炉スラグと高炉滓または脱珪滓とを同一ピットまたはヤードに放出し、その直後、溶融または半溶融状態の該スラグを耕耘することによって転炉スラグと高炉滓または脱珪滓とを混合してスラグの改質を行っている。
【0004】
特許文献2では、溶融状態にある高炉スラグに対し、高炉外で、塩基度が相対的に高い物質を作用させ、高炉スラグ中の酸性成分と塩基度が相対的に高い物質中の塩基性成分とを、高炉スラグのもつ顕熱を利用して反応させることによって高炉スラグからリサイクルスラグを得ることができるようにしている。
特許文献3では、フッ素含有製鋼スラグと石炭灰を溶融状態の高炉滓に同時に添加して溶解した後、冷却固化することによってフッ素濃度が2.5質量%以下の高炉滓を得ることができるようにしている。
【0005】
特許文献4では、高炉徐冷スラグ10〜90質量%に対し、製鋼スラグ90〜10質量%を含有させている。
特許文献5では、製鋼系スラグに対する高炉水砕スラグ及びフライアッシュの中から選ばれる1種以上の混合率が、製鋼系スラグ量の1〜50重量%としている。
特許文献6では、被処理材たるフッ素を含む製鋼スラグに、CaO・Al2O3、5CaO・3Al2O3、12CaO・7Al2O3、9CaO・5Al2O3、2CaO・Al2O3、3CaO・Al2O3、もしくはこれらの混合物、またはこれらの水和物を含む粉末と、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰の1種又は2種以上の組合せとをいずれも添加することによって、前記フッ素の溶出を抑制している。
【0006】
特許文献7では、製錬炉による溶鋼の処理が行われた際に発生する被処理剤である転炉スラグまたは電気炉スラグに、CaO、Al2O3、金属AlおよびAl滓の少なくとも1種を添加することによって、質量%で、CaO:45〜60%、Al2O3:30〜55%、SiO2:10%以下、およびT.Fe:3%以下を含有するとともに、3CaO・Al2O3、12CaO・7Al2O3、CaO・Al2O3、5CaO・3Al2O3、9CaO・5Al2O3、2CaO・Al2O3のうちの少なくとも1種を鉱物相として含む、フッ素を含む製鋼スラグの安定化剤を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−329451号公報
【特許文献2】特開平10−279331号公報
【特許文献3】特開2007−22818号公報
【特許文献4】特許第4264523号公報
【特許文献5】特開2001−72447号公報
【特許文献6】特許第3606108号公報
【特許文献7】特許第3606107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1〜3では、例えば、高炉スラグ、転炉スラグのような2つのスラグを混合し、これによって、フッ素の溶出が抑制された混合スラグを生成して、この混合スラグをリサイクルスラグとして使用できるようにしている。
しかしながら、特許文献1〜3では、2つのスラグを混合することによってスラグの改質を行うという考えが示されているだけであって、1つめのスラグの化学成分範囲(組成範囲)や2つめのスラグの化学成分範囲が詳しく開示されていない。ゆえに、特許文献1〜3の技術を用いても、スラグの改質を確実に行うことができないのが実情である。
【0009】
また、特許文献4には、混合スラグの化学成分が開示されているものの、どのようなスラグを混合してスラグの改質を行っているか開示されておらず、当該特許文献4の技術を用いても、特許文献1〜3と同様にスラグの改質を確実に行うことができないのが実情である。
さて、特許文献5〜7には、高炉スラグや精錬スラグの組成、2つのスラグを混合することが記載されているものの、これらの技術を用いても、未だスラグの改質を確実に行うことができないのが実情である。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、リサイクルスラグを製造するに際し、製銑処理及び製鋼処理に優れるように規定された溶銑スラグ及び取鍋精錬スラグの2つのスラグを混合することによって、特に路盤材用に使用されるフッ素の溶出が少ないリサイクルスラグを製造可能とするリサイクルスラグの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、リサイクルスラグを製造するに際し、化学成分が、CaO:24〜50質量%、Al2O3:1〜16質量%、SiO2:17〜38質量%、MgO:0.3〜10質量%であって残部が不可避不純物であり且つCaO/SiO2:1〜2となる溶銑スラグを排滓容器に投入して当該溶銑スラグによって前記排滓容器の内面をコーディングし、化学成分が、CaO:33〜66質量%、Al2O3:22〜48質量%、SiO2:3〜16質量%、MgO:5〜11質量%であって残部が不可避不純物であり且つCaO/SiO2:3以上となる取鍋精錬スラグを、前記溶銑スラグによってコーティングされた排滓容器に溶融状態で装入し、混合した混合スラグの化学成分が、CaO:34〜52質量%、Al2O3:16〜25質量%、SiO2:18〜26質量%、MgO:6〜10質量%であって残部が不可避不純物となるようにし、前記混合スラグを冷却後に水和処理を行う点にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リサイクルスラグを製造するに際し、製銑処理及び製鋼処理に優れるように規定された溶銑スラグ及び取鍋精錬スラグの2つのスラグを混合することによって、特に路盤材用に使用されるフッ素の溶出が少ないリサイクルスラグを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】スラグの改質の手順を示した概略図である。
【図2】取鍋精錬スラグにおいてMgOが5質量%及び10質量%であるときの1500℃における液相領域を表したCaO,SiO2,Al2O3の三元系状態図である。
【図3】取鍋精錬スラグのMgOの量と液相率との関係図である。
【図4】スラグ混合率とフッ素の溶出量(F溶出量)との関係図である。
【図5】各スラグ組成についてCaO,SiO2,Al2O3の三元系に換算した状態図である。
【図6】(a)F溶出試験後に残渣した混合スラグのSEMの画像、(b)SEM画像に対してEPMAによるマッピング処理を行ってフッ素が存在する領域を抽出した画像である。
【図7】(a)スラグ中のAl2O3濃度とAl溶出量との関係図、(b)スラグ中のAl2O3濃度とAl溶出率との関係図である。
【図8】(a)スラグ中のAl2O3濃度とCa溶出量との関係図、(b)スラグ中のAl2O3濃度とCa溶出率との関係図である。
【図9】(a)スラグ中のAl2O3濃度とF溶出量との関係図、(b)スラグ中のAl2O3濃度とF溶出率との関係図である。
【図10】スラグ中のAl2O3濃度と各スラグのF溶出率との関係図である。
【図11】水和処理とF溶出量との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
製鋼の様々な処理によって生成されるスラグにフッ素が含有されていると、当該スラグを路盤材の材料として再利用したときにフッ素の溶出が懸念される。そのため、従来の技術では、例えば、二次精錬にて、融点を下げるために使用されてきたCaF2(蛍石)を使用しない精錬方法を考え、精錬処理の工夫をすることによって処理後のスラグにフッ素が含まれないようにしていた。
【0015】
しかしながら、CaF2を使用しない二次精錬を考えて処理したとしても、スラグの元となる原料(例えば、石灰)や耐火物、合金鉄に不可避的に微量のフッ素が含まれているため、処理後のスラグには、どうしてもフッ素が含まれてしまう結果となってしまっていた。
そこで、本発明では、原料由来のフッ素によって不可避的にスラグ中に含有されてしまうフッ素を出来るだけ溶出しないように、処理後のスラグを改善する方法、即ち、リサイクルスラグの製造方法を見出した。
【0016】
具体的には、処理後の2つのスラグを混合することによって、フッ素の溶出が非常に少ないスラグを生成し、処理後の2つのスラグをリサイクルスラグとして使用できるようにした。
図1に示すように、まず、高炉にて溶銑を製銑したときに発生した溶銑スラグS1を排滓容器1に排滓して、当該溶銑スラグS1によって排滓容器1の内側表面(内壁側の表面)をコーティングする。その後、内側表面がコーティングされた排滓容器1に取鍋精錬スラグS2を溶融状態にて装入することによって、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合し、この混合スラグを水和処理することによって、フッ素の溶出が抑制されたリサイクルスラグS3を製造している。
【0017】
以下、リサイクルスラグの製造方法について詳しく説明する。
[溶銑スラグについて]
2つのスラグを混合するにあたって、1つめのスラグは、CaO/SiO2(塩基度)が1〜2であって、塩基度が低い溶銑スラグS1である。この溶銑スラグS1は、例えば、溶銑を製銑したときに発生する高炉スラグである。
【0018】
詳しくは、溶銑スラグS1の化学成分(組成)は、CaO:24〜50質量%、Al2O3:1〜16質量%、SiO2:17〜38質量%、MgO:0.3〜10質量%であって、残部が不可避不純物である。
溶銑スラグS1について、高炉スラグを例にとり説明する。
CaOは、コークスに含有される硫黄を除去したり、鉄鉱石に含有される不純物を除去するために高炉中に投入されるものである。
【0019】
Al2O3は、溶銑の原料となる鉄鉱石に含まれている。高炉では、鉄鉱石は炭素(COガス)との反応によってFetOの還元反応が起こり、鉄鉱石に含有されている他の成分も一部還元されて溶銑中に含まれることになるものの、Al2O3は高炉において還元反応が起こりにくいことから、高炉スラグに溶け込むことになる。
SiO2は、Al2O3と同様に鉄鉱石に含まれている。SiO2も鉄鉱石が還元されるときに溶銑中に含まれることになるものの、Al2O3と同様に高炉スラグに溶け込むことになる。
【0020】
MgOは、鉄鉱石や高炉内の耐火物中に含まれるものであり、高炉では、還元されずに高炉スラグに溶け込むことになる。
残部は、不可避的不純物であって、例えば、FeO、MnO、CaS、P2O5、TiO2、Na2Oなどである。
溶銑スラグS1のCaO/SiO2(塩基度)は、高炉にて溶銑を製銑するときに当該高炉に投入する生石灰により調整されるものである。
【0021】
なお、溶銑スラグS1は、上述した組成範囲内を満たすものであれば、高炉スラグだけでなく、高炉鋳床にて溶銑の脱珪処理をしたときに発生する高炉床脱珪スラグであっても、二次精錬の前に取鍋や混銑車にて溶銑の処理を行ったときに発生する溶銑予備処理スラグであってもよい。
[取鍋精錬スラグについて]
2つめのスラグは、取鍋精錬を行ったときに発生する取鍋精錬スラグS2である。
この取鍋精錬スラグS2は、主にCaOを主成分としていて、取鍋精錬の際にSi又はAlによって溶鋼の脱酸を行ったりするために使用されたものであり、CaO-Al2O3-SiO2-MgO系のスラグである。また、取鍋精錬スラグS2は、低酸素及び/又は低硫鋼を溶製するために、例えば、二次精錬時に用いられるものである。
【0022】
詳しくは、取鍋精錬スラグS2の化学成分(組成)は、CaO:33〜66質量%、Al2O3:22〜48質量%、SiO2:3〜16質量%、MgO:5〜11質量%であって、残部は不可避不純物である。取鍋精錬スラグS2について説明する。
転炉や電気炉から溶鋼を出鋼したとき、当該転炉や電気炉内のスラグ(含SiO2)、取鍋に付着したスラグ、取鍋に残った残鋼(含酸化したFetO)等によって溶鋼は酸化し、溶鋼内の酸素濃度が高くなりやすい。
【0023】
そこで、二次精錬では、CaOを含有する取鍋精錬スラグS2とAlとを用いて、3SiO2+4Al=3Si+2Al2O3、3FetO+2Al=3tFe+Al2O3に示すような反応により溶鋼やスラグの脱酸を行うことによって溶鋼中のOt(鋼中酸素レベル)を低下させるという処理を行い、低酸素鋼を溶製することとしている。
このように低酸素鋼を溶製するためには、鋼中酸素レベルの目標値は、特許3018355号公報や特開2006−200027公報に開示されているように、一般的に9ppmとされている。そして、鋼中酸素レベルを9ppm以下にするためには、取鍋精錬スラグS2の塩基度は高塩基度であることが望ましく、具体的には、塩基度は3以上にする必要がある。加えて、低硫鋼を溶製するためにも塩基度は3以上にする必要がある。
【0024】
また、取鍋精錬スラグS2の生石灰(CaO)は、Al2O3との反応性が高く、Alによる脱酸時に溶鋼中に発生するAl2O3(介在物)を吸着させることから、CaOの量はSiO2に比べて多くすることが好ましい。つまり、取鍋精錬を行うにあっては、CaOが比較的多いCaOリッチすることが望ましく、CaOは、33〜66質量%にすることが好ましい。
【0025】
上述したように、取鍋精錬スラグS2においては、CaOに比べてSiO2の量が少ないことが望ましいが、転炉などの一次精錬が終了して溶鋼を出鋼する際に、転炉の処理で生成した転炉スラグが不可避的に入り、取鍋精錬スラグS2のSiO2の量は最低でも3質量%以上となる。加えて、安定して塩基度を3以上にするためには、SiO2を16質量%以下にすることが望ましい。
【0026】
Al2O3は、SiO2と同様に融点を下げる効果があり、CaOが1500℃程度で溶融できるように必要なものであるが、取鍋精錬スラグS2中のAl2O3の量が多く、Al2O3が飽和状態に近づくと、Al2O3の活量が増加し、溶鋼中のAl2O3系介在物と当該取鍋精錬スラグS2との付着除去性(例えば、吸着する時間が非常に長くな)が低下することになる。即ち、取鍋精錬スラグS2中のAl2O3濃度が多すぎると脱酸効果が抑制されることから、実操業から見ると、取鍋精錬スラグS2中のAl2O3は48質量%以下にする必要がある。
【0027】
図2は、取鍋精錬スラグS2において取鍋精錬スラグにおいてMgOが5質量%及び10質量%であるときの1500℃における液相領域を表したCaO,SiO2,Al2O3の三元系状態図である。
図2に示すように、上述したCaO,SiO2,Al2O3の範囲をまとめると、MgOが5質量%であるときは、取鍋精錬スラグS2のCaO,SiO2,Al2O3は範囲Aとなり、MgOが10質量%であるときは、取鍋精錬スラグS2のCaO,SiO2,Al2O3は範囲Bとなる。
【0028】
また、取鍋精錬を行う場合、取鍋の耐火物はMgO系のものであるため、耐火物の溶損を出来るだけ防止するため、MgOを添加する。取鍋精錬スラグS2中のMgO(%MgO)を5質量%以上とすると耐火物の溶損を抑制することができる。
しかしながら、図3に示すように、MgOの添加量が多すぎて、鍋精錬スラグ中のMgO(%MgO)を11質量%よりも大きくなってしまうと、固化してスラグの流動性が悪くなり、液相率を100%未満となってしまうことがある。そのため、取鍋精錬スラグS2中のMgOは、11質量%以下にする必要がある。
【0029】
なお、スラグの液相率は、スラグ中の液相の比率を示すもので、スラグ中の化学成分を基に、熱力学平衡計算ソフトウェア(FactSage Ver.6.0)にて求めることができる。一般的に、スラグの液相率が0%に近くなればなるほどスラグの溶融性が悪い状態を示し、スラグの液相率が100%に近くなればなるほどスラグの溶融性が良く、特に、スラグの液相率が100%であるときは、スラグの流動性(反応性)が高いと考えられている。例えば、スラグの液相率が100%であるときは、取鍋精錬スラグS2によって溶鋼をカバーし続けることができ、取鍋精錬スラグS2の排滓時には取鍋内に当該取鍋精錬スラグS2が残りにくいという利点もある。
【0030】
残部は、不可避的不純物であって、例えば、FetO、MnO、Na2Oなどである。転炉から溶鋼を出鋼したときに不可避的に転炉スラグが混入したり、取鍋精錬時などに取鍋の耐火物から溶出が発生したり、或いは、一部の化合物が再酸化することによって、取鍋精錬スラグS2には、どうしても上述したような不可避不純物が微量含まれてしまう。
[混合スラグについて]
本発明では、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合することによって、フッ素溶出が抑制できる新たなスラグ(混合スラグ)を生成することとしている。
【0031】
詳しく説明すると、まず、スラグが入っていない排滓容器1に、言い換えれば、スラグ排滓後の排滓容器1に溶銑スラグS1を装入する。そして、排滓容器1内の溶銑スラグS1が溶融状態であるとき(全ての溶銑スラグS1が固化しないうちに)、例えば、排滓容器1を傾けることにより、排滓容器1内の溶銑スラグS1を外部へ排滓し、これにより、排滓容器1の内壁全周に溶銑スラグS1を付着させ、当該内壁を溶銑スラグS1によってコーディングする。
【0032】
なお、排滓容器1の内壁を溶銑スラグS1にてコーディングすれば良いため、コーディングする方法は、どのような方法であってもよい。例えば、排滓容器1の一杯に溶銑スラグS1を装入した後、排滓容器1を傾けて溶銑スラグS1を排出することにより、排滓容器1の内壁の上端部まで溶銑スラグS1によってコーディングしてもよい。
次に、溶銑スラグS1によって内壁がコーディングされた排滓容器1に取鍋精錬スラグS2を装入する。取鍋精錬スラグS2は、取鍋精錬中は溶融状態であるが、取鍋から排出後、次第に冷却されて固化し始める。取鍋精錬スラグS2が完全に固体化してしまうと溶銑スラグS1とは反応し難くなるため、例えば、取鍋精錬スラグS2が1400℃以上であって溶融状態にあるときに、当該取鍋精錬スラグS2を排滓容器1に入れ、溶銑スラグS1と混合する。取鍋精錬後の溶鋼の温度は、大凡1500℃程度である。
【0033】
図4は、スラグ混合率とフッ素の溶出量(F溶出量)との関係を示したものである。図4において、スラグ混合率が0%ということは、取鍋精錬スラグS2が100%であることを示し、スラグ混合率が100%ということは、溶銑スラグS1が100%であることを示している。即ち、スラグ混合率が0%及び100%は、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを全く混合しなかった場合を示している。
【0034】
図4に示すように、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合する状況を考えたとき、本発明のように溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを高温で溶融混合した場合は、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを固体同士で混合した場合(物理的混合)に比べてF溶出量を抑えることができる傾向にある。
例えば、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2との両者を粉末(粒状)にして混合(物理的混合)するよりも、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを高温で溶融混合する方がF溶出量を抑えることができる。なお、溶融混合(溶融状態で混合する)とは、溶銑スラグS1又は取鍋精錬スラグS2の少なくとも一方が混合するときに溶融状態であればよい。混合する際には高融点の取鍋精錬スラグS2が溶融状態であるとなおよい。
【0035】
取鍋精錬スラグS2を排滓容器1に入れる方法は、特に限定されない。例えば、取鍋内の取鍋精錬スラグS2を外部へ排滓するときに、取鍋内の取鍋精錬スラグS2を直接排滓容器1に入れても良いし、一旦、取鍋内の取鍋精錬スラグS2を別の容器に入れて、その後、別の容器内の取鍋精錬スラグS2をコーティングされた排滓容器1に入れてもよい。取鍋内の取鍋精錬スラグS2を直接排滓容器1に入れる場合には、取鍋精錬スラグS2の温度低下を防止するために、熱源として溶鋼を取鍋内に残し、取鍋精錬スラグS2の流動性を確保することが好ましい。
【0036】
混合スラグの化学成分(組成)は、CaO:34〜52質量%、Al2O3:16〜25質量%、SiO2:18〜26質量%、MgO:6〜10質量%であって残部が不可避不純物である。
このように、混合スラグの化学成分を上述したような範囲にすると、混合スラグ中にゲーレナイトが生成される。即ち、図5に示すように、溶銑スラグS1、取鍋精錬スラグS2を1400℃以上の溶融状態にて混合すると共に混合スラグを上述した範囲にすれば、ゲーレナイトを有する混合スラグを生成することができる。
【0037】
ゲーレナイトは、モル分率でCaO:Al2O3:SiO2=2:1:1の比率となる鉱物(C2AS)であり、水和後はC2AS・8H2O(Stratlingite)となる。ゲーレナイトは、水溶性が低いと共に水和後はフッ素が溶出しないように固定化する役割がある。
図6は、混合スラグについてフッ素の溶出試験を行ったときに残渣したものについてまとめたものである。詳しくは、図6(a)は、残渣した混合スラグのSEM(Scanning Electron Microscope)による画像であり、図6(b)は、フッ素についてEPMAにてマッピングをかけた画像を示している。
【0038】
図6(a)、(b)に示すように、混合スラグを見ると、矢印Aに示すように、フッ素が集中している部分がある。フッ素が集中している部分の組成比率をEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)にて解析すると表1に示すものとなった。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、フッ素が集中している部分の結晶構造は、ゲーレナイトの水和物であるストラットリンガイトであり、このストラットリンガイトによってフッ素の溶出を抑えることができる。
このように、ストラットリンガイトのような水和物を生成し、ストラットリンガイトでフッ素を固定化することによりフッ素の溶出を抑えることができる。
【0041】
次に、ゲーレナイトが生成される混合スラグの組成について説明する。
CaOが34質量%未満であると、混合スラグからの溶出性(溶け出やすさ)がやや高くなるため、F溶出量が僅かであるが増加する。また、CaOが52質量%を超えると、F溶出量が僅かであるが増加することがあり、ゲーレナイトの生成が抑止されてフッ素の固定化が不足したと考えられる。そのため、CaOは、34〜52質量%にすることが好ましい。
【0042】
Al2O3が16質量%未満であると、F溶出量が僅かであるが増加することがあり、これは、C2Sが多い(C2Sリッチ)となったことにより、ゲーレナイトの生成が抑制されたことが原因と考えられる。また、スラグ中のAl2O3濃度は25質量%を超えると、後述するように、F溶出率が増加する。そのため、Al2O3は、16〜25質量%であることが好ましい。
【0043】
SiO2が18質量%未満であると、F溶出量が僅かであるが増加することがあり、ゲーレナイトの生成が抑止されてフッ素の固定化が不足したと考えられる。また、SiO2が26質量%を超えると、溶銑スラグS1と同様に比較的、混合スラグが水へ溶け易くなるため、F溶出量が僅かであるが増加する。そのため、SiO2は、18〜26質量%にすることが好ましい。
【0044】
MgOが10質量%を超えてしまうと、F溶出量は著しく高くなった。MgOが増加するとゲーレナイトの生成が抑制されるため、混合スラグの溶出がし易くなり、その結果、F溶出量が多くなる。また、上述した溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合した場合は、実操業からするとMgOが6質量%を下回ることはないのが実情である。
残部は、不可避的不純物であって、溶銑スラグS1や取鍋精錬スラグS2に不可避的に混入したものが微量に含まれてしまう。
【0045】
このように、混合スラグ中にゲーレナイトを生成させることによってF溶出量を抑えることができる。発明者は、ゲーレナイトの生成の他に、スラグからの溶出性を抑えるファクターに着目し、様々な実験を行った。
図7〜9は、様々な実験の結果をまとめたものであって、スラグ中のAl2O3濃度とスラグから水へ溶け出す成分についてまとめたものである。
【0046】
図7(a)に示すように、溶銑スラグS1、取鍋精錬スラグS2、混合スラグのいずれのスラグにおいても、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、水溶液中のAl溶出量が増加している。図7(b)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、Alが溶け出している割合(Al溶出率)も増加している。なお、Al溶出率は、スラグに含まれるAlのうち、水に溶け出したAlの割合である。
【0047】
スラグ中のAl2O3濃度とCa溶出量との関係についても調査を行ったところ、図8(a)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、水溶液中のCa溶出量が増加している。図8(b)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、Caが溶け出している割合(Ca溶出率)も増加している。なお、Ca溶出率は、Al溶出率と同様に、スラグに含まれるCaのうち、水に溶け出したCaの割合である。
【0048】
このようなことから、スラグ中のAl2O3濃度がAlやCaの溶け出しに影響していることが分かる。
そこで、スラグ中のAl2O3濃度と、フッ素溶出量(F溶出量)についても調べたところ、図9(a)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、水溶液中のフッ素溶出量が増加している。図9(b)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、フッ素が溶け出している割合(F溶出率)も増加している。なお、F溶出率は、Al溶出率やCa溶出率と同様に、スラグに含まれるFのうち、水に溶け出したFの割合である。
【0049】
図10は、スラグ中のAl2O3濃度と、各スラグ(溶銑スラグS1、取鍋精錬スラグS2、混合スラグ)におけるフッ素溶出率についてまとめたものである。
図10に示すように、スラグ中のAl2O3が25質量%を超えると急激にF溶出率が増加していることから、スラグ中のAl2O3濃度を25質量%以下とすることによってスラグの溶出性を抑えることができる。
【0050】
[水和処理について]
上述したように、ゲーレナイトを生成できるようにしたり、スラグ中のAl2O3濃度を25質量%以下にすることによってスラグの溶出性を抑えることによってフッ素の溶出を抑制できるようにしているが、本発明では、さらに、混合スラグに対して水和処理を行うことによりフッ素を固定化するゲーレナイトの水和物を生成することにより、フッ素の溶出を抑制することとしている。詳しくは、まず、排滓容器1内で溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを溶融状態で混合後、排滓容器1を冷却して混合スラグを取り出す。そして、混合スラグを細かく粉砕すると共に、Feを除去する磁選処理を行う。粉砕後の混合スラグに、例えば、質量比で大凡20%の水をかけて1週間放置し、混合スラグ内にゲーレナイト水和物を生成させる。
【0051】
図11は、水和処理とF溶出量との関係をまとめたものである。図11に示すように、混合スラグに対して水和処理を行わなかった場合、F溶出量は土壌環境基準で定められている0.8mg/Lを超えてしまう。一方、混合スラグに対して水和処理を行った場合、F溶出量を土壌環境基準である0.8mg/L以下にすることができ、特に、水分量が多く且つ水和処理の時間が長い場合は、F溶出量を抑えることができる。
[実施例]
次に、リサイクルスラグの製造を行うまでの製鋼条件(製鋼実施条件)と、リサイクルスラグの製造を行う実施条件(リサイクル製造実施条件)とについて説明する。
【0052】
スラグを装入する排滓容器1は、数回スラグを受滓しても変形しないよう変形対策を施したもので、搬送や傾転できるように台車に載せられたものを使用した。排滓容器1は、C=0.2質量%、Si=0.3質量%、Mn=0.6質量%を含有する鋳鋼により形成したものを用いた。排滓容器1の内壁を溶銑スラグS1によりコーティングし、その後は、取鍋精錬スラグS2を数回に渡って受け、取鍋精錬スラグS2が満載になるとスラグを排滓する排滓場へと移動させた。
【0053】
高炉の操業では、当業者常法通りに高炉上部より、ペレット、鉄鉱石、石炭、コークス、石灰等の原料を投入して溶銑を製銑した。高炉の側部より送風を行うと共に溶銑を出銑した。高炉より出銑後は、高炉鋳床に設けたスキンマ−(比重分離堰)を用いて溶銑と高炉スラグとを分離し、分離した高炉スラグは、排滓容器1に排滓した。なお、この実施形態では、高炉スラグのみを溶銑スラグS1として排滓容器1に排滓することとしている。
【0054】
また、出銑した溶銑に対しては、鋼種に応じて溶銑中のSiを下げるためCaOやFeOを投入して溶銑の脱珪処理を行った。なお、上述した組成の範囲内であれば、脱珪処理に用いた高炉床脱珪スラグを、高炉スラグと同様に排滓容器1に排滓した後、取鍋精錬スラグS2と混合して混合スラグを生成してもよい。
脱珪処理を行ったときに発生した高炉床脱珪スラグも排滓容器1に装入した。脱珪処理後の溶銑は、取鍋や混銑車(トピ−ドカー)に装入し、当業者常法通りに吹錬を実施し、Si、P、Sなどの不純物の除去(溶銑予備処理)を行った。なお、上述した組成の範囲内であれば、溶銑予備処理にて発生した溶銑予備処理スラグも、高炉スラグと同様に排滓容器1に排滓した後、取鍋精錬スラグS2と混合して混合スラグを生成してもよい。
【0055】
排滓容器1に溶銑スラグS1(高炉スラグ、高炉床脱珪スラグ、溶銑予備処理スラグ)を排滓した後は、溶融状態にて外部へ排出し、これにより、排滓容器1の内壁(鉄皮の内壁)を溶銑スラグS1によってコーティングする。外部へ排出した溶銑スラグS1については、水砕して乾燥後にコンクリ−ト用材等に再利用する。
高炉より出湯された溶銑若しくは溶銑予備処理後の溶銑については当業者常法通りに転炉等にて吹錬(一次精錬)を実施後、溶鋼を取鍋内に出鋼する。一次精錬時には 必要に応じて合金の添加も行うと共に、溶鋼の出鋼時にも出鋼時に合金の添加を行う。例えば、出鋼時に焼石灰と合成フラックスを所定の比率にて投入量の合計が1.3〜7.0kg/tとなるように添加する。焼石灰(生石灰)は、例えば、CaO:96質量%、Mg0:1質量%、SiO2:1質量%、その他:2.0質量%を用いた。焼石灰を投入する際は、溶融をし易くするために、合成フラックスを先に添加し、その後に焼石灰を添加した。
【0056】
このとき、合成フラックスについては、より滓化性を上げる(出鋼後にある程度滓化させる)ため、プリメルト材を使用した。合成フラックスは、CaO:45〜49質量%、Al2O3:36〜40質量%、SiO2:4質量%以下、MgO:12〜17質量%、TiO2:0.1質量%以下のものを使用し、F溶出量の抑制効果が分かるように、通常よりフッ素含有率の高いスラグを使用した。合成フラックスを使用するにあたっては、予めJISG1258「ICP発光 分光 分析方法」により組成が上記範囲にあるか確認した上で使用した。
【0057】
溶鋼を受鋼する取鍋については、縦横比が0.8〜1.2の範囲の円筒状のものを用いた。取鍋の耐火物は、MgO-C質耐火レンガを用いた。この耐火レンガは、MgO:75質量%、FC:15質量%、Al2O3:6質量%、その他:2.0質量%のものを用いた。スラグラインのMgO−C質の耐火物を用いることは、「取鍋精錬法 取鍋精錬法の発展を支えた技術 p241 日本鉄鋼協会監修 梶岡博幸著 1997年、地人社発行」に記載されている一般的なことであり、MgO−C質の組成は上述したものに限定されない。
【0058】
また、取鍋は90tonクラスの大きさのものを用いた。取鍋は、溶鋼を払い出した後、取鍋の表面温度が約1000℃以下に下がりきらないうちに溶鋼の受鋼するという連続使用(熱間にて連続使用)とするか、又は、溶鋼を受鋼する前に予め取鍋を温めた後に溶鋼を受鋼するという予熱使用とした。予熱使用は、例えば、耐火物の施工後、表面温度を1000℃以上に加熱してから溶鋼を受鋼する方法(新鍋加熱方法)と、溶鋼を払い出した後に表面温度が一旦1000℃以下となってしまった取鍋に対して1000℃以上に再加熱してから溶鋼を受鋼する方法(非連続方法)とがあり、操業状況に応じて新加熱方法と非連続方法とのどちらも適用した。
【0059】
転炉にて一次精錬後は溶鋼を取鍋に出鋼し、取鍋を二次精錬装置(二次精錬工程)に移動させ、二次精錬では、例えば、当業者常法通りにアーク加熱方式二次精錬装置(LF装置)を用いて、溶鋼の温度又は成分調整処理を実施した。また、二次精錬では、必要に応じ真空脱ガス処理を行い、溶鋼内に残る溶存酸素の安定化を図った。真空脱ガス処理とは、合金鋼など、より低水素を必要とする鋼種に対し、真空引きすることによって溶鋼内の脱水素を図る処理であり、清浄鋼のように鋼中酸素レベルの低減と巨大介在物低減を行う場合にも行う処理である。真空下で溶鋼を攪拌することにより、溶鋼内のAl2O3をスラグに吸着させる。
【0060】
LF装置では、上述したように、溶鋼に対してAlの投入による脱酸を行った。また、LF装置では溶鋼を1500〜1650℃(液相線温度+50度以上)まで加熱し、成分調整後は十分な攪拌を行って、溶鋼を連続鋳造装置へ搬送した。
連続鋳造装置では、当業者常法通りに、取鍋を介して溶鋼をタンディッシュに注入した後、溶鋼を鋳型へ装入することにより鋳造を行った。タンディッシュへの溶鋼の注入を完了した取鍋は、排鋼、排滓した後に当業者常法通りに取鍋の整備を行った。
【0061】
取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入後、取鍋内に残った取鍋精錬スラグS2や一部残存した溶鋼は、溶銑スラグS1でコ−ティングされた排滓容器1に排滓し、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とが反応して混合スラグを生成した。
排滓容器1への取鍋精錬スラグS2の排滓は、排滓容器1が一杯になるまで繰り返し行った。排滓容器1が一杯(満杯)になると排滓容器1は新しいものに交換した。なお、溶銑スラグS1で排滓容器1をコーティングすると溶鋼が排滓容器1に焼き付いてしまうことを防止することができる。
【0062】
連続鋳造後の鋳片(鋼片)は、分塊圧延を行い、酸素分析については鋼片のD/8にて切り出しを行いJIS Z 2613「金属材料の酸素定量方法通則」により定量分析を行った。なお、鋼種はS45Cについて評価した。
溶銑スラグS1に取鍋精錬スラグS2を熱間で混合した直後は、排滓容器1内に溶鋼等が溶融状態で存在しているため、水蒸気爆発を防止する観点より、混合スラグを冷却(固化)した後、外部に排出した。混合スラグの排出後は、破砕、水冷(水和処理)、磁選、空冷を行い、フッ素については、土壌環境基準の検定方法である環境庁告示第46号に則した溶出試験方法に基づいて測定した。なお、フッ素の溶出量の上限は、環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項に示されたもの(土壌環境基準)を基準すると0.8mg/L以下である。
【0063】
フッ素の溶出量を満たした混合スラグは、土工用や路盤材の材料として出荷した。 また、一部の混合スラグについては、破砕・選別を行い粒度調整もしくは造粒を行い、二次精錬のCaO源として再利用した。空となった排滓容器1は、再び溶銑スラグS1を受滓して繰り返し使用した。
溶銑スラグS1、取鍋精錬スラグS2、混合スラグについては、当業者常法通り、イオンクロマトグラフ法や高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により、成分や溶出量について分析を行った。
【0064】
また、水和処理の有無によってフッ素の溶出量がどのように変化しているか評価を行うため、第1に、20%の水をかけて1週間静置させるという水和処理を行った混合スラグに対してフッ素の溶出試験を行うパターンと、第2に、冷却した混合スラグをそのままフッ素の溶出試験を行うパターンとに分けた。
さらに、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを熱間で混合した場合と、熱間で混合しなかった場合との比較を行うために、冷却後の溶銑スラグS1と冷却後の取鍋精錬スラグS2とを混合した後、その混合スラグについてフッ素の溶出試験を行うというパターンも加えた。
【0065】
なお、フッ素溶出試験は、環境省告示第6号に従ったもので、例えば、スラグ50gを水450gで10倍に薄め6時間水和及び溶出させた後、ろ過水についてフッ素の濃度をイオンクロマトグラフ法を用いて測定した。
表2は、上述した実施条件に基づき、本発明のリサイクルスラグの製造方法にてリサイクルスラグの製造を行った実施例と、本発明のリサイクルスラグの製造方法とは異なる方法でリサイクルスラグの製造を行った比較例とを示したものである。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
比較例1及び12では、取鍋精錬スラグS2の塩基度が3未満であったため、溶鋼の精錬性能が低下し、二次精錬にて鋼中酸素レベルを9ppm以下にすることができなかった(溶鋼処理性の欄、精錬×)。加えて、比較例1及び12では、混合スラグのAl2O3が16質量%未満であると共にSiO2が26質量%を超えているため、F溶出量を環境基準(土壌環境基準)である0.8mg/L以下にすることができなかった(フッ素溶出量の欄)。
【0069】
比較例2,10,13,20では、取鍋精錬スラグS2のAl2O3が48質量%を超えているため、溶鋼中のAl2O3介在物を付着除去する能力が低下し、二次精錬にて鋼中酸素レベルを9ppm以下にすることができなかった。
比較例5及び16では、取鍋精錬スラグS2のSiO2が16質量%を超えており、1500℃において液相線を越えることから、スラグによる精錬能力が低下し、二次精錬にて鋼中酸素レベルを9ppm以下にすることができなかった。
【0070】
比較例22では、取鍋精錬スラグS2のMgOが11質量%を超えているため、スラグの流動性が悪くなり、二次精錬にて鋼中酸素レベルを9ppm以下にすることができなかった。加えて、比較例22では、混合スラグのMgOが10質量%を超えているため、ゲーレナイトの生成が抑制されてしまい、その結果、F溶出量を環境基準である0.8mg/L以下にすることができなかった(フッ素溶出量の欄)。
【0071】
比較例25では、混合スラグのCaOが52質量%を超えているため、ゲーレナイトが十分に生成されず(ゲーレナイト水和物の有無)、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。比較例26では、混合スラグのCaOが34質量%未満であるため、スラグの溶出性がやや高くなり、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0072】
比較例27では、混合スラグのAl2O3が25質量%を超えているため、ラグの溶出性がやや高くなり、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。比較例28では、混合スラグのAl2O3が16質量%未満であるため、ゲーレナイトが十分に生成されず、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
比較例29では、混合スラグのSiO2が26質量%を超えているため、溶銑スラグS1と同じように混合スラグが水に溶け易くなり、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。比較例30では、混合スラグのSiO2が18質量%未満であるため、ゲーレナイトが十分に生成されず、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0073】
比較例31では、混合スラグのMgOが10質量%を超えているため、ゲーレナイトの生成が抑制されてしまい、その結果、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
比較例32は、溶銑スラグS1を混合せずに取鍋精錬スラグS2のみであったため、ゲーレナイトが十分に生成されず、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0074】
比較例33及び34では、混合スラグについて水和処理を行ったものの、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合することによって混合スラグを生成する際に熱間で混合していない(スラグの混合の欄)ため、ゲーレナイトの水和物が生成されなかった(フッ素の抑制をするゲーレナイトがではない)。その結果、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0075】
比較例35及び36では、水和処理を行っていないため、フッ素を固定化するゲーレナイトの水和物が十分にできず、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
比較例37及び38では、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを熱間で混合せず、しかも、水和処理も行わなかったため、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0076】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0077】
1 排滓容器
S1 溶銑スラグ
S2 取鍋精錬スラグ
S3 リサイクルスラグ
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルスラグの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高炉にて溶銑を溶製したり、転炉にて一次精錬を行ったりすると、高炉スラグや転炉スラグなどの製鋼スラグが生成される。このような製鋼スラグは、転炉スラグとして再利用されたり、路盤材などに再利用されるのが一般的である。しかしながら、再利用されるスラグ、即ち、リサイクルスラグをそのまま路盤材の材料として使用したとき、環境に問題とされるフッ素の溶出が発生することがある。
【0003】
そのため、処理後のスラグを、路盤材の材料として使用する場合には、処理後のスラグの改質を行うことによってフッ素の溶出を抑制することが必要である。フッ素の溶出を抑制する技術として、例えば、特許文献1〜7に示すものがある。
特許文献1では、転炉スラグと高炉滓または脱珪滓とを同一ピットまたはヤードに放出し、その直後、溶融または半溶融状態の該スラグを耕耘することによって転炉スラグと高炉滓または脱珪滓とを混合してスラグの改質を行っている。
【0004】
特許文献2では、溶融状態にある高炉スラグに対し、高炉外で、塩基度が相対的に高い物質を作用させ、高炉スラグ中の酸性成分と塩基度が相対的に高い物質中の塩基性成分とを、高炉スラグのもつ顕熱を利用して反応させることによって高炉スラグからリサイクルスラグを得ることができるようにしている。
特許文献3では、フッ素含有製鋼スラグと石炭灰を溶融状態の高炉滓に同時に添加して溶解した後、冷却固化することによってフッ素濃度が2.5質量%以下の高炉滓を得ることができるようにしている。
【0005】
特許文献4では、高炉徐冷スラグ10〜90質量%に対し、製鋼スラグ90〜10質量%を含有させている。
特許文献5では、製鋼系スラグに対する高炉水砕スラグ及びフライアッシュの中から選ばれる1種以上の混合率が、製鋼系スラグ量の1〜50重量%としている。
特許文献6では、被処理材たるフッ素を含む製鋼スラグに、CaO・Al2O3、5CaO・3Al2O3、12CaO・7Al2O3、9CaO・5Al2O3、2CaO・Al2O3、3CaO・Al2O3、もしくはこれらの混合物、またはこれらの水和物を含む粉末と、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰の1種又は2種以上の組合せとをいずれも添加することによって、前記フッ素の溶出を抑制している。
【0006】
特許文献7では、製錬炉による溶鋼の処理が行われた際に発生する被処理剤である転炉スラグまたは電気炉スラグに、CaO、Al2O3、金属AlおよびAl滓の少なくとも1種を添加することによって、質量%で、CaO:45〜60%、Al2O3:30〜55%、SiO2:10%以下、およびT.Fe:3%以下を含有するとともに、3CaO・Al2O3、12CaO・7Al2O3、CaO・Al2O3、5CaO・3Al2O3、9CaO・5Al2O3、2CaO・Al2O3のうちの少なくとも1種を鉱物相として含む、フッ素を含む製鋼スラグの安定化剤を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−329451号公報
【特許文献2】特開平10−279331号公報
【特許文献3】特開2007−22818号公報
【特許文献4】特許第4264523号公報
【特許文献5】特開2001−72447号公報
【特許文献6】特許第3606108号公報
【特許文献7】特許第3606107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1〜3では、例えば、高炉スラグ、転炉スラグのような2つのスラグを混合し、これによって、フッ素の溶出が抑制された混合スラグを生成して、この混合スラグをリサイクルスラグとして使用できるようにしている。
しかしながら、特許文献1〜3では、2つのスラグを混合することによってスラグの改質を行うという考えが示されているだけであって、1つめのスラグの化学成分範囲(組成範囲)や2つめのスラグの化学成分範囲が詳しく開示されていない。ゆえに、特許文献1〜3の技術を用いても、スラグの改質を確実に行うことができないのが実情である。
【0009】
また、特許文献4には、混合スラグの化学成分が開示されているものの、どのようなスラグを混合してスラグの改質を行っているか開示されておらず、当該特許文献4の技術を用いても、特許文献1〜3と同様にスラグの改質を確実に行うことができないのが実情である。
さて、特許文献5〜7には、高炉スラグや精錬スラグの組成、2つのスラグを混合することが記載されているものの、これらの技術を用いても、未だスラグの改質を確実に行うことができないのが実情である。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、リサイクルスラグを製造するに際し、製銑処理及び製鋼処理に優れるように規定された溶銑スラグ及び取鍋精錬スラグの2つのスラグを混合することによって、特に路盤材用に使用されるフッ素の溶出が少ないリサイクルスラグを製造可能とするリサイクルスラグの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、リサイクルスラグを製造するに際し、化学成分が、CaO:24〜50質量%、Al2O3:1〜16質量%、SiO2:17〜38質量%、MgO:0.3〜10質量%であって残部が不可避不純物であり且つCaO/SiO2:1〜2となる溶銑スラグを排滓容器に投入して当該溶銑スラグによって前記排滓容器の内面をコーディングし、化学成分が、CaO:33〜66質量%、Al2O3:22〜48質量%、SiO2:3〜16質量%、MgO:5〜11質量%であって残部が不可避不純物であり且つCaO/SiO2:3以上となる取鍋精錬スラグを、前記溶銑スラグによってコーティングされた排滓容器に溶融状態で装入し、混合した混合スラグの化学成分が、CaO:34〜52質量%、Al2O3:16〜25質量%、SiO2:18〜26質量%、MgO:6〜10質量%であって残部が不可避不純物となるようにし、前記混合スラグを冷却後に水和処理を行う点にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リサイクルスラグを製造するに際し、製銑処理及び製鋼処理に優れるように規定された溶銑スラグ及び取鍋精錬スラグの2つのスラグを混合することによって、特に路盤材用に使用されるフッ素の溶出が少ないリサイクルスラグを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】スラグの改質の手順を示した概略図である。
【図2】取鍋精錬スラグにおいてMgOが5質量%及び10質量%であるときの1500℃における液相領域を表したCaO,SiO2,Al2O3の三元系状態図である。
【図3】取鍋精錬スラグのMgOの量と液相率との関係図である。
【図4】スラグ混合率とフッ素の溶出量(F溶出量)との関係図である。
【図5】各スラグ組成についてCaO,SiO2,Al2O3の三元系に換算した状態図である。
【図6】(a)F溶出試験後に残渣した混合スラグのSEMの画像、(b)SEM画像に対してEPMAによるマッピング処理を行ってフッ素が存在する領域を抽出した画像である。
【図7】(a)スラグ中のAl2O3濃度とAl溶出量との関係図、(b)スラグ中のAl2O3濃度とAl溶出率との関係図である。
【図8】(a)スラグ中のAl2O3濃度とCa溶出量との関係図、(b)スラグ中のAl2O3濃度とCa溶出率との関係図である。
【図9】(a)スラグ中のAl2O3濃度とF溶出量との関係図、(b)スラグ中のAl2O3濃度とF溶出率との関係図である。
【図10】スラグ中のAl2O3濃度と各スラグのF溶出率との関係図である。
【図11】水和処理とF溶出量との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
製鋼の様々な処理によって生成されるスラグにフッ素が含有されていると、当該スラグを路盤材の材料として再利用したときにフッ素の溶出が懸念される。そのため、従来の技術では、例えば、二次精錬にて、融点を下げるために使用されてきたCaF2(蛍石)を使用しない精錬方法を考え、精錬処理の工夫をすることによって処理後のスラグにフッ素が含まれないようにしていた。
【0015】
しかしながら、CaF2を使用しない二次精錬を考えて処理したとしても、スラグの元となる原料(例えば、石灰)や耐火物、合金鉄に不可避的に微量のフッ素が含まれているため、処理後のスラグには、どうしてもフッ素が含まれてしまう結果となってしまっていた。
そこで、本発明では、原料由来のフッ素によって不可避的にスラグ中に含有されてしまうフッ素を出来るだけ溶出しないように、処理後のスラグを改善する方法、即ち、リサイクルスラグの製造方法を見出した。
【0016】
具体的には、処理後の2つのスラグを混合することによって、フッ素の溶出が非常に少ないスラグを生成し、処理後の2つのスラグをリサイクルスラグとして使用できるようにした。
図1に示すように、まず、高炉にて溶銑を製銑したときに発生した溶銑スラグS1を排滓容器1に排滓して、当該溶銑スラグS1によって排滓容器1の内側表面(内壁側の表面)をコーティングする。その後、内側表面がコーティングされた排滓容器1に取鍋精錬スラグS2を溶融状態にて装入することによって、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合し、この混合スラグを水和処理することによって、フッ素の溶出が抑制されたリサイクルスラグS3を製造している。
【0017】
以下、リサイクルスラグの製造方法について詳しく説明する。
[溶銑スラグについて]
2つのスラグを混合するにあたって、1つめのスラグは、CaO/SiO2(塩基度)が1〜2であって、塩基度が低い溶銑スラグS1である。この溶銑スラグS1は、例えば、溶銑を製銑したときに発生する高炉スラグである。
【0018】
詳しくは、溶銑スラグS1の化学成分(組成)は、CaO:24〜50質量%、Al2O3:1〜16質量%、SiO2:17〜38質量%、MgO:0.3〜10質量%であって、残部が不可避不純物である。
溶銑スラグS1について、高炉スラグを例にとり説明する。
CaOは、コークスに含有される硫黄を除去したり、鉄鉱石に含有される不純物を除去するために高炉中に投入されるものである。
【0019】
Al2O3は、溶銑の原料となる鉄鉱石に含まれている。高炉では、鉄鉱石は炭素(COガス)との反応によってFetOの還元反応が起こり、鉄鉱石に含有されている他の成分も一部還元されて溶銑中に含まれることになるものの、Al2O3は高炉において還元反応が起こりにくいことから、高炉スラグに溶け込むことになる。
SiO2は、Al2O3と同様に鉄鉱石に含まれている。SiO2も鉄鉱石が還元されるときに溶銑中に含まれることになるものの、Al2O3と同様に高炉スラグに溶け込むことになる。
【0020】
MgOは、鉄鉱石や高炉内の耐火物中に含まれるものであり、高炉では、還元されずに高炉スラグに溶け込むことになる。
残部は、不可避的不純物であって、例えば、FeO、MnO、CaS、P2O5、TiO2、Na2Oなどである。
溶銑スラグS1のCaO/SiO2(塩基度)は、高炉にて溶銑を製銑するときに当該高炉に投入する生石灰により調整されるものである。
【0021】
なお、溶銑スラグS1は、上述した組成範囲内を満たすものであれば、高炉スラグだけでなく、高炉鋳床にて溶銑の脱珪処理をしたときに発生する高炉床脱珪スラグであっても、二次精錬の前に取鍋や混銑車にて溶銑の処理を行ったときに発生する溶銑予備処理スラグであってもよい。
[取鍋精錬スラグについて]
2つめのスラグは、取鍋精錬を行ったときに発生する取鍋精錬スラグS2である。
この取鍋精錬スラグS2は、主にCaOを主成分としていて、取鍋精錬の際にSi又はAlによって溶鋼の脱酸を行ったりするために使用されたものであり、CaO-Al2O3-SiO2-MgO系のスラグである。また、取鍋精錬スラグS2は、低酸素及び/又は低硫鋼を溶製するために、例えば、二次精錬時に用いられるものである。
【0022】
詳しくは、取鍋精錬スラグS2の化学成分(組成)は、CaO:33〜66質量%、Al2O3:22〜48質量%、SiO2:3〜16質量%、MgO:5〜11質量%であって、残部は不可避不純物である。取鍋精錬スラグS2について説明する。
転炉や電気炉から溶鋼を出鋼したとき、当該転炉や電気炉内のスラグ(含SiO2)、取鍋に付着したスラグ、取鍋に残った残鋼(含酸化したFetO)等によって溶鋼は酸化し、溶鋼内の酸素濃度が高くなりやすい。
【0023】
そこで、二次精錬では、CaOを含有する取鍋精錬スラグS2とAlとを用いて、3SiO2+4Al=3Si+2Al2O3、3FetO+2Al=3tFe+Al2O3に示すような反応により溶鋼やスラグの脱酸を行うことによって溶鋼中のOt(鋼中酸素レベル)を低下させるという処理を行い、低酸素鋼を溶製することとしている。
このように低酸素鋼を溶製するためには、鋼中酸素レベルの目標値は、特許3018355号公報や特開2006−200027公報に開示されているように、一般的に9ppmとされている。そして、鋼中酸素レベルを9ppm以下にするためには、取鍋精錬スラグS2の塩基度は高塩基度であることが望ましく、具体的には、塩基度は3以上にする必要がある。加えて、低硫鋼を溶製するためにも塩基度は3以上にする必要がある。
【0024】
また、取鍋精錬スラグS2の生石灰(CaO)は、Al2O3との反応性が高く、Alによる脱酸時に溶鋼中に発生するAl2O3(介在物)を吸着させることから、CaOの量はSiO2に比べて多くすることが好ましい。つまり、取鍋精錬を行うにあっては、CaOが比較的多いCaOリッチすることが望ましく、CaOは、33〜66質量%にすることが好ましい。
【0025】
上述したように、取鍋精錬スラグS2においては、CaOに比べてSiO2の量が少ないことが望ましいが、転炉などの一次精錬が終了して溶鋼を出鋼する際に、転炉の処理で生成した転炉スラグが不可避的に入り、取鍋精錬スラグS2のSiO2の量は最低でも3質量%以上となる。加えて、安定して塩基度を3以上にするためには、SiO2を16質量%以下にすることが望ましい。
【0026】
Al2O3は、SiO2と同様に融点を下げる効果があり、CaOが1500℃程度で溶融できるように必要なものであるが、取鍋精錬スラグS2中のAl2O3の量が多く、Al2O3が飽和状態に近づくと、Al2O3の活量が増加し、溶鋼中のAl2O3系介在物と当該取鍋精錬スラグS2との付着除去性(例えば、吸着する時間が非常に長くな)が低下することになる。即ち、取鍋精錬スラグS2中のAl2O3濃度が多すぎると脱酸効果が抑制されることから、実操業から見ると、取鍋精錬スラグS2中のAl2O3は48質量%以下にする必要がある。
【0027】
図2は、取鍋精錬スラグS2において取鍋精錬スラグにおいてMgOが5質量%及び10質量%であるときの1500℃における液相領域を表したCaO,SiO2,Al2O3の三元系状態図である。
図2に示すように、上述したCaO,SiO2,Al2O3の範囲をまとめると、MgOが5質量%であるときは、取鍋精錬スラグS2のCaO,SiO2,Al2O3は範囲Aとなり、MgOが10質量%であるときは、取鍋精錬スラグS2のCaO,SiO2,Al2O3は範囲Bとなる。
【0028】
また、取鍋精錬を行う場合、取鍋の耐火物はMgO系のものであるため、耐火物の溶損を出来るだけ防止するため、MgOを添加する。取鍋精錬スラグS2中のMgO(%MgO)を5質量%以上とすると耐火物の溶損を抑制することができる。
しかしながら、図3に示すように、MgOの添加量が多すぎて、鍋精錬スラグ中のMgO(%MgO)を11質量%よりも大きくなってしまうと、固化してスラグの流動性が悪くなり、液相率を100%未満となってしまうことがある。そのため、取鍋精錬スラグS2中のMgOは、11質量%以下にする必要がある。
【0029】
なお、スラグの液相率は、スラグ中の液相の比率を示すもので、スラグ中の化学成分を基に、熱力学平衡計算ソフトウェア(FactSage Ver.6.0)にて求めることができる。一般的に、スラグの液相率が0%に近くなればなるほどスラグの溶融性が悪い状態を示し、スラグの液相率が100%に近くなればなるほどスラグの溶融性が良く、特に、スラグの液相率が100%であるときは、スラグの流動性(反応性)が高いと考えられている。例えば、スラグの液相率が100%であるときは、取鍋精錬スラグS2によって溶鋼をカバーし続けることができ、取鍋精錬スラグS2の排滓時には取鍋内に当該取鍋精錬スラグS2が残りにくいという利点もある。
【0030】
残部は、不可避的不純物であって、例えば、FetO、MnO、Na2Oなどである。転炉から溶鋼を出鋼したときに不可避的に転炉スラグが混入したり、取鍋精錬時などに取鍋の耐火物から溶出が発生したり、或いは、一部の化合物が再酸化することによって、取鍋精錬スラグS2には、どうしても上述したような不可避不純物が微量含まれてしまう。
[混合スラグについて]
本発明では、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合することによって、フッ素溶出が抑制できる新たなスラグ(混合スラグ)を生成することとしている。
【0031】
詳しく説明すると、まず、スラグが入っていない排滓容器1に、言い換えれば、スラグ排滓後の排滓容器1に溶銑スラグS1を装入する。そして、排滓容器1内の溶銑スラグS1が溶融状態であるとき(全ての溶銑スラグS1が固化しないうちに)、例えば、排滓容器1を傾けることにより、排滓容器1内の溶銑スラグS1を外部へ排滓し、これにより、排滓容器1の内壁全周に溶銑スラグS1を付着させ、当該内壁を溶銑スラグS1によってコーディングする。
【0032】
なお、排滓容器1の内壁を溶銑スラグS1にてコーディングすれば良いため、コーディングする方法は、どのような方法であってもよい。例えば、排滓容器1の一杯に溶銑スラグS1を装入した後、排滓容器1を傾けて溶銑スラグS1を排出することにより、排滓容器1の内壁の上端部まで溶銑スラグS1によってコーディングしてもよい。
次に、溶銑スラグS1によって内壁がコーディングされた排滓容器1に取鍋精錬スラグS2を装入する。取鍋精錬スラグS2は、取鍋精錬中は溶融状態であるが、取鍋から排出後、次第に冷却されて固化し始める。取鍋精錬スラグS2が完全に固体化してしまうと溶銑スラグS1とは反応し難くなるため、例えば、取鍋精錬スラグS2が1400℃以上であって溶融状態にあるときに、当該取鍋精錬スラグS2を排滓容器1に入れ、溶銑スラグS1と混合する。取鍋精錬後の溶鋼の温度は、大凡1500℃程度である。
【0033】
図4は、スラグ混合率とフッ素の溶出量(F溶出量)との関係を示したものである。図4において、スラグ混合率が0%ということは、取鍋精錬スラグS2が100%であることを示し、スラグ混合率が100%ということは、溶銑スラグS1が100%であることを示している。即ち、スラグ混合率が0%及び100%は、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを全く混合しなかった場合を示している。
【0034】
図4に示すように、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合する状況を考えたとき、本発明のように溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを高温で溶融混合した場合は、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを固体同士で混合した場合(物理的混合)に比べてF溶出量を抑えることができる傾向にある。
例えば、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2との両者を粉末(粒状)にして混合(物理的混合)するよりも、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを高温で溶融混合する方がF溶出量を抑えることができる。なお、溶融混合(溶融状態で混合する)とは、溶銑スラグS1又は取鍋精錬スラグS2の少なくとも一方が混合するときに溶融状態であればよい。混合する際には高融点の取鍋精錬スラグS2が溶融状態であるとなおよい。
【0035】
取鍋精錬スラグS2を排滓容器1に入れる方法は、特に限定されない。例えば、取鍋内の取鍋精錬スラグS2を外部へ排滓するときに、取鍋内の取鍋精錬スラグS2を直接排滓容器1に入れても良いし、一旦、取鍋内の取鍋精錬スラグS2を別の容器に入れて、その後、別の容器内の取鍋精錬スラグS2をコーティングされた排滓容器1に入れてもよい。取鍋内の取鍋精錬スラグS2を直接排滓容器1に入れる場合には、取鍋精錬スラグS2の温度低下を防止するために、熱源として溶鋼を取鍋内に残し、取鍋精錬スラグS2の流動性を確保することが好ましい。
【0036】
混合スラグの化学成分(組成)は、CaO:34〜52質量%、Al2O3:16〜25質量%、SiO2:18〜26質量%、MgO:6〜10質量%であって残部が不可避不純物である。
このように、混合スラグの化学成分を上述したような範囲にすると、混合スラグ中にゲーレナイトが生成される。即ち、図5に示すように、溶銑スラグS1、取鍋精錬スラグS2を1400℃以上の溶融状態にて混合すると共に混合スラグを上述した範囲にすれば、ゲーレナイトを有する混合スラグを生成することができる。
【0037】
ゲーレナイトは、モル分率でCaO:Al2O3:SiO2=2:1:1の比率となる鉱物(C2AS)であり、水和後はC2AS・8H2O(Stratlingite)となる。ゲーレナイトは、水溶性が低いと共に水和後はフッ素が溶出しないように固定化する役割がある。
図6は、混合スラグについてフッ素の溶出試験を行ったときに残渣したものについてまとめたものである。詳しくは、図6(a)は、残渣した混合スラグのSEM(Scanning Electron Microscope)による画像であり、図6(b)は、フッ素についてEPMAにてマッピングをかけた画像を示している。
【0038】
図6(a)、(b)に示すように、混合スラグを見ると、矢印Aに示すように、フッ素が集中している部分がある。フッ素が集中している部分の組成比率をEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)にて解析すると表1に示すものとなった。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、フッ素が集中している部分の結晶構造は、ゲーレナイトの水和物であるストラットリンガイトであり、このストラットリンガイトによってフッ素の溶出を抑えることができる。
このように、ストラットリンガイトのような水和物を生成し、ストラットリンガイトでフッ素を固定化することによりフッ素の溶出を抑えることができる。
【0041】
次に、ゲーレナイトが生成される混合スラグの組成について説明する。
CaOが34質量%未満であると、混合スラグからの溶出性(溶け出やすさ)がやや高くなるため、F溶出量が僅かであるが増加する。また、CaOが52質量%を超えると、F溶出量が僅かであるが増加することがあり、ゲーレナイトの生成が抑止されてフッ素の固定化が不足したと考えられる。そのため、CaOは、34〜52質量%にすることが好ましい。
【0042】
Al2O3が16質量%未満であると、F溶出量が僅かであるが増加することがあり、これは、C2Sが多い(C2Sリッチ)となったことにより、ゲーレナイトの生成が抑制されたことが原因と考えられる。また、スラグ中のAl2O3濃度は25質量%を超えると、後述するように、F溶出率が増加する。そのため、Al2O3は、16〜25質量%であることが好ましい。
【0043】
SiO2が18質量%未満であると、F溶出量が僅かであるが増加することがあり、ゲーレナイトの生成が抑止されてフッ素の固定化が不足したと考えられる。また、SiO2が26質量%を超えると、溶銑スラグS1と同様に比較的、混合スラグが水へ溶け易くなるため、F溶出量が僅かであるが増加する。そのため、SiO2は、18〜26質量%にすることが好ましい。
【0044】
MgOが10質量%を超えてしまうと、F溶出量は著しく高くなった。MgOが増加するとゲーレナイトの生成が抑制されるため、混合スラグの溶出がし易くなり、その結果、F溶出量が多くなる。また、上述した溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合した場合は、実操業からするとMgOが6質量%を下回ることはないのが実情である。
残部は、不可避的不純物であって、溶銑スラグS1や取鍋精錬スラグS2に不可避的に混入したものが微量に含まれてしまう。
【0045】
このように、混合スラグ中にゲーレナイトを生成させることによってF溶出量を抑えることができる。発明者は、ゲーレナイトの生成の他に、スラグからの溶出性を抑えるファクターに着目し、様々な実験を行った。
図7〜9は、様々な実験の結果をまとめたものであって、スラグ中のAl2O3濃度とスラグから水へ溶け出す成分についてまとめたものである。
【0046】
図7(a)に示すように、溶銑スラグS1、取鍋精錬スラグS2、混合スラグのいずれのスラグにおいても、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、水溶液中のAl溶出量が増加している。図7(b)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、Alが溶け出している割合(Al溶出率)も増加している。なお、Al溶出率は、スラグに含まれるAlのうち、水に溶け出したAlの割合である。
【0047】
スラグ中のAl2O3濃度とCa溶出量との関係についても調査を行ったところ、図8(a)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、水溶液中のCa溶出量が増加している。図8(b)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、Caが溶け出している割合(Ca溶出率)も増加している。なお、Ca溶出率は、Al溶出率と同様に、スラグに含まれるCaのうち、水に溶け出したCaの割合である。
【0048】
このようなことから、スラグ中のAl2O3濃度がAlやCaの溶け出しに影響していることが分かる。
そこで、スラグ中のAl2O3濃度と、フッ素溶出量(F溶出量)についても調べたところ、図9(a)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、水溶液中のフッ素溶出量が増加している。図9(b)に示すように、スラグ中のAl2O3濃度が増加するにつれて、フッ素が溶け出している割合(F溶出率)も増加している。なお、F溶出率は、Al溶出率やCa溶出率と同様に、スラグに含まれるFのうち、水に溶け出したFの割合である。
【0049】
図10は、スラグ中のAl2O3濃度と、各スラグ(溶銑スラグS1、取鍋精錬スラグS2、混合スラグ)におけるフッ素溶出率についてまとめたものである。
図10に示すように、スラグ中のAl2O3が25質量%を超えると急激にF溶出率が増加していることから、スラグ中のAl2O3濃度を25質量%以下とすることによってスラグの溶出性を抑えることができる。
【0050】
[水和処理について]
上述したように、ゲーレナイトを生成できるようにしたり、スラグ中のAl2O3濃度を25質量%以下にすることによってスラグの溶出性を抑えることによってフッ素の溶出を抑制できるようにしているが、本発明では、さらに、混合スラグに対して水和処理を行うことによりフッ素を固定化するゲーレナイトの水和物を生成することにより、フッ素の溶出を抑制することとしている。詳しくは、まず、排滓容器1内で溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを溶融状態で混合後、排滓容器1を冷却して混合スラグを取り出す。そして、混合スラグを細かく粉砕すると共に、Feを除去する磁選処理を行う。粉砕後の混合スラグに、例えば、質量比で大凡20%の水をかけて1週間放置し、混合スラグ内にゲーレナイト水和物を生成させる。
【0051】
図11は、水和処理とF溶出量との関係をまとめたものである。図11に示すように、混合スラグに対して水和処理を行わなかった場合、F溶出量は土壌環境基準で定められている0.8mg/Lを超えてしまう。一方、混合スラグに対して水和処理を行った場合、F溶出量を土壌環境基準である0.8mg/L以下にすることができ、特に、水分量が多く且つ水和処理の時間が長い場合は、F溶出量を抑えることができる。
[実施例]
次に、リサイクルスラグの製造を行うまでの製鋼条件(製鋼実施条件)と、リサイクルスラグの製造を行う実施条件(リサイクル製造実施条件)とについて説明する。
【0052】
スラグを装入する排滓容器1は、数回スラグを受滓しても変形しないよう変形対策を施したもので、搬送や傾転できるように台車に載せられたものを使用した。排滓容器1は、C=0.2質量%、Si=0.3質量%、Mn=0.6質量%を含有する鋳鋼により形成したものを用いた。排滓容器1の内壁を溶銑スラグS1によりコーティングし、その後は、取鍋精錬スラグS2を数回に渡って受け、取鍋精錬スラグS2が満載になるとスラグを排滓する排滓場へと移動させた。
【0053】
高炉の操業では、当業者常法通りに高炉上部より、ペレット、鉄鉱石、石炭、コークス、石灰等の原料を投入して溶銑を製銑した。高炉の側部より送風を行うと共に溶銑を出銑した。高炉より出銑後は、高炉鋳床に設けたスキンマ−(比重分離堰)を用いて溶銑と高炉スラグとを分離し、分離した高炉スラグは、排滓容器1に排滓した。なお、この実施形態では、高炉スラグのみを溶銑スラグS1として排滓容器1に排滓することとしている。
【0054】
また、出銑した溶銑に対しては、鋼種に応じて溶銑中のSiを下げるためCaOやFeOを投入して溶銑の脱珪処理を行った。なお、上述した組成の範囲内であれば、脱珪処理に用いた高炉床脱珪スラグを、高炉スラグと同様に排滓容器1に排滓した後、取鍋精錬スラグS2と混合して混合スラグを生成してもよい。
脱珪処理を行ったときに発生した高炉床脱珪スラグも排滓容器1に装入した。脱珪処理後の溶銑は、取鍋や混銑車(トピ−ドカー)に装入し、当業者常法通りに吹錬を実施し、Si、P、Sなどの不純物の除去(溶銑予備処理)を行った。なお、上述した組成の範囲内であれば、溶銑予備処理にて発生した溶銑予備処理スラグも、高炉スラグと同様に排滓容器1に排滓した後、取鍋精錬スラグS2と混合して混合スラグを生成してもよい。
【0055】
排滓容器1に溶銑スラグS1(高炉スラグ、高炉床脱珪スラグ、溶銑予備処理スラグ)を排滓した後は、溶融状態にて外部へ排出し、これにより、排滓容器1の内壁(鉄皮の内壁)を溶銑スラグS1によってコーティングする。外部へ排出した溶銑スラグS1については、水砕して乾燥後にコンクリ−ト用材等に再利用する。
高炉より出湯された溶銑若しくは溶銑予備処理後の溶銑については当業者常法通りに転炉等にて吹錬(一次精錬)を実施後、溶鋼を取鍋内に出鋼する。一次精錬時には 必要に応じて合金の添加も行うと共に、溶鋼の出鋼時にも出鋼時に合金の添加を行う。例えば、出鋼時に焼石灰と合成フラックスを所定の比率にて投入量の合計が1.3〜7.0kg/tとなるように添加する。焼石灰(生石灰)は、例えば、CaO:96質量%、Mg0:1質量%、SiO2:1質量%、その他:2.0質量%を用いた。焼石灰を投入する際は、溶融をし易くするために、合成フラックスを先に添加し、その後に焼石灰を添加した。
【0056】
このとき、合成フラックスについては、より滓化性を上げる(出鋼後にある程度滓化させる)ため、プリメルト材を使用した。合成フラックスは、CaO:45〜49質量%、Al2O3:36〜40質量%、SiO2:4質量%以下、MgO:12〜17質量%、TiO2:0.1質量%以下のものを使用し、F溶出量の抑制効果が分かるように、通常よりフッ素含有率の高いスラグを使用した。合成フラックスを使用するにあたっては、予めJISG1258「ICP発光 分光 分析方法」により組成が上記範囲にあるか確認した上で使用した。
【0057】
溶鋼を受鋼する取鍋については、縦横比が0.8〜1.2の範囲の円筒状のものを用いた。取鍋の耐火物は、MgO-C質耐火レンガを用いた。この耐火レンガは、MgO:75質量%、FC:15質量%、Al2O3:6質量%、その他:2.0質量%のものを用いた。スラグラインのMgO−C質の耐火物を用いることは、「取鍋精錬法 取鍋精錬法の発展を支えた技術 p241 日本鉄鋼協会監修 梶岡博幸著 1997年、地人社発行」に記載されている一般的なことであり、MgO−C質の組成は上述したものに限定されない。
【0058】
また、取鍋は90tonクラスの大きさのものを用いた。取鍋は、溶鋼を払い出した後、取鍋の表面温度が約1000℃以下に下がりきらないうちに溶鋼の受鋼するという連続使用(熱間にて連続使用)とするか、又は、溶鋼を受鋼する前に予め取鍋を温めた後に溶鋼を受鋼するという予熱使用とした。予熱使用は、例えば、耐火物の施工後、表面温度を1000℃以上に加熱してから溶鋼を受鋼する方法(新鍋加熱方法)と、溶鋼を払い出した後に表面温度が一旦1000℃以下となってしまった取鍋に対して1000℃以上に再加熱してから溶鋼を受鋼する方法(非連続方法)とがあり、操業状況に応じて新加熱方法と非連続方法とのどちらも適用した。
【0059】
転炉にて一次精錬後は溶鋼を取鍋に出鋼し、取鍋を二次精錬装置(二次精錬工程)に移動させ、二次精錬では、例えば、当業者常法通りにアーク加熱方式二次精錬装置(LF装置)を用いて、溶鋼の温度又は成分調整処理を実施した。また、二次精錬では、必要に応じ真空脱ガス処理を行い、溶鋼内に残る溶存酸素の安定化を図った。真空脱ガス処理とは、合金鋼など、より低水素を必要とする鋼種に対し、真空引きすることによって溶鋼内の脱水素を図る処理であり、清浄鋼のように鋼中酸素レベルの低減と巨大介在物低減を行う場合にも行う処理である。真空下で溶鋼を攪拌することにより、溶鋼内のAl2O3をスラグに吸着させる。
【0060】
LF装置では、上述したように、溶鋼に対してAlの投入による脱酸を行った。また、LF装置では溶鋼を1500〜1650℃(液相線温度+50度以上)まで加熱し、成分調整後は十分な攪拌を行って、溶鋼を連続鋳造装置へ搬送した。
連続鋳造装置では、当業者常法通りに、取鍋を介して溶鋼をタンディッシュに注入した後、溶鋼を鋳型へ装入することにより鋳造を行った。タンディッシュへの溶鋼の注入を完了した取鍋は、排鋼、排滓した後に当業者常法通りに取鍋の整備を行った。
【0061】
取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入後、取鍋内に残った取鍋精錬スラグS2や一部残存した溶鋼は、溶銑スラグS1でコ−ティングされた排滓容器1に排滓し、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とが反応して混合スラグを生成した。
排滓容器1への取鍋精錬スラグS2の排滓は、排滓容器1が一杯になるまで繰り返し行った。排滓容器1が一杯(満杯)になると排滓容器1は新しいものに交換した。なお、溶銑スラグS1で排滓容器1をコーティングすると溶鋼が排滓容器1に焼き付いてしまうことを防止することができる。
【0062】
連続鋳造後の鋳片(鋼片)は、分塊圧延を行い、酸素分析については鋼片のD/8にて切り出しを行いJIS Z 2613「金属材料の酸素定量方法通則」により定量分析を行った。なお、鋼種はS45Cについて評価した。
溶銑スラグS1に取鍋精錬スラグS2を熱間で混合した直後は、排滓容器1内に溶鋼等が溶融状態で存在しているため、水蒸気爆発を防止する観点より、混合スラグを冷却(固化)した後、外部に排出した。混合スラグの排出後は、破砕、水冷(水和処理)、磁選、空冷を行い、フッ素については、土壌環境基準の検定方法である環境庁告示第46号に則した溶出試験方法に基づいて測定した。なお、フッ素の溶出量の上限は、環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項に示されたもの(土壌環境基準)を基準すると0.8mg/L以下である。
【0063】
フッ素の溶出量を満たした混合スラグは、土工用や路盤材の材料として出荷した。 また、一部の混合スラグについては、破砕・選別を行い粒度調整もしくは造粒を行い、二次精錬のCaO源として再利用した。空となった排滓容器1は、再び溶銑スラグS1を受滓して繰り返し使用した。
溶銑スラグS1、取鍋精錬スラグS2、混合スラグについては、当業者常法通り、イオンクロマトグラフ法や高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により、成分や溶出量について分析を行った。
【0064】
また、水和処理の有無によってフッ素の溶出量がどのように変化しているか評価を行うため、第1に、20%の水をかけて1週間静置させるという水和処理を行った混合スラグに対してフッ素の溶出試験を行うパターンと、第2に、冷却した混合スラグをそのままフッ素の溶出試験を行うパターンとに分けた。
さらに、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを熱間で混合した場合と、熱間で混合しなかった場合との比較を行うために、冷却後の溶銑スラグS1と冷却後の取鍋精錬スラグS2とを混合した後、その混合スラグについてフッ素の溶出試験を行うというパターンも加えた。
【0065】
なお、フッ素溶出試験は、環境省告示第6号に従ったもので、例えば、スラグ50gを水450gで10倍に薄め6時間水和及び溶出させた後、ろ過水についてフッ素の濃度をイオンクロマトグラフ法を用いて測定した。
表2は、上述した実施条件に基づき、本発明のリサイクルスラグの製造方法にてリサイクルスラグの製造を行った実施例と、本発明のリサイクルスラグの製造方法とは異なる方法でリサイクルスラグの製造を行った比較例とを示したものである。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
比較例1及び12では、取鍋精錬スラグS2の塩基度が3未満であったため、溶鋼の精錬性能が低下し、二次精錬にて鋼中酸素レベルを9ppm以下にすることができなかった(溶鋼処理性の欄、精錬×)。加えて、比較例1及び12では、混合スラグのAl2O3が16質量%未満であると共にSiO2が26質量%を超えているため、F溶出量を環境基準(土壌環境基準)である0.8mg/L以下にすることができなかった(フッ素溶出量の欄)。
【0069】
比較例2,10,13,20では、取鍋精錬スラグS2のAl2O3が48質量%を超えているため、溶鋼中のAl2O3介在物を付着除去する能力が低下し、二次精錬にて鋼中酸素レベルを9ppm以下にすることができなかった。
比較例5及び16では、取鍋精錬スラグS2のSiO2が16質量%を超えており、1500℃において液相線を越えることから、スラグによる精錬能力が低下し、二次精錬にて鋼中酸素レベルを9ppm以下にすることができなかった。
【0070】
比較例22では、取鍋精錬スラグS2のMgOが11質量%を超えているため、スラグの流動性が悪くなり、二次精錬にて鋼中酸素レベルを9ppm以下にすることができなかった。加えて、比較例22では、混合スラグのMgOが10質量%を超えているため、ゲーレナイトの生成が抑制されてしまい、その結果、F溶出量を環境基準である0.8mg/L以下にすることができなかった(フッ素溶出量の欄)。
【0071】
比較例25では、混合スラグのCaOが52質量%を超えているため、ゲーレナイトが十分に生成されず(ゲーレナイト水和物の有無)、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。比較例26では、混合スラグのCaOが34質量%未満であるため、スラグの溶出性がやや高くなり、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0072】
比較例27では、混合スラグのAl2O3が25質量%を超えているため、ラグの溶出性がやや高くなり、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。比較例28では、混合スラグのAl2O3が16質量%未満であるため、ゲーレナイトが十分に生成されず、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
比較例29では、混合スラグのSiO2が26質量%を超えているため、溶銑スラグS1と同じように混合スラグが水に溶け易くなり、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。比較例30では、混合スラグのSiO2が18質量%未満であるため、ゲーレナイトが十分に生成されず、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0073】
比較例31では、混合スラグのMgOが10質量%を超えているため、ゲーレナイトの生成が抑制されてしまい、その結果、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
比較例32は、溶銑スラグS1を混合せずに取鍋精錬スラグS2のみであったため、ゲーレナイトが十分に生成されず、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0074】
比較例33及び34では、混合スラグについて水和処理を行ったものの、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを混合することによって混合スラグを生成する際に熱間で混合していない(スラグの混合の欄)ため、ゲーレナイトの水和物が生成されなかった(フッ素の抑制をするゲーレナイトがではない)。その結果、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0075】
比較例35及び36では、水和処理を行っていないため、フッ素を固定化するゲーレナイトの水和物が十分にできず、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
比較例37及び38では、溶銑スラグS1と取鍋精錬スラグS2とを熱間で混合せず、しかも、水和処理も行わなかったため、F溶出量を0.8mg/L以下にすることができなかった。
【0076】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0077】
1 排滓容器
S1 溶銑スラグ
S2 取鍋精錬スラグ
S3 リサイクルスラグ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクルスラグを製造するに際し、
化学成分が、CaO:24〜50質量%、Al2O3:1〜16質量%、SiO2:17〜38質量%、MgO:0.3〜10質量%であって残部が不可避不純物であり且つCaO/SiO2:1〜2となる溶銑スラグを排滓容器に投入して当該溶銑スラグによって前記排滓容器の内面をコーディングし、
化学成分が、CaO:33〜66質量%、Al2O3:22〜48質量%、SiO2:3〜16質量%、MgO:5〜11質量%であって残部が不可避不純物であり且つCaO/SiO2:3以上となる取鍋精錬スラグを、前記溶銑スラグによってコーティングされた排滓容器に溶融状態で装入し、
混合した混合スラグの化学成分が、CaO:34〜52質量%、Al2O3:16〜25質量%、SiO2:18〜26質量%、MgO:6〜10質量%であって残部が不可避不純物となるようにし、
前記混合スラグを冷却後に水和処理を行うことを特徴とするリサイクルスラグの製造方法。
【請求項1】
リサイクルスラグを製造するに際し、
化学成分が、CaO:24〜50質量%、Al2O3:1〜16質量%、SiO2:17〜38質量%、MgO:0.3〜10質量%であって残部が不可避不純物であり且つCaO/SiO2:1〜2となる溶銑スラグを排滓容器に投入して当該溶銑スラグによって前記排滓容器の内面をコーディングし、
化学成分が、CaO:33〜66質量%、Al2O3:22〜48質量%、SiO2:3〜16質量%、MgO:5〜11質量%であって残部が不可避不純物であり且つCaO/SiO2:3以上となる取鍋精錬スラグを、前記溶銑スラグによってコーティングされた排滓容器に溶融状態で装入し、
混合した混合スラグの化学成分が、CaO:34〜52質量%、Al2O3:16〜25質量%、SiO2:18〜26質量%、MgO:6〜10質量%であって残部が不可避不純物となるようにし、
前記混合スラグを冷却後に水和処理を行うことを特徴とするリサイクルスラグの製造方法。
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図11】
【公開番号】特開2012−62225(P2012−62225A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208197(P2010−208197)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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