説明

リサイクル特性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物

【課題】 成形時や長期使用後における、色調や機械的特性の低下が抑制され、且つリサイクル特性に優れた、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して(B)イオウ原子含有化合物を0.01〜1重量部含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とを含有し、(a)チタン化合物の含有量がチタン原子換算で10ppm以上80ppm以下であり、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppm以上50ppm以下であり、且つ固有粘度が1より大きいことを特徴とする、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形時の熱劣化や長期使用中の酸化劣化による物性低下が抑制されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。詳しくは、先述の特性を有し、更にリサイクル時にも機械的特性および色調変化が抑制された、リサイクル特性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は機械的特性、耐熱性及び耐薬品性等の各種材料特性に優れていることから、樹脂成形体、特に自動車分野、電気電子分野、機械および日用雑貨分野などの各種部品等の成形材料として使用されている。
【0003】
しかしながら、樹脂成形体のコスト低減、及びリサイクル化の要求が高まる中、ポリブチレンテレフタレート樹脂成形体は、その成形時や経時的な使用に伴う、色調や機械的特性の低下、特に引張伸度の低下が大きいということが課題となっており、当然、この様な、いわゆる劣化した樹脂成形体はリサイクルに不向きとなる問題があった。
【0004】
具体的には例えば、成形時の成形材料の廃材、例えばスプルーやランナー等の、いわゆる工程内リサイクル材を回収し、初期の成形材料(バージン材)に一部再利用する等のリサイクル方法に於いて、リサイクル材の使用に制約が生じると言う問題があった。
【0005】
また近年、環境保全対策等の観点から、使用済みプラスチック成形体(市場リサイクル材)に対して、有効なリサイクル法の提案が強く求められている。この様な市場リサイクル材の有効な利用方法としては、具体的には例えば、リサイクル材を粉砕し、単独で、又はバージン材や他の樹脂へ一部混入し、新たな樹脂成形体を成形する方法が知られており、エネルギー消費量の観点からも好ましい方法とされている。しかし上述の工程内リサイクル材の再利用と同様に、リサイクルされた樹脂成形体の色調や機械的特性の低下が改善されないという問題があった。
【0006】
これに対して、各種熱安定剤を含有させる方法が提案されており、具体的には例えばイオウ原子やリン原子を含有する化合物(以下、これらをイオウ系熱安定剤、リン系熱安定剤と言うことがある。)の使用が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。しかしリサイクルをより広範囲に進めるには、さらなる改善が求められており、少なくとも成型時の熱劣化や、長期使用後における色調や機械的特性低下が抑制された、物性変化の少ない、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が求められていた。
【0007】
またポリブチレンテレフタレート樹脂の色調、耐加水分解性、熱安定性改良の為に、固有粘度と末端カルボキシル基濃度を特定量以下に低く抑える方法も提案されている(例えば特許文献3参照)。しかしここでもリサイクル性については検討されておらず、リサイクル使用しても色調、機械強度等の低下が抑制されたポリブチレンテレフタレート樹脂の提供が切望されていた。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−20350号号公報
【特許文献2】特開昭59−20351号号公報
【特許文献3】特開2005−314674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、成形時や長期使用後の色調や機械的特性の低下が抑制され、且つリサイクル特性に優れた、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上述した課題を解決するために鋭意検討した結果、意外にも、特定の金属化合物を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂において、その固有粘度が一定以上の高い値を有するものにイオウ原子含有化合物を含有させることで、固有粘度が高いにもかかわらず、成形性が低下することなく、良好な色調と機械的物性を示すものとなることを見出した。
【0011】
そしてこのポリブチレンテレフタレート樹脂(バージン材)を成形してなる樹脂成形体は、成形時の熱劣化や長期使用中の酸化劣化による物性低下が抑制され、更にこの樹脂成形体を粉砕、溶融して再度製造した樹脂成形体、所謂リサイクル品に於いても諸物性値の低下が抑制され、リサイクル特性に優れるという効果をも見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち本発明の要旨は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して(B)イオウ原子含有化合物を0.01〜1重量部含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とを含有し、(a)チタン化合物の含有量が、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下であり、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppm以上50ppm以下であり、且つ固有粘度が1より大きいことを特徴とする、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形体に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、成形時の熱劣化、及び長期間使用による経時的な酸化劣化が抑制されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提供できるので、工程内及び市場リサイクル材の利用がより広い分野で可能となり、有効資源の活用や環境保全対策として期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
本発明に用いる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下「PBT」と略記することがある。)とは、テレフタル酸単位および1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸単位の50モル%以上がテレフタル酸単位から成り、ジオール成分の50モル%以上が1,4−ブタンジオール単位から成る高分子化合物を示す。
【0015】
テレフタル酸単位または1,4−ブタンジオール単位が低すぎると、例えば50モル%より少ないと、PBTの結晶化速度が低下し、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂の成形性が低下する場合がある。よって全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、通常70モル%以上、中でも80モル%以上、更には95モル%以上、特に98%以上であることが好ましく、また全ジオール単位中の1,4ブタンジオール単位の割合は通常70モル%以上、中でも80モル%以上、更には95モル%以上、特に98%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いる(A)PBTの原料であるジカルボン酸成分に於いて、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては特に制限はない。具体的には例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸類;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸類;等が挙げられる。
【0017】
これらのジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、又はジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料としてポリマー骨格に導入してもよい。
【0018】
また本発明に用いる(A)PBTの原料であるジオール成分に於いて、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分は特に制限はない。具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール類;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール類;キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール類;等が挙げられる。
【0019】
更に、本発明に用いる(A)PBTとしては、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸類;アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分;等を共重合させたものも、使用することができる。
【0020】
本発明に用いる(A)PBTは、(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とを含有し、(a)チタン化合物の含有量が、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下であり、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppm以上50ppm以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明に用いる(A)PBTは、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸(又はテレフタル酸ジアルキル)とのエステル化反応(又はエステル交換反応)で得られたオリゴマーを重縮合したものであり、中でも、この重縮合の際に用いる触媒(重縮合触媒)として、(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物を用いることによって、(A)PBT中における(a)、(b)の金属化合物の分散性を良好なものとすることができるので、好ましい。
【0022】
これらの重縮合触媒の使用時期は任意であり、具体的には使用方法として例えば以下の(1)〜(4)等の方法が挙げられる。尚、以下、(a)チタン化合物をチタン触媒、また(b)における1族金属化合物、2族金属化合物を、各々、1族金属触媒、2族金属触媒と言うことがある。
(1)エステル化(又はエステル交換)反応に(a)、(b)両方を用い、次に重縮合反応する方法。
(2)エステル化(又はエステル交換)反応に(a)、(b)各々についてその一部使用し、重縮合反応開始時又は反応中に、(a)、(b)の残余を追加する方法。
(3)エステル化(又はエステル交換)反応では(a)、(b)のうち一方を用い、他方を重縮合反応開始時又は反応中に追加する方法。
(4)エステル化(又はエステル交換)反応では(a)、(b)を用いず、重縮合反応開始時に両方を追加する方法。
【0023】
本発明に用いる(a)チタン化合物としては特に制限はなく、具体的には例えば、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物類;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート類;テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート類;等が挙げられる。中でもチタンアルコラート類が好ましく、更にはテトラアルキルチタネート類が好ましく、特にテトラブチルチタネートが好ましい。
【0024】
本発明に用いる(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物としては特に制限はなく、具体的には例えば、1族金属化合物としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの、水酸化物類;酸化物類;アルコラート類;酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩等の各種有機酸塩類;等の各種化合物が挙げられ、また2族金属化合物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの、水酸化物類;酸化物類;アルコラート類;酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩等の各種有機酸塩類;等の各種化合物が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で使用してもよい。
【0025】
中でも、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の化合物が好ましく、更には触媒効果と色調に優れる、リチウム又はマグネシウムの化合物が好ましく、特にマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物としては、具体的には例えば酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等が挙げられる。中でも有機酸塩類が好ましく、特に酢酸マグネシウムが好ましい。
【0026】
本発明に用いる(A)PBTにおける(a)チタン化合物の含有量は、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下である。このチタン化合物の含有量が多過ぎると、(A)PBTの色調や耐加水分解性が低下したり、またチタン触媒の失活による溶液ヘイズや異物が増加する場合がある。逆に少な過ぎても、(A)PBTの重合性が低下してしまう。よって(a)チタン化合物の含有量は、70ppm以下、中でも60ppm以下、更には50ppm以下、特に40ppm以下であることが好ましく、その下限は15ppm以上、中でも20ppm以上、特に30ppm以上であることが好ましい。
【0027】
本発明に用いる(A)PBTにおける(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の含有量は、各々の金属原子換算で、1ppm以上50ppm以下である。この1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の含有量が多過ぎると、本発明のPBT組成物の成形性や、得られる樹脂成形体の耐熱性が低下する場合がある。逆に少な過ぎても、成形体の表面外観が低下する場合がある。よって(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の含有量は、40ppm以下、中でも30ppm以下、更には20ppm以下、特に15ppm以下であることが好ましく、その下限は好ましくは3ppm以上、中でも5ppm以上、特に10ppm以上であることが好ましい。
【0028】
チタン原子などの金属含有量は、湿式灰化等の方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法により測定すればよい。
【0029】
本発明に用いる(A)PBTの重縮合触媒としては、上述したようなチタン化合物や(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が挙げられるが、その他の重縮合触媒としては、例えばスズやその化合物が挙げられる。スズは通常、スズ化合物として使用され、具体的には例えば、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等が挙げられる。
【0030】
但し一般的に、スズやスズ化合物は(A)PBTの色調を悪化させるため、本発明に用いる(A)PBT中におけるスズ化合物の含有量は低い方が好ましく、含有しないことが好ましい。具体的には通常、スズ化合物の含有量が、スズ原子換算で200ppm以下、中でも100ppm以下、更には10ppm以下であることが好ましい。
【0031】
また本発明に用いる(A)PBTの製造においては、先述のチタン触媒や、1族金属触媒、2族金属触媒の他に、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;マンガン化合物;亜鉛化合物;ジルコニウム化合物;コバルト化合物;正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸等やこれらのエステルや金属塩などの燐化合物;等の反応助剤を用いてもよい。
【0032】
本発明に用いる(A)PBTの固有粘度は、1を超えることが重要である。ここで固有粘度とは、1,1,2,2−テトラクロロエタンとフェノール1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した値である。この固有粘度が1以下であるとリサイクル時の引張伸度が低下し、逆に大きすぎても、成形加工が困難になる場合があるので、本発明に用いる(A)PBTの固有粘度は、1〜3であることが好ましく、中でも1〜2、特に1.05〜1.5であることが好ましい。また本発明においては、2種類以上の固有粘度を有する(A)PBT等を併用してもよい。
【0033】
本発明に用いる(A)PBTの末端カルボキシル基濃度は任意だが、低い方が好ましい。濃度が高すぎても樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすく、逆に、過度の低末端カルボキシル濃度の(A)PBTの製造は著しく生産性が低下してしまう。よって具体的には60μeq/g以下、中でも30μeq/g以下、更には25μeq/g以下、特に20μeq/g以下であることが好ましく、1μeq/g以上、中でも2μeq/g以上であることが好ましい。
【0034】
本発明に用いる(A)PBTの末端カルボキシル基濃度の測定は任意だが、ベンジルアルコール25ミリリットルに測定対象である(A)PBT0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01[モル/リットル]のベンジルアルコール溶液を使用して滴定により実施した。末端カルボキシル基濃度を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調節する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法などを適宜適用することができる。
【0035】
次に、本発明に用いる(A)PBTの製造方法について説明する。本発明に用いる(A)PBTの製造方法は任意であり、一般的には使用する原料によって、ジカルボン酸を主原料とする方法(直接重合法)と、ジカルボン酸ジアルキルエステルを主原料とする方法(エステル交換法)とがある。前者は初期のエステル化反応で主に水が生成し、後者は初期のエステル交換反応で主にアルコールが生成するという違いがある。
【0036】
本発明に用いる(A)PBTの製造方法は、一般的に原料供給または生成ポリマーであるポリブチレンテレフタレート樹脂の抜き出し形態(反応槽等から生成(溶融)ポリマーを抜き出す方法)により、回分法と連続法に大別される。初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行い、それに続く重縮合を回分操作で行う方法や、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行い、それに続く重縮合を連続操作で行う方法等が知られている。
【0037】
本発明に用いる(A)PBTの製造方法としては、原料原単位の優位性、副生成物の処理の容易さ等から、直接重合法を用いることが好ましく、また得られる(A)PBTの品質安定性や、製造に係るエネルギー効率の面から、エステル化反応および重縮合反応を連続的に行う、いわゆる連続法を用いることが好ましい。
【0038】
本発明に用いる(A)PBTの製造に際して用いる、先述の1族金属触媒及び/又は2族金属触媒は、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽に供給することが出来るが、その供給位置に特に制限はなく、これら反応槽の反応液気相部から反応液上面へ供給しても、また反応液液相部に直接供給してもよい。またこの場合、原料のテレフタル酸やチタン触媒と共に供給しても、独立して供給してもよい。中でも、触媒の安定性の観点からはテレフタル酸やチタン触媒とは独立して、且つ、反応液気相部から反応液上面に供給することが好ましい。
【0039】
2族金属触媒の供給方法としては、例えば2族触媒が常温で固体の場合には、固体のまま反応液へ供給することも出来るが、供給量を安定化させ、熱による変性などの悪影響を軽減するためには、水、1,4−ブタンジオール等の溶媒に溶解し、溶液として供給することが好ましい。この溶液中の2属金属触媒の濃度は、通常0.01重量%以上、中でも0.05重量%以上、特に0.08重量%以上であることが好ましく、20重量%以下、中でも10重量%以下、特に8重量%以下であることが好ましい。
【0040】
また1族金属触媒及び/又は2族金属触媒は、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽に続く重縮合反応槽や、それに付帯したオリゴマー配管に添加してもよい。この場合の添加方法も、供給量を安定化させ、熱による変性などの悪影響を軽減するために、水、1,4−ブタンジオール等の溶媒や、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の共重合成分に溶解し、溶液として供給することが好ましく、この際の濃度は、上述の溶液濃度と同様である。
【0041】
本発明に用いる(A)PBTの製造方法としては、具体的には例えば、直接重合法を用いる連続エステル化法の場合、以下の方法が挙げられる。原料であるテレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、原料混合槽で混合してスラリーとし、単数または複数のエステル化反応槽内で、好ましくはチタン触媒と1族金属触媒及び/又は2族金属触媒との存在下に反応させる。反応温度は通常、180〜260℃であり、中でも200〜245℃、特に210〜235℃であることが好ましい。また反応圧力(絶対圧力を示す。以下、同様である。)は、通常10〜133kPa、中でも13〜101kPa、特に60〜90kPaであることが好ましい。反応時間は通常、0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、連続的にエステル化反応させることが好ましい。
【0042】
エステル化反応槽またはエステル交換反応槽としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽等が挙げられる。これらは単数槽としても、また、同種又は異種の反応槽を直列または並列させた複数反応槽として用いてもよい。中でも攪拌装置を有する反応槽を用いることが好ましく、攪拌装置としては、動力部、軸受、軸、攪拌翼等を含む通常の攪拌装置の他、タービンステーター型高速回転式攪拌機や、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機等の高速回転が可能なものを用いてもよい。
【0043】
次に、得られたエステル化(またはエステル交換)反応生成物としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送する。このオリゴマーのエステル化率は任意だが、通常90%以上、好ましくは95%以上であり、数平均分子量は通常300〜3000、好ましくは500〜1500である。
【0044】
重縮合反応槽の形態は任意であり、例えば縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などが挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、少なくとも1つの重縮合反応槽においては攪拌装置を有することが好ましく、攪拌装置としては上述したエステル化反応層と同様である。
【0045】
攪拌の形態は、特に制限されず、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部等から直接攪拌する通常の攪拌方法の他、配管などで反応液の一部を反応器の外部に持ち出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を循環させる方法も用いてもよく、更には水平方向に回転軸を有する表面更新とセルフクリーニング性に優れた横型の反応器を用いてもよい。
【0046】
重縮合反応は、チタン触媒と、1族金属触媒及び/又は2族金属触媒との存在下に行う。反応温度は、通常210〜280℃、中でも220〜250℃、特に230〜245℃で行うことが好ましい。例えば複数の反応槽を用いる場合には、そのうちの少なくとも一つの反応槽の温度を230〜240℃とすることが好ましい。また反応は攪拌条件下にて行うことが好ましい。
【0047】
重縮合反応時間は、通常1〜12時間であり、中でも3〜10時間であることが好ましい。また反応雰囲気の圧力条件は、通常27kPa以下、中でも20kPa以下、特に13kPa以下の減圧状態で行うことが好ましい。例えば複数の反応槽を用いる場合には、生成物の着色や劣化を抑えるため、そのうちの少なくとも一つの反応槽内の圧力を、通常1.3kPa以下、中でも0.5kPa以下、特に0.3kPa以下の高真空下とすることが好ましい。
【0048】
重縮合反応により得られたポリマーは、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷後、カッターで切断され、ペレット状、チップ状などの粒状体とされる。
【0049】
更に、PBTの重縮合反応工程は、一旦、溶融重縮合で比較的分子量の小さい、例えば、固有粘度0.1〜0.9程度のPBTを製造した後、引き続き、PBTの融点以下の温度で固相重縮合(固相重合)させてもよい。
【0050】
(B)イオウ原子含有化合物
【0051】
本発明に用いる(B)イオウ原子含有化合物は、従来公知の任意のイオウ原子含有化合物を用いることが出来、中でもチオエーテル類が好ましい。チオエーテル類は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に使用することが出来る。具体的には例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。
【0052】
本発明に用いる(B)イオウ原子含有化合物の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常200以上、中でも500以上であることが好ましく、通常3000以下であることが好ましい。これらの中でもチオエーテル類化合物が好ましく、特にペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)等の、ペンタエリスリトールスルフィド類化合物が、(A)PBTとの溶融混練や、成形加工時の安定性に優れているので好ましい。
【0053】
本発明に用いる(B)イオウ原子含有化合物の含有量は、(A)PBT100重量部に対して、0.01〜1重量部であり、好ましくは0.02〜0.7重量部である。イオウ系安定剤の配合量が0.01重量部より少ないと、色調変化や伸度低下の防止効果が期待できず、逆に1重量部より多いと、伸度が低下する。
【0054】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、上記の他、本発明の効果を損ねない範囲で、従来公知の任意の添加剤を含有していてもよい。具体的には例えば、他種類の熱安定剤、結晶化促進剤、無機充填剤(ガラス繊維、タルク、ワラストナイトなど)、耐衝撃性改良剤、難燃剤および助剤、紫外線吸収剤、耐候性付与剤、染料、着色剤、滑剤、離型剤、発泡剤などが挙げられる。
【0055】
更には、上述した添加剤の他に、他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;液晶ポリマー;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、メタクリルスチレン樹脂(MS)等のスチレン系樹脂;アクリル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリフェニレンオキサイド樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、アイオノマー樹脂等のオレフィン系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;
【0056】
イソブチレンーイソプレンゴム、スチレンーブタジエンゴム、スチレンーブタジエンゴムースチレン、エチレンープロピレンゴム、アクリル系エラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー等のエラストマーなどのエラストマーなど)、また熱硬化性樹脂(例えばフェノキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)を含有しても良い。
【0057】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は、特に制限はなく、従来公知の任意の方法を用いることが出来る。混練方法としては、例えば各成分を、必要であれば付加的成分である物質と共に、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等により均一に混合した後、一軸または多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で混練することができる。
【0058】
中でも溶融混練による製造方法が好ましく、この際の加熱温度は、通常230〜290℃である。更に混練時の分解を抑制する為、可能な限り低温で、また混練する前のPBTペレットを乾燥したり、押出機のベントを減圧下に保持することが好ましい。各成分は、付加的成分を含め、混練機に一括または順次フィードすればよい。また熱安定剤の高濃度配合したマスターバッチと(A)PBTとをドライブレンドにて製造された組成物も高い特性を発揮させることが出来る。
【0059】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、既知の種々の成形方法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形、回転成形等により、電機・電子機器分野、自動車分野、機械分野、医療分野等で用いることができる、樹脂成形体とすることができる。この場合、特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜280℃にコントロールするのが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。これらの実施例及び比較例においては下記の成分を使用した。
【0061】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
(A−1):PBT (Ti含有量:30ppm、 Mg含有量:15ppm)
(A−2):PBT (Ti含有量:45ppm、 Mg含有量:45ppm)
(A−3):PBT (Ti含有量:45ppm、 Mg含有量:0ppm)
(A−4):PBT (Ti含有量:90ppm、 Mg含有量:45ppm)
(A−5):PBT (Ti含有量:45ppm、 Mg含有量:60ppm)
(A−6):PBT (Ti含有量:45ppm、 Li含有量:25ppm)
【0062】
(A−1)〜(A−6)のPBTの製造方法
(A−1):図1に示すエステル化工程と、図2に示す重縮合工程を用い、以下の方法によりPBTを製造した。先ずテレフタル酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオール1.80モルの割合で混合した60℃のスラリーを、スラリー調製槽から原料供給ライン1を通じ、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化のための反応槽Aに、41kg/hとなる様に連続的に供給した。
【0063】
同時に、再循環ライン2から185℃の精留塔Cの塔底成分(98重量%以上が1,4−ブタンジオール)を20kg/hで供給し、チタン触媒供給ライン3から、65℃の6重量%テトラブチルチタネートの1,4−ブタンジオール溶液を99g/hで供給した(理論ポリマー収量に対し30ppm)。この触媒溶液中の水分は0.2重量%であった。2族金属触媒供給ライン15から触媒として65℃の酢酸マグネシウム・4水塩の6.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を62g/hで供給した(理論ポリマー収量に対し15ppm)。この触媒溶液中の水分は10.0重量%であった。
【0064】
反応槽Aは内温230℃、圧力78kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン5から留出させ、精留塔Cで高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98重量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔Cの液面が一定になる様に、抜出ライン8を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサGで凝縮させ、タンクFの液面が一定になる様に、抜出ライン13より外部に抜き出した。
【0065】
反応槽Aで生成したオリゴマーの一定量をポンプBにより抜出ライン4から抜き出し、反応槽A内液の平均滞留時間が2.5hrになる様に液面を制御した。抜出ライン4から抜き出したオリゴマーは、図2に示す第1重縮合反応槽aに連続的に供給した。系が安定した後、反応槽Aの出口で採取したオリゴマーのエステル化率は96.5%であった。
【0066】
第1重縮合反応槽aの内温は240℃、圧力2.1kPaとし、滞留時間が120分になる様に液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントラインL2から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽dに連続的に供給した。
【0067】
第2重縮合反応槽dの内温は240℃、圧力130Paとし、滞留時間が85分になる様に液面制御を行い、減圧機(図示せず)に接続されたベントラインL4から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプeにより抜出ラインL3を経由し、ダイスヘッドgからストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッターhでカッティングし、ペレットを得た。このポリマーペレットをダブルコニカル型ブレンダー(内容量100リットル)にて205℃、減圧下(0.133kPa以下)、固相重合を実施し、経時的にIVをモニターしながら、所定のIVに達した時点でペレットを取り出した。得られたPBTの分析値を表1に記した。
【0068】
(A−2):PBT中のチタン及びマグネシウム含有量が表1の値となる様にテトラブチルチタネートと酢酸マグネシウム・4水塩の供給量を調節し、第2重縮合反応槽dの温度を244℃、滞留時間を98分とした以外は、(A−1)の製造方法と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0069】
(A−3):酢酸マグネシウム・4水塩を用いず、またPBT中のチタン含有量を表1の値となる様にテトラブチルチタネートの供給量を調節し、第2重縮合反応槽dの滞留時間を137分とした以外は(A−1)の製造方法と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0070】
(A−4):PBT中のチタン及びマグネシウム含有量が表1の値となる様にテトラブチルチタネートと酢酸マグネシウム・4水塩の供給量を調節し、第2重縮合反応槽dの滞留時間を98分とした以外は、(A−1)の製造方法と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0071】
(A−5):PBT中のチタン及びマグネシウム含有量が表1の値となる様にテトラブチルチタネートと酢酸マグネシウム・4水塩の供給量を調節し、第2重縮合反応槽(d)の滞留時間を117分にした以外は、(A−1)の製造方法と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0072】
(A−6):酢酸マグネシウム・4水塩に代えて酢酸リチウム・2水塩を用い、PBT中のチタン及びリチウム含有量が表1の値となる様に供給量を調節し、第2重縮合反応槽dの温度を244℃、滞留時間を70分にした以外は、(A−1)の製造方法と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0073】
【表1】

【0074】
(B)イオウ原子含有化合物
(B−1):ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)(シプロ化成社製 SEENOX412S)
【0075】
(B−2):ジラウリル−3,3’−チオジプロポオネート(住友化学社製 スミライザーTPL)
【0076】
リン系安定剤
(B−3):ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業社製 アデカスタブPEP36)
【0077】
ヒンダードフェノール系安定剤
(B−4):ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 Irganox1010)
【0078】
PBT特性の評価法
(1)エステル化率:
下記の計算式によって酸価およびケン化価から算出した。酸価は、ジメチルホルムアミドにオリゴマーを溶解させ、0.1NのKOH/メタノール溶液を使用して滴定により求めた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定し求めた。
エステル化率=(ケン化価−酸価)/ケン化価)×100
【0079】
(2)PBT中のチタン、及び1族、2族金属濃度:
電子工業用高純度硫酸及び硝酸でPBTを湿式分解し、高分解能ICP−MS(Inductively Coupled Plasma−Mass Spectrometer)(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
【0080】
(3)固有粘度(IV):
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dlのポリマー溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、下記の式より求めた。
IV=((1+4Kηsp0.5−1)/(2KC) (2)
(但しηsp=η/η−1であり、ηはポリマー溶液落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数で、0.33とした。)
【0081】
(4)末端カルボキシル基濃度:
ベンジルアルコール25mlにPBT又はオリゴマー0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。
【0082】
(5)ペレットや成形体の色調:
日本電色社製色差計(Z−300A型)を使用し、L、a、b表色系におけるb値で評価した。値が低いほど黄ばみが少なく色調が良好であることを示す。
【0083】
{試験方法および評価方法}
各成分を表−2に示す割合で秤量し、2軸押出機((株)日本製鋼所製、型式TEX30C、スクリュー径30mm)を用いてシリンダ設定温度255℃、スクリュー回転数200rpmで、通常通りコンパウンドを実施し、ペレットを得た。得られたペレットを120℃5時間熱風乾燥し住友重機械(株)製射出成型機(型式SG−75SYCAP−MIII)を使用して、シリンダ温度250℃、金型温度80℃の条件で、下記の機械的物性測定用ISO試験片を成形した。この試験片に対しISO527に準拠し引張試験を実施し、また上述の方法により成形体の色調b値の測定を実施した。これらの結果をバージン材特性として表2に記載した。
【0084】
工程内リサイクルの評価として、ISO試験片6kgを粉砕機で粉砕し、粉砕片を得た。その破砕片を120℃5時間熱風乾燥し、上記と同様の方法でISO試験片を成形し、引張試験と色調b値を測定した。得られた結果は工程内リサイクル1回目特性として表2に記載した。更に、リサイクル成形したISO試験片3kgを同様に粉砕し、同じく120℃5時間熱風乾燥しISO成形体を得て、引張試験と色調b値を測定した。得られた値は工程内リサイクル2回目特性として表2に記載した。バージン材特性との比較で工程内リサイクル特性の評価を実施した。なお使用した粉砕機は朋来鉄工所社製 型式VBC−360である。
【0085】
また、市場リサイクル性の評価として、第一回目の射出成形により得られた試験片6kgを120℃熱風オーブン中に1週間保持し、熱風処理した試験片を同様に粉砕機で粉砕し、120℃5時間熱風乾燥して成形しISO試験片を得た。その試験片に対し引張試験と色調b値を測定した。その結果を市場リサイクル特性として表2に示した。バージン材特性との比較で市場リサイクル特性の評価を実施した。
【0086】
【表2】

【0087】
表2より次のことが判る。即ち、Tiまたは第2金属成分を範囲内含有する(A)PBTと(B)イオウ原子含有化合物とからなる本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、引張伸度および色調の変化が抑制されており、工程内および市場リサイクル特性とも優れていることが判る。Tiまたは第2金属成分を含有する(A)PBT単独のもの(比較例2)は、Ti金属だけを含有しているもの(比較例1)比較しても、引張伸度と色調の変化が同様であり、リサイクル特性の改善は期待されない。
【0088】
比較例3〜5に示されているように、Tiまたは第2金属成分の含有量が本発明の範囲外であるものは、イオウ原子含有化合物を含有していても、充分なリサイクル特性が発揮されない。そしてTiまたは第2金属成分の含有量が本発明の範囲内でも、イオウ原子含有化合物以外の安定剤を含有していても、改善効果が認められない。以上より、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物におけるリサイクル特性が著しく改善されていることが判明する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】(A)PBT製造における、エステル化(又はエステル交換)反応工程の一例の説明図
【図2】(A)PBT製造における、重縮合工程の一例の説明図
【符号の説明】
【0090】
1 :原料供給ライン
2 :再循環ライン
3 :チタン触媒供給ライン
4 :抜出ライン
5 :留出ライン
6 :抜出ライン
7 :循環ライン
8 :抜出ライン
9 :ガス抜出ライン
10 :凝縮液ライン
11 :抜出ライン
12 :循環ライン
13 :抜出ライン
14 :ベントライン
15 :2A族金属触媒供給ライン
A :反応槽
B :抜出ポンプ
C :精留塔
D :ポンプ
E :ポンプ
F :タンク
G :コンデンサ
L1 :抜出ライン
L2 :ベントライン
L3 :抜出ライン
L4 :ベントライン
a :第1重縮合反応槽
c :抜出用ギヤポンプ
d :第2重縮合反応槽
e :抜出用ギヤポンプ
g :ダイスヘッド
h :回転式カッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して(B)イオウ原子含有化合物を0.01〜1重量部含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とを含有し、(a)チタン化合物の含有量が、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下であり、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppm以上50ppm以下であり、且つ固有粘度が1より大きいことを特徴とする、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とが、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を製造するための重縮合触媒であることを特徴とする、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物における2族金属化合物が、マグネシウム化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(B)イオウ原子含有化合物が、チオエーテル類化合物であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−284533(P2007−284533A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112335(P2006−112335)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】