説明

リシノプリル2水和物の製造方法

【課題】 血圧降下剤として有用なN2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物の製造方法を提供する。
【解決手段】 N2−(1(S)−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)−N6−トリフルオロアセチル−L−リジン−L−プロリンから、a)mモル当量(但し、m≧3)の無機塩基を用いて、水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中等で加水分解する工程、b)無機酸を加えpH5〜8.5とし、生じた無機塩を、除去する工程、及びc)反応液をpH5〜6.5に調整し、さらに疎水性溶媒を加えることにより結晶を得る工程を包含する、、式(II):
【化1】


で表わされるN2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物の製造方法を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下剤として有用なN2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物(以下、リシノプリル2水和物とも言う)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(II):
【化1】

で表わされる、シノプリル2水和物(II)は、一般式(I):
【化2】

で表わされるN2−(1(S)−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)−N6−トリフルオロアセチル−L−リジン−L−プロリンを、塩基で加水分解し、酸で中和後、生成した塩類とリシノプリル2水和物を分別結晶することによって得られることが、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に記載されている。
特許文献1では、塩類の非存在下でリシノプリル2水和物を晶析させるために、生成した塩類をイオン交換樹脂を用いて除去しているが、操作が煩雑であり工業的に有用な方法とは言い難い。
特許文献2では、塩基として水酸化テトラメチルアンモニウム及び酸としてトリフルオロ酢酸を用いることにより、塩類の存在下、生成した塩類を析出させることなくリシノプリル2水和物を晶析させているが、廃液中に環境問題上望ましくない化合物を含有すること、並びに無機塩基及び無機酸の使用に比べ製造コストが高くなるなど、安全面及び経済面で工業的に適した方法とは言い難い。
特許文献3では、溶液の希釈及び濃縮を何度も繰返すことによる水分含有量の調整さらに溶媒系の調整によって、生成した塩類の大部分を除去後、塩類の低減した溶液からリシノプリル2水和物を晶析させることが記載されているが、操作が煩雑であることさらにトリフルオロ酢酸類が残存する可能性があることから、高品質リシノプリル2水和物を得るためにはさらに精製が必要となることから、工業的に有用な方法とは言い難い。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0168769号明細書
【特許文献2】特開平8−253497号公報
【特許文献3】国際公開第00/17229号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
血圧降下剤として有用なリシノプリル2水和物を製造する方法において、最終工程で保護基を脱保護する際に生成する塩類とリシノプリル2水和物を効率的に分別結晶することにより、反応収率の向上、操作の簡便化、並びに最終目的物の純度向上(塩類及びトリフルオロ酢酸類の含有量の減小)を図り、工業的に適し、かつ経済的な方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の事情に鑑み、本発明者らは、鋭意検討した結果、以下に示す化合物(I)から化合物(II)を高品質、高収率、かつ簡便な操作で得る製造方法を見出した。
【0005】
すなわち、本発明は、
1)以下の工程:
a)式(I):
【化3】

で表わされるN2−(1(S)−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)−N6−トリフルオロアセチル−L−リジン−L−プロリン1モルに対して、mモル当量(但し、m≧3)の無機塩基を用いて、水溶媒中又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で加水分解する工程、
b)当該反応液に無機酸を加えpH5〜8.5とし、前記無機塩基と無機酸から生じる無機塩を、除去する工程、及び
c)得られた当該反応液をpH5〜6.5に調整し、さらに疎水性溶媒を加えることにより、式(II):
【化4】

で表わされるN2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物を結晶として得る工程を包含する、N2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物(II)の製造方法、
2)以下の工程:
a)式(I):
【化5】

で表わされるN2−(1(S)−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)−N6−トリフルオロアセチル−L−リジン−L−プロリン1モルに対して、mモル当量(但し、m≧3)の無機塩基を用いて、水溶媒中又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で加水分解する工程、
b)当該反応液に無機酸を加えpH5〜8.5とし、前記無機塩基と無機酸から生じる無機塩を、除去する工程、
c)得られた当該反応液をpH5〜6.5に調整し、さらに疎水性溶媒を加えることにより、式(II):
【化6】

で表わされるN2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物を結晶として得る工程、及び
d)得られた(II)の結晶を、水溶媒中又水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で晶析させる工程を包含する、N2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物(II)の製造方法、
3)疎水性有機溶媒が酢酸エチルである1)又は2)記載の製造方法。
4)親水性有機溶媒がエタノールである1)から3)のいずれかに記載の製造方法
5)無機塩基がアルカリ金属水酸化物である1)から4)のいずれかに記載の製造方法。
6)無機酸が塩酸である請求項1)から5)のいずれかに記載の製造方法。
7)b)における無機酸の添加量がnモル当量(但し、m−2≦n≦m−1)であり、さらにc)における無機酸の添加量がpモル当量(但し、0<p<1、m−2≦n+p≦m−1)である1)から6)のいずれかに記載の製造方法。
8)c)の溶媒系において、疎水性有機溶媒:親水性有機溶媒:水の重量比が10〜16:6〜10:1〜2である1)から7)のいずれかに記載の製造方法。
9)d)において、水:親水性有機溶媒の重量比が5〜3:2である水及び親水性有機溶媒の混合溶媒系を用いる2)から8)のいずれかに記載の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0006】
血圧降下剤として有用なリシノプリル2水和物を製造するにあたって、反応収率の向上、操作の簡便化、並びに最終目的物の純度向上(塩類及びトリフルオロ酢酸類の含有量の減小)を図り、化合物(I)から化合物(II)を高品質、高収率、かつ簡便な操作で得る製造方法を見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
化合物(I):
【化7】

から、医薬品の原薬として使用する化合物(II):
【化8】

を以下のa)〜c)の3工程、又はさらにd)の4工程を要して製造することができる。
a)無機塩基を用いて、水溶媒中又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で加水分解する工程。
b)反応液に無機酸を加えpH5〜8.5とし、前記無機塩基と無機酸から生じる無機塩を、除去する工程。
c)b)で得られた反応液をpH5〜6.5に調整し、さらに疎水性溶媒を加えることにより、化合物(II)を結晶として得る工程。
d)得られた化合物(II)の結晶を、水溶媒中又水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で晶析させることにより、精製する工程。
さらに、各工程を詳しく説明する。
a)の工程において、無機塩基としては、アルカリ金属水和物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、アルカリ土類金属水和物(例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム)、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)等を用いることができる。好ましくはアルカリ金属水和物、さらに好ましくは水酸化ナトリウムである。
無機塩基の量は、化合物(I)に対して3〜10モル当量、好ましくは3〜8モル当量、さらに好ましくは3〜5モル当量である。
親水性溶媒としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を用いることができる。好ましくはアルコール類、さらに好ましくはエタノールである。
水溶媒又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒の量は、化合物(I)に対して1〜10倍容量、好ましくは2〜8倍容量である。
水及び親水性有機溶媒の混合溶媒を用いる場合は、水:親水性有機溶媒の容量比は4:1〜1:4、好ましくは2:1〜1:2である。
化合物(I)にアルカリ溶液を加えてもよく、また化合物(I)をアルカリ溶液に加えてもよい。化合物(I)をアルカリ溶液に加える場合は、1回或いは2〜20回に分けて加えてもよい。
反応温度は0℃〜溶媒の還流温度、好ましくは40℃〜60℃である。
反応時間は0.5時間〜24時間、好ましくは0.5時間〜2時間である。
反応終了後、5℃〜30℃に1〜24時間放置することができる。
b)の工程において、無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等を用いることができる。好ましくは塩酸、臭化水素酸、硫酸、さらに好ましくは塩酸である。
無機酸の量としては、(a)で用いた無機塩基のモル当量)−3〜無機塩基のモル当量、好ましくは(無機塩基のモル当量)−2〜(無機塩基のモル当量)−1であり、無機酸添加後の溶液のpHの値は5〜8.5、好ましくは7〜8.5である。
反応温度は0℃〜65℃、好ましくは10℃〜40℃である。
無機酸添加後に生じる無機塩の析出物は濾過等により除去することができる。該析出物の除去は、化合物(I)に対して2倍重量以下に濃縮した後、化合物(I)に対して親水性溶媒を0.5〜2倍重量添加した後に行うことが好ましい。
濾過物は、化合物(I)に対して0.25〜1倍容量の親水性溶媒で洗浄することができる。
親水性溶媒としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を用いることができる。好ましくはアルコール類、さらに好ましくはエタノールである。
c)の工程において、必要であれば反応液に無機酸を加え、pH5〜6.5に調整することができる。
無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等を用いることができる。好ましくは塩酸、臭化水素酸、硫酸、さらに好ましくは塩酸である。
無機酸の量としては、化合物(I)に対して0〜1モル当量(但し無機酸の総量はa)で用いた(無機塩基のモル当量)−2〜(無機塩基のモル当量)−1の範囲内)加えることができる。
疎水性溶媒を化合物(I)に対して3〜8倍容量加え、化合物(II)を晶析させる。
疎水性溶媒としては、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジn−ブチルエーテル)、非芳香族炭化水素類(例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン)、芳香族炭化水素類(例えば、トルエン)等を用いることができる。好ましくはエステル類、さらに好ましくは酢酸エチルである。
晶析する溶媒系は疎水性溶媒、親水性溶媒、及び水の混合溶媒系であり、疎水性溶媒:親水性溶媒:水の容量比は、10〜16:6〜10:1〜2、好ましくは8〜10:4〜6:1である。
疎水性溶媒を加えることにより、無機塩含有量及び溶媒の組成比によるリシノプリル2水和物の晶析量及び晶析時間への影響を減少させ、リシノプリル2水和物の晶析量及び晶析時間を安定させることができ、さらに晶析量の増加及び晶析時間の短縮することが可能である。
必要であれば、化合物(II)の種晶を化合物(I)に対して1/300〜1/2000重量を加えることができる。種晶を加えることにより、晶析時間の短縮及び安定した晶析化が可能である。
種晶は、特許文献1に記載の方法により合成したものを使用することができる。
反応温度は0℃〜溶媒の還流温度、好ましくは40℃〜60℃である。
反応時間は0.5時間〜24時間、好ましくは6時間〜10時間である。
反応終了後、5℃〜30℃に1〜24時間放置することができる。
化合物(II)の結晶は、濾取することにより得ることができる。
結晶は、化合物(I)に対して1〜3倍容量の親水性溶媒で洗浄することができる。
親水性溶媒としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を用いることができる。好ましくはアルコール類、さらに好ましくはエタノールである。
得られた化合物(II)の純度が98.5%以上、無機塩の含有量が0.1%以下、アミノ基の脱保護により生じたトリフルオロ酢酸のアルカリ金属塩の含有量が20 ppm(トリフルオロ酢酸として算出)以下でない場合は、さらにd)の工程を行うことができる。
なお、医薬品の不純物に関するのガイドライン(ICH−Q3A(R))では、トリフルオロ酢酸のアルカリ金属塩の含有量は0.1%以下とされている。
d)の工程において、c)で得られた化合物(II)の結晶を、水溶媒中又水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で65℃〜75℃で加熱溶解後、晶析させることにより、精製することができる。
親水性溶媒としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を用いることができる。好ましくはアルコール類、さらに好ましくはエタノールである。
水溶媒又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒の量は、化合物(II)の容量に対して2〜12倍容量、好ましくは4〜8倍容量である。
水及び親水性有機溶媒の混合溶媒を使用する場合は、水:親水性有機溶媒の容量比は10〜1:1、好ましくは5〜3:1、さらに好ましくは5〜3:2である。
溶媒系は最初に水溶媒又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒を用い、途中で水溶媒、親水性有機溶媒、又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒を加えることができる。
必要であれば、化合物(II)の種晶を化合物(I)に対して1/300〜1/2000重量を加えることができる。種晶を加えることにより、晶析時間の短縮及び安定した晶析化が可能である。
種晶は、特許文献1に記載の方法により合成したものを使用することができる。
晶析温度は0℃〜溶媒の還流温度、好ましくは45℃〜55℃である。
晶析時間は0.5時間〜24時間、好ましくは6時間〜10時間である。
晶析終了後、0℃〜30℃に1〜24時間放置することができる
d)で得られた化合物(II)の純度は98.5%以上、無機塩の含有量は0.1%以下、トリフルオロ酢酸のアルカリ金属塩の含有量は20 ppm(トリフルオロ酢酸として算出)以下となる。さらに結晶の粒径D50は7〜10μmであり、製剤化に適した大きさである。
【実施例1】
【0008】
(第1工程)
水酸化ナトリウム(18.88 g)の水(75 mL)/エタノール(50 mL)溶液を攪拌し、その中にリシノプリルエステル体(I; 50.0 g)を10.0 gずつ5回に分け、反応液温度を50℃〜55℃に保ちながら10分間隔で加えた。反応液温度50℃〜55℃で1時間攪拌後、10℃で一夜静置した。
(第2工程)
反応液を35℃以下で攪拌し、その中に35%塩酸(33.53 g)を加えた。反応液のpHは7.48であった。その反応液を97 gまで濃縮後、エタノール(100 mL)を加えた。析出物を濾過し、エタノール(50 mL)で洗浄した。
(第3工程)
濾液に35%塩酸(4.80 g)を加え、pHを6.2に調整した。その反応液を50℃に温め、その中に50℃の酢酸エチル(250 mL)を加え、特許文献1に記載の方法で合成された種晶(0.10 g)を加えて、50℃±10℃で3時間攪拌し晶析した。さらに室温まで冷却後、一夜静置し濾過した。結晶をエタノール(100 mL)で洗浄し、未乾燥の粗リシノプリル2水和物を得た。減圧乾燥して粗リシノプリル2水和物(45.0 g、見掛収率108%)を得た。比色法により、該粗リシノプリル2水和物には約7%の食塩が含まれていた。
(第4工程)
該粗リシノプリル2水和物の一部(10.6 g)を水(30 mL)/エタノール(20 mL)に加え、その溶液を73℃に加温して粗リシノプリル2水和物を溶解した。
溶液を50℃に冷却後、特許文献1に記載の方法で合成された種晶(0.01 g)を加えて、50℃〜55℃で3時間攪拌し晶析し、室温で一夜静置した。さらに、反応液を氷冷下1時間攪拌し晶析した。晶析物を濾過し、エタノール(20 mL)で洗浄して、未乾燥の精リシノプリル2水和物を得た。
未乾燥の精リシノプリル2水和物を減圧乾燥し、精リシノプリル2水和物(II;8.71 g、収率89.0%)を得た。
純度99.9%(HPLC法)、水分含有量8.5%(カールフィシャー法)、NaCl含量0.1%以下(比色試験法)、トリフルオロ酢酸ナトリウム塩の含有量20 ppm(トリフルオロ酢酸として算出)以下であった。
【実施例2】
【0009】
(第1工程)
水酸化ナトリウム(75.5 g)の水(1100 mL)溶液を攪拌し、その中にリシノプリルエステル体(I; 200.0 g)を20.0 gずつ10回に分け、反応液温度を46℃〜53℃に保ちながら5分間隔で加えた。反応液に、水(100 mL)を加え、反応液温度46℃〜53℃で1時間攪拌後、一夜静置した。
(第2工程)
反応液を室温で攪拌し、その中に35%塩酸(154.78 g)を加えた。反応液のpHは5.3であった。反応液を400 gまで濃縮後、エタノール(400 mL)を加えた。析出物を濾過し、エタノール(200 mL)で洗浄し、濾液を得た。
(第3工程)
濾液を50℃に温め、その中に45℃の酢酸エチル(1000 mL)、特許文献1に記載の方法で合成された種晶(0.2 g)を加え、40℃〜47℃で3時間攪拌し晶析した。さらに、室温で一夜攪拌し晶析した。晶析物をエタノール(400 mL)で洗浄し、未乾燥の粗リシノプリル2水和物を得た。減圧乾燥して、粗リシノプリル2水和物(107.45 g、見掛収率102.2%)を得た。
(第4工程)
該粗リシノプリル2水和物の一部(12.0 g)を水(84 mL)に加え、その溶液を70℃に加温して粗リシノプリル2水和物を溶解した。溶液を濾過し、水(12 mL)で洗浄して、濾液を得た。
濾液を48 gまで減圧濃縮後、反応液温度55℃で、特許文献1に記載の方法で合成された種晶(0.01 g)を加えて、54℃〜55℃で3時間攪拌し晶析した。反応液にエタノール(20 mL)を加え、さらに50℃〜53℃で1時間攪拌し晶析した。氷冷下一夜静置後、晶析物を濾過し、エタノール(20 mL)で洗浄して、未乾燥の精リシノプリル2水和物を得た。
未乾燥の精リシノプリル2水和物を減圧乾燥し、精リシノプリル2水和物(II;10.53 g、収率89.7%)を得た。
純度99.9%(HPLC法)、水分含有量8.5%(カールフィシャー法)、NaCl含量0.1%以下(比色試験法)、トリフルオロ酢酸のナトリウム塩の含有量20 ppm(トリフルオロ酢酸として算出)以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0010】
血圧降下剤として有用なリシノプリル2水和物を製造するにあたって、反応収率の向上、操作の簡便化、並びに最終目的物の純度向上(塩類及びトリフルオロ酢酸の含有量の減小)を図り、化合物(I)から化合物(II)を高品質、高収率、かつ簡便な操作で得る製造方法を見出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a)式(I):
【化1】

で表わされるN2−(1(S)−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)−N6−トリフルオロアセチル−L−リジン−L−プロリン1モルに対して、mモル当量(但し、m≧3)の無機塩基を用いて、水溶媒中又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で加水分解する工程、
b)当該反応液に無機酸を加えpH5〜8.5とし、前記無機塩基と無機酸から生じる無機塩を、除去する工程、及び
c)得られた当該反応液をpH5〜6.5に調整し、さらに疎水性溶媒を加えることにより、式(II):
【化2】

で表わされるN2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物を結晶として得る工程を包含する、N2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物(II)の製造方法。
【請求項2】
以下の工程:
a)式(I):
【化3】

で表わされるN2−(1(S)−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)−N6−トリフルオロアセチル−L−リジン−L−プロリン1モルに対して、mモル当量(但し、m≧3)の無機塩基を用いて、水溶媒中又は水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で加水分解する工程、
b)当該反応液に無機酸を加えpH5〜8.5とし、前記無機塩基と無機酸から生じる無機塩を、除去する工程、
c)得られた当該反応液をpH5〜6.5に調整し、さらに疎水性溶媒を加えることにより、式(II):
【化4】

で表わされるN2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物を結晶として得る工程、及び
d)得られた(II)の結晶を、水溶媒中又水及び親水性有機溶媒の混合溶媒中で晶析させる工程を包含する、N2−(1(S)−カルボキシ−3−フェニルプロピル)−L−リジン−L−プロリン2水和物(II)の製造方法。
【請求項3】
疎水性有機溶媒が酢酸エチルである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
親水性有機溶媒がエタノールである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法
【請求項5】
無機塩基がアルカリ金属水酸化物である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
無機酸が塩酸である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
b)における無機酸の添加量がnモル当量(但し、m−2≦n≦m−1)であり、さらにc)における無機酸の添加量がpモル当量(但し、0<p<1、m−2≦n+p≦m−1)である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
c)の溶媒系において、疎水性有機溶媒:親水性有機溶媒:水の重量比が10〜16:6〜10:1〜2である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
d)において、水:親水性有機溶媒の重量比が5〜3:2である水及び親水性有機溶媒の混合溶媒系を用いる請求項2〜8のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−22001(P2006−22001A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198743(P2004−198743)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【出願人】(504260232)日亜薬品工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】