説明

リチウム、鉄及びリン酸を含有する結晶性材料の製造方法

本出願は、 一般式(I):
Lia-bbFe1-ccd-eex (I)、
[式中、Mと、M、M、a、b、c、d、e、xは:
:Na、K、Rb、及び/又はCs、
:Mn、Mg、Ca、Ti、Co、Ni、Cr、V、
:Si、S、
a:0.8〜1.9、
b:0〜0.3、
c:0〜0.9、
d:0.8〜1.9、
e:0〜0.5、
x:1.0〜8、(Li、M、Fe、M、P、Mの量と酸化状態により異なる)、但し、一般式(I)の化合物は無電荷である。]で表される化合物の製造方法であって、
(A)少なくとも一種のリチウム含有化合物と、鉄含有化合物としてのFeOOHと、存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、少なくとも一個のリン原子を含む少なくとも一種の化合物と、少なくとも一種の還元剤とを含む実質的に水性の混合物を供給する工程、
(B)必要に応じて、工程(A)で供給された混合物を乾燥して、固体化合物を得る工程、及び
(C)工程(A)または(B)から得られる固体化合物を300〜950℃の温度で焼成する工程を含むことを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム、鉄及びリン酸アニオンを含む化合物の製造方法、これらの化合物と少なくとも一種の電気伝導性材料とを含む混合物の製造方法、これらの方法により製造される化合物や混合物、これらの化合物や混合物のリチウムイオン電池のカソードの製造のための利用に関する。
【背景技術】
【0002】
LiFePOの製造方法はすでに知られている。
【0003】
US2003/0082454A1は、LiCOまたはLiOH・HOと、Fe(CHCOとNHPO・HOとを混合してLiFePOを製造する方法を開示している。NHとHOとCOを除くため、この固体混合物は300〜350℃で焼成される。次いで、この混合物は、さらにアルゴン下800℃で、24時間処理される。この文書は、さらに、LiとLiHPOとFe(C)・2HOとを含む混合粉体を焼成してLiFePO系材料を製造する方法について言及している。
【0004】
US6,962,666B2には、3質量%のポリプロピレン粉末とFe(PO・8HOとLiPOからなる混合粉体をアルゴン下で焼成することによる、炭素含有塗膜を有するLiFePOの製造方法が開示されている。この混合物は、Fe(PO・8HOの脱水のためにアルゴン下300℃で3時間焼成され、次いで700℃で7時間焼成される。このポリプロピレン粉末は、Fe(PO・8HO中のFe(III)をLiFePO中のFe(II)の変換し、同時に炭素を製造するための還元剤である。
【0005】
US6,702,961B2には、また、FePOとLiCOと炭素とからなる混合粉末をペレット化し、次いで不活性雰囲気中で700℃で8時間焼成することによる
【0006】
LiFePOの製造方法が開示されている。
【0007】
CN1547273Aの要約書には、LiCOとFeC・2HOと(NHHPOとさらには炭素との混合粉末、次いでそのタブレットをマイクロ波照射下で焼成することによるLiFePOの製造方法が開示されている。
【0008】
DE102005015613A1には、FeSO・7HOとHPOとLiOH・HOとを含む水混合物を窒素下160℃で10時間水熱処理して、LiFePOを得ることができることが開示されている。
【0009】
DE102005012640A1には、LiPOをLiSOとともに共沈殿して得たFe(PO・8HOを160℃で10時間水熱処理することでLiFePOが得られることが開示されている。
【0010】
WO2006/057146A2には、FeOとPとLiOHを含む混合物を1100℃でアルゴン下で溶融し、次いで粉末化することによりLiFePOが得られることが開示されている。
【0011】
US2004/0013943には、アルカリ金属と遷移金属含有化合物とからなる混合物に炭素含有還元剤を添加することを特徴とする電極または電池用の活物質の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】US2003/0082454A1
【特許文献2】US6,962,666B2
【特許文献3】US6,702,961B2
【特許文献4】CN1547273A
【特許文献5】DE102005015613A1
【特許文献6】DE102005012640A1
【特許文献7】WO2006/057146A2
【特許文献8】US2004/0013943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先行技術のLiFePOの製造方法は、焼成工程を還元雰囲気中で行う必要があるという欠点を有している。還元剤の炭素は還元剤として作用するため、高い反応温度と高い焼成温度が必要となり、これは材料中の結晶粒の成長と、大きな粒度分布をもたらすこととなる。他の欠点は、LiCOやFeなどの固体化合物を固相で混合すると、混合物全体に異なるイオンが均一に分散した混合物を得るのが難しいことである。
【0014】
本発明の目的は、リン酸リチウム鉄の製造方法であって、非常に均一に混合されて結晶状態にあるリン酸リチウム鉄を与えることのできる方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、容易にまた少ない反応工程で実施可能な上記化合物の製造方法を提供することである。本発明の他の目的は、単一相のリン酸リチウム鉄の製造に用いられる焼成温度を、500℃以下にまで低下することの可能なリン酸リチウム鉄の製造方法を提供することである。したがって、さらに他の目的は、Liイオン拡散性を改善するため、またこれにより動力特性を改善するため、またまたLiイオン電池の性能を増加させるために、Liイオン電池の充放電において改善されたLiイオン拡散性を与える、結晶子の大きさの分布が非常に狭い微分散材料を得ることである。さらに他の目的は、多孔性球状の材料で、その中に複数の結晶性一次粒子が詰まっている材料を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの目的は、一般式(I):
Lia-bbFe1-ccd-eex (I)、
[式中、Mと、M、M、a、b、c、d、e、xは:
:Na、K、Rb、及び/又はCs、
:Mn、Mg、Ca、Ti、Co、Ni、Cr、V、
:Si、S、
a:0.8〜1.9、
b:0〜0.3、
c:0〜0.9、
d:0.8〜1.9、
e:0〜0.5、
x:1.0〜8、(Li、M、Fe、M、P、Mの量と酸化状態により異なる)、但し、一般式(I)の化合物は無電荷である。]
で表される化合物の製造方法であって、
(A)少なくとも一種のリチウム含有化合物と、鉄含有化合物としてのFeOOHと、存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、少なくとも一種の少なくとも一個のリン原子を含む化合物と、少なくとも一種の還元剤とを含む実質的に水性の混合物を供給する工程、
(B)必要に応じて、工程(A)で供給された混合物を乾燥して、固体化合物を得る工程、及び
(C)工程(A)または(B)から得られる固体化合物を300〜950℃の温度で焼成する工程
を含むことを特徴とする方法により達成される。
【0016】
図1〜7は、以下の実施例で得られた化合物や混合物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、斜方晶トリフィライトの結晶構造を有し、導入されたカーボンブラックを含むLiFePO一次粒子からなる粉末の500℃で焼成後のSEM写真である。
【図2】図2は、斜方晶トリフィライトの結晶構造を有し、導入されたカーボンブラックを含むLiFePO一次粒子からなる粉末の500℃で焼成後のSEM写真である。
【図3】図3は、斜方晶トリフィライトの結晶構造を有し、導入されたカーボンブラックを含むLiFePO一次粒子からなる粉末の700℃で焼成後のSEM写真である。
【図4】図4は、斜方晶トリフィライトの結晶構造を有し、導入されたカーボンブラックを含むLiFePO一次粒子からなる粉末の700℃で焼成後のSEM写真である。
【図5】図5は、斜方晶トリフィライトの結晶構造を有し、導入されたカーボンブラックを含むLiFePO一次粒子からなる粉末の800℃で焼成後のSEM写真である。
【図6】図6は、斜方晶トリフィライトの結晶構造を有し、導入されたカーボンブラックを含むLiFePO一次粒子からなる粉末の800℃で焼成後のSEM写真である。
【図7】図7は、斜方晶トリフィライトの結晶構造を有し、導入されたカーボンブラックを含むLiFePO一次粒子からなる粉末の800℃で焼成後のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ある好ましい実施様態においては、M、M、M、a、b、c、d、eおよびxは以下の意味をもつ。
:Na、
:Mn、Mg、Ca、Ti、Co、Ni、
:Si、S
a:0.6〜1.6、特に好ましくは0.9〜1.3、
b:0〜0.1、
c:0〜0.6、特に好ましくは0〜0.3
d:0.6〜1.6、特に好ましくは0.9〜1.3
e:0〜0.3、特に好ましくは0〜0.1
x:2.0〜6、(Li、MFe、M、P、Mの量と酸化状態により異なる)、なお、一般式(I)の化合物は無電荷である。
【0019】
例えば、ある非常に好ましい実施様態では、無電荷でFeの酸化状態が+2である一般式(I)の化合物LiFePOを得るために、MとMとMとが存在しない。したがって、ある非常に好ましい実施様態おいては、本発明の方法は、式LiFePOの化合物を得るために実施される。
【0020】
他の好ましい実施様態においては、Mが、例えばNaが、LiとMの合計に対して最高10モル%の量で存在する。もう一つの好ましい実施様態においては、Mが、例えばMnが、化合物に存在する鉄(II)とMの合計に対して、最高30モル%の量で存在する。もう一つの好ましい実施様態においては、Mが、例えばSiが、リンとMの合計に対して最高10モル%の量で存在する。
【0021】
以下に、製造工程(A)と(B)と(C)をより詳細に説明する。
【0022】
工程(A):
本発明の方法の工程(A)は、少なくとも一種のリチウム含有化合物と、鉄含有化合物としてのFeOOHと、存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、少なくとも一種のリン原子を含む少なくとも一種の化合物と少なくとも一種の還元剤とを含む実質的に水性の混合物を与えることを含む。
【0023】
本発明の方法の工程(A)において与えられる混合物は、実質的に水性で、例えば実質的に水溶液、分散液、またはスラリーである。
【0024】
一般に、当該分野における通常の知識を有する者に既知で、本方法の工程(A)の混合物中に導入可能なすべてのLi−、M−、M−、おおびM含有化合物が、本発明の方法で使用可能である。
【0025】
工程(A)中のLi含有化合物は、好ましくは水酸化リチウムLiOH、水酸化リチウム水和物LiOH・HO、酢酸リチウムLiOAc、炭酸リチウムLiCO、LiHPO、LiHPO、LiPO、LiHPO、LiHPO、LiPO、LiHPOなどのリン酸リチウム類、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる。ある非常に好ましい実施様態おいては、水酸化リチウムLiOH及び/又は水酸化リチウム水和物LiOH・HO及び/又は炭酸リチウムLiCOが、本発明の方法の工程(A)におけるリチウム含有化合物として用いられる。二つの特に好ましいリチウム含有化合物が、水酸化リチウムLiOHと水酸化リチウム水和物LiOH・HOである。
【0026】
この少なくとも一種のリチウム含有化合物は、本発明の方法の工程(A)の混合物に、通常全反応混合物に対して0.04〜モル−Li/Lの濃度で、好ましくは0.1〜2.0モル−Li/L、特に好ましい0.2〜1.5モル−Li/L濃度で添加される。
【0027】
酸化水酸化鉄(III)FeOOHが、鉄含有化合物として用いられる。FeOOHは、好ましくはα−FeOOH、β−FeOOH、γ−FeOOHおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる。酸化水酸化鉄(III)(FeOOH)のα体及びγ体が好ましい。α−FeOOHが特に好ましい。
【0028】
ある好ましい実施様態においては、FeOOHが針状物として存在し、その長さ/厚み比は、>1.5が好ましく、>2がより好ましくは、>5が特に好ましい。
【0029】
FeOOHの利用、好ましくはその針状物の利用の利点は、少なくとも一種のリチウム含有化合物と少なくとも一種のリン含有化合物とからなる混合物中において、非常に拡散経路が短いため、一般式(I)に記載の化合物を、非常に均一でまた単一相で得ることができることである。このFe(III)カチオンは、リチウム原子とリン原子との間を容易に移動して、結晶中の正しい位置に到る。このような移動は、異なる複数のFe含有化合物を用いると難しい。
【0030】
本発明の方法の工程(A)において、少なくとも一種の鉄含有化合物が、全反応混合物に対して通常0.04〜4.0モル−Fe/Lの濃度で、好ましくは0.1〜2.0モル−Fe/L、特に好ましい0.2〜1.5モル−Fe/Lの濃度で混合物に添加される。
【0031】
必要なら、この少なくとも一種のM含有化合物は、好ましくは、水酸化ナトリウムNaOH、水酸化ナトリウム水和物NaOH・HO、酢酸ナトリウムNaOAc、炭酸ナトリウムNaCO、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる。ある非常に好ましい実施様態おいては、水酸化ナトリウムNaOH及び/又は水酸化ナトリウム水和物NaOH・HO及び/又は炭酸ナトリウムNaCOが、本発明の方法の工程(A)においてナトリウム含有化合物として用いられる。二つの特に好ましいナトリウム含有化合物が、水酸化ナトリウムNaOHと水酸化ナトリウム水和物NaOH・HOである。
【0032】
存在するなら、少なくとも一種のM含有化合物が、好ましくは、必要なカチオンと、ヒドロキシド、アセテート、オキシド、カーボネート、フルオライドやクロライド、ブロマイド、アイオダイドなどのハロゲニド、ニトレートや、これらの混合物から選ばれるアニオンとを有する化合物から選ばれる。ある非常に好ましい実施様態おいては、この少なくとも一種のM含有化合物のアニオンが、アセテート、オキシド、ヒドロキシド、カーボネート、ニトレート、またはこれらの混合物である。
【0033】
必要なら、この少なくとも一種のM含有化合物は、HSO、(NH)HSO、(NHSO、LiHSO、LiSO、ゾルなどの形状の微粉状SiO2、HSiO、ケイ酸Liおよびこれらの混合物から選ばれる。
【0034】
必要なら、M含有化合物、M含有化合物、及び/又はM含有化合物が、実質的に水性の混合物に、式(I)の化合物中に存在する量で添加される。当該分野における通常の知識を有する者は、この必要量を計算する方法を知っている。
【0035】
ある好ましい実施様態においては、本発明の方法の工程(A)において添加されるこの少なくとも一種の還元剤が水溶性である。本発明によれば、「水溶性の」とは、実質的に水性の混合物に添加される還元剤の少なくとも50%が溶解することを意味する。
【0036】
本発明の方法の他の実施様態においては、この少なくとも一種の還元剤は、無炭素である。本発明によれば、無炭素とは、酸化状態が0の炭素原子が還元剤中に存在しないことを意味する。無炭素還元剤の利点は、還元剤としての元素状炭素では600℃以上の温度が必要であるのに対して、300または350℃などの低温で還元が可能であることである。このような低温のため、ナノ結晶体を得ることが可能となる。炭素を還元剤として使用する場合に必要となる高温では、ナノ結晶体をうまく得ることができない。
【0037】
ある好ましい実施様態においては、本発明の方法の工程(A)において添加されるこの少なくとも一種の無炭素状還元剤が、好ましくはヒドラジンまたはその誘導体、ヒドロキシルアミンまたはその誘導体からなる群から選ばれる。ヒドラジ誘導体の例としては、ヒドラジン水和物、ヒドラジン硫酸塩、ヒドラジン二塩酸塩などがあげられる。ヒドロキシルアミン誘導体の一例は、ヒドロキシルアミン塩酸塩である。特に好ましい無炭素還元剤は、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドロキシルアミンまたはこれらの混合物である。
【0038】
他の好ましい実施様態においては、この少なくとも一種の還元剤が炭素を、例えばグルコース、サッカロース及び/又はラクトースなどの還元糖、炭素原子が1〜10である脂肪族アルコール、具体的にはメタノールやエタノール、プロパノール(例えば、N−プロパノールまたはiso−プロパノール)、ブタノール(例えば、n−ブタノール、iso−ブタノール)などのアルコール、アスコルビン酸、易酸化性二重結合を有する化合物、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる炭素を含んでいる。
【0039】
一般式(I)の化合物との混合物中に炭素を存在させて電気伝導度を増加させるために、この少なくとも一種の炭素を含有する水溶性の還元剤は、好ましくは炭素(0)に酸化される。一般式(I)の化合物中に存在する炭素の量は、一般式(I)の化合物に対して例えば0.1〜20質量%であり好ましくは0.5〜15質量%である。
【0040】
この少なくとも一種の還元剤は、本発明の方法の工程(A)の混合物に、好ましくは0.01〜1.0mol/モル−Feの濃度で添加される。
【0041】
発明の方法は、好ましくは少なくとも一種の水溶性の還元剤を、本発明の方法の工程(A)の混合物に導入することで実施される。このため、少なくとも一種のリン原子、好ましくは酸化状態が+5のリン原子を有し、一般式(I)のPO3−含有化合物を得るために必要なPO3−アニオンを与える少なくとも一種の化合物を、本発明の方法の工程(A)において添加する必要がある。
【0042】
少なくとも一個の酸化状態が+5であるリン原子を有し、工程(A)で添加される好ましい化合物は、HPO、(NH)HPO)(NHHPO、(NHPO、LiPO、LiHPO、LiHPOおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる。特に好ましいのはHPOである。
【0043】
この少なくとも一個のリン原子を含む少なくとも一種の化合物は、本発明の方法の工程(A)の混合物に、全反応混合物に対して通常0.04〜4.0モル−P/Lの濃度で、好ましくは0.1〜2.0モル−P/L、特に好ましい0.2〜1.5モル−P/Lの濃度で添加される。
【0044】
ある好ましい実施様態においては、この少なくとも一種のリチウム含有化合物と、鉄含有化合物としてのFeOOHと、少なくとも一種の少なくとも一種のリン原子を含む化合物と、少なくとも一種の還元剤とが、好ましくは実質的に水性の混合物に、一般式(I)の化学量が得られるように調整された量で添加される。当該分野における通常の知識を有する者は、この必要量を計算する方法を知っている。もう一つの好ましい本発明の実施様態においては、この少なくとも一種のリチウム含有化合物が、一般式(I)の化学量より1質量%以上の量で、好ましくは2%以上多い量で添加される。
【0045】
本発明の方法の工程(A)に与えられる混合物は、実質的に水性である。本明細書において「実質的に」とは、本発明の方法の工程(A)の実質的に水性の混合物を与えるのに用いられる溶媒の50質量%を超える、好ましくは65質量%を超える、特に好ましくは80質量%を超える量が水であることを意味する。
【0046】
水に加えて、水と混和性の他の溶媒が存在していてもよい。これらの溶媒の例としては、炭素原子数が1〜10の脂肪族アルコール、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール(例えば、N−プロパノールまたはiso−プロパノール)、ブタノール(例えば、n−ブタノール、iso−ブタノール)があげられる。本発明によれば、アルコールを、水溶性還元剤及び/又は他の溶媒として添加することができる。
【0047】
ある非常に好ましい実施様態おいては、本発明の方法の工程(A)で用いられる溶媒は、水のみで、他の溶媒を含まない。この溶媒、好ましくは水は、本発明の方法の工程(A)において得られる混合物がスラリー、分散液または好ましくは溶液となるような量で添加される。
【0048】
工程(A)の溶媒または溶媒混合物へのこれら異なる成分の添加順序は決められていない。ある好ましい実施様態においては、まずリチウム含有化合物が溶媒に加えられ、鉄含有化合物としてのFeOOHが第二の成分として添加される。少なくとも一種の還元剤と少なくとも一個のリン原子を含む少なくとも一種の化合物は、その後で加えられる。
【0049】
本発明のある好ましい実施様態においては、本発明の方法の工程(A)で得られる混合物は、少なくとも一種のリチウム含有化合物と、鉄含有化合物としてのFeOOHと、少なくとも一種の少なくとも一個のリン原子を含む化合物と、少なくとも一種の水溶性の還元剤を含む実質的には水溶液または分散液である。
【0050】
工程(A)は、当業界の熟練者には既知のあらゆる適当な反応器中で実施できる。工程(A)は、連続的に行っても、不連続的に行ってもよい。
【0051】
本発明の方法の工程(A)を実施する温度は。10〜120℃であり、好ましくは60〜100℃、特に好ましくは40〜95℃である。100℃を超える温度を使用する場合、水の沸点のため、反応混合物を耐圧の反応器中に入れる必要がある。混合物の均質性を増加させるため、混合は、高温で、必要に応じて剪断力下で、例えばウルトラタラックスを用いた剪断力下で行われる。
【0052】
ある好ましい実施様態では、工程(A)中で混合物は、0.05〜80時間、特に好ましくは0.5〜20時間攪拌される。攪拌終期には、混合物のpH値は、通常pH11未満に、好ましくはpH10未満、例えば2.0〜8.0となる。
【0053】
本発明の方法の工程(A)は、空気下で行っても不活性雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスの例としては、窒素や、ヘリウムまたはアルゴンなどの希ガスがあげられる。ある好ましい実施様態においては、工程(A)が窒素雰囲気下で行われる。
【0054】
ほとんどのFe3+のFe2+への還元は、通常、本発明の方法の工程(B)及び/又は工程(C)で行われ、好ましくは工程(C)で行われる。工程(A)において水性の混合物への還元剤の添加の直後に還元が始まることもある。あるいは、水混合物を40〜100℃の高温に、好ましくは60〜95℃の高温に加熱した後に、還元が始まることもある。
【0055】
工程(B):
本発明の方法の工程(B)では、工程(A)で得られる混合物を乾燥して、固体化合物を得る。
【0056】
工程(B)においては、工程(A)で得られた実質的に水性の混合物が固体化合物に変換される。本発明の方法の工程(A)において得られる混合物の乾燥は、当該分野における通常の知識を有する者には既知で、上記の成分からなる水混合物の水を除去するのに好適であるあらゆる方法で実施可能である。
【0057】
工程(B)において工程(A)からの混合物を乾燥するのに好ましい方法は、噴霧乾燥、凍結乾燥またはこれらの組み合わせである。本発明によれば、工程(B)の乾燥を噴霧乾燥のみで、凍結乾燥のみで、あるいは噴霧乾燥と凍結乾燥の両方をどちらかの順番で実施してもよい。本発明の方法の工程(B)は、好ましくは噴霧乾燥により行われる。工程(B)での噴霧乾燥により、好ましくは一般式(I)の化合物、好ましくはLiFePOの球状凝集物が得られることが好ましい。
【0058】
噴霧乾燥は、通常、工程(A)で得られた混合物を一個以上の狭いノズル通過させて微細な液滴とし、これを熱空気あるいは熱窒素、あるいは純粋酸素とアルゴン、ヘリウム、水素の熱混合物の気流により、好ましくは熱風または熱窒素のまたは空気と窒素の熱混合物の、また必要なら酸素の気流により乾燥させるが、特に好ましくは熱風により乾燥させる。噴霧を回転円板で行うこともでき、この方法が好ましい。ある好ましい実施様態においては、用いる熱空気または窒素の気流の温度が100〜500℃であり、特に好ましくは110〜350℃である。噴霧乾燥は、通常はいずれの中間工程を設けることなく、直接工程(A)の混合物を用いて行われる。噴霧乾燥により、通常は平均径が<0.5mm、即ち15〜300μm、好ましくは20〜200μm、特に好ましくは30〜150μmの球状凝集物が得られる。工程(B)のある好ましい実施様態においては、平均径が3〜50μmである比較的小さな球状凝集物を得るために薄い溶液を用いることができ、これらの希薄溶液の噴霧乾燥は高圧ノズルを用いて実施できる。通常、この溶液を希釈するために水が加えられる。
【0059】
第二の実施形態においては、本発明の方法の工程(B)が凍結乾燥で行われる。したがって、噴霧用混合物が、例えば液体窒素中に噴霧される。これにより得られる球状粒子と凝集物は、低温で真空で乾燥できる。
【0060】
工程(B)の乾燥は、乾燥固体を得るために実施される。ある好ましい実施様態においては、本発明の方法の工程(B)での乾燥が、固体水分含有率が50質量%未満、好ましくは35質量%未満、特に好ましくは25質量%未満の個体を得るために実施される。
【0061】
工程(B)の後では、目的の固体が、好ましくは直径が3〜300μm、好ましくは6〜200μm、非常に好ましくは10〜150μmである球状凝集物として存在する。
【0062】
工程(C):
本発明の方法の工程(C)は、工程(B)から得られる固体化合物を、300〜950℃の焼成温度で焼成することからなる。工程(C)は、好ましくは480〜900℃の焼成温度で、特に好ましくは490〜850℃で実施される。
【0063】
850℃を超える、例えば950℃を超える焼成温度が用いられる場合は、本発明の方法で得られる球状凝集物の少なくとも一部が、少なくとも部分的に分解して一次粒子となり、これは望ましくない。したがって、ある好ましい実施様態においては、850℃を超える焼成温度は避けるべきである。
【0064】
焼成は、通常不活性ガス雰囲気下で行われる。不活性ガスの例としては、窒素や、微量の酸素を含む工業用窒素、ヘリウム及び/又はアルゴンなどの希ガスがあげられる。ある好ましい実施様態においては、本発明の方法の工程(C)において、窒素が用いられる。
【0065】
本発明の方法の一つの利点は、焼成を不活性雰囲気下で行うことができ、先行技術のように還元雰囲気下で工程(C)を行う必要がないことである。このため、本発明の方法は、短時間かつ低コストで実施可能である。ガス状還元剤、例えば水素が存在しないため、爆薬性のガス混合物の発生を避けることができる。焼成工程で用いる窒素が多量の酸素を含む場合は、COまたは水素などの還元ガスをこの酸素含有窒素に添加することができる。
【0066】
本発明の方法の工程(C)は、0.1〜8時間、好ましくは0.5〜3時間実施される。ある好ましい工程(C)の実施様態においては、この焼成温度を、0.1〜2時間、非常に好ましくは0.5〜1.5時間維持した後、最後に温度を室温にまで下げる。
【0067】
ある好ましい実施様態においては、工程(C)から得られる生成物が、実質的に直径が3〜300μmである、好ましくは6〜200μm、非常に好ましくは10〜150μmである球状凝集物からなる。SEMまたはTEMなど異なる分析機器を用いて調べてみると、この球状凝集物が結晶性の一次粒子からなり、空孔も含んでいることがわかる。空孔率は、いろいろな要素により、具体的にはFeOOH粒子の細かさ、針状FeOOH粒子の長さ/幅比、工程(A)で得られるスラリーの濃度、工程(B)での噴霧乾燥速度(またこれは使用ガスの温度に依存する)、また用いる噴霧塔の構造により変化する。球状凝集物の空孔率は、通常3〜85%である、好ましくは5〜70%、特に好ましくは5〜50%である。
【0068】
焼成温度は、一般式(I)の化合物の比表面積に大きな影響をもつ。焼成時が低温である場合は、比表面積が大きくなる。焼成時が高温である場合は、比表面積が小さくなる。
【0069】
本発明の方法の工程(C)で得られる球状粒子または凝集物の比BET表面積は、通常0.01〜50m/gであり、好ましくは0.1〜40m/gである。本発明はまた、本発明の方法により得られる少なくとも一種の一般式(I)の化合物を含む球状粒子または凝集物に関する。これらの球状粒子または凝集物は上記の特徴をもつ。
【0070】
本発明の方法の工程(C)で得られるこれらの球状粒子または凝集物は、必要なら、他の元素を、例えば必要なら還元剤の、例えば砂糖の熱分解により得られる炭素を含んでいてもよい。本発明の方法は、連続的に実施しても、不連続的に実施してもよい。
【0071】
ある好ましい実施様態においては、本発明の方法は連続的に実施される。工程(C)に好適な装置は、当該分野における通常の知識を有する者には既知である。不連続的または連続的焼成用装置の一例が、回転炉である。連続焼成の場合、回転炉中での滞留時間は、炉の傾斜と回転数により決まる。当該分野における通常の知識を有する者は、回転炉中で好適な滞留時間に合わせる方法を知っている。ある好ましい実施様態においては、本発明の方法の工程(C)で焼成される固体が、例えば流動床反応器または回転炉中で焼成中に移動させられる。この固体を焼成中攪拌することもできる。回転炉は異なる温度ゾーンを持っていてもよい。例えば、第一のゾーンでは噴霧乾燥した粉末を排出させるために温度が低温に調整され、他のゾーンはより高温の焼成温度となる。粉末の加熱速度は、異なるゾーン内での温度と粉末が炉中を移動する速度とに依存する。
【0072】
本発明の方法の工程(C)は、通常、目的物への完全変換に適した圧力下で行われる。ある好ましい実施様態では、反応器中に外部より酸素が侵入するのを防止するため、工程(C)を大気圧より少し高い圧力で実施する。この少し高い気圧は、好ましくはこの工程において焼成される固体化合物の上を流れる少なくとも一種の不活性ガスによりもたらされる。
【0073】
本出願によれば、一般式(I)の化合物から製造される電極の組成によっては、また得られるリチウムイオン電池の所望の電気化学的性質によっては、球状凝集物を破砕して所望サイズのより小さく緻密な凝集物に、あるいは一次粒子とするために、工程(B)で得られる固体化合物を工程(C)の前に機械的に処理したり、及び/又は工程(C)で得られる固体化合物を工程(C)の後に機械的に処理することが有利となることもある。好適なミルは、当該分野における通常の知識を有する者には既知である。例えば、非常に低摩擦である、好ましくは窒素及び/又は空気を用いるジェットミルである。焼成生成物を粉砕するのに、湿式粉砕法も、例えばビーズミルの使用も有利であるかもしれない。他の好適な装置は、圧縮機及び/又はロールである。
【0074】
本発明はまた、好ましくは球状の形状を有する、好ましくは本発明の方法により製造される上記一般式(I)の化合物に関する。これらの球状化合物は、上記の直径や空孔率などの特徴をもつ。これらの球状粒子は、好ましくは結晶性の一次粒子であり、これは、好ましくは実質的にLiFePOの結晶構造を示す。本発明の方法により製造された一般式(I)の組成のこれらの一次粒子は、従来技術により製造された化合物に較べて優れた結晶性を示す。また、得られる一次粒子のサイズの分布は、従来品に較べて狭い。得られる一次粒子の結晶性が改善されており、得られる固体中では、成分の分散性が改善されている。また、本発明では、単一相のリン酸リチウム鉄を製造する際の焼成温度を、通常用いられる高焼成温度の800℃から大幅に低下させることができる。焼成温度の低下により、通常より微細で結晶子の分布の小さい材料を得ることができ、Liイオン電池の放充電の際のLiイオンの拡散性が改善される。Liイオンの拡散性の改善により、Liイオン電池の動力特性と容量が改善される。
【0075】
この事実のため、本発明の方法で製造した一般式(I)の本発明の材料は、特にリチウムイオン電池または電気化学セルのカソードの製造への利用に好適である。したがって、本発明はまた、本発明の方法で得られる/製造可能な一般式(I)の化合物の球状粒子または凝集物の、リチウムイオン電池または電気化学的セルのカソードの製造への利用に関する。
【0076】
本発明はまた、本発明の方法で得られる/製造可能な一般式(I)の化合物の少なくとも一種の球状粒子または凝集物を含むリチウムイオン電池用のカソードに関する。上述のようにカソードを得るには、一般式(I)の化合物を、例えばWO2004/082047に記載されている少なくとも一種の電気伝導性材料と混合する。
【0077】
好適な電気伝導性材料としては、例えばカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素ナノファイバー、炭素ナノチューブまたは電気伝導性ポリマーがあげられる。通常カソード中で、20〜40質量%の少なくとも一種の電気伝導性材料が、一般式(I)の化合物とともに用いられる。カソードを得るには、必要なら有機溶媒の存在下、必要ならポリイソブテンなど有機のバインダーの存在下で電気伝導性材料と一般式(I)の化合物を混合し、この混合物を必要なら成形して乾燥させる。乾燥工程では、80〜150℃の温度が用いられる。ある好ましい実施様態においては、少なくとも一種の電気伝導性材料または少なくとも一種の電気伝導性材料の前駆体の少なくとも一部が、上記の一般式(I)の化合物の製造の際に添加される。
【0078】
ある好ましい実施様態においては、少なくとも一種の電気伝導性材料または少なくとも一種の電気伝導性材料の前駆体の少なくとも一部が、一般式(I)の化合物の製造において出発原料混合物に添加される。一般式(I)の化合物の製造の際に使われなかった、少なくとも一種の電気伝導性材料または少なくとも一種の電気伝導性材料の前駆体の残部は、この製造後に添加される。
【0079】
したがって、本発明はまた、上記の少なくとも一種の一般式(I)に記載の化合物と少なくとも一種の電気伝導性材料とを含む混合物の製造方法であって、以下の工程を含むものに関する。
【0080】
(D)少なくとも一種の電気伝導性材料または少なくとも一種の電気伝導性材料の前駆体と、少なくとも一種のリチウム含有化合物と、鉄含有化合物としてのFeOOHと、存在するなら少なくとも一種のM含有化合物、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、少なくとも一種の少なくとも一個のリン原子を含む化合物と少なくとも一種の還元剤とを含む実質的に水性の混合物を供給する工程、
(E)必要に応じて、固体化合物を得るために工程(D)で供給される混合物を乾燥させる工程、及び
(F)工程(E)で得られる固体化合物を300〜950℃の温度で焼成する工程。
【0081】
これらのリチウム含有化合物、M含有化合物、M含有化合物及び/又はM含有化合物、鉄含有化合物としてのFeOOH、少なくとも一種の少なくとも一個のリン原子を含む化合物、好ましくは水溶性である少なくとも一種の還元剤、電気伝導性材料、装置、および及び工程(D)〜(F)の運転上の変数は、上述の通りである。
【0082】
ある好ましい実施様態においては、この電気伝導性材料は、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素ナノファイバー、炭素ナノチューブ、電気伝導性ポリマーまたはこれらの混合物からなる群から選ばれる。この少なくとも一種の電気伝導性材料の前駆体は、好ましくは本発明の混合物の製造の際に熱分解で炭素中に取り込まれる化合物から選ばれ、その例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、グルコース、フルクトース、スクロース、サッカロース、キシロース、ソルボース、ラクトース、デンプン、セルロース及びそのエステル、エチレンとエチレンオキシドのブロックポリマー、フリフリルアルコールのポリマー、またはこれらの混合物があげられる。特に好ましいのは、水溶性の炭素前駆体である。
【0083】
炭素含有還元剤として述べた化合物、また電気伝導性材料の前駆化合物として述べた化合物は、FeOOHをFe(II)に還元する機能と電気気伝導性材料として得られる混合物中に存在する炭素に変換されるという機能の両方を有している。
【0084】
カーボンブラック、グラファイトまたは実質的に炭素からなる物質が工程(D)中で電気伝導性材料として用いられる場合は、これらの材料は、好ましくは、他成分の混合物中に、好ましくは実質的に水溶液または分散液中に懸濁される。これは、これらの電気伝導性材料を、好ましくは他成分の水混合物に直接添加することにより行われる。あるいは、カーボンブラック、グラファイトまたは実質的に炭素からなる物質を過酸化水素の水溶液中に懸濁し、この懸濁液を、上記の一種以上の成分の溶液または分散液に添加してもよい。過酸化水素で処理すると、通常、炭素の濡れ性が向上し、安定性の改善された、即ち分離傾向の小さな炭素含有懸濁液を得ることが可能となる。また、混合物中での電気伝導性材料の均一分散性が改善される。この水性懸濁液をさらに攪拌及び/又は加熱すると、過剰の過酸化水素が、LiとFeと及び/又はPを含有する前駆体の触媒的な存在下で、水と酸素に分解する。
【0085】
実質的に炭素からなる物質を分散させるのに、過酸化水素に代えて、あるいは過酸化水素とともに、界面活性剤を使用することができる。好適な界面活性剤は、当該分野における通常の知識を有する者には既知である。その例としては、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドのブロックコポリマー、例えばBASF社のプルオニック(R)という商品名で販売されている界面活性剤があげられる。
【0086】
少なくとも一種の電気伝導性材料の前駆体を使用する場合、この少なくとも一種の前駆体は、少なくとも一種の通電性材料の添加なしに、あるいは必要に応じて少なくとも一種の通電性材料と混合して用いることができる。
【0087】
本発明はまた、上記の方法で製造された、上記の少なくとも一種の一般式(I)の化合物と少なくとも一種の電気伝導性材料とからなる混合物に関する。従来技術の材料とは異なり、これらの本発明の混合物では、得られた材料球状凝集物内での少なくとも一種の電気伝導性材料の分散性が改善されている。C分散の改善の結果、本発明のカソード材料粉末中に高導電性の炭素網状組織が形成され、電極などの層の導電性が改善される。少なくとも一種の一般式(I)に記載の化合物と少なくとも一種の電気伝導性材料とを含む混合物は、通常混合物中に添加された炭素の種類と量により決まるBET表面積を有し、0.1〜500m/gの範囲である。
【0088】
本発明はさらに、前記の方法により製造される、上述の少なくとも一種の一般式(I)に記載の化合物と少なくとも一種の電気伝導性材料とを含む混合物からなる球状粒子または凝集物に関する。サイズ、空孔率などの特徴は、上記の電気伝導性材料を含まない球状粒子または凝集物と同じである。
【0089】
したがって、本発明はまた、上記混合物または、上記の少なくとも一種の一般式(I)に記載の化合物と少なくとも一種の電気伝導性材料とを含む混合物を含む球状粒子または凝集物の、リチウムイオン電池または電気化学的セルのカソードの製造のための利用に関する。
【0090】
本発明はまた、混合物または上記混合物を含む球状粒子または凝集物を含むリチウムイオン電池用のカソードに関する。
【0091】
ある好ましい実施様態においては、上記一般式(I)に記載の化合物を用いて、または上記の一般式(I)に記載の化合物または球状粒子または凝集物を含む混合物と上記の少なくとも一種の電気伝導性材料とを用いてカソードを製造するために、以下のバインダーが使用される:
【0092】
ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル−メチルメタクリレート、スチレン−ブタジエン−コポリマー、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−コポリマー、ポリビニリデンフルオリド−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)、パーフルオロアルキル−ビニルエーテル−コポリマー、ビニリデンフルオリドクロロトリフルオロエチレン−コポリマー、エチレン−クロロフルオロエチレン−コポリマー、エチレン−アクリル酸−コポリマー(ナトリウムイオン含有または非含有)、エチレンメタクリル酸(ナトリウムイオン含有又は非含有)、ポリイミド、およびポリイソブテン。
【0093】
このバインダーは、全カソード材料に対して通常は1〜10質量%の量で、好ましくは2〜8質量%、特に好ましい3〜7質量%の量で用いられる。
【実施例】
【0094】
本発明を以下の実施例をもとにさらに説明する。
【0095】
実施例1
LiOH・HOとα−FeOOHとHPO(理論量、2時間攪拌、還元剤としてサッカロース、添加のサッカロースの内部熱分解で約9重量%の炭素が生成)からのLiFePO

2LiOH・HO + 2Fe3+OOH + 2HPO → 2LiFe2+5+
【0096】
気流(50NL/h)下で、外部加熱可能な10Lのガラス反応器中に、6Lの80℃の水を投入する。他の工程の間も、N気流置換を維持する。攪拌下で、174.97gのLiOH・HO(57.49%LiOH、4.2モル−Li、ケメタル社、D−60487 Frankfurt、ドイツ)を添加、溶解して、無色透明の溶液を得る。366.20gのα−FeOOH(61.0%Fe、BET=14m/g、4.0モル−Fe;ZMAG−5102、キャセイピグメンツ(USA)社、4901 Evans Ave.、Valparaiso、IN 46383、USA)を添加する。添加したZMAG−5102型のα−FeOOHは、針状の形状を有し、透過型電子顕微鏡による平均の針の長さは1μmで、平均の針径が100〜200nmである。次いで、この琥珀色の水性懸濁液に、461.18gのHPO(85%、4モル−P、リーデルデハーン社、D−30926 Seelze)と250.0gのサッカロース(C121122、0.73mol、リーデルデハーン社、D−30926 Seelze、ドイツ)を0.5分間かけて添加し、さらに攪拌して溶解させる。得られる実質的に水性の懸濁液を、窒素気流下90℃で16時間攪拌する。pHは5.6である。次いで窒素下にて、この黄色の懸濁液を、噴霧乾燥装置(マイナーMM型、Niro、Danmark)(入り口温度=330℃、出口温度=106℃)中で噴霧乾燥する。
【0097】
次いで、得られる50gの噴霧粉末を、連続的に窒素気流下(15NL/h)で試験室回転炉(BASF)中で回転(7rpm)している1Lの石英ガラス容器に添加し、1時間かけて採取温度Tまで加熱し、この温度Tで1時間維持し、次いでN気流下で室温まで冷却する。
【0098】
実施例1.1
最終温度Tが500℃の場合、BET表面積が84m/gの粉末が得られる。X線粉末回折パターンは、斜方晶LiFePO(トリフィライト)の単一相結晶構造を示す。鉄の酸化状態Feoxは、2.05である。得られるリン酸リチウム鉄の化学組成は、Li1.03Fe(PO0.99である。炭素の量は、9.3質量%である。走査型電子顕微鏡によると、この粉末は球状の形状を持ち、その中間粒径は約30μmである。一つの球は複数のLiFePO一次粒子からなり、これらの一次粒子間には空洞がある(図1と図2)。
【0099】
実施例1.2
最終温度Tが700℃の場合、BET表面積が87m/gの粉末がえられる。X線粉末回折パターンは、斜方晶LiFePO(トリフィライト)の結晶構造の単一相を示す。鉄の酸化状態Feoxは、2.02である。得られるリン酸リチウム鉄の化学組成は、Li1.05Fe(PO1.00である。炭素の量は、9.0質量%である。走査型電子顕微鏡によると、この粉末は球状の形状を持ち、その中間粒径は約30μmである。一つの球は複数のLiFePO一次粒子からなり、これらの一次粒子間には空洞がある(図3と図4)。
【0100】
実施例1.3
最終温度Tが800℃の場合は、BET表面積が86m/gの粉末がえられる。X線粉末回折パターンは、斜方晶LiFePO(トリフィライト)の結晶構造の単一相を示す。鉄の酸化状態Foxは、2.00である。得られるリン酸リチウム鉄の化学組成は、L1.05Fe(PO0.99である。炭素の量は、8.7質量%である。走査型電子顕微鏡によると、この粉末は球状の形状を持ち、その中間粒径は約30μmである。一つの球は複数のLiFePO一次粒子からなり、これらの一次粒子間には空洞がある。一次粒子の径は、約300〜500nmである(図5〜7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
Lia-bbFe1-ccd-eex (I)、
[式中、Mと、M、M、a、b、c、d、e、xは:
:Na、K、Rb、及び/又はCs、
:Mn、Mg、Ca、Ti、Co、Ni、Cr、V、
:Si、S、
a:0.8〜1.9、
b:0〜0.3、
c:0〜0.9、
d:0.8〜1.9、
e:0〜0.5、
x:1.0〜8、(Li、M、Fe、M、P、Mの量と酸化状態により異なる)、但し、一般式(I)の化合物は無電荷である。]
で表される化合物の製造方法であって、
(A)少なくとも一種のリチウム含有化合物と、鉄含有化合物としてのFeOOHと、存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、少なくとも一個のリン原子を含む少なくとも一種の化合物と、少なくとも一種の還元剤とを含む実質的に水性の混合物を供給する工程、
(B)必要に応じて、工程(A)で供給される混合物を乾燥して、固体化合物を得る工程、及び
(C)工程(A)または(B)から得られる固体化合物を300〜950℃の温度で焼成する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記の少なくとも一種の還元剤が水溶性である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも一種の還元剤が還元糖、アルコール、アスコルビン酸、易酸化性二重結合を有する化合物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
FeOOHが、α−FeOOH、β−FeOOH、γ−FeOOH及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一個のリン原子を含む少なくとも一種の化合物が、HPO、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPO、LiPO、LiHPO、LiHPO及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(B)での乾燥が噴霧乾燥で行われる請求項2〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法により得られる少なくとも一種の一般式(I)の化合物を含む球状粒子又は凝集物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法により製造可能な請求項1に規定する一般式(I)の化合物。
【請求項9】
請求項7に記載の球状粒子若しくは凝集物又は請求項8に記載の化合物を、リチウムイオン電池又は電気化学的セルのカソードの製造のために使用する方法。
【請求項10】
請求項7に記載の少なくとも一種の球状粒子若しくは凝集物又は請求項8に記載の少なくとも一種の化合物を含むリチウムイオン電池用のカソード。
【請求項11】
請求項1に規定する少なくとも一種の一般式(I)に記載の化合物と少なくとも一種の電気伝導性材料とを含む混合物の製造方法であって、
(D)少なくとも一種の電気伝導性材料又は少なくとも一種の電気伝導性材料の前駆体と、少なくとも一種のリチウム含有化合物と、鉄含有化合物としてのFeOOHと、存在するなら少なくとも一種のM含有化合物、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物、及び/又は存在するなら少なくとも一種のM含有化合物と、少なくとも一種の少なくとも一個のリン原子を含む化合物と、少なくとも一種の還元剤とを含む実質的に水性の混合物を供給する工程、
(E)固体化合物を得るために工程(D)で得られる混合物を乾燥させる工程、及び
(F)工程(E)で得られる固体化合物を300〜950℃の温度で焼成する工程。
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
上記少なくとも一種の還元剤が、還元糖、アルコール、アスコルビン酸、易酸化性二重結合を有する化合物、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記少なくとも一種の少なくとも一個のリン原子を含む化合物が、HPO、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPO、LiPO、LiHPO、LiHPO及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
上記電気伝導性材料が、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素ナノファイバー、炭素ナノチューブ、電気伝導性ポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法により製造可能な請求項1に規定する少なくとも一種の一般式(I)と少なくとも一種の電気伝導性材料とを含む混合物。
【請求項16】
請求項15に記載の混合物を含む球状粒子または凝集物。
【請求項17】
請求項15に記載の混合物又は請求項16に記載の球状粒子若しくは凝集物を、リチウムイオン電池又は電気化学的セルのカソードの製造のために使用する方法。
【請求項18】
請求項15に記載の混合物又は請求項16に記載の球状粒子若しくは凝集物を含むリチウムイオン電池用カソード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−519806(P2011−519806A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504454(P2011−504454)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054488
【国際公開番号】WO2009/127674
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】