説明

リチウムの回収方法

【課題】リチウムイオン二次電池の正極材料であるコバルト酸リチウムから、リチウムを効率よく回収することができ、リチウムイオン二次電池の再利用を行うことができるリチウムの回収方法の提供。
【解決手段】コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、酸化雰囲気下、及び還元性雰囲気下のいずれかで焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出するリチウムの回収方法、及びコバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、不活性雰囲気下、500℃以上700℃未満の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出するリチウムの回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極材料であるコバルト酸リチウムから、リチウムを効率よく回収することができ、リチウムイオン二次電池の再利用を行うことができるリチウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、従来の鉛蓄電池、ニッカド二次電池等に比較して軽量、高容量、高起電力の優れた二次電池であり、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器などに広く使用されている。
このようなリチウムイオン二次電池の正極材料には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)などが用いられており、これらには希少有価物質であるコバルトやリチウムが含まれている。そこで、使用済みのリチウムイオン二次電池からこれらの有価物質を回収し、再びリチウムイオン二次電池の正極材料としてリサイクル利用を図ることが望まれている。
【0003】
前記コバルト酸リチウムは、層状岩塩型構造又はスピネル構造を有していると考えられており、例えば硝酸、硫酸、塩酸等の強酸を使用して溶解した後、中和反応を行って、リチウム及びコバルトを回収していた(特許文献1参照)。
しかし、前記回収方法では、硝酸、硫酸に対する溶解度が小さいという問題に加えて、多量の還元剤が必要となる。また、リチウム及びコバルトを溶解させた後、リチウムとコバルトの分離回収を行う必要があり、設備が増大する。更に、塩酸を使用した場合には、有害な塩素ガスが発生してしまうという、安全上の問題があった。
【0004】
また、特許文献2には、コバルト酸リチウムに炭素を添加し、700℃以上の温度で、不活性ガス雰囲気中にて、還元焙焼することにより、焙焼物を得て、該焙焼物を水で浸出することにより、焙焼物中のリチウム分を溶出させて、回収する方法が提案されている。
この提案の実施例2では、コバルト酸リチウム50gに炭素6.9gを添加(炭素濃度12.1質量%)し、不活性ガス雰囲気中、800℃にて2時間、焙焼を行っており、リチウムが99%以上の浸出率を示したと記載されている。しかし、前記特許文献2の実施例ではコバルト酸リチウムそのものを管状炉に装入して焙焼しており、コバルト酸リチウムの単品を焙焼することを想定しており、リチウムイオン二次電池の正極材料、リチウムイオン二次電池の粉砕物を回収原料として用いることを全く予定していないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−54159号公報
【特許文献2】特開2004−11010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、リチウムイオン二次電池の正極材料であるコバルト酸リチウムから、リチウムを効率よく回収することができ、リチウムイオン二次電池の再利用を行うことができるリチウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、安定な層状岩塩型構造又はスピネル構造をとるコバルト酸リチウムと炭素を混合した混合物を、所定の焙焼条件で、焙焼するとリチウムが酸化リチウム(LiO)となり、この焙焼物を水で浸出すると、水酸化リチウム(LiOH)及び炭酸リチウム(LiCO)となって溶出し、極めて効率よく、かつ簡便な操作でリチウムを回収できることを知見した。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、酸化雰囲気下、及び還元性雰囲気下のいずれかで焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出することを特徴とするリチウムの回収方法である。
<2> コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、500℃以上の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出する前記<1>に記載のリチウムの回収方法である。
<3> コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、酸化雰囲気下、500℃以上の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出する前記<1>に記載のリチウムの回収方法である。
<4> コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部〜50質量部の炭素を混合する前記<1>から<3>のいずれかに記載のリチウムの回収方法である。
<5> コバルト酸リチウム100質量部に対し、10質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、700℃以上の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出する前記<1>から<2>のいずれかに記載のリチウムの回収方法である。
<6> コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、不活性雰囲気下、500℃以上700℃未満の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出することを特徴とするリチウムの回収方法である。
<7> コバルト酸リチウム100質量部に対し、15質量部〜50質量部の炭素を混合する前記<6>に記載のリチウムの回収方法である。
<8> コバルト酸リチウムと炭素を混合した混合物が、使用済リチウムイオン二次電池より得られたものである前記<1>から<7>のいずれかに記載のリチウムの回収方法である。
<9> 炭素が、カーボンブラック、黒鉛、活性炭、石炭、コークス、木炭、及び使用済リチウムイオン二次電池の負極、及び還元性を有する有機物のいずれかより得られたものである前記<1>から<8>のいずれかに記載のリチウムの回収方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、リチウムイオン二次電池の正極材料であるコバルト酸リチウムから、リチウムを効率よく回収することができ、リチウムイオン二次電池の再利用を行うことができるリチウムの回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1における、炭素濃度とLi浸出率との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1における、焙焼温度とLi浸出率との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例2における、炭素濃度とLi浸出率との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例2における、焙焼温度とLi浸出率との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例3における、炭素濃度とLi浸出率との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例3における、焙焼温度とLi浸出率との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例4における、炭素濃度とLi浸出率との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例4における、焙焼温度とLi浸出率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のリチウムの回収方法は、第1の形態では、コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、酸化雰囲気下、及び還元性雰囲気下のいずれかで焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出する。
本発明のリチウムの回収方法は、第2の形態では、コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、不活性雰囲気下、500℃以上700℃未満の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出する。この場合、コバルト酸リチウム100質量部に対し、15質量部〜50質量部の炭素を混合することが好ましい。
ここで、前記第1の及び第2の形態において、前記コバルト酸リチウムと炭素を混合した混合物には、コバルト酸リチウムと炭素を個別に混合した混合物以外にも、リチウムイオン二次電池の粉砕物等のコバルト酸リチウム及び炭素を一緒に含むものも含まれる。
【0012】
−コバルト酸リチウム−
前記コバルト酸リチウムとしては、コバルト酸リチウム(LiCoO)を一定量以上含有しているものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばコバルト酸リチウムの純品、使用済リチウムイオン二次電池の正極廃材、使用済リチウムイオン二次電池の正極廃材から分離したコバルト酸リチウム、マンガン・ニッケル・コバルト・リチウムにより形成される正極廃材、などが挙げられる。
これらの中でも、リチウムイオン二次電池のリサイクルを図れる点から、使用済リチウムイオン二次電池の正極廃材が特に好ましい。
【0013】
−炭素−
前記炭素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばカーボンブラック、黒鉛、活性炭、石炭、コークス、木炭、使用済リチウムイオン二次電池の負極、還元性を有する有機物などが挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン二次電池のリサイクルを図れる点から、使用済リチウムイオン二次電池の負極が特に好ましい。
前記還元性を有する有機物としては、例えば電解質の材料であるプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等、セパレーターの材料であるポリオレフィンフィルム等が挙げられる。
【0014】
前記炭素と前記コバルト酸リチウムを混合する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばリチウムイオン二次電池の正極材料のみを取り出した場合、正極材料と炭素をミキサーで混合する方法がある。
前記ミキサーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばV型ブレンダー、回転型ミキサー、ラインミキサーなどを使用でき、ロータリーキルンのような混合性能を含む炉を用いて、混合と焙焼を同時に行ってもよい。
なお、リチウムイオン二次電池の負極には、炭素(黒鉛)が含まれているので、リチウムイオン二次電池より得られたものを焙焼する場合には炭素の添加は不要である。
【0015】
前記炭素の混合量は、第1の形態では、コバルト酸リチウム100質量部に対し1質量部以上であり、1質量部〜50質量部であることが好ましい。
また、前記炭素の混合量は、第2の形態では、コバルト酸リチウム100質量部に対し1質量部以上であり、15質量部〜50質量部であることが好ましい。
前記炭素の混合量が、1質量部未満であると、リチウムイオン二次電池の正極の結晶構造を破壊できないために、リチウムを溶出できないことがあり、50質量部を超えると、コバルト酸リチウムと炭素を混合した混合物を焙焼後に炭素成分が残留するため、炭素除去工程が必要となることがある。
【0016】
前記コバルト酸リチウムと炭素を混合した混合物としては、代表的には、使用済リチウムイオン二次電池より得られたものを用いることが好ましい。
これは、前記前記コバルト酸リチウムと炭素を混合した混合物として、使用済リチウムイオン二次電池より得られたものを用いる場合には、特別な前処理(コバルト酸リチウムの分離処理)を施すことなく、リチウムを回収できる点から好ましい。
また、前記コバルト酸リチウムと炭素を混合した混合物として、使用済リチウムイオン二次電池より得られたものを用いる場合には、使用済リチウムイオン二次電池の負極には黒鉛(炭素)がコバルト酸リチウムに対し最大40質量%の量で含まれているので、炭素を添加する必要が無く、そのまま焙焼することができる点で特に好ましい。
更に、通常の正極分離の際には放電工程を必要とするが、リチウムイオン二次電池を焙焼することで放電を行うことができ、放電設備を設けなくてもよい点で優れている。
使用済リチウムイオン二次電池は、焙焼前に粉砕してもよく、粉砕を行う順序に特に制限はない。
使用済リチウムイオン二次電池を粉砕する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばハンマークラッシャー、ロッドミル、ボールミル、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、カッターミル、ロータリークラッシャー等の粉砕機により、篩をかけた粉砕物を用いることができる。
【0017】
−焙焼に用いる雰囲気−
前記焙焼に用いる雰囲気としては、特に制限はなく、焙焼条件などに応じて適宜選択することができ、例えば大気雰囲気、酸化雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、などが挙げられる。なお、前記雰囲気は、焙焼中は、通気させておくことが好ましい。
ここで、前記大気雰囲気とは、酸素が21%、窒素78%の大気(空気)を用いた雰囲気を意味する。
前記酸化雰囲気とは、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中に酸素を1質量%〜21質量%含む雰囲気を意味し、酸素を1質量%〜5質量%含む雰囲気が好ましい。
前記不活性雰囲気とは、窒素又はアルゴンからなる雰囲気を意味する。
前記還元性雰囲気とは、例えば、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中にCO、H、HS、SOなどを含む雰囲気を意味する。
【0018】
−焙焼−
前記焙焼は、焙焼炉を用いて行うことが好ましい。前記焙焼炉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉、マッフル等のバッチ式炉、キュウポラ、ストーカー炉、などが挙げられる。本発明においては、大気雰囲気下でも焙焼することができるので、例えばロータリーキルン炉等の普通に用いられている焙焼炉を使用することができ、焙焼炉の選択幅が広くなる。
前記焙焼温度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、不活性雰囲気下では500℃以上700℃未満である。大気雰囲気下では500℃以上、酸化雰囲気下では500℃以上であることが好ましく、上限温度は、1,200℃以下であることが好ましい。
前記焙焼温度が、500℃未満であると、例えばリチウムイオン二次電池の正極の結晶構造を破壊できないために、リチウムを溶出させることができないことがあり、1,200℃を超えると、多大なエネルギーを必要とすると共に、焙焼物が焼結するため、粉砕工程が必要となることがある。
【0019】
−リチウムの浸出−
得られた焙焼物を水で浸出することにより、焙焼物中からリチウムを溶出させて、リチウムを回収することができる。
前記焙焼物の水での浸出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば水中に浸漬させた焙焼物に、必要に応じて超音波を当てながら緩やかに攪拌することにより行うことができる。
浸出によりリチウムが溶出した液をろ過し、残渣とろ液に分け、ろ液からリチウムを回収できる。回収方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばろ液を自然乾燥する方法、加熱により乾燥固化する方法、炭酸を吹き込みながら晶析させる方法、などが挙げられる。
【0020】
本発明のリチウムの回収方法は、焙焼条件に応じて以下の第1の実施形態から第3の実施形態のいずれかであることが好ましい。
【0021】
<第1の実施形態>
前記第1の実施形態に係るリチウムの回収方法は、コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、500℃以上の温度で焙焼してなる焙焼物を水で浸出するものである。
ここで、前記大気雰囲気とは、酸素が21%、窒素78%の大気(空気)を用いた雰囲気を意味する。この第1の実施形態では、大気雰囲気下において焙焼できるので、ロータリーキルン炉等の普通に用いられている焙焼炉を使用することができる。
前記炭素の混合量は、コバルト酸リチウム100質量部に対し、10質量部以上であることが好ましく、10質量部〜50質量部であることがより好ましく、10質量部〜40質量部であることが特に好ましい。
前記焙焼温度は、500℃以上であることが好ましく、700℃以上であることがより好ましく、700℃〜1,000℃であることが特に好ましい。前記焙焼温度が、500℃未満であると、例えばリチウムイオン二次電池の正極の結晶構造を破壊できないために、リチウムを溶出できないことがある。
焙焼時間は、昇温時間を含め1時間以上であることが好ましく、時間が長くなっても溶出効果は大きく変化しないため、省エネルギーの観点から1時間〜2時間がより好ましい。
【0022】
<第2の実施形態>
前記第2の実施形態に係るリチウムの回収方法は、コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、酸化雰囲気下、500℃以上の温度で焙焼してなる焙焼物を水で浸出するものである。
前記炭素の混合量は、コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部〜50質量部であることが好ましく、5質量部〜40質量部であることがより好ましい。
前記焙焼温度は、500℃以上であることが好ましく、500℃〜1,000℃であることがより好ましい。前記焙焼温度が、500℃未満であると、例えばリチウムイオン二次電池の正極の結晶構造を破壊できないために、リチウムを溶出できないことがある。
焙焼時間は、昇温時間を含め1時間以上であることが好ましく、時間が長くなっても溶出効果は大きく変化しないため、省エネルギーの観点から1時間〜2時間がより好ましい。
【0023】
<第3の実施形態>
前記第3の実施形態に係るリチウムの回収方法は、コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、不活性雰囲気下、500℃以上700℃未満の温度で焙焼してなる焙焼物を水で浸出するものである。
前記炭素の混合量は、コバルト酸リチウム100質量部に対し、15質量部〜50質量部であることがより好ましく、15質量部〜40質量部であることが更に好ましい。
ここで、前記不活性雰囲気とは、窒素又はアルゴンからなる雰囲気を意味する。
前記焙焼温度は、500℃以上700℃未満である。前記焙焼温度が、500℃未満であると、例えばリチウムイオン二次電池の正極の結晶構造を破壊できないために、リチウムを溶出できないことがある。
焙焼時間は、昇温時間を含め1時間以上であることが好ましく、時間が長くなっても溶出効果は大きく変化しないため、省エネルギーの観点から1時間〜2時間がより好ましい。
【0024】
本発明のリチウムの回収方法は、リチウムイオン二次電池の正極材料であるコバルト酸リチウムから効率よくリチウムを回収することができ、リチウムイオン二次電池のリサイクルを図ることができる。
本発明のリチウムの回収方法においては、特別な前処理(コバルト酸リチウムの分離処理)を施すことなく、リチウムイオン二次電池より得られるものをそのまま粉砕して、焙焼できるので、極めて効率よくリチウムを回収することができる。
本発明のリチウムの回収方法においては、特に酸化雰囲気下で焙焼した場合には、カーボン残渣の発生が少なく、エネルギーの使用量が少なくて済むという利点がある。
本発明のリチウムの回収方法においては、特に大気雰囲気下で焙焼する場合には、一般的な焙焼炉で焙焼を行うことができ、気密性の高い焙焼炉を用いる必要がなく、焙焼炉の選択幅が広くなる利点がある。
本発明のリチウムの回収方法においては、簡単な操作により、リチウムの回収物の中にコバルトが検出されないほどに、リチウムとコバルトを高度に分離できる。そのため、回収したリチウムは、コバルト酸リチウムのみならず、マンガン酸リチウムなどの他のリチウム含有化合物への再利用が可能である。また、従来のリチウムの回収方法に必要であったリチウムとコバルトを分離回収する工程が不要となり、従来のリチウムの回収方法に比べ、回収工程の短縮及び回収コストの低減が可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
<リチウム電池正極材料の分離>
市販のリチウムイオン二次電池(au社製、正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を使用、炭素含有量はコバルト酸リチウムに対して40質量%)を、電解液(5%NaCl)中に浸漬し、0.1mVになるまで放電させた。その後、手分解により正極材料を取り出し、カッターミルを用いて粉砕し正極材料粉体を得た。その組成を表1に示す。分析の結果、分離された粉体はコバルト酸リチウムであることが確認された。
【0027】
【表1】

【0028】
<コバルト酸リチウムの焙焼>
得られたコバルト酸リチウム10gに、コバルト酸リチウムの質量に対する炭素の質量の割合が表2に示す、炭素濃度(質量%)になるようにカーボンブラック(和光純薬工業株式会社製)を添加し、管状炉(KOYO LINDBERG社製)に挿入した。雰囲気として、表2に示す、5L/分の不活性雰囲気(窒素)を通気しながら焙焼を行った。焙焼時間は、表2に示す各温度に到達してから1時間とした。
得られた各焙焼物について、以下のようにして、組成を分析した。
【0029】
<焙焼物(固形物)中のリチウム及びコバルトの分析>
0.1gの各焙焼物を王水中で乾固直前まで加温溶解し、ろ過後、イオン交換水で100mLまでメスアップし、分析用溶液を得た。その溶液を高周波プラズマ発光分光分析装置(日本ジャーレル・アッシュ株式会社製、ICAP−575II)により分析し、焙焼物(固形物)中のリチウム濃度及びコバルト濃度を計算した。
【0030】
<リチウムの浸出操作>
得られた各焙焼物0.5gを100mLのメスフラスコ内に入れ、水を100mLまでメスアップし、ビーカーに移した後、超音波を当てながら緩やかに攪拌しながら、30分間リチウムを溶出させた。その液をろ過し、残渣とろ液に分け、それぞれを分析した。残渣は上述の方法により分析し、ろ液を直接、高周波プラズマ発光分光分析装置(日本ジャーレル・アッシュ株式会社製、ICAP−575II)により分析した。
【0031】
リチウムの浸出率及びコバルトの浸出率は、焙焼物(固形物)中のリチウム含有量及びコバルト含有量と、ろ液中に溶けたリチウム量及びコバルト量とから算出した。結果を表2に示す。また、図1に、炭素濃度とLi浸出率との関係を示し、図2に、焙焼温度とLi浸出率との関係を示す。
【0032】
【表2】

なお、Co浸出率の「<0.01」は、コバルトの浸出率が0.01%未満であったこと、詳細には検出下限値(3.46×10−4%)以下であったことを示す。
【0033】
(実施例2)
実施例1において、酸化雰囲気(酸素:5質量%、窒素:95質量%)を5L/分で通気しながら、表3に示す焙焼温度で焙焼を行った以外は、実施例1と同様にして、各焙焼物を得た。
得られた各焙焼物について、実施例1と同様にして、組成を分析した。結果を表3に示す。また、図3に、炭素濃度とLi浸出率との関係を示し、図4に、焙焼温度とLi浸出率との関係を示す。
【0034】
【表3】

なお、Co浸出率の「<0.01」は、コバルトの浸出率が0.01%未満であったこと、詳細には検出下限値(3.46×10−4%)以下であったことを示す。
【0035】
(実施例3)
実施例1において、酸化雰囲気(酸素:10質量%、窒素:90質量%)を5L/分で通気しながら、表4に示す焙焼温度で焙焼を行った以外は、実施例1と同様にして、各焙焼物を得た。
得られた各焙焼物について、実施例1と同様にして、組成を分析した。結果を表4に示す。また、図5に、炭素濃度とLi浸出率との関係を示し、図6、焙焼温度とLi浸出率との関係を示す。
【0036】
【表4】

なお、Co浸出率の「<0.01」は、コバルトの浸出率が0.01%未満であったこと、詳細には検出下限値(3.46×10−4%)以下であったことを示す。
【0037】
(実施例4)
実施例1において、大気雰囲気(酸素21%、窒素78%)5L/分で通気しながら、表5に示す焙焼温度で焙焼を行った以外は、実施例1と同様にして、各焙焼物を得た。
得られた各焙焼物について、実施例1と同様にして、組成を分析した。結果を表5に示す。また、図7に、炭素濃度とLi浸出率との関係を示し、図8に、焙焼温度とLi浸出率との関係を示す。
【0038】
【表5】

なお、Co浸出率の「<0.01」は、コバルトの浸出率が0.01%未満であったこと、詳細には検出下限値(3.46×10−4%)以下であったことを示す。
【0039】
(実施例5)
市販の使用済リチウムイオン二次電池(正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を使用、コバルト酸リチウムに対する炭素含有量は40質量%)を、そのまま大気雰囲気(酸素21%、窒素78%)下、850℃で管状炉(KOYO LINDBERG社製)に挿入し、1.5時間焙焼を行った。加熱前の電池重量は17g、加熱後の焙焼物重量が11.6gであった。
得られた焙焼物について、カッターミルで粉砕し、目に見える大きな金属部分は除去した。粉砕により得られた粉末の合計量は8.3g、除去した金属部分は3.3gであった。得られた粉末の組成を実施例1と同様の方法で分析したところ、Liは2.9質量%、Coは33.6質量%であった。
次に、得られた粉末について、実施例1と同様の方法でLiを浸出し、分析したところ、Li浸出率は30.7%、Co浸出率は0.01%以下(詳細には検出下限値(3.46×10−4%)以下)であった。
【0040】
(実施例6)
実施例5と同じ使用済リチウムイオン二次電池を用い、実施例5と同様の方法で、大気雰囲気(酸素21%、窒素78%)5L/分で通気しながら、焙焼温度を700℃、炭素含有量を30%とし、700℃での保持時間を設けずに焙焼を行った。得られた焙焼物を実施例1と同様の方法により、粉砕し、金属部分を除去した粉末について、実施例1と同様の方法でLiを浸出し、分析したところ、Li浸出率は66%であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のリチウムの回収方法は、リチウムイオン二次電池の正極材料であるコバルト酸リチウムから、リチウムを効率よく回収することができ、リチウムイオン二次電池の再利用を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、酸化雰囲気下、及び還元性雰囲気下のいずれかで焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出することを特徴とするリチウムの回収方法。
【請求項2】
コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、500℃以上の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出する請求項1に記載のリチウムの回収方法。
【請求項3】
コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、酸化雰囲気下、500℃以上の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出する請求項1に記載のリチウムの回収方法。
【請求項4】
コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部〜50質量部の炭素を混合する請求項1から3のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
【請求項5】
コバルト酸リチウム100質量部に対し、10質量部以上の炭素を混合した混合物を、大気雰囲気下、700℃以上の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出する請求項1から2のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
【請求項6】
コバルト酸リチウム100質量部に対し、1質量部以上の炭素を混合した混合物を、不活性雰囲気下、500℃以上700℃未満の温度で焙焼してなる酸化リチウムを含有する焙焼物を水で浸出することを特徴とするリチウムの回収方法。
【請求項7】
コバルト酸リチウム100質量部に対し、15質量部〜50質量部の炭素を混合する請求項6に記載のリチウムの回収方法。
【請求項8】
コバルト酸リチウムと炭素を混合した混合物が、使用済リチウムイオン二次電池より得られたものである請求項1から7のいずれかに記載のリチウムの回収方法。
【請求項9】
炭素が、カーボンブラック、黒鉛、活性炭、石炭、コークス、木炭、及び使用済リチウムイオン二次電池の負極、及び還元性を有する有機物のいずれかより得られたものである請求項1から8のいずれかに記載のリチウムの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−94228(P2011−94228A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68685(P2010−68685)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【Fターム(参考)】