説明

リチウムイオンバッテリー用の改良されたカソード組成物

【課題】リチウムイオンバッテリー用カソードとして有用な組成物を提供する。
【解決手段】式(a)Liy[M1(1-b)Mnb]O2または(b)Liy[M1(1-b)Mnb]O1.5+c(式中、0≦y<1、0<b<1、および0<c<0.5であり、そしてM1は、1種以上の金属元素を表す。ただし、(a)の場合、M1は、クロム以外の金属元素である。)を有するリチウムを含有するリチウムイオンバッテリー用カソード組成物。該組成物は、リチウムイオンバッテリーに組み込んで30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の完全充放電サイクルのサイクル動作を行ったときにスピネル結晶構造への相転移を起こさないO3結晶構造を有する単一相の形態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンバッテリー用カソードとして有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーは、典型的には、アノードと、電解質と、リチウム遷移金属酸化物の形態でリチウムを含有するカソードと、を備える。使用されてきたリチウム遷移金属酸化物の例としては、酸化コバルトリチウム、酸化ニッケルリチウム、およびリチウム酸化マンガンが挙げられる。しかしながら、これらの材料はいずれも、高い初期容量と、高い熱安定性と、充放電サイクル動作を繰り返した後の良好な容量保持性と、の最適な組合せを示さない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
優先権に関する陳述
本願は、2001年8月7日出願の米国仮出願第60/310,622号の優先権を主張するものであり、該仮出願の内容は、本明細書に援用されるものとする。
【0004】
一般的には、本発明は、式(a)Liy[M1(1-b)Mnb]O2または(b)Liy[M1(1-b)Mnb]O1.5+c(式中、0≦y<1、0<b<1、および0<c<0.5であり、そしてM1は、1種以上の金属元素を表す。ただし、(a)の場合、M1は、クロム以外の金属元素である。)を有するリチウムを含有するリチウムイオンバッテリー用カソード組成物を特徴とする。
【0005】
該組成物は、リチウムイオンバッテリーに組み込んで30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の完全充放電サイクルのサイクル動作を行ったときにスピネル結晶構造への相転移を起こさないO3結晶構造を有する単一相の形態である。本発明はまた、該カソード組成物をアノードおよび電解質と組み合わせて組み込んでなるリチウムイオンバッテリーを特徴とする。
【0006】
(b)で示される一実施形態では、b=(2−x)/3であり、そしてM1(1-b)は、式Li(1-2x)/32x(式中、0<x<0.5および0<y<1であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき2であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+xを有する。M2の例はニッケルである。
【0007】
(a)で示される第2の実施形態では、b、M1(1-b)、M2、およびxは、第1の実施形態のときと同じように定義されるが、ただし、(1−2x)≦y<1であり、そしてM2は、クロム以外の金属元素である。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O2を有する。M2の例はニッケルである。
【0008】
(b)で示される第3の実施形態では、b、M1(1-b)、M2、およびxは、第1の実施形態のときと同じように定義されるが、ただし、0<y<(1−2x)、0<a<(1−y)であり、そしてM2は、クロム以外の金属元素である。得られるカソードは、式Liy+a[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+x+y/2を有する。M2の例はニッケルである。
【0009】
(b)で示される第4の実施形態では、b、M1(1-b)、M2、およびxは、第1の実施形態のときと同じように定義されるが、ただし、0<y<(1−2x)である。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+x+y/2を有する。M2の例はニッケルである。
【0010】
(b)で示される第5の実施形態では、b=(2−2x)/3であり、そしてM1(1-b)は、式Li(1-x)/32x(式中、0<x<1および0<y<1であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+x/2を有する。M2の例は、CoまたはFeおよびそれらの組合せである。
【0011】
(b)で示される第6の実施形態では、b=(2−2x)/3であり、そしてM1(1-b)は、式Li(1-x)/32x(式中、0<a<(1−y)、0<x<1、0<y<(1−x)であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+x/2を有する。M2の例は、CoまたはFeおよびそれらの組合せである。
【0012】
(a)で示される第7の実施形態では、b、M1(1-b)、M2、およびxは、第5の実施形態のときと同じように定義されるが、ただし、(1−x)≦y<1であり、そしてM2は、クロム以外の金属元素である。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O2を有する。M2の例は、CoまたはFeおよびそれらの組合せである。
【0013】
(b)で示される第8の実施形態では、b、M1(1-b)、M2、およびxは、第5の実施形態のときと同じように定義されるが、ただし、0≦y<(1−x)である。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+x/2+y2を有する。M2の例は、CoまたはFeおよびそれらの組合せである。
【0014】
(b)で示される第9の実施形態では、b=(2−2x)/3であり、そしてM1(1-b)は、式Li(1-x)/32x(式中、0<x<0.33、0<y<1であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき6である。)を有する。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+1.5xを有する。M2の例はクロムである。
【0015】
(b)で示される第10の実施形態では、b=(2−2x)/3であり、そしてM1(1-b)は、式Li(1-x)/32x(式中、0<a<(1−y)、0<x<0.33、0<y<(1−3x)であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき6である。)を有する。得られるカソード組成物は、式Liy+a[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+1.5x+y/2を有する。M2の例はクロムである。
【0016】
(b)で示される第11の実施形態では、b=(2−2x)/3であり、そしてM1(1-b)は、式Li(1-x)/32x(式中、0<x<0.33および0<y<(1−3x)であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき6である。)を有する。得られるカソード組成物は、式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+1.5x+y/2を有する。M2の例はクロムである。
【0017】
本発明は、カソード組成物と、該組成物を組み込んだリチウムイオンバッテリーと、を提供する。該リチウムイオンバッテリーは、高い初期容量と、充放電サイクル動作を繰り返した後の良好な容量保持性と、を呈する。このほか、該カソード組成物は、高温で誤用したときに実質量の熱を発生しないので、バッテリーの安全性が改良される。
【0018】
本発明による1つ以上の実施形態の詳細な内容を、添付の図面および以下の説明で明らかにする。本発明の他の特徴、目的、および利点は、説明および図面からならびに特許請求の範囲から自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1a−e】x=1/6、1/4、1/3、5/12、および1/2のときのLi/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2セルについて、電圧vs容量および容量vsサイクル数をプロットしたものである。サイクル動作は、5mA/gにおいて2.0Vと4.8Vの間で行った。
【図2a−e】x=1/6、1/4、1/3、5/12、および1/2のときのLi/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2セルについて、電圧vs容量および容量vsサイクル数をプロットしたものである。サイクル動作は、10mA/gにおいて3.0Vと4.4Vの間で行った。
【図3】種々の電圧範囲にわたり特定容量vsLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2中のxをプロットしたものである。示された実線および破線は、期待容量を示している。丸は、4.45Vまで実験容量を示し、正方形は、異常プラトーの実験容量を示し、そして三角形は、実験初回充電容量を示している。
【図4a−c】図4aは、x=5/12のときのLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2について3.0Vと4.4Vの間の最初の2回の充放電サイクルのin situ X線回折結果を示したものである。図4bは、出発粉末の回折パターンを示している。in situ走査は、図4cの電圧−時間曲線に同期化されている。たとえば、8番目のX線走査は、示された初回充電の上端で行われた。
【図5a−c】x=5/12のときのLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2についてin situ X線回折結果を示したものである。図5aは、電圧−時間曲線であり、図5bは、格子定数aおよびcであり、そして図5cは、電圧−時間曲線に関連づけられた単位格子体積である。セルは、3.0Vと4.4Vの間でサイクル動作させた。
【図6a−e】示されたxのときのLi/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2セルについて微分容量vs電圧をプロットしたものである。セルは、10mA/gの特定電流を用いて3.0Vと4.4Vの間で充放電させた。
【図7a−c】x=5/12のときのLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2についてin situ X線回折結果を示したものである。図7aは、電圧−時間曲線であり、図7bは、格子定数aおよびcであり、そして図7cは、電圧−時間曲線に関連づけられた単位格子体積である。セルは、2.0Vと4.8Vの間でサイクル動作させた。
【図8a−c】図8aは、x=1/6のときのLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2について2.0Vと4.8Vの間の最初の2回の充放電サイクルのin situ X線回折結果を示したものである。図8bは、出発粉末の回折パターンを示している。in situ走査は、図8cの電圧−時間曲線に同期化されている。たとえば、16番目のX線走査は、示された初回充電の上端で行われた。
【図9a−c】x=1/6のときのLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2についてin situ X線回折結果を示したものである。図9aは、電圧−時間曲線であり、図9bは、格子定数aおよびcであり、そして図9cは、電圧−時間曲線に関連づけられた単位格子体積である。セルは、2.0Vと4.8Vの間でサイクル動作させた。
【図10】MがNixMn(2/3-x/3)を表すときのLi−M−O三成分系についてギブズの三角形を示したものである。適合する相の組成が示されている。
【図11】図10に示されるLi−M−Oのギブズの三角形の拡大部分であり、Li/Li[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2セルの充放電の対象となる領域を示している。
【図12a−e】示されたxのときのLi/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2セルについて微分容量vs電圧をプロットしたものである。セルは、5mA/gの特定電流を用いて2.0Vと4.8Vの間で充放電させた。
【図13】Mnの還元に起因するLi/Li[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2セル(4.8Vまで初回充電した)の放電容量の部分をプロットしたものである。点は、実験結果であり、実線は、容量がLi層(Ni4+がNi2+に還元された後)中の利用可能なサイトにより支配される場合の予測であり、そして破線は、化合物中のすべてのMn4+がMn3+に還元される場合の利用可能な容量である。
【図14a−d】図14a〜bは、4.8Vまで充電されたx=1/3のときのLi[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2についてex situ X線回折パターンを示したものである。酸化状態の理論(表1参照)によるこの電位におけるサンプルの推定化学量論組成は、[Ni0.33Li0.113Mn0.556]O1.833である。計算されたパターンを実線で示す。図14cおよび14dは、酸素サイトの占有度に対して適合度(G.O.F.)およびブラッグR因子の変化を示している。
【図15a−g】x=1/6〜1のときのLi/Li[CrxLi(1/3-x/3)Mn(2/3-2x/3)O2セルについて電圧vs容量をプロットしたものである。サイクル動作は、5mA/gにおいて2.0Vと4.8Vの間で行った。
【図16a−g】同一サイクル動作条件下で図15a〜gの材料について容量vsサイクル数をプロットしたものである。
【図17】2.0Vと4.8Vの間においてx=1/6、1/4、1/3、1/2、2/3、5/6、および1.0のときのLi/Li[CrxLi(1/3-x/3)Mn(2/3-2x/3)]O2セルについて微分容量vs電位をプロットしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
カソード組成物は、先の発明の概要に記載した式を有する。式自体ならびにM1およびM2に関する特定の金属元素の選択およびそれらの組合せには、本発明者らが見いだした特定の判定基準がカソード性能を最大化するのに有用であるという点が反映されている。第一に、カソード組成物は、好ましくは、リチウム−酸素−金属−酸素−リチウムの順序で一般に配置される層を特徴とするO3結晶構造をとる。カソード組成物をリチウムイオンバッテリーに組み込んで30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の完全充放電サイクルのサイクル動作を行ったとき、この結晶構造はこれらの条件下でスピネル型結晶構造に変換されることなく保持される。このほか、リチウム層中における迅速拡散を最大化するために、つまりバッテリー性能を最大化するために、リチウム層中における金属元素の存在を最小限に抑えることが好ましい。バッテリーに組み込まれる電解質の電気化学的ウィンドウ内で金属元素の少なくとも1種は被酸化性であることがさらに好ましい。
【0021】
カソード組成物は、「リチウムイオンバッテリー用の改良されたカソード組成物」という名称で2001年4月23日に出願されたダーン(Dahn)らの米国特許出願第09/845178号に記載されているカソード材料を電気化学的にサイクル動作させることにより合成することができる。これには、金属元素の前駆体(たとえば、水酸化物、硝酸塩など)のジェットミリングまたは組合せを行ってから加熱してカソード組成物を生成させることにより合成することが包含される。加熱は、好ましくは少なくとも約600℃、より好ましくは少なくとも800℃の温度において、好ましくは空気中で行う。一般的には、温度が高いほど結晶化度の増大した材料が得られるので、より高い温度が好ましい。不活性雰囲気を保持する必要性および関連費用が回避されるという理由で、加熱プロセスを空気中で行えることが望ましい。したがって、所望の合成温度において空気中で適切な酸化状態を呈するように、特定の金属元素を選択する。逆に、合成温度を調整することにより、その温度において空気中で特定の金属元素を所望の酸化状態で存在させるようにすることも可能である。
【0022】
一般的には、カソード組成物に組み込むのに好適な金属元素の例としては、Ni、Co、Fe、Cu、Li、Zn、V、およびそれらの組合せが挙げられる。とくに好ましいカソード組成物は、以下の式(ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき2であり、完全に充電された状態のとき4である):
Liy[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+x(式中、0<y<1、0<x<0.5)、
Liy[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+x+y/2(式中、0<y<(1−2x)および0<x<0.5)、
Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O2(式中、(1−2x)≦y<1および0<x<0.5)、および
Liy+a[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+x+y/2(式中、0<a<(1−y)、0<y<(1−2x)、および0<x<0.5)、
を有する組成物である。
【0023】
カソード組成物をアノードおよび電解質と組み合わせてリチウムイオンバッテリーを形成することができる。好適なアノードの例としては、リチウム金属、黒鉛、およびリチウム合金組成物、たとえば、「リチウムバッテリー用電極」という名称のTurnerの米国特許第6,203,944号および「電極材料および組成物」という名称のTurnerの国際公開第00/03444号に記載されているタイプのリチウム合金組成物が挙げられる。電解質は、液体であっても固体であってもよい。固体電解質の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素含有コポリマー、およびそれらの組合せのような高分子電解質が挙げられる。液体電解質の例としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、およびそれらの組合せが挙げられる。電解質は、リチウム電解質塩と共に提供される。好適な塩の例としては、LiPF6、LiBF4、およびLiClO4が挙げられる。
【0024】
とくに、x=1/6、1/4、1/3、5/12、および1/2のときのLi/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2セルならびにx=1/6、1/4、1/3、1/2、2/3、5/6、および1.0のときのLi[CrxLi(1/3-x/3)Mn(2/3-2x/3)]O2の電気化学的挙動を本明細書に記載する。Li/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2は、残存するMn原子をすべて4+酸化状態に保持しながらLi+およびMn4+をNi2+で置換することによりLi2MnO3またはLi[Li1/3Mn2/3]O2から誘導される。従来の通念によれば、NiおよびMnの両方の酸化状態が4+に達して2yの充電容量を与えるまで、これらの材料からリチウムを除去できないことが示唆される。本発明者らは、Li/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2セルが、予想どおり、式単位あたり2x個のLi原子を除去したときに約4.45Vに達する滑らかな可逆的電圧プロフィルを与えることを示す。より高い電圧までセルを充電した場合、驚くべきことに、それらは、4.5V〜4.7Vの範囲で1−2xにほぼ等しい長さの長いプラトーを呈する。このプラトーに続いて、材料は、2.0Vと4.8Vの間で225mAh/g(式単位あたりほぼ1個のLi原子)を超えて可逆的にサイクル動作を行うことができる。in situ X線回折および微分容量測定により、4.8Vまでの初回充電時にx<1/2のときの化合物からの酸素の不可逆損失を生じることが推測される。この結果として、4.8Vで[Liy][NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O1.5+x(式中、xは、ほぼゼロに等しい)にほぼ等しい化学量論組成を有する酸素不足の層状材料が得られる。次に、これらの酸素不足の材料は、可逆的にリチウムと反応する。
【0025】
Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2は、残存するMn原子をすべて4+酸化状態に保持しながらLi+およびMn4+をNi2+で置換することによりLi2MnO3またはLi[Li1/3Mn2/3]O2から誘導される。x=0.4のときのLi[CrxLi(1/3-x/3)Mn(2/3-2x/3)]O2のようにCr3+を含有する類似材料およびLi[CoyLi(1/3-y/3)Mn(2/3-2y/3)]O2(0≦y≦1)のようにCo3+を含有する類似材料を報告した。これらの材料では、リチウムの初回抽出時の電気化学的活性は、Ni(Ni2+→Ni4+、Cr(Cr3+→Cr6+)、またはCo(Co3+→Co4+)の酸化から誘導されると考えられる。したがって、これらの酸化状態変化により、従来のインターカレーションプロセスで化合物から抽出することのできるLiの上限量が設定される。たとえば、Ni酸化状態が化学量論組成Li1-2x[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2で4+に達すると、式単位あたり2x個のLiの期待可逆容量が得られる。
【0026】
図1a〜dは、x=1/6、1/4、1/3、5/12、および1/2のときのLi/Li[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2セルについて電圧−容量曲線を示している。初回充電の電圧プロフィルの傾きには4.45V近傍に明確な変化が存在し、不可逆プラトー(x=1/2を除く)がそれに続く。不可逆プラトーの長さは、xの減少に伴って増大する。曲線の傾き部分における3.0Vと4.45Vの間の初回充電の容量は、以下で示すように、Niが4+に達するときに期待される容量にきわめて近い。したがって、長いプラトーの由来は不可解であるが、かなり増大された可逆容量を有する材料が得られる。この不可逆プラトーに関与する組成物は、本願の中心をなす。
【0027】
本発明者らの第1の目標は、Niの酸化状態が4+未満であると予想される領域にわたるLi[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2からのリチウムの除去が従来のインターカレーションプロセスであることを確認することであった。図2a〜eは、10mA/gの特定電流を用いて3.0Vと4.4Vの間でLi/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2(x=1/6、1/4、1/3、5/12、1/2)セルについて電圧vs容量を示している。同一のセルについて、容量vsサイクル数も、図の右側のパネルに示されている。電圧プロフィルは滑らかであり、セルは優れた可逆性を示す。
【0028】
図3の実線は、Niの酸化状態が+4に等しくなる前の予想容量をLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2中のxに対してプロットして示したものである。これは化学量論組成Li1-2x[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2で生じる。図3の丸のデータ点は、図1の4.45Vまでの容量を与える。この容量は、図2の可逆サイクル動作範囲の容量に対応する。ただし、x=1/2のデータについては、図1に示される全容量が採られている。予測容量と測定容量との間に良好な一致がみられることから、4.45Vまでの充電部分ではNi2+がNi4+に酸化されることが示唆される。
【0029】
図4a〜cは、2.0Vと4.4Vの間で2回サイクル動作させたx=5/12のときのLi/Li[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2セルについてin situ X線回折結果を示している。ブラッグピーク位置の変化はすべて、インターカレーションプロセスで予想されるとおり、完全に可逆的であるようにみえる。図5a〜cは、格子定数および単位格子体積を電圧プロフィルに関連づけて示したものである。実験誤差の範囲内で、格子定数および単位格子体積の変化は、リチウムを化合物から除去して化合物に付加する際、可逆的であるようにみえる。
【0030】
図6a〜eは、3.0Vと4.4Vの間でサイクル動作させたLi/Li[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2セルについて微分容量vs電圧を示している。組み立てたばかりのセルのサイクル動作されていないLi電極のインピーダンスにより引き起こされると考えられる、初回充電サイクルとその後のサイクルとの間の小さい差異を除けば、微分容量は多数のサイクルに対して完全に反復可能であることから、これらの材料のいずれの場合にも安定なインターカレーションプロセスが示唆される。
【0031】
図1a〜eは、これらのサンプルで利用可能な過剰容量が4.45Vを超えて存在し、この過剰容量が初回充電サイクル時に4.5Vと4.7Vの間にプラトーとして生じることを明確に示している。プラトー容量の長さは、図3に正方形としてLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2中のxに対してプロットされている。プラトー容量は、xと共に滑らかに減少する。Niの酸化状態が4+に達した後ですなわち化学量論組成Li1-2x[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2に達した後でプラトーを生じる場合、すべてのLi原子をLi層から除去することが可能でありかつ主に遷移金属の層からLi原子を抽出することができないとすれば、プラトーは、式単位あたり1−2xの長さを有するはずである。この予測は、図3に長破線として示されており、図1から得られる実験プラトー容量である正方形のデータ点とよく一致する。最後に、図1に示されるセルの初回充電の全容量が、図3に三角形として示され、Li層からLi原子をすべて抽出することができる場合の期待容量と比較されている。一致はきわめて良好である。
【0032】
図1〜6の結果から、Niの酸化状態が4+未満である場合、化合物はインターカレーションプロセスで可逆サイクル動作を呈することが示唆される。Niの酸化状態が4+(約4.45V)に達した後、すべてのLiがLi層から抽出された場合の限界までLiをさらに抽出することができるようにみえる。しかしながら、答えなければならないいくつかの問題が存在する。第1に、プラトーに沿って遷移金属の酸化状態に何が起こっているのか?、第2に、4.8Vまで初期充電した後のサイクル動作がなぜ初期充電とそれほど異なっているのか(図1参照)?、第3に、本発明者らが仮定したようにプラトー段階でリチウムが抽出されるというのは真実であるのか?。これらの問題に対処するために、さらにin situ XRD実験を行った。
【0033】
図7a〜cは、2.0Vと4.8Vの間で2回サイクル動作させたx=5/12のときのLi/Li[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2セルについて分析したin situ X線回折結果を示している。格子定数および単位格子体積の変化が電圧プロフィルに関連づけられている。リチウム層から最後のリチウム原子を除去するときに観測される挙動(たとえば、LiCoO2で観測される挙動)と一致して、c軸は、4.8V近傍で急速に減少し始める。このほか、4.6V近傍のプラトー段階で、a軸はほとんど一定に保持されるが、c軸は変化する。明らかに材料のリチウム含有量は変化するので、プラトーは、電解質の関与する寄生副反応に完全に対応することはありえない。4.6V近傍の明確なプラトーおよび一定したa軸の領域はいずれも、二回目の充電時には観測されない。4.8Vまで電極を充電する際、なんらかの不可逆変化が電極で生じた。
【0034】
これらの変化をより明確に観測するために、本発明者らは、プラトーが非常に顕著であるx=1/6のときのサンプルを用いて同一の実験を行った。図8a〜cは、原料のin situ XRDの結果を示し、図9a〜cは、セル電圧プロフィルに関連づけられた格子定数および単位格子体積を示している。図8および9はいずれも、回折パターンおよび格子定数により実証されるように、放電状態(53時間)の材料の構造が未使用のサンプルとは異なることを明確に示している。とくに、単位格子体積(図9c)は、もとの材料のときよりもはるかに大きい。図9bはまた、初回充電時の4.5Vと4.7Vの間のプラトー段階でa軸は目立った変化を示さないのに対して、c軸は急速に減少することを示している。4.8V近傍でc軸が急速に減少することからも、Li層間からLiのほとんどが抽出されることが示唆される。
【0035】
図7、8、および9の結果から、いくつかの点が示唆される。第1に、4.8V近傍でc軸が急速に減少することから、図3に示されるセル容量と一致して、Li層からLiのほとんどが除去されることが示唆される。a軸は、図7および9のいずれにおいても異常プラトーに達するまで初回充電時にリチウム含有量と共に滑らかに減少する。a軸は、おそらく、充電時に形成されるNi4+がNi2+よりも小さいことが理由で減少する。プラトーに達した後、a軸はほぼ一定に保持されるので、遷移金属の酸化状態はプラトー段階で変化しないことが示唆される。遷移金属の酸化状態が変化しないのであれば、除去される電荷は酸素原子に由来するものでなければならない。したがって、リチウムの除去は、このプラトーに沿って構造体からの酸素の排除を伴うものでなければならない。この排除された酸素は、セル電解質と反応する可能性があり、x=1/6、1/3、1/4、および5/12のときのサンプルについて図1の異常プラトーの長さと不可逆容量との間の明確な相関の原因をなすものと思われる。
【0036】
プラトー段階でリチウムと酸素の両方が同時に化合物から排除されるということは、驚くべきことである。しかしながら、図1の電圧プロフィルを注意深く調べ、図7および9のin situ X線回折結果を詳しく検査すれば、これを裏づける証拠を見いだすことができる。最初に、4.8Vにおける材料の化学量論組成を考慮することも有用である。
【0037】
図10は、三成分Li−M−O系のギブズの三角形を示している。ここで、本発明者らは、NixMn(2-x)/3(式中、xは、Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2中のニッケル量により設定される)をMと略記した。三角形中の適合する相の組成が示されている。固溶体系Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2(0<x<0.5)は、Li[Li1/32/3]O2とLiMO2とを結ぶ線上に見いだされる。Li[Li1/32/3]O2とMO2とを結ぶ線は、4+に等しい一定した遷移金属酸化状態の線を表す。図11は、Li/Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2セルの充電について記述する対象となる領域におけるギブズの三角形の拡大図を示している。
【0038】
電極粒子の化学量論組成の経路は、x=1/6の場合について例示された図11の太実線により描かれている。組み立てたばかりのセルの電極は、太実線と、Li[Li1/32/3]O2とLiMO2とを結ぶ線と、の交点で始まる。4.45Vまで充電する間、電極の組成は、点「A」まで移動する。これは、表1に示されるx=1/6のときの化学量論組成Li1-2x[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O2に対応する。次に、本発明者らは、電極材料の全化学量論組成が、「A」と「D」の間の直線上を移動し続けて、酸素ガスと、酸化状態4+の遷移金属を有する固体と、の二相領域に入ると仮定する。したがって、電極の固体部分は、「A」から「B」まで移動する。点「B」では遷移金属が4+の酸化状態をとりかつすべてのLiがLi層から除去されると本発明者らは仮定する。その結果、図11および表1に示されるように、点「B」では化学量論組成が[ ][NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O1.5+xになる。ここで、本発明者らは、次の放電サイクル時にLi層が再び充填されるまでこの酸素不足の層状相に単純にリチウムが付加されると仮定する。これは、図11の「B」から「C」までの経路に対応する。図11の点「C」は、表1に示されるように、化学量論組成Li[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O1.5+x(x=1/6のとき)を有する。後続のサイクル動作は、「B」と「C」の間で行われる。
【0039】
図11の太線により記述されるシナリオから、図1で観測されるように、初回充電が後続サイクルとは異なるはずであることが予測される。図1に示されるセルについて4.8Vまでの初回充電の微分容量vs電圧が次のサイクルと異なることを示すことにより、この点が図12から裏づけられる。図11の「B」から「C」までの線により予測されるように、後続サイクルはきわめて可逆的である。
【0040】
電極の固体部分の酸素含有量が「A」から「B」までの線に沿って減少するのであれば、後続の放電時にMnの還元が起こるべき点が存在するであろう。Ni4+が最初にNi2+に完全に還元されてからMn4+が還元されると仮定すれば、Mnの還元が起こるべき点を予測することができる。この仮定によれば、Mnの還元が最初に起こるときの化学量論組成は、表1に示されるLi2x[NixLi(1-2x)/3Mn(2-x)/3]O1.5+xである。
【0041】
【表1】

【0042】
図6a〜e(Niだけが酸化および還元される)および図12a〜e(NiおよびMnの両方が酸化および還元される)の微分容量を注意深く比較すると、放電時の約3.5V未満の容量はMnの還元に起因するものであることが示唆される。このモデルによれば、Mnの還元に起因する容量は、式単位あたり1−2xである。この予測は、図13に実線として示され、3.5V未満の実験放電容量と比較されている。x≧1/3のときのサンプルについて、一致はきわめて良好である。本発明者らは、この定性的一致を、プラトーに沿ってサンプルから酸素が抽出されることを立証する決定的な証拠とみなす。なぜなら、そうでなければ、Mnが還元されるはずはないからである。さらなる考慮点は、たとえLi層が充填されないとしても、これらの電位でMn3+を超えてMnを還元することは不可能であると思われることである。図13の破線は、すべてのMn4+がMn3+に還元されたときに利用可能な容量を示している。実験点が実線から見掛け上はずれる点に近接したx=0.2の近傍で実線と破線が交差することに注目されたい。x<1/3のときのサンプルは、いずれの予測にもよい一致を示さない。しかしながら、これらは、プラトーに沿って除去される大量の酸素に関連づけられうる実質的な不可逆容量を示している。そのように大量の酸素が除去された場合、リチウム層への遷移金属の実質的な移動を生じ、結果として、リチウムの拡散が不十分になり、不可逆容量が大きくなる可能性がある。
【0043】
図7b(x=5/12のとき)および図9b(x=1/6のとき)におけるc軸変化とリチウム含有量との比較は有益である。x=5/12のとき、c軸は、最初に、ホストからリチウムが抽出されるにつれて増加し、ほとんどのリチウムが抽出されて初めて、c軸は、急速に減少する。これは、LiCoO2のような層状化合物で観測される挙動と一致している。これとは対照的に、x=1/6のときのサンプル(図9c)は、異常プラトーを越えた後、リチウム含有量と共にc軸の比較的滑らかな変化を示す。これは、リチウム層中にいくつかの遷移金属が移動することを示唆するものと思われる。Li層中のこれらの重カチオンは、このサンプルで観測された大きい不可逆容量の原因となる可能性がある。なぜなら、拡散が遅いため、すべての利用可能なサイトにリチウムを挿入することが困難になると思われるからである。
【0044】
表1には、図11の点「C」で期待されるMnの酸化状態が与えられている。Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2中のxがより小さいサンプルは、xがより大きいサンプルよりも、点「C」において小さいMn酸化状態を有する。Mn2+およびMn3+はMn4+よりも大きいので、本発明者らは、図11の点「C」におけるサンプルがもとのLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2出発物質よりも大きい単位格子体積を有すると予想する。このことは、x=1/6およびx=5/12の材料のいずれにもあてはまることが表1から実証される。x=1/6のサンプルの場合、単位格子体積の増加が最大である。なぜなら、x=5/12のサンプルよりも還元されもMnが多いからである。
【0045】
以上の結果から、サンプルからの酸素の損失は、4.5Vにおけるプラトー段階で生じることが強く示唆される。このことを確認するために、4.8Vまで充電されたx=1/6、1/3、および5/12のときの電極についてex situ X線回折研究を行った。図14a〜dは、x=1/3のときのサンプルの回折パターンと、実験に対して以下に記載されているように計算した最良のあてはめと、を示している。図中の回折パターンを計算するのに使用した構造モデルは、サンプルがO3構造を保持すると仮定したものである。本発明者らは、リチウム層にはリチウムが含まれていないが、Li[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2出発物質の初めのリートフェルト改良でLi層に見いだされた量に等しいNiの量は保持されると仮定した。遷移金属層中のLi、Ni、およびMn原子の占有度は、出発物質中に初めに見いだされた占有度に固定した。酸素サイトの占有度は可変として、1.813の酸素占有度のときに最良のあてはめを見いだした。これは、表1に示される期待値とよく一致する。これは、酸素サイトから酸素がランダムに失われて空位を形成すると仮定する。図14cおよび14dは、酸素サイトの占有度に伴う適合度およびブラッグR因子の変化を示したものである。これは、化合物からの酸素の損失が起こったことを明確に示している。
【0046】
表2には、充電電極のリートフェルト改良の結果が与えられている。得られた酸素化学量論量は、酸化状態理論に基づいて表1に与えられている4.8Vで予測された酸素化学量論量と比較される。予測された酸素化学量論量と測定された酸素化学量論量との一致は、見掛け上きわめて良好であり、充電材料が酸素不足であるという証拠である。
【0047】
【表2】

【0048】
実験的証拠は、初回充電時における4.5Vを超えるプラトーに沿ったLiおよびOの両原子の同時抽出と一致している。したがって、抽出は、遷移金属の酸化状態を4に固定する形で行われる。したがって、このプラトー段階で、あたかもLi2Oが化合物から除去されるようにみえる。
【0049】
以下の実施例により、本発明の目的および利点についてさらに具体的に説明するが、これらの実施例に記載の特定の材料およびその量ならびに他の条件および細目は、本発明を過度に限定するように解釈すべきでものではない。部およびパーセントは、別段の記載がないかぎり重量基準である。
【実施例】
【0050】
実施例1〜7
LiOH・H2O(98%+、アルドリッチ(Aldrich))、Ni(NO32・6H2O(98%+、フルカ(Fluka))、およびMn(NO32・6H2O(97%+、フルカ(Fluka))を、出発物質として使用した。ジィー・ルー(Z.Lu)およびジェイ・アール・ダーン(J.R.Dahn)著,電気化学会誌(J.Electrochem.Soc.),第148号,A237(2001年)に記載されているような「混合水酸化物」法により、サンプルLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2(0=0.0、1/12、1/6、1/4、1/3、5/12、および1/2)を調製した。
【0051】
ビュレットを用いて、遷移金属硝酸塩の水溶液50mlをLiOHの攪拌溶液400mlに徐々に滴下した(1〜2時間)。これにより、M(OH)2(M=Mn、Ni)の沈澱を生じる。本発明者らは、この沈澱が均一なカチオン分布をもつことを期待する。すべての遷移金属硝酸塩がLiOH溶液に確実に添加されるように、ビュレットを3回洗浄した。沈殿を濾別し、そして追加の蒸留水で2回洗浄して残留するLi塩(LiOHおよび形成されたLiNO3)を除去した。空気中、180℃で、沈殿を一晩乾燥させた。乾燥させた沈殿を化学量論量のLi(OH)・H2Oと混合し、自動グラインダーで粉砕した。次に、プレスして厚さ約5mmのペレットにした。空気中、480℃で、ペレットを3時間加熱した。挟持具を用いてオーブンからペレットを取り出し、2枚の銅プレート間に挟んで室温までペレットを急冷させるようにした。ペレットを粉砕して、新しいペレットを作製した。空気中、900℃で、新しいペレットをさらに3時間加熱し、同様にして室温まで急冷させた。ここに記載したサンプルは、米国特許出願第09/845178号に報告されているものと同一のサンプルである。
【0052】
実施例8
CH3CO2Li・2H2O(98%、アルドリッチ(Aldrich))、Cr(NO33・9H2O(99%、アルドリッチ(Aldrich))、および(CH3CO2)2Mn・4H2O(99%+、アルドリッチ(Aldrich))を、出発物質として使用した。「ソル−ゲル」法により、サンプルLi[CrxLi(1/3-x/3)Mn(2/3-2x/3)]O2(0=1/6、1/4、1/3、2/3、5/6、および1.0)を調製した。化学量論量のCH3CO2Li・2H2O、Cr(NO33・9H2O、および(CH3CO2)2Mn・4H2Oを、500mlビーカー中の約100mlの蒸留水に攪拌しながら溶解させた。NH4OH溶液を添加することにより、溶液のpHを約10に調整し、沈澱を生成させた。次に、ビーカーをホットプレート上に配置して、攪拌しながら徐々に水を蒸発させた。ほとんどの水を蒸発させた後、ビーカーをマッフルオーブンに入れ、空気中、130℃で一晩乾燥させた。乾燥させた沈殿を自動グラインダーで粉砕し、空気中、480℃で、12時間加熱した。室温まで冷却させた後、加熱された粉末を再び自動グラインダーで粉砕し、プレスして厚さ約5mmのペレットにした。リンドバーグ(Lindberg)チューブ炉を用いて、アルゴンストリーム中、900℃で、ペレットを3時間加熱した。600℃/時の速度でオーブンを900℃まで加熱した。900℃で3時間滞留させた後、600℃/時の速度でオーブンを室温まで冷却させた。加熱前、アルゴンをチューブオーブンに通して約3時間パージングし、チューブから残留酸素を除去した。
【0053】
X線回折
X線回折は、CuターゲットX線管および回折ビームモノクロメーターを備えたシーメンス(Siemens)D500回折計を用いて行った。リーチカ(Rietica)v1.62(LHPMのウィンドウ(window)版),アール・ジェイ・ヒル(R.J.Hill)およびシー・ジェイ・ハワード(C.J.Howard)著,応用結晶学誌(J.Appl.Crystallogr.),第18巻,p.173(1985年);ディー・ビー・ワイルズ(D.B.Wiles)およびアール・エイ・ヤング(R.A.Young)著,応用結晶学誌(J.Appl.Crystallogr.),第14巻,p.149(1981年)に記載されているようなリートフェルト・プログラム・リーチカ(Rietveld Program Rietica)のヒル(Hill)およびハワード(Howard)版を用いて、粉末試料についてデータのプロフィル改良を行った。
【0054】
材料は単一相であり、α−NaFeO2構造(空間群R−3M、#166)をとる。同一の回折計を用いてin situ X線回折測定を行い、少なくとも7つのブラッグピークの位置に対して最小二乗法改良により格子定数を決定した。in situ X線回折結果に対しては、リートフェルトプロフィル改良を行わなかった。
【0055】
電極の作製および試験
「ベルコア(Bellcore)型」電極を電気化学試験用に作製した。Zグラムのサンプルを約0.1Z(重量基準)のスーパーSカーボンブラックおよび0.25Zのカイナー(Kynar)2801(PVdF−HFP)(エルフ・アトケム(Elf−Atochem))と混合する。この混合物を3.1Zのアセトンおよび0.4Zのジブチルフタレート(DBP、アルドリッチ(Aldrich))に添加してポリマーを溶解させた。
【0056】
攪拌および振盪を数時間行った後、0.66mmの一様な厚さが得られるように、ノッチバースプレッダーを用いて、スラリーをガラスプレート上に拡げた。アセトンが蒸発したとき、乾燥塗膜をプレートから剥離除去し、パンチングして直径12mmの円形ディスクにした。パンチングされた電極を無水ジエチルエーテル中で数回洗浄して、DBPを除去した。洗浄された電極を、空気中、90℃で、一晩乾燥させてから使用に供した。上記の正極を使用し、アノードとしてのリチウム、セパレーターとしてのセルガード(Celgard)2502膜、および電解質としての33体積%エチレンカーボネート(EC)+67体積%ジエチルカーボネート(DEC)(ミツビシ・ケミカル(Mitsubishi Chemical))中の1M LiPF6と共に、アルゴングローブボックス(水<5ppm、O2<5ppm)中で、2325型コインセル(直径23mm、厚さ2.5mm)を組み立てた。通常、カソードの質量は、約20mgであった。所望の電位限界の間で一定の充放電電流を用いて、セルを試験した。
【0057】
エム・エヌ・リチャード(M.N.Richard),アイ・ケトシァウ(I.Koetschau)およびジェイ・アール・ダーン(J.R.Dahn)著,電気化学会誌(J.Electrochem.Soc.),第144号,p.554(1997年)に記載されているようなベリリウムウィンドウで置き替えられた円形孔を有するセル缶であること以外は同一のコイン型セルを用いて、in situ X線回折測定を行った。セルハードウェアからの汚染が最小限に抑えられた回折パターンが得られるように、カソード電極をベリリウムに対向させた。定電流を用いてセルの充放電を行い、X線回折走査結果を逐次的に収集した。
【0058】
4.5Vにおける長い充電プラトーの後のLi[NixLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O2の結晶構造を調べるために、電気化学セルをex situ回折研究用に作製した。x=1/6、1/3、および5/12のときの材料からなる電極を用いたセルを4.8Vまで充電し、そこで安定化させた。セル電流を5mA/g未満に減衰させた後、セルを解体し、正極を回収した。電極をEC−DEC(33%:67%)溶媒で洗浄して、溶存塩を除去した。電極粉末をゼロバックグラウンドホルダー(510カットSi)上に配置し、回折パターンを記録した。次に、リートフェルト改良を用いて、サンプルの構造パラメーターを得た。
【0059】
図15a〜gおよび図16a〜gは、30℃において5mA/gの特定電流を用いて2.0Vと4.8Vの間でサイクル動作させたLi/Li[CrxLi(1/3-x/3)Mn(2/3-2x/3)]O2セルについて充放電曲線および容量保持性vsサイクル数を示している。図15a〜gは、初回充電プロフィルが後続プロフィルときわめて異なることおよび不可逆容量損失が75mAh/gと150mAh/gの間にあることを示している。図16a〜gは、Cr含有量が1/6から1まで増加するにつれて、送出可逆容量が約260mAh/gからほぼ0mAh/gまで徐々に減少することを示している。x=1/6、1/4、1/3、1/2、2/3、5/6、および1.0のときのLi[CrxLi(1/3-x/3)Mn(2/3-2x/3)]O2については、Crが3+の酸化状態にありMnが4+の酸化状態にあると考えられる。これらの実験では4+の酸化状態を超えてMn4+を酸化させることはできないので、Mn4+はレドックス反応に関与しないと推定される。Li[Li0.2Cr0.4Mn0.4]O2中のCr3+は、その構造からリチウムが抽出された場合、Cr6+に酸化され、それと同時に、Crは八面体サイトから隣接する四面体サイトに移動するとの報告がなされている。
【0060】
x=1/6および1/4のときのLi[CrxLi(1/3−x/3)Mn(2/3−2x/3)]O2については、Crのレドックス反応による期待容量は、4.8Vまでの初回充電容量よりも小さい。Li[NixLi1/3−2x/3Mn2/3−x/3]O2(0<x<1/2)のように、x=1/6および1/4のときのLi[CrxLi(1/3−x/3)Mn(2/3−2x/3)]O2は、初回充電プロセス時に、ある量の酸素を失わなければならない。図17a〜gは、2.0Vと4.8Vの間でx=1/6、1/4、1/3、1/2、2/3、5/6、および1.0のときのLi/Li[CrxLi(1/3−x/3)Mn(2/3−2x/3)]O2セルについて微分容量vs電位を示している。図17は、初回充電が後続充電ときわめて異なることを示している。初回充電の特徴(破線の円で記されている)は、Cr含有率xが増加するにつれて、より顕著になる。これらの変化は、Liの初回抽出時におけるCrの移動に関連づけることが可能である。初回充電時における4.5V近傍の実線の円で記された図17のピークは、酸素損失に起因する。Li/Li[NixLi1/3−2x/3Mn2/3−x/3]O2(0<x<1/2)セルの場合とまったく同様に、dQ/dVのこのピークは、図15に示される初回充電の電圧プロフィルにプラトーとして現われる。Li/Li[CrxLi(1/3−x/3)Mn(2/3−2x/3)]O2セルの場合、プラトーは、Li/Li[NixLi1/3−2x/3Mn2/3−x/3]O2(0<x<1/2)セルの場合ほどフラットではなく、したがって、それほど観測は容易でない。
【0061】
図17a〜gにおける4.5V近傍のピークは、Cr含有量が1/6から1/2まで増加するにつれて弱くなる。これは、より多くのCrがレドックス反応に利用可能であるからである。x<1/3のときのサンプルでは、Li層からすべてのLiを除去するうえで酸素損失は必要にならないはずであり、図17a〜gは、x=1/3のサンプルでは4.5Vのピークがほとんど消失することを示している。さらに、図17a〜gは、x=1/6のときのLi/Li[CrxLi(1/3−x/3)Mn(2/3−2x/3)]O2セルが、4.8Vまでの初回充電時に酸素を失った後、2.0Vと3.1Vの間で追加容量を呈することを示している。この追加容量は、いくらかのMn4+がMn3+に還元されることに起因する。これはLi/Li[NixLi1/3−2x/3Mn2/3−x/3]O2(1/6<x<1/3)セルで観測される挙動と同じである。
【0062】
特定のおよび好ましい実施形態および技法を参照しながら本発明について説明してきた。しかしながら、本明細書を考慮すればまたは本明細書に開示されている本発明を実施すれば、本発明の他の実施形態が当業者に自明なものとなろう。特許請求の範囲により示される本発明の真の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書に記載されている原理および実施形態に対して当業者により種々の省略、修正、および変更を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(a)Liy[M1(1-b)Mnb]O2または(b)Lix[M1(1-b)Mnb]O1.5+c(式中、0≦y<1、0<b<1、および0<c<0.5であり、そしてM1は、1種以上の金属元素を表す。ただし、(a)の場合、M1は、クロム以外の金属元素である。)を有するリチウムイオンバッテリー用カソード組成物であって、
リチウムイオンバッテリーに組み込んで30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の完全充放電サイクルのサイクル動作を行ったときにスピネル結晶構造への相転移を起こさないO3結晶構造を有する単一相の形態であることを特徴とする、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項2】
式Liy[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+x(式中、0<y<1、0<x<0.5であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき2であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項3】
式Liy+a[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+x+y/2(式中、0<a<(1−y)、0<y<(1−2x)、および0<x<0.5であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき2であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項4】
式Liy[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O2(式中、(1−2x)≦y<1および0<x<0.5であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、M2は、クロム以外の金属元素であり、そしてすべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき2であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項5】
式Liy[Li(1-2x)/32xMn(2-x)/3]O1.5+x+y/2(式中、0<y<(1−2x)および0<x<0.5であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき2であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項6】
式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+x/2(式中、0<y<1および0<x<1であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのMの加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項7】
式Liy+a[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+x/2+y/2(式中、0<a<(1−y)、0<y<(1−x)、および0<x<1であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項8】
式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O2(式中、(1−x)≦y<1および0<x<1であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、M2は、クロム以外の金属元素であり、そしてすべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項9】
式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+x/2+y2(式中、0<y<(1−x)および0<x<1であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項10】
式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+1.5x(式中、0<y<1および0<x<0.33であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき6である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項11】
式Liy+a[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]1.5+1.5x+y/2(式中、0<a<(1−y)、0<y<(1−3x)、および0<x<0.33であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき6である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項12】
式Liy[Li(1-x)/32xMn(2-2x)/3]O1.5+1.5x+y/2(式中、0<y<(1−3x)および0<x<0.33であり、そしてM2は、1種以上の金属元素を表す。ただし、すべてのM2の加重平均酸化状態は、まったく充電されていない状態のとき3であり、完全に充電された状態のとき4である。)を有する、リチウムイオンバッテリー用カソード組成物。
【請求項13】
(a)アノードと、
(b)カソードと、
(c)該アノードと該カソードとを分離する電解質と、
を備えるリチウムイオンバッテリーであって、
該カソードが、請求項1、2、4、6、8、11、13、15、17、20、22、および24のいずれか1項に記載のカソード組成物を含む、リチウムイオンバッテリー。

【図1a−e】
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【図2a−e】
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【図3】
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【図4a−c】
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【図5a−c】
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【図6a−e】
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【図7a−c】
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【図8a−c】
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【図9a−c】
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【図10】
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【図11】
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【図12a−e】
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【図13】
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【図14a−d】
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【図15a−g】
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【図16a−g】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−155017(P2011−155017A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−89811(P2011−89811)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【分割の表示】特願2003−520018(P2003−520018)の分割
【原出願日】平成14年8月2日(2002.8.2)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】