説明

リチウムイオン二次電池、正極活物質、正極、電動工具、電動車両および電力貯蔵システム

【課題】優れた電池容量特性およびガス放出特性を得ることが可能な二次電池を提供する。
【解決手段】正極21の正極活物質層21Bは、正極活物質として、第1および第2リチウム複合酸化物を含んでいる。第2リチウム複合酸化物は、Li1+a (Nib M1c M21-bc 1.5-0.5a2 (M1はAlなど、M2はCoなど、aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15)である。ただし、単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、第1リチウム複合酸化物よりも第2リチウム複合酸化物において大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムおよび遷移金属を構成元素として含む複合酸化物を含有する正極活物質、その正極活物質を用いた正極およびリチウムイオン二次電池、ならびにそのリチウムイオン二次電池を用いた電動工具、電動車両および電力貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用端末機器などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、そのさらなる小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、最近では、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器への応用も検討されている。
【0003】
二次電池としては、さまざまな充放電原理を利用するものが提案されているが、中でも、リチウムイオンの吸蔵放出を利用するリチウムイオン二次電池が有望視されている。鉛電池およびニッケルカドミウム電池などよりも高いエネルギー密度が得られるからである。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その正極および負極は、それぞれリチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質および負極活物質を含んでいる。正極活物質としては、リチウムおよび遷移金属を構成元素として含む複合酸化物が広く用いられている。充放電反応に直接関わる正極活物質は、電池性能に大きな影響を及ぼすことから、複合酸化物の種類および組成などについては、さまざまな検討がなされている。
【0005】
具体的には、負極のリチウム取り込みによる容量減少を防止するために、LiCoO2 などと一緒に、それよりも電位が低いと共に容量密度が高い含リチウム化合物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この含リチウム化合物は、一般式Lix MOy (MはMoなどの遷移金属、x/y≧0.5以上)で表されるLi2 NiO2 などである。
【0006】
充放電による充放電容量の低下を抑制するために、リチウム銅複合酸化物を用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。このリチウム銅複合酸化物は、一般式Li2 (Cu1-x-y x y )O2 (Mは13族元素などから選択される1種類以上の元素、DはTiなどから選択される1種以上の元素、0<x<0.5、0<y<0.5、x+y<0.5)で表されるLi2 (Cu0.8 Al0.1 Zr0.1 )O2 などである。
【0007】
充放電容量を増加させるために、リチウム亜鉛銅複合酸化物を用いることが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。このリチウム亜鉛銅複合酸化物は、一般式Li2-2xZnx CuO2 (0.01≦x≦0.49)で表されるLi1.98Zn0.01CuO2 などである。
【0008】
大容量を実現するために、リチウムニッケル複合酸化物を用いることが提案されている(例えば、特許文献4,5参照。)。このリチウムニッケル複合酸化物は、一般式Li2 NiO2+y (0<y<0.3)で表されるLi2 NiO2.2 などであり、または一般式Li2+x Ni1-x 2 (0<y<1/7)で表されるLi2.05Ni0.952 などである。
【0009】
電池容量およびサイクル特性を向上させるために、4.5V〜3V(リチウム基準)における初期のリチウムイオン離脱量に対する次のリチウムイオン再挿入量が80%以上である第1リチウム層状化合物と15%以下である第2リチウム層状化合物とを用いることが提案されている(例えば、特許文献6参照。)。第1リチウム層状化合物は、Co、NiおよびNiのうちの少なくとも1種を含有するLiCoO2 などである。第2リチウム層状化合物は、Fe、MnおよびNiのうちの少なくとも1種を含有するLi1.29(Ni0.33Fe0.33Mn0.330.712 などである。
【0010】
この他、関連技術として、負極に関する検討もなされている。具体的には、初回の充放電時に生じる不可逆容量を補填するために、負極活物質としてリチウム含有金属化合物を用いることが提案されている(例えば、特許文献7参照。)。このリチウム含有金属化合物は、少なくとも放電時においてリチウムを放出可能である。
【0011】
不可逆容量を補填するために、金属リチウムを用いて、負極にリチウムを直接付与することが提案されている(例えば、特許文献8参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平06−342673号公報
【特許文献2】特開2006−127911号公報
【特許文献3】特開2000−348721号公報
【特許文献4】特開平09−241027号公報
【特許文献5】特開平09−241026号公報
【特許文献6】特開2010−009806号公報
【特許文献7】特開2007−172954号公報
【特許文献8】特開2008−293954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
充放電を繰り返しても高い電池容量を得るためには、既に提案されているように、初回の充放電時において負極で生じる不可逆容量を補填することが有効である。そこで、正極活物質として、LiCoO2 などの一般的な高容量用途の複合酸化物と一緒に、補填用のLi2 NiO2 系の複合酸化物が用いられている。このLi2 NiO2 系の複合酸化物とは、Li2 NiO2 、あるいはそのNiの一部が他の1種類または2種類以上の遷移金属元素に置き換えられた材料である。
【0014】
しかしながら、Li2 NiO2 系の複合酸化物を用いると、充放電時において生じるNi2 Oなどの分解反応により酸素ガスが発生するため、安全性が懸念される。よって、従来は、電池性能(電池容量特性)と安全性(ガス放出特性)とがトレードオフの関係にあるため、両者を両立させることが困難であった。
【0015】
なお、金属リチウムを直接補填することが既に提案されているが、その金属リチウムは水分に対して極めて活性であるため、電極の取り扱いが困難になると共に製造コストが増大する可能性がある。
【0016】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池容量特性およびガス放出特性を得ることが可能な正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池、電動工具、電動車両および電力貯蔵システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の正極活物質は、第1リチウム複合酸化物と、下記の式(1)で表される第2リチウム複合酸化物とを含むものである。ただし、単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、第1リチウム複合酸化物よりも第2リチウム複合酸化物において大きくなっている。
【0018】
Li1+a (Nib M1c M21-bc 1.5-0.5a2 ・・・(1)
(M1は長周期型周期表における13族〜15族の元素(ホウ素(B)、炭素(C)および窒素(N)を除く)のうちの少なくとも1種であり、M2は3族〜12族の元素のうちの少なくとも1種である。aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15である。)
【0019】
本発明の正極は、上記した正極活物質を含むものである。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備え、その正極が上記した正極活物質を含むものである。さらに、本発明の電動工具、電動車両および電力貯蔵システムは、上記したリチウムイオン二次電池を用いるものである。
【0020】
ここで、リチウム複合酸化物とは、リチウム(Li)と共に1種類または2種類以上の遷移金属を構成元素として含む複合酸化物であり、さらに遷移金属元素以外の他の元素を含んでいてもよい。
【0021】
第1リチウム複合酸化物の単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、その第1リチウム複合酸化物に固有の充電能力の実力値であり、リチウム金属を対極とする試験用の二次電池を作製して求められる。具体的には、第1リチウム複合酸化物およびリチウム金属をそれぞれ試験極および対極とする試験用の二次電池を作製したのち、その二次電池を充電させて充電容量(mAh)を測定する。この充電容量を測定する場合の詳細な条件については、後述する実施例で説明している。測定した充電容量と第1リチウム複合酸化物の重量(g)および真密度(g/cm3 )とから、単位体積当たりの充電容量(mAh/cm3 )=[充電容量(mAh)/重量(g)]×真密度(g/cm3 )を算出する。なお、第2リチウム複合酸化物の単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)の算出方法も同様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の正極活物質、正極またはリチウムイオン二次電池によれば、第1リチウム複合酸化物と式(1)に示した第2リチウム複合酸化物とを含んでおり、単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)が第1リチウム複合酸化物よりも第2リチウム複合酸化物において大きくなっている。この場合には、正極活物質または正極を用いたリチウムイオン二次電池が充放電されると、初回の充放電時において第2リチウム複合酸化物が優先的に用いられるため、その第2リチウム複合酸化物により不可逆容量が補填される。また、初回以降の充放電時において第1リチウム複合酸化物が優先的に用いられるため、その高エネルギー密度の第1リチウム複合酸化物により高い電池容量が得られる。しかも、第2リチウム複合酸化物がM1を構成元素として有しているため、充放電時において酸素ガスの発生が抑制される。よって、電池容量特性およびガス放出特性に関するトレードオフの関係が打破されるため、優れた電池容量特性およびガス放出特性を得ることができる。また、上記したリチウムイオン二次電池を用いた電動工具、電動車両および電力貯蔵システムにおいても、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池(円筒型)の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の正極活物質を用いた他のリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】試験用の二次電池(コイン型)の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.正極活物質
2.正極活物質の適用例
2−1.正極およびリチウムイオン二次電池(円筒型)
2−2.正極およびリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)
3.リチウムイオン二次電池の用途
【0025】
<1.正極活物質>
[正極活物質の構成]
本発明の一実施形態の正極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」という。)の正極に用いられるものである。
【0026】
この正極活物質は、第1リチウム複合酸化物と、下記の式(1)で表される第2リチウム複合酸化物とを含んでいる。ただし、単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、第1リチウム複合酸化物よりも第2リチウム複合酸化物において大きくなっている。
【0027】
Li1+a (Nib M1c M21-bc 1.5-0.5a2 ・・・(1)
(M1は長周期型周期表における13族〜15族の元素(ホウ素、炭素および窒素を除く)のうちの少なくとも1種であり、M2は3族〜12族の元素のうちの少なくとも1種である。aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15である。)
【0028】
第1リチウム複合酸化物は、リチウム(Li)と共に1種類または2種類以上の遷移金属等を構成元素として含むリチウム遷移金属複合酸化物である。この第1リチウム複合酸化物の種類は、単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)が第2リチウム複合酸化物よりも小さい化合物であれば、特に限定されない。
【0029】
単位体積当たりの充電容量が相対的に小さい第1リチウム複合酸化物は、主に、二次電池の初回以降(2サイクル目以降)の充放電時において、正極活物質がリチウムイオンを吸蔵放出するために優先的に用いられるものである。
【0030】
中でも、第1リチウム複合酸化物は、下記の式(2)〜式(4)で表される化合物のうちの少なくとも1種であることが好ましい。二次電池の実質的な使用時である初回以降の充放電時において、高いエネルギー密度(電池容量)が得られると共に、サイクル特性も向上するからである。
【0031】
Lid Ni1-e-f Mne M3f 2-g h ・・・(2)
(M3は長周期型周期表における2族〜15族の元素(ニッケルおよびマンガンを除く))のうちの少なくとも1種であり、Xは16族および17族の元素(酸素(O)を除く)のうちの少なくとも1種である。dは0≦d≦1.5、eは0≦e≦1、fは0≦f≦1、gは−0.1≦g≦0.2、hは0≦h≦0.2である。)
【0032】
Lij Mn2-k M4k m n ・・・(3)
(M4はコバルト、ニッケル、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素、チタン、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、スズ、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)のうちの少なくとも1種である。jはj≧0.9、kは0≦k≦0.6、mは3.7≦m≦4.1、nは0≦n≦0.1である。)
【0033】
Lip M5q PO4 ・・・(4)
(M5は長周期型周期表における2族〜15族の元素のうちの少なくとも1種である。pは0≦p≦2、qは0.5≦q≦2である。)
【0034】
式(2)に示した化合物は、いわゆる層状型である。式(2)において、M3の種類は、長周期型周期表における2族〜15族の元素(ニッケルおよびマンガンを除く))のうちの少なくとも1種であれば特に限定されないが、例えば、コバルト、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、銅、亜鉛、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム、ストロンチウムおよびタングステンのうちの少なくとも1種である。また、Xの種類は、16族および17族の元素(酸素を除く)のうちの少なくとも1種であれば特に限定されないが、例えば、フッ素(F)などのハロゲンである。式(2)に示した化合物の具体例は、LiNiO2 、LiCoO2 またはLiNi0.8 Co0.18Al0.022 などである。
【0035】
式(3)に示した化合物は、いわゆるスピネル型であり、例えば、LiMn2 4 などである。
【0036】
式(4)に示した化合物は、いわゆるオリビン型である。式(4)において、M5の種類は、長周期型周期表における2族〜15族の元素のうちの少なくとも1種であれば特に限定されないが、例えば、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、ニオブ(Nb)、銅、亜鉛、モリブデン、カルシウム、ストロンチウム、タングステンおよびジルコニウムのうちの少なくとも1種である。式(4)に示した化合物の具体例は、LiFePO4 などである。
【0037】
第2リチウム複合酸化物は、リチウムと共に1種類または2種類以上の非遷移金属(M1)および1種類または2種類以上の遷移金属(M2)を構成元素として含むリチウムリッチの複合酸化物である。言い替えれば、第2リチウム複合酸化物は、ベース材料であるリチウムリッチのLi1+a NiO2 のうち、そのNiの一部がM1およびM2に置き換えられたものである。なお、第2リチウム複合酸化物は、そのベース材料であるLi1+a NiO2 と同等の耐湿性を有するため、塗布法などの既存の方法に適用可能である。
【0038】
式(1)に示したM1の種類は、長周期型周期表における13族〜15族の元素のうちの少なくとも1種(ただし、ホウ素、炭素および窒素を除く)であれば、特に限定されない。M2の種類は、3族〜11族の遷移金属元素のうちの少なくとも1種であれば、特に限定されない。なお、M1は必ず第2リチウム複合酸化物に含まれるのに対して、M2は必ずしも第2リチウム複合酸化物に含まれるとは限らない。
【0039】
単位体積当たりの充電容量が相対的に大きい第2リチウム複合酸化物は、第1リチウム複合酸化物とは異なり、主に、二次電池の初回(1サイクル目)の充放電時において、正極活物質がリチウムイオンを吸蔵放出するために優先的に用いられるものである。二次電池の初回の充放電時には、負極の表面に安定な被膜(SEI膜など)が形成されるため、不可逆容量が生じることが知られている。これに伴い、初回の充放電時において第1リチウム複合酸化物から吸蔵放出されるリチウムイオンは、主に、上記した被膜を形成する(不可逆容量を生じさせる)ために消費される。
【0040】
なお、負極の負極活物質がケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む金属系材料、あるいはその酸化物(例えばSiOなど)である場合には、そのことによっても不可逆容量が生じる場合もある。初回の充放電時において正極活物質から放出されたリチウムイオンがケイ素等または酸素と不可逆的に結合するからである。上記した金属系材料は、例えば、ケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物のうちの少なくとも1種などであり、金属系材料の酸化物は、例えば、酸化ケイ素(SiOx :0.2<x<1.4)などである。
【0041】
中でも、式(1)に示したM1は、アルミニウム、ケイ素、インジウム(In)およびスズのうちの少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムおよびケイ素のうちの少なくとも一方がより好ましい。電池容量にほとんど影響を与えずに、酸素ガスの発生が抑制されるからである。また、M2は、銅、コバルト、マンガン、鉄、亜鉛、イットリウム(Y)、チタンおよびモリブデンのうちの少なくとも1種であることが好ましく、銅、コバルト、マンガン、鉄、亜鉛およびチタンのうちの少なくとも1種であることがより好ましい。第2リチウム複合酸化物の単位体積当たりの充電容量が確保されるからである。
【0042】
ここで、正極活物質が第1および第2リチウム複合酸化物を含んでいるのは、上記した第1および第2リチウム複合酸化物の役割分担により、二次電池の実質的な使用時である初回以降の充放電時において、高い電池容量が安定して得られるからである。
【0043】
詳細には、初回の充放電時において、第2リチウム複合酸化物は、不可逆容量を生じさせるために優先的に消費されるのに対して、第1リチウム複合酸化物は、ほとんど消費されずに維持される。すなわち、第2リチウム複合酸化物は、本来であれば不可逆容量を生じさせるために消費されるはずである第1リチウム複合酸化物を肩代わり(補填)する役割を果たす。これにより、初回以降の充放電時において使用可能な第1リチウム複合酸化物の絶対量が確保されるため、その初回以降の充放電時において第1リチウム複合酸化物により高い電池容量が安定して得られる。この場合には、初回の充放電時において第2リチウム複合酸化物が実質的に消費されるため、初回以降の充放電時において第2リチウム複合酸化物を用いずに第1リチウム複合酸化物だけを用いた場合と同等のサイクル特性も得られる。
【0044】
上記した利点は、特に、二次電池において負極の充放電効率が正極の充放電効率よりも低い場合において効果的である。
【0045】
詳細には、負極活物質として金属系材料を用いた場合には、充放電時において負極が激しく膨張収縮することを抑制するために、その負極の利用率を低くする(負極容量よりも正極容量を低くする)ことが好ましい。この場合には、負極の全充電容量に対してSEI膜の形成等に消費されるリチウムイオンの割合が多くなるため、負極の充放電効率が低下する。また、負極活物質として金属系材料の酸化物を用いた場合には、金属系材料を用いた場合よりも負極の膨張収縮が抑制されるため、その負極の利用率を高くできるが、初回の充放電時においてリチウムイオンの一部が酸素と不可逆的に結合するため、やはり負極の充放電効率が低下する。
【0046】
この点に関して、正極活物質が第1および第2リチウム複合酸化物を含んでいると、上記したように、初回の充放電時において消費される第1リチウム複合酸化物の絶対量が少なく抑えられると共に、初回以降の充放電時において電池容量を生じさせるために使用される第1リチウム複合酸化物の絶対量が確保される。よって、負極の充放電効率が低くても、可能な限り高い電池容量が得られる。これらのことから、第1および第2リチウム複合酸化物を含む正極活物質は、負極の充放電効率が正極の充放電効率よりも低い場合において特に有効である。
【0047】
この他、正極活物質が第1および第2リチウム複合酸化物を含んでいると、第2リチウム複合酸化物が約2.5V以下(対リチウム金属標準電位)に放電容量を有しているため、二次電池の過放電時において第1リチウム複合酸化物の分解反応が抑制される。また、第1リチウム複合酸化物としてコバルト含有酸化物(例えばLiCoO2 など)を用いる場合には、第2リチウム複合酸化物として非コバルト含有複合酸化物を用いると、高価なコバルトの使用量が減少するため、コスト面でも利点が得られる。
【0048】
単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)が第1リチウム複合酸化物よりも第2リチウム複合酸化物において大きいのは、初回の充放電時において被膜を形成する(不可逆容量を生じさせる)ために第1リチウム複合酸化物よりも第2リチウム複合酸化物が優先的に消費されるため、その第2リチウム複合酸化物の消費量が少なくて済むからである。これにより、初回以降の充放電時において電池容量を得るために使用可能な第1リチウム複合酸化物の絶対量(正極活物質全体に占める割合)が確保されるため、電池容量が高くなる。参考までに説明しておくと、単位体積当たりの充電容量(充電時のカットオフ電圧=4.3V)は、第1リチウム複合酸化物(LiNiO2 またはLiCoO2 )において約800mAh/cm3 〜1000mAh/cm3 、第2リチウム複合酸化物のベース材料(Li2 NiO2 )において約1300mAh/cm3 〜1451mAh/cm3 である。
【0049】
第2リチウム複合酸化物がM1を構成元素として含んでいるのは、そのM1を含んでいない場合と比較して、充放電時において酸素ガスの発生が抑制されるからである。
【0050】
詳細には、リチウムリッチのLi2 NiO2 などでは、充放電時において1分子当たり1個以上のリチウムイオンが離脱(デインターカレート)すると、Ni2 Oが生じる。このNi2 Oは、構造上不安定であるため、自己分解反応によりNiOおよびO2 に分解しやすい傾向にある。このため、正極の電位(対リチウム金属標準電位)が約3.8Vよりも高くなると、その正極において酸素ガスが発生する。この酸素ガスは、電池膨れの発生や、電池特性(負荷特性など)および安全性の低下だけでなく、導電パスの遮断による充放電の異常停止なども引き起こす要因となる。この点に関して、上記したM1を構成元素として含む第2リチウム複合酸化物では、Ni2 Oの自己分解反応が抑制されるため、酸素ガスが発生しにくくなる。
【0051】
第2リチウム複合酸化物のうち、リチウムおよび酸素以外の成分(Nib M1c M21-bc )におけるM1の割合(c)は、モル比で15%以下であることが好ましく、1%以上15%以下であることがより好ましい。電池容量が大きく減少せずに、Ni2 Oの自己分解反応が抑制されるからである。M1の割合が15%よりも多くなると、Niなどの割合が相対的に少なくなるため、電池容量が減少しすぎる可能性がある。また、第2リチウム複合酸化物の形成時において、後述する焼成温度を調整しても、単位体積当たりの充電容量が第1リチウム複合酸化物よりも高くなりにくい可能性がある。一方、M1の割合が1%よりも少ないと、M1が根本的に少なすぎるため、Ni2 Oの自己分解反応が十分に抑制されない可能性がある。
【0052】
第2リチウム複合酸化物がNiを必須の構成元素として含んでいるのは、Cuなどを必須の構成元素として含んでいる場合と比較して、酸化還元時における価数補償の観点から第2リチウム複合酸化物の自己分解反応が抑制されるため、酸素ガスが発生しにくくなるからである。また、第2リチウム複合酸化物がM2を構成元素として含んでいるのは、不可逆容量を補填するために用いられる第1リチウム複合酸化物の単位体積当たりの充電容量が増大するからである。
【0053】
なお、第2リチウム複合酸化物は、例えば、原料(Li、Ni、M1およびM2を含む2種類以上の酸化物)を混合したのち、その混合物を所定の温度(焼成温度)で焼成して形成される。この焼成温度は、安定な結晶構造を有する第2リチウム複合酸化物を形成できるか否かだけでなく、その単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)にも影響を与える。よって、第1リチウム複合酸化物よりも第2リチウム複合酸化物において単位体積当たりの充電容量を大きくするためには、焼成温度を適正に設定する必要がある。この適正な焼成温度は、例えば、約600℃〜830℃である。焼成温度が600℃よりも低いと、第2リチウム複合酸化物の結晶性が低下するため、充放電時において酸素ガスが発生しやすくなる可能性がある。一方、焼成温度が830℃よりも高いと、原料の酸化物(例えばNiOなど)が安定化するため、第2リチウム複合酸化物を形成することが困難になる可能性がある。
【0054】
上記した第1リチウム複合酸化物の特性値、すなわち単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、上記したように、その第1リチウム複合酸化物に固有の充電能力の実力値であるため、リチウム金属を対極とする試験用の二次電池を作製して求められる。なお、第2リチウム複合酸化物の特性値についても、同様の手順により求められる。
【0055】
単位体積当たりの充電容量を求める場合には、第1リチウム複合酸化物およびリチウム金属をそれぞれ試験極および対極とする試験用の二次電池を作製したのち、その二次電池を充電させて充電容量(mAh)を測定する。この充電容量と第1リチウム複合酸化物の重量(g)および真密度(g/cm3 )とに基づいて、単位体積当たりの充電容量(mAh/cm3 )=[充電容量(mAh)/重量(g)]×真密度(g/cm3 )を算出する。この充電容量(mAh)の測定条件については、後述する実施例で説明している。
【0056】
なお、正極活物質が二次電池に組み込まれている場合には、後述するように、正極のうち、絶縁性の保護テープの存在に起因して充放電が行われない領域において、第1および第2リチウム複合酸化物の特性値を調べることが好ましい。この領域では充放電前の状態(未充放電状態)が維持されているため、充放電の有無に関係せずに第1および第2リチウム複合酸化物の特性値を調べることができるからである。
【0057】
第1および第2リチウム複合酸化物の混合比は、特に限定されないが、中でも、第1リチウム複合酸化物の割合は第2リチウム複合酸化物の割合よりも多いことが好ましい。初回の充放電時において、最低限の量の第2リチウム複合酸化物により不可逆容量を補填しつつ、初回以降の充放電時において、十分な量の第2リチウム複合酸化物により高い電池容量を安定して得る必要があるからである。
【0058】
より具体的には、初回の充放電時において負極で生じる不可逆容量がその負極の全充電容量(対正極)に対してZ%であるとき、第1および第2リチウム複合酸化物における第2リチウム複合酸化物の割合は、その第2リチウム複合酸化物の充電容量(対負極)が正極の全充電容量に対してZ%以下となるように設定されることが好ましい。一例を挙げると、不可逆容量が負極の全充電容量に対して30%であるとき、第2リチウム複合酸化物の割合は、その充電容量が正極の全充電容量に対して30%以下となるように設定されることが好ましい。
【0059】
[正極活物質の分析方法]
正極活物質が第1および第2リチウム複合酸化物を含んでいることを確認するためには、各種の元素分析法を用いて正極活物質を分析すればよい。この元素分析法は、例えば、X線回折(XRD:x-ray diffraction )法、高周波誘導結合プラズマ(ICP:inductively coupled plasma)発光分光分析法、ラマン分光分析法またはエネルギー分散X線分光法(EDX:energy dispersive x-ray spectrometry)などである。
【0060】
なお、二次電池において充放電が行われる領域(正極と負極とが対向している領域)では、充放電により第1および第2リチウム複合酸化物の結晶構造が変化するため、X線回折法などでは充放電後において第1および第2リチウム複合酸化物の結晶構造を確認できない可能性がある。しかしながら、正極に充放電が行われない領域(未充放電領域)が存在する場合には、その領域において元素分析することが好ましい。この未充放電領域では充放電前の結晶構造が維持されているため、充放電の有無に関係せずに正極活物質の組成を分析できるからである。この「未充放電領域」は、例えば、安全性確保のために正極(正極活物質層)の端部表面に絶縁性の保護テープが貼り付けられているため、その絶縁性の保護テープの存在に起因して正極と負極との間で充放電を行うことができない領域などである。
【0061】
[正極活物質の使用条件]
この正極活物質を用いた二次電池を充放電させる場合には、初回の充電時と初回以降の充電時とにおいて充電電圧を等しくしてもよいし、初回以降の充電時よりも初回の充電時において充電電圧を高くしてもよい。後者の場合には、初回の充放電時において負極の不可逆容量を生じさせるためにリチウムリッチの第2リチウム複合酸化物が優先的かつ十分に消費されやすくなるからである。ただし、第2リチウム複合酸化物の分解反応を抑制するために、初回の充電時における充電電圧は4.6V以下であることが好ましい。
【0062】
[正極活物質の作用および効果]
この正極活物質によれば、第1リチウム複合酸化物と、式(1)に示した第2リチウム複合酸化物とを含んでいると共に、単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、第1リチウム複合酸化物よりも第2リチウム複合酸化物において大きくなっている。この場合には、正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池が充放電されると、初回の充放電時において第2リチウム複合酸化物により不可逆容量が補填されると共に、初回以降の充放電時において第1リチウム複合酸化物により高い電池容量が得られる。しかも、第2リチウム複合酸化物がM1を構成元素として含んでいるため、充放電時において酸素ガスの発生が抑制される。よって、電池容量特性およびガス放出特性に関するトレードオフの関係が打破されるため、優れた電池容量特性およびガス放出特性を得ることができる。
【0063】
<2.正極活物質の適用例>
次に、上記した正極活物質の適用例について説明する。この正極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる。
【0064】
<2−1.正極およびリチウムイオン二次電池(円筒型)>
図1および図2は、二次電池の一例である円筒型のリチウムイオン二次電池の断面構成を表しており、図2では、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大している。
【0065】
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に巻回電極体20および一対の絶縁板12,13が収納されたものである。この巻回電極体20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回されたものである。
【0066】
電池缶11は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有していると共に、例えば、鉄、アルミニウムまたはそれらの合金などにより形成されている。なお、電池缶11が鉄製である場合には、その電池缶11の表面にニッケルなどが鍍金されていてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0067】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられている。これにより、電池缶11は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。安全弁機構15および熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、その安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度上昇に応じた抵抗増加により、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面には、アスファルトが塗布されていてもよい。
【0068】
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。正極21には、アルミニウムなどの導電性材料により形成された正極リード25が接続されていると共に、負極22には、ニッケルなどの導電性材料により形成された負極リード26が接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされ、電池蓋14と電気的に接続されていると共に、負極リード26は、電池缶11に溶接などされ、それと電気的に接続されている。
【0069】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの片面または両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。正極活物質層21Bは、上記した正極活物質(第1および第2リチウム複合酸化物)を含んでおり、必要に応じて正極結着剤または正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0070】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上である。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデンまたはポリイミドなどである。
【0071】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などのいずれか1種類または2種類以上である。炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどである。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
【0072】
[負極]
負極22は、例えば、負極集電体22Aの片面または両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。
【0073】
負極集電体22Aは、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体22Aに対する負極活物質層22Bの密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理で微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中で電解法により負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法で作製された銅箔は、一般に電解銅箔と呼ばれている。
【0074】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極結着剤および正極導電剤と同様である。この負極活物質層22Bでは、例えば、充放電時において意図せずにリチウム金属が析出することを防止するために、負極材料の充電可能な容量は正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。
【0075】
負極材料は、例えば、炭素材料である。リチウムイオンの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度および優れたサイクル特性が得られるからである。また、負極導電剤としても機能するからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などである。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノールこの他、炭素材料は、約1000℃以下で熱処理された低結晶性炭素または非晶質炭素でもよい。樹脂またはフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。この他、炭素材料は、約1000℃以下で熱処理された低結晶性炭素または非晶質炭素でもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
【0076】
また、負極材料は、例えば、金属元素および半金属元素のいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料(金属系材料)である。高いエネルギー密度が得られるからである。この金属系材料は、金属元素または半金属元素の単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に含むものでもよい。なお、本発明における合金には、2種類以上の金属元素からなる材料に加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。また、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種類以上の共存物などがある。
【0077】
上記した金属元素または半金属元素は、例えば、リチウムと合金を形成可能な金属元素または半金属元素であり、具体的には、以下の元素の1種類または2種類以上である。マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム(Ge)、スズまたは鉛(Pb)である。ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウムイットリウム、パラジウム(Pd)または白金(Pt)である。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方が好ましい。リチウムイオンを吸蔵放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0078】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料は、ケイ素またはスズの単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に含むものでもよい。なお、単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0079】
ケイ素の合金は、例えば、ケイ素以外の構成元素として以下の元素の1種類または2種類以上を含む材料である。スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムである。ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として酸素または炭素を含む材料が挙げられる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0080】
ケイ素の合金または化合物は、例えば、以下の材料などである。SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 またはTaSi2 である。VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)またはLiSiOである。なお、SiOv におけるvは、0.2<v<1.4でもよい。
【0081】
スズの合金は、例えば、スズ以外の構成元素として以下の元素の1種類または2種類以上を含む材料などである。ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムである。スズの化合物としては、例えば、酸素または炭素を構成元素として含む材料などが挙げられる。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素としてスズの合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。スズの合金または化合物としては、例えば、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOまたはMg2 Snなどが挙げられる。
【0082】
また、スズを含む材料としては、例えば、スズを第1構成元素とし、それに加えて第2および第3構成元素を含む材料が好ましい。第2構成元素は、例えば、以下の元素の1種類または2種類以上である。コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウムまたはジルコニウムである。ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル、タングステン(W)、ビスマスまたはケイ素である。第3構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンの1種類または2種類以上である。第2および第3構成元素を含むと、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
【0083】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を含む材料(SnCoC含有材料)が好ましい。SnCoC含有材料の組成としては、例えば、炭素の含有量が9.9質量%〜29.7質量%であり、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%〜70質量%である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0084】
このSnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であり、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムイオンがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液との反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を含んでいる場合もある。
【0085】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断できる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後で回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記した各構成元素を有しており、主に、炭素の存在に起因して低結晶化または非晶質化しているものと考えられる。
【0086】
SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。スズなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態については、例えば、X線光電子分光法(XPS:x-ray photoelectron spectroscopy)で確認できる。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。炭素の少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、炭素の1s軌道(C1s)の合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形が表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られるため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析して、両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0087】
なお、SnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。このような他の構成元素としては、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムおよびビスマスの1種類または2種類以上が挙げられる。
【0088】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成は、以下の通りである。炭素の含有量は9.9質量%〜29.7質量%であり、鉄の含有量は0.3質量%〜5.9質量%であり、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は30質量%〜70質量%である。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成は、以下の通りである。炭素の含有量は11.9質量%〜29.7質量%である。また、スズ、コバルトおよび鉄の含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))は26.4質量%〜48.5質量%であり、コバルトおよび鉄の含有量の割合(Co/(Co+Fe))は9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0089】
また、他の負極材料は、例えば、金属酸化物または高分子化合物などである。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0090】
負極活物質層22Bは、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法または焼成法(焼結法)、あるいはそれらの2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、有機溶剤などの溶媒に分散させて塗布する方法である。気相法としては、例えば、物理堆積法または化学堆積法などが挙げられる。具体的には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition )法またはプラズマ化学気相成長法などである。液相法としては、例えば、電解鍍金法または無電解鍍金法などが挙げられる。溶射法とは、負極活物質を溶融状態または半溶融状態で吹き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順で塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法については、公知の手法を用いることができる。一例としては、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0091】
なお、負極活物質層22Bの空隙率(体積%)は、特に限定されないが、中でも、30%以下であることが好ましい。負極活物質層22Bの表面積が十分に小さく抑えられ、充電時において正極21から発生した酸素ガスによる負極活物質層22Bの酸化および電解液の分解が抑制されるため、電池容量が低下しにくくなるからである。この空隙率は、負極活物質層22Bの圧縮成型時におけるプレス圧に応じて決定される。また、空隙率は、負極活物質層の厚さおよび重さと、その負極活物質層に含まれる各材料の真密度とに基づいて算出される。
【0092】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23には、液状の電解質(電解液)である電解液が含浸されている。セパレータ23は、例えば、合成樹脂またはセラミックからなる多孔質膜などにより構成されており、それらの2種類以上の多孔質膜が積層されたものでもよい。合成樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどである。
【0093】
[電解液]
電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0094】
溶媒は、例えば、以下で説明する非水溶媒(有機溶媒)のいずれか1種類または2種類以上である。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタンまたはテトラヒドロフランである。2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサンまたは1,4−ジオキサンである。酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルまたはトリメチル酢酸エチルである。アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノンまたはN−メチルオキサゾリジノンである。N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルまたはジメチルスルホキシドである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0095】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0096】
特に、溶媒は、1または2以上の不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル(不飽和炭素結合環状炭酸エステル)でもよい。充放電時において負極22表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレンなどである。なお、非水溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%以上10重量%以下である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0097】
また、溶媒は、1または2以上のハロゲン基を有する鎖状炭酸エステル(ハロゲン化鎖状炭酸エステル)、および1または2以上のハロゲン基を有する環状炭酸エステル(ハロゲン化環状炭酸エステル)のうちの少なくとも1種でもよい。充放電時において負極22表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン基の種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素基、塩素基または臭素基が好ましく、フッ素基がより好ましい。高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲン基の数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。なお、非水溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%以上50重量%以下である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0098】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)でもよい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。なお、非水溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0099】
さらに、溶媒は、酸無水物でもよい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。酸無水物は、例えば、例えば、ジカルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。ジカルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。なお、非水溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0100】
[電解質塩]
電解質塩は、例えば、以下で説明するリチウム塩のいずれか1種類または2種類以上である。ただし、電解質塩は、リチウム塩以外の他の塩(例えばリチウム塩以外の軽金属塩)でもよい。
【0101】
リチウム塩は、例えば、以下の化合物などである。六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )または六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )である。テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 5 4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )またはテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )である。六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)または臭化リチウム(LiBr)である。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0102】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0103】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0104】
なお、電解液は、溶媒および電解質塩と共に、各種の添加剤を含んでいてもよい。この添加剤の種類は、特に限定されないが、例えば、ヘテロポリ酸またはその化合物(以下、「ヘテロポリ酸等」という。)である。ヘテロポリ酸等は、酸素ガスを吸収する性質を有するため、充放電時において、酸素ガスの発生量がより減少するからである。ヘテロポリ酸等は、例えば、ケイタングステン酸(H4 [SiW1240]・nH2 O:n≒30)などである。ただし、ヘテロポリ酸等の添加剤は、正極21、負極22および電解液のうちの少なくとも1つに含有されていればよい。
【0105】
[二次電池の動作]
この二次電池では、例えば、充電時において、正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵される。また、例えば、放電時において、負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0106】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0107】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質(第1および第2リチウム複合酸化物)と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤などに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて、正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0108】
次に、上記した正極21と同様の手順により、負極22を作製する。この場合には、負極活物質と、必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとを混合した負極合剤を有機溶剤などに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層22Bを形成したのち、必要に応じて負極活物質層22Bを圧縮成型する。
【0109】
なお、正極21とは異なる手順により、負極22を作製してもよい。この場合には、例えば、蒸着法などの気相法を用いて負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させて、負極活物質層22Bを形成する。
【0110】
最後に、正極21および負極22を用いて二次電池を組み立てる。最初に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納する。この場合には、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接などして取り付けると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接などして取り付ける。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をかしめる。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0111】
[二次電池の作用および効果]
この円筒型のリチウムイオン二次電池によれば、正極21の正極活物質層21Bが上記した正極活物質(第1および第2リチウム複合酸化物)を含んでいるので、高い電池容量が安定して得られると共に、酸素ガスの発生が抑制される。よって、優れた電池容量特性およびガス放出特性を得ることができる。
【0112】
特に、負極22の負極活物質として不可逆容量が大きくなる材料を用いた場合において、より高い効果を得ることができる。このような材料としては、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料(特に、酸化ケイ素(SiOx :0.2<x<1.4))や、炭素材料(低結晶性炭素または非晶質炭素)などが挙げられる。
【0113】
<2−2.正極およびリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)>
図3は、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池の分解斜視構成を表しており、図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面を拡大して示している。以下では、既に説明した円筒型のリチウムイオン二次電池の構成要素を随時引用する。
【0114】
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、主に、フィルム状の外装部材40の内部に巻回電極体30が収納されたものである。この巻回電極体30は、セパレータ35および電解質層36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものである。正極33には正極リード31が取り付けられていると共に、負極34には負極リード32が取り付けられている。この巻回電極体30の最外周部は、保護テープ37により保護されている。
【0115】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0116】
外装部材40は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体30と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、または接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、アルミニウム箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0117】
中でも、外装部材40としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材40は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルム、または金属フィルムでもよい。
【0118】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料により形成されている。このような材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
【0119】
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34Aおよび負極活物質層34Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、セパレータ35の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
【0120】
電解質層36は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層36は、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
【0121】
高分子化合物は、例えば、以下の高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上である。ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサンまたはポリフッ化ビニルである。ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンまたはポリカーボネートである。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体である。中でも、ポリフッ化ビニリデン、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0122】
電解液の組成は、円筒型について説明した電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層36において、電解液の非水溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0123】
なお、ゲル状の電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0124】
[リチウムイオン二次電池の動作]
この二次電池では、例えば、充電時において、正極33から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して負極34に吸蔵される。また、例えば、放電時において、負極34から放出されたリチウムイオンが電解質層36を介して正極53に吸蔵される。
【0125】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0126】
第1手順では、最初に、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極33および負極34を作製する。この場合には、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などの溶媒とを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極33および負極34に塗布してゲル状の電解質層36を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を溶接などして取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層および巻回させて巻回電極体30を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を接着させる。最後に、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、外装部材40の外周縁部同士を熱融着などして接着させて、その外装部材40に巻回電極体30を封入する。この場合には、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム41を挿入する。
【0127】
第2手順では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33および負極34を積層および巻回させて巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ37を接着させる。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などして接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などして密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質層36を形成する。
【0128】
第3手順では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体または多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、またはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種類または2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、熱融着法などで外装部材40の開口部を密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層36が形成される。
【0129】
この第3手順では、第1手順よりも電池膨れが抑制される。また、第3手順では、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは溶媒などが電解質層36中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質層36との間において十分な密着性が得られる。
【0130】
[リチウムイオン二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池によれば、正極33の正極活物質層33Bが上記した正極活物質(第1および第2リチウム複合酸化物)を含んでいるので、優れた容量特性およびガス放出特性を得ることができる。これ以外の作用および効果は、円筒型と同様である。
【0131】
<3.リチウムイオン二次電池の用途>
次に、上記したリチウムイオン二次電池の適用例について説明する。
【0132】
この二次電池の用途は、それを駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置またはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。二次電池が電源として用いられる場合、それは主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。この主電源の種類は、二次電池に限られない。
【0133】
二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノートパソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビまたは携帯用情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)などの携帯用電子機器である。電気シェーバなどの生活用電気器具である。バックアップ電源またはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルまたは電動のこぎりなどの電動工具である。ペースメーカーまたは補聴器などの医療用電子機器である。電動車両(ハイブリッド自動車を含む)である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。
【0134】
中でも、二次電池は、電動工具、電動車両または電力貯蔵システムなどに適用されることが有効である。二次電池について優れた特性が要求されるため、本発明の二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動するものである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)するものであり、上記したように、二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されており、その二次電池に貯蔵された電力が必要に応じて消費されることにより、家庭用電気製品などの各種機器が使用可能になる。
【実施例】
【0135】
本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0136】
(実験例1−1〜1−17)
[正極活物質の合成]
以下の手順により、正極活物質である第1および第2リチウム複合酸化物を得た。
【0137】
まず、表1に示した第1リチウム複合酸化物を合成した。この場合には、原料である炭酸リチウム(Li2 CO3 )および炭酸コバルト(CoCO3 )の粉末をLi:Co=1:1のモル比となるように混合したのち、大気中で900℃×5時間焼成して、LiCoO2 を得た。
【0138】
この他、さらに原料として酸化ニッケル(NiO)および酸化アルミニウム(Al2 3 )の粉末を用いて、表1に示したモル比となるように混合したことを除いて同様の手順により、LiNi0.8 Co0.18Al0.022 を合成した。
【0139】
次に、表1に示した第2リチウム複合酸化物を合成した。この場合には、原料である酸化リチウム(Li2 O)、酸化ニッケル(NiO)および酸化アルミニウム(Al2 3 )のそれぞれの粉末をLi:Ni:Al =2:0.95:0.05のモル比となるように混合したのち、ボールミルを用いて粉砕した。続いて、粉砕後の混合粉末を加圧整形してペレット化し、窒素雰囲気中において表2に示した焼成温度で20時間焼成したのち、解粉した。
【0140】
解粉後の粉末について、XRD法を用いて結晶構造を分析したところ、第2リチウム複合酸化物のベース材料であるLi2 NiO2 に帰属する結晶ピークが検出された。また、ICP発光分光分析法を用いて同粉末の組成を分析したところ、原子比がNi:Al=0.95:0.05であることが確認された。
【0141】
この他、モル比を変更したことを除いて同様の手順により、Li2 Ni0.99Al0.012 またはLi2 Ni0.85Al0.152 を合成した。また、原料として酸化ケイ素(SiO2 )、酸化銅(CuO)、酸化鉄(Fe2 3 )、酸化亜鉛(ZnO)、炭酸マンガン(MnCO3 )、酸化チタン(TiO2 )および酸化コバルト(CoO)のうちの1種類または2種類以上を表1に示したモル比となるように混合すると共に、必要に応じて焼成温度を変更したことを除いて同様の手順によりリ、Li2 Ni0.95Si0.052 等も合成した。これらの場合においても、XRD法を用いてLi2 NiO2 に帰属する結晶ピークを検出したと共に、ICP発光分光分析法を用いて原子比を確認した。
【0142】
正極活物質(第1および第2リチウム複合酸化物)およびそれを用いたリチウムイオン二次電池の諸特性を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。
【0143】
[単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)の算出]
単位体積当たりの充電容量を求めるために、図5に示したコイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。この二次電池は、正極活物質を用いた試験極51を外装缶52に収容すると共に、対極53を外装カップ54に貼り付けたのち、電解液が含浸されたセパレータ55を介して外装缶52と外装カップ55とを積層させてからガスケット56を介してかしめたものである。
【0144】
試験極51を作製する場合には、正極活物質(第1リチウム複合酸化物)96質量部と、正極結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)3質量部と、正極導電剤であるカーボンブラック1質量部とを混合したのち、分量外のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と共に混練して正極合剤スラリーとした。続いて、正極集電体(アルミニウム箔:厚さ=15μm)の両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層を形成した。続いて、プレス機を用いて正極活物質層を圧縮成型したのち、ペレット状(直径=15mm)に打ち抜いた。対極53としては、リチウム金属板(直径=16m)を用いた。電解液を調製する場合には、溶媒である炭酸エチレン(EC)および炭酸ジメチル(DMC)を混合したのち、電解質塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させた。この場合には、溶媒の組成(質量比)をEC:DMC=50:50、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/dm3 (=1mol/l)とした。
【0145】
この二次電池を用いて、0.2mA/cm2 の電流密度に相当する電流で電池電圧が4.35Vに到達するまで定電流定電圧充電したのち、電流が設計容量の5%に絞られた時点で充電終了として、充電容量(mAh)を測定した。続いて、第1リチウム複合酸化物の重量(g)に基づいて、単位重量当たりの充電容量(mAh/g)=充電容量(mAh)/重量(g)を算出した。最後に、ガス置換法を用いて測定された第1リチウム複合酸化物の真密度(g/cm3 )に基づいて、単位体積当たりの充電容量(mAh/cm3 )=単位重量当たりの充電容量(mAh/g)×真密度(g/cm3 )を算出した。
【0146】
なお、第2リチウム複合酸化物についても、同様の手順により、単位体積当たりの充電容量を算出した。
【0147】
[放電容量の算出]
放電容量を求めるために、上記した正極活物質を用いて、他のコイン型のリチウムイオン二次電池(電極面積=1.77cm2 )を作製した。
【0148】
試験極51を作製する場合には、最初に、正極活物質(第1および第2リチウム複合酸化物:メジアン径=10μm)96質量部と、正極結着剤であるPVDF3質量部と、正極導電剤であるカーボンブラック1質量部とを混合したのち、分量外のNMPと共に混練して正極合剤スラリーとした。第1および第2リチウム複合酸化物の混合比は、表1に示した通りである。続いて、バーコータ(ギャップ=150μm)を用いて正極集電体(アルミニウム箔:厚さ=15μm)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、100℃で乾燥させて正極活物質層を形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層を圧縮成型した。
【0149】
対極53を作製する場合には、最初に、負極活物質であるケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO)またはスズ(Sn)(いずれもメジアン系=7μm)と、ポリイミドの20重量%NMP溶液とを7:2の重量比で混合して、負極合剤スラリーとした。続いて、バーコータ(ギャップ=150μm)を用いて負極集電体(銅箔:15μm厚)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、80℃で乾燥させて負極活物質層を形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層を圧縮成型したのち、700℃×3時間焼成した。この場合には、プレス圧を調整して、負極活物質層中における空隙の割合(体積%)を30%とした。この空隙の割合は、焼成後における負極活物質層の厚さおよび重さを測定したのち、その負極活物質層に含まれる各材料の真密度に基づいて算出された。
【0150】
続いて、試験極51を外装缶52に収容すると共に、対極53を外装カップ54に貼り付けたのち、電解液が含浸されたセパレータ55を介して外装缶52および外装カップ54を積層させると共に、ガスケット56を介して外装缶52および外装カップ54をかしめた。セパレータ55としては、多孔質ポリプロピレンフィルム(厚さ=25μm)を用いた。電解液を調製する場合には、溶媒である4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)および炭酸ジメチル(DMC)を混合したのち、電解質塩であるLiPF6 を溶解させた。この場合には、溶媒の組成(質量比)をFEC:DMC=50:50、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/dm3 (=1mol/l)とした。なお、必要に応じて、電解液中に添加剤であるケイタングステン酸を3重量%加えた。
【0151】
放電容量を測定する場合には、コイン型の二次電池を2組準備した。1つ目の二次電池を用いて、0.2mA/cm2 の電流密度に相当する電流で電池電圧が4.4Vに到達するまで定電流定電圧充電したのち、電流が設計容量の5%に絞られた時点で充電終了とした。この際、二次電池を解体して試験極51および対極53を取り出したのち、段差計を用いて正極活物質層および負極活物質層の厚さを測定して、充電後における正極活物質層および負極活物質層の総体積(cm3 )を算出した。一方、2つ目の二次電池を用いて、同様の条件で充電したのち、0.2mA/cm2 の電流密度に相当する電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電して、放電容量(mAh)を測定した。最後に、正極活物質層および負極活物質層の総体積当たりの放電容量(mAh/cm3 )=放電容量(mAh)/総体積(cm3 )を算出した。
【0152】
[ガス発生量の算出]
ガス発生量を調べるために、上記した正極活物質を用いて、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製した。この場合には、単位体積当たりの充電容量を算出するために作製した試験極51を矩形状(5cm×5cm)に加工して正極とすると共に、リチウム金属が片面に蒸着された銅箔を試験極51と同サイズに加工して負極とした。続いて、単位体積当たりの充電容量を算出するために調製した電解液が含浸されたセパレータを介して正極および負極を積層したのち、袋状(6cm×6cm)のフィルム状外装部材(アルミラミネートフィルム)の内部に収容して封止した。
【0153】
ガス発生量を算出する場合には、まず、二次電池を用いて、0.2mA/cm2 の電流密度に相当する電流で電池電圧が4.35Vに到達するまで定電流定電圧充電した。続いて、二次電池の外観を黙視で観察して、ガス発生に起因する電池膨れが発生していると認められた場合には、気液置換法を用いてフィルム状外装部材の内部のガスを採取してガス量(cm3 )を測定した。最後に、第2リチウム複合酸化物の重量(g)に基づいて、単位重量当たりのガス発生量(cm3 /g)=ガス量(cm3 )/重量(g)を算出した。
【0154】
【表1】

【0155】
【表2】

【0156】
(実験例2−1〜2−11)
[正極活物質の合成]
比較のために、表3および表4に示したように、第1および第2リチウム複合酸化物の組成等を変更したことを除いて同様の手順により、第1および第2リチウム複合酸化物ならびにリチウムイオン二次電池の諸特性を調べた。
【0157】
【表3】

【0158】
【表4】

【0159】
正極活物質が第1リチウム複合酸化物とそれよりも単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)が大きい第2リチウム複合酸化物とを含む場合には、その条件を満たさない場合と比較して、高い放電容量が得られると共に、ガス発生量が少なく抑えられた。
【0160】
詳細には、第1リチウム複合酸化物だけを用いると、ガスは発生しないが、十分な放電容量は得られない。一方、第2リチウム複合酸化物だけを用いると、ガス発生量は少なく抑えられるが、放電容量は激減してしまう。これに対して、第1および第2リチウム複合酸化物を組み合わせると、十分な放電容量が得られるだけでなく、ガス発生量も少なく抑えられる。
【0161】
M1(アルミニウム等)が構成元素として含まれていない複合酸化物(Li2 NiO2 )を用いると、十分な放電容量は得られるが、ガス発生量は増加してしまう。これに対して、M1が構成元素として含まれている第2リチウム複合酸化物(Li2 Ni0.95Al0.052 等)を用いると、十分な放電容量が得られるだけでなく、ガス発生量が少なく抑えられる。
【0162】
銅およびM1(アルミニウム等)が構成元素として含まれている複合酸化物(Li2 Ni0.4 Cu0.55Al0.052 )を用いると、若干ながら、ガス放出量は増加する傾向にある。しかしながら、銅は構成元素として含まれているがM1は構成元素として含まれていない複合酸化物(Li2 Ni0.4 Cu0.6 2 )を用いた場合と比較すると、ガス発生量は大幅に減少する。
【0163】
主成分の遷移金属元素が銅である複合酸化物(Li2 Cu0.95Al0.052 )を用いると、ガス放出量が著しく増加する。これに対して、主成分の遷移金属元素がニッケルである複合酸化物(Li2 Ni0.95Al0.052 等)を用いると、放電容量が高くなるだけでなく、ガス放出量が大幅に減少する。このように主成分の遷移金属元素の違いに応じて異なる結果が得られる原因は、以下の通りである。ニッケルは4価になり、NiO2 という形態を取り得るため、M1(アルミニウム等)によるNiO2 の安定化という有利な作用が得られる。これに対して、銅は4価にならず、CuO2 という形態を取り得ないため、上記したM1による有利な作用が得られない。
【0164】
第2リチウム複合酸化物の単位体積当たりの充電容量は、焼成温度に応じて増減する。この場合には、焼成温度が600℃〜830℃以下であると、安定した結晶構造を有する第2リチウム複合酸化物が得られると共に、その単位体積当たりの充電容量が第1リチウム複合酸化物よりも高くなる。なお、焼成温度が600℃よりも低いと、結晶構造が不安定になるため、放電容量が著しく減少する。一方、焼成温度が830℃よりも高いと、原料の酸化物が安定化するため、十分な放電容量が得られない。
【0165】
負極活物質の種類に着目すると、ケイ素よりも酸化ケイ素を用いた場合において、放電容量が減少する傾向にある。この原因は、上記したように、初回の充放電時においてリチウムイオンの一部が酸化ケイ素中の酸素と不可逆的に結合しやすいからであると考えられる。
【0166】
この他、電解液がケイタングステン酸を含んでいると、放電容量が維持されたまま、ガス放出量がより減少した。また、負極活物質層中における空隙の割合が30%以下であると、放電容量がより高くなった。
【0167】
表1〜表4の結果から、正極活物質が第1リチウム複合酸化物とそれよりも単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)が大きい第2リチウム複合酸化物とを含んでいると、優れた電池容量特性およびガス放出特性が得られた。
【0168】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、実施形態および実施例で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の正極活物質は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とリチウム金属の析出溶解に伴う容量とを含み、それらの容量の和により表されるリチウムイオン二次電池についても、同様に適用可能である。この場合には、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0169】
また、実施形態および実施例では、電池構造が円筒型、ラミネートフィルム型またはコイン型である場合、あるいは電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、これに限られない。本発明のリチウムイオン二次電池は、角型またはボタン型などの他の電池構造を有する場合、あるいは電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても、同様に適用可能である。
【0170】
また、実施形態および実施例では、式(1)に示した第2リチウム複合酸化物の組成(a等の値)について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、組成が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であるため、本発明の効果が得られるのであれば、上記した範囲から組成が多少外れてもよい。このことは、式(2)〜(4)に示した第1リチウム複合酸化物の組成(d等の値)についても同様である。
【0171】
また、例えば、本発明の正極活物質または正極は、リチウムイオン二次電池に限らず、キャパシタなどの他のデバイスに適用されてもよい。
【符号の説明】
【0172】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解液を備え、
前記正極は、正極活物質として、第1リチウム複合酸化物と、下記の式(1)で表される第2リチウム複合酸化物とを含み、
単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、前記第1リチウム複合酸化物よりも前記第2リチウム複合酸化物において大きい、
リチウムイオン二次電池。
Li1+a (Nib M1c M21-b-c 1.5-0.5a2 ・・・(1)
(M1は長周期型周期表における13族〜15族の元素(ホウ素(B)、炭素(C)および窒素(N)を除く)のうちの少なくとも1種であり、M2は3族〜12族の元素のうちの少なくとも1種である。aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15である。)
【請求項2】
前記式(1)において、前記M1はアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、インジウム(In)およびスズ(Sn)のうちの少なくとも1種であると共に、前記M2は銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)およびモリブデン(Mo)のうちの少なくとも1種である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記第1リチウム複合酸化物は、下記の式(2)〜式(4)で表される化合物のうちの少なくとも1種である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
Lid Ni1-e-f Mne M3f 2-gh ・・・(2)
(M3は長周期型周期表における2族〜15族の元素(ニッケルおよびマンガンを除く))のうちの少なくとも1種であり、Xは16族および17族の元素(酸素(O)を除く)のうちの少なくとも1種である。dは0≦d≦1.5、eは0≦e≦1、fは0≦f≦1、gは−0.1≦g≦0.2、hは0≦h≦0.2である。)
Lij Mn2-k M4k m n ・・・(3)
(M4はコバルト、ニッケル、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素、チタン、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、スズ、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)のうちの少なくとも1種である。jはj≧0.9、kは0≦k≦0.6、mは3.7≦m≦4.1、nは0≦n≦0.1である。)
Lip M5q PO4 ・・・(4)
(M5は長周期型周期表における2族〜15族の元素のうちの少なくとも1種である。pは0≦p≦2、qは0.5≦q≦2である。)
【請求項4】
前記式(2)において、前記M3はコバルト、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、銅、亜鉛、ジルコニウム(Zr)、モリブデン、スズ、カルシウム、ストロンチウムおよびタングステンのうちの少なくとも1種であると共に、
前記式(4)において、前記M5はコバルト、マンガン、鉄、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、ニオブ(Nb)、銅、亜鉛、モリブデン、カルシウム、ストロンチウム、タングステンおよびジルコニウムのうちの少なくとも1種である、
請求項3記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
初回の充放電時において前記負極で生じる不可逆容量がその負極の全充電容量(対正極)に対してZ%であるとき、前記第1および第2リチウム複合酸化物における前記第2リチウム複合酸化物の割合は、その第2リチウム複合酸化物の充電容量(対負極)が前記正極の全充電容量に対してZ%以下となるように設定されている、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極は、負極活物質として、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有する、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記負極活物質は酸化ケイ素(SiOx :0.2<x<1.4)である、請求項6記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
第1リチウム複合酸化物と、下記の式(1)で表される第2リチウム複合酸化物とを含み、
単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、前記第1リチウム複合酸化物よりも前記第2リチウム複合酸化物において大きい、
正極活物質。
Li1+a (Nib M1c M21-bc 1.5-0.5a2 ・・・(1)
(M1は長周期型周期表における13族〜15族の元素(ホウ素、炭素および窒素を除く)のうちの少なくとも1種であり、M2は3族〜12族の元素のうちの少なくとも1種である。aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15である。)
【請求項9】
正極活物質として、第1リチウム複合酸化物と、下記の式(1)で表される第2リチウム複合酸化物とを含み、
単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、前記第1リチウム複合酸化物よりも前記第2リチウム複合酸化物において大きい、
正極。
Li1+a (Nib M1c M21-bc 1.5-0.5a2 ・・・(1)
(M1は長周期型周期表における13族〜15族の元素(ホウ素、炭素および窒素を除く)のうちの少なくとも1種であり、M2は3族〜12族の元素のうちの少なくとも1種である。aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15である。)
【請求項10】
正極および負極と共に電解液を備えたリチウムイオン二次電池を電源として可動し、
前記正極は、正極活物質として、第1リチウム複合酸化物と、下記の式(1)で表される第2リチウム複合酸化物とを含み、
単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、前記第1リチウム複合酸化物よりも前記第2リチウム複合酸化物において大きい、
電動工具。
Li1+a (Nib M1c M21-bc 1.5-0.5a2 ・・・(1)
(M1は長周期型周期表における13族〜15族の元素(ホウ素、炭素および窒素を除く)のうちの少なくとも1種であり、M2は3族〜12族の元素のうちの少なくとも1種である。aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15である。)
【請求項11】
正極および負極と共に電解液を備えたリチウムイオン二次電池を電源として作動し、
前記正極は、正極活物質として、第1リチウム複合酸化物と、下記の式(1)で表される第2リチウム複合酸化物とを含み、
単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、前記第1リチウム複合酸化物よりも前記第2リチウム複合酸化物において大きい、
電動車両。
Li1+a (Nib M1c M21-bc 1.5-0.5a2 ・・・(1)
(M1は長周期型周期表における13族〜15族の元素(ホウ素、炭素および窒素を除く)のうちの少なくとも1種であり、M2は3族〜12族の元素のうちの少なくとも1種である。aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15である。)
【請求項12】
正極および負極と共に電解液を備えたリチウムイオン二次電池を電力貯蔵源として用い、
前記正極は、正極活物質として、第1リチウム複合酸化物と、下記の式(1)で表される第2リチウム複合酸化物とを含み、
単位体積当たりの充電容量(対リチウム金属)は、前記第1リチウム複合酸化物よりも前記第2リチウム複合酸化物において大きい、
電力貯蔵システム。
Li1+a (Nib M1c M21-bc 1.5-0.5a2 ・・・(1)
(M1は長周期型周期表における13族〜15族の元素(ホウ素、炭素および窒素を除く)のうちの少なくとも1種であり、M2は3族〜12族の元素のうちの少なくとも1種である。aは0.95≦a≦1.05、bは0<b≦0.99、cは0<c≦0.15である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−142156(P2012−142156A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293269(P2010−293269)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】