説明

リチウムイオン二次電池、該電池を備える車両および電子機器

【課題】小型で電気化学特性の良好なリチウムイオン二次電池およびこれを有する各種機器を提供する。
【解決手段】負極活物質層12は負極活物質材料としてのLi4Ti512を含み、正極活物質層14は正極活物質材料としてのLiCoO2を含む。また、固体電解質層13は電解質材料としてのポリエチレンオキサイドとポリスチレンとを含む。負極集電体11の表面から見て、負極活物質層12を構成するライン状パターン121の表面の勾配が90度よりも小さい。このような構成で、30℃において2.35Vの起電力、負極活物質層14が0.3Cレート充放電で60〜80mAh/gの容量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、正負両極の活物質の間に電解質層を介在させてなるリチウムイオン二次電池およびこれを備える車両ならびに電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正負両極の活物質の間に電解質層を積層してなる構造を有するリチウムイオン二次電池としては、正極活物質および負極活物質をそれぞれ付着させた集電体としての金属箔をセパレータを介して重ね合わせ、セパレータに電解液を含浸させたものが従来より知られている。この種の電池の技術分野においては、さらなる小型化・大出力化が求められており、このような要求に応えるべく種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、正極活物質層と電解質層との接触面および電解質層と負極活物質層との接触面が立体的な凹凸構造となるように、集電体となる金属箔上にインクジェット法により各機能層を積層形成する技術が開示されている。また、特許文献2には、二次電池用電極として、集電体上方に配置したメッシュを介した真空蒸着法やスパッタリング法によって集電体表面に柱状の活物質薄膜を堆積させた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−116248号公報(例えば、段落0029)
【特許文献2】特開2002−279974号公報(例えば、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1および2は、立体的な構造を有する電池を製造しうる可能性を開示するものの、所望の構造の電池を製造するための工程が複雑である。また、製造された電池の化学電池としての特性(電気化学特性)については詳しく記載されていない。このように、電気化学特性が良好でしかも優れた生産性で製造可能となるような電池の具体的な構造およびその製造方法については、これまで実用化されるに至っていない。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、小型で電気化学特性の良好であり、しかも優れた生産性で製造することのできるリチウムイオン二次電池およびこれを有する各種機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかるリチウムイオン二次電池は、上記目的を達成するため、負極集電体層、活物質材料としてのLi4Ti512を含む負極活物質層、ポリエチレンオキサイドおよびポリスチレンを含む固体電解質層、活物質材料としてのLiCoO2を含む正極活物質層、および正極集電体層をこの順番に積層した構造を有し、前記負極活物質層は、前記負極集電体層表面に互いに離隔した島状部位を複数配してなる島状構造を有し、30℃の周囲環境において、2.35Vの起電力を有するとともに、前記負極活物質層が0.3Cレートでの充放電の際に60mAh/gないし80mAh/gの容量を有することを特徴としている。
【0008】
詳しくは後述するが、本願出願者らが得た新たな知見によると、上記のような組成および構造を有するリチウムイオン二次電池は、比較的少ない製造工程で製造可能であり、また小型・薄型でありながら電気化学特性も良好である。具体的には、この発明にかかるリチウムイオン二次電池は高容量および良好な充放電特性を有している。
【0009】
この発明においては、例えば、島状部位と負極集電体層との接触点において負極活物質層に引いた接線と負極集電体層表面とがなす角のうち負極活物質層を含む側の角が90度よりも小さくなるようにしてもよい。この点についても後に詳述するが、このような構造とすることで、特に充放電特性の良好な電池とすることができる。
【0010】
また、例えば、島状部位と負極集電体層との接触点において、負極集電体層と電解質層とが接触しているように構成されてもよい。このような構成では、接触点近傍において非常に薄い負極活物質層を挟んで負極集電体と電解質層とが対向しており、特に充放電特性が良好である。
【0011】
また、例えば、島状部位は、負極集電体層表面に沿って所定の方向に延びるライン状パターンを有するように構成されてもよい。このような構成によれば、厚みおよび表面積が大きく、かつ負極集電体層との接触点近傍領域の面積も大きな負極活物質層とすることができる。また、このようなパターンは例えば負極活物質層の材料を含む塗布液を負極集電体表面にライン状に塗布することによって形成可能であり、製造コストを低く抑えることができる。
【0012】
例えば、ライン状パターンの延設方向に直交する断面におけるライン状パターンの断面形状は、負極集電体層と接触する部分の幅が20μmないし300μm、高さが10μmないし300μmであり、幅に対する高さの比が0.5以上であるように構成されてもよい。本願発明者らの実験によれば、このような寸法に負極活物質層を形成したとき、電池としての性能が特に良好なものとなった。
【0013】
また、例えば、複数のライン状パターンのそれぞれでは、負極集電体層と接触する部分を除く表面が滑らかな曲面であってもよい。固体電解質からなる電解質層を有するリチウムイオン二次電池は、主に有機溶媒からなる電解液を使用しないため取り扱いが容易である。この場合において負極活物質層のライン状パターンの表面が滑らかな曲面であると、固体電解質層と負極活物質層との密着性が高くなり、電池としての性能を安定したものとすることができる。
【0014】
なお、この発明において、負極活物質層は、負極集電体層の表面上で複数の島状部位が互いに完全に離隔した構造に限定されるものではなく、複数の島状部位同士が接続部位によって部分的に接続された構造であってもよい。
【0015】
上記のような構造を有するリチウムイオン二次電池は種々の応用分野が考えられるが、例えば電気自動車のような各種車両の電源として、またこのリチウムイオン二次電池を電源として動作する電子回路部を備えた各種の電子機器に適用することが可能である。より具体的には、薄型で高性能の電源を構成することができることから、例えばICカードのように、電池と電子回路部とを収容するカード型の筐体を備える電子機器に特に好適に適用することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかるリチウムイオン二次電池は、負極活物質としてLi4Ti512、正極活物質としてLiCoO2、固体電解質としてポリエチレンオキサイドとポリスチレンとをそれぞれ含む材料を用いるとともに、30℃での起電力として2.35V、負極活物質層の容量が0.3Cレートでの充放電で60mAh/gないし80mAh/gという物性値を有する。これにより、小型で電気化学特性が良好で、生産性にも優れたリチウムイオン二次電池およびこれを備えた各種の機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】リチウムイオン二次電池の概略構造を示す図である。
【図2】図1の電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】ノズルスキャン法による材料塗布の様子を模式的に示す図である。
【図4】負極活物質層の断面形状を示す拡大断面図である。
【図5】本実施形態の電池の特性の実測データを示す第1のグラフである。
【図6】本実施形態の電池の特性の実測データを示す第2のグラフである。
【図7】図4の構造と従来の電池モジュールの構造との差異を模式的に示す図である。
【図8】負極活物質層の他のパターンの例を示す図である。
【図9】本発明にかかる電池を搭載した電気自動車を模式的に示す図である。
【図10】本発明にかかる電池を搭載したICカードを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1はリチウムイオン二次電池の概略構造を示す図である。より詳しくは、図1(a)は本発明の一実施形態としてのリチウムイオン二次電池モジュールの断面構造を示す図であり、図1(b)はその概観斜視図である。このリチウムイオン二次電池モジュール1は、負極集電体11の上に負極活物質層12、固体電解質層13、正極活物質層14および正極集電体15を順番に積層した構造を有している。この明細書では、X、YおよびZ座標方向をそれぞれ図1(a)に示すように定義する。
【0019】
図1(b)に示すように、負極活物質層12はY方向に沿って延びるライン状のパターン121がX方向に一定間隔を空けて多数並んだ、ラインアンドスペース構造(ストライプ構造)となっている。また固体電解質層13は固体電解質によって形成されており、その下面が負極活物質層12の凹凸に対応する凹凸形状となっている一方、上面は略平坦となっている。
【0020】
そして、このように略平坦に形成された固体電解質層13に正極活物質層14および正極集電体15が積層されて、リチウムイオン二次電池モジュール1が形成される。このリチウムイオン二次電池モジュール1に適宜タブ電極が設けられたり、複数のモジュールが積層されてリチウムイオン電池が構成される。
【0021】
ここで、各層を構成する材料としては、負極集電体11、正極集電体15として例えば銅箔、アルミニウム箔をそれぞれ用いることができる。また、正極活物質としては例えばLiCoO2(LCO)を主体とするものを、負極活物質としては例えばLi4Ti512(LTO)を主体としたものをそれぞれ用いることができる。また、固体電解質層13としては、例えばポリエチレンオキサイドおよびポリスチレンを用いることができる。
【0022】
このような構成(組成および構造)を有するリチウムイオン二次電池モジュール1は、薄型で折り曲げ容易である。また、負極活物質層12を図示したような凹凸を有する立体的構造として、その体積に対する表面積を大きくしているので、薄い固体電解質層13を介した正極活物質層14との対向表面積を大きく取ることができ、高効率・高出力が得られる。このように、上記構造を有するリチウムイオン電池は小型で高性能を得ることができるものである。
【0023】
次に、上記したリチウムイオン二次電池モジュール1を製造する方法について説明する。従来、この種のモジュールは各機能層に対応する薄膜材料を積層することによって形成されてきたが、この製造方法ではモジュールの高密度化に限界がある。また、前記した特許文献1に記載の製造方法では、工程が多く製造に時間がかかり、また各機能層間の分離が難しい。これに対し、以下に説明する製造方法では、少ない工程で、また既存の処理装置を用いて、上記のような構造のリチウムイオン電池モジュール1を製造することが可能である。
【0024】
図2は図1の電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。この製造方法では、まず負極集電体11となる金属箔、例えば銅箔を準備する(ステップS101)。薄い銅箔は搬送や取り扱いが難しいので、例えば片面をガラス板等のキャリアに貼り付ける等により搬送性を高めておくことが好ましい。
【0025】
続いて、銅箔の一方面に、負極活物質を含む塗布液をノズルディスペンス法、中でも塗布液を吐出するノズルを塗布対象面に対し相対移動させるノズルスキャン法により塗布する(ステップS102)。塗布液としては、例えば、前記した負極活物質を含む有機系LTO材料を用いることができる。塗布液には、負極活物質の他に、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)またはケッチェンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。なお、後述する実施例の試作に用いた塗布液では、LTO:AB:PVDFの組成比をおよそ8:1:1とした。
【0026】
図3はノズルスキャン法による材料塗布の様子を模式的に示す図である。より詳しくは、図3(a)はノズルスキャン法による塗布の様子をX方向から見た図、図3(b)および図3(c)は同じ様子をそれぞれY方向、斜め上方から見た図である。ノズルスキャン法によって塗布液を基材に塗布する技術は公知であり、本方法においてもそのような公知技術を適用することが可能であるので、装置構成については説明を省略する。
【0027】
ノズルスキャン法では、上記有機系LTO材料を塗布液として吐出するための吐出口311を1つまたは複数穿設されたノズル31を銅箔11の上方に配置し、吐出口311から一定量の塗布液32を吐出させながら、ノズル31を銅箔11に対し相対的に矢印方向Dnに一定速度で走査移動させる。こうすることで、銅箔11上には塗布液32がY方向に沿ったライン状に塗布される。ノズル31に複数の吐出口311を設けることで1回の走査移動で複数のストライプを形成することができ、必要に応じて走査移動を繰り返すことで、銅箔11の全面にライン状に塗布液を塗布することができる。これを乾燥硬化させることで、銅箔11の上面に負極活物質によるライン状パターン121が形成される。また、塗布液に光硬化性樹脂を添加し塗布後に光照射して硬化させるようにしてもよい。
【0028】
この時点では、略平坦な銅箔11の表面に対して負極活物質層12を部分的に盛り上げた状態となっており、単に上面が平坦となるように塗布液を塗布する場合に比べて、活物質の使用量に対する表面積を大きくすることができるので、後に形成される正極活物質との対向面積を大きくして高出力を得ることができる。
【0029】
図2のフローチャートの説明を続ける。こうして形成された、銅箔11に負極活物質層12を積層してなる積層体の上面に対し、適宜の塗布方法、例えばナイフコート法やバーコート法により電解質塗布液を塗布する(ステップS103)。電解質塗布液としては、前記した高分子電解質材料、例えばポリエチレンオキサイド、ポリスチレンなどの樹脂、支持塩としての例えばLiPF6および溶剤としての例えばジエチレンカーボネートなどを混合したものを用いることができる。ここでの塗布方法としては上記に限定されないが、塗布後の表面を略平坦にすることのできる方法であることが好ましい。
【0030】
続いて正極活物質層14および正極集電体としてのアルミニウム箔15を積層する。ここではその一例を説明する。まず、正極集電体としてのアルミニウム箔15に予め正極活物質を含む塗布液を塗布して略一様な正極活物質層14をアルミニウム箔15の表面に形成しておく。正極活物質を含む塗布液としては、例えば、前記した正極活物質と、導電助剤としての例えばアセチレンブラック、結着剤としてのSBR、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)および溶剤としての純水などを混合した水系LCO材料を用いることができる。また、塗布方法としては、上記したナイフコート法やバーコート法のほか、スピンコート法のように、平面上に平坦な膜を形成することが可能な公知の塗布方法を適宜採用することができる。
【0031】
そして、ステップS103において塗布された電解質塗布液が硬化する前に、正極活物質層14が形成されたアルミニウム箔15を貼り合わせて、正極活物質層14と電解質塗布液とを密着させる(ステップS104)。このとき、より密着性を高めるために、アルミニウム箔15表面の正極活物質層14にも電解質塗布液を塗布しておいてもよい。
【0032】
こうすることで、負極集電体11、負極活物質層12、固体電解質層13、正極活物質層14および正極集電体15が順に積層されてなるリチウムイオン二次電池モジュール1が形成される。なお、上記方法以外にも、例えば、電解質塗布液の塗布後これを硬化させて固体電解質層13を形成した後に、正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層14を形成し、さらに正極集電体15を貼り合わせるようにしてもよい。
【0033】
次に、図1のリチウムイオン二次電池モジュール1における負極活物質層の構造について、図4ないし図7を参照しながらさらに詳しく説明する。図4は負極活物質層の断面形状を示す拡大断面図である。また、図5および図6は本実施形態の電池の特性の実測データを示すグラフである。また、図7は図4の構造と従来の電池モジュールの構造との差異を模式的に示す図である。
【0034】
図1に示すように、この実施形態における負極活物質層12は、Y方向に延びる複数のライン状パターン121がX方向に互いに離隔した島状に配置された構造を有している。図4はX−Z平面で切断したライン状パターン121の断面を示しており、同図に示されるように、ライン状パターン121の表面は上(Z方向)に凸の滑らかな曲面となっている。
【0035】
本願発明者らが試作した電池モジュール1における各部の代表的な寸法は、ライン状パターン121の幅Daが約170μm、高さHaは約100μmである。また、隣接するライン状パターン121,121間の距離Sは約160μmである。また、固体電解質層13の厚さHdは約200μmである。
【0036】
また、負極集電体11からライン状パターン121が立ち上がる位置、つまり負極集電体11、負極活物質のライン状パターン121および固体電解質層13の三者が互いに接する接触点Pにおけるライン状パターン121表面の勾配、言い換えれば、接触点Pにおいてライン状パターン121に引いた接線と負極集電体層11とがなす角のうちライン状パターン121を含む側の角θは、90度よりも小さい。以下、この明細書では、この角θを「接地角」と称することとする。
【0037】
本願発明者らは、種々の実験の結果、この接地角θが90度よりも小さな値(この例では約60度)となるように形成したライン状パターン121により負極活物質層12を構成することにより、電池としての良好な特性を得ることができることを見出した。具体的には、本願発明者らは、常温(30℃)において良好な充放電特性および高容量を併せ持つ電池を製作することに初めて成功した。以下に開示する実測結果はいずれも常温(30℃)で測定されたものである。
【0038】
試作された電池モジュール1は、負極集電体11として銅箔、負極集電体12としてLi4Ti512を主体とするもの、固体電解質層13として高分子材料(ポリエチレンオキサイドおよびポリスチレン)に支持塩としてLiPF6を含有させたもの、正極活物質層14としてLiCoO2を主体とするもの、そして正極集電体層15としてアルミニウム箔をそれぞれ用いたものである。
【0039】
図5は試作した電池モジュール1において実測されたサイクリックボルタモグラムを示している。より詳しくは、図5(a)は前記した寸法を有する本実施形態の電池モジュール1での実測結果(CV曲線)を示し、図5(b)は別途用意した比較例における実測結果である。この比較例は、各機能層の組成は本実施形態と同じであるが、本実施形態のようなストライプ構造ではなく、厚さが略一様な負極活物質膜を負極集電体層表面に形成したものであり、その膜厚は約43μmである。
【0040】
具体的には、電池モジュールに印加する電圧を徐々に増加させた後次第に減少させ、その間の電流密度を測定した。印加電圧の最大値は、理論的に電池が破壊されることのない3Vとした。図5および後出の図6において、実線矢印は印加電圧を増大させたとき、つまり充電時におけるプロットであることを示す一方、破線矢印は印加電圧を低下させたとき、つまり放電時におけるプロットであることを示している。
【0041】
図5に示すサイクリックボルタモグラムでは、本実施形態の電池モジュール1と比較例とで大きな差異はない。すなわち、図5(a)に一点鎖線Aで示すように、充電時(実線矢印)のカーブの立ち上がりおよび放電時(破線矢印)のカーブの立ち下がりが、印加電圧が約2.35Vの付近でみられ、これが当該電池モジュールにおける起電力に相当している。なお、仮想線B1、B2でそれぞれ示される各電位の中間の値、すなわち半波電位の位置にカーブの立ち上がり、立ち下がりが確認できればそのときの電位を起電力としてもよいが、この結果では上記した値(2.35V)とほぼ一致している。
【0042】
得られた起電力の値2.35Vは、正極活物質(LCO)と負極活物質(LTO)との組み合わせから得られる理論上の起電力と一致しており、図5(a)より、本実施形態の電池モジュール1が理論値どおりの起電力を発生することが確認できる。
【0043】
得られた電流密度は本実施形態と比較例とでほぼ同じであったが、負極活物質(LTO)の使用量は、比較例において10.26mg/cm2であるのに対し、ストライプ構造を採る本実施形態では4.08mg/cm2と約40%程度である。したがって、負極活物質の利用効率からすると、本実施形態は比較例と比べて約2.5倍の高さを有しているということができる。このことは、同じ理論電流密度を得るために本実施形態の構造の電池ではより少ない活物質の使用量で済むことを意味している。なお、複数回繰り返して行った測定では(図5および以下の図6では、3回の測定結果をそれぞれ「1st」、「2nd」、「3rd」としている)、有意な差はみられなかった。
【0044】
図6は充放電特性を示しており、図6(a)は本実施形態における実測結果、図6(b)は上記と同じ比較例における実測結果を示している。電池に対して電流密度一定の電流を電流源から与え、電池の動作電圧の変化を測定した。電流が注入される充電時には、時間とともに動作電圧が上昇する。そして、電池の動作電圧が3Vに達すると電流の方向を反転させる。動作電圧は減少に転じるので、動作電圧が1Vに低下するまで測定を行った。充放電の容量については、放電開始から動作電圧が1Vになるまでの時間に電流密度を乗じ、これを活物質の使用量で除することによって、活物質使用量1gあたりの容量を求めた。図6(b)に示す比較例では0.1Cレートでも25mAhないし40mAh程度の容量であったのに対し、図6(a)に示す本実施形態においてはより厳しい0.3Cレートでも60mAhないし80mAh程度という高い容量が得られた。
【0045】
このように、図1に示す本実施形態のリチウムイオン電池モジュール1では、高容量と良好な充放電特性との両立が可能であることが確認された。
【0046】
なお、本願発明者らの知見によれば、電池として良好な特性が得られる各部の寸法の好ましい範囲は概ね以下の通りである。すなわち、ライン状パターン121の幅Daは20μmないし300μm、その高さHaは約10μmないし300μmであり、かつ断面のアスペクト比、つまり幅Daに対する高さHaの比が0.5以上であることが好ましい。
【0047】
本実施形態の電池が良好な特性を示した理由について、本願発明者らは以下のように考えた。図7(a)に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池モジュール1に外部直流電源Vcを接続し、正極集電体15に負極集電体11よりも高電位を与えた場合を考える。この状態は、リチウムイオン二次電池モジュール1を外部直流電源Vcによって充電する場合に相当する。このとき、正極活物質14内のリチウム原子が電子(図中「e」で示す)を放出してリチウムイオン(図中「Li」で示す)となり、固体電解質層13内を泳動して負極活物質層12(ライン状パターン121)に到達する。そして、負極集電体11を介して負極活物質層12に供給される電子と再結合する。こうして負極活物質層12にリチウム原子が貯蔵されることで、外部から見ればリチウムイオン二次電池モジュール1が充電される。
【0048】
この実施形態では、接触点Pにおける接地角θが90度よりも小さい。このため、ライン状パターン121の厚みは接触点Pで極めて小さく、特にこの実施形態では接触点Pにおいて負極集電体11と固体電解質層13とが接しているので厚みはゼロであり、接触点Pから離れるにしたがって厚みが大きくなる。したがって、接触点Pの近傍において、負極集電体11と固体電解質層13とが非常に薄い負極活物質層12を挟んで対向することになる。このため、負極活物質層12内においてリチウムイオンと電子とが再結合するために移動する距離は極めて短くて済む。反対に負極活物質層12内のリチウム原子が電子を放出する放電時においても同様である。このことが充放電特性の向上に寄与していると考えられる。一方、接触点Pから離れた領域では、負極活物質層12が十分な厚みを有しているため、多くのリチウム原子を貯蔵することができ、大容量を得ることが可能である。こうして、本実施形態のリチウムイオン二次電池モジュール1では良好な充放電特性と大容量とを両立させることが可能となっている。
【0049】
前記した従来技術の電池においても、例えば図7(b)に示すように、負極活物質層をごく薄く形成することによって良好な充放電特性を得ることは可能と考えられる。しかしながら、このような構成では使用される負極活物質の量(体積)が少ないため、貯蔵できるリチウム原子の量が限られ、高容量化は難しい。また、図7(c)に示すように、負極活物質層を厚くすれば容量を増大させることができるが、接地角θが90度あるいはそれ以上である場合、負極活物質層内でのイオンや電子の移動距離が長くなるため、充放電特性は劣ることになる。
【0050】
また、特に電解質材料を含む塗布液の塗布によって固体電解質層を形成する場合、接地角θが90度以上であれば負極集電体と負極活物質との接触点に塗布液がうまく回り込まず、接触点Pに空隙が生じるおそれがある。これに対し、本実施形態のように接地角θを90度未満とすれば、負極集電体と負極活物質との接触点に電解質材料が確実に回り込み、負極集電体、負極活物質および固体電解質を接触点Pにおいて互いに接触させることができ、上記のように特性の優れた電池を得ることができる。
【0051】
以上のように、この実施形態では、負極集電体11、負極活物質層12、固体電解質層13、正極活物質層14および正極集電体15を順番に積層してなるリチウムイオン二次電池モジュール1において、負極活物質としてLi4Ti512、固体電解質としてポリエチレンオキサイドおよびポリスチレン、正極活物質としてLiCoO2をそれぞれ主たる材料として用いる。そして、30℃の周囲環境における起電力を2.35V、負極活物質層の容量を0.3Cレートで60mAh/gないし80mAh/gの範囲としている。
【0052】
さらに、この実施形態では、負極活物質層12をライン状パターン121を複数配したストライプ構造とするとともに、負極集電体11に対するライン状パターン121の接地角θを90度よりも小さくしている。これらの構成により、この実施形態では、常温で動作し、高容量で充放電特性も良好な電池を構成することが可能となっている。
【0053】
ここで、負極活物質層12を構成するライン状パターン121は、負極活物質を含む塗布液を吐出するノズル31を基材(負極集電体11)表面に対しY方向に相対移動させることで形成されたものである。このような、いわゆるノズルスキャン法によるパターン形成では、互いに平行な多数のライン状パターンを短時間で制御性よく形成することができ、微細なパターンも形成することが可能である。そのため、電気的特性が良好で安定した電池を、優れた生産性で、しかも低い製造コストで製造することができる。
【0054】
また、ライン状パターン121の表面を鋭い角のない滑らかな曲面とすることで、負極集電体11および負極活物質層12による負極側構造体と固体電解質層13との密着度を高めることができる。これにより、例えば電池モジュールの屈曲によってこれらの界面が剥離するなどの損傷を受け難く特性の安定した電池を構成することが可能となる。これにより折り曲げ可能な電池を構成することができ、種々の形状の容器への収納も容易となる。そして、上記したノズルスキャン法による塗布は、このような断面形状を有するライン状パターン121を形成するのに特に好適な方法である。
【0055】
また、上記実施形態における負極活物質層12は、Y方向に延びるライン状パターン121をX方向に複数並べた島状構造を有するものであり、各ライン状パターン121は互いに独立して負極集電体11表面に形成されている。しかしながら、本明細書にいう「島状構造」は、各パターンの主要部が実質的に独立して存在していることを表す概念であり、各パターンが完全に独立したものだけでなく、以下に例示するようにその一部が繋がっていてもよい。
【0056】
図8は負極活物質層の他のパターンの例を示す図である。図8(a)に例示する負極活物質層122では、図1の例と同様に、複数のライン状パターン122aが負極集電体11の表面に形成されるとともに、隣接するライン状パターン122a同士が同材料による接続部位122bによって互いに接続されている。このような構造であっても、各ライン状パターン122aが図1の例におけるライン状パターン121と同様の機能を有しており、これらが実質的に島状構造をなしているということができる。
【0057】
また、図8(b)に例示する負極活物質層123では、略円形の平面形状を有するランド状パターン123aが負極集電体11の表面に複数並べて形成されており、負極活物質層はこのような構造であってもよい。さらに、複数のランド状パターン123aが同材料からなる接続部位123bによって相互に繋がっていてもよい。このような形状は、例えば本願出願人が先に開示した特開2006−138911号公報に記載されているように、ノズルディスペンス法を応用した塗布方法によって形成することが可能である。
【0058】
次に、上記のように構成される電池の用途について説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池モジュール1は、常温において高容量かつ充放電特性の良好なものであるので、以下に例示するように各種の機器への応用が考えられる。なお、以下は本実施形態の電池を応用しうる機器の態様の一部を例示するものであって、本発明にかかる電池の適用範囲がこれらに限定されるものではない。
【0059】
図9は本発明にかかる電池を搭載した機器の一例としての車両、具体的には電気自動車を模式的に示す図である。この電気自動車50は、車輪51と、該車輪51を駆動するモータ52と、該モータ52に電力を供給する電池53とを備えている。この電池53として、上記したリチウムイオン二次電池モジュール1を多数直並列接続した構成を採用することができる。このように構成された電池53は、高い電流供給能力を有するとともに短時間での充電が可能であるため、電気自動車50のような車両の駆動用電源として好適なものである。
【0060】
図10は本発明にかかる電池を搭載した機器の他の例としての電子機器、具体的にはICカード(スマートカード)を模式的に示す図である。このICカード70は、互いに重ね合わせられることでカード型のパッケージを構成する1対の筐体71,72と、該筐体内に収容される回路モジュール73および該回路モジュール73の電源となる電池74とを備えている。このうち回路モジュール73は、外部との通信のためのループ状のアンテナ731と、該アンテナ731を介した外部機器とのデータ交換および種々の演算・記憶処理を実行する集積回路(IC)を含む回路ブロック732とを備えている。また、電池74としては、上記したリチウムイオン二次電池モジュール1を1組または複数組備えるものを用いることができる。
【0061】
このような構成によれば、それ自身は電源を有さない一般的なICカードに比べて、外部機器との通信可能距離を拡張することができ、またより複雑な処理を行うことが可能となる。本発明にかかる電池74は小型・薄型で大容量を得ることができるので、このようなカード型の機器に好適に適用することができる。
【0062】
これ以外にも、電動アシスト自転車、電動工具、ロボットなどの機械類や、パーソナルコンピュータ、携帯電話や携帯型音楽プレイヤー、デジタルカメラやビデオカメラなどのモバイル機器、ゲーム機、ポータブル型の測定機器、通信機器や玩具など各種の電子機器に、本発明にかかる電池を採用することが可能である。
【0063】
以上説明したように、上記実施形態では、負極活物質層を構成するライン状パターン121,122aおよびランド状パターン123aが本発明の「島状部位」に相当しており、接続部位122b、123bが本発明の「接続部位」に相当している。また、上記実施形態では、電気自動車50が本発明の「車両」に相当している。さらに、上記実施形態におけるICカード70が本発明の「電子機器」に相当しており、そのうち筐体71,72が本発明の「筐体」として、回路ブロック73が本発明の「電子回路部」としてそれぞれ機能している。
【0064】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、負極活物質層についてはノズルスキャン法による塗布で、また固体電解質層についてはナイフコート法またはバーコート法による塗布で形成しているが、各層の形成方法はこれらに限定されず、公知の種々の塗布方法を適用することが可能である。
【0065】
また、上記実施形態では、負極集電体、負極活物質層および固体電解質層からなる積層体に対して、別途形成した正極活物質層および正極集電体からなる積層体を貼り合わせることで電池を製造しているが、これに限定されず、例えば負極集電体、負極活物質層および固体電解質層からなる積層体に正極活物質材料を含む塗布液を塗布して正極活物質層を形成し、これに正極集電体を貼り合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
この発明にかかるリチウムイオン二次電池は、小型・薄型でありながら高容量と良好な充放電特性とを兼ね備えており、生産性も優れているので、電池を搭載する車両や各種の電子機器に好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1,53,74 リチウムイオン二次電池
11 (負極集電体としての)銅箔
12 負極活物質層
13 電解質層
14 正極活物質層
15 (正極集電体としての)アルミニウム箔
31 ノズル
32 負極活物質塗布液
50 電気自動車(車両)
70 ICカード(電子機器)
71,72 カード筐体(筐体)
73 回路モジュール(電子回路部)
121,122a (負極活物質の)ライン状パターン(島状部位)
122b (負極活物質の)接続部位
123a (負極活物質の)ランド状パターン(島状部位)
123b (負極活物質の)接続部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体層、活物質材料としてのLi4Ti512を含む負極活物質層、ポリエチレンオキサイドおよびポリスチレンを含む固体電解質層、活物質材料としてのLiCoO2を含む正極活物質層、および正極集電体層をこの順番に積層した構造を有し、
前記負極活物質層は、前記負極集電体層表面に互いに離隔した島状部位を複数配してなる島状構造を有し、
30℃の周囲環境において、2.35Vの起電力を有するとともに、前記負極活物質層が0.3Cレートでの充放電の際に60mAh/gないし80mAh/gの容量を有する
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記島状部位と前記負極集電体層との接触点において前記負極活物質層に引いた接線と前記負極集電体層表面とがなす角のうち前記負極活物質層を含む側の角が90度よりも小さい請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記島状部位と前記負極集電体層との接触点において、前記負極集電体層と前記固体電解質層とが接触している請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記島状部位は、前記負極集電体層の表面に沿って所定の方向に延びるライン状パターンを有する請求項1ないし3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記ライン状パターンの延設方向に直交する断面における前記島状部位の断面形状は、前記負極集電体層と接触する部分の幅が20μmないし300μm、高さが10μmないし300μmであり、前記幅に対する前記高さの比が0.5以上である請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記島状部位では、前記負極集電体層と接触する部分を除く表面が滑らかな曲面である請求項1ないし5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記負極活物質層は、複数の前記島状部位を互いに接続する接続部位を有する請求項1ないし6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池を搭載することを特徴とする車両。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池と、
前記リチウムイオン二次電池を電源として動作する電子回路部と
を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項10】
前記リチウムイオン二次電池と前記電子回路部とを収容するカード型の筐体を備える請求項9に記載の電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−74204(P2012−74204A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217322(P2010−217322)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】