説明

リチウムイオン二次電池およびその製造方法

【課題】リチウム二次電池において、金属箔に形成された導電膜の欠陥を修復することを可能とし、リチウム二次電池の製造コストを低減する。
【解決手段】金属箔3の表面に活物質、導電助剤、バインダを含む導電膜ペースト4を塗布し、乾燥する。塗布された導電膜4に欠陥1が存在した場合、この部分を記録し、欠陥修正ペースト5によってこの欠陥を充填する。欠陥修正ペースト5はバインダを含むが、導電助剤、活物質は含まない。導電膜4は後にプレスされて平坦化されるが、このとき、欠陥修正した部分も平坦化される。また、欠陥修正ペースト5には粒子は存在しないので、プレスにおいて、電極膜4あるいは金属箔3を傷つけることも無い。さらに、欠陥の面積は小さいので、電池容量にはほとんど影響が無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の電極膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保護、省エネルギーの観点から、エンジンとモータを動力源として併用したハイブリッド電気自動車やモータのみを動力源とする電気自動車が開発、製品化されている。また、将来的には燃料電池をエンジン替わりに用いる燃料電池ハイブリッド自動車の開発も盛んになってきている。このハイブリッド電気自動車や電気自動車のエネルギー源として、電気を繰り返し充電放電可能な二次電池は必須の技術である。
【0003】
なかでも、リチウム二次電池はその動作電圧が高くまた高い出力を得やすいので有力な電池であり、今後ハイブリッド自動車や電気自動車の電源としてますます重要性が増してきている電池である。同様に、太陽光発電や夜間電力を有効利用するための電力貯蔵などの用途での重要性が増してきていると同時に、より高容量化と信頼性が求められるようになってきている。
【0004】
リチウム二次電池の高容量化を達成するためには、電池の電極の大面積化が必須となる、すなわち電極の幅および長さが大きくなる。一方、作製した電極膜の検査で検出された塗工欠陥部分は電池の電極膜としては使用出来ない。従来はこの塗工欠陥部分は破棄していた。その結果、電極面積が大きくなる、すなわち電極長さが長くなればなるほど、電極膜から電池への使用効率が低下する。例えば、電極膜を倦回する電池においては電極長さより短い間隔で塗工欠陥が発生した場合、必要な電極長さが取れず歩留りは0となる。同様に、電極膜を積層する電池についても塗工欠陥によって使用効率が低下する。
【0005】
ここで、検査で塗工欠陥として検出されるものは電極膜の集電体である金属箔が露出するもので、形状としては、ピンホール状、もしくはスジ状のものである。このような金属箔が露出した欠陥においては、負極ではリチウム金属の析出が生ずることによる内部短絡の原因となる、一方正極においては電界集中により特性劣化となるため、このような塗工欠陥は電池として使用することが出来ない。なお、本明細書では、金属箔を集電箔とも言う。また、金属箔に電極膜を形成したものを電極板と言う。
【0006】
「特許文献1」には、正極と負極のセパレータをシート状のセパレータではなく、所定のペーストを塗布することによる多孔膜層によって形成する構成が記載されている。そして、塗布によって形成した多孔膜層にピンホールやクレータが生ずることを防止するために、ペースト材料に界面活性剤を添加する構成が記載されている。また、「特許文献2」には、塗布によって形成した多孔膜層にピンホールやクレータが生ずることを防止するために、下地となる電極膜の表面にコロナ処理を施すことによってペーストのはじきを防止する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−158450号公報
【特許文献2】特開2009−230862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
「特許文献1」および「特許文献2」に記載の技術は、正極と負極の間に配置されるセパレータを塗布によって形成する場合の、ピンホール等の発生を防止するものであり、電極膜のピンホールの発生を防止するものではない。従来は、リチウム二次電池の製造工程における電極膜の修復は困難とされてきた。しかし、大型のリチウム二次電池等においては、電極の長さが非常に長くなり、欠陥の存在による電極の歩留まりの低下が深刻な問題となっている。本発明の目的は、上述した塗工欠陥を修復することによって、信頼性が確保されかつ塗工電極膜の電池への使用効率が向上するリチウム二次電池の電極膜の製造を可能にすることである。また、これによって信頼性の高い、かつ、低コストのリチウム二次電池を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、電極膜に生じた欠陥を所定の修復方法によって修復し、金属箔の露出を防止することによって達成できる。具体的な手段は、次のとおりである。
【0010】
主な手段の第1は、金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池の製造方法であって、前記金属箔に、前記活物質、前記導電助剤および前記バインダを有する電極膜ペーストを塗布して乾燥し、前記金属箔に塗布された前記導電膜ペーストの欠陥を検査し、前記導電膜ペーストの前記欠陥に対して、前記バインダを有するが、前記活物質および前記導電助剤を有さない修正ペーストによって前記欠陥を充填し、その後、前記導電膜ペーストが塗布された前記金属箔を加熱し、かつ、プレスすることによって前記電極板を形成することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法である。
【0011】
主な手段の第2は、金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池の製造方法であって、前記金属箔に、前記活物質、前記導電助剤および前記バインダを有する電極膜ペーストを塗布して乾燥し、前記金属箔に塗布された前記導電膜ペーストの欠陥を検査し、前記導電膜ペーストの前記欠陥に対して、前記バインダおよび前記導電助剤を有するが、前記活物質を有さない修正ペーストによって前記欠陥を充填し、前記欠陥における前記修正ペーストの前記導電ペーストよりも突出した高さは、前記導電ペーストの厚さの1/2以下であり、その後、前記導電膜ペーストが塗布された前記金属箔を加熱し、かつ、プレスすることによって前記電極板を形成することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法である。
【0012】
主な手段の第3は、金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池の製造方法であって、前記金属箔に、前記活物質、前記導電助剤および前記バインダを有する電極膜ペーストを塗布して乾燥し、前記金属箔に塗布された前記導電膜ペーストの欠陥を検査し、前記導電膜ペーストの前記欠陥に対して、前記バインダ、前記導電助剤および所定粒径の活物質を含む修正ペーストによって前記欠陥を充填し、前記所定粒径の活物質の最大粒径(D95)は、乾燥後の前記導電ペーストの厚さの1/5以下であり、前記欠陥における前記修正ペーストの前記導電ペーストよりも突出した高さは、前記導電ペーストの厚さの1/5以下であり、その後、前記導電膜ペーストが塗布された前記金属箔を加熱し、かつ、プレスすることによって前記電極板を形成することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
電極膜の塗工欠陥を修正することで、電極膜の電池への使用効率を向上させることが可能となり、リチウム二次電池の製造コストを低減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における電極板の製造フローである。
【図2】塗工欠陥の修正工程を示す断面図である。
【図3】電極膜の塗工欠陥の例を示す平面図である。
【図4】塗工欠陥の修正を行った断面図である。
【図5】修正ペーストにおける活物質の最大粒子径と内部短絡発生率の関係示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明におけるリチウム二次電池の製造工程を示すチャートである。図1において、金属箔へ導電膜を塗布した後、乾燥させる。なお、金属箔は非常に長いので、当初から巻き取られた状態であり、巻き戻しながら導電膜を塗布する。乾燥した状態の導電膜を検査装置あるいは目視等によってピンホール、あるいはすじ状欠陥等の有無を検査し、欠陥があればマーキングしておく。マーキングとは、必ずしも電極板にマークをしておくということではなく、欠陥の場所がわかるように記録することでよい。その後電極板を巻き取る。なお、電極板は非常に長いので、各作業のあと、巻き取る必要がある。
【0016】
その後、電極板を巻き戻し、電極膜の欠陥の修正を行う。この修正が本発明の対象となるものである。欠陥修正後、電極膜を加熱し、プレスする。このプレスによって電極膜は厚さが約1/2程度になる。また、修正によって生じた凸部もプレスによって平坦化される。その後、電極板を巻き取り、後工程に送られる。
【0017】
図2は図1における電極欠陥の検査および電極膜の修正を示す断面図である。図2において、検査装置を用いて塗工欠陥を検査し、欠陥のある場所を記録しておく。その後、電極板が矢印の方向に移動すると、記録された欠陥のある場所において、修正装置によって修正ペーストを欠陥に充填する。図2は、修正装置にディスペンサを使用した例である。欠陥検査と欠陥修正の間には、図1に示すように、電極板を巻き取る工程と巻き戻す工程が存在しているが、図2では、これは、省略されている。
【0018】
図3は塗工欠陥の例を示す平面図である。図3において、電極膜4が金属箔4に塗布されている。図3において、1はピンホール欠陥であり、2はすじ欠陥である。本発明は、塗工欠陥として検査で検出される金属箔露出部分に対し、電極膜の1部の成分、または、同等の材料であるが、粒子の粒径分布が異なる材料等で金属箔露出部分を覆い、電解液が直接接触しないようにすることで内部短絡や信頼性低下を防止することである。このような観点から、修正ペーストとしては大きく2種類に分けられる。すなわち電極膜と同様の材料組成で活物質を含む場合と、活物質を含まない場合である。
【0019】
活物質を含まないものとしては、バインダのみ、またはバインダと導電助材の混合物があり、活物質を含まない場合は修正部分に活物質が存在しない分、ごく僅か電池容量が低下することになるが実用上は全く問題とならない。一方、活物質が含まれる場合、電極膜と同様の作用を有する膜が形成されるで、電池容量が低下することはない。
【0020】
また、電極膜の修正で必要な条件として、電池作製時に電極膜の乾燥後プレスされて密度を増大させられるとともに電極膜表面が平坦化される。電極膜表面に突起が存在した場合、そのまま倦回あるいは積層した場合、正負極間に挟まれるセパレータを傷つけ内部短絡の原因となる、またセパレータが突起で薄くなることで内部短絡が発生しやすくなる。したがって、電極膜のプレス後には修正部分も周囲と同じ膜厚以下になることが必要である。
【0021】
修正ペーストとしては、金属箔露出部分を覆えば良いという観点から、バインダと溶剤から成る修正ペーストを用いることが出来、例えば、容易にディスペンサで塗布することができる。この場合、塗布量が少なくても金属箔露出部分を覆うことが可能であるだけでなく、塗布量が多くなっても周囲の電極膜への浸透により電極膜厚さからの突出量が低減する。さらに、塗布時に周囲の電極膜より突出していても過熱ロールプレス時に軟化流動することで電極膜厚からの突出は無くなる。この場合、電極膜を例えば、蛍光X線でスキャンすると、欠陥修復部分からはバインダのみが検出され、導電助剤および活物資は検出されてない。
【0022】
次に、修正ペーストが活物質を含まないバインダと導電助材と溶剤から成る場合、すなわち粉末材料としては導電助材のみである場合には、プレス時に容易に圧縮されるため、修正ペーストの乾燥高さの突出量が電極膜乾燥厚さの1/2以下であれば、プレスにより容易に圧縮されて周囲の電極膜と同じ厚さとなる。したがって、金属箔の破損および突起の発生や粒子破壊は起こらない。ここで、修正ペーストの乾燥高さの突出量が電極膜厚の1/2より大きくなるとプレス後でも周囲の電極膜厚より突出するので電池作製時に倦回体寸法が大きくなるので好ましくない。この場合、電極膜を例えば、蛍光X線でスキャンすると、欠陥修復部分からはバインダおよび導電助剤のみが検出され、活物資は検出されてない。
【0023】
図4は電極膜乾燥厚さと修正ペーストの乾燥高さの定義を示す断面図である。図4において、金属箔の上に電極膜が形成され、電極膜の欠陥を修正ペースト5によって修正した状態が示されている。図4は電極膜をプレスする前の状態である。修正ペーストの乾燥高さはt2であり、電極膜乾燥厚さはt1である。この定義は本明細書において共通である。図4において、金属箔3は10〜20μm程度であり、電極膜の厚さt1は乾燥後であるので、70μm程度である。
【0024】
続いて、修正ペーストに、電極膜合剤を用いる場合について述べる。欠陥部に塗布された活物質を含む電極膜合剤と同等組成の修正ペーストが乾燥した後でプレスされた時に、修正部周囲の電極膜厚と同じ膜厚以下となり突出部の無い平滑な電極膜となるためには、乾燥後の修正ペーストの高さが乾燥後の電極膜厚以下となることが重要である。
【0025】
すなわち、塗工乾燥後の平坦化プレスで電極膜の厚さは約1/2まで圧縮されるが、電極膜厚より突出している部分ではプレス時に突出部の下の金属箔が押されて変形し破損が発生すると同時にプレス後にスプリングバックして修正部分が突起状となり信頼性が低下するのに対し、修正ペーストの乾燥高さが電極膜厚以下である場合には金属箔へ破損および突起は発生しない。
【0026】
ここで、合剤と同等の組成ではあるが活物質の粉末粒子サイズを制御した時は、図5に示すように、修正ペースト中の粉末の最大粒子径(D95)が電極膜厚乾燥厚さの1/5以下の場合には、修正ペーストの乾燥膜厚の突出量を電極膜厚の1/5以下とすれば、塗布した修正ペーストのプレス時の圧縮抵抗が低下し、金属箔へのダメージおよび粒子破壊も発生しない。
【0027】
また修正用ペーストのバインダとしては、一般的に電極膜作製に用いられる、正極電極膜修正にはポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記する。)、負極電極膜にはまたはスチレンブタジエンコポリマー(SBR)が適するが、電池使用環境の電解液中で充放電に耐えるバインダであれば良い。
【0028】
さらに、塗布方法としては、塗工欠陥がピンホール状またはスジ状であることから、細いノズルから修正ペーストを押し出すディスペンサ塗工が適するが、大きさや厚さ等、必要なパターンが形成できればどのような形成方法でもよい。また、塗布した修正ペーストは、周囲の電極膜に溶剤が容易に浸透するので問題は生じないが、必要であれば、光またはレーザのスポット照射で容易に乾燥させることが可能である。
【0029】
以下に本発明によるリチウム二次電池の製造方法と、それによって製造されたリチウム二次電池の評価結果を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0030】
本実施例では、正極電極膜のピンホール塗工欠陥をバインダのみの修正ペーストで修正する場合について述べる。バインダは粒子を含有していないので、仮に、修正部分で凸部が生じても、プレスによって容易につぶれ、修正箇所を平坦に出来る。また、積層された場合も、凸部によって積層膜に傷をつけるということも無いので、作業歩留まりの優れた修正方法である。
【0031】
正極電極膜の合剤のスラリーは以下の方法で作製した。活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物のリチウムマンガンコバルトニッケル複合酸化物粉末を用いた。粉末サイズとしては平均粒子径(D50)が8.5μm、最大粒径(D95)が22.3μmであった。このリチウムマンガンコバルトニッケル複合酸化物を85重量部に対して、導電材として黒鉛粉末を9重量部およびカーボンブラックを2重量部とを混合して正極合剤を調製した。この正極合剤にPVDFが4重量部となるようにPVDFを溶解したN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)溶液(バインダ溶液)を加えるとともにNMPに分散させてスラリー状とした。
【0032】
続いて正極電極膜の塗工欠陥を修正するための修正ペーストは、上記ポリフッ化ビニリデンを溶解したNMPの粘度を調整し3000cpsの修正ペーストとした。はじめに正極電極板の作製について述べる。アルミニウム集電箔表面へ上記で作製した合剤層スラリーを、例えばダイコータのような塗布機を使用し塗布するとともに乾燥させ、70μm厚さの電極膜を作製した。引き続き、塗工欠陥の検査をおこなった。検出された塗工欠陥のうち、金属箔が露出したピンホール欠陥及びスジ欠陥について、上記で作製した修正ペーストをディスペンサで塗布した後スポット光を照射し乾燥させた。
【0033】
続いて上記作製した塗工欠陥を修正した正極電極膜を加熱しながらローラープレスして35μm厚さの電極を作製した。次に、ポリエチレンから成る微多孔性セパレータを挟んで上記の正極と塗工欠陥の無い負極を渦巻き状に捲回して電極体を作製した。この捲回電極体にリードを取り付けて有底円筒状の容器(電池缶)に挿入した。
【0034】
次に、捲回電極体が挿入された電池缶内を真空減圧した後非水電解液を注入し、電極合剤に浸透させた後上蓋を取り付け、封口して円筒形リチウム二次電池を得た。非水電解液としてはエチレンカーボネート( E C ) とジメチルカーボネート( D M C ) との混合溶液に6 フッ化リン酸リチウム( Li P F 6 ) を溶解したものを用いた。
【0035】
このように作製した電池について、サイクル特性を調べた。その結果、1000サイクル後の容量保持率は初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.1%以下であった。ここで、リチウム二次電池の容量とは、電流(A)×時間(Hr)である。1000サイクルとは、1000回充放電を繰り返すということである。また、不良率0.1%とは、1000個作成した場合に、規格を満たさない電池が1個存在するということである。不良率0.1%以下は業界において許容範囲である。
(比較例1)
ここでは実施例1のダイコータで塗工した塗工欠陥の無い正極を用い、その他は実施例1と同様に捲回し、電解液注入し、円筒形リチウム二次電池を作製した。このように作製した電池について、サイクル特性を比較したところ、1000サイクル後の容量保持率は初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.1%以下で実施例1と同等であった。
【0036】
なお、ピンホールおよびスジ状の塗工欠陥がある正極電極膜で同様に電池を作製したところ、1000サイクル後の容量保持率は75〜83%とした場合の内部短絡不良発生率は0.1%以下であった。すなわち、容量保持率を75%にまで許容して初めて不良率0.1%以下を達成できるということである。
【実施例2】
【0037】
本実施例では、負極電極膜のピンホール塗工欠陥をバインダのみの修正ペーストで修正する場合について述べる。負極電極膜においても、バインダのみの修正は、正極電極膜において説明したのと同様、作業歩留まりの優れた修正方法である。
【0038】
負極合剤スラリーは以下の方法で作成した。活物質として非晶質炭素粉末を用いた。粉末サイズとしては平均粒子径(D50)が9.2μm、最大粒径(D95)が25.8μmであった。この非晶質炭素を93重量部に対して、カーボンブラック2重量部を混合して負極合剤を調製した。この負極合剤にPVDFが5重量部となるようバインダ溶液を加えるとともにNMPに分散させてスラリー状とした。
【0039】
負極電極膜の塗工欠陥を修正するための修正ペーストは、上記のPVDFを溶解したNMPの粘度を調整し3000cpsの修正ペーストとした。次に負極電極板の作製は実施例1と同様に、銅集電箔表面へダイコータで塗布した後乾燥し70μm厚さの電極膜を作製した。引き続き、塗工欠陥の検査をおこなった。検出された塗工欠陥のうち、金属箔が露出したピンホール欠陥及びスジ欠陥について、上記で作製した修正ペーストをディスペンサで塗布した後スポット光を照射し乾燥させた。
【0040】
続いて塗工欠陥を修正した負極電極膜を加熱しながらローラープレスして35μm厚さの電極を作製し、実施例1と同様に塗工欠陥の無い正極を用い捲回し、電解液注入し、円筒形リチウム二次電池を作製した。このように作製した電池について、サイクル特性を調べたところ、1000サイクル後の容量保持率は初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.1%以下であった。
(比較例2)
ここでは実施例2のダイコータで塗工した塗工欠陥の無い負極を用い、その他は実施例2と同様に捲回、電解液注入し円筒形リチウム二次電池を作製した。このように作製した電池について、サイクル特性を比較したところ、1000サイクル後の容量保持率は初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.1%以下であった。
【0041】
なお、ピンホールおよびスジの塗工欠陥がある負極電極膜で同様に電池を作製したところ、1000サイクル後の容量保持率は初期の85%以上、内部短絡不良発生率は3.5%であった。このように、負極においては、欠陥の影響が正極の場合に比べて顕著に現れる。したがって、本発明を負極に適用すると特に効果が大きい。
【実施例3】
【0042】
本実施例は、正極電極膜の塗工欠陥を、活物質を含まず導電助材及びバインダから成る修正ペーストで修正する場合である。正極電極膜の合剤のスラリーは実施例1と同様に作製し、正極電極膜の塗工欠陥を修正するための修正ペーストは以下の方法で作製した。すなわち導電助材のカーボンブラックとPVDF溶解NMPの混合物にNMPを粘度調整しながら混合し粘度が3000cpsの修正ペーストとした。
【0043】
実施例1と同様に作製した正極電極板で検出された金属箔が露出したピンホール欠陥及びスジ欠陥について、上記で作製した修正ペーストをディスペンサで塗布し、乾燥させた状態において周囲の電極膜からの突出量t2が電極膜厚t1の40%、50%、60%となるように塗布した。
【0044】
続いて実施例1と同様にロールプレス後、塗工欠陥の無い正極を用い捲回、電解液を注入し円筒形リチウム二次電池を作製した。この時修正ペースト乾燥膜の突出量t2が電極膜厚t1の40%および50%のものでは、ロールプレス後の修正ペースト部の周囲の塗工電極膜からの突出はないが、修正ペースト乾燥膜の突出量t2が電極膜厚t1の60%のものではロールプレス後に修正ペースト部は塗工電極膜の5%程度の突出が認められた。
【0045】
このように作製した電池についてサイクル特性を調べところ、修正ペーストの突出量が40%および50%の電池のサイクル特性は、1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.1%以下であった。しかし、同様に突出量が60%の電池のサイクル特性は1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.2%であった。つまり、本実施例においては、突出量が乾燥膜厚の50%以下であれば、不良率は許容範囲であるが、突出量が膜厚の60%であれば、不良率は許容範囲を超える。
【実施例4】
【0046】
本実施例は、負極電極膜の塗工欠陥を、活物質を含まず導電助材及びバインダから成る修正ペーストで修正する場合である。負極電極膜の合剤のスラリーは実施例1と同様に作製し、負極電極膜の塗工欠陥を修正するための修正ペーストは以下の方法で作製した。すなわち導電助材のカーボンブラックとPVDF溶解NMPの混合物にNMPを粘度調整しながら混合し粘度が3000cpsの修正ペーストとした。
【0047】
実施例2と同様に作製した負極電極板で検出された金属箔が露出したピンホール欠陥及びスジ欠陥について、上記で作製した修正ペーストをディスペンサで塗布し、乾燥させた状態で周囲の電極膜からの突出量t2が電極膜厚t1の40%、50%、60%となるように塗布した。
【0048】
続いて実施例2と同様にロールプレス後、塗工欠陥の無い正極およびセパレータを捲回後、電解液を注入し円筒形リチウム二次電池を作製した。この時乾燥した後の修正ペーストの突出量t2が乾燥後の電極膜厚t1の40%および50%のものでは、ロールプレス後の修正ペースト部の周囲の塗工電極膜からの突出はないが、修正ペースト乾燥膜の突出量t2が電極膜厚t1の60%のものではロールプレス後に修正ペースト部は塗工電極膜の5〜10%程度の突出が認められた。
【0049】
このように作製した電池についてサイクル特性を調べところ、修正ペーストの突出量t2が乾燥後の電極膜厚t1の40%および50%の電池のサイクル特性は、1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.1%以下であった。一方、同様に突出量t2が60%の場合の電池のサイクル特性は1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.2%であった。つまり、本実施例においても、突出量t2が乾燥膜厚t1の50%以下であれば、不良率は許容範囲であるが、突出量が膜厚の60%であれば、不良率は許容範囲を超える。
【実施例5】
【0050】
本実施例は、正極電極膜のピンホール塗工欠陥を材料粉末の最大粒径(D95)を制御した修正ペーストで修正する場合である。正極電極膜の合剤のスラリーは実施例1と同様に作製し、正極電極膜の塗工欠陥を修正するための修正ペーストは以下の方法で作製した。活物質のリチウムマンガンコバルトニッケル複合酸化物を最大粒子径(D95)が塗工乾燥後の電極膜厚の1/5以下となるように分級し、この分級したリチウムマンガンコバルトニッケル複合酸化物に対し実施例1と同様に黒鉛粉末およびカーボンブラック、およびPVDF溶解NMPを加えるとともにNMPを粘度調整しながら混合し粘度が3000cpsの修正ペーストとした。
【0051】
実施例1と同様に作製した正極電極板で検出された金属箔が露出したピンホール欠陥及びスジ欠陥について、上記で作製した修正ペーストをディスペンサで塗布し、乾燥させた状態で周囲の電極膜からの突出量t2が電極膜厚t1の20%、30%、40%、及び電極膜厚以下となるように塗布した。
【0052】
続いて実施例1と同様にロールプレス後、塗工欠陥の無い正極を用いて捲回し、電解液を注入し、円筒形リチウム二次電池を作製した。ロールプレス後の修正ペースト部分の突出量は塗布時突出量が20%のものでは電極膜からの突出は無く、塗布時突出量が30%のものではロールプレス後の電極膜厚さの5〜10%の突出量、塗布時突出量が40%のものではロールプレス後の電極膜厚さの10〜15%の突出量であった。なお、この場合、塗布時とは乾燥させた状態をいう。
【0053】
このように作製した電池についてサイクル特性を調べところ、修正ペーストの突出量が40%の電池のサイクル特性は、1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.8%、突出量が30%の電池のサイクル特性は1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.4%であるのに対し、突出量が20%及び電極膜厚以下の電池のサイクル特性は1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.1%以下であった。
【0054】
したがって、活物質を含む修正ペーストにおいて、活物質の最大粒子径(D95)を乾燥膜厚の1/5に抑えた場合で、修正ペーストの突出量を20%以下にした場合のみが、不良率0.1%以下を維持することが出来る。なお、乾燥後の導電膜厚は、平坦化プレスをおこなった後、厚さは1/2になるので、本実施例における活物質の最大粒子径(D95)は、平坦化プレス後の導電膜厚と比較すると1/2.5となる。
【実施例6】
【0055】
本実施例は、負極電極膜のピンホール塗工欠陥を材料粉末の最大粒径(D95)を制御した修正ペーストで修正する場合である。負極電極膜の合剤のスラリーは実施例2と同様に作製し、負極電極膜の塗工欠陥を修正するための修正ペーストは以下の方法で作製した。最大粒径(D95)が塗工乾燥後の電極膜厚さの1/5以下となるように分級した非晶質炭素に対し実施例1と同様にカーボンブラック、PVDF溶解NMPを加えるとともにNMPを粘度調整しながら混合し粘度が3000cpsの修正ペーストとした。
【0056】
実施例2と同様に作製した負極電極板で検出された金属箔が露出したピンホール欠陥及びスジ欠陥について、上記で作製した修正ペーストをディスペンサで塗布し、乾燥した状態で周囲の電極膜からの突出量t2が電極膜厚t1の20%、30%、40%、及び電極膜厚以下となるように塗布した。
【0057】
続いて実施例2と同様にロールプレス後、塗工欠陥の無い正極を用い捲回、電解液を注入し円筒形リチウム二次電池を作製した。ロールプレス後の修正ペースト部分の突出量は塗布時突出量が20%のものでは電極膜からの突出は無く、塗布時突出量が30%のものではロールプレス後の電極膜厚さの5〜10%の突出量、塗布時突出量が40%のものではロールプレス後の電極膜厚さの10〜15%の突出量であった。
【0058】
このように作製した電池についてサイクル特性を調べところ、修正ペーストの突出量が電極膜厚の20%の電池のサイクル特性は、1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.1%以下であった。一方、突出量が30%の電池のサイクル特性は1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.2%、また突出量が40%の電池のサイクル特性は1000サイクル後の容量保持率が初期の85%以上、内部短絡不良発生率は0.4%であった。
【0059】
したがって、負極電極膜においても、活物質を含む修正ペーストにおいて、活物質の粒径を乾燥膜厚の1/5に抑えた場合、修正ペーストの突出量を20%以下にした場合のみが、不良率0.1%以下を維持することが出来る。なお、乾燥後の導電膜厚は、平坦化プレスをおこなった後、厚さは1/2になるので、本実施例における活物質の最大粒子径(D95)は、平坦化プレス後の導電膜厚と比較すると1/2.5となる。
【0060】
以上で述べた実施形態では、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物にリチウムマンガンコバルトニッケル複合酸化物を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態以外でも、例えば、スピネル結晶構造や合剤層状結晶構造のリチウムマンガン複酸化物や、結晶中のマンガンやリチウムの一部をそれら以外の例えば、Fe、Co、Ni、Cr、Al、Mg等の元素で置換又はドープした材料、結晶中の酸素の一部をS、P等の元素で置換又はドープした材料を挙げることができる。同様に本実施形態では負極活物質に非晶質炭素粉末を例示したがこれに限定されるものではない。
【0061】
また、本実施形態ではバインダとしてPVDFの例を示したが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレン/ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロ−ス、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリロニトリル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、フッ化プロピレン、フッ化クロロプレン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド等の重合体及びこれらの混合体等、電池使用環境に耐えるものであれば良く、特に限定されるものではない。また同様に、修正用ペーストの溶媒としてNMPについて例示したが、これに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
上記の通り、本発明によれば、電極膜欠陥部を修正することで、生産性が高いリチウム二次電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…ピンホール欠陥、2…すじ欠陥、3…金属箔、4…塗工電極膜、5…修正ペースト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池の製造方法であって、
前記金属箔に、前記活物質、前記導電助剤および前記バインダを有する電極膜ペーストを塗布して乾燥し、
前記金属箔に塗布された前記導電膜ペーストの欠陥を検査し、
前記導電膜ペーストの前記欠陥に対して、前記バインダを有するが、前記活物質および前記導電助剤を有さない修正ペーストによって前記欠陥を充填し、その後、
前記導電膜ペーストが塗布された前記金属箔を加熱し、かつ、プレスすることによって前記電極板を形成することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。
【請求項2】
金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池の製造方法であって、
前記金属箔に、前記活物質、前記導電助剤および前記バインダを有する電極膜ペーストを塗布して乾燥し、
前記金属箔に塗布された前記導電膜ペーストの欠陥を検査し、
前記導電膜ペーストの前記欠陥に対して、前記バインダおよび前記導電助剤を有するが、前記活物質を有さない修正ペーストによって前記欠陥を充填し、
前記欠陥における前記修正ペーストの前記導電ペーストよりも突出した高さは、前記導電ペーストの厚さの1/2以下であり、その後、
前記導電膜ペーストが塗布された前記金属箔を加熱し、かつ、プレスすることによって前記電極板を形成することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。
【請求項3】
金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池の製造方法であって、
前記金属箔に、前記活物質、前記導電助剤および前記バインダを有する電極膜ペーストを塗布して乾燥し、
前記金属箔に塗布された前記導電膜ペーストの欠陥を検査し、
前記導電膜ペーストの前記欠陥に対して、前記バインダ、前記導電助剤および所定粒径の活物質を含む修正ペーストによって前記欠陥を充填し、
前記所定粒径の活物質の最大粒径(D95)は、乾燥後の前記導電ペーストの厚さの1/5以下であり、
前記欠陥における前記修正ペーストの前記導電ペーストよりも突出した高さは、前記導電ペーストの厚さの1/5以下であり、その後、
前記導電膜ペーストが塗布された前記金属箔を加熱し、かつ、プレスすることによって前記電極板を形成することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記電極膜は正極電極膜であり、前記バインダはポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記電極膜は負極電極膜であり、前記バインダはポリフッ化ビニリデンまたはスチレンブタジエンコポリマーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項6】
金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池であって、
前記導電膜には修正が施されており、前記修正の箇所においては、前記バインダは存在するが、前記活物質および前記導電助剤は存在しないことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項7】
金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池であって、
前記導電膜には修正が施されており、前記修正の箇所においては、前記バインダおよび前記導電助剤は存在するが、前記活物質は存在しないことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項8】
金属箔の表面に活物質、導電助剤およびバインダを有する電極膜が形成された電極板を含むリチウム二次電池であって、
前記導電膜には修正が施されており、前記修正の箇所においては、前記バインダ、前記導電助剤および活物質が存在するが、前記活物質の最大粒径(D95)は前記導電膜の膜厚の1/2.5以下であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項9】
前記電極膜は正極電極膜であり、前記バインダはポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記電極膜は負極電極膜であり、前記バインダはポリフッ化ビニリデンまたはスチレンブタジエンコポリマーであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−109028(P2012−109028A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254606(P2010−254606)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】