説明

リチウムイオン二次電池の製造方法

【課題】 サイクル特性(サイクル容量維持率)が良好となるリチウムイオン二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が多い正極合材層(第2正極合材層13c)と、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が少ない負極合材層(第1負極合材層23b)とを、セパレータ30を介して対向させると共に、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が少ない正極合材層(第1正極合材層13b)と、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が多い負極合材層(第2負極合材層23c)とを、セパレータ30を介して対向させて、電極体40を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車やノート型パソコン、ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器の駆動用電源として、リチウムイオン二次電池が利用されている。リチウムイオン二次電池は、例えば、正極集電部材(例えば、アルミニウム箔)の両面(第1面及び第2面)に正極合材層が形成された正極板と、負極集電部材(例えば、銅箔)の両面(第1面及び第2面)に負極合材層が形成された負極板と、セパレータとを用いて形成した電極体を有している。このような電極体を有するリチウムイオン二次電池の製造方法として、様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−252038号公報
【0004】
ところで、正極合材層及び負極合材層を形成する際、正極合材及び負極合材に含まれる溶媒(NMPなど)を完全に除去することは困難であるため、正極合材層内及び負極合材層内には、一部の溶媒(NMPなど)が残留する。そこで、特許文献1では、正極合材層(正極活物質層)及び負極合材層(負極活物質層)に残留する溶媒(NMP)の量を所定値(平均で70μl/m2)以下として、電極体(捲回体)を形成することを提案している。これにより、長期保存時の自己放電を抑制することができると記載されている。
【0005】
具体的には、以下のようにして電極体を形成する。正極集電部材(アルミニウム箔)の両面(第1面及び第2面)に正極溶媒(NMP)を含む正極合材を塗工し、塗工した正極合材を乾燥させて、正極集電部材の第1面及び第2面に正極合材層を形成する。このとき、乾燥条件(時間)を調整することで、正極合材層内に残留する正極溶媒(NMP)の量を調整するようにしている。その後、これを圧縮成形することで、正極集電部材の第1面及び第2面に正極合材層が形成された正極板を得る。
【0006】
また、負極集電部材(銅箔)の両面(第1面及び第2面)に負極溶媒(NMP)を含む負極合材を塗工し、塗工した負極合材を乾燥させて、負極集電部材の第1面及び第2面に負極合材層を形成する。このとき、乾燥条件(時間)を調整することで、負極合材層内に残留する負極溶媒(NMP)の量を調整するようにしている。その後、これを圧縮成形することで、負極集電部材の第1面及び第2面に負極合材層が形成された負極板を得る。
次いで、正極合材層と負極合材層とがセパレータを介して対向するようにして、正極板と負極板とセパレータとを捲回し、捲回型の電極体を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、正極板の正極合材層内に残留する正極溶媒の量が、正極集電部材の第1面に形成されている第1正極合材層と第2面に形成されている第2正極合材層とで異なることがある。同様に、負極板の負極合材層内に残留する負極溶媒の量が、負極集電部材の第1面に形成されている第1負極合材層と第2面に形成されている第2負極合材層とで異なることがある。また、溶媒の残留量が多い合材層ほど、反応抵抗が大きくなることが判明した。
【0008】
このため、溶媒残留量が多い合材層同士をセパレータを介して対向させる(正極溶媒の残留量が多い正極合材層と負極溶媒の残留量が多い負極合材層とをセパレータを介して対向させる)と共に、溶媒残留量が少ない合材層同士をセパレータを介して対向させて(正極溶媒の残留量が少ない正極合材層と負極溶媒の残留量が少ない負極合材層とをセパレータを介して対向させて)、電極体を形成した場合、溶媒残留量が多い合材層同士が対向する正負極間と、溶媒残留量が少ない合材層同士が対向する正負極間とで、反応抵抗に大きな差が生じ(従って反応差が大きくなり)、その結果、サイクル特性(サイクル容量維持率)が低下することがあった。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、サイクル特性(サイクル容量維持率)が良好となるリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、正極集電部材の第1面及び第2面に正極合材層が形成された正極板であって、上記正極合材層内に残留する正極溶媒の量が、上記第1面に形成されている第1正極合材層と上記第2面に形成されている第2正極合材層とで異なる正極板と、負極集電部材の第1面及び第2面に負極合材層が形成された負極板であって、上記負極合材層内に残留する負極溶媒の量が、上記第1面に形成されている第1負極合材層と上記第2面に形成されている第2負極合材層とで異なる負極板と、セパレータと、を用いて、電極体を形成する電極体形成工程を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、上記電極体形成工程は、上記第1正極合材層及び上記第2正極合材層のうち上記正極溶媒の残留量が多い正極合材層と、上記第1負極合材層及び上記第2負極合材層のうち上記負極溶媒の残留量が少ない負極合材層とを、上記セパレータを介して対向させると共に、上記第1正極合材層及び上記第2正極合材層のうち上記正極溶媒の残留量が少ない正極合材層と、上記第1負極合材層及び上記第2負極合材層のうち上記負極溶媒の残留量が多い負極合材層とを、上記セパレータを介して対向させて、上記電極体を形成するリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0011】
上述の製造方法では、第1正極合材層及び第2正極合材層のうち正極溶媒の残留量が多い正極合材層と、第1負極合材層及び第2負極合材層のうち負極溶媒の残留量が少ない負極合材層とを、セパレータを介して対向させると共に、第1正極合材層及び第2正極合材層のうち正極溶媒の残留量が少ない正極合材層と、第1負極合材層及び第2負極合材層のうち負極溶媒の残留量が多い負極合材層とを、セパレータを介して対向させて、電極体を形成する。
【0012】
このように、溶媒残留量が多い合材層と少ない合材層とがセパレータを介して対向するように電極体を形成することで、溶媒残留量が多い合材層同士及び溶媒残留量が少ない合材層同士をセパレータを介して対向させる場合に比べて、正負極間の反応抵抗差を小さく(従って反応差を小さく)することができる。その結果、サイクル充放電による劣化(容量劣化)を抑制して、リチウムイオン二次電池のサイクル特性(サイクル容量維持率)を良好とすることができる。
【0013】
なお、正極溶媒及び負極溶媒としては、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)や水などを例示できる。また、正極溶媒と負極溶媒とは、同一溶媒としても良いし、異なる溶媒としても良い。
また、電極体は、正極板と負極板とセパレータとを渦巻き状に捲回した捲回型電極体としても良いし、正極板と負極板とをセパレータを介して積層した積層型電極体としても良い。
【0014】
さらに、上記のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記正極集電部材の前記第1面に前記正極溶媒を含む正極合材を塗工し、塗工した上記正極合材を乾燥させた後、上記正極集電部材の前記第2面に上記正極溶媒を含む正極合材を塗工し、塗工した上記正極合材を乾燥させて、上記正極集電部材の上記第1面に前記第1正極合材層を形成すると共に上記第2面に前記第2正極合材層を形成する工程と、前記負極集電部材の前記第1面に前記負極溶媒を含む負極合材を塗工し、塗工した上記負極合材を乾燥させた後、上記負極集電部材の前記第2面に上記負極溶媒を含む負極合材を塗工し、塗工した上記負極合材を乾燥させて、上記負極集電部材の上記第1面に前記第1負極合材層を形成すると共に上記第2面に前記第2負極合材層を形成する工程と、を備え、前記電極体形成工程は、上記第2正極合材層と上記第1負極合材層とを前記セパレータを介して対向させると共に、上記第1正極合材層と上記第2負極合材層とを上記セパレータを介して対向させて、前記電極体を形成するリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0015】
上述の製造方法では、正極集電部材の第1面に正極溶媒を含む正極合材を塗工し、塗工した正極合材を乾燥(1回目の乾燥工程とする)させた後、正極集電部材の第2面に正極溶媒を含む正極合材を塗工し、塗工した正極合材を乾燥(2回目の乾燥工程とする)させて、正極集電部材の第1面に第1正極合材層を形成すると共に、正極集電部材の第2面に第2正極合材層を形成する。
【0016】
このように形成した第1正極合材層と第2正極合材層とでは、正極合材層内に残留する正極溶媒の量が異なることになる。具体的には、正極集電部材の第1面に塗工した正極合材(正極溶媒を含む)は、1回目の乾燥工程で乾燥するだけでなく、2回目の乾燥工程においても少なからず乾燥する。これに対し、正極集電部材の第2面に塗工した正極合材(正極溶媒を含む)は、2回目の乾燥工程のみが行われる。このため、第1正極合材層のほうが第2正極合材層よりも溶媒の残留量が少なくなる。
【0017】
また、上述の製造方法では、負極集電部材の第1面に負極溶媒を含む負極合材を塗工し、塗工した負極合材を乾燥(1回目の乾燥工程とする)させた後、負極集電部材の第2面に負極溶媒を含む負極合材を塗工し、塗工した負極合材を乾燥(2回目の乾燥工程とする)させて、負極集電部材の第1面に第1負極合材層を形成すると共に、負極集電部材の第2面に第2負極合材層を形成する。
【0018】
このように形成した第1負極合材層と第2負極合材層とでも、負極合材層内に残留する負極溶媒の量が異なることになる。具体的には、上述の正極合材層と同様な理由により、第1負極合材層のほうが第2負極合材層よりも溶媒の残留量が少なくなる。
【0019】
そこで、上述の製造方法では、第2正極合材層と第1負極合材層とをセパレータを介して対向させると共に、第1正極合材層と第2負極合材層とをセパレータを介して対向させて、電極体を形成するようにした。これにより、溶媒残留量が多い合材層と少ない合材層とがセパレータを介して対向するように電極体を形成することがきるので、リチウムイオン二次電池のサイクル特性(サイクル容量維持率)を良好とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の縦断面図である。
【図2】電極体の拡大断面図であり、図1のB部拡大図に相当する。
【図3】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の製造方法を説明する図であり、正極板を作製する工程のフローチャートである。
【図4】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の製造方法を説明する図であり、負極板を作製する工程のフローチャートである。
【図5】実施例1〜4及び比較例1〜4にかかる電池に関するデータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態(実施例1〜4)について説明する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、図1に示すように、円筒型のリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池1は、電極体40と、この電極体40を収容する電池ケース60とを有する。
【0022】
電池ケース60は、円筒型の電池ケースであり、金属板に絞り加工を行って有底筒状に成形した金属製の電池缶61と、円盤状をなす金属製の電池蓋62とを有する(図1参照)。電池蓋62は、電気絶縁性樹脂からなる円環状のガスケット69を電池缶61との間に介在させた状態で、電池缶61の開口部61bでかしめられて、電池缶61を封口している。これにより、電池缶61と電池蓋62との間をガスケット69により電気的に絶縁しつつ、電極体40を収容した電池缶61と電池蓋62とが一体とされて、電池ケース60をなしている。
【0023】
電極体40は、正極板10と負極板20とセパレータ30とが、捲回軸45の周りに渦巻き状に捲回された、円筒形状の捲回電極体である。
正極板10は、金属箔からなる正極集電部材11と、この正極集電部材11の第1面11bに形成された第1正極合材層13bと、第2面11cに形成された第2正極合材層13cとを有している(図2参照)。すなわち、正極集電部材11の両面(第1面11bと第2面11c)に、正極合材層13が形成されている。
【0024】
なお、本実施形態では、正極集電部材として、アルミニウム箔を用いている。また、正極合材層13(第1正極合材層13b及び第2正極合材層13c)は、正極活物質と、導電材と、バインダとを有している。本実施形態では、正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/32を用いている。また、導電材として、アセチレンブラックを用いている。また、バインダとして、PVDFまたはPTFEを用いている。
【0025】
また、第1正極合材層13b内及び第2正極合材層13c内には、正極板10を作製したときに残留した正極溶媒も含まれている。但し、後述するように、残留する正極溶媒の量は、第1正極合材層13bと第2正極合材層13cとで異なっている。
【0026】
負極板20は、金属箔からなる負極集電部材21と、この負極集電部材21の第1面21bに形成された第1負極合材層23bと、第2面21cに形成された第2負極合材層23cとを有している(図2参照)。すなわち、負極集電部材21の両面(第1面21bと第2面21c)に、負極合材層23が形成されている。
【0027】
なお、本実施形態では、負極集電部材21として、銅箔を用いている。また、負極合材層23(第1負極合材層23b及び第2負極合材層23c)は、負極活物質及びバインダを有している。本実施形態では、負極活物質として、黒鉛を用いてる。また、バインダとして、PVDFまたはSBRを用いている。
【0028】
また、第1負極合材層23b内及び第2負極合材層23c内には、負極板20を作製したときに残留した負極溶媒も含まれている。但し、後述するように、残留する負極溶媒の量は、第1負極合材層23bと第2負極合材層23cとで異なっている。
【0029】
また、本実施形態では、セパレータ30として、ポリエチレンからなる樹脂多孔質フィルムを用いている。また、電解液として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、体積比で3:4:3に調整した混合有機溶媒に、溶質としてLiPF6を添加した非水電解液を用いている。
【0030】
また、電極体40の正極合材層未塗工部(正極板10のうち正極合材層13が塗工されていない部位)は、その端面において、略十字形状の金属板からなる正極集電部材71に溶接されている(図1参照)。さらに、正極集電部材71は、帯状の金属薄板からなる接続部材53を通じて、電池蓋62に電気的に接続されている。これにより、本実施形態の電池1では、電池蓋62が正極外部端子となる。なお、電池蓋62と正極集電部材71との間には、電気絶縁性の樹脂板16を介在させている。
【0031】
また、電極体40の負極合材層未塗工部(負極板20のうち負極合材層23が塗工されていない部位)は、その端面において、円板状の金属板からなる負極集電部材72に溶接されている。さらに、負極集電部材72は、電池缶61の底部61kに溶接されている。これにより、本実施形態の電池1では、電池缶61の底部61kが負極外部端子となる。
【0032】
(実施例1)
次に、実施例1にかかるリチウムイオン二次電池1について説明する。
実施例1では、正極板10において、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/32を用い、導電材としてアセチレンブラックを用い、バインダとしてPVDFを用いている。また、正極合材を作製する際に用いる正極溶媒として、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を用いている。
【0033】
なお、本実施例1では、正極溶媒(NMP)の残留量は、第1正極合材層13bよりも第2正極合材層13cのほうが多くなっている(図5参照)。また、正極合材層13内に含まれる水分量も、第1正極合材層13bよりも第2正極合材層13cのほうが多くなっている。溶媒の残留量及び水分量が多い合材層ほど反応抵抗が大きくなるため、本実施例1の正極板10では、第2正極合材層13cのほうが、第1正極合材層13bよりも反応抵抗が大きくなる。
【0034】
また、負極板20において、負極活物質として黒鉛を用い、バインダとしてPVDFを用いている。また、負極合材を作製する際に用いる負極溶媒として、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を用いている。
【0035】
なお、本実施例1では、負極溶媒(NMP)の残留量は、第1負極合材層23bよりも第2負極合材層23cのほうが多くなっている(図5参照)。また、負極合材層23内に含まれる水分量も、第1負極合材層23bよりも第2負極合材層23cのほうが多くなっている。従って、本実施例1の負極板20では、第2負極合材層23cのほうが、第1負極合材層23bよりも反応抵抗が大きくなる。
【0036】
本実施例1では、第2正極合材層13cと第1負極合材層23bとをセパレータ30を介して対向させると共に、第1正極合材層13bと第2負極合材層23cとをセパレータ30を介して対向させて、電極体40を形成している(図2及び図5参照)。すなわち、溶媒残留量が多い合材層と少ない合材層とがセパレータを介して対向するようにして、電極体40を形成している。具体的には、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が多い第2正極合材層13cと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が少ない第1負極合材層23bとを、セパレータ30を介して対向させると共に、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が少ない第1正極合材層13bと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が多い第2負極合材層23cとを、セパレータ30を介して対向させて、電極体40を形成している。
【0037】
次に、実施例1にかかるリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
まず、正極板10を作製する。ここで、図3を参照して、正極板10の作製方法を詳細に説明する。まず、ステップS1において、正極合材を作製する。具体的には、正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)と導電材(アセチレンブラック)とバインダ(PVDF)とを、正極溶媒(NMP)中に分散させて、ペースト状の正極合材を得る。なお、本実施例1では、正極活物質と導電材とバインダとの混合比を、92:5:3(重量比)としている。
【0038】
次いで、ステップS2(第1塗工工程)にすすみ、作製したペースト状の正極合材を、正極集電部材11(アルミニウム箔)の第1面11bに塗工する。その後、ステップS3(第1乾燥工程)に進み、塗工した正極合材を乾燥させる。なお、本実施例1では、110℃の温度で180秒間、正極合材の乾燥を行っている。詳細には、第1面11bに正極合材を塗工した正極集電部材11(第1面11bに正極合材を有する正極集電部材11)を、110℃の温度に設定した乾燥機内へ一定速度で送り、乾燥機内を通過させることによって、正極合材を乾燥させている。
【0039】
次に、ステップS4(第2塗工工程)に進み、前述したペースト状の正極合材を、今度は、正極集電部材11(アルミニウム箔)の第2面11cに塗工する。その後、ステップS5(第2乾燥工程)に進み、塗工した正極合材を乾燥させる。ここでも、110℃の温度で180秒間、正極合材の乾燥を行う。詳細には、第2面11cにも正極合材を塗工した正極集電部材11(第1面11b及び第2面11cに正極合材を有する正極集電部材11)を、110℃の温度に設定した乾燥機内へ一定速度で送り、乾燥機内を通過させる。これにより、正極集電部材11の第1面11bと第2面11cとに、正極合材層13(第1正極合材層13bと第2正極合材層13c)が形成される。
【0040】
その後、ステップS6に進み、正極合材層13(第1正極合材層13bと第2正極合材層13c)を有する正極集電部材11を圧縮成形することで、正極板10が完成する。なお、本実施例1では、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cの1cm2 当たりの重量(乾燥後重量)が、共に20mg/cm2 となるように、正極合材を塗工している。
【0041】
ところで、正極集電部材11の第1面11bに塗工した正極合材(正極溶媒を含む)は、第1乾燥工程(ステップS3)で乾燥するだけでなく、第2乾燥工程(ステップS5)においても乾燥することになる。これに対し、正極集電部材11の第2面11cに塗工した正極合材(正極溶媒を含む)は、第2乾燥工程においてのみ乾燥が行われる。このため、第1正極合材層13bのほうが第2正極合材層13cよりも正極溶媒(NMP)の残留量が少なくなる。
【0042】
上述のようにして作製した正極板10について、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cに残留している正極溶媒(NMP)の量を測定した。本実施例1では、ガスクロマトグラフ GC−4000(ジーエルサイエンス社製)を用いて、以下のようにして正極溶媒の残留量を測定した。
【0043】
まず、標準液を用意する。具体的には、サンプルビン内にDEC(ジエチルカーボネート)を10ml入れる。さらに、このサンプルビン内に、デカンを2μlとNMPを2μl入れる。次いで、このサンプルビン(サンプルビン内の液体)に、超音波を2分間照射する。その後、このサンプルビン内の液体(標準液)を2mlだけ取り出し、この2mlの標準液をGC用容器(ガスクロマトグラフ用容器)に入れる。次いで、標準液の入ったGC用容器をガスクロマトグラフに装着し、オーブン温度を300℃に設定して、ガスクロマトグラフィーにより標準液の分析を行った。
【0044】
次に、第1測定液を用意する。具体的には、正極板10から所定サイズ(具体的には100cm2)の切断片を切り出し、この切断片から第2正極合材層13cを剥離する。これにより、所定サイズ(具体的には100cm2)の第1試験片(正極集電部材11に第1正極合材層13bのみが積層されているもの)を得る。この第1試験片の重量を測定した後、この第1試験片をサンプルビン内に入るように細かく裁断して、サンプルビン内に入れる。さらに、このサンプルビン内に、DEC(ジエチルカーボネート)を10mlと、デカンを2μl入れる。
【0045】
次いで、標準液のときと同様にして、このサンプルビン(サンプルビン内の液体)に、超音波を2分間照射する。その後、このサンプルビン内の液体を濾過し、その濾液(これが第1測定液)2mlをGC用容器(ガスクロマトグラフ用容器)に入れる。次いで、標準液のときと同様にして、第1測定液の入ったGC用容器をガスクロマトグラフに装着し、オーブン温度を300℃に設定して、ガスクロマトグラフィーにより第1測定液の分析を行った。その後、標準液の分析結果と第1測定液の分析結果とについて、NMPのピークを比較することで、第1測定液中のNMP重量(μg)を算出した。
【0046】
また、正極板10から所定サイズ(具体的には100cm2)の切断片を切り出し、この切断片から第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cを剥離して、所定サイズ(具体的には100cm2)の正極集電部材(アルミニウム箔)を得る。次いで、この正極集電部材(アルミニウム箔)の重量を測定する。その後、この正極部材重量を、先に測定した第1試験片の重量から差し引いて、第1試験片に含まれる第1正極合材層(100cm2のサンプル)の重量(相当重量)を得る。
【0047】
次いで、算出された第1測定液中のNMP重量(μg)と第1正極合材層(100cm2のサンプル)の重量(g)とから、下記の演算式に基づいて、第1正極合材層13bに残留するNMP(正極溶媒)の量(ppm)を算出する。
NMP(正極溶媒)の残留量(ppm)=[第1測定液中のNMP重量(μg)]/[第1正極合材層(100cm2のサンプル)の重量(g)]
【0048】
算出したところ、実施例1にかかる第1正極合材層13bのNMP(正極溶媒)残留量は、21ppmであった。その結果を図5に示す。
なお、図5では、「正極」の欄において、第1正極合材層13bを「第1」と略して表記し、第2正極合材層13cを「第2」と略して表記している。
【0049】
次に、第2測定液を用意する。具体的には、正極板10から所定サイズ(具体的には100cm2)の切断片を切り出し、この切断片から第1正極合材層13bを剥離する。これにより、所定サイズ(具体的には100cm2)の第2試験片(正極集電部材11に第2正極合材層13cのみが積層されているもの)を得る。次いで、この第2試験片の重量を測定し、この測定重量から、前述の正極集電部材(アルミニウム箔)の測定重量を差し引いて、第2正極合材層(100cm2のサンプル)の重量(相当重量)を得る。その後、この第2試験片をサンプルビン内に入るように細かく裁断して、サンプルビン内に入れる。さらに、このサンプルビン内に、DEC(ジエチルカーボネート)を10mlと、デカンを2μl入れる。
【0050】
次いで、標準液のときと同様にして、このサンプルビン(サンプルビン内の液体)に、超音波を2分間照射する。その後、このサンプルビン内の液体を濾過し、その濾液(これが第2測定液)2mlをGC用容器に入れる。次いで、第2測定液の入ったGC用容器をガスクロマトグラフに装着し、オーブン温度を300℃に設定して、ガスクロマトグラフィーにより第2測定液の分析を行った。その後、標準液の分析結果と第2測定液の分析結果とについて、NMPのピークを比較することで、第2測定液中のNMP重量(μg)を算出した。
【0051】
次いで、算出された第2測定液中のNMP重量(μg)と第2正極合材層(100cm2のサンプル)の重量(g)とから、下記の演算式に基づいて、第2正極合材層13cに残留するNMP(正極溶媒)の量(ppm)を算出する。
NMP(正極溶媒)の残留量(ppm)=[第2測定液中のNMP重量(μg)]/[第2正極合材層(100cm2のサンプル)の重量(g)]
算出したところ、実施例1にかかる第2正極合材層13cのNMP(正極溶媒)残留量は330ppmとなり、第1正極合材層13bに比べて多量(15倍以上)のNMP(正極溶媒)が残留していることが判明した。その結果を図5に示す。
【0052】
次に、実施例1の正極板10について、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cに含まれる水分量を測定した。本実施例1では、ドライボックス(露点を−55℃〜−35℃とした雰囲気)内に設置したアクアカウンター AQ−7及びエバポレーターユニット EV−6(平沼産業社製)を用いて、以下のようにして水分量を測定した。なお、電解液として、平沼水分測定装置用試薬、具体的には、ハイドラナールR アクアライトRS−A(SIGMA−ALDICH社製)を用いている。また、キャリアガスとして、ダイオー社製の高純度窒素(99.99%)を用い、キャリアガス流量を0.15L/minとしている。
【0053】
まず、正極板10から所定サイズ(具体的には縦4cm×横3.5cm)の切断片を切り出し、この切断片から第2正極合材層13cを剥離する。これにより、所定サイズの第1試験片(正極集電部材11に第1正極合材層13bのみが積層されているもの)を得る。この第1試験片の重量を測定した後、この第1試験片に含まれる水分重量(μg)を、上述の装置を用いて測定する。なお、第1試験片の加熱温度を120℃に設定し、30分間測定している。
【0054】
また、正極板10から同サイズ(具体的には縦4cm×横3.5cm)の切断片を切り出し、この切断片から第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cを剥離して、所定サイズ(具体的には縦4cm×横3.5cm)の正極集電部材(アルミニウム箔)を得る。次いで、この正極集電部材(アルミニウム箔)の重量を測定する。その後、この正極部材重量を、先に測定した第1試験片の重量から差し引いて、第1試験片に含まれる第1正極合材層(縦4cm×横3.5cmのサンプル)の重量(相当重量)を得る。
【0055】
次いで、測定した第1試験片中の水分重量(μg)と第1正極合材層(縦4cm×横3.5cmのサンプル)の重量(g)とから、下記の演算式に基づいて、第1正極合材層13bに含まれる水分量(ppm)を算出する。
第1正極合材層13bに含まれる水分量(ppm)=[測定した第1試験片中の水分重量(μg)]/[第1正極合材層(縦4cm×横3.5cmのサンプル)の重量(g)]
算出したところ、実施例1にかかる第1正極合材層13bに含まれる水分量は105ppmであった。その結果を図5に示す。
【0056】
また、これと同様にして、実施例1にかかる第2正極合材層13cに含まれる水分量を測定したところ、447ppmとなり、第1正極合材層13bに比べて多量(4倍以上)の水分が含まれていることが判明した。その結果を図5に示す。
なお、実施例1では、正極溶媒として水を用いていないが、正極溶媒であるNMPが大気中の水分を吸収したものと考えられる。残留する正極溶媒の量が、第2正極合材層13cのほうが第1正極合材層13bよりも多いため、吸収した水分量も多くなっていると考えられる。
【0057】
このように、本実施例1の正極板10では、第2正極合材層13cのほうが、第1正極合材層13bよりも、正極溶媒(NMP)の残留量及び水分量が共に多いので、第2正極合材層13cのほうが、第1正極合材層13bよりも反応抵抗が大きくなると考えられる。
【0058】
また、負極板20を作製する。ここで、図4を参照して、負極板20の作製方法を詳細に説明する。まず、ステップT1において、負極合材を作製する。具体的には、負極活物質(黒鉛)とバインダ(PVDF)を、負極溶媒(NMP)中に分散させて、ペースト状の負極合材を得る。なお、本実施例1では、負極活物質とバインダとの混合比を、98:2(重量比)としている。
【0059】
次いで、ステップT2(第1塗工工程)にすすみ、作製したペースト状の負極合材を、負極集電部材21(銅箔)の第1面21bに塗工する。その後、ステップT3(第1乾燥工程)に進み、塗工した負極合材を乾燥させる。なお、本実施例1では、正極合材の乾燥工程と同様な手法を用いて、100℃の温度(正極合材とは異なる温度)で180秒間、負極合材の乾燥を行っている。
【0060】
次に、ステップT4(第2塗工工程)に進み、前述したペースト状の負極合材を、今度は、負極集電部材21(銅箔)の第2面21cに塗工する。その後、ステップT5(第2乾燥工程)に進み、塗工した負極合材を乾燥させる。ここでも、100℃の温度で180秒間、負極合材の乾燥を行う。これにより、負極集電部材21の第1面21bと第2面21cとに、負極合材層23(第1負極合材層23bと第2負極合材層23c)が形成される。
【0061】
その後、ステップT6に進み、負極合材層23(第1負極合材層23bと第2負極合材層23c)を有する負極集電部材21を圧縮成形することで、負極板20が完成する。
なお、本実施例1では、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cの1cm2 当たりの重量(乾燥後重量)が、共に11mg/cm2 となるように、負極合材を塗工している。
【0062】
ところで、負極板20においても、正極板10と同様に、第1負極合材層23bのほうが第2負極合材層23cよりも負極溶媒(NMP)の残留量が少なくなる。負極集電部材21の第1面21bに塗工した正極合材(正極溶媒を含む)は、第1乾燥工程(ステップT3)で乾燥するだけでなく、第2乾燥工程(ステップT5)においても乾燥することになるが、第2面21cに塗工した負極合材(正極溶媒を含む)は、第2乾燥工程でしか乾燥が行われないからである。
【0063】
上述のようにして作製した負極板20について、正極板10のときと同様にして、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cに残留している負極溶媒(NMP)の量を測定した。測定したところ、実施例1にかかる第1負極合材層23bのNMP(負極溶媒)残留量は、37ppmであった。一方、第2負極合材層23cのNMP(負極溶媒)残留量は419ppmとなり、第1負極合材層23bに比べて多量(11倍以上)のNMP(負極溶媒)が残留していることが判明した。これらの結果を図5に示す。
【0064】
また、実施例1の負極板20について、正極板10のときと同様にして、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cに含まれる水分量を測定した。測定したところ、実施例1にかかる第1負極合材層23bに含まれる水分量は、109ppmであった。一方、第2負極合材層23cに含まれる水分量は510ppmとなり、第1負極合材層23bに比べて多量(約5倍)の水分が含まれていることが判明した。これらの結果も図5に示す。なお、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cに水分が含まれている理由、及び、第2負極合材層23cのほうが第1負極合材層23bよりも水分量が多い理由は、正極合材層13と同様である。
【0065】
このように、本実施例1の負極板20では、第2負極合材層23cのほうが、第1負極合材層23bよりも、負極溶媒(NMP)の残留量及び水分量が共に多いので、第2負極合材層23cのほうが、第1負極合材層23bよりも反応抵抗が大きくなると考えられる。
【0066】
次に、円筒状の捲回軸45の周りに、正極板10、セパレータ30、負極板20、及びセパレータ30を捲回する。但し、本実施例1では、第2正極合材層13cと第1負極合材層23bとがセパレータ30を介して対向すると共に、第1正極合材層13bと第2負極合材層23cとがセパレータ30を介して対向するように、正極板10と負極板20とを配置して、電極体40を形成している(図2及び図5参照)。なお、図5では、「対向する合材層」の欄において、セパレータ30を介して対向する正極合材層と負極合材層とを、括弧内に(正極/負極)で表記している。例えば、図5において(第1/第2)とは、第1正極合材層13bと第2負極合材層23cとがセパレータ30を介して対向することを表している。
【0067】
これにより、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒(NMP)の残留量が多い第2正極合材層13cと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒(NMP)の残留量が少ない第1負極合材層23bとを、セパレータ30を介して対向させると共に、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が少ない第1正極合材層13bと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が多い第2負極合材層23cとを、セパレータ30を介して対向させて、電極体40を形成することができる。その後、電極体40の外周を、電気絶縁性の樹脂フィルム68で被覆する。
【0068】
その後、電極体40の正極合材層未塗工部(正極板10のうち正極合材層が塗工されていない部位)の端面に、略十字形状の金属板からなる正極集電部材71を溶接する。さらに、電極体40の負極合材層未塗工部(負極板20のうち負極合材層が塗工されていない部位)の端面に、円板状の金属板からなる負極集電部材72を溶接する。さらに、正極集電部材71に、接続部材53を溶接する。
【0069】
次に、正極集電部材71及び負極集電部材72を溶接した電極体40を、電池缶61の開口部61bを通じて、電池缶61の内部に収容(挿入)する。その後、負極集電部材72を電池缶61の底部61kに溶接する。これにより、電池缶61の底部61kが負極外部端子となる。次いで、電池缶61の全周にわたってビード61gを形成した後、電池缶61の内部に電解液を注入する。
【0070】
次いで、電池缶61の開口部61bに、ガスケット69を介して電池蓋62を組み付ける。なお、電池缶61の開口部61b内に電池蓋62を組み付ける際、電池蓋62に接続部材53を溶接する。これにより、正極集電部材71と電池蓋62とが接続部材53を通じて電気的に接続されるので、電池蓋62が正極外部端子となる。
【0071】
その後、電池缶61の開口部61bに対しカシメ加工を行って、電池蓋62により電池缶61を封口する。このとき、電池缶61と電池蓋62との間をガスケット69により電気的に絶縁しつつ、電池缶61と電池蓋62とを一体とした電池ケース60が形成される。その後、上記のようにして組み立てた電池について、初期充電、エージングなどの処理を行って、本実施例1の電池1が完成する。
【0072】
(実施例2)
次に、実施例2にかかるリチウムイオン二次電池1について説明する。
本実施例2は、実施例1と比較して、負極板(負極合材層)及びその製造方法のみが異なり、その他については同様である。
【0073】
具体的には、本実施例2の負極板20では、負極活物質として黒鉛を用いる点は実施例1と共通するが、バインダとしてSBRを用い、増粘剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を加えている点で異なる。また、負極合材を作製する際に用いる負極溶媒として、水を用いる点も異なっている。
【0074】
なお、本実施例2でも、負極溶媒(水)の残留量は、第1負極合材層23bよりも第2負極合材層23cのほうが多くなっている(図5参照)。従って、本実施例2の負極板20でも、第2負極合材層23cのほうが、第1負極合材層23bよりも反応抵抗が大きくなる。
【0075】
本実施例2でも、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が多い第2正極合材層13cと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が少ない第1負極合材層23bとを、セパレータ30を介して対向させると共に、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が少ない第1正極合材層13bと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が多い第2負極合材層23cとを、セパレータ30を介して対向させて、電極体40を形成している(図2及び図5参照)。
【0076】
次に、実施例2にかかるリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。なお、負極板20以外は、実施例1と同様の製造方法であるため、ここでは、負極板20の製造方法についてのみ説明する。
【0077】
図4を参照して、実施例2にかかる負極板20の製造方法を説明する。まず、ステップT1において、負極合材を作製する。具体的には、負極活物質(黒鉛)とバインダ(SBR)と増粘剤(CMC)を、負極溶媒(水)中に分散させて、ペースト状の負極合材を得る。なお、本実施例2では、負極活物質とバインダと増粘剤の混合比を、98:1:1(重量比)としている。
【0078】
次いで、ステップT2(第1塗工工程)にすすみ、作製したペースト状の負極合材を、負極集電部材21(銅箔)の第1面21bに塗工する。その後、ステップT3(第1乾燥工程)に進み、実施例1と同様の装置を用いて、塗工した負極合材を乾燥させる。なお、本実施例2では、60℃の温度で120秒間、負極合材の乾燥を行っている。
【0079】
次に、ステップT4(第2塗工工程)に進み、前述したペースト状の負極合材を、今度は、負極集電部材21(銅箔)の第2面21cに塗工する。その後、ステップT5(第2乾燥工程)に進み、塗工した負極合材を乾燥させる。ここでも、60℃の温度で120秒間、負極合材の乾燥を行う。これにより、負極集電部材21の第1面21bと第2面21cとに、負極合材層23(第1負極合材層23bと第2負極合材層23c)が形成される。
【0080】
その後、ステップT6に進み、負極合材層23(第1負極合材層23bと第2負極合材層23c)を有する負極集電部材21を圧縮成形することで、負極板20が完成する。
なお、本実施例2でも、実施例1と同様に、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cの重量(乾燥後重量)が、共に11mg/cm2 となるように、負極合材を塗工している。
【0081】
上述のようにして作製した負極板20について、実施例1と同様にして、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cに残留している負極溶媒(水)の量を測定した。測定したところ、実施例2にかかる第1負極合材層23bの水(負極溶媒)残留量は、230ppmであった。一方、第2負極合材層23cの水(負極溶媒)残留量は785ppmとなり、第1負極合材層23bに比べて多量(約3.4倍)の水(負極溶媒)が残留していることが判明した。これらの結果を図5に示す。
【0082】
(実施例3)
次に、実施例3にかかるリチウムイオン二次電池1について説明する。
本実施例3は、実施例1と比較して、正極板(正極合材層)及びその製造方法のみが異なり、その他については同様である。
【0083】
具体的には、本実施例3の正極板10では、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/32を用い、導電材としてアセチレンブラックを用いる点で実施例1と共通するが、バインダとしてPTFEを用い、増粘剤としてCMCを加えている点で異なる。また、正極合材を作製する際に用いる正極溶媒として、水を用いる点も異なっている。
【0084】
なお、本実施例3でも、正極溶媒(水)の残留量は、第1正極合材層13bよりも第2正極合材層13cのほうが多くなっている(図5参照)。従って、本実施例3の正極板10でも、第2正極合材層13cのほうが、第1正極合材層13bよりも反応抵抗が大きくなる。
【0085】
本実施例3でも、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が多い第2正極合材層13cと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が少ない第1負極合材層23bとを、セパレータ30を介して対向させると共に、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が少ない第1正極合材層13bと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が多い第2負極合材層23cとを、セパレータ30を介して対向させて、電極体40を形成している(図2及び図5参照)。
【0086】
次に、実施例3にかかるリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。なお、正極板10以外は、実施例1と同様の製造方法であるため、ここでは、正極板10の製造方法についてのみ説明する。
【0087】
図3を参照して、実施例3にかかる正極板10の製造方法を説明する。まず、ステップS1において、正極合材を作製する。具体的には、正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)と導電材(アセチレンブラック)とバインダ(PTFE)と増粘剤(CMC)を、正極溶媒(水)中に分散させて、ペースト状の正極合材を得る。なお、本実施例3では、正極活物質と導電材とバインダと増粘剤の混合比を、92:5:2:1(重量比)としている。
【0088】
次いで、ステップS2(第1塗工工程)にすすみ、作製したペースト状の正極合材を、正極集電部材11(アルミニウム箔)の第1面11bに塗工する。その後、ステップS3(第1乾燥工程)に進み、実施例1と同様の装置を用いて、塗工した正極合材を乾燥させる。なお、本実施例3では、60℃の温度で300秒間、正極合材の乾燥を行っている。
【0089】
次に、ステップS4(第2塗工工程)に進み、前述したペースト状の正極合材を、今度は、正極集電部材11(アルミニウム箔)の第2面11cに塗工する。その後、ステップS5(第2乾燥工程)に進み、塗工した正極合材を乾燥させる。ここでも、60℃の温度で300秒間、正極合材の乾燥を行う。これにより、正極集電部材11の第1面11bと第2面11cとに、正極合材層13(第1正極合材層13bと第2正極合材層13c)が形成される。
【0090】
その後、ステップS6に進み、正極合材層13(第1正極合材層13bと第2正極合材層13c)を有する正極集電部材11を圧縮成形することで、正極板10が完成する。
なお、本実施例3でも、実施例1と同様に、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cの重量(乾燥後重量)が、共に20mg/cm2 となるように、正極合材を塗工している。
【0091】
上述のようにして作製した正極板10について、実施例1と同様にして、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cに残留している正極溶媒(水)の量を測定した。測定したところ、実施例3にかかる第1正極合材層13bの水(負極溶媒)残留量は、367ppmであった。一方、第2正極合材層13cの水(負極溶媒)残留量は894ppmとなり、第1正極合材層13bに比べて多量(約2.5倍)の水(負極溶媒)が残留していることが判明した。これらの結果を図5に示す。
【0092】
(実施例4)
次に、実施例4にかかるリチウムイオン二次電池1について説明する。
本実施例4は、実施例1と比較して、正極板及び負極板のみが異なり、その他については同様である。具体的には、本実施例4では、正極板として実施例3と同等の正極板10を用い、負極板として実施例2と同等の負極板20を用いている。従って、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cに残留している正極溶媒(水)の量は、実施例3と同等となる(図5参照)。また、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cに残留している負極溶媒(水)の量は、実施例2と同等となる。
【0093】
(比較例1〜4)
比較例1〜4では、実施例1〜4とは異なり、溶媒残留量が多い合材層同士及び溶媒残留量が少ない合材層同士をセパレータを介して対向させて、電極体を形成した。具体的には、第1正極合材層及び第2正極合材層のうち正極溶媒の残留量が多い第2正極合材層と、第1負極合材層及び第2負極合材層のうち負極溶媒の残留量が多い第2負極合材層とを、セパレータを介して対向させると共に、第1正極合材層及び第2正極合材層のうち正極溶媒の残留量が少ない第1正極合材層と、第1負極合材層及び第2負極合材層のうち負極溶媒の残留量が少ない第1負極合材層とを、セパレータを介して対向させて、電極体を形成した(図5参照)。それ以外は、実施例1〜4と同様にして、比較例1〜4のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0094】
従って、実施例1の電池と比較例1の電池とは、セパレータを介して対向する合材層のみが異なる関係にある。また、実施例2の電池と比較例2の電池とは、セパレータを介して対向する合材層のみが異なる関係にある。また、実施例3の電池と比較例3の電池とは、セパレータを介して対向する合材層のみが異なる関係にある。また、実施例4の電池と比較例4の電池とは、セパレータを介して対向する合材層のみが異なる関係にある。
比較例1〜4にかかる電池のデータについても、図5に示す。
【0095】
(サイクル試験)
次に、実施例1〜4及び比較例1〜4の電池について、充放電サイクル試験を行い、サイクル試験後の容量維持率を比較した。
まず、各電池について初期容量を測定した。具体的には、各電池について、25℃の温度環境下で、電池電圧値が4.2Vとなるまで充電する。その後、1Aの一定電流値で、電池電圧値が3.0Vになるまで放電する。このときの放電容量を、初期容量として測定した。その結果を図5に示す。
【0096】
次に、各電池について、60℃の温度環境下で、充放電サイクルを行った。具体的には、3.0Vの電池電圧値が4.2Vになるまで、4.0Aの一定電流値で充電を行う。その後、10分間休止した後、今度は、4.2Vの電池電圧値が3.0Vになるまで、4.0Aの一定電流値で放電を行う。この充放電を1サイクルとして、各電池について、1000サイクルの充放電を行った。
【0097】
充放電サイクル後、各電池について、電池容量(サイクル後容量とする)を測定した。そして、以下の演算式に基づいて、各電池について、充放電サイクル後の容量維持率(サイクル容量維持率)を算出した。その結果を図5に示す。
サイクル容量維持率(%)=(サイクル後容量/初期容量)×100
【0098】
図5に示すように、比較例1〜4では、容量維持率が77〜79%となった。これに対し、実施例1〜4では、容量維持率が85〜89%となり、比較例1〜4よりも高い容量維持率を示した。この結果より、実施例1〜4の電池及びその製造方法によれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性(サイクル容量維持率)を良好とすることができるといえる。
【0099】
詳細には、実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1(85%)のほうが比較例1(77%)よりも容量維持率が8%も高くなった。また、実施例2と比較例2とを比較すると、実施例2(87%)のほうが比較例2(78%)よりも容量維持率が9%も高くなった。また、実施例3と比較例3とを比較すると、実施例3(88%)のほうが比較例3(78%)よりも容量維持率が10%も高くなった。また、実施例4と比較例4を比較すると、実施例4(89%)のほうが比較例4(79%)よりも容量維持率が10%も高くなった。
【0100】
前述のように、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、及び実施例4と比較例4とでは、セパレータを介して対向する合材層のみが異なる関係にある。従って、実施例1〜4のように、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が多い第2正極合材層13cと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が少ない第1負極合材層23bとを、セパレータ30を介して対向させると共に、第1正極合材層13b及び第2正極合材層13cのうち正極溶媒の残留量が少ない第1正極合材層13bと、第1負極合材層23b及び第2負極合材層23cのうち負極溶媒の残留量が多い第2負極合材層23cとを、セパレータ30を介して対向させて、電極体40を形成することで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性(サイクル容量維持率)を良好とすることができるといえる。
【0101】
このような結果となった理由は、次のように考えている。
溶媒の残留量及び水分量が多い合材層ほど反応抵抗が大きくなる傾向にある。従って、実施例1〜4及び比較例1〜4では、いずれも、正極溶媒の残留量及び水分量は、第1正極合材層よりも第2正極合材層のほうが多く、負極溶媒の残留量及び水分量は、第1負極合材層よりも第2負極合材層のほうが多くなっている(図5参照)。このため、第2正極合材層のほうが第1正極合材層よりも反応抵抗が大きく、第2負極合材層のほうが第1負極合材層よりも反応抵抗が大きくなると考えられる。
【0102】
従って、実施例1〜4のように、溶媒残留量が多い合材層と少ない合材層とがセパレータを介して対向するように電極体を形成することで、比較例1〜4のように、溶媒残留量が多い合材層同士及び溶媒残留量が少ない合材層同士をセパレータを介して対向させる場合に比べて、正負極間の反応抵抗差を小さく(従って反応差を小さく)することができると考えられる。その結果、実施例1〜4では、比較例1〜4に比べて、サイクル充放電による劣化(容量劣化)を抑制して、リチウムイオン二次電池のサイクル特性(サイクル容量維持率)を良好とすることができたと考えている。
【0103】
以上において、本発明を実施形態(実施例1〜4)に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【0104】
例えば、実施形態では、電極体を、正極板と負極板とセパレータとを渦巻き状に捲回した捲回型電極体とした。しかしながら、本発明は、このような形態の電極体に限らず、正極板と負極板とをセパレータを介して積層した積層型電極体とする場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 リチウムイオン二次電池
10 正極板
11 正極集電部材
11b 正極集電部材の第1面
11c 正極集電部材の第2面
13 正極合材層
13b 第1正極合材層
13c 第2正極合材層
20 負極板
21 負極集電部材
21b 負極集電部材の第1面
21c 負極集電部材の第2面
23 負極合材層
23b 第1負極合材層
23c 第2負極合材層
30 セパレータ
40 電極体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電部材の第1面及び第2面に正極合材層が形成された正極板であって、上記正極合材層内に残留する正極溶媒の量が、上記第1面に形成されている第1正極合材層と上記第2面に形成されている第2正極合材層とで異なる正極板と、
負極集電部材の第1面及び第2面に負極合材層が形成された負極板であって、上記負極合材層内に残留する負極溶媒の量が、上記第1面に形成されている第1負極合材層と上記第2面に形成されている第2負極合材層とで異なる負極板と、
セパレータと、を用いて、
電極体を形成する電極体形成工程を備える
リチウムイオン二次電池の製造方法であって、
上記電極体形成工程は、
上記第1正極合材層及び上記第2正極合材層のうち上記正極溶媒の残留量が多い正極合材層と、上記第1負極合材層及び上記第2負極合材層のうち上記負極溶媒の残留量が少ない負極合材層とを、上記セパレータを介して対向させると共に、
上記第1正極合材層及び上記第2正極合材層のうち上記正極溶媒の残留量が少ない正極合材層と、上記第1負極合材層及び上記第2負極合材層のうち上記負極溶媒の残留量が多い負極合材層とを、上記セパレータを介して対向させて、上記電極体を形成する
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記正極集電部材の前記第1面に前記正極溶媒を含む正極合材を塗工し、塗工した上記正極合材を乾燥させた後、上記正極集電部材の前記第2面に上記正極溶媒を含む正極合材を塗工し、塗工した上記正極合材を乾燥させて、上記正極集電部材の上記第1面に前記第1正極合材層を形成すると共に上記第2面に前記第2正極合材層を形成する工程と、
前記負極集電部材の前記第1面に前記負極溶媒を含む負極合材を塗工し、塗工した上記負極合材を乾燥させた後、上記負極集電部材の前記第2面に上記負極溶媒を含む負極合材を塗工し、塗工した上記負極合材を乾燥させて、上記負極集電部材の上記第1面に前記第1負極合材層を形成すると共に上記第2面に前記第2負極合材層を形成する工程と、を備え、
前記電極体形成工程は、
上記第2正極合材層と上記第1負極合材層とを前記セパレータを介して対向させると共に、上記第1正極合材層と上記第2負極合材層とを上記セパレータを介して対向させて、前記電極体を形成する
リチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−190552(P2012−190552A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50597(P2011−50597)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】