説明

リチウムイオン二次電池及び組電池

【課題】組電池を充電する際に単電池のSOCのバラツキに伴う過充電を防止するリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明よって提供されるリチウムイオン二次電池は、正極と負極と電解液とを備えている。正極は、集電体上に形成された正極活物質層であって、主成分として所定の酸化還元電位を有する主正極活物質と、該主正極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位正極活物質とを含む正極活物質層を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。また、複数のリチウムイオン二次電池が電気的に相互に接続された組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンが正極と負極との間を行き来することにより充電および放電するリチウムイオン二次電池は、軽量で高エネルギー密度が得られることから、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源に好ましく用いられるものとして重要性が高まっている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池(単電池)を相互に(典型的には直列に)接続してなる組電池において、各単電池の構築の際或いは組電池として使用している際に各単電池のSOC(State of charge;充電状態、即ち電池の残容量)にバラツキが生じる場合がある。単電池同士でSOCにバラツキのある組電池を充電すると該組電池を構成する単電池のうちの一つの単電池が満充電になったときに組電池全体の充電を止める必要がある。充電を止めずに全ての単電池が満充電になるまで充電すると、いくつかの単電池は過充電となり該過充電の単電池内の正極において分解反応が起こる等の不具合が発生する虞があるためである。一方、充電を止めた場合には、他の単電池はまだ充電可能であるにも関わらず満充電まで充電されないこととなり、使用できる容量が不足してしまう虞がある。このように各単電池のSOCのバラツキによって、組電池としてのその能力を最大限に発揮できない場合が発生し得る。
このような問題に対応すべく、従来技術として、特許文献1から8が挙げられる。例えば、特許文献1には、各単電池の電圧を検出して基準となる電圧との電圧差が閾値以上の単電池を充電し又は放電させて電圧の均等化を図ろうとする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−038876号公報
【特許文献2】特開2000−078768号公報
【特許文献3】特開平09−017447号公報
【特許文献4】特開平05−335034号公報
【特許文献5】特開2007−048612号公報
【特許文献6】特開平11−213987号公報
【特許文献7】特開2007−294654号公報
【特許文献8】特開2009−142071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、単電池のSOCのバラツキに伴う過充電を防止することができるが、そのための装置構成が複雑となる。このため、より簡易な構成で同様の目的を実現できるものが求められていた。
そこで、本発明は、上述した従来の課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、組電池を充電する際に単電池のSOCのバラツキに伴う過充電を防止するリチウムイオン二次電池を提供することである。また、該リチウムイオン二次電池を備える組電池を提供すること他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明により、正極と負極と電解液とを備えるリチウムイオン二次電池が提供される。ここで開示されるリチウムイオン二次電池において、上記正極は、集電体と、該集電体上に形成された正極活物質層であって、主成分として所定の酸化還元電位を有する主正極活物質と該主正極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位正極活物質とを含む正極活物質層を備えることを特徴とする。
【0007】
なお、本明細書において「正極活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種(ここではリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および離脱)可能な正極側の活物質をいう。
また、本明細書において「負極活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種(ここではリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および離脱)可能な負極側の活物質をいう。
さらにまた、本明細書において「SOC」とは、リチウムイオン二次電池の充電状態をいい、主正極活物質と主負極活物質とに基づいて決定され、主正極活物質と主負極活物質の電位差が最大(電池の上限電圧)となったときをSOC100%とし、主正極活物質と主負極活物質の電位差が最小(電池の下限電圧)となったときのSOCを0%とする。
【0008】
本発明によって提供されるリチウムイオン二次電池は、正極の集電体上に形成された正極活物質層に主成分としての主正極活物質と、該主正極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位正極活物質とが含まれている。
このように、正極活物質層内に主正極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位正極活物質が含まれていることで、リチウムイオン二次電池内に主正極活物質のみからなる正極の上限電圧(即ちSOC100%)よりも高い電圧平坦部(充電時の電圧変動が極めて小さい領域)を設けることができる。このため、リチウムイオン二次電池を充電する際に所定の酸化還元電位を有する主正極活物質からのリチウムイオンの放出が完了して上限電圧に達した後にさらに充電が行われる場合であっても、高電位正極活物質が反応し(リチウムイオンが放出され)、該リチウムイオン二次電池の電圧の上昇は高電位正極活物質による電圧平坦部で抑えられて過充電にならない。これにより、上限電圧異常(過充電によって発生し得る正極の分解に伴う発熱等の不具合)を未然に防止することができる。
従って、本発明のリチウムイオン二次電池を電気的に相互に(典型的には直列に)複数(典型的には10個以上、好ましくは10〜30個程度、例えば20個)接続して組電池を構築した場合に、各二次電池においてSOCのバラツキがあっても充電の際には過充電に伴う不具合の発生を防止することができると共に、各二次電池のSOCのバラツキを是正して充電状態を同じ、即ち全てのリチウムイオン二次電池を所定のSOC(典型的には70%〜100%)に揃えることができる。また、SOCのバラツキの補正は、各電池内の正極活物質層に高電位正極活物質を含めることにより行われるため、従来と比較してより簡易な構成となる。
【0009】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な一態様では、上記高電位正極活物質は、上記主正極活物質よりも少なくとも0.2V(例えば凡そ0.2V〜1.0V)高い酸化還元電位を有することを特徴とする。
かかる構成によると、主正極活物質からのリチウムイオンの放出が完了してリチウムイオン二次電池のSOCが100%に達した後にさらに充電される場合に、上限電圧異常(過充電によって発生し得る正極の分解に伴う発熱等の不具合)を効果的に防止することができる。
【0010】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な一態様では、上記正極活物質層は、上記主正極活物質100質量部当たり上記高電位正極活物質を5〜25質量部含むことを特徴とする。
かかる構成によると、リチウムイオン二次電池の所定のSOC(典型的には70%〜100%)における容量を十分に確保すると共に、過充電による上限電圧異常を効果的に防止することができる。
【0011】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な一態様では、上記主正極活物質は、オリビン型リチウム含有酸化物であり、且つ上記高電位正極活物質は、該主正極活物質を構成するオリビン型リチウム含有酸化物よりも高い酸化還元電位を有するオリビン型リチウム含有酸化物であることを特徴とする。
かかる構成によると、オリビン型リチウム含有酸化物は、リチウムイオンの放出が完了した後も安定した構造であるため、過充電による上限電圧異常をより効果的に防止することができる。
【0012】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な一態様では、上記負極は、集電体と、該集電体上に形成された負極活物質層であって、主成分として所定の酸化還元電位を有する主負極活物質と該主負極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位負極活物質とを含む負極活物質層を備えることを特徴とする。
このように、負極活物質層内に主負極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位負極活物質が含まれていることで、リチウムイオン二次電池内に主負極活物質のみからなる負極の下限電圧(即ちSOC0%)よりも低い電圧平坦部(充電時の電圧変動が極めて小さい領域)を設けることができる。このため、リチウムイオン二次電池を放電する際に所定の酸化還元電位を有する主負極活物質からのリチウムイオンの放出が完了して下限電圧に達した後にさらに放電が行われる場合であっても、高電位負極活物質が反応するため、該リチウムイオン二次電池の電圧の下降は高電位負極活物質による電圧平坦部で抑えられて過放電にならない。これにより、下限電圧異常(過放電によって発生し得る負極の分解に伴う容量の劣化等の不具合)を未然に防止することができる。
従って、上記リチウムイオン二次電池を電気的に相互に(典型的には直列に)複数接続して組電池を構築した場合に、各二次電池においてSOCのバラツキがあっても放電の際には過放電を防止すると共に各二次電池のSOCのバラツキを是正して充電状態を同じ、即ち各リチウムイオン二次電池間のSOCを均等化する。
【0013】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な一態様では、上記主負極活物質又は上記高電位負極活物質は、レーザー回折方式或いは光散乱方式に基づいて測定される粒度分布におけるD50(メジアン径)が1μmより大きい(典型的には1μm〜10μm、例えば3μm〜7μm)のチタン酸リチウムであることを特徴とする。
かかる構成によると、D50(メジアン径)が上記範囲内のチタン酸リチウムは低い抵抗値を示すため、リチウムイオン二次電池の抵抗低減の観点から負極活物質として好ましく使用することができる。
【0014】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の好適な一態様では、上記電解液は、上記主正極活物質よりも酸化還元電位の高いレドックスシャトル剤を含むことを特徴とする。
かかる構成によると、リチウムイオン二次電池のSOCが100%を超えてさらに充電される場合に、レッドクスシャトル剤が反応して電圧の上昇を抑えることができるため、上限電圧異常(正極の分解による発熱等)をより効果的に防止することができる。
【0015】
また、本発明によると、ここで開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池を複数個組み合わせた組電池が提供される。本発明によって提供される組電池は、充電の際に各単電池のSOCのバラツキに伴う過充電を防止することができる。従って、かかる組電池は、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用の電源として好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1中のII−II線に沿う縦断面図である。
【図3】一実施形態に係る組電池を模式的に示す斜視図である。
【図4】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の充放電時の電圧の変化を示すグラフである。
【図5】他の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の充放電時の電圧の変化を示すグラフである。
【図6】他の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の充放電時の電圧の変化を示すグラフである。
【図7】従来のリチウムイオン二次電池の充放電時の電圧の変化を示すグラフである。
【図8】リチウムイオン二次電池の抵抗とチタン酸リチウムのD50粒径との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
本発明によって提供されるリチウムイオン二次電池は、上述の通り集電体上に形成された正極活物質層であって、主成分として所定の酸化還元電位を有する主正極活物質と、該主正極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位正極活物質とを含む正極活物質層を備える
正極を備えることによって特徴づけられる。
【0019】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池に備えられる正極は、本発明を特徴づける高電位正極活物質を備える他は従来と同様の構成をとり得る。かかる正極を構成する正極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。
【0020】
次に、上記正極集電体の表面に形成された正極活物質層を構成する材料について説明する。上記正極集電体の表面には、少なくとも主正極活物質と、高電位正極活物質とを含む正極活物質層を有している。さらに必要に応じて、正極活物質層は導電材、結着材(バインダ)等を含有してもよい。
【0021】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極に形成される正極活物質層に含まれる主正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料であればよく、特に限定されない。例えば好適な一例として一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素;例えばLiFePO、LiMnPO)で表記されるオリビン型リチウム含有酸化物(典型的にはオリビン型リン酸リチウム)が挙げられる。或いは、リチウムおよび少なくとも1種の遷移金属元素を含む複合酸化物が挙げられる。該複合酸化物としては、例えば、コバルトリチウム複合酸化物(LiCoO)、ニッケルリチウム複合酸化物(LiNiO)、マンガンリチウム複合酸化物(LiMn)、あるいは、ニッケル・コバルト系のLiNiCo1−x(0<x<1)、コバルト・マンガン系のLiCoMn1−x(0<x<1)、ニッケル・マンガン系のLiNiMn1−x(0<x<1)やLiNiMn2−x(0<x<2)で表わされるような、遷移金属元素を2種含むいわゆる二元系リチウム含有複合酸化物、或いは、遷移金属元素を3種含むニッケル・コバルト・マンガン系のような三元系リチウム含有複合酸化物が挙げられる。
【0022】
また、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極に形成される正極活物質層に含まれる高電位正極活物質としては、上記主正極活物質と同様の材料であって正極活物質層に含まれる上記主正極活物質の有する所定の酸化還元電位(正極活物質により異なる)よりも高い酸化還元電位を有するものが挙げられる。好ましい一例として、オリビン型リチウム含有酸化物が挙げられる。
【0023】
上記高電位正極活物質は、リチウムイオン二次電池のSOC100%における上記主正極活物質の酸化還元電位よりも少なくとも0.2V(例えば凡そ0.2V〜1.0V)高い酸化還元電位を有することが好ましい。0.2Vよりも小さすぎると、リチウムイオン二次電池が上限電圧(満充電、SOC100%)に達した後にさらに充電を続けていくと、すぐに高電位正極活物質の酸化還元電位に達してしまう虞があり、過充電による上限電圧異常を効果的に防止できなくなる場合がある。
また、正極活物質層に含まれる高電位正極活物質の量は適宜決定されるが、主正極活物質100質量部に対して凡そ5〜25質量部(より好ましくは凡そ10〜15質量部)の使用が好ましい。高電位正極活物質が主正極活物質100質量部に対して5質量部よりも少なすぎると、過充電による上限電圧異常を効果的に防止できなくなる。また、上記25質量部よりも多すぎると、リチウムイオン二次電池の所定のSOC(典型的には70%〜100%)において十分な容量が得られない。
【0024】
また、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極に形成される正極活物質層に導電材を含ませる場合には、導電材としては、従来この種のリチウムイオン二次電池で用いられているものであればよく、特定の導電材に限定されない。例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の粉末状カーボン材料を用いることができる。
【0025】
さらに、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極に形成される正極活物質層に含まれる結着材(バインダ)としては、例えば、上記正極活物質層を形成する組成物として水系の液状組成物(典型的にはペースト状またはスラリー状に調製された組成物、以下、正極活物質層形成用ペーストという。)を用いる場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。あるいは、溶剤系の液状組成物(正極活物質層形成用ペースト)を用いる場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の、有機溶媒(非水溶媒)に溶解するポリマー材料を用いることができる。なお、上記で例示したポリマー材料は、結着材として用いられる他に、上記組成物の増粘剤その他の添加剤として使用されることもあり得る。
【0026】
ここで、「水系の液状組成物」とは、活物質の分散媒として水または水を主体とする混合溶媒を用いた組成物を指す概念である。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。「溶剤系の液状組成物」とは、活物質の分散媒が主として有機溶媒である組成物を指す概念である。有機溶媒としては、例えば、N‐メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。
【0027】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極は、例えば概ね以下の手順で好適に製造することができる。上述した主正極活物質及び高電位正極活物質、導電材および有機溶媒に対して可溶性である結着材等を有機溶媒に分散させてなる正極活物質層形成用ペーストを調製する。調製した該ペーストをシート状の正極集電体に塗布し、乾燥させた後、圧縮(プレス)することによって、正極集電体と該正極集電体上に形成された正極活物質層とを備える正極(正極シート)を作製することができる。なお、正極集電体に上記正極活物質層形成用ペーストを塗布する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができ、本発明を特徴付けるものではないため詳細な説明は省略する。
【0028】
上記正極を用いて構築したリチウムイオン二次電池において、正極集電体上に形成された正極活物質層は、少なくとも主正極活物質と高電位正極活物質とを含んでいる。このため、図4に示すように、該リチウムイオン二次電池をSOC100%(上限電圧)まで充電した後にさらに充電するような場合であっても、上記高電位正極活物質が反応(リチウムの脱離反応)し電圧の変動が極めて小さい電圧平坦部が現れるため、該リチウムイオン二次電池の電圧は該高電位正極活物質の反応による電圧平坦部の電圧より上昇せず、過充電に伴う不具合を発生させる異常電圧への上昇を未然に防ぐことができる。
他方、従来の構成(高電位正極活物質を含まない)のリチウムイオン二次電池では、図7に示すように、SOC100%の電圧(上限電圧)よりも高い電圧を有する電圧平坦部がないため、SOC100%を超えて充電した場合には、電圧が急上昇して過充電に伴う不具合が発生してしまう。
以上より、上記正極を用いて構築したリチウムイオン二次電池を複数個相互に(典型的には直列に)接続してなる組電池は、各二次電池においてSOCのバラツキがあっても充電の際には過充電を防止することができると共に、各二次電池のSOCのバラツキを是正して所定の充電状態(SOC)に揃えることができる。
【0029】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の負極に形成される負極活物質層に含まれる主負極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料であればよく、例えば、黒鉛(グラファイト)等の炭素材料;チタン酸リチウム(LiTi12,LTO)、酸化鉄(Fe)等の酸化物材料;スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)等の金属若しくはこれらの金属元素を主体とする金属合金からなる金属材料等が挙げられる。例えば、黒鉛粒子を好ましく用いることができる。
【0030】
また、リチウムイオン二次電池の放電時の下限電圧異常を防止するために上記負極活物質層に高電位負極活物質を混合してもよい。高電位負極活物質としては、上記主負極活物質と同様の材料であって負極活物質層に含まれる上記主負極活物質の有する所定の酸化還元電位(主負極活物質により異なる)よりも高い酸化還元電位を有するものが挙げられる。主負極活物質として黒鉛粒子を用いる場合には、例えば、チタン酸リチウムを好ましく用いることができる。このとき、チタン酸リチウムは、レーザー回折方式或いは光散乱方式等に基づく粒度分布測定装置によって測定される粒度分布におけるD50(メジアン径)が1μm大きい(典型的には1μm〜10μm(例えば、3μm〜7μm)ものが好ましい。上記範囲のチタン酸リチウムは低抵抗を示すため、電池抵抗低減の観点から好ましく使用することができる。
また、負極活物質層に含まれる高電位負極活物質の量は適宜決定されるが、主負極活物質100質量部に対して凡そ5〜25質量部(より好ましくは凡そ10〜15質量部)の使用が好ましい。高電位負極活物質が主負極活物質100質量部に対して5質量部よりも少なすぎると、過放電による下限電圧異常を効果的に防止できなくなる。また、上記25質量部よりも多すぎると、リチウムイオン二次電池の所定のSOC(典型的には70%〜100%)において十分な容量が得られない。
【0031】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の負極活物質層には、上記主負極活物質(及び必要に応じて高電位負極活物質)の他に、上記正極活物質層に配合され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有させることができる。そのような材料として、上記の正極活物質層の構成材料として列挙したような結着材として機能し得る各種の材料を同様に使用し得る。
上記負極は、主負極活物質(及び高電位負極活物質)と結着材等とを従来と同様の適当な溶媒(水、有機溶媒等)に分散させてなるペースト状の組成物(以下、負極活物質層形成用ペーストという)を調製する。調製した該負極活物質層形成用ペーストを負極集電体に塗布し、乾燥させた後、圧縮(プレス)することによって、負極集電体と該負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える負極(負極シート)を作製することができる。
【0032】
上記主負極活物質と高電位負極活物質とを含む負極を用いて構築したリチウムイオン二次電池は、図5に示すように、該リチウムイオン二次電池をSOC0%(下限電圧)まで放電した後にさらに放電するような場合であっても、上記高電位負極活物質が反応(リチウム脱離反応)し電圧の変動が極めて小さい電圧平坦部が現れるため、該リチウムイオン二次電池の電圧は、該高電位負極活物質の反応による電圧平坦部の電圧より下降せず、過放電に伴う不具合を発生させる異常電圧への下降を未然に防ぐことができる。
他方、従来の構成(高電位負極活物質を含まない)のリチウムイオン二次電池では、図7に示すように、SOC0%の電圧(下限電圧)よりも低い電圧を有する電圧平坦部がないため、SOC0%を超えて放電した場合には、電圧が急降下して過放電に伴う不具合が発生してしまう。
以上より、上記主負極活物質と高電位負極活物質とを含む負極を用いて構築したリチウムイオン二次電池を複数個相互に(典型的には直列に)接続してなる組電池は、各二次電池においてSOCのバラツキがあっても放電の際には過放電を防止することができると共に、各二次電池のSOCのバラツキを是正して放電状態を揃えることができる。
【0033】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池に含まれる電解液としては、適当な非水溶媒(有機溶媒)に電解質として機能し得るリチウム塩を含有させた組成を有する。上記電解質には、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるリチウム塩を適宜選択して使用することができる。かかるリチウム塩として、例えば、LiPFが挙げられる。上記非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が挙げられる。かかる非水溶媒は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、電解液に代えて固体状の電解質(全固体高分子電解質)やゲル状の電解質(高分子ゲル電解質)を用いてもよい。
【0034】
また、リチウムイオン二次電池の充電時の上限電圧異常を防止するために上記電解液にレドックスシャトル剤(シャトル添加材)を混合してもよい。レドックスシャトル剤とは、レドックスシャトル剤自体の酸化還元反応によって、電池電圧(正負極間の電位差)が所定の値以上となることを防止する機能を有する化合物である。レドックスシャトル剤としては、上記主正極活物質の有する所定の酸化還元電位(主正極活物質により異なる)よりも高い酸化還元電位を有する化合物が挙げられる。例えば、1,2‐ジメトキシ‐4−フルオロベンゼン、2,4−ジフルオロアニソール等の芳香族化合物;複素環錯体;ニトロキシルラジカル化合物等のラジカル化合物;硝酸セリウム等のCe化合物;フェロセン錯体等のメタロセン錯体等が挙げられる。
【0035】
上記レドックスシャトル剤は、リチウムイオン二次電池のSOC100%における上記主正極活物質酸化還元電位よりも少なくとも0.2V(例えば凡そ0.2V〜1.0V)高い酸化還元電位を有することが好ましい。0.2Vよりも小さすぎると、リチウムイオン二次電池が満充電(SOC100%)となった後にさらに充電を続けていくと、すぐにレドックスシャトル剤の酸化還元電位に達してしまうため、過充電による上限電圧異常を効果的に防止できなくなる虞がある。
また、電解液に含まれるレッドクスシャトル剤の量は適宜決定されるが、凡そ0.01〜0.3mol/Lのレッドクスシャトル剤を電解液に混合することが好ましい。
【0036】
上記レドックスシャトル剤を含む電解液を用いて構築したリチウムイオン二次電池は、該リチウムイオン二次電池をSOC100%まで充電した後にさらに充電するような場合であっても、レドックスシャトル剤自体の酸化還元反応によって、電池電圧が所定の値以上となることが防止されため、過充電に伴う不具合を発生させる異常電圧への上昇を未然に防ぐことができる。
以上より、上記電解液を用いて構築したリチウムイオン二次電池を複数個相互に(典型的には直列に)接続してなる組電池は、各二次電池においてSOCのバラツキがあっても充電の際には過充電を防止することができると共に、各二次電池のSOCのバラツキを是正して所定の充電状態を揃えることができる。
【0037】
以上、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極、負極及び電解液について詳細に説明した。特に好ましい形態としては、リチウムイオン二次電池は、上記正極および上記主負極活物質と高電位負極活物質とを含む負極を用いて構築することである。かかる構成のリチウムイオン二次電池は、図6に示すように、上限電圧(SOC100%)よりも高い電圧平坦部と下限電圧(SOC0%)よりも低い電圧平坦部とを有しているため、過充電に伴う不具合を発生させる異常電圧への上昇及び、過放電に伴う不具合を発生させる異常電圧への下降を防止することができる。従って、該リチウムイオン二次電池を複数個相互に接続してなる組電池は、充電の際には過充電を防止し、放電の際には過放電を防止して各二次電池の性能を最大限に発揮して使用することができる。さらに、上記レドックスシャトル剤を含む電解液を使用することによって、効果的に過充電を防止することができる。
なお、上記レドックスシャトル剤を含む電解液および上記主負極活物質と高電位負極活物質とを含む負極を用いてリチウムイオン二次電池を構築しても、上記正極および上記主負極活物質と高電位負極活物質とを含む負極を用いて構築されたリチウムイオン二次電池と同様の効果が得られる。
【0038】
以下、上記正極を備えるリチウムイオン二次電池の一形態を図面を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。即ち、本実施形態に係る正極が採用される限りにおいて、構築されるリチウムイオン二次電池の形状(外形やサイズ)には特に制限はない。以下の実施形態では角型形状の電池について説明する。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0039】
図1は、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す斜視図である。図2は、図1中のII−II線に沿う縦断面図である。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、正極(正極シート)66として、正極活物質層64に主正極活物質と高電位正極活物質とが含まれる正極(正極シート)66が用いられている。図1及び図2に示すように、リチウムイオン二次電池10は、電極体50と、該電極体50および適当な電解液を収容する角型形状(典型的には扁平な直方体形状)の電池ケース15とを備える。
【0040】
ケース15は、上記扁平な直方体形状における幅狭面の一つが開口部20となっている箱型のケース本体30と、その開口部20に取り付けられて(例えば溶接されて)該開口部20を塞ぐ蓋体25とを備えている。蓋体25は、ケース本体30の開口部20の形状に適合する長方形状に形成されている。さらに、蓋体25には、外部接続用の正極端子60と負極端子80とがそれぞれ設けられており、これらの端子60,70の一部は蓋体25からケース15の外方に向けて突出するように形成されている。また、従来のリチウムイオン二次電池のケースと同様に、蓋体25には、電池異常の際にケース15内部で発生したガスをケース15の外部に排出するための安全弁40が設けられている。
【0041】
図2に示すように、リチウムイオン二次電池10は、通常のリチウムイオン二次電池と同様に捲回電極体50を備えている。電極体50は、捲回軸が横倒しとなる姿勢(すなわち、上記開口部20が捲回軸に対して横方向に位置する向き)でケース本体30に収容されている。電極体50は、長尺シート状の正極集電体62の表面に正極活物質層64が形成された正極シート(正極)66と、長尺シート状の負極集電体72の表面に負極活物質層74が形成された負極シート(負極)76とを2枚の長尺状のセパレータシート80と共に重ね合わせて捲回し、得られた電極体50を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に形成されている。
【0042】
また、捲回される正極シート66において、その長手方向に沿う一方の端部には正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出しており、一方、捲回される負極シート76においても、その長手方向に沿う一方の端部は負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出している。そして、正極集電体62の上記露出している端部に正極端子60が接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体50の正極シート66と電気的に接続されている。同様に、負極集電体72の上記露出している端部に負極端子70が接合され、負極シート76と電気的に接続されている。なお、正負極端子60,70と正負極集電体62,72とは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合され得る。正極シート66および負極シート76は、上述したようにして作製される。
【0043】
上記作製した正極シート66および負極シート76を2枚のセパレータ(例えば多孔質ポリオレフィン樹脂)80と共に積み重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体50をケース本体30内に捲回軸が横倒しとなるように収容するとともに、適当な支持塩(例えばLiPF等のリチウム塩)を適当量(例えば濃度1M)含むECとDMCとの混合溶媒(例えば質量比1:1)のような電解液を注入した後、開口部20に蓋体25を装着し封止する(例えばレーザ溶接)ことによって本実施形態のリチウムイオン二次電池10を構築することができる。
なお、負極シート76として、負極活物質層74に主負極活物質と高電位負極活物質とが含まれる負極(負極シート)76を用いてもよい。また、電解液に上記レッドクスシャトル剤を混合したものを用いてもよい。
【0044】
次に、かかる構成のリチウムイオン二次電池10を単電池とし、該単電池を複数備えてなる組電池の一構成例を説明する。図3に示すように、この組電池100は、複数個(典型的には10個以上、好ましくは10〜30個程度、例えば20個)のリチウムイオン二次電池(単電池)10を、それぞれの正極端子60および負極端子70が交互に配置されるように一つずつ反転させつつ、ケース15の幅広な面が対向する方向(積層方向)に配列されている。当該配列された単電池10間には、所定形状の冷却板110が挟み込まれている。この冷却板110は、使用時に各単電池10内で発生する熱を効率よく放散させるための放熱部材として機能するものであって、好ましくは単電池10間に冷却用流体(典型的には空気)を導入可能な形状(例えば、長方形状の冷却板の一辺から垂直に延びて対向する辺に至る複数の平行な溝が表面に設けられた形状)を有する。熱伝導性の良い金属製もしくは軽量で硬質なポリプロピレンその他の合成樹脂製の冷却板が好適である。
【0045】
図3に示すように、上記配列させた単電池10および冷却板110の両端には、一対のエンドプレート(拘束板)120,120が配置されている。また、上記冷却板110とエンドプレート120との間には、長さ調整手段としてのシート状スペーサ部材150を一枚又は複数枚挟み込んでいてもよい。上記配列された単電池10、冷却板110およびスペーサ部材150は、両エンドプレートの間を架橋するように取り付けられた締め付け用の拘束バンド130によって、該積層方向に所定の拘束圧が加わるように拘束されている。より詳しくは、図3に示すように、拘束バンド130の端部をビス155によりエンドプレート120に締付且つ固定することによって、上記単電池等は、その配列方向に所定の拘束圧が加わるように拘束されている。これにより、各単電池10の電池ケース15の内部に収容されている捲回電極体50にも拘束圧がかかる。
そして、隣接する単電池10間において、一方の正極端子60と他方の負極端子70とが、接続部材(バスバー)140によって電気的に接続されている。このように各単電池10を直列に接続することにより、所望する電圧の組電池100が構築されている。
【0046】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0047】
<試験例1:組電池の性能評価>
[組電池の作製]
[サンプル1−1]
主正極活物質としてのLiFePOと、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、結着材としてのPVDFとの質量比が85:5:10となるように秤量し、これら材料を溶媒NMPに分散させて正極活物質層形成用ペーストを調製した。該ペーストを厚さ15μmのアルミニウム箔上に塗布し、ロールプレスによる処理を行って、該アルミニウム箔上に正極活物質層を形成してなる正極シートAを作製した。
一方、主負極活物質としてのD50粒径12μm(レーザー回折方式に基づく)の天然黒鉛系炭素材料(グラファイト)と、結着材としてのSBRと、増粘材であるカルボキシメチルセルロース(CMC)との質量比が95:2.5:2.5となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させて負極活物質層形成用ペーストを調製した。該ペーストを厚さ10μmの銅箔上に塗布し、ロールプレスによる処理を行って、該銅箔上に負極活物質層を形成してなる負極シートAを作製した。なお、正極の理論容量と負極の理論容量との比率が1(正極):1.5(負極)となるように上記ペーストの塗布量をそれぞれ調節した。
電解液としては、ECとEMCとの体積比1:1の混合溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させた電解液Aを用いた。
得られた正極シートAと負極シートAとを、二枚のセパレータシート(ポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質膜)と共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体を上記電解液Aとともに円筒型の容器(内容積100cc)に収容してサンプル1−1に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
サンプル1−1に係るリチウムイオン二次電池について、25℃の温度条件下、定電流定電圧によって正極理論容量から予測した電池容量(Ah)の3分の1の電流値で各充電上限電圧(表1参照)まで充電を行った。即ち、定電圧充電時の最終電流値が初期の電流値の10分の1になる点まで充電を行った。上記充電後、サンプル1−1に係る電池を6個直列に接続してサンプル1−1に係る組電池を作製した。
【0048】
[サンプル1−2]
主負極活物質としてのD50粒径12μmのグラファイトと高電位負極活物質としてのD50粒径3μmのチタン酸リチウム(LiTi12)との質量比が90:10となるように秤量し、負極活物質の混合物を得た。
上記負極活物質の混合物と、結着材としてのSBRと、増粘材であるCMCとの質量比が95:2.5:2.5となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させて負極活物質層形成用ペーストを調製した。該ペーストを厚さ10μmの銅箔上に塗布し、ロールプレスによる処理を行って、該銅箔上に負極活物質層を形成してなる負極シートBを作製した。なお、正極の理論容量と負極の理論容量との比率が1(正極):1.5(負極)となるように上記ペーストの塗布量を調節した。得られた負極シートBを用いた他はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−2に係るリチウムイオン二次電池を作製してサンプル1−2に係る電池を6個直列に接続してサンプル1−2に係る組電池を作製した。
【0049】
[サンプル1−3]
電解液として、ECとEMCとの体積比1:1の混合溶媒に1mol/LのLiPFとレドックスシャトル剤として0.01mol/Lの1,2‐ジメトキシ‐4−フルオロベンゼンとを溶解させた電解液Bを用いた他はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−3に係るリチウムイオン二次電池を作製してサンプル1−3に係る電池を6個直列に接続してサンプル1−3に係る組電池を作製した。
【0050】
[サンプル1−4]
主正極活物質としてのLiFePOと高電位正極活物質としてのLiFe0.5Mn0.5POとの質量比が90:10となるように秤量し、正極活物質の混合物を得た。
上記正極活物質の混合物と、導電材としてのABと、結着材としてのPVDFとの質量比が85:5:10となるように秤量し、これら材料を溶媒NMPに分散させて正極活物質層形成用ペーストを調製した。該ペーストを厚さ15μmのアルミニウム箔上に塗布し、ロールプレスによる処理を行って、該アルミニウム箔上に正極活物質層を形成してなる正極シートBを作製した。なお、正極の理論容量と負極の理論容量との比率が1(正極):1.5(負極)となるように上記ペーストの塗布量を調節した。得られた正極シートBを用いた他はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−4に係るリチウムイオン二次電池を作製してサンプル1−4に係る電池を6個直列に接続してサンプル1−4に係る組電池を作製した。
【0051】
[サンプル1−5]
電解液Aに代えて電解液Bを用いて、負極シートAに代えて負極シートBを用いた他はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−5に係るリチウムイオン二次電池を作製してサンプル1−5に係る電池を6個直列に接続してサンプル1−5に係る組電池を作製した。
【0052】
[サンプル1−6]
正極シートAに代えて正極シートBを用いて、負極シートAに代えて負極シートBを用いた他はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−6に係るリチウムイオン二次電池を作製してサンプル1−6に係る電池を6個直列に接続してサンプル1−6に係る組電池を作製した。
【0053】
[充放電サイクル試験]
サンプル1−1からサンプル1−6の6種類の組電池をそれぞれ恒温層(25℃)内に設置し、各組電池の一番目のリチウムイオン二次電池の正極と六番目のリチウムイオン二次電池の負極とに端子を接続した。そして、各組電池に対して、充放電を500サイクル繰り返し、500サイクル後に電圧異常の発生の有無を確認した。1サイクルの充放電条件は、各リチウムイオン二次電池を1Cで上限電圧までCCCV充電(定電流定電圧充電)行い(即ち組電池の全てのリチウムイオン二次電池が上限電圧に達するまで充電を行った)、その後各リチウムイオン二次電池を1Cで下限電圧までCC放電(定電流放電)を行った(即ち組電池の全てのリチウムイオン二次電池が下限電圧に達するまで放電を行った)。各リチウムイオン二次電池の上限電圧及び下限電圧を表1に示す。また、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量から放電容量維持率(%)を算出した。その結果を表1に示す。
なお、組電池の充電中に異常(安全弁の開弁等)が確認できた場合には、上限電圧異常と判定した。一方、組電池の放電中にいずれかのリチウムイオン二次電池が下限電圧を0.3V以上下回った場合には、下限電圧異常と判定した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、サンプル1−4及びサンプル1−6に係る組電池は、正極に高電位正極活物質が含まれているため上限電圧異常の発生は確認されなかった。サンプル1−3及びサンプル1−5に係る組電池は、電解液にレドックスシャトル剤が含まれているため上限電圧異常の発生は確認されなかった。サンプル1−2、サンプル1−5及びサンプル1−6に係る組電池は、負極に高電位負極活物質が含まれているため下限電圧異常の発生は確認されなかった。また、サンプル1−5及びサンプル1−6に係る組電池では、放電容量維持率が95%と高く組電池全体の性能低下が防止されていることが確認された。以上より、高電位正極活物質を含む正極及び高電位負極活物質を含む負極を用いて製造(構築)されたリチウムイオン二次電池を直列に相互に接続した組電池が最も優れていることが確認できた。
【0056】
<試験例2:リチウムイオン二次電池の抵抗試験>
上記サンプル1−2、サンプル1−5およびサンプル1−6では、D50粒径が3μmのチタン酸リチウムを使用したが、チタン酸リチウムのD50粒径によって抵抗がどのように変化するのかを測定した。以下のサンプル2−1からサンプル2−6まで用意した。
【0057】
サンプル2−1:レーザー回折方式に基づくD50粒径が0.1μmのチタン酸リチウムを用いた他は、サンプル1−2と同様にして、サンプル2−1に係るリチウムイオン二次電池を構築した。
サンプル2−2:レーザー回折方式に基づくD50粒径が0.15μmのチタン酸リチウムを用いた他は、サンプル1−2と同様にして、サンプル2−2に係るリチウムイオン二次電池を構築した。
サンプル2−3:レーザー回折方式に基づくD50粒径が0.5μmのチタン酸リチウムを用いた他は、サンプル1−2と同様にして、サンプル2−3に係るリチウムイオン二次電池を構築した。
サンプル2−4:レーザー回折方式に基づくD50粒径が3μmのチタン酸リチウムを用いて、サンプル1−2と同様にして、サンプル2−4に係るリチウムイオン二次電池を構築した。
サンプル2−5:レーザー回折方式に基づくD50粒径が5.5μmのチタン酸リチウムを用いた他は、サンプル1−2と同様にして、サンプル2−5に係るリチウムイオン二次電池を構築した。
サンプル2−6:レーザー回折方式に基づくD50粒径が7μmのチタン酸リチウムを用いた他は、サンプル1−2と同様にして、サンプル2−6に係るリチウムイオン二次電池を構築した。
【0058】
上記サンプル2−1からサンプル2−6の6種類のリチウムイオン二次電池の抵抗(Ω)を測定した。抵抗測定は以下のように行った。リチウムイオン二次電池を上限電圧まで充電した後、電池容量の50%をCC放電することによりSOCを50%に調整した。その後、0.5C充電、0.5C放電、1.0C充電、1.0C放電、2.0C充電、2.0C放電の充放電を各10秒ずつ行い、各10秒間の電圧変動幅を読み取った。抵抗=電圧変動幅/電流値の関係を用い、電流値に対する電圧変動幅の一次近似を行い、その傾きを抵抗とした。その結果を図8に示す。なお、図8中、縦軸はリチウムイオン二次電池の抵抗(Ω)を表し、横軸はチタン酸リチウムのD50粒径(μm)を表す。
図8に示すように、D50粒径が1μmよりも大きい場合のリチウムイオン二次電池の抵抗は、D50粒径が1μmよりも小さい場合と比較して、小さくなることが確認できた。従って、リチウムイオン二次電池の抵抗低減の観点から、チタン酸リチウムはD50粒径が1μmよりも大きいものを好ましく用いることができることが確認できた。
【0059】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。例えば、一枚の集電体の片面に正極活物質層が形成され、他方の面に負極活物質層が形成されたバイポーラ型電極を備える電池を複数積層して各電池を直列に接続してなるバイポーラ型電池(組電池)にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るリチウムイオン二次電池を複数相互に接続してなる組電池は、大電流出力が可能であり上記のとおり各電池のSOCのバラツキに伴う過充電を防止して安全性に優れるため、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。即ち、本発明に係るリチウムイオン二次電池を複数個相互に接続してなる組電池を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 リチウムイオン二次電池
15 電池ケース
20 開口部
25 蓋体
30 ケース本体
40 安全弁
50 捲回電極体
60 正極端子
62 正極集電体
64 正極活物質層
66 正極シート
70 負極端子
72 負極集電体
74 負極活物質層
76 負極シート
80 セパレータシート
100 組電池
110 冷却板
120 エンドプレート
130 拘束バンド
140 接続部材(バスバー)
150 スペーサ部材
155 ビス



【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と電解液とを備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、集電体と、該集電体上に形成された正極活物質層であって、主成分として所定の酸化還元電位を有する主正極活物質と該主正極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位正極活物質とを含む正極活物質層を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記高電位正極活物質は、前記主正極活物質よりも少なくとも0.2V高い酸化還元電位を有することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質層は、前記主正極活物質100質量部当たり前記高電位正極活物質を5〜25質量部含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記主正極活物質は、オリビン型リチウム含有酸化物であり、且つ前記高電位正極活物質は、該主正極活物質を構成するオリビン型リチウム含有酸化物よりも高い酸化還元電位を有するオリビン型リチウム含有酸化物であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極は、集電体と、該集電体上に形成された負極活物質層であって、主成分として所定の酸化還元電位を有する主負極活物質と該主負極活物質よりも酸化還元電位の高い高電位負極活物質とを含む負極活物質層を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記主負極活物質又は高電位負極活物質は、レーザー回折方式或いは光散乱方式に基づいて測定される粒度分布におけるD50(メジアン径)が1μmより大きいチタン酸リチウムであることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記電解液は、前記主正極活物質よりも酸化還元電位の高いレドックスシャトル剤を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池を複数個組み合わせた組電池。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−18775(P2012−18775A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154183(P2010−154183)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】