説明

リチウムイオン二次電池用極板およびリチウムイオン二次電池並びにその製造方法

【課題】 リチウム複合酸化物粒子を含む正極活物質層を備えた正極板と、負極活物質粒子を含む負極活物質層を備えた負極板と、前記正負極板間に介在するセパレータと、非水溶媒を含む電解液と、を備えたリチウムイオン二次電池において、高容量・高特性で、かつ内部短絡や釘刺し安全性に優れたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】 正極活物質層を備えた正極板、または負極活物質粒子を含む負極活物質層を備えた負極板のうち、少なくともいずれかの活物質層上に多孔質絶縁層を備え、この多孔質絶縁層は形成領域と非形成領域とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部短絡安全性および耐熱性などの安全性に優れたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの化学電池では、正極と負極との間に、それぞれの極板を電気的に絶縁し、さらに電解液を保持する役目をもつセパレータがある。リチウムイオン二次電池では、現在、主にポリエチレンやポリプロピレン等からなる微多孔性フィルムが使われている。
しかしながら、これら樹脂からなるフィルム状セパレータは、概して高温で収縮しやすい。よって内部短絡時や、釘のような鋭利な形状の突起物が電池を貫いた時、瞬時に発生する短絡反応熱によりセパレータが収縮して短絡部が拡大し、さらに多大な反応熱を発生させ、異常過熱を促進するという課題を有していた。
そこで、上記課題を含めた安全性を向上させるために、活物質層表面に固体微粒子を含む多孔性コーティング膜を塗布形成する技術が提案されている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特許第3371301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら従来の技術では、樹脂結着剤と固体微粒子との混合物を極板上に塗布して形成した多孔性保護膜の孔内をイオンが通過することで電池として機能している。よって、たとえ多孔膜であったとしてもイオン伝導を妨げてしまい、電池の内部抵抗が大きくなってしまう。結果として、充放電特性を低下させたり、容量が小さくなってしまうという課題があった。また、この技術は活物質の剥離抑制を目的としたものであり、内部短絡や釘刺し時の安全性を保障できないという課題があった。
【0004】
本発明は上記課題を解決するもので、高容量・高特性で、かつ内部短絡や釘刺し安全性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明のリチウムイオン二次電池においては、リチウム複合酸化物粒子を含む正極活物質層を備えた正極板、または負極活物質粒子を含む負極活物質層を備えた負極板のうち、少なくともいずれかの活物質層上に無機酸化物フィラーと樹脂バインダーとを含む多孔質絶縁層が形成されており、前記多孔質絶縁層は微細な形成領域と非形成領域とを有する。
【0006】
この構成においては、多孔質絶縁層に微細な非形成領域があるため、通常使用時にはより高いイオン伝導性を実現することができる。また、内部短絡時には微細な形成領域が正負極間の直接の短絡防ぐことにより、絶縁されるか、もしくは短絡電流が低く抑えられるので安全性を高めることができる。
【0007】
上記構成においては、多孔質絶縁層の形成領域が活物質表面の20〜90%の面積を占めることが望ましい。この範囲内であることにより、高いイオン伝導性と短絡安全性を両立することができる。
【0008】
上記構成においては、多孔質絶縁層とフィルムセパレータとの併用により、さらに安全
性を高めることができる。特に、セパレータがポリオレフィン系微多孔フィルムを備えることはより好ましい。ポリオレフィン系微多孔フィルムが高温では閉孔(いわゆるシャットダウン)するため、より安全性の高い電池となる。
【0009】
上記の構成においては、多孔質絶縁層の形成領域もしくは非形成領域が島状パターンであることが望ましい。また、多孔質絶縁層の形成領域もしくは非形成領域が線状パターンであることも望ましい。また、多孔質絶縁層の形成領域もしくは非形成領域が格子状パターンであっても望ましい。
【0010】
これらの構成により、多孔質絶縁層の形成領域と非形成領域とを安定的に、かつ均一に形成することができ、形成領域を活物質表面の20〜90%に制御することも容易になる。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池を製造する方法においては、少なくとも無機酸化物フィラーと樹脂バインダーと溶剤とを混合してスラリー化する工程と、正極活物質層または負極活物質層のうち少なくともいずれかの表面にスラリーをインクジェット印刷によってパターン塗布する工程と、を有することが望ましい。
【0012】
もう一つの方法においては、少なくとも無機酸化物フィラーと樹脂バインダーと溶剤とを混合してスラリー化する工程と、正極活物質層または負極活物質層のうち少なくともいずれかの表面にスラリーを塗布する工程と、塗布されたスラリーをレベリングさせてスラリーの塗布領域と非塗布領域を設ける工程と、を有することが望ましい。
【0013】
このスラリーを塗布する方法は、従来公知のものが使えるが、スプレー塗布であると、工程上塗布が容易になるので好ましい。
【0014】
これらの方法により、多孔質絶縁層の微細な形成領域と非形成領域とを容易に精度良く形成することができる。また形成領域を活物質表面の20〜90%に制御することも容易になる。
【0015】
本発明では、上述した活物質層上の多孔質絶縁層が存在することにより、内部短絡や釘刺し試験での安全性が向上している。多孔質絶縁層が無い場合、異物等によってセパレータに穴が開いて正負極間が短絡すると、短絡点に過大な電流が流れて、ジュール熱が発生することがある。その場合、その熱により短絡点周辺のセパレータが溶融もしくは収縮して穴が拡大し、さらに短絡面積が広がってジュール熱発生が継続され、この繰り返しにより電池の温度が上昇し続け、異常発熱や外観変形を起こす可能性がある。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレータに穴が開いて正負極間が短絡した場合、セパレータが溶融もしくは収縮して穴が拡大しても多孔膜絶縁層が存在するため、正負極間の短絡面積は広がらない。よって、ジュール熱の発生は拡大せず、異常発熱には至らない。加えて、短絡点近傍の温度は瞬間的に500℃にも達するためアルミニウムからなる正極集電体が溶断して、正負極間の短絡は解消される。また、たとえ多孔膜絶縁層の非形成領域があるがために短絡電流を完全には遮断できなかったとしても、短絡電流を小さくすることができるので、ジュール熱の発生を抑えて温度上昇を防ぐことができる。一方、イオン伝導は多孔膜の孔を通しておこなわれるのに加えて、多孔膜絶縁層の微視的な非形成領域もイオン伝導経路になるので、全体として非常にイオン伝導性の高いものとなる。そのため、電池の内部抵抗を上げることなく、充放電特性は良好で、容量を低下させてしまうこともない。
【0017】
以上の作用効果により、本発明のリチウムイオン二次電池は内部短絡や釘刺し試験での
安全性に優れ、かつ高特性の電池となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明によれば、内部短絡や釘刺し試験において安全性が高く、かつ高容量で充放電特性耐熱性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明のリチウムイオン二次電池においては正極1と負極2のあいだにセパレータ3が介在し、正極活物質層1a、負極活物質層2aのいずれかの表面上に無機酸化物フィラーと樹脂バインダーとを含む多孔質絶縁層4が堆積されている。図1(b)のように、活物質層表面近傍を拡大して見ると多孔質絶縁層4は微細な形成領域5と非形成領域6とを有する。
【0021】
なお、形成領域と非形成領域のパターンは図2(a)のような形成領域が島状パターンであるものの他、例えば格子状パターンであるもの(図2(b))や、線状パターンであるもの(図2(c))であっても良い。勿論、非形成領域が図2のようなパターンであっても良い。また、線状パターンにおいては、必ずしも直線である必要はなく、曲線状やジグザグ線状であってもよい。形成領域となる島状パターンにおいては、島の形状は問われるものでなく、逆に、海の部分が形成領域になっても良い。例えば図2(d)に示すような海の部分が形成領域であり、不規則なパターンであっても勿論良い。
【0022】
本発明の重要な構成要件である微細な形成領域と非形成領域を設けるのは、正負極間の絶縁性と、イオン伝導を妨げないこととを両立させるためである。内部短絡時の安全性に係わる多孔質絶縁層の絶縁作用とその安全性効果については、(課題を解決するための手段)で述べたとおりであるが、正負極間の短絡拡大を防ぐためには微視的な形成領域と非形成領域が500μm以下の微細なパターンであることが望ましい。より好ましくは100μm以下が望まれる。例えば線状パターンの場合、線幅(すなわち形成領域)500μm以下、線間隔(すなわち非形成領域)500μm以下であることが望ましい。非形成領域が島状パターンの場合、島の大きさが500μm以下であることが望ましい。500μm以上のパターンであると、非形成領域を流れる短絡電流が過大であるため、発熱が多くなり電池の異常発熱に至り安全性を確保できない。また、通常使用時における極板でのリチウムの吸蔵・放出の面均一性を保つという観点からも、微細なパターンであることが望ましい。
【0023】
また、多孔質絶縁層の形成領域は活物質表面の20〜90%の面積を占めることが望ましい。この範囲内であると、高いイオン伝導性と短絡安全性が両立する。ここで、20%未満では絶縁性を確保することが困難となることから短絡安全性が不十分となり、90%より多いとイオン伝導を妨げて充放電特性に悪影響を与える可能性が高くなる。
【0024】
多孔質絶縁層は、無機フィラーと樹脂バインダーとを溶媒とともにスラリー化したものを活物質層上に形成領域と非形成領域が形成されるように塗布、乾燥して得られる。活物質層上への塗布は、例えばグラビアコート、ダイコート等の連続塗布法や、インクジェットノズルを用いた描画法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0025】
例えばグラビアコートを用いた場合、グラビアロールのスラリーを保持する刻印溝の形状と模様に応じたパターンで活物質層上に形成領域と非形成領域を形成することができる。インクジェットノズルを用いた描画法では、所望の間隔でノズルを並べ、極板を走査させながら上記スラリーを吐出することにより、活物質層上に線状パターンを描くことがで
きる。さらにノズル側も走査させれば、曲線状やジグザグ線状のパターンを形成することができる。また、間欠的に吐出すればドット状の島状パターンを形成することができる。
【0026】
また、必ずしもパターン塗布をおこなう必要はなく、微細な形成領域と非形成領域を設けることは可能である。例えば、後述するような活物質粒子7と結着剤とから構成され活物質層は、その表面が凹凸状になっており、例えば図3に示すように多孔質絶縁層を形成させると、表面凹凸に由来する微細な形成領域と非形成領域とを設けることができる。それには、無機フィラー、樹脂バインダー、溶剤を含むスラリーを活物質層上に薄く塗布した後、静置すれば塗膜がレベリングされて、活物質層の凹部にのみ多孔質絶縁層が形成され、凸部には形成されなる。このようにして得られた形成領域と非形成領域は1μm〜50μm程度の非常に微細なものとなるので好ましい。
【0027】
無機フィラーとしては、例えばアルミナ、シリカ、酸化チタン等の酸化物をはじめ、その他に窒化珪素、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム等の耐熱性で、リチウムイオン二次電池の使用範囲内で電気化学的に安定であるものなら用いることができる。また、この無機フィラーは複数種を混合あるいは多層化して用いても良い。樹脂バインダーとしては、耐熱・耐電解液性を有するものが用いられるが、なかでも耐熱性が高くゴム弾性を有する例えばアクリロニトリル単位を含むゴム性状高分子などが好ましい。このような材料を結着剤として含む多孔質絶縁層は、正負極にセパレータを介し捲回構成する場合にひび割れや剥がれが発生しないため、歩留を高く維持しつつ生産できるという利点を有する。
【0028】
この多孔膜層の厚みは特に限定されないものの、前述した多孔膜層の効用を発揮しつつ設計容量を維持する観点から、組み合わせるセパレータ厚との総和が現セパレータ仕様(15〜30μm)と同程度、すなわち0.5〜20μmであることがより好ましい。
【0029】
正極については、活物質としてコバルト酸リチウムおよびその変性体(アルミニウムやマグネシウムを共晶させたものなど)・ニッケル酸リチウムおよびその変性体(一部ニッケルをコバルト置換させたものなど)・マンガン酸リチウムおよびその変性体などの複合酸化物等の粒子を挙げることができる。その粒子径は5μm〜30μm程度である。結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)・変性アクリロニトリルゴム粒子バインダーを増粘効果のあるカルボキシメチルセルロース(CMC)・ポリエチレンオキシド(PEO)・可溶性変性アクリロニトリルゴムと組み合わせたものや、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびその変性体等が用いられる。また、導電剤としてアセチレンブラック・ケッチェンブラック・各種グラファイト等を添加する。これらの正極材料はN−メチルピロリドン(NMP)等の溶剤とともにスラリー化された合剤として、集電体上に塗布され、乾燥、圧延工程を経て、活物質層を備えた正極板が出来あがる。こうして得られた正極活物質層の表面は、例えば図3に示すように活物質粒子の形状に由来する凹凸形状を有している。
【0030】
負極については、活物質として各種天然黒鉛および人造黒鉛・シリサイドなどのシリコン系複合材料・および各種合金組成材料の粒子を用いる。その粒子径は一般に2μm〜15μm程度である。結着剤としてはPVDFおよびその変性体等の各種バインダーを用いることができる。これらの負極材料も正極と同様のプロセスを経て、負極板となり、その活物質層表面も正極同様、例えば図3に示すように活物質粒子の形状に由来する凹凸形状を有している。
【0031】
電解液については、塩としてLiPF6およびLiBF4などの各種リチウム化合物を用いることができる。また溶媒としてエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を単独および組み合わせて用いることができる。また正負極上に良好な皮膜を形成させた
り、過充電時の安定性を保証するために、ビニレンカーボネート(VC)やシクロヘキシルベンゼン(CHB)等を添加することも可能である。
【0032】
セパレータについては、リチウムイオン二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、ポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)などのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムを、単一あるいは複合して用いるのが一般的であり、また態様として好ましい。このセパレータの厚みは特に限定されないものの、前述した多孔膜層の効用を発揮しつつ設計容量を維持する観点から、組み合わせる多孔膜厚との総和が現セパレータ仕様(15〜30μm)と同程度、すなわち10〜25μmであることがより好ましい。
【0033】
なお、必要に応じて例えば不織布などの安価なセパレータを用いることも可能である。また、例えばアラミド樹脂等を含んだ耐熱性に優れたセパレータを使用すれば、さらに安全性が向上して好ましい。
【0034】
なお本実施の形態では、図1として負極活物質層上に絶縁性多孔層4が設けられた例を示したが、絶縁性多孔層は正負極いずれでも、あるいは両方に設けられていても良い。
【実施例1】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
(実施例1)
(正極の作製)コバルト酸リチウム3kgを、呉羽化学(株)製PVDF#132
0(固形分12重量%のN−メチルピロリドン(NMP)溶液)1kg、アセチレンブラック90gおよび適量のNMPとともに双腕式練合機にて攪拌し、正極ペーストを作製した。このペーストを15μm厚のアルミニウム箔に塗布乾燥し、総厚が160μmとなるように圧延した後、円筒型18650ケースに挿入可能な幅にスリットし、正極板を得た。
【0037】
(負極の作製)一方、人造黒鉛3kgを、日本ゼオン(株)製スチレン−ブタジエ
ン共重合体ゴム粒子結着剤BM−400B(固形分40重量%)75g、CMC30gおよび適量の水とともに双腕式練合機にて攪拌し、負極ペーストを作製した。このペーストを10μm厚の銅箔に塗布乾燥し、総厚が180μmとなるように圧延した後、円筒型18650ケースに挿入可能な幅にスリットし、負極板を得た。
【0038】
(多孔質絶縁層の作製)
メディアン径0.3μmのアルミナ950gを、日本ゼオン(株)製ポリアクリロ
ニトリル変性ゴム結着剤BM−720H(固形分8重量%)625gおよび適量のNMPとともに双腕式練合機にて攪拌し、無機フィラーと樹脂バインダーを含んだ多孔質絶縁層形成用スラリーを調製した。
【0039】
このスラリーをグラビアコートによって負極活物質層上に図2(b)で示した様に格子状にパターン塗布した。線幅Xは200μm、線間隔Yは300μm、多孔質絶縁層形成領域は全負極表面積の64%を占めた。多孔質絶縁層の厚みは6μmであった。
(電池の作製)これらの正負極を、20μm厚のポリエチレン微多孔フィルムをセパレータとして捲回構成し、所定の長さで切断して電槽缶内に挿入し、EC・DMC・EMC混合溶媒にLiPF6を1MとVCを3重量%溶解させた電解液を、5.5g添加して封口し、設計容量2000mAhの円筒型18650リチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例2)
実施例1とはグラビアコートのパターンを変更し、他は同様の方法で実施例2の電池を作製した。多孔質絶縁層の膜厚は6umで、格子状パターンの線幅Xは100μm、線間隔Yは400μmであり、多孔質絶縁層形成領域は全負極表面積の36%を占めた。
(実施例3)
実施例1とはグラビアコートのパターンを変更し、他は同様の方法で実施例3の電池を作製した。多孔質絶縁層の膜厚は6umで、格子状パターンの線幅Xは300μm、線間隔Yは200μmであり、多孔質絶縁層形成領域は全負極表面積の84%を占めた。
【0040】
(実施例4)
実施例1と同様にして調製した多孔質絶縁層形成用スラリーを、負極板上にダイコータを用いて、活物質層上に薄く塗布した後、静置して塗膜をレベリングさせた。負極の活物質層の凹部には多孔質絶縁層が形成され、その厚みは3μmであった。活物質層の凸部には多孔質絶縁層は形成されず、形成領域は全負極表面積の60%を占めていた。
【0041】
他の工程は実施例1と同様にして電池を作製した。
(実施例5)
実施例1と同様にして調製した多孔質絶縁層形成用スラリーを、図2(b)のようにインクジェット印刷を用いて負極活物質層上に直線状に塗布した。インクジェットへッド800μmの間隔で並べられたノズルから、スラリーを60回/秒で吐出させながら、対向させた負極板を1.4m/秒で移動させた。吐出周波数に対して負極移動速度が十分に小さいため、吐出されたスラリーは負極上で連続的な直線となって描かれた。線幅Xは500μm、線間隔Yは300μmで、多孔質絶縁層形成領域は全負極表面積の63%、多孔質絶縁層の厚みは4μmであった。
【0042】
他は実施例1と同様にして、電池を作製した。
(実施例6)
実施例5の負極移動速度を2m/秒に変え、他は同様におこなった。吐出周波数に対して負極移動速度が速いため、吐出されたスラリーは負極上で、図2(a)に示す様に不連続な島状となって描かれた。描かれた島の大きさは約500μmで、多孔質絶縁層形成領域は全負極表面積の40%、多孔質絶縁層の厚みは4μmであった。
【0043】
他は実施例1と同様にして、電池を作製した。
(実施例7)
実施例1と同様にして調製した多孔質絶縁層形成用スラリーをスプレーコートによって負極活物質層上に塗布した。活物質層上に薄く塗布した後、静置して塗膜をレベリングさせた。負極の活物質層の凹部には多孔質絶縁層が形成され、その厚みは2μmであった。活物質層の凸部には多孔質絶縁層は形成されず、形成領域は全負極表面積の55%を占めていた。
【0044】
他は実施例1と同様にして、電池を作製した。
(比較例1)
実施例1に準じて正極、負極を作製し、多孔質絶縁層を形成することなく電池を作製したものを比較例1とする。
(比較例2)
多孔質絶縁層の形成領域を19%となるように格子状パターンの線幅Xを50μm、線間隔Yを450μmとし、他は実施例1と同様の方法で電池作製したものを比較例2とした。
(比較例3)
多孔質絶縁層の形成領域を91%となるように格子状パターンの線幅Xを350μm、線間隔Yを150μmとし、他は実施例1と同様の方法で電池作製したものを比較例3と
した。
【0045】
これらの電池を以下に示す方法にて評価した。その結果を構成条件と併せて表1に記す。
【0046】
【表1】



【0047】
(電池充放電特性)完成電池の慣らし充放電を二度行い、45℃環境下で7日間保存した
後、20℃環境下で以下の2通りの充放電試験を行った。
【0048】
(1)1400mAの充電電流で充電電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行ない、その4.2Vのまま、充電電流が100mAになるまで定電圧充電を行なう。その後、放電電流が400mAで、放電終止電圧を3Vとして定電流放電を行なう。
【0049】
(2)1400mAの充電電流で充電電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行ない、その4.2Vのまま、充電電流が100mAになるまで定電圧充電を行なう。その後、放電電流が4000mAで、放電終止電圧を3Vとして定電流放電を行なう。
【0050】
このときの充放電容量を表1に示した。
(釘刺し安全性)
電池充放電特性評価後の電池について、20℃環境下で、まず、1400mAの充電電流で充電電圧が4.25Vになるまで定電流充電を行ない、その4.25Vのまま、充電電流が100mAなるまで定電圧充電を行なった。
【0051】
充電後の電池について、2.7mm径の鉄製丸釘を、20℃環境下で5mm/秒の速度で貫通させたときの発熱状態を観測した。この電池の貫通箇所近傍における1秒後および90秒後の到達温度を表1に示した。
【0052】
以下、順を追って評価結果を記す。
【0053】
釘刺し試験においては、多孔膜絶縁層が存在しない比較例1の過熱が顕著であるのに対し、実施例1〜7の電池はいずれも釘刺し後の過熱が大幅に抑制されいることがわかる。実施例の電池を試験後に分解して調べたところ、いずれの電池においても多孔質絶縁層がその活物質層上に試験前と同様に存在しており、さらにセパレータの溶融もわずかな範囲に留まっていた。このことから、釘刺し短絡による発熱においても多孔質絶縁層は収縮せず、短絡箇所の拡大を抑止できたため、大幅な過熱を防げたものと考えられる。
【0054】
比較例2の電池では、実施例に比べ釘刺し90秒後の温度上昇が大きく、安全性効果は十分ではない。これは、多孔膜絶縁層の形成領域が19%と少ないために、短絡電流を阻止しきれなかったと考えられる。
【0055】
また、比較例3の電池では釘刺し試験の結果から安全性効果は実施例と同様に十分であるが、4000mA放電時の容量が低下してしまっていた。これは、多孔膜絶縁層の形成領域が91%と多いために、イオン伝導性が低下したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池は、安全性の優れたポータブル用電源等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a)本発明のリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示した断面図(b)図1(a)の拡大図
【図2】(a)本発明の多孔質絶縁層の島状パターンを説明する模式図(b)本発明の多孔質絶縁層の格子状パターンを説明する模式図(c)本発明の多孔質絶縁層の線状パターンを説明する模式図(d)本発明の多孔質絶縁層の不規則な島状パターンを説明する模式図
【図3】本発明のリチウムイオン二次電池の極板表面近傍を模式的に示した断面図
【符号の説明】
【0058】
1 正極
1a 正極活物質層
2 負極
2a 負極活物質層
3 セパレータ
4 多孔膜絶縁層
5 多孔膜絶縁層の形成領域
6 多孔膜絶縁層の非形成領域
7 活物質粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質粒子を含む活物質層と、前記活物質層の表面に形成された多孔質絶縁層とを備えた正極板もしくは負極板において、前記多孔質絶縁層は無機酸化物フィラーと樹脂バインダーとを含み、前記多孔質絶縁層は形成領域と非形成領域とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用極板。
【請求項2】
前記形成領域が、活物質表面の20〜90%の面積を占めることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用極板。
【請求項3】
リチウム複合酸化物粒子を含む正極活物質層を備えた正極板と、負極活物質粒子を含む負極活物質層を備えた負極板と、前記正負極板間に介在するセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを備えたリチウムイオン二次電池において、前記正極板または前記負極板は、請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池用極板であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記セパレータがポリオレフィン系微多孔フィルムであることを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
リチウム複合酸化物粒子を含む正極活物質層を備えた正極板と、負極活物質粒子を含む負極活物質層を備えた負極板と、前記正極活物質層または前記負極活物質層のうち少なくともいずれかの表面に設けられた多孔質絶縁層と、前記正負極板間に介在するセパレータとを少なくとも備えたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
少なくとも無機酸化物フィラーと樹脂バインダーと溶剤とを混合してスラリー化する工程と、
前記正極活物質層または前記負極活物質層のうち少なくともいずれかの表面に前記スラリーをインクジェット印刷によってパターン塗布する工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項6】
リチウム複合酸化物粒子を含む正極活物質層を備えた正極板と、負極活物質粒子を含む負極活物質層を備えた負極板と、前記正極活物質層または前記負極活物質層のうち少なくともいずれかの表面に設けられた多孔質絶縁層と、前記正負極板間に介在するセパレータとを少なくとも備えたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
少なくとも無機酸化物フィラーと樹脂バインダーと溶剤とを混合してスラリー化する工程と、
前記正極活物質層または前記負極活物質層のうち少なくともいずれかの表面に前記スラリーを塗布する工程と、
前記の塗布されたスラリーをレベリングさせてスラリーの塗布領域と非塗布領域を設ける工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項7】
スラリーを塗布する手段がスプレー塗布である請求項6記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2005−174792(P2005−174792A)
【公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−414484(P2003−414484)
【出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】