説明

リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池

【課題】Liを含まない金属酸化物を含む正極に対してLiを含まない負極を用いても、Liを含まない金属酸化物がもつ電池特性を十分に引き出すことができるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】本発明の正極活物質は、LiFeOを基本組成とするリチウム鉄系酸化物およびLiを実質的に含まない金属酸化物を含むことを特徴とする。また、この正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、実質的にLiを含まない負極を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされている。現在、この要求に応える高容量二次電池としては、正極材料としてコバルト酸リチウム(LiCoO)、負極材料として炭素系材料、を用いた非水二次電池が商品化されている。このような非水二次電池はエネルギー密度が高く、小型化および軽量化が図れることから、幅広い分野で電源としての使用が注目されている。しかしながら、LiCoOは希少金属であるCoを原料として製造されるため、今後、資源不足が深刻化すると予想される。さらに、Coは高価であり、価格変動も大きいため、安価で供給の安定している正極材料の開発が望まれている。
【0003】
そこで、構成元素の価格が安価で、供給が安定しているマンガン(Mn)を基本組成に含むリチウムマンガン酸化物系の複合酸化物の使用が有望視されている。リチウムマンガン酸化物系の複合酸化物としては、具体的に、LiMnO、LiMn、LiMnO、などを基本組成とする化合物が挙げられる。また、リチウム(Li)を含有しないMnOなどの金属酸化物もLiイオンの吸蔵および放出が可能であることから、正極材料として使用可能であり、これらの化合物を含む正極活物質が、広く研究されている。
【0004】
しかし、Liを含まない金属酸化物を単独で正極活物質として使用する場合には、正極にはLiが含まれずLi供給源になり得ないことから、負極に金属Liを用いる必要がある。しかしながら、金属Liを負極として用いた二次電池を充電すると、リチウムがデンドライト状で析出し、セパレータを貫通して内部短絡する可能性があることが知られている。
【0005】
特許文献1には、カーボンからなる負極(つまりLiを含まない負極)を用いても、Liを含有しない金属酸化物を正極活物質として使用可能な電池が記載されている。たとえば、実施例1では、LiNiOとMnOを重量比でLiNiO:MnO=77:23で混合してなる正極活物質を含む正極、人造黒鉛からなる負極、および電解液を備えるコイン型電池を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−547156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、初回の充電でLiNiOからLiイオンが負極へと移動するため、LiNiOがLi供給源となる。しかし、LiNiOの充電容量は約400mAhg、放電容量は約330mAh/gであり、ここから算出される不可逆容量は僅か17.5%である(0026段落参照)。そのため、続いて充電を行うと、負極のLiイオンのほとんどは、正極活物質の77重量%を占めるLiNiOに戻る。この際、MnOにもLiイオンが吸蔵されるが、充放電に主として関与しているのは、LiNiOであると言わざるを得ない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、Liを含まない金属酸化物を含む正極に対してLiを含まない負極を用いても、Liを含まない金属酸化物がもつ電池特性を十分に引き出すことが可能な新規な正極活物質および、それを用いた電池の構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、特許文献1の充放電機構を鋭意研究し、負極にLiが含まれなくても、Liを含まない金属酸化物がもつ電池特性(放電容量など)を十分に引き出すことができる正極活物質を新たに見出した。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、LiFeOを基本組成とするリチウム鉄系酸化物およびLiを実質的に含まない金属酸化物を含むことを特徴とする。
【0010】
なお、本明細書において「基本組成とする」とは、記載の化学量論組成のものに限定されるわけではなく、たとえば、LiFeOであれば、製造上不可避的に生じるLi、FeまたはOが欠損する、あるいは、これらの元素の一部が他の元素に置換される、などして生じる非化学量論組成のものをも含む。
【0011】
また、「実質的にLiを含まない」とは、材料を構成する元素としてのLiを含まないことを意味しており、リチウムイオン二次電池において吸蔵および放出されるLiを意味するものではない。たとえば、金属酸化物にLiが含まれていなくても、放電により金属酸化物にLiが吸蔵されるため、リチウムイオン二次電池の使用中の金属酸化物にLiが存在することは言うまでもない。また、2サイクル目以降の充電により金属酸化物からLiが放出されても、金属酸化物にLiが残存する可能性もある。後に説明する負極についても、同様である。
【0012】
はじめに、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下「本発明の正極活物質」と略記することもある)をリチウムイオン二次電池に用いた場合の充放電の挙動を説明する。たとえば、本発明の一実施形態であるリチウムイオン二次電は、LiFeOおよびMeO(MeはLi以外の金属元素)からなる正極活物質を含む正極、グラファイトからなる負極活物質を含む負極、を備える。初回充電では、LiFeOからLiイオン(Li)が放出され、負極に移動する。このとき、MeOは、充電に関与しない。初回放電では、負極に移動したLiが正極に移動する。このとき、LiFeOの不可逆容量が大きいことから負極のLiの一部しかLiFeOに戻らない。初回放電後のLiFeOおよびMeOは、LiFeOおよびLiMnOと表すと、理論的には、0≦y<5、z=5−yであるが、ほとんどのLiはMeOに吸蔵される。つまり、2回目以降の充放電では、MeOが積極的に充放電に関与する。このように、正極にLiを十分に含まず、負極にLiが含まれていなくても、二次電池としての使用が可能となる。
【0013】
本発明の正極活物質は、不可逆容量の大きいLiFeOを基本組成とするリチウム鉄系酸化物を含む。不可逆容量が大きいと、負極(さらにはLiを含まない金属酸化物)に供給するLi量が多くなる。その結果、少ないLiFeOの含有量であっても、Liを含まない金属酸化物は、その電池特性を十分に発揮する。
【0014】
さらに、このリチウム鉄系酸化物は、1分子当たりに5つのLiを含む。そのため、正極活物質の質量を大きく増加させることなく、負極(さらにはLiを含まない金属酸化物)に供給するLi量を増やすことができる。その結果、Liを実質的に含まない金属酸化物が正極活物質に占める割合を増加させることができ、効率のよい電池が得られる。
【0015】
本発明の正極活物質は、LiFeOを基本組成とするリチウム鉄系酸化物およびLiを実質的に含まない金属酸化物を含む正極活物質を含む正極と、実質的にLiを含まない負極と、非水電解液と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池、と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Liを含まない金属酸化物を含む正極に対してLiを含まない負極を用いても、Liを含まない金属酸化物がもつ電池特性を十分に引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】LiFeOおよびMnOを含む本発明の正極活物質を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性を示すグラフである。
【図2】LiFeOおよびNiOを含む本発明の正極活物質を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性を示すグラフである。
【図3】LiFeOのみを正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の正極活物質を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。また、その数値範囲内において、本明細書に記載した数値を任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0019】
〔正極活物質〕
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウム鉄系酸化物およびLiを実質的に含まない金属酸化物を含む。
【0020】
リチウム鉄系酸化物は、LiFeOを基本組成とする。本発明の正極活物質に含まれるLiFeOは、不可逆容量が大きい。不可逆容量の程度は、LiFeOの状態(合成方法、粒子径、結晶性など)によって若干のばらつきがあるため一概には言えない。たとえば、後述の実施例において用いたLiFeOの不可逆容量は、81.8%と算出されるが、充放電条件により変化する。本発明の目的に即して規定するのであれば、リチウム鉄系酸化物は、4Vから2Vの電圧範囲(対極は金属Li)において初回充電容量の60%以上、70%以上さらには80%以上が不可逆容量として失われるものがよい。
【0021】
なお、LiFeOは、Liを含む化合物とFeを含む化合物とを反応させて合成するとよい。LiFeOは、酸化リチウムおよび酸化鉄(III)を高温で焼成する一般的な方法により合成が可能である。
【0022】
Liを実質的に含まない金属酸化物は、遷移金属酸化物が好ましく、具体的には、マンガン酸化物(MnO、Mn、MnO、Mn)、ニッケル酸化物(NiO)、コバルト酸化物(CoO、Co)、バナジウム酸化物(VO、V、V13)、クロム酸化物(Cr、CrO)等が挙げられる。これらを基本組成とする金属酸化物のうちの一種あるいは二種以上を、Liを実質的に含まない金属酸化物として使用可能である。
【0023】
本発明の正極活物質に含まれるリチウム鉄系酸化物およびLiを実質的に含まない金属酸化物(「金属酸化物」と略記)の割合に特に限定はないが、質量比で規定するのであれば、リチウム鉄系酸化物:金属酸化物=80:20〜20:80、60:40〜20:80、45:55〜25:75さらには40:60〜30:70の割合で含むとよい。本発明の正極活物質では、LiFeOから十分なLiが供給されるため、Liを実質的に含まない金属酸化物が質量割合で正極活物質の半分以上を占めていても、充放電可能となる。
【0024】
本発明の正極活物質は、上記の酸化物の他に、一般のリチウムイオン二次電池の正極活物質として使用されている化合物をさらに含んでもよい。たとえば、LiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO、LiMn、LiNiOなどのうちから選ばれる一種以上の他の酸化物を含んでもよい。これらの酸化物は、Liを含み、不可逆容量が小さい(たとえば、充放電効率が90%以上)。他の酸化物を含む場合も考慮すると、正極活物質を100質量%としたときに、リチウム鉄系酸化物とLiを実質的に含まない金属酸化物とを合計で、10質量%以上100質量%以下さらには50質量%以上100質量%未満含むとよい。
【0025】
〔リチウムイオン二次電池〕
本発明の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、本発明の正極活物質を含む正極と、実質的にLiを含まない負極と、非水電解液と、を備える。
【0026】
負極は、実質的にLiを含まなければよく、たとえば、炭素系材料、珪素系材料および錫系材料のうちの少なくとも一種を含む負極活物質を含むとよい。具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体やコークス等の炭素物質の粉状体などの炭素(C)を含む炭素系材料、珪素単体、酸化珪素、珪素化合物などの珪素(Si)を含む珪素系材料および錫、酸化錫、錫化合物などの錫(Sn)を含む錫系材料のうちの少なくとも一種を含むのが好ましい。
【0027】
正極および負極は、主として、上記の活物質と、この活物質を結着する結着剤と、からなるのが好ましい。さらに、導電助材を含んでもよい。結着剤および導電助材にも特に限定はなく、一般のリチウムイオン二次電池で使用可能なものであればよい。導電助材は、電極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。結着剤は、活物質および導電助材を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0028】
正極および負極は、少なくとも正極活物質または負極活物質が結着剤で結着されてなる活物質層が、集電体に付着してなるのが一般的である。そのため、正極および負極は、たとえば、活物質および結着剤、必要に応じて導電助材を含む電極合材層形成用組成物を調製し、さらに適当な溶剤を加えてペースト状にしてから集電体の表面に塗布後、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。
【0029】
集電体は、金属製のメッシュや金属箔を用いることができる。集電体としては、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂からなる多孔性または無孔の導電性基板が挙げられる。多孔性導電性基板としては、たとえば、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、不織布などの繊維群成形体、などが挙げられる。無孔の導電性基板としては、たとえば、箔、シート、フィルムなどが挙げられる。電極合材層形成用組成物の塗布方法としては、ドクターブレード、バーコーターなどの従来から公知の方法を用いればよい。
【0030】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などが使用可能である。
【0031】
電解質としては、有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の電解液や、電解液をポリマー中に保持させたポリマー電解質などを用いることができる。その電解液あるいはポリマー電解質に含まれる有機溶媒は特に限定されるものではないが、負荷特性の点からは鎖状エステルを含んでいることが好ましい。そのような鎖状エステルとしては、たとえば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートに代表される鎖状のカーボネートや、酢酸エチル、プロピロン酸メチルなどの有機溶媒が挙げられる。これらの鎖状エステルは、単独でもあるいは2種以上を混合して用いてもよく、特に、低温特性の改善のためには、上記鎖状エステルが全有機溶媒中の50体積%以上を占めることが好ましく、特に鎖状エステルが全有機溶媒中の65体積%以上を占めることが好ましい。
【0032】
ただし、有機溶媒としては、上記鎖状エステルのみで構成するよりも、放電容量の向上をはかるために、上記鎖状エステルに誘導率の高いエステルを混合して用いることが好ましい。このようなエステルの具体例としては、たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートに代表される環状のカーボネートや、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイトなどが挙げられ、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状構造のエステルが好ましい。そのような誘電率の高いエステルは、放電容量の点から、全有機溶媒中10体積%以上、特に20体積%以上含有されることが好ましい。また、負荷特性の点からは、40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
【0033】
有機溶媒に溶解させる電解質としては、たとえば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiCnF2n+1SO(n≧2)などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。中でも、良好な充放電特性が得られるLiPFなどが好ましく用いられる。
【0034】
電解液中における電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.3〜1.7mol/dm、特に0.4〜1.5mol/dm程度が好ましい。
【0035】
また、電池の安全性や貯蔵特性を向上させるために、非水電解液に芳香族化合物を含有させてもよい。芳香族化合物としては、シクロヘキシルベンゼンやt−ブチルベンゼンなどのアルキル基を有するベンゼン類、ビフェニル、あるいはフルオロベンゼン類が好ましく用いられる。
【0036】
正極と負極の間に挟装されるセパレータとしては、強度が充分でしかも電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、5〜50μmの厚さで、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、プロピレンとエチレンとの共重合体などポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる。
【0037】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は円筒型、積層型、コイン型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極と負極との間にセパレータを挟装させ電極体とする。そして正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を集電用リードなどで接続し、この電極体に上記電解液を含浸させ電池ケースに密閉し、リチウムイオン二次電池が完成する。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池は、携帯電話、パソコン等の通信機器、情報関連機器の分野の他、自動車の分野においても好適に利用できる。たとえば、このリチウムイオン二次電池を車両に搭載すれば、リチウムイオン二次電池を電気自動車用の電源として使用できる。
【0039】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の正極活物質およびリチウムイオン二次電池の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0041】
〔実施例1〕
〔正極の作製〕
正極活物質として、LiFeOおよびMnOを含む正極を作製した。
【0042】
はじめに、LiFeOを合成した。Li源としてのLiOおよびFe源としてのα−Feを化学量論比で秤量し、乳鉢および乳棒を用いて手攪拌し、混合粉末とした。混合粉末をペレット成形し、高周波溶解炉にて800℃で30分間加熱して反応させ、LiFeOを得た。なお、組成の同定は、ICP測定により行った。
【0043】
上記の手順で合成したLiFeOおよびMnOを、質量比でLiFeO:MnO=30:70に混合し、正極活物質を得た。得られた正極活物質とアセチレンブラック(AB)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを質量比で正極活物質:AB:PTFE=70:20:10となるように混合した。次いで、この混合物を集電体であるアルミニウムメッシュに圧着した。その後、120℃で12時間以上真空乾燥し、電極(正極:φ14mm)とした。
【0044】
〔負極の作製〕
負極活物質としてグラファイトを含むカーボン負極を作製した。
【0045】
グラファイトとケッチェンブラック(導電助剤)とポリフッ化ビニリデン(PVdF:結着剤)とを質量比で90:5:5となるように混合した。次いで、この混合物を集電体である銅メッシュに圧着した。その後、120℃で12時間以上真空乾燥した。乾燥後プレスし、直径14mmφに打ち抜き、負極とした。
【0046】
〔リチウムイオン二次電池〕
上記の正極および負極を組み合わせてコイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としてエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:2で混合した混合溶媒にLiPFを1.0mol/L溶解させてなる非水電解液を用い、セパレータとして厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルムを両電極間に配置した。
【0047】
〔実施例2〕
〔正極の作製〕
正極活物質として、LiFeOおよびNiOを含む正極を作製した。
【0048】
上記の手順で合成したLiFeOおよびNiOを、質量比でLiFeO:NiO=40:60に混合し、正極活物質を得た。得られた正極活物質とアセチレンブラック(AB)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを質量比で正極活物質:AB:PTFE=70:20:10となるように混合した。次いで、この混合物を集電体であるアルミニウムメッシュに圧着した。その後、120℃で12時間以上真空乾燥し、電極(正極:φ14mm)とした。
【0049】
〔負極の作製〕
実施例1と同じ負極を作製した。
【0050】
〔リチウムイオン二次電池〕
LiFeOおよびMnOを含む正極のかわりに上記のLiFeOおよびNiOを含む正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0051】
〔参考例1〕
正極活物質としてLiFeOのみを用い、実施例1と同様の手順で正極を作製した。また、対極として、金属リチウム(φ14mm)を準備した。これらの電極を正極および負極として用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0052】
〔参考例2〕
正極活物質としてMnOのみを用い、実施例1と同様の手順で正極を作製した。また、対極として、前述のカーボン負極(φ14mm)を準備した。これらの電極を正極および負極として用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0053】
〔参考例3〕
正極活物質としてNiOのみを用い、実施例1と同様の手順で正極を作製した。また、対極として、前述のカーボン負極(φ14mm)を準備した。これらの電極を正極および負極として用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0054】
〔評価〕
〔リチウムイオン二次電池の充放電試験〕
上記の各リチウムイオン二次電池を用いて、30℃の一定温度の下、定電流・定電圧充電−定電流放電充放電試験を行った。実施例1のリチウムイオン二次電池については、0.05mAで4.0Vから1.5Vの範囲で充放電試験を行った。実施例2については、0.05mAで4.0Vから0.7Vの範囲で充放電試験を行った。初回の充放電曲線を図1および図2に示した。
【0055】
また、参考例1〜3の電池についても、定電流・定電圧充電−定電流放電充放電試験を行った。参考例1については0.05mAで4.0Vから2.0V、参考例2については0.05mAで4.0Vから1.5V、参考例3については0.05mAで4.0Vから0.7V、の範囲で充放電試験を行った。参考例1のリチウムイオン二次電池の初回の充放電特性を図3に示した。また、それぞれのリチウムイオン二次電池について、1サイクル目の放電容量を表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
参考例2および参考例3のリチウムイオン二次電池は、Liを含まない負極(カーボン)を用いると容量は発現せず、電池として作動しなかった。一方、図1および図2より、Liを含まない酸化物(MnOおよびNiO)を60〜70質量%含む正極活物質を含む正極に対して、Liを含まない負極を組み合わせたリチウムイオン二次電池は、充放電が可能であり、二次電池として使用可能であることがわかった。
【0058】
また、図3より、LiFeOの初回の充電容量は550mAh/g、放電容量は100mAh/g、であり、450mAh/gが不可逆容量に相当する。不可逆容量である450mAh/g分のLiがMnOに供給されると仮定できる。また、参考例2において負極に金属リチウムを用いたときの放電容量は、300mAh/gである。これらの実験値を踏まえ、LiFeOとMnOとの混合割合に対して充電容量および放電容量を計算すると、表2に示した通りとなる。表2より、LiFeOとMnOとの混合割合(モル比)は、LiFeO:MnO=4:6(質量比では1.185:1)が最適である。つまり、MnOを40〜50質量%が最適であって、LiFeOとMnOとの混合割合を最適にすることにより実施例1よりもバランスがよく効率のよい充放電が可能となる可能性があることがわかった。
【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiFeOを基本組成とするリチウム鉄系酸化物およびLiを実質的に含まない金属酸化物を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記金属酸化物は、マンガン酸化物およびニッケル酸化物から選ばれる一種以上である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム鉄系酸化物と前記金属酸化物とを80:20〜20:80(質量比)の割合で含む請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質を含む正極と、実質的にLiを含まない負極と、非水電解液と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質は、炭素系材料からなる請求項4記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池を搭載したことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−99316(P2012−99316A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245455(P2010−245455)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】