説明

リチウムイオン二次電池用正極活物質

【課題】サイクル特性に優れ、高い安全性を有する正極活物質の提供。
【解決手段】Pnma空間群に属し、化学式LiMnαFeβγPO>(式中、0<x≦1.2、0<α<1.2、0<β<1.2、0≦γ<1.2、MはMg、Al、Ti等)で表される化合物Aと、Pnma空間群に属し、前記化合物Aとは異なる化合物Bと、を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記正極活物質を有する正極を用いたリチウムイオン二次電池を満充電し、前記正極活物質のX線回折パターンを測定した場合に、前記化合物AからLiが脱離した、Pnma空間群に属する化学式LiMnαFeβγPOで表される化合物Aの(200)面のピーク強度I(式中、0≦y<0.06、x>y)と、化合物Bの(200)面のピーク強度Iとの強度比が、0.0001<I/I<1であり、前記正極活物質を構成する一次粒子の平均粒径が500nm未満。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、並びにその正極活物質を用いた正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、軽量であることに加え、高い電圧を持ち、放電容量の点でも優れること等から、電子機器に広く使用されている。リチウムイオン二次電池の正極活物質として実用化されている材料には、例えばコバルト酸リチウムが挙げられる。しかし、コバルトは希少金属であり高コストであるため、脱コバルトを目指した正極活物質の開発が展開されている。近年では、LiNiOに代表される層状ニッケル系酸化物や、LiMnに代表されるスピネルマンガン系正極活物質の開発が進められている。しかし層状ニッケル系酸化物は、充電生成物がコバルト酸リチウムに比べ熱安定性に劣り、特に過充電時における安全性に課題がある。一方、スピネルマンガン系の正極活物質は、充電生成物の熱安定性に優れ安全性が高いものの、その実用容量は100mAh/g程度とコバルト酸リチウムに比べて小さい。
【0003】
このような状況の中、近年、オリビン系化合物と総称される、化学式LiMPO(式中、MはMn、Fe等の遷移金属元素である)で表わされる含リチウム複合酸化物が注目を集めている。これは、同化合物の比重量エネルギー密度、及び比容量エネルギー密度が、スピネルマンガン系を上回るとともに、卓越した安全性も併せ持つためである。
【0004】
しかし、上記の正極活物質は、化合物自体のサイクル安定性は期待できるものの、充放電に伴うLiの挿入脱離によって生じる正極活物質の膨張・収縮が大きいという問題がある。例えば、(非特許文献1)では、LiFePOの格子体積変化率が充電前後において約6.8%あるとされている。同じオリビン系に属するLiMnPO等は、さらに充電前後での格子体積変化率が大きいことが知られている。このような正極活物質を用いた場合、サイクル数が増加すると、オリビン系化合物と、集電体や導電材との結着性が低下する恐れがある。結着性が低下すると、正極活物質と導電材との導電パスの破壊が起こり、電池の容量が低下し、電池寿命も短くなる可能性がある。
【0005】
これに対し、(特許文献1)では、元素置換により膨張収縮を抑える報告がなされている。しかし、元素置換により膨張収縮を抑えても、一次粒子全体が膨張収縮を繰り返すことに変わりはなく、サイクルを重ねるごとに結着剤との結着性が低下することは避けられない。加えて、一次粒子が高抵抗化するためサイクル特性が低下する等の課題がある。
【0006】
また、(特許文献2)には、結着剤にアクリロニトリル系共重合体を含めることで、正極活物質と集電体との結着性を改善する方法が示されている。しかし、正極活物質自体の格子定数の変化を抑制する手法は述べられていない。
【0007】
したがって、正極活物質の膨張収縮を抑制し、サイクル特性を改善する技術は未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Electrochem. Soc., 148 (2001) A224
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−77030号公報
【特許文献2】特開2010−272272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の状況に鑑み、本発明は、サイクル特性に優れ、低コスト、高い安全性、及び長い電池寿命の全てを兼ね備えた、オリビン系化合物と総称される化学式LiMPO(式中、MはMn、Fe等の遷移金属元素である)で表される正極活物質、並びに当該活物質を用いた正極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、正極活物質中のオリビン系化合物の一次粒子の内部あるいはその周囲に、同じPnma空間群に属す化合物であって、電池を満充電した時にもLiが脱離しない、部分的に不活性なオリビン系化合物を導入し、且つそのような不活性なオリビン系化合物の割合を規定することで、正極活物質を構成する一次粒子あるいは正極活物質全体の充放電時における膨張・収縮が緩和され、正極あるいは電池の膨張・収縮が抑制され、その結果サイクル特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、Pnma空間群に属し、化学式LiMnαFeβγPO(式中、0<x≦1.2、0<α<1.2、0<β<1.2、0≦γ<1.2、MはMg、Al、Ti、Co、Ni、Cu及びZnの群から選択される一種類以上の元素である)で表される化合物Aと、Pnma空間群に属し、前記化合物Aとは異なる化合物Bと、を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記正極活物質を有する正極を用いたリチウムイオン二次電池を満充電し、前記正極活物質のX線回折パターンを測定した場合に、前記化合物AからLiが脱離した、Pnma空間群に属する化学式LiMnαFeβγPO(式中、0≦y<0.06、ただしx>yである)で表される化合物A’の結晶構造に起因する回折ピーク群と、化合物Bの結晶構造に起因する回折ピーク群とが観測され、その際、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iが、0.0001<I/I<1であり、前記正極活物質を構成する一次粒子の平均粒径が500nm未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、正極活物質を構成する一次粒子、あるいは正極活物質全体の充放電時における膨張・収縮が緩和され、ひいては正極の膨張・収縮が抑制されるため、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。また、低コスト、大容量、高い安全性、長い電池寿命等の特性を併せ持つリチウムイオン二次電池を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られた正極活物質のX線回折パターンと化合物A及びA’のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の正極活物質は、Pnma空間群に属し、化学式LiMnαFeβγPO(式中、0<x≦1.2、0<α<1.2、0<β<1.2、0≦γ<1.2、MはMg、Al、Ti、Co、Ni、Cu及びZnの群から選択される一種類以上の元素である)で表される化合物Aと、Pnma空間群に属し、前記化合物Aとは異なる化合物Bとを含むものである。
【0016】
そして、正極活物質を有する正極を用いたリチウムイオン二次電池を満充電し、その正極活物質のX線回折パターンを測定した場合に、化合物AからLiが脱離した、Pnma空間群に属する化学式LiMnαFeβγPO(式中、0≦y<0.06、ただしx>yである)で表される化合物A’の結晶構造に起因する回折ピーク群と、化合物Bの結晶構造に起因する回折ピーク群とが観測され、その際、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iが、0.0001<I/I<1であり、且つ正極活物質を構成する一次粒子の平均粒径が500nm未満であることを特徴とする。化合物Bは、充放電に伴う活物質へのLiの挿入脱離時に膨張収縮しないために、複数サイクル後でも結着剤との結着性が良い。加えて、母相である化合物Aと同じPnma空間群に属し格子定数も近いため、母相との格子のマッチングが良好で、母相Aのサイクル安定性や、Li拡散性、充放電容量への悪影響が小さい。
【0017】
なお、X線回折パターンを測定する際の満充電条件としては、例えば、正極活物質を有する正極を用い、負極に金属リチウムを用いたリチウムイオン二次電池を、前記正極の容量を1時間で充電できる電流値の10分の1の値で、金属リチウムからの電位差に換算して4.3Vまで、25時間を上限に充電を行う条件を採用することができる。
【0018】
化合物Bは、化合物Aからなる一次粒子中に部分的に含まれていても良いし、化合物Aからなる一次粒子と、化合物Bからなる別の一次粒子とが集合して正極活物質を構成していても良い。あるいは、その両方の場合が混在した状態であっても良い。
【0019】
化合物BのPnma空間群における格子定数は、化合物Aの格子定数よりも小さく、a軸方向が10.20Å〜10.33Å、b軸方向が5.98〜6.08Å、c軸方向が4.70〜4.82Åであることが好ましい。また、化合物Bは、(200)面の回折角度が、化合物A及び化合物A’の(200)面の回折角度のいずれとも異なり、かつ満充電状態においてLiが脱離しないことが好ましい。このような化合物Bは、化合物A、化合物A’およびこれらの組み合わせを構成物質として含む正極に下記処理を施すことで、正極中の活物質の一部を、Li脱離が阻害された領域に変化させることで形成することができる。
【0020】
具体的には、例えば、上記化合物A、アセチレンブラック等の導電材、及びポリフッ化ビニリデン等の結着剤等を含む正極合剤スラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布して乾燥させることにより正極を作製する。そして、この正極を用いたリチウムイオン二次電池を満充電状態として化合物Aを化合物A’とした後の正極を、HOを含む電解液中で25℃〜240℃で加熱することにより部分的に化合物Bを形成することができる。加熱処理中は、電解液の温度は一定に保持しても、25℃〜240℃の範囲内で変化させながら処理しても良い。特に好ましい条件は、80℃の上記電解液中で20日間の加熱処理である。加熱温度が80℃より低い場合は、処理時間が20日より長くなる傾向があり、すなわち、低温では化合物Bの合成が長時間化する。一方、150℃を超える温度で加熱する場合は、比較的短時間で化合物Bを合成することができるが、電解液・電解質の反応が原因で、電極上に化合物B以外の物質が生成し、電極の抵抗が高くなる恐れがあるため、加熱温度は、好ましくは25℃〜150℃であり、最も好ましくは50℃〜80℃である。
【0021】
また、上記のごとく満充電状態として電解液中で化合物Aの加熱処理を行っても良いが、満充電ではない状態で、電解液中で加熱処理を行っても本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることができる。ただし、満充電状態で保持することにより得られる所定のピーク強度比I/Iを、満充電ではない状態での加熱処理によって得るためには、満充電状態での処理よりも長時間もしくは高温で、あるいはそれらを組み合わせた条件が必要となる傾向がある。
【0022】
さらに、上述の例では、材料合成の簡易化のため加熱によって化合物Aの一部を化合物Bに変換しているが、これに限定されず、他の手法によって化合物Bを合成しても良い。すなわち、加熱処理によって化合物Aから化合物Bが合成される詳細なメカニズムは定かではないが、電解質、電解液、添加剤あるいはこれら相互の反応物に由来する、PF、LiF、HF、PFO、C、CO、CF、COCOOPF等の物質と化合物Aとが化学反応を起こした結果、化合物Aの粒子内に化合物Bが生成するわけであるから、上記の各物質、あるいはそれらの組み合わせを用いて化合物Aを化学的に処理することにより、化合物Aの粒子内に化合物Bを生成させたり、化合物Bを別途合成することができる。別途合成した化合物Bは、続いて化合物Aと混合することにより本発明の正極活物質を得ることができる。
【0023】
いずれの合成手法を用いたとしても、一次粒子の内部に化合物A及び化合物Bが含まれ、あるいは化合物Aの一次粒子と化合物Bの一次粒子とが混在した状態の正極活物質であって、満充電後の正極活物質のX線回折パターンの測定結果が、ピーク強度比に関して0.0001<I/I<1の条件を満たしているものであれば、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に包含される。
【0024】
また、必要に応じて、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に、リン酸リチウム化合物をさらに含ませることができる。これにより、電池特性を向上させることができる。リン酸リチウム化合物としては、LiPO、Li、LiPO、あるいはこれらの2種以上の組み合わせを用いることができる。正極活物質中のリン酸リチウム化合物の含有率は、化合物Aに対して2重量%未満とすることが好ましい。
【0025】
さらに、化合物A、A’及び化合物Bを含む正極活物質の一次粒子の表面には、導電性向上添加材として炭素を含む化合物を存在させることが好ましい。このような導電性向上添加材の原料の例としては、導電性を向上させることができるものであれば特に限定されるものではないが、スクロース等の糖類や、クエン酸、ショ糖、グラファイト、あるいはアセチレンブラック等のカーボンブラック、及びこれらの組合せ等を挙げることができる。導電性向上添加材の含有率は、化合物Aに対して1.5重量%〜10重量%の間であることが好ましい。
【0026】
以上のような正極活物質を有する正極と、通常用いられる負極、電解液、セパレータ、容器等を組み合わせて、リチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0027】
負極に用いる負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出をすることができる材料であれば特に限定されない。例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素類、金属酸化物、金属窒化物、活性炭等が挙げられる。これらはいずれかを単独で、もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
上記の負極活物質を、必要に応じて、結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等と混合して負極合剤スラリーを調製した後、集電体に塗布して乾燥させ、所望の形状に切り出すこと等により負極を作製することができる。
【0029】
リチウムイオン二次電池を構成するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シートや不織布等が使用可能である。
【0030】
リチウムイオン二次電池の電解液としては、従来の一般的な構成を採用することができる。通常、電解液は、LiPF等の電解質と、ビニレンカーボネート(以下、VC)等の添加剤と、エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒等の溶媒とを含む。溶媒の種類や、電解質の種類及び組成、添加剤の種類等は、リチウムイオン二次電池用に用いられている物質であれば特に限定されるものではないが、電解質としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩、あるいはこれらの組み合わせ等を用いることができ、この中でも特に電解質の一部にLiPFを用いることが好ましい。電解質の濃度は、リチウム塩が電解液中に含まれていれば特に限定されるものではないが、好ましくは電解液中0.4mol/L〜2.0mol/Lである。
【0031】
電解液の溶媒に関しても、一般にリチウムイオン二次電池用に用いられる溶媒であれば特に限定されず適用可能であり、例えばEC、EMC、ジメチルカーボネート(以下、DMC)、ジエチルカーボネート(以下、DEC)等の有機溶媒、あるいはこれらの組み合わせ等を用いることができる。添加剤としても、リチウムイオン二次電池用に用いられる添加剤であれば特に限定されず、VCや、化学式CS等で表される不飽和スルトン、あるいはこれらの組み合わせ等を用いることができる。
【0032】
以上の構成要素を用いて、コイン状、円筒状、角形状、アルミラミネートシート状等の種々の形状を有するリチウムイオン二次電池を組み立てることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって制限されるものではない。
【0034】
(実施例1)
(1)化合物Aの合成
マグネティックスターラー上で加熱したシリコーンオイルのオイルバスの中にビーカーを配置し、そのビーカー中で、トリエタノールアミン溶媒中にHPOを加えた溶媒Aを攪拌子で攪拌しながら加熱した。続いて、水にHPOを加えた液中に、硫酸鉄(II)七水和物を溶解させたFe源溶液と、水に酢酸リチウム二水和物及び硫酸マンガン(II)五水和物を溶解させた混合源溶液とをそれぞれ作製し、前記溶媒Aの中に同時に滴下した。
【0035】
滴下後の溶媒の温度は、150℃に保った。この際、合成したオリビン系化合物の組成比がLi:Mn:Fe:P=1:0.8:0.2:1となるように源溶液中の各元素のモル比を調整した。モル比の調整には、高周波誘導プラズマ発光分光分析法(ICP−AES分析)による組成比を参考にした。滴下が終了した後、さらに1時間、溶媒を150℃に保ちつつ攪拌を続け、その後PTFE製のオートクレーブ中に密閉して、200℃で加熱加圧した。
【0036】
加熱加圧後、オートクレーブの底部に沈殿物が得られた。沈殿物をろ過し、エタノールで入念に洗浄した後、120℃で2時間以上乾燥させることにより化合物Aを得た。化合物Aの一次粒子の平均粒径は50nmであった。
【0037】
得られた化合物Aについて、粉末X線回折法により相の同定を行った。測定の結果、化合物Aの回折パターンがオリビン型構造(空間群Pnma)に帰属することを確認した。
【0038】
(2)化合物Aを用いた正極の作製
続いて、100重量部の化合物Aに対し、導電性向上添加材として12重量部のスクロースを添加し、アセトンと共に33時間ボールミルで粉砕処理を行った。その後、試料をAr雰囲気中で700℃の温度で加熱し、化合物Aの一次粒子の表面に導電性向上添加材が形成された複合体材料を作製した。複合体材料の一次粒子の平均粒径は約50nmであった。
【0039】
上記複合体材料を80重量部、導電材としてアセチレンブラックを10重量部、結着剤を10重量部となるように秤量してスラリーを作製した。結着剤としては、結着性が確保できればどのような結着剤を用いても良かったが、例えばポリフッ化ビニリデンや、アクリロニトリル系共重合体などを用いることが好ましかった。このスラリーを、集電体であるアルミ箔上に塗布して正極を作製した。この際アルミ箔には、表面粗さとして平均粗さRaが0.3μm以上のアルミ箔を用いると結着性が特に優れ好ましかったが、本発明はRaが0.3μm以下のアルミ箔でも効果が認められた。
【0040】
(3)化合物Bの形成
化合物Aを含む上記正極と、金属リチウムの負極とを用いて密閉性の高い二極式モデルセルを作製した。正極は15mmφの円形状に成型したものを用いた。また、セパレータには30μm厚みのポリプロピレン及びポリエチレンの積層セパレータを用いた。この二極式モデルセルを満充電した後、正極のみを取り出し、HOを含む電解液中で20日間、80℃で加熱した(以下、処理1と呼ぶ)。電解液としては、エチレンカーボネート(以下、EC)及びエチルメチルカーボネート(以下、EMC)の混合溶媒に、電解質であるLiPFと、添加剤であるビニレンカーボネート(以下、VC)を溶解させたものを用いた。
【0041】
二極式モデルセルを満充電する条件としては、満充電時の正極の容量を1時間で充電できる電流値の10分の1の値で、金属リチウムからの電位差に換算して4.3Vまで、25時間を上限にして、定電流定電圧充電する条件(以下、充電条件1と呼ぶ)を採用した。この際、電流値が、満充電時の正極の容量を1時間で充電できると概算できる電流値(以下、1C電流値とする)の100分の1の値となった場合は、25時間に達せずとも充電を停止した。
【0042】
正極活物質の一次粒子における、処理1によって形成されLiの脱離が阻害された領域である化合物Bの割合を、粉末X線回折法を用いて測定した。すなわち、化合物AからLiが脱離した、Pnma空間群に属する化合物A’の(200)面と化合物Bの(200)面とのピーク強度比に基づき定量的に評価した。X線源にはCuKα線を用いた。
【0043】
処理1を施した後の正極活物質のX線回折パターンを測定した。その結果を図1に示す。比較のため、処理1を施さない化合物Aと、処理1を施さないで充電条件1による充電を行った化合物A(すなわち、化合物A’)のX線回折パターンも示す。化合物Aの格子定数が、a、b及びc軸方向でそれぞれ10.40Å、6.05Å及び4.72Åであるのに対し、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.25Å、6.03Å及び4.77Åであることからも、化合物Bが化合物Aとは異なる物質であることが明らかとなった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、0.1であった。
【0044】
(4)リチウムイオン二次電池の諸特性
上記の正極を洗浄後、リチウムイオン二次電池の充放電特性を評価した。充電条件としては上述の充電条件1を用い、放電条件としては、正極活物質を有する正極を用い、負極に金属リチウムを用いたリチウムイオン二次電池のモデル電池を、前記正極の容量を1C電流値の10分の1の値で、金属リチウムからの電位差に換算して2.0Vまで、25時間を上限にして、定電流放電する条件(以下、放電条件1と呼ぶ)を用いた。容量の評価は、負極の金属リチウムを交換した二極式モデルセルを用いて、放充電を3サイクル繰り返すことで、初期化した後の値を示す。測定の結果、放電容量は145mAh/gであった。
【0045】
初期化の後、1C電流値の2分の1の電流値で4.4Vの電圧まで定電流定電圧充電し、1C電流値の20分の1の電流値になった際に充電を停止し、1C電流値の2分の1の電流値で2Vまで定電流放電を行う充放電サイクルを100サイクル繰り返した(以下、サイクル条件1と呼ぶ)。その際に得られた2サイクル目の放電容量と、100サイクル目の容量比を測定した。その結果、容量比は97.2%であった。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0046】
(実施例2)
化合物Aの合成法と、化合物Aを用いた正極の作製法は実施例1と同様としたが、合成後の化合物Aの組成比がLi:Mn:Fe:Mg:P=1:0.8:0.17:0.03:1となるように、混合源溶液にMgの硝酸塩をさらに溶解させ、源溶液中の各元素のモル比を調整した。化合物Aの一次粒子の平均粒径は50nmであった。その後、電池組成等はすべて同様として、満充電後の正極を電解液中で20日間、80℃で加熱した。
【0047】
加熱処理後の正極活物質のX線回折パターンを測定した結果、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.23Å、6.00Å及び4.75Åであった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、0.1であった。
【0048】
また、上記正極を用いたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様に特性評価を行ったところ、放電容量は148mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、97.4%であった。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0049】
(実施例3)
化合物Aの合成法と、化合物Aを用いた正極の作製法は実施例1と同様としたが、合成後の化合物Aの組成比がLi:Mn:Fe:Zn:P=1:0.8:0.17:0.03:1となるように、混合源溶液にZnの硝酸塩をさらに溶解させ、源溶液中の各元素のモル比を調整した。化合物Aの一次粒子の平均粒径は50nmであった。その後、電池組成等はすべて同様として、満充電後の正極を電解液中で20日間、80℃で加熱した。
【0050】
加熱処理後の正極活物質のX線回折パターンを測定した結果、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.23Å、6.08Å及び4.82Åであった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、0.1であった。
【0051】
また、上記正極を用いたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様に特性評価を行ったところ、放電容量は151mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、96.9%であった。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0052】
(実施例4)
化合物Aの合成法と、化合物Aを用いた正極の作製法は実施例1と同様としたが、合成後の化合物Aの組成比がLi:Mn:Fe:P=1:0.1:0.9:1となるように源溶液中の各元素のモル比を調整した。化合物Aの一次粒子の平均粒径は50nmであった。その後、電池組成等はすべて同様として、満充電後の正極を電解液中で20日間、80℃で加熱した。
【0053】
加熱処理後の正極活物質のX線回折パターンを測定した結果、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.33Å、6.00Å及び4.70Åであった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、0.01であった。
【0054】
また、上記正極を用いたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様に特性評価を行ったところ、放電容量は156mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、96.9%であった。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0055】
(実施例5)
実施例1と同様に化合物Aを合成した後、pH調整剤としてLiOHを加えpHを10.0としたイオン交換水中に化合物Aを加え1時間攪拌した。その後水溶液中に、リン酸水素二アンモニウムを溶解させたイオン交換水を加え、さらに1時間攪拌した後乾燥させた(以下、処理2)。なお、化合物Aの組成比はLi:Mn:Fe:P=1:0.8:0.2:1となるように源溶液中の各元素のモル比を調整した。化合物Aの一次粒子の平均粒径は50nmであった。化合物Aの表面に含まれるリン酸リチウム化合物はLiPOであった。LiPOの量は化合物Aに対して1重量%となるように、水溶液中のLiOHとリン酸水素二アンモニウムの量を調整した。そして、実施例1と同様にして正極を作製した。その後、電池組成等はすべて同様として、満充電後の正極を電解液中で20日間、80℃で加熱した。
【0056】
加熱処理後の正極活物質のX線回折パターンを測定した結果、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.25Å、6.03Å及び4.77Åであった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、0.02であった。
【0057】
また、上記正極を用いたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様に特性評価を行ったところ、放電容量は145mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、97.5%であった。なお、ボールミル後の正極に上記の処理2を施した場合も同様の強度比I/Iが得られた。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0058】
(実施例6)
実施例1と同様に化合物Aを合成した後、実施例5と同様にしてリン酸リチウム化合物(LiPO)を化合物Aに含有させた。なお、化合物Aの組成比はLi:Mn:Fe:Mg:P=1:0.82:0.15:0.03:1となるように、混合源溶液にMgの硝酸塩をさらに溶解させ、源溶液中の各元素のモル比を調整した。化合物Aの一次粒子の平均粒径は50nmであった。また、化合物Aの表面に含まれるLiPOの量が化合物Aに対して0.5重量%となるように、水溶液中のLiOHとリン酸水素二アンモニウムの量を調整した。そして、実施例1と同様にして正極を作製した。その後、電池組成等はすべて同様として、満充電後の正極を電解液中で20日間、80℃で加熱した。
【0059】
加熱処理後の正極活物質のX線回折パターンを測定した結果、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.20Å、5.98Å及び4.72Åであった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、0.05であった。
【0060】
また、上記正極を用いたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様に特性評価を行ったところ、放電容量は147mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、97.6%であった。なお、ボールミル後の正極に上記の処理2を施した場合も同様の強度比I/Iが得られた。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0061】
(比較例1)
合成法と組成比を実施例1と同一にして化合物Aを合成した。化合物Aの一次粒子の平均粒径は50nmであった。そして、実施例1と同様にして正極を作製した。その後、電池組成等はすべて同様として、化合物Bの生成量を増加させるために、満充電後の正極を電解液中で160日間、80℃で加熱した。
【0062】
加熱処理後の正極活物質のX線回折パターンを測定した結果、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.24Å、6.03Å及び4.78Åであった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、1であった。
【0063】
また、上記正極を用いたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様に特性評価を行ったところ、放電容量は48mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、96.4%であった。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0064】
(比較例2)
合成法と組成比を実施例1と同一にして化合物Aを合成した。化合物Aの一次粒子の平均粒径は50nmであった。そして、実施例1と同様にして正極を作製した。その後、電池組成等はすべて同様として、化合物Bの生成量を少なくするために、満充電後の正極を電解液中で5日間、50℃で加熱した。
【0065】
加熱処理後の正極活物質のX線回折パターンを測定した結果、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.25Å、6.03Å及び4.77Åであった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、0.0001であった。
【0066】
また、上記正極を用いたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様に特性評価を行ったところ、放電容量は148mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、94.3%であった。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0067】
(比較例3)
本比較例3では、化合物Bを生成させない場合の特性を評価した。他の構成・条件は実施例1と同様にした。その結果、放電容量は151mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、93.1%であった。以上の結果を表1及び表2に示す。なお、表中の横棒は測定する意味がないために測定していないことを意味する。
【0068】
(比較例4)
本比較例4では、化合物Aの一次粒子の平均粒径を大きくするために、化合物Aを合成する際に、組成比を実施例1と同一にした上で、PTFE製のオートクレーブ中での加熱加圧温度を230℃とした。その結果、一次粒子の平均粒径は500nmとなった。そして、実施例1と同様にして正極を作製し、その後、電池組成等はすべて同様として、化合物Bを生成させるために、満充電後の正極を電解液中で20時間、80℃で加熱した。
【0069】
加熱処理後の正極活物質のX線回折パターンを測定した結果、化合物Bの格子定数はa、b及びc軸方向でそれぞれ10.25Å、6.03Å及び4.76Åであった。また、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iは、0.007であった。
【0070】
また、上記正極を用いたリチウムイオン二次電池について、実施例1と同様に特性評価を行ったところ、放電容量は100mAh/gであった。さらに、実施例1に記載のサイクル条件1で充放電を100サイクル繰り返した後の容量比を測定した結果、94.2%であった。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0071】
【表1】

【表2】

【0072】
(考察)
本発明における実施例及び比較例では、二極式モデルセルから正極のみを取り出し、電解液中で処理1を施しているが、必ずしもセルから正極を取り出して処理1を行う必要はなく、正極を、HOを含む電解液が用いられている電池内に配置したままで処理1を行っても同様の効果が得られた。また、負極を金属リチウムとしなかった場合でも同様の効果が得られた。
【0073】
実施例1〜実施例6と比較例1及び2の結果から、0.0001<I/I<1の範囲内である場合、放電特性・サイクル特性ともに優れることが分かった。一方、I/Iが1を上回る場合は、放電容量が低下してしまうことが分かった。これは、リチウムの挿入脱離が起こらない化合物Bの割合が多くなったため、容量利用率が低下したことが原因と考えられる。また、比較例2の結果から、0.0001を下回る場合には100サイクル後の容量維持率が各実施例に比べて低くなることが明らかとなった。これは、化合物Bの割合が少なくなった場合、本発明の効果が得られにくくなることを意味する。特に、化合物Bのピーク強度Iが観測されなかった比較例3は全ての試料の中で最も容量維持率が低かった。
【0074】
また、実施例2及び3に、MとしてMg又はZnを用いた例を示した。Mとして、Al、Ti、Co、Ni又はCuを選択した場合にも化合物Bを導入することによってサイクル特性が改善した。
【0075】
また、実施例1〜6の結果から、化合物Aに比べて化合物Bの格子体積は小さいことが分かった。化合物Aは充電に伴い格子体積が収縮するが、化合物Bの格子定数が化合物Aよりも小さい場合、化合物Aと化合物Bの格子の間のミスマッチが、放電と共に緩和され、膨張収縮による一次粒子へのダメージが小さくなるものと考えられる。
【0076】
さらに、実施例1と実施例4との比較から明らかなように、FeとMnの比を変化させても0.0001<I/I<1の範囲内であれば良い結果が得られた。また、実施例4の正極をさらに長時間、80℃で熱処理を続け、4カ月後に正極活物質のX線回折測定を行った。その結果、X線回折パターンに化合物Bが主ピークとして現れた。その物質をICP分析した結果、化学式中のPに対するMnとFeの合計の割合が化合物AやAからLiを脱離した化合物であるA’に比べ減少した。この減少度合いは、熱処理条件を変化させることで変化し、熱処理時間が長いほど、また熱処理温度が高いほど、減少度合いが大きいことが判明した。電極を一度大気に曝して乾燥させた後に同じ実験を行った場合にも減少度合いは大きくなった。先述したように、温度条件や、電極を大気中で乾燥させる条件によってはより短時間で所望のI/I比を得ることができたが、これらの変化によって本発明で得られる効果が制限されることは無かった。
【0077】
上記による様々な条件で処理した試料の分析結果から、本発明における処理を施した際に生成する化合物Bの組成が規定できた。その結果、化学式では、LiδFeεPO(式中、0<δ≦1.2、0<ε<1)、LiκFeλρPO(式中、0<κ≦1.2、0<λ<1.2、0<ρ<1.2、λ+ρ<1.2)、及びLiσMnτFeωζPO(式中、0<σ≦1.2、0<τ<1.2、0<ω<1.2、0<ζ<1.2、0<τ+ω+ζ<1.2)、より具体的には、Li2−βFeβPO、Li2−β−γFeβγPO、及びLi2−α+iMnα−iFeβγPO(式中、0<i≦α)となることが分かった。
【0078】
さらに、実施例1と比較例4の比較から、化合物A及び化合物Bを含む一次粒子の平均粒径が500nm未満である場合、特性が優れることが分かった。これは、一次粒子の粒径が小さい方が歪みの緩和と容量利用率が高いためと考えられる。
【0079】
本発明では、前記組成比を有する化合物BがLiを脱離しないことに大きな特徴がある。すなわち本発明における特殊な処理を施すことで、オリビン構造におけるLiサイトに一部Feが、あるいはFeサイトに一部Liが固溶した結晶構造を持つドメインや、MnやFeサイトの元素が一部欠損したドメインや、あるいはMnやFe等の元素が欠損した構造中にLiが一部固溶したドメイン等を形成させ、これによりLiの脱離が阻害されたドメインを一次粒子内、あるいは二次粒子内に導入する。言い換えれば本発明における特殊な処理により、化合物Aあるいは化合物A’のごく一部を化合物Bとする。それにより、サイクル数の増加で低下する、オリビン系化合物とその他の正極の構造部材との結着性を維持する効果を持たせることに大きな特徴がある。
【0080】
また、本発明におけるリチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に、リン酸リチウム化合物をさらに有する場合を実施例5及び6に示す。この場合でも、正極活物質のX線回折パターンにおいて、ピーク強度Iとピーク強度Iとの強度比I/Iが0.0001<I/I<1の範囲内であると良い結果が得られた。特に、実施例5及び6では最も容量維持率が高く、好ましいことが分かった。
【0081】
実施例5及び6では、リン酸リチウム化合物としてLiPOを用いたが、その他、Li、LiPOを用いた場合にも優れた電池特性が得られた。また実施例5及び6ではリン酸リチウム化合物を活物質に含有させるため、LiOHとリン酸水素二アンモニウムを用いたが、含有させる方法としては上記に限らない。
【0082】
リン酸リチウム化合物の含有率は、実施例5〜6に限定されるものではなく、適宜設定することができるが、化合物Aの重量に対して2重量%未満である場合、放電容量が高く、好ましい。この原因は定かではないが、リン酸リチウム化合物によって正極活物質からのLiの拡散や電子伝導が阻害されたためと考えられる。
【0083】
本発明により得られる正極活物質の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、リチウムイオン二次電池等に用いることができる。
【0084】
なお本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pnma空間群に属し、化学式LiMnαFeβγPO(式中、0<x≦1.2、0<α<1.2、0<β<1.2、0≦γ<1.2、MはMg、Al、Ti、Co、Ni、Cu及びZnの群から選択される一種類以上の元素である)で表される化合物Aと、
Pnma空間群に属し、前記化合物Aとは異なる化合物Bと、
を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記正極活物質を有する正極を用いたリチウムイオン二次電池を満充電し、前記正極活物質のX線回折パターンを測定した場合に、
前記化合物AからLiが脱離した、Pnma空間群に属する化学式LiMnαFeβγPO(式中、0≦y<0.06、ただしx>yである)で表される化合物A’の結晶構造に起因する回折ピーク群と、
化合物Bの結晶構造に起因する回折ピーク群とが観測され、
その際、化合物Bの(200)面のピーク強度Iと、化合物A’の(200)面のピーク強度Iとの強度比I/Iが、0.0001<I/I<1であり、
前記正極活物質を構成する一次粒子の平均粒径が500nm未満である前記リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
化合物BのPnma空間群における格子定数は、a軸方向が10.20Å〜10.33Å、b軸方向が5.98〜6.08Å、c軸方向が4.70〜4.82Åである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
化合物Bは、(200)面の回折角度が、化合物A及び化合物A’の(200)面の回折角度のいずれとも異なり、かつ満充電状態においてLiが脱離しない請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
化合物Bは、LiδFeεPO(式中、0<δ≦1.2、0<ε<1)、LiκFeλρPO(式中、0<κ≦1.2、0<λ<1.2、0<ρ<1.2、λ+ρ<1.2)、及びLiσMnτFeωζPO(式中、0<σ≦1.2、0<τ<1.2、0<ω<1.2、0<ζ<1.2、0<τ+ω+ζ<1.2)の群から選択される一以上の化学式で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
化合物Bは、Li2−βFeβPO、Li2−β−γFeβγPO、及びLi2−α+iMnα−iFeβγPO(式中、0<i≦α)の群から選択される一以上の化学式で表される化合物である請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
化合物Bは、化合物A及び化合物A’と異なる結晶構造を有し、化合物Bの格子体積は化合物Aより小さく、かつPnma空間群における格子定数は、a軸方向が10.20Å〜10.33Å、b軸方向が5.98〜6.08Å、c軸方向が4.70〜4.82Åであり、化学式中のPに対するMn、Fe及びMの元素の合計の割合が、化合物A及び化合物A’に比べて小さい化合物である請求項4又は5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に、リン酸リチウム化合物をさらに含む前記リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項8】
リン酸リチウム化合物が、LiPO、Li、及びLiPOの群から選択される一以上である請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項9】
満充電条件として、正極活物質を有する正極を用い、負極に金属リチウムを用いたリチウムイオン二次電池を、前記正極の容量を1時間で充電できる電流値の10分の1の値で、金属リチウムからの電位差に換算して4.3Vまで、25時間を上限に充電を行う請求項1〜8のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を有するリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項11】
正極として、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−101883(P2013−101883A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245867(P2011−245867)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】