説明

リチウムイオン二次電池

【課題】上限電圧値の高い条件で使用されてもサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明により提供されるリチウムイオン二次電池500は、正極活物質534Aを有する正極530と、負極活物質544Aを有する負極540と、非水溶媒と支持塩とSEI形成材料とを含む液状電解質(電解液P)537と、正極活物質534Aと電解液Pとの間に介在された非流動性(典型的にはゲル状または固体状)の電解質536とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より高い電圧での使用が可能であり、且つサイクル特性の良好なリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な正負の電極と、これら両電極間に介在されたセパレータとを備える。該セパレータには非水電解液が含浸されており、該電解液中のリチウムイオンが両電極間を行き来することにより充放電を行う。軽量でエネルギー密度が高いため、各種携帯機器の電源として普及している。また、車両等の大容量電源を要する分野においても利用が期待されており、さらなる高エネルギー密度化が求められている。リチウムイオン二次電池に関する技術文献として、特許文献1〜3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−524204号公報
【特許文献2】特開2009−508309号公報
【特許文献3】特開2009−545129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高エネルギー密度化は、例えば、電池の高電圧化(使用時における上限電圧を高くすること)によって実現され得る。高電圧化の手段としては、例えば、正極材料として、一般的なリチウムイオン二次電池の典型的な使用態様における上限電圧よりも高い電位(例えば、正極電位が4.3V(対Li/Li)以上)まで充電される態様においても正極活物質として好適に機能し得るリチウム遷移金属化合物を使用することが検討されている。また、これに伴い、電解液成分(溶媒等)の耐酸化性向上も求められており、電解液溶媒として、フッ素化された有機溶媒を用いることが報告されている。しかしながら、一般に、物質の耐酸化性と耐還元性とは相反する特性であるので、一方を向上させると、他方が低下してしまう。そのため、耐酸化性の高い溶媒を含む電解液は、負極電位が低い状態のとき(典型的には電池が満充電状態またはそれに近い状態にあるとき、例えば、負極電位が0.1V(対Li/Li)程度のとき)、負極において該溶媒が還元分解しやすく、充放電サイクルの繰り返しや高温での長期保存により電池の容量が著しく低下する場合があった。
このような負極における還元反応を抑制するために、該還元反応を抑制する被膜(SEI)を負極表面に形成し得る材料(SEI形成材料)が添加された電解液を用いることも考えられる。しかし、正極の電位が高いと上記SEI形成材料が正極において酸化分解されてしまい、負極表面がSEIによって適切に被覆され難くなる。このため、SEI形成材料の添加効果が十分に発揮されず、充放電サイクル特性の向上(例えば容量劣化の改善)が困難となる場合があり得る。
【0005】
本発明は、上限電圧値の高い(例えば4.3V以上の)条件で使用されてもサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを一つの目的とする。本発明の他の目的は、かかるリチウムイオン二次電池を利用した電源装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水溶媒と支持塩とSEI形成材料とを含む電解液Pと、を備えるリチウムイオン二次電池が提供される。この電池は、さらに、前記正極活物質と前記電解液Pとの間に介在された非流動性の電解質Qを備える。
【0007】
かかる態様のリチウムイオン二次電池では、上記電解液Pが溶液状である一方、上記電解質Qは非流動性(典型的にはゲル状または固体状)であるので、これらが混ざり合うことなく分離された状態に維持され得る。したがって、これら電解液Pおよび電解質Qの特性(耐酸化性、耐還元性等)を別々に制御することが可能である。また、電解液Pと正極活物質との間に非流動性の電解質Qが介在した構成であることから、電解液Pと正極活物質との直接接触が阻まれ、電解液Pに含まれるSEI形成材料が正極表面において分解される(これによりSEI形成材料が消費されてしまい、負極表面がSEIによって適切に被覆され難くなる)事象を回避することができる。さらには、上記電解液PがSEI形成材料を含み、且つ液状であることから、負極表面においてSEIが効率よく形成・補修され、充放電サイクルを繰り返すことによる容量の低下を抑制することができる。これらのことから、例えば、従来の一般的なリチウムイオン二次電池より高い電圧値(例えば4.3V以上)で使用しても良好なサイクル特性を示し得るリチウムイオン二次電池が実現され得る。
【0008】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記非流動性電解質Qは、ゲル状をなす電解質組成物である。このゲル状電解質組成物Qは、典型的には、非水溶媒と支持塩とを含む。上記ゲル状電解質組成物Qによって正極活物質が被覆されている。上記電解質組成物Qは、ゲル状であるので、正極上に固定され、負極との直接接触が防止され得る。このことによって、電解質組成物Q中に含まれる溶媒の負極表面における還元分解が実質的に回避され得る。好ましくは、上記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)は、上記電解液Pに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)よりも高い(典型的には0.1V以上、好ましくは0.2V以上、例えば0.3V〜1.0V程度高い。)。このように酸化電位の高い(酸化されにくいが還元されやすい傾向にある)非水溶媒を含む電解質Qを用いる場合には、本発明の構成を適用することが特に有意義である。
【0009】
ここで、「正極活物質が電解質組成物Qによって被覆されている。」とは、例えば上記正極活物質を含有する多孔質層を有する正極において、該多孔質層の少なくとも表面に該組成物Qが付与されている(保持されている;applied)ことを指す。好ましい一態様では、該多孔質層の微細な孔(細孔)の少なくとも一部(典型的には、少なくとも上記外表面に近接する部分にある細孔)にも電解質組成物Qが入り込んで(浸み込んで)いる。上記SEI(Solid Electrolyte Interphase;固体電解質界面)は、負極表面における副反応(還元分解等)を抑制する機能を有する表面被膜である。上記SEI形成材料とは、電解液中に当該材料を含有させることにより、その材料を含有させない場合に比べてSEIが形成されやすくなる材料をいう。上記電解液Pは、溶液状である。「電解質組成物Qに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)が電解液Pに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)よりも高い」とは、電解質組成物Qに含まれる非水溶媒(二種以上の非水溶媒の混合物であり得る。)について測定される酸化電位が、電解液Pに含まれる非水溶媒(二種以上の非水溶媒の混合物であり得る。)について測定される酸化電位よりも高いことを指す。ここで、酸化電位(酸化分解開始電位としても把握され得る。)とは、後述する酸化電位測定方法において、評価用セルに対し、段階的に電圧を高くしつつ定電圧充電を実施した場合に、電流値が0.1mAより大きくなったときの電位をいう。なお、以下において、ゲル状の電解質組成物を単に電解質ゲルと称することがある。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい他の一態様において、上記非流動性の電解質Qは、固体電解質(典型的には、固体状無機材料)である。正極活物質と電解液Pとの間に上記固体電解質Qが介在されていることにより、該正極活物質と上記電解液Pに含まれるSEI形成材料との直接接触がより確実に防止され、上記正極において上記SEI形成材料が酸化分解・変質等を起こし難くなる。これにより、負極表面においてSEIが適度に形成・補修され、充放電サイクルの繰り返しによる容量低下を抑制することができる。このことから、例えば、従来の一般的なリチウムイオン二次電池より高い電圧値(例えば4.3V以上)で使用しても良好なサイクル特性を示し得るリチウムイオン二次電池が実現され得る。好ましい一態様では、上記固体電解質Qが正極活物質の表面に被覆されている。例えば、粒子状の正極活物質を備えるリチウムイオン二次電池において、該正極活物質粒子の表面に固体電解質Qが被覆されていることが好ましい。かかる構成は、電池の内部抵抗を大きく上昇させることなく、電解液Pと正極活物質との間に配置された固体電解質Qにより両者の直接接触を阻止するのに適している。
【0011】
ここに開示される技術は、正極電位(対Li/Li)が一般的なリチウムイオン二次電池(満充電時における正極電位(対Li/Li)が4.1〜4.2V程度)よりも高くなるまで充電され得る態様(使用条件)で用いられるリチウムイオン二次電池に好ましく適用され得る。例えば、正極電位(対Li/Li)が4.3V以上、より好ましくは4.5V以上(例えば4.7V以上)になるまで充電され得る条件で用いられるリチウムイオン二次電池に好適である。
【0012】
好ましい一態様では、上記電解質ゲルQに含まれる非水溶媒は、酸化電位(対Li/Li)が4.3Vよりも高いことを特徴とする。ここで、該電解質ゲルQに含まれる非水溶媒が二種以上の非水溶媒の混合物(混合溶媒)である場合、「上記電解質ゲルQに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)が4.3Vよりも高い」とは、該非水溶媒の全体について測定される酸化電位が4.3Vよりも高いことをいう。かかる態様のリチウムイオン二次電池は、上限電圧が4.3V以上の条件で好適に使用され得る。好ましい一態様では、上記混合溶媒に含まれる各成分(非水溶媒)のそれぞれについて測定される酸化電位が、いずれも4.3Vより高い。
【0013】
他の好ましい一態様では、上記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒は、酸化電位(対Li/Li)が、当該電池の満充電状態における正極活物質の電位(後述する作動電位をいう。)(対Li/Li)よりも高いことを特徴とする。かかるリチウムイオン二次電池では、電池を満充電しても(SOC(State Of Charge)が100%の状態にしても)、上記電解質ゲルQに含まれる非水溶媒が酸化分解され難いので、正極における抵抗増加が抑制され得る。なお、「満充電する」とは、所望の容量(典型的には、電池設計で決められた定格容量)を確保するための上限電圧でSOC100%となるまで電池を充電することを指す。「満充電電位」とは、上記所望の容量を確保するための上限電圧で充電してSOC100%となった状態を指す。また、「満充電電位(対Li/Li)」とは、上記上限電圧(充放電制御システムの充電上限電位としても把握され得る。)における金属リチウム基準の正極電位を意味する。
【0014】
他の好ましい一態様では、上記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒のうち95体積%以上が、フッ素化されたカーボネートの少なくとも一種からなる。フッ素化されたカーボネートは、酸化電位(対Li/Li)が、対応するカーボネートよりも高い傾向にある。したがって、かかるリチウムイオン二次電池は、より高い上限電圧設定で使用されてもサイクル特性が良好なものであり得る。
【0015】
他の好ましい一態様では、上記リチウムイオン二次電池が、上記電解質組成物Qと上記負極との間に配置された多孔質プラスチック層をさらに備える。典型的には、上記多孔質プラスチック層の細孔には上記電解液Pが含浸している。かかるプラスチック層は物理的な細孔を有し、かかる細孔を通してリチウムイオンが効率的に両極間を移動することができる。好ましい一態様では、温度が該プラスチック層の融点に達すると、これら細孔が溶融により閉口する。すなわち、かかるプラスチック層を上記所定の場所に有するリチウムイオン二次電池には、従来の電池と同様に、過充電による過熱が発生した場合に充放電が停止されるシャットダウン機能が具備され得る。
【0016】
ここに開示される技術の他の側面として、ここに開示されるリチウムイオン二次電池と、この電池に電気的に接続され、該電池の少なくとも上限電圧値を規定する制御回路と、を備える電源装置が提供される。ここで、上記上限電圧値は4.3V以上に設定されている。かかる電源装置は、その比較的高く設定された上限電圧値においても上記リチウムイオン二次電池の容量低下が少ないものであり得る。
【0017】
上述のとおり、ここに開示されるリチウムイオン二次電池は、従来の一般的なリチウムイオン二次電池よりも上限電圧値の高い条件で使用されてもサイクル特性に優れるので、車両において使用される電源として好適である。したがって、本発明によると、ここに開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池を備えた車両が提供される。特に、かかるリチウムイオン二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】本発明のリチウムイオン二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成概念を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の他の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成概念を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の他の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成概念を模式的に示す断面図である。
【図7】図6に示される実施形態において用いられる正極活物質粒子の構成概念を模式的に示す断面図である。
【図8】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を含む電源システムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態に係るリチウムイオン二次電池につき、ゲル状の非流動性電解質(電解質ゲル)Qを備えた態様の例を、図4および図5を用いて説明する。また、固体状の非流動性電解質(固体電解質)Qを備えた態様の例を、図6および図7を用いて説明する。
【0021】
<ゲル状の非流動性電解質Qを備えたリチウムイオン二次電池の構成例>
本発明の一実施態様に係るリチウムイオン二次電池500は、図4に示されるように、容器510内に、正極集電体532上に正極活物質層534を有する正極530と、負極集電体542上に負極活物質層544を有する負極540と、電解質ゲル536(電解質組成物Q)と、液状電解質(電解液P)537とを備える。正極活物質層534は正極活物質534Aを主成分とする層であり、負極活物質層544は負極活物質544Aを主成分とする層である。正極活物質層534は、電解質ゲル536で被覆されている。液状電解質537は、負極活物質層544には接するが、正極活物質層534には直に接しないように該電池内に含まれている。換言すれば、互いに相の異なる電解質組成物(電解質ゲルQ,電解液P)が、正極側(「正極に接するように」の意味)および負極側(「負極に接するように」の意味)にそれぞれ配置された構成を有する。すなわち、正極側に配置された電解質組成物Qはゲル相であり、負極側に配置された電解液Pは溶液相である。
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池は、図4に示す電池500を変形した態様でも好ましく実施され得る。例えば、この電池500において、正極集電体532の片面(典型的には、負極に対向する面)のみに正極活物質層534を有し、この正極活物質層534を覆うように電解質ゲル536が付与された構成の電池(典型的には、負極についても、負極集電体542の片面(典型的には、正極に対向する面)のみに負極活物質層544が付与されている。)等も、ここに開示される電池の実施形態に含まれる。
【0023】
正極側と負極側とで互いに組成が異なる電解質組成物を用いる場合、これらがいずれも液相であると、これら二種の溶液が混合して均一になるのを防ぐために、例えば、Li伝導性を有する一方これら二種の電解液の他成分に対する透過性が実質的にない物質からなる液相分離膜(例えば、リシコンからなる層)を間に介在させることが求められる。しかしながら、このような液密の分離膜はLi伝導速度が十分でない場合があり、該分離膜を介在させることにより充放電効率が著しく低下し得る。一方、ここに開示されるリチウムイオン二次電池では、正極側と負極側とで、互いに組成およびそれに伴う特性(少なくとも耐酸化性)が異なるのみならず互いに相の異なる電解質ゲルQと電解液Pとをそれぞれ用いる。したがって、上述のような液相分離膜を使用する必要がないため、より高いLi伝導速度が実現され得る。なお、ここに開示される技術は、図5に示されるように、図4に示すリチウムイオン二次電池500またはこれを上述のように変形した電池において、両極間に、電解液Pが透過可能な絶縁層(例えば多孔質プラスチック層)550をセパレータとして更に配置した態様でも好ましく実施され得る。
【0024】
ここに開示されるリチウムイオン二次電池において、上記電解質組成物Qは、正極活物質層中の細孔および該正極活物質層表面に付与されている(保持されている)。この正極活物質層は、例えば、SOC0%〜100%のうち少なくとも一部範囲における作動電位(対Li/Li)が一般的なリチウムイオン二次電池(作動電位の上限が4.1V程度)よりも高い正極活物質を含む。例えば、作動電位(対Li/Li)が4.3Vよりも高いSOC範囲を有する正極活物質(換言すれば、SOC0%〜100%における作動電位の最高値が4.3Vよりも高い正極活物質)を好ましく使用することができる。好ましく使用され得る正極活物質の例として、NiとMnとを遷移金属として含むリチウム複合酸化物(例えば、スピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物)が挙げられる。例えば、次式:LiNiMn2−P(0.2≦P≦0.6);で表わされる化合物が好ましい。上記式で表わされるスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物の一具体例として、LiNi0.5Mn1.5が挙げられる。他の好ましい正極活物質としては、LiNiPO,LiCoPO,LiMnO、LiMnPOF、これらの化合物に含まれる遷移金属元素の一部を他の元素に置き換えた化合物、等が例示される。
【0025】
ここで、作動電位としては、以下のようにして測定される値を採用するものとする。すなわち、測定対象たる正極活物質を含む正極と、対極としての金属リチウムと、参照極としての金属リチウムと、EC:DMC=30:70(体積基準)の混合溶媒中に濃度1MのLiPFを含む電解液とを用いて三極セルを構築する。このセルの理論容量に基づき、SOC0%からSOC100%まで、5%刻みで調整する(例えば、定電流充電により調整する。)。このとき、各SOC値において、上記セルを1時間放置した後、正極電位(対Li/Li)を測定し、上記正極活物質の該SOC値における作動電位とする。
【0026】
なお、通常、SOC0%〜100%の間で正極活物質の作動電位が最も高くなるのはSOC100%を含む範囲であるため、SOC100%(すなわち満充電状態)における作動電位が4.3Vよりも高い正極活物質を、作動電位が4.3Vよりも高いSOC範囲を有する正極活物質として把握することができる。満充電状態における正極活物質の作動電位(対Li/Li)(以下、「正極活物質の満充電電位」と表記することもある。)は、4.4Vより高いことがより好ましく、4.5Vより高いことがさらに好ましく、4.6Vより高い(例えば4.7V以上である)ことが特に好ましい。ここに開示される技術は、典型的には、正極活物質の満充電電位(対Li/Li)が7.0V以下(例えば5.0V以下)であるリチウムイオン二次電池に好ましく適用される。
【0027】
上記電解質組成物Qは、ゲル状である。上記正極活物質に付与された態様の電解質ゲルは、例えば、非水溶媒(有機溶媒)中に支持塩を含む非水電解液に、ポリマー前駆体Qp、重合開始剤等を加えたポリマー前駆体Qp溶液を、正極活物質層に付与した後、適当な条件下に保持してゲル化させる(例えば、重合反応を進行させる)ことで形成することができる。典型的には、上記ポリマー前駆体Qp溶液を正極活物質層に十分に含浸させ、所望の電解質ゲル量に応じて余剰分の該ポリマー前駆体Qp溶液を該正極活物質層から適宜除去した後、適当な条件下(温度等)において重合反応に供する。重合温度は適宜選択すればよく、例えば、80〜140℃程度とすることができる。重合時間についても、適宜選択すればよく、例えば、5分〜3時間程度とすることができる。なお、ここでいう「重合反応」は、上記ポリマー前駆体Qp溶液のゲル化(硬化)に寄与し得るものであればよく、例えば架橋反応、縮合反応等であり得る。正極活物質層への上記ポリマー前駆体Qp溶液の含浸は、例えば、減圧下または真空下で行ってもよい。上記ポリマー前駆体Qp溶液の余剰分の除去は、含浸処理後の上記正極活物質層の表面に適宜の圧力(例えば、0.01MPa〜0.1MPa程度)を加えながら該余剰分の溶液を押し出すようにして実施することができる。
【0028】
上記電解質組成物Qのうち、上記正極活物質層表面に積層された部分の厚み(正極活物質層表面から電解質ゲル層表面までの距離)は特に制限されない。例えば、正極表面に積層された部分を比較的厚くすることにより、両極間の絶縁層としての機能を高めることが可能である。一方、リチウムイオンの移動距離を短くして出力効率(Li伝導率)を高める観点;電池の軽量化および薄型化の観点からは、上記積層部の厚みは大きすぎない方が好ましい。これらのバランスを考慮して、上記厚みを例えば10μm〜100μm程度とすることができる。上記積層部の厚みが比較的薄い場合、両極間に、多孔質の絶縁層をセパレータとして介在させることが好ましい。この多孔質絶縁層は、例えば、両極間に介在された多孔質プラスチック層であり得る。かかる多孔質プラスチック層は、図5に例示する絶縁層550のように独立した部材(セパレータシート)であってもよく、他の部材と一体化した層(例えば、負極活物質層の表面に固定された層)であってもよい。
【0029】
上記非水溶媒としては、使用する正極活物質の満充電電位(対Li/Li)よりも酸化電位(対Li/Li)の高い有機溶媒を適宜選択して使用することが好ましい。好ましくは、酸化電位(対Li/Li)が正極活物質の満充電電位(対Li/Li)より0.1V以上(例えば0.2V以上であり、0.3V以上であってもよく、0.5V以上であってもよい。)高い有機溶媒が使用され得る。かかる有機溶媒は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。かかる構成のリチウムイオン二次電池は、正極活物質に接している電解質組成物Q中の有機溶媒の酸化電位(対Li/Li)が、該電池のSOCが100%の状態における正極電位よりも高いものであり得る。したがって、正極における該溶媒の酸化分解が、より高度に抑制され得る。電解質組成物Qに含まれる非水溶媒の全量のうち、使用する正極活物質の満充電電位よりも酸化電位の高い有機溶媒の占める量が、50体積%を超える量であることが好ましく、より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上(例えば95体積%以上)であり、実質的に全部(例えば98体積%以上、典型的には100体積%)であってもよい。
【0030】
電解質組成物Qの非水溶媒として、典型的には、フッ素化された有機溶媒を使用する。好ましいフッ素化有機溶媒としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)、ジフルオロジメチルカーボネート(メチルジフルオロメチルカーボネート、ジ(フルオロメチル)カーボネート)、フッ素化エステル、フッ素化エーテル等のフッ化カーボネート類(環状、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。)が例示される。上記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒のうち、典型的には50体積%以上、例えば75%体積以上(より好ましくは95体積%以上、さらに好ましくは99体積%以上)が、上記フッ化カーボネート類のうち少なくとも一種であることが好ましい。上記非水溶媒の実質的に全てが、一種または二種以上のフッ化カーボネートであってもよい。
【0031】
なお、非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)としては、以下の方法に従って測定された値を採用するものとする。
LiFePOを用いて作用極を作製する。詳しくは、LiFePOと、アセチレンブラック(導電材)と、PVDF(結着剤)とを、これらの質量比が85:5:10となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させてスラリー状の組成物を調製する。これをアルミニウム箔状に塗付し、乾燥後にロールプレスして作用極(正極)シートを作製する。上記作用極と、対極としての金属リチウムと、作用極としての金属リチウムと、測定対象たる電解液とを用いて三極セルを構築する。この三極セルに対し、該作用極から完全にLiを脱離させる処理を行う。具体的には、温度25℃において、該作用極の理論容量から予測した電池容量(Ah)の1/5の電流値で4.2Vまで定電流充電を行い、4.2Vにおいて電流値が初期電流値(すなわち、電池容量の1/5の電流値)の1/50となるまで定電圧充電を行う。次いで、測定対象電解液の酸化電位が含まれると予測される電圧範囲(典型的には4.2Vよりも高い電圧範囲)において、任意の電圧で定電圧充電を所定時間(例えば、10時間程度)行い、その際の電流値を測定する。より具体的には、上記電圧範囲のなかで電圧を段階的に(例えば、0.2Vステップで)高くし、各段階において定電圧充電を所定時間(例えば、10時間程度)行い、その際の電流値を測定する。定電圧充電時の電流値が0.1mAより大きくなったときの電位を、上記電解液の酸化電位とする。
【0032】
上記支持塩としては、一般的なリチウムイオン二次電池に支持塩として用いられるリチウム塩を、適宜選択して使用することができる。かかるリチウム塩として、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、Li(CFSON、LiCFSO等が例示される。かかる支持塩は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。上記非水電解液は、例えば、上記支持塩の濃度が0.7〜1.3mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。
【0033】
上記ポリマー前駆体Qpとしては、ゲル化後の特性(電気化学的安定性、熱安定性等)が所望の電池構成および使用条件に適応した材料(モノマーまたはオリゴマーであり得る。)を、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。上記ポリマー前駆体Qpは、多官能性あるいは単官能性であり得る。通常は、2個または3個以上の重合性(架橋性)官能基を有するポリマー前駆体(多官能性ポリマー前駆体)が好ましく使用される。好ましいポリマー前駆体Qpとして、ポリエチレンオキサイド(PEO),ポリプロピレンオキサイド(PPO),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が例示される。典型的には、熱重合性(熱架橋性)の官能基を有するポリマー前駆体Qpが使用される。ここに開示される技術において好ましく用いられるポリマー前駆体Qpの具体例としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の品番「TA140」やその類似品を挙げることができる。上記ポリマー前駆体Qpの使用量は、所望のゲル化度等に応じて適宜選択すればよく、例えば、上記ポリマー前駆体Qp溶液の10〜17質量%程度とすることができる。
【0034】
上記重合開始剤は、使用するポリマー前駆体Qpの種類に応じて適宜選択して用いることができる。典型的には熱重合開始剤が使用される。熱重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系等の、従来公知の各種開始剤を用いることができる。好ましい重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)等が例示される。上記重合開始剤の使用量は適宜選択すればよく、例えば、上記ポリマー前駆体Qpに対して、0.1〜3質量%程度とすることができる。
【0035】
上記非水電解液には、その他の添加剤として、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に添加され且つ上記重合反応を阻害しないもの、あるいは上記重合反応の制御に寄与し且つ正極に対して電気化学的に安定なもの、等を加えてもよい。
【0036】
上記電解液Pとしては、一般的なリチウムイオン二次電池において使用される非水電解液(すなわち、非水溶媒(有機溶媒)中に支持塩を含む溶液)にSEI形成材料を添加したものを使用することができる。この電解液Pは、典型的には、負極と非流動性電解質(図4、5に示す例では電解質ゲル)Qとの両方に接するように配置される。通常、電解液Pは、少なくとも負極の活物質層に含浸され、両極間にセパレータが配置された態様では該セパレータにも含浸されている。
【0037】
上記電解液Pに含まれる非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられ、負極での還元分解が起こり難い有機溶媒を適宜選択して使用することができる。これら有機溶媒は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類(環状、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。)を用いることができる。これらカーボネート類のうち少なくとも一種を使用することが好ましい。例えば、ECとDMCとの混合溶媒が好ましく使用され得る。
【0038】
上記電解液Pに含まれる支持塩としては、上記電解質組成物Qに含まれる支持塩と同様に、一般的なリチウムイオン二次電池用支持塩を用いることができる。典型的には、上記電解質組成物Qで用いた支持塩と同じ支持塩を使用する。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。電解液Pは、例えば、上記支持塩の濃度が0.7〜1.3mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。
【0039】
上記SEI形成材料としては、負極表面に表面被膜を形成した際(典型的には該SEI形成材料が負極表面において還元分解され、その分解物がSEIとして表面被膜を形成する。)、上述のように該負極表面において還元反応を抑制する機能を発揮し得ることが知られている従来公知の化合物を特に制限なく使用することができる。かかる化合物は、一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、ビニレンカーボネート(VC),FEC等の使用が好ましい。すなわち、FECは、電解液組成物Qにおいて非水溶媒の一部または全部として好ましく使用され得る一方、電解液PにおいてSEI形成材料として好ましく使用され得る。例えば、ゲル状の非流動性電解質(電解質ゲル)Qと、SEI形成材料としてFECを含む電解液Pとを組み合わせた構成を好ましく採用し得る。上記電解液Pに含まれるSEI形成材料の量は適宜選択すればよく、例えば1〜5vol%(体積%)程度とすることができる。これにより、負極表面にSEI膜が形成され、負極表面における副反応(電解液成分のさらなる還元分解、金属リチウムの析出等)が効果的に抑制され得る。
【0040】
リチウムイオン二次電池の使用開始後(例えば、後述する実施例に記載されるコンディショニング処理を施した後)の電解液P中には、例えば、該電解液Pの0.01〜1.20wt%(より好ましくは0.01〜0.50wt%)程度のSEI形成材料が残留していることが好ましい。これにより、充放電サイクルの繰り返しにより負極表面のSEI膜が一部損傷(剥落等)しても、残留するSEI形成材料によってSEI膜が補修されるため、上記二次電池のサイクル特性の低下(例えば容量低下)がより効果的に抑制され得る。
【0041】
このようにSEI形成材料を含む電解液Pと正極活物質との間に電解質ゲルQが介在された態様のリチウムイオン二次電池によると、対応する理論容量30mAhのラミネートセル型評価用電池において、好ましくは以下の特性:温度25℃にて、1/5CのレートでSOC60%に調製した後、350kg/25cmの負荷をかけて拘束した状態で所定の充放電サイクルを300サイクル繰り返す評価試験において、その初期容量に対するサイクル終了後の放電容量の百分率として求められる300cyc容量維持率(%)が凡そ80%以上である;が実現され得る。上記所定の充放電サイクルは、「温度40℃にて、2Cのレートで4.9Vまで定電流充電−10分間休止−2Cのレートで3.5Vまで定電流放電−10分間休止」とする。より好ましい一態様では、上記300cyc容量維持率が凡そ85%以上であり、さらに好ましくは凡そ88%以上(例えば90%以上)である。
【0042】
<固体状の非流動性電解質Qを備えたリチウムイオン二次電池の構成例>
本発明の他の一実施態様に係るリチウムイオン二次電池500は、図6に示されるように、容器510内に、正極集電体532上に正極活物質層634を有する正極630と、負極集電体542上に負極活物質層544を有する負極540と、液状電解質(電解液P)537とを備える。さらに、正極630と負極540との間に介在された絶縁層550を備えることが好ましい。正極活物質層634は正極活物質634Aを主成分とする層であり、負極活物質層544は負極活物質544Aを主成分とする層である。図7に模式的に示されるように、正極活物質634Aの粒子表面の少なくとも一部(図7に示す例では表面全体)は、固体電解質634Bで被覆されている。すなわち、正極活物質634Aと固体電解質634Bとは粒子レベルで複合化されている。したがって、液状電解質537は、負極活物質層544には接するが、正極活物質634Aには直に接しないように該電池内に含まれている。
【0043】
正極活物質634Aとしては、ゲル状の非流動性電解質Qを備える態様における正極活物質と同様のものを好ましく用いることができる。この正極活物質の粒子表面を被覆する固体電解質としては、当該正極活物質よりも高い耐酸化性を有し、電池の使用条件(満充電電位)において電気化学的に変化し難い固体であって、リチウムイオン伝導性を有する物質が好ましい。好ましく使用され得る固体電解質としては、例えば、アルミニウム置換リン酸ゲルマニウムリチウム(典型的には、Li1+xAlGe2−x(PO(0.2≦x≦0.8)で表わされる固体電解質)が挙げられる。他の好ましい固体電解質として、リン酸リチウム系固体電解質(典型的にはLiPOであり、Liの一部を他の元素で置換した組成であってもよい。)、LiO−B固溶体等が例示される。リチウムを含む組成の固体電解質が好ましい。
【0044】
かかる正極活物質と固体電解質との複合体は、例えば、上記正極活物質の粒子表面を上記固体電解質の前駆体Spによって被覆し、この前駆体Sp被覆正極活物質粒子を所定の条件下において焼成することにより形成することができる。上記正極活物質粒子表面の上記前駆体Spによる被覆(コーティング)は、例えば、遠心力を利用して粒子同士の衝突エネルギーによりコーティング処理する装置等を用いて好ましく実施することができる。かかる装置としては、例えば、ホソカワミクロン社製型式「ノビルタ NOB−MINI」またはその相当品を使用することができる。
【0045】
上記複合体を形成する際の焼成温度は、上記前駆体Sp(典型的にはアモルファス粉末状)が結晶化して所望の固体電解質を形成し得る温度以上の温度に設定することが好ましい。かかる結晶化は、上記固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させ得る。例えば、固体電解質がLi1+xAlGe2−x(POである場合、その前駆体(正極活物質表面に付着した前駆体)を温度700℃以上(好ましくは700℃〜750℃)で焼成することが好ましい。上記正極活物質と上記固体電解質との質量比(正極活物質:固体電解質)は、例えば、99.9:0.1〜90:10(典型的には99.8:0.2〜95:5、例えば99.5:0.5〜97.5:2.5)程度とすることができる。これは、例えば、上記正極活物質粒子を上記固体電解質前駆体Spで被覆する際の質量比を、上記正極活物質と固体電解質との質量比と概ね同程度とすることによって実現することができる。上記質量比を99.5:0.5〜98.5:1.5程度としてもよい。正極活物質の質量に対する固体電解質の質量が多すぎると、電池の内部抵抗が大きくなって出力特性が低下傾向となることがあり得る。正極活物質の質量に対する固体電解質の質量が少なすぎると、正極活物質の表面を固体電解質で被覆し難くなることがあり得る。
【0046】
上記固体電解質の前駆体Spは、固体電解質に含まれる各元素源を含む溶液を所定の条件下で乾燥または仮焼成することによって調製することができる。例えば、Li1+xAlGe2−x(POの前駆体は、Li源、Al源、Ge源、P源を、これらの元素比が所望の組成比となるように混合して得られた溶液を、FCM法(Flash Creation Method)等により酸素を含む雰囲気下(典型的には空気中)において加圧しながら仮焼成することによって好ましく調製することができる。かかるFCM法を用いたコーティング装置としては、例えば、ホソカワミクロン社製の「ノビルタ NOB−MINI」またはその相当品を使用することができる。
【0047】
このような固体電解質Qを備える態様のリチウムイオン二次電池において、電解液Pの構成成分としては、上述した電解質ゲルQを備える態様において説明した電解液Pと同様のものを用いることができる。例えば、固体状の非流動性電解質(固体電解質)Qと、SEI形成材料としてVCを含む電解液Pとを組み合わせた構成を好ましく採用し得る。上記電解液Pに含まれるSEI形成材料の量は適宜選択すればよく、例えば0.1〜3wt%(質量%)程度とすることができる。
【0048】
このようにSEI形成材料を含む電解液Pと正極活物質との間に固体電解質Qが介在された構成のリチウムイオン二次電池によると、対応する理論容量60mAhのラミネートセル型評価用電池において、好ましくは以下の特性:温度25℃にて、1/5CのレートでSOC60%に調製した後、350kg/25cmの負荷をかけて拘束した状態で所定の充放電サイクルを100サイクル繰り返す評価試験において、その初期容量に対するサイクル終了後の放電容量の百分率として求められる100cyc容量維持率(%)が凡そ80%以上である;が実現され得る。上記所定の充放電サイクルは、「温度60℃にて、2Cのレートで4.9Vまで定電流充電−10分間休止−2Cのレートで3.5Vまで定電流放電−10分間休止」とする。より好ましい一態様では、同じサイクルをさらに100サイクル繰り返した後に同様に求められる200cyc容量維持率が凡そ43%以上であり、さらに好ましくは凡そ45%以上(例えば50%以上)である。
【0049】
この明細書により開示される事項には、ここに開示されるいずれかのリチウムイオン二次電池を、上記上限電圧値が4.3V以上(典型的には4.5V以上、例えば4.7V以上)に設定された充放電条件で使用する方法が含まれる。また、かかるリチウムイオン二次電池(複数個の電池を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態であってもよい。)と、該電池を上記上限電圧値となり得るように設定された充放電条件で制御する制御機構(制御装置)とを備えた電源装置が含まれる。
【0050】
上記電源装置は、例えば図8に示す電源装置800のように、リチウムイオン二次電池500と、これに接続された負荷802と、リチウムイオン二次電池500の状態に応じて負荷802の作動を調節する電子制御ユニット(ECU)804とを含む構成であり得る。負荷802は、リチウムイオン二次電池500に蓄えられた電力を消費する電力消費機および/または電池500に充電可能な電力供給機(充電器)を含み得る。ECU804は、所定の情報に基づいて、電池500の上限電圧値が4.3V以上の所定値(例えば4.5V)となるように負荷802を制御する。ECU804の典型的な構成には、少なくとも、かかる制御を行うためのプログラムを記憶したROM(Read Only Memory)と、そのプログラムを実行可能なCPU(Central Processing Unit)とが含まれる。上記所定の情報としては、例えば、電池500の電圧、各電極電位、充放電履歴、等のうち一または二以上の情報を利用可能である。ここに開示されるリチウムイオン二次電池500は、例えば、図8に示すような電源装置800の一構成要素として、図3に示すような車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1に搭載され得る。
【0051】
以下、図面を参照しつつ、ここに開示されるリチウムイオン二次電池のうちゲル状の非流動性電解質(電解質ゲル)Qを備える構成のものを例として、正負の電極を含む電極体と非水電解液とが角型形状の電池ケースに収容された態様のリチウムイオン二次電池100(図1)を例にして更に詳しく説明するが、本発明の適用対象をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。すなわち、本発明に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、その電池ケース、電極体等は、用途や容量に応じて、素材、形状、大きさ等を適宜選択することができる。例えば、電池ケースは、直方体状、扁平形状、円筒形状等であり得る。
【0052】
リチウムイオン二次電池100は、図1および図2に示されるように、捲回電極体20を、電解液P(符号37で表わす。)とともに、該電極体20の形状に対応した扁平な箱状の電池ケース10の開口部12より内部に収容し、該ケース10の開口部12を蓋体14で塞ぐことによって構築することができる。また、蓋体14には、外部接続用の正極端子38および負極端子48が、それら端子の一部が蓋体14の表面側に突出するように設けられている。
【0053】
上記電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に正極活物質層34が形成され、さらに電解質ゲルQ(符号36で表わす。)が付与された正極シート30と、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40とを、典型的には2枚の長尺シート状のセパレータ50と共に重ね合わせて捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。なお、上述のとおり、電解質ゲル36を絶縁層として機能し得る厚みとする場合等には、セパレータ50の使用を省くことも可能である。
【0054】
正極シート30は、その長手方向に沿う一方の端部において正極集電体32が露出している。同様に、捲回される負極シート40は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極集電体42が露出している。そして、正極集電体32の該露出端部に正極端子38が、負極集電体42の該露出端部には負極端子48がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。正負極端子38,48と正負極集電体32,42とは、例えば超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0055】
正極シート30は、上述のように、例えば、上述した正極活物質を、必要に応じて用いられる導電材や結着剤(バインダ)等とともに適当な溶媒(例えば、NMP等)に分散させたペースト状またはスラリー状の組成物(正極合材)を用意し、該組成物を正極集電体32に付与し、これを乾燥させて正極活物質層34を形成することにより得られる。この正極活物質層に、上述した手法に準じて上記ポリマー前駆体Qp溶液を十分に含浸させ、余剰分のポリマー前駆体Qp溶液があればこれを除去した後、重合反応に供し、電解質組成物Qからなるゲル相36をさらに付与する。正極活物質層に含まれる正極活物質の量は、例えば、69〜98質量%程度とすることができる。
【0056】
なお、固体状の非流動性電解質(固体電解質)Qを備えるリチウムイオン二次電池または該電池用の正極シートの作製においては、正極活物質と固体電解質との複合体を、必要に応じて用いられる導電材や結着剤等とともに適当な溶媒に分散させたペースト状またはスラリー状の組成物を正極集電体32に付与するとよい。正極活物質層に含まれる上記複合体(すなわち、正極活物質と固体電解質との複合体)の量は、例えば、69〜98質量%程度とすることができる。
【0057】
導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末等が好ましい。導電材は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
正極活物質層に含まれる導電材の量は、正極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、1〜30質量%程度とすることができる。
【0058】
結着剤としては、種々の結着性ポリマー類から選択される一種または二種以上を用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(PEO−PPO)等の有機溶媒溶解性のポリマーを好ましく使用することができる。他の使用可能な結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性ポリマー;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類(水分散性ポリマー);等が挙げられる。正極活物質層に含まれる結着剤の量は、正極活物質および導電材の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、1〜10質量%程度とすることができる。
【0059】
正極集電体32には、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状のアルミニウム製の正極集電体32が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100に好ましく使用され得る。かかる実施形態では、例えば、厚みが10μm〜30μm程度のアルミニウムシートが好ましく使用され得る。
【0060】
負極シート40は、例えば、負極活物質を、必要に応じて結着剤(バインダ)等とともに適当な溶媒に分散させたペースト状またはスラリー状の組成物(負極合材)を負極集電体42に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。
【0061】
負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)を用いることができる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれも好ましく使用され得る。具体例として、天然黒鉛等が挙げられる。
【0062】
結着剤には、上述の正極と同様のものから選択される一種または二種以上を用いることができる。負極活物質層に含まれる結着剤の量は特に制限されず、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよい。
【0063】
負極集電体42としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。また、負極集電体42の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態ではシート状の銅製の負極集電体42が用いられ、捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100に好ましく使用され得る。かかる実施形態では、例えば、厚みが6μm〜30μm程度の銅製シートを好ましく使用され得る。
【0064】
セパレータ50(上述の多孔質プラスチック層に相当する。)は、正極シート30および負極シート40の間に介在する層であって、典型的にはシート状をなし、正極シート30表面(電解質組成物Qにより表面が被覆された正極活物質層34)と、負極シート40表面(負極活物質層44)にそれぞれ接するように配置される。そして、正極シート30と負極シート40における両電極活物質層34,44の接触に伴う短絡防止や、該セパレータ50の空孔内に上述の電解液Pを含浸させることにより電極間の伝導パス(導電経路)を形成する役割を担っている。かかるセパレータ50としては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン等の多孔質ポリオレフィン系樹脂シートが好ましい。単層構造シートおよび多層構造シートのいずれであってもよい。かかる多孔質プラスチック層の好適例としては、多孔質ポリオレフィンフィルム、例えばポリエチレン(PE)単層フィルム、ポリプロピレン(PP)/PE/PP三層フィルム等が挙げられる。セパレータの厚みは、例えば、凡そ10μm〜40μmの範囲内で設定することが好ましい。
【0065】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0066】
<例1>
正極合材として、LiNi0.5Mn1.5(正極活物質)とアセチレンブラック(導電材)とPVDF(結着剤)とを、これらの質量比が87:10:3となるように混合し、NMPに分散させてスラリー状組成物を調製した。この正極合材スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗付した後乾燥させて正極活物質層を形成し、ロールプレスして正極シートを作製した。この正極シートを、一角に幅10mmの帯状部が突き出た5cm×5cmの正方形に切り出した。その帯状部から上記活物質層を除去し、アルミニウム箔を露出させて端子部を形成し、端子部付きの正極シートを得た。
【0067】
負極合材として、天然黒鉛(負極活物質;平均粒径20μm,黒鉛化度≧0.9)とCMC(増粘剤)とSBR(結着剤)とを、これらの質量比が98:1:1となるように混合し、イオン交換水に分散させてスラリー状の組成物を調製した。この負極合材スラリーを、厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の片面に、乾燥後の塗付量が正極と負極との理論容量比で1:1.5程度となるように塗布して乾燥させた後、ロールプレスして負極シートを作製した。この負極シートを、上記端子部付正極シートと同じ面積および形状に加工して、端子部付負極シートを得た。
【0068】
FECとTFDMC(FHCO(C=O)CHF)とを体積比1:1の割合で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解して非水電解液Aを調製した。なお、上述した方法に従って、4.2V〜5.2Vの範囲で電圧を0.2Vずつ変え、各電圧値で10時間定電圧充電を行い、該電解液の酸化電位(すなわち、含まれる溶媒の酸化電位)を測定したところ、電解液Aの酸化電位は、5.0〜5.2Vであった。
【0069】
上記端子部付正極シートと、適切な大きさに切り出して上記電解液Aを含浸させたセパレータ(多孔質PP/PE/PP三層シート)と、上記端子部付負極シートとを、この順に重ね合わせ、ラミネートフィルムで覆った。ここへ上記電解液Aを更に注入し、該フィルムを封止して理論容量(1C容量;1Cは、1時間で満充放電可能な電流値)が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0070】
<例2>
ECとDMCとを体積比1:1の割合で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解して非水電解液Bを調製した。非水電解液Aの代わりに該非水電解液Bを用いた他は例1と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。なお、上記と同様にして測定された電解液Bの酸化電位は、4.6〜4.8Vであった。
【0071】
<例3>
上記非水電解液Bに、SEI形成材料としてのビニレンカーボネート(VC)を添加して、非水電解液B・VCを調製した。VCの添加量は、体積基準で、100部の非水電解液Bに対してVC3部とした。この電解液B・VC90部とPEO系ポリマー前駆体(第一工業製薬株式会社製、品番「TA140」)10部とを混合したものに、AIBN(熱重合開始剤)0.1部を加えて攪拌し、ポリマー前駆体溶液を得た。例1の負極シートの負極活物質層上にこのポリマー前駆体溶液を押し出し圧0.05MPaにて付与した後、該負極シートを温度60℃の乾燥炉に120分間保持して重合反応を進行させ、電解質ゲルpB・VCが付与された負極シートを作製した。これを例1と同様の面積および形状に切り出した後、例1と同様にして端子部を設けた。
【0072】
例1と同じ端子部付き正極シートと、適切な大きさに切り出して上記電解液Aを含浸させたセパレータ(多孔質PP/PE/PP三層シート)と、上記の端子部付きのpB・VCゲル付負極シートとを、この順に重ね合わせ、ラミネートフィルムで覆った。ここへ上記電解液Aを更に注入し、該フィルムを封止して、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を作製した。
【0073】
<例4>
上記非水電解液Bに、SEI形成材料としてのフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加して、非水電解液B・FECを調製した。FECの添加量は、体積基準で、100部の非水電解液Bに対してFEC3部とした。非水電解液B・VCに代えて当該非水電解液B・FECを用いた他は例3と同様にして、電解質ゲルpB・FECが付与された負極シートを得た。pB・VCゲル付き負極シートに代えて当該pB・FECゲル付き負極シートを用いた他は例3と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0074】
<例5>
非水電解液A90部とPEO系ポリマー前駆体(第一工業製薬株式会社製、品番「TA140」)10部とを混合したものに、AIBN(熱重合開始剤)0.1部を加えて攪拌し、ポリマー前駆体溶液を得た。例1の正極シートの正極活物質層上にこのポリマー前駆体溶液を押し出し圧0.05MPaにて付与した後、該正極シートを温度60℃の乾燥炉に120分間保持して重合反応を進行させ、電解質ゲルpAが付与された正極シートを作製した。これを、例1と同様の面積および形状に加工して、端子部を設けた。
【0075】
上記端子部付きのpAゲル付き正極シート、上記電解液B・VCを含浸させたセパレータ(多孔質PP/PE/PP三層シート)、例1と同様の端子部付き負極シートを、この順に重ね合わせ、ラミネートフィルムで覆った。ここへ上記電解液B・VCを更に注入し、該フィルムを封止して、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0076】
<例6>
上記電解液B・VCに代えて上記電解液B・FECを用いた他は例5と同様にして、1C容量が30mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0077】
[コンディショニング処理]
例1〜6に係る各電池セルを、二枚の板で挟み、350kgf(350kg/25cm)の負荷がかかる状態に拘束した。拘束した各電池セルに対して、1/3Cのレートで4.9Vまで定電流(CC)充電する操作と、1/3Cのレートで3.5Vまで放電させる操作とを3回繰り返した。以下の測定等は、特に断りがない限り拘束したままの電池セルに対して行った。
【0078】
[初期容量]
例1〜6に係る各電池セルに対し、温度25℃にて、1/5Cのレートで両端子間の電圧が4.9VとなるまでCC充電を行った後、電流値が1/50Cとなるまで定電圧(CV)充電を行って、満充電状態とした。次いで、1/5Cのレートで電圧が3.5VとなるまでCC放電させ、このときの放電容量を測定して初期容量とした。なお、充電終了後充電機をはずしたとき(過電圧が解除された状態)の両端子間電圧は、いずれも4.7〜4.8V程度であった。
【0079】
[初期直流抵抗]
初期容量測定後の各電池セルに対し、温度25℃にて、1/5CのレートにてSOCが60%となるまでCC充電を行った。SOC60%に調製した各電池セルに対し、1/3C,1C,3Cのレートで充電および放電を行い、そのときの過電圧を測定した。測定された過電圧値を対応する電流値(例えば、1/3Cでは10mA)で除することで抵抗を算出して初期直流抵抗とした。
【0080】
[保存後の容量および容量維持率]
別途作製し、コンディショニング処理を施した例1〜6に係る各電池セルを、初期容量の測定時と同様にして満充電状態とした。次いで、温度40℃で10日間保持した後、温度25℃で5時間保持し、1/5Cのレートで電圧が3.5VとなるまでCC放電させ、このときの放電容量を測定して保存後容量とした。この保存後容量の初期容量に対する百分率を保存後容量維持率として算出した。
【0081】
[保存後の直流抵抗]
保存後の各電池セルに対し、上記初期直流抵抗と同様にして直流抵抗を測定し、保存後の直流抵抗とした。該保存後直流抵抗の初期直流抵抗に対する百分率から、抵抗増加率(%)を算出した。
【0082】
[充放電サイクル特性]
初期容量を測定した後、温度25℃にて1/5CのレートでSOC60%に調整した各電池に対し、温度40℃にて、2Cのレートで4.9VまでCC充電し、10分間休止した後、同じレートで3.5VまでCC放電し、10分間休止する充放電サイクルを、300サイクル繰り返した。その後、上記初期容量と同様にして放電容量を測定した。サイクル後の放電容量の初期容量に対する百分率を300cyc容量維持率(%)として求めた。
【0083】
例1〜6の電池の構成を表1に、上記評価試験の結果を表2に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
表1,2に示されるとおり、正極側、負極側ともに同じ耐酸化性電解液Aを用いてなる例1の電池セルは、保存後の抵抗増加率は比較的低く、耐酸化性電解液を用いたことで、正極表面の抵抗増加が抑制されたものと考えられる。しかし、満充電状態にて40℃10日間保存した後の容量は初期容量から30%低下し、サイクル試験後さらに3%低下した。これは、満充電状態の電池内において、電解液中の有機溶媒が負極表面で還元分解され、大きな不可逆容量が生じたことによるものと考えられる。
また、両極側に同じ耐還元性電解液Bを用いてなる例2の電池セルは、例1の電池セルに比べて保存後の容量低下は少なかった。これは、負極での副反応(還元分解)を抑制するSEIが負極表面に効果的に形成され、不可逆容量の発生が抑制されたことによると考えられる。しかし、保存後の抵抗増加率は151%と高かった。これは、満充電状態の電池内において、電解液中の有機溶媒が正極表面で酸化され被膜を形成することにより、正極抵抗が大きく増加したことによるものと考えられる。
【0087】
また、正極側に耐酸化性電解液Aを用い、負極側に電解質ゲルpB・VCまたはpB・FECを用いてなる例3,4の電池セルは、保存後の容量低下および抵抗増加率は比較的小さかった。これは、正極側に耐酸化性電解液を用い、負極側に電解質ゲルを用いることで、これら電解質組成物が分離された状態が維持されたことによる効果と考えられる。これに対し、サイクル後において容量が25〜30%程度低下し、例1,2と同程度であったことは、負極側の電解質ゲルに添加したSEI形成材料の効果が十分でなかったことによるものと考えられる。具体的には、例えば、充放電サイクルの繰り返しにおいて負極が膨張収縮を繰り返すことでSEIの欠損(クラック等)が生じても、ゲル内ではSEI形成材料の移動性が著しく低下するので、SEI形成材料が負極表面に届きにくく、SEIの補修が困難になることによると考えられる。
【0088】
例1〜4の電池セルに対し、正極側に電解質ゲルpAを用い、負極側に電解液B・VCまたはB・FECを用いてなる例5,6の電池セルは、満充電状態での40℃10日間保存後における容量およびサイクル試験後の容量のいずれもが初期容量の90%以上と非常に高かった。さらには、満充電40℃10日間保存の前後において、直流抵抗の増加率が十分に抑制されていた。抵抗増加率が小さかったのは、耐酸化性の電解質ゲルが正極側に配置され且つ負極側の電解液から分離されたことにより、正極表面での副反応(酸化反応)が抑制されたことによると考えられる。また、負極側に電解質溶液が配置され且つSEI形成材料が該溶液中に含まれることにより、負極表面にSEIが形成され且つSEIが欠損しても効果的に補修されたことによるものと考えられる。
【0089】
<例7>
ホソカワミクロン株式会社製の粒子設計装置「ナノクリエータFCM」を用い、FCM(Flash Creation Method)法に従って、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO(LAGP)の前駆体(アモルファス粉末)を正極活物質用コート材として調製した。詳しくは、Li源としてのナフテン酸リチウム溶液(溶媒:ホワイトスピリット;Li濃度1.2%),Al源としてのエチル−アセトアセテート−アルミニウム−ジ−n−ブチレート(Ethyl acetoacetato aluminum di−n−butyrate)溶液(溶媒:ミネラルスピリット;Al濃度:5.8%),Ge源としてのゲルマニウム溶液(溶媒:ミネラルスピリット;Ge濃度:9.8%),P源としてのジエチルホスホノ酢酸(P濃度:13.4%)を、Li:Al:Ge:P=1.5:0.5:1.5:3となるように混合してLAGP前駆体溶液を調製した。このLAGP前駆体溶液を、FCM法により、酸素流量30L/分、チャンバー内圧10Paの条件下において仮焼成してLAGP前駆体(アモルファス粉末状の正極活物質用コート材)を得た。
【0090】
LiNi0.5Mn1.5(平均粒径6μm,比表面積0.7m/g)(正極活物質)100部と、上記LAGP前駆体1.5部とを、コーティング装置(ホソカワミクロン社製、型式「ノビルタ NOB−MINI」;遠心力を利用した粒子同士の衝突エネルギーによりコーティングする装置)に投入し、回転速度5000rpmの条件で30分間コーティング処理を施した。得られたコート材付正極活物質を、温度700℃の空気中で2時間焼成し、LAGPによって表面が被覆された正極活物質―LAGP複合体を得た。これをSEM(走査電子顕微鏡)にて観察したところ、上記正極活物質の一次粒子表面がLAGPによって被覆されている(LAGP層を有する)ことが確認された。
【0091】
上記正極活物質―LAGP複合体とアセチレンブラック(導電材)とPVDF(結着剤)とを、これらの質量比が87:10:3となるように混合し、NMPに分散させてスラリー状組成物を調製した。この正極合材スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗付した後乾燥させて正極活物質層を形成し、ロールプレスして正極シートを作製した。この正極シートを、一角に幅10mmの帯状部が突き出た5cm×5cmの正方形に切り出した。その帯状部から上記活物質層を除去し、アルミニウム箔を露出させて端子部を形成し、端子部付きの正極シートを得た。
【0092】
天然黒鉛(負極活物質;平均粒径20μm,黒鉛化度≧0.9,比表面積(BET(窒素吸着)法)4m/g)とCMC(増粘剤)とSBR(結着剤)とを、これらの質量比が98:1:1となるように混合し、イオン交換水に分散させてスラリー状の組成物を調製した。この負極合材スラリーを、厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の片面に、乾燥後の塗付量が正極と負極との理論容量比で1:1.5程度となるように塗布して乾燥させた後、ロールプレスして負極シートを作製した。この負極シートを、上記端子部付正極シートと同じ面積および形状に加工して、端子部付負極シートを得た。
【0093】
ECとEMCとを体積比3:7の割合で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解して非水電解液Cを調製した。これに、VCを0.5%の濃度となるように添加して非水電解液C・VC0.5を得た。なお、上述した方法に従って、4.2V〜5.2Vの範囲で電圧を0.2Vずつ変え、各電圧値で10時間定電圧充電を行い、該電解液の酸化電位(すなわち、含まれる溶媒の酸化電位)を測定したところ、電解液C・VC0.5の酸化電位は、4.6〜4.8Vであった。
【0094】
上記端子部付正極シートと、適切な大きさに切り出して上記電解液C・VCを含浸させたセパレータ(多孔質PP/PE/PP三層シート)と、上記端子部付負極シートとを、この順に重ね合わせ、ラミネートフィルムで覆った。ここへ上記電解液Aを更に注入し、該フィルムを封止して理論容量が60mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0095】
<例8>
非水電解液Cに、VCを1.0%の濃度となるように添加して非水電解液C・VC1.0を得た。この非水電解液C・VC1.0を用いた他は例7と同様にして、1C容量が60mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0096】
<例9>
非水電解液Cに、VCを1.5%の濃度となるように添加して非水電解液C・VC1.5を得た。この非水電解液C・VC1.5を用いた他は例7と同様にして、1C容量が60mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0097】
<例10>
非水電解液Cに、VCを2.0%の濃度となるように添加して非水電解液C・VC2.0を得た。この非水電解液C・VC2.0を用いた他は例7と同様にして、1C容量が60mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0098】
<例11>
非水電解液Cを用いた他は例7と同様にして、1C容量が60mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0099】
<例12>
例1の端子部付正極シートおよび非水電解液C・VC1.0を用いた他は例7と同様にして、1C容量が60mAhのラミネートセル型電池を構築した。
【0100】
[コンディショニング処理]
例7〜12の各電池セルを、二枚の板で挟み、350kgf(350kg/25cm)の負荷がかかる状態に拘束した。拘束した各電池セルに対して、1/5Cのレートで両端子間の電圧が4.9VまでCC充電してから同電圧値で電流値が1/50Cになるまで定電圧(CV)充電して満充電状態にする操作と、1/5Cのレートで3.5VまでCC放電させる操作とを3回繰り返した。VC残留量の測定を除き、以下の測定等は、特に断りがない限り拘束したままの電池セルに対して行った。
【0101】
[コンディショニング処理後のVC残留量]
コンディショニング処理後の例7〜12の各電池セルから採取した非水電解液サンプルについて、ガスクロマトグラフィー(GC)(島津製作所製の型式「GC−17A」)を用いて非水電解液中のVC残留量(%)を測定した。
【0102】
[初期容量]
上記と同様にしてコンディショニング処理を施した例7〜12の各電池セルに対し、上記と同様の手順にて初期容量を測定した。なお、充電終了後充電機をはずしたとき(過電圧が解除された状態)の両端子間電圧は、いずれも4.7〜4.8V程度であった。
【0103】
[初期直流抵抗]
例7〜12の各電池セルに対し、上記と同様の手順にて初期直流抵抗を測定した。
【0104】
[充放電サイクル特性]
例7〜12に係る各電池セルにつき、上記のとおり初期容量を測定した後、温度60℃にて2Cのレートで4.9VまでCC充電し、10分間休止した後、同じレートで3.5VまでCC放電し、10分間休止する充放電サイクルを、100サイクル繰り返した。その後、上記初期容量と同様にして放電容量を測定し、100サイクル後の放電容量とし、初期容量に対する百分率を100cyc容量維持率(%)として求めた。100サイクル後の各電池セルにつき、最初の100サイクルと同じ充放電サイクルを、さらに100サイクル繰り返した。併せて200サイクル後の各電池につき、100cyc容量維持率と同様にして、200サイクル後の放電容量を測定し、初期容量に対する百分率を200cyc容量維持率(%)として求めた。なお、例12の電池セルについては、100cyc容量維持率が低かったため、100サイクル完了時点でサイクル試験を終了した。
【0105】
例7〜12の電池の構成を表3に、上記評価試験の結果を表4に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
表3,4に示されるとおり、SEI形成材料としてのVCを含む電解液と、LAGPにより被覆された正極活物質とを併せて用いた例7〜10の電池セルは、温度60℃という比較的高い温度で100サイクルした後の容量維持率がいずれも80%以上という良好なサイクル特性を示した。これに対し、LAGP被覆正極活物質を用いても、SEI形成材料を含まない電解液を用いた例11の電池セルは、100cyc容量維持率が80%未満であった。これは、負極表面に形成されたSEIによってサイクル特性向上効果が発揮され得ることを示すものである。さらに、SEI形成材料を含む電解液を用いる一方でLAGPによって被覆されていない正極活物質を用いた例12の電池セルは、100cyc容量維持率が略30%程度と極めて低い値であった。この結果は、SEI形成材料が含む電解液を用いたにも拘わらず、正極の満充電電位が高いため該SEI形成材料が酸化分解して消費されてしまい、負極表面のSEI被覆が十分でなかったことを示唆している。
【0109】
また、電池構築時におけるSEI形成材料の添加量が同量(いずれも1.0%)である例8,例12の電池セルを比較すると、コンディショニング処理後のSEI形成材料の残留量は、例8が0.2%であったのに対し、例12は0.0%であった。このことは、正極活物質粒子表面にコートされた固体電解質が、SEI形成材料の酸化分解抑制効果を発揮したことを示すものである。なお、コンディショニング処理後のSEI形成材料の残留量が同じく0.0%であった例7の電池セルでは、電池構築時に0.5%添加されたSEI形成材料から負極表面に形成されたSEIの存在により、100cyc容量維持率が83.5%と、例12と比べて顕著に向上した。
【0110】
200cyc容量維持率については、例8は例7よりも10%程度高く、より優れた結果であった。これは、コンディショニング後も電解液中にSEI形成材料が残留して含まれており、この残留SEI形成材料によって、充放電サイクル中に剥離等により損傷したSEIの補修がなされたことによる効果と考えられる。
SEI形成材料の添加量が最も多い例10の電池セルは、例7〜9および例12と比べて初期抵抗が若干高かった。これは、該添加量が多くなったことで、例10の正極活物質表面の固体電解質層の厚みが増したことによるものと考えられる。
【0111】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0112】
1 車両
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
36 電解質組成物Q
37 電解液P
38 正極端子
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
48 負極端子
50 セパレータ
100,500 リチウムイオン二次電池
530,630 正極
534,634 正極活物質層
534A,634A 正極活物質
634B 固体電解質
536 電解質ゲル(電解質組成物Q)
537 液状電解質(電解液P)
540 負極
544 負極活物質層
544A 負極活物質
550 絶縁層(セパレータ)
800 電源装置
804 電子制御ユニット(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
非水溶媒と支持塩とSEI形成材料とを含む電解液Pと、
前記正極活物質と前記電解液Pとの間に介在された非流動性の電解質Qと、
を備える、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記非流動性の電解質Qは、非水溶媒と支持塩とを含む電解質組成物Qであり、前記正極活物質は該電解質組成物Qによって被覆されており、ここで、前記電解質組成物Qは、ゲル状をなし、該組成物Qに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)は、前記電解液Pに含まれる非水溶媒の酸化電位(対Li/Li)よりも高い、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質は、スピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物を含む、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒は、酸化電位(対Li/Li)が4.3Vよりも高い、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒は、酸化電位(対Li/Li)が、前記電池の満充電状態における前記正極活物質の電位(対Li/Li)よりも高い、請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記電解質組成物Qに含まれる非水溶媒のうち95体積%以上は、フッ素化されたカーボネートの少なくとも一種からなる、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記電解質組成物Qと前記負極との間に配置された多孔質プラスチック層をさらに備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
上限電圧が4.3V以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池と、
前記電池に電気的に接続され、該電池の少なくとも上限電圧値を規定する制御回路と、
を備え、
前記上限電圧値が4.3V以上に設定されている、電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−160435(P2012−160435A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289016(P2011−289016)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】