説明

リチウムイオン二次電池

【課題】出力特性が良好なリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、帯状の正極及び負極120を捲回してなる電極体を備える。さらに、リチウムイオン二次電池は、正極または負極120の表面に形成されたセパレータ層150であって、ポリオレフィンからなる微粒子151を、正極または負極120の表面に固定してなるセパレータ層150を有する。セパレータ層150は、その比表面積が0.5〜2.5(m2/g)の範囲内で、且つ、その透気度が10〜130(秒/100ml)の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯機器の電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として注目されている。従来、リチウムイオン二次電池では、セパレータとして、多孔性樹脂フィルムからなるセパレータ(以下、単に、フィルムセパレータともいう)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−19118号公報
【0004】
特許文献1には、多孔性のポリプロピレンフィルムからなるセパレータが開示されている。このフィルムセパレータを、正極と負極との間に介在させることで、正負極間の電気的絶縁性を確保する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、リチウムイオン二次電池について、更なる出力向上が求められている。特に、リチウムイオン二次電池を、ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両の駆動用電源として使用する場合には、高出力が要求される。
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなフィルムセパレータは、その比表面積や透気度の値が大きくなる傾向にあった。このため、セパレータとして、フィルムセパレータを用いたリチウムイオン二次電池では、Liイオンの拡散抵抗が大きくなる傾向にあった。これが原因で、リチウムイオン二次電池の出力特性を高めることが難しかった。
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、出力特性が良好なリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、帯状の正極及び負極を捲回してなる電極体、を備えるリチウムイオン二次電池において、上記正極または上記負極の表面に形成されたセパレータ層であって、ポリオレフィンからなる微粒子を、上記正極または上記負極の表面に固定してなるセパレータ層、を有し、上記セパレータ層は、その比表面積が0.5〜2.5(m2/g)の範囲内で、且つ、その透気度が10〜130(秒/100ml)の範囲内であるリチウムイオン二次電池である。
【0009】
上述のリチウムイオン二次電池では、正極と負極との間を電気的に絶縁するためのセパレータとして、フィルムセパレータではなく、ポリオレフィンからなる微粒子を正極または負極の表面に固定してなるセパレータ層を有している。このセパレータ層は、比表面積が0.5〜2.5(m2/g)の範囲内で、且つ、透気度が10〜130(秒/100ml)の範囲内である。
【0010】
ここで、比表面積の値は、クリプトンガス吸着によるBET比表面積の値を用いている。すなわち、クリプトンガスの吸着量の測定値に基づいて、BET法により算出した、セパレータ層の比表面積の値である。
【0011】
また、透気度は、空気がセパレータを通り抜ける速さを表す指標であり、具体的には、100mlの空気がセパレータ層を通過するのに要する時間(秒/100ml)で表している。透気度の値は、JIS P8117に基づいて測定した値である。
【0012】
リチウムイオン二次電池のセパレータとして、上述のようなセパレータ層を用いることで、電池の出力特性を良好にすることができる。その理由は、フィルムセパレータに比べて、Liイオンの拡散抵抗を低減することができるためと考えられる。具体的には、フィルムセパレータに比べて、Liイオンがセパレータを通り抜ける経路の長さが短くなる(曲路率が下がる)ので、Liイオンの拡散抵抗を低減することができ(Liイオンがセパレータを通り抜けやすくなり)、その結果、電池の出力特性が良好になると考えられる。
【0013】
なお、セパレータ層の比表面積を0.5(m2/g)よりも小さくし、且つ、透気度を10(秒/100ml)より小さくすると、ポリオレフィン微粒子の密度が小さくなりすぎて、正負極間の電気的絶縁を確保することができなくなる。また、セパレータ層の比表面積を2.5(m2/g)よりも大きくし、且つ、透気度を130(秒/100ml)より大きくすると、セパレータ層の柔軟性が低下して、電極体の捲回時に、セパレータ層に割れが生じてしまう。このため、正負極間の電気的絶縁を確保することができなくなる。
【0014】
また、セパレータ層を形成するポリオレフィン微粒子としては、ポリエチレン微粒子、ポリプロピレン微粒子などが好適である。また、ポリエチレンやポリプロピレンの誘導体からなる微粒子を用いることもできる。具体的には、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体などの微粒子を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の斜視図である。
【図2】同リチウムイオン二次電池の正極の斜視図である。
【図3】同リチウムイオン二次電池の負極の斜視図である。
【図4】同リチウムイオン二次電池のセパレータ層付き負極の斜視図である。
【図5】同セパレータ層付き負極の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、図1に示すように、電極体110と、これを収容する電池ケース180とを備える、リチウムイオン二次電池である。
【0017】
電池ケース180は、アルミニウムからなり、直方体形状をなしている。この電池ケース180は、電池ケース本体181と封口蓋182を有する。このうち、電池ケース本体181は、有底矩形箱形状をなしている。なお、電池ケース本体181と電極体110との間には、樹脂からなり、箱状に折り曲げた絶縁フィルム(図示しない)を介在させている。
【0018】
また、封口蓋182は、矩形板状であり、電池ケース本体181の開口を閉塞して、この電池ケース本体181に溶接されている。この封口蓋182には、矩形板状の安全弁197が封着されている。
【0019】
電極体110は、帯状の正極130及び帯状の負極120を扁平形状に捲回した捲回電極体である(図1参照)。詳細には、長手方向DAに延びる帯状の正極130及び負極120を、長手方向DAに捲回して、捲回型の電極体110を形成している(図1〜図3参照)。電極体110内には、非水電解液160が含浸している。
【0020】
正極130は、図2に示すように、長手方向DAに延びる帯状で、アルミニウム箔からなる正極集電部材138と、この正極集電部材138の両面に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの正極合材層131,131とを有している。正極合材層131は、正極活物質137と、アセチレンブラックからなる導電材と、PTFE(結着剤)と、CMC(増粘剤)とを含んでいる。なお、図2では、正極130の幅方向をDBとして表している。
【0021】
本実施形態では、正極活物質137として、LiNi1/3Mn1/3Co1/32を用いている。また、正極130のうち正極合材層131が塗工されていない部位(すなわち、正極集電部材138のみからなる部位)を、正極未塗工部130bという。この正極未塗工部130bは、正極130の幅方向DBの一端部に位置し、長手方向DAに帯状に延びている。
【0022】
また、負極120は、図3に示すように、長手方向DAに延びる帯状で銅箔からなる負極集電部材128と、この負極集電部材128の両面上に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの負極合材層121,121とを有している。負極合材層121は、負極活物質127とSBR(スチレンブタジエンゴム)とCMC(カルボキシメチルセルロース)を含んでいる。なお、図3では、負極120の幅方向をDBとして表している。
【0023】
本実施形態では、負極活物質127として、黒鉛を用いている。また、負極120のうち負極合材層121が塗工されていない部位(すなわち、負極集電部材128のみからなる部位)を、負極未塗工部120bという。この負極未塗工部120bは、負極120の幅方向DBの一端部に位置し、長手方向DAに帯状に延びている。
【0024】
ところで、本実施形態では、負極120(詳細には、負極合材層121)の表面に、セパレータ層150が形成されている(図4及び図5参照)。このセパレータ層150は、ポリオレフィンからなる微粒子(粉末)を、負極120(詳細には、負極合材層121)の表面に固定(固着)したものである。なお、本実施形態では、ポリオレフィンからなる微粒子として、ポリエチレン微粒子151を用いている。
【0025】
従って、本実施形態では、図4及び図5に示すように、負極120とセパレータ層150とが一体となって、セパレータ層付き負極140を形成している。従って、本実施形態では、正極130とセパレータ層付き負極140とを重ねて、長手方向DAに捲回して、扁平捲回型の電極体110を形成している(図1〜図5参照)。正極130とセパレータ層付き負極140とを重ねて捲回することで、正極130と負極120との間を、セパレータ層150により電気的に絶縁することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、セパレータ層150は、ポリエチレン微粒子151とCMC(カルボキシメチルセルロース)とを、99.7:0.3(重量比)の割合で含んでいる。また、セパレータ層150の厚みを、30μmとしている。
【0027】
図5は、セパレータ層付き負極140の部分拡大断面図である。この図5では、セパレータ層150においてCMCの図示を省略し、また、負極合材層121においてSBR及びCMCの図示を省略している。
【0028】
また、本実施形態では、セパレータ層150の比表面積を、0.5〜2.5(m2/g)の範囲内の値としている。また、セパレータ層150の透気度を、10〜130(秒/100ml)の範囲内の値としている。
【0029】
ここで、比表面積の値は、クリプトンガス吸着によるBET比表面積の値である。すなわち、クリプトンガスの吸着量の測定値に基づいて、BET法により、セパレータ層の比表面積を算出している。比表面積の求め方については、後に詳述する。
【0030】
また、透気度は、100mlの空気がセパレータ層150を通過するのに要する時間(秒/100ml)である。透気度の値は、JIS P8117に基づいて測定した値である。
【0031】
リチウムイオン二次電池のセパレータとして、上述のようなセパレータ層150を用いることで、電池の出力特性を良好にすることができる。その理由は、フィルムセパレータ(多孔性樹脂フィルムからなるセパレータ)に比べて、Liイオンの拡散抵抗を低減することができるためと考えられる。具体的には、フィルムセパレータに比べて、Liイオンがセパレータを通り抜ける経路の長さが短くなる(曲路率が下がる)ので、Liイオンの拡散抵抗を低減することができ(Liイオンがセパレータを通り抜けやすくなり)、その結果、電池の出力特性を良好にすることができると考えられる。
【0032】
また、電極体110の正極130(詳細には、正極未塗工部130b)には、クランク状に屈曲した板状の正極接続部材191が溶接されている(図1参照)。さらに、負極120(詳細には、負極未塗工部120b)には、クランク状に屈曲した板状の負極接続部材192が溶接されている。正極接続部材191及び負極接続部材192のうち、それぞれの先端に位置する正極端子部191A及び負極端子部192Aは、封口蓋182を貫通して蓋表面182Aから突出している。なお、正極端子部191Aと封口蓋182との間、及び、負極端子部192Aと封口蓋182との間には、それぞれ、電気絶縁性の樹脂からなる絶縁部材195を介在させている。
【0033】
非水電解液160は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを混合した有機溶媒に、溶質としてLiPF6を添加した非水電解液である。なお、非水電解液160中のLiPF6の濃度は、1mol/Lとしている。
【0034】
次に、実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100の製造方法について説明する。
まず、電極体110を形成する。具体的には、正極活物質137とアセチレンブラック(導電材)とPTFE(結着剤)とCMC(増粘剤)とを混合し、これに溶媒を混合して、正極スラリを作製する。次いで、この正極スラリを、正極集電部材138の表面(両面)に塗工し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、正極集電部材138の表面(両面)に正極合材層131が形成された正極130を得た(図2参照)。
【0035】
また、負極活物質127(黒鉛)とSBR(スチレンブタジエンゴム)とCMC(カルボキシメチルセルロース)とを水中で混合して、負極スラリを作製した。次いで、この負極スラリを、銅箔からなる負極集電部材128の表面(両面)に塗工し、乾燥させた後、プレス加工を施した。これにより、負極集電部材128の表面(両面)に負極合材層121が形成された負極120を得た(図3参照)。
【0036】
また、ポリエチレン微粒子151とCMC(カルボキシメチルセルロース)とを、99.7:0.3(重量比)の割合で混合し、これを溶媒(水)に混合して、スラリを作製する。次いで、このスラリを、負極120の負極合材層121の表面に塗布し、乾燥させた。これにより、負極120(詳細には、負極合材層121)の表面に、厚み30μmのセパレータ層150を形成した。このようにして、負極120とセパレータ層150とが一体となった(負極120の表面にセパレータ層150が固定された)、セパレータ層付き負極140が形成される。
【0037】
その後、セパレータ層付き負極140と正極130とを重ねて、長手方向DAに捲回して、電極体110を形成する。このようにして、捲回型の電極体110を形成した(図1参照)。
【0038】
次に、負極120(負極未塗工部120b)に負極接続部材192を溶接し、正極130(正極未塗工部130b)に正極接続部材191を溶接する。次いで、負極接続部材192及び正極接続部材191を溶接した電極体110を、電池ケース本体181内に挿入した後、非水電解液160を注入する。その後、封口蓋182で電池ケース本体181の開口を閉塞した状態で、封口蓋182と電池ケース本体181とを溶接する。これにより、本実施形態のリチウムイオン二次電池100が完成する。
【0039】
(実施例1)
実施例1では、セパレータ層150の比表面積の値を、0.5(m2/g)としている。また、セパレータ層150の透気度の値を、10(秒/100ml)としている。なお、セパレータ層150の比表面積及び透気度は、セパレータ層150を作製するときに、スラリ中に混合するポリエチレン微粒子151の平均粒径を調整することで、適宜調整することができる。本実施例1では、ポリエチレン微粒子151の平均粒径を、7.0μmとしている。
【0040】
なお、ポリエチレン微粒子151の平均粒径の値は、レーザー回折・散乱式粒径粒度分布測定法によるD50の値を採用している。測定装置として、日機装株式会社製のマイクロトラックを用いている。
【0041】
また、セパレータ層150の比表面積の値は、クリプトンガス吸着によるBET比表面積の値である。すなわち、クリプトンガスの吸着量の測定値に基づいて、BET法により、セパレータ層150の比表面積を算出している。具体的には、以下の条件により、セパレータ層150の比表面積を求めている。他の実施例及び比較例でも、同じ条件で測定している。
【0042】
<測定装置> 日本ベル社製 BELSORP36
<吸着質> クリプトンガス
<測定温度> 77K(液体窒素温度)
<比表面積解析法> BET多点法
【0043】
なお、負極120の表面に形成されているセパレータ層150(セパレータ層付き負極140のセパレータ層150)について、直接、比表面積を求めるのは煩雑である。負極合材層121も多孔質であるため、得られたBETグラフにおいて、負極合材層121のデータとセパレータ層150のデータとが混在し、両者を区別する必要があるからである。
【0044】
そこで、本実施例1では、比表面積測定用に、アルミ箔(無多孔基材)の表面にセパレータ層150を形成したサンプルを用意し、このサンプルについて、上述の条件で比表面積を測定した。得られた値を、セパレータ層150の比表面積とみなしている。他の実施例でも同様である。
【0045】
また、透気度は、100mlの空気がセパレータ層150を通過するのに要する時間(秒/100ml)である。透気度の値は、JIS P8117に基づいて測定した値である。なお、本実施形態では、測定装置として、東洋精機製作所製のガーレー式デンソメータを用いている。他の実施例及び比較例でも、同じ条件で測定している。
【0046】
なお、負極120の表面に形成されているセパレータ層150(セパレータ層付き負極140のセパレータ層150)について、直接、透気度を測定することは困難である。負極120の負極集電部材128(銅箔)を空気が透過しないからである。
【0047】
そこで、本実施例1では、透気度測定用に、後述する比較例1のフィルムセパレータの表面にセパレータ層150を形成したサンプルを用意し、このサンプルの透気度を測定した。そして、このサンプルの透気度の値からフィルムセパレータ単体の透気度の値を差し引くことで、セパレータ層150の透気度の値を求めている。他の実施例でも同様である。なお、比較例1のフィルムセパレータの透気度は、後述するように、350(秒/100ml)である。
【0048】
本実施例1では、負極120の表面上に上述のセパレータ層150を設けたセパレータ層付き負極140と、正極130とを用いて、リチウムイオン二次電池100を作製した。
【0049】
(実施例2)
実施例2では、セパレータ層150の比表面積の値を、1.3(m2/g)としている。また、セパレータ層150の透気度の値を、73(秒/100ml)としている。なお、本実施例2では、ポリエチレン微粒子151の平均粒径を、4.0μmとしている。
本実施例2では、負極120の表面上に上述のセパレータ層150を設けたセパレータ層付き負極140と、正極130とを用いて、リチウムイオン二次電池100を作製した。
【0050】
(実施例3)
実施例3では、セパレータ層150の比表面積の値を、2.5(m2/g)としている。また、セパレータ層150の透気度の値を、130(秒/100ml)としている。なお、本実施例3では、ポリエチレン微粒子151の平均粒径を、2.5μmとしている。
本実施例3では、負極120の表面上に上述のセパレータ層150を設けたセパレータ層付き負極140と、正極130とを用いて、リチウムイオン二次電池100を作製した。
【0051】
(比較例1)
比較例1では、実施例1〜3と異なり、セパレータとして、多孔性樹脂フィルムからなるセパレータ(フィルムセパレータ)を用いている。具体的には、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)/PP(ポリプロピレン)の3層からなる、厚み30μmのフィルムセパレータである。このフィルムセパレータの比表面積の値は、58(m2/g)である。また、このフィルムセパレータの透気度の値は、350(秒/100ml)である。
【0052】
本比較例1では、負極120と正極130と上述のフィルムセパレータとを用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0053】
(比較例2)
比較例2でも、比較例1と同様に、セパレータとして、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)/PP(ポリプロピレン)の3層からなる、厚み30μmのフィルムセパレータを用いている。但し、比較例2のフィルムセパレータの比表面積の値は、30(m2/g)である。また、このフィルムセパレータの透気度の値は、250(秒/100ml)である。
【0054】
本比較例2では、負極120と正極130と上述のフィルムセパレータとを用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0055】
(比較例3)
比較例3では、実施例1〜3と同様に、セパレータとして、ポリエチレン微粒子151を負極120(詳細には、負極合材層121)の表面に固定してなるセパレータ層を用いている。すなわち、セパレータとして、フィルムセパレータではなく、ポリエチレン微粒子151とCMC(カルボキシメチルセルロース)とからなるセパレータ層を用いている。
【0056】
本比較例3のセパレータ層は、比表面積の値が0.4(m2/g)である。また、セパレータ層の透気度の値は、7(秒/100ml)である。なお、本比較例3では、ポリエチレン微粒子151の平均粒径を、9.0μmとしている。
本比較例3では、負極120の表面上に上述のセパレータ層を有するセパレータ層付き負極と、正極130とを用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0057】
(比較例4)
比較例4でも、実施例1〜3と同様に、セパレータとして、ポリエチレン微粒子151を負極120(詳細には、負極合材層121)の表面に固定してなるセパレータ層を用いている。すなわち、セパレータとして、フィルムセパレータではなく、ポリエチレン微粒子151とCMC(カルボキシメチルセルロース)とからなるセパレータ層を用いている。
【0058】
但し、本比較例4のセパレータ層は、比表面積の値が2.7(m2/g)である。また、セパレータ層の透気度の値は、141(秒/100ml)である。なお、本比較例4では、ポリエチレン微粒子151の平均粒径を、1.0μmとしている。
【0059】
本比較例4では、負極120の表面上に上述のセパレータ層を有するセパレータ層付き負極と、正極130とを用いて、これらを捲回して電極体を形成したところ、セパレータ層に割れが発生して、セパレータ層の一部が剥離してしまった。その結果、正負極間の電気的絶縁を確保することができなくなり、リチウムイオン二次電池を作製することができなかった。
【0060】
比較例4では、セパレータ層の比表面積及び透気度の値を大きくしすぎたために、セパレータ層の柔軟性が低下して、電極体の捲回時に、セパレータ層に割れが生じてしまったと考えられる。ポリエチレン微粒子151を用いた他の例(実施例1〜3及び比較例3)では、セパレータ層の比表面積を2.5(m2/g)以下とし、且つ、透気度を130(秒/100ml)以下としている。これらの例では、いずれも、セパレータ層に割れが生じることなく、適切に、電極体を形成することができた。
従って、セパレータ層について、比表面積を2.5(m2/g)以下とし、且つ、透気度を130(秒/100ml)以下とするのが好ましいといえる。
【0061】
(自己放電試験)
上述の実施例1〜3及び比較例1〜3のリチウムイオン二次電池について、自己放電試験を行った。具体的には、それぞれの電池の電圧値を4.1V(SOC100%)にした後、25℃の温度環境下で、7日間放置(放置による自己放電)した。放置後、それぞれの電池について、電池電圧値を測定した。リチウムイオン二次電池は、自己放電により電池電圧値が低下する傾向にあるが、7日間の自己放電により電池電圧値が0.2V以上低下した(電圧値が3.9V以下となった)電池は、自己放電量が大き過ぎるため、内部短絡が発生していると判断した。
その結果、比較例3の電池において、内部短絡の発生が検出された。
【0062】
比較例3では、セパレータ層の比表面積及び透気度の値を小さくしすぎたために、セパレータ層中のポリエチレン微粒子151の密度が小さくなりすぎて、正負極間の電気的絶縁を確保することができなかったと考えられる。ポリエチレン微粒子151を用いた他の例(実施例1〜3)では、セパレータ層の比表面積を0.5(m2/g)以上とし、且つ、透気度を10(秒/100ml)以上としている。これらの例では、いずれも、内部短絡が発生しなかった。
従って、セパレータ層について、比表面積を0.5(m2/g)以上とし、且つ、透気度を10(秒/100ml)以上とするのが好ましいといえる。
【0063】
(出力特性の評価)
上述の実施例1〜3及び比較例1,2のリチウムイオン二次電池について、出力特性の評価試験を行った。具体的には、それぞれの電池について、25℃の温度環境下において、10秒間連続して出力可能(放電可能)な一定出力値のうち最大となる値(これを最大出力値という)を求めた。
【0064】
詳細には、まず、それぞれの電池について、SOC60%に調整した後、ある一定の出力値(例えば、600W)で連続して放電可能な時間を測定する。すなわち、ある一定の出力値(例えば、600W)で放電を開始して、その一定出力値を維持し続けて放電できる時間(連続放電可能時間)を測定する。その後、出力値を様々な値に設定して、各設定出力値において、連続放電可能時間を測定する。その後、それぞれの電池について、連続放電可能時間と出力値との相関を取得し、この相関から、10秒間連続して出力可能な最大の出力値(最大出力値)を求めた。その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
なお、表1では、ポリエチレン微粒子151を用いたセパレータ層を、「微粒子セパレータ」と表記している。また、25℃の温度環境下で10秒間連続して出力(放電)可能な最大の一定出力値を、「最大出力」と表記している。
【0067】
表1に示すように、比較例1の電池では、最大出力が600Wとなった。すなわち、最大600Wの出力で、10秒間連続して放電することができる。
また、比較例2の電池では、最大出力が624Wとなった。すなわち、最大624Wの出力で、10秒間連続して放電することができる。
【0068】
これに対し、実施例1の電池では、最大出力が723Wとなった。すなわち、最大723Wの出力で、10秒間連続して放電することができる。
また、実施例2の電池では、最大出力が698Wとなった。すなわち、最大698Wの出力で、10秒間連続して放電することができる。
また、実施例3の電池では、最大出力が671Wとなった。すなわち、最大671Wの出力で、10秒間連続して放電することができる。
【0069】
このように、実施例1〜3の電池では、比較例1,2の電池に比べて、約10%以上も出力が高くなった。
以上の結果より、リチウムイオン二次電池のセパレータとして、「ポリオレフィンからなる微粒子を正極または負極の表面に固定してなるセパレータ層であって、比表面積が0.5〜2.5(m2/g)の範囲内で、且つ、透気度が10〜130(秒/100ml)の範囲内であるセパレータ層」を用いることで、電池の出力特性を良好にすることができるといえる。
【0070】
その理由は、上述のセパレータ層では、フィルムセパレータに比べて、Liイオンの拡散抵抗を低減することができるためと考えられる。具体的には、上述のセパレータ層では、フィルムセパレータに比べて、Liイオンがセパレータを通り抜ける経路の長さが短くなる(曲路率が下がる)ので、Liイオンの拡散抵抗を低減することができ(Liイオンがセパレータを通り抜けやすくなり)、その結果、電池の出力特性を良好にすることができると考えられる。
【0071】
以上において、本発明を実施形態(実施例1〜3)に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0072】
例えば、実施形態では、負極120(詳細には、負極合材層121)の表面に、セパレータ層150を形成した。しかしながら、セパレータ層150を、正極130(詳細には、正極合材層131)の表面に形成するようにしても良い。すなわち、正極130とセパレータ層150とが一体となった、セパレータ層付き正極を形成するようにしても良い。
【0073】
また、実施形態では、セパレータ層150を構成するポリオレフィンからなる微粒子として、ポリエチレン微粒子151を用いたが、ポリプロピレン微粒子など、ポリエチレンとは異なる他のポリオレフィンの微粒子を用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0074】
100 リチウムイオン二次電池
110 電極体
120 負極
121 負極合材層
130 正極
131 正極合材層
140 セパレータ層付き負極
150 セパレータ層
151 ポリエチレン微粒子(ポリオレフィン微粒子)
160 非水電解液
180 電池ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極及び負極を捲回してなる電極体、を備える
リチウムイオン二次電池において、
上記正極または上記負極の表面に形成されたセパレータ層であって、ポリオレフィンからなる微粒子を、上記正極または上記負極の表面に固定してなるセパレータ層、を有し、
上記セパレータ層は、
その比表面積が0.5〜2.5(m2/g)の範囲内で、且つ、
その透気度が10〜130(秒/100ml)の範囲内である
リチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−84390(P2013−84390A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222231(P2011−222231)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】