説明

リチウムイオン電池および電気二重層キャパシタのための電極バインダー組成物および電極

少なくとも1つの金属キレート化合物と少なくとも1つのフルオロポリマーとを含む電極バインダー組成物。電池電極に用いるバインダー組成物が、粉末活性電極材料の凝集力および活性材料層と金属電流コレクタとの間の接着強度を改善する。本発明は、リチウムイオン二次電池および電気二重層キャパシタのためのバインダー組成物を含有する電池電極にさらに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池電極および電気二重層キャパシタの製造において、電極材料を結合するための改善されたフルオロポリマーバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(LiB)では、電極においてイオンと電子伝導を安定に保つためにバインダーが必要である。現在、このバインダーにはポリフッ化ビニリデン(PVDF)が典型的に用いられている。しかしながら、PVDFの場合には、接着強度と可撓性が不十分なために、活性物質(すなわち、粉末リチウム複合体酸化物または炭素等の活性電極)の剥離が生じ、電極のための新たなバインダーの開発が必要とされている。
【0003】
近年、携帯電話またはビデオカメラ等の小型電気装置の開発に伴い、小型、軽量かつ高出力電源の積極的な開発がなされてきた。リチウムイオン二次電池は、これらの要件に適合する電池として広く用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池では、正電極は、電流コレクタとして、アルミニウムホイルを用いる。LiCoO、LiNiOまたはLiMn等の粉末リチウム複合体酸化物を、伝導材料(炭素等)、バインダーおよび溶媒と混合して、ペーストを形成し、これを、電流コレクタの表面に被覆して乾燥する。負電極は、炭素、バインダーおよび溶媒を混合することにより得られたペーストを銅ホイルに被膜することにより作製される。電池を製造するには、電極を、負電極、セパレータ(ポリマー多孔質膜)、正電極、セパレータの順番で積層して、コイル巻きし、円筒または矩形缶に収容する。この電池製造プロセスにおいては、電池に必須の活性物質(電極材料)を、電極の電流コレクタに結合するのにバインダーが必要である。バインダーの接着および化学特性が、電池の性能に大きな影響を与える。
【0005】
物理エネルギー記憶装置として、電気二重層キャパシタ(EDLC)はまた、非常に速い充電放電速度、様々な操作温度および長いサイクル寿命をサポートするため、注目を集めている。
【0006】
LiBの電極と同様に、EDLCの電極は、粉末活性物質(電極材料)を用いて形成される。電極バインダーを用いて、粉末活性材料を接着し、それらを金属電流コレクタに結合する。
【0007】
LiB電極かEDLC電極の電極バインダーに対する性能要件を以下に列挙する(<Japan Industrial materials>1999.2)
1.電極材料(通常、粉末)を接着する。
2.電極材料を、金属電流コレクタに結合する。
3.循環的充電放電で、イオンおよび電気伝導性を安定に維持する。
4.処理し易い電極材料の均一なペーストを作製する。
【0008】
現在、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素化ポリマーが、その電気化学安定性および耐化学性により、大抵のLiBにおいてバインダー樹脂として用いられている。
【0009】
フッ素化ポリマーをバインダー樹脂として用いる一例は、特許文献1に開示されており、PVDFをアノードバインダーとして用いる非水性電解質電池に関するものである。特許文献2および3には、PTFE−FEP組成物を電極バインダーとして用いる非水性電解質電池を製造する方法が開示されている。特許文献4には、分子量(Mw)が、300,000〜600,000の範囲のフッ素化コポリマーを、電極バインダーとして用いる非水性電解質電池が開示されている。
【0010】
しかしながら、フッ素化ポリマーは、ポリマーバインダーと、金属、金属酸化物または炭素等の様々な無機材料との間に、分子間力(ファン・デル・ワールス力)が低いために、十分な凝集力および接着力を与えない可能性があり、その結果として、フルオロポリマー分子間またはフルオロポリマー分子とその他の分子との間の相互作用が弱くなる。
【0011】
フッ素化ポリマーバインダーの凝集力および接着力を増大する1つの手段は、ポリマーバインダーの量を増やすことである。しかしながら、バインダー樹脂の量を増やすと、電極材料の表面が、電気絶縁性バインダー樹脂により覆われるため、電極の電気抵抗が増大する結果となる。さらに、バインダー樹脂を多く用いれば用いるほど、活性物質が電極に充填でき難くなり、エネルギー密度が減少する結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平(JP−A)H4−249860号公報
【特許文献2】特開2001−266854号公報
【特許文献3】特開2001−216957号公報
【特許文献4】特開2002−313345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
電池電極の製造において、フルオロポリマーバインダーを用いて粉末活性電極材料の凝集力および活性電極材料層と金属電流コレクタとの間の接着強度を改善することが尚望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、少なくとも1つの金属キレート化合物と少なくとも1つのフルオロポリマーとを含む電極バインダー組成物を提供する。本発明のある好ましい実施形態において、フルオロポリマーは、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アルキルアクリレート/メタクリレート、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC1〜C8アルキルエチレンおよびフッ素化ジオキソールからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーから調製されるホモポリマーまたはコポリマーである。より好ましくは、電極バインダー組成物は、フッ化ビニルベースのコポリマーである。他の好ましい実施形態において、金属キレートは、チタンキレート化合物またはジルコニウムキレート化合物である。
【0015】
電池電極に用いる本発明のバインダー組成物は、良好な化学および電気化学安定性を維持しつつ、粉末活性物質(電極材料)の凝集力および活性材料層と金属電流コレクタとの間の接着強度を改善する。電極組成物はまた、優れた分散性も与え、室温でのゲル化反応なしで、活性物質および伝導剤と均一に混合することができる。
【0016】
本発明はまた、活性電極材料と、本発明のバインダー組成物とを含む電極も提供し、リチウムイオン二次電池および電気二重層キャパシタに有利に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電極バインダー組成物は、少なくとも1つの金属キレート化合物と、少なくとも1つのフルオロポリマーとを含む。
【0018】
フルオロポリマー
本発明のフルオロポリマーとは、少なくとも1つのフッ素化モノマーから調製されたホモポリマーまたはコポリマーを意味する。炭化水素タイプのモノマーも含まれる。
【0019】
好ましいフッ素化モノマーとしては、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VdF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アルキルアクリレート/メタクリレート、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC1〜C8アルキルエチレンおよびフッ素化ジオキソール等のフルオロオレフィンが挙げられる。
【0020】
フッ化ビニルベースのコポリマーが、上述のフルオロポリマーとして特に好ましい。このコポリマーは、VFモノマーと少なくとも1つのビニルモノマーとを共重合することにより調製される。フッ化ビニルベースのコポリマーは、通常、良好な可撓性および機械的強度を有しており、これは、バインダー樹脂にとって有用な特性である。このVFベースのコポリマーは、約10〜約90モル%のフッ化ビニルを含有しているのが好ましい。VF含量が約10モル%未満の場合には、コポリマーの可撓性および機械的強度が不十分となる恐れがあり、一方、VF含量が約90モル%より多い場合には、コポリマーの化学または耐熱性が不十分となる恐れがある。より好ましくは、コポリマーのVF含量は、約30〜約75モル%のフッ化ビニル、最も好ましくは、約40〜約70モル%のフッ化ビニルである。
【0021】
好ましいVFコポリマーは、少なくとも2つの高度にフッ素化されたモノマーを含み、高度にフッ素化されたモノマーのうち少なくとも1つが、ポリマーに少なくとも1つの炭素原子の側鎖を導入する。本発明に有用な、ポリマーに少なくとも1つの炭素原子の側鎖を導入する高度にフッ素化されたモノマーとしては、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC〜Cアルキルエチレン、フッ素化ジオキソールおよび式CY=CYORまたはCY=CYOR’ORのフッ素化ビニルエーテルが挙げられ、式中、YはHまたはF、−Rおよび−R’は、独立に、1〜8個の炭素原子を含有する完全フッ素化または部分フッ素化アルキルまたはアルキレン基であり、好ましくは過フッ素化されている。好ましい−R基は、1〜4個の炭素原子を含有しており、好ましくは過フッ素化されている。好ましい−R’−基は、2〜4個の炭素原子を含有しており、好ましくは過フッ素化されている。好ましくは、YはFである。本発明において、高度にフッ素化された、とは、OまたはS等の結合原子を除き、炭素に結合した元素の50%以上がフッ素であることを意味する。
【0022】
ポリマーに少なくとも1つの炭素原子の側鎖を導入する特に好ましい高度にフッ素化されたモノマーは、ヘキサフルオロプロピレン等のパーフルオロオレフィン、パーフルオロブチルエチレン等のパーフルオロC〜Cアルキルエチレン、またはパーフルオロ(エチルビニルエーテル)等のパーフルオロ(C〜Cアルキルビニルエーテル)である。好ましいフッ素化ジオキソールモノマーとしては、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(PDD)およびパーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン(PMD)が挙げられる。ヘキサフルオロイソブチレンは、本発明に有用な別の高度にフッ素化されたモノマーである。
【0023】
VFコポリマーは、ポリマーに少なくとも1つの炭素原子の側鎖を導入する少なくとも1つの高度にフッ素化されたモノマーを好ましくは約1〜約15モル%、より好ましくは約5〜約10モル%含む。
【0024】
VFコポリマーの特に好ましい実施形態は、フッ化ビニルを30〜75モル%、ポリマーに少なくとも1つの炭素原子の側鎖を導入する少なくとも1つの高度にフッ素化されたモノマーを1〜15モル%、残部として、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンの群から選択される少なくとも1つのCオレフィンを含む。最も好ましくは、Cオレフィンはテトラフルオロエチレンである。
【0025】
好ましいフルオロポリマーは、ヒドロキシル、チオール、カルボニル、カルボン酸、炭酸塩、スルホニル、スルホン酸、スルホン酸塩、リン酸、ホウ酸、エステル、アミン、アミド、ニトリル、エポキシおよびイソシアネート等の少なくとも1つの官能基を含有する。かかる基を、VFコポリマーにとって好ましい上述したような側鎖を有する官能化モノマーにおいて、フルオロポリマーに導入すると有利である。架橋基を有するこのフルオロポリマーは、金属キレート化合物と架橋して、高温で3−D網目構造を形成し、凝集力および接着力を改善する。
【0026】
本発明の電極バインダー組成物に用いるフルオロポリマーの調製方法は特に限定されない。通常の重合方法が好ましく、例えば、乳化重合、懸濁重合、溶液重合および塊状重合である。より好ましくは、フルオロポリマーは、水中のフッ素化モノマーを、アルカリ金属または過硫酸アンモニウム塩等の水溶性遊離基開始剤により、60〜100℃、反応器圧力1〜12MPa(145〜1760psi)で重合することによる乳化重合により調製される。この場合、ラテックスのpHは、リン酸塩、炭酸塩および酢酸塩等の緩衝剤を用いて制御することができる。フルオロポリマーの分子量を調節するには、必要に応じて、エタン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、マロン酸エチル、アセトン等といった連鎖移動剤を用いてもよい。バインダー組成物を、電極製造に用いるのに有機溶媒に分散させなければならないときには、フルオロポリマーは、ラテックスから分離して乾燥するのが好ましい。
【0027】
金属キレート化合物
本発明の電極バインダー組成物の金属キレート化合物とは、配位結合により、少なくとも2つの電子対供与体非金属イオンに付加した電子対受容体金属イオンを含有する複素環の形態の化合物を意味する。金属イオンに付加した非金属イオンは、強い非金属特性のために周期表のV族またはVI族の元素から選択されるのが好ましい。最も好ましい3つの元素は、N、OおよびSである。
【0028】
本発明の電極バインダー組成物に用いる好ましい金属キレート化合物は、チタンキレートまたはジルコニウムキレート化合物である。周期表の金属の大半を、キレート化合物の形成に用いてよいが、LiBまたはEDLCの強い酸化−還元環境で用いることが意図されているため、強い耐化学性を有する金属が好ましい。電極バインダー組成物中の金属キレート化合物は、有機キレート基が排除される熱処理(100℃より高い)後、対応する金属化合物形態へと変換される。その結果、得られる電極膜中のバインダー含量は、熱処理後、減少する。
【0029】
本発明の電極バインダー組成物に用いる金属キレート化合物およびフルオロポリマーは、好ましくは、水または有機溶媒に分散して、溶液またはオルガノゾルを形成し、これを活性材料(伝導剤を含む)と混合して、均一なペーストを形成する。好ましい有機溶媒は、極性有機溶媒、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)である。NMP、DMP、DMAcおよびDMSOといった高沸点溶媒がより好ましい。
【0030】
活性電極材料
本発明による電極は、活性電極材料を含む。二次電池のための活性電極材料は、二次電池のための電極として有用な粉末電極材料が挙げられ、炭素等の伝導材料と典型的に混合される様々な金属および金属酸化物が含まれる。リチウムイオン二次電池については、LiCoO、LiNiOまたはLiMn等のリチウム複合体酸化物が好ましい。EDLCに用いるのに好ましい活性電極材料としては、グラファイトおよびケッチェンブラック等の炭素質材料が挙げられる。かかる炭素質材料は、約10〜約1000nmの数平均粒径を有するのが好ましい。好ましい部類の活性電極材料は、金属、金属酸化物および炭素からなる群から選択される。
【0031】
LIBおよびEDLC
リチウムイオン二次電池(LIB)または電気二重層キャパシタ(EDLC)に好ましい電極は、本発明の電極バインダー組成物、活性電極材料(伝導剤を含む)の混合物を、金属電流コレクタに被膜することにより形成される。LiBについて、正電極の好ましい活性材料は、LiCoO、LiNiOまたはLiMnであり、負電極の好ましい活性材料は、炭素質材料である。好ましい伝導剤は、粉末炭素質材料であり、その平均直径は、10〜1000nmの範囲であるのが好ましい。正電極の好ましい電流コレクタはアルミニウムであり、一方、負電極の好ましい電流コレクタは銅である。EDLCについて、炭素質材料を活性材料として用いるのが好ましく、アルミニウムホイルを電流コレクタとして用いるのが好ましい。
【0032】
試験方法
電極膜の剥離強度
接着テープ(3M Scotch(商標)898)を、電極膜の表面に塗布し、ゴムでプレスする。剥離強度を、JIS K6854に従って、TENSILON (Toyo Baldwinより入手可能なUTM−1T)を用いて、180度剥離試験により測定する。
【0033】
電極バインダー組成物のAlへの接着
本発明の電極バインダー組成物の溶液または分散液を調製し、アルミニウムカップ(AsOne No.107)に入れる。次に、150℃で2時間、100トルの圧力で加熱して、Alカップの表面にフィルムを形成する。得られるフィルムとAlとの間の接着状態を目視で観察する。
【実施例】
【0034】
VFベースのフルオロポリマーの調製、試料A
VFベースのフルオロポリマーを、R.E.Uscholdによる米国特許第6,242,547号明細書(2001年)に記載されたのと同様の方法により生成し、VF/TFE/HFPターポリマーを作製する。3.8Lの容量の攪拌ジャケット付き水平ステンレス鋼オートクレーブを、重合容器として用いる。オートクレーブは、温度および圧力を測定するための機器と、モノマー混合物をオートクレーブに所望の圧力で供給できるコンプレッサーを備えている。オートクレーブを、0.2%のアンモニウムパーフルオロオクタノエートを含有する脱イオン水で、その容量の70〜80%まで満たし、2.8MPaまで加圧し、窒素で3回、次にTFEで3回通気する。水を90℃まで加熱し、攪拌器を始動させ、TFE、VFおよびHFPを所望の比率で添加して、オートクレーブの圧力を2.8MPaにする。開始剤溶液を注入して、濃度10g/Lの125mLの過硫酸アンモニウム溶液とする。運転中、開始剤溶液を、1mL/分の速度で供給する。運転中、さらにTFE、VFおよびHFPを反応器に供給し、所望の分散液固体20〜25%を生成するのに十分な量に達するまで、定圧を維持する。その時点で、モノマーの供給を停止し、冷却水をオートクレーブジャケットに通して、過剰のモノマーを排出する。オートクレーブを排気し、窒素で3回パージして、残渣モノマーを除去し、ポリマー分散液をオートクレーブから排出する。ポリマーを冷凍により分離し、解凍して、ポリマー粉とし、吸引フィルタで集める。フィルタケークを、脱イオン水で洗って、界面活性剤および開始剤残渣を除去し、90〜100℃のエアオーブンで乾燥する。
【0035】
VF/TFE/HFPターポリマー、試料Aが得られ、69.8モル%のVF単位、22.8モル%のTFE単位および7.4モル%のHFP単位を含む。
【0036】
官能基を備えたフルオロポリマー試料B、C、D、E、Fの調製
官能基を備えたフルオロポリマー、すなわち、試料B、C、D、EおよびFを、後述する方法により生成する。生成されるポリマーの組成を表3に示す。
【0037】
攪拌器とジャケットとを備えた7.6L(2USガロン)の容量の水平ステンレス鋼オートクレーブを、重合反応器として用いる。温度および圧力を測定するための機器、ならびにモノマー混合物をオートクレーブへ、所望の圧力で供給するための圧縮器が、オートクレーブに取り付けられている。
【0038】
オートクレーブは、15gの6,2−TBS(Bakerら、米国特許第5,688,884号明細書に記載されたようにして調製したもの)を含有する脱イオン水で、その容量の70〜80%まで充填した後、内部温度を90℃まで上げる。次に、オートクレーブを、窒素を用いて、3回、3.1MPa(450psig)まで加圧することにより、空気でパージする。パージ後、内圧が3.1MPa(450psig)に達するまで、以下の表1に示す組成を有するモノマー混合物により、オートクレーブを充填する。
【0039】
【表1】

【0040】
20gの過硫酸アンモニウムを、1Lの脱イオン水に溶解することにより、開始剤溶液を調製する。この開始剤溶液を、25ml/分の速度で、5分間にわたって、反応器に供給し、その後、速度を下げ、反応中、1ml/分に維持する。
【0041】
内圧が3.0MPaに低下したら、表2に示すメークアップモノマー混合物を供給して、圧力を一定に保つ。
【0042】
【表2】

【0043】
このメークアップ供給物の組成は、各モノマーの反応性が異なるために、予備充填混合物とは異なる。その組成は、反応器中のモノマー組成物が一定に保たれて、均一な組成の生成物が得られるようなものを選択する。
【0044】
モノマーは、生成したラテックス中の固体含量が約20%に達するまで、オートクレーブに供給される。固体含量が、所定の値に達したら、モノマーの供給を即時に停止し、その後、オートクレーブの中身を冷却し、オートクレーブ中の未反応のガスをパージして出す。
【0045】
得られたラテックスに、高速で攪拌しながら、ラテックス1L当たり、水に溶解した炭酸アンモニウム15g、次に、ラテックス1L当たり70mLのHFC−4310(1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン)を添加した後、ろ過により、ポリマーを単離する。ポリマーを水で洗い、温風乾燥機にて、90〜100℃で乾燥する。生成されたポリマーの組成および融点を表3に示す。
【0046】
得られたVFコポリマーを、NMPに、55〜60℃で、水浴インキュベータを用いて溶解し、その後、室温(25℃)まで冷やし、安定な透明溶液が得られる樹脂の溶解度を測定する。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
実施例1〜6、比較例1〜2
電極バインダー組成物の調製
上述した試料AをNMPによく分散して、オルガノゾルを50〜70℃で形成する。粉末PVDF(KF#1100、呉羽化学工業(Kureha Chemicals,Ltd.)より入手可能)を、NMPに溶解して、溶液を50〜70℃で形成する。ジルコニウムキレート化合物、クエン酸ジエチルエーテルジルコネートを、n−プロパノールに溶解して、70%溶液(DuPont(商標)Tyzor(商標)ZEC、ZrO含量:13.1%)を形成する。ジルコニウムキレートの溶液を、試料AのオルガノゾルおよびPVDFの溶液に加え、均一な電極バインダー組成物を形成する。組成データを表4に示す。
【0049】
LiBのための正電極の作製
3重量部の電極バインダー組成物(固体として計算)を、95重量部のLiCoO(日本化学工業株式会社)および2重量部の粉末炭素(伝導剤)とNMP中で混合して、ホモジナイザ(ULTRA−TURAX T25、IKAジャパン)を用いることにより、十分なペーストを形成する。ペーストをAlホイル(電流コレクタ、厚さ20μm)に、フィルム塗布器を用いて被覆し、次に、120〜130℃で少なくとも3時間100〜200トルの圧力で乾燥して、LiBの正電極を形成する。電極膜の厚さを、40〜50μmの範囲に制御する。
【0050】
LiBのための正電極膜の剥離強度
接着テープ(3M Scotch(商標)898)を、上述の電極の表面に密着させて接着し、ゴムによりプレスする。電極膜の剥離強度を、JIS K6854に従って、TENSILON (Toyo Baldwinより入手可能なUTM−1T)を用いて、180度剥離試験により測定する。剥離強度のデータを表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
実施例7〜12、比較例3〜4
LiBのための負電極の作製
正電極を製造するのと同様の方法により、各LiB負電極を得る。MCMB(メソカーボンマイクロビーズ、大阪ガスケミカル株式会社)を、活性材料として用いる。活性材料対バインダー組成物の比率は、97/3wt/wtである。銅ホイル(厚さ:20μm)を、LiBの負電極のための電流コレクタとして用いる。
【0053】
LiBのための負電極膜の剥離強度
LiB負電極膜の剥離強度を、実施例1〜5で用いたのと同じ方法により測定する。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
実施例13
EDLCのための電極の作製
実施例1〜12と同様の方法により、EDLCのための電極を生成する。MCMB(メソカーボンマイクロビーズ、大阪ガスケミカル株式会社)を、活性材料として用いる。活性材料対バインダー組成物の比率は、97/3wt/wtである。アルミニウムホイル(厚さ:20μm)を、電流コレクタとして用いる。
【0056】
実施例14〜28、比較例5〜9
電極バインダー組成物のAlへの接着
官能基を備えたフルオロポリマー、試料B、C、D、EおよびFを、NMPに溶解し、10wt%溶液を形成する。チタンキレート化合物、チタンアセチルアセトネート(DuPont(商標)Tyzor(商標)AA)をNMP中で希釈して、10wt%溶液を形成する。2つの溶液を均一に混合することにより、一連の電極組成物を生成する。3gの混合溶液をアルミニウムカップに入れ、150℃で2時間、100トルの圧力で加熱してから、室温まで冷却する。得られたバインダー樹脂フィルムとアルミニウム基材との間の接着状態を目視で観察する。結果を表6に示す。
【0057】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの金属キレート化合物と少なくとも1つのフルオロポリマーとを含む、リチウムイオン二次電池または電気二重層キャパシタのための電極バインダー組成物。
【請求項2】
フルオロポリマーが、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アルキルアクリレート/メタクリレート、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC1〜C8アルキルエチレンおよびフッ素化ジオキソールからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーから製造されるホモポリマーまたはコポリマーである請求項1に記載の電極バインダー組成物。
【請求項3】
フルオロポリマーが、フッ化ビニルベースのコポリマーである請求項1に記載の電極バインダー組成物。
【請求項4】
コポリマーのフッ化ビニル含量が、約10〜約90モル%である請求項3に記載の電極バインダー組成物。
【請求項5】
コポリマーのフッ化ビニル含量が、約30〜約75モル%である請求項3に記載の電極バインダー組成物。
【請求項6】
コポリマーのフッ化ビニル含量が、約40〜約70モル%である請求項3に記載の電極バインダー組成物。
【請求項7】
フッ化ビニルベースのコポリマーが、少なくとも2つの高フッ素化モノマーを含み、高フッ素化モノマーのうち少なくとも1つが、ポリマーに少なくとも1炭素原子の側鎖を導入する請求項3に記載の電極バインダー組成物。
【請求項8】
ポリマーに少なくとも1炭素原子の側鎖を導入する高フッ素化モノマーが、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC〜Cアルキルエチレン、フッ素化ジオキソールおよび式CY=CYORまたはCY=CYOR’ORのフッ素化ビニルエーテルを含み、式中、YはHまたはF、−Rおよび−R’は、独立に、1〜8個の炭素原子を含有する完全フッ素化または部分フッ素化アルキルまたはアルキレン基であり、好ましくはパーフルオロ化されている、請求項7に記載の電極バインダー組成物。
【請求項9】
フッ化ビニルコポリマーが、ポリマーに少なくとも1炭素原子の側鎖を導入する前記少なくとも1つの高フッ素化モノマーを約1〜約15モル%含む請求項7に記載の電極バインダー組成物。
【請求項10】
コポリマーが、フッ化ビニルを30〜75モル%、ポリマーに少なくとも1炭素原子の側鎖を導入する少なくとも1つの高フッ素化モノマーを1〜15モル%含み、残部が、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンの群から選択される少なくとも1つのCオレフィンである請求項7に記載の電極バインダー組成物。
【請求項11】
フッ化ビニルコポリマー中のCオレフィンが、1テトラフルオロエチレンを含む請求項10に記載の電極バインダー組成物。
【請求項12】
フルオロポリマーが、ヒドロキシル、チオール、カルボニル、カルボン酸、カーボネート、スルホニル、スルホン酸、スルホネート、リン酸、ホウ酸、エステル、アミン、アミド、ニトリル、エポキシおよびイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含有する請求項1に記載の電極バインダー組成物。
【請求項13】
金属キレート化合物が、チタンキレート化合物である請求項1に記載の電極バインダー組成物。
【請求項14】
金属キレート化合物が、ジルコニウムキレート化合物である請求項1に記載の電極バインダー組成物。
【請求項15】
金属キレート化合物およびフルオロポリマーを、水に分散して、分散液を形成させる請求項1に記載の電極バインダー組成物。
【請求項16】
金属キレート化合物およびフルオロポリマーを、有機溶媒に分散して、溶液またはオルガノゾルを形成させる請求項1に記載の電極バインダー組成物。
【請求項17】
電極活物質と、電極バインダー組成物を含み、該電極バインダーが請求項1に記載の前記電極バインダーを含む、リチウムイオン二次電池または電気二重層キャパシタのための電極。
【請求項18】
電極活物質が、金属、金属酸化物および炭素からなる群から選択される粉末である請求項17に記載の電極。

【公表番号】特表2010−514140(P2010−514140A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542964(P2009−542964)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/026285
【国際公開番号】WO2008/079393
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】