説明

リチウムタンタレートの研削方法

【課題】 加工品質の悪化や加工不良、ウエーハの破損を抑制可能なリチウムタンタレートの研削方法を提供することである。
【解決手段】 リチウムタンタレートの研削方法であって、リチウムタンタレートをチャックテーブルで保持する保持ステップと、該チャックテーブルに保持されたリチウムタンタレートを所定の回転周速度で回転させ、研削液を供給しつつ研削砥石を有する研削ホイールを所定の回転周速度で回転させながら該研削砥石をリチウムタンタレートに当接させてリチウムタンタレートを研削する研削ステップとを具備し、該研削液の温度は5℃以上15℃以下であり、リチウムタンタレートの回転周速度は47.85m/分以上79.76m/分以下であり、該研削ホイールの回転周速度は879.2m/分以上1381.6m/分以下である、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムタンタレートの研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の周波数帯域の電気信号を取り出すSAWフィルター(Surface Acoustic Wave Filter:表面弾性波フィルター)は、RFフィルター(Radio Frequency Filter)やIFフィルター(Intermediate Frequency Filter)として殆どの携帯電話で使用されている他、デジタルテレビやGPS、無線LAN等のフィルターとしても広く使用されている。
【0003】
SAWフィルターの製造プロセスでは、回転引き上げ法や二重るつぼ法でリチウムタンタレート(LiTaO)の単結晶インゴットが育成され、その後、インゴットをウエーハ状にスライスした後、研削装置や研磨装置で研削、研磨して平坦化する(例えば、特開2001−332949号公報参照)。
【0004】
平坦化されたリチウムタンタレートウエーハ上には、フォトリソグラフィ技術を用いてアルミニウムやアルミニウム合金の薄膜で例えば周期2〜5μm程度の櫛型電極を複数形成する。
【0005】
櫛型電極が表面に形成されたリチウムタンタレートウエーハは、研削装置で裏面が研削されて所定の厚みへと薄化された後、適宜研磨装置で研削面を研磨することで研削によって生じた歪が除去される(例えば、特開2005−28550号公報参照)。
【0006】
その後、切削装置で薄化したリチウムタンタレートウエーハを切削して個々のチップへと分割する。分割されたチップをセラミックやガラスパッケージで気密封止することでSAWフィルターが製造される。
【0007】
近年、携帯電話等の電気機器は小型化、薄型化の傾向にあり、これらの電気機器に組み込まれるSAWフィルターも小型化、薄型化が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−332949号公報
【特許文献2】特開2005−28550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、リチウムタンタレートウエーハを研削すると、「むしれ」と呼ばれる研削面の一部が局所的にえぐられる加工品質の悪化や「ピット」と呼ばれる微小な穴が生じることがある。
【0010】
更に、よりウエーハを平坦化するために、細粒径の砥粒を含む研削砥石でリチウムタンタレートウエーハを研削すると、研削砥石に目詰まりや目つぶれと呼ばれる異常が発生し、研削不良を引き起こすことがある。
【0011】
また、リチウムタンタレートウエーハを研削して薄化すると反りが大きく発生し、発生した反りによってウエーハ自体が割れてしまうことがある。
【0012】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工品質の悪化や加工不良、ウエーハの破損を抑制可能なリチウムタンタレートの研削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、リチウムタンタレートの研削方法であって、リチウムタンタレートをチャックテーブルで保持する保持ステップと、該チャックテーブルに保持されたリチウムタンタレートを所定の回転周速度で回転させ、研削液を供給しつつ研削砥石を有する研削ホイールを所定の回転周速度で回転させながら該研削砥石をリチウムタンタレートに当接させてリチウムタンタレートを研削する研削ステップとを具備し、該研削液の温度は5℃以上15℃以下であり、リチウムタンタレートの回転周速度は47.85m/分以上79.76m/分以下であり、該研削ホイールの回転周速度は879.2m/分以上1381.6m/分以下である、ことを特徴とするリチウムタンタレートの研削方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の研削方法によると、むしれ及びピットの発生を防止することができ、加工品質の悪化や加工不良、研削時のウエーハの破損を抑制することができる。更に、化学機械研磨(CMP)で使用するエッチャントを用いることなく、研削面を鏡面に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の研削方法を実施するのに適した研削装置の外観斜視図である。
【図2】保持ステップを示す斜視図である。
【図3】図3(A)は研削ステップを示す斜視図、図3(B)は研削ステップを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、本発明の研削方法を実施するのに適した研削装置2の斜視図が示されている。4は研削装置2のハウジング(ベース)であり、ハウジング4の後方にはコラム6が立設されている。コラム6には、上下方向に延びる一対のガイドレール(一本のみ図示)8が固定されている。
【0017】
この一対のガイドレール8に沿って研削ユニット(研削手段)10が上下方向に移動可能に装着されている。研削ユニット10は、そのハウジング20が一対のガイドレール8に沿って上下方向に移動する移動基台12に取り付けられている。
【0018】
研削ユニット10は、ハウジング20と、ハウジング20中に回転可能に収容されたスピンドル21(図3(B)参照)と、スピンドル21を回転駆動するサーボモータ22と、スピンドルの先端に固定されたホイールマウント24と、ホイールマウント24に着脱可能に装着された先端に複数の研削砥石26が固着された研削ホイール25とを含んでいる。
【0019】
本発明の研削方法で使用する研削ホイール25は、個々の研削砥石26が隙間を開けずに連続して配設されたタイプ(コンティニアスタイプ)の研削ホイールが好ましい。勿論、セグメント状の研削砥石26が所定の隙間を開けて配設されている研削ホイールも使用可能である。
【0020】
また、リチウムタンタレートウエーハ11の高い精度での平坦化を実施するためには、粒径5μm以下の細粒径の砥粒をビトリファイドボンドで固めた研削砥石26を使用するのが好ましい。
【0021】
研削ユニット10は、研削ユニット10を一対の案内レール8に沿って上下方向に移動するボールねじ14とパルスモータ16とから構成される研削ユニット送り機構18を備えている。パルスモータ16をパルス駆動すると、ボールねじ14が回転し、移動基台12が上下方向に移動される。
【0022】
ハウジング4の中間部分にはチャックテーブル50を有するチャックテーブル機構28が配設されており、チャックテーブル機構28は図示しないチャックテーブル移動機構によりY軸方向に移動される。30はチャックテーブル機構28をカバーする蛇腹である。
【0023】
ハウジング4の前側部分には、第1のウエーハカセット32と、第2のウエーハカセット34と、ウエーハ搬送用ロボット36と、複数の位置決めピン40を有する位置決め機構38と、ウエーハ搬入機構(ローディングアーム)42と、ウエーハ搬出機構(アンローディングアーム)44と、スピンナ洗浄ユニット46が配設されている。
【0024】
また、ハウジング4の概略中央部には、チャックテーブル50を洗浄する洗浄水噴射ノズル48が設けられている。この洗浄水噴射ノズル48は、チャックテーブル50が装置手前側のウエーハ搬入・搬出領域に位置付けられた状態において、チャックテーブル50に向かって洗浄水を噴射する。52は研削液供給ノズルであり、先端の噴出口53から研削液を研削ホイール25とチャックテーブル50に保持されたリチウムタンタレートウエーハ11に噴出する。
【0025】
本発明の研削方法では、第1のウエーハカセット32中に収容されているリチウムタンタレートウエーハ11を、ウエーハ搬送用ロボット36で保持して位置決め機構38に搬送し、位置決めピン40で中心合わせを行った後、ウエーハ搬入機構42でリチウムタンタレートウエーハ11を吸引保持してチャックテーブル50まで搬送する。
【0026】
チャックテーブル50に吸引保持されたリチウムタンタレートウエーハ11が図2に示されている。このリチウムタンタレートウエーハ11はインゴットからスライスされた厚さ1〜2mmのウエーハであり、本発明の研削方法ではウエーハ11の表面及び裏面を研削して平坦化する。
【0027】
次に、図3を参照して、本発明の研削ステップについて説明する。本発明の研削ステップでは、チャックテーブル50で吸引保持したリチウムタンタレートウエーハ11に、研削ユニット送り機構18を駆動することにより研削ホイール25の研削砥石26を接触させ、所定の研削送り速度(例えば0.05μm/s)で研削ホイール25を研削送りしながら、チャックテーブル50を矢印aで示す方向に例えば150〜250rpmで回転しつつ、研削ホイール25を矢印bで示す方向に例えば1400〜2200rpmで回転して、リチウムタンタレートウエーハ11の研削を実施する。
【0028】
この研削時には、研削液供給ノズル52の噴出口53から所定温度の研削液55をリチウムタンタレートウエーハ11及び研削ホイール25に供給しながら研削を実施する。所定温度の研削液を供給しながら研削を実施することにより、研削加工で発生する加工熱を研削液で冷却することができ、「むしれ」とよばれる加工品質の悪化及びピットの発生を防止することができる。
【0029】
リチウムタンタレートウエーハの最良の研削条件を探求するために、研削液の温度を5℃〜20℃の間で4段階に変化させ、リチウムタンタレートウエーハの回転周速度15.95m/min〜127.61m/minの間で変化させ、研削ホイールの回転周速度628m/min〜1507.2m/minの間で変化させて、研削面にピットの発生があるか否かを調べた。
【0030】
研削に使用したウエーハはφ4インチのリチウムタンタレートウエーハであり、研削後のウエーハの研削面状態を顕微鏡で確認して、表1〜表4に示す結果が得られた。使用した研削ホイール25の直径はφ200mm、研削砥石26は粒径5μm以下の砥粒をビトリファイドボンドで固めたビトリファイドタイプ、研削送り速度は0.05μm/s、研削量は10μmであった。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

表1乃至表4で○印はピットやむしれの発生が無く良好な研削結果が得られたことを示しており、×印は研削面にピットやむしれの発生があったこと、―はスピンドル負荷電流の急上昇等研削異常が発生して研削不可能であったことを示している。
【0035】
これらの表を観察すると、研削液の温度が20℃の場合には、殆どの加工条件でピットやむしれが発生するか、或いは研削不可能であることを示しており、研削不適であることが判明した。
【0036】
研削液の温度が15℃の場合には、研削ホイールの回転周速度が753.6m/min以下の場合に研削面にピットやむしれが発生しており、更に1507.2m/min以上の場合には研削が不可能であった。
【0037】
リチウムタンタレートウエーハの回転周速度が31.90m/minの場合及び95.70m/minの場合には、研削ホイールの回転周速度が879.2m/min及び1004.8m/minの場合に良好な研削結果が得られ、研削ホイールの回転周速度はこれより低速及び高速の場合には研削面にピットやむしれが発生しているか或いは研削が不可能であったことを示している。
【0038】
表3に示した研削液の温度が10℃の場合には、リチウムタンタレートウエーハの回転周速度が31.90m/minで且つ研削ホイールの回転周速度が1130.4m/min以上の場合、及びリチウムタンタレートウエーハの回転周速度が127.61m/minで且つ研削ホイールの回転周速度が1004.8m/min以上の場合に、研削面にピットやむしれが発生しているが、他の多くの加工条件ではピットやむしれの発生が無く良好な研削結果が得られたことを示している。
【0039】
表4に示した研削液の温度が5℃の場合には、リチウムタンタレートウエーハの回転周速度が31.90m/minで且つ研削ホイールの回転周速度が1130.4m/min以上の場合、及びリチウムタンタレートウエーハの回転周速度が127.61m/minで且つ研削ホイールの回転周速度は1004.8m/min以上の場合に、研削面にピットやむしれが発生しているが、他の多くの加工条件では研削面にピットやむしれの発生が無く良好な研削結果が得られたことを示している。
【0040】
研削液の温度を5℃より低い3℃で同様な実験を行ったところ、多くの条件下で良好な研削結果が得られたが、研削装置に結露の発生が見られたため、研削液の温度は5℃以上であることが好ましい。
【0041】
以上の結果をまとめると、良好な研削条件として以下の研削条件が得られる。即ち、研削液の温度は5℃以上15℃以下であり、リチウムタンタレートウエーハの回転周速度は47.85m/min以上79.76m/min以下であり、研削ホイールの回転周速度は879.2m/min以上1381.6m/min以下であるのが好ましい。
【0042】
より好ましくは、研削液の温度は5℃以上10℃以下であり、リチウムタンタレートウエーハの回転周速度は15.24m/min以上25.4m/min以下であり、研削ホイールの回転周速度は1130.4m/min以上1381.6m/min以下である。
【符号の説明】
【0043】
2 研削装置
10 研削ユニット
11 リチウムタンタレートウエーハ
25 研削ホイール
26 研削砥石
50 チャックテーブル
52 研削液供給ノズル
55 研削液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムタンタレートの研削方法であって、
リチウムタンタレートをチャックテーブルで保持する保持ステップと、
該チャックテーブルに保持されたリチウムタンタレートを所定の回転周速度で回転させ、研削液を供給しつつ研削砥石を有する研削ホイールを所定の回転周速度で回転させながら該研削砥石をリチウムタンタレートに当接させてリチウムタンタレートを研削する研削ステップとを具備し、
該研削液の温度は5℃以上15℃以下であり、
リチウムタンタレートの回転周速度は47.85m/分以上79.76m/分以下であり、
該研削ホイールの回転周速度は879.2m/分以上1381.6m/分以下である、
ことを特徴とするリチウムタンタレートの研削方法。
【請求項2】
該研削液の温度は5℃以上10℃以下であり、
リチウムタンタレートの回転周速度は15.24m/分以上25.4m/分以下であり、
該研削ホイールの回転周速度は1130.4m/分以上1381.6m/分以下である請求項1記載のリチウムタンタレートの研削方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate