説明

リチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法

【課題】原料の二酸化チタンが実質的に存在せずに、負極活物質として用いたとき、リチウム二次電池に優れた急速充放電特性および高温保存特性を付与することができるリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法は、Li化合物と、BET法の比表面積が1.0〜50.0m/gの二酸化チタンと、Mg、CaおよびAlの群から選ばれる金属元素を含有する硫酸塩の1種または2種以上とを含む混合物を調製する第1工程と、混合物を加圧成形して反応前駆体を調製する第2工程と、反応前駆体を焼成する第3工程と、前記焼成物を気流式粉砕機により粉砕処理し、平均粒子径が3.0μm以下の一般式;LiTi12で表されるチタン酸リチウムを得る第4工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムチタン複合酸化物であるチタン酸リチウムの中でも、LiTi12を電極活物質として用いたリチウム二次電池は、リチウム基準で約1.55Vの電圧を有し、充放電の際の体積膨張が小さいことから、長寿命であることが知られている。したがって、このチタン酸リチウムは、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle:HEV)や、定置型などの大型電池の分野において特に注目される材料である。また、このチタン酸リチウムは、正極および負極に利用することが可能であるが、特に負極活物質として、その将来が期待されている。
【0003】
チタン酸リチウムの製造方法としては、リチウム化合物として水酸化リチウムあるいは炭酸リチウムを用いて、このリチウム化合物と酸化チタンとの混合物を700℃〜1600℃で焼成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、チタン酸リチウムの製造方法としては、酸化チタンと、溶媒とを混合することによって、リチウム化合物の全部または一部を溶媒に溶解し、これを乾燥して混合固体物を調製し、この混合固体物を仮焼して、TiOとLiTiOで構成される組成物、または、TiO、LiTiOおよびLiTi12で構成される組成物を調製し、その後、この組成物を本焼成する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、チタン酸リチウムの製造方法としては、リチウム化合物と酸化チタンとの混合物を圧縮成形し、得られた成形体を仮焼して、TiOとLiTiOで構成される組成物、または、TiO、LiTiOおよびLiTi12で構成される組成物を調製し、その後、これらの組成物を本焼成する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
また、非水電解質二次電池用負極活物質として、硫黄を添加したチタン酸リチウムを用いることが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−275263号公報
【特許文献2】特開2001−213622号公報
【特許文献3】特開2000−302547号公報
【特許文献4】特開2004−235144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の製造方法で得られるチタン酸リチウムを負極活物質として用いたリチウム二次電池は急速充放電性に問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、負極活物質として用いたとき、リチウム二次電池に優れた急速充放電特性を付与することができるリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、BET法による比表面積が特定範囲の二酸化チタンと、リチウム化合物と、特定の硫酸塩とを含む混合物を加圧成形した後、この混合物を焼成することにより得られるチタン酸リチウムには、実質的に残存する二酸化チタンがなく、また、得られる焼成物を気流式粉砕機により粉砕処理し、さらに、得られたチタン酸リチウムの平均粒径を特定範囲に調整したものを負極活物質としたリチウム二次電池は、特に急速充放電特性に優れたものになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、リチウム化合物と、BET法による比表面積が1.0〜50.0m/gの二酸化チタンと、マグネシウム、カルシウムおよびアルミニウムの群から選ばれる金属元素を含有する硫酸塩の1種または2種以上とを含む混合物を調製する第1工程と、次いで、前記混合物を加圧成形して反応前駆体を調製する第2工程と、次いで、前記反応前駆体を焼成する第3工程と、次いで、前記第3工程にて得られた焼成物を気流式粉砕機により粉砕処理し、平均粒子径が3.0μm以下の一般式;LiTi12(式中、Li/Tiの原子比が0.70〜0.90、xは3.0≦x≦5.0、yは4.0≦y≦6.0を示す。)で表されるチタン酸リチウムを得る第4工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
前記第1工程において調製される混合物の比容積は1.30ml/g以上であることが好ましい。
前記第3工程において、前記反応前駆体の焼成温度を600℃以上、900℃以下とすることが好ましい。
前記気流式粉砕機は、ジェットミルであることが好ましい。
【0010】
前記二酸化チタンは、塩素の含有量が1500ppm以下であることが好ましい。
前記二酸化チタンは、アナターゼ型二酸化チタンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法によれば、リチウム化合物と、BET法による比表面積が1.0〜50.0m/gの二酸化チタンと、マグネシウム、カルシウムおよびアルミニウムの群から選ばれる金属元素を含有する硫酸塩の1種または2種以上とを含む混合物を調製する第1工程と、次いで、前記混合物を加圧成形して反応前駆体を調製する第2工程と、次いで、前記反応前駆体を焼成する第3工程と、次いで、前記第3工程にて得られた焼成物を気流式粉砕機により粉砕処理し、平均粒子径が3.0μm以下の一般式;LiTi12(式中、Li/Tiの原子比が0.70〜0.90、xは3.0≦x≦5.0、yは4.0≦y≦6.0を示す。)で表されるチタン酸リチウムを得る第4工程と、を有するので、原料の二酸化チタンを実質的に含まないチタン酸リチウムが得られ、また、このチタン酸リチウムを負極活物質として用いたリチウム二次電池は、特に優れた急速充放電特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られたチタン酸リチウムのX線回折図である。
【図2】実施例1で得られたチタン酸リチウムのレーザー散乱粒度分布測定装置により測定した粒度分布図である。
【図3】比較例4で得られたチタン酸リチウムのレーザー散乱粒度分布測定装置により測定した粒度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法は、リチウム化合物と、BET法による比表面積が1.0〜50.0m/gの二酸化チタンと、マグネシウム、カルシウムおよびアルミニウムの群から選ばれる金属元素を含有する硫酸塩の1種または2種以上とを含む混合物を調製する第1工程と、次いで、前記混合物を加圧成形して反応前駆体を調製する第2工程と、次いで、前記反応前駆体を焼成する第3工程と、次いで、前記第3工程にて得られた焼成物を気流式粉砕機により粉砕処理し、平均粒子径が3.0μm以下の一般式;LiTi12(式中、Li/Tiの原子比が0.70〜0.90、xは3.0≦x≦5.0、yは4.0≦y≦6.0を示す。)で表されるチタン酸リチウムを得る第4工程と、を有する方法である。
【0015】
(第1工程)
本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法において、第1工程は、リチウム化合物と、BET法による比表面積が1.0〜50.0m/gの二酸化チタンと、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびアルミニウム(Al)の群から選ばれる金属元素を含有する硫酸塩の1種または2種以上とを含む均一混合物を調製する工程である。
【0016】
第1工程では、リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどの無機リチウム化合物が好適に用いられる。これらのリチウム化合物の中でも、工業的に入手し易く、安価であることから、炭酸リチウムが好ましい。
リチウム化合物の平均粒子径は、レーザー光散乱法により求められた値で1.0μm以上、20.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上、10.0μm以下である。
リチウム化合物の平均粒子径が、レーザー光散乱法により求められた値で1.0μm以上、10.0μm以下あることがより好ましい理由は、二酸化チタンとの反応性が良好であるからである。
【0017】
二酸化チタンは、通常、工業的に塩素法または硫酸法により製造されるが、本発明では、硫酸法で製造されたものであっても、塩素法で製造されたものであっても、特に制限なく使用することができる。
【0018】
本発明では、二酸化チタンは、BET法による比表面積が1.0〜50.0m/gのものが用いられ、好ましくは20.0〜40.0m/gのものが用いられる。
BET法による比表面積が1.0〜50.0m/gの二酸化チタンを用いる理由は、BET法による比表面積が1.0m/g未満では、未反応の二酸化チタンが残存しやすく、また、この二酸化チタンを用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池は十分な急速充放電性能が得られないからであり、一方、BET法による比表面積が50.0m/gを超えると、かえって均一混合物が得られ難く、また、この二酸化チタンを用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池は十分な急速充放電特性が得られないからである。
【0019】
二酸化チタンの平均粒子径は、レーザー光散乱法により求められた値で3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.10μm以上、3.0μm以下である。
二酸化チタンの平均粒子径は、レーザー光散乱法により求められた値で0.10μm以上、3.0μm以下であることがより好ましい理由は、二酸化チタンの平均粒子径がこの範囲内であれば、各原料との均一混合が可能になり、また、この二酸化チタンを用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池、特に、チタン酸リチウムを負極活物質とするリチウム二次電池の急速充放電性能が向上するからである。
【0020】
二酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型とルチル型に大別されるが、本発明ではいずれも使用できるが、反応性が良好である点で、アナターゼ型の含有量が90重量%以上のアナターゼ型が特に好ましく用いられる。
【0021】
また、二酸化チタンは、塩素の含有量が1500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。
二酸化チタンにおける塩素の含有量が1500ppm以下であることが好ましい理由は、塩素の含有量がこの範囲であれば、この二酸化チタンを用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池、特に、チタン酸リチウムを負極活物質とするリチウム二次電池の急速充放電性能が向上するからである。
【0022】
硫酸塩としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびアルミニウム(Al)の群から選ばれる金属元素を含有する化合物が用いられ、このような化合物の具体例としては、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、あるいは、これらの金属元素を2種以上含有する複合硫酸塩などが挙げられ、これらの硫酸塩は含水物であっても無水物であってもよい。これらの硫酸塩の中でも、この硫酸塩を用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池の急速充放電特性に優れることから、硫酸マグネシウムと硫酸カルシウムが特に好ましい。
本発明では、均一混合が可能で、反応性も良好であること、また、得られるチタン酸リチウムはリチウム二次電池に優れた急速充放電性能を付与することができることから、微細な硫酸塩が好ましい。
【0023】
また、リチウム化合物と二酸化チタンとの配合比は、リチウム化合物中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.70〜0.90であることが好ましく、より好ましくは0.75〜0.85である。
リチウム化合物と二酸化チタンの配合比は、リチウム化合物中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.70〜0.90が好ましい理由は、配合比がこの範囲内であれば、このリチウム化合物と二酸化チタンを用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池、特に、チタン酸リチウムを負極活物質とするリチウム二次電池の放電容量が向上するからである。また、リチウム化合物と二酸化チタンの配合比が上記のモル比(Li/Ti)で0.70未満では、ルチル型の二酸化チタンが残存し、このリチウム化合物と二酸化チタンを用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池は十分な放電容量が得られず、一方、配合比が上記のモル比(Li/Ti)0.90を超えると、副生成物であるLiTiOが生成して、このリチウム化合物と二酸化チタンを用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池は十分な放電容量が得られないからである。
【0024】
また、硫酸塩の添加量を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.01重量%以上、1.2重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.03重量%以上、1.0重量%以下である。
硫酸塩の添加量を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.01重量%以上、1.2重量%以下とすることが好ましい理由は、硫酸塩の添加量がSO換算で0.01重量%未満では、この硫酸塩を用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池は十分な急速充放電性能が得られず、一方、硫酸塩の添加量がSO換算で1.2重量%を超えると、この硫酸塩を用いて製造したチタン酸リチウムを構成要素として含むリチウム二次電池は十分な放電容量が得られなくなるからである。
【0025】
なお、本発明において、二酸化チタンとして硫酸法により得られる二酸化チタンを用いる場合は、この二酸化チタンには、硫酸根がSO換算で0.003重量%以上、0.075重量%以下含有されている場合があるが、添加する硫酸塩は、この二酸化チタン中の硫酸根の量を考慮して、硫酸塩中のSO(A)として原料の二酸化チタン中のSO(B)との合計量(A+B)が、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.01重量%以上、1.2重量%以下、好ましくは0.03重量%以上、1.0重量%以下の範囲で添加し、かつ、硫酸塩自体の添加量は、SO換算で、好ましくは0.03重量%以上、1.0重量%以下の範囲で添加することが好ましい。
本発明で用いられるチタン酸リチウムを水に浸漬すると、硫酸根(SO)は、LiSOとしてほぼ全量溶出してくるのに対して、マグネシウム、カルシウムおよびアルミニウムに関してはほとんど溶出してこないことから、本発明のチタン酸リチウムにおいて、硫酸塩中の硫酸根はチタン酸リチウムの粒子表面に均一に含有され、一方の硫酸塩を構成するマグネシウム、カルシウム、アルミニウムの金属は酸化物などの形態でチタン酸リチウムに均一に含有されると考えられる。本発明において、リチウム二次電池の急速充放電特性が向上する理由については、明らかではないが、粒子表面に均一に存在する硫酸根と、これとは別に存在するマグネシウム、カルシウム、アルミニウムの金属の酸化物などとの何らかの相乗効果の結果によるものと考えられる。
【0026】
リチウム化合物と二酸化チタンと硫酸塩との混合方法としては、均一な混合物を調製できる方法であれば、溶媒中で両材料を混合する湿式混合法、または、溶媒を用いることなく両材料を混合する乾式混合法のいずれの方法でもよいが、得られる混合物の比容積は1.30ml/g以上であることが好ましく、より好ましくは1.30ml/g以上、2.00ml/g以下である。
混合物の比容積は1.30ml/g以上であることが好ましい理由は、後述する反応前駆体の焼成(第3工程)を600℃以上、900℃以下の低温にて行えるため、焼結による粒成長が抑えられ、微細で未反応原料の二酸化チタンが残存しないチタン酸リチウムが得られるからである。
【0027】
なお、本発明における比容積とは、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに試料を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、下記の式(1)により求めたものである。
比容積(ml/g)=V/F (1)
但し、式(1)中、Fは受器内の処理した試料の質量(g)、Vはタップ後の試料の容量(ml)を示す。
【0028】
(第2工程)
本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法において、第2工程は、第1工程にて調製した均一混合物を加圧成形して反応前駆体を調製する工程である。
【0029】
第1工程にて調製した均一混合物を加圧成形するための加圧成形機としては、加圧できるものであれば特に限定されないが、例えば、打錠機、ブリケットマシン、ローラコンパクターなどが好適に用いられる。
【0030】
加圧成形における成形圧は、加圧成形機、材料の仕込み量などにより異なり、特に限定されるものではないが、5MPa以上、200MPa以下であることが好ましく、より好ましくは5MPa以上、180MPa以下である。
加圧成形における成形圧は5MPa以上、200MPa以下であることが好ましい理由は、後述する反応前駆体の焼成(第3工程)を600℃以上、900℃以下の低温にて行えるため、焼結による粒成長が抑えられて、微細で未反応原料の二酸化チタンが残存しないチタン酸リチウムを得ることができる。
【0031】
この第2工程によれば、リチウム化合物と二酸化チタンの接触面積を大きくして、より反応性を高めることができるから、後述する反応前駆体の焼成(第3工程)を600℃以上、900℃以下の低温にて行えるため、焼結による粒成長もなく、微細でX線的に単相のチタン酸リチウムが得られる。
【0032】
(第3工程)
本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法において、第3工程は、第2工程にて調製した反応前駆体を焼成してチタン酸リチウムの焼成物を得る工程である。
【0033】
この第3工程では、反応前駆体の焼成温度を600℃以上、900℃以下とすることが好ましく、より好ましくは650℃以上、850℃以下である。
反応前駆体の焼成温度を600℃以上、900℃以下とすることが好ましい理由は、焼成温度が600℃未満では、リチウム化合物と二酸化チタンとの反応が十分でなく、原料の二酸化チタンが残存し、また、結晶性の高いチタン酸リチウムが得られ難く、一方、焼成温度が900℃を超えると、チタン酸リチウムの焼結や粒成長が起こり、後述する第4工程において粉砕処理を行っても微細なチタン酸リチウムが得られ難く、さらに、チタン酸リチウムを負極活物質とするリチウム二次電池の急速充放電性能が損なわれる傾向があるからである。
【0034】
また、焼成時間は1時間以上であり、好ましくは1時間以上、10時間以下である。
さらに、焼成雰囲気は特に制限されるものではなく、反応前駆体の焼成は、大気中、酸素雰囲気中、あるいは、不活性ガス雰囲気中で行うことができる。
本発明では、焼成は所望により何度行ってもよい。また、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕した後、再度、焼成してもよい。
そして、焼成後、適宜冷却し、チタン酸リチウムの焼成物を回収する。
【0035】
(第4工程)
本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法において、第4工程は、前記第3工程にて得られた焼成物を気流式粉砕機により粉砕処理し、平均粒子径が3.0μm以下の一般式;LiTi12(式中、Li/Tiの原子比が0.70〜0.90、xは3.0≦x≦5.0、yは4.0≦y≦6.0を示す。)で表されるチタン酸リチウムを得る工程である。
【0036】
気流式粉砕機による粉砕処理は、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉末を加速し、粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
この第4工程では、気流式粉砕機により粉砕処理を行うことによって、ボールミルなどの媒体粉砕機を用いた場合と比べて、粉砕処理後の粉砕粒子同士が凝集することなく気流中に分散されるため、粒度分布がシャープなものが得られる。また、気流粉砕機による粉砕処理は、粒子同士の衝突、または、粒子と壁との衝突のような弱い衝撃力のため、媒体ミルのような媒体の強力な衝突の中に粉砕原料を挿入して破壊するものに比べて、結晶構造の歪みを少なくすることができるという利点も有する。
【0037】
気流式粉砕機による粉砕処理条件は、気流供給量と原料供給量の比を調整することにより制御することができ、この気流供給量と原料供給量の比は、用いる粉砕機の種類によって異なるが、所望の粒子径のチタン酸リチウムが得られるように適宜最適な条件を選択して決定すればよい。
【0038】
気流式粉砕機としては、例えば、ジェットミル、衝突板式気流粉砕機、フラッシュドライヤー、エルボージェット、ターボクラッシュファイヤー、自由粉砕機などが挙げられるが、これらの中でも、コンタミネーションが少ない点から、ジェットミルが特に好ましい。
【0039】
焼成物を粉砕処理して得られたチタン酸リチウムの平均粒子径は、レーザー光散乱法により求められた値で3.0μm以下であり、好ましくは0.10μm以上、3.0μm以下である。
粉砕処理して得られたチタン酸リチウムの平均粒子径を、レーザー光散乱法により求められた値で3.0μm以下とした理由は、チタン酸リチウムの平均粒子径がこの範囲内であれば、このチタン酸リチウムを負極活物質とするリチウム二次電池の急速充放電性能が向上するからであり、一方、粉砕処理後のチタン酸リチウムの平均粒子径がレーザー光散乱法により求められた値で3.0μmを超えると、リチウム二次電池の急速充放電性能が低下するからである。
【0040】
第4工程では、気流式粉砕機により、チタン酸リチウムの焼成物を、レーザー光散乱法により求められた平均粒子径が3.0μm以下、好ましくは0.1μm以上、3.0μm以下に粉砕処理することも特徴の1つである。
チタン酸リチウムの平均粒子径が上記範囲内であれば、このチタン酸リチウムを負極活物質とするリチウム二次電池は、特に急速充放電特性が優れたものとなり、一方、粉砕処理後のチタン酸リチウムの平均粒子径が3.0μmを超えると、このチタン酸リチウムを負極活物質とするリチウム二次電池は急速充放電性能が低下する。
【0041】
このように、本発明によれば、リチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムが得られるが、本発明では、必要に応じて、分級を行ってもよい。
本発明によって得られたリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムは、未反応原料の二酸化チタンが残存しないスピネル構造を有するチタン酸リチウムであり、下記の一般式(2)で表される。
LiTi12 (2)
但し、式(2)中、Li/Tiの原子比が0.70〜0.90、好ましくは0.75〜0.85、xは3.0≦x≦5.0、好ましくは3.5≦x≦4.5、yは4.0≦y≦6.0、好ましくは4.5≦y≦5.5を示す。
【0042】
また、本発明によって得られたリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの平均粒子径は、レーザー光散乱法により求められた値で3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.10μm以上、3.0μm以下である。また、このリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムは、BET法による比表面積が1.0〜10.0m/gであることが好ましく、より好ましくは1.0〜7.0m/gである。また、このリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムは、塩素の含有量が1500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。さらに、このリチウム二次電池活物質用チタンリチウムは、生成されるチタン酸リチウムに対して硫酸塩を0.01重量%以上、1.2重量%以下、好ましくは0.03重量%以上、1.0重量%以下の範囲で添加して生成されたものである。
【0043】
本発明によって得られたリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムは、正極活物質または負極活物質の何れでも使用することができるが、このチタン酸リチウムを負極活物質として用いたリチウム二次電池は特に優れた急速充放電特性を示すことから、負極活物質として用いることが好ましい。
また、本発明によって得られたリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池は、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)や定置型などの大型電池に好適に用いることができ、その他、例えば、ノートパソコン、ラップトップパソコン、ポケットワープロ、携帯電話、コードレス子機、ポータブルCDプレーヤー、ラジオ、液晶テレビ、バックアップ電源、電気シェーバー、メモリーカード、ビデオムービーなどの電子機器、ゲーム機器などの民生用電子機器にも好適に用いられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
<二酸化チタン試料>
二酸化チタンは、表1に示す市販のものを使用した。
なお、平均粒子径は、レーザー光散乱法により求めた。実施例で使用したアナターゼ型二酸化チタンは、いずれもアナターゼ型の含有量が90重量%以上であった。
また、試料を酸で溶解した後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)により、二酸化チタン中の硫黄原子含有量を測定した。また、蛍光X線分析法により、二酸化チタン中の塩素含有量を測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
<硫酸塩試料>
硫酸塩は、表2に示す市販のものを使用した。
硫酸マグネシウム(MgSO・7HO、試料a)としては、純正社製の試薬を用いた。
硫酸カルシウム(CaSO・2HO、試料b)としては、純正社製の試薬を用いた。
硫酸アルミニウム(Al(SO・14〜18HO、試料c)としては、純正社製の試薬を用いた。
なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真により求めた。
【0048】
【表2】

【0049】
[実施例1]
二酸化チタン(表1に示す試料A)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸マグネシウム(表2に示す試料a、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.03重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、720℃にて10時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置(X−Ray Diffractometer、XRD)により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、下記の式(3)により求めた。
比容積(ml/g)=V/F (3)
但し、式(3)中、Fは受器内の処理した試料の質量(g)、Vはタップ後の試料の容量(ml)を示す。
【0050】
[実施例2]
二酸化チタン(表1に示す試料B)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸カルシウム(表2に示す試料b、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.03重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、700℃にて8時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、上記の式(3)により求めた。
【0051】
[実施例3]
二酸化チタン(表1に示す試料A)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸マグネシウム(表2に示す試料a、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.24重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、830℃にて5時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、上記の式(3)により求めた。
【0052】
[実施例4]
二酸化チタン(表1に示す試料B)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸カルシウム(表2に示す試料b、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.24重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、770℃にて7時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、上記の式(3)により求めた。
【0053】
[実施例5]
二酸化チタン(表1に示す試料A)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸マグネシウム(表2に示す試料a、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.6重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、720℃にて5時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、上記の式(3)により求めた。
【0054】
[実施例6]
二酸化チタン(表1に示す試料B)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸カルシウム(表2に示す試料b、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対して硫黄原子として0.6重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、700℃にて5時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、上記の式(3)により求めた。
【0055】
[実施例7]
二酸化チタン(表1に示す試料A)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸アルミニウム(表2に示す試料c、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.03重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、700℃にて5時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、上記の式(3)により求めた。
【0056】
[実施例8]
二酸化チタン(表1に示す試料A)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸アルミニウム(表2に示す試料c、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.24重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、700℃にて5時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、上記の式(3)により求めた。
【0057】
[実施例9]
二酸化チタン(表1に示す試料A)と、炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径8.2μm)とを、炭酸リチウム中のリチウム原子と、二酸化チタン中のチタン原子とのモル比(Li/Ti)で0.800となるように配合し、さらに、硫酸アルミニウム(表2に示す試料c、純正社製)を、生成するチタン酸リチウムに対してSO換算で0.6重量%になるように添加し、ミキサーによる乾式混合を繰り返し行うことで、表3に示す比容積の均一混合物を調製した(第1工程)。
次いで、ハンドプレスを用いて、得られた混合物を圧力150MPaで加圧成形し、ペレット状の反応前躯体を調製した(第2工程)。
次いで、反応前駆体を大気雰囲気中、700℃にて5時間焼成し、冷却した後、焼成物を回収した(第3工程)。
次いで、ジェットミルにより、焼成物を粉砕処理した(第4工程)。得られた粉砕物をX線回折装置により確認したところ、この粉砕物はスピネル構造を有するLiTi12であることが確認された。
なお、第1工程で得られた混合物の比容積は、JIS−K−5101に記載された見掛け密度または見掛け比容の方法に基づいて、タップ法により50mlのメスシリンダーに二酸化チタンと炭酸リチウムの混合物を10g入れ、500回タップし静置後、容積を読み取り、上記の式(3)により求めた。
【0058】
[比較例1]
二酸化チタンとして、表1に示す試料Cを用いた以外は実施例3と同様にして、スピネル構造を有するLiTi12を得た。
【0059】
[比較例2]
二酸化チタンとして、表1に示す試料Dを用いた以外は実施例3と同様にして、スピネル構造を有するLiTi12を得た。
【0060】
[比較例3]
第2工程を行わない以外は実施例3と同様にして、スピネル構造を有するLiTi12を得た。
【0061】
[比較例4]
第4工程において、ジェットミルの替わりにピンミルを用いて、焼成物を粉砕処理した以外は実施例3と同様にして、スピネル構造を有するLiTi12を得た。
【0062】
[比較例5]
第4工程において、ジェットミルの替わりにハンマーミルを用いて、焼成物を粉砕処理した以外は実施例3と同様にして、スピネル構造を有するLiTi12を得た。
【0063】
[参考例1]
硫酸塩を添加しない以外は実施例1と同様にして、スピネル構造を有するLiTi12を得た。
【0064】
【表3】

【0065】
<チタン酸リチウムの物性評価>
実施例1〜9、参考例1および比較例1〜5で得られたチタン酸リチウムについて、平均粒子径、BET法による比表面積、硫黄の含有量および塩素の含有量を測定した。また、実施例1〜6および比較例1〜6で得られたチタン酸リチウムについて、線源としてCu−Kα線を用いてX線回折分析を行った。また、未反応のTiOの有無を、2θ=(アナターゼ25°、ルチル27°)付近の回折ピークの有無で評価した。これらの結果を表4に示す。
実施例1で得られたチタン酸リチウムのX線回折図を図1に示す。
また、実施例1で得られたチタン酸リチウムのレーザー散乱粒度分布測定装置により測定した粒度分布を図2に示す。また、比較例4で得られたチタン酸リチウムのレーザー散乱粒度分布測定装置により測定した粒度分布を図3に示す。
なお、平均粒子径を、レーザー光散乱法により求めた。
また、チタン酸リチウム中の塩素含有量を、蛍光X線分析により測定した。
また、チタン酸リチウム中の硫黄含有量を、チタン酸リチウムを酸で溶解した後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)により測定した。
【0066】
【表4】

【0067】
<電池性能試験>
(1)リチウム二次電池の作製
上記のように製造した実施例1〜9、比較例1〜5および参考例1のチタン酸リチウムを活物質とし、このチタン酸リチウム70重量部、導電助剤としてアセチレンブラック15重量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)15重量部、および、溶剤としてn−メチル−2−ピロリドンを混合して、電極合剤を調製した。
この電極合剤を、ドクターブレード法により、アルミ箔に乾燥後の厚みが0.01g/cmとなるように塗布した。
次いで、150℃にて24時間真空乾燥した後、塗布直後の塗膜の厚みに対して80%となるようにロールプレスして、1cmの面積で打ち抜いてコイン電池の負極を得た。
この負極を用いて、セパレーター、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液などの各部材を使用し、リチウム二次電池を作製した。
正極としては、金属リチウム板を用いた。集電板としては、銅板を用いた。セパレーターとしては、ポリプロピレン多孔膜を用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの等容量混合液にLiPF を1mol/Lで溶解したものを用いた。
【0068】
(2)充放電試験
上記のように作製したそれぞれのコイン電池について、25℃において、電流密度0.2Cの定電流で1.0Vまで充電した後、2.0Vまで放電するというサイクルを3回繰り返した。
その後、放電の電流密度0.5C、1.0C、2.0Cのそれぞれで3回ずつ充放電サイクルを繰り返し、それぞれの最高放電容量を各電流密度の放電容量とした。結果を表5に示す。
なお、この充放電試験の評価では、負極活物質へのリチウムの挿入反応を充電、リチウムの脱離反応を放電と定義した。
【0069】
【表5】

【0070】
表5の結果から実施例1〜9のチタン酸リチウムを負極活物質として用いたリチウム二次電池は、比較例1〜5のチタン酸リチウムを負極活物質として用いたリチウム二次電池と比べて、急速充放電容量に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法によれば、リチウム化合物と、BET法による比表面積が1.0〜50.0m/gの二酸化チタンと、マグネシウム、カルシウムおよびアルミニウムの群から選ばれる金属元素を含有する硫酸塩の1種または2種以上とを含む混合物を調製する第1工程と、次いで、前記混合物を加圧成形して反応前駆体を調製する第2工程と、次いで、前記反応前駆体を焼成する第3工程と、次いで、前記第3工程にて得られた焼成物を気流式粉砕機により粉砕処理し、平均粒子径が3.0μm以下の一般式;LiTi12(式中、Li/Tiの原子比が0.70〜0.90、xは3.0≦x≦5.0、yは4.0≦y≦6.0を示す。)で表されるチタン酸リチウムを得る第4工程と、を有するので、原料の二酸化チタンを実質的に含まないチタン酸リチウムが得られ、また、このチタン酸リチウムを負極活物質として用いたリチウム二次電池は、特に優れた急速充放電特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物と、BET法による比表面積が1.0〜50.0m/gの二酸化チタンと、マグネシウム、カルシウムおよびアルミニウムの群から選ばれる金属元素を含有する硫酸塩の1種または2種以上とを含む混合物を調製する第1工程と、次いで、前記混合物を加圧成形して反応前駆体を調製する第2工程と、次いで、前記反応前駆体を焼成する第3工程と、次いで、前記第3工程にて得られた焼成物を気流式粉砕機により粉砕処理し、平均粒子径が3.0μm以下の一般式;LiTi12(式中、Li/Tiの原子比が0.70〜0.90、xは3.0≦x≦5.0、yは4.0≦y≦6.0を示す。)で表されるチタン酸リチウムを得る第4工程と、を有することを特徴とするリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において調製される混合物の比容積は1.30ml/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記第3工程において、前記反応前駆体の焼成温度を600℃以上、900℃以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記気流式粉砕機は、ジェットミルであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記二酸化チタンは、塩素の含有量が1500ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記二酸化チタンは、アナターゼ型二酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池活物質用チタン酸リチウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−113795(P2011−113795A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268785(P2009−268785)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】