説明

リチウム二次電池用正極およびその製造方法

【課題】外部からの圧縮に対して正極活物質層の潰れを抑制し得るリチウム二次電池用正極を提供する。
【解決手段】本発明によって提供されるリチウム二次電池用正極10は、正極活物質36を含む正極活物質層30が正極集電体20上に保持された構成を有する。正極活物質層30は、正極集電体20上に形成されたカーボンナノウォール32と、カーボンナノウォール32に担持された正極活物質36とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極及びその製造方法に関する。詳しくは、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体上に保持された構成を有するリチウム二次電池用正極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池その他の二次電池は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。この種のリチウムイオン二次電池の一つの典型的な構成では、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る正極活物質が正極集電体の上に形成された構成の正極を備えている。例えば、正極に用いられる電極活物質(正極活物質)の一つとして、リチウムと一種または二種以上の遷移金属元素を構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)が挙げられる。
【0003】
正極活物質としてリチウム遷移金属酸化物を用いる場合には、材料自体の電子伝導性が低いため、導電材を混ぜ合わせて使用する。例えば、特許文献1には、導電材としてカーボンナノチューブまたは炭素繊維を用いた電極が開示されている。特許文献2,3は、カーボンナノ構造体(カーボンナノウォール)に関する技術文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−087213号公報
【特許文献2】特開2008−239369号公報
【特許文献3】特開2008−024570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の電極は、集電体上に垂直方向に配向したカーボンナノチューブを形成し、カーボンナノチューブ間に活物質類を配設した構成を採用している。しかし、集電体上に垂直配向したカーボンナノチューブは、アスペクト比が大きいにもかかわらず根元だけで固定されているため、圧縮に対する強度が弱くなる。そのため、外部から圧縮負荷が加わると、集電体上にカーボンナノチューブが林立した構造が押しつぶされ(該構造を構成するカーボンナノチューブが倒れ)る。これにより、チューブ間に配設した活物質類が密集するため、活物質層中の空隙量が少なくなり、電解液が活物質層に染み込みにくくなる。その結果、活物質と電解液との間でLiイオンのやり取りが円滑に行われなくなり、電池性能が劣化するという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、外部からの圧縮に対して正極活物質層の潰れを抑制し得るリチウム二次電池用正極を提供することである。また、他の目的は、そのような性能を有するリチウム二次電池用正極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供されるリチウム二次電池用正極は、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体上に保持された構成を有する。上記正極活物質層は、上記正極集電体上に形成されたカーボンナノウォールと、該カーボンナノウォールに担持された正極活物質とを備える。
【0008】
本発明の構成によれば、電子伝導性の高いカーボンナノウォールに正極活物質が担持されているので、カーボンナノウォールを通じて活物質同士および/または活物質と集電体との電子移動を円滑に行うことができる。加えて、圧縮強度が高いカーボンナノウォールに正極活物質が担持されているので、外部から電極に大きな負荷が加わった場合でも、正極活物質層の潰れが抑制され、正極活物質層中の空隙量(活物質間の空隙)が適切に保たれる。これにより、正極活物質層中の電解液の浸透経路(特に電解液中のLiイオンの拡散経路)が確保され、活物質と電解液との間でLiイオンのやり取りを円滑に行うことができる。すなわち、本発明によれば、カーボンナノウォールを正極の芯材(構造維持材)かつ導電材として利用することで、電極反応に必要な電子とイオンの高い拡散性が実現され、高性能な正極が得られる。このような正極を用いれば、より性能の優れたリチウム二次電池が構築され得る。
【0009】
ここに開示されるリチウム二次電池用正極の他の好ましい一態様では、上記正極活物質は、膜状に形成され、上記ウォールの表面を被覆している。かかる構成の正極は、内部抵抗の低いリチウム二次電池を構築するのに適しているので好ましい。また、正極活物質とウォールの接触面積が増えるので、正極活物質とウォールの接着強度を高めることができる。
【0010】
ここに開示されるリチウム二次電池用正極の好ましい一態様では、上記正極活物質は、粒状に形成され、上記ウォール間の隙間に充填されている。かかる構成によれば、ウォール間の隙間が有効に利用されて正極活物質の充填効率が高まるので、エネルギー密度を増大できる。
【0011】
ここに開示されるリチウム二次電池用正極の好ましい一態様では、上記正極活物質層中に含まれるカーボンナノウォールの割合は、正極活物質層の全体積に対して0.5体積%〜30体積%である。カーボンナノウォールの割合が多すぎると、電極中に占める体積割合が増大してエネルギー密度が低下する場合がある。また、カーボンナノウォールの割合が少なすぎると、内部抵抗が増大する、圧縮強度が低下する等の不都合が生じる場合がある。したがって、カーボンナノウォールの割合は、正極活物質層の全体積に対して0.5体積%〜30体積%であることが好ましく、通常は1体積%〜10体積%にすることが好ましい。
【0012】
また、本発明によると、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体上に保持された構成を有するリチウム二次電池用正極を製造する方法が提供される。この方法は、正極集電体上にカーボンナノウォールを形成する工程と、上記カーボンナノウォールに正極活物質を担持させて正極活物質層を形成する工程とを含む。上記方法は、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池用正極を製造する方法として好適である。
【0013】
ここに開示される正極製造方法の好ましい一態様では、正極活物質を膜状に形成し、上記ウォールの表面を被覆する。この場合、正極活物質の薄膜の形成は、気相成長法、例えば物理蒸着法(PVD法)や化学蒸着法(CVD法)を用いて行われることが好ましい。気相成長法を用いれば、ウォール表面に正極活物質の薄膜を効率よく形成できる。また、ここに開示される正極製造方法の好ましい一態様では、正極活物質を粒状に形成し、上記ウォール間の隙間に充填する。この場合、正極活物質粒子の充填は、超臨界流体法を用いて行われることが好ましい。超臨界流体法を用いれば、正極活物質粒子をカーボンナノウォール全体に均一に充填することができる。
【0014】
また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの正極またはここに開示されるいずれかの方法により製造された正極を備えるリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)が提供される。かかるリチウム二次電池は、上記正極を用いて構築されていることから、より良好な電池性能を示すものであり得る。例えば、内部抵抗が小さい、高出力特性に優れる、耐久性が高い、の少なくとも一つを満たすリチウム二次電池を提供することができる。
【0015】
このようなリチウム二次電池は、内部抵抗が小さく耐久性に優れたものとなり得ることから、例えば自動車等の車両に搭載されるリチウム二次電池として好適である。したがって本発明によると、ここに開示されるリチウム二次電池(複数のリチウム二次電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、該リチウム二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る正極の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るカーボンナノウォールの構成を模式的に示す斜視図である。
【図3】カーボンナノウォールの上面SEM像である。
【図4】カーボンナノウォールの断面SEM像である。
【図5】本発明の一実施形態に係るカーボンナノウォールの製造装置(プラズマCVD装置)を模式的に示す断面図である。
【図6】プレス後のカーボンナノウォールを斜め上からみたSEM像である。
【図7】プレス後のカーボンナノチューブの断面SEM像である。
【図8】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の構成を模式的に示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る正極の構成を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極および正極を備えた電極体の構成および製法、セパレータや電解質の構成および製法、リチウム二次電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0018】
図1〜図4を参照しながらリチウム二次電池用正極10について説明する。図1は本実施形態に係る正極10の構成を模式的に示す断面図である。この正極10は、正極活物質36を含む正極活物質層30が正極集電体20上に保持された構成を有する。正極活物質層30は、カーボンナノウォール(CNW)32と、カーボンナノウォール32に担持された正極活物質36とから構成されている。
【0019】
正極集電体20は、導電性金属を主体として構成されており、アルミニウムその他のリチウム二次電池用正極に適する金属が好適に使用される。この実施形態では、厚さ10μm〜30μm程度のアルミニウム箔である。
【0020】
カーボンナノウォール32は、正極集電体20の上に設けられている。本明細書においてカーボンナノウォール32は、当該技術分野において通常用いられる技術用語の意義であって特別な限定はない。すなわち、カーボンナノウォール32は、二次元的な広がりをもつカーボンナノ構造体であって、一般に、基材(ここでは正極集電体20)の表面からほぼ一定の方向に(典型的にはほぼ垂直に)立ち上がった壁状の構造を有する。なお、フラーレン(C60等)はゼロ次元のカーボンナノ構造体とみることができ、カーボンナノチューブは一次元のカーボンナノ構造体とみることができる。
【0021】
典型的なカーボンナノウォールの構造を図2〜図4に示す。図2はカーボンナノウォールの構造を示す斜視模式図であり、図3はカーボンナノウォールを上面からみたSEM像であり、図4はカーボンナノウォールの断面のSEM像である。カーボンナノウォール32は、グラフェンシートが集電体表面に垂直方向に成長することによって構成された壁状構造であって、格子状に連絡しつつ広がった規則的かつ周期的な壁状構造を有する。カーボンナノウォール32は、剛直なグラフェンシートが積層した構造であり、カーボンナノチューブに比べて圧縮に対する強度が高い。すなわち、カーボンナノチューブ(CNT)は一本毎に独立しており、個々のCNTが根元だけで支えられているのに対し、カーボンナノウォール(CNW)は、壁が格子状に連絡しているので圧縮に強い。
【0022】
正極活物質36は、カーボンナノウォール32に担持されている。この実施形態では、正極活物質36は粒状に形成され、ウォール34間の隙間に充填されている。正極活物質の粒径は特に限定されず、2つのウォール34間の間隙(w)よりも小さいサイズであればよい。例えば、正極活物質の粒径は、0.05μm〜10μm程度であり、通常は0.05μm〜1μm程度にすることが好ましい。
【0023】
正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。ここに開示される技術の好ましい適用対象として、リチウムを含むオリビン型リン酸化合物を主成分とするものが好ましく用いられる。好適例として、リン酸鉄リチウム(LiFePO等)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO等)が挙げられる。あるいは、リチウムマンガン系複合酸化物(リチウムおよびマンガンを構成金属元素として含む酸化物。例えばLiMn)、リチウムコバルト系複合酸化物(例えばLiCoO)、リチウムニッケル系複合酸化物(例えばLiNiO)等を用いてもよい。
【0024】
本実施形態の構成によれば、図1に示すように、圧縮強度が高いカーボンナノウォール32に正極活物質36が担持されているので、外部から電極に大きな負荷が加わった場合でも、正極活物質層30の潰れが抑制され、正極活物質層30中の空隙(正極活物質36間の空隙)38が適切に保たれる。これにより、正極活物質層30中の電解液の浸透経路(特に電解液中のLiイオンの拡散経路)が十分に確保され、活物質36と電解液との間でLiイオンのやり取りを円滑に行うことができる。
【0025】
また、Liイオンのやり取りを円滑にするために活物質層30中の空隙を多くすると、活物質36同士の接触や活物質36と集電体20との接触が途切れるため、活物質同士および/または活物質と集電体との電子移動が制限される虞があるが、本実施形態では、電子伝導性の高いカーボンナノウォール32に正極活物質36が担持されているので、カーボンナノウォール32を通じて活物質36同士および/または活物質36と集電体20との電子移動を円滑に行うことができる。すなわち、本実施形態の構成によれば、カーボンナノウォール32を正極の芯材(構造維持材)かつ導電材として利用することで、電極反応に必要な電子移動とLiイオンの高い拡散性が両立され、高性能な正極10が得られる。このような正極10を用いれば、より性能の優れたリチウム二次電池が構築され得る。
【0026】
特に限定されるものではないが、本実施形態において好ましく用いられるカーボンナノウォール32の各寸法を例示すると、次の通りである。図2に示すように、ウォール34の幅(t;すなわち壁の厚み)は、概ね1nm〜20nmとすることが好ましく、通常は3nm〜10nm程度とすることが好ましい。この範囲よりも小さすぎると、製造が困難になる場合があり、この範囲よりも大きすぎると、電極中に占める体積割合が増大してエネルギー密度が低下する場合がある。また、2つのウォール34間の間隔(w;すなわち、対向するウォール表面間の距離)は、概ね50nm〜10000nmとすることが好ましく、通常は100nm〜3000nm程度とすることが好ましい。この範囲よりも狭すぎると、電極中に占める体積割合が増大してエネルギー密度が低下する場合があり、この範囲よりも広すぎると、内部抵抗が増大する、圧縮強度が低下する等の不都合が生じる場合がある。また、カーボンナノウォールの高さ(h)は特に限定されないが、概ね100μm未満であり、例えば0.1μm〜100μm程度とすることが好ましく、通常は0.5μm〜50μm程度とすることが好ましい。この範囲よりも高すぎると、ウォールの成長に時間がかかるため、生産性が悪くなる場合がある。
【0027】
正極活物質層中に含まれるカーボンナノウォールの割合は特に制限されないが、カーボンナノウォールの割合が多すぎると、正極活物質層中の正極活物質量が相対的に低下するためエネルギー密度が低下する場合がある。また、カーボンナノウォールの割合が少なすぎると、内部抵抗が増大する、圧縮強度が低下する等の不都合が生じる場合がある。したがって、カーボンナノウォールの割合は、正極活物質層30の全体積に対して0.5体積%〜20体積%であることが好ましく、通常は1体積%〜10体積%にすることが好ましい。
【0028】
なお、正極活物質層30は、正極活物質およびカーボンナノウォールの他に、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有してもよい。そのような材料の例として、導電材が挙げられる。該導電材の好適例としては、繊維状炭素やカーボン粉末等のカーボン材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等が挙げられる。
ここに開示される技術では、上述のようにカーボンナノウォール32を通じて活物質36同士および/または活物質36と集電体20との電子移動を円滑に行い得ることから、上記導電材を使用しないか、あるいは従来の一般的な正極活物質層に比べて導電材の使用量を少なくすることができる。このように導電材を省略または使用量を低減し得ることは、正極活物質層のエネルギー密度を高める上で好ましい。したがって、ここに開示される技術は、例えば、正極活物質層30が実質的に正極活物質およびカーボンナノウォールからなる態様で好ましく実施され得る。
【0029】
続いて、上記構造を有する正極10を例として、本実施形態に係るリチウム二次電池用正極の製造方法について説明する。
【0030】
ここに開示される正極製造方法では、まず、正極集電体20を用意(製造、購入等)する。そして、正極集電体20上にカーボンナノウォール32を形成する。集電体20上にカーボンナノウォール32を形成する方法は特に限定されないが、例えば、集電体の表面にカーボンナノウォールを気相成長させることにより行うとよい。ここに開示される技術においてカーボンナノウォールを気相成長させる方法として、炭化源ガス(カーボンナノウォールの原料となる炭素を提供するガスであって、C,CF,CH等のように炭素(C)を構成元素として含むガスが用いられる。)やHラジカルをチャンバ内に導入したプラズマCVD法を好ましく採用することができる。
【0031】
上記カーボンナノウォールは、集電体20の表面のうち、少なくとも正極活物質層30が形成される範囲を包含するように設けられることが好ましい。例えば、集電体20の片面のみ(該片面の一部であってもよく全範囲であってもよい。)に正極活物質層30が形成される場合には該片面の一部または全範囲に亘ってカーボンナノウォール32を形成する態様を、また該集電体20の両面に上記正極活物質層30が形成される場合には該両面の一部または全範囲に亘って上記カーボンナノウォール32を設ける態様を好ましく採用することができる。
【0032】
集電体上にカーボンナノウォール32を形成したら、次に、カーボンナノウォールに正極活物質36を担持させて正極活物質層30を形成する。この実施形態では、正極活物質36を粒状に形成し、ウォール34間の隙間に充填する。なお、正極活物質36の一部がカーボンナノウォール32の上端からはみ出していてもよく(図1参照)、また一部の負極活物質36がカーボンナノウォール32の上端に担持されていてもよい。
【0033】
正極活物質をウォール間に充填する方法としては特に限定されないが、例えば、超臨界流体法を好ましく用いることができる。超臨界流体法では、正極活物質またはその原料(金属塩、錯体等の前駆化合物)を超臨界状態にある流体(例えば超臨界CO)に溶解し、これをカーボンナノウォールのウォール間に充填し、ついで熱処理することにより、ウォール表面に正極活物質の結晶を析出させる。超臨界流体は表面張力が小さいため、ウォール間に速やかに浸透する。そのため、正極活物質粒子をカーボンナノウォール全体に均一に充填することができる。
【0034】
このように集電体20上にカーボンナノウォール32を形成し、カーボンナノウォール32のウォール表面に正極活物質膜36を形成することにより、カーボンナノウォール32に正極活物質36が担持された正極活物質層30を備えた正極10が製造される。かかる正極10によれば、正極活物質層30の耐久性が向上し、外部からの負荷(圧縮応力等)に対して正極活物質層30の潰れが抑制されるので、正極活物質層30に対する電解液(図示せず)の浸透性が確保される。
【0035】
続いて、カーボンナノウォールに正極活物質を担持させることにより、正極活物質層の圧縮強度が向上することを確認するため、以下の実験を行った。
【0036】
<カーボンナノウォールの作製>
まず、Si基板25を用いて、その表面にカーボンナノウォールを形成した。カーボンナノウォールの形成は、図5に示すプラズマCVD装置を用いて行った。具体的には、Si基板25をチャンバ90内に配置し、Si基板25に対して平行な平板電極(第1電極92A及び第2電極92B)の間に、炭化源ガス(ここではC)を導入するとともに、導入管94からHガスをチャンバ内に導入した。そして、平板電極92AとSi基板25の間の距離を5cmにし、炭化源ガス(C)の流量を15sccm,Hガスの流量を30sccmとし、チャンバ90内の全圧が100mTorrとなるように調整した。
【0037】
そして、チャンバ内に炭化源ガス(C)を流しながら、プラズマ発生源96から第1電極92Aに13.56MHz,100WのRF電力を入力し、炭化源ガス(C)にRF波を照射してプラズマ化し、平板電極92A,92Bと銅箔20の間に容量結合型のプラズマ雰囲気を形成した。また、導入管94からHガスを流しながら高周波出力装置98からコイル99に13.56MHz,400WのRF電力を入力し、導入管94内のHガスにRF波を照射して誘導結合型のプラズマ(Hラジカル)を生成し、これをチャンバ90内に導入した。そして、Si基板25をヒータ95で500℃に加熱しながら、Si基板25上にカーボンナノウォールを8時間成長させ、Si基板25上に所定寸法(幅20nm程度、高さ5μm〜20μm程度、間隔200nm程度)のカーボンナノウォールを形成した。
【0038】
<カーボンナノチューブの作製>
また、比較のために、Si基板の表面に垂直方向に配向した単層カーボンナノチューブを形成した。カーボンナノチューブの形成は、一般的なプラズマCVD装置を用いて行った。具体的には、Si基板上に鉄からなる触媒層をスパッタリング法によって形成し、触媒を起点としてカーボンナノチューブを化学気相成長(CVD)法により成長させ、Si基板上に所定寸法(直径20nm程度、間隔200nm程度、高さ60μm程度)のカーボンナノチューブを形成した。
【0039】
<プレス圧縮試験>
このようにして得られたカーボンナノウォールに対してプレス圧縮試験を行った。具体的には、カーボンナノウォール上にフッ素樹脂フィルムを被せ、油圧式のホットプレス機を用いて150℃で5分間加熱した後、150℃、5分間、60kgf/cmの試験条件でプレスした。そして、プレス後のカーボンナノウォールをフッ素樹脂フィルムに転写した。カーボンナノチューブに対しても同様の条件でプレス圧縮試験を行った。
【0040】
プレス後のSEM像を図6及び図7に示す。図6はプレス後のカーボンナノウォールを斜め上からみたSEM像であり、図7はプレス後のカーボンナノチューブの断面SEM像である。図7から明らかなように、プレス後のカーボンナノチューブは、樹脂フィルム上に林立した構造が押しつぶされ、CNTの林立構造が崩れていることが分かる。これに対し、図6のカーボンナノウォールは、プレス後も形状が変化せず、構造を維持している。このことから、カーボンナノウォールはカーボンナノチューブよりも圧縮強度が高いといえ、カーボンナノウォールに正極活物質を担持させることにより、正極活物質層の圧縮強度が向上することが確かめられた。
【0041】
以下、本発明の方法を適用して製造された正極10を用いて構築されるリチウム二次電池の一実施形態につき、図8に示す模式図を参照しつつ説明する。
【0042】
図示するように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)のケース52を備える。このケース(外容器)52は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体54と、その開口部を塞ぐ蓋体56とを備える。ケース52の上面(すなわち蓋体56)には、電極体80の負極70と電気的に接続する負極端子82および該電極体の正極10と電気的に接続する正極端子84が設けられている。ケース52の内部には、例えば長尺シート状の負極(負極シート)70および長尺シート状の正極(正極シート)10を計二枚の長尺シート状セパレータ(セパレータシート)60とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体80が収容される。
【0043】
正極シート10を構成する各材料については前に述べたとおりである。負極シート70は、長尺シート状の負極集電体の両面に負極活物質を主成分とする負極活物質層が設けられた構成を有する。負極集電体には銅箔(本実施形態)その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。
【0044】
負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム含有遷移金属酸化物や遷移金属窒化物等が挙げられる。これらの電極シート10、70の幅方向の一端には、いずれの面にも上記電極活物質層が設けられていない電極活物質層非形成部分が形成されている。正負極シート10、70間に使用されるセパレータシート60の好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。
【0045】
上記積層の際には、負極シート70の負極活物質層非形成部分と正極シート10の正極活物質層非形成部分とがセパレータシート60の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、負極シート70と正極シート10とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体80の捲回方向に対する横方向において、負極シート70および正極シート10の電極活物質層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分(すなわち負極シート70の正極活物質層形成部分と正極シート10の正極活物質層形成部分と二枚のセパレータシート60とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層の非形成部分)70Aおよび正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層の非形成部分)10Aには、負極リード端子88および正極リード端子86がそれぞれ付設され、上述の負極端子82および正極端子84とそれぞれ電気的に接続される。
【0046】
そして、ケース本体54の上端開口部から該本体54内に捲回電極体80を収容するとともに適当な電解質を含む電解液をケース本体54内に配置(注液)する。電解質は例えばLiPF等のリチウム塩である。例えば、適当量(例えば濃度1M)のLiPF等のリチウム塩をジエチルカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶媒(例えば質量比1:1)に溶解してなる非水電解液を使用することができる。なお、電解液に代えて、ゲル状の電解質や固体電解質を用いてもよい。
【0047】
その後、上記開口部を蓋体56との溶接等により封止し、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立てが完成する。ケース52の封止プロセスや電解質の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。このようにして本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築が完成する。
【0048】
このようにして得られたリチウム二次電池100は、上記正極10を用いて構築されていることから、優れた電池性能を示すものとなり得る。例えば、内部抵抗が小さい、高出力特性に優れる、耐久性が良い、のうちの少なくとも一つを満たすものであり得る。
【0049】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0050】
例えば、上述した例では、粒状の正極活物質36がウォール34間の隙間に充填された場合について例示したが、正極活物質は粒状に限らない。例えば、図9に示すように、正極活物質136を膜状に形成し、正極活物質の薄膜136でウォール134の表面を被覆してもよい。この場合でも、電子伝導性の高いカーボンナノウォール132に正極活物質膜136が担持されているので、カーボンナノウォール132を通じて活物質136同士および/または活物質136と集電体120との電子移動をスムーズに行うことができる。また、圧縮強度が高いカーボンナノウォール132に正極活物質膜136が担持されているので、外部から電極に負荷が加わった場合でも、正極活物質層130の潰れが抑制され、正極活物質層130中の空隙量(活物質間の間隙138)が適切に保たれる。これにより、十分な電解液の浸透経路(特にLiイオンの拡散経路)が確保され、活物質136と電解液との間でLiイオンのやり取りを円滑に行うことができる。
【0051】
ウォール表面に正極活物質の薄膜136を形成する方法は特に限定されないが、公知の気相成長法、例えば物理蒸着法(PVD法)や化学蒸着法(CVD法)が好ましく用いられる。ここに開示される技術においてウォール表面に正極活物質の薄膜を形成する方法として、例えば、有機金属化合物を用いた化学蒸着法(MOCVD法)を採用することができる。MOCVD法を用いることにより、ウォール表面に正極活物質の薄膜を効率よく形成することができる。この場合、気相成長法による一連の操作でカーボンナノウォールと正極活物質の薄膜とを連続して形成できるので、従来のような方法(例えば粒状の正極活物質とバインダを含むペースト状組成物を調製し、これを正極集電体上に塗布して乾燥させる方法)に比べて、製造プロセスを簡略化できる。なお、気相成長法に限らず、液相合成法(例えば水熱法や共沈法)を用いて正極活物質の薄膜を形成してもよい。
【0052】
本発明に係るリチウム二次電池100は、上記のとおり電池性能に優れることから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。したがって本発明は、図10に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池(複数直列接続してなる組電池であってもよい。)100を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供する。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
10 正極
20 正極集電体
30 正極活物質層
32 カーボンナノウォール
34 ウォール
36 正極活物質(粒状)
52 ケース
54 ケース本体
56 蓋体
60 セパレータ
70 正極
80 捲回電極体
82 正極端子
84 正極端子
86 正極リード端子
88 正極リード端子
90 チャンバ
92A,92B 平板電極
94 導入管
95 ヒータ
96 プラズマ発生源
98 高周波出力装置
99 コイル
100 リチウム二次電池
110 正極
120 正極集電体
130 正極活物質層
132 カーボンナノウォール
134 ウォール
136 正極活物質(膜状)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体上に保持された構成を有するリチウム二次電池用正極であって、
前記正極活物質層は、前記正極集電体上に形成されたカーボンナノウォールと、該カーボンナノウォールに担持された正極活物質とを備える、リチウム二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質は、粒状に形成され、前記ウォール間の隙間に充填されている、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質は、膜状に形成され、前記ウォールの表面を被覆している、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質層中に含まれるカーボンナノウォールの割合は、正極活物質層の全質量に対して0.005質量%〜30質量%である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項5】
正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体上に保持された構成を有するリチウム二次電池用正極の製造方法であって、
正極集電体上にカーボンナノウォールを形成する工程と、
前記カーボンナノウォールに正極活物質を担持させて正極活物質層を形成する工程と
を含む、リチウム二次電池用正極の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質を粒状に形成し、前記ウォール間に充填する、請求項5に記載の正極製造方法。
【請求項7】
前記粒状の正極活物質の充填は、超臨界流体法を用いて行われる、請求項6に記載の正極製造方法。
【請求項8】
前記正極活物質を膜状に形成し、前記ウォールの表面を被覆する、請求項5に記載の正極製造方法。
【請求項9】
前記膜状の正極活物質の形成は、気相成長法を用いて行われる、請求項8に記載の正極製造方法。
【請求項10】
請求項1から4の何れか一つに記載の正極もしくは請求項5から9の何れか一つに記載の方法により製造された正極と電解質と負極とを備えるリチウム二次電池。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウム二次電池を搭載する車両。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−103255(P2011−103255A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258395(P2009−258395)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】