説明

リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及びリチウム二次電池

【課題】 リチウム二次電池に、特に優れたサイクル特性、負荷特性、更に安全性を付与することができるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を用いたリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1):
LiNiMnCo1−y−z1+x (1)
(式中、xは1.02≦x≦1.25、yは0.30≦y≦0.40、zは0.30≦z≦0.40を示す。)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に、Mg、Al、Ti、Cu及びZrから選ばれる1種または2種以上の金属原子(Me)を0.1モル%以上5モル%未満含有させたリチウム複合酸化物であって、粒子表面に存在するLiCO量が0.05〜0.20重量%であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池用正極活物質及び該リチウム二次電池用正極活物質を用いた、特にサイクル特性、負荷特性及び安全性に優れたリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の正極活物質として、コバルト酸リチウムが用いられてきた。しかし、コバルトは希少金属であるため、コバルトの含有率が低いリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(例えば、特許文献1〜3参照)が開発されている。
【0003】
このリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池は、複合酸化物中に含まれるニッケル、マンガン、コバルトの原子比を調製することで、低コスト化が可能で、安全性の要求に対しても優れたものになることが知られているが、更に、サイクル特性、負荷特性及び安全性が向上したものが要望されている。
【0004】
また、下記特許文献4、5には、炭酸化したLi過剰層状リチウムニッケル複合酸化物で、炭酸イオン濃度を規定したものを正極活物質として用いることが提案されているが、本発明にかかる特定組成からなるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を用いる点については、何ら記載はなく、示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−106875号公報
【特許文献2】国際公開第2004/092073号パンフレット
【特許文献3】特開2005−25975号公報
【特許文献4】特開2004−335345号公報
【特許文献5】特開2009−4311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記実情を鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に特定の金属原子を特定範囲で含有させたリチウム複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池は、安全性が優れたものになること。更に、該リチウム複合酸化物の粒子表面に存在するLiCO量を特定範囲に調製することで、特にリチウム二次電池の高温時の容量維持率が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明の目的は、リチウム二次電池に、特に優れたサイクル特性、負荷特性、更に安全性を付与することができるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を用いたリチウム二次電池用正極活物質、該正極活物質を工業的に有利に製造する方法及び該正極活物質を用いた、特にサイクル特性、負荷特性及び安全性に優れたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が提供しようとする第1の発明は、下記一般式(1):
LiNiMnCo1−y−z1+x (1)
(式中、xは1.02≦x≦1.25、yは0.30≦y≦0.40、zは0.30≦z≦0.40を示す。)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に、Mg、Al、Ti、Cu及びZrから選ばれる1種または2種以上の金属原子(Me)を0.1モル%以上5モル%未満含有させたリチウム複合酸化物であって、粒子表面に存在するLiCO量が0.05〜0.20重量%であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質である。
【0009】
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、
(a)リチウム化合物と、(b)一般式;NiMnCo1−y−z(OH)
(式中、yは0.30≦y≦0.40、zは0.30≦z≦0.40を示す。)で表される複合水酸化物と、(c)Mg、Al、Ti、Cu及びZrから選ばれる1種または2種以上の金属原子(Me)含有化合物とを、Li/(Ni+Mn+Co+Me)の原子比が1.02〜1.25で、且つMe/(Ni+Mn+Co)の原子比で0.001以上0.05未満で混合する第1工程、次いで得られた混合物を800〜1000℃で焼成してリチウム複合酸化物を得る第2工程を有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0010】
また、本発明が提供しようとする第3の発明は、前記第1の発明のリチウム二次電池用正極活物質を用いたことを特徴とするリチウム二次電池である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなる正極活物質を用いて、優れたサイクル特性、負荷特性及び安全性を有するリチウム二次電池を提供することができる。特に、本発明においては、高温下においてもサイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することができる。
また、該リチウム二次電池用正極活物質の製造方法によれば、該正極活物質を工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】複合水酸化物試料AのX線回折図。
【図2】複合水酸化物試料BのX線回折図。
【図3】実施例3で得られたリチウム複合酸化物のX線回折図。
【図4】実施例3のリチウム複合酸化物試料を正極活物質としてもちい、安全性を評価したときの該リチウム複合酸化物試料のDSCチャート。
【図5】比較例1のリチウム複合酸化物試料を正極活物質としてもちい、安全性を評価したときの該リチウム複合酸化物試料のDSCチャート。
【図6】比較例3のリチウム複合酸化物試料を正極活物質としてもちい、安全性を評価したときの該リチウム複合酸化物試料のDSCチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係るリチウム二次電池用正極活物質(以下、特に断らない限りは単に「正極活物質」と呼ぶ。)は、下記一般式(1):
LiNiMnCo1−y−z1+x (1)
(式中、xは1.02≦x≦1.25、yは0.30≦y≦0.40、zは0.30≦z≦0.40を示す。)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(以下、単に「リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物」と呼ぶこともある。)に、特定の金属原子(Me)を0.1モル%以上5モル%未満含有させたリチウム複合酸化物(以下、単に「リチウム複合酸化物」と呼ぶこともある。)である。
【0014】
前記一般式(1)で表されるリチウム複合酸化物の式中のxは1.02以上1.25以下であり、特に式中のxが1.05以上1.20以下の範囲であるとリチウム二次電池の容量維持率が向上する点から好ましい。式中のy及びZは0.30以上0.40以下であり、特に式中のy及びzが0.33以上0.34以下の範囲であると、目的物を安価に製造することができ、また、リチウム二次電池の安全性が向上する観点から好ましい。
【0015】
前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に含有させる金属原子(Me)は、Mg、Al、Ti、Cu及びZrから選ばれる1種または2種以上の金属原子(Me)(以下、単に「金属原子(Me)」と呼ぶこともある。)であり、この中、特にMg、Ti及びCuがリチウム二次電池の安全性をより向上させる観点から好ましい。また、該リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に含有させる金属原子(Me)の量は0.1モル%以上5モル%未満である。特に金属原子(Me)の含有量が0.2モル%以上1モル%以下であると放電容量が高く、また安全性が更に向上したリチウム二次電池が得られる観点から好ましい。なお、本発明において、金属原子(Me)の含有量を前記範囲にする理由は、金属原子(Me)の含有量が0.1モル%より小さくなると、リチウム二次電池の安全性の向上効果が見られず、一方、金属原子(Me)の含有量が5モル%以上になるとリチウム二次電池の放電容量が低下するからである。
本発明において、金属原子(Me)はリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に固溶して含有されていてもよく、製造法に由来して、その一部が金属酸化物として、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の粒子表面に存在していてもよい。
【0016】
また、本発明の正極活物質に係るリチウム複合酸化物は、該リチウム複合酸化物の粒子表面に存在するLiCO量が0.05〜0.20重量%、好ましくは0.07〜0.20重量%である。この理由は、該リチウム複合酸化物の粒子表面に存在するLiCO量が0.05重量%より小さくなると、電極表面での電解液の分解による皮膜の生成が促進され、容量維持率が低下し、一方、0.20重量%より大きくなると、高温保存時に発生するCOガスの発生量が多くなり、リチウム二次電池の安全性の低下になるからである。
【0017】
また、リチウム複合酸化物の粒子表面に存在するLiCO量は、BET比表面積からもとまる単位面積あたりの粒子表面に存在するLiCO量が1.5〜10mg/m、好ましくは2.5〜7.0mg/mあると、該正極活物質を用いたリチウム二次電池の高温時の容量維持率を更に向上させることができる観点から好ましい。
【0018】
また、本発明の正極活物質に係るリチウム複合酸化物は、残存するLiOHが0.15重量%以下、好ましくは0.11重量%以下で実質的にLiOHを含有しないものであると、電極ペーストが安定し、塗布性が向上するため電極作成が容易になる観点から好ましい。
【0019】
本発明に係る正極活物質において、前記リチウム複合酸化物は、レーザー法粒度分布測定法により求められる平均粒子が1〜30μm、好ましくは3〜20μmである。この理由は、該リチウム複合酸化物の平均粒径が1μmより小さくなると、活性が高い微粒子が多くなり、リチウム二次電池の安全性の向上効果が得られにくくなる傾向があり、一方、30μmより大きくなると電極へ塗布性が問題になる傾向があるからである。
【0020】
また、前記リチウム複合酸化物は、BET比表面積が0.1〜1m/g、好ましくは0.2〜0.8m/gである。この理由は、該リチウム複合酸化物のBET比表面積が0.1m/gより小さくなるとリチウム二次電池の負荷特性が悪くなる傾向があり、一方、1m/gより大きくなるとリチウム二次電池の放電容量が低下する傾向があるからである。
【0021】
また、前記リチウム複合酸化物は、タップ密度が1.5g/ml以上である。この理由は、該リチウム複合酸化物のタップ密度が1.5g/mlより小さくなると、電極密度が低下し、リチウム二次電池の放電容量が低下する傾向があるからである。特に、該リチウム複合酸化物のタップ密度が1.7〜2.8g/mlの範囲にあると、特にリチウム二次電池の放電容量が高くなる観点から好ましい。
【0022】
本発明の正極活物質は、例えば
(a)リチウム化合物と、(b)一般式;NiMnCo1−y−z(OH)(式中、yは0.30≦y≦0.40、zは0.30≦z≦0.40を示す。)で表される複合水酸化物と、(c)金属原子(Me)含有化合物とを、Li/(Ni+Mn+Co+Me)の原子比が1.02〜1.25で、且つMe/(Ni+Mn+Co)の原子比で0.001以上0.05未満で混合する第1工程、次いで得られた混合物を800〜1000℃で焼成してリチウム複合酸化物を得る第2工程を有することにより、製造することができる。
【0023】
第1工程に係る(a)リチウム化合物は、例えば、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩及び有機酸塩等が挙げられ、この中、炭酸リチウムが粉体として取り扱いが容易で、安価である観点から特に好ましく用いられる。また、このリチウム化合物はレーザー光散乱法から求められる平均粒径が1〜100μm、好ましくは5〜80μmであると反応性が良好であるため特に好ましい。
【0024】
第1工程に係る(b)一般式;NiMnCo1−y−z(OH)で表される複合水酸化物(以下、「複合水酸化物」と呼ぶ。)の式中のy、zは、前記一般式(1)の式中のy、zにそれぞれ相当し、式中のy及びZは0.30以上0.40以下であり、特に式中のy及びzが0.33以上0.34以下の範囲であると、目的物とするリチウム複合酸化物を安価に製造することができ、また、得られるリチウム複合酸化物はリチウム二次電池の安全性をさらに向上させることができる観点から好ましい。
【0025】
また、該複合水酸化物は、レーザー法粒度分布測定法により求められる平均粒径が1〜30μm、好ましくは3〜20μmである。この理由は、該複合水酸化物の平均粒径が1μmより小さくなると、得られるリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池において、安全性の向上効果が小さくなる傾向があり、一方、平均粒径が30μmより大きくなると反応性が悪くなり、また、得られるリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池において、放電容量が低下する傾向があるからである。
【0026】
また、該複合水酸化物はBET比表面積が2〜10m/g、好ましくは2〜8m/gである。この理由は、該複合水酸物のBET比表面積が2m/gより小さくなると、反応性が悪くなり、また、得られるリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池において、放電容量が低下する傾向があり、一方、BET比表面積が10m/gより大きくなると、得られるリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池において、安全性の向上効果が小さくなる傾向があるからである。
【0027】
また、該複合水酸化物は、タップ密度が1g/ml以上、好ましくは1.5〜2.5g/mlである。この理由は、該複合水酸物のタップ密度が1g/mlより小さくなると、得られるリチウム複合酸化物のタップ密度と電極密度が低下し、このため得られるリチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池において、放電容量が低下する傾向があるからである。
【0028】
このような諸物性を有する複合水酸化物は、例えば共沈法によって調製することができる。具体的には、所定量のニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液と、アルカリの水溶液とを混合することで、複合水酸化物を共沈させることができる(特開平10−81521号公報、特開平10−81520号公報、特開平10−29820号公報、2002−201028号公報等参照。)。また、該複合水酸化物は、市販品であってもよい。
【0029】
また、本発明者は、該複合水酸化物として、X線回折分析において回折ピークに特徴のあるものを選別して用い、これを用いて得られるものを正極活物質とするリチウム二次電池は、高温時の放電容量と、負荷特性が向上することを見出した。即ち、用いる複合水酸化物は、CuKα線によるX線回折分析において、2θ=38°付近の回折ピーク(A)と2θ=19°付近の回折ピーク(B)との強度比(A/B)が0.4以下、好ましくは0.2以下であるものを選別して用いることが特に好ましい。なお、2θ=38°付近の回折ピーク(A)とは、38±0.5°における回折ピークを示す。また、2θ=19°付近の回折ピークとは、19±0.5°における回折ピークを示す。
【0030】
第1工程に係る(c)Mg、Al、Ti、Cu及びZrから選ばれる1種または2種以上の金属原子(Me)含有化合物は、これらの金属原子(Me)を含有する酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩等を用いることが出来る。また、この金属原子(Me)含有化合物はレーザー法粒度分布測定法から求められる平均粒径が0.1〜20μm、好ましくは0.1〜10μmであると反応性が良好であるため特に好ましい。
【0031】
なお、前記原料の(a)リチウム化合物、(b)複合水酸化物及び(c)金属原子(Me)含有化合物は、高純度の正極活物質を製造するために、可及的に不純物含有量が少ないものが好ましい。
【0032】
第1工程に係る反応操作は、まず、(a)リチウム化合物、(b)複合水酸化物及び(c)金属原子(Me)含有化合物を所定量混合し、均一混合物を得る。
【0033】
(a)リチウム化合物、(b)複合水酸化物及び(c)金属原子(Me)含有化合物の配合割合は、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及び金属原子(Me)に対するリチウム原子の原子比(Li/(Ni+Co+Mn+Me))で1.02〜1.25、好ましくは1.05〜1.20であることが、サイクル特性、負荷特性及び安全性に優れた正極活物質を得る上で、1つの重要な要件となる。この理由は、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及び金属原子(Me)に対するリチウム原子の原子比が1.02より小さくなると、得られるリチウム複合酸化物の粒子表面上に存在するLiCO量が前記した0.05〜0.20重量%の範囲に入りにくくなるからである。一方、ニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子及び金属原子(Me)に対するリチウム原子の原子比が1.25より大きくなると、リチウム二次電池の放電容量が大きく低下するからである。
【0034】
また、(b)複合水酸化物及び(c)金属原子(Me)含有化合物の配合割合は、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子に対する金属原子(Me)の原子比(Me/{Ni+Mn+Co})で0.001以上0.05未満であり、特に0.002以上0.01以下であると、特にリチウム二次電池の容量維持率が高く、安全性にも優れたリチウム二次電池が得られる観点から好ましい。なお、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子に対する金属原子(Me)の原子比を前記範囲にする理由は、Me/(Ni+Mn+Co)の原子比で0.01より小さくなるとリチウム二次電池の安全性の向上効果が見られず、一方、Me/(Ni+Mn+Co)の原子比で0.05以上になるとリチウム二次電池の放電容量が低下するからである。
【0035】
混合は、乾式又は湿式のいずれの方法でもよいが、製造が容易であるため乾式が好ましい。乾式混合の場合は、原料が均一に混合するようなブレンダー等を用いることが好ましい。
【0036】
第1工程で得られた原料が均一混合された混合物は、次いで第2工程に付して、リチウム複合酸化物からなる正極活物質を得る。
【0037】
本発明にかかる第2工程は、第1工程で得られた原料が均一混合された混合物を特定の温度範囲で焼成しリチウム複合酸化物からなる正極活物質を得る工程である。
【0038】
第2工程のおける焼成温度は800〜1000℃、好ましくは850〜950℃である。この理由は、焼成温度が800℃より小さくなると、(a)リチウム化合物、(b)複合水酸化物及び(c)金属原子(Me)含有化合物との固溶反応が完結しなく、また、得られるリチウム複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池は、放電容量が低く、負荷特性及び安全性に優れたものが得られ難く、一方、焼成温度が1000℃より大きくなると、得られるリチウム複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池は、負荷特性が良好なものが得られ難くなるからである。
【0039】
焼成雰囲気は大気雰囲気中或いは酸素雰囲気中であってもよく、また、焼成時間は5時間以上、好ましくは7〜15時間である。
また、本発明において、焼成は所望により何度行ってもよい。或いは、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、次いで再焼成を行ってもよい。
焼成後、適宜冷却し、必要に応じ粉砕すると、本発明のリチウム複合酸化物が得られる。
【0040】
なお、粉砕は得られるリチウム複合酸化物が脆くブロック状である場合に適宜行われるが、該リチウム複合酸化物は、特定の粉体特性を有するものである。即ち、レーザー法粒度分布測定法により求められる平均粒径が1〜30μm、好ましくは3〜20μmで、BET比表面積が0.1〜1m/g、好ましくは0.2〜0.8m/g、タップ密度が1.5g/ml以上、好ましくは1.7〜2.8g/mlである。
かくして得られるリチウム複合酸化物の粒子表面には、LiCO量が0.05〜0.15重量%存在し、更にLiOHも0.02〜0.15重量%存在する。
【0041】
本発明では、第3工程に付して、LiOHをLiCOに転換し、LiCO量を0.07〜0.20重量%まで高め、且つLiOHを0.11重量%以下まで低減することが出来る。この第3工程を付して得られる正極活物質を用いたリチウム二次電池は、更にサイクル特性、負荷特性及び安全性等の電池性能が向上する。
【0042】
第3工程は、第2工程で得られたリチウム複合酸化物と二酸化炭素とを接触させる。
【0043】
該リチウム複合酸化物と二酸化炭素との接触は二酸化炭素濃度が50容量%以上、好ましくは90〜100容量%含有する雰囲気中で行われる。この理由は、二酸化炭素濃度が50容量%より小さくなるとLiCOへの転換が不十分になる傾向があるためである。なお、該リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物と二酸化炭素との接触は、攪拌もしくは適度に振動させながら行うと、効率的にLiOHをLiCOへ転換することができる。
【0044】
接触温度は5〜90℃、好ましくは10〜80℃で、5分以上、好ましくは0.1〜10時間行うことが好ましい。
【0045】
第3工程終了後、必要により乾燥、解砕或いは粉砕を行い、次いで分級を行って製品とする。
【0046】
なお、前記乾燥処理を行うことによりLiOHからLiCOへ転換したときに発生する水分を除去することができ、また、このように水分を除去したリチウム複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池は、更に放電容量、負荷特性及び安全性が向上したものになる。乾燥処理温度は100〜300℃、好ましくは150〜250℃であると、速やかに水分を除去することができる観点から好ましい。乾燥時間は30分以上、好ましくは1〜2時間である。
【0047】
本発明に係るリチウム二次電池は、上記リチウム二次電池用正極活物質を用いるものであり、正極、負極、セパレータ、及びリチウム塩を含有する非水電解質からなる。正極は、例えば、正極集電体上に正極合剤を塗布乾燥等して形成されるものであり、正極合剤は正極活物質、導電剤、結着剤、及び必要により添加されるフィラー等からなる。本発明に係るリチウム二次電池は、正極に本発明のリチウム複合酸化物からなる正極活物質が均一に塗布されている。このため本発明に係るリチウム二次電池は、特に負荷特性、高温時の容量維持率、安全性にも優れる。
【0048】
正極合剤に含有される正極活物質の含有量は、70〜100重量%、好ましくは90〜98重量%が望ましい。
【0049】
正極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化して用いてもよく、表面処理により集電体表面に凹凸を付けて用いてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。集電体の厚さは特に制限されないが、1〜500μmとすることが好ましい。
【0050】
導電剤としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に限定はない。例えば、天然黒鉛及び人工黒鉛等の黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、或いはポリフェニレン誘導体等の導電性材料が挙げられ、天然黒鉛としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。導電剤の配合比率は、正極合剤中、1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%である。
【0051】
結着剤としては、例えば、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフロオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、ポリエチレンオキシドなどの多糖類、熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー等が挙げられ、これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、多糖類のようにリチウムと反応するような官能基を含む化合物を用いるときは、例えば、イソシアネート基のような化合物を添加してその官能基を失活させることが好ましい。結着剤の配合比率は、正極合剤中、1〜50重量%、好ましくは5〜15重量%である。
【0052】
フィラーは正極合剤において正極の体積膨張等を抑制するものであり、必要により添加される。フィラーとしては、構成された電池において化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができるが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素等の繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、正極合剤中、0〜30重量%が好ましい。
【0053】
負極は、負極集電体上に負極材料を塗布乾燥等して形成される。負極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、アルミニウム、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの及びアルミニウム−カドミウム合金等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化して用いてもよく、表面処理により集電体表面に凹凸を付けて用いてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。集電体の厚さは特に制限されないが、1〜500μmとすることが好ましい。
【0054】
負極材料としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素質材料、金属複合酸化物、リチウム金属、リチウム合金、ケイ素系合金、錫系合金、金属酸化物、導電性高分子、カルコゲン化合物、Li−Co−Ni系材料等が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、難黒鉛化炭素材料、黒鉛系炭素材料等が挙げられる。金属複合酸化物としては、例えば、SnP(M11-p(M2qr(式中、M1はMn、Fe、Pb及びGeから選ばれる1種以上の元素を示し、M2はAl、B、P、Si、周期律表第1族、第2族、第3族及びハロゲン元素から選ばれる1種以上の元素を示し、0<p≦1、1≦q≦3、1≦r≦8を示す。)、LixFe23(0≦x≦1)、LixWO2(0≦x≦1)、チタン酸リチウム等の化合物が挙げられる。金属酸化物としては、GeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb23、Pb34、Sb23、Sb24、Sb25、Bi23、Bi24、Bi25等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等が挙げられる。
【0055】
セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。耐有機溶剤性と疎水性からポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマーあるいはガラス繊維あるいはポリエチレンなどからつくられたシートや不織布が用いられる。セパレーターの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01〜10μmである。セパレターの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5〜300μmである。なお、後述する電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には、固体電解質がセパレーターを兼ねるようなものであってもよい。
【0056】
リチウム塩を含有する非水電解質は、非水電解質とリチウム塩とからなるものである。非水電解質としては、非水電解液、有機固体電解質、無機固体電解質が用いられる。非水電解液としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0057】
有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、リン酸エステルポリマー、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のイオン性解離基を含むポリマー、イオン性解離基を含むポリマーと上記非水電解液の混合物等が挙げられる。
【0058】
無機固体電解質としては、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩、硫化物等を用いることができ、例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N−LiI−LiOH、LiSiO4、LiSiO4−LiI−LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、P25、Li2S又はLi2S−P25、Li2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−Ga23、Li2S−B23、Li2S−P25−X、Li2S−SiS2−X、Li2S−GeS2−X、Li2S−Ga23−X、Li2S−B23−X、(式中、XはLiI、B23、又はAl23から選ばれる少なくとも1種以上)等が挙げられる。
【0059】
更に、無機固体電解質が非晶質(ガラス)の場合は、リン酸リチウム(Li3PO4)、酸化リチウム(Li2O)、硫酸リチウム(Li2SO4)、酸化リン(P25)、硼酸リチウム(Li3BO3)等の酸素を含む化合物、Li3PO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li4SiO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li4GeO4-x2x/3(xは0<x<4)、Li3BO3-x2x/3(xは0<x<3)等の窒素を含む化合物を無機固体電解質に含有させることができる。この酸素を含む化合物又は窒素を含む化合物の添加により、形成される非晶質骨格の隙間を広げ、リチウムイオンが移動する妨げを軽減し、更にイオン伝導性を向上させることができる。
【0060】
リチウム塩としては、上記非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO22NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、四フェニルホウ酸リチウム、イミド類等の1種または2種以上を混合した塩が挙げられる。
【0061】
また、非水電解質には、放電、充電特性、難燃性を改良する目的で、以下に示す化合物を添加することができる。例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グライム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N−置換オキサゾリジノンとN,N−置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ポリエチレングルコール、ピロール、2−メトキシエタノール、三塩化アルミニウム、導電性ポリマー電極活物質のモノマー、トリエチレンホスホンアミド、トリアルキルホスフィン、モルフォリン、カルボニル基を持つアリール化合物、ヘキサメチルホスホリックトリアミドと4−アルキルモルフォリン、二環性の三級アミン、オイル、ホスホニウム塩及び三級スルホニウム塩、ホスファゼン、炭酸エステル等が挙げられる。また、電解液を不燃性にするために含ハロゲン溶媒、例えば、四塩化炭素、三弗化エチレンを電解液に含ませることができる。また、高温保存に適性を持たせるために電解液に炭酸ガスを含ませることができる。
【0062】
本発明に係るリチウム二次電池は、電池性能、特にサイクル特性に優れたリチウム二次電池であり、電池の形状はボタン、シート、シリンダー、角、コイン型等いずれの形状であってもよい。
【0063】
本発明に係るリチウム二次電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ノートパソコン、ラップトップパソコン、ポケットワープロ、携帯電話、コードレス子機、ポータブルCDプレーヤー、ラジオ、液晶テレビ、バックアップ電源、電気シェーバー、メモリーカード、ビデオムービー等の電子機器、自動車、電動車両、ゲーム機器等の民生用電子機器が挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
<タップ密度の測定>
タップ密度は、JIS−K−5101に記載された見掛密度又は見掛比容の方法に基づいて、50mlのメスシリンダーにサンプル50gを入れ、ユアサアイオニクス社製、DUAL AUTOTAP装置にセットし、500回タップし容量を読み取り見かけ密度を算出し、タップ密度とした。
【0066】
<平均粒径の測定>
平均粒径はレーザー法粒度分布測定法により求めた。
【0067】
<複合水酸化物>
本発明の実施例においては、下記諸物性を有する市販のニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む凝集状複合水酸化物(OMG社製)を用いた。なお、下記複合水酸化試料Aと複合水酸化物試料BのX線回折図を図1及び図2にそれぞれ示す。
複合水酸化物試料Aの物性
(1)複合水酸化物中のNi:Co:Mnのモル比
=0.334:0.333:0.333
(2)複合水酸化物の平均粒径;10.7μm
(3)BET比表面積;5.0m/g
(4)タップ密度;2.3g/ml
(5)線源としてCuKα線を用いてX線回折分析したときの2θ=38°付近の回折ピーク(A)と2θ=19°付近の回折ピーク(B)との強度比(A/B);0.15
【0068】
複合水酸化物試料Bの物性
(1)複合水酸化物中のNi:Co:Mnのモル比
=0.334:0.333:0.333
(2)複合水酸化物の平均粒径;12.0μm
(3)BET比表面積;3.1m/g
(4)タップ密度;2.2g/ml
(5)線源としてCuKα線を用いてX線回折分析したときの2θ=38°付近の回折ピーク(A)と2θ=19°付近の回折ピーク(B)との強度比(A/B);0.45
【0069】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
前記複合水酸化物試料A(Ni0.334Mn0.333Co0.333(OH))、炭酸リチウム(平均粒径4.5μm)及びフッ化マグネシウム(平均粒径5.9μm)を、ニッケル原子、マンガン原子、コバルト原子およびマグネシウム原子を表1に示す配合割合となるように秤量し、ミキサーで十分混合した。この混合物を900℃で10時間、大気中で焼成し、焼成後冷却して得られた焼成物を粉砕、分級してマグネシウム含有リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなるリチウム複合酸化物試料を得た。
【0070】
(実施例6)
前記複合水酸化物試料A(Ni0.334Mn0.333Co0.333(OH))、炭酸リチウム(平均粒径4.5μm)及び酸化マグネシウム(平均粒径2.9μm)を、ニッケル原子、マンガン原子、コバルト原子およびマグネシウム原子を表1に示す配合割合となるように秤量し、ミキサーで十分混合した。この混合物を900℃で10時間、大気中で焼成し、焼成後冷却して得られた焼成物を粉砕、分級してマグネシウム含有リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなるリチウム複合酸化物試料を得た。
【0071】
(実施例7)
複合水酸化試料Aの代わりに複合水酸化物試料Bを用いた以外は、実施例3と同様な条件及び操作方法でマグネシウム含有リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなるリチウム複合酸化物試料を得た。
【0072】
(実施例8)
前記複合水酸化物試料A(Ni0.334Mn0.333Co0.333(OH))、炭酸リチウム(平均粒径4.5μm)及び酸化銅(平均粒径5.3μm)を、ニッケル原子、マンガン原子、コバルト原子および銅原子を表1に示す配合割合となるように秤量し、ミキサーで十分混合した。この混合物を900℃で10時間、大気中で焼成し、焼成後冷却して得られた焼成物を粉砕、分級して銅含有リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなるリチウム複合酸化物試料を得た。
【0073】
(実施例9)
前記複合水酸化物試料A(Ni0.334Mn0.333Co0.333(OH))、炭酸リチウム(平均粒径4.5μm)及び二酸化チタン(平均粒径0.4μm)を、ニッケル原子、マンガン原子、コバルト原子およびチタン原子を表1に示す配合割合となるように秤量し、ミキサーで十分混合した。この混合物を900℃で10時間、大気中で焼成し、焼成後冷却して得られた焼成物を粉砕、分級してチタン含有リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなるリチウム複合酸化物試料を得た。
【0074】
(比較例4)
焼成温度を750℃で10時間とした以外は実施例3と同様な条件及び操作方法でマグネシウム含有リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなるリチウム複合酸化物試料を得た。
【0075】
(比較例5)
焼成温度を1050℃で10時間とした以外は実施例3と同様な条件及び操作方法でマグネシウム含有リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなるリチウム複合酸化物試料を得た。
【0076】
【表1】

注)モル比Aは{Li/(Ni+Mn+Co+Me)}のモル比、モルBは{Me/(Ni+Mn+Co)}のモル比を示す。
【0077】
(実施例10及び11)
実施例3で得られたリチウム複合酸化物試料各100gを密閉できる500ml容器に投入し、COガスを封入し二酸化炭素濃度が95容量%の雰囲気として密閉した。次いで、この容器を振動装置(ペイントシェーカー)に取り付け、表2に示す処理時間室温下(25℃)で振動させた。
次いで、COガス処理されたリチウム複合酸化物を200℃で2時間乾燥して、LiCO含有量を増加させたリチウム複合酸化物試料を得た。
【表2】

【0078】
<物性評価>
実施例1〜11及び比較例1〜5で得られたリチウム複合酸化物試料について、平均粒径、BET比表面積、タップ密度、粒子表面に存在するLiCO量及び単位体積当たりのLiCO含有量、LiOH含有量を測定した。
なお、実施例3で得られるリチウム複合酸化物のX線回折図を図3に示す。
【0079】
(LiCO含有量の評価)
粒子表面に存在するLiCO量は、得られたリチウム複合酸化物試料10gをはかりとり、マグネチックスターラーを用いて、純水100g中で5分間分散させる。次いで、分散スラリーを濾過し、ろ液を回収した後、ろ液50gをはかりとり、0.1N−HClを用い、自動滴定装置にて、中和滴定を行ってLiCO含有量を求めた。
第1終点(pH8付近)までの滴定量をa(ml)とし、第1終点から第2終点(pH4付近)までの滴定量をb(ml)とし、LiCO含有量は下記計算式(1)より求めた。
【0080】
【数1】

b;第1終点〜第2終点(pH4付近)までの滴定量(ml)
【0081】
単位面積当たりのLiCO量は、下記計算式(2)より求めた。
【0082】
【数2】

C;リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物試料に含有されるLiCO含有量(%)
d;リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物試料のBET比表面積(m/g)
【0083】
(LiOH含有量の評価)
LiCO含有量の評価と同様に滴定法にて中和滴定をおこなった後、下記計算式(3)より求めた。
【数3】

a;第1終点(pH8付近)までの滴定量(ml)
b;第1終点〜第2終点(pH4付近)までの滴定量(ml)
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
<リチウム二次電池の評価>
(1)リチウム二次電池の作成
実施例1〜11及び比較例1〜5で得られたリチウム複合酸化物試料90重量%、アセチレンブラック5重量%、ポリフッ化ビニリデン5重量%を混合し、これをN−メチル−2−ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。この正極板に加え、負極、セパレーター、集電板、電解液、CR2032用ケース、取り付け金具、外部端子等の各部材を使用してコイン型リチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、電解液にはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートが25:60:15(v/v/v)の混合溶媒1リットルに対しLiPF61モルを溶解したものを使用した。
【0087】
(2)電池の性能評価
作製したコイン型リチウム二次電池を25℃、場合により60℃の環境下で作動させ、下記の電池性能を評価した。
【0088】
(充放電容量および容量維持率の評価方法)
作成したコイン型リチウム二次電池の充放電方法は、まず電流量0.5C(2時間率)で4.3Vまで充電した後、4.3Vで約3時間保持させる計5時間の定電流定電圧(CCCV)充電により充電をおこない、引き続いて、電流量0.2C(5時間率)で2.7Vまで放電させる定電流(CC)放電をおこなった。これらの操作を1サイクルとして1サイクル毎に容量を測定した。このサイクルを20サイクル繰り返し、1サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電容量から、下記式により容量維持率を算出した。なお、1サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。結果を表5に示す。
【数4】

【0089】
【表5】

【0090】
(負荷特性の評価方法)
作成したコイン型リチウム二次電池の充放電方法は、まず電流量0.5C(2時間率)で4.3Vまで充電した後、4.3Vで約3時間保持させる計5時間の定電流定電圧(CCCV)充電により充電をおこない、引き続いて、電流量0.2C(5時間率)で2.7Vまで放電させる定電流(CC)放電を2サイクルおこなった。それ以降のサイクルは放電時の電流量のみ変動させ、3サイクル目は2C(1/2時間率)、5サイクル目は1C(1時間率)、7サイクル目は0.5C(2時間率)で放電させた。その他のサイクル(4、6、8、9サイクル目)は0.2Cにて放電させ、9サイクル目の0.2Cでの放電容量に対する2C、1Cおよび0.5Cの放電容量比を計算した。結果を表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
(安全性の評価方法)
安全性の評価は、実施例3、実施例6、実施例8、実施例9、実施例11、比較例1、比較例3のリチウム複合酸化物試料について示差走査熱量測定(DSC)を行って評価した。
まず、前記で作成したコイン電池を4.4Vまで充電させ、充電状態で測定機から回収し、グローブボックス内で電池を分解し、正極を取り出した。次いで正極中の活物質量が5mgになるように切り出し、DSC用の耐圧パンに10mgの電解液と共に投入した。耐圧パンを、2℃/分の昇温速度にて、350℃まで昇温させ、DSCチャートを得た。このチャートから240℃付近までにみられる発熱ピークの最大値をP1、270℃付近以降にみられるピークの最大値をP2とし、その結果を表7に示した。
このP1と、P2の値が低い方が熱暴走を抑制する効果が高いことを示し、リチウム二次電池の安全性が優れていることを示す。
また、図4に実施例3のリチウム複合酸化物試料を正極活物質としてもちいたときのDSCチャートを、図5に比較例1のリチウム複合酸化物試料を正極活物質としてもちいたときのDSCチャートを、図6に比較例3のリチウム複合酸化物試料を正極活物質としてもちいたときのDSCチャートを示す。
【0093】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質によれば、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物からなる正極活物質を用いて、優れたサイクル特性、負荷特性及び安全性を有するリチウム二次電池を提供することができる。特に、本発明においては、高温下においてもサイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することができる。
また、該リチウム二次電池用正極活物質の製造方法によれば、該正極活物質を工業的に有利な方法で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
LiNiMnCo1−y−z1+x (1)
(式中、xは1.02≦x≦1.25、yは0.30≦y≦0.40、zは0.30≦z≦0.40を示す。)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に、Mg、Al、Ti、Cu及びZrから選ばれる1種または2種以上の金属原子(Me)を0.1モル%以上5モル%未満含有させたリチウム複合酸化物であって、粒子表面に存在するLiCO量が0.05〜0.20重量%であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物は平均粒径が1〜30μm、BET比表面積が0.1〜1m/gで、且つタップ密度が1.5g/ml以上であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物は、粒子表面に存在する単位面積あたりのLiCO量が1.5〜10mg/mであることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
残存するLiOHが0.15重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
(a)リチウム化合物と、(b)一般式;NiMnCo1−y−z(OH)
(式中、yは0.30≦y≦0.40、zは0.30≦z≦0.40を示す。)で表される複合水酸化物と、(c)金属原子(Me)含有化合物を混合し、得られる混合物を焼成して生成されるものであることを特徴とする請求項1乃至4記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記(b)の複合酸化物が、CuKα線によるX線回折分析において、2θ=38°付近の回折ピーク(A)と2θ=19°付近の回折ピーク(B)との強度比(A/B)が0.4以下のものを用いたものであることを特徴とする請求項5記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
(a)リチウム化合物と、(b)一般式;NiMnCo1−y−z(OH)
(式中、yは0.30≦y≦0.40、zは0.30≦z≦0.40を示す。)で表される複合水酸化物と、(c)Mg、Al、Ti、Cu及びZrから選ばれる1種または2種以上の金属原子(Me)含有化合物とを、Li/(Ni+Mn+Co+Me)の原子比が1.02〜1.25で、且つMe/(Ni+Mn+Co)の原子比で0.001以上0.05未満で混合する第1工程、次いで得られた混合物を800〜1000℃で焼成してリチウム複合酸化物を得る第2工程を有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
更に、得られたリチウム複合酸化物と二酸化炭素とを二酸化炭素濃度が50容量%以上の雰囲気中で接触させる第3工程を設けることを特徴とする請求項7記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記(b)複合水酸化物は、平均粒径が1〜30μm、BET比表面積が2〜10m/g、タップ密度が1g/ml以上であるものを用いることを特徴とする請求項7又は8記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記(b)複合水酸化物がCuKα線によるX線回折分析において、2θ=38°付近の回折ピーク(A)と2θ=19°付近の回折ピーク(B)との強度比(A/B)が0.4以下のものを用いることを特徴とする請求項7乃至9記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−113792(P2011−113792A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268752(P2009−268752)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】