説明

リチウム二次電池

【課題】イオン伝導性を有する固体電解質により被覆された活物質材料が正極として用いられており、良好なレート特性と容量保持率を有するリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】正極、負極、非水電解液、及びセパレータを有するリチウム二次電池において、前記負極として、金属酸化物ポリマーブロック4に有機ポリマーブロック5が酸素を介して結合した構造を有する共重合体6と、リチウム塩とを主成分とする固体電解質で被覆された正極活物質を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極、非水電解液、及びセパレータを有するリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル電子機器の小型化、薄型化、軽量化についての開発が非常に盛んに行われている。このような電子機器の小型化、薄型化、軽量化の波の中で、これらの電力を支える二次電池にも高性能化が要求されてきている。このような要望の中、高エネルギー密度電池として、リチウム二次電池の開発が急速に進められてきた。リチウム二次電池は構成する負極、正極、セパレータ、電解液等にて構成され、正極、負極で使用する活物質の種類によって電池の電圧が決定される。現在、正極活物質、負極活物質に関して、種々の材料検討がされているが、正極活物質では、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物等、LiMO2で示される層状構造を有する複合酸化物、または、LiM24で示されるスピネル構造を有する複合酸化物、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウム等が提案されている。ところが、正極はいずれの活物質を用いた場合でも、酸化状態という過酷な条件で使用されることも原因し、サイクル特性の問題が完全に解決されていないのが現状である。特にスピネル型リチウムマンガン酸化物LiMn24が正極活物質として使用されるときには充放電サイクル中の電解液中にMnが溶出することが劣化の原因の一つであると言われている。本発明の目的は、高容量で充放電サイクル後も電池容量の低下しない正極を設けることにより、サイクル特性の優れた非水電解質二次電池を提供することである。
【0003】
正極表面が酸化状態になることにより、サイクル特性が悪化する原因の一つには電解液が高電圧状態に耐えることができず、分解劣化してしまうことが考えられる。また、特に正極活物質としてスピネル型リチウムマンガン酸化物LiMn24が使用されるときには、マンガンの溶出がサイクル特性悪化原因の一つであると考えられている。この問題点を解決するために、正極活物質上にイオン伝導性の膜を作製し、電極特性の改善を試みた先行例がいくつかある。例えば特許文献1、3、4では正極表面上にポリエチレンオキサイドをスプレーするなどしてイオン伝導性の膜を正極表面上に被覆している。しかしながら、ここで作製されたイオン伝導性の膜と正極活物質表面との間ではたらく結合力は分子間力のみであり非常に弱いため、充放電サイクルに伴って起こる膜の膨張・収縮の大きさに追従できず、活物質表面より剥離が起こることが予測される。また特許文献2、5では正極表面上に無機イオン導電膜を作製することにより電極特性の改善を試みている。しかしながら、無機のみで作製された膜は柔軟性に乏しいため、充放電に伴う膜の膨張・収縮の大きさに追従できず、充放電に伴い、被膜が破壊されることが懸念される。以上のことは、正極活物質と電解液との接触を引き起こし、電解液の分解を引き起こし、電極の性能を悪化させる原因となる。
【特許文献1】特開平8-148183号公報
【特許文献2】特開平9-171813号公報
【特許文献3】特開平11-97027号公報
【特許文献4】特開2002-373643号公報
【特許文献5】特開2003-173770 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、正極として使用される活物質材料を、イオン伝導性を有する柔軟性のある固体電解質膜で被覆することで、正極表面の電解液の分解を防ぎ、且つ良好なレート特性を有するリチウム二次電池を提供することを目的とする。また、特に正極活物質としてスピネル型リチウムマンガン酸化物LiMn24を含むときにはMnの溶出を防ぐことでもサイクル特性の悪化を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解液、及びセパレータを有するリチウム二次電池において、前記正極は、金属酸化物ポリマーブロックに有機ポリマーブロックが酸素を介して結合した構造を有する共重合体とリチウム塩とを主成分とする固体電解質で被覆された活物質材料であることを特徴とする。なお、本明細書中でいう金属とは、一般的な金属の他に、Siのような半金属を含む広い概念とする。
【0006】
この構成により、金属酸化物ポリマーブロックに有機ポリマーブロックが結合した構造を有する共重合体を含む固体電解質の膜により正極活物質材料を被覆し、正極活物質材料と電解液とを非接触状態にすることができる。正極表面の被覆層が、電解液の分解劣化を最小限に抑えることに寄与して、サイクル特性の劣化を抑えているものと考えられる。
【0007】
また、金属酸化物ポリマーブロックに有機ポリマーブロックが酸素を介して結合した構造を有する共重合体を含む固体電解質はイオン伝導性を有するため、良好なレート特性を得ることができる。また、金属酸化物ポリマーブロックに有機ポリマーブロックが結合した構造を有する共重合体を含む固体電解質は、正極活物質の表面上で柔軟性のある膜となる。よって、充放電サイクルとともに正極活物質上より膜が剥離してしまうことがなく、良好な容量保持率を得ることができる。
【0008】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記共重合体に含まれる金属原子のうち5〜90%の金属原子は、1価の有機基と結合していることを特徴とすることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、固体電解質による緻密な膜で正極活物質を被覆することができるので、正極活物質と電解液とを確実に非接触状態として、電解液の分解を防ぐことができる。
【0010】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記有機基は、炭素数が1〜5のアルキル基又はアルケニル基であってよい。
【0011】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記共重合体は、少なくともSiを含有することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、大気中の水分に対する安定性のよい固体電解質の膜で正極活物質を被覆することができる。
【0013】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記共重合体は、Al、Ti、Zrからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含有してもよい。
【0014】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記有機ポリマーブロックは、下記一般式(1)
−((CH2m−O)n− ・・・(1)
(式中、mは2〜5の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)で示される構造単位を有することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、イオン伝導性のよい固体電解質の膜で確実に正極活物質を被覆することができ、レート特性の良好なリチウム二次電池を提供することができる。
【0016】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記有機ポリマーブロックの平均分子量は、100〜2000であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、イオン伝導性のよい固体電解質の膜でより確実に正極活物質を被覆することができる。
【0018】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記有機ポリマーブロックを形成するための前駆体が、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのうちから選択される1種以上であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記共重合体は、下記一般式(2)
1bM(OR2c(OH)a-b-c・・・(2)
(式中、Mは金属を表し、R1は1価の有機基を表し、R2は炭素数1〜8の低級アルキル基を表す。aは金属Mの価数を表す。bは0〜2の整数を表し、cは0以上の整数を表す。ただし、0≦c≦a−bとする。)で示される1種以上の金属酸化物の重縮合により生成された生成物に、有機高分子化合物を反応させて得られるものであってよい。
【0020】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記リチウム塩として、前記固体電解質の中には、CH3COOLi(酢酸リチウム)、LiClO4(過塩素酸リチウム)、LiCF3SO3(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiN(CF3SO22(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミノリチウム)、LiN(C25SO22(ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)アミノリチウム)からなる群から選ばれた少なくとも1種が含まれていてもよい。
【0021】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記固体電解質の膜厚は、50nm〜5μmであることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、正極でのリチウムイオンの挿入及び脱離を阻害することなく、確実に電解液の分解を抑制することができる。
【0023】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記共重合体を構成する金属酸化物ポリマーブロックと有機ポリマーブロックの重量比は、90:10〜20:80であることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、均一な固体電解質の膜で正極活物質を被覆することができる。
【0025】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記固体電解質のイオン伝導度は、1.0×10-6S/cm以上であることが好ましい。
【0026】
この構成によれば、レート特性の良好なリチウム二次電池を提供することができる。
【0027】
また、本発明に係るリチウム二次電池において、前記固体電解質のBET比表面積は、10m2/g以下であることが好ましい。
【0028】
この構成によれば、正極活物質と電解液との接触を確実に防止して、電解液の分解を確実に防ぐことができる。
【0029】
また、正極活物質としてスピネル型リチウムマンガン酸化物LiMn24を含むときにはMnの溶出を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のリチウム二次電池によれば、金属酸化物ポリマーブロックに有機ポリマーブロックが酸素を介して結合した構造を有する共重合体と、リチウム塩とを主成分とする固体電解質で被覆された正極活物質が正極として用いられるから、レート特性及び容量保持率が良好なリチウム二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明に係るリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解液、及びセパレータを有する構成とされている。
【0033】
<負極>
本発明において、負極を構成する材料としては、ダイアモンド型結晶構造を除く種々の炭素材料を使用することができ、具体例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、メソフェーズ球状炭素、ピッチ系やポリアクリロニトリル系材料を焼成した炭素、気相成長炭素、グラッシーカーボン、コークス、高分子材料焼成物、カーボンブラック、アセチレンブラックなどが挙げられ、これらの結晶構造としてグラファイト、不定形炭素、アモルファスカーボンとその中間体のいずれもが使用可能である。
【0034】
<正極>
本発明において、正極を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、正極活物質としては、LiCoO2(コバルト酸リチウム)、LiFePO4(リン酸鉄リチウム)、LiNiO2(ニッケル酸リチウム)、LiMn24(マンガン酸リチウム)、V25(五酸化バナジウム)、MnO2(二酸化マンガン)、TiS2(二硫化チタン)、MoS2(二硫化モリブデン)などの遷移金属の酸化物、及びカルコゲン化合物等を用いることができる。その中でもスピネル型リチウムマンガン酸化物LiMn24を含むときにはMnの溶出効果も認められる。
【0035】
また、前記した正極活物質の表面は、金属酸化物ポリマーブロックに有機ポリマーブロックが酸素を介して結合した構造を有する共重合体と、リチウム塩とを主成分とする固体電解質の膜により被覆されている。ここで、金属酸化物ポリマーブロックとは、具体的には、金属原子(以下、Mとする。)と酸素原子が結合して形成された繰り返し単位(−M−O−)を有するブロックをいう。なお、金属はいずれのものであってもよく、特に限定されるものではないが、Si、Al、Ti、Zrが好ましい。
【0036】
強固な骨格を成す金属酸化物ポリマーブロックに、イオン伝導性を担う有機ポリマーブロックが酸素を介して結合した構造を有する共重合体を主成分とする固体電解質は、正極活物質の表面上で、強固でありながら柔軟性を併せもつ被膜となる。また、この共重合体は、水酸基を有することで、正極活物質の表面に存在する水酸基などの官能基と重縮合することが可能であり、正極材料の表面に化学的に結合することが可能であるため、正極活物質に対する密着性の良い被膜となる。
【0037】
また、共重合体に含まれる金属原子のうち5〜90%、より好ましくは10〜80%の金属原子は、1価の有機基と結合していることが好ましい。このような金属原子に結合した有機基は、正極活物質の表面を被覆する固体電解質の膜中の細孔に入り込み、固体電解質の膜に柔軟性を付与するとともに、固体電解質の膜の緻密性を向上させる役割を果たす。なお、1価の有機基は、固体電解質の膜の緻密性を向上させることができるものであれば、いずれのものであってもよく、特に限定されるものではないが、炭素数が1〜5のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。
【0038】
また、共重合体を構成する有機ポリマーブロックは、イオン伝導性を有するものであればいずれの構造を有するものであってもよく、直鎖構造を有するものであっても、分岐構造を有するものであってもどちらでもよいが、下記一般式(1)
−((CH2m−O)n− ・・・(1)
(式中、mは1〜3の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)で示される構造単位を有するものが好ましい。このような構造単位を有する有機ポリマーブロックは、分子中に酸素原子を有するため、リチウム等のアルカリ金属塩と錯体を形成して高いイオン伝導性を有する。
【0039】
また、有機ポリマーブロックの平均分子量は、良好なイオン伝導性を示し、且つ、金属酸化物ポリマーブロックに結合した状態で正極活物質の表面上に良好な被膜を形成することができるものであれば、特に、限定されるものではないが、100〜2000であることが好ましく、100〜1000であることが特に好ましい。平均分子量が2000よりも大きい場合には、適度なイオン伝導性を得ることができないおそれがあり、100よりも小さい場合には、正極材料の表面上に被膜を作製するための骨格が十分に発達しないおそれがある。
【0040】
具体的に言えば、例えば、ポリアルキレングリコール及びポリエーテルは、ガラス転移温度(Tg)以上のゴム領域で、巨視的には固体であるが、化学的あるいは物理的な架橋構造のため、微視的には高分子鎖が液体のような状態でありイオン伝導性を示す。このようなポリアルキレングリコール及びポリエーテルは分子量の増大とともにガラス転移温度が増大し、それに伴い、イオン伝導度が減少する傾向を持つことが知られている。このようなことに鑑みれば、共重合体において、高いイオン伝導度を備えるには、有機ポリマーブロックの分子量は低く設定されていることが好ましいと言える。しかしながら、有機ポリマーブロックの分子量が低すぎる共重合体では、被膜を作製するための骨格が十分に発達していないおそれがあり、膜の作製が困難となるおそれがある。よって、本発明において、有機ポリマーブロックの平均分子量は、上記したように、100〜2000であることが好ましく、100〜1000であることが特に好ましい。
【0041】
前記有機ポリマーブロックを形成するための前駆体は、特に、限定されるものではないが、ポリアルキレングリコールやポリエーテルといった有機高分子化合物が好ましい。ポリアルキレングリコール及びポリエーテルといった有機高分子化合物は両末端に水酸基を有するため、金属酸化物が持つ水酸基との間で重縮合することが可能であり、金属酸化物ポリマーブロックに有機ポリマーブロックが酸素を介して結合した構造を有する共重合体を生成させることが可能である。
【0042】
なお、ポリアルキレングリコール及びポリエーテルの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンポリエーテル、シリコーンポリエーテル、アクリルポリエーテル、ホスファゼンポリエーテルなどを挙げることができる。これらの中でも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールは比較的入手が容易であり、コスト面からも好ましい。
【0043】
また、共重合体を構成する金属酸化物ポリマーブロックと有機ポリマーブロックの重量比は、正極活物質の表面上に均一な固体電解質の膜を作製することができる比率であれば、特に限定されるものではいが、具体例としては、90:10〜20:80であることが好ましい。金属酸化物ポリマーブロックに対する有機ポリマーブロックの重量が10/90よりも少ない場合には、正極活物質材料の表面上に、正極活物質材料の膨張収縮変化に追随して構造を変化させることができる固体電解質の膜、即ち、柔軟性に優れた固体電解質の膜を作製することができないおそれがある。加えて、正極活物質材料の表面上に、適度なイオン伝導性を有する固体電解質の膜を作製することができず、レート特性に劣るリチウム二次電池となるおそれがある。また、金属酸化物ポリマーブロックに対する有機ポリマーブロックの重量が80/20よりも大きい場合には、正極活物質の表面上に、密着性に優れた固体電解質の膜を作製することができないおそれがある。
【0044】
上記したような、共重合体は、例えば、下記一般式(2)
1bM(OR2c(OH)a-b-c・・・(2)
(式中、Mは金属を表し、R1は1価の有機基を表し、R2は炭素数1〜8の低級アルキル基を表す。aは金属Mの価数を表す。bは0〜2の整数を表し、cは0以上の整数を表す。ただし、0≦c≦a−bとする。)で示される1種以上の金属酸化物の重縮合により生成された生成物に、有機高分子化合物を反応させることにより得られる。
【0045】
具体的には、Mで示される金属は、あらゆる金属元素より選択することができるが、好適な具体例としては、Si、Al、Ti、Zrを挙げることができる。
【0046】
また、R1で示される有機基は、重縮合に際して、立体的な障害となり難く、正極活物質の表面への膜形成に必要な骨格を十分に発達させることができるものであれば、いずれの有機基であってもよい。例えば、R1で示される有機基としては、炭素数が1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの非置換一価炭化水素基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子(塩素、フッ素、臭素原子等)、シアノ基、オキシエチレン基等のオキシアルキレン基、ポリオキシエチレン基等のポリオキシアルキレン基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、ウレイド基、エポキシ基などの官能基で置換した置換一価炭化水素基、これら非置換又は置換一価炭化水素基において、−O−、−NH−、−N(CH3)−、−N(C65)−、C65NH−、H2NCH2CH2NH−等が介在した基を挙げることができる。
【0047】
1で示される有機基のより具体的な例としては、CH3−、CH3CH2−、CH3CH2CH2−などのアルキル基、CH2=CH−、CH2=CHCH2−、CH2=C(CH3)−などのアルケニル基、C65−などのアリール基、ClCH2−、ClCH2CH2CH2−、CF3CH2CH2−、CNCH2CH2−、CH3−(CH2CH2O)m−CH2CH2CH2−(但し、mは1以上の整数である。)、CH2(O)CHCH2OCH2CH2CH2−(但し、CH2(O)CHCH2はグリシジル基を示す)、CH2=CHCOOCH2−、CH2=CHCOOCH2CH2CH2−、CH2=CCH3COOCH2CH2CH2、HSCH2CH2CH2−、NH2CH2CH2CH2−、NH2CH2CH2NHCH2CH2CH2−、NH2CONHCH2CH2CH2−などが挙げられる。
【0048】
上記した有機基の中でも、特に、炭素数が1〜5のアルキル基及びアルケニル基が、他の有機基と比べて、重縮合反応における立体的な障害となり難く、正極活物質材料の表面への膜形成に必要な骨格を十分に発達させ易いため、好ましい。また、一般式(2)においてbが2の場合、R1で示される2個の有機基は、同一の有機基であってもよいし、それぞれ異なる有機基であってもよい。
【0049】
また、一般式(2)において、R2で示される炭素数が1〜8の低級アルキル基は、直鎖状のものであても、分岐鎖を有するものであってもよく、具体例としては、−CH3、−CH2CH3、−CH(CH3)、−CH2CH2CH3などのアルキル基を挙げることができる。なお、上記一般式(2)で示される金属アルコキシドにおいて、cが2以上の場合、c個のR2はすべて同一の基であってもよいし、それぞれ異なる基であっていてもよい。
【0050】
また、上記一般式(2)で示される金属酸化物は、特に限定されるものではないが、具体例としては、下記一般式(3)
1bM(OR2a-b・・・(3)
(式中、Mは金属を表し、R1は1価の有機基を表し、R2は炭素数1〜8の低級アルキル基を表す。aは金属Mの価数を表す。bは0〜2の整数を表す。)で示される金属アルコキシドを加水分解することにより生成されるものを挙げることができる。なお、一般式(3)における、R1、M、及びR2は、それぞれ、上記した一般式(2)におけるR1、M、及びR2と同様のものである。
【0051】
すなわち、本発明において、共重合体は、上記一般式(3)で示される金属アルコキシドが持つアルコキシ基を加水分解することにより生成された上記一般式(2)で示される1種以上の金属酸化物間で脱水反応及び脱アルコール反応による重縮合反応が進んで得られたものに、さらに、有機高分子化合物を重縮合反応させたものであってよい。
【0052】
上記一般式(3)で示される金属アルコキシドのうち、R1で示される有機基を有しないもの(bが0のもの)の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−ブトキシチタン(IV)、トリ‐sec‐ブトキシアルミニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、トリエトキシアルミニウム、トリイソポロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム等を挙げることができる。
【0053】
また、上記一般式(3)で示される金属アルコキシドのうち、R1で示される有機基を有するもの(bが1又は2のもの)の具体例としては、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、3−ヨードプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0054】
一般式(3)で示される金属アルコキシドのうち、Mで示される金属がSi、Al、Ti、又はZrの金属アルコキシドは、比較的入手が容易である。これらの中でも、Siのアルコキシドは、大気中の水分に対する安定性、コスト、取り扱い安さの点で優れている。
【0055】
また、これらの一般式(3)で示される金属アルコキシドは、単独で使用しても、併用して使用してもよい。
【0056】
なお、上記した一般式(3)で示される金属アルコキシドを用いて、有機基が結合した金属原子を含有する共重合体を生成させるには、R1で示される有機基を有しない(bが0の)一般式(3)で示される金属アルコキシドとR1で示される有機基を有する(bが1又は2の)一般式(3)で示される金属アルコキシドとの混合物を加水分解し、重縮合反応を実施する。ここで、R1で示される有機基を有しない(bが0の)一般式(3)で示される金属アルコキシドと、R1で示される有機基を有する(bが1又は2の)一般式(3)で示される金属アルコキシドとは、モル比で95:5〜10:90、より好ましくは90:10〜20:80の割合で混合されることが好ましい。R1で示される有機基を有さない金属アルコキシドに対して、R1で示される有機基を有する(bが1又は2の)金属アルコキシドが多すぎると、加水分解・重縮合反応に際して有機基が立体的な障害となり、正極活物質の表面への膜形成に必要な骨格を形成することができる共重合体を生成させることができないおそれがあり、逆に少なすぎると、正極活物質の表面に緻密な膜を形成することができる共重合体を生成させることができないおそれがある。
【0057】
また、金属酸化物ポリマーブロックと有機ポリマーブロックの重量比が90:10〜20:80の共重合体を得るためには、上記一般式(2)で示される1種以上の金属酸化物と有機高分子化合物との重量比が90:10〜20:80になるように、金属酸化物の重縮合により生成された生成物に、有機高分子化合物を反応させる。
【0058】
また、固体電解質中に含まれるリチウム塩としては、CH3COOLi、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22等が挙げられる。なお、上記したリチウム塩は単体又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
また、固体電解質のイオン伝導度としては、1.0×10-6S/cm以上であることが好ましい。1.0×10-6S/cm未満の場合、実質的にイオン透過性が無いことになり、電池としての電流密度が低下するためレート特性の悪い電池となってしまう。さらに好ましくは1.0×10-5S/cm以上である。
【0060】
なお、この固体電解質のリチウムイオン透過性は、リチウムイオン伝導度に対応しており、リチウムイオン伝導度は、通常の評価法である交流インピーダンス測定によって求めることができる。具体的には電解液に浸漬した被覆電極のインピーダンス測定を行い、コールコールプロットにおいて抵抗値を求め、未被覆電極で求めた抵抗値の増加抵抗からリチウムイオン伝導度を求めることができる。
【0061】
また、本発明において、固体電解質の膜は正極活物質と電解液との接触を防ぎ、電解液の分解を防ぐ役割を担うため、固体電解質の膜は膜中に細孔をほとんど持たない方が良い。膜に存在する細孔が多い場合、つまりBET比表面積の大きい被膜の場合、被膜中に電解液が入り込み、電解液が炭素表面に到達することにより電解液の分解が起こる。したがって、上記固体電解質膜のBET比表面積はある程度小さい値を持つ必要がある。具体的には、固体電解質の膜のBET比表面積は10m2/g以下であることが好ましい。なお、BET比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0062】
また、正極活物質の表面を被覆する固体電解質の膜厚は、電解液の分解を十分に抑制することができ、且つ、正極活物質へのリチウムイオンの挿入・脱離を十分に行うことができる厚さであれば、特に限定されないが、具体例としては、50nm〜5μmであることが好ましく、特に、100nm〜3μmであることが好ましい。固体電解質の膜厚が、50nmよりも薄い場合には、部分的にしか正極活物質の表面を覆うことができないおそれがあり、十分に電解液の分解を抑制することができないおそれがある。また、固体電解質の膜厚が5μよりも厚い場合には、リチウムイオン伝導に対する膜抵抗が大きくなり、正極活物質へのリチウムイオンの挿入・脱離を十分に行うことができないおそれがある。
【0063】
<非水電解液>
本発明において、非水電解液は特に限定されないが、溶媒として、エチレンカーボネート(以下、ECと略す)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート(以下、DECと略す)、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル類や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチル等の極性溶媒を使用することができる。これらの溶媒は単独で使用しても、あるいは2種以上を混合して混合溶媒として使用してもよい。
【0064】
また、非水電解液には、電解質塩が含まれていてもよい。電解質塩としては、LiClO4、LiBF4(ホウフッ化リチウム)、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiCF3SO3(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiF(フッ化リチウム)、LiCl(塩化リチウム)、LiBr(臭化リチウム)、LiI(ヨウ化リチウム)、AlCl4Li(四塩化アルミン酸リチウム)等のリチウム塩が挙げられる。これらは単独でしても、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0065】
電解質塩の濃度は、特に限定されないが、0.5mol/L〜2.5mol/Lが好ましく、より好ましくは1.0mol/L〜2.2mol/Lである。電解質塩の濃度が、0.5mol/L未満の場合には、非水電解液中において電荷を運ぶキャリア濃度が低くなり、非水電解液の抵抗が高くなるおそれがあるので好ましくない。また、電解質塩の濃度が、2.5mol/Lより高い場合には、塩自体の解離度が低くなり、非水電解液中のキャリア濃度が上がらないおそれがあるので好ましくない。
【0066】
<セパレータ>
セパレータは、特に限定されないが、材質としては、電解質中に含まれる有機溶媒に対して溶けたり膨潤したりしないものが適している。具体的には、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン高分子よりなるセパレータを使用できる。化学的及び電気化学的安定性の点から、セパレータはポリオレフィン製であることが好ましく、電池セパレータの目的の一つである自己閉塞温度の点からポリエチレン製であることが望ましい。
【0067】
セパレータがポリエチレンからなる場合、高温形状維持性の点から超高分子量ポリエチレンであることが好ましい。このポリエチレンの分子量の下限は、好ましくは50万、更に好ましくは100万、最も好ましくは150万である。他方、分子量の上限は、好ましくは500万、更に好ましくは400万、最も好ましくは300万である。分子量が大きすぎると、流動性が低すぎて加熱された時、セパレータの孔が閉塞しない場合がある。なお、ここでの分子量は、クロマトグラフィー法により測定した数平均分子量を意味する。
【0068】
<外装材>
本発明に係るリチウム二次電池の外装材は、特に限定されないが、金属製の缶、例えば鉄、ステンレススチール、アルミニウムなどからできている缶が好ましい。また、アルミを樹脂でラミネートしたフィルムを使用してもよい。形状は円筒型、角型、薄型等いずれでもよい。
【0069】
<用途>
本発明のリチウム二次電池の用途は、特に限定されないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、サブノートパソコン、ペン入力パソコン、ポケット(パームトップ)パソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、携帯音楽プレーヤー、電気シェーバー、電子翻訳機、トランシーバー、電動工具、電子手帳、電卓、ICレコーダー、ラジオ、バックアップ電源などが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、アイロン、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、他の二次電池や太陽電池と組み合わせることもできる。
【0070】
以下に、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
<負極の作製>
−負極板の形成−
負極作製において、負極活物質として中国産の鱗状天然粉末黒鉛 (平均粒径10μm) を100g、導電助材としてアセチレンブラックを2.5g、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略す。)を12g、及び溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す。)を加えて、プラネタリーミキサーにより混練して分散を行い、負極のペーストを作製した。作製したペーストを塗工装置にて負極板集電体である厚み10μmの銅箔の片面に未塗工部を設定して均一に塗工した。塗工した電極は、油圧プレス機を用いてプレスし、塗工部を30mm×30mmの大きさに切り抜くことにより負極板を形成した。
【0072】
<正極の作製>
−正極板の形成−
正極作製において、正極活物質としてLiMn24を100g、導電助材としてアセチレンブラックを5g、バインダーとしてPVDFを5g、及び溶剤としてNMPを加えて、プラネタリーミキサーにより混練して分散を行い正極のペーストを作製した。作製したペーストを塗工装置にて正極板集電体である厚み20μmのアルミニウム箔の片面に未塗工部を設定して均一に塗工した。塗工した電極はさらに、油圧プレス機を用いてプレスし、塗工部を28mm×28mmの大きさに切り抜くことで正極板を形成した。上記のようにして作製した正極板を減圧下150℃で8時間熱処理し、乾燥させた。
【0073】
−コーティング溶液(固体電解質)の調製−
まず、テトラメトキシシランとメチルトリエトキシシランとをモル比が20:80となるように混合し、さらに、このテトラメトキシシランとメチルトリエトキシシランの混合液に対しモル比で20倍となるように、エタノールを加えた。この溶液を30分間撹拌し、0.01mol/LのHCl水溶液をテトラメトキシシランに対してモル比で4倍、メチルトリエトキシシランに対してモル比で3倍になるように加え、さらに2時間撹拌した。さらに、この混合液に、テトラメトキシシランとメチルトリエトキシシランのすべてが金属酸化物となったと仮定した場合における金属酸化物の半分の重量のポリエチレングリコール(平均分子量200)を加え1時間撹拌した。さらにこの混合溶液にCH3COOLiを加え3時間撹拌することによりコーティング溶液を得た。
【0074】
−被膜(固体電解質膜)の作製−
図1は、本発明の実施例1に係るリチウム二次電池の作製において、正極表面に固体電解質による被膜を作製する方法を説明するための説明図である。
【0075】
上述のようにして得られたコーティング溶液1中に、先に形成しておいた正極板2を10秒浸漬した後、引き上げモーター3により、2.6mm/secの速さで正極板2を引上げた。正極板2の浸漬、引上げ操作を5回繰り返すことにより正極板2を構成する活物質表面上に固体電解質による被膜を作製した。被膜を作製した電極は空気中60℃で3時間熱処理した後、減圧下100℃にて8時間熱処理を行った。作製された被膜は電子顕微鏡で確認したところ、約1μmの厚みを持つことが認められた。
【0076】
図2は、本発明の実施例1に係るリチウム二次電池において、正極表面上に作製された固体電解質による被膜の化学構造を説明するための説明図である。
【0077】
被膜を構成する固体電解質は、テトラメトキシシランとメチルトリエトキシシラン(金属アルコキシド)の加水分解・重縮合反応により形成された金属酸化物ポリマーブロック4にポリエチレングリコール(有機高分子化合物)により形成された有機ポリマーブロック5が酸素を介して結合した構造を有する共重合体6を含む構成とされている。そして、さらに、CH3COOLiに起因するリチウムイオン(Li+)が取り込まれている。
【0078】
<電池の組み立て>
上記のように固体電解質で被覆した正極板と、負極板に、電池の電流導入端子として正極板には幅5mm、長さ50mmのアルミニウム製タブを、負極板には幅5mm、長さ50mmニッケル製タブを溶接し正極電極と負極電極を作製した。
【0079】
作製した正極電極と負極電極との間に多孔質ポリエチレン製のセパレータを挟み、長方形の2枚のアルミラミネート樹脂を用いて3辺をシールして袋状の外装材(電池容器)としたものに挿入した。また、アルミラミネート樹脂でシールをしなかった残りの1辺を電解液注入用の開口部とした。
【0080】
そして、1mol/LのLiPF6/EC+DEC(体積比1:2)の非水電解液を、外装材の中に含浸させた。その後、外装材の開口部を封止してリチウム二次電池の作製を完了とした。
【0081】
[実施例2]
実施例1と同様にして正極を作製した後、以下に示す方法により、テトラメトキシシランとビニルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、実施例1と同様に、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。
【0082】
すなわち、テトラメトキシシランとビニルトリエトキシシランとをモル比が20:80となるように混合し、さらに、このテトラメトキシシランとビニルトリエトキシシランの混合液に対しモル比で20倍となるように、エタノールを加えた。この溶液を30分間撹拌し、0.01mol/LのHCl水溶液をテトラメトキシシランに対してモル比で4倍、ビニルトリエトキシシランに対してモル比で3倍になるように加え、さらに2時間撹拌した。さらに、この混合液に、テトラメトキシシランとビニルトリエトキシシランのすべてが金属酸化物となったと仮定したときの重量の半分となるようにポリエチレングリコール(平均分子量200)を加え1時間撹拌した。さらにこの混合溶液にCH3COOLiを加え3時間撹拌することによりコーティング溶液を得た。
【0083】
このようにして得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例2に係るリチウム二次電池を得た。
【0084】
[実施例3]
実施例1と同様にして正極を作製した後、以下に示す方法により、テトラ−n−ブトキシチタン(IV)とメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、実施例1と同様に、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。
【0085】
すなわち、テトラ−n−ブトキシチタン(IV)とメチルトリエトキシシランとをモル比が20:80となるように混合し、さらに、このテトラ−n−ブトキシチタン(IV)とメチルトリエトキシシランの混合液に対しモル比で20倍となるように、エタノールを加えた。この溶液を30分間撹拌し、0.01mol/LのHCl水溶液をテトラ−n−ブトキシチタン(IV)に対してモル比で4倍、メチルトリエトキシシランに対してモル比で3倍になるように加え、さらに2時間撹拌した。さらに、この混合液に、テトラ−n−ブトキシチタン(IV)とメチルトリエトキシシランのすべてが金属酸化物となったと仮定したときの重量の半分となるようにポリエチレングリコール(平均分子量200)を加え1時間撹拌した。さらにこの混合溶液にCH3COOLiを加え3時間撹拌することによりコーティング溶液を得た。
【0086】
このようにして得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例3に係るリチウム二次電池を得た。
【0087】
[実施例4]
実施例1と同様にして正極を作製した後、以下に示す方法により、トリ‐sec‐ブトキシアルミニウムとメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、実施例1と同様に、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。
【0088】
すなわち、トリ‐sec‐ブトキシアルミニウムとメチルトリエトキシシランとをモル比が20:80となるように混合し、さらに、このトリ‐sec‐ブトキシアルミニウムとメチルトリエトキシシランの混合液に対しモル比で20倍となるように、エタノールを加えた。この溶液を30分間撹拌し、0.01mol/LのHCl水溶液をトリ‐sec‐ブトキシアルミニウムに対してモル比で3倍、メチルトリエトキシシランに対してモル比で3倍になるように加え、さらに2時間撹拌した。さらに、この混合液に、トリ‐sec‐ブトキシアルミニウムとメチルトリエトキシシランのすべてが金属酸化物となったと仮定したときの金属酸化物の重量の半分となるようにポリエチレングリコール(平均分子量200)を加え1時間撹拌した。さらにこの混合溶液にCH3COOLiを加え3時間撹拌することによりコーティング溶液を得た。
【0089】
このようにして得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例4に係るリチウム二次電池を得た。
【0090】
[実施例5]
実施例1と同様にして正極を作製した後、以下に示す方法により、テトラ−n−プロポキシジルコニウム(IV)とメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、実施例1と同様に、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。
【0091】
すなわち、テトラ−n−プロポキシジルコニウム(IV)とメチルトリエトキシシランとをモル比が20:80となるように混合し、さらに、このテトラ−n−プロポキシジルコニウム(IV)とメチルトリエトキシシランの混合液に対しモル比で20倍となるように、エタノールを加えた。この溶液を30分間撹拌し、0.01mol/LのHCl水溶液をテトラ−n−プロポキシジルコニウム(IV)に対してモル比で4倍、メチルトリエトキシシランに対してモル比で3倍になるように加え、さらに2時間撹拌した。さらに、この混合液に、テトラ−n−プロポキシジルコニウム(IV)とメチルトリエトキシシランのすべてが金属酸化物となったと仮定したときの金属酸化物の重量の半分となるようにポリエチレングリコール(平均分子量200)を加え1時間撹拌した。さらにこの混合溶液にCH3COOLiを加え3時間撹拌することによりコーティング溶液を得た。
【0092】
このようにして得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例5に係るリチウム二次電池を得た。
【0093】
[実施例6]
実施例1で示したコーティング溶液の調製において、有機高分子化合物として、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の代わりに、ポリプロピレングリコール(平均分子量400)を用い、実施例1と同様の方法により、実施例6に係るリチウム二次電池を得た。
【0094】
[実施例7]
実施例1と同様にして正極を作製した後、以下に示す方法により、テトラエトキシシランのみを金属アルコキシドとして用い、さらに、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。
【0095】
すなわち、テトラエトキシシランに対しモル比で20倍となるように、エタノールを加えた。この溶液を30分間撹拌し、0.01mol/LのHCl水溶液をテトラエトキシシランに対してモル比で4倍加え、さらに2時間撹拌した。さらに、この混合液に、テトラエトキシシランのすべてが金属酸化物ポリマーとなったと仮定したときの重量の半分となるようにポリエチレングリコール(平均分子量200)を加え1時間撹拌した。さらにこの混合溶液にCH3COOLiを加え3時間撹拌することによりコーティング溶液を得た。
【0096】
このようにして得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例7に係るリチウム二次電池を得た。
【0097】
[実施例8]
実施例1と同様にして正極を作製した後、以下に示す方法により、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。
【0098】
まず、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランとをモル比が95:5となるように混合し、さらに、このテトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランの混合液に対しモル比で20倍となるように、エタノールを加えた。この溶液を30分間撹拌し、0.01mol/LのHCl水溶液をテトラエトキシシランに対してモル比で4倍、メチルトリエトキシシランに対してモル比で3倍になるように加え、さらに2時間撹拌した。さらに、この混合液に、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランのすべてが金属酸化物となったと仮定したときの金属酸化物の重量の半分となるようにポリエチレングリコール(平均分子量200)を加え1時間撹拌した。さらにこの混合溶液にCH3COOLiを加え3時間撹拌することによりコーティング溶液を得た。
【0099】
このようにして得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例8に係るリチウム二次電池を得た。
【0100】
[実施例9]
実施例1と同様にして正極を作製した後、実施例9と同様に、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。ただし、本実施例では、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランとをモル比が90:10となるように混合した。これにより得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例9に係るリチウム二次電池を得た。
【0101】
[実施例10]
実施例1と同様にして正極を作製した後、実施例9と同様に、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。ただし、本実施例では、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランとをモル比が50:50となるように混合した。これにより、得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例10に係るリチウム二次電池を得た。
【0102】
[実施例11]
実施例1と同様にして正極を作製した後、実施例9と同様に、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。ただし、本実施例では、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランとをモル比が10:90となるように混合した。これにより、得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例11に係るリチウム二次電池を得た。
【0103】
[実施例12]
実施例1と同様にして正極を作製した後、実施例9と同様に、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。ただし、本実施例では、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランとをモル比が5:95となるように混合した。これにより得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例12に係るリチウム二次電池を得た。
【0104】
[実施例13]
実施例1で示したコーティング溶液の調製において、有機高分子化合物として、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の代わりに、ポリエチレングリコール(平均分子量100)を用い、実施例1と同様の方法により、実施例13に係るリチウム二次電池を得た。
【0105】
[実施例14]
実施例1で示したコーティング溶液の調製において、有機高分子化合物として、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の代わりに、ポリエチレングリコール(平均分子量1000)を用い、実施例1と同様の方法により、実施例14に係るリチウム二次電池を得た。
【0106】
[実施例15]
実施例1で示したコーティング溶液の調製において、有機高分子化合物として、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の代わりに、ポリプロピレングリコール(平均分子量2000)を用い、実施例1と同様の方法により、実施例15に係るリチウム二次電池を得た。
【0107】
[実施例16]
実施例1で示したコーティング溶液の調製において、有機高分子化合物として、ポリエチレングリコール(平均分子量200)の代わりに、ポリプロピレングリコール(平均分子量4000)を用い、実施例1と同様の方法により、実施例16に係るリチウム二次電池を得た。
【0108】
[実施例17]
実施例1と同様の方法により正極の作製及びコーティング溶液の調製を行った後、次に示す方法により、被膜(固体電解質膜)の作製を行った。
【0109】
すなわち、エタノールで3倍希釈したコーティング溶液1中に、実施例1と同様(図2参照)に、先に形成しておいた正極板2を10秒浸漬した後、引き上げモーター3により、2.6mm/secの速さで正極板2を引上げた。正極板2の浸漬、引上げ操作を2回繰り返すことにより正極板2を構成する正極活物質上に固体電解質による被膜を作製した。被膜を作製した電極は空気中60℃で3時間熱処理した後、減圧下100℃にて8時間熱処理を行った。作製された被膜は電子顕微鏡で確認したところ、約50nmの厚みを持つことが認められた。
【0110】
さらに、実施例1と同様の方法により、負極を作製及び電池の組み立てを行って実施例17に係るリチウム二次電池を得た。
【0111】
[実施例18]
実施例1と同様の方法により正極の作製及びコーティング溶液の調製を行った後、次に示す方法により、被膜(固体電解質膜)の作製を行った。
【0112】
すなわち、エタノールで3倍希釈したコーティング溶液1中に、実施例1と同様(図2参照)に、先に形成しておいた正極板2を10秒浸漬した後、引き上げモーター3により、2.6mm/secの速さで正極板2を引上げた。正極板2の浸漬、引上げ操作を3回繰り返すことにより正極板2を構成する正極活物質上に固体電解質による被膜を作製した。被膜を作製した電極は空気中60℃で3時間熱処理した後、減圧下100℃にて8時間熱処理を行った。作製された被膜は電子顕微鏡で確認したところ、約100nmの厚みを持つことが認められた。
【0113】
さらに、実施例1と同様の方法により、負極を作製及び電池の組み立てを行って実施例18に係るリチウム二次電池を得た。
【0114】
[実施例19]
実施例1と同様の方法により正極の作製及びコーティング溶液の調製を行った後、次に示す方法により、被膜(固体電解質膜)の作製を行った。
【0115】
すなわち、コーティング溶液1中に、実施例1と同様(図2参照)に、先に形成しておいた正極板2を10秒浸漬した後、引き上げモーター3により、1.0mm/secの速さで正極板2を引上げた。正極板2の浸漬、引上げ操作を1回繰り返すことにより正極板2を構成する正極活物質上に固体電解質による被膜を作製した。被膜を作製した電極は空気中60℃で3時間熱処理した後、減圧下100℃にて8時間熱処理を行った。作製された被膜は電子顕微鏡で確認したところ、約3μmの厚みを持つことが認められた。
【0116】
さらに、実施例1と同様の方法により、負極を作製及び電池の組み立てを行って実施例19に係るリチウム二次電池を得た。
【0117】
[実施例20]
実施例1と同様の方法により正極の作製及びコーティング溶液の調製を行った後、次に示す方法により、被膜(固体電解質膜)の作製を行った。
【0118】
すなわち、コーティング溶液1中に、実施例1と同様(図2参照)に、先に形成しておいた正極板2を10秒浸漬した後、引き上げモーター3により、2.6mm/secの速さで正極板2を引上げた。正極板2の浸漬、引上げ操作を8回繰り返すことにより正極板2を構成する正極活物質上に固体電解質による被膜を作製した。被膜を作製した電極は空気中60℃で3時間熱処理した後、減圧下100℃にて8時間熱処理を行った。作製された被膜は電子顕微鏡で確認したところ、約5μmの厚みを持つことが認められた。
【0119】
さらに、実施例1と同様の方法により、負極を作製及び電池の組み立てを行って実施例20に係るリチウム二次電池を得た。
【0120】
[実施例21]
実施例1と同様にして正極を作製した後、実施例1と同様に、テトラメトキシシランとメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。ただし、本実施例では、テトラメトキシシランとメチルトリエトキシシランのすべてが金属酸化物となったと仮定した場合における金属酸化物と有機高分子化合物との重量比が90:10となるように、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を加えてコーティング溶液を調製した。これにより、得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例21係るリチウム二次電池を得た。
【0121】
[実施例22]
実施例1と同様にして正極を作製した後、実施例1と同様に、テトラメトキシシランとメチルトリエトキシシランを金属アルコキシドとして用い、さらに、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を有機高分子化合物として用いてコーティング溶液を調製した。ただし、本実施例では、テトラメトキシシランとメチルトリエトキシシランのすべてが金属酸化物となったと仮定した場合における金属酸化物と有機高分子化合物との重量比が20:80となうように、ポリエチレングリコール(平均分子量200)を加えてコーティング溶液を調製した。これにより、得られたコーティング溶液を用いて、実施例1と同様の方法により被膜(固体電解質膜)の作製を行い、さらに、実施例1と同様の方法により、負極の作製、及び電池の組み立てを行って実施例22に係るリチウム二次電池を得た。
【0122】
[実施例23]
正極活物質材料としてコバルト酸リチウムLiCoO2を使用した。他については実施例1と同様の方法によりリチウム二次電池を作製した。これを実施例23とする。
【0123】
[実施例24]
正極活物質材料としてリン酸鉄リチウムLiFePO4を使用した。他については実施例1と同様の方法によりリチウム二次電池を作製した。これを実施例24とする。
【0124】
[比較例1]
表面に被膜の作製を行わなかったLiMn24正極を用い、比較例1に係るリチウム二次電池を作製した。すなわち、比較例1に係るリチウム二次電池は、実施例1に係るリチウム二次電池の作製において、コーティング溶液の調製及び被膜(固体電解質膜)の作製の工程が省略されて作製されたものである。
【0125】
[比較例2]
表面に被膜の作製を行わなかったコバルト酸リチウムLiCoO2正極を用い、比較例2に係るリチウム二次電池を作製した。すなわち、比較例2に係るリチウム二次電池は、実施例1に係るリチウム二次電池の作製において、正極活物質としてLiMn24の代わりにコバルト酸リチウムLiCoO2を用い、コーティング溶液の調製及び被膜(固体電解質膜)の作製の工程が省略されて作製されたものである。
【0126】
[比較例3]
表面に被膜の作製を行わなかったリン酸鉄リチウムLiFePO4正極を用い、比較例3に係るリチウム二次電池を作製した。すなわち、比較例3に係るリチウム二次電池は、実施例1に係るリチウム二次電池の作製において、正極活物質としてLiMnO4の代わりリン酸鉄リチウムLiFePO4を用い、コーティング溶液の調製及び被膜(固体電解質膜)の作製の工程が省略されて作製されたものである。
【0127】
<電池の性能試験>
上記した実施例1〜24及び比較例1〜3に係るリチウム二次電池について、以下に示す方法により、性能試験を実施した。
【0128】
すなわち、実施例1〜23及び比較例1、2に係るリチウム二次電池については、充放電温度を25℃とし、定電流0.1Cで上限電圧4.2Vになるまで充電を行った後、さらに、定電圧4.2Vで電流値が0.01Cに達するまで充電を行った。その後、定電流0.1Cで、電池電圧が3.0Vになるまで放電を行った。この時(第1サイクル目)の放電容量を測定した。次に再度、同条件で充電、放電、充電を行った後、電流値を1Cにて放電を行った。そして、1C放電容量/0.1C放電容量にてレート特性の算出を行った。この計算で用いた0.1C放電容量は、2回目の放電にて得られた値である。
【0129】
さらに、同条件(1C)で充電、放電を繰り返して100サイクル目の放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量を100サイクル目(放電)容量保持率として求めた。
【0130】
実施例24及び比較例3に係るリチウム二次電池については、上記方法に準じるが、定電流0.1Cで上限電圧3.6Vになるまで充電を行った後、さらに、定電圧3.6Vで電流値が0.01Cに達するまで充電を行った。その後、定電流0.1Cで、電池電圧が2.0Vになるまで放電を行った。この時(第1サイクル目)の放電容量を測定した。次に再度、同条件で充電、放電、充電を行った後、電流値を1Cにて放電を行った。そして、1C放電容量/0.1C放電容量にてレート特性の算出を行った。この計算で用いた0.1C放電容量は、2回目の放電にて得られた値である。
【0131】
さらに、同条件で充電、放電を繰り返して100サイクル目の放電容量を測定し、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量を100サイクル目(放電)容量保持率として求めた。
【0132】
表1に、実施例1〜6、及び比較例1に係るリチウム二次電池の性能試験の結果を、正極を構成する活物質材料を被覆する固体電解質膜のイオン伝導度及びBET比表面積と共に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
表1に示される結果より、実施例1〜6に係るリチウム二次電池は、固体電解質により被覆されていない活物質材料を正極として使用した比較例1に係るリチウム二次電池に比べて、いずれも、容量保持率に優れていることが認められた。
【0135】
放電容量については、一般に同一条件及び同一サンプルでの試験において±2mAh/g程度の誤差を示すことから、実施例1〜実施例7に係るリチウム二次電池と比較例1とは、ほぼ同程度の放電容量を示すといえる。
【0136】
また、実施例1〜6に係るリチウム二次電池において、正極を構成する活物質材料を被覆する固体電解質は、いずれも、1.0×10-3S/cm以上のイオン伝導度を有しており、0.87以上の良好なレート特性を示した。
【0137】
表2に、実施例1、7〜12、及び比較例1に係るリチウム二次電池の性能試験の結果を、正極を構成する活物質材料を被覆する固体電解質膜のイオン伝導度及びBET比表面積と共に示すことにより、有機基を有しない金属アルコキシド(テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン)と有機基を有する金属アルコキシド(メチルトリエトキシシラン)との混合比に対する、電池性能の結果を示す。
【0138】
【表2】

【0139】
表2に示される結果より、実施例7〜12に係るリチウム二次電池は、いずれも、比較例1に係るリチウム二次電池と比べて、容量保持率に優れていることが認められた。また、実施例7〜12に係るリチウム二次電池において、正極を構成する正極活物質材料を被覆する固体電解質は、いずれも、1.0×10-4S/cm以上のイオン伝導度を有しており、0.87以上の良好なレート特性を示した。
【0140】
また、コーティング溶液の調製において、有機基を有する金属アルコキシド(メチルトリエトキシシラン)が使用された実施例1、及び実施例7〜11に係るリチウム二次電池は、有機基を有する金属アルコキシドが使用されなかった実施例7と比べて、固体電解質膜のBET比表面積が極めて小さく、正極を構成する活物質材料の表面上に、緻密な個体電解質の膜が作製されていることが認められた。
【0141】
このようなことから、共重合体の生成に使用する有機基を有しない金属アルコキシド(テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン)と有機基を有する金属アルコキシド(メチルトリエトキシシラン)との混合比は、モル比で95:5〜10:90であることが好ましく、90:10〜20:80がより好ましいといえる。
【0142】
表2の結果は、実施例の固体電解質膜は、有機及び無機のイオン伝導膜の性質を共有するものであり、この膜は、特許文献1、3、4のように有機イオン伝導膜の層を正極表面上に形成する場合のような膜と正極活物質表面との結合力不足の欠点や特許文献2、5のように無機イオン伝導膜を正極表面上に被覆したときのような膜の柔軟性不足の欠点を相補的に補って、強固で柔軟性に富む膜を正極活物質上に形成できることを間接的に裏付けるものである。
【0143】
表3に、実施例1、6、13〜16、及び比較例1に係るリチウム二次電池の性能試験の結果を、正極を構成する活物質材料を被覆する固体電解質膜のイオン伝導度及びBET比表面積と共に示すことにより、有機高分子化合物の平均分子量に対する、電池性能の結果を示す。
【0144】
【表3】

【0145】
表3に示す結果より、実施例1、6、13〜16に係るリチウム二次電池は、いずれも、比較例1に係るリチウム二次電池に比べて、充放電効率及び容量保持率に優れていることが認められた。
【0146】
また、実施例1、6、13〜16に係るリチウム二次電池において、正極を構成する活物質材料を被覆する固体電解質は、いずれも、1.0×10-5S/cm以上のイオン伝導度を有しており、0.86以上の良好なレート特性を示した。また、共重合体の生成に使用する有機高分子化合物の平均分子量が小さいほど高いイオン伝導度を示し、100〜1000の有機高分子化合物を使用した実施例1、6、13、14は1.0×10-3S/cm以上の極めて高いイオン伝導度を示した。
【0147】
このようなことから、共重合体の生成に使用する有機高分子化合物の平均分子量、すなわち、共重合体を構成する有機ポリマーブロックの平均分子量は、100〜2000が好ましく、100〜1000が特に好ましいといえる。
【0148】
表4に、実施例1、17〜20、及び比較例1に係るリチウム二次電池の性能試験の結果を、正極を構成する活物質材料を被覆する固体電解質膜のイオン伝導度及びBET比表面積と共に示すことにより、固体電解質の膜厚に対する電池性能の結果を示す。
【0149】
【表4】

【0150】
表4に示される結果より、実施例1、17〜20に係るリチウム二次電池は、いずれも、比較例1に係るリチウム二次電池に比べて、容量保持率に優れていることが認められた。
【0151】
実施例17及び20に係るリチウム二次電池については、比較例1に係るリチウム二次電池に対する容量保持率の増加量が2%程度と少なめであった。
【0152】
また、実施例1、17〜20に係るリチウム二次電池において、正極を構成する活物質材料を被覆する固体電解質は、いずれも、1.0×10-3S/cm以上のイオン伝導度を有しており、0.86以上の良好なレート特性を示した。
【0153】
このようなことから、固体電解質の膜厚は、50nm〜5000nmが好ましく、特に、100nm〜3000nmが好ましいとした。
【0154】
表5に、実施例1、21、22、及び比較例1に係るリチウム二次電池の性能試験の結果を、正極を構成する活物質材料を被覆する固体電解質膜のイオン伝導度及びBET比表面積と共に示すことにより、固体電解質に含まれる共重合体を生成させる際の金属酸化物と有機高分子化合物の重量比に対する電池特性の結果を示す。
【0155】
【表5】

【0156】
表5に示す結果より、実施例1、21、22に係るリチウム二次電池は、いずれも、比較例1に係るリチウム二次電池に比べて、容量保持率に優れることが認められた。また、実施例1、21、22に係るリチウム二次電池において、正極を構成する正極活物質材料を被覆する固体電解質は、いずれも、1.0×10-4S/cm以上のイオン伝導度を有しており、0.87以上の良好なレート特性を示した。
【0157】
表6に、実施例23、24、及び比較例2、3に係るリチウム二次電池の性能試験の結果を示す。
【0158】
【表6】

【0159】
表6に示す結果より、実施例23、24に係るリチウム二次電池は、いずれも、比較例2、3に係るリチウム二次電池に比べて、容量保持率に優れることが認められた。
【0160】
<Mn溶出量試験>
実施例1、比較例1で作製した電池を100サイクルまで充放電試験した後、分解し、負極及び多孔質ポリエチレン製のセパレータを、硝酸と硫酸の混酸中で加熱した後、不溶部分を過塩素酸と硫酸の混酸中で加熱し、完全に溶解させる。この溶解液中のMn量を誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP−AES)により測定し、正極活物質1g当たりのMn溶出量を算出した。
【0161】
表7に、実施例1及び比較例1で作製した電池を100サイクルまで充放電試験した後に分解して測定した、負極及びセパレータ上から検出されたMnの溶出量を示す。
【0162】
【表7】

【0163】
表7に示す結果より、実施例1で作製した正極からのMnの溶出量が比較例1で作製された正極に比べてMnの溶出が抑制されていることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明の実施例1に係るリチウム二次電池の作製において、正極表面に固体電解質による被膜を作製する方法を説明するための説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1に係るリチウム二次電池において、正極表面上に作製された固体電解質による被膜の化学構造を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0165】
1 コーティング溶液
2 正極板
3 引き上げモーター
4 金属酸化物ポリマーブロック
5 有機ポリマーブロック
6 共重合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、非水電解液、及びセパレータを有するリチウム二次電池において、
前記正極は、金属酸化物ポリマーブロックに有機ポリマーブロックが酸素を介して結合した構造を有する共重合体とリチウム塩とを主成分とする固体電解質で被覆された正極活物質材料であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記金属酸化物ポリマーブロックに含まれる金属原子のうち5〜90%の金属原子が、1価の有機基と結合していることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記有機基は、炭素数が1〜5のアルキル基又はアルケニル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記金属酸化物ポリマーブロックは、少なくともSiを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記金属酸化物ポリマーブロックは、Al、Ti、Zrからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記有機ポリマーブロックは、下記一般式(1)
−((CH2m−O)n− ・・・(1)
(式中、mは2〜5の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)で示される構造単位を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記有機ポリマーブロックの平均分子量が100〜2000であることを特徴とする請求項6に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記有機ポリマーブロックを形成するための前駆体がポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのうちから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記共重合体は、下記一般式(2)
1bM(OR2c(OH)a-b-c・・・(2)
(式中、Mは金属を表し、R1は1価の有機基を表し、R2は炭素数1〜8の低級アルキル基を表す。aは金属Mの価数を表す。bは0〜2の整数を表し、cは0以上の整数を表す。ただし、0≦c≦a−bとする。)で示される1種以上の金属酸化物の重縮合により生成された生成物に、有機高分子化合物を反応させて得られるものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記固体電解質の中に、前記リチウム塩として、CH3COOLi、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記固体電解質の膜厚が50nm〜5μmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記共重合体を構成する金属酸化物ポリマーブロックと有機ポリマーブロックの重量比が、90:10〜20:80であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
前記固体電解質のイオン伝導度が1.0×10-6S/cm以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
前記固体電解質のBET比表面積が10m2/g以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
前記正極活物質としてスピネル型リチウムマンガン酸化物LiMn24を含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−102895(P2010−102895A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272231(P2008−272231)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】