説明

リチウム二次電池

【課題】高出力および長寿命を両立することができるリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池25は、電池缶17内に捲回群16および非水電解液が収容されている。捲回群16は、正負極板がセパレータ15を介して捲回されている。正極活物質には、マンガン、ニッケルを含有する層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物と、マンガンを含有するスピネル結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物とが混合されて用いられている。層状結晶構造の複合酸化物のリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比はモル比で50%以上に調整されている。ニッケルにより層状結晶構造の層間距離が拡大される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に係り、特に、リチウムイオンを挿入離脱可能な正極板と負極板とを備えたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高エネルギー密度である特長を生かして、VTRカメラやノート型パソコン、携帯電話等の民生用機器の電源に広く使用されている。また、自動車産業界においては、環境問題に対応するために、リチウム二次電池のみを動力源とする電気自動車や、内燃機関エンジンとリチウム二次電池との両方を動力源とするハイブリッド式電気自動車等の開発が進められている。
【0003】
一般に、電気自動車等の移動体用の電源として利用されるリチウム二次電池では、厳寒時の走行性能を確保するために、低温環境下で所定の出力を確保することが重要である。そのため、常温環境下だけでなく低温環境下においても電池の高出力化が求められている。また、環境問題やコスト削減を考慮し、電池の長寿命化も求められている。すなわち、移動体用リチウム二次電池の開発では、電池出力の低下を抑制し、必要な電気エネルギーを長期に亘って供給できることが技術的な課題の中心である。
【0004】
これを解決するために、リチウム二次電池では正極材料の改善が進められている。例えば、正極活物質にニッケルの組成比がリチウム以外の遷移金属元素に対するモル比で50%より小さい層状結晶構造のリチウムニッケル複合酸化物と、スピネル結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物とを用いることで低温環境下での出力特性を改善する技術が開示されている(特許文献1参照)。また、正極活物質に層状結晶構造リチウムマンガン複酸化物とスピネル結晶構造リチウムマンガン複酸化物とを含み、正極の可逆容量を負極の可逆容量以下とすることで、電池容量を高め長寿命化を図る技術が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−259511号公報
【特許文献2】特開2003−36846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リチウム二次電池を移動体用の電源として用いるには、高容量化だけではなく、加速性能などを左右する高出力化が求められる。また、長期の使用期間に対応すべく電池の長寿命化も求められている。これらの要求に対し、十分な性能を持つリチウム二次電池が得られていないのが現状である。例えば、特許文献1の技術では、低温環境下において電池出力を改善することができるものの、電池の長寿命化については十分とは言えない。また、特許文献2の技術では、電池の長寿命化を図ることができるものの、移動体用電池に要求される低温環境下における高出力性を十分に発揮することが難しい。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、高出力および長寿命を両立することができるリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、リチウムイオンを挿入離脱可能で、マンガン、ニッケルを含有する層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物と、マンガンを含有するスピネル結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物とを含む正極活物質が塗工された正極板と、リチウムイオンを挿入離脱可能な負極活物質が塗工された負極板と、を備え、前記正極活物質は、前記層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比がモル比で50%以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明では、正極活物質に層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物と、スピネル結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物とが含まれることで、正極活物質の安定性が増して温度の影響を受けにくくなり、リチウムイオンの拡散性が確保されるため、電池の長寿命化を図ることができると共に、層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比をモル比で50%以上とすることで、層状結晶構造の層間距離が拡大され、充放電時にリチウムイオンが挿入離脱しやすくなるため、リチウムイオンの拡散性が向上し、高出力化を図ることができる。
【0010】
この場合において、層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物とスピネル結晶構造のリチウム遷移複合酸化物との混合割合が重量比で、60:40〜95:5の範囲であることが好ましい。また、層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比がモル比で80%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正極活物質に層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物と、スピネル結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物とが含まれることで、正極活物質の安定性が増して温度の影響を受けにくくなり、リチウムイオンの拡散性が確保されるため、電池の長寿命化を図ることができると共に、層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比をモル比で50%以上とすることで、層状結晶構造の層間距離が拡大され、充放電時にリチウムイオンが挿入離脱しやすくなるため、リチウムイオンの拡散性が向上し、高出力化を図ることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した実施形態の円筒型リチウムイオン二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を適用した円筒型リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
【0014】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の円筒型リチウムイオン二次電池25は、電池容器となるニッケルメッキを施された鉄製で有底円筒状の電池缶17を有している。電池缶17には、帯状の正負極板が捲回された捲回群16が収容されている。
【0015】
捲回群16は、正負極板がポリエチレン製微多孔膜のセパレータ15を介して断面渦巻状に捲回されている。セパレータ15は、本例では、厚さが40μmに設定されている。捲回群16の上端面には、一端を正極板に固定されたアルミニウム製でリボン状の正極タブ端子19が導出されている。正極タブ端子19の他端は、捲回群16の上側に配置され正極外部端子となる円盤状の電池蓋18の下面に超音波溶接で接合されている。一方、捲回群16の下端面には、一端を負極板に固定された銅製でリボン状の負極タブ端子21が導出されている。負極タブ端子21の他端は、電池缶17の内底部に抵抗溶接で接合されている。従って、正極タブ端子19および負極タブ端子21は、それぞれ捲回群16の両端面の互いに反対側に導出されている。捲回群16の外周面全周には、図示を省略した絶縁被覆が施されている。
【0016】
電池蓋18は、絶縁性の樹脂製ガスケット20を介して電池缶17の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池25の内部は密封されている。また、電池缶17内には、図示しない非水電解液が注液されている。非水電解液には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびジメチルカーボネート(DMC)の体積比1:1:1のカーボネート系混合溶媒中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル溶解して使用することができる。非水電解液の注液量は、本例では、5mlに設定されている。
【0017】
捲回群16を構成する正極板は、正極集電体としてアルミニウム箔13を有している。アルミニウム箔13の厚さは本例では20μmに設定されており、15〜25μmの範囲で設定することができる。アルミニウム箔13の両面には、正極活物質を含む正極合材が略均等に塗着されて正極合材層14が形成されている。正極合材には、正極活物質以外に、例えば、導電材として黒鉛粉末とアセチレンブラック、および、バインダ(結着材)のポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記する。)が配合されている。正極合材をアルミニウム箔13に塗着するときには、粘度調整溶媒のN−メチルピロリドン(以下、NMPと略記する。)に正極合材を分散させてスラリ状の溶液を作製する。このとき、分散溶液は回転翼を具備した混合機を用いて攪拌される。この溶液がアルミニウム箔13にロール・ツー・ロール転写法で塗布される。正極板は、乾燥後、プレス加工で一体化され、裁断される。正極板のアルミニウム箔13を含まない正極合材塗布部厚さは、本例では、70μmに調整されている。正極板の長手方向略中央部には、正極タブ端子19が超音波溶接で接合されている。
【0018】
正極合材に含まれる正極活物質には、リチウムイオンを挿入離脱可能で、マンガン、ニッケルを含有する層状岩塩型結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物(以下、層状複合酸化物という。)と、マンガンを含有するスピネル結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物(以下、スピネル複合酸化物という。)と、が含まれている。層状複合酸化物とスピネル複合酸化物との混合比は、60:40〜95:5の範囲に調整されている。層状複合酸化物の平均粒径は、8.0〜17.5μmの範囲であり、比表面積は、0.7〜1.2m/gの範囲で設定することができる。スピネル複合酸化物は、化学式がLiMnで表され、平均粒径10μm、比表面積0.8m/gのものを用いることができる。また、層状複合酸化物におけるニッケルの組成比がリチウム以外の遷移金属元素に対するモル比で50%以上に調整されている。ニッケルの組成比は、原料の配合割合で調整することができる。
【0019】
一方、負極板は、負極集電体として圧延銅箔11を有している。圧延銅箔11の厚さは本例では10μmに設定されており、5〜20μmの範囲に設定することができる。圧延銅箔11の両面には、負極活物質として非晶質炭素粉末を含む負極合材が略均等に塗着されて負極合材層12が形成されている。負極合材には、負極活物質以外に、例えば、導電材のアセチレンブラック、および、バインダのPVDFが配合されている。このとき、負極活物質と導電材とPVDFとの質量比を、80:10:10とすることができる。負極合材を圧延銅箔11に塗着するときには、粘度調整溶媒のNMPに負極合材を分散させてスラリ状の溶液を作製する。このとき、分散溶液は回転翼を具備した混合機を用いて攪拌される。この溶液が圧延銅箔11にロール・ツー・ロール転写法で塗布される。負極板は、乾燥後、プレス加工で一体化され、裁断される。負極板の圧延銅箔11を含まない負極合材塗布部厚さは、本例では、70μmに調整されている。負極板長手方向一端には、負極タブ端子21が超音波溶接で接合されている。
【0020】
(電池の作製)
電池の作製では、まず、得られた正負極板をセパレータ15を介して捲回し捲回群16を作製する。このとき、負極タブ端子21が捲回群16の最外周に位置するように捲回する。捲回群16を電池缶17内に挿入し、負極タブ端子21を電池缶17の内底部に溶接する。電池缶17内に非水電解液を注液後、予め正極タブ端子19の他端を溶接した電池蓋18を電池缶17の上部にガスケット20を介して嵌合させる。電池缶17の上部をカシメ固定することでリチウムイオン二次電池25の組立を完成する。
【実施例】
【0021】
次に、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池25の実施例について詳細に説明する。なお、比較のために作製した比較例の電池についても併記する。
【0022】
(実施例1)
下表1に示すように、実施例1では、層状複合酸化物として、リチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比がモル比で50%のものを用いた。層状複合酸化物の平均粒径は8.0〜17.5μmの範囲であり、比表面積0.7〜1.2m/gのものを用いた。スピネル複合酸化物として、化学式LiMnで表され、平均粒径10μm、比表面積0.8m/gのものを用いた。層状複合酸化物とスピネル複合酸化物とを重量比で80:20の割合で混合して正極活物質とし、実施例1の電池を作製した。このとき、正極の導電材として黒鉛とアセチレンブラック粉末との混合物を13重量%添加した。
【0023】
【表1】

【0024】
(実施例2〜3)
表1に示すように、実施例2では、層状複合酸化物としてリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比がモル比で60%であり、コバルトをモル比で20%含むものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。また、実施例3では、層状複合酸化物としてニッケルの組成比がリチウム以外の遷移金属元素に対するモル比で80%のものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0025】
(比較例1〜2)
表1に示すように、比較例1では、層状複合酸化物としてリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比がモル比で33%であり、コバルトをモル比で34%含むものを用いたこと以外は、実施例1と同様にした電池を作製した。また、比較例2では、層状複合酸化物としてニッケルの組成比がリチウム以外の遷移金属元素に対するモル比で40%であり、コバルトをモル比で20%含むものを用いたこと以外は実施例1と同様にして電池を作製した。
【0026】
(実施例4〜7)
下表2に示すように、実施例4〜7では、層状複合酸化物とスピネル複合酸化物との混合割合を変えること以外は、実施例2と同様にして電池を作製した。すなわち、層状複合酸化物とスピネル複合酸化物との混合割合は重量比で、実施例4では95:5、実施例5では90:10、実施例6では70:30、実施例7では60:40にそれぞれ調整した。なお、表2には、実施例2についても併記した。
【0027】
【表2】

【0028】
(比較例3〜5)
表2に示すように、比較例3〜5では、層状複合酸化物とスピネル複合酸化物との混合割合を変えること以外は、実施例2と同様にして電池を作製した。すなわち、層状複合酸化物とスピネル複合酸化物との混合割合は重量比で、比較例3では100:0、比較例4では50:50、比較例5では40:60にそれぞれ調整した。
【0029】
(試験・評価1)
各実施例1〜3および比較例1〜2のリチウムイオン二次電池について、初期放電容量を確認し、出力特性を測定した。初期放電容量は、各電池を充電した後放電し、環境温度23〜27℃の常温雰囲気下で測定した。充電条件は、4.2V定電圧、制限電流5A、充電時間2.5時間とした。放電条件は、5A定電流、終止電圧2.7Vとした。初期放電容量測定後、各電池を同じ充電条件で充電し、5A定電流放電を行い、更に充電後、25A定電流放電を行い、また再度充電を行い、50A定電流放電した。各電流値での放電における10秒目電圧を測定し出力を算出した。測定は、25±2℃の常温雰囲気下、−10±2℃の低温雰囲気下でそれぞれ実施した。出力測定結果を下表3に示す。なお、表3では、比較例1のリチウムイオン二次電池の常温雰囲気下における出力を100とする相対値を示している。
【0030】
【表3】

【0031】
表3に示すように、比較例1および比較例2では、常温および低温雰囲気下において出力特性が100%前後であったのに対し、実施例1〜3では、出力特性が110%以上となり大幅に向上した。これは、実施例1〜3では、リチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比がモル比で50%以上であり、ニッケルにより層状結晶構造の層間距離が拡大され、充放電時にリチウムイオンが挿入離脱しやすくなったため、リチウムイオンの拡散性が向上し、高出力化を図ることができたためと考えられる。層状複合酸化物におけるニッケルの組成比がリチウム以外の遷移金属元素に対するモル比で80%を超える場合は、層間距離の拡大された層状結晶構造が不安定となり、却って電池性能を低下させることが予想される。このため、層状複合酸化物におけるニッケルの組成比を80%以下とすることが好ましい。
【0032】
(試験・評価2)
また、各実施例4〜7、実施例2および比較例3〜5のリチウムイオン二次電池について、初期放電容量測定後に、高温寿命特性を評価した。すなわち、環境温度48〜52℃の雰囲気下で、放電容量の測定条件と同じ充放電条件による充放電を300回繰り返した。その後、環境温度23〜27℃の雰囲気下で同様にして放電容量を測定し、初期放電容量に対する300サイクル目の放電容量の割合を百分率で求め、300サイクル目の容量維持率とした。下表4に300サイクル目の容量維持率の測定結果を示す。
【0033】
【表4】

【0034】
表4に示すように、比較例3〜5では、容量維持率が90%以下であるのに対して、実施例4〜7および実施例2では、容量維持率は90%以上であり高温での劣化が少ないという結果が得られた。これは、実施例4〜7および実施例2では、層状複合酸化物とスピネル複合酸化物との混合割合が重量比で、60:40〜95:5の範囲であることで、正極活物質の安定性が増し、高温でもリチウムイオンの拡散性が長く確保され、電池の長寿命化を図ることができたためと考えられる。
【0035】
(作用)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池25の作用等について説明する。
【0036】
本実施形態のリチウムイオン二次電池25では、正極活物質に層状複合酸化物とスピネル複合酸化物とが混合して用いられている。層状複合酸化物では、充放電時にリチウムイオンが挿入離脱することで、結晶格子が膨張や収縮を繰り返し、寿命特性を低くする傾向がある。それに対して、スピネル複合酸化物では、充放電時にリチウムイオンが挿入離脱しても、結晶格子が三次元的で安定しているため、結晶格子の膨張や収縮が少なくなる。このため、正極活物質に層状複合酸化物とスピネル複合酸化物とが混合されていることにより、正極活物質の全体として安定性が増し、層状複合酸化物の膨張や収縮が生じても正極合材層14の脱落も抑制することができる。従って、リチウムイオンの拡散性が長期間に亘り確保されるため、長寿命化を図ることができる。
【0037】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池25では正極活物質に層状複合酸化物とスピネル複合酸化物とが混合して用いられている。層状複合酸化物では、リチウムイオンの拡散経路が二次元的であるため、常温下でリチウムイオンの拡散性に優れ、本来出力特性に優れる。ところが、低温下では、結晶格子の収縮に起因して、リチウムイオンの拡散性が低下するため、出力特性が低くなる。それに対して、スピネル複合酸化物では、結晶格子が三次元的で安定性が優れており、温度の影響を受けにくく、低温下の出力特性に優れている。このため、本実施形態では、常温下では層状複合酸化物のリチウムイオンの拡散性が作用し、低温下ではスピネル複合酸化物のリチウムイオンの拡散性が機能することで、常温下だけでなく低温下においても電池出力を確保することができる。
【0038】
更に、本実施形態のリチウムイオン二次電池25では、正極活物質の層状複合酸化物におけるリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比が50〜80%の範囲である。ニッケルは、層状複合酸化物を構成する遷移金属元素として多用されるマンガンよりも原子半径が大きいため、ニッケルにより層状結晶構造の層間距離が拡大され、充放電時にリチウムイオンが挿入離脱しやすくなる。そのため、層状複合酸化物のニッケルの組成比を50%以上とすることで、リチウムイオンの拡散性が向上し、高出力化を図ることができる。層状複合酸化物のニッケルの組成比が80%を超えると、結晶構造的な不安定性が増し、リチウムの拡散が阻害されるため、却って出力特性は低下する。
【0039】
また更に、本実施形態のリチウムイオン二次電池25では、正極活物質に含まれる層状複合酸化物とスピネル複合酸化物の混合割合が重量比で、60:40〜95:5の範囲である。スピネル複合酸化物の割合が5%以下のときは、スピネル複合酸化物の量が少なく正極活物質全体の安定化が不十分となるため、リチウムイオン挿入離脱における合材脱落が生じやすく寿命は短くなる(比較例3も参照)。また、スピネル複合酸化物の割合が40%以上のときは、スピネル複合酸化物の結晶格子は三次元的で安定しているものの、常温環境下においてリチウムイオンの拡散性に劣るため充放電を繰り返し使用することで容量維持率は低下しやすくなる(比較例4、5も参照)。そのため、層状複合酸化物とスピネル複合酸化物との混合割合が60:40〜95:5の範囲のとき、正極活物質の安定性が増し、温度の影響を受けにくくなり、リチウムイオンの拡散性が長く確保されるため、電池の長寿命化を図ることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、層状複合酸化物として層状岩塩型結晶構造を有する複合酸化物を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、予め十分な量のリチウムが挿入された層状結晶構造を有していれば適用可能である。
【0041】
また、本実施形態では、層状複合酸化物、スピネル複合酸化物に含有される遷移金属元素の一部を他の遷移金属元素(陽イオン)で置換またはドープして用いてもよい。層状複合酸化物では、リチウム、ニッケルおよびマンガン以外の陽イオンとして、コバルト、アルミニウム、鉄、クロム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム等を挙げることができ、複数の陽イオンを含むようにしてもよい。また、スピネル複合酸化物では、リチウムおよびマンガン以外の陽イオンとして、アルミニウム、コバルト、ニッケル、クロム、マグネシウム等を挙げることができる。更に、層状複合酸化物またはスピネル複合酸化物の結晶中の酸素の一部を硫黄、リン等で置換またはドープした材料を用いてもよい。
【0042】
更に、本実施形態では、正極の導電材として黒鉛とアセチレンブラック粉末との混合物を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、炭素材料等の導電性を有するものであればよい。また、本実施形態では、正負極のスラリの混合に回転翼のような攪拌手段を具備した混合機を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、スラリが均一に混合される手段を用いればよい。
【0043】
また更に、本実施形態では、負極活物質として非晶質炭素を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。負極活物質としては、リチウムイオンを挿入離脱可能な物質であればよく、通常リチウム二次電池に用いられる物質を用いることができる。本実施形態以外で用いられる負極活物質としては、黒鉛等の炭素材が挙げられ、黒鉛と非晶質炭素とを混合して用いてもよいことはもちろんである。
【0044】
更にまた、本実施形態では、円筒型電池について例示したが、本発明は電池の形状についても限定されず、角形、その他の多角形の電池にも適用可能である。また、本実施形態では、電気自動車等の移動体用の電源として用いられる大型のリチウム二次電池を例示したが、本発明は、電池の容量、サイズ、形状等に制限されるものではない。
【0045】
また、本実施形態では、帯状の正負極板が捲回されている捲回式電池について例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、セパレータに袋状のものを用いてこの中に電極を収容しこれらを順次重ねた積層式電池としてもよい。更に、本発明の適用可能な構造としては、上述した電池缶17に電池蓋18がカシメによって封口されている構造の電池以外であっても構わない。このような構造の一例として、正負極タブ端子が電池蓋を貫通し電池容器内で軸芯を介して押し合っている状態の電池を挙げることができる。
【0046】
更に、本実施形態では、セパレータ15として微多孔性ポリエチレンフィルムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、材質にポリプロピレン等を用いてもよく、複数のフィルムを積層してもよい。また、本実施形態では、EC、DEC、DMCの混合溶媒中に1Mの濃度のLiPFを溶解した非水電解液を例示したが、一般的なリチウム塩を電解質として、これを有機溶媒に溶解した非水電解液を用いてもよく、本発明は用いられるリチウム塩や有機溶媒には特に制限されない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、高出力および長寿命を両立することができるリチウム二次電池を提供するため、リチウム二次電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0048】
12 負極合材層
14 正極合材層
16 捲回群
25 円筒型リチウムイオン二次電池(リチウム二次電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを挿入離脱可能で、マンガン、ニッケルを含有する層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物と、マンガンを含有するスピネル結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物とを含む正極活物質が塗工された正極板と、
リチウムイオンを挿入離脱可能な負極活物質が塗工された負極板と、
を備え、
前記正極活物質は、前記層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比がモル比で50%以上であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物と前記スピネル結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物との混合割合が重量比で、60:40〜95:5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記層状結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の遷移金属元素に対するニッケルの組成比がモル比で80%以下であることを特徴とする請求項2に記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−54334(P2011−54334A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200434(P2009−200434)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】