説明

リチウム含有粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池

【課題】従来よりも低温かつ短時間で容易に製造することができ、製造コストを低減できるリチウム含有粒子の製造方法及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム元素を含む化合物と、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、を含む化合物(ただし、該化合物はリチウム元素を含まない。)とを、水性溶媒に含ませて溶解させた水性組成物に、マイクロ波を照射することにより、リチウムと、元素(1)または元素(2)とを含む反応生成物よりなる粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。さらに車載用や家庭用電池などの中・大型蓄電池として注目されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、リチウムと遷移金属等との複合酸化物(以下、リチウム含有複合酸化物ともいう。)が用いられている。特に、コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度を有する電池として広く使用されている。
【0004】
しかし、近年、放電容量の更なる向上及び、充放電サイクルを繰り返した後に放電容量が低下しない特性(すなわち、繰り返し特性)が望まれている。該特性を発揮しうる正極活物質として、リチウム含有複合酸化物の表面層にリチウムチタン複合酸化物が含有される表面修飾リチウム含有複合酸化物が提案されている(例えば特許文献1参照)。該正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、放電容量及び体積容量密度が大きく、安全性が高く、サイクル特性に優れると記載されている。
【0005】
表面にリチウム化合物を添着したリチウムニッケル酸化物も提案されている(例えば特許文献2参照)。該正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、正極活物質と電解液との酸化反応を抑制し、長期に亘って安定した電池性能を発揮できると記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1のリチウム伝導性を有するリチウムチタン複合酸化物よりなる粒子を合成は、700℃の温度で12時間の間熱処理を行う必要がある。そのため、高温かつ長時間の熱処理を行うための設備が必要となり、製造コストが高くなり、生産性にも劣る。
【0007】
特許文献2のリチウムニッケル酸化物の合成法は、リチウム伝導性を有するリチウム化合物よりなる粒子を合成し、合成した粒子をリチウムニッケル酸化物の表面に添着させるという複雑な工程で行われている。そのため、製造工程を簡素化すること、合成物の収率を向上させることが難しく、生産性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2009/057722号パンフレット
【特許文献2】特開2005−190996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来法よりも生産性に優れた反応条件によって、実用上の諸性能を満たすリチウム含有粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の発明を提供する。
【0011】
本発明は、リチウム元素を含む化合物と、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、を含む化合物(ただし、該化合物はリチウム元素を含まない。)とを、水性溶媒に含ませて溶解させた水性組成物に、マイクロ波を照射することにより、リチウムと、前記元素(1)または前記元素(2)とを含む反応生成物よりなる粒子を得ることを特徴とするリチウム含有粒子の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、本発明に係る製造方法によりリチウム含有粒子を得て、つぎに該リチウム含有粒子をリチウム含有正極材の表面に付着させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0013】
本発明に係る製造方法において、リチウム含有粒子が、水性溶媒中に分散した粒子であり、該粒子を水性溶媒に分散させたままスプレーコート法により前記リチウム含有正極材の表面に付着させることが好ましい。
【0014】
本発明は、リチウム元素を含む化合物と、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、を含む化合物(ただし、該化合物はリチウム元素を含まない。)とを、水性溶媒に含ませて溶解させた水性組成物に、該水性溶媒に不溶性のリチウム含有正極材を含ませ、つぎに、マイクロ波を照射することにより、リチウム含有正極材の表面の少なくとも1部に、リチウムと、前記元素(1)または前記元素(2)とを含む反応生成物が付着した粒子を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0015】
本発明に係る製造方法において、リチウム元素を含む化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム水和物、及び水酸化リチウム水和物から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。また、前記元素(1)または前記元素(2)を含む反応生成物が、前記元素(1)を含む酸化物または前記元素(2)を含む酸化物であることが好ましい。また、リチウムと前記元素(1)とを含む反応生成物が、LiO−SiO、LiO−B、LiO−B−LiI、LiO−SiS、及びリチウム・アルミニウム・ケイ素酸化物から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。また、リチウムと前記元素(2)とを含む反応生成物が、リチウム・ランタン・チタン複合酸化物、リチウム・ランタン・ジルコニウム複合酸化物、及びリチウム・バリウム・ランタン・タンタル複合酸化物から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。また、水性溶媒が、水のみ、または、水と水溶性有機溶剤よりなることが好ましい。また、反応生成物の平均粒子径が1〜1000nmであることが好ましい。また、反応生成物の割合が、前記リチウム含有正極材と反応生成物の合計に対して0.01〜5質量%であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、本発明に係る製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極表面に有するリチウムイオン二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リチウム含有粒子及びリチウムイオン二次電池用正極活物質を、従来よりも低温かつ短時間の条件で製造することができることから、生産性を向上させ、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】実施の形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池をコイン型非水電解質二次電池として構成した例を示す縦断面図である。
【図3】実施例1で得られた粉末の粒子表面のSEM観察写真である。
【図4】実施例2で得られた粉末の粒子表面のSEM観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
<リチウムイオン二次電池用正極活物質>
本発明の製造方法で得られる正極活物質の構成を模式的に示す断面図は、図1に示される。本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質10は、リチウム含有正極材11の表面に、反応生成物12を付着させたものである。
【0020】
(リチウム含有正極材)
リチウム含有正極材は、それ自身がリチウムイオン二次電池用の正極材料として用いうるものであり、公知の正極材料を用いることが好ましい。例えば、コバルト系リチウム含有複合酸化物、スピネルマンガン系リチウム含有複合酸化物、ニッケルとマンガンとコバルトを含有するリチウム含有複合酸化物、オリビン構造を有する化合物等を用いることができる。
【0021】
コバルト系リチウム含有複合酸化物としては、具体的に、リチウム・コバルト・ニッケル系複合酸化物、リチウム・コバルト・マンガン系複合酸化物、リチウム・コバルト・バナジウム系複合酸化物、リチウム・コバルト・鉄系複合酸化物が挙げられる。3元系リチウム含有複合酸化物としては、リチウムと、コバルト・ニッケル・マンガンとを含有し、その他に他の金属元素が含まれていてもよい複合酸化物が挙げられる。
【0022】
コバルト系リチウム含有複合酸化物は、容易に製造することができ、電池特性が安定しており、スピネルマンガン系リチウム含有複合酸化物は、安全性において優れる。3元系リチウム含有複合酸化物は、コバルト系リチウム含有複合酸化物よりも安全性において優れており、エネルギー密度が高く、高価かつ稀少な金属であるコバルトの使用量を低減できることから、なかでも3元系リチウム含有複合酸化物が好ましい。
【0023】
また、リチウムイオン二次電池を高電圧で用いる場合には、リチウム含有正極材の表面で電解液の酸化分解反応が進行するおそれがある。従って、電解液の酸化分解反応を回避、抑制するため、リチウム含有正極材に、アルミニウム、マグネシウム、ホウ素、ジルコニウム、チタン等の元素を添加、あるいは、リチウム含有正極材の表面に、アルミニウム、マグネシウム、ホウ素、ジルコニウム、チタン等の元素を含む酸化物、フッ化物をコーティングすることが好ましい。
【0024】
オリビン構造を有する化合物としては、組成式Li2−xM(SiO1−x(PO(式中、MはFe、Mg、Mnから選ばれる1種以上の元素であり、0≦x≦1である。)で表わされる化合物が挙げられる。例えば、LiFePO、LiMgPO、LiMnPO等のオリビン構造を有する化合物は、熱安定性に優れており、電解液との反応性が低く、高温下で長時間保持された場合でも酸素放出の可能性が小さく安定性に優れるという長所を有する。従って、リチウム含有正極材として、LiFePO、LiMgPO、LiMnPO等のオリビン構造を有する化合物を用いた場合、一般的なコバルト酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物を用いた場合に比べ、リチウムイオン二次電池の熱安定性、繰り返し特性、保存安定性を向上させることができる。
【0025】
また、LiFeSiO、LiMgSiO、LiMnSiO等のオリビン構造を有する化合物は、2電子反応が可能な組成式を有しており、理論放電容量が330mAh/g以上と大きい。従って、LiFeSiO、LiMgSiO、LiMnSiOよりなるオリビン構造を有する化合物を用いた場合、初期放電容量を向上させることができる。
【0026】
(反応生成物)
本発明においては、反応生成物をリチウム含有正極材の表面に付着させることにより、リチウムイオン二次電池用正極活物質を得る。
【0027】
反応生成物は、リチウムと、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、とを含む化合物にマイクロ波を照射することにより得られる。反応生成物の形状は、特に限定するものではなく、粒子状、膜状等を適宜変更しうる。本明細書において、該反応生成物よりなる粒子をリチウム含有粒子という。
【0028】
前記元素(1)または前記元素(2)を含む反応生成物としては、元素(1)または元素(2)を含む酸化物(以下、「酸化物系の材料」という。)、又は、元素(1)または元素(2)を含む硫化物(以下、「硫化物系の材料」という。)が好ましく、酸化物系の材料がより好ましい。
【0029】
酸化物系の材料としては、ガラスを形成するマトリックス酸化物と、LiOよりなる修飾酸化物とを含み、マトリックス酸化物と修飾酸化物が反応することによってリチウムイオン伝導性を示すものを用いることができる。
【0030】
このうち、リチウムと元素(1)を含む反応生成物として、LiO−SiO、LiO−B、LiO−B−LiI、LiO−SiS、及びリチウム・アルミニウム・ケイ素酸化物から選ばれる1種以上の化合物を用いることが好ましい。
【0031】
また、リチウムと元素(2)を含む反応生成物として、リチウム・ランタン・チタン複合酸化物、リチウム・ランタン・ジルコニウム複合酸化物、及びリチウム・バリウム・ランタン・タンタル複合酸化物から選ばれる1種以上の化合物を用いることが好ましい。具体的には、例えば、Li4.3Al0.3Si0.7、Li0.35La0.55TiO(LLT)、LiLaZr12(LLZ)、LiSiAlO、LiBaLaTa12等が挙げられる。
【0032】
硫化物系の材料としては、酸化物系の材料における酸化物イオンを硫化物イオンで置き換えたものとしてLiS−SiS化合物を用いることができる。また、LiS−P、70LiS・27P・3P等を用いることができる。
【0033】
反応生成物である他の材料としては、リン酸リチウムに窒素をドープしたLIPON化合物を用いることができる。
【0034】
反応生成物の組成は、例えば、ICP(Inductive Coupled Plasma)発光分析法、原子吸光分析法、蛍光X線分析法、パーティクルアナライザーを用いる測定法等により測定することができる。
【0035】
反応生成物は、結晶構造を有するものが好ましく、結晶構造であってもアモルファス構造であってもよく、結晶構造の一部がアモルファス構造であってもよい。正極活物質として用いたときのリチウムイオン二次電池の保存安定性の点からは、反応生成物は、全てが結晶構造であるものが好ましい。具体的な反応生成物としては、上記に記載のあらゆるものが適用可能である。
【0036】
反応生成物は、さらに表面にカーボンが付着していることが好ましい。カーボンが付着することで、リチウムイオン伝導性が向上する。リチウムイオン二次電池用正極活物質が奏する作用効果を更に増大させるため、反応生成物は、高いリチウムイオン伝導性を有することが望ましい。反応生成物のリチウムイオン伝導性は、10−15S・m−1以上であることが好ましく、10−7S・m−1以上であることがより好ましく、10−5S・m−1以上であることが最も好ましい。リチウムイオン伝導性がこの範囲であれば、リチウム含有正極材の表面に反応生成物よりなる粒子を形成したときも、充電、放電時におけるリチウムイオンの移動を阻害しないからである。
【0037】
なお、反応生成物のリチウムイオン伝導性は、例えば、交流インピーダンス法、定電位ステップ法、定電流ステップ法により測定することができる。
【0038】
また、上記した本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質が奏する作用効果を更に増大させるため、リチウム含有正極材の平均粒子径は、100〜8000nmが好ましく、200〜5000nmがより好ましく、300〜3000nmが最も好ましい。本明細書において、平均粒子径とは、特に言及しない限り一次粒子の平均粒子径をいう。
【0039】
リチウム含有正極材の平均粒子径は、上記の範囲に調整することにより製造がしやすくなる利点がある。また、リチウム含有正極材の比表面積が大きくなり、充放電に必要なリチウムイオンの放出・吸蔵が起こりやすくなる。さらに、後述する導電材としてカーボンブラックを用いた場合は、リチウム含有正極材がカーボンブラックと接触しやすくなる。そして、リチウムイオン二次電池の性能を向上させることができる。
【0040】
さらに、反応生成物よりなる粒子の平均粒子径は、1〜1000nmが好ましく、3〜500nmがより好ましく、5〜300nm以下が最も好ましい。
【0041】
また、反応生成物の割合は、反応生成物とリチウム含有正極材の合計に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましい。反応生成物が上記の範囲である場合には、リチウム含有正極材の表面と電解液との酸化反応を抑制することができる。また、反応生成物がリチウム含有正極材の表面全体を被覆することなく点在することから、リチウム含有正極材におけるリチウムイオンの放出・吸蔵が容易となる。さらに、リチウムイオン二次電池における電池性能を向上させうる。
【0042】
リチウム含有正極材の表面に付着した反応生成物の有無、反応生成物よりなる粒子の平均粒子径、表面カーボン層の厚みは、SEM(Scanning Electron Microscope)、TEM(Transmission Electron Microscope)等によって、観察、測定することができる。
【0043】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、従来のリチウム含有複合酸化物に比して、高温での充放電を繰り返した場合、又は充電状態のまま高温で保存した場合における電池特性の劣化が少なく、繰り返し特性に優れる。
【0044】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、反応生成物をリチウム含有正極材の表面に付着させたものである。すなわち、正極材の表面に付着して正極材と電解液との反応性を低下させる物質は、リチウム伝導性が高い。従って、正極材と電解液との界面で電解液との反応性を低下させることができるとともに、充電、放電時におけるリチウムイオンの移動が阻害されず、充放電特性を向上させることができる。
【0045】
<リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法としては、以下の2つの製造方法が挙げられる。
【0046】
(方法1)リチウム元素を含む化合物と、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、を含む化合物(ただし、該化合物はリチウム元素を含まない。)とを、水性溶媒に含ませて溶解させた水性組成物に、マイクロ波を照射することにより、リチウムと、前記元素(1)または前記元素(2)とを含む反応生成物よりなる粒子を得て、つぎに該反応生成物よりなる粒子をリチウム含有正極材の表面に付着させる方法。
【0047】
(方法2)リチウム元素を含む化合物と、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、を含む化合物(ただし、該化合物はリチウム元素を含まない。)とを、水性溶媒に含ませて溶解させた水性組成物に、水性溶媒に不溶性のリチウム含有正極材を含ませ、つぎに、マイクロ波を照射することにより、リチウム含有正極材表面の少なくとも1部に、リチウムと、前記元素(1)または前記元素(2)とを含む反応生成物が付着した粒子を得る方法。
【0048】
<リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(方法1)>
方法1に係る製造方法は、リチウム元素を含む化合物と、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、を含む化合物(ただし、該化合物はリチウム元素を含まない。)とを、水性溶媒に含ませて溶解させた水性組成物(以下、水性組成物(1)という。)に、マイクロ波を照射することによって、反応生成物よりなる粒子を水熱合成する。本明細書において、水熱合成とは、高温高圧の熱水の存在下で行われる化合物の合成あるいは結晶成長を意味する。
【0049】
リチウム元素を含む化合物、元素(1)を含む化合物、及び元素(2)を含む化合物は、それぞれ水性組成物に溶解性の化合物から選択されうる。
【0050】
リチウム元素を含む化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム水和物、及び水酸化リチウム水和物から選ばれる1種以上が好ましい。
【0051】
ケイ素元素を含む化合物としては、アモルファスシリカ、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0052】
ホウ素元素を含む化合物としては、ホウ酸が挙げられる。
【0053】
チタン元素を含む化合物としては、乳酸チタン、酢酸チタンから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0054】
アルミニウム元素を含む化合物としては、乳酸アルミニウム、酢酸アルミニウムから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0055】
ジルコニウム元素を含む化合物としては、乳酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0056】
ランタン元素を含む化合物としては、乳酸ランタン、酢酸ランタンから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0057】
タンタル元素を含む化合物としては、乳酸タンタル、酢酸タンタルから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0058】
リン元素を含む化合物としては、リン酸、亜リン酸、及び次亜リン酸から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0059】
バリウム元素を含む化合物としては、乳酸バリウム、酢酸バリウムから選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0060】
元素(1)を含む化合物、及び元素(2)を含む化合物の組合せとしては、アルミニウムとケイ素、ランタンとチタン、ランタンとジルコニウム、バリウムとランタンとタンタルの組合せが好ましい。
【0061】
水性溶媒とは、水、または、水と水溶性溶媒の混合物をいう。水溶性溶媒としては、アルコール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。本発明における水性溶媒としては、水の割合が、水性溶媒全量に対して、80〜100体積%が好ましく、90〜100体積%がより好ましく、100体積%が特に好ましい。
【0062】
水性組成物は、さらに有機化合物を含むことが好ましい。これにより、水性組成物にマイクロ波を照射することによって得られる粒子が、導電性のカーボンを含む反応生成物よりなる粒子となりうる。カーボンは、反応生成物よりなる粒子の表面に存在してもよく、反応生成物よりなる粒子の一部に付着していてもよい。
【0063】
有機化合物としては、グルコース、アスコルビン酸、ショ糖、ビタミン、クエン酸などの水溶性炭化水素群や、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンオキサイドなどのポリマーを用いることができる。また、上記以外にも熱分解反応によって炭素を生成することができる有機化合物であればよく、上記した有機化合物に限定されない。
【0064】
水性組成物中のリチウム元素を含む化合物の割合は、リチウム化合物の種類により適宜変更されうる。通常の場合、リチウム元素を含む化合物の割合は、水性組成物の全質量に対して0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.2〜3質量%が特に好ましい。リチウム元素、前記元素(1)、または前記元素(2)、を含む化合物の割合は、目的とする反応生成物に応じて適宜選択されうる。反応生成物よりなる粒子としては、上記リチウム含有粒子を用いることができる。
【0065】
有機化合物の割合は、有機化合物の種類により適宜変更されうる。通常の場合、リチウム元素、前記元素(1)、または前記元素(2)、を含む化合物の合計に対して、1〜15質量%が好ましく、2〜8質量%がより好ましい。
【0066】
水性組成物における水性溶媒の量は、リチウム元素を含む化合物、前記元素(1)及び前記元素(2)の合計に対して1〜50質量倍が好ましく、5〜25質量倍がより好ましい。
【0067】
水性組成物のpHは、5〜12が好ましく、6〜11がより好ましく、7〜9が最も好ましい。上記範囲であれば、反応生成物を、組成のばらつきが小さく、かつ、収率良く合成することができるからである。
【0068】
なお、水性組成物は、必要に応じ、pH調整剤、アルカリ水溶液を含んでもよい。pH調整剤としては、アンモニア、重炭酸アンモニウムなどを用いることができ、アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物の水溶液を用いることができる。
【0069】
次に、水性組成物にマイクロ波を照射し、照射したマイクロ波により水性組成物を加熱することによって、反応生成物よりなる粒子を得る。また、前述したように、反応生成物よりなる粒子は、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)を含む。
【0070】
水性組成物にさらに有機化合物を含ませたときは、得られる粒子は、表面にカーボンが付着した反応生成物よりなる粒子である。
【0071】
該方法は、反応生成物よりなる粒子を水熱合成により合成する方法である。
【0072】
マイクロ波を照射するために用いる装置としては、マイクロ波を発生できる装置であればよく、クライストロン型、マグネトロン型等の各種のマイクロ波発生装置を用いることができる。クライストロン型マイクロ波発生装置は、マイクロ波を相対的に大出力で発生でき、産業利用上好ましい。一方、マグネトロン型マイクロ波発生装置は、相対的に小型であり、取扱いが容易である。一例として、例えば、10kW程度の出力が可能な2.45GHz帯のマグネトロン型マイクロ波発生装置を用いることができる。あるいは、指向性の高いマイクロ波を種々反射させ、反応空間内にマイクロ波を行き渡らせ、広い反応空間を形成してもよい。
【0073】
照射時間は、5〜90分が好ましく、10〜60分がより好ましく、15〜30分が最も好ましい。
【0074】
また、マイクロ波による水性組成物の加熱温度は、150〜260℃が好ましく、180〜250℃がより好ましく、200〜240℃が最も好ましい。水性組成物の温度が150℃未満の場合、反応速度が小さいこと等により、反応生成物を収率よく合成することができず、かつ、合成に要する時間が極めて長くなる。一方、水性組成物の温度が260℃を超える場合、温度が高過ぎるため、反応制御が難しくなるとともに、副反応が進行するおそれがある。
【0075】
水性組成物へのマイクロ波照射は、水性組成物が密閉容器内に密封された状態で行うことが好ましい。また、密閉容器内に密封された状態で水性組成物が加熱されることによって、密閉容器内は加圧状態となる。密閉容器内の圧力は、1.0〜8.0MPaが好ましく、2.0〜6.0MPaがより好ましく、3.0〜5.0MPaが最も好ましい。
【0076】
次に、得られた反応生成物よりなる粒子をリチウム含有正極材の表面に付着させることによりリチウムイオン二次電池用正極活物質を得る。
【0077】
反応生成物よりなる粒子をリチウム含有正極材の表面に付着させる方法としては、各種の公知の方法を適用できる。例えば、反応生成物よりなる粒子を水性溶媒に分散させた分散液をスプレーコートするスプレーコート法、及び従来知られる公知の被覆、点在化技術(例えば、湿式方法及び乾式方法)を適用できる。
【0078】
湿式方法としては、例えば、リチウム含有正極材を共沈法により作製する際に、共沈前の原材料(リチウム含有正極材の原材料)に反応生成物を混合、共沈させ、さらに熱分解、焼成する方法を用いることができる。これにより、リチウム含有正極材の表面に反応生成物よりなる粒子を形成することができる。
【0079】
乾式方法としては、例えば、上記湿式方法によって作製したリチウム含有正極材に、リチウム含有粒子を乾式混合する方法が挙げられる。混合装置・混合方法としては、ハイブリダイゼーションシステム、コスモス、メカノフュージョン、サーフュージングシステム、メカノミル・スピードニーダー・スピードミル・スピラコーター等の方法及び該方法に用いる装置を用いうる。
【0080】
リチウム含有正極材と、反応生成物よりなる粒子との混合を、ボールミルやビーズミル等の高せん断装置を用いるメカニカルミリング法も適用できる。リチウム含有正極材を水溶媒中に分散させておき、ここに反応生成物よりなる粒子を投入し、直接分散媒中で表面に吸着担持させる方法等も用いうる。
<リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(方法2)>
方法2は、方法1と同様の水性組成物に、水性溶媒に不溶性のリチウム含有正極材を含ませ、つぎに、マイクロ波を照射することにより、リチウム含有正極材の表面の少なくとも1部に、リチウムと、前記元素(1)または前記元素(2)とを含む反応生成物が付着した粒子を得る方法である。該方法によれば、反応生成物の合成と、反応生成物のリチウム含有正極材の表面への付着による担持とを、同一の工程で行うことができる。
【0081】
方法2の水性溶媒に不溶性のリチウム含有正極材を含ませる調製方法は、前記と同様のリチウム元素を含む化合物、前記と同様の元素(1)、または、前記と同様の元素(2)を含む化合物と、前記と同様の水性溶媒に、リチウム含有正極材を含む化合物を分散させる。
【0082】
リチウム元素を含む化合物、前記元素(1)、または前記元素(2)を含む化合物、水性溶媒のそれぞれの態様は前記と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0083】
また、水性組成物は、さらに有機化合物を含むことが好ましい。有機化合物の態様は、前記と同様である。これにより、表面にカーボンが付着した反応生成物とすることができ、反応生成物のリチウムの伝導性を向上させることができる。
【0084】
リチウム含有正極材としては、方法(1)におけるリチウム含有正極材と同様のものを用いうる。リチウム含有正極材の量の好ましい態様も同様である。
【0085】
有機化合物の割合、水性溶媒の量、及び水性組成物のpHのそれぞれの態様は前記と同様である。
【0086】
方法2では、水性組成物にマイクロ波を照射し、照射したマイクロ波により水性組成物を加熱することによって、反応生成物よりなる粒子をリチウム含有正極材の表面に付着させる。反応生成物よりなる粒子は、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)を含む。
【0087】
水性溶媒にさらに有機化合物を含ませたときは、得られる粒子は、表面にカーボンが付着した反応生成物よりなる粒子になり得る。
【0088】
マイクロ波の照射条件、照射装置、加熱温度、加熱容器は、方法1と同様である。
【0089】
方法2により得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質の粒子の平均粒子径、表面炭素層の厚みは、SEM観察、TEM観察等によって測定することができる。
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極表面に有するものである。以下、図2を参照して説明する。図2は、リチウムイオン二次電池をコイン型非水電解質二次電池として構成した例を示す縦断面図である。
【0090】
コイン型リチウムイオン二次電池20は、負極集電板21、スペーサー22、負極23、セパレータ24、正極25、正極集電板26を有する。負極集電板21と正極集電板26は、互いに対向するように構成されており、負極集電板21と正極集電板26の間には、負極集電板21側から正極集電板26側に、順に、スペーサー22、負極23、セパレータ24、正極25が配置されている。負極23と正極25とは、セパレータ24を介して接しており、負極23、セパレータ24、及び正極25は、非水電解質27に浸されている。また、負極集電板21と正極集電板26とは、絶縁パッキング28により接着され、封止されている。 負極23は、負極集電体上に、負極活物質を含有する負極活物質層が形成されてなる。負極23は、例えば、負極活物質を有機溶媒と混錬することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって、製造することができる。
【0091】
負極集電板としては、例えばニッケル箔、銅箔等の金属箔を用いることができる。
【0092】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であればよく、例えば、リチウム金属、リチウム合金、リチウム化合物、炭素材料、周期表14、15族の金属を主体として酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン及び炭化ホウ素化合物等を用いることができる。リチウム合金及びリチウム化合物としては、リチウムと、リチウムと合金あるいは化合物を形成可能な金属とにより構成されるリチウム合金及びリチウム化合物を用いることができる。炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、フェノール樹脂やフラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化した有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類等を用いることができる。周期表14族の金属としては、例えば、ケイ素あるいはスズであり、最も好ましくはケイ素である。また、比較的低い電位でリチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であれば、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物及びその他の窒化物等も同様に用いることができる。
【0093】
セパレータ24は、負極23と正極25とを離隔させるためのものである。セパレータ24としては、非水電解質二次電池のセパレータとして通常用いられる公知の材料を用いることができ、例えば、ポリプロピレンなどの高分子フィルム等を用いることができる。なお、後述するように、非水電解質27として固体電解質、ゲル電解質を用いた場合には、セパレータを設けなくてもよい。
【0094】
正極25は、正極集電体板(正極表面)に、正極活物質を含有する正極活物質層が形成されてなる。正極25は、例えば、本発明の正極活物質、導電材及び結合材を、溶媒に溶解させるか、分散媒に分散させるか、又は溶媒と混練することによって、スラリー又は混錬物を調製し、調製したスラリーを正極集電板に塗布等により担持させることによって、製造することができる。導電材としては、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック等を用いることができる。結合材としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、カルボキシルメチルセルロース、アクリル樹脂等を用いることができる。
【0095】
また、正極集電板としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔等の金属箔を用いることができる。
【0096】
非水電解質27としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることが好ましい。また、その他、非水電解質27として、電解質塩を含有させた固体電解質、高分子電解質、高分子化合物などに電解質を混合または溶解させた固体状もしくはゲル状電解質等を用いることができる。
【0097】
非水電解液としては、有機溶媒と電解質とを適宜組み合わせて調製されたものを用いることができる。有機溶媒としては、この種の電池に用いられるものであればいずれも使用可能であり、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いることができる。特に、電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。また、このような有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0098】
固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよく、例えば、無機固体電解質及び高分子固体電解質のいずれをも用いることができる。
【0099】
無機固体電解質としては、窒化リチウム、よう化リチウム等を用いることができる。
【0100】
高分子固体電解質としては、電解質塩と該電解質塩を溶解する高分子化合物を用いることができる。そして、この高分子化合物としては、ポリ(エチレンオキサイド) や同架橋体などのエーテル系高分子、ポリ(メタクリレート)エステル系、アクリレート系等を、単独あるいは分子中に共重合、または混合して用いることができる。
【0101】
ゲル状電解質のマトリックスとしては、上記の非水電解液を吸収してゲル化するものであればよく、種々の高分子を用いることができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリ(ビニリデンフルオロライド)、ポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)などのフッ素系高分子等を使用することができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル及びポリアクリロニトリルの共重合体を使用することができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリエチレンオキサイド及びポリエチレンオキサイドの共重合体、同架橋体などのエーテル系高分子を使用することができる。共重合モノマーとしては、例えば、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等を挙げることができる。
【0102】
また、電気化学的安定性の観点により、上記した高分子のうち、特にフッ素系高分子を用いることが好ましい。
【0103】
上記したような各種の電解質中で用いられる電解質塩は、この種の電池に用いられるものであればいずれも使用可能である。電解質塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、CHSOLi、LiCl、LiBr等を用いることができる。
【0104】
本実施のリチウムイオン二次電池の形状は、コイン型二次電池に制限されるものではない。リチウムイオン二次電池としては、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等の形状を、用途に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例により限定されて解釈されるものではない。
[実施例1](リチウム含有粒子の製造例)
Ti含量が8.20質量%の乳酸チタン水溶液を11.98g、リチウム含量が18.7質量%の炭酸リチウムを0.27g、La含量が40.5質量%の酢酸ランタンを3.87g秤量した。そして、秤量した各原料をイオン交換水30gに加え、室温下で混合し、攪拌しながら固形分を完全にイオン交換水に溶解させ、水性組成物Aを調製した。
【0106】
次に、調製した水性組成物Aを0.6g秤量し、秤量した水性組成物Aにイオン交換水25gを加えて希釈し、マイクロ波加熱反応用石英製容器4本に別々に入れた。そして、Anton Paar社製Synthos−3000マイクロ波装置を用い、温度(反応温度)が230℃になるように照射するマイクロ波の出力を制御するとともに、照射時間(反応時間)を15分とし、水熱合成を行った。水熱合成を行っている間の容器内圧力は、3.3MPa(ゲージ圧)であった。水熱合成終了後、吸引ろ過を行い、100℃の温度で真空乾燥を行うことによって、白色の粉末状の粒子を得た。
【0107】
得られた粒子表面をSEMにより観察した粒子表面のSEM観察写真を図3に示す。粒子の平均粒子径は、300nmであった。また、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)分析を行ったところ、得られた粒子は、元素としてLiとともに、LaとTiを含有するLiLaTi系酸化物であることが確認された。
[比較例1]
実施例1で調製したマイクロ波加熱用の水性組成物Aを15g秤量し、120℃の熱風乾燥機を使って蒸発乾固して白色粉末を得た。その後、得られた白色粉末を大気雰囲気とした管状炉で、700℃の温度(反応温度)条件で12時間の反応時間の間熱処理を行うことによって、LiLaTi系酸化物を得た。
[実施例2](正極活物質の製造例)
リチウム(ニッケル・コバルト・マンガン)複合酸化物2.00gをイオン交換水17.82gに加え、よく攪拌し、更に、実施例1で調製した水性組成物A0.20gを加えた反応液を4つ準備した。準備した反応液をマイクロ波加熱反応用石英製容器4本に別々に入れた。そして、実施例1と同様のマイクロ波装置を用い、温度(反応温度)が230℃になるように照射するマイクロ波の出力を制御するとともに、照射時間(反応時間)を15分とし、水熱合成を行った。水熱合成を行っている間の容器内圧力は、4.5MPaであった。水熱合成終了後、吸引ろ過を行い、100℃の温度で真空乾燥を行うことによって、粒子を得た。
【0108】
得られた粒子の粒子表面をSEMにより観察した粒子表面のSEM観察写真を図4に示す。図4に示すように、小さな粒子が大きな粒子の表面に付着していること確認された。小さな粒子の平均粒子径は、約10〜30nmであった。また、SEM観察と同時にEDX分析を行ったところ、大きな粒子がリチウム(ニッケル・コバルト・マンガン)複合酸化物であり、小さな粒子がLiLaTi系酸化物である粒子が生成していることが確認できた。
[実施例3]
コバルト酸リチウム2.00gをイオン交換水17.82gに加え、よく攪拌し、更に、実施例1で調製した水性組成物A(0.18g)を加えた反応液を4つ準備した。準備した反応液をマイクロ波加熱反応用石英製容器4本に別々に入れた。そして、実施例1と同様のマイクロ波装置を用い、温度(反応温度)が180℃になるように照射するマイクロ波の出力を制御するとともに、照射時間(反応時間)を15分とし、水熱合成を行った。水熱合成を行っている間の容器内圧力は、3.0MPaであった。水熱合成終了後、吸引ろ過を行い、100℃の温度で真空乾燥を行うことによって、表面にLiLaTi系酸化物が付着したコバルト酸リチウムよりなる粒子を得た。そして、得られた粒子を、管状炉を用い、大気雰囲気下、700℃の温度(反応温度)条件で、12時間の間、熱処理を行った。
[比較例2]
正極活物質として、コバルト酸リチウムを、何も処理を行わず、そのまま用いた。
[比較例3]
コバルト酸リチウム(10.00g)をイオン交換水(30.00g)中に入れよく攪拌し、更に、実施例1で調製した水性組成物Aを0.95g加え、ホットスターラを用い、攪拌しながら完全に水を除去した後、100℃の温度で真空乾燥を行うことによって、粉末状の粒子を得た。そして、得られた粒子を、管状炉を用い、大気雰囲気下、700℃の温度(反応温度)条件で、12時間の間、熱処理を行った。
[実施例4]
実施例1で合成した粒子をアセトン中に分散させた分散溶液を準備した。そして、該分散溶液を、リチウム(ニッケル・コバルト・マンガン)複合酸化物の第1の粒子の表面にスプレーガンを用いて均一にスプレーコートし、100℃の温度で真空乾燥を行うことによって、LiLaTi系酸化物がリチウム(ニッケル・コバルト・マンガン)複合酸化物の第1の粒子の表面に付着してなる正極活物質である粒子を得た。
【0109】
得られた粒子の元素分析を蛍光X線測定により行ったところ、反応生成物とリチウム(ニッケル・コバルト・マンガン)複合酸化物の第1の粒子との合計に対する反応生成物の量は、1質量%であった。
[反応生成物よりなる粒子の合成方法の比較]
実施例1及び比較例1における合成方法の各条件(合成法、制御温度(反応温度)、照射時間(反応時間))を表1に示す。
【0110】
【表1】

表1に示すように、実施例1における温度(反応温度)の230℃は、比較例1における温度(反応温度)の700℃に比べ、極めて低い。表1に示すように、実施例1における照射時間(反応時間)の0.25時間は、比較例1における反応時間の12時間に比べ、極めて短い。
【0111】
従って、本発明に係る製造方法を用いることにより、リチウム含有粒子を低温かつ短時間で効率よく合成できることが分かる。
[実施例5〜7、比較例4、5](リチウムイオン二次電池の製造例)
[正極用電極板の作製]
実施例2、3、4、比較例2及び3において製造した粒子を5.00g秤量し、秤量した粒子にアセチレンブラック(AB)0.75g加えよく混合した。ここに、N−メチルピロリドン(NMP)を20.00g、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)がNMPに溶解した溶液を4.00g加え、混合した。それぞれの比率が、正極材:AB:PVDF=80:12:8(質量換算比率)となるように混合した。そして、ボールミル装置で1時間分散処理を行って、電極形成用ペーストを調製した。調製した電極形成用ペーストをアルミニウム箔上にアプリケータを使って塗布し、120℃の温度で真空乾燥を行い、残存するNMPを除去した。更に、電極形成用ペーストが塗布されたアルミニウム箔を圧延して所定の大きさに打ち抜き、正極用電極板を作製した。
[リチウムイオン二次電池の作製]
前記で作製した正極用電極板を正極として用いるとともに、負極としてリチウム箔、セパレータとしてポリプロピレン不織布、電解液として1mol%LiPF/EC:DEC(1:1)を用い、リチウムイオン二次電池を作製した。アルゴングローブボックス内で、CR2032型コインセル内に、正極、セパレータ、負極及び集電板を取り付け、電解液を入れた後、電解液を正極、セパレータ及び負極に含浸させるため、1晩放置することによって、コイン型リチウムイオン二次電池を得た。
[リチウムイオン二次電池の電池特性の評価]
得られたコイン型リチウムイオン二次電池を25℃の一定の温度に制御された恒温槽内に入れ、電流密度を0.75mA/cmとし、4.3Vに到達後、一定電圧で3時間保持することによって充電を行った。その後、30分間の休息時間の後、0.2mA/cmの電流密度で2.75Vまで放電を行った。ここで得られたリチウムイオン二次電池の放電容量を、初期放電容量とした。
【0112】
更に、同一条件で、充電・放電を50サイクル繰り返した。正極活物質として実施例2、3、4、比較例2及び3により得られたものを用いた場合における、初期放電容量、50サイクル試験後の放電容量、50サイクル試験後の容量維持率を表2に示す。
【0113】
【表2】

実施例2〜4で得た正極活物質を用いて電池性能を評価した(実施例5〜7)。初期放電容量については、実施例5〜7の値が、比較例4における値に比して同等又はそれ以上である。50サイクル試験後の放電容量及び容量維持率について、実施例5及び6の値が、比較例4における50サイクル試験後の放電容量に比して大きい。
【0114】
従って、本発明の製造方法により得られた正極活物質は、初期放電容量を維持しつつ、サイクル試験後の容量維持率の高いリチウムイオン二次電池を提供できる。
【符号の説明】
【0115】
10 正極活物質
11 リチウム含有正極材
12 反応生成物
20 リチウムイオン二次電池
21 負極集電板
22 スペーサー
23 負極
24 セパレータ
25 正極
26 正極集電板
27 非水電解質
28 絶縁パッキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム元素を含む化合物と、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、を含む化合物(ただし、該化合物はリチウム元素を含まない。)とを、水性溶媒に含ませて溶解させた水性組成物に、マイクロ波を照射することにより、リチウムと、前記元素(1)または前記元素(2)とを含む反応生成物よりなる粒子を得ることを特徴とするリチウム含有粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法によりリチウム含有粒子を得て、つぎに該リチウム含有粒子をリチウム含有正極材の表面に付着させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
リチウム含有粒子が、水性溶媒中に分散した粒子であり、該粒子を水性溶媒に分散させたままスプレーコート法により前記リチウム含有正極材の表面に付着させる請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
リチウム元素を含む化合物と、ケイ素及びホウ素から選ばれる1種以上の元素(1)、または、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ランタン、タンタル、リン、及びバリウムから選ばれる1種以上の元素(2)、を含む化合物(ただし、該化合物はリチウム元素を含まない。)とを、水性溶媒に含ませて溶解させた水性組成物に、該水性溶媒に不溶性のリチウム含有正極材を含ませ、つぎに、マイクロ波を照射することにより、リチウム含有正極材の表面の少なくとも1部に、リチウムと、前記元素(1)または前記元素(2)とを含む反応生成物が付着した粒子を得ることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
リチウム元素を含む化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム水和物、及び水酸化リチウム水和物から選ばれる1種以上の化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記元素(1)または前記元素(2)を含む反応生成物が、前記元素(1)を含む酸化物または前記元素(2)を含む酸化物である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
リチウムと前記元素(1)とを含む反応生成物が、LiO−SiO、LiO−B、LiO−B−LiI、LiO−SiS、及びリチウム・アルミニウム・ケイ素酸化物から選ばれる1種以上の化合物である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
リチウムと前記元素(2)とを含む反応生成物が、リチウム・ランタン・チタン複合酸化物、リチウム・ランタン・ジルコニウム複合酸化物、及びリチウム・バリウム・ランタン・タンタル複合酸化物から選ばれる1種以上の化合物である、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
水性溶媒が、水のみ、または、水と水溶性有機溶剤よりなる、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
反応生成物の平均粒子径が1〜1000nmである請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
反応生成物の割合が、前記リチウム含有正極材と反応生成物の合計に対して0.01〜5質量%である請求項2または4に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項2〜11のいずれかに記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極表面に有するリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−46362(P2012−46362A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187659(P2010−187659)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】