説明

リチウム塩及びその利用

【課題】中心元素にオリゴエーテル基が結合した構造のアニオンとリチウムイオンとの塩であって、より有用性の高いリチウム塩を提供すること。
【解決手段】下記式(1):
LiM(OY)n(N(CORX24-n ・・・(1);
で表されるリチウム塩が提供される。ここで、nは1〜3である。Mは周期表13族に属する元素(例えばAl,B)である。Yはオリゴエーテル基である。RXは炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基(例えば、トリフルオロメチル基)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の電解質等として有用なリチウム塩およびその製造方法に関する。また、かかるリチウム塩を用いた電池(例えばリチウム電池)に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴエーテル基および電子求引性基をもつアルミネート構造を有するリチウム塩が知られている。かかるリチウム塩に関する従来技術文献として特許文献1が挙げられる。このようなリチウム塩は、室温において単独で(例えば、非水溶剤を混合することなく)良好なイオン導電率およびリチウムイオン輸率を示し得る。また、常温において液状の塩、すなわちリチウム(Li)をカチオンとする常温溶融塩(以下、「リチウム溶融塩」ということもある。)であり得る。
【特許文献1】特開2003−146941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の一つの目的は、中心元素にオリゴエーテル基が結合した構造のアニオンとリチウムイオンとの塩であって、より有用性の高いリチウム塩を提供することである。例えば、イオン導電率の向上、イオン導電率の温度依存性の緩和、粘性の低下、等のうち少なくとも一つの効果を実現し得るリチウム塩を提供することである。本発明の他の一つの目的は、かかるリチウム塩の製造方法を提供することである。また、上記リチウム塩を含む電解質を備える電池(例えばリチウム電池)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によると、下記式(1)で表されるリチウム塩が提供される。
LiM(OY)n(N(CORX24-n ・・・(1)
ここで、上記式(1)中のnは1〜3から選択される数(典型的には整数)であり得る。Mは周期表13族に属する元素であり得る。Yはオリゴエーテル基であり得る。RXは炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基であり得る。好ましい一つの態様では、RXがトリフルオロメチル基である。かかる構造のリチウム塩は、良好なイオン導電率を示すものであり得る。また、イオン導電率の温度依存性が比較的少ないものであり得る。また、比較的粘性の低いものであり得る。本発明のリチウム塩によると、これらのうち一または二以上の効果が実現され得る。
【0005】
また、本発明によると、上記式(1)で表されるリチウム塩の製造等に適したリチウム塩製造方法が提供される。その製造方法は、式LiMH4(該式中のMは前記式(1)中のMと等しい。)で表される化合物と、式HOY(該式中のYは前記式(1)中のYと等しい。)で表される化合物とを反応させて、式LiM(OY)n4-n(該式中のnは前記式(1)中のnと等しい。)で表される化合物を生じさせる工程を含む。また、該式LiM(OY)n4-nで表される化合物と、式HN(CORX2(該式中のRXは前記式(1)中のRXと等しい。)で表される化合物とを反応させて前記式(1)で表されるリチウム塩を生じさせる工程を含む。
【0006】
本発明によると、上述したいずれかのリチウム塩を備える電池(典型的にはリチウム電池)が提供される。上記リチウム塩を含む電解質は、良好なイオン導電率を示す、イオン導電率の温度依存性が比較的少ない、粘性が低い、のうち一または二以上の効果を実現するものであり得る。したがって、かかる電解質を備える電池は、より良好な電池特性を発揮するものとなり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書によって開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0008】
ここに開示されるリチウム塩は、式(1):LiM(OY)n(N(CORX24-n;で表される。該式におけるnは1〜3から選択される数(典型的には整数)であり得る。この式で表されるリチウム塩は、nの値が異なる複数種類のリチウム塩の混合物であってもよい。イオン伝導材料としての有用性の観点等から、上記式(1)におけるnが2であるリチウム塩が特に好ましい。上記式(1)におけるMは、長周期型(1〜18の族表示による。)の元素周期表において13族に属する元素(すなわち、B,Al,Ga,InおよびTl)から選択されるいずれかである。典型的には、Mがホウ素(B)またはアルミニウム(Al)である。
【0009】
上記式(1)におけるRXは、炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基である。より低粘性のリチウム塩を得るという観点からは、炭素数1または2のハロゲン化アルキル基が好ましく、炭素数1のハロゲン化アルキル基(すなわち、ハロゲン化メチル基)が特に好ましい。ここで「ハロゲン化アルキル基」とは、アルキル基の有する水素原子の一部または全部(好ましくは全部)をハロゲン原子に置き換えた基を指す。水素原子を置き換えるハロゲン原子は、それぞれ、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)およびヨウ素原子(I)からなる群から選択されるいずれかであり得る。ハロゲン化アルキル基の好適例として、水素原子の一部または全部(好ましくは全部)がフッ素原子および塩素原子のいずれかで置換されたアルキル基が挙げられる。水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルキル基(すなわちフッ化アルキル基)が好ましく、水素原子の全部がフッ素原子で置換されたアルキル基(すなわちパーフルオロアルキル基)が特に好ましい。好適なRXの具体例として、トリフルオロメチル基(CF3)およびペンタフルオロエチル基(CF2CF3)が挙げられる。本発明にとり特に好ましいRXはトリフルオロメチル基である。
【0010】
一つのN(CORX2に含まれる二つのRXは同一であってもよく異なってもよい。通常は、原料の入手および/または合成が容易であることから、各N(CORX2に含まれる二つのRXが同一であるリチウム塩が好ましい。式(1)で表されるリチウム塩は、nの数に応じて1〜3個のN(CORX2を有し得る。nが1よりも大きい場合、このリチウム塩は中心元素(M)上に同種のN(CORX2を複数有してもよく、一つの中心元素上に異なる種類の(二種以上の)N(CORX2を有してもよい。合成が容易であること等から、中心元素上に同種のN(CORX2をn個有する構造のリチウム塩が好ましい。
【0011】
上記式(1)におけるYはオリゴエーテル基である。例えば、分子量が凡そ70〜550程度(より好ましくは100〜400)のオリゴエーテル基であることが好ましい。Yの好適例としては、下記式(2):
(R1O)m−R2 ・・・(2);
で表されるオリゴアルキレンオキシド基が挙げられる。ここで、式(2)中のmは1〜20であり得る。mが2〜14であることが好ましく、mが5〜12であることがより好ましい。また、R1は炭素数1〜8、好ましくは炭素数2〜4、より好ましくは炭素数2〜3のアルキレン基である。R1がエチレン基(すなわち、Yがオリゴエチレンオキシド基)であることが特に好ましい。また、R2は、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基またはアルキルアリール基(例えばベンジル基)であり得る。R2が炭素数1〜3のアルキル基(例えばメチル基)であることが特に好ましい。
【0012】
式(1)で表されるリチウム塩は、nの数に応じて1〜3個のYを有し得る。式(1)におけるnが1よりも大きい場合、このリチウム塩は中心元素(M)上に同種のYを複数有してもよく、一つの中心元素上に異なる種類の(二種以上の)Yを有してもよい。例えば、式(1)におけるnが2であり、式(2)におけるm,R1およびR2のうち少なくともいずれかが異なる二種類のYを一つの中心元素上に有するリチウム塩であり得る。
【0013】
上記式(1)で表される構造のリチウム塩は、例えば以下の方法によって好適に製造することができる。すなわち、式LiMH4で表される化合物と、式HOYで表される化合物とを反応させる。これにより、式LiM(OY)n4-nで表される化合物(解離しているものを含む。以下同様。)を生じさせる。ここで、式HOYで表される化合物は、式(1)中のYに水酸基(OH)が結合した構造に相当する化合物であって、少なくとも一つの水酸基を有するオリゴエーテル(典型的には、少なくとも一方の末端に水酸基を有する鎖状オリゴエーテル)である。例えば、上記式(1)におけるYがオリゴアルキレングリコールモノアルキルエーテルであるリチウム塩を製造しようとする場合には、式HOYで表される化合物としてオリゴアルキレングリコールモノアルキルエーテルを選択することができる。
【0014】
この反応は、式LiMH4で表される化合物と、式HOYで表される化合物とを適当な溶媒中で混合することによって進行させることができる。好ましく使用し得る溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)等が例示される。これらのうちTHFの使用が特に好ましい。該反応は、例えば−78〜60℃の温度域で進行させることができる。目的とする構造のリチウム塩を純度よく生じさせるという観点からは、0〜40℃の温度域で反応を行うことが好ましい。また、反応温度として室温前後(例えば20〜35℃)の温度域を選択することができる。このことは、反応操作が容易である、反応装置を簡略化し得る等の点で有利である。
式LiM(OY)n4-nにおけるnの数は、例えば、式LiMH4で表される化合物と式HOYで表される化合物との仕込み比(モル比)によって調節することができる。例えば、LiM(OY)n4-nにおけるnが概ね2である化合物を製造しようとする場合には、式LiMH4で表される化合物1モルに対して、式HOYで表される化合物を1.8〜2.2モル(好ましくは、凡そ2モル)の割合で反応させるとよい。
【0015】
次いで、LiM(OY)n4-nで表される化合物と、式HN(CORX2で表される化合物とを反応させる。該式HN(CORX2で表される化合物は、上記式(1)で表される化合物のN(CORX2基に対応するアミドである。これにより、式(1)で表される構造のリチウム塩を生じさせる。
この反応は、LiM(OY)n4-nで表される化合物と、式HN(CORX2で表される化合物と適当な溶媒中で混合することによって進行させることができる。好ましく使用し得る溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン、ジグライム等が例示される。これらのうちTHFの使用が特に好ましい。該反応は、例えば0〜60℃の温度域で進行させることができる。目的とする構造のリチウム塩を効率よく生じさせるという観点からは、0〜40℃の温度域で反応を行うことが好ましい。また、操作の容易性等の点から、反応温度として室温前後(例えば20〜35℃)の温度域を好ましく選択することができる。例えば、LiM(OY)n4-nで表される化合物を生じさせる上記反応の後、その反応液に式HN(CORX2で表される化合物を加えることによって、これら二段階の製造工程を効率よく実施することができる。
【0016】
なお、LiM(OY)n4-nで表される化合物と式HN(CORX2で表される化合物との反応は、反応溶媒としてTHFを選択した場合にも、室温前後の反応温度において適切に進行させ得る(例えば、THFの開環重合等の副反応が問題となることはない)。したがって、該反応の際に系を強制的に冷却(例えば−78℃程度に冷却)することなく、汎用溶媒であるTHFを用いることができるので、合成が容易であるという利点がある。もっとも、このことは該反応を行う際の反応温度を室温前後に限定するものではなく、より低い反応温度を選択することはもちろん可能である。
【0017】
式HN(CORX2で表される化合物の使用量は、LiM(OY)n4-nで表される化合物1モルに対して、凡そ4−nモル程度またはそれ以上とすることが適当である。例えば、式(1)におけるnが概ね2であるリチウム塩を製造しようとする場合には、LiM(OY)22で表される化合物1モルに対して、式HN(CORX2で表される化合物を1.8〜3モル(好ましくは1.8〜2.5モル、より好ましくは凡そ2モル)の割合で反応させるとよい。その後、必要に応じて適切な後処理(溶媒の除去等)を施すことにより、目的とするリチウム塩を得ることができる。
【0018】
ここで開示されるリチウム塩の一つの好ましい態様では、該リチウム塩が常温域において液状の化合物(すなわちリチウム溶融塩)である。ここで「常温域」とは、例えば、上限が凡そ80℃(典型的には凡そ60℃、場合によっては凡そ40℃)であり、下限が凡そ−20℃(典型的には凡そ0℃、場合によっては凡そ20℃)である温度域をいう。かかる温度域の少なくとも一部の範囲で液状を呈するリチウム塩が好ましい。少なくとも凡そ25℃において液状を示すリチウム塩が好ましく、少なくとも凡そ20〜40℃(より好ましくは凡そ0〜60℃、さらに好ましくは凡そ−20〜+80℃)の温度域の全体に亘って液状の状態を維持し得るリチウム塩がより好ましい。
このようなリチウム溶融塩は、常温域において良好なイオン導電率および/またはリチウムイオン輸率を示すものとなり得る。したがって、該リチウム塩単独で(例えば、非水溶剤等を混合することなく)、各種電気化学デバイス(例えば、電池、キャパシタ等の蓄電素子)に備えられるイオン伝導材料として使用可能である。例えば、リチウム電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)の電解質として好適に使用され得る。
【0019】
ここに開示される電池(リチウムイオン二次電池等)は、上述したいずれかのリチウム塩を含む電解質を備える。その電解質は、上記式(1)で表されるリチウム塩(好ましくはリチウム溶融塩)から選択される一種または二種以上を含み、かつ、実質的に非水溶剤を含有しない組成であり得る。かかる組成であって、少なくとも凡そ25℃において液状を示す電解質が好ましい。
【0020】
また、ここに開示される電池に備えられる電解質は、上記式(1)で表されるリチウム塩に加えて他の成分を含有する組成であり得る。そのような「他の成分」の例として、一般的な非水系電池の電解質に利用し得るものとして知られている各種の非水溶剤を挙げることができる。例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選択される一種または二種以上を含む組成の電解質とすることができる。かかる非水溶剤を含む組成の電解質では、該電解質全体の質量に占める非水溶剤の質量割合を凡そ50%以下とすることが好ましく、凡そ25%以下とすることがより好ましく、凡そ10%以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
上記「他の成分」の他の例としては、一般的なリチウム電池の支持電解質として知られている各種のリチウム塩が挙げられる。例えば、LiPF6,LiBF4,LiN(SO2CF32,LiCF3SO3,LiC49SO3,LiC(SO2CF33,LiClO4等から選択される一種または二種以上のリチウム塩を支持電解質として含有する組成の電解質とすることができる。かかる組成の電解質における支持電解質の濃度は特に限定されないが、通常は、少なくとも25℃において支持電解質が安定して溶解し得る(析出等が認められない)程度の濃度とすることが好ましい。例えば、電解質1リットル(L)当たり、支持電解質凡そ0.1〜15モル(好ましくは0.5〜10モル)を含有する組成とすることができる。
【0022】
ここに開示される電池に備えられる電解質は、リチウム以外のカチオンとアニオンとの塩(例えば、イミダゾリウムカチオン、アンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン等を有する常温溶融塩)を含有する組成であり得る。また、上記式(1)におけるN(CORX2の代わりに、OC65,OCOR(Rは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。),OB(OY)2,N(SO2CF32,およびN(SO2252からなる群から選択される少なくとも一種の基を有する構造のリチウム塩(好ましくはリチウム溶融塩)を含有する組成であり得る。これらの塩の使用量は、合計で、上記式(1)で表されるリチウム塩100質量部に対して凡そ100質量部未満とすることが適当であり、凡そ50質量部未満とすることが好ましく、凡そ10質量部未満とすることがより好ましい。
【0023】
さらに、上記式(1)で表されるリチウム塩は、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体(EO−PO)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF−HFP)等の支持体とともに成形(成膜)することにより、固体電解質として利用することも可能である。
【0024】
このような電解質を備えるリチウム電池(典型的には、リチウムイオン二次電池)を構成する正極としては、正極集電体に正極活物質を付着させたものを用いることができる。正極集電体としては、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。あるいは、カーボンペーパー等を用いてもよい。正極活物質としては、一般的なリチウム電池に用いられる層状構造の酸化物系正極活物質、スピネル構造の酸化物系正極活物質等を用いることができる。例えば、リチウムコバルト系複合酸化物(典型的にはLiCoO2)、リチウムニッケル系複合酸化物(典型的にはLiNiO2)、リチウムマンガン系複合酸化物(LiMn24)等を主成分とする正極活物質を用いることができる。このような正極活物質を、必要に応じて導電材、結着剤(バインダ)等とともに正極合材として正極集電体に付着させた形態の正極とすることができる。導電材としては、カーボンブラック(アセチレンブラック等)のような炭素材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いることができる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF−HFP)、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)等を用いることができる。特に限定するものではないが、正極活物質100質量部に対する導電材の使用量は、例えば1〜15質量部の範囲とすることができる。また、正極活物質100質量部に対する結着剤の使用量は、例えば約1〜10質量部の範囲とすることができる。
【0025】
また、負極としては、負極集電体に負極活物質を付着させたものを用いることができる。負極集電体としては、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)等を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。あるいは、カーボンペーパー等を用いてもよい。負極活物質としては、アモルファス構造および/またはグラファイト構造の炭素材料を用いることができる。例えば、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を負極活物質として用いることができる。また、負極活物質としてSi,Sn等を用いてもよい。負極活物質としてチタン酸リチウム(例えばLi4Ti512)を用いてもよい。このような負極活物質を、必要に応じて結着剤(バインダ)等とともに負極合材として負極集電体に付着させた形態の負極とすることができる。結着剤としては、正極と同様のもの等を使用することができる。負極の他の構造として、Li(金属)箔、Si蒸着膜、Snメッキ箔等を採用することも可能である。
【0026】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂からなる多孔質フィルムを用いることができる。また、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、メチルセルロース等からなる織布または不織布を用いてもよい。
【0027】
以下、本発明に関する実験例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0028】
<実験例1:Salt Cの合成>
下記の合成スキームにより、本実験例に係るリチウム塩(Salt C)を合成した。
【0029】
【化1】

【0030】
すなわち、50mLのフラスコに5mLのテトラヒドロフラン(THF)を入れ、水素化アルミニウムリチウム1.81g(2.00mol)を含むTHF溶液(水素化アルミニウムリチウム濃度1.0MのTHF溶液、Aldrich社製品)を加えた。ここに、重合度3(すなわち、エーテル鎖のユニット数n=3)のオリゴエチレングリコールモノメチルエーテル(CHO(CHCHO)3H、Aldrich社製品、分子量164.20)0.657g(4.00mol)を5mLのTHFに溶かしたものをゆっくりと滴下し、室温で4時間攪拌してLiAl(O(CH2CH2O)3CH322を生じさせた。反応を完了させてから、ここにビストリフルオロアセトアミド(東京化成工業株式会社製品)0.836g(4.00mol)をゆっくりと滴下し、室温で12時間攪拌した。その反応液を精製して、上記合成スキームに示す構造のリチウム塩、すなわちSalt C(n=3)を得た。収率は95%(1.47g)であった。
【0031】
本実験例により得られたSalt C(n=3)のFT−IRスペクトルをAs2Se3プレート法によって測定した。そのスペクトルデータを表1に示す。なお、このFT−IR測定において、−OH基およびNH基を示す吸収は観察されなかった。
【0032】
【表1】

【0033】
また、n=3のオリゴエチレングリコールモノメチルエーテルに代えて、n=7.2のオリゴエチレングリコールモノメチルエーテル(Aldrich社製品、平均分子量350)およびn=11.8のオリゴエチレングリコールモノメチルエーテル(Aldrich社製品、平均分子量550)をそれぞれ使用した点以外は上記Salt C(n=3)の合成と同様にして、Salt C(n=7.2)およびSalt C(n=11.8)を合成した。
【0034】
<実験例2:Salt Dの合成>
水素化アルミニウムリチウムに代えて水素化ホウ素リチウムを使用した点以外は上記実験例1と同様にして、エーテル鎖のユニット数nが異なる三種類のリチウム塩、すなわち、Salt D(n=3)、Salt D(n=7.2)及びSalt D(n=11.8)を合成した。Salt D(n=3)についての収率は94.3%(1.46g)であった。これらのリチウム塩の合成スキームを以下に示す。
【0035】
【化2】

【0036】
本実験例により得られたSalt D(n=3)のFT−IRスペクトルをAs2Se3プレート法によって測定した。このFT−IR測定において、−OH基およびNH基を示す吸収は観察されなかった。また、このSalt D(n=3)をジメチルスルホキシド−d6に溶解させて1H−NMRスペクトルを測定した。それらのスペクトルデータを表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
実験例1および2により得られた各リチウム塩のガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)をDSCにより測定した。それらの結果を、各リチウム塩の25℃における性状とともに以下に示す。表中の「‐」は未測定であることを表している。
【0039】
【表3】

【0040】
<実験例3:イオン伝導度の測定>
実験例1により得られた各リチウム塩のイオン導電率σ(S/cm)を測定した。測定は、ステンレススチール電極を用いた交流インピーダンス法により、凡そ25℃〜80℃の間の各温度条件下で行った。イオン導電率測定用セルは、アルゴン雰囲気下、90℃で1時間加熱した後に3時間室温で冷却したものを用いた。
【0041】
[Salt C]
エーテル鎖のユニット数nが異なる三種類のSalt Cについてのイオン導電率測定結果を表4および図1に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
Salt C(n=7.2)およびSalt C(n=11.8)は、いずれも良好なイオン導電率を示した。Salt C(n=7.2)のイオン導電率は、Salt C(n=11.8)に比べてさらに良好であった。これは、よりエーテル鎖の長いSalt C(n=11.8)に比べて、Salt C(n=7.2)では体積当たりのリチウムイオン濃度がより高いためと考えられる。一方、Salt C(n=3)は25℃において固体状であったため、Salt C(n=7.2)およびSalt C(n=11.8)に比べてイオン導電率が低かった。
【0044】
[Salt D]
エーテル鎖のユニット数nが異なる三種類のSalt Dについてのイオン導電率測定結果を表5および図2に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
Salt Dは、n=3,7.2,11.8のいずれの塩も良好なイオン導電率を示した。Salt CとSalt Dとをエーテル鎖のユニット数nが同じもの同士で比較すると、n=3,7.2,11.8のいずれにおいてもSalt Dのほうがさらに高いイオン導電率を示した。これは、Salt Dの中心元素であるBの電気陰性度がSalt Cの中心元素であるAlよりも高いため、アニオン中心(中心元素)に結合する酸素原子または窒素原子に局在する負電荷がより小さくなり、このためリチウムイオンとアニオンとの相互作用が弱まって塩の解離性が向上し、イオン導電率が向上したものと考えられる。また、Salt Cに比べてSalt Dの粘性が低いこともイオン導電率の向上に寄与したものと考えられる。Salt Cとは異なりSalt Dでは、室温〜60℃程度の温度範囲ではn=7.2よりもn=11.8のほうが高いイオン導電率を示した。このことは、Salt DではSalt Cよりも塩の解離性が高く、このためキャリアーであるリチウムイオンの濃度がより高いことを示唆している。
【0047】
[Salt(TFA)]
Salt CにおけるN(COCF32基に代えて、トリフルオロアセテート基を有する構造のリチウム塩(すなわち、式:LiAl(O(CH2CH2O)nCH32)(OCOCF32;で表されるリチウム塩、以下「Salt(TFA)」と表示することもある。)であって、エーテル鎖のユニット数が異なる三種類のリチウム塩、すなわちSalt(TFA)(n=3)、Salt(TFA)(n=7.2)およびSalt(TFA)(n=11.8)を合成した。この合成は、ビストリフルオロアセトアミドに代えてトリフルオロ酢酸を使用した点、ならびに、水素化アルミニウムリチウムにオリゴエチレングリコールモノメチルエーテルとの反応およびその結果物とトリフルオロ酢酸との反応をいずれも−78℃において行った点以外は実験例1と同様にして行った。得られたSalt(TFA)(n=3,7.2,11.8)は、25℃において、いずれも高粘性の液体状であった。
これらのSalt(TFA)について、Salt Cと同様にしてイオン導電率を測定した。その結果、Salt C(n=7.2)のイオン導電率はSalt(TFA)(n=7.2)と同等以上であった。また、Salt C(n=11.8)のイオン導電率(σ)はSalt(TFA)(n=11.8)に比べて半桁以上向上していた。
【0048】
[Salt(TFSI)]
Salt CにおけるN(COCF32基に代えて、N(SO2CF32基を有する構造のリチウム塩(すなわち、式:LiAl(O(CH2CH2O)nCH32(N(SO2CF322;で表されるリチウム塩、以下「Salt(TFSI)」と表示することもある。)であって、エーテル鎖のユニット数nが7.2であるリチウム塩、すなわちSalt(TFSI)(n=7.2)を合成した。この合成は、ビストリフルオロアセトアミドに代えてトリフルオロメタンスルホンイミド(HN(SO2CF32)を使用した点、ならびに、水素化アルミニウムリチウムにオリゴエチレングリコールモノメチルエーテルとの反応およびその結果物とトリフルオロメタンスルホンイミドとの反応をいずれも−78℃において行った点以外は実験例1と同様にして行った。得られたSalt(TFSI)(n=7.2)は、25℃において高粘性の液体状であった。
このSalt(TFSI)について、Salt Cと同様にして25〜80℃におけるイオン導電率を測定した。その結果、Salt C(n=7.2)は、Salt(TFSI)(n=7.2)に比べてイオン導電率の温度依存性が少ない(より具体的には、室温以下の温度域においてもイオン導電率の低下が少ない)ことがわかった。すなわち、Salt C(n=7.2)は、Salt(TFSI)(n=7.2)よりも幅広い温度域において安定したイオン伝導性を示した。また、Salt(TFSI)(n=7.2)に比べてSalt C(n=7.2)の粘性は明らかに低かった。
【0049】
<実験例4:リチウムイオン輸率の測定>
Salt D(n=7.2)およびSalt D(n=11.8)のリチウムイオン輸率t+を、ACインピーダンスとDCインピーダンスとの組み合わせにより、下記式(I)を用いて求めた。ここで、式(I)中のt+はリチウムイオン輸率、I0は初期電流値、Isは定常電流値、ΔVは印加電圧、Reiは初期界面抵抗値、Resは定常界面抵抗値、Rbiは初期バルク抵抗値、Rbfは終期バルク抵抗値を表している。得られた結果を表6に示す。
【0050】
【数1】

【0051】
【表6】

【0052】
この表に示すように、Salt D(n=7.2)およびSalt D(n=11.8)は、いずれも0.7を超えるリチウムイオン輸率t+を示した。これは、一般的なリチウム二次電池に用いられている液状電解質のリチウムイオン輸率(例えば、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合溶媒にLiPF6を溶解させた組成の電解質のリチウムイオン輸率は0.26程度である。)に比べて明らかに高い値である。また、Salt D(n=7.2)とSalt D(n=11.8)との比較から、エーテル鎖が長くなると輸率が向上していることがわかる。これは、エーテル鎖が長くなる(ユニット数nが大きくなる)ことによってアニオンの分子量が増して嵩高くなり、このためアニオンの移動度が低下したためと考えられる。
【0053】
Salt C、Salt DおよびSalt(TFA)の分子内局所電荷計算のため、富士通株式会社製CAChe Worksystem version 5.0を用いてPM5パラメータによりMOPAC(general-purpose semiempirical Molecular Orbital Package)計算を行った。かかる部分電荷シミュレーションの結果を図3〜5に示す。
図5に示すように、Salt(TFA)では、トリフルオロアセテート基において中心元素(Al)に結合する酸素原子に局在する負電荷の大きさは0.44であった。また、トリフルオロアセテート基のカルボニル酸素(C=O)に局在する負電荷の大きさは0.41であった。この値は、オリゴエーテル鎖のエーテル酸素に局在する負電荷の大きさ(0.39)よりも大きい。これに対してSalt CおよびSalt Dでは、図3および図4に示すように、ビストリフルオロアセトアミド基の各カルボニル酸素(C=O)に局在する負電荷の大きさはそれぞれ0.33および0.31であった。これらの値は、いずれも、各塩のオリゴエーテル鎖のエーテル酸素に局在する負電荷の大きさ(Salt Cでは0.40、Salt Dでは0.38)よりも明らかに小さい。このように、カルボニル酸素への負電荷の局在が緩和されたことによって、該カルボニル酸素とリチウムイオンとの相互作用が低減されて塩の解離性が向上し、これによりSalt CおよびSalt DではSalt(TFA)に比べてイオン導電率が向上したものと推察される。
【0054】
また、Salt CとSalt Dとを比較すると、中心元素をアルミニウム(Alの電気陰性度:1.5)からホウ素(Bの電気陰性度:2.0)にしたことによって、Salt Dではアニオン中心近傍に局在する負電荷がより小さくなっている。例えば、オリゴエーテル鎖と中心元素とを繋ぐ酸素原子に局在する負電荷の大きさは、Salt Cでは0.56であるのに対して、Salt Dでは0.44と小さくなっている。このため、Salt DではSalt Cに比べてアニオンとリチウムイオンとの相互作用が弱くなって塩の解離性が高まり、イオン導電率がさらに向上したものと考えられる。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】イオン導電率と温度との関係を示すグラフである。
【図2】イオン導電率と温度との関係を示すグラフである。
【図3】Salt Cの部分電荷シミュレーション結果を示す説明図である。
【図4】Salt Dの部分電荷シミュレーション結果を示す説明図である。
【図5】Salt(TFA)の部分電荷シミュレーション結果を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
LiM(OY)n(N(CORX24-n ・・・(1)
(ここで、nは1〜3である。Mは周期表13族に属する元素である。Yはオリゴエーテル基である。RXは炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基である。);
で表されるリチウム塩。
【請求項2】
前記RXがトリフルオロメチル基である、請求項1に記載のリチウム塩。
【請求項3】
下記式(1):
LiM(OY)n(N(CORX24-n ・・・(1)
(ここで、nは1〜3である。Mは周期表13族に属する元素である。Yはオリゴエーテル基である。RXは炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基である。);
で表されるリチウム塩を製造する方法であって、以下の工程:
式LiMH4(該式中のMは前記式(1)中のMと等しい。)で表される化合物と、式HOY(該式中のYは前記式(1)中のYと等しい。)で表される化合物とを反応させて、式LiM(OY)n4-n(該式中のnは前記式(1)中のnと等しい。)で表される化合物を生じさせる工程;および、
前記式LiM(OY)n4-nで表される化合物と、式HN(CORX2(該式中のRXは前記式(1)中のRXと等しい。)で表される化合物とを反応させて前記式(1)で表されるリチウム塩を生じさせる工程;
を包含する、リチウム塩の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のリチウム塩を含む電解質を備える電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−99706(P2007−99706A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292930(P2005−292930)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】