説明

リチウム2次電池負極用炭素材、リチウム2次電池負極およびリチウム2次電池

【課題】充放電サイクル特性の優れたリチウム2次電池負極用炭素材を提供すること。
【解決手段】本発明によるリチウム2次電池負極用炭素材は、1次粒子平均粒径が5nm以上1.5μm以下のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子と、該粒子を包囲する樹脂炭素材とからなる複合粒子、ならびに該複合粒子の表面に結合し、かつ、該複合粒子を包囲するナノファイバー等からなる網状構造体を含み、該複合粒子中の前記金属もしくは半金属等を含む粒子の2次粒子平均粒径が、1次粒子最小粒径以上、5μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池負極用炭素材、リチウム2次電池負極およびリチウム2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器類のポータブル化、コードレス化が進むにつれ、リチウム2次電池の小型軽量化、或いは高エネルギー密度化が、より一層求められている。リチウム2次電池を高密度化するため、その負極材料として、リチウムと合金化するケイ素、スズ、ゲルマニウム、マグネシウム、鉛、およびアルミニウムまたはこれらの酸化物もしくは合金等を採用することが知られている。しかしながら、上述のような負極材料は、リチウムイオンを吸蔵する充電時に体積膨張し、反対にリチウムイオンを放出する放電時には体積収縮する。このため充放電サイクルの繰り返しに応じて負極電極の体積が変化し、その結果負極材料が微粉化し、電極から脱落するなどして負極が崩壊することが知られている。
【0003】
上記問題を克服するため、さまざまな手法、手段が検討されているが、リチウム2次電池負極材料に金属、および酸化物を用いた場合に充放電特性を安定化させることは難しいのが現状である。そこで、例えば、特許文献1に開示されているように、充放電サイクル特性に優れたリチウム2次電池用負極材料として、リチウム合金を形成しうる金属の粒子表面を有機物で被覆し、リチウムイオンを吸蔵する際に起こる膨張を抑えるために、金属粒子の1次粒子平均粒径が500nm以下、2次粒子平均粒径が10μm以下のものが用いられると記載されている。しかし、用いる金属粒子の1次粒子径、2次粒子径を小さくしたのみでは、充電時のリチウム吸蔵における金属粒子の膨張を抑えることは難しく、また、負極活物質表面近傍の金属粒子の微細化による電極からの滑落も抑制できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−214137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の技術に鑑み、金属粒子と炭素材からなる複合粒子を包囲するナノファイバーおよび/またはナノチューブからなる網状構造体と、複合粒子中の金属粒子の2次凝集を抑制することによる、極めて優れた相乗効果により、リチウムイオン2次電池の充放電サイクル特性を一層向上させたリチウム2次電池負極用炭素材、リチウム2次電池負極およびこれを用いたリチウム2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的は、以下の第(1)項〜第(9)項によって達成される。
(1) 1次粒子平均粒径が5nm以上1.5μm以下のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子と、該粒子を包囲する樹脂炭素材とからなる複合粒子、ならびに該複合粒子の表面に結合し、かつ、該複合粒子を包囲するナノファイバーおよび/またはナノチューブからなる網状構造体を含み、該複合粒子中の前記金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子の2次粒子平均粒径が、1次粒子最小粒径以上、5μm以下であることを特徴とする、リチウム2次電池負極用炭素材。
(2)前記樹脂炭素材および前記網状構造体が、触媒を含有する炭素前駆体の炭化処理により生成したものである、第(1)項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
(3)前記触媒が、銅、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデンおよびマンガンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む、第(2)項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
(4)前記金属もしくは半金属が、スズ、ゲルマニウムおよびアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む、第(1)項〜第(3)項のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
(5)前記網状構造体が炭素を含む、第(1)項〜第(4)項のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
(6)平均粒子径が3μm〜15μmの範囲内である、第(1)項〜第(5)項のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
(7)前記炭素前駆体が、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂およびポリアクリロニトリルからなる群より選択された易黒鉛化材料および/または難黒鉛化材料を含む、第(2)項〜第(6)項のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
(8)第(1)項〜第(7)項のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材を含むリチウム2次電池負極。
(9)第(8)項に記載のリチウム2次電池負極を含むリチウム2次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、充放電サイクルによる負極用炭素材の微粉化が抑制されると共に、ナノファイバーおよび/またはナノチューブと複合粒子の間の密着性が維持されることにより該炭素材の導電性の低下が抑えられるため、これまでにない優れた充放電サイクル特性を示すリチウム2次電池負極用炭素材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施例1において得られた炭素材表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の代表例である。
【図2】図2は、実施例1において得られた炭素材断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の代表例である。
【図3】図3は、比較例1において得られた炭素材断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の代表例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によるリチウム2次電池負極用炭素材は、1次粒子平均粒径が5nm以上1.5μm以下のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子と、該粒子を包囲する樹脂炭素材とからなる複合粒子、ならびに該複合粒子の表面に結合し、かつ、該複合粒子を包囲するナノファイバーおよび/またはナノチューブからなる網状構造体を含み、該複合粒子中の前記金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子の2次粒子平均粒径が、1次粒子最小粒径以上、5μm以下であることを特徴とする。
【0010】
まず、本発明の網状構造体について説明する。上記樹脂炭素材と網状構造体は、炭素前駆体を、触媒の存在下で、炭化処理することにより形成され、前記網状構造体は、見かけ上、前記複合粒子の表面を起点に形成される。特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、本発明におけるナノファイバー等からなる網状構造体は、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物または炭化物を含む粒子と、該粒子を包囲する樹脂炭素材とからなる複合粒子の表面に結合しているため、隣接する別の粒子に起因する網状構造体と交絡しているものと考えられる。このため、ナノファイバー等と複合粒子の間の密着性が高くなり、充放電によるリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な粒子の体積膨張収縮に際してナノファイバー等が複合粒子から離れにくくなる。また、隣接する複数の粒子の網状構造体同士が交絡することで全体として伸縮性のある網状構造体が形成されるため、充放電による粒子の体積膨張収縮に際して負極全体の導電性が維持される。そして、負極の導電性が維持されることにより、充放電に伴う抵抗変化を抑制することができ、サイクル特性に優れたものとなる。このような本発明特有の網状構造体は、別途気相法で形成されたカーボンナノファイバー等を添加しただけでは、形成されない。
【0011】
本発明で用いるリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属の例として、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)等を挙げることができる。さらにこれら金属または半金属の合金、酸化物、窒化物または炭化物の例として、一酸化スズ(SnO)、二酸化スズ(SnO)、窒化スズ(SnN)、炭化スズ(SnC)、一酸化ゲルマニウム(GeO)、窒化ゲルマニウム(Ge)、炭化ゲルマニウム(GeC)、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化アルミニウム(Al)、アルミニウムリチウム合金(Al−Li系)等を挙げることができる。これら金属または半金属の中では、エネルギー密度が高い点でSnが好ましく、さらにその酸化物は、Sn単体より充電時の膨張率が小さい点でより好ましい。
【0012】
本発明による網状構造体を構成するナノファイバー等は、繊維直径1μm未満の繊維を含む。ナノファイバーとナノチューブとを厳密に区別する必要はないが、本明細書では特に、繊維直径100nm以上のものをナノファイバーと、そして繊維直径100nm以下のものをナノチューブとそれぞれ定義する。本発明によるナノファイバー等の元素組成としては、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な粒子の組成によって、本発明のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属を構成する元素および炭素、窒素、酸素等を含む任意の構成が想定される。具体的には、一酸化スズ、二酸化スズ、炭化スズ、窒化スズ、炭窒化スズ、一酸化ゲルマニウム、炭化ゲルマニウム、窒化ゲルマニウム、炭窒化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、炭化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭窒化アルミニウム等またはこれらの任意の組合せ事例が想定される。本発明によるナノファイバー等の元素組成は、ナノファイバー等の全体にわたり均一であってもよいし、場所によって異なっていてもよい。さらに、本発明による網状構造体を構成するナノファイバー等には、カーボンナノファイバーおよび/またはカーボンナノチューブ(以下、「カーボンナノファイバー等」という。)が含まれていることが好ましい。カーボンナノファイバー等が存在することにより、複合粒子間の導電性向上が期待される。
【0013】
次に本発明のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む(1次)粒子、および該粒子を包囲する樹脂炭素材とからなる複合粒子中の、該粒子の2次粒子に係る態様を説明する。本発明のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む1次粒子はその平均粒径が、5nm〜1.5μmの範囲内にあることが好ましく、0.1μm〜1.2μmの範囲内にあることがより好ましい。上記粒子の平均粒子径が5nm以上だと、リチウムイオンの吸蔵量が適正となり、粒子の膨張収縮を網状構造体により十分に抑制することができる。また上記粒子の平均粒子径が1.5μm以下だと、高い充放電容量を得ることができる。一方本発明の複合粒子中の、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む(1次)粒子が凝集した2次粒子については、1次粒子最小粒径以上、5μm以下が好ましく、さらに3.5μm以下がより好ましい。5μm以下だと、リチウムの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮を樹脂炭素材が抑制できない部分を網状構造体で十分に抑制することができるため、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0014】
本発明の網状構造体は前述のように、隣接する粒子に起因する網状構造体と交絡しているものと考えられるため、ナノファイバー等と複合粒子の間の密着性を向上させ、また、隣接する複数の粒子の網状構造体同士が交絡することで全体として伸縮性のある網状構造体が形成されるため、充放電による粒子の体積膨張収縮に際して負極全体の導電性が維持される効果があるが、前述のように、金属粒子の凝集により、2次粒子が大きい場合、充放電に伴う膨張収縮が不均一になり、網状構造体の効果が十分に発現しなかったり、網状構造体自体が不均一となったりする可能性があるため、本発明の優れた効果を得るためには、本発明の網状構造体と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子の1次粒子径、および複合粒子中の該粒子の2次粒子径の制御、の両方の技術が重要である。
【0015】
本発明のリチウム2次電池負極用炭素材は、その形状に特に制限はなく、塊状、鱗片状、球状、繊維状等の任意の粒子形状を有することができる。また、これら炭素材粒子の大きさは、充放電特性の上で、平均粒子径が3μm以上、15μm以下であることが好ましい。更に好ましくは5μm以上、12μm以下である。また、より好ましくは、7μm以上、10μm以下である。平均粒子径が15μm以下であると、炭素材粒子間の間隙を小さくでき、リチウム2次電池負極用炭素材として用いた場合に、負極電極の密度を向上させることができる。また、平均粒子径が3μm以上だと、単位質量当たりで見た場合、炭素材粒子個数を抑制でき全体として嵩高くならず、取り扱いが容易になる。
【0016】
本発明における炭素材および金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む(1次)粒子の粒子径の定義としては、粒子形状とMie理論を用いて測定量を粒子径に算出した値とし、有効径と称されるものである。
本発明における平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法による測定される体積換算で頻度が50%となる粒子径を平均粒子径D50%として定めた。
また、本発明の複合粒子中の前記金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子の2次粒子平均粒径は、よく混合した炭素材粒子を10サンプル任意に抽出し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際の2次凝集粒子の長径を測定、その平均値を2次粒子平均粒径とした。
【0017】
本発明におけるリチウム2次電池負極用炭素材は、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を、負極用炭素材に対する質量比で5〜60質量%含有することが好ましい。上記含有量が5質量%以上だと、リチウムイオンの吸蔵が十分なものとなり、高い充放電容量を得ることが期待できる。一方、上記含有量が60質量%以下だと、リチウムイオンの吸蔵・放出における粒子の膨張収縮を網状構造体により抑えることが容易となり、十分な充放電サイクル特性を得ることができる。ここで、上記の金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物または炭化物の含有量は、JIS K 2272:1998に従う灰分試験法によって測定される。
【0018】
本発明によるリチウム2次電池負極用炭素材は、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子と、炭素前駆体と、触媒とを混合することにより、該粒子と該触媒とが該炭素前駆体に分散された混合物を形成し、次いで該混合物に炭化処理を施すことにより製造される。この炭化処理により、炭素前駆体が樹脂炭素材に転化すると共に、転化した樹脂炭素材とリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な粒子とからなる複合粒子を包囲するナノファイバー等からなる網状構造体が、該複合粒子の表面を起点に形成される。炭素前駆体中に触媒を分散させて炭化処理を施すことにより、網状構造体を構成するナノファイバー等、特にカーボンナノファイバー等の生成量を増大させることができる。
【0019】
炭素前駆体の例としては、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂およびポリアクリロニトリルからなる群より選択された易黒鉛化材料または難黒鉛化材料を挙げることができる。易黒鉛化材料と難黒鉛化材料の混合物を使用してもよい。また、フェノール樹脂等に硬化剤(例、ヘキサメチレンテトラミン)を含めてもよく、その場合、硬化剤も炭素前駆体の一部となり得る。
【0020】
触媒の例としては、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)およびマンガン(Mn)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むものが挙げられる。触媒元素は、炭素前駆体に不純物として含まれるものであってもよく、その場合、意図的に別途触媒を用意して混合する必要のない場合もある。これらの触媒元素は、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な粒子と触媒とが炭素前駆体に分散された混合物を形成するように、溶液として粒子と混合することが好ましい。このような溶液を提供するため、触媒元素は金属塩化合物として用意することが好ましく、そのような金属塩化合物の例としては、上記元素の、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等の無機酸根との塩、カルボン酸、スルホン酸、フェノール等の有機酸根との塩、等が挙げられる。また、このような溶液に用いる溶媒としては、水、有機溶媒および水と有機溶媒の混合物の中から適宜選択すればよく、特に有機溶媒の例としては、エタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0021】
リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な粒子と、炭素前駆体と、触媒とを混合する方法は、本発明の金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子等を前述のように十分に分散できれば特に制限はなく、ホモディスパー、ホモジナイザー等の撹拌機による溶融または溶液混合;遠心粉砕機、自由ミル、ジェットミル等の粉砕機による粉砕混合;乳鉢、乳棒による混練混合;等を採用することができる。上記粒子と、炭素前駆体と、触媒とを混合する順序にも特に制限はない。上記粒子と樹脂炭素材からなる粒子において、樹脂炭素材により上記粒子を包囲する複合粒子を形成する上で、溶媒を用いて、上記粒子と炭素前駆体を混合し、スラリー状混合物としてもよいし、上記粒子に炭素前駆体を混合し、炭素前駆体を硬化させ、固形状にしてもよい。また、上記スラリーにおいて、炭素前駆体が液状であれば、溶媒を使用しなくても良い。また本発明の金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子を十分に分散させるための混合手順も特に制限はなく、該粒子を予めよく分散し得る溶媒に分散させた後、他の成分と混合する方法や他の成分と該粒子を同時に溶媒に混合する方法、他の成分と該粒子を同時に溶融混合する方法(その際少量の溶媒を使用することも含む)、該粒子と前記炭素前駆体の一部を予め溶融混合し、後で残りの成分を混合する方法、あるいは該粒子の表面にカップリング剤を付着させて分散させる方法など、特に制限はない。
【0022】
本発明のリチウム2次電池負極用炭素材の粒度分布を調整する場合は、公知の粉砕方法、分級方法を採用すればよい。粉砕装置の例としては、ハンマーミル、ジョークラッシャー、衝突式粉砕器等が挙げられる。また、分級方法の例としては、気流分級、篩による分級が可能であり、特に気流分級装置の例として、ターボクラシファイヤー、ターボプレックス等が挙げられる。
【0023】
炭化処理のための加熱温度は、好ましくは400〜1400℃、より好ましくは600〜1300℃の範囲内で適宜設定すればよい。上記加熱温度に至るまでの昇温速度に特に制限はなく、好ましくは0.5〜600℃/時、より好ましくは20〜300℃/時の範囲内で適宜設定すればよい。上記加熱温度での保持時間は、好ましくは48時間以内、より好ましくは1〜12時間の範囲内で適宜設定すればよい。また、炭化処理は、アルゴン、窒素、二酸化炭素等の還元雰囲気において実施すればよい。さらに、炭化処理を2段階以上に分けて実施することにより、得られる樹脂炭素材の物性を制御することが好ましい。例えば、400〜700℃の温度で1〜6時間程度処理(1次炭化)した後、上述の粉砕処理により所期の平均粒子径を有する炭素材を得、さらにその炭素材を1000℃以上の温度で処理(2次炭化)することが好ましい。また炭化処理工程で本発明の金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子を凝集させない条件を適宜選択することも本発明に含まれる。
【0024】
このように、本発明よるリチウム2次電池負極用炭素材は、樹脂炭素材と、ナノファイバー等からなる網状構造体とが炭化処理により一緒に形成されるため、別途ナノファイバー等を気相法、アーク放電法、プラズマ処理法で用意する必要がなく、製造プロセスが簡便であり、且つコストを下げることができる。
【0025】
上述のようにして得られた炭素材を負極活物質として用いることにより、本発明によるリチウム2次電池負極を作製することができる。本発明によるリチウム2次電池負極は、従来公知の方法で作製することができる。例えば、負極活物質としての本発明による炭素材に、バインダー、導電剤等を加えて適当な溶媒または分散媒で所定粘度としたスラリーを調製し、これを金属箔等の集電体に塗工し、厚さ数μm〜数百μmのコーティングを形成させる。そのコーティングを50〜200℃程度で熱処理することにより溶媒または分散媒を除去することにより、本発明による負極を得ることができる。
【0026】
本発明による負極の作製に用いられるバインダーは、従来公知の材料であればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン・ブタジエン共重合体、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を使用することができる。また、本発明による負極の作製に用いられる導電剤は、導電補助材として通常使用されている材料であればよく、例として、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。さらに、本発明による負極の作製に用いられる溶媒または分散媒は、負極活物質、バインダー、導電剤等を均一に混合できる材料であればよく、例として、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、アセトニトリル等が挙げられる。
【0027】
さらに、本発明によるリチウム2次電池負極を用いることにより、本発明によるリチウム2次電池を作製することができる。本発明によるリチウム2次電池は、従来公知の方法で作製することができ、一般に、本発明による負極と、正極と、電解質とを含み、さらにこれらの負極と正極が短絡しないようにするセパレータを含む。電解質がポリマーと複合化された固体電解質であってセパレータの機能を併せ持つものである場合には、独立したセパレータは不要である。
【0028】
本発明によるリチウム2次電池の作製に用いられる正極は、従来公知の方法で作製することができる。例えば、正極活物質に、バインダー、導電剤等を加えて適当な溶媒または分散媒で所定粘度としたスラリーを調製し、これを金属箔等の集電体に塗工し、厚さ数μm〜数百μmのコーティングを形成させ、そのコーティングを50〜200℃程度で熱処理することにより溶媒または分散媒を除去すればよい。正極活物質は、従来公知の材料であればよく、例えば、LiCoO等のコバルト複合酸化物、LiMn等のマンガン複合酸化物、LiNiO等のニッケル複合酸化物、これら酸化物の混合物、LiNiOのニッケルの一部をコバルトやマンガンに置換したもの、LiFeVO、LiFePO等の鉄複合酸化物、等を使用することができる。
【0029】
電解質としては、公知の電解液、常温溶融塩(イオン液体)、及び有機系もしくは無機系の固体電解質などを用いることができる。公知の電解液としては、例えば、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルなどが挙げられる。また、常温溶融塩(イオン液体)としては、例えば、イミダゾリウム系塩、ピロリジニウム系塩、ピリジニウム系塩、アンモニウム系塩、ホスホニウム系塩、スルホニウム系塩などが挙げられる。前記固体電解質としては、例えば、ポリエーテル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリイミン系ポリマー、ポリビニルアセタール系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリフッ化アルケン系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリ(塩化ビニル−フッ化ビニリデン)系ポリマー、ポリ(スチレン−アクリロニトリル)系ポリマー、及びニトリルゴムなどの直鎖型ポリマーなどに代表される有機系ポリマーゲル;ジルコニアなどの無機セラミックス;ヨウ化銀、ヨウ化銀硫黄化合物、ヨウ化銀ルビジウム化合物などの無機系電解質;などが挙げられる。また、前記電解質にリチウム塩を溶解したものを2次電池用の電解質として用いることができる。また、電解質に難燃性を付与するために難燃性電解質溶解剤を加えることもできる。同様に、電解質の粘度を低下させるために可塑剤を加えることもできる。
【0030】
電解質に溶解させるリチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiCFSO、LiBF、LiAsF、LiN(CFSO、LiN(CSOおよびLiC(CFSOなどが挙げられる。上記リチウム塩は、単独で用いても、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記リチウム塩は、電解質全体に対して、一般に0.1質量%〜89.9質量%、好ましくは1.0質量%〜79.0質量%の含有量で用いられる。電解質のリチウム塩以外の成分は、リチウム塩の含有量が上記範囲内にあることを条件に、適当な量で添加することができる。
【0031】
上記電解質に用いられるポリマーとしては、電気化学的に安定であり、イオン伝導度が高いものであれば特に制限はなく、例えば、アクリレート系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン等を使用することができる。また、重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとから構成される塩モノマーを含むものから合成されたポリマーは、特にイオン伝導度が高く、充放電特性のさらなる向上に寄与し得る点で、より好ましい。電解質中のポリマー含有量は、好ましくは0.1質量%〜50質量%、より好ましくは1質量%〜40質量%の範囲内である。
【0032】
上記難燃性電解質溶解剤としては、自己消火性を示し、かつ、電解質塩が共存した状態で電解質塩を溶解させることができる化合物であれば特に制限はなく、例えば、リン酸エステル、ハロゲン化合物、フォスファゼン等を使用することができる。
【0033】
上記可塑剤の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、等が挙げられる。上記可塑剤は、単独で用いても、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明によるリチウム2次電池にセパレータを用いる場合、正極と負極の間の短絡を防止することができ、電気化学的に安定である従来公知の材料を使用すればよい。セパレータの例としては、ポリエチレン製セパレータ、ポリプロピレン製セパレータ、セルロース製セパレータ、不織布、無機系セパレータ、グラスフィルター等が挙げられる。電解質にポリマーを含める場合には、その電解質がセパレータの機能を兼ね備える場合もあり、その場合、独立したセパレータは不要である。
【0035】
本発明の2次電池の製造方法としては、公知な方法が適用できる。例えば、まず、上記で得た正極および負極を、所定の形、大きさに切断して用意し、次いで、正極と負極を直接接触しないように、セパレータを介して貼りあわせ、それを単層セルとする。次いで、この単層セルの電極間に、注液などの方法により、電解質を注入する。このようにして得られたセルを、例えば、ポリエステルフィルム/アルミニウムフィルム/変性ポリオレフィンフィルムの三層構造のラミネートフィルムからなる外装体に挿入し封止することにより、2次電池が得られる。得られた2次電池は、用途により、単セルとして用いても、複数のセルを繋いだモジュールとして用いてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明をより具体的に説明するための実施例を提供する。
【0037】
<実施例1>
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製PR−51530)100質量部およびヘキサメチレンテトラミン(三菱瓦斯化学株式会社製)10質量部、メタノール10質量部、さらに一酸化スズ(関東化学株式会社製のものを粉砕)25質量部(平均粒子径0.9μm)、硝酸鉄(関東化学株式会社製)0.039質量部を添加し、これらをニーダーで、回転数50rpm、40℃、30分間混合し、樹脂スラリーを得た。攪拌終了後、得られた樹脂スラリーを175℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、500℃到達後3時間の炭化を行った。得られた炭素材を平均粒子径が9μmになるまで粉砕処理を行い、粉砕処理により得られた炭素材を、さらに昇温し、1100℃到達後3時間の炭化処理を行い、2次電池負極用炭素材を得た。得られた炭素材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素材表面および断面の観察を行ったところ、図1に示すように白く写った繊維状のナノファイバー等からなる網状構造体が炭素材の粒子表面から発生し、これらの粒子を包囲していることが確認された。また炭素材中の金属粒子の2次粒子平均粒径は3μmであった(図2の写真に代表例を示す)。また、得られた炭素材には半金属として一酸化スズが27.8質量%含有されていた。
【0038】
本発明の炭素材および金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む(1次)粒子の粒子径は、レーザー回折折散乱粒度分布測定装置(ベックマン・コールター(株)社製LS−230)を用いて測定した。平均粒子径は体積換算とし、頻度が累積で50%になったところを平均粒子径と定義した。
また、本発明の複合粒子中の前記金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子の2次粒子平均粒径は、よく混合した炭素材粒子を10サンプル任意に抽出し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際の2次凝集粒子の長径を測定、その平均値を2次粒子平均粒径とした。
【0039】
充放電特性の評価
(1)負極の作製
上記で得られた炭素材を用い、これに対して結着剤としてポリフッ化ビニリデン10%、アセチレンブラック3%の割合で、それぞれ配合し、さらに、希釈溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを適量加え混合し、スラリー状の負極用混合物を調製した。
この負極スラリー状混合物を10μmの銅箔の両面に塗布し、その後、110℃で1時間真空乾燥した。真空乾燥後、ロールプレスによって電極を100μmに加圧成形した。これを幅40mmで長さ290mmの大きさに切り出し負極を作製した。この負極を用いて、リチウムイオン2次電池用電極としてφ13mmの径で打ち抜き負極とした。
【0040】
(2)リチウムイオン2次電池の作製
上記負極、セパレータ(ポリプロピレン製多孔質フィルム:直径φ16、厚さ25μm)、作用極としてリチウム金属(直径φ12、厚さ1mm)の順で、宝泉製2032型コインセル内の所定の位置に配置した。さらに、電解液としてエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートの混合液(体積比が1:1)に、過塩素酸リチウムを1[モル/リットル]の濃度で溶解させたものを注液し、リチウムイオン2次電池を作製した。
【0041】
(3)電池特性の評価
〈初期充放電特性評価〉
充電容量については、充電時の電流密度を25mA/gとして定電流充電を行い、電位が0Vに達した時点から、0Vで定電圧充電を行い、電流密度が1.25mA/gになるまでに充電した電気量を充電容量とした。
一方、放電容量については、放電時の電流密度も25mA/gとして定電流放電を行い、電位が2.5Vに達した時点から、2.5Vで定電圧放電を行い、電流密度が1.25mA/gになるまでに放電した電気量を放電容量とした。
なお、充放電特性の評価は、充放電特性評価装置(北斗電工(株)製:HJR−1010mSM8)を用いて行った。
また、以下の式により初回の充放電効率を定義した。
初回充放電効率(%)=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)×100
【0042】
〈サイクル性評価〉
初期充放電特性評価条件を300回繰り返し測定した後に得られた放電容量を300サイクル目の放電容量とした。また、以下の式によりサイクル性(300サイクル容量維持率)を定義した。
サイクル性(%、300サイクル容量維持率)=300サイクル目の放電容量(mAh/g)/初回放電容量(mAh/g)×100
【0043】
<実施例2>
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製PR−51530)100質量部およびヘキサメチレンテトラミン(三菱瓦斯化学株式会社製)10質量部、メタノール10質量部、さらに一酸化スズ(関東化学株式会社製のものを粉砕)25質量部(平均粒子径1.2μm)、硝酸鉄(関東化学株式会社製)0.028質量部を添加し、これらをニーダーで、回転数50rpm、40℃、30分間混合し、樹脂スラリーを得た。攪拌終了後、得られた樹脂スラリーを175℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、500℃到達後3時間の炭化を行った。得られた炭素材を平均粒子径が9μmになるまで粉砕処理を行い、粉砕処理により得られた炭素材を、さらに昇温し、1100℃到達後3時間の炭化処理を行い、2次電池負極用炭素材を得た。得られた炭素材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素材表面および断面の観察を行ったところ、炭素材粒子表面にナノファイバーの生成が確認され、炭素材中の金属粒子の2次粒子平均粒径は3μmであった。また、得られた炭素材には半金属として一酸化スズが29.4質量%含有されていた。
【0044】
<実施例3>
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製PR−51530)100質量部およびヘキサメチレンテトラミン(三菱瓦斯化学株式会社製)10質量部、メタノール10質量部、さらに一酸化スズ(関東化学株式会社製のものを粉砕)30質量部(平均粒子径1.2μm)、硝酸銅(関東化学株式会社製)0.017質量部を添加し、これらをニーダーで、回転数50rpm、40℃、30分間混合し、樹脂スラリーを得た。攪拌終了後、得られた樹脂スラリーを175℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、500℃到達後3時間の炭化を行った。得られた炭素材を平均粒子径が9μmになるまで粉砕処理を行い、粉砕処理により得られた炭素材を、さらに昇温し、1100℃到達後3時間の炭化処理を行い、2次電池負極用炭素材を得た。得られた炭素材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素材表面および断面の観察を行ったところ、炭素材粒子表面にナノファイバーの生成が確認され、炭素材中の金属粒子の2次粒子平均粒径は4μmであった。また、得られた炭素材には半金属として一酸化スズが31.4質量%含有されていた。
【0045】
<実施例4>
メタクレゾール(関東化学株式会社製)100質量部と43%ホルムアルデヒド水溶液(住友ベークライト株式会社製)53.3質量部、しゅう酸(関東化学株式会社製)3質量部を攪拌機及び冷却管を備えた3つ口フラスコに入れ、100℃で3時間反応後、昇温脱水し、メタクレゾール樹脂90質量部を得た。上記操作を繰り返して得られたメタクレゾール樹脂100質量部およびヘキサメチレンテトラミン(三菱瓦斯化学株式会社製)10質量部、ジメチルスルホアミド10質量部、さらに一酸化スズ(関東化学株式会社製のものを粉砕)25質量部(平均粒子径1.5μm)、硝酸銅(関東化学株式会社製)0.095質量部を添加し、これらをニーダーで、回転数50rpm、40℃、30分間混合し、樹脂スラリーを得た。攪拌終了後、得られた樹脂スラリーを175℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、500℃到達後3時間の炭化を行った。得られた炭素材を平均粒子径が10μmになるまで粉砕処理を行い、粉砕処理により得られた炭素材を、さらに昇温し、1100℃到達後3時間の炭化処理を行い、2次電池負極用炭素材を得た。得られた炭素材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素材表面および断面の観察を行ったところ、炭素材粒子表面にナノファイバーの生成が確認され、炭素材中の金属粒子の2次粒子平均粒径は5μmであった。また、得られた炭素材には半金属として一酸化スズが29.6質量%含有されていた。
【0046】
<実施例5>
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製PR−51530)100質量部およびヘキサメチレンテトラミン(三菱瓦斯化学株式会社製)10質量部、メタノール10質量部、さらに一酸化スズ(関東化学株式会社製のものを粉砕)25質量部(平均粒子径0.7μm)、硝酸ニッケル(関東化学株式会社製)0.058質量部を添加し、これらをニーダーで、回転数50rpm、40℃、30分間混合し、樹脂スラリーを得た。攪拌終了後、得られた樹脂スラリーを175℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、500℃到達後3時間の炭化を行った。得られた炭素材を平均粒子径が10μmになるまで粉砕処理を行い、粉砕処理により得られた炭素材を、さらに昇温し、1100℃到達後3時間の炭化処理を行い、2次電池負極用炭素材を得た。得られた炭素材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素材表面および断面の観察を行ったところ、炭素材粒子表面にナノファイバーの生成が確認され、炭素材中の金属粒子の2次粒子平均粒径は3μmであった。また、得られた炭素材には半金属として一酸化スズが29.2質量%含有されていた。
【0047】
<実施例6>
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製PR−51530)100質量部およびヘキサメチレンテトラミン(三菱瓦斯化学株式会社製)10質量部、メタノール10質量部、さらにアルミニウム粉末(関東化学株式会社製のものを粉砕)35質量部(平均粒子径1.4μm)、硝酸銅(関東化学株式会社製)0.057質量部を添加し、これらをニーダーで、回転数50rpm、40℃、30分間混合し、樹脂スラリーを得た。攪拌終了後、得られた樹脂スラリーを175℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、500℃到達後3時間の炭化を行った。得られた炭素材を平均粒子径が11μmになるまで粉砕処理を行い、粉砕処理により得られた炭素材を、さらに昇温し、1100℃到達後3時間の炭化処理を行い、2次電池負極用炭素材を得た。得られた炭素材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素材表面および断面の観察を行ったところ、炭素材粒子表面にナノファイバーの生成が確認され、炭素材中の金属粒子の2次粒子平均粒径は5μmであった。また、得られた炭素材には半金属としてアルミニウムが33.5質量%含有されていた。
【0048】
<比較例1>
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製PR−51530)100質量部およびヘキサメチレンテトラミン(三菱瓦斯化学株式会社製)10質量部、メタノール10質量部、さらに一酸化スズ(関東化学株式会社製のものを粉砕)25質量部(平均粒子径0.9μm)、硝酸鉄(関東化学株式会社製)0.025質量部を添加し、これらをニーダーで、回転数25rpm、40℃、10分間混合し、樹脂スラリーを得た。攪拌終了後、得られた樹脂スラリーを175℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、500℃到達後3時間の炭化を行った。得られた炭素材を平均粒子径が14μmになるまで粉砕処理を行い、粉砕処理により得られた炭素材を、さらに昇温し、1100℃到達後3時間の炭化処理を行い、2次電池負極用炭素材を得た。得られた炭素材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素材表面および断面の観察を行ったところ、炭素材粒子表面にナノファイバーの生成が確認され、炭素材中の金属粒子の2次粒子平均粒径は10μmであった。また、得られた炭素材には半金属として二酸化スズが26.9質量%含有されていた。
【0049】
<比較例2>
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製PR−51530)100質量部およびヘキサメチレンテトラミン(三菱瓦斯化学株式会社製)10質量部、メタノール10質量部、さらに一酸化スズ(関東化学株式会社製のものを粉砕)25質量部(平均粒子径1.2μm)をニーダーで、回転数50rpm、40℃、30分間混合し、樹脂スラリーを得た。攪拌終了後、得られた樹脂スラリーを175℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、500℃到達後3時間の炭化を行った。得られた炭素材を平均粒子径が8μmになるまで粉砕処理を行い、粉砕処理により得られた炭素材を、さらに昇温し、1100℃到達後3時間の炭化処理を行い、2次電池負極用炭素材を得た。得られた炭素材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素材表面および断面の観察を行ったところ、炭素材粒子表面にナノファイバーの生成は確認できなかった。炭素材中の金属粒子の2次粒子平均粒径は3μmであった。また、得られた炭素材には半金属として一酸化スズが28.1質量%含有されていた。
【0050】
上記各実施例、比較例について、炭素材の電池特性の評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】



【0052】
表1から明らかなように、実施例1〜8のリチウムイオン2次電池は、300サイクル
後の容量維持率が80%以上あり、同40%以下の比較例1、2と比べ、充放電サイクル特性が顕著に向上した。これは、図1、図2に代表されるように、実施例ではナノファイバー等からなる網状構造体が複合粒子の表面から発生し、これらの粒子を包囲し、さらには本発明のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む(1次)粒子がよく分散して2次粒子が小さくなっている結果、充放電サイクルによる負極用炭素材の膨張収縮に伴う微粉化が抑制されたためであると考えられる。これに対し、比較例1では、ナノファイバー等からなる網状構造体が複合粒子の表面から発生し、これらの粒子を包囲しているものの、図3に代表例を示すように、本発明のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む(1次)粒子の凝集が著しく、2次粒子が大きくなっており、比較例2では、粒子を包囲する網状構造体が存在しないため、前記2次粒子が小さくなっているにもかかわらず、前記充放電サイクルによる負極用炭素材の膨張収縮に伴う微粉化が進行し、実質的に電極が崩壊した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次粒子平均粒径が5nm以上1.5μm以下のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子と、該粒子を包囲する樹脂炭素材とからなる複合粒子、ならびに該複合粒子の表面に結合し、かつ、該複合粒子を包囲するナノファイバーおよび/またはナノチューブからなる網状構造体を含み、該複合粒子中の前記金属もしくは半金属またはこれらの合金、酸化物、窒化物もしくは炭化物を含む粒子の2次粒子平均粒径が、1次粒子最小粒径以上、5μm以下であることを特徴とする、リチウム2次電池負極用炭素材。
【請求項2】
前記樹脂炭素材および前記網状構造体が、触媒を含有する炭素前駆体の炭化処理により生成したものである、請求項1に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
【請求項3】
前記触媒が、銅、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデンおよびマンガンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む、請求項2に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
【請求項4】
前記金属もしくは半金属が、スズ、ゲルマニウムおよびアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
【請求項5】
前記網状構造体が炭素を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
【請求項6】
平均粒子径が3μm〜15μmの範囲内である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
【請求項7】
前記炭素前駆体が、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂およびポリアクリロニトリルからなる群より選択された易黒鉛化材料および/または難黒鉛化材料を含む、請求項2〜6のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウム2次電池負極用炭素材を含むリチウム2次電池負極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウム2次電池負極を含むリチウム2次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−96491(P2011−96491A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248742(P2009−248742)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】