説明

リニアアクチュエータ

【課題】
大きな動力を必要とせずに出力軸を保持する手段として楔係合機構を活用する方法があるが、その楔契合部の部品同士の接触部応力が大きくなりアクチュエータの疲労寿命を低下させることを防止する必要がある。
【解決手段】
回転駆動装置による回転運動を回転−直動変換機構によって直動機構に変換するリニアアクチュエータにおいて、回転−直動変換機構の上流側の回転駆動経路にワンウェイ機構を組み込むことよって、少ない楔係合力によって出力軸が外力によって駆動されるのを阻止できる構成とし、接触部応力を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータなどの回転駆動源の回転運動を直線運動に変換し対象物を直線的に駆動するリニアアクチュエータに係わり、特にリフト装置における荷物の重力のように荷重方向が一定方向である場合や、その荷重に対抗してアクチュエータが対象物を移動させる際に成した仕事の一部が位置エネルギーやバネの弾性エネルギーなどの形で保存される場合に適したリニアアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題や温暖化対策の一環として、近年、各種機器のアクチュエータにおいて従来の油圧アクチュエータから電動アクチュエータへの変換を志向する動きが高まっている。これは油圧機器では必要な作動油を使用しないこと自体が環境対策になると同時に、電動化によって容易になる動力回生を活用した消費動力削減,エネルギー源を内燃機関の燃料から電力に変換することに伴うアクチュエータ稼動現場でのローカルな環境負荷低減,バッテリーを介した深夜電力利用による広域でのエネルギーの有効利用、などを狙ったものである。
【0003】
しかし、一方ではアクチュエータを電動化することによって新たに発生する技術課題があり、それらを解決することが油圧アクチュエータから電動アクチュエータへの変換に際して越えなければならないハードルとなっている。
【0004】
例えば、油圧シリンダのような油圧の直動アクチュエータにおいて駆動対象物から荷重が作用している状態で現在位置に保持する場合には、油圧の給排経路を弁によって遮断して作動油を密閉空間に閉じ込めることで、他の動力を消費せずに保持が可能であるのに対して、電動アクチュエータでは駆動源であるモータにトルクを発生させて外部から作用する荷重と釣り合わせる必要がある。すなわち、このままでは電動アクチュエータへの変換によるせっかくの消費動力削減効果の一部または全部が失われてしまう。また、保持期間中のモータコイル温度上昇などが機器の耐久性を損なう要因にもなる。
【0005】
上記の保持動力やモータ耐久性の問題を改善しようとする技術の一例として、特開昭2007−32708号公報「電動リニアアクチュエータ」のように、モータなどの回転駆動源側から出力軸を直動駆動させることのみが可能であり、出力軸に作用するスラスト荷重では出力軸を直動させることができない機構が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−32708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のリニアアクチュエータの機構は、確かに、保持動力を不要にしモータの耐久性を改善する効果を有するが、逆に、その機構自体の耐久性やアクチュエータの電動化の重要な目的の一つである動力回生への適用性ができないなどの問題が残した構成であった。つまり、電動化のメリットを十分に引き出すことができて、しかも、実用性に優れた電動リニアアクチュエータの構成はまだ確立されていないと言える。
【0008】
特許文献1に記載されたリニアアクチュエータでは、駆動対象物から荷重が作用している状態で直動の出力軸を現在位置に保持するために、出力軸と軸方向に固定された部材との間で楔部材を楔係合させる構成となっている。
【0009】
一般にリニアアクチュエータでは、回転−直動変換機構によって駆動源であるモータの回転から直動運動を作り出すと同時に、その直動速度を小さくして大きなスラスト推力を発生させている。スラスト推力を大きくしなければならないのは駆動対象物から駆動抵抗などの大きな荷重が作用するためである。
【0010】
特許文献1記載のリニアアクチュエータでは、その大きな荷重を直接楔係合部で支持することになり、その楔係合機構の部品間の各接触部に大きな荷重を作用させ、接触部の応力値が高くなる大きな要因となる。加えて、特許文献1に記載のリニアアクチュエータにおける楔部材となる転動体には球が用いられており、これが他の部品と点に近い小さな面積でしか接触し得ないことが、接触部の応力値をさらに高める要因となる。
【0011】
これらの要因により楔係合の接触点の応力値が高くなると、それらの部材の材料疲労によるフレーキング寿命を短くしてアクチュエータとしての耐久性を低下させる。
【0012】
本発明が解決しようとする課題の一つは、この楔係合部に発生する応力値を低減し、必要な保持動力が小さくてしかも耐久性に優れた電動リニアアクチュエータを実現することである。
【0013】
特許文献1に記載されたリニアアクチュエータの構成では、また、出力軸を直動させて回転駆動源であるモータを回転駆動させようとしても、必ず上記の楔係合が出力軸を直動運動の段階で楔係合によって止めてしまう。すなわち、駆動対象物にエネルギーが保存されていたとしても、これによってモータを発電機として逆転させ動力回生を行うことができない。
【0014】
本発明が解決しようとする課題の他の一つは、この動力回生が可能な電動リニアアクチュエータを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために本発明では以下の構成としている。
【0016】
請求項1に記載の発明は、回転駆動源によって回転駆動経路の回転部材を回転駆動し、その回転運動を回転−直動変換機構によって直動部材の直動運動に変換し、その直動運動によって外部に対して仕事を行うリニアアクチュエータにおいて、上記回転駆動経路の回転部材が非回転部材に対して回転駆動方向に回転するのを許容しその逆方向に回転するのを楔係合によって阻止するワンウェイ機構を構成し、そのワンウェイ機構を回転部材の上記逆方向回転も許容する状態に切り替え機能を有する構成とした。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のリニアアクチュエータにおけるワンウェイ機構を、回転部材と非回転部材のいずれか一方の外周面と他方の内周面との間に円周方向の一方に向かって減少する隙間分布を形成し、その隙間に転動体を楔部材として組み込んで弾性手段によって前記隙間の減少する方向に付勢したワンウェイ機構とし、楔部材の円周方向に隣接させて配置した保持部材とこれを外部からの指令によって円周方向に駆動する駆動手段を保有させ、前記楔部材を前記保持部材によって前記弾性手段による付勢方向と逆方向に押し出して楔係合を阻止しワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転も許容する状態とする構成とした。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のリニアアクチュエータにおいて、ワンウェイ機構を、外部から能動的に動力を供給しない状態では回転部材が非回転部材に対して回転駆動方向と逆方向に回転するのを阻止し、外部から能動的に動力を供給して逆方向回転も許容する状態とするワンウェイ機構とした。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、直動部材の直動運動による外部仕事の少なくとも一部が、位置エネルギーや弾性エネルギーなどの形態で保存される場合に、回転−直動変換機構を、螺旋状の凹凸溝を形成したネジ部材と、このネジ部材とネジ対偶によって連結されたナット部材とを構成要素に持ち、該ネジ部材とナット部材の接触部が転がり接触する回転−直動変換機構とし、ワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転を許容する状態になったときに動力回生を行う構成とした。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項2ないし請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、楔係合によって回転を阻止するワンウェイ機構の回転部材に他の部分より径の大きな部分を設け、この部分と非回転部材との間に円周方向の一方に向かって減少する隙間分布を形成し、その隙間に転動体を楔部材として組み込んで弾性手段によって前記隙間の減少する方向に付勢する構成とした。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項2ないし請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、ワンウェイ機構が楔係合によって回転を阻止する回転部材を、回転駆動経路において最も回転速度(角速度)の大きな回転部材とした。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項1および請求項2に記載のリニアアクチュエータにおいて、転動体を楔部材とする楔係合機構を円周方向に複数配置し、ワンウェイ機構における非回転部材の軸直角面内での並進運動を可能とし、軸回りの回転はできないように拘束した。
【0023】
請求項8に記載の発明は、請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、ワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転を許容する状態にして動力回生を開始する際に、一旦、回転駆動装置が回転駆動トルクを発生している状態にし、その状態においてワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転を許容する状態に切り替え、その後に回転駆動装置の回転駆動トルクを減少させて動力回生を開始するようにした。
【0024】
請求項1の発明によれば、まず、ワンウェイ機構の楔係合によって出力軸を現状位置に保持するのに必要な支持力を発生させるので保持動力を削減できる。加えて、大きな推力の作用する直動部でなく、作用トルクが比較的小さくなる回転駆動系路において楔係合を行わせているので、楔係合の部品間接触力を低減して接触部に発生する応力を低減できる。また、回転駆動経路のワンウェイ機構において楔部材とする転動体は円柱状のローラを用いることができるので、楔係合の部品間接触部形態を線接触にして更に接触部応力を低減できる。したがって耐久性が向上する。
【0025】
また、回転部材の上記逆方向回転も許容する状態に切り替える事によって出力軸側の直動運動によってモータを発電機として回転駆動し動力回生が可能になる。
【0026】
請求項2に記載の発明によれば、ワンウェイ機構の楔係合を実現するための具体的な構成が提示され、また上記の楔係合を阻止して回転部材の逆方向回転を可能とする具体的な構成も提示される。
【0027】
請求項3に記載の発明によれば、外部からの動力が遮断されたりその動力に因って回転部材の逆方向回転を許容する状態にするための駆動源が故障したりしたフェール時でも、アクチュエータのワンウェイ機構は回転部材の逆方向回転を阻止する機能を維持しており、直動の出力軸が外部から作用する荷重によって動いてしまうのを防止して安全性を確保する。
【0028】
請求項4に記載の発明によれば、回転−直動変換機構において相対運動部品間を転がり接触にすることですべり接触の場合に比べて摩擦係数を大幅に低減し、回転から直動への変換だけでなく特に直動から回転への変換の際の機械効率も向上させることができる。これによって動力回生を実施する意味のある量の回収動力を確保することができる。
【0029】
請求項5に記載の発明によれば、直動の出力軸に外部から作用している荷重が変わらず回転駆動経路におけるワンウェイ機構で保持すべきトルクが同じであっても、そのトルクをより大きな径の部分における楔係合力で発生させれば良い。つまり、楔係合力はより径の大きな部分をワンウェイ機構の回転部材に用いることで低減でき、接触部応力を低減して耐久性を向上させることができる。
【0030】
請求項6に記載の発明によれば、次のようにして直動の出力軸に外部から作用している荷重が変わらなくても回転駆動経路においてワンウェイ機構で保持すべきトルクを低減できる。回転駆動経路の途中で歯車などによって変速された場合でも、それらの変速部での摩擦損失が十分小さいとして無視すれば、各回転速度部分では伝達している動力は変わらずほぼ一定と見なせる。各回転速度部分に作用しているトルクは上記の一定の動力を角速度で除して求められるので、回転速度が最も大きな回転部材部分に作用するトルクが最も小さい。したがって楔係合部に発生する応力も最小となり、耐久性が向上する。
【0031】
請求項7に記載の発明によれば、軸直角面内での並進運動が可能なので、非回転部材は複数の楔係合機構の各々における楔係合力が釣り合う位置まで自動的に移動する。この作用を利用して各楔係合機構における楔係合力を均等化することができ、その結果、一部の楔係合機構の楔係合力が大きくなることを防止できる。したがって楔係合部に発生する応力も最小となり、耐久性が向上する。
【0032】
請求項8に記載の発明によれば、動力回生のためにワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転を許容する状態に切り替える際に駆動しなければならない部分の摩擦抵抗を大幅に低減することが可能になり、上記の切り替え作業すなわち動力回生を実質的に可能にする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、直動運動によって外部に対して仕事を行うリニアアクチュエータにおいて、外部から荷重の作用する出力軸を一定の位置に保持しておくための動力である保持動力を削減できる上に、構成部品の楔係合部に発生する応力を低減して耐久性も向上させることができる。また、必要に応じ外部からの指示によって、この動力回生を行うことが可能になり、一層の省動力が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の一実施例であるリニアアクチュエータを図1ないし図7により説明する。図1は本実施例におけるリニアアクチュエータ全体構成の側断面図である。図2は図1におけるA部の部分拡大図、図3は図2におけるB−B断面図、図4は図2におけるC−C断面図、図5は図2におけるD−D断面図である。図6は本実施例のワンウェイ機構部が機能して回転駆動系の逆転ができない状態の説明図で図6(a)と図6(b)はそれぞれその時のD−D断面図とC−C断面図。図7は本実施例のワンウェイ機構部の機能が阻止されていて回転駆動系の逆転も可能になった状態の説明図で図7(a)と図7(b)はそれぞれその時のD−D断面図とC−C断面図。
【0035】
図1に示すリニアアクチュエータの全体構成においては、まず、回転駆動装置であるモータ1の出力軸1aにA部のワンウェイ機構部が構成され、次に小歯車2が固定されている。小歯車2には大歯車3が噛み合い、大歯車3にはネジ軸4が固定されている。小歯車2の回転はラジアル軸受5とモータ1の軸受によって回転支持され、大歯車3とネジ軸4が一体化されたものは、ラジアル軸受6により回転を支持されスラスト軸受7によってアクチュエータ推力に対する反力を支持されている。以上によって回転駆動経路が構成されている。なお、以上の各軸受などは固定部品である下部ハウジング8と上記回転駆動経路の各回転部品の間に組み込まれている。
【0036】
ネジ軸4にはナット部材9がネジ対偶で装着されてネジ機構を構成しており、両者は相対的な回転と軸方向移動を同時に行う。本実施例におけるナット部材9は、ネジ軸4とナット部材9が転がり接触で接触し、ネジ軸4とナット部材9の間の摩擦抵抗がすべり接触の場合に比べて大幅に小さくなっている。この転がり接触を行うネジ機構の例としては、特許文献1に示されているボールネジ機構や特開昭2004−321043号公報に示されている公転ローラ機構が挙げられる。
【0037】
ナット部材9には、直動出力部材10が固定されている。直動出力部材10はネジ軸4との干渉を回避するために中空になっている。また、本実施例においては、直動出力部材10が図1に一点鎖線で表記する別のリニアアクチュエータの直動出力部材11と連結部材12によって連結されており、直動出力部材10およびこれと一体となったナット部材9はそれぞれの中心軸回りの回転ができないように拘束されている。直動出力部材10およびこれと一体となったナット部材9の中心軸回りの回転のみ阻止して軸方向への移動を許容する他の構成としては、それらのいずれか一方と、後述の上部ハウジング14とをすべりキーによって連結する構成なども考えられる。
【0038】
前記の下部ハウジング8の上には中央ハウジング13が固定されており、この中央ハウジング13を介して円筒上の上部ハウジング14が固定されている。上部ハウジング14はその内周面14aによってナット部材9およびネジ軸4が傾斜しないように支持する機能を果たしている。また、直動出力部材10の外周面との間でシールを行い、ネジ軸4とナット部材9によるネジ対偶部にゴミなどが侵入するのを防止している。なお、前記A部のワンウェイ機構部は中央ハウジング13とモータ1の出力軸1aとの間に組み込まれている。
【0039】
図2〜図4に示すA部のワンウェイ機構部における斜面形成部材15は、オルダムリング16を介して中央ハウジング13に対して回転しないように拘束された非回転部材である。オルダムリング16の下面に形成された一対のキー部16aは、それぞれ、中央ハウジング13に形成された一対のキー溝部13aに勘入されており、オルダムリング16は中央ハウジング13に対してそれらの溝方向にのみ相対移動できる。オルダムリング16の上面に形成された一対のキー部16bは、それぞれ、斜面形成部材15に形成された一対のキー溝部15aに勘入されており、斜面形成部材15はオルダムリング16に対してそれらの溝方向にのみ相対移動できる。上の結果、斜面形成部材15は中央ハウジング13に対して軸直角面内での並進運動(並進移動)はできるが、回転運動はできない状態となる。
【0040】
図4に示されるように、ワンウェイ機構部は、モータ1の出力軸1aに固定された直径の大きなフランジ部の外周円筒面1bと、斜面形成部材15の内周に設けられ円周方向の一方に向かって傾斜した傾斜面15bと、それらの間に組み込まれた転動体であるローラ17と、そのローラ17を外周円筒面1bと傾斜面15bの間の隙間が減少する方向である時計回転方向に付勢する付勢バネ18を構成要素に持っている。
【0041】
本実施例においては、傾斜面15bとローラ17と付勢バネ18はそれぞれ3個が120度の角度ピッチで円周方向に配置されている。更にローラ保持器19の一部が各ローラに対して付勢バネ18の反対側すなわち付勢バネ18の時計回転方向側に隣接して配置されている。
【0042】
図5に示すようにローラ保持器19の外周の一ヶ所に突出した保持器アーム部19aが保持器制御ソレノイド20のプランジャ20aが進退することによって円周方向の前後に駆動されることによって、ローラ保持器19は若干の角度だけ斜面形成部材15に対して回転駆動される。本実施例の構成では、保持器制御ソレノイド20の励磁コイルに通電されない状態でプランジャ20aが内部のバネによって図5の右方向に移動し、ローラ保持器19を時計回転方向に回転駆動する。一方、励磁コイルに通電された状態ではプランジャ20aが電磁吸引力によって図5の左方向に移動し、ローラ保持器19を反時計回転方向に回転駆動する。
【0043】
以下に、上記の構成によってワンウェイ機構が機能して動力を供給しなくても外力に対してリニアアクチュエータが静止状態で現状位置を保持できる様子を図6により説明し、ワンウェイ機構の機能を外部から能動的に休止させて外力によって回転駆動経路を回転駆動し動力回生を可能にする様子を図7により説明する。
【0044】
図6においては、保持器制御ソレノイド20の励磁コイルに通電されない状態でプランジャ20aが内部のバネによって図6(a)の右方向に移動し、ローラ保持器19を時計回転方向に回転駆動している。この時、図6(b)においてローラ17に隣接しているローラ保持器19の一部は、図中のE部に示されるようにローラ17から離れる方向に回転駆動され、ローラ17の動きを阻害しない状態が確保されている。したがって、各ローラ17は付勢バネ18によって図6(b)における時計回転方向に移動し、外周円筒面1bと傾斜面15bの両方に接触し楔係合ができる状態となっている。
【0045】
この時、出力軸1aが時計回転方向に回転しようとすると、外周円筒面1bと各ローラ17との間の摩擦力が各ローラ17を隙間が減少する方向に引き込んで楔係合状態を作り出し、その大きな緊迫力による摩擦力によって出力軸1aの時計方向の回転は阻止される。
【0046】
本実施例のリニアアクチュエータの全体構成によれば、図6(b)において出力軸1aが時計方向に回転する時、ネジ軸4は上方から見て反時計方向に回転する。更に、本実施例ではネジ軸4に形成されたネジが右ネジであるので、ネジ軸の上記反時計方向の回転と自転しないように拘束されたナット部材9と直動出力部材10の下方への直動運動とが連動している。このため、出力軸1aの時計方向回転が上記のように楔係合によって阻止されることでナット部材9および直動出力部材10は下方への直動運動が止められる。すなわち、保持器制御ソレノイド20の励磁コイルに通電されない状態では、直動出力部材10に下方への外力が作用しても、楔係合を利用して動力を消費せずに直動出力部材10の位置を保持する事ができる。
【0047】
また、図6(b)において出力軸1aが反時計方向に回転しようとすると、外周円筒面1bと各ローラ17との間の摩擦力は各ローラ17を隙間が増大する方向に押し出し楔係合状態は発生しない。つまり、出力軸1aは反時計方向に自由に回転できる。出力軸1aの反時計方向回転とナット部材9および直動出力部材10の上方への直動運動が連動していることを考えれば、保持器制御ソレノイド20の励磁コイルに通電されない状態では、回転駆動装置であるモータ1によって直動出力部材10を外力に逆らって上方に直動駆動する事が可能である。
【0048】
楔係合を利用して直動出力部材10の位置を保持する事について、更に言及すれば、まず楔係合によって動きを止める部材である出力軸1aは回転部材である。一般にネジ機構を利用して回転運動を直動運動に変換する場合、回転部材のトルクが小さくても直動部材には大きな推力が発生している。このことは、回転部材である出力軸1aを小さなトルクで静止させることで大きな外力が作用している直動出力部材10を保持することができることを意味している。したがって、楔係合部に発生する応力を比較的小さくでき、疲労寿命を延ばすことができる。
【0049】
また、小歯車2の歯数が大歯車3の歯数より小さいので、楔係合によって動きを止める部材である出力軸1aは同じ回転駆動経路の中の回転部材であるネジ軸4などに比べて、回転速度が大きく作用しているトルクが小さい。回転部材のなかでもより回転速度が大きい出力軸1aを選んで楔係合によって動きを止めていることも、楔係合部に発生する応力を小さくして疲労寿命を延ばすことに寄与している。
【0050】
更に、実際の楔係合は出力軸1aの軸部よりも大きな径の外周円筒面1bに作用させている。これによって、楔係合が発生させなければならない保持トルクが同じであっても、楔係合が発生しなければならない緊迫力は小さくても良くなり、これも楔係合部に発生する応力を小さくして疲労寿命を延ばすことに寄与している。
【0051】
最後に、斜面形成部材15は中央ハウジン13に対して非回転状態で拘束されているが、オルダムリング16を介しているために軸直角面内で並進移動が可能である。このため、もし図6(b)における3箇所の楔係合部の緊迫力に差がある場合、その反作用力として斜面形成部材15に作用する3つの接触力は釣り合わず、斜面形成部材15が不釣合い力によって軸直角面内で並進移動し、その結果、3箇所の楔係合部の緊迫力は均等化されるので楔係合部に発生する応力の最大値が大きくなるのを抑制できる。これも疲労寿命を延ばすことに寄与している。
【0052】
フェールセーフという観点から見ると、図6のように保持器制御ソレノイド20の励磁コイルに通電されない状態では、直動出力部材10に下方への移動を阻止して現状位置を保持する状態になるので、電源が遮断された故障時に大きな外力や重量物を支持していた直動出力部材10が制御不能な状態で降下するのを確実に防止できる。つまりフェールセーフが確保できる。
【0053】
図7においては、保持器制御ソレノイド20の励磁コイルに通電されプランジャ20aが磁気吸引力によって図7(a)の左方向に移動し、ローラ保持器19を反時計方向に回転駆動している。この時は、図7(b)において各ローラ17に隣接しているローラ保持器19の一部は図中のF部に示されるように各ローラ17に接触し、これを半径方向隙間の増大する反時計方向に押し出している。これによって、各ローラ17は外周円筒面1bと傾斜面15bの両方に挟まれて楔係合をすることができなくなる。このとき、出力軸1aが時計回転方向に回転して外周円筒面1bと各ローラ17との間の摩擦力が各ローラ17を隙間が減少する方向に引き込まれようとするのを、ローラ保持器19が邪魔をしている。この結果、出力軸1aは、楔係合によって阻止されることなく、時計回転方向に自由に回転することができる。
【0054】
前述したとおり、出力軸1aの図7(b)における時計回転方向と直動出力部材10の下方への移動が連動しているため、保持器制御ソレノイド20の励磁コイルへの通電によって図7の状態が維持されていれば、外力によって直動出力部材10を下方へ駆動して回転駆動経路を逆に回転駆動し、回転駆動装置であるモータ1を発電機として駆動して動力回生を行う事ができる。
【0055】
本実施例では転がり接触により摩擦抵抗を小さくしたネジ機構を回転−直動変換機構として採用しており、上記の動力回生時においても回転−直動変換機構における逆効率が高く、動力回生効率も高い値が確保できる。
【0056】
なお、図6の状態にある時に、保持器制御ソレノイド20の励磁コイルに通電して図7の状態に変えようとする際には、図6(b)のように外周円筒面1bと傾斜面15bに挟まれて緊迫力の作用している各ローラ17を、保持器制御ソレノイド20の磁気吸引力を駆動力としてローラ保持器19によって押し出さなければならない。
【0057】
緊迫力の大きさに連動した摩擦抵抗によって、上記ローラ17の押し出しができなくなる事が懸念されるので、動力回生モードに切り替える際に例えば次の手順で切り替えることを推奨する。
【0058】
すなわち、モータ1を本来の回転駆動装置として機能させ図6(b)の出力軸1aに反時計方向の回転駆動トルクを作用させる。このトルクによって外力が出力軸1aを時計方向に回転駆動しようとするトルクを相殺する。これによって、図6(b)の各ローラ17に作用している緊迫力と摩擦抵抗を減少させる。モータ1の回転駆動トルクが十分大きくなり、上記摩擦抵抗が十分小さいかゼロになった時点で保持器制御ソレノイド20の励磁コイルに通電する。各ローラ17に作用している緊迫力により摩擦抵抗がなくなれば、それらを押し出すのに必要な力はほぼ付勢バネ18による付勢力だけでよいので、保持器制御ソレノイド20の磁気吸引力を駆動力としてローラ保持器19でローラ17を押し出す。その後、モータ1の回転駆動トルクを低下させ、外力による駆動トルクで出力軸1aが逆転しだすことで動力回生を開始する。
【0059】
なお、上記の一連の手順の間に電源などがダウンしても、必ず図6(b)の状態に回帰して直動出力部材10の下方への移動が止められので、フェールセーフ性は保たれる。
【0060】
本実施例として説明したリニアアクチュエータの適応例について説明する。図8は適応例の一つとして荷物を運搬する作業装置であるフォークリフトに適用した例を示す。フォークリフトの本体100にマスト101が取り付けられている。マスト101に付設される荷物昇降部102は、リフトブラケット(図示せず)を介してマスト5の内枠に昇降自在に取り付けられる保持枠103と、保持枠103に取り付けられる一対のフォーク104とを有している。上述の実施例で説明したリニアアクチュエータ105は、例えばマスト101の運転席側に設けることができる。
【0061】
リニアアクチュエータ105は、荷物昇降部102を上昇させて停止させたとき、その昇降位置を保持するために何ら動力を必要としない。また、加工させる際には前述のように外力による駆動トルクで内部の出力軸が逆転して動力回生を行うことができる。
【0062】
したがって、本実施例におけるリニアアクチュエータを備えたフォークリフトは、荷物を上昇させて特定の位置に停止させ保持するためにエネルギーを必要とせず、上昇させて保持していた荷物を加工させる際にはエネルギーを有効的に回収することが可能な電動フォークリフトを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例におけるリニアアクチュエータ全体構成の側断面図。
【図2】図1におけるA部の部分拡大図。
【図3】図2におけるB−B断面図。
【図4】図2におけるC−C断面図。
【図5】図2におけるD−D断面図。
【図6】本実施例におけるワンウェイ機構部が機能して回転駆動系の逆転ができない状態の説明図。
【図7】本実施例におけるワンウェイ機構部の機能が阻止されていて回転駆動系の逆転も可能になった状態の説明図。
【図8】図1に示すリニアアクチュエータを適用した一例を説明する図。
【符号の説明】
【0064】
1 モータ
1a 出力軸
1b 外周円筒面
2 小歯車
3 大歯車
4 ネジ軸
5,6 ラジアル軸受
7 スラスト軸受
8 下部ハウジング
9 ナット部材
10,11 直動出力部材
12 連結部材
13 中央ハウジング
13a,15a キー溝部
14 上部ハウジング
14a 内周面
15 斜面形成部材
15b 傾斜面
16 オルダムリング
16a,16b キー部
17 ローラ
18 付勢バネ
19 ローラ保持器
19a 保持器アーム部
20 保持器制御ソレノイド
20a プランジャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動装置によって回転駆動経路の回転部材を回転駆動し、その回転運動を回転−直動変換機構によって直動部材の直動運動に変換し、その直動運動によって外部に対して仕事を行うリニアアクチュエータにおいて、上記回転駆動経路の回転部材が非回転部材に対して回転駆動方向に回転するのを許容しその逆方向に回転するのを楔係合によって阻止するワンウェイ機構を有し、そのワンウェイ機構は回転部材の上記逆方向回転も許容する状態に切り替える機能を有したことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、ワンウェイ機構は、回転部材と非回転部材のいずれか一方の外周面と他方の内周面との間に円周方向の一方に向かって減少する隙間分布を形成し、その隙間に転動体を楔部材として組み込んで弾性手段によって前記隙間の減少する方向に付勢したワンウェイ機構であり、楔部材の円周方向に隣接させて配置した保持部材とこれを外部からの指令によって円周方向に駆動する駆動手段を有し、前記楔部材を前記保持部材によって前記弾性手段による付勢方向と逆方向に押し出して楔係合を阻止しワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転も許容する状態とすることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリニアアクチュエータにおいて、ワンウェイ機構は、外部から能動的に動力を供給しない状態では回転部材が非回転部材に対して回転駆動方向と逆方向に回転するのを阻止し、外部から能動的に動力を供給して逆方向回転も許容する状態とするワンウェイ機構であることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項4】
請求項1に記載のリニアアクチュエータにおいて、直動部材の直動運動による外部仕事の少なくとも一部は、位置エネルギーや弾性エネルギーなどの形態で保存されるエネルギーであり、回転−直動変換機構は、螺旋状の凹凸溝を形成したネジ部材と、このネジ部材とネジ対偶によって連結されたナット部材とを構成要素に持ち、該ネジ部材とナット部材の接触部が転がり接触する回転−直動変換機構であり、ワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転を許容して動力回生を行うことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、ワンウェイ機構が楔係合によって回転を阻止する回転部材は他の部分より径の大きな部分を有し、この部分と非回転部材との間に円周方向の一方に向かって減少する隙間分布を形成し、その隙間に転動体を楔部材として組み込んで弾性手段によって前記隙間の減少する方向に付勢したことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項6】
請求項2ないし請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、ワンウェイ機構が楔係合によって回転を阻止する回転部材は、回転駆動経路において最も回転速度(角速度)の大きな回転部材であることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項7】
請求項2に記載のリニアアクチュエータにおいて、転動体を楔部材とする楔係合機構を円周方向に複数配置し、ワンウェイ機構における非回転部材の軸直角面内での並進運動を可能とし、軸回りの回転はできないように拘束したことを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項8】
請求項4に記載のリニアアクチュエータにおいて、ワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転を許容する状態にして動力回生を開始する際に、一旦、回転駆動装置が回転駆動トルクを発生している状態にし、その状態においてワンウェイ機構が回転部材の逆方向回転を許容する状態に切り替え、その後に回転駆動装置の回転駆動トルクを減少させて動力回生を開始することを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項9】
車両本体と、荷物昇降部が付設されるマストと、を備えた作業機械において、前記荷物昇降部を昇降させるリニアアクチュエータと、このリニアアクチュエータを駆動させる回転駆動装置とを有し、前記リニアアクチュエータは、前記回転駆動装置によって回転駆動する回転部材の回転運動を直動運動に変換する回転−直動変換機構と、前記回転部材が非回転部材に対して回転駆動方向に回転するのを許容しその逆方向に回転するのを楔係合によって阻止するワンウェイ機構とを有し、このワンウェイ機構は回転部材の上記逆方向回転も許容する状態に切り替える切り替え機能を有することを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−112409(P2010−112409A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283835(P2008−283835)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】