説明

リニアアクチュエータ

【課題】磁気ねじを用いたリニアアクチュエータの位置決め精度を高くする。
【解決手段】コイル11に流れる駆動電流によって回転するマグネット3の内側に磁気雌ねじ磁石層5aを配置する。また、磁気雌ねじ磁石層5aの内側に間隔をおいて磁気雄ねじ磁石層7を外周に備えた出力軸6を配置する。そして、磁気雌ねじ磁石層5aを構成する螺旋構造の磁極の幅と、磁気雄ねじ磁石層7を構成する螺旋構造の磁極の幅との比を2倍以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置の制御精度の高いリニアアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
ステッピングモータによる回転運動を直線運動に変換したリニアアクチュエータがある。しかし、従来のリニアクチュエータはロータ内周面の雌ねじと出力軸外周面の雄ねじとが物理的に噛み合い、接触を介して一方の運動を他方に伝達するねじ構造である。このため、必ずねじ軌道面の接触による摩擦抵抗が発生する。この摩擦抵抗を小さくするには自ずと限界があり、出力の低下が生じる。また、摩耗による騒音、機械的精度の低下、耐久性の低下等を招く問題がある。更に、摩擦抵抗を抑えるための潤滑剤、グリース等の使用による汚染の問題もある。
【0003】
このような機械的なねじ構造と異なる機構として、磁気ねじを用いたリニアアクチュエータが知られている。この磁気ねじは、回転する円筒部材の内側に螺旋状に磁極を設けたものを磁気的な雌ねじとし、またこの円筒部材の内側に配置された回転しないで、かつ軸方向には移動可能で、その外側にはやはり螺旋状の磁極を設けた軸部材を磁気的な雄ねじとした構造を備えている。この構造では、雌ねじの螺旋状の磁極と雄ねじの螺旋状の磁極とが磁力によって引き合うことで、磁力による螺合状態を得ている。この技術に関しては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開10−304617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された構造では、磁気ねじを構成する外側の雌ねじ部と内側の雄ねじ部における螺旋状の着磁のピッチが等しくされている。この構造では、雄ねじに軸方向の負荷が加わった場合磁極同士の結合にて許容する遊び分がなくなり、リニアアクチュエータの精度低下を起してしまう。また雌ねじ側の螺旋状の磁極と、雄ねじ側の螺旋状の磁極の位置がずれた場合に、磁気的な螺合状態にずれが生じ、雌ねじの回転に雄ねじの移動が追従しない問題が発生する。このずれは、雄ねじ側の軸方向への移動を伴わずに雌ねじ側が回転し(つまり空回りし)、再度雌ねじ側の螺旋構造の磁極と雄ねじ側の螺旋構造の磁極とが対向することで解消される。しかしながら、この雄ねじ側の軸方向への移動を伴わずに行われる雌ねじ側の回転は、雌ねじ側を回転させても、それに追従性よくリニアアクチュエータの軸が直線移動しないことになるので、リニアアクチュエータの位置決め精度の低下を招く。このような背景において、本発明は、磁気ねじを用いたリニアアクチュエータの位置決め精度を高くできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、界磁コイルを備えたステータユニットと、外側にロータマグネットを備え、前記ステータユニットの内側において回転可能な状態で保持されたロータユニットと、前記ロータユニットの回転運動が直線運動に変換されて直線運動を行う出力軸と、前記ロータユニットの内周に設けられ、帯状のN極およびS極の磁極を交互に螺旋状に配置した磁気雌ねじ部と、前記出力軸の外周に設けられており、帯状のN極およびS極の磁極を交互に螺旋状に配置した構造を有し、前記磁気雌ねじ部と螺合する磁気雄ねじ部とを備え、前記磁気雌ねじ部における帯状のN極およびS極の磁極の幅は同じ第1の幅であり、前記磁気雄ねじ部における帯状のN極およびS極の磁極の幅は同じ第2の幅であり、前記第1の幅と前記第2の幅の比がn倍(nを2以上の自然数)以上であることを特徴とするリニアアクチュエータである。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、第1の幅と第2の幅の比をn倍(nを2以上の自然数)以上とすることで、n=1である場合に比較してリニアアクチュエータの位置決め精度が向上する。なお、第1の幅と第2の幅の大小関係は、第1の幅>第2の幅であってもよいし、第2の幅>第1の幅であってもよい。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記磁気雌ねじ部と前記磁気雄ねじ部との間のギャップが前記第1の幅および前記第2の幅の小さいほうの値の半分以下であることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、出力軸のロータへの束縛力の低下を抑えることができる。なお、ギャップの下限は、工作精度の許す範囲で極力小さい方がよい。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記出力軸の外周に設けられた前記磁極が、前記出力軸の端部にまで達している、或いは動作範囲である一部のみに形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発明において、前記出力軸の外周に設けられた前記磁極が、磁石の貼り付けまたは磁石の射出成形により形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発明において、前記磁気雌ねじ部における帯状のN極およびS極の磁極、更に前記磁気雄ねじ部における帯状のN極およびS極の磁極は、共に多条に設けられていることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、螺旋状の磁極が、NSNS・・・と交互に繰り返し設けられているので、出力軸に負荷を掛けていった場合の磁気の不感帯を減らすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁気ねじを用いたリニアアクチュエータの位置決め精度を高くできる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態のリニアアクチュエータの断面図である。
【図2】実施形態のロータ部分の断面図である。
【図3】実施形態のリニアアクチュエータの動作原理を示す概念図である。
【図4】比較例のリニアアクチュエータの動作原理を示す概念図である。
【図5】出力軸の他の例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1には、実施形態のリニアアクチュエータ20の断面構造が示されている。図2には、実施形態のリニアアクチュエータ20のロータ部分の断面構造が示されている。図1に示すリニアアクチュエータ20は、符号11、符号13、符号10a,10b、符15、符号16の部分により構成されるステータユニット30を備えている。そして、このステータユニット30の内側に、符号3、符号4、符合5の部分で構成されるロータユニット40がベアリング9によって回転自在な状態で保持されている。更に、このロータユニット40の内側には、軸方向に移動可能な出力軸6が保持されている。ステッピングモータの原理により、ステータユニット30の内側でロータユニット40を回転させると、磁気ねじの原理により、ロータユニット40の回転運動が出力軸6の軸方向への直線運動に変換され、出力軸6が図の左右方向に移動する。
【0015】
以下、リニアアクチュエータ20の各部の構造について詳細に説明する。リニアアクチュエータ20は、軸方向にリニア移動する出力軸6の軸受となるフロントハウジング1とエンドハウジング2を備えている。出力軸6は、フロントハウジング1およびエンドハウジング2に対して軸受部12において軸受され、軸方向に移動可能な状態とされている。また、フロントハウジング1およびエンドハウジング2には、ベアリング9を介して、円筒形状を有するスリーブ4が回転自在な状態で保持されている。
【0016】
図1および図2に示すように、スリーブ4の外側には、ステッピングモータのロータマグネットとして機能するマグネット3が固定され、スリーブ4の内側には、磁気雌ねじ側を構成する円筒形状のマグネット5が固定されている。マグネット3および5としては、高エネルギー積の希土類磁石が用いられる。勿論、他の材質の磁石を用いることもできる。スリーブ4は、軟磁性材料により構成され、マグネット3およびマグネット5のバックヨークとして機能する。マグネット3およびマグネット5と一体になったスリーブ4は、フロントハウジング1およびエンドハウジング2に対して回転自在な状態とされている。マグネット3は、厚みのある円筒形状を有し、周方向おいてNSNS・・・と交互に磁極が反転する着磁構造とされている。このマグネット3の着磁構造は、通常のステッピングモータのロータ側マグネットと同じである。
【0017】
円筒形状を有する磁気雌ねじ側のマグネット5は、円筒形状を有し、その内周面側に、磁気雌ねじ磁石層5aが設けられている。磁気雌ねじ磁石層5aは、軸方向に向かって螺旋状に延在した帯状のN極51およびS極52を有している。この帯状の磁極は、N極51およびS極52が共に軸方向における幅寸法が同じに設定され、更にN極51とS極52が、交互に繰り返して配置された多条螺子構造の螺旋配置とされている。
【0018】
マグネット5の内側には、予め定められたギャップ(間隔)Gを有した状態で、出力軸6が配置されている。出力軸6は、必要とされる剛性を有した材料で構成され、その外周には、希土類磁石により構成された磁気雄ねじ磁石層7が設けられている。磁気雄ねじ磁石層7は、軸方向における幅寸法が同じに設定された軸方向に螺旋状に延在した帯状のN極7aおよびS極7bを交互に配置した磁石構造とされている。磁気雄ねじ磁石層7における磁極の螺旋構造も、多条螺子構造とし、不感帯が極力狭くなるようにされている。
【0019】
磁気雌ねじ磁石層5aおよび磁気雄ねじ磁石層7の螺旋状の磁極は、螺旋状に磁石を貼り付けることで形成されている。この螺旋状の磁極構造は、着磁やプラスチック磁石の射出成形により形成することもできる。
【0020】
図3には、軸方向に沿って切断した断面構造で見た磁気雌ねじ磁石層5aの磁極の構造と磁気雄ねじ磁石層7の磁極の構造が概念的に示されている。ここで、磁気雌ねじ磁石層5aと磁気雄ねじ磁石層7とにおける磁極の螺旋の向き(軸方向に進んだ場合に右回りか、あるいは左回りか)は同じとされている、これは、通常の雌ねじと雄ねじの関係と同じである。また、磁気雌ねじ磁石層5aと磁気雄ねじ磁石層7における帯状の磁極は、S極とN極とが交互に繰り返されるピッチの幅、つまり軸方向で考えた帯状の磁極の幅が異なる構造とされている。この例では、磁気雌ねじ磁石層5aにおけるS極とN極とが交互に繰り返されるピッチに対して、磁気雄ねじ磁石層7におけるS極とN極とが交互に繰り返されるピッチ(間隔)が半分、つまり磁気雌ねじ磁石層5aにおける帯状の磁極の軸方向の幅Lに比較して、磁気雄ねじ磁石層7における帯状の磁極の軸方向の幅Lが半分(L=L/2)となる設定とされている。
【0021】
また、図2に示すように、マグネット5(磁気雌ねじ磁石層5a)と出力軸6(磁気雄ねじ磁石層7)との間には、ギャップGが設けられている。このギャップGは、磁気雄ねじ磁石層7の磁極ピッチの幅Lに比較して1/2以下となるように設定している。これは、ギャップGが大きくなると、ギャップGを介して作用する磁力が低下し、更に出力軸6の送り精度が低下するからである。
【0022】
図1に戻り、出力軸6には、出力軸6の回転を防止するピン8が取り付けられている。ピン8は、フロントハウジング1に対して回転できず、且つ、軸方向に移動可能な状態とされている。符号17は、ピン8の軸方向における移動範囲を制限するストッパである。このピン6の部分を除いて、図1に示す状態における出力軸6が接触しているのは、フロントハウジング1およびエンドハウジング2のみである。よって、ピン6があるために、出力軸6は、フロントハウジング1に対して回転できず、他方で軸方向には、移動可能とされている。
【0023】
マグネット3の外側には、軟磁性材料により構成されたステータ10a,10bが配置されている。ステータ10a,10bは、軟磁性材料により構成され、フロントハウジング1およびエンドハウジング2に固定されている。ステータ10a,10bは、クローポール型のステッピングモータのステータであり、軸方向に分離された構造を有している。図からは明らかでないが、ステータ10a,10bは、互いに対向する軸方向に延在した複数の極歯(図示せず)を備え、この極歯同士が隙間10cを隔てて噛み合う構造を有している。この隙間10cにコイル11が生成する磁束の磁路が形成される。ステータ10a,10bの噛み合う極歯(図示せず)は、周方向で隙間を隔てて隣接するので、この隙間10cにおける磁路は、周方向(軸方向に垂直な方向)の成分を有する。
【0024】
ステータ10a,10bの外側には、ボビンホルダ16を介してボビン13が配置され、ボビン13には、ステータコイルを構成するコイル11が巻かれている。コイル11は、出力軸6と同軸のソレノイド構造のコイルであり、その端部はボビン13に固定された電極端子14に接続されている。電極端子14には、図示省略した駆動回路からの配線が接続される。この駆動回路は、通常のクローポール型ステッピングモータの駆動回路と同じである。
【0025】
(動作の一例)
電極端子14に供給する電流の極性を適当なタイミングで切り替えると、コイル11が生成する磁束の向きが周期的に切り替わる。この周期的に向きが切り替わる磁束は、上述したように隙間10cの部分において周方向の成分を有する。したがって、この隙間10cにおける周期的に切り替わる周方向の磁束成分と、マグネット3の磁極との間で磁気的な相互作用が生じ、マグネット3に出力軸6の部分を軸中心とする回転を与える力が生じる。これにより、マグネット3、スリーブ4およびマグネット5が出力軸6の部分を軸中心として回転する。この回転が生じる原理は、クローポール型のステッピングモータの動作原理と同じである。
【0026】
図3において、斜線の部分がN極であり、白い部分がS極である。図3(A)の状態は、磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとの間で磁気吸引力が働き、両者が磁気吸引力により螺合している状態である。例えば、図3(A)における符号31の部分に着目する。ここで、符号31の部分における磁気雌ねじ磁石層5aのN極→磁気雄ねじ磁石層7におけるS極→N極→S極→符号31の部分における磁気雌ねじ磁石層5aのN極と、閉じた磁路が形成される。これは、符号33の部分においても同じである。このような閉じた磁路が形成されることで、磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとの間で磁気吸引力が働く。結果として、磁気雄ねじ磁石層7が磁気雌ねじ磁石層5aに磁力によって束縛された状態となり、両者が磁力によって螺合した状態となる。
【0027】
この図3(A)の状態において、図1のロータユニット40が出力軸6の部分を軸中心として回転すると、磁気雌ねじ磁石層5aも同様に回転し、図示する磁極の状態が図の左右方向(つまり軸方向)に移動する。この際、磁気雄ねじ磁石層7は、磁気雌ねじ磁石層5aに磁力によって束縛された状態にあるので、図3(A)に示す磁極の位置関係を保とうとする力が出力軸6に作用する。ここで、出力軸6は、回転できず、且つ、軸方向に移動可能であるので、上記の図3(A)に示す磁極の位置関係を保とうとする力によって、出力軸6は、磁気雌ねじ磁石層5aの磁極が動く方向(つまり軸方向)に移動する。こうして、図3(A)の状態において、図1のロータユニット40を回転させた場合に、その回転運動が出力軸6の軸方向への運動(移動)に変換される。
【0028】
こうして、図1のコイル11に駆動電流を流すことで、マグネット3、スリーブ4およびマグネット5に回転を生じさせ、それにより、出力軸6の軸方向への移動、つまり磁気ねじの効果を利用したリニアアクチュエータとしての機能を得ることができる。この動作は、通常のネジ構造における回転運動を直線運動に変換する作用を、磁気力な力の束縛によるものに置き換えたものとして把握することができる。
【0029】
図3(B)には、図3(A)に示す状態から、出力軸6の移動を伴わずに磁気雌ねじ磁石層5aが回転し、磁気雌ねじ磁石層5aの磁極が図の左方向に、L/2(L/4)の距離でずれた後の状態が示されている。図3(B)の状態においても磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとの間で磁気吸引力が働く。この場合、やや変則的ながら、磁気雌ねじ磁石層5aにおける符号31の部分のN極→符合32の部分のS極→磁気雄ねじ磁石層7における符号32の部分におけるN極→同S極→磁気雄ねじ磁石層7における符号31の部分におけるN極→同S極→磁気雌ねじ磁石層5aにおける符号31の部分のN極と、閉じた磁路が形成されるので、磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとの間で磁気吸引力が働く。これは、符号33および34の部分においても同様である。
【0030】
図3(C)には、図3(B)に示す状態から更に、出力軸6の移動を伴わずに磁気雌ねじ磁石層5aが回転し、磁気雌ねじ磁石層5aの磁極が図の左方向に、L/2(L/4)の距離でずれた後の状態が示されている。この場合、符号32の部分および符号34の部分で閉じた磁路が形成されるので、やはり磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとの間で磁気吸引力が働く。
【0031】
このように、図3(A)〜(C)のいずれの状況においても磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとの間で磁気吸引力が働く。よってこの範囲においては、磁気雄ねじ磁石層7の回転による出力軸6の軸方向への移動を行わすことができる。つまり、この範囲におけるリニアアクチュエータとしての機能を得ることができる。また、更に磁気雄ねじ磁石層7の磁極パターンと磁気雌ねじ磁石層5aの磁極パターンとをずらしても、図3(A)〜(C)のいずれかの類型で説明される磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとの関係となる。つまり、磁気雄ねじ磁石層7の磁極パターンと磁気雌ねじ磁石層5aの磁極パターンとにどのようなずれが生じても、磁気的な螺合状態が消失することなく、磁気雌ねじ磁石層5aの回転による磁気雄ねじ磁石層7のリニア駆動制御が行える。
【0032】
図4は、比較例であり、出力軸6側の磁気雄ねじ磁石層7のピッチの幅を磁気雌ねじ磁石層5aと同じLとした場合の例である。ここで、図3のLと図4のLは同じ値である。また、各磁石層における軸方向における磁極の幅は、全て同じ値(L)である。
【0033】
図4(B)には、図4(A)の状態から、出力軸6の移動を伴わずに磁気雌ねじ磁石層5aを回転させ、磁極のパターンを図の左の方向に、距離L/2ずらした状態が示されている。図4(C)には、図4(B)の状態から、出力軸6の移動を伴わずに磁気雌ねじ磁石層5aを回転させ、磁極のパターンを図の左の方向に、更に距離L/2ずらした状態が示されている。
【0034】
図4(A)の状態では、磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとの間で閉じた磁路が形成されるので、磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとは互いに吸引し、磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとが磁力によって螺合している状態が得られる。この場合は、磁気雌ねじ磁石層5aを回転させた際の磁気雄ねじ磁石層7の追従性がよく、精度よく出力軸6の位置制御が行える。
【0035】
図4(B)の状態では、図4(A)の状態より、磁路の形状がやや不規則になり、磁気雄ねじ磁石層7の磁気雌ねじ磁石層5aへの束縛状態が弱くなる。更に図4(C)の場合、磁気雄ねじ磁石層7と磁気雌ねじ磁石層5aとを貫通する明確な閉じた磁路が形成されなくなるので、両者間に磁気的な吸引力は働かない。この場合、磁気雌ねじ磁石層5aを回転させても、それに追従して磁気雄ねじ磁石層7を軸方向に動かす力は働かない。よって、磁気雌ねじ磁石層5aを回転させての出力軸6の位置制御は行えない。なお、更に磁気雌ねじ磁石層5aが回転すると、吸引に寄与する磁路が徐々に形成されるので、磁気的な螺合状態が徐々に回復する。
【0036】
このように、図4の場合は、ロータユニット側の磁気雌ねじ磁石層5aを回転させても出力軸6が動かないポイントがある。この際、磁気雌ねじ磁石層5aを更に回転させれば、磁気ねじの機能は回復するが、制御パルスに応じた出力軸6の直線移動は行えず、出力軸6の位置制御の制御性は低下する。使用状態においては負荷の加わり具合によって、磁気雌ねじ磁石層5aに対して出力軸6の位置がずれ、図4(C)の状態となることがある。このような場合に、図4の磁極の構造では、リニアアクチュエータとしての制御性が著しく低下する。
【0037】
また、負荷の抵抗等に起因して、図4(A)の状態から図4(B)の状態へと、出力軸6の位置がずれた場合、図4(B)より図4(A)の状態の方が磁気的に安定な状態(より釣り合った状態)であるので、図4(B)の状態から図4(A)の状態に移行するように、出力軸6に推進力が働く。この場合、最大で図中のL/2の距離で出力軸6が軸方向に移動しようとする。この出力軸6の移動の分、出力軸6の位置制御の精度は低下する。
【0038】
また、図3(B)の状態よりも、図3(A)および図3(C)の状態がより安定な状態であるので、何らかの理由により図3(A)または図3(C)の状態から、出力軸6の位置がずれ、図3(B)の状態となった場合、図3(B)の状態から図3(A)または図3(C)の状態に移行するように、出力軸6に推進力が働く。この場合、最大で図中のL/4の距離で出力軸6が軸方向に移動しようとする。この出力軸6の移動の分、出力軸6の位置制御の精度が低下する。
【0039】
以上の2つの場合を比較すると、図4の場合は、磁極のずれに起因して、出力軸6が最大でL/2の移動を行い、これが出力軸6の位置制御の誤差となる。これに対して、図3の場合は、磁極のずれに起因して、出力軸6が最大でL/4の移動を行い、これが出力軸6の位置制御の誤差となる。したがって、図4の場合に比較して図3の場合は、誤差は半分以下となる。これは、図3の場合の方が図4の場合に比較して、出力軸6の位置制御の精度が高いことを意味する。このように、雌ねじ側と雄ねじ側とにおいて同じ磁極のピッチとした場合に比較して、片方の磁極のピッチを細かくすることで、出力軸6の位置決め精度を高くすることができる。
【0040】
(優位性)
図1に示すリニアアクチュエータ20は、磁気雄ねじと磁気雌ねじの一方のピッチ幅を他方の半分(分割数で考えて2倍)とすることで、両者のピッチ幅を同じとした場合に比較して、出力軸の位置制御の精度を高くできる。また、図1に示すリニアアクチュエータ20は、磁気ねじのためオーバーロード時に噛合いが外れて、機械的に構造が破壊される問題が生じない。また脱調、ネジ位置がずれても、ロータを回転させることで、ずれを解消することができる。また、通常のネジとナットによる噛みあわせによる方法ではないので摩擦などによる機械的な抵抗が、通常のネジとナットを組み合わせた構造に比較して極めて小さい。また、機械的な噛合い部分が無いので、磨耗による精度低下や位置ずれの問題が生じない。また、部品点数が少なく、組み付け工数がかからないので、製造コストを抑えつつ、高い精度を有するリニアアクチュエータを生産することができる。
【0041】
(その他)
磁気雄ねじ磁石層7を射出成形法により形成することも可能である。この場合、出力軸6を構成する部材の表面に、射出成形法によりプラスチック磁石の層を形成し、更に着磁を行うことで、磁気雄ねじ磁石層7を形成する。プラスチック磁石は、磁石を構成する材料の粉体(例えば、希土類元素の粉体)を樹脂材料に練りこんだものを原料とする磁石である。この射出成形方を用いた磁石の形成は、磁気雌ねじ磁石層5aの製造に利用することもできる。
【0042】
磁気雄ねじ磁石層7の軸方向における磁極の幅を、磁気雌ねじ磁石層5aの軸方向における磁極の幅に比較して2倍の値としてもよい。この場合、図1〜図3に示した構造とは逆に、磁気雄ねじ磁石層7の側の磁極が磁気雌ねじ磁石層5a側に比較してより細かく分割された構造となる。
【0043】
磁気雌ねじ磁石層5aの軸方向における磁極の幅を第1の幅とし、磁気雄ねじ磁石層7の軸方向における磁極の幅を第2の幅とした場合に、第1の幅と第2の幅の比を3以上の自然数としてもよい。
【0044】
出力軸6における磁石層が設けられている範囲は、必要とされる出力軸6のストロークに基づいて決めればよい。図5には、出力軸6の他の例の断面構造が示されている。図5(A)には、磁気雄ねじ磁石層7が出力軸6の一方の端部にまで形成された例が示されている。図5(B)には、磁気雄ねじ磁石層7が利用される範囲である出力軸6の一方の端部の手前側にまで形成された例が示されている。
【0045】
回転磁界を発生させる界磁コイルの形式は、図1に示す形式に限定されない。例えば、界磁コイルの形式として、ステータから軸方向に複数の極歯を備えた構成とし、この極歯に界磁コイルが巻かれたステッピングモータの形式を採用することも可能である。
【0046】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、リニアアクチュエータに利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…フロントハウジング、2…エンドハウジング、3…マグネット(ロータマグネット)、4…スリーブ(バックヨーク)、5…マグネット(磁気雄ねじ側)、5a…磁気雌ねじ磁石層、6…出力軸、7…磁気雄ねじ磁石層、8…ピン、9…ベアリング、10a…ステータ、10b…ステータ、11…コイル(界磁コイル)、12…軸受部、13…ボビン、14…電極端子、15…カバー、16…ボビンホルダ、17…ストッパ、20…リニアアクチュエータ、30…ステータユニット、40…ロータユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界磁コイルを備えたステータユニットと、
外側にロータマグネットを備え、前記ステータユニットの内側において回転可能な状態で保持されたロータユニットと、
前記ロータユニットの回転運動が直線運動に変換されて直線運動を行う出力軸と、
前記ロータユニットの内周に設けられ、帯状のN極およびS極の磁極を交互に螺旋状に配置した磁気雌ねじ部と、
前記出力軸の外周に設けられており、帯状のN極およびS極の磁極を交互に螺旋状に配置した構造を有し、前記磁気雌ねじ部と螺合する磁気雄ねじ部と
を備え、
前記磁気雌ねじ部における帯状のN極およびS極の磁極の幅は同じ第1の幅であり、
前記磁気雄ねじ部における帯状のN極およびS極の磁極の幅は同じ第2の幅であり、
前記第1の幅と前記第2の幅の比がn倍(nを2以上の自然数)以上であることを特徴とするリニアアクチュエータ。
【請求項2】
前記磁気雌ねじ部と前記磁気雄ねじ部との間のギャップが前記第1の幅および前記第2の幅の小さいほうの値の半分以下であることを特徴とする請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項3】
前記出力軸の外周に設けられた前記磁極が、前記出力軸の端部にまで達している、或いは動作範囲である一部のみに形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項4】
前記出力軸の外周に設けられた前記磁極が、磁石の貼り付けまたは磁石の射出成形により形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリニアアクチュエータ。
【請求項5】
前記磁気雌ねじ部における帯状のN極およびS極の磁極、更に前記磁気雄ねじ部における帯状のN極およびS極の磁極は、共に多条に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のリニアアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−196021(P2012−196021A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56936(P2011−56936)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】