説明

リニアイオントラップ質量分析装置

【課題】イオンの導入方向と直交する方向にイオンを排出可能であって、排出効率が向上可能なリニアイオントラップを含む質量分析装置の提供
【解決手段】本発明の質量分析装置(20)は、リニアイオントラップ(21)と質量分離部(22)と検出部(23)とを含む質量分析装置であって、前記リニアイオントラップが、中心軸の周りに配置されている4又はそれ以上の偶数のリニア電極(30)、及び、前記リニア電極(30)間に配置されている1又はそれ以上の板状電極(31)を含み、前記リニア電極(30)が、ほぼ等間隔で前記中心軸とほぼ平行に配置されている。蓄積された前記イオンは、所定の2つの前記リニア電極(30)間の空間を通過して任意の方向、例えば、中心軸と直交する方向に排出されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアイオントラップ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置の一つに、イオントラップと他の質量分離部(例えば、飛行時間型質量分析計やフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計など)とを組み合わせた質量分析装置がある。このような質量分析装置は、一般的に、イオン源、イオントラップ、質量分析計、及び検出器を含む構成をとる(図8参照)。
【0003】
イオントラップは、イオンの蓄積、単離、解離、反応、排出などをするための場として利用される。イオントラップは、その電極の形状に起因して3Dトラップ(ポールトラップともいう)とリニア(線形)イオントラップとに分類できる。3Dトラップは、図9の模式図に示すような、エンドキャップ電極101と高周波電圧が印加されるリング電極102とから構成されるイオントラップである。3Dトラップでは矢印が示すとおり一方のエンドキャップ電極101からイオンが導入され、他方のエンドキャップ電極101からイオンが取り出される。
【0004】
一方、リニアイオントラップとしては、図10の模式図に示すような、トラッピング容積を形成する4本のリニア電極(柱状電極)103と、リニア電極103の前後に配置された押し戻し電極104とから構成されるイオントラップが知られている(特許文献1及び非特許文献1参照)。前記リニア電極103に高周波電圧を印加することでトラッピング容積内に時間的に変化する四重極電場を形成し、イオンを蓄積する。このようなリニアイオントラップでは、矢印が示すとおり、イオンはz軸方向から導入されて蓄積され、前記柱状電極103に形成されたスロット105からx軸方向にイオンが排出される。
【0005】
また、リニアイオントラップとしては、図11の模式図に示すような、トラッピング容積を形成する4本のリニア電極(柱状電極)106と、リニア電極106の前後に配置された押し戻し電極107とから構成されるリニアイオントラップも知られている。同図のリニアイオントラップでは、イオンはz軸方向から導入されて蓄積され、押し戻し電極107に印加される電場の効果によりz軸方向から排出される。
【0006】
外部のイオン源で生成したイオンをイオントラップに導入した場合のトラップ効率を、3Dトラップとリニアイオントラップとで比較すると次のようになる。3Dトラップの場合、導入したイオンに対するトラップ効率は10%程度である。これに対し、リニアイオントラップの場合、100%のトラップ効率を達成できるという報告がある(例えば、非特許文献2、図3参照)。したがって、トラップ効率に関して、リニアイオントラップは3Dトラップに比べて優れている。
【0007】
また、一般的に、リニアイオントラップは3Dトラップに比べて容易にトラップ容積を大きくできる。
【0008】
しかし、蓄積したイオンを次の質量分析計に導入するためには、イオントラップから前記イオンを引き出す(排出させる)必要がある。この排出効率について比較すると次のようになる。3Dトラップの場合、100%の排出効率を達成できることが知られている。これは、3Dトラップからのイオン排出時に、リング電極102に印加している高周波電圧を停止してエンドキャップ101に直流のパルス電圧を印加するなどして達成される。これに対し、リニアイオントラップの排出効率は一般的に劣ることが知られている。例えば、図10に示すリニアイオントラップでは、排出効率が44%程度となることが記載されている(例えば、非特許文献1、p.668参照)。また、図11に示すリニアイオントラップであっても、排出効率が劣ることが知られている。リニアイオントラップにおけるイオンの排出は、通常、リニア電極106に高周波電圧を印加した状態で押し戻し電極107に直流又は交流電圧を印加することで行われる。低い排出効率の原因の1つは、リニア電極106があるため、押し戻し電極107に印加した電圧がトラッピング容積の中央付近まで十分に達することができないことであると考えられている。
【0009】
上述の問題を解決するため、図12の模式図に示すようなリニアイオントラップが提案されている。すなわち、リニア電極106及び押し戻し電極107に加え、前記リニア電極間に挿入された板状電極108を備えるリニアイオントラップである(例えば、非特許文献3、図1参照)。このリニアイオントラップでは、イオン排出時に板状電極108に補助的に交流電圧を印加することで、蓄積されたイオンを蓄積方向と同じz軸方向に排出する(図12の矢印)。このようなリニアイオントラップによれば、排出効率60%を達成できることが開示されている(例えば、同文献、図6参照)。
【0010】
一方、イオンの排出方向が蓄積方向(導入方向)と直交するリニアイオントラップとしては、前述した図10に記載のもののほか、イオンの排出方向であるx軸方向のイオンの広がりを収束させるためにリニア電極に曲率を持たせるように変形し、直交方向の排出を実現したC−trapという技術が知られている(非特許文献4及び5参照)。
【0011】
また、図11及び図12に示すようなイオンの排出方向が蓄積方向(導入方向)と同じz軸方向であるリニアイオントラップから排出されるイオンの軌道を変更するため、直交加速機構(OA)を備えた質量分析装置も知られている(非特許文献6参照)。
【特許文献1】米国特許7,034,292号
【非特許文献1】Schwartz,J.C.et al, J.Am.Soc.Mass Spectrom.2002,13,659−669
【非特許文献2】Hashimoto,Y.et al, Rapid Commun.Mass Spectrom.2005,19,1485−1491
【非特許文献3】Hashimoto,Y.et al, J.Am.Soc.Mass Spectrom.2006,17,685−690
【非特許文献4】Olsen,J.V.et al, Molecular&Cellular Proteomics 4.12 2005,2010−2021
【非特許文献5】Makarov,A.et al J.Am.Soc.Mass Spectrom.2006,17,977−982
【非特許文献6】Hashimoto,Y.et al, J.Am.Soc.Mass Spectrom.2006,17,1669−1674
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在実用化されているリニアイオントラップは、上述のとおり、イオンの排出効率が十分とはいえず、リニアイオントラップの排出効率の向上が望まれている。
【0013】
また、図11及び図12に示すような、イオンの排出方向が蓄積方向(導入方向)と同じz軸方向であるリニアイオントラップでは、排出方向に直流電圧や交流電圧を印加することで蓄積したイオンを共鳴させて排出するため、リニアイオントラップ内の全イオンを一回のパルス電圧印加により排出することはできないという問題がある。したがって、例えば、リニアイオントラップと飛行時間型質量分析計とを組み合わせた質量分析装置(TOF)でイオントラップ内の全イオンを検出するためには、多数回繰り返して質量スペクトルを測定して積算することが必要となる。
【0014】
さらにまた、前述したC−trap技術などの従来の直交方向に排出可能なイオントラップでは、リニア電極(柱状電極)に曲率を持たせる変形をするため、装置が非常に複雑なものとなるという問題がある。
【0015】
さらにまた、リニアイオントラップから排出されるイオンの軌道を変更する直交加速機構(OA)とTOFとを組み合わせたOA−TOFでは、イオンの入射エネルギーや入射角度が制限され、又は、リニアイオントラップからOAまでの間に飛行時間の違いにより質量分別が生じるおそれがあるなどの問題がある。
【0016】
さらにまた、交流電圧を印加して共鳴排出法によりリニアイオントラップからイオンを排出する場合、前記交流電圧によりイオンの初期運動エネルギーのばらつきが生じるため、例えば、TOFなどの質量分析計と組み合わせる場合に問題が生じることがある。
【0017】
そこで、本発明は、排出効率が向上可能なリニアイオントラップを含む質量分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するため、本発明の質量分析装置は、リニアイオントラップと質量分離部と検出部とを含む質量分析装置であって、
前記リニアイオントラップが、中心軸の周りに配置されている4又はそれ以上の偶数のリニア電極、及び、前記リニア電極間に配置されている1又はそれ以上の板状電極を含み、前記リニア電極が、ほぼ等間隔で前記中心軸とほぼ平行に配置され、蓄積された前記イオンが、所定の2つの前記リニア電極間の空間を通過して排出されるリニアイオントラップであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明者らは、リニアイオントラップのイオン排出方法について、板状電極であれば、リニア電極への高周波電圧の印加により生じる振動電場を乱すことなくリニア電極の間に挿入可能であり、また、リニアイオントラップ内に蓄積されたイオンを任意の空間で収束できること見出した。そして、板状電極を利用すれば、蓄積した全イオンをイオンの蓄積方向(中心軸方向)から任意の方向に効率よく取り出せることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
本発明の質量分析装置におけるリニアイオントラップによれば、板状電極にパルス電圧を印加することで、好ましくは、リニアイオントラップ内でほぼ停止状態にある蓄積された全てのイオンを直接加速でき、排出効率の向上が可能となる。一度により多くのイオンを排出できれば、質量分析の分解能及び感度の向上が期待できる。本発明のリニアイオントラップは、好ましくは、リニアイオントラップ内の全てのイオンを一度に排出できる。また、排出時、初期状態でイオンが停止しているので、例えば、飛行時間型質量分析計と組み合わせた場合、初速度の分布による分解能の低下を防ぐことができる。
【0021】
また、本発明の質量分析装置における前記リニアイオントラップは、リニア電極の形状の変形等を行うことなくイオンを任意の方向への排出が可能であり、例えば、中心軸からほぼ直交方向へ排出できる。従来のリニアイオントラップを飛行時間型質量分析計と組み合わせて使用した場合、直交加速機構(OA)やC−trap技術などを用いなければ分離能よく測定することは困難であった。しかしながら、本発明によれば、例えば、OAやC−trap技術が行う排出工程をリニアイオントラップ内で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明において、前記板状電極の少なくとも1つは、前記中心軸の方向に分割されており、蓄積された前記イオンが、分割された前記板状電極間の空間を通過して排出されてもよい。また、本発明において、前記板状電極の少なくとも1つは、前記中心軸方向及び/若しくは半径方向に分割され、又は、前記中心軸に向かって曲率を有する形状であってもよい。
【0023】
本発明の質量分析装置は、さらに、制御部を含み、前記制御部は、前記リニアイオントラップにイオンを蓄積する場合に、前記リニア電極へ隣り合うリニア電極の位相が180度異なる高周波電圧を印加し、蓄積された前記イオンを排出する場合に、前記高周波電圧の印加を停止する制御を行うことが好ましい。また、前記制御部は、蓄積された前記イオンを排出する場合に、前記板状電極へ前記リニア電極の中心電位から正又は負のパルス電圧を印加する制御を行うことが好ましい。さらにまた、前記制御部は、蓄積された前記イオンを排出する場合に、前記イオンを空間的及び/又は時間的に収束させるように前記パルス電圧を印加する制御を行うことが好ましい。
【0024】
本発明の質量分析装置において、前記リニアイオントラップが、蓄積された前記イオンを前記中心軸とほぼ直交方向に排出可能であって、前記質量分離部が、前記リニアイオントラップの中心軸とほぼ直交方向に配置されていてもよい。本発明の質量分析装置において、前記質量分離部は、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型、オービトラップ型、四重極型、及び、磁場型からなる群から選択される質量分離部であってよい。
【0025】
本発明において、前記飛行時間型質量分離部は、例えば、多重周回型であってよい。その場合、前記リニアイオントラップの排出軌道と前記飛行時間型質量分離部の周回軌道とが一致するように配置することができる。
【0026】
本発明は、その他の態様として、本発明の質量分析装置を用いる質量分析方法であって、前記リニア電極に隣り合うリニア電極の位相が180度異なるように高周波電圧を印加して前記リニアイオントラップにイオンを蓄積するステップ、及び、前記高周波電圧の印加を停止するとともに、前記板状電極へ前記リニア電極の中心電位から正又は負のパルス電圧を印加して、蓄積された前記イオンを所定の2つの前記リニア電極間の空間を通過して排出するステップを含む質量分析方法を提供する。
【0027】
本発明は、さらにその他の態様として、リニアイオントラップであって、中心軸の周りに配置されている4又はそれ以上の偶数のリニア電極、前記リニア電極間に配置されている1又はそれ以上の板状電極、及び、制御部を含み、前記リニア電極が、等間隔で前記中心軸とほぼ平行に配置され、前記制御部が、イオンを蓄積する場合に、前記リニア電極へ隣り合うリニア電極の位相が180度異なるように高周波電圧を印加し、蓄積された前記イオンを排出する場合に、前記高周波電圧の印加を停止して前記板状電極へ前記リニア電極の中心電位から正又は負のパルス電圧を印加する制御を行い、蓄積された前記イオンが、所定の2つの前記リニア電極間の空間を通過して排出されうるリニアイオントラップを提供する。本発明のリニアイオントラップにおいて、前記板状電極の少なくとも1つは、前記中心軸の方向に分割されており、蓄積された前記イオンが、分割された前記板状電極間の空間を通過して排出されてもよい。また、本発明のリニアイオントラップにおいて、前記板状電極の少なくとも1つは、前記中心軸方向及び/若しくは半径方向に分割され、又は、前記中心軸に向かって曲率を有する形状であってもよい。
【0028】
以下に、本発明の質量分析装置のリニアイオントラップ(以下、本発明のリニアイオントラップともいう。)について説明する。本発明のリニアイオントラップは、上述のとおり、中心軸の周りに配置されている4又はそれ以上の偶数のリニア電極、及び、前記リニア電極間に配置されている1又はそれ以上の板状電極を含み、前記リニア電極は、等間隔で前記中心軸とほぼ平行に配置され、蓄積された前記イオンが、所定の2つの前記リニア電極間の空間を通過して排出されるリニアイオントラップである。
【0029】
本発明のリニアイオントラップは、さらに、押し戻し電極を備えることが好ましい。本発明のリニアイオントラップにおいて、「押し戻し電極」とは、イオンをトラップ容積内に留めるためz軸(中心軸)方向のポテンシャル井戸を形成する電極をいい、例えば、図10に記載の従来公知の柱状/ロッド状の押し戻し電極104や、図11及び図12に記載の従来公知の板状の押し戻し電極107と同様のものを使用できる。
【0030】
本発明のリニアイオントラップにおいて、「中心軸」とは、互いにほぼ平行、好ましくは平行に配置される前記リニア電極群の中心に位置する軸をいう。前記リニア電極は、前記中心軸を円心とする同一円周上に配置されていることが好ましい。図11及び12の従来のリニアイオントラップにおけるz軸が中心軸に好ましくは相当する。本発明のリニアイオントラップにおいて、イオンが導入/蓄積される方向が、中心軸方向となることが好ましい。また、導入された前記イオンは、前記リニア電極によって前記中心軸の周りに誘起された振動電場により蓄積されることが好ましい。
【0031】
本発明のリニアイオントラップにおいて、「リニア電極」とは、前記中心軸の周りにほぼ等間隔に互いにほぼ平行に配置されている電極であって、4又はそれ以上の偶数が配置されることで前記中心軸の周りにイオンのトラッピング容積を形成する電極をいう。前記リニア電極の数としては、特に制限されず、例えば、4、6、8、10、12又はそれ以上の偶数である。上述のとおり、前記リニア電極は、前記中心軸を円心とする同一円周上に配置されていることが好ましい。また、前記リニア電極は、隣り合う電極がほぼ等間隔、好ましくは等間隔であって、互いにほぼ平行、好ましくは平行である。前記リニア電極の形状は、イオンをトラップするための振動電場を誘導可能であれば特に制限されないない。例えば、図11及び12の従来のリニアイオントラップのリニア電極106と同様の円柱状の電極であってもよく、図10の電極103と同様に双曲線ロッド状の電極であってよい。前記リニア電極の材質は、特に制限されず、例えば、従来公知の材質を使用できる。また、本発明において、「ほぼ」とは、技術常識上許容されうる範囲の誤差やズレを含みうることをいう。前記リニア電極のサイズ及び配置は、当業者であれば従来のリニアイオントラップを参照して適宜決定できる。
【0032】
本発明のリニアイオントラップにおいて、「板状電極」とは、前記リニア電極の間隙に挿入されている電極をいう。この板状電極にパルス電圧を印加することにより、トラップ容積内に蓄積されたイオンを、前記リニア電極間の空間を通過して、押し出し、及び/又は、引き出すことができる。前記板状電極の数としては、1以上であって、例えば、2、3、4、5、6、7、8若しくはそれ以上、又は、前記リニア電極と同数である。本発明のリニアイオントラップにおいて、1つの板状電極とは、ある2つのリニア電極間に挿入されている板状電極全体をいい、1枚の電極から構成されてもよく、いくつかの分割された部分板状電極から構成されてもよい。前記板状電極は、前記リニア電極が形成しうるトラップ容積内の振動電場を乱さないように配置することが好ましい。例えば、前記リニア電極に印加される高周波電圧の中心電位の位置に配置できる。当業者であれば、前記板状電極を前記振動電場が乱されない位置に適宜配置できる。このような位置であれば、板状電極の半径方法の位置は、前記リニア電極で構成される内接円の内側でも外側でもよい。なお、本発明のリニアイオントラップにおいて、「半径方向」とは、前記中心軸と直交する方向をいう。
【0033】
前記板状電極の形状は、特に制限されないが、例えば、前記中心軸方向及び/若しくは半径方向に分割され、又は、前記中心軸に向かって曲率を有する形状であってもよい。前記板状電極を分割し及び/又はその形状を変化させることで、イオン排出時の電場の調整が可能となり、排出方向及び排出効率をより向上できる。板状電極の形状は、前記リニア電極が形成しうるトラップ容積内の振動電場を乱さないような形状であれば、特に制限されず、また、その枚数も特に制限されない。当業者であれば、イオンを空間的及び/又は時間的に収束させるように前記板状電極に電圧を印加できるよう適宜設定できる。
【0034】
本発明のリニアイオントラップにおいて、蓄積されたイオンが排出される方向に前記板状電極が存在する場合、該板状電極は、前記中心軸方向に分割されていることが好ましい。このようにすることで、蓄積されたイオンを、分割された前記板状電極間の空間を通過させて排出することが可能となる。
【0035】
本発明のリニアイオントラップは、蓄積されたイオンを所定の2つの前記リニア電極間の空間を通過して前記中心軸から任意の方向に排出できる。前記イオンの排出方向は、特に限定されず、前記板状電極の形状及び/又はパルス電圧の印加方法によって様々な方向に調節可能であって、例えば、前記中心軸とほぼ直交する方向へ排出することが可能である。中心軸方向から直交方向に向かうほど、中心軸方向よりも排出されるまでの距離が短くなり、排出のための電場がかかり易く排出しやすい。また、蓄積されたイオンは中心軸方向に大きく分布するため、それに直交する方向で排出すると飛行時間の収束性が向上する。本発明において、「所定の2つのリニア電極」とは、排出されるイオンが通過する空間を形成する2つのリニア電極であって、例えば、前記板状電極の配置及び/又は前記パルス電圧の印加方法を設定することで任意の2つのリニア電極を選択できる。
【0036】
本発明において、「イオン」は、イオン、分析対象及びその分解物のイオン化物、並びに、荷電粒子を含む。
【0037】
本発明の質量分析装置は、制御部を含むことが好ましく、前記制御部は、本発明のリニアイオントラップの一部であってもよく、又は、リニアイオントラップから独立したものであってもよい。前記制御部は、本発明のリニアイオントラップにイオンを蓄積する場合に隣り合うリニア電極間に位相が180度異なる高周波電圧の印加を行うことが好ましい。また、前記制御部は、本発明のリニアイオントラップにイオンを蓄積する場合に前記押し戻し電極にイオンを押し戻す電圧の印加を行ってもよい。これらは、従来のリニアイオントラップにおける制御と同様である。
【0038】
また、前記制御部は、蓄積された前記イオンを排出する場合には、前記板状電極へ前記リニア電極の中心電位から正又は負のパルス電圧を印加する制御を行うことが好ましい。前記板状電極へ制御は、前記イオンを空間的及び/又は時間的に収束させるような前記パルス電圧の印加であることが好ましい。
【0039】
本発明のリニアイオントラップにおいて、「パルス電圧」とは、イオン排出のために前記板状電極に印加するパルス電圧をいう。前記パルス電圧の印加は、イオン排出時に所定の時間(すなわち、イオンが排出されるだけの時間)一定の電圧を一回(一波形)印加するものであってもよく、周期的な波形の電圧を印加するものであってもよい。なお、本発明のリニアイオントラップにおいて、「リニア電極の中心電位」とは、前記リニア電極に印加される高周波電圧の中心電位をいう。イオンの収束と排出効率の向上のためには、前記板状電極ごと、また、分割されている場合には分割された板状電極ごとに印加するパルス電圧を調整することが好ましい。
【0040】
本発明のリニアイオントラップにおいて、蓄積されたイオンを「空間的及び/又は時間的に収束する」とは、導入/蓄積方向である中心軸方向のイオンの広がりを収束させ、及び/又は、排出されるイオンの時間的ばらつきの収束させることをいう。
【0041】
また、前記制御部は、イオンの排出時には、前記高周波電圧の印加を停止する制御を同時に行うことが好ましい。これにより、直流電圧で構成された場だけからのイオンの排出が可能となり、排出されるイオンの初期の運動エネルギーのばらつきを抑制できる。
【0042】
以下に、本発明のリニアイオントラップの一実施形態について図1Aを用いて説明する。図1Aは、本発明のリニアイオントラップ1の斜視模式図である。リニアイオントラップ1は、中心軸であるz軸の周りに平行かつ等間隔で配置された4本のリニア電極2、4つの板状電極3a〜3d、並びに、押し戻し電極4及び4’を備える。同図において矢印はイオンの導入及び排出方向を示す。すなわち、イオンは、z軸方向(中心軸方向)に導入され、x軸方向に排出される。図1Bは、図1Aにおける前記板状電極を抜き出して示した斜視模式図であり、図1Cは、y軸方向から見た板状電極のxz平面の模式図である。板状電極3aは、xz平面上に配置され、イオンが排出される空間を形成するため中心軸方向に分割されている。また、板状電極3aは、半径方向に3つに分割され、板状電極3a、3a’、3a”となっている。板状電極3a”は、中心軸に向かって曲率を有する形状である。板状電極3bは、板状電極3aと同様にxz平面上であって、板状電極3aと中心軸を挟んで反対側に配置されている。板状電極3bも、中心軸に向かって曲率を有する形状を示す。板状電極3bの曲率を有する形状は、例えば、z軸方向のイオンの収束を促進するのに有効である。板状電極3c及び3dは、yz平面上に中心軸を挟んでそれぞれ配置されている。
【0043】
図1Aのリニアイオントラップにおいて、イオン源などで生成されたイオンは、矢印(z軸)方向から押し戻し電極4の開口部を通過して導入され、リニア電極2に印加された高周波電圧、及び、押し戻し電極4及び4’に印加された電圧の効果によりトラップ容積内に蓄積(トラップ)される。次に、リニア電極2に印加していた高周波電圧が停止されるとともに、板状電極3a、3a’、3a”、3b、3c及び3dに前記高周波電圧の中心電位から正又は負のパルス電圧が印加されると、蓄積された前記イオンは、x軸方向に一度に排出される。前記板状電極に印加するパルス電圧は、トラップ容積内に蓄積された前記イオンをx軸方向に収束するように板状電極ごとに設定される。後述するように、当業者であれば、前記パルス電圧を適宜設定できる。
【0044】
図2Aは、本発明のリニアイオントラップのその他の実施形態を示す。同図において、図1Aと同一のものには同一符号を記す。同図のリニアイオントラップ5は、中心軸であるz軸の周りに平行かつ等間隔で配置された4本のリニア電極2、4つの板状電極6a〜6d、及び、押し戻し電極4及び4’を備える。同図において矢印はイオンの導入及び排出方向を示す。図2Bは、図2Aにおける前記板状電極を抜き出して示した斜視模式図であり、図2Cは、y軸方向から見た板状電極のxz平面の模式図である。板状電極6aは、xz平面上に配置され、イオンが排出される空間を形成するため中心軸方向に分割されている。また、板状電極6aは、半径方向に3つに分割され、板状電極6a、6a’、6a”となっている。板状電極6bは、xz平面上であって、板状電極6aと中心軸を挟んで反対側に配置されている。板状電極6bは、中心軸方向に3つに分割された板状電極である。板状電極を3つに分割することで、印加するパルス電圧に高低をつけることが可能となり、蓄積されたイオンの収束と排出効率の向上が可能となる。板状電極6c及び6dは、yz平面上に中心軸を挟んでそれぞれ配置されている。
【0045】
図3Aは、本発明のリニアイオントラップのさらにその他の実施形態を示す。同図において、図1Aと同一のものには同一符号を記す。同図のリニアイオントラップ7は、中心軸であるz軸の周りに平行かつ等間隔で配置された4本のリニア電極2、4つの板状電極8a〜8d、及び、押し戻し電極4及び4’を備える。同図において矢印はイオンの導入及び排出方向を示す。図3Bは、図3Aにおける前記板状電極を抜き出して示した斜視模式図であり、図3Cは、y軸方向から見た板状電極のxz平面の模式図である。板状電極8aは、xz平面上に配置され、イオンが排出される空間を形成するため中心軸方向に分割されている。また、板状電極8aは、半径方向に3つに分割され、板状電極8a、8a’、8a”となっている。板状電極8bは、xz平面上であって、板状電極8aと中心軸を挟んで反対側に配置されている。板状電極8bは、中心軸方向に分割された板状電極である。このような板状電極8bを備えることで、後述するように、例えば、多重周回型の飛行時間型質量分離部の周回軌道とイオンの排出軌道とを一致させることができる(図7参照)。板状電極8c及び8dは、yz平面上に中心軸を挟んでそれぞれ配置されている。
【0046】
本発明のリニアイオントラップにおいて、前記板状電極の数や形状は、上述したとおり、特に制限されず、例えば、板状電極が4つの場合、図1B、図2B、図3Bなどに示すような形状であってもよい。前記板状電極の数、形状、分割方法、及び、印加するパルス電圧は、コンピュータなどを用いたシミュレーションにより検討して設定できる。例えば、市販のソフトウエア(商品名:SIMION 3D、Idaho National Engineering and Environmental Laboratory社製)を用いるなどして、当業者であれば容易に設定できる。
【0047】
図4A、4B、5A及び5Bは、市販の前記ソフトウエア(商品名:SIMION、同上)でシミュレーションしたイオンの軌道の一例を示す。図4A及び4Bは、図1Bに示すような板状電極3a〜3dにそれぞれ図4Cに示すようなパルス電圧を印加した場合のシミュレーション軌道の一例である。また、図5A及び5Bは、図2Bに示すような板状電極6a〜6dにそれぞれ図5Cに示すようなパルス電圧を印加した場合のシミュレーション軌道の一例である。図4C及び図5Cにおいて、破線は、リニア電極の中心電位を示し、「RF OFF」は、前記リニア電極に印加していた高周波電圧を停止したタイミングを示す。図4A及び図5Aは、xz平面のシミュレーション軌道であって、濃い色の部分で表されるのは、板状電極(それぞれ、図1B及び図2B参照)、並びに、x軸上に排出されるイオンの軌道である。図4B及び図5Bは、xy平面のシミュレーション軌道であって、濃い色の4つの丸で表されるのはリニア電極であり、各リニア電極間の濃い色の4つの線で表されるのは板状電極であり、さらに、x軸上に排出されるイオンの軌道が示されている。このようにすれば、z軸(中心軸)方向に蓄積したイオンを、例えば、直交する方向であるx軸方向に排出するような前記板状電極及びパルス電圧を調整及び設定できる。さらに、前記板状基板の形状や印加するパルス電圧を調節すれば、任意の方向にイオンを収束させるように設定できる。
【0048】
本発明のリニアイオントラップは、例えば、様々なイオン源、質量分離部、検出部などと組み合わせることができる。前記質量分離部は、例えば、本発明のリニアイオントラップのイオンの排出方向に配置することができる。前記質量分離部としては、特に制限されないが、例えば、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型、オービトラップ型、四重極型、磁場型の質量分離部があげられる。前記飛行時間型質量分離部は、例えば、リニア型、リフレクトロン型、多重周回型などであってよい。また、これらの質量分離部は、2個又はそれ以上連結して使用してもよい。本発明のリニアイオントラップは、上述のとおり、排出されるイオンの初期運動エネルギーのばらつきが好ましくは抑制され、例えば、飛行時間型質量分離部と組み合わせると質量分解能の向上が好ましくは可能となる。
【0049】
前記飛行時間型質量分離部が多重周回型の場合、前記リニアイオントラップの排出軌道と前記飛行時間型質量分離部の周回軌道とが一致するように配置することができる(図7参照)。前記多重周回型の飛行時間型質量分離部としては、例えば、特開2001−143654や文献[Toyoda,M.et al. J.Mass Spectrom.,38(2003),1125−1142]に開示されているものを適用できる。
【0050】
本発明の質量分析装置の検出部に含まれる検出器は、特に制限されず、前記質量分離部に適した従来公知の検出器を適用できる。本発明の質量分析装置は、さらに、前記検出器で得られた検出信号をデータ処理する処理部を含んでも良い。
【0051】
本発明の質量分析装置は、イオン生成部を含んでもよい。前記イオン生成部は、例えば、イオン源、イオン収束レンズなどを含む。前記イオン源としては、特に制限されず、従来公知のイオン源を含んでよい。
【0052】
本発明の質量分析装置の一実施形態について図6A及びBを用いて説明する。図6Aの本発明の質量分析装置20は、リニア電極30、板状電極31及び31’、並びに、押し戻し電極32及び32’を備える本発明のリニアイオントラップ21と、リニア型の飛行時間型質量分離部22と、検出部23と、イオン源33及びイオン収束レンズ群34を含むイオン生成部24と、これらの電圧などを制御する制御部25と、検出部23の検出信号をデータ処理する処理部26とから構成される。前記板状電極31及び31’としては、例えば、図1Bの板状電極が使用できる。
【0053】
図6Bは、図6Aに示した本発明の質量分析装置において、イオンを蓄積して排出するまでのリニア電極30、板状電極31及び31’、並びに、押し戻し電極32及び32’の各電極に印加する電圧のタイミングチャートの一例を示す。イオン源33で生成されたイオン35は、イオン収束レンズ群34を介して本発明のリニアイオントラップ21に導入される。リニアイオントラップ21にイオンが導入される前は、制御部25からリニア電極30に高周波電圧を印加し、押し戻し電極32’にイオンを中央軸方向に押し戻すための電圧を印加しておく。イオンがリニアイオントラップ21に導入された後、制御部25から押し戻し電極32にも電圧を印加し、リニア電極30が形成するトラップ容積内の振動電場にイオンを蓄積する。次に、制御部25からの前記高周波電圧の印加を停止し、それとともに制御部25から板状電極31及び31’にパルス電圧を印加する。これにより、導入方向と直交する方向に蓄積された前記イオンが一度に排出されて、リニア型の飛行時間型質量分離部22に導入される。飛行時間型質量分離部22に導入されたイオンは検出部23で検出され、その検出信号が処理部26でデータ処理される。
【0054】
図7は、本発明の質量分析装置のその他の実施形態を示す。本発明の質量分析装置40は、本発明のリニアイオントラップと多重周回型の飛行時間型質量分離部とを組み合わせた実施形態である。同図の質量分析装置40は、リニア電極50、板状電極51、及び、押し戻し電極52を備える本発明のリニアイオントラップ41と、扇形電場56〜59を備える多重周回型の飛行時間型質量分離部42と、検出部43と、イオン源53及びイオン収束レンズ群54を含むイオン生成部44と、電圧などを制御する制御部45と、検出部43の検出信号をデータ処理する処理部46とから構成される。前記板状電極51としては、例えば、図3Bの板状電極を使用できる。
【0055】
イオン源53で生成されたイオン55は、イオンレンズ54を介してリニアイオントラップ41に導入され、リニア電極50に印加された高周波電圧の振動電場内に蓄積される。次に、制御部45からの前記高周波電圧の印加を停止し、制御部45から板状電極51にパルス電圧を印加することで、蓄積された前記イオンは、導入方向と直交する方向に排出され、飛行時間型質量分離部42の周回軌道に直接導入される。本発明の質量分析装置40において、リニアイオントラップ41は、イオンの排出軌道が飛行時間型質量分離部42の周回軌道と同一となるように配置されている。また、図3B及びCに示すように、xz平面に配置される板状電極が中心軸方向に分割されていれば、イオンは周回軌道を妨げられることなくリニアイオントラップ41を通過できる。飛行時間型質量分離部42に導入されたイオンは検出部43で検出され、その検出信号が処理部46でデータ処理される。なお、前記多重周回型の飛行時間型質量分離部42において、周回軌道の形状や検出部の配置場所や数は、特に制限されない。
【0056】
本発明の質量分析方法は、本発明の質量分析装置を用いる方法であって、本発明のリニアイオントラップの前記リニア電極に隣り合うリニア電極間の位相が180度異なるように高周波電圧を印加してイオンを蓄積するステップ、及び、前記高周波電圧の印加を停止するとともに、前記板状電極へ前記リニア電極の中心電位から正又は負のパルス電圧を印加して、蓄積された前記イオンを前記中心軸とほぼ直交方向に排出するステップを含む。本発明の質量分析方法は、さらに、分析するイオンを生成するステップ、前記リニアイオントラップから引き出されたイオンを質量分離部及び検出部で分析するステップ、及び、得られたデータをデータ処理するステップなどを含んでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したとおり、本発明の質量分析装置によれば、例えば、リニアイオントラップのリニア電極(柱状電極)に変形などを加えることなくリニアイオントラップ内のイオンを一度に排出でき、リニアイオントラップの排出効率を向上できるから、質量分析装置に関する幅広い分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1Aは、本発明のリニアイオントラップの一例の模式図を示す。図1Bは、図1Aのリニアイオントラップの板状電極の斜視模式図である。図1Cは、図1Bの板状電極のxz平面模式図である。
【図2】図2Aは、本発明のリニアイオントラップのその他の例の模式図を示す。図2Bは、図2Aのリニアイオントラップの板状電極の斜視模式図である。図2Cは、図2Bの板状電極のxz平面模式図である。
【図3】図3Aは、本発明のリニアイオントラップのさらにその他の例の模式図を示す。図3Bは、図3Aのリニアイオントラップの板状電極の斜視模式図である。図3Cは、図3Bの板状電極のxz平面模式図である。
【図4】図4A及びBは、イオンのシミュレーション軌道の一例を示し、図4Cは板状電極に印加するパルス電圧の波形の一例を示す。
【図5】図5A及びBは、イオンのシミュレーション軌道のその他の例を示し、図5Cは板状電極に印加するパルス電圧の波形のその他の例を示す。
【図6】図6Aは、本発明の質量分析装置の一例の模式図である。図6Bは、電極へ印加する電圧のタイミングチャートの一例である。
【図7】図7は、本発明の質量分析装置のその他の例の模式図である。
【図8】図8は、イオントラップ質量分析装置の構成の一例を示す。
【図9】図9は、3Dトラップの一例の模式図である。
【図10】図10は、リニアイオントラップの一例の模式図である。
【図11】図11は、リニアイオントラップのその他の例の模式図である。
【図12】図12は、リニアイオントラップのさらにその他の例の模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1、5、7・・・リニアイオントラップ
2・・・リニア電極
3a〜3d・・・板状電極
4、4’・・・押し戻し電極
6a〜6d・・・板状電極
8a〜8d・・・板状電極
20、40・・・質量分析装置
21、41・・・リニアイオントラップ
22、42・・・質量分離部
23、43・・・検出部
24、44・・・イオン生成部
25、45・・・制御部
26、46・・・処理部
30、50・・・リニア電極
31、31’、51・・・板状電極
32、32’、52・・・押し戻し電極
33、53・・・イオン源
34、54・・・イオン収束レンズ群
35、55・・・イオン
56〜59・・・扇形電場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアイオントラップと質量分離部と検出部とを含む質量分析装置であって、
前記リニアイオントラップが、中心軸の周りに配置されている4又はそれ以上の偶数のリニア電極、及び、前記リニア電極間に配置されている1又はそれ以上の板状電極を含み、前記リニア電極が、ほぼ等間隔で前記中心軸とほぼ平行に配置され、蓄積された前記イオンが、所定の2つの前記リニア電極間の空間を通過して排出されるリニアイオントラップであることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記板状電極の少なくとも1つが、前記中心軸の方向に分割されており、蓄積された前記イオンが、分割された前記板状電極間の空間を通過して排出されうる請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記板状電極の少なくとも1つが、前記中心軸の方向及び/若しくは半径方向に分割され、又は、前記中心軸に向かって曲率を有する形状である請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
さらに、制御部を含み、前記制御部が、前記リニアイオントラップにイオンを蓄積する場合に、前記リニア電極に隣り合うリニア電極の位相が180度異なるように高周波電圧を印加し、蓄積された前記イオンを排出する場合に前記高周波電圧の印加を停止する制御を行う請求項1から3のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記制御部が、蓄積された前記イオンを排出する場合に、前記板状電極へ前記リニア電極の中心電位から正又は負のパルス電圧を印加する制御を行う請求項4記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記制御部が、蓄積された前記イオンを排出する場合に、前記イオンを空間的及び/又は時間的に収束させるように前記パルス電圧を印加する制御を行う請求項5記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記リニアイオントラップが、蓄積された前記イオンを前記中心軸とほぼ直交方向に排出可能であり、前記質量分離部が、前記リニアイオントラップの前記中心軸とほぼ直交方向に配置されている請求項1から6のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記質量分離部が、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型、オービトラップ型、四重極型、及び、磁場型からなる群から選択される質量分離部を含む請求項1から7のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記飛行時間型質量分離部が、多重周回型であって、
前記リニアイオントラップのイオンの排出軌道と前記飛行時間型質量分離部の周回軌道とが一致するように配置されている請求項8記載の質量分析装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の質量分析装置を用いる質量分析方法であって、
前記リニア電極に隣り合うリニア電極の位相が180度異なるように高周波電圧を印加して前記リニアイオントラップにイオンを蓄積するステップ、及び、
前記高周波電圧の印加を停止するとともに、前記板状電極へ前記リニア電極の中心電位から正又は負のパルス電圧を印加して、蓄積された前記イオンを所定の2つ前記リニア電極間の空間を通過して排出するステップ、を含むことを特徴とする質量分析方法。
【請求項11】
リニアイオントラップであって、
中心軸の周りに配置されている4又はそれ以上の偶数のリニア電極、前記リニア電極間に配置されている1又はそれ以上の板状電極、及び、制御部を含み、
前記リニア電極が、等間隔で前記中心軸とほぼ平行に配置され、
前記制御部が、イオンを蓄積する場合に、前記リニア電極へ隣り合うリニア電極の位相が180度異なるように高周波電圧を印加し、蓄積された前記イオンを排出する場合に、前記高周波電圧の印加を停止して前記板状電極へ前記リニア電極の中心電位から正又は負のパルス電圧を印加する制御を行う制御部であり、
蓄積された前記イオンが、所定の2つの前記リニア電極間の空間を通過して排出されることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項12】
前記板状電極の少なくとも1つが、前記中心軸の方向に分割されており、蓄積された前記イオンが、分割された前記板状電極間の空間を通過して排出される請求項11記載のリニアイオントラップ。
【請求項13】
前記板状電極の少なくとも1つが、前記中心軸の方向及び/若しくは半径方向に分割され、又は、前記中心軸に向かって曲率を有する形状である請求項11又は12に記載のリニアイオントラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−186730(P2008−186730A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19693(P2007−19693)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】