説明

リニアガイド装置

【課題】転動体循環路の曲線部での急激な摩擦力を低減し、作動性を確保することができるリニアガイド装置を提供する。
【解決手段】リニアガイド装置の転動体循環路を構成する直線部50と曲線部51のうち、曲線部51の少なくとも一部をクロソイド曲線で形成することにより、直線部50から曲線部51に移動した直後の転動体Bに生じる遠心力を低減し、急激な摩擦力の増大を抑制して作動性を確保する。転動体Bがころの場合、ころにスキューが生じやすい領域の曲線部51をクロソイド曲線で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、案内レールとスライダに転動体の転動体循環路を形成し、この転動体循環路を転動体が転動しながら循環することで案内レールに沿ってスライダが滑らかに直動するリニアガイド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなリニアガイド装置では、一般的に、案内レールとスライダの対向面に当該案内レールの長手に沿って転動体転動路を形成し、スライダの内部には転動体戻し路を形成し、それら転動体転動路と転動体戻し路の長手方向両端部に湾曲路を形成し、これらによって転動体の無限転動体循環路を形成し、その転動体循環路を転動体が転動しながら循環することで案内レールに沿ってスライダが滑らかに直動する。下記特許文献1では、例えば案内レールの転動体転動路の継ぎ目をシール兼潤滑部材が通過する際、当該シール潤滑部材の損傷を防止するため、継ぎ目近傍の転動体転動路を円弧形状、楕円形状、クロソイド曲線形状で形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−261483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リニアガイド装置の転動体循環路は、直線部と曲線部で構成されるのが一般的である。曲線部は、一般的に曲率半径が一つの単一円弧で形成されているので、直線部から曲線部に侵入した転動体には移動速度による遠心力が急激に生じる。この遠心力によって転動体循環路の曲線部と転動体の間に急激に摩擦力が増大し、作動性に悪影響を及ぼす恐れがある。また、転動体がころである場合、転動体循環路の曲線部との間で生じる急激な摩擦力の増大によってころにスキューが生じ、作動性が悪化する恐れがある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、転動体循環路の曲線部での急激な摩擦力の増大を抑制し、作動性を確保することができるリニアガイド装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のリニアガイド装置は、転動体を循環する転動体循環路が直線部と曲線部とを有するリニアガイド装置において、前記転動体循環路の曲線部の少なくとも一部がクロソイド曲線で形成されていることを特徴とするものである。
本発明のクロソイド曲線は、緩和曲線とも呼ばれ、直線部から連続する曲線部にあって、直線部に近い部分から次第に曲率が大きくなる(曲率半径が小さくなる)曲線である。
また、前記転動体がころである場合、前記転動体循環路の曲線部のうち、少なくともころにスキューが生じやすい領域を前記クロソイド曲線で形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
而して、本発明のリニアガイド装置によれば、転動体循環路の曲線部の少なくとも一部がクロソイド曲線で形成されているため、転動体循環路の曲線部での急激な摩擦力の増大を抑制し、作動性を確保することができる。
また、転動体循環路の曲線部のうち、少なくともころにスキューが生じやすい領域をクロソイド曲線で形成したため、ころのスキューを抑制防止して作動性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のリニアガイド装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のリニアガイド装置のエンドキャップを取り外した正面図である。
【図3】図1のリニアガイド装置のエンドキャップの背面図である。
【図4】図1のリニアガイド装置の転動体循環路の平面図である。
【図5】図5の転動体循環路の詳細説明図である。
【図6】図5の転動体循環路の変形例の詳細説明図である。
【図7】従来のリニアガイド装置の転動体循環路の平面図である。
【図8】図7の転動体循環路の詳細説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明のリニアガイド装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態のリニアガイド装置では、図1、図2に示すように、角形の案内レール1上に横断面形状がほぼコ字状のスライダ2が案内レール1の長手方向に相対移動可能に跨架されている。スライダ2の本体2Aの長手方向両端部にはエンドキャップ2Bが着脱可能に固着されている。本実施形態の場合、案内レール1の上面1aと両側面1bが交差する稜線部に、断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝からなる第1の転動体転動溝13が形成されると共に、案内レール1の両側面1bの中間位置に断面ほぼ半円形状の第2の転動体転動溝3が形成されている。第2の転動体転動溝3の溝底には、スライダ2を案内レール1に組付けない状態での転動体(ボール)Bの脱落を防ぐ保持器14の逃げ溝16が形成されている。
【0009】
これに対して、スライダ2の本体2Aの両袖部4の内側の角隅部下方に、案内レール1の第1の転動体転動溝13に対向する断面ほぼ半円形状の第1の負荷転動体転動溝18が形成されている。また、スライダ2の本体2Aの両袖部4の内側面中央部には、案内レール1の第2の転動体転動溝3に対向する断面ほぼ半円形状の第2の負荷転動体転動溝19が形成されている。前記案内レール1の第1の転動体転動溝13とスライダ2の第1の負荷転動体転動溝18とで第1の負荷転動体転動路21が構成され、案内レール1の第2の転動体転動溝3とスライダ2の第2の負荷転動体転動溝19とで第2の負荷転動体転動路22が構成されている。
【0010】
また、スライダ2の本体2Aの袖部4の上部には、第1の負荷転動体転動溝18と平行で案内レール1の長手方向に開設された断面円形の貫通穴からなる第1の転動体戻し路23が形成されている。また、スライダ2の本体2Aの袖部4の下部には、第2の負荷転動体転動溝19と平行で案内レール1の長手方向に開設された断面円形の貫通穴からなる第2の転動体戻し路24が形成されている。なお、図中の符号25は、エンドキャップ2Bを取付けるためのねじ穴である。
【0011】
エンドキャップ2Bは、図3に示すように、断面ほぼコ字状の合成樹脂射出成形部材である。このエンドキャップ2Bのスライダ当接面(裏面)2Bbには、両袖部分に斜めに傾斜したほぼ半円状の上凹部31と下凹部32が上下に形成されると共に、夫々のほぼ半円状の凹部31、32の中心部を横断して半円柱状の凹溝33が形成されている。この半円柱状の凹溝33に、図示しない半円筒状のリターンガイドを嵌合することにより、エンドキャップ2Bの裏面にほぼ半ドーナツ状の湾曲路が上下二段に形成される。そのエンドキャップ2Bをスライダ2の本体2Aに取付け、前記半ドーナツ状の湾曲路で、本体2Aの第1の負荷転動体転動溝18と第1の転動体戻し路23を連通すると共に第2の負荷転動体転動溝19と第2の転動体戻し路24を連通する。
【0012】
前記第1の負荷転動体転動溝18、第1の転動体戻し路23、及びその両端の湾曲路で第1の転動体循環路が構成され、第2の負荷転動体転動溝19、第2の転動体戻し路24、及びその両端の湾曲路で第2の転動体循環路が構成され、それらの経路内に多数の転動体Bが転動自在に挿入され、それらの転動体Bが転動体循環路に沿って転動することでスライダ2が案内レール1に沿って滑らかに直動する。エンドキャップ2Bには、スライダ2と案内レール1の間の隙間の両サイドの開口をシールするサイドシール40が取付けられている。
【0013】
図4は、前記第1及び第2の転動体循環路を模式的に表した平面図である。前記エンドキャップ2B内に形成される湾曲路は、厳密には半ドーナツ状でもないし、半円弧状でもない。この湾曲路は、例えば第1及び第2の転動体戻し路23、24と直線上に連続する直線部50、この直線部50から直交方向まで曲がる曲線部51、前記転動体戻し路23、24と直交する直線部50、その直線部50に連続し、第1及び第2の負荷転動体転動路21、22に連通する曲線部51の順に連続している。
【0014】
図5には、前記エンドキャップ2B内に形成される湾曲路の詳細を示す。この湾曲路を構成する前記2つの曲線部51はクロソイド曲線で形成されている。クロソイド曲線は、例えば直線に連続する場合、直線に近いほど曲率が小さく、即ち曲率半径が大きく、直線から遠ざかるほど曲率が大きく、即ち曲率半径が小さくなる曲線である。例えば二つの直線を接続するクロソイド曲線は、両直線に近い部分で夫々曲率が小さく、即ち曲率半径が大きく、中間部分で最も曲率が大きい、即ち曲率半径が小さい。そのため、直線路50からクロソイド曲線で形成される曲線路51に転動体Bが移動する場合、移動直後に生じる遠心力が小さく、従って摩擦力が急激にかからず、作動性を確保することができる。また、特に転動体Bがころである場合、曲線部51に移動した直後の摩擦力の急激な増大を低減することができるので、ころのスキュー、即ち姿勢乱れを抑制防止することができる。
【0015】
図6は、本実施形態のリニアガイド装置の変形例であり、転動体循環路の湾曲路の詳細を示すものである。この例は、エンドキャップ2Bには、第1及び第2の転動体戻し路23、24に連続する曲線部51のみを形成し、その曲線部51を、直線部である第1及び第2の転動体戻し路23、24、及び第1及び第2の負荷転動体転動路21、22から遠ざかるほど曲率の大きな、即ち曲率半径の小さな1つのクロソイド曲線で形成したものである。このような構成でも、曲線路51に移動直後の転動体Bに生じる遠心力が小さく、従って摩擦力が急激にかからず、作動性を確保することができる。また、この例でも、転動体Bがころである場合のスキューを抑制防止することができる。
【0016】
図7は、従来のリニアガイド装置の転動体循環路の模式的平面図である。例えば、この従来のリニアガイド装置の転動体循環路の湾曲部も、例えば第1及び第2の転動体戻し路23、24と直線上に連続する直線部50、この直線部50から直交方向まで曲がる曲線部51、前記転動体戻し路23、24と直交する直線部50、その直線部50に連続し、第1及び第2の負荷転動体転動路21、22に連通する曲線部51の順に連続している。
【0017】
図8は、図7の転動体循環路の湾曲部の詳細を示す。従来のリニアガイド装置の転動体循環路の湾曲部は、曲線部51が単一円弧で形成されている。直線部50を移動している転動体Bの遠心力Fはむろん0であるが、その転動体Bが速度vで単一円弧Rで形成される曲線部51に移動した直後に、移動速度vに依存する遠心力F=mv/R2が作用する(mは転動体Bの質量)。このような急激な遠心力は、転動体Bと曲線部51の外側壁との間で急激に摩擦力が増大し、作動性を悪化させる恐れがある。また、転動体Bがころである場合、急激な摩擦力の増大がスキュー、即ち姿勢乱れとなり、同じく作動性を悪化させる恐れがある。
【0018】
本実施形態では、転動体循環路の曲線部51をクロソイド曲線で形成することにより、急激な摩擦力の増大を抑制することができ、作動性を確保することができる。また、転動体Bがころである場合、転動体Bにスキューが生じやすい領域の曲線路51をクロソイド曲線で形成することにより、スキューを抑制し、作動性を確保することができる。
なお、本発明のリニアガイド装置は前記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0019】
1は案内レール
2はスライダ
3、13は転動体転動溝
4は袖部
14は保持器
16は逃げ溝
18、19は負荷転動体転動溝
21、22は負荷転動体転動路
23、24は転動体戻し路
25はねじ穴
31、32は凹部
33は凹溝
40はサイドシール
50は直線部
51は曲線部(クロソイド曲線部)
Bは転動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体を循環する転動体循環路が直線部と曲線部とを有するリニアガイド装置において、前記転動体循環路の曲線部の少なくとも一部がクロソイド曲線で形成されていることを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項2】
前記転動体がころである場合、前記転動体循環路の曲線部のうち、少なくともころにスキューが生じやすい領域を前記クロソイド曲線で形成することを特徴とする請求項1に記載のリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−229771(P2012−229771A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99338(P2011−99338)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】