説明

リニアモータ

【課題】スプライン機構などの案内手段を密閉構造内に収めることで、可動部が露出しない構造とすることができ、全長を短く設計することが可能なリニアモータを提供する。
【解決手段】マグネットロッドと、前記マグネットロッドに遊嵌されるコイルを内包するハウジングと、を備えるリニアモータにおいて、前記マグネットロッドは、少なくとも一方の軸端部に案内手段が取り付けられ、前記ハウジングの前記少なくとも一方の軸端部に対応する端部には、前記端部から前記少なくとも一方の軸端部に向けて突出する案内軸を備え、前記案内手段は、前記案内軸に沿って往復運動可能に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータに関し、具体的には、マグネットロッドを案内する案内手段をマグネットロッドの軸端に配置したリニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータの固定子と可動子とを直線状に配列し、電気エネルギを直線運動のための推力に変換するリニアモータが知られている。このリニアモータは、例えば、ステンレスパイプ等に永久磁石とポールシューを相互に複数積層して形成したマグネットロッドと、このマグネットロッドに遊嵌するように円筒形のコイルを中心を合わせて組合せたハウジングとを備えている。
【0003】
このようなリニアモータは、コイルに電流を流すことで、磁場が発生し、コイルの磁場と永久磁石の磁場との相互作用によって、マグネットロッドを直線運動させる推力を発生させる。
【0004】
また、マグネットロッドの回転防止のために、マグネットロッドに軸方向に沿って形成されたスプライン溝と、ハウジングに取り付けられたスプラインナットとによって案内手段としてのスプライン機構を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−253117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のリニアモータによると、マグネットロッドをハウジングの端部に取り付けたスプラインナットで案内しているので、マグネットロッドの移動に伴ってマグネットロッドがハウジングから出没する。このような構成によれば、ハウジングからマグネットロッドが露出してしまい、マグネットロッドの機械的な干渉を防ぐために周囲とのスペースを確保するなど、使用上の注意が必要であるといった課題があった。
【0007】
また、ハウジングの軸方向の端部にスプラインナットを取り付けているので、リニアモータの軸方向の長さを短く設計することが難しいといった課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、スプライン機構などの案内手段を密閉構造内に収めることで、可動部が露出しない構造とすることができ、全長を短く設計することが可能なリニアモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るリニアモータは、マグネットロッドと、前記マグネットロッドに遊嵌されるコイルを内包するハウジングと、を備えるリニアモータにおいて、前記マグネットロッドは、少なくとも一方の軸端部に案内手段が取り付けられ、前記ハウジングの前記少なくとも一方の軸端部に対応する端部には、前記端部から前記少なくとも一方の軸端部に向けて突出する案内軸を備え、前記案内手段は、前記案内軸に沿って往復運動可能に支持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、案内手段がマグネットロッドの軸端部に取り付けられ、ハウジングの端部には、マグネットロッドに向けて突出する案内軸が形成されているので、案内手段をハウジング内に収めることができ、リニアモータの全長を従来よりも短く設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るリニアモータを示す一部断面斜視図。
【図2】案内手段の構造を説明するための一部断面斜視図。
【図3】本発明の実施形態に係るリニアモータの動作を説明するための断面図。
【図4】本発明の実施形態に係るリニアモータの動作を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るリニアモータの実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るリニアモータを示す一部断面斜視図であり、図2は、案内手段の構造を説明するための一部断面斜視図であり、図3及び4は、本発明の実施形態に係るリニアモータの動作を説明するための断面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るリニアモータ1は、マグネットロッド10と、マグネットロッド10に遊嵌されるコイル21を組み合わせて内包したハウジング20とを備える。
【0015】
マグネットロッド10は、磁石がN極11及びS極12が相互に配置されており、N極11及びS極12の間にはポールシュー13が介在して積層されている。また、磁石11,12及びポールシュー13は、非磁性のステンレスパイプ14に挿入・積層されている。さらに、ステンレスパイプ14の軸方向の一端には、取付手段32を介して案内手段としてのスプラインナット30が取り付けられている。
【0016】
取付手段32は、後述する案内軸31が挿通可能なように中空状に形成されており、スプラインナット30を組み付ける拡径部32aと、マグネットロッド10の外径と略同一径に形成された縮径部32bとから構成されている。なお、取付手段32は、マグネットロッド10の軸端にカシメ等によって取付固定されている。
【0017】
ハウジング20は、コイル21を内包した駆動部24と、マグネットロッド10を収容するカバー部23とを備えている。駆動部24に内包されたコイル21はマグネットロッド10を遊嵌するU・V・W相からなる一組の三相コイルを構成している。このように、三相に構成されたコイル21に対して120°ずつ位相が異なる三相電流を流すと、コイル21の軸方向に移動する移動磁界が発生するので、ハウジング20は移動磁界により推力を得て、移動磁界の速さに同期したマグネットロッド10の直線運動が実現する。なお、コイル21の給電は給電部25を介して行われる。
【0018】
カバー部23は、駆動部24からマグネットロッド10の軸方向に沿って延設された中空状に形成されており、その端部には、案内軸31が側蓋22を介して取り付けられている。案内軸31は、側蓋22からカバー部23の内側に向かって突出しており、マグネットロッド10の軸端に取り付けられたスプラインナット30と組み合わされている。
【0019】
次に、図2を参照して、スプラインナット30及び案内軸31の構成について説明を行う。案内軸31は、軸方向に沿って複数の転動体転走溝31aが形成された軸部材であり、スプラインナット30は、案内軸31が貫通する中空孔を有して略円筒状に形成されるとともに、多数の転動体40を介して案内軸31に組み付けられている。
【0020】
案内軸31は、軸方向に垂直な断面において、略円形状に形成されると共に、その外周面には、長手方向に沿った例えば6条の転動体転走溝31aが形成されている。これら転動体転走溝31aは、隣り合う2条の転動体転走溝31aが1組となって合計3組形成されており、3組の転動体転走溝31aが案内軸31の外周面を略3等分するように設けられている。
【0021】
スプラインナット30は、中空孔を有して円筒形状に形成された外筒33と、外筒33の中空孔の両端部に嵌合する一対のエンドプレート34とを備えている。外筒33の中空孔の内周には、案内軸31に形成された転動体転走溝31aと対向する負荷転動体転走溝35と、負荷転動体転走溝35と略平行に外筒33を軸方向に貫通する転動体戻し路36が形成されている。
【0022】
また、エンドプレート34の外筒33と対向する面には、負荷転動体転走溝35と転動体転走溝31aとから構成される転動体転走路及び転動体戻し路36の両端を連絡するように方向転換路34aが形成されている。
【0023】
転動体40は、転動体転走路,方向転換路34a及び転動体戻し路36を循環する無限循環路内に配列されており、隣り合う転動体40の間にはスペーサ41が介在されている。各スペーサ41は、転動体40の径よりも小さな略円盤状に形成されており、転動体40と対向する面には、転動体40の形状に対応するように凹状に形成されている。
【0024】
このように、複数の転動体40の間にスペーサ41が介在しているので、転動体40が無限循環路内を転走する際に、互いに接触することを防止し、異音の発生や転動体40の摩耗を防止することができる。
【0025】
このように、案内軸31に複数の転動体40を介してスプラインナット30が組み付けられているので、スプラインナット30は案内軸31に沿って移動可能であると共に、案内軸31に対して相対的に回転することを防止している。
【0026】
次に、図3及び4を参照して本実施形態に係るリニアモータ1の動作について説明を行う。図3は、マグネットロッド10が一端に移動してリニアモータ1が全体として延びた状態を示しており、図4は、マグネットロッド10が他端に移動してリニアモータ1が全体として縮んだ状態を示している。
【0027】
図3に示すように、コイル21に電流を流して磁場が発生すると、コイル21の磁場とマグネットロッド10の磁場との相互作用によって、マグネットロッド10が一方向に直線運動を行い、マグネットロッド10に取り付けられたスプラインナット30は、案内軸31の一端まで移動する。このように、リニアモータ1が延びた状態では、マグネットロッド10の端部に取り付けられたスプラインナット30は、案内軸31の先端(側蓋22によって固定されている端部とは逆方向の端部)に位置しており、案内軸31の先端とマグネットロッド10は、取付手段32内にスペースSを有している。
【0028】
次に、コイル21に逆相の電流を流すと、マグネットロッド10が逆方向に移動を開始する。そして、スプラインナット30は、案内軸31に沿って案内軸の根元(側蓋22によって固定されている端部)まで移動する。この状態では、図4に示すように、案内軸31は、取付手段32の縮径部32b内に形成されたスペースSに没入するので、マグネットロッド10と案内軸31とが干渉することはない。
【0029】
また、リニアモータ1が縮んだ状態でも、マグネットロッド10はカバー部23内に収容されているので、マグネットロッド10が露出することはない。
【0030】
このように、本実施形態に係るリニアモータ1は、マグネットロッド10の移動に伴って、マグネットロッド10の端部がカバー部23に収容されているので、マグネットロッド10が露出することがなく、マグネットロッド10の機械的な干渉を防ぐために周囲とのスペースを確保するなど、使用上の注意が不要となる。
【0031】
また、本実施形態に係るリニアモータ1は、マグネットロッド10にスプラインナット30を取り付けているので、案内軸をマグネットロッドに取り付ける場合に用いていたカラーが不要となるため、カラーの長さ分だけマグネットロッドの長さを短く設計することが可能となり、さらに内部にスペースが形成された中空状の取付手段を用いているので、そのスペースに案内軸31が出入りできる構造となり、リニアモータ1の全長を短く設定することができる。
【0032】
また、本実施形態に係るリニアモータ1は、取付手段32が中空状に形成されると共に、スプラインナット30を取り付ける拡径部32aと、案内軸31が出入り可能なスペースSが形成された縮径部32bとを備えているので、簡単な構成で案内軸31が出入り可能なスペースSを構成することができる。
【0033】
また、本実施形態に係るリニアモータ1は、案内手段として、スプラインナット30と案内軸31としてスプライン軸を採用することができるので、容易な構成で案内手段を構成することが可能となると共に、様々な種類のスプライン装置を採用することができるので、設計の自由度が大きくなる。
【0034】
また、本実施形態に係るリニアモータ1は、案内軸31がハウジング20の一端に形成された中空状のカバー部23に内包されると共に、カバー部23の端部に取り付けられた側蓋22に取り付けられているので、容易な構成で確実に案内軸31をカバー部23内に配置することができる。
【0035】
また、本実施形態に係るリニアモータ1に適用されたマグネットロッド10は、磁石11,12及びポールシュー13をステンレスパイプ14内に積層配置した場合について説明したが、磁石11,12とポールシュー13と積層することができれば、ステンレスパイプ14を省略しても構わない。さらに、マグネットロッド10は、ポールシュー13を用いずに磁石11,12を積層配置して形成しても構わない。
【0036】
また、本実施形態に係るリニアモータ1に適用されたスプラインナット30は、複数の転動体40の間にスペーサ41を介在させた場合について説明したが、転動体40の数を増やして荷重容量を確保するために、スペーサ41を省略しても構わない。
【0037】
また、本実施形態に係るリニアモータ1に適用された案内軸31は、転動体転走溝31aを6条形成した場合について説明したが、転動体転走溝の数はこれに限られず、必要に応じて適宜増減することが可能である。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0038】
1 リニアモータ, 10 マグネットロッド, 20 ハウジング, 21 コイル, 22 側蓋, 30 スプラインナット(案内手段), 31 案内軸, 32 取付手段, 32a 拡径部, 32b 縮径部, S スペース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットロッドと、
前記マグネットロッドに遊嵌されるコイルを内包するハウジングと、を備えるリニアモータにおいて、
前記マグネットロッドは、少なくとも一方の軸端部に案内手段が取り付けられ、
前記ハウジングの前記少なくとも一方の軸端部に対応する端部には、前記端部から前記少なくとも一方の軸端部に向けて突出する案内軸を備え、
前記案内手段は、前記案内軸に沿って往復運動可能に支持されることを特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアモータにおいて、
前記案内手段は、前記少なくとも一方の軸端部に取付手段を介して取り付けられることを特徴とするリニアモータ。
【請求項3】
請求項2に記載のリニアモータにおいて、
前記取付手段は、前記案内軸が挿通可能に中空状に形成されることを特徴とするリニアモータ。
【請求項4】
請求項3に記載のリニアモータにおいて、
前記取付手段は、前記案内手段を組み付ける拡径部と、前記案内軸を挿通する縮径部とを備えることを特徴とするリニアモータ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のリニアモータにおいて、
前記案内軸は軸方向に案内溝が形成されたスプライン軸であり、
前記案内手段は、前記スプライン軸に往復移動可能に組み付けられるスプラインナットであることを特徴とするリニアモータ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のリニアモータにおいて、
前記ハウジングは、前記マグネットロッド及び前記案内手段を内包可能な中空状に形成され、
前記案内軸は、前記ハウジングの前記端部に取り付けられた側蓋に取り付けられることを特徴とするリニアモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−110913(P2013−110913A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255917(P2011−255917)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】