説明

リニア蒸着源とその使用方法、成膜装置並びに成膜方法

【課題】CIGS膜などの多元素膜を真空蒸着する際に、蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制し、多元素膜の組成を一定に制御する。
【解決手段】内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部30上に、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部Aを有するノズル部(31,32)が配置されており、少なくとも第1開口部を露出させる第2開口部Bを有してタンク部及びノズル部の外壁を覆うように断熱部34が設けられている。ここで、タンク部が第1の温度へ、ノズル部が第1の温度より高い第2の温度へ加熱されたときに真空蒸着材料が気化して第1開口部から噴き出す構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリニア蒸着源とその使用方法、成膜装置並びに成膜方法に関し、特に、太陽電池を構成するCIGS(Cu(In,Ga)Se)膜を形成するための真空蒸着のためのリニア蒸着源とその使用方法、成膜装置並びに成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光を吸収して光起電力効果により電力を得る太陽電池を構成する光吸収膜は、一般に、シリコン系材料と非シリコン系材料に大別される。
シリコン系材料としては、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン及びアモルファスシリコンなどが知られている。
一方、非シリコン系材料としては、例えば、GaAs、CIS(CuInSe)、CIGS(Cu(In,Ga)Se)及び有機系材料などが知られている。
【0003】
CIGS膜は、例えば、CIS膜のInの一部をGaに置換した組成であり、Cu(In1−x,Ga)Seと表記される。
CIGS膜は、光吸収率及び発電効率が高く、従来の光吸収膜より薄膜化することが可能であり、また、組成によって光吸収波長領域を制御できるという利点があり、将来的に量産化が期待されている。
CIGS膜としては、Cu(In,Ga)Seの組成は太陽電池の発電効率に大きく影響することが知られている。
【0004】
CIGS膜の形成方法としては、例えばセレン化法が知られている。セレン化法では、例えば、スパッタリング法などによりプレカーサーとなるCIG(Cu(In,Ga))膜を形成し、CIG膜をHSe雰囲気中で熱処理してCIG膜をセレン化し、CIGS膜を得る。
また、1つの真空チャンバー内でCu、In、Ga及びSeの四元素を別々の蒸着源からそれぞれ真空蒸着させる四元素同時蒸着法も知られている。
【0005】
上記のセレン化法は、HSeの取り扱いが難しいので、大量及び大面積成膜を実現するのは困難である。
【0006】
一方、四元同時蒸着法は、HSeを取り扱わないで済むが、Cu(In,Ga)Seの組成、換言すればCu、In、Ga及びSeの各元素の成膜速度を同時に制御することが難しいという課題がある。
特にCIGS膜の形成においては、Cuの蒸着源を1400℃程度に高温とする必要があり、蒸着源であるルツボのノズル近傍にCuが固化してしまい、ノズルの開口を変動させてしまうのでCIGS膜の組成を変動させる要因となっていた。
【0007】
CIGS系材料を用いた太陽電池としては、例えば特許文献1などに記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−222750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする課題は、太陽電池パネルの光吸収膜となるCIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制し、多元素膜の組成を一定に制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリニア蒸着源は、内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部と、前記タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部と、少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有して前記タンク部及び前記ノズル部の外壁を覆うように設けられた断熱部とを有し、前記タンク部が第1の温度へ、前記ノズル部が前記第1の温度より高い第2の温度へ加熱されたときに気化する前記真空蒸着材料を前記第1開口部から噴き出す。
【0011】
上記の本発明のリニア蒸着源は、内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部上に、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部が配置されており、少なくとも第1開口部を露出させる第2開口部を有してタンク部及びノズル部の外壁を覆うように断熱部が設けられている。ここで、タンク部が第1の温度へ、ノズル部が第1の温度より高い第2の温度へ加熱されたときに真空蒸着材料が気化して第1開口部から噴き出す構成である。
【0012】
上記の本発明のリニア蒸着源は、好適には、前記タンク部を前記第1の温度に、前記ノズル部を前記第2の温度に保持するように、前記タンク部及び前記ノズル部の断面積と前記第2開口部の面積の比率及び前記タンク部と前記ノズル部に通電される電流の大きさが設定される。
【0013】
上記の本発明のリニア蒸着源は、好適には、前記第1開口部の部分の前記ノズル部が前記断熱部の外壁表面と同一の面まで突出して形成されている。
【0014】
上記の本発明のリニア蒸着源は、好適には、前記タンク部と前記ノズル部が冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱する。
【0015】
上記の本発明のリニア蒸着源は、好適には、前記タンク部の内部に内部タンクが設けられ、または、前記タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されている。
【0016】
本発明の成膜装置は、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバーと、前記成膜チャンバー内に設けられた、内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部と、前記タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部と、少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有して前記タンク部及び前記ノズル部の外壁を覆うように設けられた断熱部とを有し、前記タンク部が第1の温度へ、前記ノズル部が前記第1の温度より高い第2の温度へ加熱されたときに気化する前記真空蒸着材料を第1開口部から噴き出すリニア蒸着源と、蒸着対象である基板を前記第1開口部に対向するように保持して前記第1の方向と直交する第2の方向に搬送する基板保持搬送部とを有し、前記蒸着源からの真空蒸着材料を前記第2の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する。
【0017】
上記の本発明の成膜装置は、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー内に、内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部と、タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部と、少なくとも第1開口部を露出させる第2開口部を有してタンク部及びノズル部の外壁を覆うように設けられた断熱部とを有するリニア蒸着源が設けられている。
また、蒸着対象である基板をスリット状開口部に対向するように保持して第1の方向と直交する第2の方向に搬送する基板保持搬送部が設けられている。
上記の構成により、蒸着源からの真空蒸着材料を第2の方向に搬送される基板上に連続蒸着する。
【0018】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記タンク部の前記第1の温度と前記ノズル部の前記第2の温度を保持するように、前記タンク部及び前記ノズル部の断面積と前記第2開口部の面積の比率及び前記タンク部と前記ノズル部に通電される電流の大きさが設定される。
【0019】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記第1開口部の部分の前記ノズル部が前記断熱部の外壁表面と同一の面まで突出して形成されている。
【0020】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記タンク部と前記ノズル部が冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱する。
【0021】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記タンク部の内部に内部タンクが設けられ、または、前記タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されている。
【0022】
上記の本発明の成膜装置は、好適には、前記蒸着源を複数個有し、多元素膜を真空蒸着する。
さらに好適には、前記蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を有し、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着する。
【0023】
本発明のリニア蒸着源の使用方法は、タンク部と、前記タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部を有し、少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有して前記タンク部と前記ノズル部の外壁を覆うように断熱部が設けられたリニア蒸着源の前記タンク部に、所定の温度へ加熱されたときに気化して前記開口部から噴き出す真空蒸着材料を収容する工程と、前記タンク部を第1の温度に、前記ノズル部を前記第1の温度より高い第2の温度に加熱して前記真空蒸着材料を気化させ、前記第1開口部から噴き出させる工程とを有する。
【0024】
上記の本発明のリニア蒸着源の使用方法は、タンク部上に第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部を有し、少なくとも第1開口部を露出させる第2開口部を有してタンク部とノズル部の外壁を覆うように断熱部が設けられたリニア蒸着源のタンク部に、所定の温度へ加熱されたときに気化して開口部から噴き出す真空蒸着材料を収容する。
次に、タンク部を第1の温度に、ノズル部を第1の温度より高い第2の温度に加熱して真空蒸着材料を気化させ、第1開口部から噴き出させる。
【0025】
上記の本発明のリニア蒸着源の使用方法は、好適には、前記タンク部と前記ノズル部を加熱する工程において前記タンク部の前記第1の温度と前記ノズル部の前記第2の温度を保持するように、前記タンク部及び前記ノズル部の断面積と前記第2開口部の面積の比率を設定したタンク部とノズル部を用い、かつ、前記タンク部と前記ノズル部に通電する電流の大きさを設定する。
【0026】
上記の本発明のリニア蒸着源の使用方法は、好適には、前記ノズル部として、前記第1開口部の部分の前記ノズル部が前記断熱部の外壁表面と同一の面まで突出して形成されたノズル部を用いる。
【0027】
上記の本発明のリニア蒸着源の使用方法は、好適には、前記タンク部と前記ノズル部として、冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱するタンク部とノズル部を用いる。
【0028】
上記の本発明のリニア蒸着源の使用方法は、好適には、前記タンク部として、内部に内部タンクが設けられたタンク部、または、前記タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されているタンク部を用いる。
【0029】
また、本発明の成膜方法は、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー内に設けられた、タンク部と、前記タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部を有し、少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有して前記タンク部と前記ノズル部の外壁を覆うように断熱部が設けられたリニア蒸着源の前記タンク部に、所定の温度へ加熱されたときに気化して前記開口部から噴き出す真空蒸着材料を収容する工程と、前記成膜チャンバーの内部を所定の圧力に減圧する工程と、前記タンク部を第1の温度に、前記ノズル部を前記第1の温度より高い第2の温度に加熱して前記真空蒸着材料を気化させ、前記第1開口部から噴き出させる工程と、蒸着対象である基板を前記第1開口部に対向するように保持して前記第1の方向と直交する第2の方向に搬送する工程とを有し、前記蒸着源からの真空蒸着材料を前記第2の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する。
【0030】
上記の本発明の成膜方法は、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー内に設けられた、タンク部と、タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部とを有し、少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有してタンク部とノズル部の外壁を覆うように断熱部が設けられた蒸着源のタンク部に真空蒸着材料を収容する。
次に、成膜チャンバーの内部を所定の圧力に減圧し、次に、タンク部を第1の温度に、ノズル部を前記第1の温度より高い第2の温度に加熱して真空蒸着材料を気化させ、第1開口部から噴き出させる。
次に、蒸着対象である基板をスリット状開口部に対向するように保持して第1の方向と直交する第2の方向に搬送する。
上記のようにして、蒸着源からの真空蒸着材料を第2の方向に搬送される基板上に連続蒸着する。
【0031】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記タンク部と前記ノズル部を加熱する工程において前記タンク部の前記第1の温度と前記ノズル部の前記第2の温度を保持するように、前記タンク部及び前記ノズル部の断面積と前記第2開口部の面積の比率を設定したタンク部とノズル部を用い、かつ、前記タンク部と前記ノズル部に通電する電流の大きさを設定する。
【0032】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記ノズル部として、前記第1開口部の部分の前記ノズル部が前記断熱部の外壁表面と同一の面まで突出して形成されたノズル部を用いる。
【0033】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記タンク部と前記ノズル部として、冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱するタンク部とノズル部を用いる。
【0034】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記タンク部として、内部に内部タンクが設けられたタンク部、または、前記タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されているタンク部を用いる。
【0035】
上記の本発明の成膜方法は、好適には、前記蒸着源を複数個設けて、多元素膜を真空蒸着する。
さらに好適には、前記蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を設けて、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着する。
【発明の効果】
【0036】
本発明のリニア蒸着源によれば、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際などにおいて、蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制することができ、これによって、多元素膜を形成する場合に組成を一定に制御することができる。
【0037】
本発明の成膜装置によれば、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制し、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0038】
本発明のリニア蒸着源の使用方法によれば、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際などにおいて、蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制することができ、これによって、多元素膜を形成する場合に組成を一定に制御することができる。
【0039】
本発明の成膜方法によれば、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制し、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置の模式構成図である。
【図2】図2は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置の蒸着源の斜視図である。
【図3】図3(a)は図2中のX−X’における模式断面図であり、図3(b)は、図3(a)の変形例である。
【図4】図4(a)は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置の蒸着源のタンク部、中間ノズル及びトップノズルの等価回路図であり、図4(b)及び図4(c)はタンク部の等価回路図である。
【図5】図5は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置における分光部及び信号処理部の模式構成図である。
【図6】図6(a)は本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置において測定される蒸着源を加熱しないときのスペクトルの模式図であり、図6(b)は蒸着源を加熱して蒸着処理を行っているときのスペクトルの模式図である。
【図7】図7は本発明の第2実施形態に係る太陽電池パネルの模式断面図である。
【図8】図8(a)及び(b)は実施例に係る時間と温度または成膜速度の関係を示すグラフであり、図8(a)が比較例、図8(b)が実施例に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本発明のリニア蒸着源とその使用方法、及びそれを用いた成膜装置並びに成膜方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0042】
<第1実施形態>
[真空蒸着装置の構成]
本実施形態は、太陽電池パネルを構成するCIGS膜などの多元素膜を真空蒸着するための成膜装置に用いられるリニア蒸着源とその使用方法、並びにそれを用いた成膜装置である真空蒸着装置及び成膜方法であり、CIGS膜などの多元素膜である光吸収膜の製造装置に適用できる。
【0043】
図1は、本実施形態に係る真空蒸着装置の模式構成図である。
例えば、成膜チャンバー10に、排気管11及び真空ポンプ12が接続されており、内部が所定の圧力に減圧可能となっている。真空蒸着による成膜時における成膜チャンバー10内の背圧は、例えば10−3〜10−4Pa程度である。
【0044】
例えば、真空チャンバー10の内部に、蒸着源(ルツボ)が設けられている。本実施形態では、複数個の蒸着源(13a〜13d)が設けられており、光吸収膜であるCIGS膜を形成する場合には、例えばそれぞれCu、In、Ga及びSeの各蒸着源とする。
【0045】
図2は、本実施形態に係るリニア蒸着源の斜視図である。ここでは、外部を被覆する断熱部とともに図示している。
図3(a)は図2中のX−X’における模式断面図である。
リニア蒸着源13は、例えば、内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部30と、タンク部30上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部Aを有するノズル部(31,32)を有する。
本実施形態においては、例えば、ノズル部は中間ノズル31とトップノズル32から構成されている。中間ノズル31はタンク部30の開口を一旦狭めた後に再び開口幅を広げ、トップノズルが中間ノズルの開口幅を再び狭めるような構成となっている。
【0046】
また、例えば、少なくとも第1開口部Aを露出させる第2開口部Bを有して、タンク部30及びノズル部(31,32)の外壁を覆うように、断熱部34が形成されている。
【0047】
上記の構成のリニア蒸着源は、タンク部30とノズル部(31,32)が所定の温度へ加熱されたときに気化する真空蒸着材料が第1開口部Aから噴き出すことができる。
【0048】
タンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32は、例えば通電により自身が発熱する材料からなる。例えば、それぞれ冷間静水圧プレス(CIP:Cold Isostatic Pressing)により形成されたカーボン(以下CIPカーボンとも称する)から構成される。
通電により自身が発熱する材料からなるタンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32は、熱輻射によらず真空蒸着材料を加熱して溶融できるので、タンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32を通電させる電力により真空蒸着材料の気化を制御でき、成膜処理を安定化させることができる。
【0049】
真空蒸着材料を気化させて第1開口部Aから噴き出すために、例えば、タンク部30が第1の温度へ、中間ノズル31及びトップノズル32からなるノズル部が第1の温度より高い第2の温度へ加熱される。第1の温度及び第2の温度は、真空蒸着材料の融点及び蒸気圧などに応じて適宜選択され、例えば、第2の温度は、第1の温度より10〜100℃程度高く設定される。
【0050】
上記のようにリニア蒸着源を構成するタンク部とノズル部に温度勾配が設定されていることから、CIGS膜などの多元素膜を真空蒸着する際に、リニア蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制することができる。これにより、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
特に、Cuは気化させるために1400℃以上に加熱する必要があるが、ノズル近傍で冷却されてノズルに固化しやすい。本実施形態では、タンク部とノズル部に温度勾配によりノズル部での冷却を抑制し、安定した真空蒸着を実現できる。
【0051】
タンク部30の内部には、必要に応じて、内部タンク33が設けられる。あるいは、タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されている。内部タンク33は、例えば接続部35などによりノズル部の中間ノズル31に接続して設けられる。
内部タンク33あるいは被覆膜は、例えば、焼結BN(焼結された窒化ホウ素)、PBN(CVD(Chemical Vapor Deposition)法による熱分解で形成された窒化ホウ素)、Mo、CIPカーボンなどで構成される。
上記の内部タンク33あるいは被覆膜の材料は、コスト、寿命、内部タンクの大きさ、加工性、真空蒸着材料との反応性及び相性の各特性から適宜選択される。
上記の内部タンク33あるいは被覆膜の材料の各特性を表1にまとめて示す。表1中、◎は特に好ましく、○は好ましく、×は好ましくなく、△は○と×の間の評価である。
【0052】
【表1】

【0053】
例えばCuのリニア蒸着源の場合、内部タンク33としてはCuとの反応性が低いPBNあるいはMoなどからなるものを用いるのが好ましい。あるいは、タンク部30の内壁をPBNあるいはMoなどからなる被覆膜で被覆すれば、内部タンク33は不要となる。
【0054】
また、例えば、第1開口部Aの部分のノズル部(トップノズル32)が断熱部34の外壁表面と同一の面まで突出して形成されていることが好ましい。
ノズル部(トップノズル32)が断熱部34から露出していることで、真空蒸着材料の蒸気のノズル部近傍での冷却を抑制してノズル部から噴き出すことができる。
【0055】
図3(b)は、図3(a)に対して、タンク部30の底部30aが厚く形成された変形例である。
【0056】
通電により自身が発熱する材料からなるタンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32は、それぞれ電気抵抗素子として捉えることができる。
図4(a)は、タンク部30、中間ノズル31及びトップノズル32を、それぞれ電気抵抗素子とした場合の等価回路図である。
例えば、中間ノズル31とトップノズル32を並列に接続することができる。
【0057】
図3(b)は、図3(a)の構成に対してタンク部30の底部30aが厚く形成されており、これは、図3(a)の構成に対してタンク部の底部及び側部の各部分の断面積比が変更されたことに相当する。電気抵抗素子としては、断面積が大きいほど抵抗値が下がるため、上記のようにタンク部30の底部30aを厚くすることでタンク部30のトータルの電気抵抗値を低減することができる。
例えば、タンク部30の底部と側部の各部分の断面積比を変更することで、図4(b)あるいは図4(c)に示す回路構成とすることができ、タンク部30全体の抵抗値を調節することができる。
【0058】
断熱部34に設けられる第2開口部Bは、リニア蒸着源からみると放熱部となる。このため、第2開口部Bの面積はタンク部30及びノズル部(31,32)の温度の保持に大きな影響を与える。
タンク部を第1の温度に、ノズル部を第2の温度に保持するように、タンク部及びノズル部の断面積と第2開口部Bの面積の比率及びタンク部とノズル部に通電される電流の大きさが設定される。
例えば、タンク部及びノズル部の断面積:第2開口部Bの面積が、3:1〜4:1となるように設定される。
【0059】
第1開口部Aは第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の形状であり、リニア蒸着源は上記の第1の方向に延伸したリニア(線形)形状となっている。
例えば、幅Wは200mm、高さHは200mm、長さLは1mである。
【0060】
一方で、図1に示すように、成膜チャンバー10内において、蒸着対象である基板14を第1開口部に対向するように保持して第1の方向と直交する第2の方向に搬送する基板保持搬送部が設けられている。
基板14は、例えばポリマーなどからなる可撓性基板であり、ロール状に保持可能である。この場合、基板保持搬送部は、巻き出しロール15a、巻き取りロール15b、第1搬送ロール15c,第2搬送ロール15dにより実現できる。
あるいは、保持搬送部が連続搬送可能に設けられていれば、青板ガラスなどのガラス基板なども適用可能である。
【0061】
上記のような第1の方向に延伸するスリット状の開口部を有するリニア蒸着源に対して、第1の方向と直行する第2の方向に基板が搬送されることにより、リニア蒸着源からの真空蒸着材料を第2の方向に搬送される基板上に連続蒸着することができる。
【0062】
本実施形態の真空蒸着装置は、例えばリニア蒸着源を複数個有し、多元素膜を真空蒸着することができる。
例えばリニア蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各リニア蒸着源を有し、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着することができる。
【0063】
また、本実施形態の真空蒸着装置においては、例えば、成膜チャンバー10には、所定の位置に光透過性の第1の窓10aと第2の窓10bが設けられている。第1の窓10aと第2の窓10bは、後述の原子吸光スペクトル測定のための光に対して光学的に透明である材料であれば良く、例えば石英などから構成される。
【0064】
また、本実施形態の真空蒸着装置は、例えば、光源16、分光部17及び信号処理部18を有する。
光源16は、第1の窓10aから第1開口部Aと基板14の間の空間に所定の波長域の連続光を入射するように設けられている。連続光は、原子吸光スペクトル測定のために用いられる。
【0065】
原子吸光スペクトルにおいて、例えば、Cuは324.8nm、Inは303.9nm、Ga294.4nm、Seは196.0nmに吸収を持つ。従って、Cu、In、Ga及びSeを蒸着させる場合には、上記の波長をカバーする領域の連続光を出射できる光源を用いる。
連続光の光源16としては、例えばキセノンランプを用いることができる。キセノンランプは、例えば185nm〜2000nmの波長領域の連続光を出射できる。
【0066】
図5は本実施形態の真空蒸着装置における分光部17及び信号処理部18の模式構成図である。
分光部17は、第2の窓10bから第1開口部Aと基板14の間の空間を通過した連続光LTを受光して2次元的に分光して、2次元画像信号SSを得る。
分光部17は、石英などの窓部材20及びレンズ21、プリズム22、回折格子23及び固体撮像素子24などを有する。プリズム22は、連続光を受光して1次元的に分光する。回折格子23は、プリズム22によって1次元的に分光された光を2次元的に分光する。即ち、分光部17は、いわゆるエシェル分光器に相当する。エシェル分光器は、例えば2pmまで分解能があり、原子吸光を精密に測定することができる。
【0067】
また、分光部17は受光面24aを有する固体撮像素子24を有し、2次元的に分光された連続光LTを受光面24aで受光し、2次元画像信号SSを生成する。
固体撮像装置としては、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサあるいはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Silicon transistor)イメージセンサなどを用いることができる。
上記の構成の分光部17により、第2の窓10bから第1開口部Aと基板14の間の空間を通過した連続光LTを受光して2次元的に分光して、2次元画像信号SSを得ることができる。
【0068】
信号処理部18は、2次元画像信号SSを画像処理して原子吸光スペクトルを得る。
図6(a)は、リニア蒸着源を加熱しないときのスペクトルであり、即ち、光源16の光をそのまま分光したスペクトルの模式図である。図6(b)はリニア蒸着源を加熱して蒸着処理を行っているときのスペクトルの模式図である。リニア蒸着源から蒸発して噴き出された原子による原子吸光がスペクトル上にディップ状のピークとなって出現する。図6(b)においては、4元素に対応して4本の原子吸光のピーク(A,A,A,A)がある場合を示している。
【0069】
上記で求められた原子吸光スペクトルにおいて、各元素に対応する原子吸光値から、光の照射領域の各元素の濃度を求めることができ、これを各元素の成膜速度に換算できる。例えば、各元素に対する原子吸光値と成膜速度の関係を示す較正曲線を予め準備しておくことで、製造時の原子吸光値から各元素の成膜速度を直接算出することができる。
これによって、真空蒸着によって成膜される多元素膜の組成比が得られる。
【0070】
上記の原子吸光スペクトルにおいて、原子による吸収のない点PCBを適当に選択してバックグラウンドの較正を行うことができる。
連続光源を用いているので、吸収のない点PCBは適宜選択することができる。
【0071】
従来方法での真空蒸着装置内の気体の原子吸光係数を求めるには、目的元素の輝線スペクトルを放出する中空陰極ランプ(HCL:Hollow Cathode Lamp)を各元素に対して用いる必要があり、さらにバックグラウンドの較正用の光源も必要であった。
本実施形態においては、連続光の光源と2次元的に分光して面で受光するCCDなどの固体撮像素子を有するエシェル分光器を組み合わせることで、多元素の原子吸光係数を波長スキャンすることなく同時に測定することができる。
【0072】
また、例えば、信号処理部18が、原子吸光スペクトルから信号処理を行って、リニア蒸着源を制御する制御信号CSを出力する。
例えば、成膜しようとする組成からずれてしまっている場合に、リニア蒸着源の加熱温度を調節することで、目的とする組成に修正して成膜することができる。
【0073】
本実施形態の真空蒸着装置によれば、リニア蒸着源を構成するタンクとノズルにノズルの方が高い温度勾配が設定されていることから、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、リニア蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制することができる。これにより、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0074】
また、本実施形態の真空蒸着装置は太陽電池パネルの光吸収膜の製造装置に適用でき、リニア蒸着源を構成するタンクとノズルにノズルの方が高い温度勾配が設定されていることから、CIGS膜などの多元素膜からなる光吸収膜を連続的に真空蒸着する際に、リニア蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制することができる。これにより、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0075】
[真空蒸着方法]
次に、本実施形態に係るリニア蒸着源の使用方法及び成膜方法について、図1〜3を参照して説明する。
本実施形態に係るリニア蒸着源の使用方法及び成膜方法は、例えば、上述の本実施形態に係る真空蒸着装置を用いて行う。
まず、例えば、光透過性の第1の窓10aと第2の窓10bを有し、内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー10内に設けられたリニア蒸着源(13a〜13d)に真空蒸着材料を収容する。
【0076】
ここで、リニア蒸着源(13a〜13d)は、例えば、タンク部30と、タンク部30上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部Aを有するノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)を有する構成である。この場合、上記の真空蒸着材料は、タンク部30内に収容する。また、例えば、少なくとも第1開口部Aを露出させる第2開口部Bを有してタンク部30とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)の外壁を覆うように断熱部34が設けられている。リニア蒸着源(13a〜13d)のタンク部30に収容された真空蒸着材料は、例えば、タンク部30及びノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)が所定の温度へ加熱されたときに気化して、第1開口部Aから噴き出す構成である。
【0077】
次に、例えば、成膜チャンバー10の内部を所定の圧力に減圧する。
【0078】
次に、例えば、タンク部30を第1の温度に、ノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)を第1の温度より高い第2の温度に加熱して真空蒸着材料を気化させ、第1開口部Aから噴き出させる。
【0079】
次に、蒸着対象である基板14を第1開口部Aに対向するように保持して第1の方向と直交する第2の方向に搬送する。
【0080】
ここで、例えば、光源16からの所定の波長域の連続光LTを第1の窓10aから第1開口部Aと基板14の間の空間に入射する。
次に、例えば、第2の窓10bから第1開口部Aと基板14の間の空間を通過した連続光LTを分光部17により受光して2次元的に分光して、2次元画像信号を得る。
次に、例えば、2次元画像信号を信号処理部で画像処理して原子吸光スペクトルを得る。
【0081】
上記のようにして、リニア蒸着源からの真空蒸着材料を第2の方向に搬送される基板14上に連続蒸着する。
【0082】
上記において、好ましくは、タンク部30の第1の温度とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)の第2の温度を保持するように、タンク部30及びノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)の断面積と第2開口部Bの面積の比率を設定したタンク部とノズル部を用い、タンク部30とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)を加熱する工程において、タンク部30とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)に通電する電流の大きさを設定する。
【0083】
また、好ましくは、ノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)として、第1開口部Aの部分のノズル部(トップノズル32)が断熱部34の外壁表面と同一の面まで突出して形成されたノズル部を用いる。
【0084】
上記において、好ましくは、タンク部30とノズル部(中間ノズル31及びトップノズル32)として、冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱するタンク部とノズル部を用いる。
【0085】
また、上記において、好ましくは、タンク部30として、内部に内部タンク33が設けられたタンク部30、または、タンク部30の内壁を被覆する被覆膜が形成されているタンク部30を用いる。
【0086】
また、上記において、好ましくは、リニア蒸着源を複数個設けて、多元素膜を真空蒸着する。
例えば、リニア蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各リニア蒸着源を設けて、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着することができる。
【0087】
また、上記において、好ましくは、分光部17として、プリズム22と回折格子23を有する分光部を用いる。このとき、2次元画像信号を得る工程において、プリズム22により連続光LTを受光して1次元的に分光し、回折格子22により1次元的に分光された光を2次元的に分光する。
【0088】
また、好ましくは、分光部17として、受光面24aを有する固体撮像素子24を有する分光部を用いる。このとき、2次元画像信号を得る工程において、受光面24aで2次元的に分光された連続光LTを受光し、2次元的画像信号SSを生成する。
【0089】
また、好ましくは、原子吸光スペクトルを得る工程の後に、信号処理部18が原子吸光スペクトルから信号処理を行ってリニア蒸着源を制御する制御信号CSを出力する。
【0090】
本実施形態のリニア蒸着源の使用方法及び成膜方法によれば、リニア蒸着源を構成するタンクとノズルにノズルの方が高い温度勾配が設定されていることから、CIGS膜などの多元素膜を連続的に真空蒸着する際に、リニア蒸着源のノズル近傍での原料の固化を抑制することができ、これによって、多元素膜の組成を一定に制御することができる。
【0091】
<第2実施形態>
本実施形態は、CIGS膜を有する太陽電池パネルである。CIGS膜は、第1実施形態の真空蒸着装置及び方法により形成される。
図7は、本実施形態に係る太陽電池パネルの模式断面図である。
例えば、ポリマーなどからなる可撓性基板あるいは青板ガラスなどのガラス基板からなる基板1上に、例えば0.5〜2.0μm程度の膜厚のMoからなる裏面電極2が形成されている。
【0092】
裏面電極2の一部を除く上層に、例えば0.5〜5.0μm程度の膜厚のCIGS膜などの光吸収膜3、数10nm程度の膜厚のCdSなどからなる第1バッファ層4、数10nm〜0.5μm程度の膜厚のZnOなどからなる第2バッファ層5、0.1〜2.0μm程度の膜厚のZnO:AlあるいはITO(酸化インジウムスズ)などからなる光透過性の表面電極6が積層されている。
表面電極6の一部を除く上面に、MgFなどからなる反射防止膜7が形成されている。
【0093】
表面電極6の反射防止膜7が形成されている領域を除く上層に、Alなどからなる表面取り出し電極8が形成されている。
また、裏面電極2の光吸収膜3より上層の膜が積層されている領域を除く上層に、Alなどからなる裏面取り出し電極9が形成されている。
上記のようにして、太陽電池パネルが構成されている。
【0094】
上記の太陽電池パネルは、光吸収膜が太陽光を吸収して光起電力効果によりキャリアを生成する。得られたキャリアを上記の各層を経て表面取り出し電極8及び裏面取り出し電極9から取り出すことで、電極として利用することができる。
【0095】
上記の太陽電離パネルを構成する光吸収膜3であるCIGS膜は、第1実施形態に係る真空蒸着装置を用いて製造することができる。
【0096】
<実施例>
上記の第1実施形態に従って、基板上にCuの1元素を真空蒸着で成膜した。実施例としては、ノズル部の温度がタンク部より10〜100℃高くなるように設定した。
一方、比較例として、ノズル部の温度がタンク部より低くなるように設定した。
【0097】
結果を図8(a)及び(b)に示す。図8(a)が比較例、図8(b)が実施例に対応するグラフである。
図8(a)及び(b)は、横軸が成膜の時間(S)を示す。縦軸は、実線a及び点線bはそれぞれタンク部及びノズル部の温度を示し、実線cについては成膜速度を示す。
比較例を示す図8(a)では、タンク部及びノズル部の温度を高めても成膜温度が音程しないスプラッシュ現象が多発してしまった。安定な真空蒸着を行うことは困難であった。
一方、実施例を示す図8(b)では、タンク部及びノズル部の温度を高めると高めた温度に応じた成膜速度が得られた。最高成膜速度として180nm/Sまで安定な真空蒸着が可能であり、スプラッシュ現象はほとんど発生しなかった。
【0098】
上記のように、本実施例によれば、リニア蒸着源を構成するタンクとノズルにノズルの方が高い温度勾配が設定することで、Cu膜を安定に制御して成膜することができた。
【0099】
本発明は上記の説明に限定されない。
例えば、ノズル構成は上記以外の構成とすることができる。例えば、実施形態においては中間ノズルとトップノズルを組み合わせた構成としているが、3以上の部材を組み合わせてなるノズル、あるいは単一の部材からなるノズルでもよい。
また、多元素膜の形成方法に限定されず、1元素を真空蒸着する際にも可能である。
また、基板は可撓性基板だけでなく、ガラス基板などにも対応できる。
また、太陽電池パネルの光吸収膜だけでなく、種々の組成膜、特に多元素膜の製造に適用できる。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…基板
2…裏面電極
3…光吸収膜
4…第1バッファ膜
5…第2バッファ膜
6…表面電極
7…反射防止膜
8…表面取り出し電極
9…裏面取り出し電極
10…成膜チャンバー
10a…第1の窓
10b…第2の窓
11…排気管
12…真空ポンプ
13,13a〜13d…リニア蒸着源
14…基板
15a…巻き出しロール
15b…巻き取りロール
15c,15d…ロール
16…光源
17…分光部
18…信号処理部
20…窓部材
21…レンズ
22…プリズム
23…回折格子
24…固体撮像素子
24a…受光面
30…タンク部
31…中間ノズル
32…トップノズル
33…内部タンク
34…断熱部
35…接続部
A…第1開口部
B…第2開口部
CS…制御信号
LT…連続光
CB…吸収のない点
SS…2次元画像信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部と、
前記タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部と、
少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有して前記タンク部及び前記ノズル部の外壁を覆うように設けられた断熱部と
を有し、
前記タンク部が第1の温度へ、前記ノズル部が前記第1の温度より高い第2の温度へ加熱されたときに気化する前記真空蒸着材料を前記第1開口部から噴き出す
リニア蒸着源。
【請求項2】
前記タンク部を前記第1の温度に、前記ノズル部を前記第2の温度に保持するように、前記タンク部及び前記ノズル部の断面積と前記第2開口部の面積の比率及び前記タンク部と前記ノズル部に通電される電流の大きさが設定される
請求項1に記載のリニア蒸着源。
【請求項3】
前記第1開口部の部分の前記ノズル部が前記断熱部の外壁表面と同一の面まで突出して形成されている
請求項1または2に記載のリニア蒸着源。
【請求項4】
前記タンク部と前記ノズル部が冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱する
請求項1〜3のいずれかに記載のリニア蒸着源。
【請求項5】
前記タンク部の内部に内部タンクが設けられ、または、前記タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されている
請求項1〜4のいずれかに記載のリニア蒸着源。
【請求項6】
内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバーと、
前記成膜チャンバー内に設けられた、内部に真空蒸着材料が収容されるタンク部と、前記タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部と、少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有して前記タンク部及び前記ノズル部の外壁を覆うように設けられた断熱部とを有し、前記タンク部が第1の温度へ、前記ノズル部が前記第1の温度より高い第2の温度へ加熱されたときに気化する前記真空蒸着材料を第1開口部から噴き出すリニア蒸着源と、
蒸着対象である基板を前記第1開口部に対向するように保持して前記第1の方向と直交する第2の方向に搬送する基板保持搬送部と
を有し、
前記蒸着源からの真空蒸着材料を前記第2の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する
成膜装置。
【請求項7】
前記タンク部を前記第1の温度に、前記ノズル部を前記第2の温度に保持するように、前記タンク部及び前記ノズル部の断面積と前記第2開口部の面積の比率及び前記タンク部と前記ノズル部に通電される電流の大きさが設定される
請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記第1開口部の部分の前記ノズル部が前記断熱部の外壁表面と同一の面まで突出して形成されている
請求項6または7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記タンク部と前記ノズル部が冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱する
請求項6〜8のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
前記タンク部の内部に内部タンクが設けられ、または、前記タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されている
請求項6〜9のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項11】
前記蒸着源を複数個有し、多元素膜を真空蒸着する
請求項6〜10のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項12】
前記蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を有し、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着する
請求項11に記載の成膜装置。
【請求項13】
タンク部と、前記タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部を有し、少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有して前記タンク部と前記ノズル部の外壁を覆うように断熱部が設けられたリニア蒸着源の前記タンク部に、所定の温度へ加熱されたときに気化して前記開口部から噴き出す真空蒸着材料を収容する工程と、
前記タンク部を第1の温度に、前記ノズル部を前記第1の温度より高い第2の温度に加熱して前記真空蒸着材料を気化させ、前記第1開口部から噴き出させる工程と
を有するリニア蒸着源の使用方法。
【請求項14】
前記タンク部と前記ノズル部を加熱する工程において前記タンク部の前記第1の温度と前記ノズル部の前記第2の温度を保持するように、前記タンク部及び前記ノズル部の断面積と前記第2開口部の面積の比率を設定したタンク部とノズル部を用い、かつ、前記タンク部と前記ノズル部に通電する電流の大きさを設定する
請求項13に記載のリニア蒸着源の使用方法。
【請求項15】
前記ノズル部として、前記第1開口部の部分の前記ノズル部が前記断熱部の外壁表面と同一の面まで突出して形成されたノズル部を用いる
請求項13または14に記載のリニア蒸着源の使用方法。
【請求項16】
前記タンク部と前記ノズル部として、冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱するタンク部とノズル部を用いる
請求項13〜15のいずれかに記載のリニア蒸着源の使用方法。
【請求項17】
前記タンク部として、内部に内部タンクが設けられたタンク部、または、前記タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されているタンク部を用いる
請求項13〜16のいずれかに記載のリニア蒸着源の使用方法。
【請求項18】
内部が所定の圧力に減圧される成膜チャンバー内に設けられた、タンク部と、前記タンク部上に配置され、第1の方向に延伸して所定の幅で開口するスリット状の第1開口部を有するノズル部を有し、少なくとも前記第1開口部を露出させる第2開口部を有して前記タンク部と前記ノズル部の外壁を覆うように断熱部が設けられたリニア蒸着源の前記タンク部に、所定の温度へ加熱されたときに気化して前記開口部から噴き出す真空蒸着材料を収容する工程と、
前記成膜チャンバーの内部を所定の圧力に減圧する工程と、
前記タンク部を第1の温度に、前記ノズル部を前記第1の温度より高い第2の温度に加熱して前記真空蒸着材料を気化させ、前記第1開口部から噴き出させる工程と、
蒸着対象である基板を前記第1開口部に対向するように保持して前記第1の方向と直交する第2の方向に搬送する工程と
を有し、
前記蒸着源からの真空蒸着材料を前記第2の方向に搬送される前記基板上に連続蒸着する
成膜方法。
【請求項19】
前記タンク部と前記ノズル部を加熱する工程において前記タンク部の前記第1の温度と前記ノズル部の前記第2の温度を保持するように、前記タンク部及び前記ノズル部の断面積と前記第2開口部の面積の比率を設定したタンク部とノズル部を用い、かつ、前記タンク部と前記ノズル部に通電する電流の大きさを設定する
請求項18に記載の成膜方法。
【請求項20】
前記ノズル部として、前記第1開口部の部分の前記ノズル部が前記断熱部の外壁表面と同一の面まで突出して形成されたノズル部を用いる
請求項18または19に記載の成膜方法。
【請求項21】
前記タンク部と前記ノズル部として、冷間静水圧プレスにより形成されたカーボンから構成されており、通電により自身が発熱するタンク部とノズル部を用いる
請求項18〜20のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項22】
前記タンク部として、内部に内部タンクが設けられたタンク部、または、前記タンク部の内壁を被覆する被覆膜が形成されているタンク部を用いる
請求項18〜21のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項23】
前記蒸着源を複数個設けて、多元素膜を真空蒸着する
請求項18〜22のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項24】
前記蒸着源としてCu、In、Ga及びSeの各蒸着源を設けて、Cu(In,Ga)Se膜を蒸着する
請求項23に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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