リニア駆動装置
【課題】簡単な構成で、高速性能および応答性能を飛躍的に向上させることである。
【解決手段】ベッド1と可動テーブル4とを対向させるとともに、可動テーブル4には、そのストローク方向に区分した複数の永久磁石5を設け、ベッド1には、上記永久磁石に対向する一又は複数の電機子コイル8を設けている。さらに、この電機子コイルに電流を流したとき、電機子コイル電流と永久磁石の磁束とによる電磁相互作用によって、上記両移動体が相対移動する推力を発生させる。そして、上記可動テーブル4がストローク方向における中立位置にあるとき、その可動テーブル4であって永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する位置に、磁性体片11を設け、両移動体が中立位置から相対移動したとき、永久磁石の磁力が磁性体片11に作用する構成にしている。
【解決手段】ベッド1と可動テーブル4とを対向させるとともに、可動テーブル4には、そのストローク方向に区分した複数の永久磁石5を設け、ベッド1には、上記永久磁石に対向する一又は複数の電機子コイル8を設けている。さらに、この電機子コイルに電流を流したとき、電機子コイル電流と永久磁石の磁束とによる電磁相互作用によって、上記両移動体が相対移動する推力を発生させる。そして、上記可動テーブル4がストローク方向における中立位置にあるとき、その可動テーブル4であって永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する位置に、磁性体片11を設け、両移動体が中立位置から相対移動したとき、永久磁石の磁力が磁性体片11に作用する構成にしている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、永久磁石と電機子コイルとを主要素にしたリニアモータを内蔵してなるリニア駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として特許文献1に記載の発明が従来から知られているが、この従来の装置を示したのが、図13,図14である。この図からも明らかなように、従来のリニア駆動装置は、強磁性材料からなるベッド1に一対の軌道レール2,2を平行に敷設している。そして、この軌道レール2,2には複数のスライダ3を移動可能に設けるとともに、このスライダ3に、強磁性材料からなる可動テーブル4を固定し、可動テーブル4が上記軌道レール2,2上を往復動できるようにしている。
【0003】
上記可動テーブル4は、ベッド1との対向面側に、その移動方向に整列した複数の永久磁石5を設けているが、この永久磁石5は、矩形でかつ板状にしている。そして、これら各永久磁石5は、可動テーブル4側を上と見たとき、その上下方向にN極とS極とが現れるとともに、可動テーブル4の移動方向において隣り合う永久磁石5は、互いにその極性が逆になるようにしている。なお、可動テーブル4を強磁性材料で構成したのは、この可動テーブル4に、永久磁石5から生じる磁束を通すマグネットヨークとして機能させるためである。
【0004】
一方、上記ベッド1であって、一対の軌道レール2,2の対向部間に、軌道レール2,2の長手方向に沿って凹部6を形成している。このようにした凹部6はコイル基板7で覆うとともに、このコイル基板7の下面には、3相のコアレスコイルからなる複数の電機子コイル8を設けている。これら電機子コイル8は、凹部6の長手方向に沿って整列させている。このようにした電機子コイル8に3相電流を供給すると、永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4がスライダ3とともに軌道レール2,2上を移動することになる。したがって、上記永久磁石5と電機子コイル8とで、リニアモータを構成することになる。なお、ベッド1を強磁性材料で構成したのは、このベッド1に電機子コイル8のヨークとして機能させるためである。
【特許文献1】特開2001−352744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにした従来の装置は、電機子コイル8に電流を供給すると、永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4がスライダ3とともに軌道レール2,2上を移動するが、最近では、この駆動装置にはますます高速性および高応答性が求められるようになってきている。この要望に応えるためには、当該駆動装置の推力を大きくしなければならないが、その推力を大きくする手段としては、可動テーブル4を軽量化したり、永久磁石の磁力をさらに強くしたり、あるいは供給電流を大きくしたりしなければならない。
【0006】
上記のように可動テーブル4を軽量化するためには、それを薄肉にしなければならない。しかし、可動テーブル4を薄肉にすれば、その分、剛性が劣るので、可動テーブル4が撓んだりする。このように可動テーブル4が撓めば、性能が低下するという問題が発生する。
【0007】
また、永久磁石5の磁力を強力にすることも考えられるが、現状でもかなり強力な磁石を用いているので、これ以上強力な磁石を用いることは不可能に近いのが現状である。また、強力な磁力を得るために、例えば、永久磁石5や電機子コイル8を大型化することも考えられる。しかし、これら部品の大型化にともなってその質量も大きくなるので、たとえ推力が大きくなったとしても、その推力は大きくなった質量に費やされてしまう。このような事情から、永久磁石5の磁力を強力にするにも限界があるというのが実状である。
【0008】
さらに、強力な磁力を得るために、供給電流を大きくすると、その分、発熱量も多くなる。この発熱が大きくなると、例えば、その熱によって、電機子コイル8が燃えてしまうこともあるので、供給電流を大きくするのにも限界があった。
いずれにしても、従来の装置では、高速性あるいは高応答性を実現するには、限界があった。
【0009】
この発明の目的は、簡単な構成で、高速性能および応答性能を飛躍的に向上させることができるリニア駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、一対の移動体を対向させるとともに、いずれか一方の移動体に、そのストローク方向に区分した複数の永久磁石を設け、いずれか他方に、上記永久磁石に対向する一又は複数の電機子コイルを設け、この電機子コイルに電流を流したとき、電機子コイル電流と永久磁石の磁束とによる電磁相互作用によって、上記両移動体が相対移動する推力を発生させるリニア駆動装置を前提にするものである。
【0011】
第1の発明は、上記他方の移動体がストローク方向における中立位置にあるとき、その他方の移動体側であって永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する位置に、磁性体片を設け、両移動体が中立位置から相対移動したとき、永久磁石の磁力が磁性体片に作用する構成にした点に特徴を有する。
【0012】
なお、上記極大点とは、数学的な意味であって、最大の意味とは異なる。例えば、この発明において、永久磁石が複数あるので、それぞれの永久磁石の中で極大点があり得るが、この発明では、磁力の極大点あるいはその近傍に対応する位置であれば、磁性体片をどの永久磁石に対応させてもよい。
【0013】
第2の発明は、上記一方の移動体がストローク方向における中立位置にあるとき、上記永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する上記他方の移動体位置に、隣り合う一対の永久磁石単位で形成される磁束ループのうち、互いに隣り合う一対の磁束ループのみの磁力線の影響を受ける幅を有する磁性体片を設けた点に特徴を有する。なお、この磁性体片を設けた点から離れた磁石の磁力線も、上記磁性体片にかかることも考えられるが、この磁力線は、移動体の移動に対しては、ほとんど影響力がない。したがって、互いに隣り合う一対の磁束ループのみの磁力線の影響を受ける幅とは、実質的な磁力線の影響を受ける幅をいうものである。
【0014】
第3の発明は、一対の磁性体片を、他方の移動体における最外端の上記電機子コイルのさらに外方であって、かつ、一方の移動体における最外端位置にある永久磁石に対向する関係位置に設け、さらに、両移動体が相対移動してフルストークしたとき、一方の磁性体片が一対の永久磁石の境界部に対向するところに位置し、他方の磁性体片が、最外端に位置する永久磁石の磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置する構成にした点に特徴を有する。
【0015】
第4の発明は、上記磁性体片が、上記他方の移動体を貫通して、一方の移動体の永久磁石と対向する側面に突出させた点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、両移動体が中立位置から相対移動したとき、磁性体片には永久磁石の磁力が作用する。そして、この作用力は、一方の移動体が中立位置からストローク端に移動するときには、一方の移動体の移動方向に対して逆方向の力となる。また、上記ストローク端から中立位置方向に移動したときには、一方の移動体の移動方向に対して順方向の力となる。したがって、上記逆方向の力は、一方の移動体を制動する作用をし、順方向の力は、一方の移動体をその移動方向に推す力となる。したがって、永久磁石や電機子コイルを大型化しなくても、高速性能と高応答性能とを実現できる。
【0017】
第2の発明によれば、両移動体が中立位置にあるとき、磁性体片を通る2つの磁束ループが、磁性体片を境にして左右対称になるので、その中立位置における安定性が高いものとなる。
第3の発明によれば、移動体の移動ストロークを大きく確保できる。
第4の発明によれば、移動体に対する磁性体片の組み付け作業が簡単になる。また、既存の移動体にも当該磁性体片を簡単に取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜7に示した第1実施形態の最大の特徴は、この発明の他方の移動体に相当するベッド1の中心部分に、後で詳しく説明する磁性体片11を設けた点であり、その他は、従来の構造とほぼ同様である。ただし、従来の構造と重複する部分についても、以下に詳しく説明する。
【0019】
上記図1〜7に示した第1実施形態は、強磁性材料からなるベッド1に一対の軌道レール2,2を平行に敷設している。そして、この軌道レール2,2には複数のスライダ3を移動可能に設けるとともに、このスライダ3に、強磁性材料からなる可動テーブル4を固定し、可動テーブル4が上記軌道レール2,2上をスライダ3とともに往復動できるようにしている。
なお、上記ベッド1がこの発明の他方の移動体を構成し、可動テーブル4が一方の移動体を構成するものである。
【0020】
上記可動テーブル4は、ベッド1との対向面側に、その移動方向に整列した複数の5つの永久磁石5を設けているが、この永久磁石5は、矩形でかつ板状にしている。そして、これら各永久磁石5は、可動テーブル4側を上と見たとき、その上下方向にN極とS極とが現れるとともに、可動テーブル4の移動方向において隣り合う永久磁石5は、互いにその極性が逆になるようにしている。なお、可動テーブル4を強磁性材料で構成したのは、この可動テーブル4に、永久磁石5から生じる磁束を通すマグネットヨークとして機能させるためである。
【0021】
一方、上記ベッド1であって、一対の軌道レール2,2の対向部間に、軌道レール2,2の長手方向に沿って凹部6を形成している。そして、この凹部6をコイル基板7で覆うとともに、このコイル基板7の下面には、3相のコアレスコイルからなる複数の電機子コイル8を設けている。このようにした複数の電機子コイル8は、凹部6の長手方向に沿って整列させている。そして、この電機子コイル8に3相電流を供給すると、永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4に駆動力が作用し、可動テーブル4は、スライダ3とともに軌道レール2,2上を移動することになる。したがって、永久磁石5と電機子コイル8とでリニアモータを構成することになる。なお、ベッド1を強磁性材料で構成したのは、このベッド1に電機子コイル8のヨークとして機能させるためである。
【0022】
さらに、上記可動テーブル4の下面には、光学式リニアスケール12を設けるとともに、ベッド1側には光学式エンコーダ13を設け、これら光学式リニアスケール12と光学式エンコーダ13とによって、可動テーブル4の移動位置を検出できるようにしている。
【0023】
上記のようにした他方の移動体であるベッド1には、前記した磁性体片11を設けているが、この磁性体片11は、図4〜図6に示す関係位置を保つようにしている。なお、上記図4〜図6は、ベッド1と可動テーブル4との相対関係を示すもので、上記ベッド1には、3つの電機子コイル8a,8b,8cを、前記したように凹部6の長手方向に整列させている。また、可動テーブル4の下面には、5つの永久磁石5a,5b,5c,5d,5eを、同じく長手方向に整列させている。なお、図4〜6においては、凹部6を省略している。
【0024】
そして、電機子コイル8a〜8cのうちの中央に位置する電機子コイル8bの内側中心部には、上記磁性体片11を固定している。このようにした磁性体片11は、可動テーブル4が図4に示す中立位置にあるとき、永久磁石5a〜5eのうちの中央に位置する永久磁石5cの中央に対向させている。このように磁性体片11を対向させた永久磁石5cの中央は、永久磁石5bと5cによる磁束ループB1と、永久磁石5cと5dによる磁束ループB2とが、磁性体片11に対してほぼ垂直方向に通るので、その磁力が最大になる。したがって、この場合には、磁力の最大点と極大点とが一致した状態になる。
【0025】
また、上記磁性体片11は、隣り合う一対の永久磁石単位で形成される磁束ループのうち、互いに隣り合う一対の磁束ループB1,B2のみをまたがる幅を有する。言い換えると、磁性体片11は、互いに隣り合う磁束ループと、さらに隣り合う磁束ループにまでまたがることはない幅を有している。
【0026】
そして、上記のように可動テーブル4が、図4に示した中立位置にあるとき、永久磁石5b,5cで形成される磁束ループB1と、永久磁石5c,5dで形成される磁束ループB2とが、上記磁性体片11を通るとともに、その磁性体片11を通る磁束は、磁性体片11内において左右対称となる。このように磁束が左右対称になるので、力の関係は、左右において安定した状態を保つことになる。言い換えると、この第1実施形態によれば、可動テーブル4が中立位置を安定的に保つことができる。
【0027】
そして、上記可動テーブル4が、図4に示す中立位置から、図面左方向に移動したとすると、その移動過程で、中立位置において保っていた磁性体片11に対する磁束の安定状態が崩れるとともに、図5に示すように、磁性体片11には、磁束ループB2の磁束のみが通る。このときには磁性体片11に対して斜めから入る磁束bが発生する。この磁束bは、上記可動テーブル4の上記左方向の移動に対しては抵抗として作用する。したがって、上記中立位置から、左右いずれかに移動する段階では、上記磁束bによる力が、可動テーブル4の移動に対して抵抗として作用し、可動テーブル4に対して減速作用を発揮する。しかし、可動テーブル4が方向転換して移動するときには、上記磁束bによる力が、今度は順方向の推力として作用する。
【0028】
上記可動テーブル4が図5の状態から、さらに左方向に移動すると、今度は、磁性体片11が永久磁石5c,5dの境界部分に対向するが、この状態が、可動テーブル4のストローク端である。そして、磁性体片11が永久磁石5c,5dの境界部分に対向すると、磁性体片11を通る磁束は、その磁性体片11に対してほとんどストローク方向から通るので、磁性体片11に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。したがって、上記ストローク端からはわずかな力で、可動テーブル4がスムーズに移動できることになる。
【0029】
次に、上記のようにした第1実施形態の作用を説明する。
電機子コイル8a〜8cを図示していない電源に接続するとともに、同じく図示していないコントローラを介して電機子コイル8a〜8cに供給する3相電流を制御する。このように電機子コイル8a〜8cに3相電流を供給すると、前記したように永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4が軌道レール2,2上を移動することになるが、そのときの電流の方向によって、可動テーブル4の移動方向が決まることになる。
【0030】
そして、この第1実施形態では、その運転パターンのモデルを次のように設定した。すなわち
ストローク :9mm
可動テーブル側の荷重 :0.3kg
最大速度 :300mm/sec
加減速時間 :0.02sec
インターバル :0.1sec
永久磁石の
ストローク方向長さ:約9mm
とした。
【0031】
上記の条件の下で、可動テーブル4が図6に示すストローク端から反対方向すなわち図面右方向に移動する場合について、図7の特性図を基にして説明する。なお、この図7において、曲線wが可動テーブル4の速度特性であり、曲線xがリニアモータの推力の特性であり、曲線yが磁性体片11に対する磁束による力(補助推力)の特性であり、曲線zは曲線xから曲線yを差し引いた推力特性である。そして、時間軸のゼロ点は、可動テーブル4が上記ストローク端に位置するときである。
【0032】
また、可動テーブル4が上記のようにストローク端に位置するときには、磁性体片11が永久磁石5c,5dの境界部分に対向するととともに、このときの磁束は、その磁性体片11に対してほとんどストローク方向から通るので、磁性体片11に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。
【0033】
上記の状態から図6における可動テーブル4を、図7の速度特性線wに沿って、図面右方向に移動させようとしたときには、リニアモータの推力は、上記推力特性線xに沿ったものにしなければならない。すなわち、可動テーブル4が加速されている加速域w1では、リニアモータに一定の推力x1を出力させ続ける。そして、可動テーブル4の移動速度が最大になった時点で、上記推力をx1からx2に落とすとともに、その推力x2を一定時間保つと、可動テーブル4が上記加速域w1から平行域w2において最高速度を保つ。この状態からリニアモータの推力の方向を逆転してその推力をx3にすると、可動テーブル4は減速域w3において減速する。そして、最終的にリニアモータの推力をゼロにすることによって、可動テーブル4は、図6に示したストローク端とは反対側のストローク端で停止することになる。なお、このように一方のストローク端から他方のストローク端までの過程で、図7におけるポイントnが図4の中立位置になる。
【0034】
また、上記のような可動テーブル4の右方向の移動過程で、磁性体片11に対する磁束の作用力を、図7の補助推力特性線yに基づいて説明する。まず、図6のストローク端では、上記したように磁性体片11に対する磁束の作用力はマイナス側にふれている。この状態から、可動テーブル4が、図5の位置まで移動していくと、このときには、磁性体片11に対して斜めから入る磁束bが発生するとともに、この磁束bは、前記したように可動テーブル4の上記右方向の移動に対しては順方向の推力として作用する。可動テーブル4が、図4に示す中立位置方向にさらに移動すると、その中立位置の少し手前で上記補助推力yがピークに達する。
【0035】
上記ピークを過ぎると、今度は、磁束bの作用力が小さくなり、可動テーブル4が中立ポイントnに達した時点で、その補助推力yはゼロになる。この中立ポイントnからさらに可動テーブル4が図面右方向に移動すると、以後、上記補助推力yは、可動テーブル4の移動方向に対しては逆方向の推力すなわち抵抗となる。このことは、前記図4から図5に可動テーブル4が移動する過程で説明したとおりである。
【0036】
そして、最終的に図6とは反対側のストローク端に達すると、図6の場合と同様に、磁性体片11が永久磁石5c,5dの境界部分に対向するととともに、このときの磁束は、その磁性体片11に対してほとんどストローク方向から通るので、磁性体片11に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。
【0037】
上記のようにリニアモータの推力xから、磁性体片11に対する磁束の作用による補助推力yの特性を差し引いたときの推力特性は、図7に示す特性線zで表される。そして、このときの補助実効推力zの値は3.07Nであり、磁性体片11を用いないリニアモータだけの実効推力は3.83Nであった。このように補助実効推力が、実効推力よりも小さいと言うことは、それだけ、電力等でまかなうエネルギーを小さくできると言うことになる。したがって、従来と同じようなエネルギー供給量なら、可動テーブル4をより高速に移動することができるとともに、その応答性能も向上させることができる。
【0038】
なお、上記第1実施形態における磁性体片は、可動テーブル4がストローク方向における中立位置にあるとき、隣り合う一対の永久磁石単位で形成される磁束ループのうち、互いに隣り合う一対の磁束ループB1,B2をまたがり、かつ、この磁性体片11を境に、上記磁束ループB1,B2が対称になる関係を満たせば、磁性体片11がどのような位置にあってもよいし、それが複数以上あってもよい。
【0039】
図8〜図11に示した第2実施形態は、ベッド1と可動テーブル4等を含めた基本的な構成は、第1実施形態と同じである。すなわち、第2実施形態が第1実施形態と異なるのは、一対の磁性体片14,15を備えるとともに、この磁性体片14,15を、最外端の上記電機子コイル8a,8cのさらに外方に設けた点である。このようにして電機子コイル8a,8cの外方に設けた磁性体片14,15は、可動テーブル4が中立位置にあるとき、最外端位置にある永久磁石5a,5eに対向する関係位置を保っている。しかも、可動テーブル4がストローク端に達したとき、一方の磁性体片14あるいは15は、一対の永久磁石5a,5bあるいは5d,5eの境界部に対向するところに位置するとともに、他方の磁性体片15あるいは14が、最外端に位置する永久磁石5d,5eあるいは5a,5bの磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に設けている。
【0040】
上記以外の構成は、第1実施形態とすべて同じなので、その詳細な説明を省略する。
【0041】
上記のようにした第2実施形態では、可動テーブル4が図8に示す中立位置にあるとき、磁束ループB1およびB2のそれぞれは、磁性体片14,15に対して垂直方向に通るので、その磁力が最大ではないが、極大となる。したがって、可動テーブル4はある程度安定した状態を保つ。
【0042】
そして、上記可動テーブル4が、図8に示す中立位置から、図9に示す位置に移動したとすると、その移動過程で、中立位置において保っていた磁性体片14,15に対する磁束の安定状態が崩れるとともに、図9に示すように、磁性体片14,15には、磁束ループB1,B3の磁束のみが通る。このときには磁性体片14,15に対して斜めから入る磁束bが発生する。この磁束bは、上記可動テーブル4の上記左方向の移動に対しては抵抗として作用する。したがって、上記中立位置から、左右いずれかに移動する段階では、上記磁束bによる力が、可動テーブル4の左方向の移動に対して抵抗として作用し、可動テーブル4に対して減速作用を発揮する。しかし、可動テーブル4が方向転換して右方向に移動するときには、上記磁束bによる力が、今度は順方向の推力として作用する。
【0043】
上記可動テーブル4が図9の状態から、さらに左方向に移動すると、図10に示すように、今度は、一方の磁性体片14が永久磁石5a,5bの境界部分に対向するとともに、他方の磁性体片15が永久磁石5eの磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置するが、この図10に示す状態が、可動テーブル4のストローク端である。そして、上記のように磁性体片14が永久磁石5a,5bの境界部分に対向すると、磁性体片14を通る磁束は、その磁性体片14に対してほとんどストローク方向から通る。しかも、他方の磁性体片15は、永久磁石5eの磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置するので、磁性体片14に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。したがって、可動テーブル4は、そのストローク端においてわずかな力でも、スムーズに移動できることになる。
【0044】
次に、上記のようにした第2実施形態の作用を説明する。
電機子コイル8a〜8cを図示していない電源に接続するとともに、同じく図示していないコントローラを介して電機子コイル8a〜8cに供給する3相電流を制御する。このように電機子コイル8a〜8cに3相電流を供給すると、前記したように永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4が軌道レール2,2上を移動することになるが、そのときの電流の方向によって、可動テーブル4の移動方向が決まることになる。
【0045】
そして、この第2実施形態では、その運転パターンのモデルを次のように設定した。すなわち
ストローク :12mm
可動テーブル側の荷重 :0.3kg
最大速度 :600mm/sec
加減速時間 :0.02sec
インターバル :0.1sec
永久磁石の
ストローク方向長さ:約9mm
とした。
【0046】
上記の条件の下で、可動テーブル4が図10に示すストローク端から反対方向すなわち図面右方向に移動する場合について、図11の特性図を基にして説明する。なお、この図11において、曲線wが可動テーブル4の速度制御特性であり、曲線xがリニアモータの推力の特性であり、曲線yが磁性体片11に対する磁束による力(補助推力)の特性であり、曲線zは曲線xから曲線yを差し引いた推力特性である。そして、時間軸のゼロ点は、可動テーブル4が上記ストローク端に位置するときである。
【0047】
また、ストローク端においては、一方の磁性体片14が、永久磁石5a,5bの境界部分に対向するとともに、他方の磁性体片15が永久磁石5eの磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置する。そして、その磁性体片14に対して、磁束がほとんどストローク方向から通るので、磁性体片14に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。
【0048】
上記の状態から図10における可動テーブル4を、図11の速度特性線wに沿って、図面右方向に移動させようとしたときには、リニアモータの推力は、上記推力特性線xに沿ったものにしなければならない。すなわち、可動テーブル4が加速されている加速域w1では、リニアモータに一定の推力x1を出力させ続ける。そして、可動テーブル4の移動速度が最大になった時点で、リニアモータの推力の方向を逆転してその推力をx2にする。リニアモータの推力x2が、可動テーブル4に作用すると、可動テーブル4は減速域w2において減速する。そして、最終的にリニアモータの推力をゼロにすることによって、可動テーブル4は、図10に示したストローク端とは反対側のストローク端で停止することになる。なお、このように一方のストローク端から他方のストローク端までの移動で、図11におけるポイントnが図8の中立位置になる。
【0049】
また、上記のような可動テーブル4の右方向の移動過程で、磁性体片14,15に対する磁束の作用力を、図11の補助推力特性線yに基づいて説明する。まず、図10のストローク端では、上記したように磁性体片14,15に対する磁束の作用力はほとんどゼロに近い。この状態から、可動テーブル4が、図9の位置まで移動していくと、このときには、磁性体片14,15に対して斜めから入る磁束bが発生するとともに、この磁束bは、前記したように可動テーブル4の上記右方向の移動に対しては順方向の推力として作用する。可動テーブル4が、さらに図8に示す中立位置方向に移動すると、その中立位置の少し手前で上記補助推力yがピークに達する。
【0050】
上記ピークを過ぎると、今度は、磁束bの作用力が小さくなり、可動テーブル4が中立ポイントnに達した時点で、その補助推力yはゼロになる。この中立ポイントnからさらに可動テーブル4が図面右方向に移動すると、以後、上記補助推力yは、可動テーブル4の移動方向に対しては逆方向の推力すなわち抵抗となる。
【0051】
最終的に、可動テーブル4が、図10とは反対側のストローク端に達すると、図10の場合と同様に、磁性体片15が永久磁石5d,5eの境界部分に対向するととともに、このときの磁束は、その磁性体片15に対してほとんどストローク方向から通るので、磁性体片15に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。
【0052】
上記のようにリニアモータの推力xから、磁性体片14,15に対する磁束の作用による補助推力yの特性を差し引いたときの推力特性は、図11に示す特性線zで表される。そして、このときの補助実効推力zは4.76Nであり、磁性体片14,15を用いないリニアモータだけの実効推力zは7.58Nであった。このように補助実効推力が、実効推力よりも小さいと言うことは、それだけ、電力等でまかなうエネルギーを小さくできると言うことになる。したがって、従来と同じようなエネルギー供給量なら、可動テーブル4をより高速に移動することができるとともに、その応答性能も向上させることができる。
【0053】
上記のようにした第2実施形態の特徴は、可動テーブル4の一方の終端から他方の終端までの最大ストロークを大きくとれることである。例えば、第1実施形態の場合には、ストローク方向における永久磁石一つ分の長さ(9mm)が、一方向に移動できる最大ストロークとなる。なぜなら、磁性体片11が、中立位置から、永久磁石5b,5cあるいは5c,5dの境界部分までの相対移動量が限界になるからである。これに対して、第2実施形態の磁性体片14,15の一方向への相対移動量は、図8において長さLとなり、永久磁石5の一つ分(9mm)以上の長さになること明らかである。したがって、この第2実施形態の最大ストロークは、一つの永久磁石のストローク方向の長さの1.2〜1.8倍程度となり、第1実施形態よりもその最大ストロークが大きくなる。
【0054】
図12に示した第3実施形態は、磁性体片16をベッド1の下方から貫通させたもので、その他は、第1,2実施形態と同様である。つまり、上記磁性体片16は、図示のようにその下側に嵌合部17を形成するとともに、この嵌合部17の下面にフランジ部18を形成している。また、ベッド1には、上記嵌合部17およびフランジ部18がはまる貫通孔9を形成している。したがって、上記嵌合部17およびフランジ部18を上記貫通孔19にはめることによって、磁性体片16がベッド1上に突出することになる。
【0055】
このようにした磁性体片16は、上記フランジ部18に貫通させるボルト20によってベッド1に固定される。このようにした第3実施形態の最大の特徴は、磁性体片16をベッド1に組み付けやすいことである。なお、この第3実施形態は、もともとは磁性体片を設けていない既存のリニア駆動装置のベッド1に、後付で設ける場合にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ベッドに可動テーブルを組み付けた状態の第1実施形態の一部断面斜視図である。
【図2】第1実施形態の可動テーブルを外したベッドの平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】第1実施形態のベッドと中立位置にある可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図5】第1実施形態のベッドと中立位置から少し移動した可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図6】第1実施形態のベッドとストローク端にある可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図7】第1実施形態の速度と推力との関係を示すグラフである。
【図8】第2実施形態のベッドと中立位置にある可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図9】第2実施形態のベッドと中立位置から少し移動した可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図10】第2実施形態のベッドとストローク端にある可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図11】第2実施形態の速度と推力との関係を示すグラフである。
【図12】第3実施例の部分拡大断面図である。
【図13】従来のリニア駆動装置のベッドの平面図である。
【図14】図13のXIV−XIV線断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 他方の移動体であるベッド
4 一方の移動体である可動テーブル
5 永久磁石
5a〜5e 永久磁石
8 電機子コイル
8a〜8c 電機子コイル
11 磁性体片
14,15 磁性体片
【技術分野】
【0001】
この発明は、永久磁石と電機子コイルとを主要素にしたリニアモータを内蔵してなるリニア駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として特許文献1に記載の発明が従来から知られているが、この従来の装置を示したのが、図13,図14である。この図からも明らかなように、従来のリニア駆動装置は、強磁性材料からなるベッド1に一対の軌道レール2,2を平行に敷設している。そして、この軌道レール2,2には複数のスライダ3を移動可能に設けるとともに、このスライダ3に、強磁性材料からなる可動テーブル4を固定し、可動テーブル4が上記軌道レール2,2上を往復動できるようにしている。
【0003】
上記可動テーブル4は、ベッド1との対向面側に、その移動方向に整列した複数の永久磁石5を設けているが、この永久磁石5は、矩形でかつ板状にしている。そして、これら各永久磁石5は、可動テーブル4側を上と見たとき、その上下方向にN極とS極とが現れるとともに、可動テーブル4の移動方向において隣り合う永久磁石5は、互いにその極性が逆になるようにしている。なお、可動テーブル4を強磁性材料で構成したのは、この可動テーブル4に、永久磁石5から生じる磁束を通すマグネットヨークとして機能させるためである。
【0004】
一方、上記ベッド1であって、一対の軌道レール2,2の対向部間に、軌道レール2,2の長手方向に沿って凹部6を形成している。このようにした凹部6はコイル基板7で覆うとともに、このコイル基板7の下面には、3相のコアレスコイルからなる複数の電機子コイル8を設けている。これら電機子コイル8は、凹部6の長手方向に沿って整列させている。このようにした電機子コイル8に3相電流を供給すると、永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4がスライダ3とともに軌道レール2,2上を移動することになる。したがって、上記永久磁石5と電機子コイル8とで、リニアモータを構成することになる。なお、ベッド1を強磁性材料で構成したのは、このベッド1に電機子コイル8のヨークとして機能させるためである。
【特許文献1】特開2001−352744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにした従来の装置は、電機子コイル8に電流を供給すると、永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4がスライダ3とともに軌道レール2,2上を移動するが、最近では、この駆動装置にはますます高速性および高応答性が求められるようになってきている。この要望に応えるためには、当該駆動装置の推力を大きくしなければならないが、その推力を大きくする手段としては、可動テーブル4を軽量化したり、永久磁石の磁力をさらに強くしたり、あるいは供給電流を大きくしたりしなければならない。
【0006】
上記のように可動テーブル4を軽量化するためには、それを薄肉にしなければならない。しかし、可動テーブル4を薄肉にすれば、その分、剛性が劣るので、可動テーブル4が撓んだりする。このように可動テーブル4が撓めば、性能が低下するという問題が発生する。
【0007】
また、永久磁石5の磁力を強力にすることも考えられるが、現状でもかなり強力な磁石を用いているので、これ以上強力な磁石を用いることは不可能に近いのが現状である。また、強力な磁力を得るために、例えば、永久磁石5や電機子コイル8を大型化することも考えられる。しかし、これら部品の大型化にともなってその質量も大きくなるので、たとえ推力が大きくなったとしても、その推力は大きくなった質量に費やされてしまう。このような事情から、永久磁石5の磁力を強力にするにも限界があるというのが実状である。
【0008】
さらに、強力な磁力を得るために、供給電流を大きくすると、その分、発熱量も多くなる。この発熱が大きくなると、例えば、その熱によって、電機子コイル8が燃えてしまうこともあるので、供給電流を大きくするのにも限界があった。
いずれにしても、従来の装置では、高速性あるいは高応答性を実現するには、限界があった。
【0009】
この発明の目的は、簡単な構成で、高速性能および応答性能を飛躍的に向上させることができるリニア駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、一対の移動体を対向させるとともに、いずれか一方の移動体に、そのストローク方向に区分した複数の永久磁石を設け、いずれか他方に、上記永久磁石に対向する一又は複数の電機子コイルを設け、この電機子コイルに電流を流したとき、電機子コイル電流と永久磁石の磁束とによる電磁相互作用によって、上記両移動体が相対移動する推力を発生させるリニア駆動装置を前提にするものである。
【0011】
第1の発明は、上記他方の移動体がストローク方向における中立位置にあるとき、その他方の移動体側であって永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する位置に、磁性体片を設け、両移動体が中立位置から相対移動したとき、永久磁石の磁力が磁性体片に作用する構成にした点に特徴を有する。
【0012】
なお、上記極大点とは、数学的な意味であって、最大の意味とは異なる。例えば、この発明において、永久磁石が複数あるので、それぞれの永久磁石の中で極大点があり得るが、この発明では、磁力の極大点あるいはその近傍に対応する位置であれば、磁性体片をどの永久磁石に対応させてもよい。
【0013】
第2の発明は、上記一方の移動体がストローク方向における中立位置にあるとき、上記永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する上記他方の移動体位置に、隣り合う一対の永久磁石単位で形成される磁束ループのうち、互いに隣り合う一対の磁束ループのみの磁力線の影響を受ける幅を有する磁性体片を設けた点に特徴を有する。なお、この磁性体片を設けた点から離れた磁石の磁力線も、上記磁性体片にかかることも考えられるが、この磁力線は、移動体の移動に対しては、ほとんど影響力がない。したがって、互いに隣り合う一対の磁束ループのみの磁力線の影響を受ける幅とは、実質的な磁力線の影響を受ける幅をいうものである。
【0014】
第3の発明は、一対の磁性体片を、他方の移動体における最外端の上記電機子コイルのさらに外方であって、かつ、一方の移動体における最外端位置にある永久磁石に対向する関係位置に設け、さらに、両移動体が相対移動してフルストークしたとき、一方の磁性体片が一対の永久磁石の境界部に対向するところに位置し、他方の磁性体片が、最外端に位置する永久磁石の磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置する構成にした点に特徴を有する。
【0015】
第4の発明は、上記磁性体片が、上記他方の移動体を貫通して、一方の移動体の永久磁石と対向する側面に突出させた点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、両移動体が中立位置から相対移動したとき、磁性体片には永久磁石の磁力が作用する。そして、この作用力は、一方の移動体が中立位置からストローク端に移動するときには、一方の移動体の移動方向に対して逆方向の力となる。また、上記ストローク端から中立位置方向に移動したときには、一方の移動体の移動方向に対して順方向の力となる。したがって、上記逆方向の力は、一方の移動体を制動する作用をし、順方向の力は、一方の移動体をその移動方向に推す力となる。したがって、永久磁石や電機子コイルを大型化しなくても、高速性能と高応答性能とを実現できる。
【0017】
第2の発明によれば、両移動体が中立位置にあるとき、磁性体片を通る2つの磁束ループが、磁性体片を境にして左右対称になるので、その中立位置における安定性が高いものとなる。
第3の発明によれば、移動体の移動ストロークを大きく確保できる。
第4の発明によれば、移動体に対する磁性体片の組み付け作業が簡単になる。また、既存の移動体にも当該磁性体片を簡単に取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜7に示した第1実施形態の最大の特徴は、この発明の他方の移動体に相当するベッド1の中心部分に、後で詳しく説明する磁性体片11を設けた点であり、その他は、従来の構造とほぼ同様である。ただし、従来の構造と重複する部分についても、以下に詳しく説明する。
【0019】
上記図1〜7に示した第1実施形態は、強磁性材料からなるベッド1に一対の軌道レール2,2を平行に敷設している。そして、この軌道レール2,2には複数のスライダ3を移動可能に設けるとともに、このスライダ3に、強磁性材料からなる可動テーブル4を固定し、可動テーブル4が上記軌道レール2,2上をスライダ3とともに往復動できるようにしている。
なお、上記ベッド1がこの発明の他方の移動体を構成し、可動テーブル4が一方の移動体を構成するものである。
【0020】
上記可動テーブル4は、ベッド1との対向面側に、その移動方向に整列した複数の5つの永久磁石5を設けているが、この永久磁石5は、矩形でかつ板状にしている。そして、これら各永久磁石5は、可動テーブル4側を上と見たとき、その上下方向にN極とS極とが現れるとともに、可動テーブル4の移動方向において隣り合う永久磁石5は、互いにその極性が逆になるようにしている。なお、可動テーブル4を強磁性材料で構成したのは、この可動テーブル4に、永久磁石5から生じる磁束を通すマグネットヨークとして機能させるためである。
【0021】
一方、上記ベッド1であって、一対の軌道レール2,2の対向部間に、軌道レール2,2の長手方向に沿って凹部6を形成している。そして、この凹部6をコイル基板7で覆うとともに、このコイル基板7の下面には、3相のコアレスコイルからなる複数の電機子コイル8を設けている。このようにした複数の電機子コイル8は、凹部6の長手方向に沿って整列させている。そして、この電機子コイル8に3相電流を供給すると、永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4に駆動力が作用し、可動テーブル4は、スライダ3とともに軌道レール2,2上を移動することになる。したがって、永久磁石5と電機子コイル8とでリニアモータを構成することになる。なお、ベッド1を強磁性材料で構成したのは、このベッド1に電機子コイル8のヨークとして機能させるためである。
【0022】
さらに、上記可動テーブル4の下面には、光学式リニアスケール12を設けるとともに、ベッド1側には光学式エンコーダ13を設け、これら光学式リニアスケール12と光学式エンコーダ13とによって、可動テーブル4の移動位置を検出できるようにしている。
【0023】
上記のようにした他方の移動体であるベッド1には、前記した磁性体片11を設けているが、この磁性体片11は、図4〜図6に示す関係位置を保つようにしている。なお、上記図4〜図6は、ベッド1と可動テーブル4との相対関係を示すもので、上記ベッド1には、3つの電機子コイル8a,8b,8cを、前記したように凹部6の長手方向に整列させている。また、可動テーブル4の下面には、5つの永久磁石5a,5b,5c,5d,5eを、同じく長手方向に整列させている。なお、図4〜6においては、凹部6を省略している。
【0024】
そして、電機子コイル8a〜8cのうちの中央に位置する電機子コイル8bの内側中心部には、上記磁性体片11を固定している。このようにした磁性体片11は、可動テーブル4が図4に示す中立位置にあるとき、永久磁石5a〜5eのうちの中央に位置する永久磁石5cの中央に対向させている。このように磁性体片11を対向させた永久磁石5cの中央は、永久磁石5bと5cによる磁束ループB1と、永久磁石5cと5dによる磁束ループB2とが、磁性体片11に対してほぼ垂直方向に通るので、その磁力が最大になる。したがって、この場合には、磁力の最大点と極大点とが一致した状態になる。
【0025】
また、上記磁性体片11は、隣り合う一対の永久磁石単位で形成される磁束ループのうち、互いに隣り合う一対の磁束ループB1,B2のみをまたがる幅を有する。言い換えると、磁性体片11は、互いに隣り合う磁束ループと、さらに隣り合う磁束ループにまでまたがることはない幅を有している。
【0026】
そして、上記のように可動テーブル4が、図4に示した中立位置にあるとき、永久磁石5b,5cで形成される磁束ループB1と、永久磁石5c,5dで形成される磁束ループB2とが、上記磁性体片11を通るとともに、その磁性体片11を通る磁束は、磁性体片11内において左右対称となる。このように磁束が左右対称になるので、力の関係は、左右において安定した状態を保つことになる。言い換えると、この第1実施形態によれば、可動テーブル4が中立位置を安定的に保つことができる。
【0027】
そして、上記可動テーブル4が、図4に示す中立位置から、図面左方向に移動したとすると、その移動過程で、中立位置において保っていた磁性体片11に対する磁束の安定状態が崩れるとともに、図5に示すように、磁性体片11には、磁束ループB2の磁束のみが通る。このときには磁性体片11に対して斜めから入る磁束bが発生する。この磁束bは、上記可動テーブル4の上記左方向の移動に対しては抵抗として作用する。したがって、上記中立位置から、左右いずれかに移動する段階では、上記磁束bによる力が、可動テーブル4の移動に対して抵抗として作用し、可動テーブル4に対して減速作用を発揮する。しかし、可動テーブル4が方向転換して移動するときには、上記磁束bによる力が、今度は順方向の推力として作用する。
【0028】
上記可動テーブル4が図5の状態から、さらに左方向に移動すると、今度は、磁性体片11が永久磁石5c,5dの境界部分に対向するが、この状態が、可動テーブル4のストローク端である。そして、磁性体片11が永久磁石5c,5dの境界部分に対向すると、磁性体片11を通る磁束は、その磁性体片11に対してほとんどストローク方向から通るので、磁性体片11に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。したがって、上記ストローク端からはわずかな力で、可動テーブル4がスムーズに移動できることになる。
【0029】
次に、上記のようにした第1実施形態の作用を説明する。
電機子コイル8a〜8cを図示していない電源に接続するとともに、同じく図示していないコントローラを介して電機子コイル8a〜8cに供給する3相電流を制御する。このように電機子コイル8a〜8cに3相電流を供給すると、前記したように永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4が軌道レール2,2上を移動することになるが、そのときの電流の方向によって、可動テーブル4の移動方向が決まることになる。
【0030】
そして、この第1実施形態では、その運転パターンのモデルを次のように設定した。すなわち
ストローク :9mm
可動テーブル側の荷重 :0.3kg
最大速度 :300mm/sec
加減速時間 :0.02sec
インターバル :0.1sec
永久磁石の
ストローク方向長さ:約9mm
とした。
【0031】
上記の条件の下で、可動テーブル4が図6に示すストローク端から反対方向すなわち図面右方向に移動する場合について、図7の特性図を基にして説明する。なお、この図7において、曲線wが可動テーブル4の速度特性であり、曲線xがリニアモータの推力の特性であり、曲線yが磁性体片11に対する磁束による力(補助推力)の特性であり、曲線zは曲線xから曲線yを差し引いた推力特性である。そして、時間軸のゼロ点は、可動テーブル4が上記ストローク端に位置するときである。
【0032】
また、可動テーブル4が上記のようにストローク端に位置するときには、磁性体片11が永久磁石5c,5dの境界部分に対向するととともに、このときの磁束は、その磁性体片11に対してほとんどストローク方向から通るので、磁性体片11に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。
【0033】
上記の状態から図6における可動テーブル4を、図7の速度特性線wに沿って、図面右方向に移動させようとしたときには、リニアモータの推力は、上記推力特性線xに沿ったものにしなければならない。すなわち、可動テーブル4が加速されている加速域w1では、リニアモータに一定の推力x1を出力させ続ける。そして、可動テーブル4の移動速度が最大になった時点で、上記推力をx1からx2に落とすとともに、その推力x2を一定時間保つと、可動テーブル4が上記加速域w1から平行域w2において最高速度を保つ。この状態からリニアモータの推力の方向を逆転してその推力をx3にすると、可動テーブル4は減速域w3において減速する。そして、最終的にリニアモータの推力をゼロにすることによって、可動テーブル4は、図6に示したストローク端とは反対側のストローク端で停止することになる。なお、このように一方のストローク端から他方のストローク端までの過程で、図7におけるポイントnが図4の中立位置になる。
【0034】
また、上記のような可動テーブル4の右方向の移動過程で、磁性体片11に対する磁束の作用力を、図7の補助推力特性線yに基づいて説明する。まず、図6のストローク端では、上記したように磁性体片11に対する磁束の作用力はマイナス側にふれている。この状態から、可動テーブル4が、図5の位置まで移動していくと、このときには、磁性体片11に対して斜めから入る磁束bが発生するとともに、この磁束bは、前記したように可動テーブル4の上記右方向の移動に対しては順方向の推力として作用する。可動テーブル4が、図4に示す中立位置方向にさらに移動すると、その中立位置の少し手前で上記補助推力yがピークに達する。
【0035】
上記ピークを過ぎると、今度は、磁束bの作用力が小さくなり、可動テーブル4が中立ポイントnに達した時点で、その補助推力yはゼロになる。この中立ポイントnからさらに可動テーブル4が図面右方向に移動すると、以後、上記補助推力yは、可動テーブル4の移動方向に対しては逆方向の推力すなわち抵抗となる。このことは、前記図4から図5に可動テーブル4が移動する過程で説明したとおりである。
【0036】
そして、最終的に図6とは反対側のストローク端に達すると、図6の場合と同様に、磁性体片11が永久磁石5c,5dの境界部分に対向するととともに、このときの磁束は、その磁性体片11に対してほとんどストローク方向から通るので、磁性体片11に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。
【0037】
上記のようにリニアモータの推力xから、磁性体片11に対する磁束の作用による補助推力yの特性を差し引いたときの推力特性は、図7に示す特性線zで表される。そして、このときの補助実効推力zの値は3.07Nであり、磁性体片11を用いないリニアモータだけの実効推力は3.83Nであった。このように補助実効推力が、実効推力よりも小さいと言うことは、それだけ、電力等でまかなうエネルギーを小さくできると言うことになる。したがって、従来と同じようなエネルギー供給量なら、可動テーブル4をより高速に移動することができるとともに、その応答性能も向上させることができる。
【0038】
なお、上記第1実施形態における磁性体片は、可動テーブル4がストローク方向における中立位置にあるとき、隣り合う一対の永久磁石単位で形成される磁束ループのうち、互いに隣り合う一対の磁束ループB1,B2をまたがり、かつ、この磁性体片11を境に、上記磁束ループB1,B2が対称になる関係を満たせば、磁性体片11がどのような位置にあってもよいし、それが複数以上あってもよい。
【0039】
図8〜図11に示した第2実施形態は、ベッド1と可動テーブル4等を含めた基本的な構成は、第1実施形態と同じである。すなわち、第2実施形態が第1実施形態と異なるのは、一対の磁性体片14,15を備えるとともに、この磁性体片14,15を、最外端の上記電機子コイル8a,8cのさらに外方に設けた点である。このようにして電機子コイル8a,8cの外方に設けた磁性体片14,15は、可動テーブル4が中立位置にあるとき、最外端位置にある永久磁石5a,5eに対向する関係位置を保っている。しかも、可動テーブル4がストローク端に達したとき、一方の磁性体片14あるいは15は、一対の永久磁石5a,5bあるいは5d,5eの境界部に対向するところに位置するとともに、他方の磁性体片15あるいは14が、最外端に位置する永久磁石5d,5eあるいは5a,5bの磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に設けている。
【0040】
上記以外の構成は、第1実施形態とすべて同じなので、その詳細な説明を省略する。
【0041】
上記のようにした第2実施形態では、可動テーブル4が図8に示す中立位置にあるとき、磁束ループB1およびB2のそれぞれは、磁性体片14,15に対して垂直方向に通るので、その磁力が最大ではないが、極大となる。したがって、可動テーブル4はある程度安定した状態を保つ。
【0042】
そして、上記可動テーブル4が、図8に示す中立位置から、図9に示す位置に移動したとすると、その移動過程で、中立位置において保っていた磁性体片14,15に対する磁束の安定状態が崩れるとともに、図9に示すように、磁性体片14,15には、磁束ループB1,B3の磁束のみが通る。このときには磁性体片14,15に対して斜めから入る磁束bが発生する。この磁束bは、上記可動テーブル4の上記左方向の移動に対しては抵抗として作用する。したがって、上記中立位置から、左右いずれかに移動する段階では、上記磁束bによる力が、可動テーブル4の左方向の移動に対して抵抗として作用し、可動テーブル4に対して減速作用を発揮する。しかし、可動テーブル4が方向転換して右方向に移動するときには、上記磁束bによる力が、今度は順方向の推力として作用する。
【0043】
上記可動テーブル4が図9の状態から、さらに左方向に移動すると、図10に示すように、今度は、一方の磁性体片14が永久磁石5a,5bの境界部分に対向するとともに、他方の磁性体片15が永久磁石5eの磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置するが、この図10に示す状態が、可動テーブル4のストローク端である。そして、上記のように磁性体片14が永久磁石5a,5bの境界部分に対向すると、磁性体片14を通る磁束は、その磁性体片14に対してほとんどストローク方向から通る。しかも、他方の磁性体片15は、永久磁石5eの磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置するので、磁性体片14に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。したがって、可動テーブル4は、そのストローク端においてわずかな力でも、スムーズに移動できることになる。
【0044】
次に、上記のようにした第2実施形態の作用を説明する。
電機子コイル8a〜8cを図示していない電源に接続するとともに、同じく図示していないコントローラを介して電機子コイル8a〜8cに供給する3相電流を制御する。このように電機子コイル8a〜8cに3相電流を供給すると、前記したように永久磁石5の磁束と、電機子コイル8に流れる3相電流との電磁相互作用によって、可動テーブル4が軌道レール2,2上を移動することになるが、そのときの電流の方向によって、可動テーブル4の移動方向が決まることになる。
【0045】
そして、この第2実施形態では、その運転パターンのモデルを次のように設定した。すなわち
ストローク :12mm
可動テーブル側の荷重 :0.3kg
最大速度 :600mm/sec
加減速時間 :0.02sec
インターバル :0.1sec
永久磁石の
ストローク方向長さ:約9mm
とした。
【0046】
上記の条件の下で、可動テーブル4が図10に示すストローク端から反対方向すなわち図面右方向に移動する場合について、図11の特性図を基にして説明する。なお、この図11において、曲線wが可動テーブル4の速度制御特性であり、曲線xがリニアモータの推力の特性であり、曲線yが磁性体片11に対する磁束による力(補助推力)の特性であり、曲線zは曲線xから曲線yを差し引いた推力特性である。そして、時間軸のゼロ点は、可動テーブル4が上記ストローク端に位置するときである。
【0047】
また、ストローク端においては、一方の磁性体片14が、永久磁石5a,5bの境界部分に対向するとともに、他方の磁性体片15が永久磁石5eの磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置する。そして、その磁性体片14に対して、磁束がほとんどストローク方向から通るので、磁性体片14に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。
【0048】
上記の状態から図10における可動テーブル4を、図11の速度特性線wに沿って、図面右方向に移動させようとしたときには、リニアモータの推力は、上記推力特性線xに沿ったものにしなければならない。すなわち、可動テーブル4が加速されている加速域w1では、リニアモータに一定の推力x1を出力させ続ける。そして、可動テーブル4の移動速度が最大になった時点で、リニアモータの推力の方向を逆転してその推力をx2にする。リニアモータの推力x2が、可動テーブル4に作用すると、可動テーブル4は減速域w2において減速する。そして、最終的にリニアモータの推力をゼロにすることによって、可動テーブル4は、図10に示したストローク端とは反対側のストローク端で停止することになる。なお、このように一方のストローク端から他方のストローク端までの移動で、図11におけるポイントnが図8の中立位置になる。
【0049】
また、上記のような可動テーブル4の右方向の移動過程で、磁性体片14,15に対する磁束の作用力を、図11の補助推力特性線yに基づいて説明する。まず、図10のストローク端では、上記したように磁性体片14,15に対する磁束の作用力はほとんどゼロに近い。この状態から、可動テーブル4が、図9の位置まで移動していくと、このときには、磁性体片14,15に対して斜めから入る磁束bが発生するとともに、この磁束bは、前記したように可動テーブル4の上記右方向の移動に対しては順方向の推力として作用する。可動テーブル4が、さらに図8に示す中立位置方向に移動すると、その中立位置の少し手前で上記補助推力yがピークに達する。
【0050】
上記ピークを過ぎると、今度は、磁束bの作用力が小さくなり、可動テーブル4が中立ポイントnに達した時点で、その補助推力yはゼロになる。この中立ポイントnからさらに可動テーブル4が図面右方向に移動すると、以後、上記補助推力yは、可動テーブル4の移動方向に対しては逆方向の推力すなわち抵抗となる。
【0051】
最終的に、可動テーブル4が、図10とは反対側のストローク端に達すると、図10の場合と同様に、磁性体片15が永久磁石5d,5eの境界部分に対向するととともに、このときの磁束は、その磁性体片15に対してほとんどストローク方向から通るので、磁性体片15に対する永久磁石の吸引力だけが、可動テーブル4に作用することになる。
【0052】
上記のようにリニアモータの推力xから、磁性体片14,15に対する磁束の作用による補助推力yの特性を差し引いたときの推力特性は、図11に示す特性線zで表される。そして、このときの補助実効推力zは4.76Nであり、磁性体片14,15を用いないリニアモータだけの実効推力zは7.58Nであった。このように補助実効推力が、実効推力よりも小さいと言うことは、それだけ、電力等でまかなうエネルギーを小さくできると言うことになる。したがって、従来と同じようなエネルギー供給量なら、可動テーブル4をより高速に移動することができるとともに、その応答性能も向上させることができる。
【0053】
上記のようにした第2実施形態の特徴は、可動テーブル4の一方の終端から他方の終端までの最大ストロークを大きくとれることである。例えば、第1実施形態の場合には、ストローク方向における永久磁石一つ分の長さ(9mm)が、一方向に移動できる最大ストロークとなる。なぜなら、磁性体片11が、中立位置から、永久磁石5b,5cあるいは5c,5dの境界部分までの相対移動量が限界になるからである。これに対して、第2実施形態の磁性体片14,15の一方向への相対移動量は、図8において長さLとなり、永久磁石5の一つ分(9mm)以上の長さになること明らかである。したがって、この第2実施形態の最大ストロークは、一つの永久磁石のストローク方向の長さの1.2〜1.8倍程度となり、第1実施形態よりもその最大ストロークが大きくなる。
【0054】
図12に示した第3実施形態は、磁性体片16をベッド1の下方から貫通させたもので、その他は、第1,2実施形態と同様である。つまり、上記磁性体片16は、図示のようにその下側に嵌合部17を形成するとともに、この嵌合部17の下面にフランジ部18を形成している。また、ベッド1には、上記嵌合部17およびフランジ部18がはまる貫通孔9を形成している。したがって、上記嵌合部17およびフランジ部18を上記貫通孔19にはめることによって、磁性体片16がベッド1上に突出することになる。
【0055】
このようにした磁性体片16は、上記フランジ部18に貫通させるボルト20によってベッド1に固定される。このようにした第3実施形態の最大の特徴は、磁性体片16をベッド1に組み付けやすいことである。なお、この第3実施形態は、もともとは磁性体片を設けていない既存のリニア駆動装置のベッド1に、後付で設ける場合にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ベッドに可動テーブルを組み付けた状態の第1実施形態の一部断面斜視図である。
【図2】第1実施形態の可動テーブルを外したベッドの平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】第1実施形態のベッドと中立位置にある可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図5】第1実施形態のベッドと中立位置から少し移動した可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図6】第1実施形態のベッドとストローク端にある可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図7】第1実施形態の速度と推力との関係を示すグラフである。
【図8】第2実施形態のベッドと中立位置にある可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図9】第2実施形態のベッドと中立位置から少し移動した可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図10】第2実施形態のベッドとストローク端にある可動テーブルとの相対位置を示す説明図である。
【図11】第2実施形態の速度と推力との関係を示すグラフである。
【図12】第3実施例の部分拡大断面図である。
【図13】従来のリニア駆動装置のベッドの平面図である。
【図14】図13のXIV−XIV線断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 他方の移動体であるベッド
4 一方の移動体である可動テーブル
5 永久磁石
5a〜5e 永久磁石
8 電機子コイル
8a〜8c 電機子コイル
11 磁性体片
14,15 磁性体片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の移動体を対向させるとともに、いずれか一方の移動体に、そのストローク方向に区分した複数の永久磁石を設け、いずれか他方に、上記永久磁石に対向する一又は複数の電機子コイルを設け、この電機子コイルに電流を流したとき、電機子コイル電流と永久磁石の磁束とによる電磁相互作用によって、上記両移動体が相対移動する推力を発生させるリニア駆動装置において、上記他方の移動体がストローク方向における中立位置にあるとき、その他方の移動体側であって永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する位置に、磁性体片を設け、両移動体が中立位置から相対移動したとき、永久磁石の磁力が磁性体片に作用する構成にしたリニア駆動装置。
【請求項2】
上記一方の移動体がストローク方向における中立位置にあるとき、上記永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する上記他方の移動体位置に、隣り合う一対の永久磁石単位で形成される磁束ループのうち、互いに隣り合う一対の磁束ループのみの磁力線の影響を受ける幅を有する磁性体片を設けた請求項1記載のリニア駆動装置。
【請求項3】
一対の磁性体片を、他方の移動体における最外端の上記電機子コイルのさらに外方であって、かつ、一方の移動体における最外端位置にある永久磁石に対向する関係位置に設け、さらに、両移動体が相対移動してフルストークしたとき、一方の磁性体片が一対の永久磁石の境界部に対向するところに位置し、他方の磁性体片が、最外端に位置する永久磁石の磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置する構成にした請求項1記載のリニア駆動装置。
【請求項4】
上記磁性体片は、上記他方の移動体を貫通して、一方の移動体の永久磁石と対向する側面に突出させてなる請求項1〜3のいずれかに記載のリニア駆動装置。
【請求項1】
一対の移動体を対向させるとともに、いずれか一方の移動体に、そのストローク方向に区分した複数の永久磁石を設け、いずれか他方に、上記永久磁石に対向する一又は複数の電機子コイルを設け、この電機子コイルに電流を流したとき、電機子コイル電流と永久磁石の磁束とによる電磁相互作用によって、上記両移動体が相対移動する推力を発生させるリニア駆動装置において、上記他方の移動体がストローク方向における中立位置にあるとき、その他方の移動体側であって永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する位置に、磁性体片を設け、両移動体が中立位置から相対移動したとき、永久磁石の磁力が磁性体片に作用する構成にしたリニア駆動装置。
【請求項2】
上記一方の移動体がストローク方向における中立位置にあるとき、上記永久磁石の磁力の極大点もしくはその近傍に対応する上記他方の移動体位置に、隣り合う一対の永久磁石単位で形成される磁束ループのうち、互いに隣り合う一対の磁束ループのみの磁力線の影響を受ける幅を有する磁性体片を設けた請求項1記載のリニア駆動装置。
【請求項3】
一対の磁性体片を、他方の移動体における最外端の上記電機子コイルのさらに外方であって、かつ、一方の移動体における最外端位置にある永久磁石に対向する関係位置に設け、さらに、両移動体が相対移動してフルストークしたとき、一方の磁性体片が一対の永久磁石の境界部に対向するところに位置し、他方の磁性体片が、最外端に位置する永久磁石の磁束の影響を受けないか、あるいはその影響をほとんど受けない箇所に位置する構成にした請求項1記載のリニア駆動装置。
【請求項4】
上記磁性体片は、上記他方の移動体を貫通して、一方の移動体の永久磁石と対向する側面に突出させてなる請求項1〜3のいずれかに記載のリニア駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−97372(P2007−97372A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286697(P2005−286697)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
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