リハビリテーション用脳波信号処理装置、それを備えるリハビリテーションシステム、及び、それに用いられる電極パッド
【課題】 随意運動をタイミングよく補助することができ、特に、随意運動が微弱又は不能な重度の患者に対しても、適切なタイミングで随意運動を補助することができ、これにより高いリハビリ効果を得ることが可能となるリハビリテーション用脳波信号処理装置、それを備えるリハビリテーションシステム、及び、それに用いられる電極パッドを提供する。
【解決手段】 本リハビリテーション用脳波信号処理装置は、脳のリハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する検出部11と、検出部11により所定周波数成分の信号強度の時間変化が検出されると、身体の随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置20の動作を制御する制御信号を出力する制御信号出力部12を備える。
【解決手段】 本リハビリテーション用脳波信号処理装置は、脳のリハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する検出部11と、検出部11により所定周波数成分の信号強度の時間変化が検出されると、身体の随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置20の動作を制御する制御信号を出力する制御信号出力部12を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動療法によるリハビリテーションの際に、随意運動を補助するために用いられるリハビリテーション用脳波信号処理装置、それを備えるリハビリテーションシステム、及び、それに用いられる電極パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、脳卒中などの脳疾患や事故等を原因として、身体の一部が麻痺したり、運動機能が低下したりして、随意運動が不能又は低下した場合、その随意運動の機能を回復するために、様々なリハビリテーションが行われる。このリハビリテーションのうち、障害部位を運動させて運動機能の回復を図る方法は運動療法と呼ばれており、広く行われている。
【0003】
この運動療法では、患者自身にて身体を動かすのみの場合と比較して、様々な意識付けや補助の元で身体を動かすほうが効果的であることが知られている。たとえば、片麻痺患者が麻痺側の手を使って物を把持する運動を行う場合は、患者が把持運動を行うとともに、その動きを外部から介助することで、リハビリテーションの効果を上げることができる。
【0004】
この運動療法は、一般的には、理学療法士などの医療スタッフが患者の傍に付き添い、患者の動きに合わせながらリハビリ対象部位を動かすようにして、患者の動きを介助することにより行われることが多い。
【0005】
また、近年は、リハビリ装置を用いた運動療法も取り入れられている。たとえば、下記特許文献1には、複数の装着部の間に懸架されるアクチュエータと、筋肉の動きを検知するセンサを備え、検知した筋肉の動きにもとづいて、アクチュエータを制御する動作支援装置が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、力センサや位置・角度センサのセンシング情報をもとに、力制御や位置制御によって動作が制御されるリハビリテーション装置であり、筋硬度計により訓練者の下肢の筋硬度を計測し、計測された筋硬度に応じて股や膝や足関節の最大屈曲角度を変化させるように、下肢駆動部を駆動する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−12358号公報
【特許文献2】特開2004−081576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、この介助を伴う運動療法を効果的に行うには、患者の随意運動に合わせてタイミング良く随意運動を補助することが必要である。しかしながら、理学療法士などの人手による補助の場合は、補助者が患者の随意運動の様子を見ながらタイミングを合わせる必要がある。このため、タイミング良く補助を行うには熟練を要し、更に、随意運動が微弱又は不能な重度の患者については、熟練者であってさえ、そのタイミングを図ることは極めて困難な状況にあった。また、上記特許文献1や特許文献2のような装置では、筋肉の動きや硬度を検知して装置を駆動させるため、患者による随意運動が必要であり、随意運動が検知されない程に微弱であったり、まったく動かないような重度の患者に対しては効果が得られなかった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、随意運動をタイミングよく補助することができ、特に、随意運動が微弱又は不能な重度の患者に対しても、適切なタイミングで随意運動を補助することができ、これにより高いリハビリ効果を得ることが可能となるリハビリテーション用脳波信号処理装置、それを備えるリハビリテーションシステム、及び、それに用いられる電極パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、運動療法のリハビリテーションにおいて、適切なタイミングで随意運動を補助することが可能な方法を鋭意模索した。その結果、患者が随意運動を行うか、又は、随意運動を想起すると、事象関連脱同期により脳波に変化が生じることから、この変化を検出してリハビリテーション装置を連動させることにより、随意運動をタイミング良く補助することが可能となり、また、脳波は随意運動を行ったときのみならず、想起しただけでも変化が生じることから、特に随意運動が微弱又は不能な重度の患者に対しても、適切なタイミングで運動を補助することが可能となると考えた。そして、発明者等は、更に、実験や検証を重ねた結果、例えば脳全体から採取した脳波を用い、すべての周波数成分を対象として随意運動時の脳波の変化を検出し、リハビリテーション装置を連動させても、リハビリの効果はいっこうに得られないが、例えば左手のリハビリテーションであれば左手運動野付近から脳波を採取するといったように、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から脳波を採取し、更にその脳波のうち所定周波数成分に限定して変化を検出し、リハビリテーション装置を連動させると、非常に高いリハビリ効果が得られることを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明にかかるリハビリテーション用脳波信号処理装置は、
運動療法によるリハビリテーションのために、脳波信号を処理するリハビリテーション用脳波信号処理装置であって、
脳のリハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する検出部と、
当該検出部により所定周波数成分の信号強度の時間変化が検出されると、身体の随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置の動作を制御する制御信号を出力する制御信号出力部を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるリハビリテーションシステムは、前記リハビリテーション用脳波信号処理装置と、身体の随意運動の機能回復のためにその随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置とを備え、
前記リハビリテーション用運動補助装置は、前記リハビリテーション用脳波信号処理装置から出力される前記制御信号により動作が制御されることを特徴とする。
【0013】
上述の通り、脳波は随意運動を行ったときや、随意運動を想起したときに変化が生じるが、この発明によれば、使用者から採取する脳波について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出し、その時間変化に基づいて、リハビリテーション用運動補助装置の動作が制御される。これにより、随意運動に付随して生じる脳波の変化に合わせてリハビリテーション用補助装置が動作することとなり、随意運動をタイミング良く補助することができる。脳波は随意運動が行われたときのみならず、随意運動を想起したときにも変化が生じることから、特に、随意運動が微弱又は不能な重度の患者に対しても、タイミング良く補助することが可能となる。ここで、脳波信号としては、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号を用い、更に、その脳波信号のうち所定周波数成分のみに限定して、時間変化を検出することが非常に重要である。上述したように、例えば、脳全体から採取した脳波信号のすべての周波数成分について時間変化を検出しても、リハビリ効果はいっこうに得られないが、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から脳波信号を採取し、更にその脳波信号のうち所定周波数成分に限定して時間変化を検出することで、非常に高いリハビリ効果が得られるためである。これは、発明者等が新たに見出し、初めて装置として実現したものである。
【0014】
また、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置は、前記検出部における時間変化の検出対象となる所定周波数成分の周波数の値を設定する周波数設定部を備えることを特徴とする。
【0015】
随意運動に付随してどの周波数成分が変化するかは、使用者の属性(年齢、性別など)、障害の状態、障害の部位、個人差、その他、個別具体的な様々な要因により異なる。これは、発明者等が実験等により新たに見出した事象である。本発明によれば、周波数設定部により検出対象とする所定周波数成分の周波数の値を設定できるため、様々なケースに対応可能となる。
【0016】
また、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置は、前記検出部における所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出するときの、検出条件を設定する検出条件設定部を備えることを特徴とする。
【0017】
随意運動に付随して所定周波数成分の信号強度がどのように変化するかは、使用者の属性(年齢、性別など)、障害の状態、障害の部位、個人差、その他、個別具体的な様々な要因により異なる。これは、発明者等が実験等により新たに見出した事象である。本発明によれば、検出条件設定部により検出条件を設定できるため、様々なケースに対応可能となる。
【0018】
また、本発明の電極パッドは、前記リハビリテーション用脳波信号処理装置とともに用いられ、前記脳波信号を採取するために頭部に装着される電極パッドであり、基台と、前記基台から突出する複数の突起状電極と、分散媒が導電性を有するジェルから構成されるか、又は、保水性を有する柔軟性材料に導電性液体を保持する導電層を備え、前記導電層は少なくとも前記複数の突起状電極の間を充填するとともに、前記突起状電極の先端が前記導電層に埋没するか、又は、前記導電層の表面と面一であることを特徴とする。ここで、ジェルは、高粘性の分散質により流動性を失うことで系全体として固体状となっており、押圧力により分散媒が外部に染み出すものである。
【0019】
前記リハビリテーション用脳波信号処理装置に用いる脳波信号を採取するためには、数マイクロボルトオーダーの電位を増幅できる増幅装置が必要であるが、従来の電極を用いた場合、頭皮―電極間のインピーダンスが数百メガオーム/10Hzのため、有用な脳波信号を採取することは困難であった。このため、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置に有用な脳波信号を採取するためには、頭皮―電極間のインピーダンスを低下させることが重要な課題である。この発明によれば、電極パッドを頭部に押し当てながら動かすと、柔軟性を有する導電層が変形して複数の突起状電極の先端が導電層から突出するとともに、頭髪を掻き分けて頭皮に確実に接触する。このとき、導電層と頭皮との間には頭髪が挟まることから、頭髪の厚みにより導電層の表面が凹状となり、頭部と導電層との間には間隙が生じるが、その間隙には導電層から染み出す導電性分散媒又は導電性液体が充填される。これにより、突起状電極のみならず、導電層及び染み出した導電性分散媒又は導電性液体でも通電可能となり、インピーダンスが低減され、上記リハビリテーション用脳波信号処理装置に有用な脳波信号を採取することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のリハビリテーション用脳波処理装置やリハビリテーションシステムによれば、脳波信号の所定周波数成分の信号強度の時間変化に合わせてリハビリテーション用補助装置を連動させることができることから、適切なタイミングで随意運動を補助することが可能となる。とくに、随意運動が微弱又は不能な重度の患者の場合は、人手による補助ではタイミングを図ることが極めて困難であり、又、筋肉の動きを検知して動作するような従来の装置では効果が得られないが、本発明によれば、脳波の変化に基づいてリハビリテーション用補助装置を動作させることができるため、このような重度の患者に対しても適切なタイミングで随意運動を補助することができる。そして、本発明では、リハビリ対象部位に対応する運動野から脳波信号を採取し、その脳波信号のうち所定周波数成分に限定して変化を検出することにより、非常に高いリハビリ効果を得ることができる
【0021】
また、本発明の電極パッドによれば、突起状電極のみならず、その間に充填される導電層及びその導電層から染み出す導電性分散媒又は導電性液体によっても通電可能となるため、インピーダンスを低減させることができ、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置に用いられる脳波信号を採取するに好適な電極パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一の実施の形態として示すリハビリテーションシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態として示すリハビリテーション用運動補助装置の一例を示す図である。
【図3】本発明の第二の実施の形態として示すリハビリテーションシステムの構成を示す図である。
【図4】本発明の第三の実施の形態として示すリハビリテーションシステムの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態として示す電極パッドを側面の側から説明する説明図であり、(a)はその一例、(b)は他の例を示す図である。
【図6】(a)は上記実施の形態の電極パッドの使用状態を説明する説明図であり、(b)はその一部拡大図である。
【図7】実験1における電極の配置を示す図である。
【図8】実験1におけるタスクの内容を説明する説明図である。
【図9】実験1における左手把持運動想起時の実験結果を示す図であり、(a)は右手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータ、(b)は左手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータである。
【図10】実験1における右手把持運動想起時の実験結果を示す図であり、(a)は右手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータ、(b)は左手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータである。
【図11】実験1における足を動かす随意運動想起時の実験結果を示す図であり、(a)は右手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータ、(b)は左手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータである。
【図12】実験1及び実験2において、各データの脳波信号の信号強度の導出方法を説明する説明図である。
【図13】実験2における電極の配置を示す図である。
【図14】実験2におけるタスクの内容を説明する説明図である。
【図15】実験2における左手把持運動想起時の実験結果を示す図であり、(a)は右手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータ、(b)は左手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータである。
【図16】実験3及び実験4に用いた電極パッドを説明する説明図であり、(a)は比較対象となる電極パッド、(b)は本発明の電極パッドを示す図である。
【図17】実験3の結果を示す図である。
【図18】実験4の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第一の実施の形態>
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態は、脳疾患や事故等を原因として、身体の一部が麻痺したり、随意運動が低下又は不能な患者に対して、運動療法によるリハビリテーションを行うためのリハビリテーションシステムである。ここでは、左手指麻痺により把持運動が困難となった患者のリハビリテーションに用いられるシステムを例に説明するが、これに限られるものではなく、例えば、肩や肘、上腕、腰、下肢、上肢など、身体の随意運動のリハビリテーションに用いられるものであれば良い。
【0024】
図1は、本実施の形態のリハビリテーションシステムS1を説明する説明図である。リハビリテーションシステムS1は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10と、リハビリテーション用運動補助装置20とを備える。
【0025】
リハビリテーション用脳波信号処理装置10は、検出部11と、制御信号出力部12とを備える。
【0026】
検出部11は、採取された脳波信号について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する機能を備える。
【0027】
ここで、脳波信号は、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号であることが重要である。リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取した脳波を用いなければ、リハビリ効果が得られないためである。これは、本願発明者が実験等により新たに見出した事象である。本実施の形態では、リハビリ対象部位が左手であるため、左手運動野付近から採取された脳波信号を用いる。
【0028】
脳波信号は、使用者の頭部に設置される脳波取得手段により採取される。例えば、直径が1cm程度の大きさからなる銀塩化銀電極等から構成される一般的な脳波信号採取用の電極を用いても良いが、脳波信号を取得できるものであれば、これに限られない。ただし、脳波信号を精度良く取得するためには、後述する本発明の電極パッドを用いることが好ましい。
【0029】
この脳波信号は、増幅及びA/D変換され、ディジタルデータとされた脳波信号が周波数解析されて、各周波数成分の信号強度を示す信号強度データ(周波数時間領域のスペクトルデータ)が得られる。この信号強度データは、外部装置として準備されたディジタル脳波計により得られるものを用いても良いし、リハビリテーション用脳波信号処理装置10の内部機能により得られるものを用いても良い。
【0030】
リハビリテーション用脳波信号処理装置10の内部機能として準備されるときは、使用者の頭部Hに配置された脳波取得手段を介して取得した脳波信号を解析することにより周波数成分の強度を測定する測定部13として実現される。くわしくは、測定部13は、増幅部13aとA/D変換部13bと蓄積部13cと解析部13dを備え、脳波信号が信号処理部13にリアルタイム且つ時系列に入力されると、増幅部13aにより所定の利得で増幅され,この増幅部13aにより増幅されたアナログ形式の脳波信号はA/D変換部13bによりディジタル形式に変換され,A/D変換部13bによりディジタル形式に変換された脳波信号は蓄積部13cに蓄積され、蓄積部13cに蓄積された脳波信号は解析部13dにおいて周波数解析されて各周波数成分の信号強度を示す信号強度データが生成される。この解析部13dでは、蓄積部13cに蓄積されたディジタルデータとしての脳波信号を所定のサンプリング周期で所定時間分だけ読み出し、FFTやMEMなどの周波数解析を行うことにより、周波数成分ごとに時系列にて信号強度を求め、周波数時間領域におけるパワースペクトルデータが生成される。なお、サンプリング周期は、処理のリアルタイム性を確保し且つエイリアジングを生じない程度であれば良い。
【0031】
なお、上記測定部13は、外部装置(脳波計)の一部として準備されても良い。この場合は、周波数成分ごとの信号強度を時系列に測定可能な脳波計が用いられ、この脳波計がリハビリ用脳波信号処理装置10に接続されるとともに、脳波計から出力された測定値(周波数時間領域におけるスペクトルデータ)が、リハビリ用脳波信号処理装置10にリアルタイム且つ時系列に入力される。入力された測定値は、メモリなどにより実現される蓄積部に蓄積される。
【0032】
このようにして、外部装置として準備された脳波計、又は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10の内部機能として準備された測定部13により得られる脳波信号の周波数成分ごとの信号強度のデータは、リアルタイム且つ時系列に検出部11に引き渡される。
【0033】
検出部11は、引き渡された周波数成分ごとの信号強度のデータを用いて、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する機能を備える。ここで、時間変化の検出対象は所定周波数成分に限定されることが重要である。これは、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取した脳波信号であり、更に、その脳波信号のうち所定周波数成分に限定しなければ、高いリハビリ効果が得られないためである。これは、本願発明者が新たに見出した事象である。なお、所定周波数成分の周波数の値は、ケースに応じて決定されれば良い。これは、随意運動に付随してどの周波数成分が変化するかは、使用者の属性(年齢、性別など)、障害の状態、障害の部位、個人差、その他、個別具体的な様々な要因により異なるためである。
【0034】
検出部11における検出は、たとえば、次のように行われる。本実施の形態では、使用者が安静状態から把持運動を行うか又は想起すると、所定周波数成分の信号強度は安静時よりも低い値を示し、把持状態を解除して安静状態となると、所定周波数成分の信号強度は把持運動又は把持運動想起時よりも高い値を示す。これは、安静時は左手運動野付近の神経細胞が同期的に活動しているが、把持運動時又は把持運動想起時には非同期に活動し、特定の周波数成分の信号強度が下がるためである。そこで、検出部11は、上記の通りリアルタイム且つ時系列に受け取った信号強度のデータから、所定周波数成分の信号強度を抽出し、その信号強度が随意運動又は随意運動想起時の信号強度の範囲(以下、随意運動時信号強度範囲という。)であるか、安静時の信号強度の範囲(以下、安静時信号強度範囲という。)であるかを常時監視する。そして、検出部11は、その信号強度の安静時信号強度範囲から随意運動時信号強度範囲への変化を、安静状態から随意運動状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出し、随意運動時信号強度範囲から安静時信号強度範囲への変化を、随意運動状態から安静状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出する。
【0035】
さらに詳しくは、検出部11は、安静時信号強度範囲と随意運動時信号強度範囲の境界値を閾値とし、信号強度が閾値以下となると、安静状態から随意運動又は随意運動想起状態に変化したときの脳波信号強度の時間変化として検出し、閾値よりも上回ると、随意運動又は随意運動想起状態から安静状態に変化したときの信号強度の時間変化として検出する。なお、閾値は予め定められていても良いし、使用者ごとに適切な閾値を設定可能としても良い。また、閾値は、安静時信号強度を複数回測定して平均値を算出し、平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合(%)としても良い。この場合、記憶部には、自動算出又は人為的な入力により、平均安静時信号強度、及び、閾値(平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合(%))が記憶されることとなる。そして、検出部11は、記憶部に記憶されている平均安静時信号強度と閾値を参照し、信号強度のデータを受け取ると、平均安静時強度信号に対する随意運動時信号強度の割合を算出し、算出した割合と閾値(平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合)と比較することにより、時間変化を検出する。なお、この場合、閾値は通常は5%から30%の間で設定すれば良いが、これに限るものではなく、患者の訓練度合い等に応じて適宜設定すれば良い。また、閾値の設定方法は、これに限るものではなく、パターン認識に使われている様々な方法が使用できる。例えば、線形判別分析(Linear Discriminant Analysis ;LAD)やサポートベクターマシン(Support Vector Machine ;SVM)といった方法でもよいし、信号強度の値を直接設定しても良いし、安静時信号強度範囲と随意運動信号強度範囲との境界を判断可能であればどのようなものでもよい。
【0036】
また、所定周波数成分は、単一の周波数成分(例えば10ヘルツ)でも良いし、複数の周波数成分(例えば、10ヘルツと25ヘルツ)でも良いし、所定の周波数帯域に含まれる周波数成分(例えば、5ヘルツから15ヘルツ、及び、20ヘルツから30ヘルツ)でも良いし、時間変化を精度良く検出できる周波数成分を用いれば良い。所定の周波数帯域に含まれる周波数成分の時間変化を検出するときは、例えば、検出部11は、その周波数帯域内のいずれかの周波数成分の信号強度が随意運動時信号強度範囲内となると、安静状態から随意運動又は随意運動想起状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出し、すべての周波数成分の信号強度が安静時信号強度範囲内となると、随意運動又は随意運動想起状態から安静状態時に移行したときの信号強度の時間変化として検出する。
【0037】
なお、信号強度の時間変化は、運動部位や運動の仕方により異なるため、検出部11による検出は、それに応じた検出方法とすれば良い。たとえば、下肢においては、安静状態から随意運動又は随意運動想起を行うと脳波信号の信号強度は低から高に変化し、随意運動を終了して安静状態に戻ると脳波信号の信号強度は高から低に変化するため、検出部11は、周波数成分が閾値以上となると、安静状態から随意運動又は随意運動想起状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出し、周波数成分が閾値よりも下回ると、随意運動又は随意運動想起状態から安静状態時に移行したときの信号強度の時間変化として検出すれば良い。
【0038】
制御信号出力部12は、検出部11により所定周波数成分の信号強度の時間変化が検出されると、リハビリテーション用運動補助装置20の動作を制御する制御信号を出力する機能を備える。たとえば、制御信号出力部12は、検出部11により、信号強度が安静時信号強度範囲から随意運動時信号強度範囲に遷移する(本実施の形態では閾値以下となる)時間変化が検出されると、リハビリテーション用運動補助装置20を初期姿勢(手掌を開いた状態)から把持姿勢とする制御信号(後述するモータ22a1を所定角度回転させる制御信号)を出力し、検出部11により、信号強度が随意運動時信号強度範囲から安静時信号強度範囲に遷移する(本実施の形態では閾値を上回る)時間変化が検出されると、リハビリテーション用運動補助装置20を把持姿勢から初期姿勢とする制御信号(後述するモータ22a1を所定角度だけ逆回転させる制御信号)を出力する。すなわち、制御信号出力部12は、検出される時間変化に応じて、制御信号を選択的に出力するようになっている。
【0039】
なお、検出部11及び制御信号出力部12、及び、測定部13がリハビリテーション用脳波信号処理装置10の一部として構成される場合は増幅部13aやA/D変換部13bや解析部13dは、例えば、コンピュータにおけるCPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアを用いて実行可能なプログラムとして実装したり、コンピュータに装着可能な拡張ボードに搭載されたDSP(Digital Signal Processor)等の専用プロセッサを用いて実装したりすることができ、また、蓄積部13cは、検出部11及び制御信号出力部12の機能を実現するコンピュータ等の装置に内蔵又は外付け可能なハードディスクやその他の各種記憶媒体を用いて構成することができる。
【0040】
リハビリテーション用運動補助装置20は、リハビリ対象部位の随意運動を補助する機能を備えるものであり、例えば、リハビリテーション対象部位に装着される装着部をモータやアクチュエータ等の駆動部により動かすことで関節を屈曲・伸展させることにより、随意運動を補助するものである。その一例を図2に示す。リハビリテーション用運動補助装置20は、把持運動が困難となった患者に用いられ、把持運動の回復訓練を行うためのものであり、装着部21と駆動部22を備える。なお、理解の容易のために、図2にはリハビリテーション補助装置20を手Hnに装着した状態を示す。
【0041】
装着部21は、リハビリ対象部位に装着されるものであり、互いに連結されるとともに連結箇所が可動する複数の部材から構成される。本実施の形態では、手Hnに装着されるものであり、装着部第一部材21aと装着部第二部材21bとを備える。装着部第一部材21aは、手首から手掌を被覆するプレートであり、第1手指が挿入される第1手指用孔21a1が設けられている。なお、手Hnの運動の自由度を高めるために手背側は開口部21a2を有し、手Hnが被覆されない形状となっている。装着部第二部材21bは、第2手指から第5手指を一体的に支持するプレートである。この装着部第二部材21bは、第2手指から第5手指の外周を覆うように略楕円形状に湾曲させたプレートにて構成されており、これら四本の手指を内側に挿入すると、これらの手指を手掌側から支持するとともに、手指先端が外部に突き出る形状となっている。装着部第一部材21aと装着部第二部材21bは、後述する動力伝達部(詳しくは動力伝達部第二部材22b2)を介して互いに接離する方向(すなわち、第1手指に対して第二手指から第5手指が接離するような方向)に可動するように連結されている。なお、装着部第一部材21aは固定手段21cにて手首に固定され、装着部第二部材21bは固定部材21dにて手指に固定されている。固定部材21c,21dは面状テープであるが、その他、ベルト等でも良い。
【0042】
駆動部22は、装着部21の動きの駆動源22aと、その駆動源22aの動力を装着部21に伝達する動力伝達部22bとを備える。
【0043】
駆動源22aは、モータ22a1と、モータ22a1を制御する制御回路22a2とを備える。制御回路22a2は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10の制御信号出力部12と有線又は無線により通信可能に接続されており、リハビリテーション用脳波信号処理装置10の制御信号出力部12から発せられる制御信号を受信して、モータ22a1を所定の回転角度で回転動作させる信号を出力し、モータ22a1は、制御回路22a2からの信号を受信するとその回転角度で回転動作する。モータ22a1と制御回路22a2は装着部第一部材21aに取り付けられて固定されている。なお、駆動源22aには、電源と接続する電源ケーブル又はバッテリー、及び、リハビリテーション用脳波信号処理装置10との通信手段(通信ケーブル等)が接続されているが、図2においては省略してある。
【0044】
動力伝達部22bは、動力伝達部第一部材22b1と動力伝達部第二部材22b2とを備える。動力伝達部第一部材22b1は、細長形状のプレートであり、一端側がモータ22a1に連結され、他端側が動力伝達部第二部材22b2に連結されている。動力伝達部第二部材22b2は、略L字形状に屈曲したプレートであり、屈曲部を境に一方側は第2手指に添えるように、他方側は手甲側に突出するような姿勢にて配置され、一方側は装着部第一部材21bに固定されており、屈曲箇所において連結部材(ボルト)22b3により装着部第一部材21bに回動可能に連結されている。
【0045】
なお、上述の通り、本実施の形態は、手の把持運動が困難な患者に対してリハビリテーションを行う場合を例示したものであることから、リハビリテーション用運動補助装置20は手に装着するものであるが、例えば、上腕や下肢などの他の部位の随意運動の機能回復を目的とする場合は、リハビリ対象となる部位の随意運動に応じたリハビリテーション用運動補助装置を用いれば良い。
【0046】
また、リハビリテーション用運動補助装置20には、所定動作以外の動作を行わないように、安全装置が付加されていることが好ましい。たとえば、モータ22a1の回転角度を所定角度内に抑制するストッパーを備え、モータ22a1が所定角度の範囲を超えて回転しないようにして、誤動作による危険を防止すれば良い。
【0047】
以下、本実施の形態のリハビリテーションシステムS1の使用態様を説明する。使用者は、リハビリ対象部位にリハビリテーション用運動補助装置20を装着する。くわしくは、使用者は、装着部第一部材21aに手を入れて孔22b3に第1手指を挿入し、第2手指から第5手指は装着部第二部材21bに挿入し、固定部材21c、21dにて固定する。
【0048】
また、使用者は、脳波取得手段としての電極を所定箇所に配置して取り付ける。電極は、例えば、国際10−20法に準拠して配置しても良いし、リハビリ対象部位の運動野付近の脳波信号が採取できる位置に配置すれば良い。この状態にて、電極により採取された脳波信号が測定部13に入力され、増幅部13aにて増幅され、A/D変換部13bにてアナログ信号がディジタル信号に変換され、蓄積部13cに時系列に蓄積され、その蓄積部13cに蓄積された脳波信号が解析部14dによる解析により周波数成分ごとに信号強度が求められ、周波数時間領域における信号強度データがリアルタイムに得られる。この信号強度データは、リアルタイムに検出部11に引き渡され、所定の周波数成分の信号強度データに時間変化が現れるか常時監視される状態となる。
【0049】
ここで、随意運動に付随して変化する周波数成分は、使用者の属性(年齢、性別など)、障害の状態、障害の部位、個人差、その他、個別具体的な様々な要因により異なる(なお、上述のように、これは発明者等が新たに見出した事象である。)ため、所定周波数成分をどの周波数成分とするかはケースに応じて決定すれば良い。たとえば、使用者が脳卒中患者の場合、障害部位の随意運動に関連した脳活動を作り出す脳内の回路において、脳波信号に障害が生じ、例えば、健常者であれば10Hzの周波数成分で変化が生じるところ、脳卒中患者の場合はその周波数成分の信号が障害されて、より高い周波数の周波数成分に変化が生じることがあることから、その周波数成分を個別具体的に特定して変化を検出すれば良い。
【0050】
次に、使用者はリハビリテーション用運動補助装置20を装着した後、身体を安静状態とする。安静状態を維持したままでは、所定周波数成分の信号強度に変化は現れないため、検出部11において時間変化は検出されない。
【0051】
その後に、使用者は、リハビリ対象部位の随意運動を行うか、又は、随意運動を想起する。本実施の形態では、把持運動を一例として説明するため、使用者は第2手指から第5手指を第1手指に接する方向に動かす把持運動を行うか、又は、把持運動を想起する。すると、この随意運動により、リハビリ対象部位の運動野付近で事象関連脱同期(ERD)が起きて脳波信号の所定周波数成分に変化するため、検出部11においてその時間変化が検出される。本実施の形態では、検出部11は、リアルタイムに得られる信号強度データを監視し、所定周波数成分の信号強度が安静時信号強度範囲内の値から随意運動時信号強度範囲内の値に変化すると、この信号強度の変化を安静状態から随意運動(把持運動)を行った又は想起した状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出する。ここで、検出部11における検出は、時間変化が検出される方法であれば良いが、本実施の形態では、予め設定されている閾値と所定周波数成分の信号強度とを比較し、信号強度が閾値以下又は閾値より上となる変化により判断している。信号強度が閾値以下に変化すると、随意運動(把持運動)を行うか又は想起したときの信号強度の時間変化として検出し、信号強度が閾値を上回る変化を示すと、随意運動から安静状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出する。
【0052】
信号強度の時間変化が検出部11で検出されると、制御信号出力部12はリハビリテーション用運動補助装置20の動作を制御する制御信号を出力する。ここでは、リハビリテーション用運動補助装置20の駆動部22のモータ22a1を所定角度で回転動作させる信号を出力することとなる。詳細には、検出部11において、信号強度が安静時信号強度範囲から随意運動時信号強度範囲に遷移する変化が検出されると、リハビリテーション用運動補助装置20の駆動部22のモータ22a1を把持状態となる方向に回転動作させる制御信号を出力し、随意運動時信号強度範囲から安静時信号強度範囲に遷移する変化が検出されると、モータ22a1を逆回転させて初期姿勢に戻す制御信号を出力する。
【0053】
制御信号出力部12によりリハビリテーション用脳波処理装置10から出力された制御信号は、リハビリテーション用運動補助装置20の制御回路22a2に入力される。制御回路22a2は、制御信号を受信すると、その受信した制御信号に基づく動作をモータ22a1に実行させる電気信号を出力する。ここでは、所定の回転角度でモータ22a1を回転動作させる電気信号を出力することとなる。
【0054】
リハビリテーション用運動補助装置20は、制御回路22a2から出力される電気信号に従ってモータ22a1が所定角度に回転動作すると、動力伝達部第一部材22b1が前方(手指先端方向)に押し出されるとともに、動力伝達部第一部材22b1に連結されている動力伝達部第二部材22b2が連結部材22b3を回転軸として所定角度で回転し、装着部第二部材21bが装着部第一部材21aに接する方向(第2手指から第5手指が第1手指に接する方向)に動作する。次の電気信号が入力されるまでモータ22a1はその姿勢を維持し、装着部21は把持の姿勢が継続される。
【0055】
使用者が随意運動(把持運動)を継続している間、又は、想起している間、信号強度は運動時信号強度範囲内(閾値以下)の値を示すが、随意運動又は想起を終了させ、安静状態に戻ると、信号強度が安静時信号強度範囲内(閾値より上)の値を示し、それが検出部11において信号強度の時間変化として検出される。検出部11にてこの時間変化が検出されると、制御信号出力部12は、モータ22a1を所定の回転角度で逆回転動作をさせることで姿勢を初期姿勢(第2手指から第5手指を第1手指から離して手掌を開いた状態)に戻す制御信号を出力する。
【0056】
このようにして、装着部第二部材21bを装着している第2手指から第5手指までが第1手指に対して接離する方向に動かされ、把持運動の補助が行われることとなる。これにより、筋肉や皮膚の感覚神経が活動し、その情報が脳に到達することで、神経の再構築が行われ、高いリハビリ効果が得られることとなる。
【0057】
このように、リハビリテーションシステムS1によれば、使用者が随意運動を行うか、又は、想起すると、リハビリテーション用脳波信号処理装置10にて脳波信号の時間変化が検出されてリハビリテーション用運動補助装置20が動作するため、随意運動を行ったタイミング、又は、想起したタイミングに合わせて、随意運動の補助を行うことが可能となる。脳波信号の信号強度の時間変化に合わせてリハビリテーション用運動補助装置20が動作するため、特に随意運動が極めて微弱又は不能な重度の患者に対してもタイミング良く随意運動を補助することができ、非常に好適である。とくに、脳波信号はリハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取し、更に、その採取された脳波信号のうち、個別具体的なケースに応じて所定周波数成分に限定し、その限定された所定周波数成分について時間変化を検出するため、非常に高いリハビリ効果が得られる。
【0058】
<第二の実施の形態>
図3は、本実施の形態のリハビリテーションシステムS2を説明する説明図である。リハビリテーションシステムS2は、上記リハビリテーションシステムS1に機能が追加されたものであり、検出部10の検出対象となる所定周波数成分の周波数の値を設定する周波数設定部14を備える。随意運動に付随してどの周波数成分が変化するかは、使用者の属性、リハビリ対象部位、障害の状態、個人差など、様々な要因により異なる。これは、発明者等が実験等により新たに見出した事象である。そこで、検出対象とする周波数成分の周波数の値を設定可能とすることにより、様々なケースに対応可能とした。なお、上記実施の形態と同一要素については同一の符号を用いて説明を省略する。
【0059】
周波数設定部14は、人為的に設定値が入力されても良いし、データ解析により自動設定されても良い。
【0060】
人為的に設定値が入力される場合、リハビリテーション用脳波信号処理装置10は、入力部15から入力された周波数の値を、周波数設定部14が受け付け、その周波数の値を記憶部16に記憶する。入力部15は、キーボードやマウス等により任意に入力可能としても良いし、ダイヤルやボタンにより周波数の値を選択的に設定することにより入力可能としても良い。また、設定値は表示部(図示せず)に表示されるようにしても良い。また、記憶部16は、メモリやハードディスク等の記憶装置により実現されるものであり、周波数設定部14や検出部11や制御信号出力部12を実現するコンピュータに内蔵されても良いし、外部装置として外付けされていても良い。また、周波数の値は、一つのみ設定可能としても良いが、使用者ごと、リハビリ対象部位ごと等、複数の周波数の値を登録可能としても良い。この場合は、周波数の値とそれを一意に特定可能な識別子とを入力させ、これらを関連付けて記憶部16に記憶することとなる。
【0061】
一方、自動設定とする場合、周波数設定部14は、測定部13にて安静状態と随意運動を行ったとき又は想起したときの状態の脳波信号の信号強度データをテストデータとして受け取り、安静状態と随意運動時又は想起時状態の脳波信号を比較するなどして、特徴抽出を行い、随意運動時又は想起時に変化が生じる周波数成分を特定する。特定された周波数成分は、検出対象となる所定周波数成分の値として記憶部16に記憶される。このときのテストデータは複数回のテストにより取得された複数のデータであるほうが好ましい。また、特定された周波数成分の周波数の値は、表示部(図示せず)に表示し、入力部15により随時微調整可能とするほうが好ましい。なお、テストデータは外部装置としての脳波計等により別途準備され、リハビリテーション用脳波信号処理装置10に入力されて周波数設定部14に引き渡されても良い。
【0062】
検出部11は、周波数設定部14により周波数の値が設定されると、記憶部16を参照し、記憶部16に記憶されている周波数の値を取得して、その周波数の値に対応する周波数成分の強度の時間変化を検出する。
【0063】
以下、本実施の形態のリハビリテーションシステムの使用態様を説明する。まず、初期設定として、補助者又は使用者等は、周波数設定部14により検出対象とする周波数成分の周波数の値を設定する。
【0064】
人為的に設定する場合、周波数の値は、補助者の経験則により設定しても良いが、より好ましくは、使用者の随意運動にともなう脳波信号の信号強度の時間変化を監視し、どの周波数成分が変化するかを明らかにすることで決定する。たとえば、使用者がリハビリテーションを行っている間、周波数時間領域における脳波信号のパワースペクトルを取得し、使用者がリハビリ対象部位の随意運動を行うか、又は、想起した時間に、パワースペクトルが変化している周波数成分を特定することにより行う。周波数の値の設定は入力部15に周波数成分の周波数の値を入力することにより行う。たとえば、表示装置に表示されている設定画面にキーボードやマウス等を用いて入力したり、ダイヤルやボタン等により選択したりする。入力部15から入力された周波数の値は、周波数設定部14により受け付けられ、記憶部16に記憶される。
【0065】
なお、複数の周波数の値を登録可能な場合は、使用者や補助者等は、初期設定として、周波数の値及びそれを一意に特定可能な識別子を入力する。入力された識別子と周波数の値は関連付けて記憶部16に記憶される。
【0066】
また、周波数の値を自動設定とする場合は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10のテストモードのスイッチ(図示せず)をONとし、使用者に安静状態と随意運動を行うか又は想起する状態を繰り返させる。その脳波信号は、測定部13にて測定され、周波数設定部14にて分析されて検出対象とする周波数成分が特定され、その周波数の値が記憶部16に記憶される。なお、テストデータとしては、別途、外部装置としての脳波計にて取得したテストデータを入力しても良い。また、記憶部16に記憶された周波数の値は、必要に応じて入力部15により微調整しても良い。
【0067】
このようにして周波数の値が設定されると、検出部11は、記憶部16を参照し、記憶部16に記憶されている周波数の値を検出対象となる周波数成分の周波数の値とし、脳波信号の信号強度の時間変化を検出する。記憶部16に周波数の値が複数登録されている場合は、リハビリテーション実施前に、使用者や補助者等が、別途設けられる識別子入力部(図示せず)から識別子を入力すると、検出部11は、その識別子に対応する周波数の値を記憶部16から読み出し、その周波数の値を検出対象の周波数成分の周波数の値に設定し、その周波数成分の信号強度の時間変化の検出を行う。
【0068】
以下、上記実施の形態と同様であるため、説明を省略する。このように、周波数の値を設定可能とすることで、適切な周波数成分を検出対象とすることができる。随意運動に付随して信号強度が変化する周波数成分は使用者の属性、障害の状態や、障害の部位、個人差などの様々な要因により、個々のケースごとに異なるが、これにより、様々なケースに対応可能となる。
【0069】
<第三の実施の形態>
図4は、本実施の形態のリハビリテーションシステムS3を説明する説明図である。リハビリテーションシステムS3は、上記リハビリテーションシステムS2に機能が追加されたものであり、検出部11における所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出するときの、検出条件の設定を受け付ける検出条件設定部17を備える。随意運動に付随して所定周波数成分がどのように変化するかは、使用者の属性、リハビリ対象部位、障害の状態、個人差など、様々な要因により異なる。これは、発明者等が実験等により新たに見出した事象である。そこで、検出条件設定部17により検出条件を設定可能として、様々なケースに対応可能とした。なお、上記実施の形態と同一要素については同一の符号を用いて説明を省略する。
【0070】
検出条件設定部17による検出条件の設定は、人為的に入力されても良いし、データ解析により自動設定されても良い。
【0071】
人為的に入力される場合、検出条件設定部17は、入力部15から入力された検出条件を受け付け、その検出条件を記憶部16に記憶する。入力部15は、キーボードやマウス等を用いて周波数の値を入力可能としても良いし、ダイヤルやボタンにより検出条件を選択的に設定することにより入力可能としても良い。検出条件は、表示部(図示せず)に表示させるようにしても良い。また、検出条件は、一つのみ設定可能としても良いが、使用者ごと、リハビリ対象部位ごと等、複数の検出条件を登録可能としても良い。この場合は、検出条件とそれを一意に特定可能な識別子とを入力させ、これらを関連付けて記憶部16に記憶することとなる。なお、この識別子は、上記実施の形態の周波数の値に対応付けられている識別子と共通又は関連性を有するものとしても良い。
【0072】
ここで、入力される検出条件は、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出可能な条件であれば良いが、本実施の形態では、信号強度と閾値とを比較することにより時間変化を検出しているため、検出条件の設定は、この閾値を入力部15から入力することにより行われる。
【0073】
一方、自動設定とする場合、検出条件設定部17は、測定部13にて安静状態と随意運動を行ったとき又は想起したときの状態の脳波信号の信号強度データをテストデータとして受け取り、安静状態と随意運動又は想起状態の脳波信号を比較するなどして、特徴抽出を行い、随意運動時又は想起時に所定周波数成分に生じる変化の規則性を導出する。導出された変化の規則性は、検出条件として記憶部16に記憶される。本実施の形態では、検出条件設定部17においては、特徴抽出等により安静時信号強度範囲と随意運動時信号強度範囲を特定する処理が行われ、安静時信号強度範囲の値と随意運動時信号強度の範囲の値、若しくは、その境界となる閾値が記憶部16に記憶される。このときのテストデータは複数であるほうが好ましい。また、記憶部16に記憶された検出条件は、表示部(図示せず)に表示し、入力部15により随時微調整可能とするほうが好ましい。また、テストデータは外部装置としての脳波計により採取されてリハビリテーション用脳波処理装置10に入力されても良い。
【0074】
なお、テストデータは、先ず周波数設定部14にて周波数の値を特定し、その後に、検出条件設定部17にて周波数設定部14にて特定された周波数の値の変化の規則性を導出するようにしても良い。この場合、周波数設定部14と検出条件設定部17の処理はシームレスに行われても良い。
【0075】
検出部11は、検出条件設定部17により検出条件が設定されると、記憶部16を参照し、記憶部16に記憶されている検出条件を用いて時間変化の検出を行う。
【0076】
以下、本実施の形態のリハビリテーションシステムS3の使用態様を説明する。まず、初期設定として、使用者又はその補助者等は、検出条件設定部17により閾値を設定する。
【0077】
人為的に設定する場合、検出条件は、補助者の経験則により設定しても良いが、より好ましくは、使用者の随意運動にともなう脳波信号の信号強度の時間変化を監視し、信号強度がどのように変化するかを明らかにすることで決定する。たとえば、使用者がリハビリテーションを行っている間、周波数時間領域における脳波信号のパワースペクトルを取得し、使用者がリハビリ対象部位の随意運動を行うか、又は、想起した時間に、パワースペクトルが変化している周波数成分を特定し、変化の規則性を導出する。本実施の形態では、その周波数成分の安静時信号強度範囲と随意運動時信号強度範囲を明らかにし、各範囲、又は、その境界となる閾値を入力部15から入力する。入力部15から入力された各範囲又は閾値は、記憶部16に記憶される。
【0078】
なお、複数の閾値を登録可能な場合は、使用者や補助者等は、初期設定として、検出条件及びそれを一意に特定可能な識別子を入力する。入力された識別子と閾値は関連付けて記憶部15に記憶される。
【0079】
また、検出条件を自動設定とする場合は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10のテストモードのスイッチ(図示せず)をONとし、使用者に安静状態と随意運動を行うか又は想起する状態を繰り返させる。その脳波信号は、測定部13にて測定され、周波数設定部14にて分析されて時間変化の規則性が特定され、その時間変化の規則性が検出条件として記憶部16に記憶される。本実施の形態では、安静時信号強度範囲の値と随意運動時信号強度の範囲の値、若しくは、その境界となる閾値が記憶される。なお、テストデータとしては、別途、外部装置である脳波計により採取したテストデータを入力しても良い。また、記憶部16に記憶された検出条件は、必要に応じて入力部15により微調整しても良い。
【0080】
このようにして検出条件が設定されると、検出部11は、記憶部16を参照して記憶されている検出条件を取得し、その検出条件に基づいて信号強度の時間変化を検出する。本実施の形態では、記憶部16には閾値が記憶されるため、検出部11は、その閾値を取得し、脳波の信号強度と閾値とを比較して、脳波の信号強度の時間変化を検出する。
【0081】
なお、記憶部16に複数の検出条件が登録されている場合は、使用者や補助者等により別途設けられる識別子入力部(図示せず)から識別子が入力されると、検出部11は、その識別子に対応する検出条件を記憶部16から読み出し、その検出条件を用いて信号強度の時間変化の検出を行う。なお、この識別子は上記第二の実施の形態の識別子と共通としても良い。この場合、記憶部16から識別子に対応する周波数の値及び検出条件を取得し、取得した周波数の値に対応する周波数成分の信号強度について、取得した検出条件に基づき、検出処理を行う。
【0082】
以下、上記実施の形態と同様であるため、説明を省略する。このように、検出条件を設定することで、適切な検出条件に基づいて時間変化を検出できる。信号強度がどのように変化するかは、使用者の属性、障害の状態や、障害の部位、個人差などの様々な要因により、個々のケースごとに異なるが、これにより、様々なケースに対応可能となる。
【0083】
<本発明の電極パッド>
図5は、本発明の電極パッド30を側面の側から説明する説明図である。電極パッド30は、上記実施の形態のリハビリ用脳波信号処理装置10で用いる脳波信号を採取するために用いられるものであり、基台31と、基台31から突出する複数の突起状電極32と導電層33を備える。
【0084】
基台31と突起状電極32は、一般的な脳波採取用の電極パッドと同様の構成であり、導電性を有する突起状の電極32が平板形状や円柱形状等の基台31に複数配列される構成を有する。突起状電極32の個数は複数であれば良く、限定されるものではない。
【0085】
導電層33は、分散媒が導電性を有するジェル層から構成されるか、又は、保水性を有する柔軟性材料に導電性液体が保持された層にて構成されている。ジェルは、高粘性の分散質により流動性を失うことで系全体として固体状となるものであり、例えば親水性の樹脂マトリックスの中に水や電解質を安定的に保持させたヒドロゲルが挙げられる。また、保水性を有する柔軟性材料としては、例えばスポンジなどが挙げられ、導電性液体としては、例えば水や電解液などが挙げられる。この導電層33は、外部から圧力がかけられると、その圧力の強さに応じて、導電性分散媒や導電性液体を外部に放出する機能を有する。なお、この導電層33は粘着性を有し、頭皮に貼着可能なものであってもよい。また、導電層33は、基台31に貼着等により固定され、突起状電極32の少なくとも先端付近とは固定されていないことが好ましい。
【0086】
導電層33は、複数の突起状電極32,,,32の間に充填されており、突起状電極32,,,32の先端が導電層33に埋没するか(図5(a)参照)、又は、導電層33の表面と面一となっている(図5(b)参照)。
【0087】
以下、電極パッド30の使用状態について説明する。図6(a)は、電極パッド30の使用状態を説明する説明図であり、図6(b)は使用状態における電極パッド30と頭部Hとの接触部分の拡大図である。電極パッド30は、導電層33の側を頭皮に接するようにして頭部Hに配置される。突起状電極32の先端は導電層33に埋没しているか、又は、導電層33の表面と面一であるが、電極パッド30を頭部Hに対して動かしながら押圧して接触させると、柔軟性を有する導電層33が変形して突起状電極32が導電層33から突出するとともに、ブラシと同様の原理によって突起状電極32が毛髪hrを掻き分け(毛髪を整列させて頭皮を露出させ)、頭部Hに確実に接することとなる。このとき、導電層33は毛髪hrの厚みにより押し上げられて凹状態となり、導電層33と頭部Hとの間に間隙aが生じる。この間隙aは、空間のままであると電気抵抗が高く、むしろコンデンサのように脳波信号を蓄電することとなることから、高インピーダンスを示し、脳波信号の採取の妨げになる。この点、電極パッド30は、その間隙aに、導電層33から染み出した導電性分散媒や導電性液体が充填されるため、突起状電極32だけでなく、導電層33及び間隙aの部分でも通電可能となり、インピーダンスを低減することができる。
【0088】
ここで、導電層33としては、剥がす作業が容易な粘着性ジェルシートを用いることが好ましい。従来の導電性ペーストを用いる場合と比較すると、導電性ペーストは粘着性が高く、脳波採取後に毛髪や頭皮に残留するため、アルコール等で溶解洗浄したり、洗髪したりするなど、後処理に時間と手間が生じていた。その点、容易に剥がすことができる粘着性保水ジェルシートを用いることにより、頭皮洗浄等が不要となり、取り外し作業の手間と時間の効率化を図ることができる。また、使い捨てとできるため、感染症も防止することができる。
【0089】
発明者は、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置及びリハビリテーションシステムの有用性を実証するために、以下の実験1と実験2を行った。
【0090】
<実験1>
実験1として、健常者における随意運動想起時の脳波を取得した。被験者を成人健常者1名とし、被験者の頭部に、図7に示すように、国際10−20法に準拠したC3,C1,FC3,C5,CP3,C4,C6,FC4,C2,CP4の位置に電極を配置した。電極は、上記実施の形態の電極パッドを用いた。
【0091】
実験タスクとして、タスク1:左手を把持運動の想起、タスク2:右手の把持運動の想起、タスク3:足を動作させる随意運動の想起、の三つのタスクを設定し、各タスクを被験者に行わせた。図8に示すように、被験者には、随意運動想起開始時刻を0とすると、−5秒から−2秒の間は安静時間、−2秒から0秒の間を準備時間、0秒から5秒の間を随意運動想起(イメージ)時間、5秒から10秒の間を安静時間とし、タスク1からタスク3の各々について、これらを順次行わせた。
【0092】
実験条件としては、アナログ信号としての脳波からサンプリング周波数を256Hzとして信号をサンプリングし、ディジタル信号に変換した。また、バンドエリミネーションフィルタ(Notchフィルタ)を用いて、一定の周波数帯域の信号を減衰させ、それ以外の帯域の信号を通過させる処理を行った。これは、商用電源に起因する電磁ノイズの混入を防ぐためである。
【0093】
解析方法は、解析窓幅を1秒とし、解析窓にはハミング窓を使用した。解析窓のオーバーラップは87.5%とした。そして、現在の解析窓に87.5%オーバーラップさせるように解析窓をずらしながら、解析窓ごとにパワースペクトルを算出し、これをすべての周波数成分について行い、周波数時間領域におけるパワースペクトル分布を表すデータを生成した。
【0094】
図9から図11は、実験1によって得られたパワースペクトル分布を表すデータである。なお、各データは、周波数・信号強度・時間の3要素を2次元で表現するために、縦軸を周波数、横軸を時間とし、パワースペクトルの強度は色で表現している。なお、信号強度が高くなるにつれて黒→青→緑→赤と色が変化する表現となっている。
【0095】
なお、図9から図11の各データは、(a)が右手運動野付近から採取された脳波信号のデータであり、(b)が左手運動野付近から採取された脳波信号のデータである。また、各データは、図12に示される導出方法により導出されている。図12(a)は図9(a),図10(a),図11(a)に対応し、図12(b)は図9(b),図10(b),図11(b)に対応している。図9を例に説明すると、図9(a)のうち中央のデータ(a−0)は図7に示されるC3,C1,FC3,C5,CP3の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いてラプラシアン導出により導出した信号強度を示すデータであり、その右のデータ(a−1)はC3とC1の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その上のデータ(a−2)はC3とFC3の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その左のデータ(a−3)はC3とC5の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その下のデータ(a−4)はC3とCP3の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータである。また、図9(b)のうちデータ(b−0)は図7に示されるC4,C2,FC4,C6,CP4の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いてラプラシアン導出により導出した信号強度を示すデータであり、その右のデータ(b−1)はC3とC6の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その上のデータ(b−2)はC3とFC4の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その左のデータ(b−3)はC4とC2の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その下のデータ(b−4)はC3とCP4の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータである。以下、図10、図11についても同様である。
【0096】
タスク1:左手の把持運動の想起
左手運動野付近から採取された図9(b)のデータ(b−0)から(b−4)を参照すると、10Hz付近、及び、25Hz付近の周波数成分にて、随意運動想起時間(0から5秒)に対応して、信号強度が青色を示す程度に低くなっている。この青色箇所が随意運動に伴う事象関連脱同期により信号強度が低くなった箇所である。なお、−2秒から0秒にて信号強度が低くなるのは、−2秒から0秒の準備時間から被験者が早々に随意運動を想起し始めているためである。
【0097】
なお、右手運動野付近から採取された図9(a)のデータ(a−0)から(a−4)にも、随意運動想起時間に対応して信号強度が低くなる傾向が見られるが、本発明は、左手の把持運動を補助するときは、左手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(b−0)から(b−4)を用いるため、これらのデータ(b−0)から(b−4)で時間変化が検出されれば問題はない。
【0098】
タスク2:右手の把持運動の想起
右手運動野付近から採取された図10(a)のデータ(a−0)から(a−4)を参照すると、10Hz付近、及び、25Hz付近にて、随意運動想起時間(0から5秒)に対応して、脳波の信号強度が青色を示す程度に低くなっている。この青色部分が随意運動に伴う事象関連脱同期により信号強度が低くなった部分である。なお、−2秒から0秒にて信号強度が弱くなるのは、−2秒から0秒の準備時間から被験者が早々に随意運動を想起し始めているためである。
【0099】
なお、左手運動野付近から採取された図10(b)のデータ(b−0)から(b−4)にも、随意運動想起時間に対応して信号強度が低くなる傾向が見られるが、本発明は、右手の把持運動を補助するときは、右手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(a−0)から(a−4)を用いるため、右手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(a−0)から(a−4)で時間変化が検出されれば問題はない。
【0100】
タスク3:足の随意運動を想起
図11に示されるいずれのデータにもわずかな青色部分が見られるものの、図9(b)や図10(a)に示されるデータほどの特徴は見られない。足の随意運動を想起しても、右手運動野や左手運動野の付近には、脳波の信号強度に大きな時間変化が表れないことから、タスク1,2の信号強度の変化は左手把持運動又は右手把持運動に伴うものであることがわかる。
【0101】
すなわち、図9のデータ(b−0)から(b−4)や図10のデータ(a−0)から(a−4)に表れた青色で示される範囲が上述した随意運動時信号強度範囲に相当し、それ以外が安静時信号強度範囲に相当し、随意運動信号強度範囲と安静時信号強度範囲との境界となる信号強度の値が閾値に相当する。なお、ここでは、閾値を平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合(%)とし、具体的には患者の訓練度合いに応じて5%から30%の間で設定する。この被験者の場合は、閾値を15%とした。これらの結果から、10Hz及び25Hzの周波数成分、好ましくは10Hz以上30Hz以下の周波数帯域に含まれる周波数成分の時間変化を検出することが好ましいことがわかる。そして、これらの周波数成分のうち、いずれかの周波数成分の信号強度が安静時信号強度範囲から随意運動時信号強度範囲に遷移したときに、検出部11で信号強度の時間変化が検出され、リハビリテーション用運動補助装置kに把持姿勢とする制御信号が送られ、信号強度が随意運動時信号強度範囲から安静時信号強度範囲に遷移したときに、検出部11で信号強度の時間変化が検出され、リハビリテーション用運動補助装置に把持姿勢を解除して手掌を開いた初期姿勢とする制御信号が送られることとなる。なお、安静時信号強度範囲や随意運動時信号強度範囲の寸断による誤動作を防止するために、所定時間以下の寸断を時間変化から除外しても良い。すなわち、検出部11は、安静時信号強度範囲又は運動時信号強度範囲が所定時間以上の連続性を有する場合のみ、時間変化として検出するようにしても良い。なお、ここでの閾値の設定については、上記の手段に限られるものではなく、パターン認識に使われている様々な方法が使用できる。例えば、線形判別分析(Linear Discriminant Analysis ;LAD)やサポートベクターマシン(Support Vector Machine ;SVM)といった方法でもよい。
【0102】
なお、図9(b)及び図10(a)の各データにおいて、把持運動想起時(−2秒から0秒)において随意運動時信号強度範囲である青色箇所が見られるが、これは、上述したように、被験者が準備時間から把持運動を想起しているためであり、本発明によれば、この時間変化に合わせてリハビリテーション用運動補助装置が連動することとなるため、この点からも本発明が有効性であることがわかる。たとえば、補助者が規定のタイミングに合わせて随意運動を補助するリハビリテーションの場合、被験者が規定外に準備時間から想起しても、補助者は規定の時間で補助動作を行うこととなるため、補助のタイミングにずれが生じることとなるが、本発明によれば、規定のタイミングよりも早く随意運動を想起した場合であっても、その想起のタイミングに合わせて随意運動を補助することとなる。
【0103】
以上のことから、本発明によれば、リハビリテーションにおいて、使用者の随意運動又は随意運動の想起に合わせてタイミング良く補助を行うことができることがわかる。
【0104】
<実験2>
脳卒中片麻痺患者における随意運動想起時の脳波を取得した。被験者を左麻痺の脳卒中片麻痺患者1名とし、被験者の頭部に図13に示すように、国際10−20法に準拠したFC1とC1の位置に電極を配置した。電極は上記実施の形態の電極パッドを用いた。
【0105】
実験タスクは、麻痺側である左手の把持運動の想起である。図14に示すように、被験者には、随意運動想起開始時刻を0とすると、−10秒から−2秒の間は安静時間、−2秒から0秒の間を準備時間、0秒から5秒の間を随意運動想起(イメージ)時間とし、これらを順次行わせた。実験条件及び解析方法は上記実験1と同じである。
【0106】
図15に、実験結果を示す。図15(a)は、右手運動野付近から採取された脳波信号の分布を示すデータであり、図15(b)は、左手運動野付近から採取された脳波の信号強度の分布を示すデータである。信号強度は、図15(a)のデータはFC1とC1の位置(図13参照)に配置された電極から採取された脳波信号を用いて双極導出により導出し、図15(b)のデータはFC2とC2の位置(図13参照)に配置された電極から採取された脳波信号を用いて双極導出により導出した。
【0107】
左手運動野付近から採取した脳波の信号強度を示す図15(b)のデータを参照すると、10Hzから20Hzの周波数成分にて、随意運動想起時間(0秒から5秒付近)に対応して、信号強度が青色を示す程度に低くなっている。この青色箇所が随意運動に伴う事象関連脱同期により信号強度が低くなった箇所である。
【0108】
なお、右手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(図15(a))にも、随意運動想起時間に対応して信号強度が低くなる傾向が見られるが、本発明は、左手の把持運動を補助するときは、左手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(図15(b))を用いるため、左手運動野付近の信号強度のデータ(図15(b))で時間変化が検出されれば問題はない。
【0109】
すなわち、この被験者の場合は、リハビリテーション用信号処理装置にて10Hz以上20Hz以下の周波数成分の時間変化から、平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合(%)を算出し、予め記憶させておいた閾値と算出した割合とを比較し、算出した割合が閾値よりも低い場合は随意運動想起時と判断して、リハビリテーション用補助装置を動作させることにより、タイミング良く随意運動を補助することが可能となる。なお、閾値は上記実験1と同様に設定する点、及び、安静時信号強度範囲や運動時信号強度範囲の寸断による誤動作を防止するために、安静時信号強度範囲又は運動時信号強度範囲が所定時間以上の連続性を有する場合のみ時間変化として検出するようにしても良い点、閾値の設定にはパターン認識に使用される様々な手段が使用できる点については上記実験1と同じである。
【0110】
<実験3,4>
つぎに、発明者等は、本発明の電極パッドの有用性を実証するために、以下の実験3と実験4を行った。
【0111】
図16(a)(b)に示す電極を用いて比較実験を行った。図16(a)は比較対象の電極パッドE1であり、基台に複数の突起状電極を備え、各突起状電極の間には空間を有するものであり、図16(b)は本発明の電極パッドE2であり、基台に複数の突起状電極を備え、突起状電極の間に導電層として導電性ジェルが充填されているもの、すなわち、電極E1の突起状電極の間に導電性ジェルを充填したものである。
【0112】
電極パッドE1及び電極パッドE2を被験者の頭部に同一条件にて配置し、インピーダンスを測定した。取り付けに際しては、電極パッドE1,E2を頭髪を掻き分けるようにして左右に10回動かしながら取り付けた。
【0113】
実験3として、被験者を高齢者(65歳以上)男性2名とし、各3回ずつインピーダンスを測定した。また、実験4として、被験者を若年者(23歳から25歳)3名とし、各3回ずつインピーダンスを測定した。なお、「−」は100kΩ以上を表す。
【0114】
図17は実験3の結果を示す図であり、図18は実験4の結果を示す図である。ほとんどのケースにおいて、電極パッドE1に比較して電極パッドE2のインピーダンスが低い値を示している。これは、電極パッドE2によると、導電層、及び、導電層と頭皮との間に生じる間隙を充填する導電性分散媒により、突起状電極のみならず、それらの間も導電性を有することとなるためである。したがって、本発明の電極パッドによれば、頭皮と電極間のインピーダンスを低減し、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置に有用な脳波信号を採取することが可能となる。
【0115】
このように、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置、及び、リハビリテーションシステムによれば、随意運動に伴う脳波の信号強度の時間変化を検出し、その時間変化に合わせてリハビリテーション用運動補助装置を動作させるため、使用者が随意運動を行うか、又は、想起したタイミングに合わせて、その随意運動を補助することが可能となる。とくに、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取される脳波信号を用い、更にその脳波信号から所定の周波数成分のみに限定して変化を検出するため、随意運動に付随した変化を確実に検出することができ、非常に高いリハビリ効果を得ることが可能となる。また、本発明の電極パッドによれば、頭部と電極間のインピーダンスを低減することが可能となり、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置に有用な脳波信号を採取することが可能となる。
【0116】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態では、手の把持運動のリハビリテーションに使用されるものを例に説明したが、上肢、下肢、手指、上肢、その他、身体の部位の随意運動のリハビリテーションに使用されるものであれば良い。この場合は、そのリハビリ部位や随意運動の種類に応じて時間変化を検出し、制御信号を出力すれば良く、上記実施の形態に限定されるものではない。また、リハビリテーション用運動補助装置についても、例えば、膝の屈曲伸展を補助するものや、肘の屈曲伸展を補助するものや、歩行を補助するものや、そのリハビリ部位と随意運動に応じた装置とすれば良く、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0117】
また、上述した実施の形態では、電極を用いて脳波信号を取得するものとして説明したが、脳波信号を取得可能であれば必ずしも電極を用いる必要はない。ただし、本発明は、非侵襲的に脳波測定を行うのが望ましいことから、電極を用いて脳波信号を取得するのが好適である。この場合、電極が配置されたヘッドセットを用意し、これを観測者の頭部に装着するようにすることにより、容易に脳波信号を取得することが可能となる。さらには、本発明の電極パッドを用いることにより、インピーダンスを抑制できるため、好適である。
【0118】
さらに、上述した実施の形態では、脳波を測定する測定部における処理については特に詳細には言及していないが、例えば、信号の周波数に応じて解析窓長を変化させたり、任意の解析窓を適用可能であり、使用する解析窓や解析窓長によって解析精度を向上させることが期待できる。
【0119】
さらに、上記各実施の形態において、筋電信号によりリハビリテーション用運動補助装置を制御する機能を備えるようにしても良い。脳波信号による制御と、筋電信号による制御とを、患者の状態に応じて適宜利用することにより、更なるリハビリ効果が期待できるためである。この場合、電極等の筋電信号採取手段をリハビリ対象部位付近に配置し、リハビリ対象部位の筋電信号を採取する。筋電信号採取手段からの信号は、リハビリテーション用筋電信号処理装置にリアルタイムに入力され、筋電信号が検知されると、リハビリテーション用運動補助装置を動作させる制御信号を出力する。リハビリテーション用運動補助装置はリハビリテーション用筋電信号処理装置から制御信号を受信すると、その制御信号に応じて動作することとなる。脳波信号による制御とするか、筋電信号による制御とするかは、患者の運動麻痺の状態に応じて適宜判断すればよい。なお、リハビリテーション用筋電信号処理装置と本発明のリハビリテーション用脳波処理装置とは、両機能を備えるコンピュータシステムにより実現して一体的に構成しても良いし、各々を独立したコンピュータシステムにより実現して別体として構成しても良い。
【0120】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0121】
S1,S2,S3 リハビリテーションシステム、
10 リハビリテーション用脳波信号処理装置、
11 検出部、
12 制御信号出力部、
13 測定部、
14 周波数設定部、
15 入力部、
16 記憶部、
17 検出条件設定部、
20 リハビリテーション用運動補助装置、
21 装着部、
21a 装着部第一部材、
21b 装着部第二部材、
22 駆動部、
22a 駆動源、
22a1 モータ、
22a2 制御回路、
22b 動力伝達部、
22b1 動力伝達部第一部材、
22b2 動力伝達部第二部材、
30 電極パッド、
31 基台、
32 突起状電極、
33 導電層、
H 頭部、
Hn 手、
hr 毛髪
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動療法によるリハビリテーションの際に、随意運動を補助するために用いられるリハビリテーション用脳波信号処理装置、それを備えるリハビリテーションシステム、及び、それに用いられる電極パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、脳卒中などの脳疾患や事故等を原因として、身体の一部が麻痺したり、運動機能が低下したりして、随意運動が不能又は低下した場合、その随意運動の機能を回復するために、様々なリハビリテーションが行われる。このリハビリテーションのうち、障害部位を運動させて運動機能の回復を図る方法は運動療法と呼ばれており、広く行われている。
【0003】
この運動療法では、患者自身にて身体を動かすのみの場合と比較して、様々な意識付けや補助の元で身体を動かすほうが効果的であることが知られている。たとえば、片麻痺患者が麻痺側の手を使って物を把持する運動を行う場合は、患者が把持運動を行うとともに、その動きを外部から介助することで、リハビリテーションの効果を上げることができる。
【0004】
この運動療法は、一般的には、理学療法士などの医療スタッフが患者の傍に付き添い、患者の動きに合わせながらリハビリ対象部位を動かすようにして、患者の動きを介助することにより行われることが多い。
【0005】
また、近年は、リハビリ装置を用いた運動療法も取り入れられている。たとえば、下記特許文献1には、複数の装着部の間に懸架されるアクチュエータと、筋肉の動きを検知するセンサを備え、検知した筋肉の動きにもとづいて、アクチュエータを制御する動作支援装置が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、力センサや位置・角度センサのセンシング情報をもとに、力制御や位置制御によって動作が制御されるリハビリテーション装置であり、筋硬度計により訓練者の下肢の筋硬度を計測し、計測された筋硬度に応じて股や膝や足関節の最大屈曲角度を変化させるように、下肢駆動部を駆動する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−12358号公報
【特許文献2】特開2004−081576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、この介助を伴う運動療法を効果的に行うには、患者の随意運動に合わせてタイミング良く随意運動を補助することが必要である。しかしながら、理学療法士などの人手による補助の場合は、補助者が患者の随意運動の様子を見ながらタイミングを合わせる必要がある。このため、タイミング良く補助を行うには熟練を要し、更に、随意運動が微弱又は不能な重度の患者については、熟練者であってさえ、そのタイミングを図ることは極めて困難な状況にあった。また、上記特許文献1や特許文献2のような装置では、筋肉の動きや硬度を検知して装置を駆動させるため、患者による随意運動が必要であり、随意運動が検知されない程に微弱であったり、まったく動かないような重度の患者に対しては効果が得られなかった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、随意運動をタイミングよく補助することができ、特に、随意運動が微弱又は不能な重度の患者に対しても、適切なタイミングで随意運動を補助することができ、これにより高いリハビリ効果を得ることが可能となるリハビリテーション用脳波信号処理装置、それを備えるリハビリテーションシステム、及び、それに用いられる電極パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、運動療法のリハビリテーションにおいて、適切なタイミングで随意運動を補助することが可能な方法を鋭意模索した。その結果、患者が随意運動を行うか、又は、随意運動を想起すると、事象関連脱同期により脳波に変化が生じることから、この変化を検出してリハビリテーション装置を連動させることにより、随意運動をタイミング良く補助することが可能となり、また、脳波は随意運動を行ったときのみならず、想起しただけでも変化が生じることから、特に随意運動が微弱又は不能な重度の患者に対しても、適切なタイミングで運動を補助することが可能となると考えた。そして、発明者等は、更に、実験や検証を重ねた結果、例えば脳全体から採取した脳波を用い、すべての周波数成分を対象として随意運動時の脳波の変化を検出し、リハビリテーション装置を連動させても、リハビリの効果はいっこうに得られないが、例えば左手のリハビリテーションであれば左手運動野付近から脳波を採取するといったように、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から脳波を採取し、更にその脳波のうち所定周波数成分に限定して変化を検出し、リハビリテーション装置を連動させると、非常に高いリハビリ効果が得られることを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明にかかるリハビリテーション用脳波信号処理装置は、
運動療法によるリハビリテーションのために、脳波信号を処理するリハビリテーション用脳波信号処理装置であって、
脳のリハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する検出部と、
当該検出部により所定周波数成分の信号強度の時間変化が検出されると、身体の随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置の動作を制御する制御信号を出力する制御信号出力部を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるリハビリテーションシステムは、前記リハビリテーション用脳波信号処理装置と、身体の随意運動の機能回復のためにその随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置とを備え、
前記リハビリテーション用運動補助装置は、前記リハビリテーション用脳波信号処理装置から出力される前記制御信号により動作が制御されることを特徴とする。
【0013】
上述の通り、脳波は随意運動を行ったときや、随意運動を想起したときに変化が生じるが、この発明によれば、使用者から採取する脳波について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出し、その時間変化に基づいて、リハビリテーション用運動補助装置の動作が制御される。これにより、随意運動に付随して生じる脳波の変化に合わせてリハビリテーション用補助装置が動作することとなり、随意運動をタイミング良く補助することができる。脳波は随意運動が行われたときのみならず、随意運動を想起したときにも変化が生じることから、特に、随意運動が微弱又は不能な重度の患者に対しても、タイミング良く補助することが可能となる。ここで、脳波信号としては、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号を用い、更に、その脳波信号のうち所定周波数成分のみに限定して、時間変化を検出することが非常に重要である。上述したように、例えば、脳全体から採取した脳波信号のすべての周波数成分について時間変化を検出しても、リハビリ効果はいっこうに得られないが、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から脳波信号を採取し、更にその脳波信号のうち所定周波数成分に限定して時間変化を検出することで、非常に高いリハビリ効果が得られるためである。これは、発明者等が新たに見出し、初めて装置として実現したものである。
【0014】
また、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置は、前記検出部における時間変化の検出対象となる所定周波数成分の周波数の値を設定する周波数設定部を備えることを特徴とする。
【0015】
随意運動に付随してどの周波数成分が変化するかは、使用者の属性(年齢、性別など)、障害の状態、障害の部位、個人差、その他、個別具体的な様々な要因により異なる。これは、発明者等が実験等により新たに見出した事象である。本発明によれば、周波数設定部により検出対象とする所定周波数成分の周波数の値を設定できるため、様々なケースに対応可能となる。
【0016】
また、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置は、前記検出部における所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出するときの、検出条件を設定する検出条件設定部を備えることを特徴とする。
【0017】
随意運動に付随して所定周波数成分の信号強度がどのように変化するかは、使用者の属性(年齢、性別など)、障害の状態、障害の部位、個人差、その他、個別具体的な様々な要因により異なる。これは、発明者等が実験等により新たに見出した事象である。本発明によれば、検出条件設定部により検出条件を設定できるため、様々なケースに対応可能となる。
【0018】
また、本発明の電極パッドは、前記リハビリテーション用脳波信号処理装置とともに用いられ、前記脳波信号を採取するために頭部に装着される電極パッドであり、基台と、前記基台から突出する複数の突起状電極と、分散媒が導電性を有するジェルから構成されるか、又は、保水性を有する柔軟性材料に導電性液体を保持する導電層を備え、前記導電層は少なくとも前記複数の突起状電極の間を充填するとともに、前記突起状電極の先端が前記導電層に埋没するか、又は、前記導電層の表面と面一であることを特徴とする。ここで、ジェルは、高粘性の分散質により流動性を失うことで系全体として固体状となっており、押圧力により分散媒が外部に染み出すものである。
【0019】
前記リハビリテーション用脳波信号処理装置に用いる脳波信号を採取するためには、数マイクロボルトオーダーの電位を増幅できる増幅装置が必要であるが、従来の電極を用いた場合、頭皮―電極間のインピーダンスが数百メガオーム/10Hzのため、有用な脳波信号を採取することは困難であった。このため、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置に有用な脳波信号を採取するためには、頭皮―電極間のインピーダンスを低下させることが重要な課題である。この発明によれば、電極パッドを頭部に押し当てながら動かすと、柔軟性を有する導電層が変形して複数の突起状電極の先端が導電層から突出するとともに、頭髪を掻き分けて頭皮に確実に接触する。このとき、導電層と頭皮との間には頭髪が挟まることから、頭髪の厚みにより導電層の表面が凹状となり、頭部と導電層との間には間隙が生じるが、その間隙には導電層から染み出す導電性分散媒又は導電性液体が充填される。これにより、突起状電極のみならず、導電層及び染み出した導電性分散媒又は導電性液体でも通電可能となり、インピーダンスが低減され、上記リハビリテーション用脳波信号処理装置に有用な脳波信号を採取することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のリハビリテーション用脳波処理装置やリハビリテーションシステムによれば、脳波信号の所定周波数成分の信号強度の時間変化に合わせてリハビリテーション用補助装置を連動させることができることから、適切なタイミングで随意運動を補助することが可能となる。とくに、随意運動が微弱又は不能な重度の患者の場合は、人手による補助ではタイミングを図ることが極めて困難であり、又、筋肉の動きを検知して動作するような従来の装置では効果が得られないが、本発明によれば、脳波の変化に基づいてリハビリテーション用補助装置を動作させることができるため、このような重度の患者に対しても適切なタイミングで随意運動を補助することができる。そして、本発明では、リハビリ対象部位に対応する運動野から脳波信号を採取し、その脳波信号のうち所定周波数成分に限定して変化を検出することにより、非常に高いリハビリ効果を得ることができる
【0021】
また、本発明の電極パッドによれば、突起状電極のみならず、その間に充填される導電層及びその導電層から染み出す導電性分散媒又は導電性液体によっても通電可能となるため、インピーダンスを低減させることができ、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置に用いられる脳波信号を採取するに好適な電極パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一の実施の形態として示すリハビリテーションシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態として示すリハビリテーション用運動補助装置の一例を示す図である。
【図3】本発明の第二の実施の形態として示すリハビリテーションシステムの構成を示す図である。
【図4】本発明の第三の実施の形態として示すリハビリテーションシステムの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態として示す電極パッドを側面の側から説明する説明図であり、(a)はその一例、(b)は他の例を示す図である。
【図6】(a)は上記実施の形態の電極パッドの使用状態を説明する説明図であり、(b)はその一部拡大図である。
【図7】実験1における電極の配置を示す図である。
【図8】実験1におけるタスクの内容を説明する説明図である。
【図9】実験1における左手把持運動想起時の実験結果を示す図であり、(a)は右手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータ、(b)は左手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータである。
【図10】実験1における右手把持運動想起時の実験結果を示す図であり、(a)は右手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータ、(b)は左手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータである。
【図11】実験1における足を動かす随意運動想起時の実験結果を示す図であり、(a)は右手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータ、(b)は左手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータである。
【図12】実験1及び実験2において、各データの脳波信号の信号強度の導出方法を説明する説明図である。
【図13】実験2における電極の配置を示す図である。
【図14】実験2におけるタスクの内容を説明する説明図である。
【図15】実験2における左手把持運動想起時の実験結果を示す図であり、(a)は右手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータ、(b)は左手運動野付近から採取された脳波信号の信号強度のデータである。
【図16】実験3及び実験4に用いた電極パッドを説明する説明図であり、(a)は比較対象となる電極パッド、(b)は本発明の電極パッドを示す図である。
【図17】実験3の結果を示す図である。
【図18】実験4の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第一の実施の形態>
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態は、脳疾患や事故等を原因として、身体の一部が麻痺したり、随意運動が低下又は不能な患者に対して、運動療法によるリハビリテーションを行うためのリハビリテーションシステムである。ここでは、左手指麻痺により把持運動が困難となった患者のリハビリテーションに用いられるシステムを例に説明するが、これに限られるものではなく、例えば、肩や肘、上腕、腰、下肢、上肢など、身体の随意運動のリハビリテーションに用いられるものであれば良い。
【0024】
図1は、本実施の形態のリハビリテーションシステムS1を説明する説明図である。リハビリテーションシステムS1は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10と、リハビリテーション用運動補助装置20とを備える。
【0025】
リハビリテーション用脳波信号処理装置10は、検出部11と、制御信号出力部12とを備える。
【0026】
検出部11は、採取された脳波信号について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する機能を備える。
【0027】
ここで、脳波信号は、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号であることが重要である。リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取した脳波を用いなければ、リハビリ効果が得られないためである。これは、本願発明者が実験等により新たに見出した事象である。本実施の形態では、リハビリ対象部位が左手であるため、左手運動野付近から採取された脳波信号を用いる。
【0028】
脳波信号は、使用者の頭部に設置される脳波取得手段により採取される。例えば、直径が1cm程度の大きさからなる銀塩化銀電極等から構成される一般的な脳波信号採取用の電極を用いても良いが、脳波信号を取得できるものであれば、これに限られない。ただし、脳波信号を精度良く取得するためには、後述する本発明の電極パッドを用いることが好ましい。
【0029】
この脳波信号は、増幅及びA/D変換され、ディジタルデータとされた脳波信号が周波数解析されて、各周波数成分の信号強度を示す信号強度データ(周波数時間領域のスペクトルデータ)が得られる。この信号強度データは、外部装置として準備されたディジタル脳波計により得られるものを用いても良いし、リハビリテーション用脳波信号処理装置10の内部機能により得られるものを用いても良い。
【0030】
リハビリテーション用脳波信号処理装置10の内部機能として準備されるときは、使用者の頭部Hに配置された脳波取得手段を介して取得した脳波信号を解析することにより周波数成分の強度を測定する測定部13として実現される。くわしくは、測定部13は、増幅部13aとA/D変換部13bと蓄積部13cと解析部13dを備え、脳波信号が信号処理部13にリアルタイム且つ時系列に入力されると、増幅部13aにより所定の利得で増幅され,この増幅部13aにより増幅されたアナログ形式の脳波信号はA/D変換部13bによりディジタル形式に変換され,A/D変換部13bによりディジタル形式に変換された脳波信号は蓄積部13cに蓄積され、蓄積部13cに蓄積された脳波信号は解析部13dにおいて周波数解析されて各周波数成分の信号強度を示す信号強度データが生成される。この解析部13dでは、蓄積部13cに蓄積されたディジタルデータとしての脳波信号を所定のサンプリング周期で所定時間分だけ読み出し、FFTやMEMなどの周波数解析を行うことにより、周波数成分ごとに時系列にて信号強度を求め、周波数時間領域におけるパワースペクトルデータが生成される。なお、サンプリング周期は、処理のリアルタイム性を確保し且つエイリアジングを生じない程度であれば良い。
【0031】
なお、上記測定部13は、外部装置(脳波計)の一部として準備されても良い。この場合は、周波数成分ごとの信号強度を時系列に測定可能な脳波計が用いられ、この脳波計がリハビリ用脳波信号処理装置10に接続されるとともに、脳波計から出力された測定値(周波数時間領域におけるスペクトルデータ)が、リハビリ用脳波信号処理装置10にリアルタイム且つ時系列に入力される。入力された測定値は、メモリなどにより実現される蓄積部に蓄積される。
【0032】
このようにして、外部装置として準備された脳波計、又は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10の内部機能として準備された測定部13により得られる脳波信号の周波数成分ごとの信号強度のデータは、リアルタイム且つ時系列に検出部11に引き渡される。
【0033】
検出部11は、引き渡された周波数成分ごとの信号強度のデータを用いて、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する機能を備える。ここで、時間変化の検出対象は所定周波数成分に限定されることが重要である。これは、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取した脳波信号であり、更に、その脳波信号のうち所定周波数成分に限定しなければ、高いリハビリ効果が得られないためである。これは、本願発明者が新たに見出した事象である。なお、所定周波数成分の周波数の値は、ケースに応じて決定されれば良い。これは、随意運動に付随してどの周波数成分が変化するかは、使用者の属性(年齢、性別など)、障害の状態、障害の部位、個人差、その他、個別具体的な様々な要因により異なるためである。
【0034】
検出部11における検出は、たとえば、次のように行われる。本実施の形態では、使用者が安静状態から把持運動を行うか又は想起すると、所定周波数成分の信号強度は安静時よりも低い値を示し、把持状態を解除して安静状態となると、所定周波数成分の信号強度は把持運動又は把持運動想起時よりも高い値を示す。これは、安静時は左手運動野付近の神経細胞が同期的に活動しているが、把持運動時又は把持運動想起時には非同期に活動し、特定の周波数成分の信号強度が下がるためである。そこで、検出部11は、上記の通りリアルタイム且つ時系列に受け取った信号強度のデータから、所定周波数成分の信号強度を抽出し、その信号強度が随意運動又は随意運動想起時の信号強度の範囲(以下、随意運動時信号強度範囲という。)であるか、安静時の信号強度の範囲(以下、安静時信号強度範囲という。)であるかを常時監視する。そして、検出部11は、その信号強度の安静時信号強度範囲から随意運動時信号強度範囲への変化を、安静状態から随意運動状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出し、随意運動時信号強度範囲から安静時信号強度範囲への変化を、随意運動状態から安静状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出する。
【0035】
さらに詳しくは、検出部11は、安静時信号強度範囲と随意運動時信号強度範囲の境界値を閾値とし、信号強度が閾値以下となると、安静状態から随意運動又は随意運動想起状態に変化したときの脳波信号強度の時間変化として検出し、閾値よりも上回ると、随意運動又は随意運動想起状態から安静状態に変化したときの信号強度の時間変化として検出する。なお、閾値は予め定められていても良いし、使用者ごとに適切な閾値を設定可能としても良い。また、閾値は、安静時信号強度を複数回測定して平均値を算出し、平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合(%)としても良い。この場合、記憶部には、自動算出又は人為的な入力により、平均安静時信号強度、及び、閾値(平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合(%))が記憶されることとなる。そして、検出部11は、記憶部に記憶されている平均安静時信号強度と閾値を参照し、信号強度のデータを受け取ると、平均安静時強度信号に対する随意運動時信号強度の割合を算出し、算出した割合と閾値(平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合)と比較することにより、時間変化を検出する。なお、この場合、閾値は通常は5%から30%の間で設定すれば良いが、これに限るものではなく、患者の訓練度合い等に応じて適宜設定すれば良い。また、閾値の設定方法は、これに限るものではなく、パターン認識に使われている様々な方法が使用できる。例えば、線形判別分析(Linear Discriminant Analysis ;LAD)やサポートベクターマシン(Support Vector Machine ;SVM)といった方法でもよいし、信号強度の値を直接設定しても良いし、安静時信号強度範囲と随意運動信号強度範囲との境界を判断可能であればどのようなものでもよい。
【0036】
また、所定周波数成分は、単一の周波数成分(例えば10ヘルツ)でも良いし、複数の周波数成分(例えば、10ヘルツと25ヘルツ)でも良いし、所定の周波数帯域に含まれる周波数成分(例えば、5ヘルツから15ヘルツ、及び、20ヘルツから30ヘルツ)でも良いし、時間変化を精度良く検出できる周波数成分を用いれば良い。所定の周波数帯域に含まれる周波数成分の時間変化を検出するときは、例えば、検出部11は、その周波数帯域内のいずれかの周波数成分の信号強度が随意運動時信号強度範囲内となると、安静状態から随意運動又は随意運動想起状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出し、すべての周波数成分の信号強度が安静時信号強度範囲内となると、随意運動又は随意運動想起状態から安静状態時に移行したときの信号強度の時間変化として検出する。
【0037】
なお、信号強度の時間変化は、運動部位や運動の仕方により異なるため、検出部11による検出は、それに応じた検出方法とすれば良い。たとえば、下肢においては、安静状態から随意運動又は随意運動想起を行うと脳波信号の信号強度は低から高に変化し、随意運動を終了して安静状態に戻ると脳波信号の信号強度は高から低に変化するため、検出部11は、周波数成分が閾値以上となると、安静状態から随意運動又は随意運動想起状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出し、周波数成分が閾値よりも下回ると、随意運動又は随意運動想起状態から安静状態時に移行したときの信号強度の時間変化として検出すれば良い。
【0038】
制御信号出力部12は、検出部11により所定周波数成分の信号強度の時間変化が検出されると、リハビリテーション用運動補助装置20の動作を制御する制御信号を出力する機能を備える。たとえば、制御信号出力部12は、検出部11により、信号強度が安静時信号強度範囲から随意運動時信号強度範囲に遷移する(本実施の形態では閾値以下となる)時間変化が検出されると、リハビリテーション用運動補助装置20を初期姿勢(手掌を開いた状態)から把持姿勢とする制御信号(後述するモータ22a1を所定角度回転させる制御信号)を出力し、検出部11により、信号強度が随意運動時信号強度範囲から安静時信号強度範囲に遷移する(本実施の形態では閾値を上回る)時間変化が検出されると、リハビリテーション用運動補助装置20を把持姿勢から初期姿勢とする制御信号(後述するモータ22a1を所定角度だけ逆回転させる制御信号)を出力する。すなわち、制御信号出力部12は、検出される時間変化に応じて、制御信号を選択的に出力するようになっている。
【0039】
なお、検出部11及び制御信号出力部12、及び、測定部13がリハビリテーション用脳波信号処理装置10の一部として構成される場合は増幅部13aやA/D変換部13bや解析部13dは、例えば、コンピュータにおけるCPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアを用いて実行可能なプログラムとして実装したり、コンピュータに装着可能な拡張ボードに搭載されたDSP(Digital Signal Processor)等の専用プロセッサを用いて実装したりすることができ、また、蓄積部13cは、検出部11及び制御信号出力部12の機能を実現するコンピュータ等の装置に内蔵又は外付け可能なハードディスクやその他の各種記憶媒体を用いて構成することができる。
【0040】
リハビリテーション用運動補助装置20は、リハビリ対象部位の随意運動を補助する機能を備えるものであり、例えば、リハビリテーション対象部位に装着される装着部をモータやアクチュエータ等の駆動部により動かすことで関節を屈曲・伸展させることにより、随意運動を補助するものである。その一例を図2に示す。リハビリテーション用運動補助装置20は、把持運動が困難となった患者に用いられ、把持運動の回復訓練を行うためのものであり、装着部21と駆動部22を備える。なお、理解の容易のために、図2にはリハビリテーション補助装置20を手Hnに装着した状態を示す。
【0041】
装着部21は、リハビリ対象部位に装着されるものであり、互いに連結されるとともに連結箇所が可動する複数の部材から構成される。本実施の形態では、手Hnに装着されるものであり、装着部第一部材21aと装着部第二部材21bとを備える。装着部第一部材21aは、手首から手掌を被覆するプレートであり、第1手指が挿入される第1手指用孔21a1が設けられている。なお、手Hnの運動の自由度を高めるために手背側は開口部21a2を有し、手Hnが被覆されない形状となっている。装着部第二部材21bは、第2手指から第5手指を一体的に支持するプレートである。この装着部第二部材21bは、第2手指から第5手指の外周を覆うように略楕円形状に湾曲させたプレートにて構成されており、これら四本の手指を内側に挿入すると、これらの手指を手掌側から支持するとともに、手指先端が外部に突き出る形状となっている。装着部第一部材21aと装着部第二部材21bは、後述する動力伝達部(詳しくは動力伝達部第二部材22b2)を介して互いに接離する方向(すなわち、第1手指に対して第二手指から第5手指が接離するような方向)に可動するように連結されている。なお、装着部第一部材21aは固定手段21cにて手首に固定され、装着部第二部材21bは固定部材21dにて手指に固定されている。固定部材21c,21dは面状テープであるが、その他、ベルト等でも良い。
【0042】
駆動部22は、装着部21の動きの駆動源22aと、その駆動源22aの動力を装着部21に伝達する動力伝達部22bとを備える。
【0043】
駆動源22aは、モータ22a1と、モータ22a1を制御する制御回路22a2とを備える。制御回路22a2は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10の制御信号出力部12と有線又は無線により通信可能に接続されており、リハビリテーション用脳波信号処理装置10の制御信号出力部12から発せられる制御信号を受信して、モータ22a1を所定の回転角度で回転動作させる信号を出力し、モータ22a1は、制御回路22a2からの信号を受信するとその回転角度で回転動作する。モータ22a1と制御回路22a2は装着部第一部材21aに取り付けられて固定されている。なお、駆動源22aには、電源と接続する電源ケーブル又はバッテリー、及び、リハビリテーション用脳波信号処理装置10との通信手段(通信ケーブル等)が接続されているが、図2においては省略してある。
【0044】
動力伝達部22bは、動力伝達部第一部材22b1と動力伝達部第二部材22b2とを備える。動力伝達部第一部材22b1は、細長形状のプレートであり、一端側がモータ22a1に連結され、他端側が動力伝達部第二部材22b2に連結されている。動力伝達部第二部材22b2は、略L字形状に屈曲したプレートであり、屈曲部を境に一方側は第2手指に添えるように、他方側は手甲側に突出するような姿勢にて配置され、一方側は装着部第一部材21bに固定されており、屈曲箇所において連結部材(ボルト)22b3により装着部第一部材21bに回動可能に連結されている。
【0045】
なお、上述の通り、本実施の形態は、手の把持運動が困難な患者に対してリハビリテーションを行う場合を例示したものであることから、リハビリテーション用運動補助装置20は手に装着するものであるが、例えば、上腕や下肢などの他の部位の随意運動の機能回復を目的とする場合は、リハビリ対象となる部位の随意運動に応じたリハビリテーション用運動補助装置を用いれば良い。
【0046】
また、リハビリテーション用運動補助装置20には、所定動作以外の動作を行わないように、安全装置が付加されていることが好ましい。たとえば、モータ22a1の回転角度を所定角度内に抑制するストッパーを備え、モータ22a1が所定角度の範囲を超えて回転しないようにして、誤動作による危険を防止すれば良い。
【0047】
以下、本実施の形態のリハビリテーションシステムS1の使用態様を説明する。使用者は、リハビリ対象部位にリハビリテーション用運動補助装置20を装着する。くわしくは、使用者は、装着部第一部材21aに手を入れて孔22b3に第1手指を挿入し、第2手指から第5手指は装着部第二部材21bに挿入し、固定部材21c、21dにて固定する。
【0048】
また、使用者は、脳波取得手段としての電極を所定箇所に配置して取り付ける。電極は、例えば、国際10−20法に準拠して配置しても良いし、リハビリ対象部位の運動野付近の脳波信号が採取できる位置に配置すれば良い。この状態にて、電極により採取された脳波信号が測定部13に入力され、増幅部13aにて増幅され、A/D変換部13bにてアナログ信号がディジタル信号に変換され、蓄積部13cに時系列に蓄積され、その蓄積部13cに蓄積された脳波信号が解析部14dによる解析により周波数成分ごとに信号強度が求められ、周波数時間領域における信号強度データがリアルタイムに得られる。この信号強度データは、リアルタイムに検出部11に引き渡され、所定の周波数成分の信号強度データに時間変化が現れるか常時監視される状態となる。
【0049】
ここで、随意運動に付随して変化する周波数成分は、使用者の属性(年齢、性別など)、障害の状態、障害の部位、個人差、その他、個別具体的な様々な要因により異なる(なお、上述のように、これは発明者等が新たに見出した事象である。)ため、所定周波数成分をどの周波数成分とするかはケースに応じて決定すれば良い。たとえば、使用者が脳卒中患者の場合、障害部位の随意運動に関連した脳活動を作り出す脳内の回路において、脳波信号に障害が生じ、例えば、健常者であれば10Hzの周波数成分で変化が生じるところ、脳卒中患者の場合はその周波数成分の信号が障害されて、より高い周波数の周波数成分に変化が生じることがあることから、その周波数成分を個別具体的に特定して変化を検出すれば良い。
【0050】
次に、使用者はリハビリテーション用運動補助装置20を装着した後、身体を安静状態とする。安静状態を維持したままでは、所定周波数成分の信号強度に変化は現れないため、検出部11において時間変化は検出されない。
【0051】
その後に、使用者は、リハビリ対象部位の随意運動を行うか、又は、随意運動を想起する。本実施の形態では、把持運動を一例として説明するため、使用者は第2手指から第5手指を第1手指に接する方向に動かす把持運動を行うか、又は、把持運動を想起する。すると、この随意運動により、リハビリ対象部位の運動野付近で事象関連脱同期(ERD)が起きて脳波信号の所定周波数成分に変化するため、検出部11においてその時間変化が検出される。本実施の形態では、検出部11は、リアルタイムに得られる信号強度データを監視し、所定周波数成分の信号強度が安静時信号強度範囲内の値から随意運動時信号強度範囲内の値に変化すると、この信号強度の変化を安静状態から随意運動(把持運動)を行った又は想起した状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出する。ここで、検出部11における検出は、時間変化が検出される方法であれば良いが、本実施の形態では、予め設定されている閾値と所定周波数成分の信号強度とを比較し、信号強度が閾値以下又は閾値より上となる変化により判断している。信号強度が閾値以下に変化すると、随意運動(把持運動)を行うか又は想起したときの信号強度の時間変化として検出し、信号強度が閾値を上回る変化を示すと、随意運動から安静状態に移行したときの信号強度の時間変化として検出する。
【0052】
信号強度の時間変化が検出部11で検出されると、制御信号出力部12はリハビリテーション用運動補助装置20の動作を制御する制御信号を出力する。ここでは、リハビリテーション用運動補助装置20の駆動部22のモータ22a1を所定角度で回転動作させる信号を出力することとなる。詳細には、検出部11において、信号強度が安静時信号強度範囲から随意運動時信号強度範囲に遷移する変化が検出されると、リハビリテーション用運動補助装置20の駆動部22のモータ22a1を把持状態となる方向に回転動作させる制御信号を出力し、随意運動時信号強度範囲から安静時信号強度範囲に遷移する変化が検出されると、モータ22a1を逆回転させて初期姿勢に戻す制御信号を出力する。
【0053】
制御信号出力部12によりリハビリテーション用脳波処理装置10から出力された制御信号は、リハビリテーション用運動補助装置20の制御回路22a2に入力される。制御回路22a2は、制御信号を受信すると、その受信した制御信号に基づく動作をモータ22a1に実行させる電気信号を出力する。ここでは、所定の回転角度でモータ22a1を回転動作させる電気信号を出力することとなる。
【0054】
リハビリテーション用運動補助装置20は、制御回路22a2から出力される電気信号に従ってモータ22a1が所定角度に回転動作すると、動力伝達部第一部材22b1が前方(手指先端方向)に押し出されるとともに、動力伝達部第一部材22b1に連結されている動力伝達部第二部材22b2が連結部材22b3を回転軸として所定角度で回転し、装着部第二部材21bが装着部第一部材21aに接する方向(第2手指から第5手指が第1手指に接する方向)に動作する。次の電気信号が入力されるまでモータ22a1はその姿勢を維持し、装着部21は把持の姿勢が継続される。
【0055】
使用者が随意運動(把持運動)を継続している間、又は、想起している間、信号強度は運動時信号強度範囲内(閾値以下)の値を示すが、随意運動又は想起を終了させ、安静状態に戻ると、信号強度が安静時信号強度範囲内(閾値より上)の値を示し、それが検出部11において信号強度の時間変化として検出される。検出部11にてこの時間変化が検出されると、制御信号出力部12は、モータ22a1を所定の回転角度で逆回転動作をさせることで姿勢を初期姿勢(第2手指から第5手指を第1手指から離して手掌を開いた状態)に戻す制御信号を出力する。
【0056】
このようにして、装着部第二部材21bを装着している第2手指から第5手指までが第1手指に対して接離する方向に動かされ、把持運動の補助が行われることとなる。これにより、筋肉や皮膚の感覚神経が活動し、その情報が脳に到達することで、神経の再構築が行われ、高いリハビリ効果が得られることとなる。
【0057】
このように、リハビリテーションシステムS1によれば、使用者が随意運動を行うか、又は、想起すると、リハビリテーション用脳波信号処理装置10にて脳波信号の時間変化が検出されてリハビリテーション用運動補助装置20が動作するため、随意運動を行ったタイミング、又は、想起したタイミングに合わせて、随意運動の補助を行うことが可能となる。脳波信号の信号強度の時間変化に合わせてリハビリテーション用運動補助装置20が動作するため、特に随意運動が極めて微弱又は不能な重度の患者に対してもタイミング良く随意運動を補助することができ、非常に好適である。とくに、脳波信号はリハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取し、更に、その採取された脳波信号のうち、個別具体的なケースに応じて所定周波数成分に限定し、その限定された所定周波数成分について時間変化を検出するため、非常に高いリハビリ効果が得られる。
【0058】
<第二の実施の形態>
図3は、本実施の形態のリハビリテーションシステムS2を説明する説明図である。リハビリテーションシステムS2は、上記リハビリテーションシステムS1に機能が追加されたものであり、検出部10の検出対象となる所定周波数成分の周波数の値を設定する周波数設定部14を備える。随意運動に付随してどの周波数成分が変化するかは、使用者の属性、リハビリ対象部位、障害の状態、個人差など、様々な要因により異なる。これは、発明者等が実験等により新たに見出した事象である。そこで、検出対象とする周波数成分の周波数の値を設定可能とすることにより、様々なケースに対応可能とした。なお、上記実施の形態と同一要素については同一の符号を用いて説明を省略する。
【0059】
周波数設定部14は、人為的に設定値が入力されても良いし、データ解析により自動設定されても良い。
【0060】
人為的に設定値が入力される場合、リハビリテーション用脳波信号処理装置10は、入力部15から入力された周波数の値を、周波数設定部14が受け付け、その周波数の値を記憶部16に記憶する。入力部15は、キーボードやマウス等により任意に入力可能としても良いし、ダイヤルやボタンにより周波数の値を選択的に設定することにより入力可能としても良い。また、設定値は表示部(図示せず)に表示されるようにしても良い。また、記憶部16は、メモリやハードディスク等の記憶装置により実現されるものであり、周波数設定部14や検出部11や制御信号出力部12を実現するコンピュータに内蔵されても良いし、外部装置として外付けされていても良い。また、周波数の値は、一つのみ設定可能としても良いが、使用者ごと、リハビリ対象部位ごと等、複数の周波数の値を登録可能としても良い。この場合は、周波数の値とそれを一意に特定可能な識別子とを入力させ、これらを関連付けて記憶部16に記憶することとなる。
【0061】
一方、自動設定とする場合、周波数設定部14は、測定部13にて安静状態と随意運動を行ったとき又は想起したときの状態の脳波信号の信号強度データをテストデータとして受け取り、安静状態と随意運動時又は想起時状態の脳波信号を比較するなどして、特徴抽出を行い、随意運動時又は想起時に変化が生じる周波数成分を特定する。特定された周波数成分は、検出対象となる所定周波数成分の値として記憶部16に記憶される。このときのテストデータは複数回のテストにより取得された複数のデータであるほうが好ましい。また、特定された周波数成分の周波数の値は、表示部(図示せず)に表示し、入力部15により随時微調整可能とするほうが好ましい。なお、テストデータは外部装置としての脳波計等により別途準備され、リハビリテーション用脳波信号処理装置10に入力されて周波数設定部14に引き渡されても良い。
【0062】
検出部11は、周波数設定部14により周波数の値が設定されると、記憶部16を参照し、記憶部16に記憶されている周波数の値を取得して、その周波数の値に対応する周波数成分の強度の時間変化を検出する。
【0063】
以下、本実施の形態のリハビリテーションシステムの使用態様を説明する。まず、初期設定として、補助者又は使用者等は、周波数設定部14により検出対象とする周波数成分の周波数の値を設定する。
【0064】
人為的に設定する場合、周波数の値は、補助者の経験則により設定しても良いが、より好ましくは、使用者の随意運動にともなう脳波信号の信号強度の時間変化を監視し、どの周波数成分が変化するかを明らかにすることで決定する。たとえば、使用者がリハビリテーションを行っている間、周波数時間領域における脳波信号のパワースペクトルを取得し、使用者がリハビリ対象部位の随意運動を行うか、又は、想起した時間に、パワースペクトルが変化している周波数成分を特定することにより行う。周波数の値の設定は入力部15に周波数成分の周波数の値を入力することにより行う。たとえば、表示装置に表示されている設定画面にキーボードやマウス等を用いて入力したり、ダイヤルやボタン等により選択したりする。入力部15から入力された周波数の値は、周波数設定部14により受け付けられ、記憶部16に記憶される。
【0065】
なお、複数の周波数の値を登録可能な場合は、使用者や補助者等は、初期設定として、周波数の値及びそれを一意に特定可能な識別子を入力する。入力された識別子と周波数の値は関連付けて記憶部16に記憶される。
【0066】
また、周波数の値を自動設定とする場合は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10のテストモードのスイッチ(図示せず)をONとし、使用者に安静状態と随意運動を行うか又は想起する状態を繰り返させる。その脳波信号は、測定部13にて測定され、周波数設定部14にて分析されて検出対象とする周波数成分が特定され、その周波数の値が記憶部16に記憶される。なお、テストデータとしては、別途、外部装置としての脳波計にて取得したテストデータを入力しても良い。また、記憶部16に記憶された周波数の値は、必要に応じて入力部15により微調整しても良い。
【0067】
このようにして周波数の値が設定されると、検出部11は、記憶部16を参照し、記憶部16に記憶されている周波数の値を検出対象となる周波数成分の周波数の値とし、脳波信号の信号強度の時間変化を検出する。記憶部16に周波数の値が複数登録されている場合は、リハビリテーション実施前に、使用者や補助者等が、別途設けられる識別子入力部(図示せず)から識別子を入力すると、検出部11は、その識別子に対応する周波数の値を記憶部16から読み出し、その周波数の値を検出対象の周波数成分の周波数の値に設定し、その周波数成分の信号強度の時間変化の検出を行う。
【0068】
以下、上記実施の形態と同様であるため、説明を省略する。このように、周波数の値を設定可能とすることで、適切な周波数成分を検出対象とすることができる。随意運動に付随して信号強度が変化する周波数成分は使用者の属性、障害の状態や、障害の部位、個人差などの様々な要因により、個々のケースごとに異なるが、これにより、様々なケースに対応可能となる。
【0069】
<第三の実施の形態>
図4は、本実施の形態のリハビリテーションシステムS3を説明する説明図である。リハビリテーションシステムS3は、上記リハビリテーションシステムS2に機能が追加されたものであり、検出部11における所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出するときの、検出条件の設定を受け付ける検出条件設定部17を備える。随意運動に付随して所定周波数成分がどのように変化するかは、使用者の属性、リハビリ対象部位、障害の状態、個人差など、様々な要因により異なる。これは、発明者等が実験等により新たに見出した事象である。そこで、検出条件設定部17により検出条件を設定可能として、様々なケースに対応可能とした。なお、上記実施の形態と同一要素については同一の符号を用いて説明を省略する。
【0070】
検出条件設定部17による検出条件の設定は、人為的に入力されても良いし、データ解析により自動設定されても良い。
【0071】
人為的に入力される場合、検出条件設定部17は、入力部15から入力された検出条件を受け付け、その検出条件を記憶部16に記憶する。入力部15は、キーボードやマウス等を用いて周波数の値を入力可能としても良いし、ダイヤルやボタンにより検出条件を選択的に設定することにより入力可能としても良い。検出条件は、表示部(図示せず)に表示させるようにしても良い。また、検出条件は、一つのみ設定可能としても良いが、使用者ごと、リハビリ対象部位ごと等、複数の検出条件を登録可能としても良い。この場合は、検出条件とそれを一意に特定可能な識別子とを入力させ、これらを関連付けて記憶部16に記憶することとなる。なお、この識別子は、上記実施の形態の周波数の値に対応付けられている識別子と共通又は関連性を有するものとしても良い。
【0072】
ここで、入力される検出条件は、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出可能な条件であれば良いが、本実施の形態では、信号強度と閾値とを比較することにより時間変化を検出しているため、検出条件の設定は、この閾値を入力部15から入力することにより行われる。
【0073】
一方、自動設定とする場合、検出条件設定部17は、測定部13にて安静状態と随意運動を行ったとき又は想起したときの状態の脳波信号の信号強度データをテストデータとして受け取り、安静状態と随意運動又は想起状態の脳波信号を比較するなどして、特徴抽出を行い、随意運動時又は想起時に所定周波数成分に生じる変化の規則性を導出する。導出された変化の規則性は、検出条件として記憶部16に記憶される。本実施の形態では、検出条件設定部17においては、特徴抽出等により安静時信号強度範囲と随意運動時信号強度範囲を特定する処理が行われ、安静時信号強度範囲の値と随意運動時信号強度の範囲の値、若しくは、その境界となる閾値が記憶部16に記憶される。このときのテストデータは複数であるほうが好ましい。また、記憶部16に記憶された検出条件は、表示部(図示せず)に表示し、入力部15により随時微調整可能とするほうが好ましい。また、テストデータは外部装置としての脳波計により採取されてリハビリテーション用脳波処理装置10に入力されても良い。
【0074】
なお、テストデータは、先ず周波数設定部14にて周波数の値を特定し、その後に、検出条件設定部17にて周波数設定部14にて特定された周波数の値の変化の規則性を導出するようにしても良い。この場合、周波数設定部14と検出条件設定部17の処理はシームレスに行われても良い。
【0075】
検出部11は、検出条件設定部17により検出条件が設定されると、記憶部16を参照し、記憶部16に記憶されている検出条件を用いて時間変化の検出を行う。
【0076】
以下、本実施の形態のリハビリテーションシステムS3の使用態様を説明する。まず、初期設定として、使用者又はその補助者等は、検出条件設定部17により閾値を設定する。
【0077】
人為的に設定する場合、検出条件は、補助者の経験則により設定しても良いが、より好ましくは、使用者の随意運動にともなう脳波信号の信号強度の時間変化を監視し、信号強度がどのように変化するかを明らかにすることで決定する。たとえば、使用者がリハビリテーションを行っている間、周波数時間領域における脳波信号のパワースペクトルを取得し、使用者がリハビリ対象部位の随意運動を行うか、又は、想起した時間に、パワースペクトルが変化している周波数成分を特定し、変化の規則性を導出する。本実施の形態では、その周波数成分の安静時信号強度範囲と随意運動時信号強度範囲を明らかにし、各範囲、又は、その境界となる閾値を入力部15から入力する。入力部15から入力された各範囲又は閾値は、記憶部16に記憶される。
【0078】
なお、複数の閾値を登録可能な場合は、使用者や補助者等は、初期設定として、検出条件及びそれを一意に特定可能な識別子を入力する。入力された識別子と閾値は関連付けて記憶部15に記憶される。
【0079】
また、検出条件を自動設定とする場合は、リハビリテーション用脳波信号処理装置10のテストモードのスイッチ(図示せず)をONとし、使用者に安静状態と随意運動を行うか又は想起する状態を繰り返させる。その脳波信号は、測定部13にて測定され、周波数設定部14にて分析されて時間変化の規則性が特定され、その時間変化の規則性が検出条件として記憶部16に記憶される。本実施の形態では、安静時信号強度範囲の値と随意運動時信号強度の範囲の値、若しくは、その境界となる閾値が記憶される。なお、テストデータとしては、別途、外部装置である脳波計により採取したテストデータを入力しても良い。また、記憶部16に記憶された検出条件は、必要に応じて入力部15により微調整しても良い。
【0080】
このようにして検出条件が設定されると、検出部11は、記憶部16を参照して記憶されている検出条件を取得し、その検出条件に基づいて信号強度の時間変化を検出する。本実施の形態では、記憶部16には閾値が記憶されるため、検出部11は、その閾値を取得し、脳波の信号強度と閾値とを比較して、脳波の信号強度の時間変化を検出する。
【0081】
なお、記憶部16に複数の検出条件が登録されている場合は、使用者や補助者等により別途設けられる識別子入力部(図示せず)から識別子が入力されると、検出部11は、その識別子に対応する検出条件を記憶部16から読み出し、その検出条件を用いて信号強度の時間変化の検出を行う。なお、この識別子は上記第二の実施の形態の識別子と共通としても良い。この場合、記憶部16から識別子に対応する周波数の値及び検出条件を取得し、取得した周波数の値に対応する周波数成分の信号強度について、取得した検出条件に基づき、検出処理を行う。
【0082】
以下、上記実施の形態と同様であるため、説明を省略する。このように、検出条件を設定することで、適切な検出条件に基づいて時間変化を検出できる。信号強度がどのように変化するかは、使用者の属性、障害の状態や、障害の部位、個人差などの様々な要因により、個々のケースごとに異なるが、これにより、様々なケースに対応可能となる。
【0083】
<本発明の電極パッド>
図5は、本発明の電極パッド30を側面の側から説明する説明図である。電極パッド30は、上記実施の形態のリハビリ用脳波信号処理装置10で用いる脳波信号を採取するために用いられるものであり、基台31と、基台31から突出する複数の突起状電極32と導電層33を備える。
【0084】
基台31と突起状電極32は、一般的な脳波採取用の電極パッドと同様の構成であり、導電性を有する突起状の電極32が平板形状や円柱形状等の基台31に複数配列される構成を有する。突起状電極32の個数は複数であれば良く、限定されるものではない。
【0085】
導電層33は、分散媒が導電性を有するジェル層から構成されるか、又は、保水性を有する柔軟性材料に導電性液体が保持された層にて構成されている。ジェルは、高粘性の分散質により流動性を失うことで系全体として固体状となるものであり、例えば親水性の樹脂マトリックスの中に水や電解質を安定的に保持させたヒドロゲルが挙げられる。また、保水性を有する柔軟性材料としては、例えばスポンジなどが挙げられ、導電性液体としては、例えば水や電解液などが挙げられる。この導電層33は、外部から圧力がかけられると、その圧力の強さに応じて、導電性分散媒や導電性液体を外部に放出する機能を有する。なお、この導電層33は粘着性を有し、頭皮に貼着可能なものであってもよい。また、導電層33は、基台31に貼着等により固定され、突起状電極32の少なくとも先端付近とは固定されていないことが好ましい。
【0086】
導電層33は、複数の突起状電極32,,,32の間に充填されており、突起状電極32,,,32の先端が導電層33に埋没するか(図5(a)参照)、又は、導電層33の表面と面一となっている(図5(b)参照)。
【0087】
以下、電極パッド30の使用状態について説明する。図6(a)は、電極パッド30の使用状態を説明する説明図であり、図6(b)は使用状態における電極パッド30と頭部Hとの接触部分の拡大図である。電極パッド30は、導電層33の側を頭皮に接するようにして頭部Hに配置される。突起状電極32の先端は導電層33に埋没しているか、又は、導電層33の表面と面一であるが、電極パッド30を頭部Hに対して動かしながら押圧して接触させると、柔軟性を有する導電層33が変形して突起状電極32が導電層33から突出するとともに、ブラシと同様の原理によって突起状電極32が毛髪hrを掻き分け(毛髪を整列させて頭皮を露出させ)、頭部Hに確実に接することとなる。このとき、導電層33は毛髪hrの厚みにより押し上げられて凹状態となり、導電層33と頭部Hとの間に間隙aが生じる。この間隙aは、空間のままであると電気抵抗が高く、むしろコンデンサのように脳波信号を蓄電することとなることから、高インピーダンスを示し、脳波信号の採取の妨げになる。この点、電極パッド30は、その間隙aに、導電層33から染み出した導電性分散媒や導電性液体が充填されるため、突起状電極32だけでなく、導電層33及び間隙aの部分でも通電可能となり、インピーダンスを低減することができる。
【0088】
ここで、導電層33としては、剥がす作業が容易な粘着性ジェルシートを用いることが好ましい。従来の導電性ペーストを用いる場合と比較すると、導電性ペーストは粘着性が高く、脳波採取後に毛髪や頭皮に残留するため、アルコール等で溶解洗浄したり、洗髪したりするなど、後処理に時間と手間が生じていた。その点、容易に剥がすことができる粘着性保水ジェルシートを用いることにより、頭皮洗浄等が不要となり、取り外し作業の手間と時間の効率化を図ることができる。また、使い捨てとできるため、感染症も防止することができる。
【0089】
発明者は、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置及びリハビリテーションシステムの有用性を実証するために、以下の実験1と実験2を行った。
【0090】
<実験1>
実験1として、健常者における随意運動想起時の脳波を取得した。被験者を成人健常者1名とし、被験者の頭部に、図7に示すように、国際10−20法に準拠したC3,C1,FC3,C5,CP3,C4,C6,FC4,C2,CP4の位置に電極を配置した。電極は、上記実施の形態の電極パッドを用いた。
【0091】
実験タスクとして、タスク1:左手を把持運動の想起、タスク2:右手の把持運動の想起、タスク3:足を動作させる随意運動の想起、の三つのタスクを設定し、各タスクを被験者に行わせた。図8に示すように、被験者には、随意運動想起開始時刻を0とすると、−5秒から−2秒の間は安静時間、−2秒から0秒の間を準備時間、0秒から5秒の間を随意運動想起(イメージ)時間、5秒から10秒の間を安静時間とし、タスク1からタスク3の各々について、これらを順次行わせた。
【0092】
実験条件としては、アナログ信号としての脳波からサンプリング周波数を256Hzとして信号をサンプリングし、ディジタル信号に変換した。また、バンドエリミネーションフィルタ(Notchフィルタ)を用いて、一定の周波数帯域の信号を減衰させ、それ以外の帯域の信号を通過させる処理を行った。これは、商用電源に起因する電磁ノイズの混入を防ぐためである。
【0093】
解析方法は、解析窓幅を1秒とし、解析窓にはハミング窓を使用した。解析窓のオーバーラップは87.5%とした。そして、現在の解析窓に87.5%オーバーラップさせるように解析窓をずらしながら、解析窓ごとにパワースペクトルを算出し、これをすべての周波数成分について行い、周波数時間領域におけるパワースペクトル分布を表すデータを生成した。
【0094】
図9から図11は、実験1によって得られたパワースペクトル分布を表すデータである。なお、各データは、周波数・信号強度・時間の3要素を2次元で表現するために、縦軸を周波数、横軸を時間とし、パワースペクトルの強度は色で表現している。なお、信号強度が高くなるにつれて黒→青→緑→赤と色が変化する表現となっている。
【0095】
なお、図9から図11の各データは、(a)が右手運動野付近から採取された脳波信号のデータであり、(b)が左手運動野付近から採取された脳波信号のデータである。また、各データは、図12に示される導出方法により導出されている。図12(a)は図9(a),図10(a),図11(a)に対応し、図12(b)は図9(b),図10(b),図11(b)に対応している。図9を例に説明すると、図9(a)のうち中央のデータ(a−0)は図7に示されるC3,C1,FC3,C5,CP3の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いてラプラシアン導出により導出した信号強度を示すデータであり、その右のデータ(a−1)はC3とC1の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その上のデータ(a−2)はC3とFC3の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その左のデータ(a−3)はC3とC5の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その下のデータ(a−4)はC3とCP3の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータである。また、図9(b)のうちデータ(b−0)は図7に示されるC4,C2,FC4,C6,CP4の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いてラプラシアン導出により導出した信号強度を示すデータであり、その右のデータ(b−1)はC3とC6の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その上のデータ(b−2)はC3とFC4の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その左のデータ(b−3)はC4とC2の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータであり、その下のデータ(b−4)はC3とCP4の位置に配置された電極から採取された脳波の信号を用いて双極導出により導出した信号強度を示すデータである。以下、図10、図11についても同様である。
【0096】
タスク1:左手の把持運動の想起
左手運動野付近から採取された図9(b)のデータ(b−0)から(b−4)を参照すると、10Hz付近、及び、25Hz付近の周波数成分にて、随意運動想起時間(0から5秒)に対応して、信号強度が青色を示す程度に低くなっている。この青色箇所が随意運動に伴う事象関連脱同期により信号強度が低くなった箇所である。なお、−2秒から0秒にて信号強度が低くなるのは、−2秒から0秒の準備時間から被験者が早々に随意運動を想起し始めているためである。
【0097】
なお、右手運動野付近から採取された図9(a)のデータ(a−0)から(a−4)にも、随意運動想起時間に対応して信号強度が低くなる傾向が見られるが、本発明は、左手の把持運動を補助するときは、左手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(b−0)から(b−4)を用いるため、これらのデータ(b−0)から(b−4)で時間変化が検出されれば問題はない。
【0098】
タスク2:右手の把持運動の想起
右手運動野付近から採取された図10(a)のデータ(a−0)から(a−4)を参照すると、10Hz付近、及び、25Hz付近にて、随意運動想起時間(0から5秒)に対応して、脳波の信号強度が青色を示す程度に低くなっている。この青色部分が随意運動に伴う事象関連脱同期により信号強度が低くなった部分である。なお、−2秒から0秒にて信号強度が弱くなるのは、−2秒から0秒の準備時間から被験者が早々に随意運動を想起し始めているためである。
【0099】
なお、左手運動野付近から採取された図10(b)のデータ(b−0)から(b−4)にも、随意運動想起時間に対応して信号強度が低くなる傾向が見られるが、本発明は、右手の把持運動を補助するときは、右手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(a−0)から(a−4)を用いるため、右手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(a−0)から(a−4)で時間変化が検出されれば問題はない。
【0100】
タスク3:足の随意運動を想起
図11に示されるいずれのデータにもわずかな青色部分が見られるものの、図9(b)や図10(a)に示されるデータほどの特徴は見られない。足の随意運動を想起しても、右手運動野や左手運動野の付近には、脳波の信号強度に大きな時間変化が表れないことから、タスク1,2の信号強度の変化は左手把持運動又は右手把持運動に伴うものであることがわかる。
【0101】
すなわち、図9のデータ(b−0)から(b−4)や図10のデータ(a−0)から(a−4)に表れた青色で示される範囲が上述した随意運動時信号強度範囲に相当し、それ以外が安静時信号強度範囲に相当し、随意運動信号強度範囲と安静時信号強度範囲との境界となる信号強度の値が閾値に相当する。なお、ここでは、閾値を平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合(%)とし、具体的には患者の訓練度合いに応じて5%から30%の間で設定する。この被験者の場合は、閾値を15%とした。これらの結果から、10Hz及び25Hzの周波数成分、好ましくは10Hz以上30Hz以下の周波数帯域に含まれる周波数成分の時間変化を検出することが好ましいことがわかる。そして、これらの周波数成分のうち、いずれかの周波数成分の信号強度が安静時信号強度範囲から随意運動時信号強度範囲に遷移したときに、検出部11で信号強度の時間変化が検出され、リハビリテーション用運動補助装置kに把持姿勢とする制御信号が送られ、信号強度が随意運動時信号強度範囲から安静時信号強度範囲に遷移したときに、検出部11で信号強度の時間変化が検出され、リハビリテーション用運動補助装置に把持姿勢を解除して手掌を開いた初期姿勢とする制御信号が送られることとなる。なお、安静時信号強度範囲や随意運動時信号強度範囲の寸断による誤動作を防止するために、所定時間以下の寸断を時間変化から除外しても良い。すなわち、検出部11は、安静時信号強度範囲又は運動時信号強度範囲が所定時間以上の連続性を有する場合のみ、時間変化として検出するようにしても良い。なお、ここでの閾値の設定については、上記の手段に限られるものではなく、パターン認識に使われている様々な方法が使用できる。例えば、線形判別分析(Linear Discriminant Analysis ;LAD)やサポートベクターマシン(Support Vector Machine ;SVM)といった方法でもよい。
【0102】
なお、図9(b)及び図10(a)の各データにおいて、把持運動想起時(−2秒から0秒)において随意運動時信号強度範囲である青色箇所が見られるが、これは、上述したように、被験者が準備時間から把持運動を想起しているためであり、本発明によれば、この時間変化に合わせてリハビリテーション用運動補助装置が連動することとなるため、この点からも本発明が有効性であることがわかる。たとえば、補助者が規定のタイミングに合わせて随意運動を補助するリハビリテーションの場合、被験者が規定外に準備時間から想起しても、補助者は規定の時間で補助動作を行うこととなるため、補助のタイミングにずれが生じることとなるが、本発明によれば、規定のタイミングよりも早く随意運動を想起した場合であっても、その想起のタイミングに合わせて随意運動を補助することとなる。
【0103】
以上のことから、本発明によれば、リハビリテーションにおいて、使用者の随意運動又は随意運動の想起に合わせてタイミング良く補助を行うことができることがわかる。
【0104】
<実験2>
脳卒中片麻痺患者における随意運動想起時の脳波を取得した。被験者を左麻痺の脳卒中片麻痺患者1名とし、被験者の頭部に図13に示すように、国際10−20法に準拠したFC1とC1の位置に電極を配置した。電極は上記実施の形態の電極パッドを用いた。
【0105】
実験タスクは、麻痺側である左手の把持運動の想起である。図14に示すように、被験者には、随意運動想起開始時刻を0とすると、−10秒から−2秒の間は安静時間、−2秒から0秒の間を準備時間、0秒から5秒の間を随意運動想起(イメージ)時間とし、これらを順次行わせた。実験条件及び解析方法は上記実験1と同じである。
【0106】
図15に、実験結果を示す。図15(a)は、右手運動野付近から採取された脳波信号の分布を示すデータであり、図15(b)は、左手運動野付近から採取された脳波の信号強度の分布を示すデータである。信号強度は、図15(a)のデータはFC1とC1の位置(図13参照)に配置された電極から採取された脳波信号を用いて双極導出により導出し、図15(b)のデータはFC2とC2の位置(図13参照)に配置された電極から採取された脳波信号を用いて双極導出により導出した。
【0107】
左手運動野付近から採取した脳波の信号強度を示す図15(b)のデータを参照すると、10Hzから20Hzの周波数成分にて、随意運動想起時間(0秒から5秒付近)に対応して、信号強度が青色を示す程度に低くなっている。この青色箇所が随意運動に伴う事象関連脱同期により信号強度が低くなった箇所である。
【0108】
なお、右手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(図15(a))にも、随意運動想起時間に対応して信号強度が低くなる傾向が見られるが、本発明は、左手の把持運動を補助するときは、左手運動野付近の脳波の信号強度のデータ(図15(b))を用いるため、左手運動野付近の信号強度のデータ(図15(b))で時間変化が検出されれば問題はない。
【0109】
すなわち、この被験者の場合は、リハビリテーション用信号処理装置にて10Hz以上20Hz以下の周波数成分の時間変化から、平均安静時信号強度に対する随意運動時信号強度の割合(%)を算出し、予め記憶させておいた閾値と算出した割合とを比較し、算出した割合が閾値よりも低い場合は随意運動想起時と判断して、リハビリテーション用補助装置を動作させることにより、タイミング良く随意運動を補助することが可能となる。なお、閾値は上記実験1と同様に設定する点、及び、安静時信号強度範囲や運動時信号強度範囲の寸断による誤動作を防止するために、安静時信号強度範囲又は運動時信号強度範囲が所定時間以上の連続性を有する場合のみ時間変化として検出するようにしても良い点、閾値の設定にはパターン認識に使用される様々な手段が使用できる点については上記実験1と同じである。
【0110】
<実験3,4>
つぎに、発明者等は、本発明の電極パッドの有用性を実証するために、以下の実験3と実験4を行った。
【0111】
図16(a)(b)に示す電極を用いて比較実験を行った。図16(a)は比較対象の電極パッドE1であり、基台に複数の突起状電極を備え、各突起状電極の間には空間を有するものであり、図16(b)は本発明の電極パッドE2であり、基台に複数の突起状電極を備え、突起状電極の間に導電層として導電性ジェルが充填されているもの、すなわち、電極E1の突起状電極の間に導電性ジェルを充填したものである。
【0112】
電極パッドE1及び電極パッドE2を被験者の頭部に同一条件にて配置し、インピーダンスを測定した。取り付けに際しては、電極パッドE1,E2を頭髪を掻き分けるようにして左右に10回動かしながら取り付けた。
【0113】
実験3として、被験者を高齢者(65歳以上)男性2名とし、各3回ずつインピーダンスを測定した。また、実験4として、被験者を若年者(23歳から25歳)3名とし、各3回ずつインピーダンスを測定した。なお、「−」は100kΩ以上を表す。
【0114】
図17は実験3の結果を示す図であり、図18は実験4の結果を示す図である。ほとんどのケースにおいて、電極パッドE1に比較して電極パッドE2のインピーダンスが低い値を示している。これは、電極パッドE2によると、導電層、及び、導電層と頭皮との間に生じる間隙を充填する導電性分散媒により、突起状電極のみならず、それらの間も導電性を有することとなるためである。したがって、本発明の電極パッドによれば、頭皮と電極間のインピーダンスを低減し、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置に有用な脳波信号を採取することが可能となる。
【0115】
このように、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置、及び、リハビリテーションシステムによれば、随意運動に伴う脳波の信号強度の時間変化を検出し、その時間変化に合わせてリハビリテーション用運動補助装置を動作させるため、使用者が随意運動を行うか、又は、想起したタイミングに合わせて、その随意運動を補助することが可能となる。とくに、リハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取される脳波信号を用い、更にその脳波信号から所定の周波数成分のみに限定して変化を検出するため、随意運動に付随した変化を確実に検出することができ、非常に高いリハビリ効果を得ることが可能となる。また、本発明の電極パッドによれば、頭部と電極間のインピーダンスを低減することが可能となり、本発明のリハビリテーション用脳波信号処理装置に有用な脳波信号を採取することが可能となる。
【0116】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態では、手の把持運動のリハビリテーションに使用されるものを例に説明したが、上肢、下肢、手指、上肢、その他、身体の部位の随意運動のリハビリテーションに使用されるものであれば良い。この場合は、そのリハビリ部位や随意運動の種類に応じて時間変化を検出し、制御信号を出力すれば良く、上記実施の形態に限定されるものではない。また、リハビリテーション用運動補助装置についても、例えば、膝の屈曲伸展を補助するものや、肘の屈曲伸展を補助するものや、歩行を補助するものや、そのリハビリ部位と随意運動に応じた装置とすれば良く、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0117】
また、上述した実施の形態では、電極を用いて脳波信号を取得するものとして説明したが、脳波信号を取得可能であれば必ずしも電極を用いる必要はない。ただし、本発明は、非侵襲的に脳波測定を行うのが望ましいことから、電極を用いて脳波信号を取得するのが好適である。この場合、電極が配置されたヘッドセットを用意し、これを観測者の頭部に装着するようにすることにより、容易に脳波信号を取得することが可能となる。さらには、本発明の電極パッドを用いることにより、インピーダンスを抑制できるため、好適である。
【0118】
さらに、上述した実施の形態では、脳波を測定する測定部における処理については特に詳細には言及していないが、例えば、信号の周波数に応じて解析窓長を変化させたり、任意の解析窓を適用可能であり、使用する解析窓や解析窓長によって解析精度を向上させることが期待できる。
【0119】
さらに、上記各実施の形態において、筋電信号によりリハビリテーション用運動補助装置を制御する機能を備えるようにしても良い。脳波信号による制御と、筋電信号による制御とを、患者の状態に応じて適宜利用することにより、更なるリハビリ効果が期待できるためである。この場合、電極等の筋電信号採取手段をリハビリ対象部位付近に配置し、リハビリ対象部位の筋電信号を採取する。筋電信号採取手段からの信号は、リハビリテーション用筋電信号処理装置にリアルタイムに入力され、筋電信号が検知されると、リハビリテーション用運動補助装置を動作させる制御信号を出力する。リハビリテーション用運動補助装置はリハビリテーション用筋電信号処理装置から制御信号を受信すると、その制御信号に応じて動作することとなる。脳波信号による制御とするか、筋電信号による制御とするかは、患者の運動麻痺の状態に応じて適宜判断すればよい。なお、リハビリテーション用筋電信号処理装置と本発明のリハビリテーション用脳波処理装置とは、両機能を備えるコンピュータシステムにより実現して一体的に構成しても良いし、各々を独立したコンピュータシステムにより実現して別体として構成しても良い。
【0120】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0121】
S1,S2,S3 リハビリテーションシステム、
10 リハビリテーション用脳波信号処理装置、
11 検出部、
12 制御信号出力部、
13 測定部、
14 周波数設定部、
15 入力部、
16 記憶部、
17 検出条件設定部、
20 リハビリテーション用運動補助装置、
21 装着部、
21a 装着部第一部材、
21b 装着部第二部材、
22 駆動部、
22a 駆動源、
22a1 モータ、
22a2 制御回路、
22b 動力伝達部、
22b1 動力伝達部第一部材、
22b2 動力伝達部第二部材、
30 電極パッド、
31 基台、
32 突起状電極、
33 導電層、
H 頭部、
Hn 手、
hr 毛髪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動療法によるリハビリテーションのために、脳波信号を処理するリハビリテーション用脳波信号処理装置であって、
脳のリハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する検出部と、
当該検出部により所定周波数成分の信号強度の時間変化が検出されると、身体の随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置の動作を制御する制御信号を出力する制御信号出力部を備えることを特徴とするリハビリテーション用脳波信号処理装置。
【請求項2】
前記検出部における時間変化の検出対象となる所定周波数成分の周波数の値を設定する周波数設定部を備えることを特徴とする請求項1記載のリハビリテーション用脳波信号処理装置。
【請求項3】
前記検出部における所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出するときの、検出条件を設定する検出条件設定部を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のリハビリテーション用脳波信号処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のリハビリテーション用脳波信号処理装置と、身体の随意運動の機能回復のためにその随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置とを備え、
前記リハビリテーション用運動補助装置は、前記リハビリテーション用脳波信号処理装置から出力される前記制御信号により動作が制御されることを特徴とするリハビリテーションシステム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のリハビリテーション用脳波信号処理装置とともに用いられ、前記脳波信号を採取するために頭部に装着される電極パッドであり、
基台と、前記基台から突出する複数の突起状電極と、分散媒が導電性を有するジェルから構成されるか、又は、保水性を有する柔軟性材料に導電性液体を保持する導電層を備え、
前記導電層は少なくとも前記複数の突起状電極の間を充填するとともに、前記突起状電極の先端が前記導電層に埋没するか、又は、前記導電層の表面と面一であることを特徴とする電極パッド。
【請求項1】
運動療法によるリハビリテーションのために、脳波信号を処理するリハビリテーション用脳波信号処理装置であって、
脳のリハビリ対象部位に対応する運動野付近から採取された脳波信号について、所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出する検出部と、
当該検出部により所定周波数成分の信号強度の時間変化が検出されると、身体の随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置の動作を制御する制御信号を出力する制御信号出力部を備えることを特徴とするリハビリテーション用脳波信号処理装置。
【請求項2】
前記検出部における時間変化の検出対象となる所定周波数成分の周波数の値を設定する周波数設定部を備えることを特徴とする請求項1記載のリハビリテーション用脳波信号処理装置。
【請求項3】
前記検出部における所定周波数成分の信号強度の時間変化を検出するときの、検出条件を設定する検出条件設定部を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のリハビリテーション用脳波信号処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のリハビリテーション用脳波信号処理装置と、身体の随意運動の機能回復のためにその随意運動を補助するリハビリテーション用運動補助装置とを備え、
前記リハビリテーション用運動補助装置は、前記リハビリテーション用脳波信号処理装置から出力される前記制御信号により動作が制御されることを特徴とするリハビリテーションシステム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のリハビリテーション用脳波信号処理装置とともに用いられ、前記脳波信号を採取するために頭部に装着される電極パッドであり、
基台と、前記基台から突出する複数の突起状電極と、分散媒が導電性を有するジェルから構成されるか、又は、保水性を有する柔軟性材料に導電性液体を保持する導電層を備え、
前記導電層は少なくとも前記複数の突起状電極の間を充填するとともに、前記突起状電極の先端が前記導電層に埋没するか、又は、前記導電層の表面と面一であることを特徴とする電極パッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−217721(P2012−217721A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88356(P2011−88356)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、「日本の特長を活かしたBMIの統合的研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、「日本の特長を活かしたBMIの統合的研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
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