リパーゼ阻害剤
【課題】本発明では、医薬品、化粧品、飲食品など幅広い分野で利用可能な生体適合性に優れる界面活性剤であり、かつリパーゼの加水分解反応を抑制できる新しい素材の提供を目的とする。
【解決手段】微生物が植物油や糖質などの各種バイオマスを原料として生産する糖型バイオサーファクタントをリパーゼ阻害剤とする。該リパーゼ阻害剤は、リパーゼが関与する様々な疾病の予防、改善、治療に効果的な医薬、健康食品あるいは化粧品の有効成分として用いられる。
【解決手段】微生物が植物油や糖質などの各種バイオマスを原料として生産する糖型バイオサーファクタントをリパーゼ阻害剤とする。該リパーゼ阻害剤は、リパーゼが関与する様々な疾病の予防、改善、治療に効果的な医薬、健康食品あるいは化粧品の有効成分として用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物によって生産される安全性の高い糖脂質(糖型バイオサーファクタント)からなる、医薬品、化粧品、飲食品などに有用なリパーゼ阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂質加水分解酵素であるリパーゼは、飲食品、化粧品等に混入した場合、含有されている脂質をグリセリンと脂肪酸に分解し、変敗臭などの劣化の原因となり商品としての価値を減少させてしまう。また、ヒトの皮膚に常在する微生物が産生するリパーゼでは、皮膚上の脂質をグリセリンと遊離脂肪酸に分解し、この遊離脂肪酸の中には皮膚に対して悪影響を及ぼす物質もあり、ニキビ、皮膚炎、フケなどの原因となることや、遊離脂肪酸がさらに分解されて体臭の原因となることが知られている。一方、ヒトの生体内において、リパーゼは膵臓より分泌される消化酵素であり、経口摂取された脂質はリパーゼの作用により、グリセリンと脂肪酸に加水分解されて体内における消化吸収を促進している。脂質はエネルギーが特に高く、近年の日本人における脂肪摂取量は増加する傾向にあり、肥満、高脂血症などの生活習慣病を引き起こす一因となっている。このようなリパーゼに起因する問題を解決するため、リパーゼを阻害するリパーゼ阻害剤の検討が行われてきている。
【0003】
特に、上記リパーゼ阻害剤は、医薬品や飲食品などに利用され、ヒトの生体に直接接触することから、安全性に優れたものが求められている。ごく最近の開発例を一部下記特許文献に挙げるように、近年では、植物由来成分からなるリパーゼ阻害剤の開発が、極めて幅広く、活発に行われている。(特許文献1〜12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-056850号公報
【特許文献2】特開2007-145753号公報
【特許文献3】特開2007-161645号公報
【特許文献4】特開2007-246429号公報
【特許文献5】特開2007-246471号公報
【特許文献6】特開2008-019180号公報
【特許文献7】特開2008-074735号公報
【特許文献8】特開2008-273980号公報
【特許文献9】特開2009-029786号公報
【特許文献10】特許第3689099号公報
【特許文献11】特許第4044274号公報
【特許文献12】特許第4233645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リパーゼが作用するのは、脂質と水が共存する環境であり、そのような場面で用いられる材料には界面活性剤の使用が必須である。したがって、リパーゼ反応を阻害あるいは促進させる剤は界面活性剤と共存して効果を発揮するもの、さらには界面活性剤自体がそのような効果を示すと有用性が高い。しかし、界面活性剤の多くは、脂質を乳化、分散することによってリパーゼと脂質の接触を促し、加水分解反応を促進させるとともに、リパーゼの活性中心近傍を疎水的な環境に保ち、酵素活性そのものを高める効果を示す。一方で、界面活性効果の高い活性剤の場合は、酵素タンパク質を失活させてしまう。しかも現在用いられている界面活性剤のほとんどは石油を原料とする合成化学物質であり、生体に対して適用できるものはごく一部の種類に限られている。以上のように、本発明で開発を目指す安全性に優れるリパーゼ阻害剤として、現状ではほとんどの界面活性剤が適用できない。
【0006】
以上の事情を鑑みて、本発明では、医薬品、化粧品、飲食品など幅広い分野で利用可能な生体適合性に優れる界面活性剤であり、かつリパーゼの加水分解反応を抑制できる新しい素材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、目的のリパーゼ阻害剤として、微生物が植物油や糖質などの各種バイオマスを原料として生産する両親媒性脂質であるバイオサーファクタントに注目した。中でも、特にタンパク質などの生体分子と高い親和性を示し、様々な生理活性を有する糖型バイオサーファクタントについて、リパーゼ反応系への添加効果を調査し、極めて少量の添加で特異的に反応抑制効果を発揮することなどを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、リパーゼ阻害剤。
(2)微生物産生糖型バイオサーファクタントが、下記化学式(1)に記載のマンノシルアルジトールリピッドであることを特徴とする、上記(1)に記載のリパーゼ阻害剤。
【化1】
(式中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、R2は、水素またはアセチル基を表す。またR3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基を表し、2箇所あるR2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
(3)微生物産生糖型バイオサーファクタントが、下記化学式(2)に記載のマンノシルエリスリトールリピッドであることを特徴とする、上記(1)に記載のリパーゼ阻害剤。
【化2】
(式中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、R2は、水素またはアセチル基を表す。またR3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基を表し、2箇所あるR2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタント剤を有効成分として含有することを特徴とする、成人病の予防、改善若しくは治療用医薬または健康食品。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、脂肪吸収抑制剤。
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、肥満抑制剤。
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、皮膚炎抑制剤。
(8)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、ニキビ抑制剤。
(9)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、フケ抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリパーゼ阻害剤は、例えば、膵リパーゼを阻害し、腸管における脂肪の膵リパーゼによる分解を阻害し、その吸収を抑制する。したがって、脂肪の吸収過多に起因する高脂血症、肥満、あるいはこれらに付随して起こる動脈硬化症、虚血性心疾患等様々な症状を伴う、いわゆる成人病の予防、改善、治療に有効に用いられる。
また、リパーゼの活性変化によって皮脂の分解と遊離脂肪酸の産生を抑制し、その結果種々の皮膚疾患、例えば、ニキビ、フケの予防、改善効果を有する。さらに、本発明のリパーゼ阻害剤は、種々のバイオマスから微生物によって生産される成分であり、極めて安全性に優れるものであることから、医薬品、化粧品、健康食品など幅広い分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1において、Candida antarctica由来リパーゼBの加水分解反応の経時変化を追跡したグラフである。
【図2】比較例1において、Candida antarctica由来リパーゼBの加水分解反応に対する界面活性剤の添加効果を追跡したグラフである。
【図3】比較例2において、Candida antarctica由来リパーゼBの加水分解反応に対する糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図4】実施例2において、Rhizomucor miehei由来リパーゼの加水分解反応に対する糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図5】実施例3において、Thermomyces lanuginosus由来リパーゼの加水分解反応に対する糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図6】実施例4において、ブタ膵臓由来リパーゼの加水分解反応に対するMELの添加効果を評価したグラフである。
【図7】実施例5において、Candida antarctica由来リパーゼBの加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図8】実施例6において、Rhizomucor miehei由来リパーゼの加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図9】実施例7において、Thermomyces lanuginosus由来リパーゼ加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図10】実施例8において、Rhizopus delemer由来リパーゼの加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図11】実施例9において、ブタ膵臓由来リパーゼ加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〈微生物産生糖脂質・糖型バイオサーファクタント〉
本発明に用いる微生物産生糖脂質(以下、糖型バイオサーファクタント、糖型BSと呼ぶ)は、微生物が植物油や糖質などの各種バイオマスを原料として生産・分泌する両親媒性脂質の一種である。糖型BSは、その分子中に親水基として糖鎖構造を有し、疎水基として各種の中鎖および長鎖脂肪酸(飽和、不飽和、分枝、ヒドロキシ型など)が上記親水基に結合した分子構造をとっている。各種BSの中でも糖型BSは、生産性に優れることから最もよく研究され、細菌及び酵母によって生産される多くの種類の物質が報告されている。
【0012】
具体的には、ラムノリピッド、ソホロリピッド、マンノシルアルジトールリピッド、トレハロースリピッド、セロビオースリピッド、オリゴ糖リピッドなどが挙げられる。これらは分子構造(糖鎖構造、脂質の構造・組成)によって物性が変化するが、構造が同等のものであれば、その生産条件(生産微生物、原料の種類)によらず、同等の効果が得られる。上記の中でも、特にマンノシルアルジトールリピッドは、草花や土壌など身近な環境に広く分布する、シュードザイマ(Pseudozyma)属やウスチラゴ(Ustilago)属などの酵母によって生産されることから、高い安全性が見込まれる上に、極めて少量の使用でリパーゼ阻害効果を示す。
【0013】
〈マンノシルアルジトールリピッド〉
本発明に用いるマンノシルアルジトールリピッド(以下、MALと呼ぶ)は、MAL生産微生物の培養によって得られ、その化学構造の代表例は以下の式(1)に示され、4−O−β−D−マンノピラノシル−アルジトールをその基本構造とするものである。ここで、アルジトールとは直鎖状の糖質の両末端が還元された糖アルコールのことであり、炭素数3のグリセリン、炭素数4のエリスリトール、トレイトール、炭素数5のアラビニトール、キシリトール、リビトール、炭素数6のアリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトール、タリトールなどが例に挙げられる。
【0014】
【化1】
ただし、上記式(1)中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、直鎖あるいは分岐状の飽和または不飽和脂肪族アシル基を含む。R2は、水素またはアセチル基を表す。R3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基であり、直鎖あるいは分岐状の飽和または不飽和脂肪族アシル基を含む。2箇所あるR2及びR3は同一であっても異なっていてもよい。上記置換基R1及びR3の脂肪族アシル基の種類及びその炭素数は、MEL生産培地に含有させる油脂類中の脂肪酸に基本的には依存するが、その炭素数は使用するMEL生産菌の脂肪酸の資化の程度により変化する。したがって、得られる各MELは、通常、置換基Rの脂肪酸残基部分が異なる化合物の混合物の形態である。また、上記式(1)中のnは1〜4の整数である。
上記マンノシルアルジトールリピッドの中でも、上記式(1)中n=2で表されるマンノシルエリスリトールリピッドが最も生産性に優れるため、利用することが望ましい。
【0015】
〈マンノシルエリスリトールリピッド〉
本発明に用いるマンノシルエリスリトールリピッド(以下、MELと呼ぶ)は、MEL生産微生物の培養によって得られ、上記式(1)中n=2で表される。MELの代表例としてMEL−A、MEL−B、MEL−C、MEL−D、一鎖型MEL及び三鎖型MEL−Aの化学構造を以下に示す。
【化3】
これら式中、R1は上記式(1)と同様の基であり、Acはアセチル基を表す。
【0016】
〈糖型BSの特性〉
上記糖型BSは、高い界面活性作用を有し、界面活性剤やファインケミカルの種々の触媒として利用が可能である。また、上記糖型BSは、水溶液中において、多様なナノ構造体を形成できる。例えばMELの場合、幅広い濃度及び温度範囲で、ベシクルやラメラ相、キュービック相、スポンジ相(コアセルベート)などを形成できる(T. Imura et al., Langmuir, 23, 1659-1663 (2007)、W. Worakitkanchanakul et al, Colloid Surf. B, 65, 106-112 (2008))。したがって、皮膚への親和性に優れたラメラ構造をとることで化粧品や皮膚外用剤として利用できるほか、他の薬剤等を内包するカプセル構造をとって経口、非経口投与に利用できるなど、用途に応じた剤型で製品開発することが可能である。
【0017】
さらに、様々な生理作用が知られており、医薬品用途への応用が期待されている。例えば上記MELの場合、ヒト急性前骨髄性白血病細胞性HL60株にMELを作用させると、顆粒系を分化させる白血病細胞分化誘導作用があり(H. Isoda et al., Lipids, 32, 263-271 (1997)、H. Isoda et al., Biosci. Biotech. Biochem., 61, 609-614 (1997))、また、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来のPC12細胞にMELを作用させると神経突起の伸長が生ずる神経系細胞分化誘導作用等の生理活性作用を有する(Y. Wakamatsu et al., Eur. J. Biochem., 268, 374-383 (2001))。更に、微生物産生の糖脂質として初めて、メラノーマ細胞のアポトーシスを誘導することが可能となり(X. Zhao et al., Cancer Research, 59, 482-486 (1999))、癌細胞増殖抑制作用がある。糖型BSには、これらの生理作用をはじめ、生分解性に優れ、高い安全性を有することが考えられ、医薬品、化粧品、飲食品などへの利用が期待される。
【0018】
上記糖型BSがリパーゼ活性の阻害作用を示すことは、従来から全く知られておらず、本発明により得られた新知見である。
【0019】
上記糖型BSは、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの慣用の精製手段を用いて精製した単品を、そのままリパーゼ阻害剤として用いることができる。また、それらを混合した混合物として用いてよい。さらに、酵素活性を妨げない溶媒に溶解させた溶液、及び水溶液の状態で利用してもよい。
【0020】
上記糖型BSは、優れたリパーゼ阻害活性を有しており、これらを含有する医薬、化粧料及び食品として、さらに、抗肥満剤、高脂血症改善剤、ニキビ、フケ用皮膚改善剤として使用可能である。
【0021】
医薬としての適用方法は、経口投与又は非経口投与のいずれも採用することができる。投与に際しては、有効成分を経口投与、直腸内投与、注射などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤、凍結乾燥製剤などが挙げられ、これらの製剤は製剤上の常法手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングルコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水などが挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤などの慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0022】
また本発明のリパーゼ阻害剤は、例えば、保湿化粧品、肌荒れ防止化粧品、メークアップ化粧品、フケ防止化粧品、育毛用化粧品、かゆみ防止化粧品、洗浄用化粧品、日焼け防止化粧品、体臭防止化粧品、フレグランス化粧品等の化粧品に添加することができる。このときの添加量については、当該物質によって期待される効果が有効に発揮される量であればよく、特に制限はないが、全体量の0.000001〜50重量%、好ましくは0.00001〜10重量%、さらに好ましくは0.0001〜1重量%である。なお、化粧品に本発明のリパーゼ阻害剤を添加する場合、他の有効成分やアミノ酸、薬学的に許容される賦形剤、色素や香料等を適宜組み合わせて用いることもできる。また、製品の形態についても任意であり、例えば液状、粉末状、クリーム状等のいずれも可能である。機能面からは、例えば乳液、化粧液、フェイスクリーム、ハンドクリーム、ローション、エッセンス、シャンプー、リンスなどが好ましい。
【0023】
また本発明のリパーゼ阻害剤は、ニキビ治療剤、皮膚炎治療剤等の皮膚疾患治療剤に添加することができる。このときの添加量については、当該物質によって期待される効果が有効に発揮される量であればよく、特に制限はないが、全体量の0.000001〜50重量%、好ましくは0.00001〜10重量%、さらに好ましくは0.0001〜1重量%である。なお、皮膚疾患治療剤に本発明のリパーゼ阻害剤を添加する場合、他の有効成分やアミノ酸、薬学的に許容される賦形剤、色素や香料等を適宜組み合わせて用いることもできる。また、製品の形態についても任意であり、例えば液状、粉末状、クリーム状等のいずれも可能である。
【実施例】
【0024】
本発明で阻害剤として用いる糖型BSについては特に限定されるものではないが、以下例として、Pseudozyma antarctica KM-34 (FERMP-20730) 株を用い、大豆油を原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−A(式(3)の左上の化合物)を阻害剤に用いた実験について述べる。本発明はこれにより限定されるものではない。
【0025】
実施例1
(Candida antarctica由来リパーゼBに対する阻害効果)
基質に酢酸p−ニトロフェニル(pNPA)を選び、Candida antarctica由来リパーゼB(CalB)(novozymes社製Novozym 435 CALB L)を添加してエステル加水分解反応を行った。分解によって生成するp-ニトロフェノール(pNP)の波長410nmのUV光吸収を、紫外可視分光光度計によって測定することで、反応の進行度を評価した。以下、具体的な操作手順を記す。
【0026】
pNPAを6%のDMSOを含む30 mM Hepes緩衝液(pH7.5)に溶解させ、2.5 mMの基質溶液570μLを調製した。ここに、各濃度に調製した酵素溶液30μLを添加した時点を反応開始とし、410nmの吸光度変化を15分間追跡し、これをコントロールとした。
次に上記基質溶液に対して、MEL−Aが各濃度になるように添加した試料溶液を調製し、ここに上記酵素溶液を添加して同様に吸光度の経時変化を追跡した。結果を図1に示す。
【0027】
図1はリパーゼ濃度が3U/mLの場合のグラフである。コントロール(糖脂質非添加系;図中0%と表示)に対して、MELを添加することでpNPの生成が有意に抑制された。またその効果は0.001%の添加で見られ、それ以上の濃度でも大きな違いは現れなかった。この結果より、MELのリパーゼ阻害効果は、極微量で十分に効果があることが確認された。
【0028】
比較例1
(他の界面活性剤のリパーゼに対する作用)
MEL−Aの代わりに、リパーゼ活性の促進効果が報告されている非イオン性界面活性剤であるTriton X-100(t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール:Triton)を用いて、実施例1と同様の実験を行い、反応を追跡した。活性剤添加量に対する吸光度の経時変化を追跡したグラフをまとめて図2に示す。
【0029】
Tritonの添加量の増加に伴い、反応が大きく促進されるのに対して、MEL−Aを添加した場合は一定の反応阻害効果が見られた。
【0030】
比較例2
(他の糖型界面活性剤のリパーゼに対する作用)
MEL−Aの代わりに、汎用されている糖型の合成界面活性剤であるspan 20(ソルビタンモノラウレート:Span)、及びシュガーエステル(ショ糖脂肪酸ジエステル:SE)を用いて、実施例1と同様の実験を行い、反応を追跡した。コントロール(界面活性剤非添加系)での反応開始15分後の吸光度を反応率100%とし、ここから反応率を算出した。結果をまとめたグラフを図3に示す。なお、図中、白棒は活性剤添加量を0.001%とした場合の反応率、黒棒は添加量を0.01%とした場合の反応率をそれぞれ表す。
【0031】
他の界面活性剤を添加すると、全てリパーゼの反応が促進され、また添加量の増加に伴い反応が大きく促進された。一方、MEL−Aを添加した場合のみ反応の進行が抑制された。MELのリパーゼ阻害剤としての有効性が示された。
【0032】
実施例2
(Rhizomucor miehei由来リパーゼに対する阻害効果)
リパーゼにRhizomucor miehei由来のリパーゼ(novozymes社製Novozym 388)を用い、実施例1及び比較例1、2と同様の操作で実験を行った。結果をまとめて図4に示す。
【0033】
Triton以外の糖型界面活性剤でも阻害効果が少し見られたが、特にMEL−Aを添加することで、反応が著しく阻害されることが確認された。
【0034】
実施例3
(Thermomyces lanuginosus由来リパーゼに対する阻害効果)
リパーゼにThermomyces lanuginosus由来のリパーゼ(novozymes社製Lipozyme TL 100L)を用い、実施例1及び比較例1、2と同様の操作で実験を行った。結果をまとめて図5に示す。
【0035】
Triton以外の糖型界面活性剤でも阻害効果が見られたが、特にMEL−Aを添加することで、反応が著しく阻害されることが確認された。
【0036】
実施例4
(ブタ膵臓由来リパーゼに対する阻害効果)
基質にp−ニトロフェニルラウレート(pNPL)を用い、リパーゼとしてブタ膵臓由来リパーゼ(SIGMA社製Lipase from porcine pancreas, Type II)を用いてエステル加水分解反応を評価した。基質の分散剤としてTritonを2%含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)に、pNPLを分散させて2.5mMとなるように調製した基質溶液475μLを温浴(37℃)で5分間予熱し、ここに30mg/mLの酵素溶液を25μLを添加して、温浴中で15分間反応させた。反応後の反応溶液にアセトン1mLを加えて反応を停止させ、遠心分離によって不溶部を沈降させた。上澄み液について、分解によって生成したp−ニトロフェノール(pNP)の波長410 nmのUV光吸収を、紫外可視分光光度計によって測定することで、反応の進行度を評価した。
上記結果をコントロールとし、次に上記基質溶液に対して、MEL−Aが各濃度になるように添加した試料溶液を調製し、ここに上記酵素溶液を添加して同様に吸光度の経時変化を追跡した。上記コントロールにおける吸光度を100としたときの各濃度のMELの添加によって得られた吸光度の割合(%)をまとめて図6に示す。
【0037】
Triton共存下でも、MEL−Aを1%添加することで、ブタ膵臓由来リパーゼの加水分解反応を抑制できることが確認された。膵臓リパーゼは生体内で脂質を分解し、消化吸収を促進させる機能を果たすが、これを阻害することで肥満抑制効果が期待される。
【0038】
〔他のMELを用いたリパーゼ阻害試験〕
以下のS実施例においては、上記Pseudozyma antarctica KM-34 (FERMP-20730) 株を用いて生産したMEL−A以外のMELについて、由来の異なる種々のリパーゼのエステル加水分解反応に対するMEL添加効果を評価した。用いたMELは、以下のとおりである。
1)Pseudozyma antarctica KM-34 (FERMP-20730) 株を用い、大豆油を主原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−A、MEL−B、MEL−C(以下、それぞれA1、B1、C1と略記する)
脂肪酸(R1)組成(%)・・・C8:0=22.8、C10:0=26.2、C10:1=28.4、C10:2=2.9、C12:0=5.2、C12:1=5.1、C14:2=4.7、Unknown=4.7
2)Pseudozyma tsukubaensis NMRC1940 株を用い、オリーブ油を主原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−B(以下、B2と略記する。)
脂肪酸(R1)組成(%)・・・C8:0=28.1、C10:0=1.3、C10:1=1.7、C10:2=1.1、C12:0=12.0、C12:1=11.5、C14:0=1.4、C14:1=7.8、C14:2=27.1、Unknown=8.0
3)Pseudozyma siamensis CBS9960株を用い、紅花油を主原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−C(以下、C2と略記する。)
脂肪酸(R1)組成(%)・・・マンノース2位:C2=18、C4=82、マンノース3位:C14:0=2.8、C14:1=4.3、C14:2=32.6、C16:0=23.5、C16:1=12.5、C16:2=16.6、C18:2=7.6、Unknown=0.1
4)Pseudozyma crassa CBS9959 株を用い、オレイン酸を主原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−A、MEL−B、MEL−C(以下、それぞれA3、B3、C3と略記する。)
脂肪酸(R1)組成(%)・・・マンノース2位:C2=60、C4=40、マンノース3位:C14:0=12.2、C14:1=53.0、C16:0=4.6、C16:1=19.0、C18:1=3.1、Unknown=8.1
各MELは、基本的に式(3)に記載のMEL−A、B、Cの分子構造をとっているが、生産微生物と原料の油脂成分が異なることで、構造式中のR1(脂肪酸部位)の組成など、分子構造が異なる。
【0039】
実施例5
Candida antarctica由来リパーゼB(CalB)(novozymes社製Novozym
435 CALB L)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例1と同様にして、A1、B1、C1およびB2の各MELのリパーゼ阻害活性を測定した。図7の結果に示されるように、各MELは明らかに上記リパーゼの阻害活性を示した。
【0040】
実施例6
Rhizomucor miehei由来リパーゼ(novozymes社製Novozym 388)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例1と同様にして、A1、B1、C1、B2、C2、A3、B3及びC3の各MELのリパーゼ阻害活性を測定した。図8の結果に示されるように、各MELは顕著な上記リパーゼの阻害活性を示した。
【0041】
実施例7
Thermomyces lanuginosus由来リパーゼ(novozymes社製Lipozyme TL 100L)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例1と同様にして、A1、B1、C1、B2、C2、A3、B3及びC3の各MELのリパーゼ阻害活性を測定した。図9の結果に示されるように、各MELは顕著な上記リパーゼ阻害活性を示した。
【0042】
実施例8
Rhizopus delemer由来リパーゼ(生化学工業社製)(実施例8)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例1と同様にして、A1、B1、C1、B2、C2、A3、B3及びC3の各MELのリパーゼ阻害活性を測定した。図10の結果に示されるように、各MELは顕著な上記リパーゼ阻害活性を示した。
【0043】
実施例9
ブタ膵臓由来リパーゼ(SIGMA社製Lipase from porcine pancreas, Type II)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例4と同様にして、リパーゼ阻害活性を調べた。コントロールは、実施例4において、1%濃度で豚膵臓リパーゼ阻害活性を示したPseudozyma antarctica KM-34株由来のMEL−A(A1)とした。図11の結果から明らかなように、B2はA1とほぼ同等の阻害活性ではあるが、B1、C1、C2、A3、B3およびC3はより低い濃度で膵リパーゼ阻害活性を有し、膵リパーゼ阻害活性はA1よりも高いことが明らかとなった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物によって生産される安全性の高い糖脂質(糖型バイオサーファクタント)からなる、医薬品、化粧品、飲食品などに有用なリパーゼ阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂質加水分解酵素であるリパーゼは、飲食品、化粧品等に混入した場合、含有されている脂質をグリセリンと脂肪酸に分解し、変敗臭などの劣化の原因となり商品としての価値を減少させてしまう。また、ヒトの皮膚に常在する微生物が産生するリパーゼでは、皮膚上の脂質をグリセリンと遊離脂肪酸に分解し、この遊離脂肪酸の中には皮膚に対して悪影響を及ぼす物質もあり、ニキビ、皮膚炎、フケなどの原因となることや、遊離脂肪酸がさらに分解されて体臭の原因となることが知られている。一方、ヒトの生体内において、リパーゼは膵臓より分泌される消化酵素であり、経口摂取された脂質はリパーゼの作用により、グリセリンと脂肪酸に加水分解されて体内における消化吸収を促進している。脂質はエネルギーが特に高く、近年の日本人における脂肪摂取量は増加する傾向にあり、肥満、高脂血症などの生活習慣病を引き起こす一因となっている。このようなリパーゼに起因する問題を解決するため、リパーゼを阻害するリパーゼ阻害剤の検討が行われてきている。
【0003】
特に、上記リパーゼ阻害剤は、医薬品や飲食品などに利用され、ヒトの生体に直接接触することから、安全性に優れたものが求められている。ごく最近の開発例を一部下記特許文献に挙げるように、近年では、植物由来成分からなるリパーゼ阻害剤の開発が、極めて幅広く、活発に行われている。(特許文献1〜12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-056850号公報
【特許文献2】特開2007-145753号公報
【特許文献3】特開2007-161645号公報
【特許文献4】特開2007-246429号公報
【特許文献5】特開2007-246471号公報
【特許文献6】特開2008-019180号公報
【特許文献7】特開2008-074735号公報
【特許文献8】特開2008-273980号公報
【特許文献9】特開2009-029786号公報
【特許文献10】特許第3689099号公報
【特許文献11】特許第4044274号公報
【特許文献12】特許第4233645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リパーゼが作用するのは、脂質と水が共存する環境であり、そのような場面で用いられる材料には界面活性剤の使用が必須である。したがって、リパーゼ反応を阻害あるいは促進させる剤は界面活性剤と共存して効果を発揮するもの、さらには界面活性剤自体がそのような効果を示すと有用性が高い。しかし、界面活性剤の多くは、脂質を乳化、分散することによってリパーゼと脂質の接触を促し、加水分解反応を促進させるとともに、リパーゼの活性中心近傍を疎水的な環境に保ち、酵素活性そのものを高める効果を示す。一方で、界面活性効果の高い活性剤の場合は、酵素タンパク質を失活させてしまう。しかも現在用いられている界面活性剤のほとんどは石油を原料とする合成化学物質であり、生体に対して適用できるものはごく一部の種類に限られている。以上のように、本発明で開発を目指す安全性に優れるリパーゼ阻害剤として、現状ではほとんどの界面活性剤が適用できない。
【0006】
以上の事情を鑑みて、本発明では、医薬品、化粧品、飲食品など幅広い分野で利用可能な生体適合性に優れる界面活性剤であり、かつリパーゼの加水分解反応を抑制できる新しい素材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、目的のリパーゼ阻害剤として、微生物が植物油や糖質などの各種バイオマスを原料として生産する両親媒性脂質であるバイオサーファクタントに注目した。中でも、特にタンパク質などの生体分子と高い親和性を示し、様々な生理活性を有する糖型バイオサーファクタントについて、リパーゼ反応系への添加効果を調査し、極めて少量の添加で特異的に反応抑制効果を発揮することなどを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、リパーゼ阻害剤。
(2)微生物産生糖型バイオサーファクタントが、下記化学式(1)に記載のマンノシルアルジトールリピッドであることを特徴とする、上記(1)に記載のリパーゼ阻害剤。
【化1】
(式中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、R2は、水素またはアセチル基を表す。またR3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基を表し、2箇所あるR2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
(3)微生物産生糖型バイオサーファクタントが、下記化学式(2)に記載のマンノシルエリスリトールリピッドであることを特徴とする、上記(1)に記載のリパーゼ阻害剤。
【化2】
(式中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、R2は、水素またはアセチル基を表す。またR3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基を表し、2箇所あるR2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタント剤を有効成分として含有することを特徴とする、成人病の予防、改善若しくは治療用医薬または健康食品。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、脂肪吸収抑制剤。
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、肥満抑制剤。
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、皮膚炎抑制剤。
(8)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、ニキビ抑制剤。
(9)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、フケ抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリパーゼ阻害剤は、例えば、膵リパーゼを阻害し、腸管における脂肪の膵リパーゼによる分解を阻害し、その吸収を抑制する。したがって、脂肪の吸収過多に起因する高脂血症、肥満、あるいはこれらに付随して起こる動脈硬化症、虚血性心疾患等様々な症状を伴う、いわゆる成人病の予防、改善、治療に有効に用いられる。
また、リパーゼの活性変化によって皮脂の分解と遊離脂肪酸の産生を抑制し、その結果種々の皮膚疾患、例えば、ニキビ、フケの予防、改善効果を有する。さらに、本発明のリパーゼ阻害剤は、種々のバイオマスから微生物によって生産される成分であり、極めて安全性に優れるものであることから、医薬品、化粧品、健康食品など幅広い分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1において、Candida antarctica由来リパーゼBの加水分解反応の経時変化を追跡したグラフである。
【図2】比較例1において、Candida antarctica由来リパーゼBの加水分解反応に対する界面活性剤の添加効果を追跡したグラフである。
【図3】比較例2において、Candida antarctica由来リパーゼBの加水分解反応に対する糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図4】実施例2において、Rhizomucor miehei由来リパーゼの加水分解反応に対する糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図5】実施例3において、Thermomyces lanuginosus由来リパーゼの加水分解反応に対する糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図6】実施例4において、ブタ膵臓由来リパーゼの加水分解反応に対するMELの添加効果を評価したグラフである。
【図7】実施例5において、Candida antarctica由来リパーゼBの加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図8】実施例6において、Rhizomucor miehei由来リパーゼの加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図9】実施例7において、Thermomyces lanuginosus由来リパーゼ加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図10】実施例8において、Rhizopus delemer由来リパーゼの加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【図11】実施例9において、ブタ膵臓由来リパーゼ加水分解反応に対するそれぞれ異なる糖型界面活性剤の添加効果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〈微生物産生糖脂質・糖型バイオサーファクタント〉
本発明に用いる微生物産生糖脂質(以下、糖型バイオサーファクタント、糖型BSと呼ぶ)は、微生物が植物油や糖質などの各種バイオマスを原料として生産・分泌する両親媒性脂質の一種である。糖型BSは、その分子中に親水基として糖鎖構造を有し、疎水基として各種の中鎖および長鎖脂肪酸(飽和、不飽和、分枝、ヒドロキシ型など)が上記親水基に結合した分子構造をとっている。各種BSの中でも糖型BSは、生産性に優れることから最もよく研究され、細菌及び酵母によって生産される多くの種類の物質が報告されている。
【0012】
具体的には、ラムノリピッド、ソホロリピッド、マンノシルアルジトールリピッド、トレハロースリピッド、セロビオースリピッド、オリゴ糖リピッドなどが挙げられる。これらは分子構造(糖鎖構造、脂質の構造・組成)によって物性が変化するが、構造が同等のものであれば、その生産条件(生産微生物、原料の種類)によらず、同等の効果が得られる。上記の中でも、特にマンノシルアルジトールリピッドは、草花や土壌など身近な環境に広く分布する、シュードザイマ(Pseudozyma)属やウスチラゴ(Ustilago)属などの酵母によって生産されることから、高い安全性が見込まれる上に、極めて少量の使用でリパーゼ阻害効果を示す。
【0013】
〈マンノシルアルジトールリピッド〉
本発明に用いるマンノシルアルジトールリピッド(以下、MALと呼ぶ)は、MAL生産微生物の培養によって得られ、その化学構造の代表例は以下の式(1)に示され、4−O−β−D−マンノピラノシル−アルジトールをその基本構造とするものである。ここで、アルジトールとは直鎖状の糖質の両末端が還元された糖アルコールのことであり、炭素数3のグリセリン、炭素数4のエリスリトール、トレイトール、炭素数5のアラビニトール、キシリトール、リビトール、炭素数6のアリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトール、タリトールなどが例に挙げられる。
【0014】
【化1】
ただし、上記式(1)中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、直鎖あるいは分岐状の飽和または不飽和脂肪族アシル基を含む。R2は、水素またはアセチル基を表す。R3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基であり、直鎖あるいは分岐状の飽和または不飽和脂肪族アシル基を含む。2箇所あるR2及びR3は同一であっても異なっていてもよい。上記置換基R1及びR3の脂肪族アシル基の種類及びその炭素数は、MEL生産培地に含有させる油脂類中の脂肪酸に基本的には依存するが、その炭素数は使用するMEL生産菌の脂肪酸の資化の程度により変化する。したがって、得られる各MELは、通常、置換基Rの脂肪酸残基部分が異なる化合物の混合物の形態である。また、上記式(1)中のnは1〜4の整数である。
上記マンノシルアルジトールリピッドの中でも、上記式(1)中n=2で表されるマンノシルエリスリトールリピッドが最も生産性に優れるため、利用することが望ましい。
【0015】
〈マンノシルエリスリトールリピッド〉
本発明に用いるマンノシルエリスリトールリピッド(以下、MELと呼ぶ)は、MEL生産微生物の培養によって得られ、上記式(1)中n=2で表される。MELの代表例としてMEL−A、MEL−B、MEL−C、MEL−D、一鎖型MEL及び三鎖型MEL−Aの化学構造を以下に示す。
【化3】
これら式中、R1は上記式(1)と同様の基であり、Acはアセチル基を表す。
【0016】
〈糖型BSの特性〉
上記糖型BSは、高い界面活性作用を有し、界面活性剤やファインケミカルの種々の触媒として利用が可能である。また、上記糖型BSは、水溶液中において、多様なナノ構造体を形成できる。例えばMELの場合、幅広い濃度及び温度範囲で、ベシクルやラメラ相、キュービック相、スポンジ相(コアセルベート)などを形成できる(T. Imura et al., Langmuir, 23, 1659-1663 (2007)、W. Worakitkanchanakul et al, Colloid Surf. B, 65, 106-112 (2008))。したがって、皮膚への親和性に優れたラメラ構造をとることで化粧品や皮膚外用剤として利用できるほか、他の薬剤等を内包するカプセル構造をとって経口、非経口投与に利用できるなど、用途に応じた剤型で製品開発することが可能である。
【0017】
さらに、様々な生理作用が知られており、医薬品用途への応用が期待されている。例えば上記MELの場合、ヒト急性前骨髄性白血病細胞性HL60株にMELを作用させると、顆粒系を分化させる白血病細胞分化誘導作用があり(H. Isoda et al., Lipids, 32, 263-271 (1997)、H. Isoda et al., Biosci. Biotech. Biochem., 61, 609-614 (1997))、また、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来のPC12細胞にMELを作用させると神経突起の伸長が生ずる神経系細胞分化誘導作用等の生理活性作用を有する(Y. Wakamatsu et al., Eur. J. Biochem., 268, 374-383 (2001))。更に、微生物産生の糖脂質として初めて、メラノーマ細胞のアポトーシスを誘導することが可能となり(X. Zhao et al., Cancer Research, 59, 482-486 (1999))、癌細胞増殖抑制作用がある。糖型BSには、これらの生理作用をはじめ、生分解性に優れ、高い安全性を有することが考えられ、医薬品、化粧品、飲食品などへの利用が期待される。
【0018】
上記糖型BSがリパーゼ活性の阻害作用を示すことは、従来から全く知られておらず、本発明により得られた新知見である。
【0019】
上記糖型BSは、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの慣用の精製手段を用いて精製した単品を、そのままリパーゼ阻害剤として用いることができる。また、それらを混合した混合物として用いてよい。さらに、酵素活性を妨げない溶媒に溶解させた溶液、及び水溶液の状態で利用してもよい。
【0020】
上記糖型BSは、優れたリパーゼ阻害活性を有しており、これらを含有する医薬、化粧料及び食品として、さらに、抗肥満剤、高脂血症改善剤、ニキビ、フケ用皮膚改善剤として使用可能である。
【0021】
医薬としての適用方法は、経口投与又は非経口投与のいずれも採用することができる。投与に際しては、有効成分を経口投与、直腸内投与、注射などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤、凍結乾燥製剤などが挙げられ、これらの製剤は製剤上の常法手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングルコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水などが挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤などの慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0022】
また本発明のリパーゼ阻害剤は、例えば、保湿化粧品、肌荒れ防止化粧品、メークアップ化粧品、フケ防止化粧品、育毛用化粧品、かゆみ防止化粧品、洗浄用化粧品、日焼け防止化粧品、体臭防止化粧品、フレグランス化粧品等の化粧品に添加することができる。このときの添加量については、当該物質によって期待される効果が有効に発揮される量であればよく、特に制限はないが、全体量の0.000001〜50重量%、好ましくは0.00001〜10重量%、さらに好ましくは0.0001〜1重量%である。なお、化粧品に本発明のリパーゼ阻害剤を添加する場合、他の有効成分やアミノ酸、薬学的に許容される賦形剤、色素や香料等を適宜組み合わせて用いることもできる。また、製品の形態についても任意であり、例えば液状、粉末状、クリーム状等のいずれも可能である。機能面からは、例えば乳液、化粧液、フェイスクリーム、ハンドクリーム、ローション、エッセンス、シャンプー、リンスなどが好ましい。
【0023】
また本発明のリパーゼ阻害剤は、ニキビ治療剤、皮膚炎治療剤等の皮膚疾患治療剤に添加することができる。このときの添加量については、当該物質によって期待される効果が有効に発揮される量であればよく、特に制限はないが、全体量の0.000001〜50重量%、好ましくは0.00001〜10重量%、さらに好ましくは0.0001〜1重量%である。なお、皮膚疾患治療剤に本発明のリパーゼ阻害剤を添加する場合、他の有効成分やアミノ酸、薬学的に許容される賦形剤、色素や香料等を適宜組み合わせて用いることもできる。また、製品の形態についても任意であり、例えば液状、粉末状、クリーム状等のいずれも可能である。
【実施例】
【0024】
本発明で阻害剤として用いる糖型BSについては特に限定されるものではないが、以下例として、Pseudozyma antarctica KM-34 (FERMP-20730) 株を用い、大豆油を原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−A(式(3)の左上の化合物)を阻害剤に用いた実験について述べる。本発明はこれにより限定されるものではない。
【0025】
実施例1
(Candida antarctica由来リパーゼBに対する阻害効果)
基質に酢酸p−ニトロフェニル(pNPA)を選び、Candida antarctica由来リパーゼB(CalB)(novozymes社製Novozym 435 CALB L)を添加してエステル加水分解反応を行った。分解によって生成するp-ニトロフェノール(pNP)の波長410nmのUV光吸収を、紫外可視分光光度計によって測定することで、反応の進行度を評価した。以下、具体的な操作手順を記す。
【0026】
pNPAを6%のDMSOを含む30 mM Hepes緩衝液(pH7.5)に溶解させ、2.5 mMの基質溶液570μLを調製した。ここに、各濃度に調製した酵素溶液30μLを添加した時点を反応開始とし、410nmの吸光度変化を15分間追跡し、これをコントロールとした。
次に上記基質溶液に対して、MEL−Aが各濃度になるように添加した試料溶液を調製し、ここに上記酵素溶液を添加して同様に吸光度の経時変化を追跡した。結果を図1に示す。
【0027】
図1はリパーゼ濃度が3U/mLの場合のグラフである。コントロール(糖脂質非添加系;図中0%と表示)に対して、MELを添加することでpNPの生成が有意に抑制された。またその効果は0.001%の添加で見られ、それ以上の濃度でも大きな違いは現れなかった。この結果より、MELのリパーゼ阻害効果は、極微量で十分に効果があることが確認された。
【0028】
比較例1
(他の界面活性剤のリパーゼに対する作用)
MEL−Aの代わりに、リパーゼ活性の促進効果が報告されている非イオン性界面活性剤であるTriton X-100(t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール:Triton)を用いて、実施例1と同様の実験を行い、反応を追跡した。活性剤添加量に対する吸光度の経時変化を追跡したグラフをまとめて図2に示す。
【0029】
Tritonの添加量の増加に伴い、反応が大きく促進されるのに対して、MEL−Aを添加した場合は一定の反応阻害効果が見られた。
【0030】
比較例2
(他の糖型界面活性剤のリパーゼに対する作用)
MEL−Aの代わりに、汎用されている糖型の合成界面活性剤であるspan 20(ソルビタンモノラウレート:Span)、及びシュガーエステル(ショ糖脂肪酸ジエステル:SE)を用いて、実施例1と同様の実験を行い、反応を追跡した。コントロール(界面活性剤非添加系)での反応開始15分後の吸光度を反応率100%とし、ここから反応率を算出した。結果をまとめたグラフを図3に示す。なお、図中、白棒は活性剤添加量を0.001%とした場合の反応率、黒棒は添加量を0.01%とした場合の反応率をそれぞれ表す。
【0031】
他の界面活性剤を添加すると、全てリパーゼの反応が促進され、また添加量の増加に伴い反応が大きく促進された。一方、MEL−Aを添加した場合のみ反応の進行が抑制された。MELのリパーゼ阻害剤としての有効性が示された。
【0032】
実施例2
(Rhizomucor miehei由来リパーゼに対する阻害効果)
リパーゼにRhizomucor miehei由来のリパーゼ(novozymes社製Novozym 388)を用い、実施例1及び比較例1、2と同様の操作で実験を行った。結果をまとめて図4に示す。
【0033】
Triton以外の糖型界面活性剤でも阻害効果が少し見られたが、特にMEL−Aを添加することで、反応が著しく阻害されることが確認された。
【0034】
実施例3
(Thermomyces lanuginosus由来リパーゼに対する阻害効果)
リパーゼにThermomyces lanuginosus由来のリパーゼ(novozymes社製Lipozyme TL 100L)を用い、実施例1及び比較例1、2と同様の操作で実験を行った。結果をまとめて図5に示す。
【0035】
Triton以外の糖型界面活性剤でも阻害効果が見られたが、特にMEL−Aを添加することで、反応が著しく阻害されることが確認された。
【0036】
実施例4
(ブタ膵臓由来リパーゼに対する阻害効果)
基質にp−ニトロフェニルラウレート(pNPL)を用い、リパーゼとしてブタ膵臓由来リパーゼ(SIGMA社製Lipase from porcine pancreas, Type II)を用いてエステル加水分解反応を評価した。基質の分散剤としてTritonを2%含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)に、pNPLを分散させて2.5mMとなるように調製した基質溶液475μLを温浴(37℃)で5分間予熱し、ここに30mg/mLの酵素溶液を25μLを添加して、温浴中で15分間反応させた。反応後の反応溶液にアセトン1mLを加えて反応を停止させ、遠心分離によって不溶部を沈降させた。上澄み液について、分解によって生成したp−ニトロフェノール(pNP)の波長410 nmのUV光吸収を、紫外可視分光光度計によって測定することで、反応の進行度を評価した。
上記結果をコントロールとし、次に上記基質溶液に対して、MEL−Aが各濃度になるように添加した試料溶液を調製し、ここに上記酵素溶液を添加して同様に吸光度の経時変化を追跡した。上記コントロールにおける吸光度を100としたときの各濃度のMELの添加によって得られた吸光度の割合(%)をまとめて図6に示す。
【0037】
Triton共存下でも、MEL−Aを1%添加することで、ブタ膵臓由来リパーゼの加水分解反応を抑制できることが確認された。膵臓リパーゼは生体内で脂質を分解し、消化吸収を促進させる機能を果たすが、これを阻害することで肥満抑制効果が期待される。
【0038】
〔他のMELを用いたリパーゼ阻害試験〕
以下のS実施例においては、上記Pseudozyma antarctica KM-34 (FERMP-20730) 株を用いて生産したMEL−A以外のMELについて、由来の異なる種々のリパーゼのエステル加水分解反応に対するMEL添加効果を評価した。用いたMELは、以下のとおりである。
1)Pseudozyma antarctica KM-34 (FERMP-20730) 株を用い、大豆油を主原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−A、MEL−B、MEL−C(以下、それぞれA1、B1、C1と略記する)
脂肪酸(R1)組成(%)・・・C8:0=22.8、C10:0=26.2、C10:1=28.4、C10:2=2.9、C12:0=5.2、C12:1=5.1、C14:2=4.7、Unknown=4.7
2)Pseudozyma tsukubaensis NMRC1940 株を用い、オリーブ油を主原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−B(以下、B2と略記する。)
脂肪酸(R1)組成(%)・・・C8:0=28.1、C10:0=1.3、C10:1=1.7、C10:2=1.1、C12:0=12.0、C12:1=11.5、C14:0=1.4、C14:1=7.8、C14:2=27.1、Unknown=8.0
3)Pseudozyma siamensis CBS9960株を用い、紅花油を主原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−C(以下、C2と略記する。)
脂肪酸(R1)組成(%)・・・マンノース2位:C2=18、C4=82、マンノース3位:C14:0=2.8、C14:1=4.3、C14:2=32.6、C16:0=23.5、C16:1=12.5、C16:2=16.6、C18:2=7.6、Unknown=0.1
4)Pseudozyma crassa CBS9959 株を用い、オレイン酸を主原料にして培養し、培養液から糖脂質成分を回収後、単離・精製することで得られたMEL−A、MEL−B、MEL−C(以下、それぞれA3、B3、C3と略記する。)
脂肪酸(R1)組成(%)・・・マンノース2位:C2=60、C4=40、マンノース3位:C14:0=12.2、C14:1=53.0、C16:0=4.6、C16:1=19.0、C18:1=3.1、Unknown=8.1
各MELは、基本的に式(3)に記載のMEL−A、B、Cの分子構造をとっているが、生産微生物と原料の油脂成分が異なることで、構造式中のR1(脂肪酸部位)の組成など、分子構造が異なる。
【0039】
実施例5
Candida antarctica由来リパーゼB(CalB)(novozymes社製Novozym
435 CALB L)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例1と同様にして、A1、B1、C1およびB2の各MELのリパーゼ阻害活性を測定した。図7の結果に示されるように、各MELは明らかに上記リパーゼの阻害活性を示した。
【0040】
実施例6
Rhizomucor miehei由来リパーゼ(novozymes社製Novozym 388)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例1と同様にして、A1、B1、C1、B2、C2、A3、B3及びC3の各MELのリパーゼ阻害活性を測定した。図8の結果に示されるように、各MELは顕著な上記リパーゼの阻害活性を示した。
【0041】
実施例7
Thermomyces lanuginosus由来リパーゼ(novozymes社製Lipozyme TL 100L)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例1と同様にして、A1、B1、C1、B2、C2、A3、B3及びC3の各MELのリパーゼ阻害活性を測定した。図9の結果に示されるように、各MELは顕著な上記リパーゼ阻害活性を示した。
【0042】
実施例8
Rhizopus delemer由来リパーゼ(生化学工業社製)(実施例8)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例1と同様にして、A1、B1、C1、B2、C2、A3、B3及びC3の各MELのリパーゼ阻害活性を測定した。図10の結果に示されるように、各MELは顕著な上記リパーゼ阻害活性を示した。
【0043】
実施例9
ブタ膵臓由来リパーゼ(SIGMA社製Lipase from porcine pancreas, Type II)を用い、最終MEL添加量を0.01%とし、他は実施例4と同様にして、リパーゼ阻害活性を調べた。コントロールは、実施例4において、1%濃度で豚膵臓リパーゼ阻害活性を示したPseudozyma antarctica KM-34株由来のMEL−A(A1)とした。図11の結果から明らかなように、B2はA1とほぼ同等の阻害活性ではあるが、B1、C1、C2、A3、B3およびC3はより低い濃度で膵リパーゼ阻害活性を有し、膵リパーゼ阻害活性はA1よりも高いことが明らかとなった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、リパーゼ阻害剤。
【請求項2】
微生物産生糖型バイオサーファクタントが、下記化学式(1)に記載のマンノシルアルジトールリピッドであることを特徴とする、請求項1に記載のリパーゼ阻害剤。
【化1】
(式中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、R2は、水素またはアセチル基を表す。またR3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基を表し、2箇所あるR2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
【請求項3】
微生物産生糖型バイオサーファクタントが、下記化学式(2)に記載のマンノシルエリスリトールリピッドであることを特徴とする、請求項1に記載のリパーゼ阻害剤。
【化2】
(式中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、R2は、水素またはアセチル基を表す。またR3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基を表し、2箇所あるR2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタント剤を有効成分として含有することを特徴とする、成人病の予防、改善若しくは治療用医薬または健康食品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有する脂肪吸収抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有する肥満抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、皮膚炎抑制剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、ニキビ抑制剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、フケ抑制剤。
【請求項1】
微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、リパーゼ阻害剤。
【請求項2】
微生物産生糖型バイオサーファクタントが、下記化学式(1)に記載のマンノシルアルジトールリピッドであることを特徴とする、請求項1に記載のリパーゼ阻害剤。
【化1】
(式中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、R2は、水素またはアセチル基を表す。またR3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基を表し、2箇所あるR2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
【請求項3】
微生物産生糖型バイオサーファクタントが、下記化学式(2)に記載のマンノシルエリスリトールリピッドであることを特徴とする、請求項1に記載のリパーゼ阻害剤。
【化2】
(式中、R1は炭素数2〜24の脂肪族アシル基であり、R2は、水素またはアセチル基を表す。またR3は水素または炭素数2〜24脂肪族アシル基を表し、2箇所あるR2及びR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタント剤を有効成分として含有することを特徴とする、成人病の予防、改善若しくは治療用医薬または健康食品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有する脂肪吸収抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有する肥満抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、皮膚炎抑制剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、ニキビ抑制剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物産生糖型バイオサーファクタントを有効成分として含有することを特徴とする、フケ抑制剤。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−248186(P2010−248186A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70830(P2010−70830)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]