リング式テンショナ
【課題】リング側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができるリング式テンショナを提供する。
【解決手段】リング式テンショナ100は、収容穴103に収容された状態で前進および後退可能にボディ101に支持されるプランジャ110と、プランジャ110を囲んで配置されて径方向に拡縮可能な弾性リング120とを備え、プランジャ110のラック部111と弾性リング120のリング側当接部121との当接によりプランジャ110の移動が規制される。収容溝130に収容されているリング側当接部121は、リング側当接部121とラック部111とが当接するときに、収容溝130の軸方向ボディ溝壁面131bと当接する軸方向リング当接面121bを有する。軸方向リング当接面121bの断面形状は直線である。
【解決手段】リング式テンショナ100は、収容穴103に収容された状態で前進および後退可能にボディ101に支持されるプランジャ110と、プランジャ110を囲んで配置されて径方向に拡縮可能な弾性リング120とを備え、プランジャ110のラック部111と弾性リング120のリング側当接部121との当接によりプランジャ110の移動が規制される。収容溝130に収容されているリング側当接部121は、リング側当接部121とラック部111とが当接するときに、収容溝130の軸方向ボディ溝壁面131bと当接する軸方向リング当接面121bを有する。軸方向リング当接面121bの断面形状は直線である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば巻掛け伝動機構を構成するチェーン等に張力を与えるテンショナであって、弾性リングを備えるリング式テンショナに関する。そして、該リング式テンショナは、例えば、エンジンにおいて、カム軸などを駆動する巻掛け伝動機構のチェーンに対して使用される。
【背景技術】
【0002】
リング式テンショナが、ボディに設けられた収容穴に前進および後退可能に収容されるとともにチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、該プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、プランジャが有するプランジャ側当接部と弾性リングが有するリング側当接部との当接により軸線方向でのプランジャの移動を規制可能なものは知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−27124号公報(段落0028−段落0053、図2−図10)
【特許文献2】特開2003−202060号公報(段落0026−段落0035、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リング式テンショナにおいて、プランジャが収容される収容穴の軸線を含む軸平面での弾性リングの断面形状が円形である場合には、弾性リングは、ボディに設けられて弾性リングが収容される収容溝の溝壁面との当接時に、ほぼ線接触状態で該溝壁面と当接するために、弾性リングに作用する接触圧が高くなり、弾性リングの摩耗が進行しやすいという問題があった。
そして、弾性リングが摩耗すると、プランジャの後退時に、プランジャの後退停止位置にバラツキが発生して、張力調整が不安定化したり、また弾性リングがプランジャとボディとの間に噛み込まれて、プランジャが不動状態になる現象(以下、「噛込みロック」という。)が発生する虞がある。
【0005】
また、チェーンの張力変動や、チェーンが取り付けられているエンジンの温度変化によるエンジン本体やチェーンの熱膨張などに起因して、チェーンの緩み時(例えば、冷間時のエンジン本体の熱収縮に起因する。)や伸長時に、プランジャが過度に前進した状態(以下、「過飛び出し状態」という。)になることがある。
そして、プランジャが過飛び出し状態になると、チェーンに過大張力が発生することから、この過大張力が発生しているチェーンからの反力によるプランジャの後退がラチェット歯とラック歯との噛合いにより規制されたままであると、チェーンは、過大張力が作用している状態(以下、「張力過多」という。)のまま走行することになり、チェーンへの負担や騒音が増加するという問題があった。
【0006】
また、プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段が、プランジャ付勢用ばねと、ボディおよびプランジャ間に形成された油室にエンジンが備える油圧源から供給された外部圧油とにより構成されるテンショナでは、エンジンの始動時などのように、エンジンの停止中における油室への空気の侵入などに起因して、油室にプランジャの後退を規制するための十分な油圧が存在していない場合に、チェーンからの反力によりプランジャが後退して、バタツキ音と称する騒音が発生するという問題があった。
【0007】
また、弾性リングが拡径が手作業により行われるのでは、弾性リングを拡径するために、弾性リングの両端部を指などで把持することが必要になって、プランジャの着脱のための拡径作業が円滑に行われないという問題があった。
また、テンショナの搬送時やエンジンへの組付時に、プランジャが収容穴から飛び出さないようにすることが望ましい。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、リング側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができるリング式テンショナを提供することである。
また、本発明の他の目的は、さらに、プランジャ付勢手段による付勢力やチェーン等からの反力によるプランジャの移動応答性、したがってチェーン等に対する張力調整の応答性を向上させることができるリング式テンショナを提供することである。
また、本発明の他の目的は、さらに、チェーン等のバタツキ音を低減することができ、しかもチェーン等が過大張力による張力過多の状態で走行することが防止されて、チェーン等への負担や騒音を低減することができるリング式テンショナを提供することである。
また、本発明の他の目的は、さらに、搬送時等におけるプランジャの飛出しを確実に防止することができるリング式テンショナを提供することである。
また、本発明の他の目的は、さらに、ボディへのプランジャの組付性およびメンテナンス性を向上させることができるリング式テンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、請求項1に係る発明は、収容穴が設けられたボディと、前記収容穴に収容された状態で前記収容穴の軸線に平行な軸方向で前進および後退可能に前記ボディに支持されるとともに走行中のチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、前記プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、前記プランジャが有するプランジャ側当接部と前記弾性リングが有するリング側当接部との当接により前記軸方向での前記プランジャの移動を規制可能なリング式テンショナにおいて、前記収容穴の周壁面に設けられた収容溝に収容されている前記リング側当接部が、前記軸方向で前記リング側当接部と前記プランジャ側当接部とが当接するときに、前記収容溝の軸方向ボディ溝壁面と当接する軸方向リング当接面を有し、前記軸線を含む平面である軸平面での前記軸方向リング当接面の断面形状が直線であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記軸平面での前記軸方向ボディ溝壁面の断面形状が直線であり、前記軸方向リング当接面および前記軸方向ボディ溝壁面が面接触可能であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の構成に加えて、前記軸方向リング当接面および前記軸方向ボディ溝壁面が平面であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記プランジャ側当接部が前記プランジャに前記軸方向に配列された複数の溝により構成され、前記溝が、周方向に湾曲した周方向溝であり、前記軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、前記軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、前記プランジャの後退時に、前記後退側リング当接面と前記後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、前記リング側当接部が、前記周方向溝に沿って周方向に湾曲していることにより、前述した課題を解決したものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記プランジャ側当接部が前記プランジャに前記軸方向に配列された複数の溝により構成され、前記溝が、前記軸線に直交する軸直交平面に平行な直線状の軸直交方向溝であり、前記軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、前記軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、前記プランジャの後退時に、前記後退側リング当接面と前記後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、前記リング側当接部が、前記軸直交方向溝に沿って直線状であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項4または請求項5に係る発明の構成に加えて、前記各溝が、前記プランジャの後退時に前記リング側当接部が当接する前進側プランジャ傾斜面と、前記プランジャの前進時に前記リング側当接部が当接する後退側プランジャ傾斜面とを有し、前記チェーン等に発生する張力に基づいて前記チェーン等から前記プランジャに作用して前記プランジャを後退させる反力を、前記張力が予め設定された過大張力よりも小さいときの第1反力とし、前記張力が前記過大張力であるときの第2反力とするときに、前記前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、前記前進側プランジャ傾斜面と前記リング側当接部とが当接することで第1反力による前記プランジャの後退を阻止し、かつ、前記前進側プランジャ傾斜面と前記リング側当接部との当接による前記弾性リングの拡径により前記リング側当接部が前記前進側プランジャ傾斜面を乗り越えることで、前記第2反力による前記プランジャの後退を許容する角度に設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明の構成に加えて、前記リング側当接部が、前記前進側プランジャ傾斜面と当接可能な前進側リング傾斜面と、前記後退側プランジャ傾斜面と当接可能な後退側リング傾斜面とを有し、前記軸平面での前記前進側プランジャ傾斜面、前記前進側リング傾斜面、前記後退側プランジャ傾斜面および前記後退側リング傾斜面の各断面形状が直線であり、前記前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、前記後退側プランジャ傾斜面の後退側プランジャ傾斜角よりも小さく、前記前進側リング傾斜面の前進側リング傾斜角が、前記後退側リング傾斜面の後退側リング傾斜角よりも小さく、前記前進側リング傾斜角が、前記前進側プランジャ傾斜角以下であり、前記後退側リング傾斜角が、前記後退側プランジャ傾斜角以下であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0016】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記弾性リングが、前記弾性リングを拡径および縮径させるために操作される操作部を有し、前記収容溝から径方向外方に突出している前記操作部がリング径保持具に保持されることにより、前記弾性リングが前記軸方向での前記プランジャの移動を阻止することにより、前述した課題を解決したものである。
【0017】
請求項9に係る発明は、請求項8に係る発明の構成に加えて、前記リング径保持具が、前記弾性リングを拡径する拡径作用部を有し、前記操作部は、周方向に離隔している1対の第1操作部および第2操作部であり、前記拡径作用部の幅が、前記拡径作用部が周方向で前記第1操作部および前記第2操作部の間に配置された状態で、前記リング側当接部が前記軸方向で前記プランジャ側当接部と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0018】
そこで、本発明のリング式テンショナは、収容穴が設けられたボディと、収容穴に収容された状態で収容穴の軸線に平行な軸方向で前進および後退可能にボディに支持されるとともに走行中のチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段と、プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、プランジャが有するプランジャ側当接部と弾性リングが有するリング側当接部との当接により軸方向でのプランジャの移動を規制可能であることにより、走行中のチェーン等に対して、前進するプランジャにより適度な張力を与えることができ、また弾性リングがプランジャと当接することにより、軸方向でのプランジャの移動を規制することができるばかりでなく、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0019】
すなわち、請求項1に係る本発明のベルト式テンショナによれば、収容穴の周壁面に設けられた収容溝に収容されているリング側当接部が、軸方向でリング側当接部とプランジャ側当接部とが当接するときに、収容溝の軸方向ボディ溝壁面と当接する軸方向リング当接面を有し、軸線を含む平面である軸平面での軸方向リング当接面の断面形状が直線であることにより、プランジャの移動を規制するために、弾性リングのリング側当接部において、収容溝の軸方向ボディ溝壁面に当接する軸方向リング当接面の断面形状が直線であるため、リング側当接部の断面形状が円である弾性リングの場合とは異なり、リング側当接部との当接時の接触圧を減少させることができて、リング側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができる。
【0020】
請求項2に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
軸平面での軸方向ボディ溝壁面の断面形状が直線であり、軸方向リング当接面および軸方向ボディ溝壁面が面接触可能であることにより、リング側当接部と収容溝の溝壁面との当接時の接触圧を、面接触可能な軸方向リング当接面と軸方向ボディ溝壁面とにより減少させることができるため、リング側当接部およびプランジャ側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の噛込みロックを防止することができる。
【0021】
請求項3に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
軸方向リング当接面および軸方向ボディ溝壁面が平面であることにより、リング側当接部と収容溝の溝壁面との当接が、軸方向リング当接面および軸方向ボディ溝壁面の平面同士の当接であるので、例えば、軸方向リング当接面および軸方向ボディ溝壁面がテーパ面である場合に比べて、軸方向でのプランジャの移動時に弾性リングが拡径する際にリング側当接部に作用する摩擦力を小さくすることが可能になるため、リング式テンショナにおいて、プランジャ付勢手段による付勢力やチェーン等からの反力によるプランジャの移動応答性、したがってチェーン等に対する張力調整の応答性を向上させることができる。
【0022】
請求項4に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
プランジャ側当接部がプランジャに軸方向に配列された複数の溝により構成され、溝が、周方向に湾曲した周方向溝であり、軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、プランジャの後退時に、後退側リング当接面と後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、リング側当接部が、周方向溝に沿って周方向に湾曲していることにより、プランジャ側当接部が軸方向に配列された複数の周方向溝により構成されるテンショナにおいて、プランジャの後退時のリング側当接部と収容溝の溝壁面との当接時の接触圧を、面接触可能な後退側リング当接面と後退側ボディ溝壁面とにより減少させることができるので、プランジャの後退時におけるリング側当接部および収容溝の溝壁面での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の噛込みロックを防止することができる。
【0023】
請求項5に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
プランジャ側当接部がプランジャに軸方向に配列された複数の溝により構成され、溝が、軸線に直交する軸直交平面に平行な直線状の軸直交方向溝であり、軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、プランジャの後退時に、後退側リング当接面と後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、リング側当接部が、軸直交方向溝に沿って直線状であることにより、プランジャ側当接部がプランジャに周方向での一部に設けられた複数の軸直交方向溝により構成されるテンショナにおいて、プランジャの後退時のリング側当接部と収容溝の溝壁面との当接時の接触圧を、面接触可能な後退側リング当接面と後退側ボディ溝壁面とにより減少させることができるので、プランジャの後退時におけるリング側当接部および収容溝の溝壁面での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の噛込みロックを防止することができる。
【0024】
請求項6に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項4または請求項5に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
各溝が、プランジャの後退時にリング側当接部が当接する前進側プランジャ傾斜面と、プランジャの前進時にリング側当接部が当接する後退側プランジャ傾斜面とを有し、チェーン等に発生する張力に基づいてチェーン等からプランジャに作用してプランジャを後退させる反力を、張力が予め設定された過大張力よりも小さいときの第1反力とし、張力が過大張力であるときの第2反力とするときに、前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、前進側プランジャ傾斜面とリング側当接部とが当接することで第1反力によるプランジャの後退を阻止し、かつ、前進側プランジャ傾斜面とリング側当接部との当接による弾性リングの拡径によりリング側当接部が前進側プランジャ傾斜面を乗り越えることで、第2反力によるプランジャの後退を許容する角度に設定されていることにより、プランジャを後退させるチェーン等からの反力の大きさが第1反力であるときに、弾性リングによりプランジャの後退が阻止されるので、チェーン等のバタツキ音を低減することができる。また、チェーン等からの反力がチェーン等の張力過多時に発生する第2反力であるときに、弾性リングがプランジャ側当接部の前進側プランジャ傾斜面を乗り越えて、チェーン等からの反力が第1反力になるまでプランジャを後退させるため、チェーン等が過大張力による張力過多の状態で走行することが防止されて、チェーン等への負担や騒音を低減することができる。
【0025】
請求項7に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項6に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
リング側当接部が、前進側プランジャ傾斜面と当接可能な前進側リング傾斜面と、後退側プランジャ傾斜面と当接可能な後退側リング傾斜面とを有し、軸平面での前進側プランジャ傾斜面、前進側リング傾斜面、後退側プランジャ傾斜面および後退側リング傾斜面の各断面形状が直線であり、前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、後退側プランジャ傾斜面の後退側プランジャ傾斜角よりも小さく、前進側リング傾斜面の前進側リング傾斜角が、後退側リング傾斜面の後退側リング傾斜角よりも小さく、前進側リング傾斜角が、前進側プランジャ傾斜角以下であり、後退側リング傾斜角が、後退側プランジャ傾斜角以下であることにより、弾性リングを備えるリング式テンショナにおいて、前進側プランジャ傾斜面および後退側プランジャ傾斜面を有する溝が軸方向に複数配列されることにより、鋸歯状に形成されたプランジャ側当接部に対して、リング側当接部が前進側リング傾斜面および後退側リング傾斜面を有することで鋸歯状に形成されるので、プランジャの前進および後退を、ラチェットピストンを備えるテンショナと同等に行うことができる。
また、前進側リング傾斜角が前進側プランジャ傾斜角と同じであり、後退側リング傾斜角が後退側プランジャ傾斜角と同じ場合には、前進側プランジャ傾斜面および前進側リング傾斜面同士、そして、後退側プランジャ傾斜面および後退側リング傾斜面同士の接触圧が減少するので、弾性リングの摩耗の進行を抑制することができる。
【0026】
請求項8に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項1から請求項7のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
弾性リングが、弾性リングを拡径および縮径させるために操作される操作部を有し、収容溝から径方向外方に突出している操作部がリング径保持具に保持されることにより、弾性リングが軸方向でのプランジャの移動を阻止することにより、弾性リングの操作部を保持するリング径保持具により、弾性リングを利用して軸方向でのプランジャの移動が確実に阻止されるので、テンショナの搬送時やテンショナの組付時おより該組付前において、収容穴からのプランジャの飛出しを防止することができる。
【0027】
請求項9に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項8に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
リング径保持具が、弾性リングを拡径する拡径作用部を有し、操作部は、周方向に離隔している1対の第1,第2操作部であり、拡径作用部の幅が、拡径作用部が周方向で1対の操作部の間に配置された状態で、リング側当接部が軸方向でプランジャ側当接部と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されていることにより、リング径保持具の拡径作用部を第1,第2操作部の間に挟み込むことで、リング側当接部をプランジャ側当接部と当接しない位置まで弾性リングを拡径できるので、収容穴へのプランジャの着脱や、プランジャを初期位置に戻すための作業が容易化されて、ボディへのプランジャの組付性およびメンテナンス性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施例であるリング式テンショナを備えるタイミングチェーン伝動機構の概略図。
【図2】図1のテンショナの拡大図であり、図3のII矢視図。
【図3】図2のIII矢視図。
【図4】図1のテンショナのプランジャ、弾性リング、リング径保持具の斜視図。
【図5】図3のV−V線断面図。
【図6】図4のリング径保持具により弾性リングが拡径されるときの説明図。
【図7】図1のテンショナのプランジャの前進が許容されるときの説明図。
【図8】図1のテンショナのプランジャの後退が阻止されるときの説明図。
【図9】図1のテンショナのプランジャの後退が許容されるときの説明図。
【図10】本発明の第2実施例であるリング式テンショナの図2に相当する図であり、図11のX矢視図。
【図11】図10のXI矢視図。
【図12】図10のテンショナのプランジャ、弾性リング、リング径保持具の斜視図。
【図13】図11のXIII−XIII線断面図。
【図14】図12のリング径保持具により弾性リングが拡径されるときの説明図。
【図15】本発明の第3実施例であるリング式テンショナの、図12に相当する図。
【図16】本発明の第3実施例であるリング式テンショナの、図13に相当する図であり、プランジャが最大前進位置を占めるときの図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のリング式テンショナは、収容穴が設けられたボディと、前記収容穴に収容された状態で前記収容穴の軸線に平行な軸方向で前進および後退可能に前記ボディに支持されるとともに走行中のチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、前記プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、前記プランジャが有するプランジャ側当接部と前記弾性リングが有するリング側当接部との当接により前記軸方向での前記プランジャの移動を規制可能であり、前記収容穴の周壁面に設けられた収容溝に収容されている前記リング側当接部が、前記軸方向で前記リング側当接部と前記プランジャ側当接部とが当接するときに、前記収容溝の軸方向ボディ溝壁面と当接する軸方向リング当接面を有し、前記軸線を含む平面である軸平面での前記軸方向リング当接面の断面形状が直線であることにより、リング側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができるものであれば、その具体的な態様はいかなるものであっても構わない。
【0030】
ここで、チェーン等とは、チェーンのほかに、ベルトを含む帯状で可撓性の巻掛け伝動体を意味する。
また、弾性リングにおいて、リング側当接部以外の部分の断面形状は、リング側当接部の断面形状と同じであってもよいし、リング側当接部の断面形状とは異なる形状であってもよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を、図1〜図16を参照しながら説明する。
図1〜図9は、本発明の第1実施例を説明するための図である。
図1を参照すると、本発明の第1実施例であるリング式テンショナ100は、機械としてのエンジン(図示されず)のタイミングチェーン伝動機構1に備えられる。そして、該エンジンは、例えば自動車用エンジンである。巻掛け伝動機構としてのタイミングチェーン伝動機構1は、テンショナ100のほかに、エンジンの駆動軸であるクランク軸2により回転駆動される駆動側の回転部材であるスプロケット4と、被駆動軸である1対のカム軸3にそれぞれ固定されている1対の被駆動側のスプロケット5と、それらスプロケット4,5に巻き掛けられている帯状の巻掛け伝動体としての無端のチェーンであるタイミングチェーン6(以下、「チェーン6」という。)とを備える。
そして、テンショナ100は、チェーン6の弛み側で機械本体としてのエンジン本体に取り付けられている。
テンショナ100のボディ101から前進方向に突出しているプランジャ110は、軸方向で前進して、エンジン本体に揺動自在に支持されている可動レバー10の揺動端近傍の背面を押圧することにより、チェーン6の弛み側において、可動レバー10を介してチェーン6に張力を付与し、軸方向で後退して、チェーン6の張力を減少させる。
【0032】
図5を主に参照し、図1〜図4を適宜参照すると、テンショナ100は、給油路102および収容穴103が設けられたボディ101と、収容穴103に収容された状態で該収容穴103の軸線Lに平行な方向である軸方向で前進および後退可能にボディ101に支持されるとともに走行中のチェーン6に張力を付与するために前進するプランジャ110と、周方向でプランジャ110を囲んで配置されるとともにその弾性力により径方向に拡縮可能な弾性リング120と、収容穴103とプランジャ110の中空部110bとの間に形成される油室105内に配置されてプランジャ110を前進方向に付勢する付勢力を発生する付勢ばね106と、収容穴103内に組み込まれて油室105内から給油路102への圧油の逆流を阻止する逆止弁150とを備える。
そして、弾性リング120は、プランジャ110のラック部111と弾性リング120のリング側当接部121との当接により、軸方向でのプランジャ110の移動を規制可能である。
【0033】
なお、図2〜図5では、弾性リング120が、後述するリング径保持具160に保持されて、最前列の周方向溝112に収容されていることにより、プランジャ110が最大後退位置でもある初期位置を占めている状態が示されている。また、径方向および周方向は、それぞれ軸線Lを中心とする径方向および周方向である。
【0034】
給油路102は、テンショナ100の外部から供給される外部油圧である圧油を油室105に導く。この圧油は、エンジンに備えられて該エンジンの運転および停止に対応して作動および停止が行われる油圧源であるオイルポンプから供給される。したがって、油室105への圧油の供給は、エンジンの運転時に行われ、エンジンの停止時に停止される。
また、油室105内の圧油は、付勢ばね106とともに、プランジャ110を前進方向に付勢するプランジャ付勢手段を構成する一方で、チェーン6に発生する張力に基づいてチェーン6から後退方向にプランジャ110に作用して該プランジャ110を後退させる反力F(図8,図9参照)を緩衝するダンパとして機能する。
【0035】
逆止弁150は、収容穴103において後退方向側の端部に組み込まれて、給油路102から油室105内への外部圧油の導入を許容する一方で、油室105内から給油路102へ圧油の逆流を阻止する。
本実施例では、逆止弁150は、給油路102に連通する油路151が設けられたボールシート152と、該ボールシート152に着座するチェックボール153と、該チェックボール153をボールシート152に押圧するばね154と、該ばね154を支持するとともにチェックボール153の移動量を規制するリテーナ155とを有する。
【0036】
収容穴103は、その中心軸線が軸線Lである柱状、本実施例では円柱状の穴である。そして、プランジャ110は、収容穴103に収容された状態で軸線Lとほぼ一致する軸線を有する筒状の、本実施例では円筒状の部材である。なお、「ほぼ」との表現は、「ほぼ」との修飾語がない場合を含むとともに、「ほぼ」との修飾語がない場合とは厳密には一致しないものの、「ほぼ」との修飾語がない場合と比べて作用効果に関して有意の差異がない範囲を意味する。
【0037】
プランジャ110は、弾性リング120のリング側当接部121と当接可能なプランジャ側当接部としてのラック部111と、収容穴103の周壁面104に摺接してプランジャ110を軸方向にほぼ平行に往復移動可能に支持するためのプランジャ支持部119とを有する。
ラック部111は、プランジャ110の外周面110aに軸方向に配列されて設けられた複数の溝である周方向溝112により構成される。該周方向溝112は、プランジャ110の外周面110aに、周方向に延びているとともに全周に渡って設けられ、プランジャ110の外周に沿って周方向に湾曲した円環状の溝である。
【0038】
各周方向溝112は、弾性リング120のリング側当接部121が当接するプランジャ側当接面として、プランジャ110の後退時にリング側当接部121が当接する前進側プランジャ傾斜面113と、プランジャ110の前進時にリング側当接部121が当接する後退側プランジャ傾斜面114とを有する。そして、両プランジャ傾斜面113,114により鋸歯状のラック歯117が形成される。
軸線Lを含む平面である軸平面P1(図3には軸平面P1の一例が示されている。)での前進側プランジャ傾斜面113および後退側プランジャ傾斜面114の各断面形状は直線である(図5参照)。そして、本実施例では、これらプランジャ傾斜面113,114はいずれもテーパ面である。
また、前進側プランジャ傾斜面113の前進側プランジャ傾斜角θ1は、後退側プランジャ傾斜面114の後退側プランジャ傾斜角α1よりも小さい。
なお、以下、断面形状とは、軸平面P1での部材等の断面形状を意味する。
【0039】
ボディ101には、円環状の収容溝130と、周方向での一部で収容溝130に連なる切欠部140とが設けられている。収容溝130および切欠部140は、収容穴103を形成している周壁面104に開放して設けられている。切欠部140は、径方向にボディ101を貫通するとともに前進方向に開放している径方向空間145を形成している(図2,図3参照)。
【0040】
収容溝130の溝壁面131(図5参照)は、軸方向に面している軸方向ボディ溝壁面131bと、径方向でプランジャ110に面している径方向ボディ溝壁面131cとを有する。
軸方向ボディ溝壁面131bは、軸方向で対向する前進側ボディ溝壁面135および後退側ボディ溝壁面136から構成される。
前進側ボディ溝壁面135および後退側ボディ溝壁面136の各断面形状は直線であり、本実施例では、各ボディ溝壁面135,136は、軸線Lに直交する平面である軸直交平面P2(図2,図5には軸直交平面P2が例示されている。)に平行な平面である。
【0041】
弾性リング120は、ラック部111との当接により、付勢ばね106および油室105内の圧油の付勢力によるプランジャ110の前進を許容可能とし、またチェーン6からプランジャ110に作用してプランジャ110を後退させる後退方向での反力F(図8,図9参照)によるプランジャ110の後退を許容および規制可能とする。
そして、弾性リング120は、収容溝130内に組み付けられた状態で、径方向外方に作用する外力により、プランジャ110の前進の許容、後退の許容および規制をするための拡径を可能とする弾性変形特性を有するように設計されている。
【0042】
弾性リング120は、収容溝130に収容されてプランジャ110を囲む円弧状のリング部R(図4参照)と、切欠部140に収容されて弾性リング120を拡径および縮径するために操作される操作部である1対の第1,第2操作部としての1対の端部E1,E2とを有する。
リング部Rの全体は、軸方向でラック部111と当接可能なリング側当接部121を構成する。
【0043】
図2,図3,図5には、自由状態から拡径しているとともに後述するリング径保持具160により拘束されて、周方向溝112内で両プランジャ傾斜面113,114と当接した状態の弾性リング120が示されている。
ここで、自由状態とは、弾性リング120が、該弾性リング120を弾性変形させる力が作用していないときの弾性リング120の状態である。
また、弾性リング120は、リング径保持具が取り外された状態である使用状態(図1に示されている)で、リング側当接部121が収容穴103と収容溝130とに、または周方向溝112と収容溝130とに、跨がる状態で、かつ収容溝130内で拡径可能に収容されている。
【0044】
周方向溝112に沿って円弧状に湾曲しているリング側当接部121は、図5に示されるように、軸方向でラック部111と当接可能なリング傾斜面121aと、該リング傾斜面121aとラック部111とが当接するときに、軸方向ボディ溝壁面131bと当接する軸方向リング当接面121bとを有する。リング傾斜面121aは、リング側当接部121の前進側および後退側のそれぞれにおいて、軸方向リング当接面121bよりも径方向内方に位置する。リング傾斜面121aは、前進側プランジャ傾斜面113と当接可能な前進側リング傾斜面123と、後退側プランジャ傾斜面114と当接可能な後退側リング傾斜面124とから構成される。そして、両リング傾斜面123,124により、ラック歯117と噛み合う鋸歯状のラチェット歯127が形成される。
【0045】
また、前進側リング傾斜面123の前進側リング傾斜角θ2は、後退側リング傾斜面124の後退側リング傾斜角α2よりも小さい。
そして、前進側リング傾斜角θ2は前進側プランジャ傾斜角θ1以下であり、後退側リング傾斜角α2は後退側プランジャ傾斜角α1以下である。本実施例では、前進側リング傾斜角θ2は前進側プランジャ傾斜角θ1よりも小さく、後退側リング傾斜角α2は後退側プランジャ傾斜角α1よりも小さい。
【0046】
軸方向リング当接面121bは、プランジャ110の前進時に前進側ボディ溝壁面135と面接触可能な前進側リング当接面125と、プランジャ110の後退時に後退側ボディ溝壁面136と面接触可能な後退側リング当接面126とから構成される。
前進側リング傾斜面123、後退側リング傾斜面124、前進側リング当接面125および後退側リング当接面126の各断面形状は直線である。本実施例では、各リング傾斜面123,124はテーパ面であり、各リング当接面125,126は平面である。
【0047】
このため、弾性リング120において、少なくともラック部111と当接するリング側当接部121の断面形状は、本実施例では、弾性リング120全体が、前進側リング傾斜面123、後退側リング傾斜面124、前進側リング当接面125および後退側リング当接面126により形成されて、角部がR状の(すなわち、丸みを有する)角形形状である。
そして、ラック部111とリング側当接部121とにより、テンショナ100のラチェット機構が構成される。
【0048】
図2〜図4を参照すると、弾性リング120の各端部E1,E2は、収容溝130から径方向外方に突出し、切欠部140を径方向に貫通してボディ101の外部まで延びている。また、各端部E1,E2は、径方向空間145内において、リング部Rから径方向外方に軸直交平面P2にほぼ平行に延びている。
各端部E1,E2は、弾性リング120がリング部Rの全体が軸直交平面P2にほぼ平行となるように収容溝130に収容されている状態で、リング部Rの周方向間隔を通る径方向直線Lr(図3参照)に対して、リング部Rから径方向外方に向かうにつれて周方向での間隔(または、径方向直線Lrとの周方向での間隔)が次第に大きくなるように形成されている被押圧部としての拡開傾斜部141,142と、径方向直線Lrにほぼ平行に延びている被保持部としての平行部143,144とを有する。
【0049】
弾性リング120を拡径または縮径するために使用される工具であるリング径保持具160は、テンショナ100の搬送時や、前記エンジン本体へのテンショナ100の組付時および該組付以前に、弾性リング120を、ラック部111のいずれか1つの周方向溝112に収容されている状態である収容保持状態に保つ。
本実施例では、この収容保持状態で、周方向溝112とリング側当接部121とが当接状態にある。リング径保持具160は、各端部E1,E2が挿入される保持穴163,164が設けられた1対の係合保持部161,162と、作業者により把持される把持部である軸部165と、軸部165の一端部により構成されて、両端部E1,E2の拡開傾斜部141,142の周方向での間に配置可能な拡径作用部166とを有する。
軸部165は、柱状、本実施例では円柱状であるが、角柱状(例えば、四角柱)であってもよい。
【0050】
両平行部143,144がそれぞれ保持穴163,164に挿入されて両係合保持部161,162に保持された状態(図2,図3参照)で、弾性リング120は、ラック部111とリング側当接部121とが軸方向で当接可能となる前記収容保持状態に保たれる(図5参照)。
図6を併せて参照すると、拡径作用部166において、両端部E1,E2を広げる部分である間隔形成部の幅Wは、拡径作用部166が両拡開傾斜部141,142の周方向での間隔が最小になっている最狭部149(図4,図6参照)の間に差し込まれて、両拡開傾斜部141,142の間に配置された状態で、図6に二点鎖線で示される位置から、図6に実線で示されるように、リング側当接部121の最小内径がラック部111の最大外径よりも大きくなって、リング側当接部121が軸方向でラック部111と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されている。
【0051】
そして、プランジャ110がボディ101の収容穴103に収容される際には、先ず弾性リング120が収容溝130に収容され、次いで、リング径保持具160の拡径作用部166が両拡開傾斜部141,142の間に差し込まれて、弾性リング120が拡径された状態で、プランジャ110が後退方向に向けて収容穴103に収容される。その後、リング径保持具160が弾性リング120から外される。
【0052】
図7〜図9を主に参照し、必要に応じて図1,図5を適宜参照して、テンショナ100の動作について説明する。
図7を参照すると、後退側プランジャ傾斜角α1は、エンジンの運転時に走行中のチェーン6の張力が減少して、図7(a)に示されるように、付勢ばね106および油室105内の圧油の油圧に基づいてプランジャ110に作用する所定値以上の前進力Faによりプランジャ110が前進するときに、ラック部111の後退側プランジャ傾斜面114を通じてリング側当接部121に作用する前進力Faの径方向分力faがリング側当接部121を拡径させ(図7(b))、図7(c)に示されるように、リング側当接部121(または、ラチェット歯127)が後退側プランジャ傾斜面114(または、ラック歯117)を乗り越えて、後退方向で隣接する周方向溝112Bに収容される(図7(d))角度に設定されている。
このため、前進したプランジャ110がチェーン6に張力を付与し、チェーン6の張力が高められる。そして、チェーン6の張力が高められて、前進力Faが前記所定値未満になるまで、リング側当接部121は、後退側プランジャ傾斜面114を乗り越える。
【0053】
図8を参照すると、ゼロよりも大きな角度である前進側プランジャ傾斜角θ1は、走行中のチェーン6の張力が増加して、図8(a)に示されるように、プランジャ110を後退させようとする反力Fがチェーン6の張力が予め設定された過大張力よりも小さいときの第1反力F1であるときに、前進側プランジャ傾斜面113を通じてリング側当接部121に作用する第1反力F1の径方向分力f1がリング側当接部121を拡径させたとしても、図8(b)に示されるように、リング側当接部121(または、ラチェット歯127)が前進側プランジャ傾斜面113(または、ラック歯117)を乗り越えることがないように設定されている。したがって、第1反力F1によるプランジャ110の後退は、前進側プランジャ傾斜面113とリング側当接部121とが当接することにより阻止される。
【0054】
このため、エンジン始動時およびエンジン始動後の通常運転時(すなわち、チェーン6が張力過多でないときのエンジン運転時)において、チェーン6からプランジャ110を後退させようとする第1反力F1が発生するときには、バックラッシュに基づくプランジャ110の後退の後に、リング側当接部121が当接する前進側プランジャ傾斜面113を乗り越えることなく、リング側当接部121がプランジャ110の後退方向の移動を規制して後退を阻止する。
【0055】
ここで、第1反力F1は、チェーン6の第1走行状態、例えば、油室105が低油圧状態にあるときとしてのエンジン始動時、および、エンジン始動後の通常運転時(での走行状態における反力Fである。
また、前記低油圧状態は、油室105への前記外部圧油の供給が行われないエンジン停止中での油室105への空気の侵入などに起因して、油室105にプランジャ110の後退を規制するための十分な油圧が存在していない状態、つまり油室105内の油圧が第1反力F1に対向するのに十分でない状態である。
【0056】
図9を参照すると、前進側プランジャ傾斜角θ1は、走行中のチェーン6の張力が増加して、図9(a)に示されるように、反力Fがチェーン6の張力が過大張力であるときの第2反力F2であるときに、前進側プランジャ傾斜面113を通じてリング側当接部121に作用する第2反力F2の径方向分力f2がリング側当接部121を拡径させて、図9(b)に示されるように、リング側当接部121(または、ラチェット歯127)が前進側プランジャ傾斜面113(または、ラック歯117)を乗り越えて、前進方向で隣接する周方向溝112Aに収容される(図9(c))ことで、プランジャ110の後退を許容する角度に設定されている。
ここで、第2反力F2は、チェーン6の第2走行状態、例えばエンジン始動後(したがって、油室105131が圧油で満たされているとき)に、チェーン6の張力変動やエンジンの温度変化によるエンジン本体やチェーン6の熱膨張などに起因して、チェーン6の緩み時や伸長時にプランジャ110が過大に前進する状態(すなわち、過飛び出し状態)になって、チェーン6に過大張力が発生する張力過多時での走行状態における反力Fである。
【0057】
このため、エンジン始動後のチェーン6の張力過多時には、図9(c)に示されるように、弾性リング120が拡径して、前進方向で隣接する周方向溝112Aに収容され、さらにプランジャ110が後退して、周方向溝112Aの前進側プランジャ傾斜面113に当接する(図9(d))。そして、反力Fが第1反力F1になるまで、プランジャ110はが前進側プランジャ傾斜面113を乗り越えて後退する。このように、チェーン6の張力過多時には、バックラッシュに基づくプランジャ110の後退の後も、該プランジャ110の後退方向の移動を規制せず、後退変位を許容するようになっている。
このようにして、プランジャ110が周方向溝112の1溝分もしくは数溝分だけ後退することにより、チェーン6の張力変動やエンジンの温度変化などで発生するプランジャ110の過飛び出し状態、および該過飛出し状態によりチェーン6に発生する過大張力が解消される。
なお、後退側プランジャ傾斜角α1および前進側プランジャ傾斜角θ1は、実験やシミュレーションなどにより決定される。
【0058】
次に、前述のように構成された第1実施例の作用および効果について説明する。
リング式テンショナ100が、収容穴103が設けられたボディ101と、収容穴103に収容された状態で収容穴103の軸線Lに平行な軸方向で前進および後退可能にボディ101に支持されるとともに走行中のチェーン6に張力を付与するために前進するプランジャ110と、プランジャ110を前進方向に付勢する付勢ばね106および油室105内の圧油と、プランジャ110を囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リング120とを備え、プランジャ110が有するラック部111と弾性リング120が有するリング側当接部121との当接により軸方向でのプランジャ110の移動を規制可能である。
この構成により、走行中のチェーン6に対して、前進するプランジャ110により適度な張力を与えることができ、また弾性リング120がプランジャ110と当接することにより、軸方向でのプランジャ110の移動を規制することができる。
【0059】
収容穴103の周壁面104に設けられた収容溝130に収容されているリング側当接部121が、軸方向でリング側当接部121とラック部111とが当接するときに、収容溝130の軸方向ボディ溝壁面131bと当接する軸方向リング当接面121bを有し、軸方向リング当接面121bの断面形状が直線である。
この構成により、プランジャ110の移動を規制するために、弾性リング120のリング側当接部121において、収容溝130の軸方向ボディ溝壁面131bに当接する軸方向リング当接面121b125,126の断面形状が直線であるため、リング側当接部121の断面形状が円である弾性リング120の場合とは異なり、リング側当接部121との当接時の接触圧を減少させることができて、リング側当接部121での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部121の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができる。
【0060】
軸平面P1での軸方向ボディ溝壁面131bの断面形状が直線であり、軸方向リング当接面121bおよび軸方向ボディ溝壁面131bが面接触可能であることにより、リング側当接部121と収容溝130の溝壁面131との当接時の接触圧を、面接触可能な軸方向リング当接面121bと軸方向ボディ溝壁面131bとにより減少させることができるため、リング側当接部121およびラック部111での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部121の噛込みロックを防止することができる。
【0061】
軸方向リング当接面121bおよび軸方向ボディ溝壁面131bが平面であることにより、リング側当接部121と収容溝130の溝壁面130との当接が、軸方向リング当接面121bおよび軸方向ボディ溝壁面131bの平面同士の当接であるので、例えば、軸方向リング当接面121bおよび軸方向ボディ溝壁面131bがテーパ面である場合に比べて、プランジャ110の後退時および前進時に弾性リング120が拡径する際にリング側当接部121に作用する摩擦力を小さくすることが可能になるため、リング式テンショナ100において、プランジャ付勢手段による付勢力やチェーン6からの反力Fによる軸方向でのプランジャ110の移動応答性、したがってチェーン6に対する張力調整の応答性を向上させることができる。
【0062】
ラック部111が軸方向に配列された複数の溝であって、周方向に湾曲した周方向溝112により構成され、軸方向リング当接面121bが、前進側リング当接面125および後退側リング当接面126であり、軸方向ボディ溝壁面131bが、前進側ボディ溝壁面135および後退側ボディ溝壁面136であり、プランジャ110の後退時に、後退側リング当接面126と後退側ボディ溝壁面136とが面接触可能であり、プランジャ110の前進時に、前進側リング当接面125と前進側ボディ溝壁面135とが面接触可能であり、リング側当接部121が、周方向溝112に沿って周方向に湾曲している。
この構成により、ラック部111が軸方向に配列された複数の周方向溝112により構成されるテンショナ100において、プランジャ110の後退時のリング側当接部121と収容溝130の溝壁面131との当接時の接触圧を、面接触可能な後退側リング当接面126と後退側ボディ溝壁面136とにより減少させることができ、さらに、プランジャ110の前進時のリング側当接部121と収容溝130の溝壁面131との当接時の接触圧を、面接触可能な前進側リング当接面125と前進側ボディ溝壁面135とにより減少させることができるので、プランジャ110の後退時および前進時におけるリング側当接部121および収容溝130の溝壁面131での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部121の噛込みロックを防止することができる。
【0063】
各周方向溝112が、プランジャ110の後退時にリング側当接部121が当接する前進側プランジャ傾斜面113と、プランジャ110の前進時にリング側当接部121が当接する後退側プランジャ傾斜面114とを有し、前進側プランジャ傾斜面113の前進側プランジャ傾斜角θ1が、前進側プランジャ傾斜面113とリング側当接部121とが当接することで第1反力F1によるプランジャ110の後退を阻止し、かつ、前進側プランジャ傾斜面113,114とリング側当接部121との当接による弾性リング120の拡径によりリング側当接部121が前進側プランジャ傾斜面113を乗り越えることで、第2反力F2によるプランジャ110の後退を許容する角度に設定されている。
この構成により、プランジャ110を後退させるチェーン6からの反力Fの大きさが第1反力F1であるときに、弾性リング120によりプランジャ110の後退が阻止されるので、チェーン6のバタツキ音を低減することができる。また、反力Fがチェーン6の張力過多時に発生する第2反力F2であるときに、弾性リング120がラック部111の前進側プランジャ傾斜面113,114を乗り越えて、反力Fが第1反力F1になるまでプランジャ110を後退させるため、チェーン6が過大張力による張力過多の状態で走行することが防止されて、チェーン6への負担や騒音を低減することができる。
【0064】
リング側当接部121が、前進側プランジャ傾斜面113と当接可能な前進側リング傾斜面123と、後退側プランジャ傾斜面114と当接可能な後退側リング傾斜面124とを有し、軸平面P1での前進側プランジャ傾斜面113、前進側リング傾斜面123、後退側プランジャ傾斜面114および後退側リング傾斜面124の各断面形状が直線であり、前記前進側プランジャ傾斜角θ1が後退側プランジャ傾斜角α1よりも小さく、前進側リング傾斜角θ2が後退側リング傾斜角α2よりも小さく、前進側リング傾斜角θ2が前進側プランジャ傾斜角θ1よりも小さく、後退側リング傾斜角α2が後退側プランジャ傾斜角α1よりも小さい。
この構成により、弾性リング120を備えるリング式テンショナ100において、前進側プランジャ傾斜面113および後退側プランジャ傾斜面114を有する周方向溝112が軸方向に複数配列されることにより、鋸歯状に形成されたラック部111に対して、リング側当接部121が前進側リング傾斜面123および後退側リング傾斜面124を有することで鋸歯状に形成されるので、プランジャ110の前進および後退を、ラチェットピストンを備えるテンショナと同等に行うことができる。
【0065】
弾性リング120が、弾性リング120を拡径および縮径させるために操作される1対の端部E1,E2を有し、収容溝130から径方向外方に突出している1対の端部E1,E2がリング径保持具160に保持されることにより、弾性リング120が軸方向でのプランジャ110の移動を阻止する。
この構成により、弾性リング120の端部E1,E2を保持するリング径保持具160により、弾性リング120を利用して軸方向でのプランジャ110の移動が確実に阻止されるので、テンショナ100の搬送時やテンショナ100の組付時おより該組付前において、収容穴103からのプランジャ110の飛出しを防止することができる。
【0066】
また、両端部E1,E2は、その平行部143,144がリング径保持具160の係合保持部161,162の保持穴163,164に挿入されることによりリング径保持具160に保持されることにより、両端部E1,E2を保持するためには、互いにほぼ平行な平行部143,144が保持穴163,164に挿入されればよいので、端部E1,E2の保持作業が容易化されて、プランジャ110の飛出し防止のための作業性を向上させることができる。
【0067】
リング径保持具160が、弾性リング120を拡径する拡径作用部166を有し、拡径作用部166の幅が、拡径作用部166が周方向で1対の両端部E1,E2の拡開傾斜部141,142の間に配置された状態で、リング側当接部121が軸方向でラック部111と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されている。
この構成により、リング径保持具160の拡径作用部166を1対の拡開傾斜部141,142の間に挟み込むことで、リング側当接部121をラック部111と当接しない位置まで弾性リング120を拡径できるので、収容穴103へのプランジャ110の着脱や、プランジャ110を初期位置に戻すための作業が容易化されて、ボディ101へのプランジャ110の組付性およびメンテナンス性を向上させることができる。
また、1対の拡開傾斜部141,142は、径方向外方に向かうにつれて周方向での間隔が次第に大きくなるように傾斜しているので、1対の拡開傾斜部141,142の間への拡径作用部166の差し込みが容易になり、この点でも、収容穴103へのプランジャ110の着脱を容易化することができる。
【0068】
次に、図10〜図16を参照して、本発明の第2,第3実施例を説明する。第2,第3実施例は、第1実施例とは、プランジャ110および弾性リング120が主に相違し、その他は基本的に同一の構成を有するものである。そのため、同一の部分についての説明は省略または簡略にし、異なる点を中心に説明する。なお、第1実施形態の部材と同一の部材または対応する部材については、同一の名称または同一の符号を使用した。
【0069】
図10〜図14を参照すると、本発明の第2実施例であるリング式テンショナ200において、プランジャ側当接部としてのラック部211を構成する複数の溝は、プランジャ110の外周面110aに軸方向に配列されて設けられて、軸線Lに直交する軸直交平面P2に平行な直線状の軸直交方向溝212である。この軸直交方向溝212は、テンショナ100の周方向溝112(図4参照)に対応する。
前進側リング傾斜角θ2は前進側プランジャ傾斜角θ1と同じであり、後退側リング傾斜角α2は後退側プランジャ傾斜角θ2と同じである。一方、リング側当接部221は、軸直交方向溝212に沿って軸直交平面P2に平行な直線状である。このため、弾性リング120のリング部Rは、D型の形状を呈する。
本実施例では、第1実施例と同様に、弾性リング120の全体がほぼ同じ断面形状を有するが、少なくとも直線状のリング側当接部221が、前進側リング傾斜面123、後退側リング傾斜面124、前進側リング当接面125および後退側リング当接面126を有していればよい。
【0070】
また、リング径保持具260は、弾性リング120を前記収容保持状態に保つ保持穴163,164が設けられた1対の係合保持部161,162と、両端部E1,E2の拡開傾斜部141,142の周方向での間に配置可能な拡径作用部166と、1対の係合保持部161,162および拡径作用部266を連結する連結部であるとともに作業者により把持される把持部である軸部165とを有する。
【0071】
図14を併せて参照すると拡径作用部266は、該拡径作用部266が両拡開傾斜部141,142の間に配置された状態で、軸方向に長細い直方体形状であることにより、両拡開傾斜部141,142の間に拡径作用部166を配置することが容易になる。そして、拡径作用部166が両拡開傾斜部141,142の周方向での間隔が最小になっている最狭部149(図12,図14参照)の間に差し込まれることにより、図14に二点鎖線で示される位置から、図14に実線で示されるように、リング側当接部221が軸方向でラック部111と当接しない位置まで拡径される。
【0072】
この第2実施例によれば、ラック部111において、軸方向に配列された複数の溝が軸直交方向溝212であり、リング側当接部221が、軸直交方向溝212に沿って直線状であるテンショナ200において、第1実施例のテンショナ100と同様の作用および効果が奏されるほか、次の作用および効果が奏される。前進側リング傾斜角θ2が前進側プランジャ傾斜角θ1と同じであり、後退側リング傾斜角α2が後退側プランジャ傾斜角α1と同じであることにより、前進側プランジャ傾斜面113および前進側リング傾斜面123同士、そして、後退側プランジャ傾斜面114および後退側リング傾斜面124同士の接触圧が減少するので、弾性リング120の摩耗の進行を抑制することができる。
【0073】
図15,図16を参照すると、本発明の第3実施例であるリング式テンショナ300において、プランジャ310は、テンショナ200のラック部211(図12参照)が設けられていないラック無しプランジャ310であり、平坦面312を有する切欠部311と、切欠部311の最前端に位置してプランジャ110の初期位置(最大後退位置でもある。)を規定するプランジャ側当接部としての後退用ストッパ部313と、切欠部311の最後端に位置して最大前進位置を規定するプランジャ側当接部として前進用ストッパ部314とを有する。
【0074】
第2実施例と同一の弾性リング120のリング側当接部221は、プランジャ110の前進および後退を規制可能であり、後退用ストッパ部313との当接により初期位置からのプランジャ110の後退を阻止し、前進用ストッパ部314との当接によりプランジャ110の最大前進位置を超える前進を阻止し、さらにボディ101からのプランジャ310の抜止めを行う。また、第3実施例のテンショナに関して、弾性リング120を拡径するためのリング径保持具は、第2実施例でのリング径保持具260(図12参照)と同じである。
この第3実施例によれば、第2実施例でのラック部211(図12参照)に関連する作用効果を除いて、第2実施例と同様の作用および効果が奏される。
【0075】
以下、前述した第1〜第3実施例の一部の構成を変更した例について、変更した構成に関して説明する。
第1,第2操作部は、弾性リング120の拡径および縮径が可能である限り、弾性リング120の端部E1,E2でなくてもよい。第1実施例において、リング径保持具160の代わりにリング径保持具260が使用されてもよく、第2,3実施例において、リング径保持具260の代わりにリング径保持具160が使用されてもよい。
第1実施例のラック部111において、周方向に湾曲した周方向溝が周方向での一部に設けられていてもよい。
エンジンにおいて、チェーンは、タイミングチェーン以外に補機を駆動するチェーンであってもよい。さらに、チェーンは、エンジン以外の機械の伝動機構を構成してもよい。
第2反力F2によるプランジャ110の後退時に、リング側当接部121が前進側のプランジャ側当接面を乗り越えないテンショナにおいては、該プランジャ側当接面が軸直交平面P2に平行であってもよい。
なお、第3実施例に関連して、本発明には含まれない参考例として、弾性リング120は、リング側当接部221の断面形状が円形であるものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
100,200,300・・・リング式テンショナ
101・・・ボディ
103・・・収容穴
110・・・プランジャ
111,211・・・ラック部
112・・・周方向溝
113・・・前進側プランジャ傾斜面
114・・・後退側プランジャ傾斜面
120・・・弾性リング
121,221・・・リング側当接部
121a・・・リング傾斜面
121b・・・軸方向リング当接面
123・・・前進側リング傾斜面
124・・・後退側リング傾斜面
125・・・前進側リング当接面
126・・・後退側リング当接面
130・・・収容溝
131・・・溝壁面
131b・・・軸方向ボディ溝壁面
135・・・前進側ボディ溝壁面
136・・・後退側ボディ溝壁面
141,142・・・拡開傾斜部
143,144・・・平行部
160,260・・・リング径保持具
161,162・・・係合保持部
166,266・・・拡径作用部
212・・・軸直交方向溝
313・・・後退用ストッパ部
314・・・前進用ストッパ部
L ・・・軸線
P1 ・・・軸平面
θ1 ・・・前進側プランジャ傾斜角
α1 ・・・後退側プランジャ傾斜角
θ2 ・・・前進側リング傾斜角
α2 ・・・後退側リング傾斜角
E1,E2・・・端部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば巻掛け伝動機構を構成するチェーン等に張力を与えるテンショナであって、弾性リングを備えるリング式テンショナに関する。そして、該リング式テンショナは、例えば、エンジンにおいて、カム軸などを駆動する巻掛け伝動機構のチェーンに対して使用される。
【背景技術】
【0002】
リング式テンショナが、ボディに設けられた収容穴に前進および後退可能に収容されるとともにチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、該プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、プランジャが有するプランジャ側当接部と弾性リングが有するリング側当接部との当接により軸線方向でのプランジャの移動を規制可能なものは知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−27124号公報(段落0028−段落0053、図2−図10)
【特許文献2】特開2003−202060号公報(段落0026−段落0035、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リング式テンショナにおいて、プランジャが収容される収容穴の軸線を含む軸平面での弾性リングの断面形状が円形である場合には、弾性リングは、ボディに設けられて弾性リングが収容される収容溝の溝壁面との当接時に、ほぼ線接触状態で該溝壁面と当接するために、弾性リングに作用する接触圧が高くなり、弾性リングの摩耗が進行しやすいという問題があった。
そして、弾性リングが摩耗すると、プランジャの後退時に、プランジャの後退停止位置にバラツキが発生して、張力調整が不安定化したり、また弾性リングがプランジャとボディとの間に噛み込まれて、プランジャが不動状態になる現象(以下、「噛込みロック」という。)が発生する虞がある。
【0005】
また、チェーンの張力変動や、チェーンが取り付けられているエンジンの温度変化によるエンジン本体やチェーンの熱膨張などに起因して、チェーンの緩み時(例えば、冷間時のエンジン本体の熱収縮に起因する。)や伸長時に、プランジャが過度に前進した状態(以下、「過飛び出し状態」という。)になることがある。
そして、プランジャが過飛び出し状態になると、チェーンに過大張力が発生することから、この過大張力が発生しているチェーンからの反力によるプランジャの後退がラチェット歯とラック歯との噛合いにより規制されたままであると、チェーンは、過大張力が作用している状態(以下、「張力過多」という。)のまま走行することになり、チェーンへの負担や騒音が増加するという問題があった。
【0006】
また、プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段が、プランジャ付勢用ばねと、ボディおよびプランジャ間に形成された油室にエンジンが備える油圧源から供給された外部圧油とにより構成されるテンショナでは、エンジンの始動時などのように、エンジンの停止中における油室への空気の侵入などに起因して、油室にプランジャの後退を規制するための十分な油圧が存在していない場合に、チェーンからの反力によりプランジャが後退して、バタツキ音と称する騒音が発生するという問題があった。
【0007】
また、弾性リングが拡径が手作業により行われるのでは、弾性リングを拡径するために、弾性リングの両端部を指などで把持することが必要になって、プランジャの着脱のための拡径作業が円滑に行われないという問題があった。
また、テンショナの搬送時やエンジンへの組付時に、プランジャが収容穴から飛び出さないようにすることが望ましい。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、リング側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができるリング式テンショナを提供することである。
また、本発明の他の目的は、さらに、プランジャ付勢手段による付勢力やチェーン等からの反力によるプランジャの移動応答性、したがってチェーン等に対する張力調整の応答性を向上させることができるリング式テンショナを提供することである。
また、本発明の他の目的は、さらに、チェーン等のバタツキ音を低減することができ、しかもチェーン等が過大張力による張力過多の状態で走行することが防止されて、チェーン等への負担や騒音を低減することができるリング式テンショナを提供することである。
また、本発明の他の目的は、さらに、搬送時等におけるプランジャの飛出しを確実に防止することができるリング式テンショナを提供することである。
また、本発明の他の目的は、さらに、ボディへのプランジャの組付性およびメンテナンス性を向上させることができるリング式テンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、請求項1に係る発明は、収容穴が設けられたボディと、前記収容穴に収容された状態で前記収容穴の軸線に平行な軸方向で前進および後退可能に前記ボディに支持されるとともに走行中のチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、前記プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、前記プランジャが有するプランジャ側当接部と前記弾性リングが有するリング側当接部との当接により前記軸方向での前記プランジャの移動を規制可能なリング式テンショナにおいて、前記収容穴の周壁面に設けられた収容溝に収容されている前記リング側当接部が、前記軸方向で前記リング側当接部と前記プランジャ側当接部とが当接するときに、前記収容溝の軸方向ボディ溝壁面と当接する軸方向リング当接面を有し、前記軸線を含む平面である軸平面での前記軸方向リング当接面の断面形状が直線であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記軸平面での前記軸方向ボディ溝壁面の断面形状が直線であり、前記軸方向リング当接面および前記軸方向ボディ溝壁面が面接触可能であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の構成に加えて、前記軸方向リング当接面および前記軸方向ボディ溝壁面が平面であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記プランジャ側当接部が前記プランジャに前記軸方向に配列された複数の溝により構成され、前記溝が、周方向に湾曲した周方向溝であり、前記軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、前記軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、前記プランジャの後退時に、前記後退側リング当接面と前記後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、前記リング側当接部が、前記周方向溝に沿って周方向に湾曲していることにより、前述した課題を解決したものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記プランジャ側当接部が前記プランジャに前記軸方向に配列された複数の溝により構成され、前記溝が、前記軸線に直交する軸直交平面に平行な直線状の軸直交方向溝であり、前記軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、前記軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、前記プランジャの後退時に、前記後退側リング当接面と前記後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、前記リング側当接部が、前記軸直交方向溝に沿って直線状であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項4または請求項5に係る発明の構成に加えて、前記各溝が、前記プランジャの後退時に前記リング側当接部が当接する前進側プランジャ傾斜面と、前記プランジャの前進時に前記リング側当接部が当接する後退側プランジャ傾斜面とを有し、前記チェーン等に発生する張力に基づいて前記チェーン等から前記プランジャに作用して前記プランジャを後退させる反力を、前記張力が予め設定された過大張力よりも小さいときの第1反力とし、前記張力が前記過大張力であるときの第2反力とするときに、前記前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、前記前進側プランジャ傾斜面と前記リング側当接部とが当接することで第1反力による前記プランジャの後退を阻止し、かつ、前記前進側プランジャ傾斜面と前記リング側当接部との当接による前記弾性リングの拡径により前記リング側当接部が前記前進側プランジャ傾斜面を乗り越えることで、前記第2反力による前記プランジャの後退を許容する角度に設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明の構成に加えて、前記リング側当接部が、前記前進側プランジャ傾斜面と当接可能な前進側リング傾斜面と、前記後退側プランジャ傾斜面と当接可能な後退側リング傾斜面とを有し、前記軸平面での前記前進側プランジャ傾斜面、前記前進側リング傾斜面、前記後退側プランジャ傾斜面および前記後退側リング傾斜面の各断面形状が直線であり、前記前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、前記後退側プランジャ傾斜面の後退側プランジャ傾斜角よりも小さく、前記前進側リング傾斜面の前進側リング傾斜角が、前記後退側リング傾斜面の後退側リング傾斜角よりも小さく、前記前進側リング傾斜角が、前記前進側プランジャ傾斜角以下であり、前記後退側リング傾斜角が、前記後退側プランジャ傾斜角以下であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0016】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記弾性リングが、前記弾性リングを拡径および縮径させるために操作される操作部を有し、前記収容溝から径方向外方に突出している前記操作部がリング径保持具に保持されることにより、前記弾性リングが前記軸方向での前記プランジャの移動を阻止することにより、前述した課題を解決したものである。
【0017】
請求項9に係る発明は、請求項8に係る発明の構成に加えて、前記リング径保持具が、前記弾性リングを拡径する拡径作用部を有し、前記操作部は、周方向に離隔している1対の第1操作部および第2操作部であり、前記拡径作用部の幅が、前記拡径作用部が周方向で前記第1操作部および前記第2操作部の間に配置された状態で、前記リング側当接部が前記軸方向で前記プランジャ側当接部と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0018】
そこで、本発明のリング式テンショナは、収容穴が設けられたボディと、収容穴に収容された状態で収容穴の軸線に平行な軸方向で前進および後退可能にボディに支持されるとともに走行中のチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段と、プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、プランジャが有するプランジャ側当接部と弾性リングが有するリング側当接部との当接により軸方向でのプランジャの移動を規制可能であることにより、走行中のチェーン等に対して、前進するプランジャにより適度な張力を与えることができ、また弾性リングがプランジャと当接することにより、軸方向でのプランジャの移動を規制することができるばかりでなく、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0019】
すなわち、請求項1に係る本発明のベルト式テンショナによれば、収容穴の周壁面に設けられた収容溝に収容されているリング側当接部が、軸方向でリング側当接部とプランジャ側当接部とが当接するときに、収容溝の軸方向ボディ溝壁面と当接する軸方向リング当接面を有し、軸線を含む平面である軸平面での軸方向リング当接面の断面形状が直線であることにより、プランジャの移動を規制するために、弾性リングのリング側当接部において、収容溝の軸方向ボディ溝壁面に当接する軸方向リング当接面の断面形状が直線であるため、リング側当接部の断面形状が円である弾性リングの場合とは異なり、リング側当接部との当接時の接触圧を減少させることができて、リング側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができる。
【0020】
請求項2に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
軸平面での軸方向ボディ溝壁面の断面形状が直線であり、軸方向リング当接面および軸方向ボディ溝壁面が面接触可能であることにより、リング側当接部と収容溝の溝壁面との当接時の接触圧を、面接触可能な軸方向リング当接面と軸方向ボディ溝壁面とにより減少させることができるため、リング側当接部およびプランジャ側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の噛込みロックを防止することができる。
【0021】
請求項3に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
軸方向リング当接面および軸方向ボディ溝壁面が平面であることにより、リング側当接部と収容溝の溝壁面との当接が、軸方向リング当接面および軸方向ボディ溝壁面の平面同士の当接であるので、例えば、軸方向リング当接面および軸方向ボディ溝壁面がテーパ面である場合に比べて、軸方向でのプランジャの移動時に弾性リングが拡径する際にリング側当接部に作用する摩擦力を小さくすることが可能になるため、リング式テンショナにおいて、プランジャ付勢手段による付勢力やチェーン等からの反力によるプランジャの移動応答性、したがってチェーン等に対する張力調整の応答性を向上させることができる。
【0022】
請求項4に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
プランジャ側当接部がプランジャに軸方向に配列された複数の溝により構成され、溝が、周方向に湾曲した周方向溝であり、軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、プランジャの後退時に、後退側リング当接面と後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、リング側当接部が、周方向溝に沿って周方向に湾曲していることにより、プランジャ側当接部が軸方向に配列された複数の周方向溝により構成されるテンショナにおいて、プランジャの後退時のリング側当接部と収容溝の溝壁面との当接時の接触圧を、面接触可能な後退側リング当接面と後退側ボディ溝壁面とにより減少させることができるので、プランジャの後退時におけるリング側当接部および収容溝の溝壁面での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の噛込みロックを防止することができる。
【0023】
請求項5に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
プランジャ側当接部がプランジャに軸方向に配列された複数の溝により構成され、溝が、軸線に直交する軸直交平面に平行な直線状の軸直交方向溝であり、軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、プランジャの後退時に、後退側リング当接面と後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、リング側当接部が、軸直交方向溝に沿って直線状であることにより、プランジャ側当接部がプランジャに周方向での一部に設けられた複数の軸直交方向溝により構成されるテンショナにおいて、プランジャの後退時のリング側当接部と収容溝の溝壁面との当接時の接触圧を、面接触可能な後退側リング当接面と後退側ボディ溝壁面とにより減少させることができるので、プランジャの後退時におけるリング側当接部および収容溝の溝壁面での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の噛込みロックを防止することができる。
【0024】
請求項6に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項4または請求項5に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
各溝が、プランジャの後退時にリング側当接部が当接する前進側プランジャ傾斜面と、プランジャの前進時にリング側当接部が当接する後退側プランジャ傾斜面とを有し、チェーン等に発生する張力に基づいてチェーン等からプランジャに作用してプランジャを後退させる反力を、張力が予め設定された過大張力よりも小さいときの第1反力とし、張力が過大張力であるときの第2反力とするときに、前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、前進側プランジャ傾斜面とリング側当接部とが当接することで第1反力によるプランジャの後退を阻止し、かつ、前進側プランジャ傾斜面とリング側当接部との当接による弾性リングの拡径によりリング側当接部が前進側プランジャ傾斜面を乗り越えることで、第2反力によるプランジャの後退を許容する角度に設定されていることにより、プランジャを後退させるチェーン等からの反力の大きさが第1反力であるときに、弾性リングによりプランジャの後退が阻止されるので、チェーン等のバタツキ音を低減することができる。また、チェーン等からの反力がチェーン等の張力過多時に発生する第2反力であるときに、弾性リングがプランジャ側当接部の前進側プランジャ傾斜面を乗り越えて、チェーン等からの反力が第1反力になるまでプランジャを後退させるため、チェーン等が過大張力による張力過多の状態で走行することが防止されて、チェーン等への負担や騒音を低減することができる。
【0025】
請求項7に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項6に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
リング側当接部が、前進側プランジャ傾斜面と当接可能な前進側リング傾斜面と、後退側プランジャ傾斜面と当接可能な後退側リング傾斜面とを有し、軸平面での前進側プランジャ傾斜面、前進側リング傾斜面、後退側プランジャ傾斜面および後退側リング傾斜面の各断面形状が直線であり、前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、後退側プランジャ傾斜面の後退側プランジャ傾斜角よりも小さく、前進側リング傾斜面の前進側リング傾斜角が、後退側リング傾斜面の後退側リング傾斜角よりも小さく、前進側リング傾斜角が、前進側プランジャ傾斜角以下であり、後退側リング傾斜角が、後退側プランジャ傾斜角以下であることにより、弾性リングを備えるリング式テンショナにおいて、前進側プランジャ傾斜面および後退側プランジャ傾斜面を有する溝が軸方向に複数配列されることにより、鋸歯状に形成されたプランジャ側当接部に対して、リング側当接部が前進側リング傾斜面および後退側リング傾斜面を有することで鋸歯状に形成されるので、プランジャの前進および後退を、ラチェットピストンを備えるテンショナと同等に行うことができる。
また、前進側リング傾斜角が前進側プランジャ傾斜角と同じであり、後退側リング傾斜角が後退側プランジャ傾斜角と同じ場合には、前進側プランジャ傾斜面および前進側リング傾斜面同士、そして、後退側プランジャ傾斜面および後退側リング傾斜面同士の接触圧が減少するので、弾性リングの摩耗の進行を抑制することができる。
【0026】
請求項8に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項1から請求項7のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
弾性リングが、弾性リングを拡径および縮径させるために操作される操作部を有し、収容溝から径方向外方に突出している操作部がリング径保持具に保持されることにより、弾性リングが軸方向でのプランジャの移動を阻止することにより、弾性リングの操作部を保持するリング径保持具により、弾性リングを利用して軸方向でのプランジャの移動が確実に阻止されるので、テンショナの搬送時やテンショナの組付時おより該組付前において、収容穴からのプランジャの飛出しを防止することができる。
【0027】
請求項9に係る本発明のベルト式テンショナによれば、請求項8に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
リング径保持具が、弾性リングを拡径する拡径作用部を有し、操作部は、周方向に離隔している1対の第1,第2操作部であり、拡径作用部の幅が、拡径作用部が周方向で1対の操作部の間に配置された状態で、リング側当接部が軸方向でプランジャ側当接部と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されていることにより、リング径保持具の拡径作用部を第1,第2操作部の間に挟み込むことで、リング側当接部をプランジャ側当接部と当接しない位置まで弾性リングを拡径できるので、収容穴へのプランジャの着脱や、プランジャを初期位置に戻すための作業が容易化されて、ボディへのプランジャの組付性およびメンテナンス性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施例であるリング式テンショナを備えるタイミングチェーン伝動機構の概略図。
【図2】図1のテンショナの拡大図であり、図3のII矢視図。
【図3】図2のIII矢視図。
【図4】図1のテンショナのプランジャ、弾性リング、リング径保持具の斜視図。
【図5】図3のV−V線断面図。
【図6】図4のリング径保持具により弾性リングが拡径されるときの説明図。
【図7】図1のテンショナのプランジャの前進が許容されるときの説明図。
【図8】図1のテンショナのプランジャの後退が阻止されるときの説明図。
【図9】図1のテンショナのプランジャの後退が許容されるときの説明図。
【図10】本発明の第2実施例であるリング式テンショナの図2に相当する図であり、図11のX矢視図。
【図11】図10のXI矢視図。
【図12】図10のテンショナのプランジャ、弾性リング、リング径保持具の斜視図。
【図13】図11のXIII−XIII線断面図。
【図14】図12のリング径保持具により弾性リングが拡径されるときの説明図。
【図15】本発明の第3実施例であるリング式テンショナの、図12に相当する図。
【図16】本発明の第3実施例であるリング式テンショナの、図13に相当する図であり、プランジャが最大前進位置を占めるときの図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のリング式テンショナは、収容穴が設けられたボディと、前記収容穴に収容された状態で前記収容穴の軸線に平行な軸方向で前進および後退可能に前記ボディに支持されるとともに走行中のチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、前記プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、前記プランジャが有するプランジャ側当接部と前記弾性リングが有するリング側当接部との当接により前記軸方向での前記プランジャの移動を規制可能であり、前記収容穴の周壁面に設けられた収容溝に収容されている前記リング側当接部が、前記軸方向で前記リング側当接部と前記プランジャ側当接部とが当接するときに、前記収容溝の軸方向ボディ溝壁面と当接する軸方向リング当接面を有し、前記軸線を含む平面である軸平面での前記軸方向リング当接面の断面形状が直線であることにより、リング側当接部での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができるものであれば、その具体的な態様はいかなるものであっても構わない。
【0030】
ここで、チェーン等とは、チェーンのほかに、ベルトを含む帯状で可撓性の巻掛け伝動体を意味する。
また、弾性リングにおいて、リング側当接部以外の部分の断面形状は、リング側当接部の断面形状と同じであってもよいし、リング側当接部の断面形状とは異なる形状であってもよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を、図1〜図16を参照しながら説明する。
図1〜図9は、本発明の第1実施例を説明するための図である。
図1を参照すると、本発明の第1実施例であるリング式テンショナ100は、機械としてのエンジン(図示されず)のタイミングチェーン伝動機構1に備えられる。そして、該エンジンは、例えば自動車用エンジンである。巻掛け伝動機構としてのタイミングチェーン伝動機構1は、テンショナ100のほかに、エンジンの駆動軸であるクランク軸2により回転駆動される駆動側の回転部材であるスプロケット4と、被駆動軸である1対のカム軸3にそれぞれ固定されている1対の被駆動側のスプロケット5と、それらスプロケット4,5に巻き掛けられている帯状の巻掛け伝動体としての無端のチェーンであるタイミングチェーン6(以下、「チェーン6」という。)とを備える。
そして、テンショナ100は、チェーン6の弛み側で機械本体としてのエンジン本体に取り付けられている。
テンショナ100のボディ101から前進方向に突出しているプランジャ110は、軸方向で前進して、エンジン本体に揺動自在に支持されている可動レバー10の揺動端近傍の背面を押圧することにより、チェーン6の弛み側において、可動レバー10を介してチェーン6に張力を付与し、軸方向で後退して、チェーン6の張力を減少させる。
【0032】
図5を主に参照し、図1〜図4を適宜参照すると、テンショナ100は、給油路102および収容穴103が設けられたボディ101と、収容穴103に収容された状態で該収容穴103の軸線Lに平行な方向である軸方向で前進および後退可能にボディ101に支持されるとともに走行中のチェーン6に張力を付与するために前進するプランジャ110と、周方向でプランジャ110を囲んで配置されるとともにその弾性力により径方向に拡縮可能な弾性リング120と、収容穴103とプランジャ110の中空部110bとの間に形成される油室105内に配置されてプランジャ110を前進方向に付勢する付勢力を発生する付勢ばね106と、収容穴103内に組み込まれて油室105内から給油路102への圧油の逆流を阻止する逆止弁150とを備える。
そして、弾性リング120は、プランジャ110のラック部111と弾性リング120のリング側当接部121との当接により、軸方向でのプランジャ110の移動を規制可能である。
【0033】
なお、図2〜図5では、弾性リング120が、後述するリング径保持具160に保持されて、最前列の周方向溝112に収容されていることにより、プランジャ110が最大後退位置でもある初期位置を占めている状態が示されている。また、径方向および周方向は、それぞれ軸線Lを中心とする径方向および周方向である。
【0034】
給油路102は、テンショナ100の外部から供給される外部油圧である圧油を油室105に導く。この圧油は、エンジンに備えられて該エンジンの運転および停止に対応して作動および停止が行われる油圧源であるオイルポンプから供給される。したがって、油室105への圧油の供給は、エンジンの運転時に行われ、エンジンの停止時に停止される。
また、油室105内の圧油は、付勢ばね106とともに、プランジャ110を前進方向に付勢するプランジャ付勢手段を構成する一方で、チェーン6に発生する張力に基づいてチェーン6から後退方向にプランジャ110に作用して該プランジャ110を後退させる反力F(図8,図9参照)を緩衝するダンパとして機能する。
【0035】
逆止弁150は、収容穴103において後退方向側の端部に組み込まれて、給油路102から油室105内への外部圧油の導入を許容する一方で、油室105内から給油路102へ圧油の逆流を阻止する。
本実施例では、逆止弁150は、給油路102に連通する油路151が設けられたボールシート152と、該ボールシート152に着座するチェックボール153と、該チェックボール153をボールシート152に押圧するばね154と、該ばね154を支持するとともにチェックボール153の移動量を規制するリテーナ155とを有する。
【0036】
収容穴103は、その中心軸線が軸線Lである柱状、本実施例では円柱状の穴である。そして、プランジャ110は、収容穴103に収容された状態で軸線Lとほぼ一致する軸線を有する筒状の、本実施例では円筒状の部材である。なお、「ほぼ」との表現は、「ほぼ」との修飾語がない場合を含むとともに、「ほぼ」との修飾語がない場合とは厳密には一致しないものの、「ほぼ」との修飾語がない場合と比べて作用効果に関して有意の差異がない範囲を意味する。
【0037】
プランジャ110は、弾性リング120のリング側当接部121と当接可能なプランジャ側当接部としてのラック部111と、収容穴103の周壁面104に摺接してプランジャ110を軸方向にほぼ平行に往復移動可能に支持するためのプランジャ支持部119とを有する。
ラック部111は、プランジャ110の外周面110aに軸方向に配列されて設けられた複数の溝である周方向溝112により構成される。該周方向溝112は、プランジャ110の外周面110aに、周方向に延びているとともに全周に渡って設けられ、プランジャ110の外周に沿って周方向に湾曲した円環状の溝である。
【0038】
各周方向溝112は、弾性リング120のリング側当接部121が当接するプランジャ側当接面として、プランジャ110の後退時にリング側当接部121が当接する前進側プランジャ傾斜面113と、プランジャ110の前進時にリング側当接部121が当接する後退側プランジャ傾斜面114とを有する。そして、両プランジャ傾斜面113,114により鋸歯状のラック歯117が形成される。
軸線Lを含む平面である軸平面P1(図3には軸平面P1の一例が示されている。)での前進側プランジャ傾斜面113および後退側プランジャ傾斜面114の各断面形状は直線である(図5参照)。そして、本実施例では、これらプランジャ傾斜面113,114はいずれもテーパ面である。
また、前進側プランジャ傾斜面113の前進側プランジャ傾斜角θ1は、後退側プランジャ傾斜面114の後退側プランジャ傾斜角α1よりも小さい。
なお、以下、断面形状とは、軸平面P1での部材等の断面形状を意味する。
【0039】
ボディ101には、円環状の収容溝130と、周方向での一部で収容溝130に連なる切欠部140とが設けられている。収容溝130および切欠部140は、収容穴103を形成している周壁面104に開放して設けられている。切欠部140は、径方向にボディ101を貫通するとともに前進方向に開放している径方向空間145を形成している(図2,図3参照)。
【0040】
収容溝130の溝壁面131(図5参照)は、軸方向に面している軸方向ボディ溝壁面131bと、径方向でプランジャ110に面している径方向ボディ溝壁面131cとを有する。
軸方向ボディ溝壁面131bは、軸方向で対向する前進側ボディ溝壁面135および後退側ボディ溝壁面136から構成される。
前進側ボディ溝壁面135および後退側ボディ溝壁面136の各断面形状は直線であり、本実施例では、各ボディ溝壁面135,136は、軸線Lに直交する平面である軸直交平面P2(図2,図5には軸直交平面P2が例示されている。)に平行な平面である。
【0041】
弾性リング120は、ラック部111との当接により、付勢ばね106および油室105内の圧油の付勢力によるプランジャ110の前進を許容可能とし、またチェーン6からプランジャ110に作用してプランジャ110を後退させる後退方向での反力F(図8,図9参照)によるプランジャ110の後退を許容および規制可能とする。
そして、弾性リング120は、収容溝130内に組み付けられた状態で、径方向外方に作用する外力により、プランジャ110の前進の許容、後退の許容および規制をするための拡径を可能とする弾性変形特性を有するように設計されている。
【0042】
弾性リング120は、収容溝130に収容されてプランジャ110を囲む円弧状のリング部R(図4参照)と、切欠部140に収容されて弾性リング120を拡径および縮径するために操作される操作部である1対の第1,第2操作部としての1対の端部E1,E2とを有する。
リング部Rの全体は、軸方向でラック部111と当接可能なリング側当接部121を構成する。
【0043】
図2,図3,図5には、自由状態から拡径しているとともに後述するリング径保持具160により拘束されて、周方向溝112内で両プランジャ傾斜面113,114と当接した状態の弾性リング120が示されている。
ここで、自由状態とは、弾性リング120が、該弾性リング120を弾性変形させる力が作用していないときの弾性リング120の状態である。
また、弾性リング120は、リング径保持具が取り外された状態である使用状態(図1に示されている)で、リング側当接部121が収容穴103と収容溝130とに、または周方向溝112と収容溝130とに、跨がる状態で、かつ収容溝130内で拡径可能に収容されている。
【0044】
周方向溝112に沿って円弧状に湾曲しているリング側当接部121は、図5に示されるように、軸方向でラック部111と当接可能なリング傾斜面121aと、該リング傾斜面121aとラック部111とが当接するときに、軸方向ボディ溝壁面131bと当接する軸方向リング当接面121bとを有する。リング傾斜面121aは、リング側当接部121の前進側および後退側のそれぞれにおいて、軸方向リング当接面121bよりも径方向内方に位置する。リング傾斜面121aは、前進側プランジャ傾斜面113と当接可能な前進側リング傾斜面123と、後退側プランジャ傾斜面114と当接可能な後退側リング傾斜面124とから構成される。そして、両リング傾斜面123,124により、ラック歯117と噛み合う鋸歯状のラチェット歯127が形成される。
【0045】
また、前進側リング傾斜面123の前進側リング傾斜角θ2は、後退側リング傾斜面124の後退側リング傾斜角α2よりも小さい。
そして、前進側リング傾斜角θ2は前進側プランジャ傾斜角θ1以下であり、後退側リング傾斜角α2は後退側プランジャ傾斜角α1以下である。本実施例では、前進側リング傾斜角θ2は前進側プランジャ傾斜角θ1よりも小さく、後退側リング傾斜角α2は後退側プランジャ傾斜角α1よりも小さい。
【0046】
軸方向リング当接面121bは、プランジャ110の前進時に前進側ボディ溝壁面135と面接触可能な前進側リング当接面125と、プランジャ110の後退時に後退側ボディ溝壁面136と面接触可能な後退側リング当接面126とから構成される。
前進側リング傾斜面123、後退側リング傾斜面124、前進側リング当接面125および後退側リング当接面126の各断面形状は直線である。本実施例では、各リング傾斜面123,124はテーパ面であり、各リング当接面125,126は平面である。
【0047】
このため、弾性リング120において、少なくともラック部111と当接するリング側当接部121の断面形状は、本実施例では、弾性リング120全体が、前進側リング傾斜面123、後退側リング傾斜面124、前進側リング当接面125および後退側リング当接面126により形成されて、角部がR状の(すなわち、丸みを有する)角形形状である。
そして、ラック部111とリング側当接部121とにより、テンショナ100のラチェット機構が構成される。
【0048】
図2〜図4を参照すると、弾性リング120の各端部E1,E2は、収容溝130から径方向外方に突出し、切欠部140を径方向に貫通してボディ101の外部まで延びている。また、各端部E1,E2は、径方向空間145内において、リング部Rから径方向外方に軸直交平面P2にほぼ平行に延びている。
各端部E1,E2は、弾性リング120がリング部Rの全体が軸直交平面P2にほぼ平行となるように収容溝130に収容されている状態で、リング部Rの周方向間隔を通る径方向直線Lr(図3参照)に対して、リング部Rから径方向外方に向かうにつれて周方向での間隔(または、径方向直線Lrとの周方向での間隔)が次第に大きくなるように形成されている被押圧部としての拡開傾斜部141,142と、径方向直線Lrにほぼ平行に延びている被保持部としての平行部143,144とを有する。
【0049】
弾性リング120を拡径または縮径するために使用される工具であるリング径保持具160は、テンショナ100の搬送時や、前記エンジン本体へのテンショナ100の組付時および該組付以前に、弾性リング120を、ラック部111のいずれか1つの周方向溝112に収容されている状態である収容保持状態に保つ。
本実施例では、この収容保持状態で、周方向溝112とリング側当接部121とが当接状態にある。リング径保持具160は、各端部E1,E2が挿入される保持穴163,164が設けられた1対の係合保持部161,162と、作業者により把持される把持部である軸部165と、軸部165の一端部により構成されて、両端部E1,E2の拡開傾斜部141,142の周方向での間に配置可能な拡径作用部166とを有する。
軸部165は、柱状、本実施例では円柱状であるが、角柱状(例えば、四角柱)であってもよい。
【0050】
両平行部143,144がそれぞれ保持穴163,164に挿入されて両係合保持部161,162に保持された状態(図2,図3参照)で、弾性リング120は、ラック部111とリング側当接部121とが軸方向で当接可能となる前記収容保持状態に保たれる(図5参照)。
図6を併せて参照すると、拡径作用部166において、両端部E1,E2を広げる部分である間隔形成部の幅Wは、拡径作用部166が両拡開傾斜部141,142の周方向での間隔が最小になっている最狭部149(図4,図6参照)の間に差し込まれて、両拡開傾斜部141,142の間に配置された状態で、図6に二点鎖線で示される位置から、図6に実線で示されるように、リング側当接部121の最小内径がラック部111の最大外径よりも大きくなって、リング側当接部121が軸方向でラック部111と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されている。
【0051】
そして、プランジャ110がボディ101の収容穴103に収容される際には、先ず弾性リング120が収容溝130に収容され、次いで、リング径保持具160の拡径作用部166が両拡開傾斜部141,142の間に差し込まれて、弾性リング120が拡径された状態で、プランジャ110が後退方向に向けて収容穴103に収容される。その後、リング径保持具160が弾性リング120から外される。
【0052】
図7〜図9を主に参照し、必要に応じて図1,図5を適宜参照して、テンショナ100の動作について説明する。
図7を参照すると、後退側プランジャ傾斜角α1は、エンジンの運転時に走行中のチェーン6の張力が減少して、図7(a)に示されるように、付勢ばね106および油室105内の圧油の油圧に基づいてプランジャ110に作用する所定値以上の前進力Faによりプランジャ110が前進するときに、ラック部111の後退側プランジャ傾斜面114を通じてリング側当接部121に作用する前進力Faの径方向分力faがリング側当接部121を拡径させ(図7(b))、図7(c)に示されるように、リング側当接部121(または、ラチェット歯127)が後退側プランジャ傾斜面114(または、ラック歯117)を乗り越えて、後退方向で隣接する周方向溝112Bに収容される(図7(d))角度に設定されている。
このため、前進したプランジャ110がチェーン6に張力を付与し、チェーン6の張力が高められる。そして、チェーン6の張力が高められて、前進力Faが前記所定値未満になるまで、リング側当接部121は、後退側プランジャ傾斜面114を乗り越える。
【0053】
図8を参照すると、ゼロよりも大きな角度である前進側プランジャ傾斜角θ1は、走行中のチェーン6の張力が増加して、図8(a)に示されるように、プランジャ110を後退させようとする反力Fがチェーン6の張力が予め設定された過大張力よりも小さいときの第1反力F1であるときに、前進側プランジャ傾斜面113を通じてリング側当接部121に作用する第1反力F1の径方向分力f1がリング側当接部121を拡径させたとしても、図8(b)に示されるように、リング側当接部121(または、ラチェット歯127)が前進側プランジャ傾斜面113(または、ラック歯117)を乗り越えることがないように設定されている。したがって、第1反力F1によるプランジャ110の後退は、前進側プランジャ傾斜面113とリング側当接部121とが当接することにより阻止される。
【0054】
このため、エンジン始動時およびエンジン始動後の通常運転時(すなわち、チェーン6が張力過多でないときのエンジン運転時)において、チェーン6からプランジャ110を後退させようとする第1反力F1が発生するときには、バックラッシュに基づくプランジャ110の後退の後に、リング側当接部121が当接する前進側プランジャ傾斜面113を乗り越えることなく、リング側当接部121がプランジャ110の後退方向の移動を規制して後退を阻止する。
【0055】
ここで、第1反力F1は、チェーン6の第1走行状態、例えば、油室105が低油圧状態にあるときとしてのエンジン始動時、および、エンジン始動後の通常運転時(での走行状態における反力Fである。
また、前記低油圧状態は、油室105への前記外部圧油の供給が行われないエンジン停止中での油室105への空気の侵入などに起因して、油室105にプランジャ110の後退を規制するための十分な油圧が存在していない状態、つまり油室105内の油圧が第1反力F1に対向するのに十分でない状態である。
【0056】
図9を参照すると、前進側プランジャ傾斜角θ1は、走行中のチェーン6の張力が増加して、図9(a)に示されるように、反力Fがチェーン6の張力が過大張力であるときの第2反力F2であるときに、前進側プランジャ傾斜面113を通じてリング側当接部121に作用する第2反力F2の径方向分力f2がリング側当接部121を拡径させて、図9(b)に示されるように、リング側当接部121(または、ラチェット歯127)が前進側プランジャ傾斜面113(または、ラック歯117)を乗り越えて、前進方向で隣接する周方向溝112Aに収容される(図9(c))ことで、プランジャ110の後退を許容する角度に設定されている。
ここで、第2反力F2は、チェーン6の第2走行状態、例えばエンジン始動後(したがって、油室105131が圧油で満たされているとき)に、チェーン6の張力変動やエンジンの温度変化によるエンジン本体やチェーン6の熱膨張などに起因して、チェーン6の緩み時や伸長時にプランジャ110が過大に前進する状態(すなわち、過飛び出し状態)になって、チェーン6に過大張力が発生する張力過多時での走行状態における反力Fである。
【0057】
このため、エンジン始動後のチェーン6の張力過多時には、図9(c)に示されるように、弾性リング120が拡径して、前進方向で隣接する周方向溝112Aに収容され、さらにプランジャ110が後退して、周方向溝112Aの前進側プランジャ傾斜面113に当接する(図9(d))。そして、反力Fが第1反力F1になるまで、プランジャ110はが前進側プランジャ傾斜面113を乗り越えて後退する。このように、チェーン6の張力過多時には、バックラッシュに基づくプランジャ110の後退の後も、該プランジャ110の後退方向の移動を規制せず、後退変位を許容するようになっている。
このようにして、プランジャ110が周方向溝112の1溝分もしくは数溝分だけ後退することにより、チェーン6の張力変動やエンジンの温度変化などで発生するプランジャ110の過飛び出し状態、および該過飛出し状態によりチェーン6に発生する過大張力が解消される。
なお、後退側プランジャ傾斜角α1および前進側プランジャ傾斜角θ1は、実験やシミュレーションなどにより決定される。
【0058】
次に、前述のように構成された第1実施例の作用および効果について説明する。
リング式テンショナ100が、収容穴103が設けられたボディ101と、収容穴103に収容された状態で収容穴103の軸線Lに平行な軸方向で前進および後退可能にボディ101に支持されるとともに走行中のチェーン6に張力を付与するために前進するプランジャ110と、プランジャ110を前進方向に付勢する付勢ばね106および油室105内の圧油と、プランジャ110を囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リング120とを備え、プランジャ110が有するラック部111と弾性リング120が有するリング側当接部121との当接により軸方向でのプランジャ110の移動を規制可能である。
この構成により、走行中のチェーン6に対して、前進するプランジャ110により適度な張力を与えることができ、また弾性リング120がプランジャ110と当接することにより、軸方向でのプランジャ110の移動を規制することができる。
【0059】
収容穴103の周壁面104に設けられた収容溝130に収容されているリング側当接部121が、軸方向でリング側当接部121とラック部111とが当接するときに、収容溝130の軸方向ボディ溝壁面131bと当接する軸方向リング当接面121bを有し、軸方向リング当接面121bの断面形状が直線である。
この構成により、プランジャ110の移動を規制するために、弾性リング120のリング側当接部121において、収容溝130の軸方向ボディ溝壁面131bに当接する軸方向リング当接面121b125,126の断面形状が直線であるため、リング側当接部121の断面形状が円である弾性リング120の場合とは異なり、リング側当接部121との当接時の接触圧を減少させることができて、リング側当接部121での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部121の摩耗に起因する噛込みロックを防止することができる。
【0060】
軸平面P1での軸方向ボディ溝壁面131bの断面形状が直線であり、軸方向リング当接面121bおよび軸方向ボディ溝壁面131bが面接触可能であることにより、リング側当接部121と収容溝130の溝壁面131との当接時の接触圧を、面接触可能な軸方向リング当接面121bと軸方向ボディ溝壁面131bとにより減少させることができるため、リング側当接部121およびラック部111での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部121の噛込みロックを防止することができる。
【0061】
軸方向リング当接面121bおよび軸方向ボディ溝壁面131bが平面であることにより、リング側当接部121と収容溝130の溝壁面130との当接が、軸方向リング当接面121bおよび軸方向ボディ溝壁面131bの平面同士の当接であるので、例えば、軸方向リング当接面121bおよび軸方向ボディ溝壁面131bがテーパ面である場合に比べて、プランジャ110の後退時および前進時に弾性リング120が拡径する際にリング側当接部121に作用する摩擦力を小さくすることが可能になるため、リング式テンショナ100において、プランジャ付勢手段による付勢力やチェーン6からの反力Fによる軸方向でのプランジャ110の移動応答性、したがってチェーン6に対する張力調整の応答性を向上させることができる。
【0062】
ラック部111が軸方向に配列された複数の溝であって、周方向に湾曲した周方向溝112により構成され、軸方向リング当接面121bが、前進側リング当接面125および後退側リング当接面126であり、軸方向ボディ溝壁面131bが、前進側ボディ溝壁面135および後退側ボディ溝壁面136であり、プランジャ110の後退時に、後退側リング当接面126と後退側ボディ溝壁面136とが面接触可能であり、プランジャ110の前進時に、前進側リング当接面125と前進側ボディ溝壁面135とが面接触可能であり、リング側当接部121が、周方向溝112に沿って周方向に湾曲している。
この構成により、ラック部111が軸方向に配列された複数の周方向溝112により構成されるテンショナ100において、プランジャ110の後退時のリング側当接部121と収容溝130の溝壁面131との当接時の接触圧を、面接触可能な後退側リング当接面126と後退側ボディ溝壁面136とにより減少させることができ、さらに、プランジャ110の前進時のリング側当接部121と収容溝130の溝壁面131との当接時の接触圧を、面接触可能な前進側リング当接面125と前進側ボディ溝壁面135とにより減少させることができるので、プランジャ110の後退時および前進時におけるリング側当接部121および収容溝130の溝壁面131での摩耗の進行を抑制することができ、また、リング側当接部121の噛込みロックを防止することができる。
【0063】
各周方向溝112が、プランジャ110の後退時にリング側当接部121が当接する前進側プランジャ傾斜面113と、プランジャ110の前進時にリング側当接部121が当接する後退側プランジャ傾斜面114とを有し、前進側プランジャ傾斜面113の前進側プランジャ傾斜角θ1が、前進側プランジャ傾斜面113とリング側当接部121とが当接することで第1反力F1によるプランジャ110の後退を阻止し、かつ、前進側プランジャ傾斜面113,114とリング側当接部121との当接による弾性リング120の拡径によりリング側当接部121が前進側プランジャ傾斜面113を乗り越えることで、第2反力F2によるプランジャ110の後退を許容する角度に設定されている。
この構成により、プランジャ110を後退させるチェーン6からの反力Fの大きさが第1反力F1であるときに、弾性リング120によりプランジャ110の後退が阻止されるので、チェーン6のバタツキ音を低減することができる。また、反力Fがチェーン6の張力過多時に発生する第2反力F2であるときに、弾性リング120がラック部111の前進側プランジャ傾斜面113,114を乗り越えて、反力Fが第1反力F1になるまでプランジャ110を後退させるため、チェーン6が過大張力による張力過多の状態で走行することが防止されて、チェーン6への負担や騒音を低減することができる。
【0064】
リング側当接部121が、前進側プランジャ傾斜面113と当接可能な前進側リング傾斜面123と、後退側プランジャ傾斜面114と当接可能な後退側リング傾斜面124とを有し、軸平面P1での前進側プランジャ傾斜面113、前進側リング傾斜面123、後退側プランジャ傾斜面114および後退側リング傾斜面124の各断面形状が直線であり、前記前進側プランジャ傾斜角θ1が後退側プランジャ傾斜角α1よりも小さく、前進側リング傾斜角θ2が後退側リング傾斜角α2よりも小さく、前進側リング傾斜角θ2が前進側プランジャ傾斜角θ1よりも小さく、後退側リング傾斜角α2が後退側プランジャ傾斜角α1よりも小さい。
この構成により、弾性リング120を備えるリング式テンショナ100において、前進側プランジャ傾斜面113および後退側プランジャ傾斜面114を有する周方向溝112が軸方向に複数配列されることにより、鋸歯状に形成されたラック部111に対して、リング側当接部121が前進側リング傾斜面123および後退側リング傾斜面124を有することで鋸歯状に形成されるので、プランジャ110の前進および後退を、ラチェットピストンを備えるテンショナと同等に行うことができる。
【0065】
弾性リング120が、弾性リング120を拡径および縮径させるために操作される1対の端部E1,E2を有し、収容溝130から径方向外方に突出している1対の端部E1,E2がリング径保持具160に保持されることにより、弾性リング120が軸方向でのプランジャ110の移動を阻止する。
この構成により、弾性リング120の端部E1,E2を保持するリング径保持具160により、弾性リング120を利用して軸方向でのプランジャ110の移動が確実に阻止されるので、テンショナ100の搬送時やテンショナ100の組付時おより該組付前において、収容穴103からのプランジャ110の飛出しを防止することができる。
【0066】
また、両端部E1,E2は、その平行部143,144がリング径保持具160の係合保持部161,162の保持穴163,164に挿入されることによりリング径保持具160に保持されることにより、両端部E1,E2を保持するためには、互いにほぼ平行な平行部143,144が保持穴163,164に挿入されればよいので、端部E1,E2の保持作業が容易化されて、プランジャ110の飛出し防止のための作業性を向上させることができる。
【0067】
リング径保持具160が、弾性リング120を拡径する拡径作用部166を有し、拡径作用部166の幅が、拡径作用部166が周方向で1対の両端部E1,E2の拡開傾斜部141,142の間に配置された状態で、リング側当接部121が軸方向でラック部111と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されている。
この構成により、リング径保持具160の拡径作用部166を1対の拡開傾斜部141,142の間に挟み込むことで、リング側当接部121をラック部111と当接しない位置まで弾性リング120を拡径できるので、収容穴103へのプランジャ110の着脱や、プランジャ110を初期位置に戻すための作業が容易化されて、ボディ101へのプランジャ110の組付性およびメンテナンス性を向上させることができる。
また、1対の拡開傾斜部141,142は、径方向外方に向かうにつれて周方向での間隔が次第に大きくなるように傾斜しているので、1対の拡開傾斜部141,142の間への拡径作用部166の差し込みが容易になり、この点でも、収容穴103へのプランジャ110の着脱を容易化することができる。
【0068】
次に、図10〜図16を参照して、本発明の第2,第3実施例を説明する。第2,第3実施例は、第1実施例とは、プランジャ110および弾性リング120が主に相違し、その他は基本的に同一の構成を有するものである。そのため、同一の部分についての説明は省略または簡略にし、異なる点を中心に説明する。なお、第1実施形態の部材と同一の部材または対応する部材については、同一の名称または同一の符号を使用した。
【0069】
図10〜図14を参照すると、本発明の第2実施例であるリング式テンショナ200において、プランジャ側当接部としてのラック部211を構成する複数の溝は、プランジャ110の外周面110aに軸方向に配列されて設けられて、軸線Lに直交する軸直交平面P2に平行な直線状の軸直交方向溝212である。この軸直交方向溝212は、テンショナ100の周方向溝112(図4参照)に対応する。
前進側リング傾斜角θ2は前進側プランジャ傾斜角θ1と同じであり、後退側リング傾斜角α2は後退側プランジャ傾斜角θ2と同じである。一方、リング側当接部221は、軸直交方向溝212に沿って軸直交平面P2に平行な直線状である。このため、弾性リング120のリング部Rは、D型の形状を呈する。
本実施例では、第1実施例と同様に、弾性リング120の全体がほぼ同じ断面形状を有するが、少なくとも直線状のリング側当接部221が、前進側リング傾斜面123、後退側リング傾斜面124、前進側リング当接面125および後退側リング当接面126を有していればよい。
【0070】
また、リング径保持具260は、弾性リング120を前記収容保持状態に保つ保持穴163,164が設けられた1対の係合保持部161,162と、両端部E1,E2の拡開傾斜部141,142の周方向での間に配置可能な拡径作用部166と、1対の係合保持部161,162および拡径作用部266を連結する連結部であるとともに作業者により把持される把持部である軸部165とを有する。
【0071】
図14を併せて参照すると拡径作用部266は、該拡径作用部266が両拡開傾斜部141,142の間に配置された状態で、軸方向に長細い直方体形状であることにより、両拡開傾斜部141,142の間に拡径作用部166を配置することが容易になる。そして、拡径作用部166が両拡開傾斜部141,142の周方向での間隔が最小になっている最狭部149(図12,図14参照)の間に差し込まれることにより、図14に二点鎖線で示される位置から、図14に実線で示されるように、リング側当接部221が軸方向でラック部111と当接しない位置まで拡径される。
【0072】
この第2実施例によれば、ラック部111において、軸方向に配列された複数の溝が軸直交方向溝212であり、リング側当接部221が、軸直交方向溝212に沿って直線状であるテンショナ200において、第1実施例のテンショナ100と同様の作用および効果が奏されるほか、次の作用および効果が奏される。前進側リング傾斜角θ2が前進側プランジャ傾斜角θ1と同じであり、後退側リング傾斜角α2が後退側プランジャ傾斜角α1と同じであることにより、前進側プランジャ傾斜面113および前進側リング傾斜面123同士、そして、後退側プランジャ傾斜面114および後退側リング傾斜面124同士の接触圧が減少するので、弾性リング120の摩耗の進行を抑制することができる。
【0073】
図15,図16を参照すると、本発明の第3実施例であるリング式テンショナ300において、プランジャ310は、テンショナ200のラック部211(図12参照)が設けられていないラック無しプランジャ310であり、平坦面312を有する切欠部311と、切欠部311の最前端に位置してプランジャ110の初期位置(最大後退位置でもある。)を規定するプランジャ側当接部としての後退用ストッパ部313と、切欠部311の最後端に位置して最大前進位置を規定するプランジャ側当接部として前進用ストッパ部314とを有する。
【0074】
第2実施例と同一の弾性リング120のリング側当接部221は、プランジャ110の前進および後退を規制可能であり、後退用ストッパ部313との当接により初期位置からのプランジャ110の後退を阻止し、前進用ストッパ部314との当接によりプランジャ110の最大前進位置を超える前進を阻止し、さらにボディ101からのプランジャ310の抜止めを行う。また、第3実施例のテンショナに関して、弾性リング120を拡径するためのリング径保持具は、第2実施例でのリング径保持具260(図12参照)と同じである。
この第3実施例によれば、第2実施例でのラック部211(図12参照)に関連する作用効果を除いて、第2実施例と同様の作用および効果が奏される。
【0075】
以下、前述した第1〜第3実施例の一部の構成を変更した例について、変更した構成に関して説明する。
第1,第2操作部は、弾性リング120の拡径および縮径が可能である限り、弾性リング120の端部E1,E2でなくてもよい。第1実施例において、リング径保持具160の代わりにリング径保持具260が使用されてもよく、第2,3実施例において、リング径保持具260の代わりにリング径保持具160が使用されてもよい。
第1実施例のラック部111において、周方向に湾曲した周方向溝が周方向での一部に設けられていてもよい。
エンジンにおいて、チェーンは、タイミングチェーン以外に補機を駆動するチェーンであってもよい。さらに、チェーンは、エンジン以外の機械の伝動機構を構成してもよい。
第2反力F2によるプランジャ110の後退時に、リング側当接部121が前進側のプランジャ側当接面を乗り越えないテンショナにおいては、該プランジャ側当接面が軸直交平面P2に平行であってもよい。
なお、第3実施例に関連して、本発明には含まれない参考例として、弾性リング120は、リング側当接部221の断面形状が円形であるものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
100,200,300・・・リング式テンショナ
101・・・ボディ
103・・・収容穴
110・・・プランジャ
111,211・・・ラック部
112・・・周方向溝
113・・・前進側プランジャ傾斜面
114・・・後退側プランジャ傾斜面
120・・・弾性リング
121,221・・・リング側当接部
121a・・・リング傾斜面
121b・・・軸方向リング当接面
123・・・前進側リング傾斜面
124・・・後退側リング傾斜面
125・・・前進側リング当接面
126・・・後退側リング当接面
130・・・収容溝
131・・・溝壁面
131b・・・軸方向ボディ溝壁面
135・・・前進側ボディ溝壁面
136・・・後退側ボディ溝壁面
141,142・・・拡開傾斜部
143,144・・・平行部
160,260・・・リング径保持具
161,162・・・係合保持部
166,266・・・拡径作用部
212・・・軸直交方向溝
313・・・後退用ストッパ部
314・・・前進用ストッパ部
L ・・・軸線
P1 ・・・軸平面
θ1 ・・・前進側プランジャ傾斜角
α1 ・・・後退側プランジャ傾斜角
θ2 ・・・前進側リング傾斜角
α2 ・・・後退側リング傾斜角
E1,E2・・・端部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容穴が設けられたボディと、前記収容穴に収容された状態で前記収容穴の軸線に平行な軸方向で前進および後退可能に前記ボディに支持されるとともに走行中のチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、前記プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、前記プランジャが有するプランジャ側当接部と前記弾性リングが有するリング側当接部との当接により前記軸方向での前記プランジャの移動を規制可能なリング式テンショナにおいて、
前記収容穴の周壁面に設けられた収容溝に収容されている前記リング側当接部が、前記軸方向で前記リング側当接部と前記プランジャ側当接部とが当接するときに、前記収容溝の軸方向ボディ溝壁面と当接する軸方向リング当接面を有し、
前記軸線を含む平面である軸平面での前記軸方向リング当接面の断面形状が直線であることを特徴とするリング式テンショナ。
【請求項2】
前記軸平面での前記軸方向ボディ溝壁面の断面形状が直線であり、
前記軸方向リング当接面および前記軸方向ボディ溝壁面が面接触可能であることを特徴とする請求項1に記載のリング式テンショナ。
【請求項3】
前記軸方向リング当接面および前記軸方向ボディ溝壁面が平面であることを特徴とする請求項2に記載のリング式テンショナ。
【請求項4】
前記プランジャ側当接部が前記プランジャに前記軸方向に配列された複数の溝により構成され、
前記溝が、周方向に湾曲した周方向溝であり、
前記軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、
前記軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、
前記プランジャの後退時に、前記後退側リング当接面と前記後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、
前記リング側当接部が、前記周方向溝に沿って周方向に湾曲していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のリング式テンショナ。
【請求項5】
前記プランジャ側当接部が前記プランジャに前記軸方向に配列された複数の溝により構成され、
前記溝が、前記軸線に直交する軸直交平面に平行な直線状の軸直交方向溝であり、
前記軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、
前記軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、
前記プランジャの後退時に、前記後退側リング当接面と前記後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、
前記リング側当接部が、前記軸直交方向溝に沿って直線状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のリング式テンショナ。
【請求項6】
前記各溝が、前記プランジャの後退時に前記リング側当接部が当接する前進側プランジャ傾斜面と、前記プランジャの前進時に前記リング側当接部が当接する後退側プランジャ傾斜面とを有し、
前記チェーン等に発生する張力に基づいて前記チェーン等から前記プランジャに作用して前記プランジャを後退させる反力を、前記張力が予め設定された過大張力よりも小さいときの第1反力とし、前記張力が前記過大張力であるときの第2反力とするときに、前記前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、前記前進側プランジャ傾斜面と前記リング側当接部とが当接することで第1反力による前記プランジャの後退を阻止し、かつ、前記前進側プランジャ傾斜面と前記リング側当接部との当接による前記弾性リングの拡径により前記リング側当接部が前記前進側プランジャ傾斜面を乗り越えることで、前記第2反力による前記プランジャの後退を許容する角度に設定されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のリング式テンショナ。
【請求項7】
前記リング側当接部が、前記前進側プランジャ傾斜面と当接可能な前進側リング傾斜面と、前記後退側プランジャ傾斜面と当接可能な後退側リング傾斜面とを有し、
前記軸平面での前記前進側プランジャ傾斜面、前記前進側リング傾斜面、前記後退側プランジャ傾斜面および前記後退側リング傾斜面の各断面形状が直線であり、
前記前進側プランジャ傾斜面の前記前進側プランジャ傾斜角が、前記後退側プランジャ傾斜面の後退側プランジャ傾斜角よりも小さく、
前記前進側リング傾斜面の前進側リング傾斜角が、前記後退側リング傾斜面の後退側リング傾斜角よりも小さく、
前記前進側リング傾斜角が、前記前進側プランジャ傾斜角以下であり、前記後退側リング傾斜角が、前記後退側プランジャ傾斜角以下であることを特徴とする請求項6に記載のリング式テンショナ。
【請求項8】
前記弾性リングが、前記弾性リングを拡径および縮径させるために操作される操作部を有し、
前記収容溝から径方向外方に突出している前記操作部がリング径保持具に保持されることにより、前記弾性リングが前記軸方向での前記プランジャの移動を阻止することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つに記載のリング式テンショナ。
【請求項9】
前記リング径保持具が、前記弾性リングを拡径する拡径作用部を有し、
前記操作部は、周方向に離隔している1対の第1操作部および第2操作部であり、
前記拡径作用部の幅が、前記拡径作用部が周方向で前記第1操作部および前記第2操作部の間に配置された状態で、前記リング側当接部が前記軸方向で前記プランジャ側当接部と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されていることを特徴とする請求項8に記載のリング式テンショナ。
【請求項1】
収容穴が設けられたボディと、前記収容穴に収容された状態で前記収容穴の軸線に平行な軸方向で前進および後退可能に前記ボディに支持されるとともに走行中のチェーン等に張力を付与するために前進するプランジャと、前記プランジャを前進方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャを囲んで配置されるとともに径方向に拡縮可能な弾性リングとを備え、前記プランジャが有するプランジャ側当接部と前記弾性リングが有するリング側当接部との当接により前記軸方向での前記プランジャの移動を規制可能なリング式テンショナにおいて、
前記収容穴の周壁面に設けられた収容溝に収容されている前記リング側当接部が、前記軸方向で前記リング側当接部と前記プランジャ側当接部とが当接するときに、前記収容溝の軸方向ボディ溝壁面と当接する軸方向リング当接面を有し、
前記軸線を含む平面である軸平面での前記軸方向リング当接面の断面形状が直線であることを特徴とするリング式テンショナ。
【請求項2】
前記軸平面での前記軸方向ボディ溝壁面の断面形状が直線であり、
前記軸方向リング当接面および前記軸方向ボディ溝壁面が面接触可能であることを特徴とする請求項1に記載のリング式テンショナ。
【請求項3】
前記軸方向リング当接面および前記軸方向ボディ溝壁面が平面であることを特徴とする請求項2に記載のリング式テンショナ。
【請求項4】
前記プランジャ側当接部が前記プランジャに前記軸方向に配列された複数の溝により構成され、
前記溝が、周方向に湾曲した周方向溝であり、
前記軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、
前記軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、
前記プランジャの後退時に、前記後退側リング当接面と前記後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、
前記リング側当接部が、前記周方向溝に沿って周方向に湾曲していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のリング式テンショナ。
【請求項5】
前記プランジャ側当接部が前記プランジャに前記軸方向に配列された複数の溝により構成され、
前記溝が、前記軸線に直交する軸直交平面に平行な直線状の軸直交方向溝であり、
前記軸方向リング当接面が、前進側リング当接面および後退側リング当接面であり、
前記軸方向ボディ溝壁面が、前進側ボディ溝壁面および後退側ボディ溝壁面であり、
前記プランジャの後退時に、前記後退側リング当接面と前記後退側ボディ溝壁面とが面接触可能であり、
前記リング側当接部が、前記軸直交方向溝に沿って直線状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のリング式テンショナ。
【請求項6】
前記各溝が、前記プランジャの後退時に前記リング側当接部が当接する前進側プランジャ傾斜面と、前記プランジャの前進時に前記リング側当接部が当接する後退側プランジャ傾斜面とを有し、
前記チェーン等に発生する張力に基づいて前記チェーン等から前記プランジャに作用して前記プランジャを後退させる反力を、前記張力が予め設定された過大張力よりも小さいときの第1反力とし、前記張力が前記過大張力であるときの第2反力とするときに、前記前進側プランジャ傾斜面の前進側プランジャ傾斜角が、前記前進側プランジャ傾斜面と前記リング側当接部とが当接することで第1反力による前記プランジャの後退を阻止し、かつ、前記前進側プランジャ傾斜面と前記リング側当接部との当接による前記弾性リングの拡径により前記リング側当接部が前記前進側プランジャ傾斜面を乗り越えることで、前記第2反力による前記プランジャの後退を許容する角度に設定されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のリング式テンショナ。
【請求項7】
前記リング側当接部が、前記前進側プランジャ傾斜面と当接可能な前進側リング傾斜面と、前記後退側プランジャ傾斜面と当接可能な後退側リング傾斜面とを有し、
前記軸平面での前記前進側プランジャ傾斜面、前記前進側リング傾斜面、前記後退側プランジャ傾斜面および前記後退側リング傾斜面の各断面形状が直線であり、
前記前進側プランジャ傾斜面の前記前進側プランジャ傾斜角が、前記後退側プランジャ傾斜面の後退側プランジャ傾斜角よりも小さく、
前記前進側リング傾斜面の前進側リング傾斜角が、前記後退側リング傾斜面の後退側リング傾斜角よりも小さく、
前記前進側リング傾斜角が、前記前進側プランジャ傾斜角以下であり、前記後退側リング傾斜角が、前記後退側プランジャ傾斜角以下であることを特徴とする請求項6に記載のリング式テンショナ。
【請求項8】
前記弾性リングが、前記弾性リングを拡径および縮径させるために操作される操作部を有し、
前記収容溝から径方向外方に突出している前記操作部がリング径保持具に保持されることにより、前記弾性リングが前記軸方向での前記プランジャの移動を阻止することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つに記載のリング式テンショナ。
【請求項9】
前記リング径保持具が、前記弾性リングを拡径する拡径作用部を有し、
前記操作部は、周方向に離隔している1対の第1操作部および第2操作部であり、
前記拡径作用部の幅が、前記拡径作用部が周方向で前記第1操作部および前記第2操作部の間に配置された状態で、前記リング側当接部が前記軸方向で前記プランジャ側当接部と当接しない位置まで拡径させられる値に設定されていることを特徴とする請求項8に記載のリング式テンショナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
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【図10】
【図11】
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【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−251594(P2012−251594A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124058(P2011−124058)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】
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