説明

リング状線材の槽内搬送装置

【課題】処理槽内の処理液にリング状線材を浸しながら搬送する際の搬送遅れを防止したリング状線材の槽内搬送装置を提供する。
【解決手段】処理槽1の互いに対向する側壁から槽内に臨む一対のローラ軸2a,2bを搬送方向に複数並べて配置したローラ列2A,2Bと、ローラ軸2a,2bの下端に設けられた円錐ローラ3a,3bとを備え、一対のローラ軸2a,2bの間で互いに対向する円錐ローラ3a,3bの面上をリング状線材Sが走行するように一対のローラ軸2a,2bを互いに近接する方向に傾けて配置すると共に、搬送方向の下流側の円錐ローラ3a,3bの上に上流側の円錐ローラ3a,3bの一部が平面視で順に重なるように一対のローラ軸2a,2bを搬送方向に傾けて配置し、円錐ローラ3a,3bの外周縁部に、リング状線材Sと当接される突起部8を周方向に複数並べて設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽内の処理液にリング状線材を浸しながら搬送する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、処理槽内の処理液にリング状線材を浸しながら搬送する装置として、下記特許文献1に記載されるようなリング状線材の槽内搬送装置が提案されている。具体的に、この搬送装置では、処理槽の線材搬送方向の両側壁上部に複数の円錐ローラを配設し、この円錐ローラによって線材を搬送しながら槽内の液体に浸漬する。
【0003】
しかしながら、このような従来の搬送装置では、リング状線材と円錐ローラとの間でスリップが発生し、搬送遅れにより生産性が悪化してしまうという問題があった。また、リング状線材が不規則に重なり合うことによる搬送上のトラブルも発生することになる。
【0004】
そこで、このような問題を解決するために、例えば、処理槽内で搬送されるリング状線材の下り、水平、上りの各々に駆動装置を設けて、上りの搬送速度を上げることにより、上述したリング状線材の搬送遅れを防止することが考えられる。しかしながら、この場合、リング状線材と円錐ローラとの間で生じるリップが大きくなるために、上述した問題の解決とはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−61114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、処理槽内の処理液にリング状線材を浸しながら搬送する際の搬送遅れを防止し、リング状線材の搬送速度を向上させることを可能としたリング状線材の槽内搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することを目的とした本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1) 処理槽内の処理液にリング状線材を浸しながら搬送する装置であって、
前記処理槽の互いに対向する側壁から槽内に臨む一対のローラ軸を搬送方向に複数並べて配置したローラ列と、前記ローラ軸の下端に設けられた円錐ローラと、前記一対のローラ軸を互い逆向きに搬送方向に向かって回転させる駆動機構とを備え、
前記ローラ列は、前記一対のローラ軸の間で互いに対向する円錐ローラの面上を前記リング状線材が走行するように前記一対のローラ軸を互いに近接する方向に傾けて配置すると共に、搬送方向の下流側の円錐ローラの上に上流側の円錐ローラの一部が平面視で順に重なるように前記一対のローラ軸を搬送方向に傾けて配置してなり、
前記円錐ローラの外周縁部には、前記リング状線材と当接される突起部が周方向に複数並んで設けられていることを特徴とするリング状線材の槽内搬送装置。
(2) 前記突起部は、最頂部を挟んだ周方向の両側で下向き円弧の稜線を描くように形成されていることを特徴とする(1)に記載のリング状線材の槽内搬送装置。
(3) 前記突起部の間隔が30〜80mmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のリング状線材の槽内搬送装置。
(4) 前記突起部の高さが前記リング状線材の径に対して0.5〜1.5倍であることを特徴とする(1)〜(3)の何れか一項に記載のリング状線材の槽内搬送装置。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明に係るリング状線材の槽内搬送装置では、円錐ローラの外周縁部にリング状線材と当接される突起部を周方向に複数並べて設けることで、円錐ローラとリング状線材との間でスリップが生じることを防止している。これにより、処理槽内の処理液にリング状線材を浸しながら搬送する際の搬送遅れを防止し、リング状線材の搬送速度を向上させることが可能である。また、これによって処理槽内で搬送されるリング状線材の下り勾配と上り勾配とを大きく取れるため、処理槽の全長を従来の装置と比べて短縮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用したリング状線材の槽内搬送装置の一例を示す平面図である。
【図2】図1に示す搬送装置の搬送方向に沿った断面図である。
【図3】図1に示す搬送装置の搬送方向と直交する方向に沿った断面図である。
【図4】図1に示す搬送装置が備える円錐ローラを拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用したリング状線材の槽内搬送装置について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明を適用したリング状線材の槽内搬送装置は、例えば図1,図2及び図3に示すように、処理槽1内の処理液Lにリング状線材Sを浸しながら搬送する装置である。具体的に、この搬送装置は、処理槽1の互いに対向する側壁から槽内に臨む一対のローラ軸2a,2bを搬送方向に複数並べて配置したローラ列2A,2Bと、ローラ軸2a,2bの下端に設けられて処理液Lに浸漬された円錐ローラ3a,3bと、一対のローラ軸2a,2bを互い逆向きに搬送方向Xに向かって回転させる駆動機構4とを備えている。
【0011】
ローラ列2A,2Bは、一対のローラ軸2a,2bの間で互いに対向する円錐ローラ3a,3bの面上をリング状線材Sが走行するように一対のローラ軸2a,2bを互いに近接する方向に傾けて配置している。また、ローラ列2A,2Bは、搬送方向Xの下流側の円錐ローラ3a,3bの上に上流側の円錐ローラ3a,3bの一部が平面視で順に重なるように一対のローラ軸2a,2bを搬送方向Xに傾けて配置している。さらに、ローラ列2A,2Bは、処理槽1の中間部でリング状線材Sが処理液L中の最も下層を走行するように搬送方向Xに並ぶ円錐ローラ3a,3bの配置に勾配を持たせている。すなわち、これら搬送方向Xに並ぶ円錐ローラ3a,3bは、処理槽1の中間部を挟んだ上流側で下り勾配、下流側で上り勾配となるように配置されている。
【0012】
各円錐ローラ3a,3bは、図4に示すように、括れ部5aを挟んで下部円錐部5bと上部円錐部5cとを有している。このうち、下部円錐部5bは、この円錐ローラ3a,3b上を走行するリング状線材Sを鉛直上向きに支持するため、その外周面の最上部が水平となる開き角を有して下向きに漸次拡径した円錐形状を有している。一方、上部円錐部5cは、この円錐ローラ3a,3b上を走行するリング状線材Sを幅方向に規制するため、その外周面の最内部が鉛直となる開き角を有して上向きに漸次拡径した円錐形状を有している。また、上部円錐部5cの外周縁部は、下部円錐部5bの外周縁部よりも小径である。
【0013】
駆動機構4は、図1,図2及び図3に示すように、処理槽1の側壁に回転自在に軸支された各ローラ軸2a,2bのうち、所定のブロック毎に隣接するローラ軸2a,2bに設けられたプーリ同士を無端ベルト6を介して連結すると共に、各ブロックの間に設けられた駆動モータ7の回転軸7aと、この回転軸7aを挟んだ両側のローラ軸2a,2bとのプーリ同士を無端ベルト6を介して連結することで、駆動モータ7の駆動力を各ローラ軸2a,2bに伝達する。これにより、搬送方向Xに並ぶ一対のローラ軸2a,2bを互い逆向きに搬送方向Xに向かって回転させることが可能となっている。
【0014】
ところで、円錐ローラ3a,3bの外周縁部には、図4に拡大して示すように、リング状線材Sと当接される突起部8が周方向に複数並んで設けられている。本発明では、このような突起部8を各円錐ローラ3a,3bの外周縁部に設けることで、これら円錐ローラ3a,3bとリング状線材Sとの間でスリップが生じることを防止している。
【0015】
ここで、リング状線材Sは、その線径や材質等の違いによりリングピッチが異なること、並びに下部円錐部5bとの接触位置によって周速が変化する。このため、リング状線材Sは、処理槽1の幅方向において多少の動きが発生する。したがって、円錐ローラ3a,3bの外周縁部に連続した突起部や鋭角な突起部を設けることは好ましくない。また、突起部8は、下部円錐部5bの外周縁部(下端部)に設けることが効果的である。
【0016】
本発明では、円錐ローラ3a,3b(下部円錐部5b)の外周縁部に突起部8を周方向に等間隔に並べて配置している。また、各突起部8は、その最頂部を挟んだ周方向の両側で下向き円弧の稜線を描くように形成されている。さらに、各突起部8の間には平坦な面が設けられている。
【0017】
これにより、本発明では、リング状線材Sと円錐ローラ3a,3bとの間でスリップが発生することを効率良く防止することが可能である。また、処理槽1の幅方向におけるリング状線材Sの動きに対する自由度を高めることができるため、リング状線材Sが突起部8に当接したときに疵等が発生することを防止することが可能である。さらに、各突起部8の最頂部は、リング状線材Sが当接したときに疵等が付かないように周方向に丸みを有している。
【0018】
突起部8の(最頂部)間隔は、30〜80mmであることが好ましい。突起部8の間隔が30mm未満であると、間隔が短くなり過ぎてリングピッチを乱すことになる。一方、突起部8の間隔が80mmを越えると、上述したリング状線材Sのスリップ防止効果が小さくなってしまう。
【0019】
また、突起部8の(最頂部)高さは、リング状線材Sの径に対して0.5〜1.5倍であることが好ましい。突起部8の高さが0.5倍未満では、リング状線材Sの突起部8に対する引っ掛かりが弱くなり、上述したリング状線材Sのスリップ防止効果が小さくなってしまう。一方、突起部8の高さが1.5倍を超えると、この突起部8によりリング状線材Sを巻き込むといったトラブルが発生してしまう。
【0020】
以上のように、本発明によれば、処理槽1内の処理液Lにリング状線材Sを浸しながら搬送する際の搬送遅れを防止し、リング状線材Sの搬送速度を向上させることが可能である。また、これによって処理槽1内で搬送されるリング状線材Sの下り勾配と上り勾配とを大きく取れるため、処理槽1の全長を従来の装置と比べて短縮することが可能である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0022】
本実施例では、上記図1に示す本発明を適用したリング状線材の槽内搬送装置を用いて、処理槽1内の処理液Lにリング状線材Sを浸しながら、このリング状線材Sの恒温処理を行った。以下、実際に行った各種条件を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、本発明の条件を満足する水準では、突起部8によってリング状線材Sに擦り疵が発生したり、突起部8によってリング状線材Sを巻き込む搬送トラブルもなく、設定通りの搬送速度でリング状線材を搬送することができた。
【符号の説明】
【0025】
1…処理槽 2A,2B…ローラ列 2a,2b…ローラ軸 3a,3b…円錐ローラ 4…駆動機構 5a…括れ部 5b…下部円錐部 5c…上部円錐部 6…無端ベルト 7…駆動モータ 7a…駆動軸 8…突起部 S…リング状線材 L…処理液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内の処理液にリング状線材を浸しながら搬送する装置であって、
前記処理槽の互いに対向する側壁から槽内に臨む一対のローラ軸を搬送方向に複数並べて配置したローラ列と、前記ローラ軸の下端に設けられた円錐ローラと、前記一対のローラ軸を互い逆向きに搬送方向に向かって回転させる駆動機構とを備え、
前記ローラ列は、前記一対のローラ軸の間で互いに対向する円錐ローラの面上を前記リング状線材が走行するように前記一対のローラ軸を互いに近接する方向に傾けて配置すると共に、搬送方向の下流側の円錐ローラの上に上流側の円錐ローラの一部が平面視で順に重なるように前記一対のローラ軸を搬送方向に傾けて配置してなり、
前記円錐ローラの外周縁部には、前記リング状線材と当接される突起部が周方向に複数並んで設けられていることを特徴とするリング状線材の槽内搬送装置。
【請求項2】
前記突起部は、最頂部を挟んだ周方向の両側で下向き円弧の稜線を描くように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリング状線材の槽内搬送装置。
【請求項3】
前記突起部の間隔が30〜80mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリング状線材の槽内搬送装置。
【請求項4】
前記突起部の高さが前記リング状線材の径に対して0.5〜1.5倍であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のリング状線材の槽内搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−99145(P2011−99145A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254817(P2009−254817)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】