説明

リンス用組成物及びそれを用いたリンス方法

【課題】 研磨後のシリコンウエハをリンスする用途において好適に使用可能なリンス用組成物、及びそのリンス用組成物を用いてシリコンウエハをリンスする方法を提供する。
【解決手段】 本発明のリンス用組成物は、水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、及び同共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子と、水とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨後のシリコンウエハ等をリンスする用途に用いられるリンス用組成物、及びそのリンス用組成物を用いてシリコンウエハをリンスする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研磨用組成物を用いてシリコンウエハを研磨した場合には通常、研磨用組成物中に含まれる砥粒等が研磨後のシリコンウエハに付着する。シリコンウエハに砥粒等が付着したままでは様々な弊害があることから、付着した砥粒等を除去するべく、研磨後のシリコンウエハをリンス用組成物ですすぎ研磨(リンス)することが一般に行われている(例えば、特許文献1参照。)。従って、リンス用組成物には、シリコンウエハの表面に付着した砥粒等を確実に除去できることが求められる。ただし、リンス後のシリコンウエハの表面濡れ性が不良であるとリンス後のシリコンウエハに異物が付着しやすくなるので、リンス後のシリコンウエハの表面濡れ性を良好に維持できることもリンス用組成物にとって重要なことである。しかしながら、従来のリンス用組成物はこうした要求を十分に満足するものではなく、依然として改良の余地を残している。
【特許文献1】特開2003−109931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、研磨後のシリコンウエハをリンスする用途において好適に使用可能なリンス用組成物、及びそのリンス用組成物を用いてシリコンウエハをリンスする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、及び同共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子と、水とを含有するリンス用組成物を提供する。
【0005】
請求項2に記載の発明は、アルカリ化合物を実質的に含有しない請求項1に記載のリンス用組成物を提供する。
請求項3に記載の発明は、前記水溶性高分子の0.5倍質量未満のアルカリ化合物をさらに含有する請求項1に記載のリンス用組成物を提供する。
【0006】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリンス用組成物を用意する工程と、研磨用組成物を用いて研磨されたシリコンウエハを該リンス用組成物を用いてリンスする工程とを備えたリンス方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、研磨後のシリコンウエハをリンスする用途において好適に使用可能なリンス用組成物、及びそのリンス用組成物を用いてシリコンウエハをリンスする方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態に係るリンス用組成物は、水溶性高分子及び水のみから実質的になる。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子は、水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、又は同共重合体にアルキル基若しくはアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーである。リンス用組成物中に含まれる水は、不純物をできるだけ含有しないことが望ましく、蒸留水、純水、又は超純水であってもよい。
【0009】
研磨後のシリコンウエハをリンスする用途に本実施形態に係るリンス用組成物を用いた場合には、リンス後のウエハ表面におけるパーティクルと呼ばれる凸状欠陥の発生が抑制される。これは、リンス用組成物中の水溶性高分子の働きで、リンス後のシリコンウエハの表面濡れ性が良好に維持される結果、リンス後のウエハ表面への異物の付着が抑制されたり、付着した異物が乾燥してウエハ表面に固着することが抑制されることが理由と考えられる。
【0010】
前記水溶性多糖類は、パーティクル抑制効果に優れるという観点から、好ましくはヒドロキシエチルセルロース又はプルランであり、より好ましくはヒドロキシエチルセルロースである。
【0011】
リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子は、好ましくはヒドロキシエチルセルロース、プルラン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であり、より好ましくはヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であり、最も好ましくはヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体である。
【0012】
リンス用組成物が水溶性高分子を少量しか含有しない場合には、リンス後のウエハ表面の親水性が十分でないためにパーティクルの付着があまり抑制されないことがある。従って、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量には、水溶性高分子が有するパーティクル抑制効果を有効に発揮させるという観点から見たときの好適な範囲が存在する。
【0013】
すなわち、リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子が水溶性多糖類である場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、最も好ましくは0.005質量%以上である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がポリビニルアルコールである場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上、最も好ましくは0.002質量%以上である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がポリエチレンオキサイドである場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上、最も好ましくは0.001質量%以上である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がポリプロピレンオキサイドである場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上、最も好ましくは0.005質量%以上である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体である場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、最も好ましくは0.002質量%以上である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーである場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、最も好ましくは0.005質量%以上である。
【0014】
一方、リンス用組成物が水溶性高分子を大量に含有する場合には、リンス用組成物の粘度が過剰に増大することがある。従って、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量には、リンス用組成物の粘度を適正化するという観点から見たときの好適な範囲も存在する。
【0015】
すなわち、リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子が水溶性多糖類である場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、最も好ましくは0.5質量%以下である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がポリビニルアルコールである場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、最も好ましくは0.5質量%以下である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がポリエチレンオキサイドである場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは0.2質量%以下である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がポリプロピレンオキサイドである場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは0.2質量%以下である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体である場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子がエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーである場合には、リンス用組成物中の水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。
【0016】
また、水溶性高分子としてリンス用組成物に添加される化合物の平均分子量が小さすぎる場合にも、リンス後のウエハ表面におけるパーティクルの発生があまり抑制されないことがある。従って、水溶性高分子としてリンス用組成物に添加される化合物の平均分子量には、水溶性高分子が有するパーティクル抑制効果を有効に発揮させるという観点から見たときの好適な範囲が存在する。
【0017】
すなわち水溶性多糖類の平均分子量は、好ましくは30,000以上、より好ましくは60,000以上、最も好ましくは90,000以上である。ポリビニルアルコールの平均分子量は、好ましくは1,000以上、より好ましくは5,000以上、最も好ましくは10,000以上である。ポリエチレンオキサイドの平均分子量は、好ましくは20,000以上である。ポリプロピレンオキサイドの平均分子量は、好ましくは1,000以上、より好ましくは8,000以上、最も好ましくは15,000以上である。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体の平均分子量は、好ましくは500以上、より好ましくは2,000以上、最も好ましくは6,000以上である。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーの平均分子量は、好ましくは1,000以上、より好ましくは7,000以上、最も好ましくは14,000以上である。
【0018】
一方、水溶性高分子としてリンス用組成物に添加される化合物の平均分子量が大きすぎる場合にも、リンス用組成物の粘度が過剰に増大することがある。従って、水溶性高分子としてリンス用組成物に添加される化合物の平均分子量には、リンス用組成物の粘度を適正化するという観点から見たときの好適な範囲も存在する。
【0019】
すなわち、水溶性多糖類の平均分子量は、好ましくは3,000,000以下、より好ましくは2,000,000以下、最も好ましくは1,500,000以下である。ポリビニルアルコールの平均分子量は、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、最も好ましくは300,000以下である。ポリエチレンオキサイドの平均分子量は、好ましくは50,000,000以下、より好ましくは30,000,000以下、最も好ましくは10,000,000以下である。ポリプロピレンオキサイドの平均分子量は、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、最も好ましくは250,000以下である。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体の平均分子量は、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、最も好ましくは20,000以下である。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーの平均分子量は、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下、最も好ましくは30,000以下である。
【0020】
水溶性高分子としてポリビニルアルコールがリンス用組成物に添加される場合、ポリビニルアルコールの平均重合度が小さすぎると、リンス後のウエハ表面におけるパーティクルの発生があまり抑制されないことがある。逆にポリビニルアルコールの平均重合度が大きすぎると、リンス用組成物の粘度が過剰に増大することがある。従って、ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200〜3,000である。また、ポリビニルアルコールのケン化度もリンス用組成物の特性に影響を及ぼすので、ポリビニルアルコールのケン化度は好ましくは70〜100%である。
【0021】
本実施形態に係るリンス用組成物は、例えば、研磨後のシリコンウエハをリンスする用途に用いられる。シリコンウエハの研磨の際に使用される研磨用組成物は、後のリンスの際に使用されるリンス用組成物中に含まれる水溶性高分子と同種の水溶性高分子を含有することが好ましい。逆にいえば、リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子は、研磨の際に使用される研磨用組成物中に含まれる水溶性高分子と同種であることが好ましい。この場合、リンスの際に、シリコンウエハ上に残留した研磨用組成物中の水溶性高分子によって、リンス用組成物中の水溶性高分子の働きが妨げられる虞がない。
【0022】
前記実施形態は以下のように変更されてもよい。
・ 前記実施形態に係るリンス用組成物は、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、同共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマー、及びプルランから選ばれる二種以上の水溶性高分子を含有してもよい。
【0023】
・ 前記実施形態に係るリンス用組成物はアルカリ化合物をさらに含有してもよい。アルカリ化合物は、リンス用組成物中における水溶性高分子の溶解性を改善する。
アルカリ化合物は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機アルカリ化合物;アンモニア;水酸化テトラメチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩;及び、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン等のアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0024】
リンス用組成物がアルカリ化合物を大量に含有する場合には、リンス後のシリコンウエハの表面にCOP(crystal originated particle)と呼ばれる凹状欠陥が多く生じることがある。従って、リンス後のシリコンウエハのCOPを低減するという観点から、リンス用組成物中のアルカリ化合物の含有量は、好ましくはリンス用組成物中の水溶性高分子の0.5倍質量未満、より好ましくは同0.2倍質量未満、最も好ましくは同0.05倍質量以下である。
【0025】
・ 前記実施形態に係るリンス用組成物はキレート剤をさらに含有してもよい。キレート剤は、リンス用組成物中の金属不純物と錯イオンを形成してこれを捕捉し、シリコンウエハの汚染を抑制する。ここでいう金属不純物とは、鉄、ニッケル、銅、カルシウム、クロム、亜鉛、又はそれらの水酸化物若しくは酸化物を特に言う。これらの金属不純物は、ウエハ表面に付着したりウエハ中に拡散したりすることにより、ウエハから作製される半導体装置の電気的特性に影響を与える虞がある。
【0026】
キレート剤は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン四酢酸、プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、エチレンジアミン四エチレンホスホン酸、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン五エチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン五メチレンホスホン酸、トリエチレンテトラミン六エチレンホスホン酸、トリエチレンテトラミン六メチレンホスホン酸、及びプロパンジアミン四エチレンホスホン酸プロパンジアミン四メチレンホスホン酸、並びにこれらの酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、及びリチウム塩等の塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0027】
キレート剤を大量に含有するリンス用組成物はゲル化しやすい。従って、ゲル化の防止という観点から、リンス用組成物中のキレート剤の含有量は、好ましくは6質量%以下、より好ましくは3質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0028】
ただし、キレート剤がアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、又はリチウム塩などのアルカリ化合物を含有し、かつ、リンス用組成物が別のアルカリ化合物をさらに含有する場合には、リンス用組成物中の両アルカリ化合物の含有量の合計がリンス用組成物中の水溶性高分子の0.5倍質量未満であることが好ましい。
【0029】
・ 前記実施形態に係るリンス用組成物は、アルカリ化合物及びキレート剤以外の添加剤、例えば防腐剤や界面活性剤をさらに含有してもよい。
・ 前記実施形態に係るリンス用組成物は原液を水で希釈することによって調製されてもよい。
【0030】
・ 前記実施形態に係るリンス用組成物は、シリコンウエハ以外の対象をリンスする用途に用いられてもよい。
・ 前記実施形態に係るリンス用組成物は、リンス後のシリコンウエハをスクラブ洗浄する際に使用される洗浄液として利用されてもよい。
【実施例】
【0031】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1〜15及び比較例1〜5>
水溶性高分子と水とを混合し、必要に応じてアルカリ化合物、キレート剤又は研磨材をさらに加えて原液を用意した。そして、その原液をそれぞれ20倍に水で希釈して実施例1〜15及び比較例1〜4に係るリンス用組成物を調製した。各リンス用組成物中の水溶性高分子、アルカリ化合物、キレート剤、及び研磨材の種類及び含有量は表1に示すとおりである。なお、使用した研磨材は、BET法により測定される比表面積から求められる平均粒子径が35nmのコロイダルシリカである。
【0032】
研磨用組成物を供給しながら研磨機を使って直径6インチ(約150mm)のシリコンウエハ(P−<100>)を研磨した。研磨が終了したら、研磨機の設定をリンス用の設定に変更すると同時に研磨用組成物に代えて実施例1〜15及び比較例1〜4に係るリンス用組成物のいずれか又は純水(比較例5)を研磨機に供給して研磨後のシリコンウエハをリンスした。シリコンウエハを研磨するときの研磨条件、及び研磨後のシリコンウエハをリンスするときのリンス条件は表2に示すとおりである。
【0033】
リンス後のシリコンウエハの表面濡れ性を目視により以下の評価基準に従って四段階で評価した。すなわち、ウエハ表面に撥水が認められない場合には◎、ウエハの外周縁から5mm未満離れたウエハの部分にのみ撥水が認められる場合には○、ウエハの外周縁から5mm以上50mm未満離れたウエハの部分にも撥水が認められる場合には△、ウエハの外周縁から50mm以上離れたウエハの部分にも撥水が認められる場合には×と評価した。表面濡れ性に関する評価の結果を表1の“濡れ性”欄に示す。
【0034】
リンス後のシリコンウエハをSC−1洗浄液(アンモニア過酸化水素水溶液)で洗浄した後、ADE社製の表面検査装置“AWIS3110”を使用してシリコンウエハ表面のパーティクル(>0.08μm)及びCOP(>0.08μm)を計測した。ウエハ一枚当たりで計測されたパーティクル及びCOPの個数を表1の“パーティクル”欄及び“COP”欄にそれぞれ示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

表1の“水溶性高分子”欄において、“HEC*1”は平均分子量1,200,000のヒドロキシエチルセルロースを表し、“HEC*2”は平均分子量300,000のヒドロキシエチルセルロースを表し、“HEC*3”は平均分子量1,600,000のヒドロキシエチルセルロースを表す。また、“PVA”は平均分子量62,000、平均重合度1400、ケン化度95%のポリビニルアルコールを表し、“PEO”は平均分子量150,000〜400,000のポリエチレンオキサイドを表し、“EO−PO”は下記一般式1で表されるエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体を表し、“プルラン”は分子量200,000のプルランを表す。表1の“キレート剤”欄において、“TTHA”はトリエチレンテトラミン六酢酸を表し、“EDTPO”はエチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸を表す。表1の“研磨材”欄において、SiO2はコロイダルシリカを表す。
【0037】
一般式1: HO−(EO)a−(PO)b−(EO)c−H
一般式1において、EOはオキシエチレン基を表し、POはオキシプロピレン基を表す。一般式1で表される共重合体中のオキシプロピレン基の質量に対する同共重合体中のオキシエチレン基の質量の比は80/20である。また一般式1において、a,b及びcは1以上の整数であり、bに対するa+cの比は164/31である。
【0038】
表1に示すように、実施例1〜15に係るリンス用組成物を用いてリンスされたシリコンウエハは、純水(比較例5)を用いてリンスされたシリコンウエハに比べて、パーティクルの数が少なく、表面濡れ性に関する評価も良好であった。この結果は、実施例1〜15に係るリンス用組成物によれば、リンス後のシリコンウエハの表面濡れ性が良好に維持されることにより、リンス後のウエハ表面におけるパーティクルの発生が抑制されることを示唆するものである。また、水溶性高分子の0.5倍質量以上のアルカリ化合物を含有する実施例10及び実施例11を用いてリンスされたシリコンウエハは、純水(比較例5)を用いてリンスされたシリコンウエハに比べて、COPの数が増大していた。この結果は、リンス後のシリコンウエハのCOPを低減するためには、リンス用組成物中のアルカリ化合物の含有量が少なくとも水溶性高分子の0.5倍質量未満であることが望ましいことを示唆するものである。なお、比較例4に係るリンス用組成物はゲル状であったために、表面濡れ性の評価並びにパーティクル及びCOPの計測のいずれも行うことができなかった。
【0039】
<実施例16,17>
研磨後のシリコンウエハを実施例2に係るリンス用組成物を用いてリンスする際のリンス時間を実施例16では30秒に変更し、実施例17では90秒に変更した。そして、リンス後のシリコンウエハにおいて、表面濡れ性の評価並びにパーティクル及びCOPの計測を上記と同様の手順で行った。その結果を表3に示す。
【0040】
<比較例6,7>
研磨後のシリコンウエハを純水を用いてリンスする際のリンス時間を比較例6では30秒に変更し、比較例7では90秒に変更した。そして、リンス後のシリコンウエハにおいて、表面濡れ性の評価並びにパーティクル及びCOPの計測を上記と同様の手順で行った。その結果を表3に示す。
【0041】
<比較例8>
研磨後のシリコンウエハをリンスしないでそのまま表面濡れ性の評価並びにパーティクル及びCOPの計測に供した。このときの評価結果及び計測結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

表3に示すように、リンスを30秒間実施した実施例16では、リンスを60秒間実施した場合(表1中の実施例2参照)に比べて計測されるパーティクルの数が多く、リンスを90秒間実施した実施例16では、リンスを60秒間実施した場合に比べて計測されるパーティクルの数が少なかった。この結果は、リンス時間が長くなるほど、リンス後のウエハ表面におけるパーティクルの発生が抑制されることを示唆するものである。
【0043】
前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(1)水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、及び同共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子と、
水と
のみから実質的になるリンス用組成物。
【0044】
(2)水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、及び同共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子と、
キレート剤と、
水と
のみから実質的になるリンス用組成物。
【0045】
(3)水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、及び同共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子と、
キレート剤、界面活性剤、及び防腐剤から選ばれる少なくとも一種と、
水と
のみから実質的になるリンス用組成物。
【0046】
(4)水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、及び同共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子と、
キレート剤と、
界面活性剤と、
防腐剤と、
水と
のみから実質的になるリンス用組成物。
【0047】
(5)前記水溶性多糖類がヒドロキシエチルセルロース及び/又はプルランであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリンス用組成物。
(6)研磨後のシリコンウエハをリンスする用途に用いられる請求項1〜3のいずれか一項に記載のリンス用組成物。
【0048】
(7)研磨用組成物を用いて研磨されたシリコンウエハを請求項1〜3のいずれか一項に記載のリンス用組成物を用いてリンスする工程を経て得られるシリコンウエハ。
(8)前記研磨用組成物は、前記リンス用組成物中に含まれる水溶性高分子と同種の水溶性高分子を含有する請求項4に記載のリンス方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、及び同共重合体にアルキル基又はアルキレン基を付加してなる親水性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の水溶性高分子と、
水と
を含有するリンス用組成物。
【請求項2】
アルカリ化合物を実質的に含有しない請求項1に記載のリンス用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子の0.5倍質量未満のアルカリ化合物をさらに含有する請求項1に記載のリンス用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のリンス用組成物を用意する工程と、
研磨用組成物を用いて研磨されたシリコンウエハを該リンス用組成物を用いてリンスする工程と
を備えたリンス方法。

【公開番号】特開2006−5246(P2006−5246A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181573(P2004−181573)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】